(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064789
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】T細胞を評価する方法及びT細胞を評価するための組成物
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20230502BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20230502BHJP
C12Q 1/6816 20180101ALI20230502BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20230502BHJP
【FI】
C12Q1/06 ZNA
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6816 Z
C12Q1/6851 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175127
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 新
(72)【発明者】
【氏名】河合 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山口 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】熊木 勇一
(72)【発明者】
【氏名】二見 達
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR48
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR90
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 新たな指標によってT細胞の品質を評価できるT細胞の評価方法を提供すること。
【解決手段】 T細胞における、下記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する検出工程と、
前記遺伝子の発現を指標としてT細胞の品質を評価する評価工程と、
を含む、T細胞の評価方法。
(I)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞における、下記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する検出工程と、
前記遺伝子の発現を指標としてT細胞の品質を評価する評価工程と、
を含む、T細胞の評価方法。
(I)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【請求項2】
前記検出工程が、前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現産物に特異的に結合するプローブ分子を用いて前記発現産物を検出する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発現産物が、前記(I)~(III)の遺伝子のうちのいずれか1つにコードされるポリペプチドであり、かつ、前記プローブ分子が、前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体及び/又はアプタマーである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記評価工程が、前記遺伝子の発現を指標としてT細胞の増殖能を評価する工程である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が、下記(I’)~(III’)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
(I’)配列番号4、7、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II’)配列番号4、7、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III’)配列番号4、7、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【請求項6】
前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が、下記(I’’)~(III’’)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
(I’’)配列番号4、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II’’)配列番号4、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III’’)配列番号4、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【請求項7】
前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が、下記(I’’’)~(III’’’)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
(I’’’)配列番号4及び17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II’’’)配列番号4及び17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III’’’)配列番号4及び17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【請求項8】
請求項2~7のいずれか一項に記載の方法に用いるための試薬であり、下記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現産物に特異的に結合するプローブ分子を含有する、T細胞評価用試薬。
(I)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【請求項9】
前記発現産物が、前記(I)~(III)の遺伝子のうちのいずれか1つにコードされるポリペプチドであり、かつ、前記プローブ分子が、前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体及び/又はアプタマーである、請求項8に記載の試薬。
【請求項10】
前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が、下記(I’)~(III’)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である、請求項8又は9に記載の試薬。
(I’)配列番号4、7、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II’)配列番号4、7、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III’)配列番号4、7、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【請求項11】
前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が、下記(I’’)~(III’’)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である、請求項8~10のいずれか一項に記載の試薬。
(I’’)配列番号4、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II’’)配列番号4、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III’’)配列番号4、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【請求項12】
前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が、下記(I’’’)~(III’’’)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である、請求項8~11のいずれか一項に記載の試薬。
(I’’’)配列番号4及び17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II’’’)配列番号4及び17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III’’’)配列番号4及び17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞を評価する方法及びT細胞を評価するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍等のがんや慢性難治性感染症などの疾患に対する新しい治療方法として、当該疾患に関連する抗原特異的な細胞傷害性T細胞(CTL:Cytotoxic T Lymphocyte)を用いた細胞免疫療法が知られている。近年では、がん治療に有効な手段として、患者からT細胞(未改変T細胞)を採取し、がん攻撃能力が高まるように遺伝子改変して遺伝子改変T細胞とした後、当該遺伝子改変T細胞を元の患者に戻してがんを治療するがん免疫療法が期待を集めている。
【0003】
また、患者から採取したT細胞では、細胞疲弊が起こりやすかったり、増殖培養(又は拡大培養)が困難であるといった課題を有していることから、用いることができる細胞数に制限のないiPS細胞に由来するT細胞を利用した、がん免疫療法の開発も進められている。例えば、特許文献1には、CD4+CD8+T細胞を、インターロイキン7及びTCR(T細胞受容体)活性化剤を含む培地で培養し、CD8α+β+CTLを誘導する方法が記載されている。
【0004】
iPS細胞に由来するT細胞では、iPS細胞株や培養条件等によって品質が異なるため、得られたT細胞においては、その品質を評価して前記がん免疫療法に適したものを選択する必要がある。また、得られた遺伝子改変T細胞についても、その品質を評価して目的の遺伝子改変T細胞として適したものを選択する必要がある。このようなT細胞の品質評価項目としては、具体的に、例えば、T細胞の各段階で発現する分化マーカーの発現解析、TCR刺激後に産生されるサイトカイン量の解析、増殖能、細胞傷害活性、動物実験でのがん細胞抑制活性等が挙げられる。T細胞の品質は、これらの項目によって総合的に評価されるが、かかる評価は、煩雑であったり長期間を要する場合が多い。さらに、評価にかかるコストも高額なことから、より簡便かつ短期間でT細胞の品質を評価できる方法が求められている。
【0005】
