(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064486
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】果樹の栽培装置および果実の収穫方法
(51)【国際特許分類】
A01G 17/00 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
A01G17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174802
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】521469612
【氏名又は名称】アグリガスコム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】荻原 勲
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 さくら
(72)【発明者】
【氏名】西山 暢一
(57)【要約】
【課題】果実を簡単に収穫できる果樹の栽培装置を提供する。
【解決手段】上面を開放し、底部1と、一対の壁部2a,2bとを有する少なくとも1つの栽培ベッド、および前記一対の壁部2a,2bの間で且つ前記底部1の上に配置された、果樹を植えて栽培する少なくとも1つの栽培ポット3を備える果樹の栽培装置であって、前記栽培ベッドは、前記一対の壁部2a,2bのうち一方の壁部2bの高さが他方の壁部2aの高さよりも低く、前記栽培ポット3を前記栽培ベッドの前記一方の壁部2b側に傾けることができるように構成されていることを特徴とする果樹の栽培装置である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面を開放し、底部と、一対の壁部とを有する少なくとも1つの栽培ベッド、および
前記一対の壁部の間で且つ前記底部の上に配置された、果樹を植えて栽培するための少なくとも1つの栽培ポットを備える果樹の栽培装置であって、
前記栽培ベッドは、前記一対の壁部のうち一方の壁部の高さが他方の壁部の高さよりも低く、前記栽培ポットを前記栽培ベッドの前記一方の壁部側に傾けることができるように構成されていることを特徴とする果樹の栽培装置。
【請求項2】
バンドまたはネットを更に備え、前記バンドまたはネットは、前記栽培ポットを前記栽培ベッドの前記一方の壁部側に傾けた場合に、前記栽培ポットまたは前記栽培ポットに植えられた果樹を支えることができるように張られていることを特徴とする請求項1に記載の果樹の栽培装置。
【請求項3】
前記一方の壁部の上端の位置が、前記栽培ポットの高さの1/3の位置よりも低い位置にあり、前記他方の壁部の上端の位置が、前記栽培ポットの高さの1/2の位置よりも高い位置にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の果樹の栽培装置。
【請求項4】
前記バンドまたはネットは、前記一方の壁部側で、前記一方の壁部の上端から前記栽培ポットの上面までの間の位置に張られていることを特徴とする請求項2に記載の果樹の栽培装置。
【請求項5】
前記栽培ベッドを複数備え、複数の前記栽培ベッドが栽培ベッドの幅方向に沿って配列されている場合、複数の前記栽培ベッドは、隣り合う栽培ベッド間の間隔が、85~125cmの第1の間隔と前記第1の間隔よりも狭い45~65cmの第2の間隔とが交互となる周期で配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の果樹の栽培装置。
【請求項6】
前記栽培ベッドに複数の前記栽培ポットが配置され、複数の前記栽培ポットは、前記栽培ベッド内で隣り合う栽培ポット間の間隔が10~90cmの間隔で配置されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の果樹の栽培装置。
【請求項7】
前記栽培ベッドを設置するための栽培ベンチを更に備え、前記栽培ポットが設置される位置は、前記果樹の栽培装置の設置面からの高さが60~80cmであることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の果樹の栽培装置。
【請求項8】
前記栽培ポットを覆う断熱シートを更に備えることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の果樹の栽培装置。
【請求項9】
前記栽培ポット内に空気を供給するための空気供給装置を更に備えることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の果樹の栽培装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の果樹の栽培装置を用いる果実の収穫方法であって、
前記栽培ポットを前記栽培ベッドの前記一方の壁部側に傾けながら、前記栽培ポットに植えられた果樹を揺らす、あるいは手で摘むことにより、前記果樹から果実を収穫することを特徴とする果実の収穫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹の栽培装置および果樹の栽培装置を用いた果実の収穫方法に関し、特には、果実を簡単に収穫できる果樹の栽培装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
東京農工大学は、果樹を対象とした「先進植物工場研究施設」を整備し、果樹のライフサイクルを早め、高収量・周年生産の実現を目指している。
【0003】
