(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063097
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】対物光学系の球面収差調整方法、対物光学系及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
G02B 13/00 20060101AFI20230427BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20230427BHJP
G02B 21/02 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
G02B13/00
B23K26/064 A
G02B21/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173390
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 和男
【テーマコード(参考)】
2H087
4E168
【Fターム(参考)】
2H087KA09
2H087LA01
2H087NA01
2H087PA05
2H087PA06
2H087PA17
2H087PB05
2H087PB06
2H087QA03
2H087QA06
2H087QA17
2H087QA21
2H087QA25
2H087QA32
2H087QA37
2H087QA41
2H087QA45
2H087RA45
4E168AE01
4E168CB07
4E168CB15
4E168DA02
4E168DA24
4E168EA11
4E168JA12
(57)【要約】
【課題】 媒質の深さ方向に集光点を移動させた場合に、媒質内の集光点を回折限界に維持することが可能な対物光学系の球面収差調整方法、対物光学系及びレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】 対物レンズ(104)と、対物レンズに対して媒質の反対側に配置されたディオプタ調節光学系(102A、102B)とを備える対物光学系(100A、100B)の球面収差調整方法において、ディオプタ調節光学系によりレーザ光の光束の発散度又は収れん度を変化させ、対物光学系の回折限界を保ったまま媒質内における集光点の深さを変化させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズと、前記対物レンズに対して媒質の反対側に配置されたディオプタ調節光学系とを備える対物光学系の球面収差調整方法において、
前記ディオプタ調節光学系によりレーザ光の光束の発散度又は収れん度を変化させ、前記対物光学系の回折限界を保ったまま前記媒質内における集光点の深さを変化させる、対物光学系の球面収差調整方法。
【請求項2】
前記媒質の表面から前記媒質内における集光点までの距離が短くなるほど、前記ディオプタ調節光学系に与える正のパワーを大きくし、前記媒質の表面から前記媒質内における集光点までの距離が長くなるほど、前記ディオプタ調節光学系に与える負のパワーの絶対値を大きくする、請求項1に記載の対物光学系の球面収差調整方法。
【請求項3】
前記媒質の屈折率が1.7以上である、請求項1又は2に記載の対物光学系の球面収差調整方法。
【請求項4】
対物レンズと、
前記対物レンズに対して媒質の反対側に配置されたディオプタ調節光学系であって、レーザ光の光束の発散度又は収れん度を変化させ、回折限界を保ったまま前記媒質内における集光点の深さを変化させるディオプタ調節光学系と、
を備える対物光学系。
【請求項5】
前記ディオプタ調節光学系は、焦点距離可変レンズ、透過型空間光変調器、デフォーマブルミラー及び反射型空間光変調器のうちの1つを含む、請求項4に記載の対物光学系。
【請求項6】
前記対物レンズの開口数は0.6~0.9である、請求項4又は5に記載の対物光学系。
【請求項7】
前記ディオプタ調節光学系と前記対物レンズとの間に配置された光学系であって、前記ディオプタ調節光学系が前記対物レンズと共役になるようにリレーする光学系を備える、請求項4から6のいずれか1項に記載の対物光学系。
【請求項8】
前記対物レンズ内の一部のレンズを光軸方向に移動させて、前記対物レンズの球面収差を調整する球面収差調整機構を備える、請求項4から7のいずれか1項に記載の対物光学系。
【請求項9】
請求項4から8のいずれか1項に記載の対物光学系であって、前記レーザ光を前記媒質内の集光点に集光させる対物光学系を備えるレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は対物光学系の球面収差調整方法、対物光学系及びレーザ加工装置に係り、特に媒質の内部に集光点を形成するレーザ加工用の集光レンズ又は顕微鏡対物レンズ等の対物光学系に適用可能な球面収差補正の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工では加工対象物の表面近傍ではなく内部に集光させて内部にレーザ加工領域を発生させる手法がある。レーザ加工用の集光レンズの集光性能を確保するためには、加工対象物内の集光点において回折限界まで絞る必要がある。また、レーザ顕微鏡では観察対象の標本の内部にピントを合わせて観察することがある。顕微鏡対物レンズの分解能についても、レーザ加工用の集光レンズの場合と同様に、標本内の合焦点において回折限界まで絞る必要がある。
【0003】
