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特開2023-63891情報処理装置、プログラムおよび位置推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063891
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】情報処理装置、プログラムおよび位置推定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/245 20210101AFI20230428BHJP
   A61B 5/369 20210101ALI20230428BHJP
【FI】
A61B5/245
A61B5/369
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173953
(22)【出願日】2021-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】工藤 俊介
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA03
4C127AA10
4C127CC01
4C127CC08
(57)【要約】
【課題】被計測者の計測対象部位の位置と大きさとを精度よく推定する。
【解決手段】生体情報計測装置が計測した被計測者の計測対象部位の生体情報を取得する情報取得手段と、前記計測対象部位の複数箇所の位置情報と補完した位置情報とを用いて、前記計測対象部位の位置および大きさを推定する推定手段と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体情報計測装置が計測した被計測者の計測対象部位の生体情報を取得する情報取得手段と、
前記計測対象部位の複数箇所の位置情報と補完した位置情報とを用いて、前記計測対象部位の位置および大きさを推定する推定手段と、
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
生体情報計測装置が計測した被計測者の計測対象部位の生体情報を取得する情報取得手段と、
前記計測対象部位の複数箇所の位置情報に対する制約条件を設定し、前記計測対象部位の位置および大きさを推定する推定手段と、
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項3】
前記生体情報計測装置は、前記計測対象部位を前記被計測者の頭部とし、
前記推定手段は、前記被計測者の頭部の球体モデルを推定する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記計測対象部位の前記生体情報計測装置における位置の疑似的なマーカ座標を算出する疑似マーカ座標算出手段を備え、
前記推定手段は、前記疑似マーカ座標算出手段によって算出された前記疑似的なマーカ座標を前記補完した位置情報として追加して、前記計測対象部位の位置および大きさを推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記疑似マーカ座標算出手段は、前記計測対象部位の複数箇所の位置情報が不足している場合に、前記生体情報計測装置が備えるセンサの座標に基づき、前記計測対象部位が接する位置を仮想的に設定して前記疑似的なマーカ座標とする、
ことを特徴とする請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記推定手段は、前記計測対象部位の複数箇所の位置情報に対して制約条件を設定し、前記計測対象部位の位置および大きさを推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
コンピュータを、
生体情報計測装置が計測した被計測者の計測対象部位の生体情報を取得する情報取得手段と、
前記計測対象部位の複数箇所の位置情報と補完した位置情報とを用いて、前記計測対象部位の位置および大きさを推定する推定手段と、
として機能させるためのプログラム。
【請求項8】
コンピュータを、
生体情報計測装置が計測した被計測者の計測対象部位の生体情報を取得する情報取得手段と、
前記計測対象部位の複数箇所の位置情報に対する制約条件を設定し、前記計測対象部位の位置および大きさを推定する推定手段と、
として機能させるためのプログラム。
【請求項9】
生体情報計測装置が計測した被計測者の計測対象部位の生体情報を取得する情報取得工程と、
