(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065077
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】樹脂組成物、半導体封止剤、及び予測装置
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230502BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20230502BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20230502BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230502BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230502BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20230502BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C08L101/00
C01B33/12 Z
C01B33/18 Z
C08L63/00 C
C08K3/36
C08K5/54
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175665
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】浜坂 剛
(72)【発明者】
【氏名】今井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】田井 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】全 載完
【テーマコード(参考)】
4G072
4J002
4M109
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072BB07
4G072DD04
4G072DD05
4G072EE07
4G072FF09
4G072GG02
4G072TT01
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4G072UU01
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4J002AA001
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4M109AA01
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4M109EB02
4M109EB06
4M109EB08
4M109EB09
4M109EB13
(57)【要約】
【課題】シリカ粒子を含有する低熱膨張性の樹脂組成物において、低粘度を実現する。
【解決手段】樹脂と、無機充填材とを含む樹脂組成物であって、前記無機充填材には、
中位径が2μm以上、5μm以下である第1シリカ粒子と、
中位径が0.2μm以上、0.5μm未満の湿式シリカである第2シリカ粒子と、
中位径が0.1μm以上、0.2μm未満の湿式シリカである第3シリカ粒子と
が含まれる、樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、無機充填材とを含む樹脂組成物であって、
前記無機充填材には、
中位径が2μm以上、5μm以下である第1シリカ粒子と、
中位径が0.2μm以上、0.5μm未満の湿式シリカである第2シリカ粒子と、
中位径が0.1μm以上、0.2μm未満の湿式シリカである第3シリカ粒子と
が含まれる、樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機充填材には、
中位径が0.5μm以上、1.5μm未満の湿式シリカである第4シリカ粒子がさらに含まれる、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物中の前記無機充填材の配合割合は、60質量%以上、95質量%以下であり、
前記無機充填材中の前記第1シリカ粒子の配合割合aは、50質量%以上、80質量%以下である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機充填材中の
(i)前記第2シリカ粒子の配合割合をcとし、
(ii)前記第3シリカ粒子の配合割合をdとし、
(iii)中位径が0.5μm以上、1.5μm未満の湿式シリカである第4シリカ粒子の配合割合をbとすると、以下の式(1)
-0.078×b-0.105×c-0.011×d-0.0159×b2-0.0217×c2-0.0130×d2-0.0393×b×c-0.0257×c×d+0.0218×d×b+25.498≧0・・・・(1)
を満たす、請求項1から3の何れか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機充填材中の
(i)前記第2シリカ粒子の配合割合をcとし、
(ii)前記第3シリカ粒子の配合割合をdとし、
(iii)中位径が0.5μm以上、1.5μm未満の湿式シリカである第4シリカ粒子の配合割合をbとすると、以下の式(2)
-0.205×b+0.125×c+0.244×d-0.0151×b2-0.0102×c2-0.0079×d2-0.0154×b×c-0.0104×c×d+0.0252×d×b+0.964≧0・・・・(2)
を満たす、請求項1から3の何れか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記第2シリカ粒子、前記第3シリカ粒子、及び中位径が0.5μm以上、1.5μm未満の湿式シリカである第4シリカ粒子は、表面処理剤により処理されている、請求項1から5の何れか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記表面処理剤はシランカップリング剤である、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂はエポキシ樹脂である請求項1から7の何れか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む、半導体封止剤。
【請求項10】
樹脂と無機充填材とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、前記無機充填材中の(I)中位径が2μm以上、5μm以下である第1シリカ粒子の配合割合、(II)中位径が0.2μm以上、0.5μm未満の湿式シリカである第2シリカ粒子の配合割合、(III)中位径が0.1μm以上、0.2μm未満の湿式シリカである第3シリカ粒子の配合割合、(IV)中位径が0.5μm以上、1.5μm未満の湿式シリカである第4シリカ粒子の配合割合のそれぞれを予測する予測装置であって、