例えば、国際公開第2014/156939号(特許文献1)は、花芽分化、葉芽分化又はその双方を制御するための第1の環境刺激を植物に対して与えること、花芽、葉芽又はその双方の萌芽時期を制御するための第2の環境刺激を植物に対して与えること、そして、葉芽の萌芽及び花芽の萌芽、茎葉の発生、開花及び結実に適した環境下に植物を置くことによる第3の環境刺激を植物に対して与えることを含む植物の栽培方法を記載する。特許文献1に記載の発明によれば、花芽及び葉芽への分化、開花と結実、葉芽の萌芽、新梢の成長等に関与する因子を適宜に制御することが可能となり、その好適な態様において、葉芽が花芽と相前後して萌芽し、新たな茎葉のもとで開花・結実が繰り返されることにより、樹勢が衰えることなく果実の連続的な生産が可能となることが記載されている。
【0004】
特開2017-60464号公報(特許文献2)は、植物に対して青色光を照射する第1の日長条件にて植物を花芽分化まで育成させる工程と、次いで、植物に対して赤色光又は赤色光と青色光の混合光を照射する第2の日長条件にて植物を少なくとも開花まで育成させる工程とを含む植物の栽培方法を記載する。特許文献2に記載の発明によれば、花芽が分化するまでは青色光の照射により植物を育成し、花芽が分化した後は青色光に代えて赤色光又は赤色光と青色光の混合光を照射することによって植物を開花させることで、開花を早め、開花数を増やすことが可能な植物の栽培方法を提供することができ、特に、赤色光と青色光の混合光の照射により植物の開花を行う場合には、植物の開花を早めて開花数を増やすだけでなく、連続生産の期間を長くすることが可能になることが記載されている。
【0005】
特開2019-44号公報(特許文献3)は、花芽を誘導するための第一環境条件下に植物を置く第一の工程、開花を誘導するための第二環境条件下に該植物を置く第二の工程、及び果実を成熟させるための第三環境条件下に前記植物を置く第三の工程を含む植物の栽培方法を記載する。特許文献3によれば、自然条件下での結実の時期と異なる時期に果実を形成させることができ、また、同一の枝に大きな果実と花(蕾)を形成させることもできるため、二期取りや周年出荷の栽培法の実現につながる可能性があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/156939号
【特許文献2】特開2017-60464号公報
【特許文献3】特開2019-44号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上述のように、果樹栽培における高収量・周年生産の実現を目指す一方で、果樹栽培の大規模化・自動化の実現についての研究も進めている。果樹栽培の大規模化にあたってネックになるのは果実の収穫労力であり、収穫の自動化の開発は最重要課題である。例えば、ブルーベリーの果実を手摘みで収穫する場合、1人で1日約20kgが上限であると言われており、毎日200kg以上の収穫を行う大規模生産においては収穫労力による人件費が膨大になる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、果実を簡単に収穫できる果樹の栽培装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる果樹の栽培装置を用いた果実の収穫方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、一対の壁部の片側の高さを低くした栽培ベッドを用いて果樹のポット栽培を行えば、栽培ポットを傾けながら果樹を揺らして果実の収穫を行うことが可能となり、これによって、果実の収穫労力を低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
したがって、本発明の第1の態様は、上面を開放し、底部と、一対の壁部とを有する少なくとも1つの栽培ベッド、および前記一対の壁部の間で且つ前記底部の上に配置された、果樹を植えて栽培する少なくとも1つの栽培ポットを備える果樹の栽培装置であって、前記栽培ベッドは、前記一対の壁部のうち一方の壁部の高さが他方の壁部の高さよりも低く、前記栽培ポットを前記栽培ベッドの前記一方の壁部側に傾けることができるように構成されていることを特徴とする果樹の栽培装置である。
【0011】
本発明の果樹の栽培装置の好適例においては、バンドまたはネットを更に備え、前記バンドまたはネットは、前記栽培ポットを前記栽培ベッドの前記一方の壁部側に傾けた場合に、前記栽培ポットまたは前記栽培ポットに植えられた果樹を支えることができるように張られている。
【0012】
本発明の果樹の栽培装置の他の好適例においては、前記一方の壁部の上端の位置が、前記栽培ポットの高さの1/3の位置よりも低い位置にあり、前記他方の壁部の上端の位置が、前記栽培ポットの高さの1/2の位置よりも高い位置にある。
【0013】
本発明の果樹の栽培装置の好適例において、前記バンドまたはネットは、前記一方の壁部側で、前記一方の壁部の上端から前記栽培ポットの上面までの間の位置に張られている。
【0014】
本発明の果樹の栽培装置の他の好適例においては、前記栽培ベッドを複数備え、複数の前記栽培ベッドが栽培ベッドの幅方向に沿って配列されている場合、複数の前記栽培ベッドは、隣り合う栽培ベッド間の間隔が、85~125cmの第1の間隔と前記第1の間隔よりも狭い45~65cmの第2の間隔とが交互となる周期で配置されている。
【0015】
本発明の果樹の栽培装置の他の好適例においては、前記栽培ベッドに複数の前記栽培ポットが配置され、複数の前記栽培ポットは、前記栽培ベッド内で隣り合う栽培ポット間の間隔が10~90cmの間隔で配置されている。
