(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006387
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ポリアミド酸、ポリイミド、ポリイミドフィルム、金属張積層板及び回路基板
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20230111BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20230111BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20230111BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230111BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20230111BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20230111BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08G73/10
B32B27/34
B32B7/022
B32B7/025
B32B7/027
B32B15/088
H05K1/03 610N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108961
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 智典
【テーマコード(参考)】
4F100
4J043
【Fターム(参考)】
4F100AB17C
4F100AB33C
4F100AK49A
4F100AK49B
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100DD07C
4F100GB43
4F100JA02A
4F100JA05
4F100JD15
4F100JG04A
4F100JG05A
4F100JK07A
4F100YY00A
4J043PA02
4J043PB03
4J043QB26
4J043RA34
4J043SA06
4J043SB01
4J043TA22
4J043TB01
4J043UA131
4J043UA152
4J043VA021
4J043XA16
4J043YA06
4J043ZA04
4J043ZA42
4J043ZB50
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低熱膨張性、低吸湿性、良好な製膜性を有し、かつ誘電正接が十分に低いポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】条件(i):下記式(1)の残基を25mol%以上含有する、
条件(ii):式(2)の化合物から誘導されるジアミン残基を50mol%以上含有する、
H
2N-φ(Y)-φ(Y)-NH
2・・(2)
条件(iii):全モノマー残基に対し、ビフェニル骨格を有するモノマー残基の割合が65mol%以上である、
を満たすポリアミド酸をイミド化してなるポリイミドを使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するポリアミド酸であって、下記の条件(i)~(iii);
条件(i):
全酸二無水物残基に対して、下記の式(1)で表される酸二無水物から誘導される酸二無水物残基を25mol%以上含有すること、
【化1】
条件(ii):
全ジアミン残基に対して、下記の一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を50mol%以上含有すること、
【化2】
[式(2)において、Yは独立に水素、炭素数1~3の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、p及びqは独立して0~4の整数を示す。]
条件(iii):
全モノマー成分から誘導される全モノマー残基に対し、ビフェニル骨格を有するモノマー残基の割合が65mo1%以上であること、
を満たすこと特徴とするポリアミド酸。
【請求項2】
全ジアミン残基に対して、下記の一般式(3)~(6)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を1~50mol%の範囲内で含有する請求項1に記載のポリアミド酸。
【化3】
[式(3)~(6)において、Rは独立に炭素数1~6の1価の炭化水素基、アルコキシ基又はアルキルチオ基を示し、連結基Aは独立に-O-、-SO
2-、-CH
2-又は-C(CH
3)
2-から選ばれる2価の基を示し、連結基Xは独立に-CH
2-、-O-CH
2-O-、-O-C
2H
4-O-、-O-C
3H
6-O-、-O-C
4H
8-O-、-O-C
5H
10-O-、-O-CH
2-C(CH
3)
2-CH
2-O-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-又は-SO
2-を示し、mは独立に1~4の整数を示し、nは独立に0~4の整数を示すが、式(5)において、連結基Aが、-CH
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-又は-SO
2-を含まない場合、nのいずれかは1以上である。]
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリアミド酸をイミド化してなるポリイミド。
【請求項4】
単層又は複数層のポリイミド層を含むポリイミドフィルムであって、
前記ポリイミド層の少なくとも1層が、請求項3に記載のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するものであるポリイミドフィルム。
【請求項5】
第1のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するポリイミド層(A)と、該ポリイミド層(A)に積層されており、前記第1のポリイミドとは異なる第2のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するポリイミド層(B)と、を含むポリイミドフィルムであって、
前記第1のポリイミドが、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するポリイミドであって、
全酸二無水物残基中に、ピロメリット酸二無水物から誘導される残基を5mol%以上90mol%以下、分子内にケトン基(-CO-)を有する酸二無水物から誘導される残基を10mol%以上95mol%以下で含有し、且つピロメリット酸二無水物から誘導される残基と分子内にケトン基(-CO-)を有する酸二無水物から誘導される残基とを合計で80mol%以上の割合で含有しており、
全ジアミン残基中に、下記の一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導される残基を5mol%以上90mol%以下の割合で含有しており、
動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定される300℃における貯蔵弾性率E’が1.0×10
8Pa以上且つ350℃における貯蔵弾性率E’が1.0×10
7Pa以上であるポリイミドであり、
前記第2のポリイミドが、請求項3に記載のポリイミドであることを特徴とするポリイミドフィルム。
【化4】
[式(A1)において、連結基X1は単結合又は-CONH-から選ばれる2価の基を示し、Yは独立に水素、炭素数1~3の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、n1は0~2の整数を示し、p及びqは独立して0~4の整数を示す。]
【請求項6】
温度24~26℃、湿度45~55%の環境下でスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が、0.003未満であり、熱膨張係数(CTE)が25ppm/K未満である請求項4又は5に記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に設けられている金属層と、を備えた金属張積層板であって、
前記絶縁樹脂層が、請求項4から6のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムを含むことを特徴とする金属張積層板。
【請求項8】
絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に設けられている配線層と、を備えた回路基板であって、
前記絶縁樹脂層が、請求項4から6のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムを含むことを特徴とする回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリイミドフィルム、金属張積層板及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気、電子機器の高性能、高機能化に伴い、情報の高速伝送化が要求されており、これらに使用される部品や部材にも高速伝送への対応が求められている。高周波信号を伝送する場合、電気信号のロスや信号の遅延時間が長くなるなどの不都合が生じ易くなることから、高周波機器に使用されるフレキシブルプリント基板(FPC;Flexible Printed Circuits)などの回路基板について、高速伝送化に対応した電気特性を有するように改善が進められている。そのため、FPC材料として使用されるポリマーについても、伝送損失を低減すべく、誘電正接を下げる検討がなされている。
【0003】
低誘電正接なポリマーの代表例として、フッ素系樹脂、液晶ポリマー(LCP)、モディファイドポリイミド(MPI)が挙げられる。しかし、フッ素系樹脂は、低粗化銅箔との密着性やレーザー加工性、銅メッキ性等に課題があり、LCPは低粗化銅箔との密着性が低いことや多層化が困難であるといった課題がある。また、MPIについてはフッ素系樹脂やLCPのような課題はないが、一般に吸湿率や誘電正接が高いと言った課題がある。
【0004】
ポリイミドの誘電正接を低下させるために、ポリイミド鎖中にエステル構造を導入することが提案されている(例えば、特許文献1)。また、低熱膨張性や低吸湿性などを目的として、ポリイミド鎖へエステル構造を導入することも提案されている(例えば、特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-074894号公報
【特許文献2】再表2010-093021号公報
【特許文献3】特開平10-36506号公報
【特許文献4】特開2006-336011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ポリイミド鎖中にエステル構造を導入することによって誘電正接を下げているが、その実施例において10GHzでの誘電正接が0.003を上回っており、高周波信号の伝送損失の低減という観点で満足のいくものではなかった。また、特許文献1では、ポリイミドのイミド化を閉環化剤によって行っているため、極性基の増加によって誘電正接が下がり難い傾向がある。
一方、特許文献3、4のように、ジアミン成分として1,4-ジアミノベンゼン(p-PDA;パラフェニレンジアミン)を用いると、ポリイミドフィルムが脆くなりやすく、製膜性が低下するという課題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、FPC材料として要求される低熱膨張性、良好な製膜性を有し、かつ、誘電正接が十分に低いポリイミドフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ポリイミドを形成するためのモノマーとして、特定構造の酸二無水物とジアミン化合物を所定の比率で用いることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の第1の観点のポリアミド酸は、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するポリアミド酸であって、下記の条件(i)~(iii)を満たす。
【0010】
条件(i):
全酸二無水物残基に対して、下記の式(1)で表される酸二無水物から誘導される酸二無水物残基を25mol%以上含有すること。
【0011】
【0012】
条件(ii):
全ジアミン残基に対して、下記の一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を50mol%以上含有すること。
【0013】
【0014】
式(2)において、Yは独立に水素、炭素数1~3の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、p及びqは独立して0~4の整数を示す。
【0015】
条件(iii):
全モノマー成分から誘導される全モノマー残基に対し、ビフェニル骨格を有するモノマー残基の割合が65mo1%以上であること。
