(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064890
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】蓄電デバイスの輸送容器、及びこれを用いた蓄電デバイスの輸送方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/204 20210101AFI20230502BHJP
A62C 3/16 20060101ALI20230502BHJP
H01M 50/256 20210101ALI20230502BHJP
【FI】
H01M50/204 401F
A62C3/16 C
H01M50/256 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175321
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】八木 稔
【テーマコード(参考)】
5H040
【Fターム(参考)】
5H040AA37
5H040AS22
5H040AY06
5H040CC28
5H040GG12
5H040LL06
(57)【要約】
【課題】 蓄電デバイス、または複数の蓄電デバイスを積層した蓄電デバイススタックの破損時や高温環境などの異常時に発火するリスクを低減することが可能な蓄電デバイス輸送容器または輸送方法を提供する。
【解決手段】 蓄電デバイス輸送容器は、蓄電デバイスと輸送容器との空隙に、消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を配置した構造を有する。この成形体は、フィルム状、シート状、または板状であることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスと該蓄電デバイスを収容する輸送容器本体との空隙に、消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を配置した、蓄電デバイス輸送容器。
【請求項2】
前記蓄電デバイスが非水電解質を用いたものである、請求項1に記載の蓄電デバイス輸送容器。
【請求項3】
前記消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体が、アクリル系ポリマーを全体の10重量%以上含有している、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス輸送容器。
【請求項4】
前記アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上をモノマーとして合成されるホモポリマーまたはコポリマー、アクリロニトリルをモノマーとして合成されるポリアクリロニトリル、あるいは(メタ)アクリル酸アルキルエステルまたはアクリロニトリルと1又は2種類以上の他のモノマーとのコポリマーである、請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス輸送容器。
【請求項5】
前記消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体が、フィルム状、シート状または板状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス輸送容器。
【請求項6】
前記フィルム状、シート状又は板状の消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体が、厚さ1μm~5000μmである、請求項5に記載の蓄電デバイス輸送容器。
【請求項7】
前記フィルム状、シート状又は板状の成形体の単位面積当たりの重量が10g~3000g/m2である、請求項5又は6に記載の蓄電デバイス輸送容器。
【請求項8】
前記フィルム状、シート状、または板状の成形体が、アクリル系ポリマーと消火剤の2層構造、アクリル系ポリマーと消火剤とアクリル系ポリマーの3層構造、またはアクリル系ポリマーと消火剤との複数層で形成されたものである、請求項5~7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス輸送容器。
【請求項9】
前記消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体が、電池ケース、蓄電デバイスの収納ケース、蓄電デバイスを外包するケーシングとして使用される、請求項1~8のいずれか1項に記載の蓄電デバイス輸送容器。
【請求項10】
前記蓄電デバイスが複数積層されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の蓄電デバイス輸送容器。
【請求項11】
