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特開2023-64955模擬眼球、手術練習器具、および、模擬眼球の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064955
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】模擬眼球、手術練習器具、および、模擬眼球の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/28 20060101AFI20230502BHJP
   G09B 19/00 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
G09B23/28
G09B19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175430
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】山中 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】新井 史人
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032CA02
2C032CA06
(57)【要約】
【課題】ヒトの特性に近い線維柱帯を再現した模擬眼球、手術練習器具、および、模擬眼球の製造方法を提供すること。
【解決手段】模擬眼球1は、ヒト眼球を模した模擬眼球構造体2と、柔軟多孔質体3とを備える。模擬眼球構造体2は、眼球前房25を区画する略ドーム形状を有している。柔軟多孔質体3は、眼球前房25の内壁面に環状に配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト眼球を模した模擬眼球構造体と、柔軟多孔質体とを備え、
前記模擬眼球構造体は、眼球前房を区画する略ドーム形状を有し、
前記柔軟多孔質体は、前記眼球前房の内壁面に環状に配置されていることを特徴とする、模擬眼球。
【請求項2】
前記模擬眼球構造体は、前記眼球前房の内壁面に環状の溝を有しており、
前記柔軟多孔質体は、前記溝に充填されていることを特徴とする、請求項1に記載の模擬眼球。
【請求項3】
前記模擬眼球構造体は、前記眼球前房の内壁面に環状の溝を有しており、
前記柔軟多孔質体は、前記溝を被覆するように配置され、
前記溝が中空状態となっていることを特徴とする、請求項1に記載の模擬眼球。
【請求項4】
前記柔軟多孔質体の主材料がシリコーン樹脂であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の模擬眼球。
【請求項5】
さらに、略平面状の端面を有する模擬虹彩部材を備え、
模擬虹彩部材は、前記模擬眼球構造体の眼球前房側の空間を閉塞するように配置されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の模擬眼球。
【請求項6】
ヒトの顔を模した模擬顔面と、
前記模擬顔面の眼球部分に配置される、請求項1~5のいずれか一項に記載の模擬眼球と
を備えることを特徴とする、手術練習器具。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の模擬眼球を製造する方法であって、
硬化性樹脂および多孔化剤を含む硬化性樹脂組成物を準備する硬化性樹脂組成物準備工程と、
前記硬化性樹脂組成物を、前記眼球前房の内壁面に、環状に塗布する塗布工程と、
前記硬化性樹脂を硬化させ、樹脂硬化物を得る硬化工程と、
前記多孔化剤を除去し、前記樹脂硬化物を多孔化させることによって、前記柔軟多孔質体を得る除去工程と
を備える、模擬眼球の製造方法。
【請求項8】
請求項2~5のいずれか一項に記載の模擬眼球を製造する方法であって、
前記塗布工程では、
前記硬化性樹脂組成物を前記溝に塗布および充填することを特徴とする、請求項7に記載の模擬眼球の製造方法。
【請求項9】
請求項3~5のいずれか一項に記載の模擬眼球を製造する方法であって、
前記塗布工程では、
まず、前記溝に犠牲剤を充填し、
その後、前記溝および前記犠牲剤を被覆するように前記硬化性樹脂組成物を塗布し、
前記除去工程では、
前記多孔化剤および前記犠牲剤の除去により、前記柔軟多孔質体を形成するとともに、前記溝を中空状態とすることを特徴とする、請求項7に記載の模擬眼球の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬眼球、手術練習器具、および、模擬眼球の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化に伴う眼球の疾患の1つとして緑内障がある。緑内障は眼内圧力が異常に高くなる疾患である。開放隅角緑内障では,房水の排水経路であるシュレム管に対し、それを覆う多孔質状の脆い薄膜である線維柱帯が目詰まりし、房水の排出を阻害することが原因である。様々な低侵襲緑内障手術(Minimally Invasive Glaucoma Surgery:MIGS)が提案されており、線維柱帯をマイクロフックで切開する手術や、微細なインプラントを留置する手術などが行われている。それに伴い、MIGS専用器具も多数提案されている。MIGSを行うには繊細な作業が要求され、医師が事前に十分練習できる手段が必要である。また、MIGS専用器具の評価手段が必要である。特にヒトの特性に近い線維柱帯を再現した模擬眼球を用いて手術練習や手術器具の評価を行うことが望ましい。