このようなT細胞の品質評価方法としては、例えば、PD-1やlag3等の発現量とT細胞の疲弊化との間に関係があることが見出されているため(非特許文献1)、これらのタンパク質をT細胞の疲弊化マーカーとして、その発現量によってT細胞の疲弊化を評価する方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Daniel L.Barberら,Nature,439,2006年,p.682-687
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
in vitroにおいて、上記の疲弊化マーカーは、長期間培養によりかなりT細胞の疲弊化が進んでから発現する。そのため、iPS細胞から分化誘導した直後のT細胞等、比較的若いT細胞の品質を評価するためには不向きであることを本発明者らは見出した。従来、このように比較的若いT細胞の品質も評価できるマーカーは特定されていない。
【0009】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、新たな指標によって比較的若いT細胞の品質も評価できるT細胞の評価方法、及びそれに用いるT細胞評価用試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、増殖能が高いT細胞(高品質T細胞)及び増殖能が比較的低いT細胞(低品質T細胞)についてセクレトーム(secretome)解析及びトランスクリプトーム(transcriptome)解析を行なった。これらの解析で得られたデータを用い、前記高品質T細胞及び前記低品質T細胞において、相互関係検索法を用いたKeyMolnet解析(KMデータ社)により、遺伝子の発現量の差が大きく、かつ、T細胞の品質(増殖能)に関連する可能性の高いシグナル伝達経路を特定した。さらに、セクレトーム解析データについて、前記高品質T細胞及び前記低品質T細胞における主成分解析(PCA)を行なったところ、T細胞の品質(増殖能)と特定のタンパク質(セクレトーム)の発現量との間に、特定の関係があることを見出した。より具体的には、上記PCAで第一主成分の主成分負荷量の絶対値が1に近い遺伝子ほど、T細胞の品質に寄与することを見出した。かかる知見より、上記で特定したシグナル伝達経路に属するタンパク質の中からさらに、セクレトームであって、その発現量比(細胞品質が異なる細胞群間での発現量比)の値が小さい、又は大きくなる(すなわち、前記発現量の差が大きい)タンパク質を特定したところ、これらのタンパク質は、上記の第一主成分の主成分負荷量の絶対値が1に近いものであることが確認された。したがって、当該タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子をT細胞の品質評価用のマーカーとし、その発現を指標とすることによって、T細胞の品質を評価することができる。さらに、これら遺伝子は、T細胞のTCR刺激回数の少ない比較的初期に発現する遺伝子であることから、その発現を指標とすることによって、比較的若いT細胞の品質も評価できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の態様は以下のとおりである。
【0012】
[1] T細胞における、下記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する検出工程と、
前記遺伝子の発現を指標としてT細胞の品質を評価する評価工程と、
を含む、T細胞の評価方法。
(I)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【0013】
[2] 前記検出工程が、前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現産物に特異的に結合するプローブ分子を用いて前記発現産物を検出する工程である、[1]に記載の方法。
【0014】
[3] 前記発現産物が、前記(I)~(III)の遺伝子のうちのいずれか1つにコードされるポリペプチドであり、かつ、前記プローブ分子が、前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体及び/又はアプタマーである、[2]に記載の方法。
【0015】
[4] 前記評価工程が、前記遺伝子の発現を指標としてT細胞の増殖能を評価する工程である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
【0016】
[5] 前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が、下記(I’)~(III’)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法。
(I’)配列番号4、7、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II’)配列番号4、7、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III’)配列番号4、7、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【0017】
[6] 前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が、下記(I’’)~(III’’)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。
(I’’)配列番号4、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II’’)配列番号4、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III’’)配列番号4、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【0018】
[7] 前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が、下記(I’’’)~(III’’’)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法。
(I’’’)配列番号4及び17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II’’’)配列番号4及び17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III’’’)配列番号4及び17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【0019】
[8] [2]~[7]のいずれか一項に記載の方法に用いるための試薬であり、下記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現産物に特異的に結合するプローブ分子を含有する、T細胞評価用試薬。
(I)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【0020】
[9] 前記発現産物が、前記(I)~(III)の遺伝子のうちのいずれか1つにコードされるポリペプチドであり、かつ、前記プローブ分子が、前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体及び/又はアプタマーである、[8]に記載の試薬。
【0021】
[10] 前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が、下記(I’)~(III’)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である、[8]又は[9]に記載の試薬。
(I’)配列番号4、7、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II’)配列番号4、7、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III’)配列番号4、7、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【0022】
[11] 前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が、下記(I’’)~(III’’)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である、[8]~[10]のいずれか一項に記載の試薬。
(I’’)配列番号4、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II’’)配列番号4、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III’’)配列番号4、8、17、20及び38のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【0023】
[12] 前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子が、下記(I’’’)~(III’’’)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である、[8]~[11]のいずれか一項に記載の試薬。
(I’’’)配列番号4及び17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II’’’)配列番号4及び17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III’’’)配列番号4及び17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、新たな指標によってT細胞の品質を評価できるT細胞の評価方法、及びそれに用いるT細胞評価用試薬を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】T細胞株24種類における、全800種のセクレトームのデータについて主成分分析(PCA)を行なって得られた散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0027】
<T細胞の評価方法>
本発明のT細胞の評価方法は、
T細胞における、下記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する検出工程と、
前記遺伝子の発現を指標としてT細胞の品質を評価する評価工程と、
を含む方法(以下、場合により、単に「本発明の方法」という)である。
(I)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【0028】
[T細胞]