【0016】
本発明の第1の観点のポリアミド酸は、全ジアミン残基に対して、下記の一般式(3)~(6)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を1~50mol%の範囲内で含有するものであってもよい。
【0017】
【0018】
式(3)~(6)において、Rは独立に炭素数1~6の1価の炭化水素基、アルコキシ基又はアルキルチオ基を示し、連結基Aは独立に-O-、-SO2-、-CH2-又は-C(CH3)2-から選ばれる2価の基を示し、連結基Xは独立に-CH2-、-O-CH2-O-、-O-C2H4-O-、-O-C3H6-O-、-O-C4H8-O-、-O-C5H10-O-、-O-CH2-C(CH3)2-CH2-O-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-又は-SO2-を示し、mは独立に1~4の整数を示し、nは独立に0~4の整数を示すが、式(5)において、連結基Aが、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-又は-SO2-を含まない場合、nのいずれかは1以上である。
【0019】
本発明の第2の観点のポリイミドは、上記第1の観点のポリアミド酸をイミド化してなるものである。
【0020】
本発明の第3の観点のポリイミドフィルムは、単層又は複数層のポリイミド層を含むポリイミドフィルムであって、
前記ポリイミド層の少なくとも1層が、上記第2の観点のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するものである。
【0021】
本発明の第4の観点のポリイミドフィルムは、第1のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するポリイミド層(A)と、該ポリイミド層(A)に積層されており、前記第1のポリイミドとは異なる第2のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するポリイミド層(B)と、を含むポリイミドフィルムであってもよい。この第4の観点のポリイミドフィルムは、前記第1のポリイミドが、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するポリイミドであって、全酸二無水物残基中に、ピロメリット酸二無水物から誘導される残基を5mol%以上90mol%以下、分子内にケトン基(-CO-)を有する酸二無水物から誘導される残基を10mol%以上95mol%以下で含有し、且つピロメリット酸二無水物から誘導される残基と分子内にケトン基(-CO-)を有する酸二無水物から誘導される残基とを合計で80mol%以上の割合で含有してもよい。また、この第4の観点のポリイミドフィルムは、全ジアミン残基中に、下記の一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導される残基を5mol%以上90mol%以下の割合で含有してもよい。さらに、この第4の観点のポリイミドフィルムは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定される300℃における貯蔵弾性率E’が1.0×108Pa以上且つ350℃における貯蔵弾性率E’が1.0×107Pa以上であるポリイミドであってもよい。
さらに、第4の観点のポリイミドフィルムは、前記第2のポリイミドが、上記第2の観点のポリイミドである。
【0022】
【化4】
式(A1)において、連結基X1は単結合又は-CONH-から選ばれる2価の基を示し、Yは独立に水素、炭素数1~3の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、n1は0~2の整数を示し、p及びqは独立して0~4の整数を示す。
【0023】
本発明の第3の観点もしくは第4の観点のポリイミドフィルムは、温度24~26℃、湿度45~55%の環境下でスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が、0.003未満であってもよく、熱膨張係数(CTE)が25ppm/K未満であってもよい。
【0024】
本発明の第5の観点の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に設けられている金属層と、を備えた金属張積層板であって、前記絶縁樹脂層が、上記第3の観点もしくは第4の観点のポリイミドフィルムを含む。
【0025】
本発明の第6の観点の回路基板は、絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に設けられている配線層と、を備えた回路基板であって、前記絶縁樹脂層が、上記第3の観点もしくは第4の観点のポリイミドフィルムを含む。
【発明の効果】
【0026】
本発明のポリアミド酸及びポリイミドは、条件(i)~(iii)を満たすことによって、低熱膨張性と良好な製膜性を損なうことなく、極めて低い誘電正接を有するポリイミドフィルムを形成できる。したがって、本発明のポリイミドフィルムを回路基板材料として利用することによって、高速伝送への対応が可能な回路基板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
【0028】
<ポリアミド酸・ポリイミド>
本発明の一実施の形態のポリアミド酸は、ポリイミドの前駆体であり、特定の酸二無水物成分と特定のジアミン成分とを反応させて得られるポリアミド酸であって、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含むものである。
また、本実施の形態のポリイミドは、上記ポリアミド酸をイミド化してなるものであり、特定の酸無水物残基及び特定のジアミン残基を含むものである。
本発明において、酸無水物残基とは、酸二無水物から誘導された4価の基のことを表し、ジアミン残基とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを表す。原料である酸二無水物及びジアミン化合物をほぼ等モルで反応させた場合には、原料の種類とモル比に対して、ポリイミド中に含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基の種類やモル比などをほぼ対応させることができる。
なお、本発明で「ポリイミド」という場合、ポリイミドの他、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリシロキサンイミド、ポリベンズイミダゾールイミドなど、分子構造中にイミド基を有するポリマーからなる樹脂を意味する。
【0029】
以下、本実施の形態のポリアミド酸及びポリイミドに含まれる酸無水物残基及びジアミン残基について、その原料とともに説明する。
【0030】
本実施の形態のポリアミド酸及びポリイミドは、以下の条件(i)~(iii)を満たすものである。
【0031】
条件(i):
全酸二無水物残基に対して、下記の式(1)で表される酸二無水物から誘導される酸二無水物残基を25mol%以上含有すること。以下、式(1)で表される酸二無水物から誘導される酸二無水物残基を「酸二無水物残基(1)」と記すことがある。
【0032】
【0033】
式(1)で表される酸二無水物は、p-ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無二水物)(BP-TME)として知られるものであり、分子内にビフェニル骨格と、該ビフェニル骨格に結合した2つのエステル構造(-CO-O-)を有している。ビフェニル骨格は剛直性を有し、エステル構造はポリマー全体に秩序構造を付与する作用を有しているため、酸二無水物残基(1)を含有することによって、熱膨張係数の低減(低CTE化)が可能になるとともに、分子の秩序構造の向上と運動抑制により誘電正接を効果的に低下させること(低誘電正接化)が可能になる。
【0034】
本実施の形態のポリアミド酸及びポリイミドにおける酸二無水物残基(1)の含有量は、全酸二無水物残基に対して25mol%以上であり、25~100mol%の範囲内が好ましく、40~80mol%の範囲内がより好ましい。酸二無水物残基(1)の含有量が25mol%未満では、分子の秩序構造の向上と運動抑制による低誘電正接化と低CTE化の双方の効果が十分に発揮されない。なお、酸二無水物残基(1)の含有量の上限は100mol%でもよいが、任意の機能性付与を目的として他の酸二無水物を併用する場合には、その使用量に応じて式(1)で表される酸二無水物の使用量を調節できる。
【0035】
ここで、式(1)で表される酸二無水物の類縁化合物として、式(1)中のビフェニル骨格がフェニル基などの置換基を有するものが知られている(例えば、特許文献2)。しかし、ビフェニル骨格に結合した置換基の存在によって、ポリイミドの分子運動抑制効果が小さくなり、誘電正接を十分に低下させることができないというデメリットがある。
また、式(1)で表される酸二無水物と同様に2つのエステル構造を有する酸二無水物として、1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物(TAHQ)が知られている。このTAHQはフェニレン基に2つのエステル構造が結合した構造であることから、剛直性を有するものの、誘電正接を下げる効果が十分に得られない。また、TAHQを式(1)で表される酸二無水物と比較した際に、ビフェニル骨格を有さないことから、分子運動抑制効果が小さいため低誘電正接化に不利であり、分子量についても小さいため、TAHQを使用したポリイミドは、相対的にポリイミドのイミド基濃度が高くなり、吸湿性が高くなるというデメリットがある。
さらに、式(1)で表される酸二無水物と同様に2つのエステル構造を有する酸二無水物として、式(1)中のビフェニル骨格がナフタレン骨格に置き換わった構造の2,6-ナフタレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(26DHN-TME)も知られている。この26DHN-TMEは、ナフタレンエステル骨格の存在によって、発泡が発生し易くなり、また、ポリイミドの直線性が低下することで熱膨張係数(CTE)を十分に低下させることができないというデメリットがある。
【0036】
条件(ii):
全ジアミン残基に対して、下記の一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を50mol%以上含有すること。以下、式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を「ジアミン残基(2)」と記すことがある。
【0037】
【0038】
一般式(2)において、Yは独立に水素、炭素数1~3の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、p及びqは独立して0~4の整数を示す。なお、上記式(2)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば-NRxRy(ここで、Rx,Ryは、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0039】
ジアミン残基(2)は、剛直構造を有しているため、ポリマー全体に秩序構造を付与する作用を有している。ジアミン残基(2)を含有することによって、低吸湿性のポリイミドが得られ、分子鎖内部の水分を低減できるため、誘電正接を下げることができる。また、ジアミン残基(2)は、酸二無水物残基(1)と共通する構造としてビフェニル骨格を含むため、ポリマー全体に秩序構造を付与する作用が大きくなり、しかも、モノマー由来単位の分子量を大きくできるので、イミド基濃度を低減できる。
【0040】
一般式(2)で表されるジアミン化合物の代表例としては、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EB)、2,2’-ジエトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EOB)、2,2’-ジプロポキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-POB)、2,2’-ジ-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-NPB)、2,2’-ジビニル-4,4’-ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’-ジアミノビフェニルなどを挙げることができる。
【0041】
本実施の形態のポリアミド酸及びポリイミドにおけるジアミン残基(2)の含有量は、全ジアミン残基に対して50mol%以上であり、60~100mol%の範囲内が好ましく、60~95mol%の範囲内がより好ましい。ジアミン残基(2)の含有量が50mol%未満では、誘電正接を低下させる効果が十分に発揮されない。
なお、誘電正接を低下させるという観点では、全ジアミン残基中に占めるジアミン残基(2)の割合を出来るだけ大きくすることが好ましく、ジアミン残基(2)の含有量が100mol%であってもよい。その一方で、後述する発泡抑制や熱イミド化のための熱処理時間の短縮も考慮に入れる場合は、ジアミン残基(2)の含有量の上限を、全ジアミン残基に対して60~95mol%の範囲内に設定することが好ましい。