レーザ加工用の集光レンズ及び顕微鏡対物レンズでは、集光点及び合焦点との間の光線の向きが異なるのみであるため、以下の説明では、集光レンズ及び対物レンズを単に対物レンズと記載し、光が透過する加工対象物及び観察対象の標本を媒質又は透明媒質と記載する場合がある。
【0004】
レーザ加工装置において媒質内で収束される光線は、透過する媒質の厚み(集光点の深さ)の変化に伴って球面収差が変化する。このため、媒質内において集光点を変更する場合、光線が透過する媒質の厚みの変化に起因する球面収差を調節するため、対物レンズ内部に球面収差調節機構を設けることがある。例えば、特許文献1には、顕微鏡対物レンズにおいて、カバーガラスの厚み変動によって発生する球面収差を補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、媒質内において集光点を変更した場合、光線が透過する媒質の厚みの変化に起因する球面収差に加えて、対物レンズ側でも球面収差が発生する。このため、対物レンズにおいて集光性能又は分解能を確保するためには、対物レンズ側で発生する球面収差を解消する必要がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、媒質の深さ方向に集光点を移動させた場合に、媒質内の集光点を回折限界に維持することが可能な対物光学系の球面収差調整方法、対物光学系及びレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、対物レンズと、対物レンズに対して媒質の反対側に配置されたディオプタ調節光学系とを備える対物光学系の球面収差調整方法において、ディオプタ調節光学系によりレーザ光の光束の発散度又は収れん度を変化させ、対物光学系の回折限界を保ったまま媒質内における集光点の深さを変化させる。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、媒質の表面から媒質内における集光点までの距離が短くなるほど、ディオプタ調節光学系に与える正のパワーを大きくし、媒質の表面から媒質内における集光点までの距離が長くなるほど、ディオプタ調節光学系に与える負のパワーの絶対値を大きくする。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、媒質の屈折率が1.7以上である。
【0011】
本発明の第4の態様に係る対物光学系は、対物レンズと、対物レンズに対して媒質の反対側に配置されたディオプタ調節光学系であって、レーザ光の光束の発散度又は収れん度を変化させ、回折限界を保ったまま媒質内における集光点の深さを変化させるディオプタ調節光学系とを備える。
【0012】
本発明の第5の態様に係る対物光学系は、第4の態様において、ディオプタ調節光学系は、焦点距離可変レンズ、透過型空間光変調器、デフォーマブルミラー及び反射型空間光変調器のうちの1つを含む。
【0013】
本発明の第6の態様に係る対物光学系は、第4又は第5の態様において、対物レンズの開口数は0.6~0.9である。
【0014】
本発明の第7の態様に係る対物光学系は、第4から第6の態様のいずれかにおいて、ディオプタ調節光学系と対物レンズとの間に配置された光学系であって、ディオプタ調節光学系が対物レンズと共役になるようにリレーする光学系を備える。
【0015】
本発明の第8の態様に係る対物光学系は、第4から第7の態様のいずれかにおいて、対物レンズ内の一部のレンズを光軸方向に移動させて、対物レンズの球面収差を調整する球面収差調整機構を備える。
【0016】
本発明の第9の態様に係るレーザ加工装置は、第4から第8のいずれかの対物光学系であって、レーザ光を媒質内の集光点に集光させる対物光学系を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、媒質内での集光点の深さを回折限界に保ったまま変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る対物光学系の例を示す側面図である。
【
図2】
図2は、集光点の深さの変更の例を説明するための側面図である。
【
図3】
図3は、集光点の深さの変更に起因する球面収差の例を示す図である。
【
図4】
図4は、対物レンズと媒質との間の距離を変化させた場合の光線図である。
【
図5】
図5は、対物レンズと媒質との間の距離を変化させた場合に発生する球面収差の例を示す図である。
【
図6】
図6は、球面収差の調整の例を説明するための図である。
【
図7】
図7は、球面収差の調整の調整結果を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例1において集光点の深さを変化させたときの球面収差を計算した結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、
図8に示した例(a1)~例(a5)の光線図である。
【
図10】
図10は、実施例1に係る対物レンズを示す断面図である。
【
図11】
図11は、実施例1に係る対物レンズのレンズデータを示す表である。
【
図12】
図12は、ディオプタ変換素子に与えるパワーと対物レンズから媒質の表面までの距離との対応関係を示す表である。
【
図13】
図13は、ディオプタ変換素子に正負のパワーを与えたときに発生する球面収差を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施例1に係る球面収差の調整結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、
図15に示した例(c1)~例(c5)におけるストレール比を示す表である。
【
図18】