本発明において、T細胞の由来としては特に制限はなく、動物由来であっても、人由来であってもよく、健常者由来のT細胞であってもよいし、患者(例えば、免疫機能が低下している人又は動物や、悪性腫瘍、感染症又は自己免疫疾患を患っている人又は動物)由来のT細胞であってもよい。さらには、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)等の多能性幹細胞から分化誘導したT細胞;造血幹細胞等の体性幹細胞から分化誘導したT細胞;株化したT細胞であってもよい。
【0029】
人から採取されたT細胞の場合には、例えば、抹消血から分離された抹消血単核細胞(PBMC:Peripheral Blood Mononuclear Cells)より、従来公知の方法や市販のキット等を用いてT細胞を単離することができる。また、本発明に係るT細胞としては、ナイーブ(naive)T細胞であってもよく、抗原刺激されたメモリーT細胞やエフェクターT細胞であってもよい。エフェクターT細胞としては、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、制御性T細胞、ナチュラルキラーT(NK/T)細胞のいずれであってもよい。
【0030】
また、本発明において、「T細胞」には、人為的な遺伝子改変がなされていないT細胞(以下、場合により「未改変T細胞」という)の他、前記未改変T細胞に人為的な遺伝子改変がなされた「遺伝子改変T細胞」も含む。なお、本発明において、「人為的な遺伝子改変」には、T細胞への遺伝子導入又はT細胞の遺伝子編集によりT細胞の機能を改変することを含む。前記人為的な遺伝子改変としては、T細胞が有する遺伝子そのものの改変であっても、T細胞が有する遺伝子そのものの欠損であっても、外来の遺伝子が導入された改変であっても、これらの2種以上を組み合わせたものであってもよい。
【0031】
前記人為的な遺伝子改変の方法としては、従来公知の方法やそれに準じた方法が挙げられ、特に限定されない。T細胞への遺伝子導入としては、例えば、T細胞の機能を改変させる遺伝子そのもの(DNA、mRNA、miRNA、アンタゴmir、ODN(オリゴデオキシリボヌクレオチド)等)、又は当該遺伝子を挿入したベクター(レンチウイルスベクター、γ-又はα-レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ウマ脳炎ウイルスベクター等)のT細胞への導入が挙げられ、T細胞の遺伝子編集としては、例えば、部位特異的ヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、PPR(Pentatricopeptide repeat)、CRISPR-Cas等)を用いたT細胞の遺伝子の編集(ゲノム編集)が挙げられる。本発明において、前記人為的な遺伝子改変の方法としては、これらの1種を単独であっても2種以上を組み合わせたものであってもよい。
【0032】
前記T細胞の機能を改変させる遺伝子としては、例えば、T細胞より分泌されるタンパク質;T細胞表面に発現するタンパク質及び少なくとも1つの細胞内シグナリングドメインを含む融合タンパク質;T細胞表面に発現するタンパク質、少なくとも1つの共刺激ドメイン、及び少なくとも1つの細胞内シグナリングドメインを含む融合タンパク質が挙げられ、より具体的には、細胞表面酵素、細胞接着因子、受容体(例えば、キメラ抗原受容体)、及びこれらを構成するサブユニットが挙げられる。
【0033】
[検出工程]
(標的遺伝子)
本発明の方法に係る検出工程においては、T細胞における、下記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を検出する。
(I)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【0034】
ここで、前記(I)~(III)の遺伝子からなる群において、(I)の遺伝子、(II)の遺伝子、及び(III)の遺伝子としては、それぞれ独立に、1種を単独であっても2種以上であってもよい。
【0035】
前記(I)~(III)の遺伝子のうちのいずれか1つにコードされるポリペプチドは、T細胞由来のセクレトーム(secretome)に含まれることが好ましい。本発明において、「セクレトーム」とは、細胞から分泌される又は細胞膜の中から細胞外に露出されるタンパク質を示し、これらタンパク質の全部又は一部が細胞に内在する態様も含む。これらのセクレトームの中でも、細胞に非侵襲的な方法で検出可能な観点から、T細胞から分泌され、かつ、細胞培養液の上清中に存在する分泌タンパク質であることが好ましい。
【0036】
本発明において、発現が検出される遺伝子(以下、場合により「標的遺伝子」という)は、ヒト由来のものであれば、典型的には、「(I)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子」である。下記の表1~3に、配列番号1~54に記載のアミノ酸配列について、各アミノ酸配列の配列番号及びGenBank Accession No.(GenBank No.);各アミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の典型的なヌクレオチド配列の配列番号とそのオープンリーディングフレーム(ORF位置)、及びGenBank Accession No.(GenBank No.);各アミノ酸配列からなるポリペプチドが対応するタンパク質の略称(タンパク質略称)を示す。さらに、下記の実施例の主成分分析(PCA)により得られた各タンパク質の発現量の、第一主成分の主成分負荷量(principal component loading)も合わせて示す。また、下記の表4~6に、表1~3に記載の各タンパク質略称について、正式名(フルネーム)及び存在する場合には別名を示す。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
本発明者らは、T細胞の品質評価用のマーカーとして利用することが可能なタンパク質として、相互関係検索法を用いた高品質T細胞及び低品質T細胞のKeyMolnet解析(KMデータ社)により、細胞品質が異なる細胞群間で発現量の差が大きい遺伝子がコードするタンパク質が属するシグナル伝達経路を特定した。また、本発明者らは、セクレトーム(タンパク質)の解析により、高品質T細胞及び低品質T細胞において、タンパク質の発現量についての主成分解析(PCA)によって得られるPC1スコアとT細胞の品質とPC1スコアとの間には高い関連性があり、第一主成分の主成分負荷量の絶対値が1に近いタンパク質ほど、T細胞の品質に寄与することを見出した。かかる知見より、上記で特定したシグナル伝達経路に属するタンパク質の中からさらに、セクレトームであって、その発現量比(細胞品質が異なる細胞群間での発現量比)が小さい又は大きい(すなわち、前記発現量の差が大きい)タンパク質を特定したところ、これらタンパク質は、第一主成分への寄与率が高い(具体的には、発現量の第一主成分に対する主成分負荷量の絶対値が0.4以上、好ましくは0.8以上である)タンパク質であることが確認された。表1~3に記載の、配列番号1~54で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド及び配列番号55~108で示されるヌクレオチド配列からなる遺伝子は、それぞれ、このように選出されたタンパク質に含まれるアミノ酸配列及び前記タンパク質をコードする遺伝子の典型的ヌクレオチド配列である。よって、これらの前記第一主成分への寄与率が高い、配列番号1~54のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子の発現は、T細胞の品質評価の指標とすることができる。表1~3中、「up」と記載の遺伝子は、その遺伝子がコードするアミノ酸配列からなるポリペプチドが対応するタンパク質が、セクレトーム解析で高品質T細胞群における当該タンパク質の発現平均値と低品質T細胞群における当該タンパク質の発現平均値とを比較したときに高品質T細胞で発現量が有意に高いものであり、高品質T細胞で発現量が増加する。他方、「down」と記載の遺伝子は、その遺伝子がコードするアミノ酸配列からなるポリペプチドが対応するタンパク質が、セクレトーム解析で高品質T細胞群における当該タンパク質の発現平均値と低品質T細胞群における当該タンパク質の発現の平均値とを比較したときに低品質T細胞で発現が有意に高いものであり、高品質T細胞で発現量が減少する。
【0044】
本発明においては、前記「(I)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子」の相同遺伝子(例えば、ヒト以外の生物におけるカウンターパート遺伝子)を前記標的遺伝子とすることもできる。また、遺伝子のヌクレオチド配列は、その変異などにより、自然界において(すなわち、非人工的に)変異し得ることから、本発明においては、このような天然の変異体も、前記標的遺伝子とすることができる。さらに、現在の技術水準においては、当業者であれば、例えば、前記(I)の遺伝子情報が得られた場合、そのヌクレオチド配列を改変し、そのコードするアミノ酸配列とは異なるが、機能改変したタンパク質を調製することもできるため、このような改変体も、前記標的遺伝子としてよい。
【0045】
したがって、本発明に係る標的遺伝子の態様には、「(II)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子」も含まれる。ここで、「アミノ酸残基が、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」とは、アミノ酸残基が、置換、欠失、挿入、若しくは付加されたアミノ酸配列、又は、これらの2種以上の組み合わせがなされたアミノ酸配列であることを示す。また、「複数個」とは、例えば、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、又は2個の整数であることが好ましいが、これに制限されない。1若しくは複数個のアミノ酸残基とは、好ましくはアミノ酸残基が1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、さらに好ましくは1個以上3個以下、特に好ましくは2個以下である。
【0046】
さらに、現在の技術水準においては、当業者であれば、例えば、前記(I)の遺伝子情報が得られた場合、そのヌクレオチド配列に基づいて、ハイブリダイゼーション技術(Southern,E.M.,J.Mol.Biol.,98:503-517,1975)や、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki,R.K.,et al.Science,230:1350-1354,1985、Saiki,R.K.et al.Science,239:487-491,1988)等により、他の生物や細胞から相同遺伝子を取得可能である。
【0047】