【0003】
特許文献1などの公知の模擬眼球のなかで、ヒトの特性に近い線維柱帯を再現した構成はまだ存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第9,336,692号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ヒトの特性に近い線維柱帯を再現した模擬眼球、手術練習器具、および、模擬眼球の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明[1]は、ヒト眼球を模した模擬眼球構造体と、柔軟多孔質体とを備え、前記模擬眼球構造体は、眼球前房を区画する略ドーム形状を有し、前記柔軟多孔質体は、前記眼球前房の内壁面に環状に配置されている、模擬眼球を、含んでいる。
【0007】
本発明[2]は、前記模擬眼球構造体は、前記眼球前房の内壁面に環状の溝を有しており、前記柔軟多孔質体は、前記溝に充填されている、上記[1]に記載の模擬眼球を、含んでいる。
【0008】
本発明[3]は、前記模擬眼球構造体は、前記眼球前房の内壁面に環状の溝を有しており、前記柔軟多孔質体は、前記溝を被覆するように配置され、前記溝が中空状態となっている、上記[1]に記載の模擬眼球を、含んでいる。
【0009】
本発明[4]は、前記柔軟多孔質体の主材料がシリコーン樹脂である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の模擬眼球を、含んでいる。
【0010】
本発明[5]は、さらに、略平面状の端面を有する模擬虹彩部材を備え、模擬虹彩部材は、前記模擬眼球構造体の眼球前房側の空間を閉塞するように配置されている、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の模擬眼球を、含んでいる。
【0011】
本発明[6]は、ヒトの顔を模した模擬顔面と、前記模擬顔面の眼球部分に配置される、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の模擬眼球とを備える、手術練習器具を、含んでいる。
【0012】
本発明[7]は、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の模擬眼球を製造する方法であって、硬化性樹脂および多孔化剤を含む硬化性樹脂組成物を準備する硬化性樹脂組成物準備工程と、前記硬化性樹脂組成物を、前記眼球前房の内壁面に、環状に塗布する塗布工程と、前記硬化性樹脂を硬化させ、樹脂硬化物を得る硬化工程と、前記多孔化剤を除去し、前記樹脂硬化物を多孔化させることによって、前記柔軟多孔質体を得る除去工程とを備える、模擬眼球の製造方法を、含んでいる。
【0013】
本発明[8]は、上記[2]~[5]のいずれか一項に記載の模擬眼球を製造する方法であって、前記塗布工程では、前記硬化性樹脂組成物を前記溝に塗布および充填するとこを特徴とする、上記[7]に記載の模擬眼球の製造方法を、含んでいる。
【0014】
本発明[9]は、上記[3]~[5]のいずれか一項に記載の模擬眼球を製造する方法であって、前記塗布工程では、まず、前記溝に犠牲剤を充填し、その後、前記溝および前記犠牲剤を被覆するように前記硬化性樹脂組成物を塗布し、前記除去工程では、前記多孔化剤および前記犠牲剤の除去により、前記柔軟多孔質体を形成するとともに、前記溝を中空状態とする、上記[7]に記載の模擬眼球の製造方法を、含んでいる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の模擬眼球および手術練習器具は、柔軟多孔質体として、実際の線維柱帯に近い構成の模擬線維柱帯を、備えることができる。また、本発明の模擬眼球および手術練習器具において、柔軟多孔質体は、実際の線維柱帯に近い感触を有することができる。本構成の模擬眼球は、繊細な作業が要求されるMIGSの練習や、MIGS専用器具の評価に好適である。また、眼科手術ロボットの開発や評価にも用いることができる。
【0016】
本発明の模擬眼球の製造方法によれば、上記の模擬眼球を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1Aおよび図1Bは、本発明の模擬眼球の第1実施形態を示す説明図である。図1Aは、模擬眼球の側断面説明図を示す。図1Bは、模擬眼球の下面視説明図を示す。
図2図2Aおよび図2Bは、図1に示す模擬眼球の製造方法を示す概略図である。図2Aは、構造体準備工程を示す。図2Bは、硬化性樹脂組成物準備工程を示す。
図3図3A図3B図3Cおよび図3Dは、図2に続いて模擬眼球の製造方法を示す眼球前房の拡大図である。図3Aは、塗布工程を示す。図3Bは、硬化工程を示す。図3Cは、除去工程を示す。図3Dは、乾燥工程を示す。
図4図4は、本発明の模擬眼球の第2実施形態を示す側断面説明図である。
図5図5A図5B図5Cおよび図5Dは、図4に示す模擬眼球の製造方法を示す概略図である。図5Aは、塗布工程を示す。図5Bは、硬化工程を示す。図5Cは、除去工程を示す。図5Dは、乾燥工程を示す。
図6図6は、本発明の模擬眼球の第3実施形態を示す側断面説明図である。