図18は、実施例2において集光点の深さを変化させたときの球面収差を計算した結果を示すグラフである。
【
図20】
図20は、実施例2に係る対物レンズを示す断面図である。
【
図21】
図21は、実施例2に係る対物レンズのレンズデータを示す表である。
【
図22】
図22は、ディオプタ変換素子に与えるパワーと対物レンズから媒質の表面までの距離との対応関係を示す表である。
【
図23】
図23は、ディオプタ変換素子に正負のパワーを与えたときに発生する球面収差を示すグラフである。
【
図25】
図25は、実施例2に係る球面収差の調整結果を示すグラフである。
【
図27】
図27は、
図25に示した例(f1)~例(f5)におけるストレール比を示す表である。
【
図28】
図28は、本発明の一実施形態に係るレーザ加工装置の概略を示した構成図である。
【
図29】
図29は、制御装置の構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に従って本発明に係る対物光学系の球面収差調整方法、対物光学系及びレーザ加工装置の実施の形態について説明する。
【0020】
[対物光学系]
図1は、本発明の一実施形態に係る対物光学系の例を示す側面図である。
【0021】
図1に示す対物光学系(100A及び100B)は、レーザ光LBを透過する媒質(レーザ加工の加工対象物)Wの内部の集光点(F0~F3)にレーザ光LBを集光させるものである。
【0022】
図1(a)に示す対物光学系100Aは、透過型のディオプタ変換素子102A及び対物レンズ104を含んでいる。一方、
図1(b)に示す対物光学系100Bは、反射型のディオプタ変換素子102B及び対物レンズ104を含んでいる。なお、
図1(b)の符号106は、光路の中継(折り曲げ)のために設けられたミラー(例えば、全反射ミラー)である。
【0023】
いずれの例においても、ディオプタ変換素子(102A及び102B)は、対物レンズ104の入射光束側(媒質Wの反対側)に配置されている。ディオプタ変換素子(102A及び102B)は、正又は負の屈折パワーを持たせることで、レーザ光LBを収束又は発散させ、レーザ光LBの収れん度又は発散度を変化させることが可能となっている。これにより、回折限界を保ったまま媒質W内の集光点(F0~F3)の深さ方向の位置を光軸方向に沿って変更することが可能となっている。
【0024】
ここで、ディオプタ変換素子(102A及び102B)は、ディオプタ調節光学系の一例であり、連続的に正負のパワーを可変させることが可能となっている。パワーの調節機能を静止した場合には、ディオプタ変換素子(102A及び102B)は光学的に凸レンズ又は凹レンズと同等である。
【0025】
透過型のディオプタ変換素子102Aとしては、例えば、焦点距離可変レンズ、又は透過型の空間光変調器(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)を用いることが可能である。また、反射型のディオプタ変換素子102Bとしては、例えば、デフォーマブルミラー又は反射型の空間光変調器(LCOS)を用いることが可能である。
【0026】
対物レンズ104は、媒質W内の集光点(F0~F3)にレーザ光LBを集光させるものである。
【0027】
本実施形態では、ディオプタ変換素子(102A及び102B)により、媒質W内の集光点(F0~F3)の深さを変更可能となっている。
図1(a)に示すように、ディオプタ変換素子102Aのパワーを0にした場合の集光点をF0とする。ディオプタ変換素子102Aの入射側に凹レンズのパワーを持たせた場合の集光点F1は、ディオプタ変換素子102Aのパワーを0にした場合の集光点F0よりも媒質Wの表面Waから遠い(深い)位置になる。一方、ディオプタ変換素子102Aの入射側に凸レンズのパワーを持たせた場合の集光点F2は、ディオプタ変換素子102Aのパワーを0にした場合の集光点F0よりも媒質Wの表面Waに近い(浅い)位置になる。
【0028】
上述のように、媒質W内での集光点(F0~F3)の深さを変更すると、球面収差が発生する。対物レンズ104は、正弦条件を満たして球面収差及びコマ収差を小さくするよう設計されている。このような対物レンズ104を用いる場合、集光点(F0~F3)を光軸方向にずらすために入射する光束の発光点位置を変えると球面収差が発生する。
【0029】
本実施形態では、集光点(F0~F3)の深さの変化に伴って媒質W内で発生する球面収差と、対物レンズ104で発生する球面収差を相殺させることで、回折限界までの集光性能を保ったまま媒質W内での集光点移動を達成する。
【0030】
なお、
図1では、ディオプタ変換素子(102A及び102B)と対物レンズ104との間には光学素子は配置されていないが、本発明はこれに限定されない。ディオプタ変換素子(102A及び102B)と対物レンズ104との間に、レーザ光LBの中継のための光学系(リレー光学系)を設けてもよい。この場合、ディオプタ変換素子(102A及び102B)と対物レンズ104のレンズ瞳とが光学的に共役になるようにすればよい。
【0031】
(集光点の深さ変更)
次に、透過型のディオプタ変換素子102Aを備える対物光学系100Aの場合を例にとって、集光点の深さの変更について説明する。
図2は、集光点の深さの変更の例を説明するための側面図である。
【0032】
図2(a)に示すように、ディオプタ変換素子102Aのパワーを0にした場合、レーザ光LBの光線は、ディオプタ変換素子102Aによって曲げられることなく直進する。ここで、対物レンズ104は、媒質W内の所定の深さ位置の集光点F0に球面収差が補正された状態で集光するように設計されている。