前記要求特性を示す樹脂組成物要求特性データを取得するデータ取得部と、
前記樹脂組成物要求特性データを予測モデルに入力することにより、前記樹脂組成物要求特性データを満たす、前記無機充填材中の(I)前記第1シリカ粒子の配合割合、(II)前記第2シリカ粒子の配合割合、(III)前記第3シリカ粒子の配合割合、(IV)前記第4シリカ粒子の配合割合、のそれぞれを示す推奨無機充填材配合データを導出する推奨データ導出部と、を備えた、予測装置。
【請求項11】
前記推奨データ導出部は、前記無機充填材中の(II)前記第2シリカ粒子の配合割合をcとし、(III)前記第3シリカ粒子の配合割合をdとし、(IV)前記第4シリカ粒子の配合割合をbとすると、下記の式(1)
-0.078×b-0.105×c-0.011×d-0.0159×b2-0.0217×c2-0.0130×d2-0.0393×b×c-0.0257×c×d+0.0218×d×b+25.498≧0・・・・(1)
を前記推奨無機充填材配合データとして導出する、請求項10に記載の予測装置。
【請求項12】
前記推奨データ導出部は、前記無機充填材中の(II)前記第2シリカ粒子の配合割合をcとし、(III)前記第3シリカ粒子の配合割合をdとし、(IV)前記第4シリカ粒子の配合割合をbとすると、下記の式(2)
-0.205×b+0.125×c+0.244×d-0.0151×b2-0.0102×c2-0.0079×d2-0.0154×b×c-0.0104×c×d+0.0252×d×b+0.964≧0・・・・(2)
を前記推奨無機充填材配合データとして導出する、請求項10に記載の予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、樹脂組成物、半導体封止剤、及び予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの小型化、薄型化、高密度実装化等の急速な進展に伴って、素子と基板との間の狭ギャップ化が進行し、半導体封止材には、さらなる低熱膨張性及び高い成形性が求められている。
【0003】
半導体封止材として用いられる樹脂組成物には、充填材としてシリカ粒子が配合される。シリカ粒子を樹脂組成物中に配合することで、樹脂組成物の熱膨張率を低下させることができる。一方で、シリカ粒子を樹脂組成物中に多量に配合すると、樹脂組成物の粘度が高くなり、成形性が低下してしまう。
【0004】
シリカ粒子を配合した樹脂組成物の例として、特許文献1には、固形分100質量部に対して充填剤が260質量部以上含有されているエポキシ樹脂組成物が記載されている。特許文献1には、充填剤として、平均粒子径が0.1μm以上1.0μm未満の球状シリカ粒子である第一シリカ粒子と、平均粒子径が1.0μm以上5.0μm以下の球状シリカ粒子である第二シリカ粒子と、平均粒子径が20nm以上200nm以下の球状シリカナノ粒子である第三シリカ粒子とを用いることにより、充填剤が多量に配合されていても、成形しやすいエポキシ樹脂組成物が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたエポキシ樹脂組成物は、特定の粒子径のシリカ粒子を複数組み合わせて、所望の特性の組成物が得られるように配合したものであり、他の粒子径のシリカ粒子を用いた場合に、同様の特性の組成物を得ることは困難である。シリカ粒子の粒子径や、それらの組み合わせ及び配合割合については、膨大な選択肢が存在するため、特許文献1の記載に基づいて、所望の特性を有するようにシリカ粒子を選択及び配合して樹脂組成物を得ることは容易ではない。特に、シリカ粒子の高配合による低熱膨張性の実現と、低粘度の樹脂組成物の実現とは、トレードオフの関係にあり、これらの両方を実現することは容易ではない。
【0007】
本発明の一態様は、シリカ粒子を含有する低熱膨張性の樹脂組成物において、低粘度を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、樹脂と、無機充填材とを含む樹脂組成物であって、前記無機充填材には、
中位径が2μm以上、5μm以下である第1シリカ粒子と、
中位径が0.2μm以上、0.5μm未満の湿式シリカである第2シリカ粒子と、
中位径が0.1μm以上、0.2μm未満の湿式シリカである第3シリカ粒子と、
が含まれる。
【0009】
本発明の一態様に係る半導体封止材は、本発明の一態様に係る樹脂組成物を含む。
【0010】
本発明の一態様に係る予測装置は、樹脂と無機充填材とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、前記無機充填材中の(I)中位径が2μm以上、5μm以下である第1シリカ粒子の配合割合、(II)中位径が0.2μm以上、0.5μm未満の湿式シリカである第2シリカ粒子の配合割合、(III)中位径が0.1μm以上、0.2μm未満の湿式シリカである第3シリカ粒子の配合割合、(IV)中位径が0.5μm以上、1.5μm未満の湿式シリカである第4シリカ粒子の配合割合のそれぞれを予測する予測装置であって、前記要求特性を示す樹脂組成物要求特性データを取得するデータ取得部と、前記樹脂組成物要求特性データを予測モデルに入力することにより、前記樹脂組成物要求特性データを満たす、前記無機充填材中の(I)前記第1シリカ粒子の配合割合、(II)前記第2シリカ粒子の配合割合、(III)前記第3シリカ粒子の配合割合、(IV)前記第4シリカ粒子の配合割合、のそれぞれを示す推奨無機充填材配合データを導出する推奨データ導出部と、を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、シリカ粒子を含有する低熱膨張性の樹脂組成物において、低粘度を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一態様に係る予測装置を備えた樹脂組成物製造システムの要部の構成を示すブロック図である。
【
図2】第1予測モデルの概要について説明する図である。
【
図3】第2予測モデルの概要について説明する図である。
【
図4】推奨データ導出部の概要について説明する図である。
【
図5】無機充填材配合入力データおよび第2入力データの一例を示す図である。
【
図6】第1アルゴリズム実行部における説明変数の導出例を示す図である。
【
図7】第2アルゴリズム実行部における第1予測モデルの生成例を示す図である。
【
図8】第1予測モデルにおける入出力の例を示す図である。
【
図9】第3アルゴリズム実行部によって生成された第2予測モデルにおける演算例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、シリカ粒子を含有する低熱膨張性の樹脂組成物において、さらに低粘度を実現するために鋭意検討した結果、樹脂組成物に要求される特性データ(樹脂組成物要求特性データ)を入力することによって、当該樹脂組成物要求特性データを満たす、無機充填材中の各シリカ粒子の配合割合を表す推奨無機充填材配合データを導出する予測モデルを用いることによって、低熱膨張性及び低粘度の両方を満たす樹脂組成物を実現できることを見出した。
