(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063674
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】気体分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20230428BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D69/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173636
(22)【出願日】2021-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 寛規
(72)【発明者】
【氏名】都留 稔了
(72)【発明者】
【氏名】金指 正言
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA21
4D006HA41
4D006HA61
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA08
4D006MA09
4D006MA31
4D006MB03
4D006MB04
4D006MC03X
4D006MC21
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4D006NA31
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4D006PA01
4D006PA02
4D006PA05
4D006PB20
4D006PB64
4D006PB66
4D006PB68
4D006PB70
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来の気体分離膜よりも気体分離性能に優れる気体分離膜の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の気体分離膜の製造方法は、基材上に大気圧プラズマ化学気相成長法で分離層を形成する分離層形成工程を含み、前記分離層は、厚み方向において化学組成又は層構造が異なるシリカ系分離層であり、前記分離層形成工程は、放電ガスの組成及び/又は揮発性有機ケイ素化合物の濃度を変化させることにより前記シリカ系分離層を形成する工程A、又は揮発性有機ケイ素化合物を含む放電ガスを用いて蒸着層を形成し、その後、前記蒸着層の表面に揮発性有機ケイ素化合物を含まない放電ガスから生じたプラズマを照射して、少なくとも前記蒸着層の表面を改質することにより前記シリカ系分離層を形成する工程Bである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に大気圧プラズマ化学気相成長法で分離層を形成する分離層形成工程を含む気体分離膜の製造方法であって、
前記分離層は、厚み方向において化学組成又は層構造が異なるシリカ系分離層であり、
前記分離層形成工程は、放電ガスの組成及び/又は揮発性有機ケイ素化合物の濃度を変化させることにより前記シリカ系分離層を形成する工程A、又は揮発性有機ケイ素化合物を含む放電ガスを用いて蒸着層を形成し、その後、前記蒸着層の表面に揮発性有機ケイ素化合物を含まない放電ガスから生じたプラズマを照射して、少なくとも前記蒸着層の表面を改質することにより前記シリカ系分離層を形成する工程Bであることを特徴とする気体分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記工程Aにおいて、前記放電ガスの組成を酸素リーンから酸素リッチに連続的又は段階的に変化させる、請求項1に記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記工程Aにおいて、前記揮発性有機ケイ素化合物の濃度を連続的又は段階的に減少させる、請求項1又は2に記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記シリカ系分離層は、厚み方向において、前記基材側から他方側に向かって、無機的構造の割合が高くなるものである、請求項1~3のいずれかに記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記シリカ系分離層は、厚み方向において、前記基材側から他方側に向かって、Si原子及び酸素原子の含有率が高くなり、かつ炭素原子の含有率が低くなるものである、請求項1~4のいずれかに記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記シリカ系分離層は、多層構造である、請求項1~5のいずれかに記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