【0033】
図2(a)において、対物レンズ104から媒質Wの表面Waまでの距離WDをWD=WD1とし、媒質Wの表面Waから集光点F0までの距離(集光点の深さ)dをd=d1とする。
【0034】
図2(b)に示すように、ディオプタ変換素子102Aの入射側に凹レンズのパワーを持たせた場合、レーザ光LBがディオプタ変換素子102Aによって曲げられる。この場合、媒質Wの表面Waから集光点F0までの距離dをd1とするためには、対物レンズ104から媒質Wの表面Waまでの距離WDをWD1よりも長いWD2にする(WD2>WD1)。
【0035】
上記のように、ディオプタ変換素子102Aの入射側に凹レンズのパワーを持たせた場合には、
図3に示すように、対物レンズ104側では負の球面収差が発生する。
【0036】
(球面収差の調整)
次に、球面収差の調整について説明する。
【0037】
図4(a)は、媒質Wの表面Waから集光点F0までの距離d1の位置で球面収差が最小になるように設計された対物レンズ104(
図2(a)参照)を用いたときの光線図である。
【0038】
図4(b)に示すように、対物レンズ104を媒質Wに近づけると、媒質Wの表面Waから集光点Fまでの距離d2はd1よりも長くなる。
【0039】
上記のように、対物レンズ104を媒質Wに近づけた場合には、
図5に示すように、対物レンズ104側では正の球面収差が発生する。
【0040】
本実施形態では、
図3に示す負の球面収差と、
図5に示す正の球面収差とを相殺することにより、対物光学系100Aの球面収差の調整を行う。
図6は、球面収差の調整の例を説明するための図である。
【0041】
図6に示す例では、ディオプタ変換素子102Aの入射側に凹レンズのパワーを持たせている。この場合、媒質Wの表面Waから集光点F0までの距離dをd1とするためには、対物レンズ104から媒質Wの表面Waまでの距離WDをWD1よりも長くする必要があるが(
図2(b)参照)、
図6に示す例では、対物レンズ104から媒質Wの表面Waまでの距離WDがWD1で一定になっており、媒質W内の集光点F0の深さdがd=d1となるように、ディオプタ変換素子102Aが調整されている。
【0042】
図7は、球面収差の調整の調整結果を示す図である。
図7に示すように、ディオプタ変換素子102Aにパワーを持たせて集光点の深さを変更したことに起因する球面収差(
図3)と、対物レンズ104を媒質Wに近づけたことに起因する球面収差(
図5)とが相殺することがわかる。
【0043】
上記のように、本実施形態によれば、媒質W内で発生する球面収差と、対物レンズ104で発生する球面収差を相殺させることで、回折限界までの集光性能を保ったまま媒質W内での集光点移動を達成することができる。
【0044】
ここで、媒質Wの屈折率が1.7以上の場合には、媒質W内における集光点の深さによって発生する球面収差と、対物レンズ104で発生する球面収差が相殺し、ストレール比0.8以上の無収差と言える集光性能を確保することができる(実施例1及び実施例2参照)。
【0045】
ここで、ストレール比とは、無収差光学系の像面における集光割合を100%としたときの、収差のある光学系における集光割合の比率をいう。一般に、ストレール比が80%の場合を回折限界といい、ストレール比が80%を超えている場合には、対物光学系100Aは、十分な集光性能を有しているとされる。
【0046】
さらに、媒質の屈折率が3以上の場合には、対物レンズ104と媒質Wとの間の距離を変えずに集光点の深さを変えることができる。オートフォーカスは媒質Wの表面Waの反射を測るものであるが、媒質の屈折率が3以上の場合、対物レンズ104と媒質Wとの間の距離を変える必要がないので、オートフォーカスの条件を変更することなく、媒質W内での集光点の深さを変更できる。
【0047】
また、対物レンズ104としては、球面収差調整機構を持つ対物レンズである補正環付き対物レンズ(例えば、特許文献1参照)を用いることも可能である。補正環付き対物レンズでは、対物レンズ104を構成する複数のレンズのうち少なくとも1群のレンズを光軸方向に沿って移動させて面間隔を調整することにより、球面収差を調節することが可能となっている。これにより、媒質W内で球面収差が補正される深さの調節ができるため表面付近から深い方へ範囲を広げることができる。
【0048】
ここで、対物レンズ104の焦点距離をf、開口数をNA(Numerical Aperture)、媒質Wの屈折率(絶対屈折率)をnとしたときに、下記の条件式(1)を満たすことが好ましい。f・NA/nの値が0.1より小さいと十分なNAを確保できず、1.4より大きいと対物レンズ104の設計が難しくなる。
【0049】
【0050】
さらに、下記の条件式(2)を満たすことが好ましい。
【0051】
【0052】
上記の条件式を満たすことにより、対物レンズ104と媒質Wとの距離を適切にとることが可能な対物レンズ104を設計することができる。
【0053】
また、対物レンズ104の開口数(NA)は、0.6以上0.9未満であることが好ましい。この開口数の数値範囲は、下記の理由に基づくものである。すなわち、対物レンズ104の開口数が0.6未満の場合、レーザ光LBを収束させてエネルギー密度を十分に高めることができなくなり、媒質W内の加工に必要なエネルギーを得ることが困難となる。一方、対物レンズ104の開口数が0.9以上の場合、対物レンズ104の光学設計上の困難さから媒質Wの表面Waまでの距離WDを長くとることができなくなる。なお、必要とされる距離WDの目安はおおよそ1mm以上である。
【0054】
[実施例1]