【0016】
本発明の果樹の栽培装置の他の好適例においては、前記栽培ベッドを設置するための栽培ベンチを更に備え、前記栽培ポットが設置される位置は、前記果樹の栽培装置の設置面からの高さが60~80cmである。
【0017】
本発明の果樹の栽培装置の他の好適例においては、前記栽培ポットを覆う断熱シートを更に備える。
【0018】
本発明の果樹の栽培装置の他の好適例においては、前記栽培ポット内に空気を供給するための空気供給装置を更に備える。
【0019】
また、本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に従う果樹の栽培装置を用いる果実の収穫方法であって、前記栽培ポットを前記栽培ベッドの前記一方の壁部側に傾けながら、前記栽培ポットに植えられた果樹を揺らす、あるいは手で摘むことによって、前記果樹から果実を収穫することを特徴とする果実の収穫方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の態様によれば、果実を簡単に収穫できる果樹の栽培装置を提供することができる。また、本発明の第2の態様によれば、かかる果樹の栽培装置を用いた果実の収穫方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】2つの栽培ベッドが栽培ベッドの長さ方向に沿って一列に配列されている一例の概略図である。
【
図3】6つの栽培ベッドが栽培ベッドの幅方向に沿って配列されている一例の概略図である。
【
図4】栽培ポットが栽培ベッドに配置されている一例の概略図である。
【
図5】複数の栽培ポットが栽培ベッドの底部上で栽培ベッドの長さ方向に沿って一列に配置されている一例の概略図である。
【
図6】栽培ベッドが栽培ベンチに設置されている一例の概略図である。
【
図7】水切り用部材を底部に敷いた栽培ベッドの一例の概略図である。
【
図8】本発明の栽培装置の一実施形態を用いた果樹の栽培例の概略図である。
【
図9】本発明の栽培装置の一実施形態を用いた果樹の栽培例の概略図である。
【
図10】本発明の果実の収穫方法の一実施形態を説明するための概略図である。
【
図11】実験1の手摘み区で収穫した果実を示す写真である。
【
図12】実験1の揺さぶり区で収穫した果実を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を詳細に説明する。本明細書では、図を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
本発明の1つの態様は、少なくとも1つの栽培ベッドと、栽培ベッドに置かれた少なくとも1つの栽培ポットとを備える果樹の栽培装置である。本明細書においては、この果樹の栽培装置を「本発明の果樹の栽培装置」または「本発明の栽培装置」とも称する。
【0024】
本発明の栽培装置は、少なくとも1つの栽培ベッドを備える。栽培ベッドは、果樹が植えられた栽培ポットを置くための器具である。栽培ベッドは、1つでも複数でもよいが、果樹栽培の大規模化の観点から、本発明の栽培装置は、複数の栽培ベッドを備えることが好ましい。栽培ベッド(複数の場合は各栽培ベッド)に置かれる栽培ポットは、1つでも複数でもよいが、果樹栽培の密植化・多収化の観点から、本発明の栽培装置は、栽培ベッド(複数の場合は各栽培ベッド)に複数の栽培ポットが置かれていることが好ましい。
【0025】
図1は、栽培ベッドの一例の斜視図である。栽培ベッドは、
図1に示されるように、上面を開放し、下面に位置する底部1と、一対の壁部2a,2bとを有する。底部1は、矩形であることが好ましく、一方向に延在する長方形の板状の底部であることがより好ましい。底部1の長さ方向における長さは、例えば120~125cmであることが好ましい。壁部2a,2bは、対向して存在しており、それぞれが底部1の長さ方向の全長にわたって形成されている。また、一対の壁部のうち一方の壁部2bの高さは他方の壁部2aの高さよりも低い。壁部2aと壁部2b間の間隔は、1つの栽培ポットが配置できる距離を確保していればよく、例えば、内寸では30~35cmであることが好ましい。栽培ベッドは、四方が壁で囲まれていてもよいが、一対の壁部2a,2bを有するものであればよく、栽培ベッドは、壁として、一対の壁部2a,2bのみを有するものが好ましい。
【0026】
栽培ベッドは、木材、金属、素焼き、陶器、セラミック、プラスチック(発泡スチロール等の発泡プラスチックも含まれる)等の各種材料またはそれら材料の組み合わせから形成することができるが、プラスチック製の栽培ベッドが好ましい。
【0027】
本発明の栽培装置が複数の栽培ベッドを備える場合、複数の栽培ベッドは、栽培ベッドの長さ方向に沿って一列に配列されていてもよいし、長さ方向と垂直な方向に沿って配列されていてもよいし、これらの配列を組み合わせてもよい。本明細書において、長さ方向と垂直な方向を「幅方向」とも称する。
【0028】
本発明の栽培装置において、複数の栽培ベッドが栽培ベッドの長さ方向に沿って一列に配列されている場合、隣り合う栽培ベッドは、密植化・多収化の観点から、間隔を空けずに一列に並べられることが好ましいが、人が通る通路を用意するような場合には、隣り合う栽培ベッドの間隔を空けてもよい。なお、隣り合う栽培ベッドを間隔を開けずに一列に並べる場合、例えば5cm程度以下の重なりを設けることで隣り合う栽培ベッドを固定することも可能である。本明細書において、複数の栽培ベッドがその長さ方向に沿って一列に配列されている場合における、隣り合う栽培ベッド間の間隔とは、栽培ベッドの長さ方向に沿った最短距離を指す。