記シリカ系分離層は、前記基材上に積層された第1分離層と、前記第1分離層上に積層された第2分離層とを少なくとも有し、前記第2分離層中のSi原子及び酸素原子の含有率は、前記第1分離層中のSi原子及び酸素原子の含有率に比べて高く、かつ前記第2分離層中の炭素原子の含有率は、前記第1分離層中の炭素原子の含有率に比べて低い、請求項6に記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記第1分離層におけるSi原子数に対する炭素原子数の比であるC/Siが1.5以上1.8以下であり、前記第2分離層におけるSi原子数に対する炭素原子数の比であるC/Siが1.0以上1.5未満である、請求項7に記載の気体分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
混合気体から特定の気体を透過させて分離する気体分離膜(ガス分離膜)が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、シロキサン結合を有する化合物を含む樹脂層を有するガス分離膜が提案されている。
【0004】
また、前記気体分離膜としては、多孔質基材の上にシリカ系分離層を有するものが知られている。
【0005】
前記シリカ系分離層の形成手法として、ゾルゲル法を用いた製膜法のほか、大気圧プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法による製膜法が知られている。大気圧プラズマCVD法は、常温、常圧下で製膜できること、真空設備が不要なため連続処理による大面積製膜が可能なことなどの利点がある。
【0006】
例えば、特許文献2では、多孔質基材の上に大気圧プラズマ化学気相成長法で分離層を形成する気体分離フィルタの製造方法であって、放電ガスとして窒素及びアルゴンの混合ガスを放電部に導入して大気圧プラズマを発生させ、揮発性有機ケイ素化合物を放電部の下方に導入して前記大気圧プラズマに混合させ、前記多孔質基材の上に分離層を形成し、前記放電ガス中の窒素が5.0体積%以下であることを特徴とする気体分離フィルタの製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-163871号公報
【特許文献2】特開2017-131849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の気体分離膜は、気体分離性能が不十分であり、従来のものよりも気体分離性能に優れる気体分離膜の開発が求められていた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、従来の気体分離膜よりも気体分離性能に優れる気体分離膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基材上に大気圧プラズマ化学気相成長法で分離層を形成する分離層形成工程を含む気体分離膜の製造方法であって、
前記分離層は、厚み方向において化学組成又は層構造が異なるシリカ系分離層であり、
前記分離層形成工程は、放電ガスの組成及び/又は揮発性有機ケイ素化合物の濃度を変化させることにより前記シリカ系分離層を形成する工程A、又は揮発性有機ケイ素化合物を含む放電ガスを用いて蒸着層を形成し、その後、前記蒸着層の表面に揮発性有機ケイ素化合物を含まない放電ガスから生じたプラズマを照射して、少なくとも前記蒸着層の表面を改質することにより前記シリカ系分離層を形成する工程Bであることを特徴とする気体分離膜の製造方法、に関する。
【0011】
前記工程Aにおいて、前記放電ガスの組成を酸素リーンから酸素リッチに連続的又は段階的に変化させることが好ましい。
【0012】
前記工程Aにおいて、前記揮発性有機ケイ素化合物の濃度を連続的又は段階的に減少させることが好ましい。
【0013】
前記シリカ系分離層は、厚み方向において、前記基材側から他方側に向かって、無機的構造の割合が高くなるものであることが好ましい。
【0014】
前記シリカ系分離層は、厚み方向において、前記基材側から他方側に向かって、Si原子及び酸素原子の含有率が高くなり、かつ炭素原子の含有率が低くなるものであることが好ましい。
【0015】
前記シリカ系分離層は、多層構造であることが好ましい。
【0016】
前記シリカ系分離層は、前記基材上に積層された第1分離層と、前記第1分離層上に積層された第2分離層とを少なくとも有し、前記第2分離層中のSi原子及び酸素原子の含有率は、前記第1分離層中のSi原子及び酸素原子の含有率に比べて高く、かつ前記第2分離層中の炭素原子の含有率は、前記第1分離層中の炭素原子の含有率に比べて低いことが好ましい。
【0017】