【0042】
条件(iii):
全モノマー成分から誘導される全モノマー残基に対し、ビフェニル骨格を有するモノマー残基(ビフェニル骨格含有残基)の割合が65mo1%以上であること。
ここで、ビフェニル骨格とは、2つのフェニル基が単結合した骨格である。従って、ビフェニル骨格含有残基とは、例えば、ビフェニルジイル基、ビフェニルテトライル基などを挙げることができる。全モノマー成分から誘導される全モノマー残基に対し、ビフェニル骨格含有残基の割合が65mo1%以上であることによって、モノマー由来の剛直構造によりポリマー全体に秩序構造が形成されやすくなり、分子の運動抑制により誘電正接を低下させることができる。ビフェニル骨格含有残基の割合が65mo1%未満では、誘電正接が十分に低下しない。このため、例えば回路基板に使用したときに、高速伝送への適応が困難となる。かかる観点から、ビフェニル骨格含有残基の割合は、70mo1%以上であることが好ましく、80mo1%以上であることがより好ましい。
【0043】
また、本実施の形態のポリアミド酸及びポリイミドは、分子内に2つのエステル構造(-CO-O-)を有する式(1)で表される酸二無水物に由来する酸二無水物残基(1)を主要な構成単位として含むため、エステル基濃度が比較的高いという特徴を有する。ポリマー全体に秩序構造を付与し、誘電正接を低下させる観点から、本実施の形態のポリアミド酸及びポリイミドにおけるエステル基濃度は、例えば3~15重量%の範囲内が好ましく、7~15重量%の範囲内であることがより好ましい。ここで、エステル基濃度は、ポリポリイミドイミド構造全体の分子量中におけるエステル基(-COO-)の割合によって算出できる。
【0044】
(他の酸二無水物残基)
本実施の形態のポリアミド酸及びポリイミドは、上記の式(1)で表される酸二無水物から誘導される残基のほかに、発明の効果を損なわない範囲で、一般にポリイミドの原料として用いられる酸二無水物の残基を含有することができる。そのような酸二無水物残基として、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物(TAHQ)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される酸二無水物残基が挙げられる。これらの中でも、特に、BPDAから誘導される酸二無水物残基(以下、「BPDA残基」ともいう。)は、剛直性を有するため、ポリマーの秩序構造を形成しやすく、分子の運動抑制により誘電正接を低下させることができるため好ましく、ピロメリット酸二無水物から誘導される酸二無水物残基(以下、「PMDA残基」ともいう。)は、低CTE化の観点で好ましい。
【0045】
(他のジアミン残基)
本実施の形態のポリアミド酸及びポリイミドは、上記の式(2)で表されるジアミン化合物から誘導される残基のほかに、例えば、下記の一般式(3)~(6)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含有することが好ましい。
【0046】
【0047】
式(3)~(6)において、Rは独立に炭素数1~6の1価の炭化水素基、アルコキシ基又はアルキルチオ基を示し、連結基Aは独立に-O-、-SO2-、-CH2-又は-C(CH3)2-から選ばれる2価の基を示し、連結基Xは独立に-CH2-、-O-CH2-O-、-O-C2H4-O-、-O-C3H6-O-、-O-C4H8-O-、-O-C5H10-O-、-O-CH2-C(CH3)2-CH2-O-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-又は-SO2-を示し、mは独立に1~4の整数を示し、nは独立に0~4の整数を示すが、式(5)において、連結基Aが、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-又は-SO2-を含まない場合、nのいずれかは1以上である。ここで、「独立に」とは、上記式(3)~(6)の内の一つにおいて、または二つ以上において、複数の連結基A、複数の連結基X、複数の置換基R若しくは複数のm、nについて、それぞれ同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。なお、上記式(3)~(6)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば-NRxRy(ここで、Rx,Ryは、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0048】
一般式(3)で表される芳香族ジアミンとしては、例えば2,6-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエン、2,4-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエンなどを挙げることができる。
【0049】
一般式(4)で表される芳香族ジアミンとしては、例えば、2,4-ジアミノ-3,3’-ジエチル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、ビス(4-アミノ-3-エチル-5-メチルフェニル)メタンなどを挙げることができる。
【0050】
一般式(5)で表される芳香族ジアミンとしては、例えば、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4ビス(4-アミノフェノキシ)-2,5-ジ-tert-ブチルベンゼンなどを挙げることができる。
【0051】
一般式(6)で表される芳香族ジアミンとしては、例えば2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)などを挙げることができる。
【0052】
一般式(3)~(6)で表されるジアミン化合物は、嵩高い分子構造を有することから、一般式(2)で表されるジアミン化合物とともに、一般式(3)~(6)で表されるジアミン化合物の一種以上を併用することによって、キャスト法によってポリイミドフィルムを形成する場合に、ポリイミドフィルム中からの有機溶媒の拡散効率が高まり、発泡を抑制し、熱イミド化のための熱処理時間の短縮を図ることができる。かかる観点及び低CTE化の観点から、本実施の形態のポリイミドフィルムは、全ジアミン残基に対して、一般式(3)~(6)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を合計で、好ましくは1~50mol%の範囲内、より好ましくは5~50mol%の範囲内、最も好ましくは5~40mol%の範囲内で含有することがよい。
【0053】
本実施の形態のポリアミド酸及びポリイミドは、上記の一般式(2)、一般式(3)~(6)で表されるジアミン化合物から誘導される残基のほかに、発明の効果を損なわない範囲で、一般にポリイミドの原料として用いられるジアミン化合物の残基を含有することができる。そのようなジアミン残基として、例えば、1,4-ジアミノベンゼン(p-PDA)、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート(APAB)、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4'-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリン、4,4’-[オキシビス(3,1-フェニレンオキシ)]ビスアニリン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2'-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド、4,4'-ジアミノベンズアニリド、6-アミノ-2-(4-アミノフェノキシ)ベンゾオキサゾール等の芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミン等の脂肪族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基などが挙げられる。
なお、1,4-ジアミノベンゼン(p-PDA)は、剛直性を有するものの、一般式(2)で表されるジアミン化合物に比べて分子量が小さい。そのため、p-PDAを使用したポリイミドは、フィルムが脆くなって製膜性が低下したり、相対的にポリイミドのイミド基濃度が高くなって吸湿性が増加したりするおそれがある。よって、p-PDAは使用しないことが好ましく、使用する場合でも、その使用量を全ジアミン残基に対して50mol%以下にすることが好ましい。
【0054】
本実施の形態のポリアミド酸及びポリイミドにおいて、上記酸二無水物残基及びジアミン残基の種類や、2種以上の酸二無水物残基又はジアミン残基を含有する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、吸湿性、誘電特性、熱膨張係数、貯蔵弾性率、引張弾性率等を制御することができる。また、本実施の形態のポリアミド酸及びポリイミドにおいて、構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0055】
また、本実施の形態のポリアミド酸及びポリイミドは、酸二無水物残基及びジアミン残基が、芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される芳香族酸二無水物残基及び芳香族ジアミンから誘導される芳香族ジアミン残基からなることが好ましい。ポリアミド酸及びポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基を、いずれも芳香族基を有する残基のみとすることで、ポリイミドフィルムの高温環境下での寸法精度を向上させることができる。
【0056】
(ポリアミド酸及びポリイミドの合成)
一般にポリイミドは、酸二無水物とジアミン化合物を溶媒中で反応させ、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を生成したのち加熱閉環(イミド化)させることにより製造できる。例えば、酸二無水物とジアミン化合物をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることでポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~30重量%の範囲内、好ましくは10~20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0057】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500cps~100,000cpsの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0058】
また、本実施の形態のポリアミド酸は、樹脂組成物の形態とすることができる。樹脂組成物は、任意成分として、例えば、有機溶媒、有機フィラー、無機フィラー、閉環化剤、イミド化触媒、硬化剤、可塑剤、エラストマー、カップリング剤、顔料、難燃剤、放熱剤等を含有することができる。有機溶媒としては、重合反応に用いる有機溶媒と同様のものを使用できる。有機溶媒の含有量としては特に制限されるものではないが、ポリアミド酸の濃度が5~30重量%程度となるようにすることが好ましい。
【0059】
ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。なお、ポリアミド酸のイミド化を加熱により行う場合、樹脂組成物は実質的に閉環化剤及びイミド化触媒を含有しないことが好ましい。ここで「実質的に閉環化剤及びイミド化触媒を含有しない」とは、閉環化剤及びイミド化触媒の含有量がイミド化を進行させ得る量よりも十分に少ないことを意味し、例えば0.1重量%以下である。
【0060】
(イミド基濃度)
本実施の形態のポリイミドのイミド基濃度は、例えば30重量%以下であることが好ましく、25重量%以下であることがより好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)2-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が30重量%を超えると、極性基の増加によって吸湿性が増加する。上記酸二無水物とジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保することができる。
【0061】
(重量平均分子量)
本実施の形態のポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、50,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0062】
[ポリイミドフィルム]