図2は、2つの栽培ベッドが栽培ベッドの長さ方向に沿って一列に配列されている一例の概略図であり、ここで、S1が隣り合う栽培ベッドの間隔である。
【0029】
本発明の栽培装置において、複数の栽培ベッドがその長さ方向に沿って一列に配列されている場合、隣り合う栽培ベッドは、同じ向きで配列され、
図2に示されるように、それぞれの壁部2aおよび壁部2bが同じ側に位置していることが好ましい。
【0030】
本発明の栽培装置において、複数の栽培ベッドが栽培ベッドの幅方向に沿って配列されている場合、隣り合う栽培ベッド間の間隔は、85~125cmの第1の間隔と第1の間隔よりも狭い45~65cmの第2の間隔とが交互となる周期で配置されていることが好ましい。ここで、第1の間隔は、台車や収穫装置が通る通路を設ける観点から広めに設定されており、85~125cmであることが好ましく、95~115cmであることが更に好ましい。第2の間隔は、果樹の株間の距離を確保する観点から設定されており、45~65cmであることが好ましく、50~60cmであることが更に好ましい。本明細書において、複数の栽培ベッドがその幅方向に沿って配列されている場合における、隣り合う栽培ベッド間の間隔とは、栽培ベッドの幅方向に沿った最短距離を指す。
図3は、6つの栽培ベッドが栽培ベッドの幅方向に沿って配列されている一例の概略図であり、ここで、S2が第1の間隔であり、S3が第2の間隔であり、S2とS3が交互となる周期で栽培ベッドが配置されている。なお、
図3に示される栽培ベッドには、後で詳細に説明する水切り用部材が設置されている。
【0031】
本発明の栽培装置において、複数の栽培ベッドがその幅方向に沿って配列されている場合、隣り合う栽培ベッドは、
図3に示されるように、第1の間隔S2において、低い方の壁部2bが向き合うように配置され、第2の間隔S3において、高い方の壁部2aが向き合うように配置されていることが好ましい。
【0032】
本発明の栽培装置は、少なくとも1つの栽培ポットを備える。栽培ポットは、果樹を植えて栽培するための容器である。本発明においては、果樹の土耕栽培が行われることが好ましく、果樹は、栽培ポット内の土壌に植えて栽培されることが好ましい。1つの栽培ポットに1本の果樹が栽培されていることが好ましい。栽培ポットは、1つでも複数でもよいが、果樹栽培の大規模化の観点から、本発明の栽培装置は、複数の栽培ポットを備えることが好ましい。栽培ベッド(複数の場合は各栽培ベッド)に置かれる栽培ポットは、1つでも複数でもよいが、果樹栽培の密植化・多収化の観点から、本発明の栽培装置は、栽培ベッド(複数の場合は各栽培ベッド)に複数の栽培ポットが置かれていることが好ましい。例えば、1つの栽培ベッドに、1~4個の栽培ポットが配置されていることが好ましい。
【0033】
栽培ポットは、上面を開放した容器であり、桶型、筒型、箱型、逆円錐台形状等の各種形状の栽培ポットが知られている。栽培ポットの底面には水抜きのための穴が開けられた構造が一般的である。栽培ポットの上面および下面の形状には、例えば、円形の他、四角形等の多角形がある。栽培ポットのサイズは、例えば、栽培ポットの最上部の縁の直径(内寸)によって分類される。ここで、栽培ポットの上面が多角形である場合は、その多角形に外接する円の直径を最上部の縁の直径(内寸)とする。栽培ポットのサイズは、果樹のサイズによって適宜選択されるが、例えば生長したブルーベリーの場合、栽培ポットの最上部の縁の直径(内寸)は、20~40cmであることを例示することができる。また、栽培ポットの高さについても同様に適宜選択されるものであるが、例えば生長したブルーベリーの場合、栽培ポットの高さは、20~40cmであることを例示することができる。
【0034】
栽培ポットは、木材、金属、素焼き、陶器、セラミック、布、プラスチック等の各種材料またはそれら材料の組み合わせから形成することができるが、プラスチック製の栽培ポットが好ましい。
【0035】
本発明の栽培装置において、栽培ポットは、栽培ベッド内に配置されており、具体的には栽培ベッドの一対の壁部の間で且つ栽培ベッドの底部の上に配置されている。
図4は、栽培ポットが栽培ベッドに配置されている一例の概略図である。
図4では、栽培ポット3が栽培ベッドの一対の壁部2a,2bの間で且つ栽培ベッドの底部1の上に配置されているが、栽培ベッドの底部1には水切り用部材が設置されているため、栽培ポット3は、水切り用部材上に置かれている。このように、栽培ポットは、栽培ベッドの底部の上に配置されるが、栽培ベッドの底部に接して置かれる必要はなく、栽培ポットと栽培ベッドの底部の間に水切り用部材等を配置することが可能である。
【0036】
本発明の栽培装置において、栽培ベッドの一対の壁部は、
図4に示されるように、一方の壁部2bの高さは他方の壁部2aの高さよりも低く、栽培ポット3を栽培ベッドの一方の壁部2b側に傾けることができるように構成されている。栽培ポット3を壁部2b側に傾けることで簡単に果実の収穫を行うことが可能となり、これによって、果実の収穫労力を低減することができる。なお、栽培ポットを傾けずに果樹を揺らして果実を落下させる方法も考えられるが、この方法では果実が落下時に損傷を受けやすいため、栽培ポット3を壁部2b側に傾けながら果樹を揺らす、あるいは手摘みで果実の収穫を行う方法が好ましい。
【0037】
本発明の栽培装置において、一対の壁部のうち高い方の壁部の上端の位置(
図4では、壁部2aの上端4の位置)は、栽培ポット3の高さH1の1/2の位置P1よりも高い位置にあることが好ましい。また、壁部2aの上端4の位置は、図示しないが、栽培ポットの上面5より高い位置にあってもよく、壁部2aの上端4の位置は、例えば、栽培ポットの上面5より0~15cm高い位置にあってもよい。
【0038】