前記シリカ系分離層は、前記第1分離層におけるSi原子数に対する炭素原子数の比であるC/Siが1.5以上1.8以下であり、前記第2分離層におけるSi原子数に対する炭素原子数の比であるC/Siが1.0以上1.5未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法で得られる気体分離膜は、厚み方向において化学組成又は層構造が異なるシリカ系分離層を有しており、従来の気体分離膜よりも気体分離性(選択性)(特に、CO2/CH4透過率比)が優れるものである。また、本発明の製造方法で得られる気体分離膜は、気体透過性(特に、水素やCO2の透過率)が優れるという特徴も有する。前記シリカ系分離層が、厚み方向において、基材側から他方側に向かって無機的構造の割合が連続的又は段階的に高くなるものである場合、前記効果がより優れる気体分離膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】大気圧プラズマ化学気相成長法で用いられる分離層製膜装置の具体例の概略図である。
【
図2】大気圧プラズマ化学気相成長法で用いられる分離層製膜装置の他の具体例の概略図である。
【
図3】実施例5で製造した気体分離膜の透過係数(He、N
2、SF
6)、及び分離係数α(He/SF
6、N
2/SF
6、He/N
2)を示すグラフである。
【
図4】実施例6における、蒸着層表面へのプラズマ照射前後の透過係数(He、H
2、CO
2、N
2、CH
4、SF
6)の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
本発明の気体分離膜の製造方法は、基材上に大気圧プラズマ化学気相成長法で、厚み方向において化学組成又は層構造が異なるシリカ系分離層を形成する分離層形成工程を含む。
【0022】
前記基材(支持体)は、前記シリカ系分離層を支持しうるものであれば特に限定されず、無孔質基材であってもよく、多孔質基材であってもよいが、好ましくは多孔質基材である。また、前記基材は、無機基材であってもよく、高分子膜基材などの有機基材であってもよいが、好ましくは高分子膜基材である。
【0023】
前記無機基材の形成材料としては、例えば、アルミナ(α-Al2O3(α-アルミナ)、γ-Al2O3(γ-アルミナ))、ムライト、ジルコニア、チタニア、及びこれらの複合物からなるセラミックスが挙げられる。
【0024】
前記高分子膜基材の形成材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどのポリアリールエーテルスルホン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、シリコーン、シリコーンゴム、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニル、及びポリフッ化ビニリデンなど種々のものを挙げることができるが、特に化学的、機械的、熱的に安定である観点からポリスルホン又はポリアリールエーテルスルホンが好ましく用いられる。前記高分子膜基材の厚さは、通常50~500μm程度、好ましくは100~200μmであるが、これらに限定されない。なお、前記高分子膜基材は、織布及び不織布等により、裏打ちにて補強されていてもよい。
【0025】
前記高分子膜基材が多孔質基材である場合、前記多孔質基材は、対称構造でも非対称構造でもよいが、シリカ系分離層の支持機能、及びシリカ系分離層形成側面の平滑性を両立させる観点から、非対称構造であることが好ましい。前記多孔質基材のシリカ系分離層形成側面の平均孔径は、0.01~0.5μmであることが好ましい。
【0026】
本発明の気体分離膜の製造方法は、分離層形成工程前に、基材上に中間層を形成する中間層形成工程を含んでもよい。
【0027】
基材上に中間層を形成し、中間層上に大気圧プラズマ化学気相成長法でシリカ系分離層を形成することにより、シリカ系分離層の膜厚を均一にして気体分離性能を向上させることができる。
【0028】
前記中間層は、無孔質構造でも多孔質構造でもよいが、シリカ系分離層の平滑性を向上させて気体分離性能を向上させる観点から、無孔質構造であることが好ましい。
【0029】
前記中間層の形成材料は、無機材料であってもよく、有機材料であってもよい。無機材料としては、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、及びシリカ-ジルコニアなどが挙げられる。これらは1種用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機材料としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、及びポリジメチルジフェニルシロキサンなどのポリシロキサン;ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂;ポリエチレンオキシドなどのエポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリトリメチルシリルプロピン、及びポリジフェニルアセチレンなどのポリアセチレン樹脂;ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらは1種用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、気体分離性能及び気体透過率を向上させる観点から、ポリシロキサンを用いることが好ましく、より好ましくはポリジメチルシロキサンである。