蓄電デバイスと該蓄電デバイスを収容する輸送容器本体との空隙に、消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を配置した蓄電デバイス輸送容器に前記蓄電デバイスを収容して輸送する蓄電デバイスの輸送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスを外包して輸送・移動する際の輸送容器、およびこれを用いた蓄電デバイスの輸送方法に関し、特に蓄電デバイスの破損時や高温環境などの異常時に発火しても容器外へ延焼するリスクを低減することが可能な蓄電デバイス輸送容器、輸送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力用途の携帯機器や電気自動車などの電源として、非水電解質を用いた蓄電デバイスをケーシングに収容してなる二次電池、リチウムイオンキャパシタおよび電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスが用いられている。
【0003】
このような蓄電デバイスは、通常、容器に入れて輸送・移動する際には、充電状態としては充電率(SOC)を低く(例えば30%以下)して輸送・移動するのが一般的である。しかしながら、外的要因による短絡や、高温環境で放置されることで、充電状態が低い場合でも発火や爆発などを起こす危険性がある。
【0004】
この蓄電デバイスの発火を防止する技術として、例えば、リチウムイオン電池の内部で発生したガスを可燃性ガス吸収材によって吸収し、電池の破裂を防止する方法が提案されている(特許文献1,2)。
【0005】
一方、リチウムイオン電池内部に消火剤を配置することにより、電池内部でのガスの発生による内圧上昇によって安全弁が開放した際に外部に放出されるガスの温度を低下させる方法も提案されている(特許文献3)。さらには、リチウムイオン電池内部に、不燃性ガス、水系溶媒、あるいは不燃性溶媒を細孔内及び表面に吸着させた多孔質素材を配置することにより、リチウムイオン電池からの発生するガスによる発火を防止する方法も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-155790号公報
【特許文献2】特開2003-077549号公報
【特許文献3】特開2010-287488号公報
【特許文献4】特開2013-187089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、蓄電デバイスの電気的異常時や熱暴走時には瞬間的に大量のガスが発生するため、特許文献1及び2に記載されているようなガス吸着材を蓄電デバイス内に配置する方法では、蓄電デバイスという限られた空間に対しては、ガス吸着量及びガス吸着速度ともに不十分であり、蓄電デバイスからのガスの噴出を抑制しきれない、という問題点がある。また、特許文献3及び4に記載されているように、リチウムイオン電池の内部の温度を低下させるために消火剤や、多孔質素材の細孔内および表面に不燃性ガスあるいは水系溶媒又は不燃性溶媒を吸着される材を蓄電デバイス内に配置する方法では、ガス吸着量が不十分だとその効果が十分に発揮されず、さらにガスの噴出を抑制しきれない、という問題点がある。
【0008】
これらの問題点により、特許文献1~4に記載の技術では、蓄電デバイスを容器に入れて輸送・移動する際に外的要因による短絡や、高温環境で放置された場合に発火や爆発などを抑制して外部環境への延焼を抑制する効果が十分ではなかった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、蓄電デバイス、および複数の蓄電デバイスを外包して輸送・移動させる際に、蓄電デバイスの破損や高温環境などの異常時に、容器の外部に延焼するリスクを低減することが可能な蓄電デバイス輸送容器、およびこの輸送容器を用いた輸送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は第一に、蓄電デバイスと該蓄電デバイスを収容する輸送容器本体との空隙に、消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を配置した、蓄電デバイス輸送容器を提供する(発明1)。上記発明(発明1)においては、前記蓄電デバイスが非水電解質を用いたものであることが好ましい(発明2)。
【0011】
かかる発明(発明1,2)によれば、蓄電デバイスと蓄電デバイス輸送容器との空間に、消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を配置することにより、蓄電デバイスの破損や高温環境などの異常時に、容器の外部に延焼するリスクを大幅に低減することができる。
【0012】
上記発明(発明1,2)においては、前記消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体が、アクリル系ポリマーを全体の10重量%以上含有していることが好ましい(発明3)。
【0013】
かかる発明(発明3)によれば、蓄電デバイスで異常が生じた際の、輸送容器外部への延焼防止効果を好適に発揮することができる。
【0014】
上記発明(発明1~3)においては、前記アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上をモノマーとして合成されるホモポリマーまたはコポリマー、アクリロニトリルをモノマーとして合成されるポリアクリロニトリル、あるいは(メタ)アクリル酸アルキルエステルまたはアクリロニトリルと1又は2種類以上の他のモノマーとのコポリマーであることが好ましい(発明4)。
【0015】
上記発明(発明1~4)においては、前記消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体が、フィルム状、シート状または板状であることが好ましい(発明5)。