本発明の栽培装置において、一対の壁部のうち低い方の壁部の上端の位置(
図4では、壁部2bの上端6の位置)は、栽培ポット3の高さH1の1/3の位置P2よりも低い位置にあることが好ましい。また、壁部2bの上端6の位置は、栽培ポット3の底面7より高い位置にあることが好ましく、壁部2bの上端6の位置は、例えば、栽培ポット3の底面7より5~10cm高い位置にあることが好ましい。
【0039】
本発明の栽培装置は、
図4に示されるように、一対の壁部2a,2bのうち一方の壁部2aの上端4の位置が、栽培ポット3の高さH1の1/2の位置P1よりも高い位置にあり、一対の壁部2a,2bのうち他方の壁部2bの上端6の位置が、栽培ポット3の高H1さの1/3の位置P2よりも低い位置にあることが好ましい。
【0040】
本発明の栽培装置において、複数の栽培ポットが栽培ベッドに配置されている場合、果樹栽培の密植化・多収化の観点から、複数の栽培ポットは、栽培ベッド内で隣り合う栽培ポット間の間隔が10~90cmの間隔で配置されていることが好ましく、30~50cmの間隔で配置されていることがさらに好ましい。本明細書において、隣り合う栽培ポット間の間隔とは、栽培ポットの縁と隣の栽培ポットの縁との最短距離を指す。
図5は、2つの栽培ポット3a,3bが栽培ベッドの底部1上で栽培ベッドの長さ方向に沿って一列に配置されている一例の概略図である。ここで、栽培ポット3aと栽培ポット3bの距離が、隣り合う栽培ポット間の間隔S4である。
【0041】
図5では、1つの栽培ベッドに複数の栽培ポットが配置されている場合について説明しているが、複数の栽培ポットが栽培ベッドの長さ方向に沿って一列に配列されている態様であれば、本発明の栽培装置が複数の栽培ベッドを備える場合であっても、同様に当てはまる。例えば、複数の栽培ベッドがその長さ方向に沿って一列に配列されている本発明の栽培装置の一実施形態において、これら複数の栽培ベッドに複数の栽培ポットが配置される場合、栽培ベッドの長さ方向に沿って隣り合う栽培ポット間の間隔は、10~90cmの間隔であることが好ましく、30~50cmの間隔であることがさらに好ましい。
【0042】
なお、栽培ベッド内でまたは栽培ベッドの長さ方向に沿って隣り合う栽培ポット間の間隔について上記した好ましい範囲は、収穫時期に果実の収穫が行われる果樹を植えた栽培ポット間の間隔について説明したものである。果樹がまだ結実しない若い果樹である場合には、栽培ベッド内でまたは栽培ベッドの長さ方向に沿って隣り合う栽培ポット間の間隔はさらに狭く設定することが可能であり、果樹栽培の密植化・多収化の観点から、栽培ベッド内でまたは栽培ベッドの長さ方向に沿って隣り合う栽培ポット間の間隔は10~90cmの間隔で配置されていることが好ましい。
【0043】
本発明においては、栽培ポットがある程度高い位置にあることが栽培ポットを傾ける上で有効である。例えば身長が150cm以上の人が作業を行うことを考慮すると、果実の収穫を容易に行う観点から、本発明の栽培装置において、栽培ポットが設置される位置は、本発明の栽培装置の設置面からの高さが60~80cmであることが好ましく、本発明の栽培装置の設置面からの高さが65~75cmであることが更に好ましい。ここで、栽培装置の設置面とは、例えば、屋外であれば地面等であり、屋内であれば床等が挙げられる。そして、栽培ポットが設置される位置について、栽培装置の設置面からの高さとは、栽培装置の設置面から栽培ポットの底面までの高さを指す。
【0044】
本発明の栽培装置は、栽培ベッドを設置するための栽培ベンチを更に備えることが好ましい。本発明においては、栽培ポットがある程度高い位置にあることが栽培ポットを傾ける上で有効であることから、栽培ベンチを用いて、栽培ポットが置かれた栽培ベッドをある程度高い位置に設置することが好ましい。本発明の栽培装置において、栽培ポットが置かれた栽培ベッドが栽培ベンチ上に設置されている場合、栽培装置の設置面とは、栽培ベンチが設置されている面であり、例えば、屋外であれば地面等であり、屋内であれば床等が挙げられる。
【0045】
本発明の一実施形態において、栽培ベンチは、栽培ベッドを載せるための台と、該台を支持する脚とを備える。栽培ベンチの台は、特に制限されるものではなく、メッシュ板等も含めた様々な天板の他、パイプ等の棒状部材を複数並べて形成される台であってもよい。
【0046】
栽培ベンチは、木材、金属、プラスチック等の各種材料またはそれら材料の組み合わせから形成することができるが、金属製の栽培ベンチが好ましい。
【0047】
図6は、栽培ベッド8が栽培ベンチ9に設置されている一例の概略図である。
図6の(a)は、側面図であり、
図6の(b)は、正面図である。
図6では、栽培ベンチ9は、複数のパイプ材から組み立てられた栽培ベンチであり、栽培ベンチ9の台は、4本のパイプ10を並べて形成されている。また、栽培ベンチ9は、4本の脚11で台を支えており、4本の脚11のうち同じ側にある2本の脚11は、栽培ベッド8の幅方向に架け渡した連結パイプ12で固定されている。4本の脚11は、栽培ベッドの設置面に埋められてもよく、これによって、栽培ベンチをその設置面に固定することができる。また、栽培ベンチ9の台を形成する4本のパイプ10は、栽培ベッド8の幅方向に架け渡した別の連結パイプ13上で固定されている。栽培ベンチ8には、2つの栽培ポット3が栽培ベッド8の底部1上で栽培ベッドの長さ方向に沿って一列に配置されている。栽培ベッドの底部1には水切り用部材が設置されているため、栽培ポット3は、水切り用部材上に置かれている。また、