【0014】
以下では、まず、低熱膨張性及び低粘度の両方を満たす〔樹脂組成物〕の構成について説明する。そして、当該樹脂組成物を実現するために用いる予測モデルの生成、及び、生成した予測モデルを用いた無機充填材の配合割合の予測を実行する〔樹脂組成物製造システム〕について説明する。
【0015】
〔樹脂組成物〕
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、樹脂と、無機充填材とを含み、当該無機充填材には、中位径が2μm以上、5μm以下である第1シリカ粒子と、中位径が0.2μm以上、0.5μm未満の湿式シリカである第2シリカ粒子と、中位径が0.1μm以上、0.2μm未満の湿式シリカである第3シリカ粒子とが含まれる。また、樹脂組成物には、無機充填材として、中位径が0.5μm以上、1.5μm未満の湿式シリカである第4シリカ粒子がさらに含まれ得る。
【0016】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、無機充填材としてシリカ粒子を含有しているので、低熱膨張性である。半導体封止材として用いられる樹脂組成物は、低熱膨張性であると同時に、成形性を向上させるために低粘度であることが好ましい。本発明の一態様に係る樹脂組成物は低粘度であり、その粘度は、常温(20~30℃)で、250Pa・s以下であることが好ましく、200Pa・s以下であることがより好ましい。本発明の一態様に係る樹脂組成物を含む半導体封止剤についても、本発明の範疇に含まれる。
【0017】
樹脂組成物は、硬化剤、エラストマー、イオントラップ剤、顔料、染料、消泡剤、応力緩和剤、pH調整剤、促進剤、界面活性剤、カップリング剤等をさらに含んでいてもよい。
【0018】
樹脂組成物は、樹脂と無機充填材とを混合することにより得られる。樹脂と混合する無機充填材は、溶媒に分散した分散体であってもよい。
【0019】
(樹脂)
樹脂組成物に含まれる樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等を例示することができ、一例として、エポキシ樹脂である。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂や、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂や、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラル型エポキシ樹脂、ビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタンノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル類、3官能又は4官能のグリシジルアミン類、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂等のアリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格変性クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、メトキシナフタレン変性クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、メトキシナフタレンジメチレン型エポキシ樹脂等のナフタレン骨格変性エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、上記エポキシ樹脂をハロゲン化した難燃化エポキシ樹脂等を用いることができる。これらのエポキシ樹脂の1種類を単独で用いたり、異なる重量平均分子量を有する2種類以上を併用したりすることもできる。
【0020】
樹脂は、樹脂組成物全体に対して、10質量%以上、40質量%以下含有されていてもよく、10質量%以上、35質量%以下含有されていることがより好ましく、15質量%以上、30質量%以下含有されていることがさらに好ましい。
【0021】
(無機充填材)
無機充填材には、第1シリカ粒子、第2シリカ粒子、及び第3シリカ粒子が含まれる。また、無機充填材には、第4シリカ粒子がさらに含まれてもよい。第1シリカ粒子~第4シリカ粒子の中位径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布において、頻度の累積が50%となる粒子径D50を意図している。第1シリカ粒子~第4シリカ粒子は、球状であり得る。球状のシリカ粒子は、後述する各シリカ粒子の製造方法により製造する事ができる。
【0022】
樹脂組成物中の無機充填材の配合割合は、樹脂組成物全体に対して、60質量%以上、95質量%以下であり、好ましくは、65質量%以上、90質量%以下であり、より好ましくは70質量%以上、85質量%以下である。
【0023】
<第1シリカ粒子>
第1シリカ粒子は、中位径が2μm以上、5μm以下のシリカ粒子である。第1シリカ粒子の製造方法としては、特に限定されないが、特定の方法により得られたシリカ粗粉末を、特定の分級装置により分級することにより製造することができる。
【0024】
第1シリカ粒子を製造するために用いるシリカ粗粉末の製造方法としては、例えば、溶融法、湿式法、乾式法等が挙げられるが、一例として、溶融法である。溶融法として、公知の溶融法を用いることが可能であり、一例として、特開2015-86120に記載された方法を用いることができる。
【0025】
溶融法においては、気体又は液体燃料に、酸素又は空気等の支燃ガスを混合してバーナーにて燃焼させた火炎中に、エジェクター、スクリューフィーダー、流動層を用いる方法により原料であるヒュームドシリカを供給する。供給されたヒュームドシリカは溶融して溶融球状シリカが生成され、この溶融球状シリカをサイクロンに導いて固気分離することで、シリカ粗粉末が得られる。このように得られるシリカ粗粉末中のシリカ粒子は、球状であり得る。
【0026】
原料であるヒュームドシリカとしては、ケイ素化合物、特にケイ素のハロゲン化物、一般的には、ケイ素の塩化物、通常は精製した四塩化ケイ素を酸水素火炎中で燃焼して製造される、公知の製法により得られるものが使用できる。
【0027】
ヒュームドシリカは、疎水化されていることが好ましい。疎水化されたヒュームドシリカを用いることにより、火炎中での分散性が向上するため、より真球度の高い、そして粒径の揃った球状シリカ粗粉末が得られる。こうして製造された球状シリカ粗粉末中には、比表面積が極端に大きい微細なシリカ粒子が低減される。ヒュームドシリカの疎水化は特に制限されるものではなく、従来知られている疎水化処理によって行うことができ、使用する疎水化剤についても、シリル化剤のような公知の処理剤を何ら制限されずに使用することができる。