したがって、本発明に係る標的遺伝子の態様には、「(IV)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列」も含まれる。相同遺伝子を単離するためには、通常、ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーション後のメンブレンの洗浄操作を、高温下、低塩濃度溶液中で行なうことを示し、かかる条件としては、例えば、30mMクエン酸三ナトリウム及び300mM塩化ナトリウム(2×SSC)を含有する、0.5%(w/v)SDS溶液中で60℃、20分間の洗浄条件が挙げられる。また、ハイブリダイゼーションは、例えば、公知であるECLダイレクトDNA/RNAラベリング・検出システム(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)に添付の使用説明書に記載の方法にしたがって実施することができる。ハイブリダイゼーションの条件が厳しくなるほど、高い相同性を有するDNAの単離を期待し得る。ただし、これらの条件は例示であり、DNAの濃度、DNAの長さ、ハイブリダイゼーションの反応時間等を適宜組み合わせることにより、必要な厳密性(ストリンジェンシー)を実現可能である。
【0048】
さらに、例えばこのような方法にて取得された相同遺伝子がコードするタンパク質は、通常、配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と高い同一性を有する。したがって、本発明に係る標的遺伝子の態様には、「(III)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子」も含まれる。アミノ酸配列の同一性は、例えば、BLASTPのプログラム(Altschulら,J.Mol.Biol.,215,1990年、p.403-410)を用いて決定することができる。また、配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列との同一性は、典型的には、70%以上であることが好ましく、より好ましくは、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)である。
【0049】
本発明においては、好ましくは、標的遺伝子は、表1~3に記載の遺伝子のうち、下記(I’)~(III’)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子である。
(I’)配列番号4、7、8、17、20及び38(より好ましくは配列番号4、8、17、20及び38;さらに好ましくは配列番号4及び17)のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II’)配列番号4、7、8、17、20及び38(より好ましくは配列番号4、8、17、20及び38;さらに好ましくは配列番号4及び17)のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III’)配列番号4、7、8、17、20及び38(より好ましくは配列番号4、8、17、20及び38;さらに好ましくは配列番号4及び17)のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
ここで、前記(I’)~(III’)の遺伝子からなる群において、(I’)の遺伝子、(II’)の遺伝子、及び(III’)の遺伝子としては、それぞれ独立に、1種を単独であっても2種以上であってもよい。
【0050】
(遺伝子の発現の検出)
本発明において、「遺伝子の発現を検出する」とは、遺伝子の発現の有無の検出及び発現の程度の検出の双方を含む意であり、本発明においては、前記標的遺伝子の発現を検出する。遺伝子の発現量は、絶対量として又は相対量として把握することができる。相対量を把握する場合には、例えば、用意した標準試料の遺伝子の発現量と比較して判断することができる。「標準試料」とは、標的遺伝子を発現しているか否か、又は発現している場合にはその量が事前に特定されている試料を示す。例えば、品質が良い又は悪いことが事前に特定されているT細胞を前記標準試料とすることができる。
【0051】
本発明において、「遺伝子の発現」とは、遺伝子の転写及び翻訳の双方を含む意である。したがって、本発明における「遺伝子の発現の検出」には、転写レベル(mRNAレベル)での検出、及び翻訳レベル(タンパク質レベル)での検出(すなわち、前記遺伝子にコードされるポリペプチドの検出)の双方が含まれる。
【0052】
また、真核細胞では、遺伝子の転写過程で、mRNA前駆体中のイントロンを除去し、前後のエキソンを再結合する反応(スプライシング(splicing))が生じるが、エキソンの再結合に多様性が生じる場合があり、これにより様々な成熟mRNAが生産される。ひいては、それにより様々なタンパク質が翻訳される。このようなスプライシングの違いにより生じる多様なmRNAやタンパク質を「スプライシングバリアント(splicing variant)」という。したがって、本発明における遺伝子の発現の検出には、下記のプローブ分子に特異的に認識される限り、当該スプライシングバリアントの検出も含まれる。
【0053】
本発明における遺伝子の発現の検出には、適宜公知の手法又はそれに準じた手法を用いることができる。中でも、本発明の方法に係る検出工程としては、前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子(すなわち、前記標的遺伝子)の発現産物に特異的に結合するプローブ分子を用いて前記発現産物を検出することが好ましい。
【0054】
〔転写レベルでの検出(標的ポリヌクレオチドの検出)〕
転写レベルでの検出において、前記標的遺伝子の発現産物は、当該標的遺伝子から転写されたmRNA(以下、場合により「標的ポリヌクレオチド」という)である。前記標的ポリヌクレオチドには、前記mRNAを鋳型とするcDNAも含む。この場合の検出方法としては、例えば、前記プローブ分子として、前記標的ポリヌクレオチドの塩基配列中の適切な位置にハイブリダイズするように設計したオリゴヌクレオチドプローブを用い、ノーザンブロッティング、ドットブロット、RNaseプロテクションアッセイ、DNAマイクロアレイ解析法、in situハイブリダイゼーション法等によって、前記標的ポリヌクレオチドを検出する方法が挙げられる。
【0055】
この場合には、例えば、前記オリゴヌクレオチドプローブとして、標識物質によって標識されたものを用い、当該標識物質に応じたシグナルを検出して、検出されたシグナル量を前記標的ポリヌクレオチドの量(すなわち、標的遺伝子の発現量)とすることができる。このときの標識物質としては、例えば、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、FAM(フルオレセインアミダイト)、DEAC(7-(ジエチルアミノ)クマリン)、R6G(ローダミン6G)、Texas Red、Cy5、BODIPY FL(商品名)等の蛍光物質;β-D-グルコシダ―ゼ、ルシフェラーゼ、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)等の酵素;3H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体;ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質;ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質が挙げられる。
【0056】
なお、本発明において、「シグナル」には、呈色(発色)、反射光、発光、消光、蛍光、放射性同位体による放射線等が含まれ、肉眼で確認できるものの他、シグナルの種類に応じた測定方法・装置によって確認できるものも含まれる。
【0057】
また、例えば、前記プローブ分子として、前記標的ポリヌクレオチド中の適切な位置を挟み込むように設計したオリゴヌクレオチドプライマーを用い、PCR法、RT-PCR法、TRC(Transcription Reverse transcription Concerted)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、TMA(Transcription-Mediated Amplification)法等によって、前記標的ポリヌクレオチドを増幅して検出する方法も挙げられる。
【0058】
この場合には、例えば、得られた増幅産物に蛍光色素(例えば、エチジウムブロマイド、SYBR Green(商品名)、SYTO63(商品名)等)をインターカレートして得られたシグナル(蛍光)を検出して、検出されたシグナル量(蛍光強度)を、前記標的ポリヌクレオチドの量(すなわち、標的遺伝子の発現量)とすることができる。また、前記オリゴヌクレオチドプローブと組み合わせて検出してもよい(ダブルダイプローブ法等)。さらに、前記標的ポリヌクレオチドを含む試料を直接シーケンサーに供して解析することにより、前記標的ポリヌクレオチドの量としてもよい。
【0059】
このようなオリゴヌクレオチドプローブ及びオリゴヌクレオチドプライマーは、当業者であれば、前記標的ポリヌクレオチドの配列に基づいて、公知の方法又はそれに準じた方法で設計することができる。また、前記オリゴヌクレオチドプローブ及びオリゴヌクレオチドプライマーの長さは、それぞれ独立に、少なくとも15塩基であることが好ましく、通常は、15~100塩基であり、好ましくは17~30塩基であり、より好ましくは20~25塩基である。前記オリゴヌクレオチドプローブ及びオリゴヌクレオチドプライマーは、例えば、市販のオリゴヌクレオチド合成機により合成することができる。また、天然のヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチド及び/又はリボヌクレオチド)のみから構成されていなくともよく、例えば、PNA(polyamide nucleic acid)、LNA(登録商標、locked nucleic acid)、ENA(登録商標、2’-O,4’-C-Ethylene-bridged nucleic acids)等の非天然型のヌクレオチドにてその一部又は全部が構成されていてもよい。
【0060】
〔翻訳レベルでの検出(標的ポリペプチドの検出)〕
翻訳レベルでの検出において、前記標的遺伝子の発現産物は、当該標的遺伝子にコードされるポリペプチド(以下、場合により「標的ポリペプチド」という)である。より具体的には、前記(I)~(III)の遺伝子のうちのいずれか1つにコードされるポリペプチドであり、すなわち、下記(i)~(iii)のポリペプチドからなる群から選択されるポリペプチドである。
(i)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド
(ii)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチド
(iii)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【0061】
前記(i)~(iii)のポリペプチドからなる群において、(i)のポリペプチド、(ii)のポリペプチド、及び(iii)のポリペプチドとしては、それぞれ独立に、1種を単独であっても2種以上であってもよい。
【0062】
これらの中でも、前記(i)~(iii)のポリペプチドとしては、前記(I’)~(III’)の遺伝子のうちのいずれか1つにコードされるポリペプチド、すなわち、下記(i’)~(iii’)のポリペプチドからなる群から選択されるポリペプチドであることが好ましい。