本発明の一実施の形態に係るポリイミドフィルムは、単層又は複数層のポリイミド層を含むポリイミドフィルムであって、ポリイミド層の少なくとも1層が、上記条件(i)~(iii)を満たすポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するものであり、好ましくは、主たるポリイミド層が、上記条件(i)~(iii)を満たすポリイミドを樹脂成分の主成分として含有することがよい。ここで、「樹脂成分の主成分」とは、全樹脂成分に対して50重量%を超えて含まれる成分を意味する。また、「主たるポリイミド層」とは、ポリイミドフィルム全体の厚みの50%超、好ましくは60~100%の厚みを占める層を意味する。主たるポリイミド層は、上記条件(i)~(iii)を満たすポリイミドを、全樹脂成分に対して70重量%以上含有することが好ましく、80重量%以上含有することがより好ましく、樹脂成分の全てが上記ポリイミドからなることが最も好ましい。主たる層が上記条件(i)~(iii)を満たすポリイミドを樹脂成分の主成分として含有することによって、ポリイミドフィルム全体の低誘電正接化を図ることができる。
【0063】
本実施の形態のポリイミドフィルムは、第1のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するポリイミド層(A)と、該ポリイミド層(A)に積層されており、前記第1のポリイミドとは異なる第2のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するポリイミド層(B)と、を含む多層ポリイミドフィルムとしてもよい。この場合、ポリイミド層(B)が、非熱可塑性ポリイミドを含む非熱可塑性ポリイミド層であり、樹脂成分の主成分として上記条件(i)~(iii)を満たすポリイミドを含有する主たるポリイミド層であることが好ましい。ここで、「非熱可塑性ポリイミド」とは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定された30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、かつ、ガラス転移温度+30℃以内の温度域での貯蔵弾性率が1.0×108Pa以上を示すものを意味する。「熱可塑性ポリイミド」とは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定された30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、かつ、ガラス転移温度+30℃以内の温度域での貯蔵弾性率が1.0×108Pa未満を示すものを意味する。
【0064】
本実施の形態の多層ポリイミドフィルムは、ポリイミド層(A)/ポリイミド層(B)の2層が積層された構造でもよいし、ポリイミド層(A)/ポリイミド層(B)/ポリイミド層(A)の3層積層構造でもよく、さらに任意のポリイミド層が積層されていてもよい。上記(i)~(iii)を満たすポリイミドで構成されたポリイミド層(B)は、気体透過性が比較的に低く、ポリイミド層(A)との間に溶剤やイミド化水が滞留することで、発泡が生じ易くなる傾向がある。そこで、ポリイミド層(A)における樹脂成分の主成分を以下に述べる構成とすることで、ポリイミド層(B)の気体透過性が低いとしても発泡現象の発生を効果的に抑制することができる。
【0065】
<ポリイミド層(A)の構成>
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とを反応させて得られる非熱可塑性ポリイミドであることが好ましく、酸二無水物から誘導される酸二無水物残基とジアミン化合物から誘導されるジアミン残基とを含有する。
【0066】
(酸二無水物残基)
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、全酸二無水物残基中に、ピロメリット酸二無水物から誘導された酸二無水物残基(PMDA残基)と、分子内にケトン基(-CO-)を有するテトラカルボン酸二無水物から誘導された酸二無水物残基(以下、「ケトン基含有残基」と記すことがある)とを含有する。
【0067】
ここで、PMDA残基は、構造的に平面性と剛直性とに優れ、分子鎖間のスタッキング性を増大させることができ、ポリイミドの誘電正接を低くすることができる。また、高温での弾性率を比較的高いレベルに維持することができ、発泡現象の発生を抑制することが期待できる。しかしながら、PMDA残基のみでは分子鎖の絡み合いが少なく、金属層とのピール強度が低下し易く、また他のポリイミド層との間の層間の接着性が低下することで、発泡現象が生じ易くなる。一方、ケトン基含有残基は、ケトン基を有しているために、隣接して積層されるポリイミド層中に含まれる官能基との相互作用や化学反応によって、ポリイミド層間の接着性を向上させ、発泡現象の発生を抑制できる。また、2種以上の酸二無水物残基を併用することで分子鎖の絡み合いを向上させ、ピール強度が向上することが期待できる。また分子配列の規則性が低下することで電場に対する運動性が抑制され低誘電正接化についても期待できる。そこで、ポリイミド層(A)を構成するポリイミドにおいては、低誘電正接と発泡現象抑制とピール強度の向上とをバランス良く実現するために、酸二無水物残基として、PMDA残基とケトン基含有残基とを併用する。
【0068】
このようなPMDA残基は、全酸二無水物残基中に好ましくは5モル%以上90モル%以下、より好ましくは20モル%以上80モル%以下で含有させる。PMDA残基の全酸二無水物残基中の含有量がこの範囲を下回ると、誘電特性や300℃及び350℃での貯蔵弾性率の低下が懸念され、この範囲を上回ると、発泡現象が発生し易くなり、またピール強度が低下する傾向がある。
【0069】
また、ケトン基含有残基は、全酸二無水物残基中に好ましくは10モル%以上95モル%以下、より好ましくは20モル%以上80モル%以下で含有させる。ケトン基含有残基の全酸二無水物残基中の含有量がこの範囲を下回ると、発泡現象の抑制、ピール強度の向上が難しくなり、この範囲を上回ると、誘電特性が低下する傾向がある。
【0070】
ここで、ケトン基含有残基としては、例えば、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,3’,3,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(パラフェニレンジカルボニル)ジフタル酸二無水物、4,4’-(メタフェニレンジカルボニル)ジフタル酸二無水物等から誘導される酸二無水物残基を挙げることができる。これらの中でも、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)から誘導される酸二無水物残基が好ましい。また、ケトン基と相互作用する性質を有する官能基としては、ケトン基との間で、例えば分子間力による物理的相互作用や、共有結合による化学的相互作用などを生じ得る官能基であれば特に制限はないが、その代表例としてアミノ基(-NH2)を挙げることができる。
【0071】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドにおいて、全酸二無水物残基中のPMDA残基並びにケトン基含有残基の含有量は、低誘電正接化と発泡現象の発生抑制とピール強度の向上とをバランス良く実現するために、合計で、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上である。
【0072】
(その他の酸二無水物残基)
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、上記PMDA残基及びケトン基含有残基以外に、一般にポリイミドの原料として用いられる酸二無水物から誘導される酸二無水物残基を含有することができる。
【0073】
(ジアミン残基)
ポリイミド層(A)を構成するジアミン残基は、全ジアミン残基中に、下記の一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含有することが好ましい。
【0074】
【0075】
一般式(A1)において、連結基X1は単結合、又は-CONH-から選ばれる2価の基を示し、Yは独立に水素、炭素数1~3の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、n1は0~2の整数を示し、p及びqは独立して0~4の整数を示す。なお、一般式(A1)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば-NRxRy(ここで、Rx,Ryは、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0076】
一般式(A1)のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の具体例としては、1,4-ジアミノベンゼン(p-PDA)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4‘-ジアミノベンズアニリド等から誘導されるジアミン残基が挙げられる。これらの中でも、誘電特性の点から2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)から誘導されるジアミン残基を好ましく挙げることができる。
【0077】
一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は、ポリイミドの平面性と剛直性とを向上させることで、分子鎖間のスタッキング性を向上させることができる。このため、ジアミン残基の運動性を低下させることができる。この結果、ポリイミドの誘電正接を低くすることができる。また、ポリイミドの分子骨格の平面性についても高めることができるため、面方向の熱膨張係数を低くすることができる。
【0078】
一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は、全ジアミン残基中に好ましくは5モル%以上90モル%以下、より好ましくは20モル%以上80モル%以下で含有させることがよい。一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の全ジアミン残基中の含有量がこの範囲を下回ると、ポリイミドの誘電正接や面方向の熱膨張係数を低くすることが難しくなり、この範囲を上回ると、ジアミン残基の剛直性が高くなり過ぎて、分子鎖の絡み合い量が少なくなるため、金属層とのピール強度が低下する。また、ジアミン残基部分の配列の規則性が高まることで電場に対する応答性が変化し誘電正接が悪化しやすくなる。
【0079】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、全ジアミン残基中に、一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基以外に、下記の一般式(A2)~(A5)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含有することが好ましい。下記の一般式(A2)~(A5)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は、芳香環の連結基として、独立に-O-、-S-、-CO-、-SO-、-SO2-、-CH2-、-C(CH3)2-、-NH-から選ばれる2価の基を有している。またアミノ基が連結した芳香環はパラ位結合を有する。このため、ポリイミド分子鎖の回転や屈曲の自由度が高く、ポリイミド分子鎖の柔軟性を向上させることで、分子鎖間の相互作用と絡み合い量のバランスをとることができるため、高温域の貯蔵弾性率E’の低下の抑制とフィルム強度の向上の両立が容易となる。
【0080】
【0081】
一般式(A2)~(A5)において、R1は独立に炭素数1~6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、連結基A’は独立に-O-、-S-、-CO-、-SO-、-SO2-、-CH2-、-C(CH3)2-、-NH-から選ばれる2価の基を示し、n2は独立に0~4の整数を示す。また、アミノ基との結合を有さない芳香環の連結位は、オルト位以外の位置となる。ここで、「独立に」とは、上記式(A2)~(A3)の内の一つにおいて、または二つ以上において、複数の連結基A’、複数の置換基R1若しくは複数のn2について、それぞれ同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。なお、一般式(A2)~(A5)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば-NRxRy(ここで、Rx,Ryは、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0082】
一般式(A2)~(A5)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の全ジアミン残基中の含有量は、合計で、好ましくは10モル%以上95モル%以下、より好ましくは20モル%以上80モル%以下がよい。この範囲を下回ると、分子鎖の屈曲性の低下により分子鎖間の絡み合い量が減少し、金属層とのピール強度が低下する。一方、この範囲を上回るとポリイミド分子鎖の回転や屈曲の自由度が高くなりすぎることで分子の運動抑制が困難となり、誘電正接が高くなる傾向がある。
【0083】