【0030】
前記中間層は、シリカ粒子、チタニア粒子、及びアルミナ粒子などのナノ粒子を含んでいてもよい。
【0031】
前記中間層の厚さは、通常、0.05~10μmであり、気体分離性能及び気体透過率を向上させる観点から、好ましくは0.05~5μm、より好ましくは0.05~3μmである。
【0032】
前記中間層が多孔質構造である場合、孔径は特に制限されないが、気体分離性能及び気体透過率を向上させる観点から、好ましくは0.5~10nm、より好ましくは0.5~2nmである。
【0033】
前記中間層は公知の方法で形成することができ、例えば、前記基材上に中間層の形成材料を含む組成物を塗布し、乾燥、焼成等することにより形成することができる。
【0034】
前記シリカ系分離層は、分子径の異なる2種以上の気体を含む混合気体から分子径の小さい気体を透過させ、分子径の大きい気体の透過を阻害して、分子径の異なる気体を分離する機能を有する層である。
【0035】
前記シリカ系分離層は、前記基材又は前記中間層上に大気圧プラズマ化学気相成長法で形成する。
【0036】
大気圧プラズマ化学気相成長法で用いられる分離層製膜装置は、公知の分離層製膜装置を用いることができ、例えば、
図1に記載の分離層製膜装置1を用いることができる。
【0037】
前記シリカ系分離層の原料は、大気圧プラズマにより化学気相蒸着可能であれば特に制限されず、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルエトキシシラン、メチルトリエトキシシランなどの揮発性有機ケイ素化合物が挙げられ、気体分離性及び気体透過率を向上させる観点から、好ましくはヘキサメチルジシロキサンである。
【0038】
放電ガスボンベ2には放電ガス(N2、Air、又はO2など)、キャリアガスボンベ3にはキャリアガス(Arなど)が充填されている。液体状の揮発性有機ケイ素化合物が入れられたバブラー4にキャリアガスを通すことで、揮発性有機ケイ素化合物を含むキャリアガスが得られる。そして、揮発性有機ケイ素化合物を含むキャリアガスと放電ガスとを混合した混合ガスをプラズマ発生装置5へ供給する。放電部6で発生した大気圧プラズマによって揮発性有機ケイ素化合物が分解され、基材7上に化学気相蒸着によりシリカ系分離層が形成される。シリカ系分離層の製膜時に基材7を移動させながら蒸着を行うと、厚みの均一なシリカ系分離層が得られる。また、膜厚の厚いシリカ系分離層を形成するために、蒸着を複数回(複数サイクル)行ってもよい。なお、基材7上には中間層が設けられていてもよい。
【0039】
また、
図2に記載の分離層製膜装置1を用いてもよい。放電ガスボンベ2には放電ガス(N
2、Air、又はO
2など)、キャリアガスボンベ3にはキャリアガス(Arなど)が充填されている。液体状の揮発性有機ケイ素化合物が入れられたバブラー4にキャリアガスを通すことで、揮発性有機ケイ素化合物を含むキャリアガスが得られる。そして、揮発性有機ケイ素化合物を含むキャリアガスと放電ガスとを混合した混合ガスをプラズマ発生装置5へ供給する。放電部6で発生した大気圧プラズマによって揮発性有機ケイ素化合物が分解され、基材上に化学気相蒸着によりシリカ系分離層が形成される。基材は、放電部6内に設置されており、放電中に蒸着を行うと、厚みの均一なシリカ系分離層が得られる。また、膜厚の厚いシリカ系分離層を形成するために、蒸着を長時間行ってもよい。なお、基材上には中間層が設けられていてもよい。
【0040】
前記分離層形成工程は、放電ガスの組成及び/又は揮発性有機ケイ素化合物の濃度を変化させることにより前記シリカ系分離層を形成する工程A、又は揮発性有機ケイ素化合物を含む放電ガスを用いて蒸着層を形成し、その後、前記蒸着層の表面に揮発性有機ケイ素化合物を含まない放電ガスから生じたプラズマを照射して、少なくとも前記蒸着層の表面を改質することにより前記シリカ系分離層を形成する工程Bである。
【0041】
<工程A>
(1)放電ガスの組成を連続的又は段階的に変化させる方法
放電ガスの組成を連続的又は段階的に変化させることにより、厚み方向において化学組成又は層構造が連続的又は段階的に異なるシリカ系分離層を形成することができる。
【0042】