【0028】
上述したように得られたシリカ粗粉末を分級する方法の一例として、分級ロータの回転により粉体に作用する遠心力と、分級ロータの軸心方向に通過する空気流により粉体に作用する抗力とのバランスにより粉体を分級する機構を用いる方法が挙げられる。このような方法においては、分級ロータの上面が樹脂コーティングされた粉体分級機に、シリカ粗粉末の分散気流を供給し、シリカ粗粉末に含まれる、45μmを超える粗大粒子を分級ロータ上から飛散分離させる。また、上記の分級ロータが、周縁部から軸心部下方に連通する内空部を有する円盤状であって、該内空部側から吸引し、1μm未満の微粒子を選択的に該内空部内に吸入しながら分離を実施する構造であってもよい。
【0029】
<第2シリカ粒子>
第2シリカ粒子は、中位径が0.2μm以上、0.5μm未満の湿式シリカである。第2シリカ粒子は、公知の湿式法により製造することができる。湿式法の一例として、再公表特許WO2018/096876に記載されたゾル-ゲル法が挙げられる。ゾル-ゲル法は、珪素アルコキシドを、触媒を含有する水と有機溶媒からなる反応媒体中において加水分解、重縮合させてシリカゾルを生成させ、これをゲル化させた後、生成した固形分を取り出し、乾燥させてシリカ粉末を生成する方法である。この方法により生成したシリカ粉末を、必要に応じてさらに焼成してもよい。
【0030】
上述したゾル-ゲル法においては、反応容器に水、水以外の極性溶媒(有機溶媒)及び塩基性触媒を仕込み、ここに珪素アルコキシド(又は珪素アルコキシドの有機溶媒溶液)と塩基性触媒の水溶液とを同時に添加して反応させる。珪素アルコキシドと塩基性触媒との添加時間、及び、反応温度を適宜設定することで、所望の粒径分布のシリカ粒子を製造することができる。また、ゾル-ゲル法により生成したシリカ粒子の分散液を湿式で濾過し、粗大粒子を除去してもよい。
【0031】
珪素アルコキシドとして、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等を挙げることができる。塩基性触媒として、例えば、アミン化合物、水酸化アルカリ金属等を挙げることができる。水以外の極性溶媒である有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド化合物等を挙げることができる。
【0032】
<第3シリカ粒子>
第3シリカ粒子は、中位径が0.1μm以上、0.2μm未満の湿式シリカである。第3シリカ粒子は、第2シリカ粒子と同様に、公知の湿式法により製造することができる。
【0033】
<第4シリカ粒子>
第4シリカ粒子は、中位径が0.5μm以上、1.5μm未満の湿式シリカである。第4シリカ粒子は、第2シリカ粒子と同様に、公知の湿式法により製造することができる。
【0034】
<他のシリカ粒子>
無機充填材には、さらに、第1シリカ粒子~第4シリカ粒子以外の他のシリカ粒子が含まれてもよい。他のシリカ粒子として、例えば、中位径が1.5μm以上、2μm未満のシリカ粒子が無機充填材に含まれていてもよい。また、他のシリカ粒子として、例えば、中位径が5μmを超えるシリカ粒子が無機充填材に含まれていてもよい。
【0035】
(表面処理)
第2シリカ粒子、第3シリカ粒子、及び第4シリカ粒子は、表面処理剤により処理されていてもよい。表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤、シロキサン類やシラザン類等が特に制限なく使用される。例えば、シランカップリング剤であれば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、等が挙げられる。シロキサン類であればジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等、ポリジメチルシロキサン等のポリシロキサン類、そしてシラザン類であればヘキサメチルジシラザン等が使用できる。表面処理剤は、好ましくは、シランカップリング剤である。
【0036】
第2シリカ粒子、第3シリカ粒子、及び第4シリカ粒子を表面処理剤により処理する方法としては、特に限定されないが、シリカ粒子と表面処理剤とを混合装置内において攪拌混合し、加熱処理する方法が挙げられる。シリカ粒子を表面処理剤により処理する方法の一例として、再公表特許WO2019/044929及び特開2014-201454に記載された方法が挙げられる。
【0037】
表面処理剤による表面処理は、第2シリカ粒子、第3シリカ粒子、及び第4シリカ粒子の分散液をゾル-ゲル法により得た後、湿式ろ過する前に行われることが好ましい。これにより、表面処理により生じ得る凝集塊や表面処理剤の残差を取り除くことができる。混合装置への表面処理剤の添加方法は、特に限定されないが、表面処理剤が常温、常圧で低粘度の液体である場合には、そのまま添加すればよい。表面処理剤が常温、常圧で高粘度液体又は固体である場合には、これを適当な有機溶媒に添加して溶液又は分散液としたうえで、混合装置に添加すればよい。シリカ粒子を表面処理する表面処理剤の量は、用途等に応じて適宜設定すればよい。
【0038】
(配合割合)
無機充填材中の第1シリカ粒子の配合割合aは、無機充填材全量に対して、50質量%以上、80質量%以下であり、好ましくは、55質量%以上、80質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上、75質量%以下である。
【0039】
無機充填材中の第2シリカ粒子の配合割合cは、無機充填材全量に対して、5質量%以上、20質量%以下であり、好ましくは、5質量%以上、15質量%以下である。
【0040】
無機充填材中の第3シリカ粒子の配合割合dは、無機充填材全量に対して、5質量%以上、30質量%以下であり、好ましくは、10質量%以上、25質量%以下である。
【0041】
無機充填材中の第4シリカ粒子の配合割合bは、無機充填材全量に対して、0質量%以上、15質量%以下であり、好ましくは、0質量%以上、10質量%以下である。
【0042】
無機充填材中の各シリカ粒子の配合割合は、樹脂組成物に要求される特性を充足するように選択すればよい。一例として、樹脂組成物に要求される粘度を充足するように、無機充填材中の各シリカ粒子の配合割合を選択する。好ましくは、樹脂組成物の粘度が250Ps・s以下となる無機充填材中の各シリカ粒子の配合割合を選択する。
【0043】
樹脂組成物の粘度が250Ps・s以下となる無機充填材中の各シリカ粒子の配合割合は、無機充填材中の(i)第2シリカ粒子の配合割合をcとし、(ii)第3シリカ粒子の配合割合をdとし、(iii)第4シリカ粒子の配合割合をbとすると、以下の式(1)
-0.078×b-0.105×c-0.011×d-0.0159×b2-0.0217×c2-0.0130×d2-0.0393×b×c-0.0257×c×d+0.0218×d×b+25.498≧0・・・・(1)