【0016】
かかる発明(発明5)によれば、消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体をフィルム状、シート状または板状とすることにより、輸送容器内壁面に張り付けたり、隙間部に挿入したり、あるいは仕切り構造を構成したりするなど、その設置バリエーションを豊富なものとすることができ、取扱い性に優れたものとすることができる。
【0017】
上記発明(発明5)においては、前記フィルム状、シート状又は板状の消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体が、厚さ1μm~5000μmであることが好ましい(発明6)。特に上記発明(発明5又は6)においては、前記フィルム状、シート状又は板状の成形体の単位面積当たりの重量が10g~3000g/m2であることが好ましい(発明7)。
【0018】
また、上記発明(発明5~7)においては、前記フィルム状、シート状、または板状の成形体が、アクリル系ポリマーと消火剤の2層構造、アクリル系ポリマーと消火剤とアクリル系ポリマーの3層構造、またはアクリル系ポリマーと消火剤との複数層で形成されたものであってもよい(発明8)。
【0019】
かかる発明(発明6~8)によれば、所定の厚さ及び重量のフィルム状、シート状、または板状の成形体を、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に配置することにより、蓄電デバイスで異常が生じた際の、輸送容器外部への延焼防止効果を好適に発揮することができる。
【0020】
上記発明(発明1~8)においては、前記消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体が、電池ケース、蓄電デバイスの収納ケース、蓄電デバイスを外包するケーシングとして使用されるものであってもよい(発明9)
【0021】
かかる発明(発明9)によれば、輸送容器そのものに延焼防止効果を付与することができるので、蓄電デバイスを収容するだけでよく、特に取扱い性に優れている。
【0022】
上記発明(発明1~9)においては、前記蓄電デバイスが複数積層されていてもよい(発明10)。
【0023】
かかる発明(発明10)によれば、蓄電デバイスを複数積層した蓄電デバイススタックは、1つの蓄電デバイスに異常があった場合、複数の蓄電デバイスに延焼し、多量の可燃性ガスが噴出するおそれがあるが、輸送容器の内部空間に可燃性ガスが流出したとしても、アクリル系ポリマーを含む成形体の素材が可燃性ガスに影響を与えることにより、輸送容器の外にまで延焼するリスクを大幅に低減することができるので、蓄電デバイススタックに特に好適に適用することができる。
【0024】
また、本発明は第二に、蓄電デバイスと該蓄電デバイスを収容する輸送容器本体との空隙に、消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を配置した蓄電デバイス輸送容器に前記蓄電デバイスを収容して輸送する蓄電デバイスの輸送方法を提供する(発明11)。
【0025】
かかる発明(発明11)によれば、蓄電デバイスと蓄電デバイス輸送容器本体との空間に、消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を配置することにより、蓄電デバイスの破損や高温環境などの異常時に、輸送容器の外部に延焼するリスクを低減した状態で蓄電デバイスを輸送することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、前記蓄電デバイスと該蓄電デバイスを収容する輸送容器本体との空隙に、消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を配置しているので、蓄電デバイスの短絡などにより蓄電デバイスから放出される高温の噴出物や噴出ガスに対し、アクリル系ポリマーが影響を与えることで、蓄電デバイス輸送容器の発火リスクを大幅に低減するとともに、アクリル系ポリマーが蓄電デバイスから放出される高温の噴出物や噴出ガスにより溶融し発火した場合にも、封入されている消火剤が、発生した火炎を消火して、蓄電デバイス輸送容器の安全性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の本発明の蓄電デバイス輸送容器について、以下の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0028】
[蓄電デバイス輸送容器]
本実施形態の蓄電デバイス輸送容器は、蓄電デバイスを収容する輸送容器本体における該蓄電デバイスの収容される領域と容器本体との空隙に、消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を配置した構造を有する。
【0029】
<蓄電デバイス>