実施例1では、レーザ光LBの波長を1064nm、対物レンズ104の開口数(NA)を0.65、媒質Wの屈折率を3.55とする。そして、媒質W内における集光点の深さdがd=0.5mmの場合に球面収差が最小となるように設計された対物レンズ104を用いる。
【0055】
図8は、実施例1において、集光点の深さdを変化させたときの球面収差を計算した結果を示すグラフである。
図9は、
図8に示した例(a1)~例(a5)の光線図である。
【0056】
図8に示すように、集光点の深さdが0.5mm(例(a3))より短くなると負の球面収差が発生し(例(a1)及び例(a2))、反対に集光点の深さdが0.5mmより大きくなると正の球面収差が発生することが分かる(例(a4)及び例(a5))。
【0057】
図10は、実施例1に係る対物レンズを示す断面図である。実施例1に係る対物レンズ104は、波長1064nm、NA0.65、焦点距離3.6mmである。
【0058】
図10に示すように、対物レンズ104は、5枚のレンズ104A~104Eを含んでいる。対物レンズ104に含まれるレンズは、レーザ光LBの入射側(上流側)から順に104A~104Eとする。
【0059】
また、ディオプタ変換素子102Aは、対物レンズ104の最上流側の面(レンズ104Aの面S1)からの距離L1がL1=8.4mmの位置に配置している。
【0060】
実施例1に係る対物レンズ104のレンズデータを
図11に示す。
図11に示す表には、5枚のレンズ104A~104Eの面S1~S10の曲率半径、下流側の次の面との間の間隔(面間隔)及びレンズ104A~104Eの屈折率が示されている。
【0061】
実施例1に係る対物レンズ104は、平行光のレーザ光LBを入射させたとき屈折率3.55の媒質Wの表面Waから0.5mmの位置で球面収差が最小になるように設計されている。
【0062】
図12は、ディオプタ変換素子102Aに正負のパワーを与えたときに、集光点の深さdをd=0.5mmとするための対物レンズ104から媒質Wの表面Waまでの距離WDの変化を示す表である。
図13は、ディオプタ変換素子102Aに正負のパワーを与えたときに発生する球面収差を示すグラフであり、
図14は、
図12及び
図13に示した例(b1)~例(b5)の光線図である。
【0063】
例(b1)では、ディオプタ変換素子102Aに+7.1Dの正パワーを与えている。正パワー+7.1Dを焦点距離に変換すると、下記のようになる。
【0064】
【0065】
すなわち、例(b1)では、ディオプタ変換素子102Aは焦点距離約141mmの正レンズとなる。この場合、
図13(例(b1))に示すように、球面収差はプラス側に出る。そして、
図12に示すように、集光点の深さdをd=0.5mmとするための対物レンズ104から媒質Wの表面Waまでの距離WDは、ディオプタ変換素子102Aにパワーを与えない例(b3)(WD=2.85mm)と比べて2.75mmと短くなる。
【0066】
例(b3)では、ディオプタ変換素子102Aのパワーがゼロであり、パワーゼロを焦点距離に変換すると無限大となる。この場合、対物レンズ104に平行光を入射させるのと同じである。そして、
図13(例(b3))に示すように、球面収差は最小である。また、上述のように、例(b3)の場合、WD=2.85である(
図12参照)。
【0067】
例(b5)では、ディオプタ変換素子102Aに-8.4Dの負パワーを与えている。負パワー-8.4Dを焦点距離に変換すると、下記のようになる。
【0068】
【0069】
すなわち、例(b5)では、ディオプタ変換素子102Aは焦点距離約119mmの負レンズとなる。この場合、
図13(例(b5))に示すように、球面収差はマイナス側に出る。そして、
図12に示すように、距離WDは、例(b3)(WD=2.85mm)と比べて2.95mmと長くなる。
【0070】
上記のように、
図12に示す例では、ディオプタ変換素子102Aに与えるパワーが大きくなるほど、距離WDが短くなっている。
【0071】
図15は、実施例1に係る球面収差の調整結果を示すグラフであり、
図16は、
図15に示した例(c1)~例(c5)の光線図である。
【0072】
図15に示す例では、ディオプタ変換素子102Aのパワーゼロの例(c3)よりも集光点の深さが浅くなるほど(媒質Wの表面からの距離が短くなるほど)、ディオプタ変換素子102Aに与える正のパワーを大きくする。一方、例(c3)の場合よりも集光点の深さが深くなるほど(媒質Wの表面からの距離が長くなるほど)、ディオプタ変換素子102Aに与える負のパワーの絶対値を大きくする。これにより、
図15に示すように、
図8に示した媒質W内で発生する球面収差と、
図13に示した対物レンズ104で発生する球面収差が相殺される。
【0073】
なお、
図13では距離WDを変化させたが、
図15ではディオプタ変換素子102AのパワーをゼロにしたときのWD=2.85mmに固定して媒質W内での集光点の位置dを計算している。
【0074】
図16に示すように、例(c1)では、WD=2.85mmでd=0.145mmであり、例(c3)では、ディオプタ変換素子102AのパワーがゼロでWD=2.85mmでd=0.5mmである。そして、例(c5)では、WD=2.85mmでd=0.855mmとなる。
【0075】
図17は、例(c1)~例(c5)におけるストレール比を示す表である。実施例1では、例(c1)~例(c5)のいずれの例においても、球面収差が相殺されて小さくなっており、ストレール比は0.99となっている。すなわち、例(c1)~例(c5)のいずれの例においても、対物光学系100Aは、十分に回折限界といわれる0.8を越えており、十分な集光性能を有することがわかる。
【0076】