図6では、壁部2b側で、壁部2bの上端6から栽培ポット3の上面5までの間の位置に、バンド14が、脚11に用いたパイプを利用して張られている。これによって、栽培ポット3を傾けた際に栽培ポット3を倒れにくくするとともに、栽培ポット3を倒しやすく且つ素早く起こすことが可能となる。なお、
図6において、栽培装置の設置面から栽培ポット3の底面までの高さH2は、栽培ベンチ9が設置されている面15から栽培ポット3の底面7までの高さを指す。
図6中の栽培ベンチ9の設置面15は、地面である。
【0048】
本発明の栽培装置は、バンドまたはネットを更に備え、バンドまたはネットは、栽培ポットを栽培ベッドの一対の壁部のうち低い方の壁部側に傾けた場合に、栽培ポットまたは栽培ポットに植えられた果樹を支えることができるように張られていることが好ましい。バンドまたはネットを用いることによって、栽培ポットを傾けた際に栽培ポットを倒れにくくするとともに、栽培ポットを倒しやすく且つ素早く起こすことが可能となる。バンドおよびネットは、ゴムや樹脂で作られたものが利用でき、具体例としてはマイカー線等が挙げられる。本発明の栽培装置において、バンドまたはネットは、栽培ベッドの一対の壁部のうち低い方の壁部側で、その低い方の壁部の上端から栽培ポットの上面までの間の位置に張られていることが好ましい。
図6では、バンド14が張られているが、これに代えて、ネットを用いることも可能である。また、
図6では、栽培ベンチ9の脚11の上端が栽培ベッド8の壁部2bの上端6より高い位置にあることから、栽培ベッド8の壁部2b側に位置する栽培ベンチ9の2本の脚11を利用してバンド14が張られているが、バンドやネットの張り方はこれに限定されるものではない。例えば、脚11に用いたパイプとは別の2本のパイプ(バンド用パイプ)を用いてバンドまたはネットを張ることも可能であり、例えば、このバンド用パイプを、スエジ加工等により、栽培ベンチの脚に用いたパイプと取り外し可能なパイプとすることが好ましい。本発明の栽培装置において、栽培ポットからバンドまたはネットまでの距離は、例えば1~3cmであることが好ましい。本明細書において、栽培ポットからバンドまたはネットまでの距離とは、先に定義された栽培ポットの縁からバンドまたはネットまでの最短距離を意味する。
【0049】
本発明の栽培装置は、栽培ベッドの底部と栽培ポットの間に配置された水切り用部材を更に備えることが好ましい。水切り用部材は、すのこ状の板部材であることが好ましく、栽培ベッドの底部に合うように、一方向に延在する長方形の板状部材であることが好ましい。
図7は、水切り用部材を底部に敷いた栽培ベッドの一例の概略図であり、
図1に示される栽培ベッド20に水切り用部材21を設置している図を示す。水切り用部材は、
図7に示されるように、上面、即ち栽培ポットの設置面には、好ましくは栽培ベッドの長さ方向に沿って、溝部22が形成されていることが好ましく、また、底面、即ち栽培ベッドの底部側の面には、好ましくは栽培ベッドの長さ方向に沿って、溝部23が形成されていることが好ましい。水切り用部材の上面に形成されている溝部および水切り用部材の底面に形成されている溝部は、それぞれ1つでも複数であってもよい。
【0050】
水切り用部材は、木材、プラスチック等の各種材料またはそれら材料の組み合わせから形成することができるが、プラスチック製の水切り用部材が好ましい。
【0051】
本発明の栽培装置は、栽培ポットを覆う断熱シートを更に備えることが好ましい。断熱シートによって栽培ポットを覆うことによって、栽培ポット内の環境制御が可能となり、特に栽培ポット内の温度が上昇することを防ぐことができる。断熱シートは、栽培ポットの側面のみならず、栽培ポットの上面についてもできる限り覆っていることが好ましい。断熱シートは、例えば、栽培ポットと共に、栽培ベッドおよび栽培ベンチも一緒に覆うように使用することが可能である。断熱シートは、農業・園芸で一般に使用されている断熱シートを利用することができる。断熱シートは、遮熱シートと称される場合もある。断熱シートは、遮光性であることも好ましい。
【0052】
本発明の栽培装置は、栽培ポット内に空気を供給するための空気供給装置を更に備えることが好ましい。特に、本発明の栽培装置が断熱シートを備える場合は、空気供給装置を備えることが好ましい。例えば、栽培ポット内に、夏は低温に冷やした空気、冬は温めた空気を供給することで、土壌中における果樹が根を張る領域の温度を適切な温度(13~20℃)に保つことが可能となる。
【0053】
空気供給装置は、例えば、栽培ポット内に空気を注入する注入管と、空気供給源(周囲環境等)から導管を通して注入管へ空気を送るための圧送機(圧縮機等)とを備える装置である。
【0054】
本発明の栽培装置は、果樹に灌水を行う灌水装置を更に備えることが好ましい。灌水は、通常の灌水でもよいが、養液を用いた潅水であることが好ましい。灌水装置は、ドリップ灌水を行うのに適した装置であることが好ましい。灌水装置は、例えば、養液供給源(養液タンク等)と、栽培ポット内に養液を注入する注入管と、養液供給源と注入管とを連結する導管と、養液供給源から導管を通して注入管へ養液を送るための圧送機(圧縮機等)とを備える装置である。
【0055】
本発明において、対象となる果樹は、特に制限されるものではないが、ブルーベリー、ラズベリー、ミカンやレモン等の柑橘類、サクランボウ、リンゴ、ナシ、ビワ、ブドウ、マンゴー、パパイヤ、ドラゴンフルーツ、バナナ、オリーブ、ヒメリンゴ、クリ、キンカン等の果樹などが好適に挙げられる。
【0056】
図8は、本発明の栽培装置の一実施形態を用いた果樹の栽培例の概略図である。