を満たすものであり得る。後述する実施例1~5は、式(1)を満たす配合割合で各シリカ粒子が配合された樹脂組成物である。
【0044】
また、無機充填材中の(i)第2シリカ粒子の配合割合をcとし、(ii)第3シリカ粒子の配合割合をdとし、(iii)第4シリカ粒子の配合割合をbとすると、以下の式(2)
-0.205×b+0.125×c+0.244×d-0.0151×b2-0.0102×c2-0.0079×d2-0.0154×b×c-0.0104×c×d+0.0252×d×b+0.964≧0・・・・(2)
を満たす配合割合とすることで、式(1)を満たす配合割合よりも高確率で粘度が250Ps・s以下の樹脂組成物を得ることができる。後述する実施例3~5は、式(2)を満たす配合割合で各シリカ粒子が配合された樹脂組成物である。
【0045】
上記式(1)又は式(2)に基づいて無機充填材中の各シリカ粒子の配合割合を算出した上で、樹脂組成物に含まれる樹脂の種類や含有量等に応じて当該配合割合を調整してもよい。
【0046】
〔無機充填材中の各シリカ粒子の配合割合を予測する予測装置〕
本発明の一態様に係る予測装置は、樹脂と無機充填材とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、無機充填材中の(I)中位径が2μm以上、5μm以下である第1シリカ粒子の配合割合、(II)中位径が0.2μm以上、0.5μm未満の湿式シリカである第2シリカ粒子の配合割合、(III)中位径が0.1μm以上、0.2μm未満の湿式シリカである第3シリカ粒子の配合割合、(IV)中位径が0.5μm以上、1.5μm未満の湿式シリカである第4シリカ粒子の配合割合のそれぞれを予測する予測装置であって、要求特性を示す樹脂組成物要求特性データを取得するデータ取得部と、樹脂組成物要求特性データを予測モデルに入力することにより、樹脂組成物要求特性データを満たす、無機充填材中の(I)第1シリカ粒子の配合割合、(II)第2シリカ粒子の配合割合、(III)第3シリカ粒子の配合割合、(IV)第4シリカ粒子の配合割合、のそれぞれを示す推奨無機充填材配合データを導出する推奨データ導出部と、を備えている。
【0047】
(樹脂組成物製造システム1)
本発明の一態様に係る予測装置を備える樹脂組成物製造システム1について、以下に説明する。簡潔化のため、公知技術と同様の事項については、説明を適宜省略する。本明細書において述べる各構成および各数値は、特に明示されない限り、単なる一例であることに留意されたい。
【0048】
図1は、樹脂組成物製造システム1の要部の構成を示すブロック図である。樹脂組成物製造システム1は、モデル生成装置100と予測装置300とを備える。後述の通り、モデル生成装置100は、1つ以上の無機充填材と1つ以上の樹脂とを含む樹脂組成物についての要求特性充足条件を予測するための予測モデルを生成する。具体的には、モデル生成装置100は、前記予測モデルとして、後述する第2予測モデル(MODEL2)を生成する。そして、予測装置300は、MODEL2を用いて、要求特性充足条件を予測する。
【0049】
予測装置300は、第3入力データ取得部(データ取得部)33、推奨データ導出部34、および出力部35を備える。予測装置300は、樹脂組成物の要求特性を示す樹脂組成物要求特性を満たす、無機充填材中の第1シリカ粒子~第4シリカ粒子の配合割合のそれぞれを示す推奨無機充填材配合データを導出する。ここで、樹脂組成物要求特性は、一例として、樹脂組成物の粘度である。すなわち、予測装置300は、所望の粘度の樹脂組成物を得るための、無機充填材中の第1シリカ粒子~第4シリカ粒子の配合割合を導出するものであり得る。予測装置300において、樹脂組成物要求特性データとして所望の低粘度とした場合、予測モデルによりこれを実現する配合割合を導出する。そして、導出された配合割合で第1シリカ粒子~第4シリカ粒子を配合して樹脂組成物を生成することで、シリカ粒子を含有する低熱膨張性の樹脂組成物において、さらに低粘度を実現することができる。予測装置300の詳細については、後述する。
【0050】
以下の説明では、1つ以上のシリカ粒子を総称的に無機充填材Aと称し、1つ以上の樹脂を総称的に樹脂Bと称する。そして、無機充填材Aと樹脂Bとを含む樹脂組成物を、樹脂組成物Cと称する。
【0051】
なお、本明細書における「要求特性充足条件」は、「樹脂組成物Cの要求特性を完全に満たす条件」に限定されないことに留意されたい。本明細書における「要求特性充足条件」には、例えば、「樹脂組成物Cの完全な要求特性に最も近い要求特性」および「樹脂組成物Cの完全な要求特性にある程度近い要求特性」も含まれる。従って、樹脂組成物製造システム1は、樹脂Cの完全な要求特性を概ね満たす条件を、要求特性充足条件として予測できればよい。このため、例えば、後述の通り、樹脂組成物製造システム1は、確率論的な数理モデルに基づいて要求特性充足条件を予測してよい。
【0052】
樹脂組成物製造システム1の処理は、学習フェーズ(モデル生成装置100における処理)と予測フェーズ(予測装置300における処理)とに大別される。予測フェーズは、推論フェーズとも称される。まず、学習フェーズについて説明する。
【0053】
(モデル生成装置100)
モデル生成装置100は、予測装置300において用いられる予測モデル生成する。モデル生成装置100は、第1入力データ取得部11、第2入力データ取得部12、第1機械学習部21、および第2機械学習部22を備える。
【0054】
第1入力データ取得部11は、第1入力データ110を取得する。第1入力データ110は、無機充填材配合入力データ111を含む入力データである。無機充填材配合入力データ111は、複数種類の無機充填材Aを樹脂Bへと配合した樹脂組成物C内における、無機充填材Aの配合割合に関するデータである。一例として、無機充填材配合入力データ111は、無機充填材Aの配合割合を示すデータである。
【0055】
第1入力データ取得部11は、任意のデータ取得インターフェースであってよい。一例として、第1入力データ取得部11は、ユーザの入力操作を受け付ける入力部であってよい。この場合、第1入力データ取得部11は、ユーザによって入力された第1入力データ110を取得する。別の例として、第1入力データ取得部11は、モデル生成装置100内の記憶部(不図示)に予め格納された第1入力データ110を取得してもよい。さらに別の例として、第1入力データ取得部11は、モデル生成装置100の外部装置(不図示)と通信し、当該外部装置から第1入力データ110を取得してもよい。外部装置の例としては、ストレージサーバおよび測定装置等を挙げることができる。第1入力データ取得部11についてのこれらの説明は、以下に述べる第2入力データ取得部12および後述する第3入力データ取得部33についても同様に当てはまる。
【0056】