一般式(A2)~(A5)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の具体例としては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ビスアミノ)ジフェニルアミン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルから誘導されたジアミン残基を好ましく挙げることができる。これらの中でも、芳香族数、連結基及び連結位置の点から1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼンから誘導されたジアミン残基を好ましく挙げることができる。
【0084】
(その他のジアミン残基)
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、上記ジアミン残基以外に、一般にポリイミドの原料として用いられるジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有することができる。
【0085】
(酸二無水物残基とジアミン残基の比率)
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドにおいて、剛直なモノマーである一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の含有量とPMDA残基の含有量の合計(T1)は、全酸二無水物残基の含有量と全ジアミン残基の含有量との合計に対し90モル%以上であることが望ましい。90モル%以上であると、平面性の向上と分子鎖間のスタッキング性の向上とにより、高温での貯蔵弾性率を高く維持することができる。また、前記剛直なモノマーである一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の含有量とPMDA残基の含有量の合計(T1)は、屈曲性のモノマーである一般式(A2)~(A5)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の少なくとも1種のジアミン残基の含有量(T2)に対する比率(T1/T2)が1より大きいことが望ましい。前記比率が1を超えることで、屈曲性のモノマーと比較し剛直性のモノマー割合が多くなり、分子鎖の運動が抑制されるため、誘電正接をより低く抑えることが可能となる。
【0086】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、ポリイミド層(B)を構成するポリイミドと同様の任意成分を含有することができる。
【0087】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定される300℃における貯蔵弾性率E’が、好ましくは1.0×108Pa以上、より好ましくは5.0×108Pa以上、且つ350℃における貯蔵弾性率E’が、好ましくは1.0×107Pa以上であることがよい。300℃における貯蔵弾性率E’を1.0×108Pa以上、且つ350℃における貯蔵弾性率E’を1.0×107Pa以上とすることにより、熱処理時に溶媒やイミド化水の気化による体積膨張により発泡現象が生ずることを抑制することができる。
【0088】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドの重量平均分子量は、好ましくは10,000以上400,000以下、より好ましくは50,000以上350,000以下である。重量平均分子量がこの範囲を下回るとポリイミドのフィルムが脆化し易くなり、上回ると粘度が増加し、塗工時に厚みムラ、スジ等の不良となることが懸念される。重量平均分子量の測定はゲル浸透クロマトグラフィー装置により行うことができる。
【0089】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、ポリイミド層(B)を構成する上記条件(i)~(iii)を満たすポリイミドと同様に、常法により製造することができる。
【0090】
ポリイミド層(A)の熱膨張係数(CTE)は、好ましくは60ppm/K以下、より好ましくは30ppm/K以上55ppm/K以下である。熱膨張係数を60ppm/K以下とすることにより、ポリイミドフィルムや金属張積層板の寸法変化率の制御が容易となる。ポリイミド層(A)の熱膨張係数(CTE)の調整は、主に、ポリイミドを構成するポリイミド中の酸二無水物残基やジアミン残基の種類や存在割合、イミド化工程における熱処理条件によって調節することができる。
【0091】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、例えば回路基板の配線層に接する接着層となるため、銅の拡散を抑制するために完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm-1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm-1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出される。
【0092】
<ポリイミドフィルムの形態>
本実施の形態のポリイミドフィルム(上記ポリイミド層(A)及びポリイミド層(B)を有する多層ポリイミドフィルムを含む。以下同様である)は、絶縁樹脂からなるフィルム(シート)であってもよく、例えば、銅箔などの金属箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂シート等の基材に積層された状態であってもよい。
【0093】
<熱膨張係数(CTE)>
本実施の形態のポリイミドフィルムは、例えば回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、反りの発生や寸法安定性の低下を防止するために、熱膨張係数(CTE)が30ppm/K未満であることが好ましく、より好ましくは1ppm/K以上25ppm/K未満の範囲内であり、最も好ましくは15ppm/K以上25ppm/K未満の範囲内である。ポリイミドフィルムの熱膨張係数(CTE)が30ppm/K以上であると、反りが発生したり、寸法安定性が低下したりする。使用する原料の組合せ、厚み、乾燥・硬化条件を適宜変更することで所望のCTEを有するポリイミドフィルムとすることができる。
【0094】
<誘電正接>
本実施の形態のポリイミドフィルムは、例えば、回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、高周波信号の伝送時における誘電損失を低減するために、フィルム全体として、温度24~26℃、湿度45~55%の環境下でスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が、0.003未満であることが好ましい。回路基板の伝送損失を改善するためには、特に絶縁樹脂層の誘電正接を制御することが重要であり、10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が、0.003未満であることで、伝送損失を下げる効果が増大する。従って、ポリイミドフィルムを高周波回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合、伝送損失を効率よく低減できる。10GHzにおける誘電正接が0.003以上であると、ポリイミドフィルムを回路基板の絶縁樹脂層として適用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスが大きくなるなどの不都合が生じやすくなる。
【0095】
また、本実施の形態のポリイミドフィルムは、例えば、ポリイミドフィルムを純水中に48時間浸漬した吸水環境下でスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が、0.006未満であることが好ましく、吸水率が0.6重量パーセント以下であることが好ましい。回路基板の伝送損失を改善し、尚且つ環境による影響を低減するためには、吸水時においても絶縁樹脂層の誘電正接を制御することが重要であり、10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が、0.006未満であることで、環境影響による伝送損失の変化を低減することができる。
なお、誘電正接の下限値は特に制限されない。
【0096】
<比誘電率>
本実施の形態のポリイミドフィルムは、例えば回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、インピーダンス整合性を確保するために、温度24~26℃、湿度45~55%の環境下でスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの10GHzにおける比誘電率が4.0以下であることが好ましい。10GHzにおける比誘電率が4.0を超えると、ポリイミドフィルムを回路基板の絶縁樹脂層として適用した際に、誘電損失の悪化に繋がり、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスが大きくなるなどの不都合が生じやすくなる。また、本実施の形態のポリイミドフィルムは、誘電特性の指標である√Dk×Dfの値(ここで、Dkは比誘電率、Dfは誘電正接、√Dkは比誘電率の平方根を意味する。)が、温度24~26℃、湿度45~55%の条件下で24時間放置した後に測定した場合(調湿時)において0.006以下であることが好ましく、0.005以下がより好ましい。さらに、√Dk×Dfの値は、ポリイミドフィルムを純水中に48時間浸漬した後に測定した場合(吸水時)に、0.01以下であることが好ましく、0.009以下がより好ましい。
【0097】
<厚み>
本実施の形態のポリイミドフィルムの厚みは、特に制限はなく、例えば5~60μmの範囲内が好ましく、15~50μmの範囲内がより好ましい。多層ポリイミドフィルムの場合、ポリイミド層(A)の厚みは、例えば1~15μmの範囲内が好ましく、2~10μmの範囲内がより好ましい。ポリイミド層(B)は、絶縁樹脂層の全厚みに対して好ましくは50%超、より好ましくは60%以上の厚みを有することがよい。
【0098】
[ポリイミドフィルムの製造方法]
本実施の形態のポリイミドフィルムの製造方法の好ましい態様として、例えば、以下の[1]~[3]を例示することができる。
[1]支持基材に、ポリアミド酸溶液を塗布・乾燥することを1回ないし複数回繰り返し行った後、イミド化してポリイミドフィルムを製造する方法。
[2]支持基材に、ポリアミド酸溶液を塗布・乾燥することを1回ないし複数回繰り返し行った後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、イミド化してポリイミドフィルムを製造する方法。
[3]多層押出により、同時にポリアミド酸溶液を多層に積層した状態で塗布・乾燥した後、イミド化を行うことによってポリイミドフィルムを製造する方法(以下、多層押出法)。
【0099】
上記[1]の方法は、例えば、次の工程1a~1c;
(1a)支持基材にポリアミド酸溶液を塗布し、乾燥させる工程と、
(1b)支持基材上でポリアミド酸を熱処理してイミド化することによりポリイミド層を形成する工程と、
(1c)支持基材とポリイミド層とを分離することによりポリイミドフィルムを得る工程と、
を含むことができる。
【0100】
上記[2]の方法は、例えば、次の工程2a~2c;
(2a)支持基材にポリアミド酸溶液を塗布し、乾燥させる工程と、
(2b)支持基材とポリアミド酸のゲルフィルムとを分離する工程と、
(2c)ポリアミド酸のゲルフィルムを熱処理してイミド化することによりポリイミドフィルムを得る工程と、
を含むことができる。
【0101】
上記[1]の方法又は[2]の方法において、工程1a又は工程2aを複数回繰り返し行うことによって、支持基材上にポリアミド酸の積層構造体を形成することができる。なお、ポリアミド酸溶液を支持基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0102】
上記[3]の方法は、上記[1]の方法の工程1a、又は[2]の方法の工程2aにおいて、多層押出により、同時にポリアミド酸の積層構造体を塗布し、乾燥させる以外は、上記[1]の方法又は[2]の方法と同様に実施できる。
【0103】
本実施の形態で製造されるポリイミドフィルムは、支持基材上でポリアミド酸のイミド化を完結させることが好ましい。ポリアミド酸の樹脂層が支持基材に固定された状態でイミド化されるので、イミド化過程におけるポリイミド層の伸縮変化を抑制して、ポリイミドフィルムの厚みや寸法精度を維持することができる。
【0104】
[金属張積層板]
本発明の一実施の形態に係る金属張積層板は、絶縁樹脂層と、その片面又は両面に積層された金属層と、を備えた金属張積層板であり、絶縁樹脂層が、単層又は複数層のポリイミド層を含むとともに、ポリイミド層の少なくとも1層が、上記条件(i)~(iii)を満たすポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するものである。
【0105】