前記計測対象部位の複数箇所の位置情報と補完した位置情報とを用いて、前記計測対象部位の位置および大きさを推定する推定工程と、
を含むことを特徴とする位置推定方法。
【請求項10】
生体情報計測装置が計測した被計測者の計測対象部位の生体情報を取得する情報取得工程と、
前記計測対象部位の複数箇所の位置情報に対する制約条件を設定し、前記計測対象部位の位置および大きさを推定する推定工程と、
を含むことを特徴とする位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、プログラムおよび位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脳磁図(MEG:Magneto-encephalography)測定機器などの生体情報計測装置において同時計測されるノイズである妨害信号やアーチファクトは、解析の妨げとなるため、除去する必要がある。そこで、例えば複数のセンサの情報と頭部位置情報とを用いて計測領域から発生する目的信号を残しつつ妨害信号を除去する、空間分離を用いたノイズ除去技術が開示されている。
【0003】
特許文献1には、頭部位置情報をMRI(Magnetic Resonance Imaging)などで取得しない場合に十分なノイズの除去効果を得るために、マーカコイル(磁界発生素子)などの3次元座標点を用いて頭部の球体モデル(位置および大きさ)を推定する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の球体モデル推定方法によれば、多数の3次元座標点を用いることにより精度よく球体モデルを推定することができるが、実用される3~5点のマーカコイル数で球体モデルを推定した場合には精度が大幅に低下する、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、被計測者の計測対象部位の位置と大きさとを精度よく推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、生体情報計測装置が計測した被計測者の計測対象部位の生体情報を取得する情報取得手段と、前記計測対象部位の複数箇所の位置情報と補完した位置情報とを用いて、前記計測対象部位の位置および大きさを推定する推定手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被計測者の計測対象部位の位置と大きさとを精度よく推定することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施の形態に係る情報処理システムの構成例を示す図である。
図2図2は、測定対象である被計測者の頭部を示す図である。
図3図3は、情報処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、情報処理装置が備えるノイズ除去機能を示すブロック図である。
図5図5は、球体モデル推定方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
図6図6は、疑似的なマーカ座標の算出例を示す図である。
図7図7は、具体的な球体モデル推定例を示す図である。
図8図8は、球体モデル推定による効果を示す図である。
図9図9は、第2の実施の形態に係る情報処理装置が備えるノイズ除去機能を示すブロック図である。
図10図10は、具体的な球体モデル推定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、情報処理装置、プログラムおよび位置推定方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
(第1の実施の形態)
<システム構成>
図1は、第1の実施の形態に係る情報処理システム1の構成例を示す図である。図1において、情報処理システム1は、複数種類の生体信号、たとえば脳磁図(MEG:Magneto-encephalography)信号と脳波図(EEG:Electro-encephalography)信号を計測し、表示する。情報処理システム1は、測定装置3と、データ収録サーバ42と、情報処理装置20とを含む。情報処理装置20は、計測で得られた信号情報(生体情報)と解析結果を表示するモニタディスプレイ26を有する。ここでは、データ収録サーバ42と情報処理装置20が別々に描かれているが、データ収録サーバ42の少なくとも一部を情報処理装置20に組み込んでもよい。