[実施例2]
実施例2では、レーザ光LBの波長を1064nm、対物レンズ104のNAを0.83、媒質Wの屈折率3.55とする。そして、媒質W内における集光点の深さdがd=0.5mmの場合に球面収差が最小となるように設計された対物レンズを用いる。
【0077】
図18は、実施例2において、集光点の深さdを変化させたときの球面収差を計算した結果を示すグラフである。
図19は、
図18に示した例(d1)~例(d5)の光線図である。
【0078】
図18に示すように、集光点の深さdが0.5mm(例(d3))より小さくなると負の球面収差が発生し(例(d1)及び例(d2))、反対に0.5mmより大きくなると正の球面収差が発生することが分かる(例(d4)及び例(d5))。
【0079】
図20は、実施例2に係る対物レンズを示す断面図である。実施例2に係る対物レンズ104は、波長1064nm、NA0.83、焦点距離1.8mmである。
【0080】
図20に示すように、対物レンズ104は、6枚のレンズ104A~104Fを含んでいる。対物レンズ104に含まれるレンズは、レーザ光LBの入射側(上流側)から順に104A~104Fとする。
【0081】
また、ディオプタ変換素子102Aは、対物レンズ104の最上流側の面(レンズ104Aの面S1)からの距離L1がL1=8.4mmの位置に配置している。
【0082】
実施例2に係る対物レンズ104のレンズデータを
図21に示す。
図21に示す表には、6枚のレンズ104A~104Fの面S1~S12の曲率半径、下流側の次の面との間の間隔(面間隔)及びレンズ104A~104Fの屈折率が示されている。
【0083】
実施例2に係る対物レンズ104は、平行光のレーザ光LBを入射させたとき屈折率3.55の媒質Wの表面Waから0.5mmの位置で球面収差が最小になるように設計されている。
【0084】
図22は、ディオプタ変換素子102Aに正負のパワーを与えたときに、集光点の深さdをd=0.5mmとするための対物レンズ104から媒質Wの表面Waまでの距離WDの変化を示す表である。
図23は、ディオプタ変換素子102Aに正負のパワーを与えたときに発生する球面収差を示すグラフであり、
図24は、
図22及び
図23に示した例(e1)~(e5)の光線図である。
【0085】
例(e1)では、ディオプタ変換素子102Aに+15.6Dの正パワーを与えている。正パワー+15.6Dを焦点距離に変換すると、下記の式のようになる。
【0086】
【0087】
すなわち、例(e1)では、ディオプタ変換素子102Aは焦点距離約64mmの正レンズとなる。この場合、
図23(例(e1))に示すように、球面収差はプラス側に出る。そして、
図22に示すように、集光点の深さdをd=0.5mmとするための対物レンズ104から媒質Wの表面Waまでの距離WDは、ディオプタ変換素子102Aにパワーを与えない例(e3)(WD=1.5mm)と比べて1.44mmと短くなる。
【0088】
例(e3)では、ディオプタ変換素子102Aのパワーがゼロであり、パワーゼロを焦点距離に変換すると無限大となる。この場合、対物レンズ104に平行光を入射させるのと同じである。そして、
図13(例(e3))に示すように、球面収差は最小である。また、上述のように、例(e3)の場合、WD=1.5である(
図22参照)。
【0089】
例(e5)では、ディオプタ変換素子102Aに-22.7Dの負パワーを与えている。負パワー-22.7Dを焦点距離に変換すると、下記のようになる。
【0090】
【0091】
すなわち、例(e5)では、ディオプタ変換素子102Aは焦点距離約44mmの負レンズとなる。この場合、
図23(例(e5))に示すように、球面収差はマイナス側に出る。そして、
図22に示すように、距離WDは、例(e3)(WD=1.5mm)と比べて1.56mmと長くなる。
【0092】
上記のように、
図22に示す例では、ディオプタ変換素子102Aに与えるパワーが大きくなるほど、距離WDが短くなっている。
【0093】
図25は、実施例2に係る球面収差の調整結果を示すグラフであり、
図26は、
図25に示した例(f1)~例(f5)の光線図である。
【0094】
図25に示す例では、ディオプタ変換素子102Aのパワーがゼロの例(f3)よりも集光点の深さが浅くなるほど(媒質Wの表面からの距離が短くなるほど)、ディオプタ変換素子102Aに与える正のパワーを大きくする。一方、例(f3)の場合よりも集光点の深さが深くなるほど(媒質Wの表面からの距離が長くなるほど)、ディオプタ変換素子102Aに与える負のパワーの絶対値を大きくする。これにより、
図25に示すように、
図18に示した透明媒質内で発生する球面収差と、
図23に示した対物レンズ104で発生する球面収差が相殺される。
【0095】
なお、
図23では距離WDを変化させたが、
図25ではディオプタ変換素子102AのパワーをゼロにしたときのWD=1.5mmに固定して媒質W内での集光点の位置dを計算している。
【0096】
図26に示すように、例(f1)では、WD=1.5mmでd=0.287mmであり、例(f3)では、ディオプタ変換素子102AのパワーがゼロでWD=1.5mmでd=0.5mmである。そして、例(f5)では、WD=1.5mmでd=0.713mmとなる。
【0097】
図27は、例(f1)~例(f5)におけるストレール比を示す表である。実施例2では、例(f1)~例(f5)のいずれの例においても、球面収差が相殺されて小さくなっており、ストレール比はいずれも0.9以上となっている。すなわち、例(f1)~例(f5)のいずれの例においても、対物光学系100Aは、十分に回折限界といわれる0.8を越えており、十分な集光性能を有することがわかる。