本実施形態において、蓄電デバイスとしては、特に制限はなく、一次電池、二次電池のいずれも用いることができるが、好ましくは二次電池である。この二次電池の種類については、特に制限されず、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、全固体電池、鉛畜電池、ニッケル・水素畜電池、ニッケル・カドミウム畜電池、ニッケル・鉄畜電池、ニッケル・亜鉛畜電池、酸化銀・亜鉛畜電池、金属空気電池、多価カチオン電池、コンデンサ、キャパシタ等を用いることができる。これらの中では、非水電解質を用いたものを好適に用いることができる。これらの二次電池の中でも、本実施形態の電池用材料の好適な適用対象として、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、リチウムイオンキャパシタ、全固体電池などを好適に用いることができる。
【0030】
上述したような蓄電デバイスは、複数が積層されてなる蓄電デバイススタックの形態であってもよい。
【0031】
<蓄電デバイス輸送容器本体>
本実施形態において、輸送容器本体としては上述した蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)を空隙を有して外包しうるものであれば特に制限はなく、合成樹脂製、金属製など種々の素材のものを用いことができる。この輸送容器本体としては、矩形の箱型が一般的であるが、これに限定されるものではない。この輸送容器本体には、蓄電デバイスに異常が生じた場合に、蓄電デバイスから放出される噴出ガスや噴出物が輸送容器の外部に放出されるようにするために解放弁や解放穴が設けられていることが好ましい。
【0032】
<発火防止素材>
本実施形態において、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に設置する発火防止素材としては、消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を配置する。消火剤を封入する素材としては、それ自身が蓄電デバイスの発火防止効果を有することからアクリル系ポリマーを用いる。
【0033】
(アクリル系ポリマー)
上記アクリル系ポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上をモノマーとして合成されるアクリル系ポリマー(ホモポリマーまたはコポリマー)を挙げることができる。また、アクリロニトリルをモノマーとして合成されるポリアクリロニトリルを挙げることができる。さらには、これら(メタ)アクリル酸アルキルエステルまたはアクリロニトリルと、1種類以上の他のモノマーとのコポリマーを挙げることができる。
【0034】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸イソブチルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
上記アクリル系ポリマーに使用するモノマーと共重合する他のモノマーとしては、他の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アクリロニトリル、アクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレンなどがあるが、これらに限定されるものではない。この他のモノマーは、アクリル系ポリマーに使用するモノマーと他のモノマーの合計100重量%に対して、90重量%以下、特に40重量%以下程度とすることが好ましい。他のモノマーがあまり多くなりすぎると、蓄電デバイス輸送容器の発火リスクの低減効果が十分でなくなる。
【0036】
このアクリル系ポリマーには、本発明の効果を害しない範囲で、一般的に用いられる各種添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、架橋ゴム粒子、紫外線吸収剤、滑り剤、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤等を挙げることができる。また、アクリル系ポリマーの表面には、本発明の効果を害しない範囲で、機能性を高めるための素材をコーティングしたものを使用してもよい。
【0037】
上述したようなアクリル系ポリマーは、単独で用いてもよいし2種類以上の素材を併用してもよい。
【0038】
さらには、これらのアクリル系ポリマーは、蓄電デバイスからの噴出物および噴出ガスに対し、伝熱吸収による冷却効果、燃焼ラジカル反応を抑制する効果、吸着材表面での火炎が不安定となる消炎効果を発揮する素材を付与して使用することも可能である。
【0039】
(消火剤)
本実施形態において使用される消火剤としては、発火を防ぐ難燃化機能を有していればよく、特に制限はされない。この消火剤としては、冷却作用、窒息作用、抑制作用(燃焼の反応を抑えて消火する、負触媒効果ともいう)によるものが知られているが、電気火災に有効な消火剤が好ましい。冷却作用による消火剤としては水などを挙げることができる。窒息作用による消火剤としては、窒素、アルゴン、二酸化炭素、ハロゲン化物などが挙げられるが、これら不活性ガスを生成することによって燃焼の連鎖反応を停止させる難燃化機能を有していてもよい。また、事前に不活性ガスを吸蔵し、所定温度で放出可能な吸蔵合金等を用いることもできる。抑制作用による消火剤としては、熱分解反応や酸化反応等の発火した際に生じる燃焼の連鎖反応を停止する作用のものであってもよいし、そうでなくてもよい。具体的には、ラジカルトラップ機能を有するラジカルトラップ消火剤、及び難燃性樹脂消火剤や吸熱・希釈消火剤などの支燃物遮断消火剤を用いることができる。