(i’)配列番号4、7、8、17、20及び38(より好ましくは配列番号4、8、17、20及び38;さらに好ましくは配列番号4及び17)のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド
(ii’)配列番号4、7、8、17、20及び38(より好ましくは配列番号4、8、17、20及び38;さらに好ましくは配列番号4及び17)のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチド
(iii’)配列番号4、7、8、17、20及び38(より好ましくは配列番号4、8、17、20及び38;さらに好ましくは配列番号4及び17)のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【0063】
前記(i’)~(iii’)のポリペプチドからなる群においても、(i’)のポリペプチド、(ii’)のポリペプチド、及び(iii’)のポリペプチドとしては、それぞれ独立に、1種を単独であっても2種以上であってもよい。
【0064】
また、本発明において、検出対象となるこれらの標的ポリペプチドとしては、上記のセクレトーム(T細胞由来セクレトーム)であることが好ましい。
【0065】
翻訳レベルでの検出の場合の検出方法の一例としては、抗ポリペプチド抗体及び/又はアプタマーによる検出や、標識アミノ酸による検出が挙げられる。
【0066】
〈抗ポリペプチド抗体及び/又はアプタマーによる検出〉
翻訳レベルでの検出の場合の検出方法としては、例えば、前記プローブ分子として、前記標的ポリペプチドに特異的に結合する抗体(以下、場合により「抗ポリペプチド抗体」という)及び/又はアプタマー(以下、場合により、単に「アプタマー」という)を用い、免疫細胞染色法、イメージングサイトメトリー、フローサイトメトリー、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法、イムノブロッティング(ウェスタンブロット法等)、抗体アレイ、in vivo イメージング等の抗体を用いて検出する方法(免疫学的手法);前記抗体に代えてアプタマーを用いて検出する方法が挙げられる。また、前記免疫学的手法は、必要な試薬を調製した上で、AIA-900(東ソー社製)等のエンザイムイムノアッセイ装置やAIA-CL2400(東ソー社製)等の化学発光酵素免疫測定装置を用いて自動的に行なってもよい。
【0067】
本発明において、「抗体」は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、また、抗体の機能的断片であってもよい。また、「抗体」には、免疫グロブリンの全てのクラス及びサブクラスが含まれる。抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、本発明においては、前記標的遺伝子にコードされるポリペプチドを特異的に認識するものを示す。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー(Diabody)、多特異性抗体、短鎖抗体、及びこれらの重合体等が挙げられる。
【0068】
本発明に係る抗ポリペプチド抗体は、ポリクローナル抗体であれば、抗原(標的ポリペプチド、その部分ペプチド、又はこれらを発現する細胞等)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィー等)によって、適宜精製して取得することができる。また、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法や組換えDNA法によって作製することができる。ハイブリドーマ法としては、例えば、コーラー及びミルスタインの方法(Kohler&Milstein,Nature,256:495(1975))が挙げられ、組換えDNA法としては、例えば、前記抗ポリペプチド抗体をコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等)に導入し、前記抗ポリペプチド抗体を組換え抗体として産生させる手法が挙げられる(例えば、P.J.Delves,Antibody Production:Essential Techniques,1997 WILEY;P.Shepherd and C.Dean Monoclonal Antibodies,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS;Vandamme A.M.et al.,Eur.J.Biochem.192:767-775(1990))。
【0069】
この場合には、前記抗ポリペプチド抗体及びアプタマーとして、それぞれ、標識物質によって標識されたものを用い、当該標識物質に応じたシグナルを検出して、検出されたシグナル量を前記標的ポリペプチドの量(すなわち、標的遺伝子の発現量)とすることができる。このときの標識物質としては、前記抗ポリペプチド抗体又はアプタマーに結合することができ、化学的又は光学的方法で検出できるものであれば特に制限されることはなく、例えば、フィコエリスリン(PE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)等の蛍光物質や、ペルオキシダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ等の酵素、放射性物質が挙げられる。
【0070】
また、前記抗ポリペプチド抗体及び/又はアプタマーを用いる場合には、前記標識物質を結合させた二次抗体を利用する方法や、二次抗体と前記標識物質とを結合させたポリマーを利用する方法などの間接的検出方法を利用することもできる。ここで、「二次抗体」とは、前記抗ポリペプチド抗体及び/又はアプタマーに特異的な結合性を示す抗体である。例えば、前記抗ポリペプチド抗体をウサギ抗体として調製した場合には、二次抗体として抗ウサギIgG抗体を使用することができる。ウサギ、ヤギ、マウスなどの様々な生物種に由来する抗体に対して、使用可能な標識二次抗体が市販されており、用いる抗ポリペプチド抗体の由来する生物種に応じて、適切な二次抗体を選択し、使用することができる。また、二次抗体に代えて、標識物質を結合させたプロテインG(例えば、Streptococcus属菌由来)、プロテインA(例えば、Staphylococcus aureus由来)、プロテインL(Peptostreptococcus magnus由来)等を用いることも可能である。
【0071】
〈標識アミノ酸による検出〉
翻訳レベルでの検出の場合の検出方法としては、他にも例えば、標識アミノ酸を添加した培地でT細胞を培養し、前記標識アミノ酸で標識された標的ポリペプチドを検出する方法が挙げられる。このような方法としては、
少なくとも1種のT細胞増殖用必須アミノ酸に代えてそのアミノ酸が標識された標識アミノ酸を含有し、かつ、共通γ鎖ファミリーサイトカインを含有するT細胞標識用培地でT細胞を培養する標識工程と、
前記標識アミノ酸で標識されたT細胞由来ポリペプチドを検出する検出工程(以下、場合により「検出工程A」ともいう)と、
を含む方法が好ましい。
【0072】
ここで、「T細胞標識用培地」とは、T細胞を培養して標識するための標識アミノ酸を少なくとも含有する培地のことを示す。また、「T細胞増殖用必須アミノ酸(以下、場合により単に「必須アミノ酸」という)」とは、T細胞が増殖するために必須のアミノ酸を示し、より具体的には、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、リジン、フェニルアラニン、トリプトファン、スレオニン、ヒスチジンである。
【0073】
前記T細胞標識用培地は、前記必須アミノ酸の少なくとも1種に代えてそのアミノ酸が標識された標識アミノ酸を含有する、すなわち、前記必須アミノ酸の少なくとも1種を含有せず、かつ、当該含有されない必須アミノ酸が標識されたアミノ酸である標識アミノ酸を含有する。「必須アミノ酸を含有しない」とは、前記T細胞標識用培地中に前記必須アミノ酸を実質的に含有しないことをいい、より具体的には、当該必須アミノ酸の含有量がT細胞標識用培地中に1×10-3mmol/L以下であることをいい、1×10-4mmol/L未満であることが好ましい。前記T細胞標識用培地から除かれる(すなわち、前記T細胞標識用培地に実質的に含有されない)必須アミノ酸としては、前記のいずれか1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよいが、中でも、タンパク質合成経路への効率的な取り込みの観点から、メチオニンが好ましい。
【0074】
前記「標識アミノ酸」とは、前記必須アミノ酸の構造を維持したままでその一部が修飾され、その修飾に基づいて検出可能であるものを示す。前記「検出可能」には、呈色(発色)、消光、反射光、発光、蛍光等の目視で直接的に確認できるものの他、特定の測定方法や測定装置によって確認できることを含む。
【0075】
このような標識アミノ酸としては、例えば、アミノ酸の原子の一部をパルス安定同位体(例えば、2H、13C、15N)に置換した同位体標識アミノ酸;アミノ酸の一部がアジド基、アルキン基等の修飾基によって修飾されたアミノ酸の構造的類似体(analog)が挙げられ、前記必須アミノ酸に対応して、これらのいずれか1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0076】
例えば、前記T細胞標識用培地が、前記必須アミノ酸のうちのメチオニンを含有しない場合、メチオニンに代えて前記T細胞標識用培地に含有される標識アミノ酸としては、例えば、メチオニンを構成する原子の一部を前記安定同位体に置換した同位体標識メチオニンである2H標識メチオニン、13C標識メチオニン、15N標識メチオニン;メチオニンの構造的類似体であるL-アジドホモアラニン(AHA:L-Azidohomoalanine)、L-ホモプロパルギルグリシン(HPG:L-Homopropargylglycine)、L-ホモアリルグリシン(HAG:L-Homoallylglycine)が挙げられ、これらのいずれか1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0077】
前記T細胞標識用培地において、前記標識アミノ酸の含有量(標識アミノ酸が2種以上である場合にはそれらの合計含有量、以下同じ)としては、T細胞の取り込み効率や培養効率、同T細胞への毒性等を考慮して適宜決定することができ、特に制限されないが、例えば、0.0001~0.1mmol/Lの範囲が挙げられ、0.001~0.05mmol/Lであることが好ましく、0.001~0.02mmol/Lであることがより好ましい。より具体的に、例えば、前記標識アミノ酸がAHAである場合には、0.0005~0.03mmol/Lであることが好ましく、0.001~0.03mmol/Lであることがより好ましく、0.002~0.03mmol/Lであることがさらに好ましく、0.005~0.02mmol/Lであることがさらにより好ましい。前記標識アミノ酸の含有量が前記上限を超えると、細胞が弱ったり死滅し易くなる傾向にあり、他方、前記下限未満であると、前記標識アミノ酸で標識されたポリペプチドを分泌又は細胞外に露出する細胞数が少なくなり、ポリペプチドの検出精度が低下する傾向にある。