【0011】
被計測者は、頭に脳波測定用の電極(またはセンサ)を付けた状態で測定テーブル4に仰向けで横たわり、測定装置3のデュワ30の窪み31に計測対象部位(頭部)を入れる。デュワ30は、液体ヘリウムを用いた極低温環境の保持容器であり、デュワ30の窪み31の内側には脳磁測定用の多数の磁気センサが配置されている。磁気センサは、高感度の超伝導量子干渉計(SQUID)センサである。一般的に、磁気センサを内蔵するデュワ30と測定テーブル4は磁気シールドルーム内に配置されているが、図示の便宜上、磁気シールドルームを省略している。
【0012】
測定装置3は、電極からの脳波信号と、磁気センサからの脳磁信号とを収集し、収集された生体信号(生体情報)をデータ収録サーバ42に出力する。脳波信号は、神経細胞の電気的な活動(シナプス伝達の際にニューロンの樹状突起で起きるイオン電荷の流れ)を電極間の電圧値として表すものである。脳磁信号は、脳の電気活動により生じた微小な磁場変動を表わす。
【0013】
データ収録サーバ42に収録された生体情報は、情報処理装置20に読み出されて表示され、解析される。
【0014】
上述したように、測定装置3は、脳磁図(MEG)測定機器(脳磁計)などの生体情報計測装置であって、多チャンネル計測装置として機能する。多チャンネル計測装置である測定装置3は、脳磁測定用の多数の磁気センサの位置や向きが既知であり、磁気センサ群に近い信号源を仮定したときに、その磁気センサの応答値を計算することができる。
【0015】
ここで、図2は測定対象である被計測者の頭部を示す図である。図2に示すように、計測対象部位である被計測者の頭部には、位置合わせ用のFP(Fiducial Point)であるマーカコイルM1,M2,M3,M4,M5が貼り付けられる。より詳細には、マーカコイルM1は鼻根点またはその上部額中央に貼り付けられ、マーカコイルM2,M3は左右の耳にそれぞれ貼り付けられ、マーカコイルM4,M5は鼻根点を挟んだ額の左右にそれぞれ貼り付けられる。例えば、マーカコイルM1~M5は、電圧をかけると磁場を発生する磁界発生素子である。
【0016】
測定装置3は、測定の際に、マーカコイルから発生する磁場に基づいてマーカコイルの位置を測定する。このようにして取得されたMEGの座標系で表されたFPの位置は、測定装置3での測定結果を被計測者のMRI(Magnetic Resonance Imaging)画像に重畳表示する際に、MRI画像の座標系への座標変換行列の算出に用いられる。
【0017】
なお、本実施形態においては、MRI画像の座標系とMEGの座標系との間の座標変換行列の算出にマーカコイルを用いたが、これに限るものではなく、デジタイザのような3次元座標位置を計測する装置でもよい。
【0018】
情報処理装置20は、複数の磁気センサからの脳磁信号の波形と、複数の電極からの脳波信号の波形を、同じ時間軸上に同期させて表示する。
【0019】
加えて、情報処理装置20は、測定装置3において同時計測されるノイズである妨害信号やアーチファクトを除去する際に、マーカ位置推定処理および球体モデル推定処理を実行する。
【0020】
<ハードウェア構成>
図3は、情報処理装置20のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。情報処理装置20は、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)21、RAM(Random Access Memory)22、ROM(Read Only Memory)23、補助記憶装置24、入出力インタフェース25、及びモニタディスプレイ(表示装置)26を有している。CPU21、RAM22、ROM23、補助記憶装置24、入出力インタフェース25、及びモニタディスプレイ(表示装置)26は、バス27で相互に接続されている。
【0021】
RAM22は、CPU21のワークエリアとして用いられ、主要な制御パラメータやデータ収録サーバ42から取得した生体情報を記憶する不揮発RAMを含んでもよい。ROM23は、基本入出力プログラム等を記憶する。本発明の情報処理プログラムもROM23に保存されてもよい。
【0022】
補助記憶装置24は、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶装置であり、たとえば、情報処理装置20の動作を制御する情報処理プログラムや、情報処理装置20の動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納する。補助記憶装置24は、マーカ位置推定プログラムおよび球体モデル推定プログラムを格納する。