図7図7A図7B図7C図7Dおよび図7Eは、図6に示す模擬眼球の製造方法を示す概略図である。図7Aおよび図7Bは、塗布工程を示す。図7Cは、硬化工程を示す。図7Dは、除去工程を示す。図7Eは、乾燥工程を示す。
図8図8は、本発明の模擬眼球の第3実施形態を示す側断面説明図である。
図9図9A図9B図9C図9Dおよび図9Eは、図8に示す模擬眼球の製造方法を示す概略図である。図9Aおよび図9Bは、塗布工程を示す。図9Cは、硬化工程を示す。図9Dは、除去工程を示す。図9Eは、乾燥工程を示す。
図10図10は、本発明の手術練習器具の一実施形態を示す概略図である。
図11図11は、図1に示す模擬眼球を用いた手術練習の様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.第1実施形態
図1Aおよび図1Bにおいて、模擬眼球1は、ヒト眼球を模した模擬眼球構造体2と、模擬眼球構造体2の内壁面に配置される柔軟多孔質体3と、模擬眼球構造体2の内側に配置される模擬虹彩部材4とを備えている。
【0019】
模擬眼球構造体2は、模擬眼球1の外形を成す構造体であり、眼球前房25を区画する略ドーム形状を有している。より具体的には、模擬眼球構造体2は、上段および下段を備える略2段ドーム形状を有しており、下段に対応する模擬強膜21と、上段に対応する模擬角膜22とを備えている。模擬強膜21は、略ドーム(略半球)形状を有し、その上端部が、模擬角膜22の下端部と連続している。模擬角膜22は、模擬強膜21よりも曲率半径の小さい略ドーム(略半球)形状を有している。
【0020】
模擬眼球構造体2の主材料は、特に制限されない。模擬眼球構造体2の主材料としては、例えば、樹脂材料、金属材料および繊維材料が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。好ましくは、樹脂材料が挙げられる。樹脂材料としては、特に制限されないが、例えば、ポリマーおよびゴムが挙げられ、好ましくは、ポリマーが挙げられる。ポリマーとしては、例えば、透明ポリマーおよび半透明ポリマーが挙げられる。透明ポリマーおよび半透明ポリマーとして、より具体的には、例えば、シリコ-ン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニルおよびポリビニルアルコールが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。
【0021】
樹脂材料から模擬眼球構造体2を得る方法は、特に制限されないが、例えば、注型成形、3Dプリントおよび機械加工が挙げられ、好ましくは、注型成形が挙げられる。注型成形では、例えば、模擬強膜21と模擬角膜22とが、同一の金型で一括成形されていてもよい。また、例えば、まず、模擬角膜22が成形され、その後、金型内に模擬角膜22が配置された状態で、模擬強膜21が成形されていてもよい。また、例えば、まず、模擬強膜21が成形され、その後、金型に模擬強膜21が配置された状態で、模擬角膜22が成形されていてもよい。さらには、模擬角膜22と模擬強膜21とが別体として成形され、互いに接着剤により接着されていてもよい。
【0022】
模擬眼球構造体2の平均厚みは、特に制限されないが、例えば、0.1mm以上、好ましくは、0.5mm以上である。また、模擬眼球構造体2の平均厚みは、例えば、5.0mm以下、好ましくは、2.0mm以下である。
【0023】
柔軟多孔質体3は、柔軟性を有する多孔質体である。
【0024】
柔軟多孔質体3としては、例えば、スポンジ状の樹脂が挙げられる。柔軟多孔質体3の主材料としては、例えば、シリコーン樹脂およびポリウレタン樹脂が挙げられ、好ましくは、シリコーン樹脂が挙げられる。
【0025】
柔軟多孔質体3の平均孔径は、特に制限されないが、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上である。また、柔軟多孔質体3の平均孔径は、例えば、100μm以下である。柔軟多孔質体3の孔は、例えば、連続気泡であってもよく、独立気泡であってもよい。好ましくは、柔軟多孔質体3の孔は、連続気泡である。多孔質であることにより、部材を脆くすることができ、実際のヒト線維柱帯に特性の近い膜を構成することができる。
【0026】
柔軟多孔質体3は、眼球前房25の内壁面に、環状に配置されている。より具体的には、柔軟多孔質体3は、模擬強膜21の内壁面に、貼着されている。これにより、ヒト眼球の線維柱帯を模した環状の模擬線維柱帯30が、形成されている。
【0027】
柔軟多孔質体3(模擬線維柱帯30)の円周の直径は、例えば、5mm以上である。また、柔軟多孔質体3(模擬線維柱帯30)の円周の直径は、例えば、20mm以下、好ましくは、15mm以下である。
【0028】
柔軟多孔質体3(模擬線維柱帯30)の厚みは、特に制限されないが、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上である。また、柔軟多孔質体3(模擬線維柱帯30)の厚みは、例えば、500μm以下、好ましくは、200μm以下である。柔軟多孔質体3(模擬線維柱帯30)の幅は、例えば、10μm以上である。また、柔軟多孔質体3(模擬線維柱帯30)の幅は、例えば、1000μm以下、好ましくは、500μm以下である。
【0029】
模擬虹彩部材4は、模擬眼球構造体2の眼球前房側の空間を閉塞する構造体である。模擬虹彩部材4は、模擬角膜22と対向する略平面状の端面41を有する略半球状を、有している。