例えば、第1分離層、第2分離層、及び第3分離層からなる3層構造のシリカ系分離層を形成する場合、第1分離層の形成時においては放電ガスとしてN2を用い、第2分離層の形成時においては放電ガスとしてAirを用い、第3分離層の形成時においては放電ガスとしてO2を用いる。あるいは、放電ガスとしてN2とO2を含む放電ガスを用い、第1分離層、第2分離層、及び第3分離層の各層の形成時において、N2とO2の混合比を変化させてもよい。
【0043】
放電ガスの組成を酸素リーンから酸素リッチに連続的又は段階的に変化させることで、厚み方向において、基材側から他方側に向かって無機的構造の割合が連続的又は段階的に高くなるシリカ系分離層、具体的には、厚み方向において、基材側から他方側に向かってSi原子及び酸素原子の含有率が連続的又は段階的に高くなり、かつ炭素原子の含有率が連続的又は段階的に低くなるシリカ系分離層を形成することができる。当該シリカ系分離層は、気体分離性及び気体透過率がより優れるものである。
【0044】
(2)混合ガス中の揮発性有機ケイ素化合物の濃度を連続的又は段階的に変化させる方法
混合ガス中の揮発性有機ケイ素化合物の濃度を連続的又は段階的に変化させることにより、厚み方向において化学組成又は層構造が連続的又は段階的に異なるシリカ系分離層を形成することができる。
【0045】
例えば、第1分離層、及び第2分離層からなる2層構造のシリカ系分離層を形成する場合、第1分離層の形成時において揮発性有機ケイ素化合物の濃度を高く(例えば、125~800ppm)して、第2分離層の形成時において揮発性有機ケイ素化合物の濃度を低く(例えば、50~100ppm)する。
【0046】
混合ガス中の揮発性有機ケイ素化合物の濃度を連続的又は段階的に減少させることで、厚み方向において、基材側から他方側に向かって無機的構造の割合が連続的又は段階的に高くなるシリカ系分離層、具体的には、厚み方向において、基材側から他方側に向かってSi原子及び酸素原子の含有率が連続的又は段階的に高くなり、かつ炭素原子の含有率が連続的又は段階的に低くなるシリカ系分離層を形成することができる。当該シリカ系分離層は、気体分離性及び気体透過率がより優れるものである。
【0047】
<工程B>
揮発性有機ケイ素化合物を含む放電ガスを用いて蒸着層を形成し、その後、前記蒸着層の表面に揮発性有機ケイ素化合物を含まない放電ガスから生じたプラズマを照射して、少なくとも前記蒸着層の表面を改質することにより、厚み方向において化学組成又は層構造が連続的又は段階的に異なるシリカ系分離層を形成することができる。
【0048】
蒸着層の表面にプラズマを照射することにより、表面に近いほど重合が進行して無機的構造の割合が高くなるため、厚み方向において化学組成又は層構造が異なるシリカ系分離層を形成することができる。
【0049】
例えば、従来の方法で蒸着層(単一の層構造を有する層)を形成した後、蒸着層の表面に、放電ガス(例えば、N2/Arなど)の分子を電離させて発生したプラズマを照射する。
【0050】
蒸着層の表面にプラズマを照射することで、厚み方向において、基材側から他方側に向かって無機的構造の割合が連続的又は段階的に高くなるシリカ系分離層、具体的には、厚み方向において、基材側から他方側に向かってSi原子及び酸素原子の含有率が連続的又は段階的に高くなり、かつ炭素原子の含有率が連続的又は段階的に低くなるシリカ系分離層を形成することができる。当該シリカ系分離層は、気体分離性及び気体透過率がより優れるものである。
【0051】
前記シリカ系分離層を前記基材上又は前記中間層上に形成した後、熱処理(アニーリング)してもよい。
【0052】
本発明の製造方法により得られるシリカ系分離層は、厚み方向において化学組成又は層構造が異なるものである。前記シリカ系分離層は、好ましくは、厚み方向において、前記基材側(前記中間層を有する場合は中間層側)から他方側に向かって無機的構造の割合が連続的又は段階的に高くなるものであり、より好ましくは、厚み方向において、前記基材側(前記中間層を有する場合は中間層側)から他方側に向かってSi原子及び酸素原子の含有率が連続的又は段階的に高くなり、かつ炭素原子の含有率が連続的又は段階的に低くなるものである。
【0053】
前記シリカ系分離層の表面におけるSi原子数に対する酸素原子数の比であるO/Siは、気体分離性能及び気体透過率を向上させる観点から、好ましくは1.7未満、より好ましくは1.65以下、さらに好ましくは1.60以下である。O/Siの下限値は、通常1.25以上であり、好ましくは1.30以上、より好ましくは1.40以上である。
【0054】