図8に示される果樹の栽培装置は、栽培ベッド30と、栽培ベッド30に配置された栽培ポット31と、栽培ベッド30を設置するための栽培ベンチ32とを備え、栽培ベッド30の底部と栽培ポット31の間には水切り用部材33が配置され、栽培ベッド30の低い方の壁部側で、その上端から栽培ポット31の上面までの間の位置にバンド34が張られている。そして、栽培ポット31では、果樹を植えて果樹の栽培が行われている。
【0057】
図9は、本発明の栽培装置の一実施形態を用いた果樹の栽培例の概略図である。
図9に示される果樹の栽培装置は、栽培ベッド30と、栽培ベッド30に配置された栽培ポット31と、栽培ベッド30を設置するための栽培ベンチ32と、栽培ベッド30、栽培ポット31および栽培ベンチ32を覆うための断熱シート35とを備え、栽培ベッド30の底部と栽培ポット31の間には水切り用部材33が配置され、栽培ベッド30の低い方の壁部側で、その上端から栽培ポット31の上面までの間の位置にバンド34が張られている。そして、栽培ポット31では、果樹を植えて果樹の栽培が行われている。
【0058】
本発明の別の態様は、上述した本発明の果樹の栽培装置を用いる果実の収穫方法であって、本発明の果樹の栽培装置の栽培ポットを栽培ベッドの低い方の壁部側に傾けながら、栽培ポットに植えられた果樹を揺らす、あるいは手で摘むことにより、果樹から果実を収穫することを特徴とする果実の収穫方法である。本明細書においては、この果実の収穫方法を「本発明の果実の収穫方法」または「本発明の収穫方法」とも称する。
【0059】
本発明の収穫方法によれば、果樹を傾けることにより果実を簡単に収穫することができ、果実の収穫労力を低減することができる。また、栽培ポットを傾けずに果樹を揺らして果実を落下させる方法と比較しても、果実の回収が容易であり、また、落下時に果樹の枝等にぶつかり果実が損傷する可能性が低くなる。本発明の収穫方法は、本発明の果樹の栽培装置の栽培ポットを栽培ベッドの低い方の壁部側に傾けながら、栽培ポットに植えられた果樹を揺らして、果樹から果実を収穫することが好ましい。
【0060】
本発明の収穫方法においては、栽培ポットを傾けることで、果実を栽培ベッドの外側に落下させることができることから、果実の収穫時に、例えば台車や収穫装置が通る通路を設ける観点から設定された、栽培ベッドの幅方向に沿って配列された隣り合う栽培ベッド間の隙間に、衝撃吸収材(シート等)を広げて、衝撃吸収材上に果実を落下させることができる。これによって、完熟果実を損傷させずに収穫することが可能である。
【0061】
また、本発明の収穫方法においては、栽培ポットを傾けることで、果実を栽培ベッドの外側に落下させることができることから、果実の収穫時に、例えば収穫装置に直接落下させることができるため、果実の収穫をより効率的に行うことが可能である。また、収穫装置における果実の落下位置に衝撃吸収材を設けることで、完熟果実を損傷させずに収穫することも可能となる。
【0062】
栽培ポットを傾けるには、例えば、栽培ポットを手動で傾ける方法や、栽培ベッド等に傾斜機構を設けて栽培ポットを自動で傾ける方法等がある。栽培ポットの傾斜角度は、30~60°であることが好ましい。本明細書において、栽培ポットの傾斜角度は、栽培ポットの中心軸の傾斜角度である。
【0063】
図10は、本発明の果実の収穫方法の一実施形態を説明するための概略図である。
図10に示される果樹の栽培装置は、栽培ベッド30と、栽培ベッド30に配置された栽培ポット31と、栽培ベッド30を設置するための栽培ベンチ32とを備え、栽培ベッド30の底部と栽培ポット31の間には水切り用部材33が配置され、栽培ベッド30の低い方の壁部側で、その上端から栽培ポット31の上面までの間の位置にバンド34が張られている。そして、栽培ポット31には、果樹を植えて果樹の栽培が行われている。また、
図10では、栽培ポットの中心軸に対し角度αで栽培ポット31を傾けており、この状態において、栽培ポット31に植えられた果樹を揺らす、あるいは手で摘むことにより、果樹から果実を収穫することができる。さらに、栽培ポット31を傾ける側にバンド34を配置したことで、栽培ポット31を傾けたときに栽培ポット31を支えることができる。
【0064】
果樹を揺らすには、例えば、果樹を手動で揺らす方法や、超音波の振動等を利用して果樹を自動で揺らす方法等がある。また、果樹を直接揺らすことも可能であるが、栽培ポットを揺らすことで果樹を間接的に揺らしてもよい。
【0065】
本発明の果樹の栽培装置および本発明の果実の収穫方法は、通常の果樹の栽培に利用することができる。例えば、東京農工大学が出願した特許文献、例えば国際公開第2014/156939号、特開2017-60464号公報、特開2019-44号公報等や、発明者が発表した学術論文等に記載される栽培方法において、本発明の果樹栽培装置および本発明の果実の収穫方法を好適に利用することができる。
【0066】
果樹の栽培方法においては、日長時間、光強度、灌水量、相対湿度、CO2濃度、土壌pH、土壌EC(Electric Conductivity(電気伝導度):肥料濃度を推定できる)等の各種パラメーターを果樹の生育に適した範囲に調節することが好ましい。また、このようなパラメーターは、光源、暖房機、冷房設備、送風機、除湿器、加湿器、換気扇、ドライミスト及び遮光カーテンといった各種の装置を単独で或いは組み合わせて使用することで実現することができる。そのためには、これら装置を組み込んだ人工光を利用した閉鎖系室や、これら装置を備える通常の太陽光を利用した温室が利用できる。
【実施例0067】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0068】
<実験1>
1)材料および方法
・目的:手摘みと揺さぶりによるブルーベリー果実の収穫を比較する。
・栽培装置:ブルーベリー果実の収穫には、