【0098】
なお、上記の実施形態によれば、レーザ光LBの光源の発光位置を移動させる機構(例えば、機械的な移動機構)を要しない。
【0099】
光源の発光位置を移動することにより集光点の深さdを変更する方法では、集光点の移動量は、下記に示す単レンズに関する結像公式に従う。
【0100】
【0101】
ここで、対物レンズは厚さ0の理想的な薄肉レンズとし、対物レンズの焦点距離f、光源から対物レンズまでの距離a、対物レンズから集光点までの距離bとする。
【0102】
例えば、特許文献1では、aがbより大きい値をとる配置となっている。このため、bを変化させるためにはaの変化量は大きくなる。例えば、f=4mmのとき、初期状態でa=200mmとするとb=4.08mmとなる。初期状態から光源を50mm移動してa=150mmにするとb=4.11mmとなる。この場合、bの差分0.03mmが集光点の移動量に相当する。
【0103】
上記のように、光源の発光位置を移動する方法では、光源の移動量に対して集光点の移動量が小さい。すなわち、集光点を移動させる距離が大きくなるほど、光源の移動量がより大きくなり、光源の移動のための機構が大規模になりうる。上記の実施形態では、集光点の深さdを変更するために、レーザ光LBの光源の発光位置を移動させる機構を設ける必要がないので、装置を簡略化することができる。
【0104】
[レーザ加工装置]
次に、上記の実施形態に係る対物光学系(100A、100B)を備えたレーザ加工装置の例について、
図28及び
図29を参照して説明する。
【0105】
(レーザ加工装置の構成)
図28は、本発明の一実施形態に係るレーザ加工装置の概略を示した構成図である。
図28に示すように、本実施形態のレーザ加工装置10は、ステージ12と、加工装置本体(光学系ユニット)20と、加工レンズ26と、制御装置50とを備えている。なお、本実施形態では、加工装置本体20と制御装置50とが別々に構成される場合を例示したが、この構成に限らず、加工装置本体20は制御装置50の一部又は全部を含んでいてもよい。
【0106】
ステージ12は、被加工物を吸着保持するものである。ステージ12は、ステージ駆動機構28(
図29参照)によりX方向及びθ方向に移動可能に構成される。ステージ駆動機構28としては、例えば、ボールねじ機構、リニアモータ機構等の種々の機構にて構成することができる。ステージ駆動機構28の動作は、制御装置50(移動制御部54)により制御される。なお、
図28においては、XYZの3方向は互いに直交し、このうちX方向およびY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。また、θ方向は、鉛直方向軸(Z軸)を回転軸とする回転方向である。
【0107】
本実施形態では、被加工物として、シリコンウェーハ等の半導体ウェーハ(以下、「ウェーハ」という。)Wが適用される。ウェーハWは、格子状に配列された切断予定ラインによって複数の領域に区画され、この区画された各領域に半導体チップを構成する各種デバイスが形成されている。なお、本実施形態においては、被加工物としてウェーハWを適用した場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、ガラス基板、圧電セラミック基板、ガラス基板なども適用することができる。
【0108】
ウェーハWは、デバイスが形成された表面(デバイス面)に粘着材を有するバックグラインドテープ(以下、BGテープ)が貼付され、裏面が上向きとなるようにステージ12に載置される。ウェーハWの厚さは、特に制限はないが、典型的には700μm以上、より典型的には700μm~800μmである。
【0109】
なお、ウェーハWは、一方の面に粘着材を有するダイシングテープが貼付され、このダイシングテープを介してフレームと一体化された状態でステージ12に載置されるようにしてもよい。
【0110】
加工装置本体20は、筐体21と、レーザ光源22と、空間光変調器24と、リレー光学系30と、ビームエキスパンダ32と、λ/2波長板34とを備えている。
【0111】
筐体21の内部には、レーザ光源22、空間光変調器24、リレー光学系30、ビームエキスパンダ32、及びλ/2波長板34が配置される。なお、レーザ光源22は、筐体21の外部(例えば、筐体21の天面や側面など)に配置されていてもよい。また、筐体21の底面には、加工レンズ26が着脱自在に取り付けられる。
【0112】
加工装置本体20は、本体駆動機構29(
図2参照)によりY方向及びZ方向に移動可能に構成される。本体駆動機構29としては、例えば、ボールねじ機構、リニアモータ機構等の種々の機構にて構成することができる。本体駆動機構29の動作は、制御装置50(移動制御部54)により制御される。これにより、ウェーハWにおける加工位置(レーザ加工領域を形成する位置)に応じて、加工装置本体20をY方向に移動させることができると共に、加工装置本体20をZ方向に移動させることができる。そのため、加工レンズ26により集光されるレーザ光Lの集光点の位置を変化させて、レーザ加工領域をウェーハWの所望の位置に形成することができる。
【0113】
レーザ光源(IRレーザ光源)22は、ウェーハWの内部にレーザ加工領域を形成するための加工用のレーザ光Lを出射する。レーザ光源22によるレーザ光Lの出射動作は、制御装置50(レーザ制御部56)により制御される。レーザ光Lの条件としては、例えば、光源が半導体レーザ励起Nd:YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ、波長が1.1μm、レーザ光スポット断面積が3.14×10-8cm2、発振形態がQスイッチパルス、繰り返し周波数が80~200kHz、パルス幅が180~370ns、出力が8Wである。