【0078】
前記T細胞標識用培地は、共通γ鎖ファミリーサイトカインをさらに含有する。これを含有することにより、前記標識アミノ酸で標識されたポリペプチドを発現する細胞を高効率で得ることが可能となる。「共通γ鎖ファミリーサイトカイン」とは、共通のγ鎖(common γ chain:γサブユニット)を含む受容体を介して作用するサイトカインを示す。より具体的には、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン7(IL-7)、インターロイキン9(IL-9)、インターロイキン15(IL-15)、及びインターロイキン21(IL-21)が挙げられ、これらのいずれか1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。中でも、細胞の生存及び増殖をより維持する観点からは、インターロイキン7、インターロイキン15、インターロイキン21、及びこれらの2種以上の組み合わせがより好ましい。
【0079】
前記T細胞標識用培地において、前記共通γ鎖ファミリーサイトカインの含有量(共通γ鎖ファミリーサイトカインが2種以上である場合にはそれらの合計含有量、以下同じ)としては、T細胞の性状等を考慮して適宜決定することができるため、これに限定されるものではないが、1~1000ng/mLであることが好ましく、5~100ng/mLであることがより好ましく、5~20ng/mLであることがさらに好ましい。前記共通γ鎖ファミリーサイトカインの含有量が前記上限を超えると、共通γ鎖ファミリーサイトカインを含有させることの効果が低下したり細胞増殖を阻害する傾向にあり、他方、前記下限未満であると、前記標識アミノ酸で標識されたポリペプチドを分泌又は細胞外に露出する細胞数が少なくなり、ポリペプチドの検出精度が低下する傾向にある。
【0080】
前記T細胞標識用培地としては、前記必須アミノ酸を除くため、血清を含有しないか、含有する場合には前記必須アミノ酸が除かれた透析血清であることが好ましい。また、前記T細胞標識用培地としては、他に、血清アルブミンやITS(インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム)などの細胞保護添加剤;ECM(細胞外基質)成分等の足場剤等を含有していてもよい。これらのT細胞標識用培地又はその基礎培地としては、目的の必須アミノ酸を含有しない限り特に制限されず、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、RPMI(ロズウェルパーク記念研究所培地)、αMEM(α改変型イーグル最小必須培地)等の基礎培地;T細胞専用の無血清培地であるAIM VTM培地(Thermo Fisher Scientific社製);PRIME-XV T cell Expansion XSFM(富士フイルム和光純薬社製)等の公知や市販のT細胞用の培地を適宜採用することができる。
【0081】
前記標識工程では、前記T細胞標識用培地でT細胞を培養する。これにより、前記標識アミノ酸をT細胞に取り込ませ、T細胞から前記標識アミノ酸で標識されたポリペプチド(T細胞由来ポリペプチド)を分泌又は細胞外に露出させる。前記標識工程における培養方法としては、特に制限されず、公知のT細胞の増殖培養条件を適宜採用することができ、また、T細胞の性状や濃度等を考慮して適宜調整することができるが、例えば、培養温度35~37.5℃、好ましくは36~37℃において、培養時間2~48時間、好ましくは8~24時間の条件が挙げられる。前記標識工程の培養装置としては、特に制限されず、例えば、プレート、ディッシュ、カラム、フラスコ、培養バッグ等が挙げられ、前記T細胞標識用培地等を供給するための供給手段や排出するための排出手段(センサ、バルブ、ポンプ、タンク等)をさらに備えていてもよい。
【0082】
前記検出工程Aでは、前記標識アミノ酸で標識され、分泌又は細胞外に露出されたT細胞由来ポリペプチドを検出する。前記検出工程Aとしては、前記標識工程と同時(リアルタイム)で行なってもよい。前記検出工程Aにおける検出方法としては、前記標識アミノ酸の種類に応じた検出方法を適宜採用することができる。このような検出方法としては、特に制限されず、適宜公知の方法又はそれに準じた方法を適宜採用することができる。前記標識アミノ酸が同位体標識アミノ酸又はアミノ酸の構造的類似体である場合には、例えば、前記標識工程後又は標識工程中(すなわち培養途中)の培地について、ガス同位体比質量分析、同位体比赤外分光、液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS/MS)等の質量分析を行なうことによって、前記標識アミノ酸に応じたシグナルを検出し、検出されたシグナル量を前記標的ポリペプチドの量(すなわち、標的遺伝子の発現量)とすることができる。
【0083】
また、前記標識アミノ酸がアミノ酸の構造的類似体である場合には、前記修飾基に特異的な染色をすることによって検出することができる。例えば、前記修飾基がアジド基である場合(AHA等)には、当該アジド基をClick-iTTM Alexa Fluor 488 sDIBO Alkyne(Thermo Fisher Scientific社製)等の蛍光試薬によって染色することができるため、蛍光顕微鏡、フローサイトメトリー、イメージングサイトメトリー等を用いて、前記標識アミノ酸に応じたシグナル(発色、蛍光等)を検出し、検出されたシグナル量を前記標的ポリペプチドの量(すなわち、標的遺伝子の発現量)とすることができる。
【0084】
また、翻訳レベルでの検出の場合の検出方法としては、他にも例えば、標的ポリペプチドの糖鎖を認識して検出する方法も挙げられる。このような方法としては、例えば、Click-iTTM(Thermo Fisher Scientific社製)等の市販の試薬を用いる方法が挙げられる。前記翻訳レベルでの検出の場合の検出方法は、適宜他の方法と組み合わせて用いてもよい。
【0085】
本発明において、前記遺伝子の発現の検出としては、簡便性の観点から、翻訳レベルでの検出(前記標的ポリペプチドの検出)であることが好ましく、特に、前記抗ポリペプチド抗体を用いて前記標的ポリペプチドを検出する方法が好ましい。
【0086】
[評価工程]
本発明の方法に係る評価工程においては、前記検出工程で検出された標的遺伝子の発現の有無又はその発現量を指標として、T細胞の品質を評価する。本発明において評価されるT細胞の品質としては、増殖能、がん細胞傷害活性が挙げられ、中でも、本発明の方法は、T細胞の増殖能を評価する方法として好ましい。「増殖能」とは、より具体的には、In vitro又はIn vivoにおいて、TCR刺激又は抗原刺激によってT細胞が活性化し、細胞傷害活性を有する細胞が増加する能力を示す。T細胞の増殖能は、例えば、下記の実施例に示す方法でT細胞のTCRをTCR刺激磁性ビーズで刺激し、刺激前の細胞数と刺激から14日後の細胞数との比で確認することができるが、これに制限されない。
【0087】
本発明においては、前記検出工程で検出された、表1~3に示す標的遺伝子のうち、「up」と記載の遺伝子は、その発現量が多いほど、増殖能が高い、すなわち品質が良いと評価することができる。他方、表1~3に示す標的遺伝子のうち、「down」と記載の遺伝子は、その発現量が多いほど、増殖能が低い、すなわち品質が悪いと評価することができる。前記T細胞の品質の評価基準としては、目的に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。例えば、前記検出工程で、前記標的遺伝子の発現レベル(標的遺伝子の転写レベルや翻訳レベル)に応じた標的遺伝子の発現が少しでも検出されれば、すなわち、前記標的ポリヌクレオチドや前記標的ポリペプチドが少しでも検出されれば、T細胞の品質が良い(又は悪い)と評価してもよく、一定の閾値以上の標的遺伝子の発現量が検出されれば、T細胞の品質が良い(又は悪い)と評価してもよい。さらに、複数の標的遺伝子の発現量を組み合わせてT細胞の品質を評価してもよい。例えば、表1~3において「up」と記載の遺伝子の発現量が多く、かつ、表1~3において「down」と記載の遺伝子の発現量が少ない場合には、T細胞の品質が良いと評価することができ、また、例えば、表1~3において「up」と記載の複数の遺伝子の発現量が多いほど、T細胞の品質がよいと評価することができる)。
【0088】
また、前記標的遺伝子の発現量に応じて、T細胞の品質(例えば、増殖能の度合い)を評価してもよい。例えば、増殖能が高い(又は低い)ことが事前に特定されているT細胞等の標準試料で検出される前記標的遺伝子の発現量に対して、一定の値以上、又は当該標的遺伝子の発現量の平均値の4SD以上、3SD以上、若しくは2SD以上のシグナル量であれば、増殖能が高い(又は低い)、すなわち品質が良い(又は悪い)と評価してもよい。
【0089】
<T細胞評価用試薬、T細胞評価用キット>
本発明のT細胞評価用試薬は、前記本発明のT細胞の評価方法に用いるための試薬(組成物)であり、下記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現産物に特異的に結合するプローブ分子を含有する試薬(以下、場合により、単に「本発明の試薬」という)である。
(I)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(II)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子
(III)配列番号1~54のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝子。
【0090】
本発明の試薬において、前記(I)~(III)の遺伝子、及び前記遺伝子の発現産物としては、その好ましい態様も含めて、上記の本発明の方法において述べたとおりである。本発明の試薬に係るプローブ分子としては、上記の本発明の方法において挙げた、オリゴヌクレオチドプローブ、オリゴヌクレオチドプライマー、抗ポリペプチド抗体、及びアプタマーが挙げられ、それぞれ、その好ましい態様も含めて、上記の本発明の方法において述べたとおりである。前記プローブ分子としては、これらのいずれか1種であっても2種以上の組み合わせであってもよい。中でも、前記抗ポリペプチド抗体及び/又は前記アプタマーが好ましく、前記抗ポリペプチド抗体がより好ましい。
【0091】
本発明の試薬は、液体であっても粉末状等の固体であってもよく、前記プローブ分子に加えて、緩衝液、生理食塩水、安定剤、保存剤、防腐剤、培地等の他の成分がさらに含有されていてもよい。
【0092】
本発明のT細胞評価用キットは、前記本発明のT細胞の評価方法に用いるためのキットであり、前記(I)~(III)の遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現産物に特異的に結合するプローブ分子を備えるキット(以下、場合により、単に「本発明のキット」という)である。