図8に従う栽培装置を用いて行った。ここで、栽培ベッドは、発泡スチロール製であり、一対の壁部と、一方向に延在する長方形板状の底部とを有する。栽培ベッドの長さ方向の長さは122cmであり、低い方の壁部の高さは16cmであり、高い方の壁部の高さは25cmであり、壁部間の間隔(内寸)は32.5cmであった。栽培ポットは、プラスチック製の逆円錐台形状の栽培ポットであり、最上部の縁の直径(内寸)は30.5cmであり、高さは30cmであった。また、栽培ベッドの一対の壁部のうち高い方の壁部の上端の位置は、栽培ポットの高さの1/2の位置よりも高い位置にあり、低い方の壁部の上端の位置は、栽培ポットの高さの1/3の位置よりも低い位置にあった。栽培装置の設置面から栽培ポットの底面までの高さは71cmであった。栽培ベンチの詳細な構造については
図6を参照されたい。バンドにはマイカー線を用い、栽培ポットの縁からバンドまでの距離は2cmであった。
・収穫品種:サザンハイブッシュブルーベリー‘ミスティ’(樹高は約155cm)
・処理区:対照区→手摘みで果実を収穫。
傾斜区→樹を揺さぶり、果実を落下させて収穫。
【0069】
2)収穫の様子
対照区(ポットを傾けない)
・栽培ポットは傾けずに収穫を行った。
・ブルーベリーの成熟度合いを判断しながら収穫を行ったが、収穫する際に落下した葉や花などの残渣も果実とともに回収して、調査した。
・樹上部の果実は手が届かないため台に乗って収穫を行った。
・収穫した果実と、その際に落下し残渣の写真を
図11に示す。
傾斜区(ポットを傾けた)
・
図10に示されるように栽培ポットを斜めに傾けて果樹(枝)を揺さぶり果実の収穫を行った(栽培ポットの傾斜角度:45度)。
・台車(縦65cm×横100cm×高さ50cm)にシートを敷いて収穫を行った。
・揺さぶり後、シート上に回収された果実や残渣などを選別した。
・収穫した果実と、その際に落下した残渣の写真を
図12に示す。
【0070】
3)収穫果実数および収穫時間の比較
・収穫した果実と収穫時間に関するデータを表1に示す。
・傾斜区は、対照区より未成熟果実が多く、果皮の破れた果実が少なかった。
・傾斜区では、19個の果実が落下せず、樹に残った。
・傾斜区の方が、対照区より短時間で収穫を完了することができた。なお、その後の選果時間に違いはほとんどなかった。
・傾斜区は、対照区の約1/3の時間で収穫が可能であった。
【0071】
【0072】
4)収穫物の割合の比較
・対照区と傾斜区において、正常の果実の収穫割合が75%程度であったことから、正常な果実の収穫割合に両区で相違がなかった。
【0073】
5)正常な果実の糖度および酸度
両処理区で収穫した正常の果実の糖度および酸度に差はなかった。結果を表2に示す。
【0074】
【0075】
6)収穫1週間後の果実
対照区と傾斜区の正常果実を、穴の開いたポリ袋に入れ、1週間、室温(25℃)と冷蔵庫(5℃)に保存したところ、両処理区とも外観的品質への影響はなかった。
【0076】
7)結論
・傾斜区は対照区と比較して収穫時間が短い。例えば、6000本の収穫を1巡するのに対照区では25.8日かかるところ、傾斜区では9.3日で完了することができる。
・傾斜区は、熟度を判別する必要がなく、対照区より単純に収穫を行うことが可能である。
・対照区では、作業者は、樹上部の収穫の際に、上向き姿勢で且つ腕を持ち上げる必要があったが、傾斜区では、無理な体勢をとることなく、収穫が可能であった。
【0077】
<実験2>
1)材料および方法
・目的:栽培ポットの傾斜角度が揺さぶり収穫に及ぼす影響および揺さぶり収穫による品種間差を明確にする。
・栽培装置:ブルーベリー果実の収穫には、実験1と同じ栽培装置を用いて行った。
・収穫品種:サザンハイブッシュブルーベリー‘ミスティ’、‘シャープブルー’
・処理区:対照区→手摘みで果実を収穫(栽培ポットは傾けていない)。
60度傾斜区→樹を大きく傾け、揺さぶって収穫(栽培ポットの傾斜角度:約60度)。
図10を参照。
40度傾斜区→樹を小さく傾け、揺さぶって収穫(栽培ポットの傾斜角度:約40度)。
図10を参照。
・収穫方法:対照区→適宜ポットを回しながら、手摘みで収穫。
傾斜区→ポットを60度または40度に傾けて枝を揺さぶり、収穫シート上に落下した果実を回収。
・収穫に使用した台車:縦65cm×横100cm×高さ80cmの台車上部にシートを敷いて収穫。
・測定項目:
収穫時間→対照区は手摘みにかかった秒数。
傾斜区は枝を揺さぶって果実を落下させた秒数。
収獲果数→成熟果(着色)および未熟果(緑色)に区別したときの各果数。
【0078】
2)収穫の様子
・傾斜区において、ポットの傾斜角度60度の方が40度より樹が収穫シートに近かった。
・傾斜区の傾斜角度は、60度ではマイカー線を株元にあて、40度ではマイカー線をポットにあてることで調整した。
【0079】
3)結果:収穫果数、収穫時間
結果を表3に示す。
・収穫時間はミスティ、シャープブルーともに、対照区より傾斜区の方が短かった。
・ポットの傾斜角度による揺さぶり収穫を品種ごとに比較すると、両傾斜区には傾斜角度による大きな違いはみられず、実験の範囲内では40~60度の傾斜角度で短時間の収穫が可能であった。
・ミスティよりシャープブルーの方が揺さぶり収穫にかかる時間がほぼ1/2となり、短かった。
【0080】
【0081】
5)まとめ
栽培ポットの傾斜角度が揺さぶり収穫に及ぼす影響
・栽培ポットの傾斜角度によって収穫時間や収量に大きな差はみられなかったことから、本実験の範囲内ではポットの傾斜角度は40~60度が適切であった。
揺さぶり収穫による品種間差
・収穫時間は、両品種とも、傾斜区の方が対照区より短かった。
・ミスティの方がシャープブルーより収穫時間が短かった。