【0040】
抑制作用による消火剤のうち、ラジカルトラップ機能を有するラジカルトラップ消火剤の具体的な例としては、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸エステル、亜リン酸トリメチル、赤リン、ホスファゼン等のリン化合物;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カリウムと尿素の反応生成物、炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムの水和物、炭酸カリウム、炭酸カリウムの水和物;酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸三水素一カリウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム、エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二カリウム等の有機カルボン酸カリウム塩;硫酸アンモニウム;臭素化合物、ハロゲン化物修飾ポリマー、ペルハロゲン化アルキルスルホン酸等のハロゲン化合物;ヒンダートアミン、フェノール付加ヒンダートアミン等のヒンダートアミン化合物;ブチルハイドロキノン等のアルキルハイドロキノン化合物;臭素化合物としては、ブロム化トリアジン、ブロム化エポキシ樹脂等の臭素化合物;ペルフルオロアルキルスルホン酸:等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
これら消火剤に、燃料成分(ジシアンジアミド、ニトログアニジン、硝酸グアニジン、尿素、メラミン、メラミンシアヌレート、アビセル、グアガム、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、カルボキシルメチルセルロースカリウム、カルボキシルメチルセルロースアンモニウム、ニトロセルロース、アルミニウム、ホウ素、マグネシウム、マグナリウム、ジルコニウム、チタン、水素化チタン、タングステン、ケイ素等である)、および酸化剤成分(塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、塩基性硝酸銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、三酸化モリブデン等である)を混合したものも挙げることができる。また、前記のカリウム塩は、塩素酸カリウムと結合剤とを混合させてシート状に成形したものも用いることができる。
【0042】
支燃物遮断消火剤のうち、難燃性樹脂消火剤としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリイミド(PI)樹脂、ゴム系の樹脂(例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR))、等を挙げることができる。また、支燃物遮断消火剤のうち、チャー形成消火剤としては、縮合リン酸エステル、シリコーンパウダー、ホウ酸亜鉛、有機ベントナイト、メラミン樹脂(MF)、膨張黒鉛、ポリカーボネート(PC)及びポリスチレンカーボネート等を挙げることができる。
【0043】
吸熱・希釈消火剤としては、例えば;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム等の水酸化物;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等のアルカリ金属化合物;リン酸二水素アンモニウム;尿素;等を挙げることができる。
【0044】
これら消火剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。
【0045】
本実施形態においては、蓄電デバイスと輸送容器との空隙に配置する発火防止素材の成形体の形状は特に制限はないが、蓄電デバイスと輸送容器との空隙に設置する際の取扱い易さを考慮すると、フィルム状、シート状、または板状とすることが好ましい。発火防止素材をフィルム状、シート状、または板状とすることにより、輸送容器のケーシング内に張り付けたり、隙間部に挿入したり、あるいは仕切り構造を構成したりするなど、その設置バリエーションを豊富なものとすることができ、取扱い性に優れたものとすることができる。
【0046】
このフィルム状、シート状又は板状の消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体は、厚さ1μm~5000μmであることが好ましい。また、フィルム状、シート状又は板状の成形体の単位面積当たりの重量が10g~3000g/m2であることが好ましい。
【0047】
上述したような消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体の成形方法としては、成形体がフィルム状、シート状の場合は、厚さ50~125μmのアクリル系ポリマーの2枚のフィルム製品の間に消火剤のフィルムあるいはシート製品をはさみ、アクリル系ポリマーの周囲をヒートシールすることができる。また、板状製品の場合は、厚さ1000~5000μmのアクリル系ポリマーの1枚の板状製品の中央部に、消火剤のシートが入るスペースができるように削りだし、そのスペースに消火剤を入れて、その上にアクリル系ポリマーの板状製品を、接着剤または耐熱性テープで固定して成形することなどができるが、アクリル系ポリマー内に消火剤が入っていればよく、これらの製法に限定されるものではない。