金属張積層板の好ましい態様として、前記絶縁樹脂層が、前記金属層に接するポリイミド層(A)と、該ポリイミド層(A)に積層されたポリイミド層(B)を含む複数のポリイミド層を有し、主たるポリイミド層であるポリイミド層(B)を構成するポリイミドが、上記条件(i)~(iii)を満たすポリイミドであるものを挙げることができる。ここで、ポリイミド層(A)及びポリイミド層(B)の構成は、多層ポリイミドフィルムで説明した内容と同様である。このような金属張積層板は、熱膨張係数(CTE)が低く、誘電正接が低いポリイミド層(B)を有することによって、絶縁樹脂層全体の寸法安定性を高め、低誘電正接化を図ることができる。しかし、上記(i)~(iii)を満たすポリイミドで構成されたポリイミド層(B)は、気体透過性が比較的に低く、ポリイミド層(A)との間に溶剤やイミド化水が滞留することで、発泡が生じ易くなる傾向がある。そこで、ポリイミド層(A)を上述の構成とすることで、ポリイミド層(B)の気体透過性が低いとしても発泡現象の発生を効果的に抑制することができる。
【0106】
金属張積層板におけるポリイミド層(A)の厚みは、特に制限はなく、例えば1~15μmの範囲内が好ましく、2~10μmの範囲内がより好ましい。ポリイミド層(B)は、絶縁樹脂層の全厚みに対して好ましくは50%超、より好ましくは60%以上の厚みを有することがよい。
【0107】
(金属層)
本実施の形態の金属張積層板を構成する金属層としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。なお、後述する回路基板における配線層の材質も金属層と同様である。
【0108】
金属層の厚みは特に限定されるものではないが、例えば銅箔に代表される金属箔を用いる場合、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5μm以上25μm以下の範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から金属箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。なお、銅箔を用いる場合は、圧延銅箔でも電解銅箔でもよい。また、銅箔としては、市販されている銅箔を用いることができる。
【0109】
また、金属層のポリイミド層(A)に接する面における十点平均粗さ(Rzjis)は、1.2μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましい。金属層が金属箔を原料とする場合、表面粗さRzjisを1.2μm以下にすることで、高密度実装に対応する微細配線加工が可能となり、また、高周波信号伝送時の伝送損失を低減できるため、高周波信号伝送用の回路基板への適用が可能となる。
【0110】
また、金属層は、例えば、防錆処理や、接着力の向上を目的として、例えばサイディング、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等による表面処理を施しておいてもよい。
【0111】
本実施の形態の金属張積層板は、常法に従って製造することができ、例えば、以下の[1]、[2]の方法を例示することができる。
【0112】
[1]金属層となる金属箔に、ポリアミド酸溶液を塗布・乾燥することを、1回もしくは複数回繰り返した後、イミド化してポリイミド絶縁層を形成した金属張積層板を製造する方法。
【0113】
[2]金属層となる金属箔に、多層押出により同時にポリアミド酸溶液を多層に積層した状態で塗布・乾燥した後、イミド化を行うことによってポリイミド絶縁層を形成した金属張積層を製造する方法(以下、多層押出法)。
【0114】
上記[1]の方法は、例えば、次の工程(1a)、(1b):
(1a)金属箔にポリアミド酸溶液を塗布し、乾燥させる工程と、
(1b)金属箔上でポリアミド酸を熱処理してイミド化することによりポリイミド層(A)を形成する工程と、を含むことができる。この場合、工程(1a)の乾燥工程における加熱条件と、特に工程(1b)のイミド化の際の加熱条件を調整することにより、ポリイミドの面内配向をコントロールして、ポリイミドの複屈折率やCTEなどの特性を制御することが可能になる。
【0115】
上記[1]の方法において、ポリイミド層(A)を構成するポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液と、ポリイミド層(B)を構成するポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液について、工程(1a)を繰り返し行うことによって、金属箔上にポリアミド酸の積層構造体を形成することができる。なお、ポリアミド酸溶液を金属箔上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0116】
上記[2]の方法は、上記[1]の方法の工程(1a)において、多層押出により、ポリイミド層(A)を構成するポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液と、ポリイミド層(B)を構成するポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液を同時に塗布し、乾燥させる以外は、上記[1]の方法と同様に実施できる。
【0117】
このように製造される金属張積層板は、金属箔上でポリアミド酸のイミド化を完結させることによって、ポリアミド酸の樹脂層が金属箔に固定された状態でイミド化されるので、イミド化過程におけるポリイミド層の伸縮変化を抑制して、ポリイミド絶縁層の厚みや寸法精度を維持することができる。
【0118】
[回路基板]
本発明の金属張積層板は、主にFPCなどの回路基板材料として有用である。金属張積層板の金属層を常法によってパターン状に加工して配線層を形成することによって、本発明の実施の一形態である回路基板を製造できる。本発明の金属張積層板の金属層が配線に加工されている回路基板も本発明の一態様となる。
すなわち、本実施の形態の回路基板は、単層又は複数層のポリイミド層を含む絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に設けられている配線層と、を備えており、絶縁樹脂層が、上記ポリイミド層(B)を含んでいればよい。また、絶縁樹脂層と配線層との接着性を高めるために、絶縁樹脂層における配線層に接する層は、ポリイミド層(A)であることがよい。
【実施例0119】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0120】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV-II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%~90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0121】
[ガラス転移温度(Tg)及びポリイミドフィルムの非熱可塑性、熱可塑性の分類]
ガラス転移温度は、5mm×70mmのサイズのポリイミドフィルムを、動的粘弾性測定装置(DMA:TAインスツルメント社製、商品名;RSA G2)を用いて、30℃から400℃まで昇温速度4℃/分、周波数1Hzで測定を行い、弾性率変化(tanδ)が最大となる温度をガラス転移温度とした。なお、DMAを用いて測定された30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、ガラス転移温度+30℃以内の温度域での貯蔵弾性率が1.0×108Pa未満を示すものを「熱可塑性」とし、30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、ガラス転移温度+30℃以内の温度域での貯蔵弾性率が1.0×108Pa以上を示すものを「非熱可塑性」とした。
【0122】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(日立ハイテクテクノロジー社(旧セイコーインスツルメンツ社製)、商品名;TMA/SS6100)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から260℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。
【0123】
[比誘電率及び誘電正接の測定]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名;E8363C)及びスプリットポスト誘電体共振器(SPDR共振器)を用いて、周波数10GHzにおけるポリイミドフィルムの比誘電率(Dk)および誘電正接(Df)を測定した。
なお調湿時のDk、Dfは、測定に使用したポリイミドフィルムを温度;24~26℃、湿度;45~55%の条件下で、24時間放置した後に測定したものである。
また吸水時のDk、Dfは、測定に使用したポリイミドフィルムを純水中下で、48時間浸漬した後に取り出し、材料表面の純水をふき取った後に測定したものである。
【0124】
[銅箔の表面粗度の測定]
銅箔の表面粗度は、AFM(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名;Dimension Icon型SPM)、プローブ(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名;TESPA(NCHV)、先端曲率半径10nm、ばね定数42N/m)を用いて、タッピングモードで、銅箔表面の80μm×80μmの範囲で測定し、十点平均粗さ(Rzjis)を求めた。
【0125】
[ピール強度の測定]
銅張積層板(銅箔/多層ポリイミド層)の銅箔を10mm間隔で樹脂の塗工方向に幅1mmに回路加工した後、幅;8cm×長さ;4cmに切断した。ピール強度は、テンシロンテスター(東洋精機製作所社製、商品名;ストログラフVE-1D)を用いて、切断した測定サンプルのポリイミド層面を両面テープによりアルミ板に固定し、回路加工された銅箔を180°方向に50mm/分の速度で剥離していき、ポリイミド層から10mm剥離したときの中央値強度を求め、初期ピール強度とした。
【0126】
[吸湿率の測定]
ポリイミドフィルムの試験片(幅;4cm×長さ;25cm)を2枚用意し、80℃で1時間乾燥した後に重量を測定した。重量測定後、23℃/50%RHの恒温恒湿室に入れ、24時間以上静置後に重量を測定し次式より吸湿率を求めた。
吸湿率(重量%)=[(吸湿後重量-乾燥後重量)/乾燥後重量]×100
【0127】
[吸水率の測定]
ポリイミドフィルムの試験片(幅;4cm×長さ;25cm)を1枚用意し、80℃で1時間乾燥した後に重量を測定した。重量測定後、純水中に24時間以上静置後に取り出し、フィルム表面の純水をふき取った後に重量を測定し、次式より吸水率を求めた。
吸水率(重量%)=[(吸水後重量-乾燥後重量)/乾燥後重量]×100
【0128】
[引張り弾性率]
ストログラフR-1(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、幅12.7mm×長さ127mmのポリイミドフィルムを温度23℃、相対湿度50%RHの環境下、50mm/minで引張り試験を実施し算出した。
【0129】
[発泡の有無]
得られた銅張積層板の外観を目視で観察した際に発泡が生じるか確認を実施した。
【0130】
[フィルム化の可否]
銅張積層板について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルムとした際に、亀裂等が入らずフィルム単体での扱いができるものを[可]、亀裂が入り容易に割れてしまうものを[不可]とした。
【0131】
[ポリイミド層の厚みの測定]
銅張積層板について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムを短冊状に切り出し、樹脂包埋した後、ミクロトームにてフィルム厚み方向の切断を行い約100nmの超薄切片を作製した。作製した超薄切片について、日立ハイテクテクノロジー社製SEM(SU9000)のSTEM機能を用いて、加速電圧30kVで観察を行い、ポリイミド各層の厚みを各5点測定し、その平均値を各ポリイミド層の厚みとし、各層の和を多層ポリイミドフィルムの厚みとした。
【0132】
[イミド基濃度の計算]
イミド基部を(-(CO)2-N-)とし、以下の式より算出した。
イミド基濃度(重量%)=(イミド基部分子量/ポリイミドの構造全体の分子量)×100
【0133】
[エステル基濃度の計算]
エステル基部を(-COO-)とし、以下の式より算出した。
エステル基濃度(重量%)=(エステル基部分子量/ポリイミドの構造全体の分子量)×100
【0134】
[ビフェニル骨格含有モノマー割合の計算]
ポリイミドにおける全モノマー成分のうち、ビフェニル骨格を有するモノマーが占める割合(単位;mol%)をビフェニル骨格含有モノマー割合とした。
【0135】
実施例及び参考例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
BP-TME:p-ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、CAS番号10340-81-5)