【0030】
端面41は、例えば、ヒト眼球の虹彩を模した模様を有している。端面41は、模擬角膜22の内面と間隔を隔てて対向配置されている。より具体的には、模擬虹彩部材4は、端面41と模擬角膜22とが対向配置されるように、模擬眼球構造体2内に配置されている。これによって、模擬虹彩部材4が、模擬眼球構造体2の眼球前房側の空間を閉塞している。この構成により、手術練習時に眼球内部に注入する液体(水、粘弾性物質など)を最小限にすることができ、気泡の混入を防止することができる。
【0031】
模擬虹彩部材4の主材料は、特に制限されない。模擬虹彩部材4の主材料としては、例えば、樹脂材料、金属材料および繊維材料が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。好ましくは、樹脂材料が挙げられる。樹脂材料から模擬虹彩部材4を得る方法は、特に制限されないが、例えば、注型成形、3Dプリントおよび機械加工が挙げられる。
【0032】
模擬虹彩部材4の平均厚みは、特に制限されないが、例えば、0.1mm以上、好ましくは、0.5mm以上である。また、模擬虹彩部材4の平均厚みは、例えば、5.0mm以下、好ましくは、2.0mm以下である。
【0033】
以下において、上記した模擬眼球1を製造する方法(特に、柔軟多孔質体3を製造する方法)について、図2図3を参照して、詳述する。なお、図3には、眼球前房部分の拡大図を示す。
【0034】
この方法では、まず、図2Aに示されるように、上記の模擬眼球構造体2を準備する(構造体準備工程)。
【0035】
また、この方法では、図2Bが参照されるように、模擬眼球構造体2とは別途、硬化性樹脂組成物31を準備する(硬化性樹脂組成物準備工程)。
【0036】
硬化性樹脂組成物31は、柔軟多孔質体3の材料である。硬化性樹脂組成物31は、硬化性樹脂32および多孔化剤33を含んでいる。
【0037】
硬化性樹脂32は、硬化可能な樹脂である。硬化性樹脂32としては、例えば、熱硬化性樹脂および活性エネルギー線硬化性樹脂が挙げられる。また、硬化性樹脂32としては、例えば、1液硬化反応性樹脂および2液硬化反応性樹脂が挙げられる。硬化性樹脂として、より具体的には、シリコーン樹脂およびポリウレタン樹脂が挙げられ、好ましくは、シリコーン樹脂が挙げられる。シリコーン樹脂としては、例えば、2液硬化型シリコーン樹脂が挙げられ、好ましくは、2液硬化型ポリジメチルシロキサン(PDMS)が挙げられる。
【0038】
多孔化剤33は、硬化性樹脂32の硬化物(後述する樹脂硬化物34)を、多孔化するための可溶性材料である。本発明は可溶性材料を限定しないが、例えば、水溶性の有機塩が挙げられ、より具体的には、クエン酸一水和物(CAM)が挙げられる。可溶性材料の平均粒径は、特に制限されず、適宜選択される。より具体的には、可溶性材料の平均粒径は、柔軟多孔質体3の平均孔径に対応する。そのため、可溶性材料の平均粒径は、所望の柔軟多孔質体3の平均孔径に応じて、適宜選択される。
【0039】
なお、硬化性樹脂32として2液硬化型ポリジメチルシロキサン(PDMS)が用いられ、多孔化剤33として、クエン酸一水和物(CAM)が用いられる場合、柔軟多孔質体3は、例えば、「Cunlong Yu,“Facile Preparation of the Porous PDMS Oil-Absorbent for Oil/Water Separation”, Advanced Materials Interfaces 4.3(2017,4) 1600862」に記載される方法によって、得ることができる。
【0040】
より具体的には、硬化性樹脂組成物31の準備では、公知の方法で、硬化性樹脂32と多孔化剤33とを混合する。硬化性樹脂32と多孔化剤33との配合割合は、所望の柔軟多孔質体3の柔軟性に応じて、適宜設定される。
【0041】
例えば、硬化性樹脂32と多孔化剤33との総量に対して、硬化性樹脂32が、例えば、50質量%以上、好ましくは、60質量%以上である。また、硬化性樹脂32と多孔化剤33との総量に対して、硬化性樹脂32が、例えば、99質量%以下、好ましくは、95質量%以下である。また、硬化性樹脂32と多孔化剤33との総量に対して、多孔化剤33が、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上である。また、硬化性樹脂32と多孔化剤33との総量に対して、多孔化剤33が、例えば、50質量%以下、好ましくは、40質量%以下である。
【0042】
また、硬化性樹脂32 100質量部に対して、多孔化剤33が、例えば、1質量部以上、好ましくは、5質量部以上である。また、硬化性樹脂32 100質量部に対して、多孔化剤33が、例えば、100質量部以下、好ましくは、65質量部以下である。
【0043】
これにより、硬化性樹脂32と多孔化剤33との混合物として、硬化性樹脂組成物31が得られる。
【0044】
次いで、この方法では、図3Aに示されるように、上記の硬化性樹脂組成物31を、眼球前房25の内壁面に、環状に塗布する(塗布工程)。
【0045】
より具体的には、この方法では、上記の硬化性樹脂組成物31を、眼球前房25において、模擬強膜21の内壁面に、環状に塗布する。塗布方法は、特に制限されず、公知の方法が採用される。
【0046】
次いで、この方法では、図3Bに示されるように、硬化性樹脂組成物31中の硬化性樹脂32を硬化させ、樹脂硬化物34を得る(硬化工程)。
【0047】