【0023】
CPU21は、情報処理装置20の全体の動作を制御し、各種の情報処理を行う。CPU21はまた、ROM23または補助記憶装置24に格納された情報処理プログラムを実行して、測定収録画面と解析画面の表示動作を制御する。
【0024】
CPU21は、補助記憶装置24に格納されたマーカ位置推定プログラムに従って、取得したマーカコイルのデータから、マーカコイルの3次元位置座標および被計測者の計測対象部位(頭部)の測定装置3における位置の疑似的なマーカ座標を求めるマーカ位置推定処理を実行する。CPU21は、補助記憶装置24に格納された球体モデル推定プログラムに従って、算出されたマーカコイルの3次元位置座標および被計測者の計測対象部位(頭部)の測定装置3における位置の疑似的なマーカ座標から、被計測者の計測対象部位(頭部)の球体モデル(位置および大きさ)を推定する球体モデル推定処理を実行する。
【0025】
入出力インタフェース25は、タッチパネル、キーボード、表示画面、操作ボタン等のユーザインタフェースと、各種センサあるいはデータ収録サーバ42からの情報を取り込み、他の電子機器に解析情報を出力する通信インタフェースの双方を含む。
【0026】
モニタディスプレイ26では、測定収録画面と解析画面が表示され、入出力インタフェース25を介した入出力操作に応じて画面が更新される。
【0027】
本実施形態の情報処理装置20で実行される情報処理プログラム(マーカ位置推定プログラムおよび球体モデル推定プログラムを含む)は、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0028】
また、本実施形態の情報処理装置20で実行される情報処理プログラム(マーカ位置推定プログラムおよび球体モデル推定プログラムを含む)を、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施形態の情報処理装置20で実行される情報処理プログラム(マーカ位置推定プログラムおよび球体モデル推定プログラムを含む)をインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。
【0029】
また、本実施形態の情報処理装置20で実行される情報処理プログラム(マーカ位置推定プログラムおよび球体モデル推定プログラムを含む)を、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0030】
<機能構成>
次に、本実施の形態の情報処理装置20の機能のうち、測定装置3において同時計測されるノイズである妨害信号やアーチファクトを除去する機能について説明する。図4は、情報処理装置20が備えるノイズ除去機能を示すブロック図である。
【0031】
情報処理装置20は、生体情報取得部201と、疑似マーカ座標算出部202と、球体モデルフィッティング部203と、半径および座標決定部204と、信号分離部205と、を備える。
【0032】
生体情報取得部201と、疑似マーカ座標算出部202と、球体モデルフィッティング部203と、半径および座標決定部204と、信号分離部205とは、CPU21が、ROM23または補助記憶装置24に格納された情報処理プログラム(マーカ位置推定プログラムおよび球体モデル推定プログラムを含む)を読み出して実行することで実現される。
【0033】
生体情報取得部201は、測定装置3で計測した被計測者の計測対象部位(頭部)のセンサ情報である生体信号(生体情報)をデータ収録サーバ42から取得する。生体情報取得部201は、情報取得手段である。生体情報取得部201は、測定装置3で計測した被計測者の計測対象部位(頭部)のセンサ情報である生体信号(生体情報)をRAM22に格納する。
【0034】
疑似マーカ座標算出部202は、被計測者の計測対象部位(頭部)の測定装置3における位置の疑似的なマーカ座標を算出する。疑似マーカ座標算出部202は、疑似マーカ座標算出手段である。
【0035】
球体モデルフィッティング部203は、被計測者の計測対象部位(頭部)の複数箇所の位置情報と補完した位置情報とを用いて、被計測者の計測対象部位(頭部)の位置および大きさを、球体モデルとして推定する。球体モデルフィッティング部203は、推定手段である。より詳細には、球体モデルフィッティング部203は、疑似マーカ座標算出部202によって算出された疑似的なマーカ座標を補完した位置情報として追加して、被計測者の計測対象部位(頭部)の球体モデル(位置および大きさ)を推定する。