26DHN-TME:2,6-ナフタレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、CAS番号115383-00-1)
TAHQ:p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3',4,4'‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BTDA:3,3’、4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
m‐TB:2,2'‐ジメチル‐4,4'‐ジアミノビフェニル
TPE-R:1,3-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
PDA:p―フェニレンジアミン
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
【0136】
(合成例1)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、12.1229gのm-TB(0.05711モル)及び1.2338gのBAPP(0.00301モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、31.6433gのBP-TME(0.05921モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Aを得た。ポリアミド酸溶液Aの溶液粘度は26,800cpsであった。
【0137】
(合成例2)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、14.4565gのm-TB(0.06810モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、26.8858gのBP-TME(0.05031モル)及び3.6577gのPMDA(0.01677モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Bを得た。ポリアミド酸溶液Bの溶液粘度は25,500cpsであった。
【0138】
(合成例3)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、13.5308gのm-TB(0.06374モル)及び1.3771gのBAPP(0.00335モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、26.4885gのBP-TME(0.04956モル)及び3.6036gのPMDA(0.01652モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Cを得た。ポリアミド酸溶液Cの溶液粘度は24,000cpsであった。
【0139】
(合成例4)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、11.7590gのm-TB(0.05539モル)及び4.0127gのBAPP(0.00977モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、25.7282gのBP-TME(0.04814モル)及び3.5002gのPMDA(0.01605モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Dを得た。ポリアミド酸溶液Dの溶液粘度は21,300cpsであった。
【0140】
(合成例5)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、9.2841gのm-TB(0.04373モル)及び7.6941gのBAPP(0.01874モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、24.6661gのBP-TME(0.04615モル)及び3.3557gのPMDA(0.01538モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Eを得た。ポリアミド酸溶液Eの溶液粘度は14,900cpsであった。
【0141】
(合成例6)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、9.6812gのm-TB(0.04560モル)、1.3372gのBAPP(0.00326モル)及び4.7612gのTPE-R(0.01629モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、25.7212gのBP-TME(0.04813モル)及び3.4992gのPMDA(0.01604モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Fを得た。ポリアミド酸溶液Fの溶液粘度は17,800cpsであった。
【0142】
(合成例7)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、14.8395gのm-TB(0.06990モル)及び1.5103gのBAPP(0.00368モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、19.3670gのBP-TME(0.03624モル)、5.3311gのBPDA(0.01812モル)及び3.9522gのPMDA(0.01812モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Gを得た。ポリアミド酸溶液Gの溶液粘度は35,200cpsであった。
【0143】
(合成例8)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、16.4284gのm-TB(0.07739モル)及び1.6720gのBAPP(0.00407モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、10.7204gのBP-TME(0.02006モル)、11.8038gのBPDA(0.04012モル)及び4.3754gのPMDA(0.02006モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Hを得た。ポリアミド酸溶液Hの溶液粘度は27,900cpsであった。
【0144】
(合成例9)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、19.1251gのm-TB(0.09009モル)及び1.9465gのBAPP(0.00474モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、13.7413gのBPDA(0.04670モル)及び10.1871gのPMDA(0.04670モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Iを得た。ポリアミド酸溶液Iの溶液粘度は31,400cpsであった。
【0145】
(合成例10)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、16.3417gのm-TB(0.07698モル)及び1.6632gのBAPP(0.00405モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、18.2906gのTAHQ(0.03991モル)及び8.7045gのPMDA(0.03991モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Jを得た。ポリアミド酸溶液Jの溶液粘度は27,800cpsであった。
【0146】
(合成例11)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、8.0852gのPDA(0.07477モル)及び1.6154gのBAPP(0.00394モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、31.0722gのBP-TME(0.05814モル)及び4.2272gのPMDA(0.01938モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Kを得た。ポリアミド酸溶液Kの溶液粘度は28,700cpsであった。
【0147】
(合成例12)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、8.4131gのPDA(0.07780モル)及び1.6809gのBAPP(0.00409モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、30.5387gの26DHN-TME(0.06007モル)及び4.3674gのPMDA(0.02002モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Lを得た。ポリアミド酸溶液Lの溶液粘度は26,500cpsであった。
【0148】
(合成例13)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、12.6149gのm-TB(0.05942モル)及び1.2839gのBAPP(0.00313モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、31.1012gの26DHN-TME(0.06117モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Mを得た。ポリアミド酸溶液Mの溶液粘度は73,900cpsであった。
【0149】
(合成例14)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、13.9957gのm-TB(0.06593モル)及び1.4244gのBAPP(0.00347モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、25.8789gの26DHN-TME(0.05090モル)及び3.7010gのPMDA(0.01697モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Nを得た。ポリアミド酸溶液Nの溶液粘度は43,800cpsであった。
【0150】
(合成例15)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、17.6242gのm-TB(0.08302モル)及び1.7937gのBAPP(0.00437モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、11.5007gのBP-TME(0.02152モル)及び14.0815gのPMDA(0.06456モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Oを得た。ポリアミド酸溶液Oの溶液粘度は31,400cpsであった。
【0151】
(合成例16)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、7.8166gのm-TB(0.03682モル)及び10.7636gのTPE-R(0.03682モル)並びに重合後の固形分濃度が12重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、4.6984gのBTDA(0.01458モル)及び12.7214gのPMDA(0.05832モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Pを得た。ポリアミド酸溶液Pの溶液粘度は8,500cpsであった。
【0152】
(合成例17)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、2.9802gのm-TB(0.01404モル)及び16.4155gのTPE-R(0.05615モル)並びに重合後の固形分濃度が12重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、4.4784gのBTDA(0.01390モル)及び12.1258gのPMDA(0.05559モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Qを得た。ポリアミド酸溶液Qの溶液粘度は1,800cpsであった。
【0153】
(合成例18)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、13.1525gのm-TB(0.06196モル)及び4.5279gのTPE-R(0.01549モル)並びに重合後の固形分濃度が12重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、4.9411gのBTDA(0.01533モル)及び13.3786gのPMDA(0.06134モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Rを得た。ポリアミド酸溶液Rの溶液粘度は6,800cpsであった。