【0114】
空間光変調器24は、2次元的に配列された複数の画素(微小変調素子)からなる光変調面を備えており、光変調面に入射した光の位相を画素毎に変調する位相変調型の空間光変調器である。空間光変調器24は、加工レンズ26のレンズ瞳(射出瞳)26aと光学的に共役な位置に配置されている。空間光変調器24は、後述する空間光変調器制御部58により設定された所定の変調パターンに基づき、光変調面に入射した光の位相を画素毎に変調して、変調後の光を所定の方向に向けて出射する。なお、空間光変調器24としては、例えば、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)が用いられる。空間光変調器24の動作、及び空間光変調器24で呈示される変調パターンは、制御装置50(空間光変調器制御部58)によって制御される。変調パターンは、空間光変調器24の光変調面を構成する複数の画素のそれぞれに対応する制御値(位相変化量)が2次元的に分布するパターン(2次元情報)であってもよいし、変調領域内(光変調面)の変調をある関数で表したときの係数情報のようなものであってもよい。
【0115】
加工レンズ26は、レーザ光LをウェーハWの内部に集光させる対物レンズ(集光光学系)である。この加工レンズ26の開口数(NA)は、例えば0.65である。
【0116】
リレー光学系30は、空間光変調器24と加工レンズ26との間のレーザ光Lの光路に設けられている。リレー光学系30は、少なくとも2つのレンズ30a、30b(以下、「第1レンズ30a」、「第2レンズ30b」という。)を有している。リレー光学系30は、アフォーカル光学系(両側テレセントリックな光学系)を構成しており、空間光変調器24で変調されたレーザ光Lを加工レンズ26に投影する。このリレー光学系30は、両側テレセントリックな縮小光学系であり、その投影倍率(以下、単に「倍率」ともいう。)は1より小さく(例えば0.66)となっている。
【0117】
ビームエキスパンダ32は、レーザ光源22から出射されたレーザ光Lを空間光変調器24のために適切なビーム径に拡大する。λ/2波長板34は、空間光変調器24へのレーザ光入射偏光面を調整する。
【0118】
また、図示を省略したが、加工装置本体20には、ウェーハWとのアライメントを行うためのアライメント光学系、及びウェーハWと加工レンズ26との間の距離(ワーキングディスタンス)を一定に保つためのオートフォーカスユニット等が備えられている。
【0119】
制御装置50は、例えばパーソナルコンピュータやマイクロコンピュータなどの汎用のコンピュータによって実現されるものである。
【0120】
制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び入出力インターフェース等を備えている。制御装置50では、ROMに記憶されている制御プログラム等の各種プログラムがRAMに展開され、RAMに展開されたプログラムがCPUによって実行されることにより、
図2に示した制御装置50内の各部の機能が実現され、入出力インターフェースを介して各種の演算処理や制御処理が実行される。
【0121】
図29は、制御装置50の構成を示したブロック図である。
図29に示すように、制御装置50は、主制御部52、移動制御部54、レーザ制御部56、空間光変調器制御部58、及びメモリ部60として機能する。
【0122】
主制御部52は、制御装置50を構成する各部(移動制御部54、レーザ制御部56、空間光変調器制御部58、及びメモリ部60を含む)を統括的に制御する。
【0123】
移動制御部54は、ステージ12と加工装置本体20との相対移動を制御するものである。移動制御部54は、ステージ12のX方向及びθ方向の移動を制御する制御信号をステージ駆動機構28に出力すると共に、加工装置本体20のY方向及びZ方向の移動を制御する制御信号を本体駆動機構29に出力する。
【0124】
レーザ制御部56は、レーザ光Lの出射を制御するものである。レーザ制御部56は、レーザ光Lの波長、パルス幅、強度、出射タイミング、及び繰り返し周波数などを制御する制御信号をレーザ光源22に出力する。
【0125】
空間光変調器制御部58は、空間光変調器24の動作を制御する制御信号を空間光変調器24に出力する。すなわち、空間光変調器制御部58は、所定の変調パターンを空間光変調器24に呈示させる制御を行う。
【0126】
メモリ部60は、制御装置50に備えられた外部メモリ(例えばハードディスクやフレキシブルディスク等)又は内部メモリ(例えば半導体メモリからなるRAMやROM等)により構成される。
【0127】
上記のようなレーザ加工装置10の加工レンズ26として、本実施形態に係る対物光学系(100A、100B)を用いることができる。これにより、媒質WとしてのウェーハW内の異なる深さ位置にレーザ加工領域を形成する際に、集光点の深さに関わらず集光性能を確保することが可能になり、レーザ加工領域の加工精度を確保することが可能になる。
【0128】
上記の実施形態では、対物光学系(100A、100B)をレーザ加工装置10に適用した例について説明したが、本発明はこれに限定されない。上記の実施形態に係る対物光学系(100A及び100B)は、顕微鏡対物レンズにも適用可能である。この場合、標本内の合焦点の深さに関わらず分解能を確保することが可能になる。
【符号の説明】
【0129】
100A、100B…対物光学系、102A、102B…ディオプタ変換素子、104…対物レンズ、106…ミラー