【0036】
半径および座標決定部204は、推定された球体モデルの半径と中心座標とを決定する。
【0037】
信号分離部205は、半径と中心座標とを決定した球体モデルに基づいて、空間分離を行って妨害信号やアーチファクト成分を除去する。
【0038】
ここで、被計測者の頭部(脳)を球体で近似する際の球体モデル推定方法の流れについて説明する。図5は、球体モデル推定方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
【0039】
上述したように、被計測者の頭部に貼り付けた位置合わせ用のマーカコイルM1~M5の位置は、一般的に額や鼻根、耳下などの解剖学的基準点に設置することが多い。このようなマーカコイルの3次元座標点を頭部の球体モデルの推定に用いる場合、実用される3~5点程度のマーカコイル数では、精度が大幅に低下する、という問題があった。加えて、フィッティングを行うにあたり、実用される3~5点程度のマーカコイル数では、推定精度が悪い、もしくは、推定不可となる、という問題があった。
【0040】
そこで、図5に示すように、本実施形態においては、疑似マーカ座標算出部202は、マーカコイルM1~M5を貼り付けることが難しい後頭部側の制御点として、測定装置3の磁気センサの座標と設計値とから、後頭部が測定装置3のデュワ30に接すると想定されうる位置を、疑似的なマーカ座標として算出する(ステップS1)。そして、疑似マーカ座標算出部202は、算出した位置を、疑似的なマーカとして追加する。
【0041】
ここで、図6は疑似的なマーカ座標の算出例を示す図である。例えば、図6に示すように、疑似マーカ座標算出部202は、図6においてAで示す測定装置3の磁気センサ位置に後頭部が接すると仮定し、そのセンサ座標と測定装置3のデュワ30の厚みとから、実際に被計測者の頭部が接すると思われる位置の疑似的なマーカ座標を算出する。
【0042】
なお、測定装置3の磁気センサを領域ごとにグループ分けしておき、疑似マーカ座標算出部202は、グループ分けの情報から後頭部位置のセンサを特定しても良い。また、疑似マーカ座標算出部202は、被計測者の頭部が接すれば後頭部に限らず、被計測者の後頭部以外の位置のセンサを特定するようにしても良い。
【0043】
次いで、球体モデルフィッティング部203は、マーカコイルの座標に、ステップS1で算出した疑似的なマーカ座標を含め、球体でフィッティングを行う最適化問題を解く(ステップS2)。なお、球体モデルフィッティング部203は、球体モデルフィッティングに際して最小二乗法のような一般的な最適化解法を用いるが、機械学習手法などを用いてもよい。また、球体モデルフィッティング部203がフィッティングを行う球体は、単一球である必要はなく、複数の球(Overlapping-sphere Model)や標準的な脳の形状であってもよいし、これらに限定されない。
【0044】
次いで、半径および座標決定部204は、球体モデルの半径と中心座標とを決定する(ステップS3)。このような処理を行うのは、ステップS2にて算出された球体モデルの半径は被計測者の頭部に貼り付けられたマーカコイルを基準としているため、実際の脳の大きさよりも大きく算出されるためである。したがって、半径および座標決定部204は、ステップS2にて算出された球体モデルの半径を一定割合だけ小さくすることで、脳の大きさを球体モデルで近似した際の半径とする。なお、本手法における被計測者の頭部に貼り付けられたマーカコイルの位置は、必ずしも解剖学的基準点である必要はない。
【0045】
次に、具体的な球体モデル推定例について説明する。
【0046】
ここで、図7は具体的な球体モデル推定例を示す図である。図7(a)に示す丸印は、被計測者の頭部の両耳下、額の左右と中央の計5点に貼り付けたマーカコイルの位置を、測定装置3を用いて取得した結果である。脳磁図(MEG)測定機器である測定装置3にてマーカコイルを用いる場合、後頭部にはマーカコイルを貼り付けないことが多い。一方、図7(a)に示す星印は、測定装置3の磁気センサとその設計値とより求めた疑似的なマーカ座標の位置である。これにより、被計測者の後頭部側の情報を補うとともに、推定された球体モデルの精度を向上させることが可能になる。
【0047】