第2入力データ取得部12は、第2入力データ120を取得する。具体的には、第2入力データ取得部12は、第2入力データ120として、樹脂組成物特性入力データを取得する。樹脂組成物特性入力データは、樹脂組成物Cの特性を示す。このことから、第2入力データ120は、第1入力データ110と対になるデータであると言える。
【0057】
第1機械学習部21は、第1入力データ取得部11から第1入力データ110を、第2入力データ取得部12から第2入力データ120を、それぞれ取得する。第1機械学習部21は、第1入力データ110および第2入力データ120に基づいて、第1予測モデル(以下、MODEL1と称する)を生成する。
【0058】
図2は、MODEL1の概要について説明する図である。
図2に示される通り、MODEL1は、任意の無機充填材配合データ1110から、未知の樹脂組成物特性データ1200を予測するためのモデル(数理モデル)である。本明細書では、任意の無機充填材配合データ1110を含むデータセットを、任意の入力データセット1100と称する。
【0059】
図2の例において、任意の入力データセット1100は、説明変数(X)の一例である。そして、未知の樹脂組成物特性データ1200は、目的変数(y)の一例である。なお、説明変数は、独立変数とも称される。これに対し、目的変数は、従属変数または被説明変数とも称される。
図2の例において、MODEL1は、y=f(X)の関係を示す関数fとして表すことができる。このように、MODEL1は、順問題を解くためのモデル(Xからyを導出するためのモデル)である。
【0060】
なお、本明細書では、任意の入力データセット1100に含まれるデータの種類は、MODEL1の生成に用いた教師データの種類と一致しているものとする。すなわち、任意の入力データセット1100のデータ構造は、MODEL1の生成に用いた教師データのデータ構造と一致しているものとする。従って、例えば、任意の入力データセット1100のデータ構造は、第1入力データ110のデータ構造と一致している。
【0061】
第2機械学習部22は、第1機械学習部21からMODEL1を取得する。第2機械学習部22は、MODEL1に基づいて、第2予測モデル(以下、MODEL2と称する)を生成する。
【0062】
図3は、MODEL2の概要について説明する図である。
図3に示される通り、MODEL2は、任意の樹脂組成物特性データ2200を満たす、予測無機充填材配合データ2310を予測するためのモデルである。なお、本明細書における記載「任意の樹脂組成物特性データ2200を満たす」は、「任意の樹脂組成物特性データ2200によって示されている樹脂組成物Cの要求特性を満たす」ことを意味する。また、本明細書では、予測無機充填材配合データ10を含むデータセットを、予測データセット2300と称する。
【0063】
図3の例において、任意の樹脂組成物特性データ2200は、目的変数(y)の一例である。そして、予測データセット2300は、説明変数(X)の一例である。
図3の例において、MODEL2は、X=g(y)の関係を示す関数gとして表すことができる。なお、g≒f
-1である。すなわち、関数gは、関数fの近似的な逆関数である。このように、MODEL2は、逆問題を解くためのモデル(yからXを導出するためのモデル)である。以上の通り、MODEL2は、MODEL1と対になるモデルである。
【0064】
なお、本明細書では、任意の樹脂組成物特性データ2200の種類は、MODEL2の生成に用いた教師データの種類と一致しているものとする。すなわち、任意の樹脂組成物特性データ2200のデータ構造は、MODEL2の生成に用いた教師データのデータ構造と一致しているものとする。従って、例えば、任意の樹脂組成物特性データ2200のデータ構造は、第2入力データ120のデータ構造と一致している。
【0065】
図1の例では、第1機械学習部21は、第1アルゴリズム実行部211および第2アルゴリズム実行部212を有している。第1アルゴリズム実行部211は、第1入力データ取得部11から第1入力データ110を取得する。第1アルゴリズム実行部211は、第2入力データ120から得られる樹脂組成物Cの特性を示すデータに対応する説明変数(X)を導出する第1アルゴリズムを実行する。第1アルゴリズムの例については、後述する。
【0066】
第2アルゴリズム実行部212は、第1アルゴリズム実行部211から説明変数(X)を取得するとともに、第2入力データ取得部12から第2入力データ120を取得する。第2アルゴリズム実行部212は、Xおよび第2入力データ120に基づいてMODEL1を生成する第2アルゴリズムを実行する。
【0067】
第2アルゴリズムは、Xおよび第2入力データ120に基づいてMODEL1を生成することが可能な任意のアルゴリズムであってよい。言い換えれば、第2アルゴリズムは、順問題を解くためのモデルを生成することが可能な任意のアルゴリズムであってよい。一例として、第2アルゴリズムは、
・ガウス過程回帰、
・サポートベクターマシン、
・線形回帰、
・決定木、
・ランダムフォレスト、
・ニューラルネットワーク、および、
・勾配ブースティング木、
のうちの少なくとも1つである。
【0068】
図1の例では、第2機械学習部22は、第3アルゴリズム実行部223を有している。第3アルゴリズム実行部223は、MODEL1に基づいてMODEL2を生成する第3アルゴリズムを実行する。
【0069】
第3アルゴリズムは、MODEL1に基づいてMODEL2を生成することが可能な任意のアルゴリズムであってよい。言い換えれば、第3アルゴリズムは、逆問題を解くためのモデルを生成することが可能な任意のアルゴリズムであってよい。一例として、第3アルゴリズムは、
・遺伝的アルゴリズム、
・最急降下法、
・グリッドサーチ、および、
・ベイズ最適化、
のうちの少なくとも1つである。
【0070】
本発明の一態様において、樹脂組成物特性入力データ(第2入力データ120)は、樹脂組成物Cの任意の特性を示すデータであってよい。一例として、樹脂組成物特性入力データは、樹脂組成物Cの、
粘度、流動性、成形性、接着性、透明性、色調、強度、吸水率、線膨張係数、弾性率、降伏応力、引っ張り強さ、破壊靭性、電気伝導率、誘電率、誘電正接、熱伝導率、および、安定性、
のうちの少なくとも1つを、樹脂組成物Cの特性として示す。樹脂組成物特性入力データは、樹脂組成物Cの粘度であってもよい。なお、樹脂組成物特性入力データに関する当該説明は、当該樹脂組成物特性入力データに対応する各データにも同様に当てはまる。
【0071】
(予測装置300)
続いて、予測フェーズについて説明する。予測装置300は、第3入力データ取得部(データ取得部)33、推奨データ導出部34、および出力部35を備える。
【0072】
第3入力データ取得部33は、第3入力データ330を取得する。具体的には、第3入力データ取得部33は、樹脂組成物要求特性データを第3入力データ330として取得する。樹脂組成物要求特性データは、樹脂組成物Cの要求特性を示す。
【0073】