前記シリカ系分離層は、1層でもよく、2層以上の多層構造でもよいが、気体分離性能及び気体透過率を向上させる観点、及び製造容易性の観点から、2層以上の多層構造であることが好ましく、より好ましくは2層構造又は3層構造である。具体的には、前記シリカ系分離層は、前記基材上又は前記中間層上に積層された第1分離層と、前記第1分離層上に積層された第2分離層とを少なくとも有し、前記第2分離層中のSi原子及び酸素原子の含有率は、前記第1分離層中のSi原子及び酸素原子の含有率に比べて高く、かつ前記第2分離層中の炭素原子の含有率は、前記第1分離層中の炭素原子の含有率に比べて低いものであることが好ましい。また、前記シリカ系分離層が前記第2分離層上にさらに第3以上の分離層を有する場合、第3以上の各分離層におけるSi原子及び酸素原子の含有率は段階的に高くなり、かつ炭素原子の含有率は段階的に低くなることが好ましい。
【0055】
気体分離性能及び気体透過率を向上させる観点から、前記第1分離層におけるSi原子数に対する炭素原子数の比であるC/Siは、好ましくは1.5以上1.8以下、より好ましくは1.5以上1.7以下であり、前記第2分離層におけるSi原子数に対する炭素原子数の比であるC/Siは、好ましくは1.0以上1.5未満、より好ましくは1.2以上1.4以下である。
【0056】
前記シリカ系分離層の厚さ(多層構造の場合は、総厚さ)は特に制限されないが、気体分離性能及び気体透過率を向上させる観点から、好ましくは0.01~2μm、より好ましくは0.1~1.5μm、さらに好ましくは0.5~1.2μmである。
【0057】
本発明の製造方法により得られる気体分離膜は、25℃におけるCO2透過率が90GPU以上であることが好ましく、より好ましくは95GPU以上、さらに好ましくは100GPU以上、さらに好ましくは130GPU以上、さらに好ましくは150GPU以上、さらに好ましくは200GPU以上、さらに好ましくは250GPU以上である。
【0058】
また、本発明の製造方法により得られる気体分離膜は、150℃におけるCO2透過率が90GPU以上であることが好ましく、より好ましくは100GPU以上、さらに好ましくは150GPU以上、さらに好ましくは200GPU以上、さらに好ましくは250GPU以上、さらに好ましくは300GPU以上である。
【0059】
また、本発明の製造方法により得られる気体分離膜は、25℃におけるCO2/CH4透過率比が15以上であることが好ましく、より好ましくは30以上であり、さらに好ましくは35以上、さらに好ましくは40以上である。
【0060】
また、本発明の製造方法により得られる気体分離膜は、150℃におけるCO2/CH4透過率比が9以上であることが好ましく、より好ましくは9.5以上であり、さらに好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上である。
【0061】
また、本発明の製造方法により得られる気体分離膜は、200℃におけるH2透過率が1000GPU以上であることが好ましく、より好ましくは3000GPU以上、さらに好ましくは5000GPU以上である。
【0062】
また、本発明の製造方法により得られる気体分離膜は、200℃におけるH2/SF6透過率比が100以上であることが好ましく、より好ましくは500以上であり、さらに好ましくは1000以上、さらに好ましくは5000以上である。
【0063】
本発明の製造方法により得られる気体分離膜はその形状になんら制限を受けるものではない。すなわち平膜状、円筒状、又はスパイラルエレメント状など、考えられるあらゆる膜形状が可能である。
【実施例0064】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0065】
実施例1
多孔性ポリスルホン支持体(日東電工株式会社製、CF-30K)上に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む塗布液をスピンコート法により塗布し、乾燥して中間層(厚さ:3μm)を形成した。
分離層製膜装置を用いて、大気圧プラズマCVD法にて前記中間層上に、第1分離層(厚さ:400nm)、及び第2分離層(厚さ:800nm)からなる2層構造のシリカ系分離層(総厚さ:1.2μm)を、表2に記載の製造条件で製膜して、気体分離膜を製造した。
【0066】
下記方法で、シリカ系分離層の元素分析及び気体分離膜の気体透過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
実施例1のシリカ系分離層は、Si原子及び酸素原子の含有率が第1分離層よりも第2分離層の方が高かった。逆に、炭素原子の含有率は、第1分離層よりも第2分離層の方が低かった。つまり、実施例1のシリカ系分離層は、第1分離層よりも第2分離層の方が無機的構造の割合が高いものであった。
【0068】
実施例2~4
シリカ系分離層の製膜において、表2に記載の製造条件を採用した以外は実施例1と同様の方法で気体分離膜を製造した。
【0069】
下記方法で、シリカ系分離層の元素分析及び気体分離膜の気体透過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