図7(b)および図7(c)は、疑似的なマーカ座標がある場合と疑似的なマーカ座標がない場合の球体モデルの推定結果を示すものである。図7(b)および図7(c)の両図とも、黒色太線で描かれた球体は、実際のMRIとの位置合わせから作成した球体モデルで、正確な脳の位置を示しており、灰色線で描かれた球体はマーカコイルの位置から推定された球体モデルである。なお、ここでは描画の関係上、図5のステップS3にて説明した半径の補正は行っていない。
【0048】
図7(c)に示したように、マーカコイルの位置のみから推定された球体モデルは、被計測者の額に貼り付けたマーカコイルに引っ張られることにより、大きく前方にずれることがある。一方、図7(b)に示した疑似マーカ座標を追加した球体モデルは、図7(c)に示した球体モデルよりずれが小さい。したがって、疑似マーカ座標を追加することが有効であることがわかる。
【0049】
図7(d)は、従来用いられていた脳磁計のセンサの重心位置から計算される仮想球体モデルの設定方法で求めた球体モデルである。図7(d)に示した球体モデルは、図7(b)に示した疑似マーカ座標を追加した球体モデルと比較すると、球体の大きさや位置がずれていることが見て取れる。したがって、疑似マーカ座標を追加して球体モデルを推定することが有効であることがわかる。
【0050】
なお、本実施形態では、脳磁図(MEG)測定機器である測定装置3の磁気センサとその設計値とより求めた疑似的な疑似マーカ座標を求めたが、図7(e)のようにデジタイザなどで計測した3次元座標点を疑似マーカの座標として用いても良い。その際、デジタイザから得られる3次元座標点は被計測者の頭部全体を覆っている必要はなく、少なくともマーカコイルが覆えていない部分(図7(e)ではposterior方向)に数点追加するだけでよい。また、標準脳のMRIから表面座標を求め、疑似的なマーカコイルの代用としても良い。
【0051】
次に、球体モデル推定による効果について説明する。
【0052】
ここで、図8は球体モデル推定による効果を示す図である。図8は、160chの脳磁図(MEG)測定機器である測定装置3で収録したノイズデータに対して、図8(e)に示す人工的な脳信号を後頭葉に埋め込み、妨害信号などのノイズの時間領域の部分空間を求めるDSSP(Double Signal Subspace Projection)を行った結果を示すものである。DSSPは脳磁図のノイズ除去において有効な手法であるが、その性能を引き出すには脳領域を正しく設定する必要があるため、DSSPを例に本発明による球体モデル設定の効果を説明する。
【0053】
図8(a)は、MRI画像を用いて作成した球体モデルに対してDSSPを行った結果である。これは正確な頭部位置がMRIにて求められているため理想的な条件となる。図8(b)は、図7(b)に示したようにMRIを用いず、マーカコイルの座標と疑似マーカ座標とを用いて推定した球体モデルに対してDSSPを行った結果である。図8(a)および図8(b)によれば、図8(e)に示す人工信号と比較すると、概ねノイズが除去されつつ人工的な脳信号が残っていることがわかる。
【0054】
これに対して、図8(c)は図7(c)に示した球体モデルに対してDSSPを行った結果、図8(d)は図7(d)に示した球体モデルに対してDSSPを行った結果である。図8(c)および図8(d)によれば、図8(e)に示す人工信号と比較すると、埋め込んだ人工的な脳信号が削れてしまっていることがわかる。
【0055】
すなわち、図7(c)および図7(d)のように球体モデルがずれている場合、本来脳から発生している信号ですら除去してしまう。したがって、球体モデルをより正確に推定することはノイズ除去においては非常に重要であり、特にMRIが存在しない場合には本手法が有効である。
【0056】
このように本実施形態によれば、測定装置3を用いて被計測者の計測対象部位(頭部)に貼り付けた位置合わせ用のマーカコイルの位置情報を求め、その位置情報と補完した位置情報(疑似マーカ座標)とを用いて、被計測者の計測対象部位(頭部)の位置と大きさとを、最小二乗法を用いた球体モデルフィッティングで求める。これにより、MRIなどの画像がなくても、画像があるときと同等のノイズ除去性能を実現するため、特殊な装置を一切追加することはなく、一般的な脳磁図測定機器に付属している位置合わせ用のマーカコイルを被計測者の計測対象部位(頭部)の数ヵ所に張り付け、その位置情報を得ることで、被計測者の計測対象部位(頭部)の位置と大きさとを精度よく推定することができる。
【0057】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態について説明する。