硬化方法は、硬化性樹脂32の種類に応じて、選択される。例えば、硬化性樹脂32が、熱硬化性樹脂である場合、硬化性樹脂32を加熱する。また、硬化性樹脂32が、活性エネルギー線硬化性樹脂である場合、硬化性樹脂に活性エネルギー線を照射する。また、硬化性樹脂32が、1液硬化反応性樹脂および2液硬化反応性樹脂である場合、硬化性樹脂32を反応させる。なお、硬化条件は、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0048】
これにより、硬化性樹脂組成物31中の硬化性樹脂32が硬化し、樹脂硬化物34が得られる。
【0049】
次いで、この方法では、図3Cに示されるように、多孔化剤33を除去し、樹脂硬化物34を多孔化させる(除去工程)。
【0050】
より具体的には、この工程では、多孔化剤33を溶解可能な溶媒を、準備する。溶媒は、多孔化剤33の種類に応じて、適宜選択される。例えば、多孔化剤33が、クエン酸水和物(CAM)である場合、溶剤としては、例えば、低級アルコールが挙げられ、好ましくは、エタノールが挙げられる。
【0051】
そして、この工程では、浸漬法またはスプレー法により、多孔化剤33と溶媒とを接触させる。好ましくは、浸漬法により、多孔化剤33と溶媒とを接触させる。より具体的には、この方法では、溶媒に、樹脂硬化物34および多孔化剤33を浸漬し、所定時間保持する。浸漬時間は、例えば、1時間以上、好ましくは、5時間以上である。また、浸漬時間は、例えば、48時間以下、好ましくは、24時間以下である。
【0052】
これにより、多孔化剤33を、溶媒に溶出させる。一方、樹脂硬化物34は、溶媒に溶出しない。そのため、多孔化剤33が除去され、樹脂硬化物34が多孔化される。その結果、多孔化された樹脂硬化物34として、柔軟多孔質体3(模擬線維柱帯30)が得られる。
【0053】
次いで、この方法では、必要に応じて、図3Dに示されるように、柔軟多孔質体3を乾燥させる(乾燥工程)。なお、乾燥条件は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。その後、別途用意された模擬虹彩部材4を、模擬眼球構造体2によって被覆する。これにより、第1実施形態の模擬眼球1(図1参照。)が得られる。
【0054】
このような模擬眼球1では、柔軟多孔質体3として、実際の線維柱帯に近い構成の模擬線維柱帯30を、備えることができる。また、上記の模擬眼球1において、柔軟多孔質体3は、実際の線維柱帯に近い感触を有することができる。本構成の模擬眼球は、繊細な作業が要求されるMIGSの練習、特に図11に示すように角膜に形成した小さい穴からマイクロフックを挿入し、線維柱帯を切開するAb internoトラベクロトミーの練習や、線維柱帯に留置するインプラントなどのMIGS専用器具の評価に好適である。また、眼科手術ロボットの開発や評価にも用いることができる。また、上記の模擬眼球1の製造方法によれば、上記した模擬眼球1を、得ることができる。なお、以下に示す第2~第4実施形態についても、同様である。
【0055】
なお、模擬眼球1は、模擬虹彩部材4を備えていなくともよい。また、模擬眼球1は、さらに、図示しないホルダーに固定されていてもよい。
【0056】
2.第2実施形態
図4において、模擬眼球1は、上記した第1実施形態と同様、ヒト眼球を模した模擬眼球構造体2と、模擬眼球構造体2の内壁面に配置される柔軟多孔質体3と、模擬眼球構造体2の内側に配置される模擬虹彩部材4とを備えている。
【0057】
また、この実施形態では、模擬眼球構造体2は、眼球前房25の内壁面に環状の溝5を有している。より具体的には、溝5は、眼球前房25において、模擬強膜21の内壁面に、形成されている。
【0058】
溝5の円周の直径は、例えば、5mm以上である。また、溝5の円周の直径は、例えば、20mm以下、好ましくは、15mm以下である。溝5の幅は、例えば、10μm以上である。また、溝5の幅は、例えば、1000μm以下、好ましくは、500μm以下である。溝5の深さは、例えば、10μm以上である。また、溝5の深さは、例えば、1000μm以下、好ましくは、500μm以下である。
【0059】
そして、この実施形態では、上記の柔軟多孔質体3が、溝5に充填されている。これにより、柔軟多孔質体3が、模擬線維柱帯30を形成している。
【0060】
以下において、上記した模擬眼球1を製造する方法について、図2および図5を参照して、詳述する。なお、図5には、眼球前房部分の拡大図を示す。
【0061】
この方法では、まず、上記の溝5を有する模擬眼球構造体2を準備する(図2Aおよび図4参照)。また、この方法では、模擬眼球構造体2とは別途、硬化性樹脂組成物31を準備する(図2B参照)。
【0062】
次いで、この方法では、上記の塗布工程において、図5Aに示されるように、上記の硬化性樹脂組成物31を、溝5に塗布および充填する。充填方法は、特に制限されず、公知の方法が採用される。
【0063】
次いで、この方法では、図5Bに示されるように、硬化性樹脂組成物31中の硬化性樹脂32を硬化させ、樹脂硬化物34を得る(硬化工程)。次いで、この方法では、図5Cに示されるように、多孔化剤33を除去し、樹脂硬化物34を多孔化させる(除去工程)。これにより、多孔化された樹脂硬化物34として、柔軟多孔質体3を形成する。
【0064】
次いで、この方法では、必要に応じて、図5Dに示されるように、柔軟多孔質体3を乾燥させる(乾燥工程)。これにより、第2実施形態の模擬眼球1(図4参照。)が得られる。