【0093】
本発明のキットに係るプローブ分子としては、前記本発明の試薬であることが好ましい。また、本発明のキットは、前記プローブ分子に加えて、緩衝液、生理食塩水等の希釈又は懸濁用液;DNA又はタンパク質を抽出及び/又は精製するための試薬;ブロッキング剤;キレート剤;前記標識物質;前記蛍光色素;前記検出工程に必要な試薬;pH調整剤等の試薬;標準試料;使用説明書;安全データシート(Safety Data Sheet)等をさらに備えていてもよい。
【実施例0094】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
1.T細胞の品質(増殖能)評価
(1)下記の表7に示すT細胞株14種類を解凍し、96wellプレートの培地A(15%(w/v)ウシ胎児血清(FBS、BioWest社製)、5ng/mLインターロイキン7(IL-7)、及び5ng/mLインターロイキン15(IL-15)を添加したαMEM(α改変型イーグル最小必須培地))に、それぞれ1×106cells/wellで播種した。
【0096】
(2)T細胞受容体(TCR)刺激磁性ビーズ(Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28 for T Cell Expansion and Activation(Thermo Fisher Scientific社製))を用いて、播種したT細胞のTCRをそれぞれ刺激後、培地Aで適宜培地交換しながら、5%CO2、37℃の条件下で14日間培養した。
【0097】
(3)培養14日目の刺激後の各T細胞を血球算定盤を用いて計数し、次式:
増殖倍率=TCR刺激後の14日間培養後のT細胞数/TCR刺激前のT細胞数
により、各T細胞における増殖倍率(Fold proliferation)を算出した。結果を下記の表7に合わせて示す。細胞種(ナイーブ(naive)T細胞、細胞障害性T細胞(CTL)、iPS細胞由来CTL(iPSC-T)細胞)毎に、相対的に増殖倍率の値が高いT細胞を「高品質T細胞(good)」に、相対的に増殖倍率が低いT細胞を「低品質T細胞(bad)」に、それぞれ分類した。具体的には、下記A~Fの群:
A:高品質ナイーブT細胞(good)からなる群
B:高品質細胞障害性T細胞(good)からなる群
C:低品質ナイーブT細胞(bad)からなる群
D:低品質細胞障害性T細胞(bad)からなる群
E:高品質iPS細胞由来CTL(good)からなる群
F:低品質iPS細胞由来CTL(bad)からなる群
に分類した。分類した群も合わせて表7に示す。
【0098】
【0099】
2.T細胞のトランスクリプトーム解析
(1)上記1の(3)で高品質T細胞(good:7種類)及び低品質T細胞(bad:7種類)に分類したT細胞と同じ株のT細胞(TCR未刺激)について、それぞれ、上記1の(1)~(2)と同様にしてTCR刺激磁性ビーズを用いてTCRを刺激し、培地Aで適宜培地交換しながら、5%CO2、37℃の条件下で培養した。
【0100】
(2)TCR刺激後7日目の細胞を回収し、先ず、RNeasy Micro Kit(QIAGEN社製)を用いて、Total RNAを抽出した。次いで、抽出したTotal RNA 10ngから、SMART-Seq v4 Ultra Low Input RNA Kit for Sequencing(Clontech社製)を用いて、cDNAを合成・増幅した。
【0101】
(3)(2)で得られたcDNA 1ng分を使用して、Nextera XT DNA Library Preparation Kit(Illumina社製)及びNextera XT v2 Index Kit Set A(Illumina社製)を用いてライブラリー調製を行ない、Next-seq500(illumina社製)を用いて、リード長:75bp、single end readの条件でシークエンス解析を行なうことにより、1試料あたり500万リード以上の遺伝子を解読した。
【0102】
(4)(3)で解読した遺伝子(シークエンスデータ)をTopHat2(JOHNS HOPKINS大学)及びBowtie2(JOHNS HOPKINS大学)を用いて、ヒトゲノム配列にマップした。なお、ヒトゲノム配列情報及びヒト遺伝子情報には、NCBI(National Center for Biological Information)より公開されているBUILD GRCh38を使用した。マップした遺伝子について、Cufflinks(Washington大学)によって、解読した各遺伝子のリード数から、FPKM(Fragments Per Kilobase of exon per Million reads mapped)を単位とする遺伝子ごとの発現量を求めた。
【0103】
3.T細胞のセクレトーム解析-1
(1)上記1の(3)で高品質T細胞(good:7種類)及び低品質T細胞(bad:7種類)に分類したT細胞と同じ株のT細胞(TCR未刺激)について、それぞれ、上記1の(1)~(2)と同様にしてTCR刺激磁性ビーズを用いてTCRを刺激し、培地Aで適宜培地交換しながら、5%CO2、37℃の条件下で培養した。
【0104】
(2)TCR刺激後7日目の細胞をそれぞれ1×106cells回収し、15%(w/v)透析FBS、4mmol/L L-グルタミン、ITS(インシュリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム)サプリメント(×1)、50μg/mLアスコルビン酸、5ng/mL IL-7、及び5ng/mL IL-15を添加したαMEM(α改変型イーグル最小必須培地、メチオニン不含有)で懸濁して、37℃、5%CO2の条件下で1時間培養後、0.00625mmol/L L-アジドホモアラニン(AHA)、15%(w/v)透析FBS、4mmol/L L-グルタミン、ITS(インシュリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム)サプリメント(×1)、50μg/mLアスコルビン酸、5ng/mL IL-7、及び5ng/mL IL-15を添加したαMEM(メチオニン不含有)培地を用いて、37℃、5%CO2の条件下で24時間培養した。
【0105】
(3)培養後、培養上清0.4mLを回収し、培養上清に分泌された、AHAで標識されたタンパク質(セクレトーム)を、Click-iTTM Protein Enrichment Kit,for click chemistry capture of azide-modified protein(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、前記AHAのアジド基をアルキンアガロース樹脂に捕捉させることで抽出した。
【0106】
(4)(3)で抽出したタンパク質をLC-MS/MS(Ultimate 3000 RSLCnano及びQ Exactive、いずれもThermo Fisher Scientific社製)で解析した。解析データから、Proteome Discovererソフトウェア(ver.2.2、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、抽出したタンパク質のアミノ酸配列を抽出した。
【0107】
(5)Mascotソフトウェア(ver.2.5、Matrix Science 社製)を用い、下記(A)~(C)に記載のアミノ酸配列を組み合わせて構築したデータベースと照合することで、決定したアミノ酸配列からタンパク質を同定した。なお、有意なタンパク質の同定は、同定のスコア閾値を、False discovery rate(FDR)が1%になるように調整して行なった。同定したタンパク質は、Proteome Discoverer 2.2のLabel Free Quantification(LFQ)を用いて定量した。
(A)SwissProt(http://www.uniprot.org/)2018_11版に登録されているヒト(Homo sapiens)由来のタンパク質エントリー(計20413件);
(B)SwissProt(http://www.uniprot.org/)2018_11版に登録されているウシ(Bos taurus)由来のタンパク質エントリー(計5992件);
(C)The Global Proteome Machine Organization(http://www.thegpm.org/crap/index.html)から取得した、ヒト由来及びウシ由来以外のタンパク質汚染物のアミノ酸配列(計46件)。
【0108】
4.パスウェイ解析
(1)上記2の(4)で得られたトランスクリプトーム解析結果(マップした遺伝子ごとの発現量)及び上記3の(5)で得られたセクレトーム解析結果(同定したタンパク質の定量値)を統合し、上記1の(3)で分類した6つの群(A~F)について、総当り(全15通り)で群間比較し、相互関係検索法を用いたKeyMolnet解析(KMデータ社)により、比較した群間で発現量の差が大きかった遺伝子がコードするタンパク質であって、前記セクレトーム解析で同定したタンパク質(セクレトーム)が属するシグナル伝達経路(下記式で算出されるスコアが大きいシグナル伝達経路;下記式中、パスウェイに属している分子とは、シグナル伝達経路に属しているタンパク質を示す)を特定した。前記スコアは、統計学的手法(超幾何分布)に基づいて下記式で算出される総合的な関与度を示す値であり、値が大きいほどそのシグナル伝達経路が有意であることを示す。
【0109】
【0110】
(1)各群(Group)間の比較において、パスウェイ解析により得られたスコアが大きい順に、第1位~10位のシグナル伝達経路及びそのスコア(Score)をそれぞれ下記の表8~22に示す。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
(2)表8~22に示す経路の中から、TCR刺激によって直接惹起されるシグナルであるCaMKシグナルの伝達経路、及び遊走骨格系シグナルである中間系フィラメントシグナルの伝達経路を除外し、増殖倍率の異なる群間の総当たり比較において、登場回数の多いシグナル経路(3回以上登場)、高品質iPS細胞由来T細胞(E)と低品質iPS細胞由来T細胞(F)との比較(E/F)において有意であるシグナル伝達経路(上位10位まで、表22)を選出基準として、T細胞の品質(増殖能)に関連する可能性が高いといえるシグナル伝達経路を選定した。選定したシグナル伝達経路を下記の表23に示す。表23には、表8~22に記載の各比較群におけるスコア順位も合わせて示す。
【0127】
【0128】
(3)(2)で選定したシグナル伝達経路に属するタンパク質の中から、上記3の(5)で得られたセクレトーム解析結果(同定したタンパク質の定量値(発現量))において、比較した群間で発現量比が0.67以下又は1.5以上となり、かつ、T検定でp値が0.05以下となったタンパク質(セクレトーム)を抽出した。
【0129】