【0048】
また、これら消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体としては、アクリル系ポリマーと消火剤の2層構造、またはアクリル系ポリマーと消火剤とアクリル系ポリマーの3層構造、さらにはアクリル系ポリマーと消火剤の3層以上の複数層による成形体であってもよい。
【0049】
さらには、これらの消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体には、蓄電デバイスからの噴出物および噴出ガスに対し、伝熱吸収による冷却効果、燃焼ラジカル反応を抑制する効果、吸着材表面での火炎が不安定となる消炎効果を発揮する素材を付与して使用することも可能である。
【0050】
上述したような消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体は、単独で用いてもよいし2種類以上の素材を併用してもよい。
【0051】
[蓄電デバイスの輸送方法]
上述したような蓄電デバイスと輸送容器とは、輸送容器本体にあらかじめ消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を設置した後、例えば充電率(SOC)30%程度の蓄電デバイスを収容して輸送容器を封止して輸送してもよいし、輸送容器本体に蓄電デバイスを収容した後、空隙に消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を設置して輸送容器を封止して輸送してもよい。
【0052】
このような本実施形態の輸送容器に蓄電デバイスを収容して輸送することにより、外的要因による短絡や、高温環境で放置され、万一、蓄電デバイスが発火したとしても消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を設けることにより、蓄電デバイスを容器に入れて輸送・移動する際に外的要因による短絡や、高温環境で放置された場合に発火や爆発などが生じたとしても輸送容器内で発火の拡大を防止するので、輸送容器外部に延焼するリスクを低減することができる。
【0053】
以上、本発明の蓄電デバイス輸送容器について説明してきたが、本発明は蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)と輸送容器本体との間の空隙に、消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体を配置しさえすればよく、蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)の大きさ、形状などは特に制限されない。そのため、スマートフォンから車載用など幅広い大きさの蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)など種々の用途の蓄電デバイスに適用可能である。さらには、前記消火剤を封入したアクリル系ポリマーの成形体自体を蓄電デバイスを外包する容器として使用して蓄電デバイス輸送容器としてもよい。
【実施例0054】
以下の具体的な実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[釘刺し試験]
(比較例1)
蓄電デバイスの輸送容器を想定したPP樹脂製容器(内径:横80mm×縦105mm×深さ34mm、樹脂厚さ2mm、アルミラミネートリチウムイオン電池の極側をこのPP樹脂製容器の横80mm側に配置し、PP樹脂製容器の横80mmの側に直径10mmの穴を5個開けた上面が開放した容器)を用意した。このPP樹脂製容器の内側に、正極三元系で1500mAhのアルミラミネートリチウムイオン電池(横35mm、縦75mm)を満充電状態で設置し、その上から樹脂厚さ4mmのPP樹脂製板で蓋をして蓋の周縁を耐熱性テープを使用して隙間がないように密閉し、過充電によるリチウムイオン電池からの噴出物は、5個開けた穴からだけ放出されるように構成した。
【0056】
この蓄電デバイス輸送容器に、釘刺し試験を行ったところ、アルミラミネートリチウムイオン電池は破壊され、輸送容器の外側にまで激しい発火が確認された。
【0057】
(実施例1)
比較例1で使用した蓄電デバイス輸送容器を輸送容器本体として、アクリル系ポリマー(ポリメタクリル酸メチルを主体とするポリマー94%以上、添加剤5%以下)のフィルム状成形体(厚さ125μm、面積当たりの重量150g/m2)の2枚の間に消火剤として、カリウム塩のシート(重炭酸カリウム、塩素酸カリウム、結合剤の成分による厚さ100μmのシート)を配置し、周囲をヒートシールした3層構造のフィルム状成形体(厚さ350μm)を、輸送容器を想定したPP樹脂製容器の全面に0.05m2の面積で両面テープで貼り付けて蓄電デバイス輸送容器とした。
【0058】
この蓄電デバイス輸送容器に、比較例1と同じ条件で、釘刺し試験を行ったところ、電池は破壊されたが、輸送容器の外側に発火は認められなかった。