【0065】
このような模擬眼球1では、柔軟多孔質体3が模擬眼球構造体2の溝5に充填されるため、柔軟多孔質体3を、より精度よく、位置決めできる。そのため、柔軟多孔質体3を、より良好に、模擬線維柱帯30として用いることができる。
【0066】
3.第3実施形態
図6において、模擬眼球1は、上記した第2実施形態と同様、ヒト眼球を模した模擬眼球構造体2と、模擬眼球構造体2の内壁面に配置される柔軟多孔質体3と、模擬眼球構造体2の内側に配置される模擬虹彩部材4とを備えている。
【0067】
また、この実施形態では、模擬眼球構造体2は、眼球前房25の内壁面に環状の溝5を有している。
【0068】
そして、この実施形態では、上記の柔軟多孔質体3が、溝5を被覆するように配置されている。これにより、柔軟多孔質体3が、模擬線維柱帯30を形成している。
【0069】
また、溝5が、柔軟多孔質体3で充填されることなく、中空状態となっている。これにより、溝5が、ヒト眼球のシュレム管を模した模擬シュレム管50を形成している。
【0070】
以下において、上記した模擬眼球1を製造する方法について、図2および図7を参照して、詳述する。なお、図7には、眼球前房部分の拡大図を示す。
【0071】
この方法では、まず、上記の溝5を有する模擬眼球構造体2を準備する(図2Aおよび図6参照)。また、この方法では、模擬眼球構造体2とは別途、硬化性樹脂組成物31を準備する(図2B参照)。
【0072】
また、この方法では、図示しないが、さらに、犠牲剤35を準備する(犠牲剤準備工程)。
【0073】
犠牲剤35は、溝5を中空状態にするために、溝5に充填され、その後、除去される材料である。犠牲剤35としては、特に制限されないが、例えば、多孔化剤33として上記した可溶性材料、および、その溶液が挙げられる。犠牲剤35として、好ましくは、クエン酸一水和物(CAM)、および、その溶液が挙げられる。
【0074】
犠牲剤35としての可溶性材料と、多孔化剤33としての可溶性材料とは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。好ましくは、犠牲剤35としての可溶性材料と、多孔化剤33としての可溶性材料とは、同一である。
【0075】
そして、この方法では、上記の塗布工程において、まず、図7Aに示されるように、上記の犠牲剤35を、溝5に塗布および充填する。塗布方法は、特に制限されず、公知の方法が採用される。次いで、必要に応じて、犠牲剤35を乾燥させる。これにより、溝5が、犠牲剤35によって充填される。
【0076】
次いで、この方法では、図7Bに示されるように、上記の溝5および犠牲剤35を被覆するように上記の硬化性樹脂組成物31を塗布する。塗布方法は、特に制限されず、公知の方法が採用される。
【0077】
次いで、この方法では、図7Cに示されるように、硬化性樹脂組成物31中の硬化性樹脂32を硬化させ、樹脂硬化物34を得る(硬化工程)。次いで、この方法では、図7Dに示されるように、多孔化剤33を除去し、樹脂硬化物34を多孔化させる(除去工程)。これにより、多孔化された樹脂硬化物34として、柔軟多孔質体3を形成する。
【0078】
また、この方法では、上記の除去工程において、犠牲剤35を除去し、溝5を中空状態にする。例えば、犠牲剤35としての可溶性材料と、多孔化剤33としての可溶性材料とが、同一である場合には、多孔化剤33とともに、犠牲剤35が除去される。また、犠牲剤35としての可溶性材料と、多孔化剤33としての可溶性材料とが、異なっている場合には、例えば、多孔化剤33を除去した後に、犠牲剤35を溶解可能な溶媒に、犠牲剤35を浸漬および保持する。これにより、犠牲剤35を、溶媒に溶出させる。
【0079】
これにより、犠牲剤35が除去され、柔軟多孔質体3の下側で溝5が中空状態となる。これにより、模擬シュレム管50が形成される。
【0080】
次いで、この方法では、必要に応じて、図7Eに示されるように、柔軟多孔質体3を乾燥させる(乾燥工程)。これにより、第3実施形態の模擬眼球1(図6参照。)が得られる。
【0081】
このような模擬眼球1では、柔軟多孔質体3の下側で溝5が中空状態とされる。そのため、溝5を、模擬シュレム管50として用いることができる。その結果、上記の模擬眼球1では、とりわけ実際の眼球に近い感触が得られる。
【0082】
4.第4実施形態
図8において、模擬眼球1は、上記した第3実施形態と同様、ヒト眼球を模した模擬眼球構造体2と、模擬眼球構造体2の内壁面に配置される柔軟多孔質体3と、模擬眼球構造体2の内側に配置される模擬虹彩部材4とを備えている。
【0083】
また、この実施形態では、模擬眼球構造体2は、眼球前房25の内壁面に環状の溝5を有している。
【0084】
そして、この実施形態では、溝5は、柔軟多孔質体を充填するための第1溝(浅溝)51と、その第1溝51内に形成される、第2溝(深溝)52とを有している。
【0085】
第1溝(浅溝)51は、眼球前房25において、模擬強膜21の内壁面に、形成されている。第2溝(深溝)は、第1溝よりも幅狭の溝であり、第1溝(浅溝)51内において、模擬強膜21の内壁面に、形成されている。
【0086】
第1溝(浅溝)51の円周の直径、幅および深さは、上記した溝5の円周の直径、幅および深さと、同様である。第2溝(深溝)52の円周の直径、幅および深さは第2溝52が第1溝51内に収まる範囲であれば、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0087】