【0154】
(合成例19)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、2.8108gのm-TB(0.01324モル)及び15.4821gのTPE-R(0.05296モル)並びに重合後の固形分濃度が12重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、10.5594gのBTDA(0.03277モル)及び7.1477gのPMDA(0.03277モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Sを得た。ポリアミド酸溶液Sの溶液粘度は2,100cpsであった。
【0155】
(合成例20)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、2.6596gのm-TB(0.01253モル)及び14.6492gのTPE-R(0.05011モル)並びに重合後の固形分濃度が12重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、15.9860gのBTDA(0.04961モル)及び2.7053gのPMDA(0.01240モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Tを得た。ポリアミド酸溶液Tの溶液粘度は1,900cpsであった。
【0156】
(合成例21)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、2.7701gのm-TB(0.01305モル)及び15.2580gのTPE-R(0.05219モル)並びに重合後の固形分濃度が12重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、13.6386gのBPDA(0.04636モル)及び4.3333gのPMDA(0.01987モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Uを得た。ポリアミド酸溶液Uの溶液粘度は1600cpsであった。
【0157】
(実施例1)
銅箔1(電解銅箔、厚み;12μm、樹脂側の表面粗さRzjis;0.6μm)の上に、ポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を10分間で行い、イミド化を完結し、銅張積層板Aを得た。この際、フィルム表面に発泡は見られなかった。次に得られた銅張積層板Aについて、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルムAを調製した。得られたポリイミドフィルムAのポリイミドの種類、イミド基濃度、エステル基濃度、ビフェニル骨格含有モノマー割合、発泡の有無及びフィルム化可否に関する記載を表1、フィルム物性データを表1並びに表2に示す。
【0158】
(実施例2~8、比較例1、比較例2及び参考例1~13)
実施例1と同様にポリアミド酸B~Uについて、銅張積層板の作製及び銅箔をエッチング後のポリイミドフィルムについての特性について評価を実施した。得られたポリイミドフィルムのポリイミドの種類、イミド基濃度、エステル基濃度、ビフェニル骨格含有モノマー割合、発泡の有無及びフィルム化可否に関する記載を表1、フィルム物性データを表1並びに表2に示す。
なお、発泡の発生したもの、及び、フィルム化が出来なかったものについては、フィルム物性データの取得はしていない。
【0159】
【0160】
【0161】
[実施例9]
銅箔1上に、銅箔と接する第1層としてポリアミド酸溶液Pを硬化後の厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。次に第1層上に第2層であるポリアミド酸溶液Cを硬化後の厚みが21μmとなるように均一に塗布した後、120℃で2分間加熱乾燥して溶媒を除去した。更に、第2層上に第3層であるポリアミド酸溶液Uを硬化後厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。続いて120℃から360℃まで段階的な熱処理を10分間で行い、イミド化を完結し、多層ポリイミドを有する銅張積層板Xを得た。この際、フィルム表面に発泡は見られなかった。
得られた多層ポリイミドを有する銅張積層板Xを用いて初期ピール強度を測定した結果、0.92kN/mであった。また多層ポリイミドを有する銅張積層板Xについて、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、多層ポリイミドフィルムXを調製した。得られた多層ポリイミドフィルムXの調湿時のDk=3.37、Df=0.0027であった。
なお、第1層としてポリアミド酸溶液Pを硬化して作製されるポリイミドフィルムの300℃における貯蔵弾性率は、8.3×108Paであり、350℃における貯蔵弾性率は1.9×108Paである。
【0162】
[実施例10]
銅箔1上に、銅箔と接する第1層としてポリアミド酸溶液Qを硬化後の厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。次に第1層上に第2層であるポリアミド酸溶液Cを硬化後の厚みが21μmとなるように均一に塗布した後、120℃で2分間加熱乾燥して溶媒を除去した。更に、第2層上に第3層であるポリアミド酸溶液Uを硬化後厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。続いて120℃から360℃まで段階的な熱処理を10分間で行い、イミド化を完結し、多層ポリイミドを有する銅張積層板Yを得た。この際、フィルム表面に発泡は見られなかった。
得られた多層ポリイミドを有する銅張積層板Yを用いて初期ピール強度を測定した結果、0.71kN/mであった。また多層ポリイミドを有する銅張積層板Yについて、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、多層ポリイミドフィルムYを調製した。得られた多層ポリイミドフィルムYの調湿時のDk=3.38、Df=0.0027であった。
なお、第1層としてポリアミド酸溶液Qを硬化して作製されるポリイミドフィルムの300℃における貯蔵弾性率は、1.2×109Paであり、350℃における貯蔵弾性率は5.2×108Paである。
【0163】
[実施例11]
銅箔1上に、銅箔と接する第1層としてポリアミド酸溶液Rを硬化後の厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。次に第1層上に第2層であるポリアミド酸溶液Cを硬化後の厚みが21μmとなるように均一に塗布した後、120℃で2分間加熱乾燥して溶媒を除去した。更に、第2層上に第3層であるポリアミド酸溶液Uを硬化後厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。続いて120℃から360℃まで段階的な熱処理を10分間で行い、イミド化を完結し、多層ポリイミドを有する銅張積層板Zを得た。この際、フィルム表面に発泡は見られなかった。
得られた多層ポリイミドを有する銅張積層板Zを用いて初期ピール強度を測定した結果、0.73kN/mであった。また多層ポリイミドを有する銅張積層板Zについて、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、多層ポリイミドフィルムZを調製した。得られた多層ポリイミドフィルムZの調湿時のDk=3.38、Df=0.0027であった。
なお、第1層としてポリアミド酸溶液Rを硬化して作製されるポリイミドフィルムの300℃における貯蔵弾性率は、1.8×109Paであり、350℃における貯蔵弾性率は3.4×108Paである。
【0164】
[実施例12]
銅箔1上に、銅箔と接する第1層としてポリアミド酸溶液Sを硬化後の厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。次に第1層上に第2層であるポリアミド酸溶液Cを硬化後の厚みが21μmとなるように均一に塗布した後、120℃で2分間加熱乾燥して溶媒を除去した。更に、第2層上に第3層であるポリアミド酸溶液Uを硬化後厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。続いて120℃から360℃まで段階的な熱処理を10分間で行い、イミド化を完結し、多層ポリイミドを有する銅張積層板Aaを得た。この際、フィルム表面に発泡は見られなかった。
得られた多層ポリイミドを有する銅張積層板Aaを用いて初期ピール強度を測定した結果、0.77kN/mであった。また多層ポリイミドを有する銅張積層板Aaについて、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、多層ポリイミドフィルムAaを調製した。得られた多層ポリイミドフィルムAaの調湿時のDk=3.38、Df=0.0027であった。
なお、第1層としてポリアミド酸溶液Sを硬化して作製されるポリイミドフィルムの300℃における貯蔵弾性率は、4.6×108Paであり、350℃における貯蔵弾性率は2.4×108Paである。
【0165】
[実施例13]
銅箔1上に、銅箔と接する第1層としてポリアミド酸溶液Tを硬化後の厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。次に第1層上に第2層であるポリアミド酸溶液Cを硬化後の厚みが21μmとなるように均一に塗布した後、120℃で2分間加熱乾燥して溶媒を除去した。更に、第2層上に第3層であるポリアミド酸溶液Uを硬化後厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。続いて120℃から360℃まで段階的な熱処理を10分間で行い、イミド化を完結し、多層ポリイミドを有する銅張積層板Bbを得た。この際、フィルム表面に発泡は見られなかった。
得られた多層ポリイミドを有する銅張積層板Bbを用いて初期ピール強度を測定した結果、0.71kN/mであった。また多層ポリイミドを有する銅張積層板Bbについて、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、多層ポリイミドフィルムBbを調製した。得られた多層ポリイミドフィルムBbの調湿時のDk=3.38、Df=0.0028であった。
なお、第1層としてポリアミド酸溶液Tを硬化して作製されるポリイミドフィルムの300℃における貯蔵弾性率は、4.4×108Paであり、350℃における貯蔵弾性率は1.5×108Paである。
【0166】
[実施例14]
銅箔1上に、銅箔と接する第1層としてポリアミド酸溶液Uを硬化後の厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。次に第1層上に第2層であるポリアミド酸溶液Cを硬化後の厚みが21μmとなるように均一に塗布した後、120℃で2分間加熱乾燥して溶媒を除去した。更に、第2層上に第3層であるポリアミド酸溶液Uを硬化後厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。続いて120℃から360℃まで段階的な熱処理を20分間で行い、イミド化を完結し、多層ポリイミドを有する銅張積層板Ccを得た。この際、フィルム表面に発泡は見られなかった。
得られた多層ポリイミドを有する銅張積層板Ccを用いて初期ピール強度を測定した結果、0.97kN/mであった。また多層ポリイミドを有する銅張積層板Ccについて、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、多層ポリイミドフィルムCcを調製した。得られた多層ポリイミドフィルムCcの調湿時のDk=3.38、Df=0.0025であった。
なお、第1層としてポリアミド酸溶液Uを硬化して作製されるポリイミドフィルムの300℃における貯蔵弾性率は、3.1×107Paであり、350℃における貯蔵弾性率は1.4×107Paである。
【0167】
[参考例14]
銅箔1上に、銅箔と接する第1層としてポリアミド酸溶液Uを硬化後の厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。次に第1層上に第2層であるポリアミド酸溶液Cを硬化後の厚みが21μmとなるように均一に塗布した後、120℃で2分間加熱乾燥して溶媒を除去した。更に、第2層上に第3層であるポリアミド酸溶液Uを硬化後厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。続いて120℃から360℃まで段階的な熱処理を10分間で行い、イミド化を完結し、多層ポリイミドを有する銅張積層板Ddを得た。この際、フィルム表面に発泡が見られた。
なお、第1層としてポリアミド酸溶液Uを硬化して作製されるポリイミドフィルムの300℃における貯蔵弾性率は、3.1×107Paであり、350℃における貯蔵弾性率は1.4×107Paである。
【0168】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。