推奨データ導出部34は、第3入力データ取得部33から樹脂組成物要求特性データ(第3入力データ330)を取得するとともに、モデル生成装置100(より具体的には、第2機械学習部22)からMODEL2を取得する。
【0074】
図4は、推奨データ導出部34の概要について説明する図である。
図4に示される通り、推奨データ導出部34は、樹脂組成物要求特性データをMODEL2に入力することにより、推奨データ340を導出する。推奨データ340は、推奨無機充填材配合データ341を含む。
【0075】
推奨無機充填材配合データ341は、樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材Aの配合を示す。なお、本明細書における記載「樹脂組成物要求特性データを満たす」は、「樹脂組成物要求特性データによって示されている樹脂組成物Cの要求特性を満たす」ことを意味する。推奨データ導出部34によって推奨データ340を導出する処理の具体例については、後述する。
【0076】
上述の通り、本明細書における「要求特性充足条件」は、「樹脂組成物Cの要求特性を完全に満たす条件」に限定されない。このため当然ながら、本明細書における推奨データ340は、「樹脂組成物要求特性データを完全に満たすデータ」に限定されない。本明細書における推奨データ340には、「樹脂組成物要求特性データを概ね満たすデータ」も含まれる。
【0077】
従って、本明細書における推奨無機充填材配合データ341は、樹脂組成物要求特性データを概ね満たす無機充填材Aの配合を示していればよい。なお、推奨無機充填材配合データ341に関するこれらの説明は、上述の予測無機充填材配合データ2310についても同様に当てはまる。
【0078】
出力部35は、推奨データ導出部34から推奨データ340を取得する。そして、出力部35は、推奨データ340を出力する。出力部35は、任意の出力インターフェースであってよい。一例として、出力部35は、ディスプレイ(表示装置)であってよい。この場合、出力部35は、推奨データ340を表示することにより、当該推奨データ340をユーザに視覚的に提示できる。このように、出力部35は、推奨データ340を視覚的態様によって出力してもよい。別の例として、出力部35は、モデル生成装置100内の記憶部に、推奨データ340を転送してもよい。さらに別の例として、出力部35は、モデル生成装置100の外部装置に、推奨データ340を転送してもよい。
【0079】
本発明の一態様において、樹脂組成物要求特性データ(第3入力データ330)は、樹脂組成物Cの任意の要求特性を示すデータであってよい。上述の樹脂組成物特性入力データに関する説明から明らかである通り、一例として、樹脂組成物要求特性データは、樹脂組成物Cの、
粘度、流動性、成形性、接着性、透明性、色調、強度、吸水率、線膨張係数、弾性率、降伏応力、引っ張り強さ、破壊靭性、電気伝導率、誘電率、誘電正接、熱伝導率、および、安定性、
のうちの少なくとも1つを、樹脂組成物Cの要求特性として示す。一例として、樹脂組成物要求特性データは、樹脂組成物Cの粘度である。
【0080】
(樹脂組成物製造システム1における処理の一例)
以下、樹脂組成物製造システム1における処理の一例について説明する。以下の例では、無機充填材Aの種類が5つであり、かつ、樹脂Bの種類が1つである場合について説明する。以下の例では、樹脂Bの特性および樹脂Bの配合割合はいずれも、一定の固定値(固定条件)に設定されているものとする。
【0081】
従って、以下の例では、樹脂Bの特性および樹脂Bの配合割合については、説明変数として考慮しない。それゆえ、以下の説明では、樹脂特性入力データ112および樹脂配合入力データ114については言及しない。このことから、以下では、無機充填材Aの配合割合を、単に配合割合とも略称する。なお、以下の例では、樹脂組成物Cの特性として、樹脂組成物Cの粘度(単位:Pa・s)を例示する。また、樹脂組成物Cの粘度を、単に粘度とも略称する。
【0082】
(第1入力データ110および第2入力データ120の一例)
図5は、無機充填材配合入力データ111および第2入力データ120の一例を示す図である。
図5の例における無機充填材配合入力データ111は、5種類の無機充填材の配合割合を、重量%(wt%)によって示すデータである。以下の説明では、5種類の無機充填材をそれぞれ、無機充填材0~無機充填材4と称する。そして、無機充填材iの配合割合を、x0iと称する。iは、0≦i≦4を満たす整数である。例えば、x01は、無機充填材1の配合割合を表す。
【0083】
ここで、当業者であれば明らかである通り、
x00+x01+x02+x03+x04=100
という関係が成立する。従って、x00は、
x00=100-x01-x02-x03-x04
の通り、予め設定されたx01~x04に応じて一義的に決定される。そこで、
図5の例における無機充填材配合入力データ111では、説明変数の次元数を削減するために、x01~x04のみが設定されている。
【0084】
無機充填材配合入力データ111では、配合割合パターン(x01~x04の組み合わせのパターン)が複数個設定されている。
図5のidは、配合割合パターンの識別番号である。例えば、id=1は、1番目の配合割合パターン(以下、第1配合割合パターンとも称する)を示す。
図5の例における第1番配合割合パターンでは、「x00=60、x01=10、x02=30、x03=0、x04=0」である。なお、以下では、例えば、id=1を、id1と適宜略記する。
【0085】
図5の例における第2入力データ120は、各配合割合パターンに対応する、樹脂組成物Cの粘度(y01)を示す。具体的には、第2入力データ120におけるy01には、各配合割合パターンに対して実測された粘度の値が記録されている。本例における計算機シミュレーションに先立ち、本願の発明者ら(以下、単に「発明者ら」と略称する)は、上述の第1配合割合パターンに従って樹脂組成物Cを製造した。そして、発明者らが樹脂組成物Cの粘度を実測したところ、当該実測値として455という値が得られた。このため、
図5の例における第2入力データ120では、id1に対して、y01=455という値が設定されている。
【0086】
図5の例では、各配合割合パターンとy01との対応関係を示すデータセットが、idごとに作成されている。
図5の例において、j番目のid(idj)に対応するデータセットを、DATASET_idjと称する。一例として、DATASET_id1は、第1番配合割合パターンとy01との対応関係を示すデータセットである。以下、j番目の配合割合パターンを、第j配合割合パターンとも称する。
【0087】
(第1アルゴリズム実行部211における説明変数の導出例)
図6は、第1アルゴリズム実行部211における説明変数の導出例を示す図である。第1アルゴリズム実行部211は、第1入力データ110から得られる樹脂組成物Cの特性を示すデータに対応する説明変数(X)を導出する。本例では、第1アルゴリズム実行部211は、無機充填材配合入力データ111から得られる樹脂組成物Cの粘度を示すデータに対応する説明変数を導出する。このように、本例では、目的変数である粘度を説明するための説明変数が、Xとして導出される。