そして、この実施形態では、上記の柔軟多孔質体3が、第2溝52を被覆するように、第1溝51に充填されている。これにより、柔軟多孔質体3が、模擬線維柱帯30を形成している。また、第2溝52が、柔軟多孔質体3で充填されずに、中空状態となっている。これにより、第2溝52が、ヒト眼球のシュレム管を模した模擬シュレム管50を形成している。
【0088】
以下において、上記した模擬眼球1を製造する方法について、図2および図9を参照して、詳述する。なお、図9には、眼球前房部分の拡大図を示す。
【0089】
この方法では、まず、上記の溝5を有する模擬眼球構造体2を準備する(図2Aおよび図8参照)。また、この方法では、模擬眼球構造体2とは別途、硬化性樹脂組成物31を準備する(図2B参照)。また、この方法では、さらに、上記の犠牲剤35を準備する(犠牲剤準備工程)。
【0090】
そして、この方法では、上記の塗布工程において、まず、図9Aに示されるように、上記の犠牲剤35を、第2溝52に塗布および充填する。塗布方法は、特に制限されず、公知の方法が採用される。次いで、必要に応じて、犠牲剤35を乾燥させる。これにより、第2溝52が、犠牲剤35によって充填される。
【0091】
次いで、この方法では、図9Bに示されるように、上記の第2溝52および犠牲剤35を被覆するように上記の硬化性樹脂組成物31を、第1溝51に塗布および充填する。
【0092】
次いで、この方法では、図9Cに示されるように、硬化性樹脂組成物31中の硬化性樹脂32を硬化させ、樹脂硬化物34を得る(硬化工程)。次いで、この方法では、図9Dに示されるように、多孔化剤33を除去し、樹脂硬化物34を多孔化させる(除去工程)。これにより、多孔化された樹脂硬化物34として、柔軟多孔質体3を形成する。
【0093】
また、この方法では、上記の除去工程において、犠牲剤35を除去し、第2溝52を中空状態にする。すなわち、上記と同様にして、犠牲剤35を、溶媒に溶出させる。
【0094】
これにより、犠牲剤35が除去され、柔軟多孔質体3の下側で、第2溝52が中空状態となる。これにより、模擬シュレム管50が形成される。
【0095】
次いで、この方法では、必要に応じて、図9Eに示されるように、柔軟多孔質体3を乾燥させる(乾燥工程)。これにより、第7実施形態の模擬眼球1(図8参照。)が得られる。
【0096】
上記の模擬眼球1では、柔軟多孔質体3の下側で第1溝51が中空状態とされる。そのため、上記の模擬眼球1では、柔軟多孔質体3を、模擬線維柱帯30として用いることができ、さらに、第1溝51を、模擬シュレム管50として用いることができる。その結果、上記の模擬眼球1では、とりわけ実際の眼球に近い感触が得られる。
【0097】
また、上記の模擬眼球1では、柔軟多孔質体3が模擬眼球構造体2の第2溝52に充填されるため、柔軟多孔質体3を、より精度よく、位置決めできる。そのため、柔軟多孔質体3を、より良好に、模擬線維柱帯30として用いることができる。
【0098】
5.用途
上記の模擬眼球1は、種々の用途に用いることができる。模擬眼球1の用途としては、例えば、以下に示すように、眼科医療行動および眼科医療行為についての検討および練習用途が挙げられる。
【0099】
(1)眼球手術練習
上記の模擬眼球1の用途としては、例えば、眼球手術練習用途が挙げられる。つまり、上記の模擬眼球1により、手術手技スキルの効率的および効果的な向上、高いスキルを有する医師数の増大、社会への安全・安心の提供を図ることができる。
【0100】
より具体的には、例えば、研修医や若手医師などを対象とした初期段階の手術手技の獲得のために、上記の模擬眼球1を用いることができる。
【0101】
また、例えば、練習を重ねることによる手術手技の習熟や、過去に習得した手術手技の再習得のために、上記の模擬眼球1を用いることができる。
【0102】
また、例えば、患者毎に対応した術前トレーニング(ペイシェントモデル)や、例えば、特殊な症状に対する手術手技の獲得(特殊な病変モデル)において、上記の模擬眼球1を用いることができる。
【0103】
(2)手術手技の定量的な測定および評価
上記の模擬眼球1の用途としては、例えば、手術手技の定量的な測定および評価用途が挙げられる。このような用途において上記の模擬眼球1を用いることにより、従来の医師感性に頼っていた手術手技を、定量的に数値化し、広く共有して応用することができる。
【0104】
より具体的には、例えば、上記の模擬眼球1と、公知のセンサーなどとを併用することにより、手術手技を定量データ化できる。
【0105】
そして、得られたデータをビッグデータ化し、機械学習による熟練度の策定に活用できる。また、例えば、熟練医の手術手技を模範とする練習、熟練医の手術手技を基準とする習熟度の把握などに、上記の模擬眼球1を用いることができる。
【0106】
さらに、得られたデータを、手術ロボットの操作におけるプログラムに活用することもできる。
【0107】
(3)手術方法や治療方法の改良の検討および練習
上記の模擬眼球1の用途としては、例えば、手術方法の改良検討用途、手術手技の改良検討用途、治療方法の改良検討用途、および、それらの練習用途が挙げられる。
【0108】
より具体的には、例えば、現存する手術方法、手術手技、治療方法(手術以外の治療方法)などについて、不具合の改良を検討するために、上記の模擬眼球1を用いることができる。