実施例2~4のシリカ系分離層は、Si原子及び酸素原子の含有率が第1分離層よりも第2分離層の方が高かった。逆に、炭素原子の含有率は、第1分離層よりも第2分離層の方が低かった。つまり、実施例2~4のシリカ系分離層は、第1分離層よりも第2分離層の方が無機的構造の割合が高いものであった。
【0071】
比較例1
多孔性ポリスルホン支持体(日東電工株式会社製、CF-30K)上に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む塗布液をスピンコート法により塗布し、乾燥して中間層(厚さ:3μm)を形成した。その後、形成した中間層の表面に、表2に記載の条件でプラズマを照射して、中間層の表面を改質して分離層を形成し、気体分離膜を製造した。
【0072】
下記方法で、気体分離膜の気体透過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
比較例1の分離層を含む中間層は、Si原子及び酸素原子の含有率が、中間層の中央よりも分離層の表面の方が高かった。逆に、炭素原子の含有率は、中間層の中央よりも分離層の表面の方が低かった。つまり、比較例1の分離層を含む中間層は、中間層の中央よりも分離層の表面の方が無機的構造の割合が高いものであった。
【0074】
比較例2及び3
多孔性ポリスルホン支持体(日東電工株式会社製、CF-30K)上に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む塗布液をスピンコート法により塗布し、乾燥して中間層(厚さ:5μm)を形成した。
分離層製膜装置を用いて、大気圧プラズマCVD法にて前記中間層上に、単層のシリカ系分離層(厚さ:1.2μm)を、表2に記載の製造条件で製膜して、気体分離膜を製造した。
【0075】
下記方法で、シリカ系分離層の元素分析及び気体分離膜の気体透過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
比較例2及び3のシリカ系分離層は、厚み方向においてSi原子、酸素原子、及び炭素原子の含有率は同じであった。
【0077】
〔測定及び評価方法〕
(シリカ系分離層の元素分析)
シリカ系分離層の元素分析はX線電子分光法を用いて行った。基材にはシリコンウェハを用い、前記多孔性支持体への製膜と同じ条件で、ヘキサメチルジシロキサンの濃度を変化させて製膜を行ってシリカ系分離層を形成し、形成したシリカ系分離層表面の元素組成を定量した。
【0078】
(気体透過性)
得られた気体分離膜の気体透過性は、純ガス(CO2、CH4)を用いて評価した。気体分離膜上流側を大気圧~微加圧(100~110kPaG)に加圧し、既知の体積を有する透過側を真空排気した後、排気系から切り離して、その圧力上昇速度から気体透過率を求めた(疑定常法を用いた)。
【0079】
【0080】
【0081】
実施例5
分離層製膜装置を用いて、大気圧プラズマCVD法にて無機基材(SiO
2-ZrO
2/α-Al
2O
3)上に、第1分離層、第2分離層、及び第3分離層からなる3層構造のシリカ系分離層を下記の製膜条件で製膜して、気体分離膜を製造した。製造した気体分離膜の透過係数(He、N
2、SF
6)、及び分離係数α(He/SF
6、N
2/SF
6、He/N
2)を
図3に示す。
図3から、製造した気体分離膜は、気体透過性を維持しながら優れた気体選択性を有することがわかる。
<シリカ系分離層の製膜条件>
シリカ系分離層の原料モノマー:ヘキサメチルジシロキサン(濃度:26ppm)
キャリアガス:Ar
放電ガス:第1分離層形成時はN
2(0.25vol%)、第2分離層形成時はAir(0.25vol%)、第3分離層形成時はO
2(0.25vol%)
印加電圧:4.5kV
投入電力:3.2~3.7W
蒸着温度:200℃
蒸着サイクル数:2回
【0082】
実施例6
分離層製膜装置を用いて、大気圧プラズマCVD法にてUF膜上に、単層の蒸着層を下記の製膜条件で製膜し、その後、前記蒸着層の表面に下記の条件でプラズマを照射し、少なくとも前記蒸着層の表面を改質することによりシリカ系分離層を形成して、気体分離膜を製造した。プラズマ照射前後の透過係数(He、H
2、CO
2、N
2、CH
4、SF
6)の変化を
図4に示す。
図4から、蒸着層の表面にプラズマを照射し、少なくとも蒸着層の表面を改質することにより、気体選択性が向上していることがわかる。
<蒸着層の製膜条件>
蒸着層の原料モノマー:ヘキサメチルジシロキサン(flow rate:1.3×10
-6mol/s)
キャリアガス:Ar
放電ガス:N
2(0.25vol%)
投入電力:10W
蒸着温度:25℃
蒸着サイクル数:4回
<プラズマの照射条件>
キャリアガス:Ar
放電ガス:N
2(0.25vol%)
投入電力:6W
温度:25℃
プラズマ照射のサイクル数:3回