(4)(3)で抽出したタンパク質から、細胞骨格、Gタンパク質、並びに、RNA・DNA合成及び微小管・膜輸送に関わるタンパク質を除外し、それ以外のタンパク質を選出した。選出したタンパク質、そのアミノ酸配列、及び同アミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子は、それぞれ、上記の表1~3に示したタンパク質(略称)、アミノ酸配列、及び遺伝子である。
【0130】
上記パスウェイ解析で増殖倍率の異なる群間を総当たりで比較することで、登場回数の多いシグナル伝達経路が細胞品質(増殖能)に起因する主なシグナル伝達経路であるといえる。一方で、同一のiPS細胞のクローンに由来するT細胞間(E/F)で比較することで、培養系に起因する細胞品質の差異に関わるシグナル伝達経路を抽出することができる。そのため、選出されたタンパク質は、品質の異なる細胞間で発現が変動する当該シグナル伝達経路に関連するタンパク質(セクレトーム)であるといえる。
【0131】
5.T細胞のセクレトーム解析-2
(1)上記の表7に示す14種類のT細胞に加えて、下記の表24に示す10種類のT細胞について、上記1の(1)~(3)と同様にして、増殖倍率を測定した。全24種類のT細胞について、増殖倍率が20以上となったT細胞(表24の細胞No.1~12のT細胞)を「高品質T細胞」に、同増殖倍率が20未満となったT細胞(表11の細胞No.13~24のT細胞)を「低品質T細胞」に、それぞれ分類した。表24には、各細胞の増殖倍率も合わせて示す。
【0132】
【0133】
(2)(1)で高品質T細胞(12種類)及び低品質T細胞(12種類)に分類したT細胞と同じ株のT細胞(TCR未刺激)について、それぞれ、上記1の(1)~(2)と同様にしてTCR刺激磁性ビーズを用いてTCRを刺激し、培地Aで適宜培地交換しながら、5%CO2、37℃の条件下で培養した。
【0134】
(3)TCR刺激後6日目の細胞をそれぞれ1×106cells回収し、15%(w/v)透析FBS、4mmol/L L-グルタミン、ITS(インシュリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム)サプリメント(×1)、50μg/mLアスコルビン酸、5ng/mL IL-7、及び5ng/mL IL-15を添加したαMEM(α改変型イーグル最小必須培地、メチオニン不含有)で懸濁して、37℃、5%CO2の条件下で1時間培養後、0.00625mmol/L L-アジドホモアラニン(AHA)、15%(w/v)透析FBS、4mmol/L L-グルタミン、ITS(インシュリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム)サプリメント(×1)、50μg/mLアスコルビン酸、5ng/mL IL-7、及び5ng/mL IL-15を添加したαMEM(メチオニン不含有)培地を用いて、37℃、5%CO2の条件下で24時間培養した。
【0135】
(4)培養後、培養上清0.4mLを回収し、培養上清に分泌された、AHAで標識されたタンパク質(セクレトーム)を、Click-iTTM Protein Enrichment Kit,for click chemistry capture of azide-modified protein(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、前記AHAのアジド基をアルキンアガロース樹脂に捕捉させることで抽出した。
【0136】
(5)(4)で抽出したタンパク質について、上記3の(4)~(5)と同様にして、アミノ酸配列の決定、タンパク質の同定、及びその定量を行なった。
【0137】
6.主成分分析(PCA)
上記5のセクレトーム解析の(5)より、800の同定タンパク質及びそれらの発現量のデータが得られた。ただし、前記タンパク質数には、低発現又は無発現のタンパク質を含めていない。各T細胞(24種類)におけるこれらデータについて、主成分分析(PCA)を行なった。PCAで得られた散布図を
図1に示す。
【0138】
図1に示したように、細胞の品質(この場合、増殖能)とPC1スコアとの間に高い関連性が認められ、高品質T細胞(
図1中では白丸で表記)では第一主成分(PC1)スコアが低く、低品質T細胞(
図1中では黒丸で表記)ではPC1スコアが高くなった。PCAでは、主成分スコアの係数と主成分負荷量の値とはほぼ比例するため、第一主成分の主成分負荷量の値が(正に)大きい変数(この場合、変数は各タンパク質の発現量)は、第一主成分の正方向に寄与し、第一主成分の主成分負荷量の値が低い(負値の)変数は、第一主成分の負方向に寄与する。そのため、第一主成分の主成分負荷量の値が大きいタンパク質は、PC1スコアが高い細胞、すなわち、低品質T細胞で発現し、第一主成分の主成分負荷量の値が小さいタンパク質は、PC1スコアが低い細胞、すなわち、高品質T細胞で発現することがわかった。
【0139】
そこで、前記PCAより、上記4のパスウェイ解析の(4)で選出したタンパク質の発現量について、第一主成分の主成分負荷量(principal component loading)をそれぞれ求めた。得られた第一主成分の主成分負荷量を上記の表1~3に合わせて示す。表1~3に示すように、前記パスウェイ解析で選出したタンパク質において、得られた第一主成分に対する主成分負荷量の絶対値はいずれも0.4以上であり、ほとんどのタンパク質において0.8以上であった。したがって、上記の表1~3に示したタンパク質は、T細胞の品質(増殖能)評価用のマーカーとして利用することが可能であるといえる。
【0140】
7.T細胞の品質(増殖能)とマーカータンパク質の発現との相関性(その1)
「6.主成分分析」の結果、第一主成分への寄与率が高い遺伝子の中から、EEF1A1(アミノ酸配列番号4)、TPI1(アミノ酸配列番号7)、ENO1(アミノ酸配列番号8)、TKT(アミノ酸配列番号17)、及びG6PD(アミノ酸配列番号38)を選択し、これら遺伝子から翻訳されるタンパク質の発現量とT細胞の品質との相関性を確認した。
【0141】
(1)TCR刺激前の細胞(day0)試料調製
(1-1)10種類のT細胞株(表24に示す細胞No.5、10、11、13、15、16、18、19、22、24)を解凍し、96wellプレートの培地A(15%(w/v)FBS(BioWest社製)、5ng/mL IL-7、及び5ng/mL IL-15を添加したαMEM)に、それぞれ5×106~7×106cells/wellで播種した。
(1-2)播種した細胞を24時間培養後、培養上清を回収し、-80℃で保存した。これを「刺激前上清試料」とした。
【0142】
(2)TCR刺激後の細胞(day2)試料調製
(2-1)(1-1)と同じ10種類のT細胞株を解凍し、96wellプレートの培地Aに、それぞれ5×106~7×106cells/wellで播種した。
(2-2)T細胞受容体(TCR)刺激磁性ビーズ(Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28 for T Cell Expansion and Activation(Thermo Fisher Scientific社製))を用いて、播種したT細胞のTCRをそれぞれ刺激後、培地Aで適宜培地交換しながら、5%CO2、37℃の条件下で2日間培養した。
(2-3)2日間培養し、上清をすべて除去後、新しい培地Aを添加し、さらに24時間培養した。培養上清を回収後、-80℃で保存し、これを「刺激後上清試料」とした。
【0143】
(3)タンパク質発現量測定
(1)で調製した刺激前上清試料、および(2)で調製した刺激後上清試料について、下記市販のキットを用いて、ELISA法による各タンパク質発現量測定を行なった。
EEF1A1(アミノ酸配列番号4):Human EEF1A1(Elongation factor 1-alpha 1)ELISA Kit(MyBioSource社製)
TPI1(アミノ酸配列番号7):Human TPI1(Triosephosphate isomerase)ELISA Kit(MyBioSource社製)
ENO1(アミノ酸配列番号8):Human NNE(Non-Neuronal Enolase)ELISA Kit(MyBioSource社製)
TKT(アミノ酸配列番号17):Human Transketolase、TK ELISA Kit(MyBioSource社製)
G6PD(アミノ酸配列番号38):Human G6PD(Glucose 6 Phosphate Dehydrogenase)ELISA Kit(Elabscience Biotechnology社製)。
【0144】
(4)相関係数算出
前記5つのタンパク質(EEF1A1、TPI1、ENO1、TKT、及びG6PD)について、増殖能(対数値)と前記タンパク質発現量(対数値)との相関係数を算出した。結果を下記の表25に示す。
【0145】
【0146】
8.T細胞の品質(増殖能)とマーカータンパク質の発現との相関性(その2)
「6.主成分分析」の結果、第一主成分への寄与率が高い遺伝子の中から、ALDOC(アミノ酸配列番号20)を選択し、当該遺伝子から翻訳されるタンパク質の発現量とT細胞の品質との相関性を確認した。
【0147】
(1)18種類のT細胞株(表24に示す細胞No.5、8~24)を0.5×107~1×107cells取得し、当該細胞を、Phosphate Buffered saline(PBS)(-)1mLに懸濁し凍結融解を3回繰り返す操作、又はLysis buffer 3(MyBioSource社製)1mL添加する操作により、溶解して「刺激後上清試料」とした。
【0148】
(2)(1)の細胞溶解液をタンパク質量が30μgとなるようにそろえた後、抗体アレイ(Signaling Explorer Antibody Array、Full Moon BioSystems社製)に添加し、付属のプロトコールにしたがってALDOCタンパク質発現量測定を行なった。
【0149】
(3)7.(4)と同様の方法で相関係数を算出した。結果を下記の表26に示す。
【0150】
【0151】
表25及び表26では、相関係数の絶対値が0.5以上であれば「相関性あり」と判断した。表25及び表26に示したように、刺激前上清試料(day0)では、EEF1A1(アミノ酸配列番号4)、TPI1(アミノ酸配列番号7)、ENO1(アミノ酸配列番号8)、及びALDOC(アミノ酸配列番号20)で増殖能とタンパク質の発現量との相関を確認した。このことから、EEF1A1、TPI1、ENO1、及びALDOCは、定常状態のときにT細胞の品質を評価できるマーカーといえる。一方、刺激後上清試料(day2)では、EEF1A1(アミノ酸配列番号4)、TKT(アミノ酸配列番号17)、及びG6PD(アミノ酸配列番号38)で増殖能とタンパク質の発現量との相関を確認した。このことから、EEF1A1、TKT、及びG6PDは、TCRによる細胞刺激後の状態のときにT細胞の品質を評価できるマーカーといえる。
【0152】
また、これらの中でも、EEF1A1、ENO1、TKT、G6PD、及びALDOCは、相関係数の絶対値が0.6以上であり、これら5つのタンパク質は、T細胞の品質を評価できるマーカーの特に好ましい態様といえる。さらに、EEF1A1及びTKTは、相関係数の絶対値が0.8以上であり、T細胞の品質を評価できるマーカーの特により好ましい態様といえる。