【0058】
第2の実施の形態は、球体モデルフィッティングに際し、最小二乗法に適切な制約条件を付ける点が、第1の実施の形態と異なるものとなっている。以下、第2の実施の形態の説明では、第1の実施の形態と同一部分の説明については省略し、第1の実施の形態と異なる箇所について説明する。
【0059】
図9は、第2の実施の形態に係る情報処理装置20が備えるノイズ除去機能を示すブロック図である。図9に示すように、第2の実施の形態に係る情報処理装置20は、図4で説明した疑似マーカ座標算出部202を備えていない構成である。
【0060】
そして、球体モデルフィッティング部203は、被計測者の計測対象部位(頭部)の複数箇所の位置情報に対する制約条件を設定し、被計測者の計測対象部位(頭部)の位置および大きさを推定する。
【0061】
図10は、具体的な球体モデル推定例を示す図である。図10(a)は、図7(c)で示したものと同様であって、疑似的なマーカ座標がない場合の球体モデルの推定結果を示すものである。図10(a)に示すように、マーカコイルの3次元位置座標のみで球体モデルを推定すると、マーカコイルの位置によっては大幅に推定結果が悪くなる可能性がある。そこで、本実施形態においては、球体モデルフィッティング部203は、球体モデルフィッティングに際して最小二乗法に適切な制約条件を付けることで、図10(b)に示す灰色線で描かれた球体を推定するようにしたものである。
【0062】
例えば、被計測者の頭部の両耳下、額の左右と中央の計5点を3次元座標点として得たときの、制約条件について説明する。
【0063】
第1の制約条件は、解剖学的基準点位置から推定される球体の左右のずれを補正するものである。第1の制約条件は、両耳下を結んだ線分に垂直、かつ、額中央位置を含む平面上に球体の中心を制限する。
【0064】
第2の制約条件は、推定される球体の前後のずれを制限するものである。第2の制約条件は、両耳下を結んだ線分に対して額中央から垂線を下したベクトルと、その垂線の足と推定される球体の中心を結んだベクトルとのなす角を、一定範囲内に制限する。
【0065】
このように球体モデルフィッティングに際し、球体モデルフィッティング部203は、最小二乗法に適切な制約条件を設定することにより、マーカコイル5点のみでの推定も可能となり、解剖学的基準点の特性を用いれば推定が可能になる。
【0066】
また、制約条件は、推定される球体の中心が存在しうる範囲を、脳磁図(MEG)測定機器である測定装置3の磁気センサの位置、マーカコイルの位置、デジタイザの3次元座標点から求め、線形制約をかける方法でもよい。例えば、脳磁図(MEG)測定機器である測定装置3の磁気センサの重心位置付近に球体の中心位置が位置することを仮定して、脳磁図(MEG)測定機器である測定装置3の磁気センサの重心位置からx,y,z座標のそれぞれ数十ミリの範囲に制限をしたり、推定される球体がデュワ30に食い込むことがないように、位置に制限をかけたりする方法がある。
【0067】
このように本実施形態によれば、測定装置3を用いて被計測者の計測対象部位(頭部)に貼り付けた位置合わせ用のマーカコイルの位置情報を求め、その位置情報に対する制約条件を設定し、被計測者の計測対象部位(頭部)の位置と大きさとを、最小二乗法を用いた球体モデルフィッティングで求める。これにより、MRIなどの画像がなくても、画像があるときと同等のノイズ除去性能を実現するため、特殊な装置を一切追加することはなく、一般的な脳磁図測定機器に付属している位置合わせ用のマーカコイルを被計測者の計測対象部位(頭部)の数ヵ所に張り付け、その位置情報を得ることで、被計測者の計測対象部位(頭部)の位置と大きさとを精度よく推定することができる。
【0068】
なお、第1の実施の形態で説明した疑似的なマーカ座標の追加に加えて、本実施形態の制約条件の設定を組み合わせるようにしても良い。
【0069】
なお、各実施形態においては、被計測者の計測対象部位として頭部を考慮した場合を例として詳細に説明したが、これに限るものではない。
【符号の説明】
【0070】
20 情報処理装置
201 情報取得手段
202 疑似マーカ座標算出手段
203 推定手段
【先行技術文献】
【特許文献】
【0071】
【特許文献1】特開平09-253065号公報
図1
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図7
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図9
図10