【0109】
また、改良された手術方法、手術手技、治療方法(手術以外の治療方法)などを習得するための練習において、上記の模擬眼球1を用いることができる。
【0110】
(4)手術や治療に用いられる器具、機器などの改良の検討および使用練習
上記の模擬眼球1の用途としては、例えば、手術や治療に用いられる器具や機器などの改良の検討用途、および、改良品の使用練習用途が挙げられる。
【0111】
より具体的には、例えば、眼球の手術、治療などに用いられる現存の器具や機器などについて、不具合の改良を検討するために、上記の模擬眼球1を用いることができる。
【0112】
また、改良された器具や機器などの使用方法を習得するための練習において、上記の模擬眼球1を用いることができる。
【0113】
(5)新手術方法、新手術手技、新治療方法などの開発および練習
上記の模擬眼球1の用途としては、例えば、新手術方法、新手術手技、新治療方法などの開発用途、および、その新方法の練習用途が挙げられる。
【0114】
より具体的には、例えば、新たな手術方法、新たな手術手技、新たな治療方法を開発するための検討において、上記の模擬眼球1を用いることができる。
【0115】
また、例えば、新たな手術方法、新たな手術手技、新たな治療方法を習得するための練習において、上記の模擬眼球1を用いることができる。
【0116】
(6)手術や治療に用いられる新器具、新機器などの開発および使用練習
上記の模擬眼球1の用途としては、例えば、手術方法や治療方法に用いられる新器具や新機器などの開発用途、および、その開発品の使用練習用途が挙げられる。
【0117】
より具体的には、例えば、新たな眼球の手術方法や、新たな眼球の治療などに用いられる新器具や新機器を開発するために、上記の模擬眼球1を用いることができる。また、改良された眼球の手術方法や、改良された眼球の治療などに用いられる新器具や新機器を開発するために、上記の模擬眼球1を用いることができる。さらには、現行の眼球の手術方法や、現行の眼球の治療などに用いられる新器具や新機器を開発するために、上記の模擬眼球1を用いることができる。
【0118】
また、これらの新器具や新機器などの使用方法を習得するための練習において、上記の模擬眼球1を用いることができる。
【0119】
これら各種用途において、上記の模擬眼球1を用いることにより、人眼を用いないなどといった倫理課題をクリアすることができ、さらに、効率的かつ効果的に、従来技術の改良、新技術の開発などについて検討でき、それら改良技術や新技術を練習することもできる。
【0120】
(7)医療制度における活用
上記の模擬眼球1の用途としては、例えば、医療制度に対する活用が挙げられる。このような用途において上記の模擬眼球1を用いることにより、人眼を用いないなどの倫理課題をクリアすることができ、さらに、効率的かつ効果的に、医療人材を育成することができるため、各種医療制度において活用することができる。
【0121】
より具体的には、上記の模擬眼球1は、例えば、新たな医療制度の策定に資する標準模擬品として使用することができ、また、例えば、認定医制度、専門医制度などにおける試験用模擬品として使用することができる。
【0122】
(8)医療ロボット、医療支援ロボットなどの開発、改良および使用練習
上記の模擬眼球1の用途としては、例えば、医療ロボット(とりわけ、手術ロボット)および医療支援ロボット(とりわけ、手術支援ロボット)の開発用途、および、その操作習得のための練習用途が挙げられる。
【0123】
つまり、人間では困難な高度な医療行為や、遠隔操作による医療行為などが期待されている医療ロボットおよび医療支援ロボットについての開発および改良についての検討を、上記の模擬眼球1を用いることにより、倫理課題をクリアする方法で、効率的かつ効果的に行うことができ、さらに、改良品の操作などを習得するための練習にも活用できる。
(9)チーム医療への活用
上記の模擬眼球1の用途としては、例えば、チーム医療への活用が挙げられる。
【0124】
より具体的には、手術現場は、助手や看護師による支援が必要であり、手術を円滑に迅速に行うため、チームとして組織化されている。そのため、事前にチームとして演習するシステムを構築することによって、チームに参加した人が早期に効果的に組織的行動を行うことができる。この点、手術時の共同作業者の行動・所作の模擬練習や、手術前の共同作業の事前検討などにおいて、上記の模擬眼球1を用いることができる。
【0125】
また、上記した眼科医療行動および眼科医療行為についての検討および練習用途の他にも、模擬人体モデルが要求される各種分野(例えば、展示用人体模型など)において、上記の模擬眼球1を使用することができる。
【0126】
6.手術練習器具
上記の模擬眼球1は、とりわけ、緑内障の手術を練習するための手術練習器具において、好適に用いられる。
【0127】
手術練習器具10は、図10に示されるように、ヒトの顔を模した模擬顔面11と、模擬顔面11の眼球部分に配置される上記の模擬眼球1とを備えている。より具体的には、上記の模擬眼球1は、模擬顔面11の眼窩部分に、嵌合されている。
【0128】
このような手術練習器具10では、上記模擬眼球1が用いられているため、実際の眼球に近い感触が得られる。
【符号の説明】
【0129】
1 模擬眼球
2 模擬眼球構造体
3 柔軟多孔質体
25 眼球前房
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11