【0088】
具体的には、第1アルゴリズム実行部211は、第1アルゴリズムを実行することにより、無機充填材配合入力データ111に基づいて、Xを導出する。
図6の例では、第1機械学習部21は、第1アルゴリズムとして加重平均算出および主成分分析を実行する。
【0089】
図6の例では、第1機械学習部21は、無機充填材配合入力データ111を主成分分析することにより、粒度分布起因ベクトル(
図6のxx01~xx05を成分として有するベクトル)を説明変数として導出する。なお、第1機械学習部21は、無機充填材配合入力データ111を、例えば、無機充填材の特性データに基づいて加重平均し、加重平均後の無機充填材配合入力データを主成分分析することにより、説明変数を導出してもよい。無機充填材の特性データは、一例として、無機充填材の粒度分布であり得る。加重平均算出における重み値は、例えば無機充填材の特性データに基づいて、公知の手法によって設定されてよい。主成分分析により削減される次元は、任意に設定されてよい。第1機械学習部21は、idごとに粒度分布起因ベクトルを算出する。従って、例えば、
図7に示す通り、第1機械学習部21によって導出される説明変数には、以下に述べる第1粒度分布起因ベクトル(id1に対応する粒度分布起因ベクトル)が含まれている。
【0090】
本明細書では、第j配合割合パターンに対応する粒度分布起因ベクトル(換言すれば、idjに対応する粒度分布起因ベクトル)を、第j粒度分布起因ベクトルと称する。第j粒度分布起因ベクトルは、第j配合割合パターンが適用された場合の、樹脂組成物Cにおける無機充填材0~無機充填材4の粒度分布から算出される。従って、例えば、第1粒度分布起因ベクトルは、上述の第1配合割合パターンが適用された場合の、樹脂組成物Cにおける無機充填材0~無機充填材4の粒度分布から算出される。
【0091】
(第2アルゴリズム実行部212におけるMODEL1の生成例)
図7は、第2アルゴリズム実行部212におけるMODEL1の生成例を示す図である。第2アルゴリズム実行部212は、(i)第1アルゴリズム実行部211によって導出された説明変数(X)と、(ii)第2入力データ120と、に基づいて、MODEL1を生成する。具体的には、第2アルゴリズム実行部212は、第2アルゴリズムを実行することにより、Xと第2入力データ120とに基づいて、MODEL1を生成する。
【0092】
図7の例では、第2アルゴリズム実行部212は、第2アルゴリズムとして、ニューラルネットワークを実行する。具体的には、第2アルゴリズム実行部212は、各idについて、Xに対応する目的変数を、第2入力データ120から取得する。例えば、第2アルゴリズム実行部212は、id1におけるXに対応する目的変数(y)の正解データとして、DATASET_id1において示されている粘度(y01)を取得する。そして、第2アルゴリズム実行部212は、当該正解データを用いてニューラルネットワークを実行することにより、各idにおけるXとyとの関係を満たす関数fを導出する。このように、第2アルゴリズム実行部212は、y=f(X)の関係を示す関数fとして、MODEL1を生成する。
【0093】
以下では、第2アルゴリズム実行部212が、バギング法によるアンサンブル学習を行うことにより、MODEL1が生成された場合を例示する。それゆえ、本例におけるMODEL1は、異なるハイパーパラメータを有する複数のニューラルネット(弱学習器)を含んでいる。このように、本例におけるMODEL1は、複数の弱学習器が統合された強学習器として生成されている。
【0094】
(MODEL1における入出力の例)
図8は、MODEL1における入出力の例を示す図である。
図8では、上述の第1粒度分布起因ベクトル(id1に対応する粒度分布起因ベクトル)がXとして例示されている。
図8に示す通り、MODEL1にXを入力することにより、yの分布を示すヒストグラム(y_Hist)を得ることができる。具体的には、MODEL1内の複数の弱学習器のそれぞれにXを入力することによって、当該複数の弱学習器から出力された複数のyを統合することにより、y_Histが得られる。
【0095】
なお、本例では、上述の第2アルゴリズムによるMODEL1の生成に先立ち、正解データの前処理が実行されている。具体的には、本例では、MODEL1の生成に先立ち、正解データの対数変換が実行されている。このため、MODEL1は、厳密には、log(y)を出力するモデルとして生成されている。このため、
図8の例におけるy_Histにおける横軸は、log(y)である。但し、本明細書では、簡単のために、MODEL1がyを出力するモデルであるものとして説明する。さらに、y_Histは、yの分布を示すヒストグラムであると読み替えて説明する。
【0096】
そして、本例におけるMODEL1は、y_Histに基づく所定のデータを、最終的な予測値(強学習器としての予測値)として決定し、当該最終的な予測値を出力する。具体的には、本例におけるMODEL1は、y_Histの平均値(μ)を、最終的な予測値(y)として出力する。μは、期待値とも称される。
【0097】
強学習器として生成されたMODEL1によれば、上述の
図2に示す通り、任意の入力データセット1100を説明変数(X)として取得することにより、未知の樹脂組成物特性データ1200を目的変数(y)として出力できる。例えば、MODEL1に上述の第1配合割合パターンをXとして入力することにより、当該第1配合割合パターンに対応する粘度の予測値をyとして出力できる。
【0098】
なお、MODEL1は、y_Histの分散(σ2)を、μとともに出力してもよい。当該分散は、MODEL1の予測値の不確かさの指標の一例である。あるいは、MODEL1は、y_Histの標準偏差(σ)を、μとともに出力してもよい。当該標準偏差は、MODEL1の予測値の不確かさの指標の別の例である。
【0099】
(第3アルゴリズム実行部223によって生成されたMODEL2における演算例)
図9は、第3アルゴリズム実行部223によって生成されたMODEL2における演算例を示す図である。第3アルゴリズム実行部223は、第3アルゴリズムを実行することにより、MODEL1に基づいてMODEL2を生成する。言い換えれば、第3アルゴリズム実行部223は、第2アルゴリズム実行部212によって予め決定された関数fに基づいて、上述の関数g(関数fの近似的な逆関数)を決定する(上述の
図3も参照)。
【0100】
図9の例では、第3アルゴリズム実行部223は、第3アルゴリズムとしてグリッドサーチを用いることにより、MODEL2を生成する。生成されたMODEL2の内部では、以下に述べる2段階(第1段階および第2段階)の計算が実行される。
【0101】
まず、第1段階では、MODEL2は、MODEL1を用いて、取り得る複数の配合割合パターン(x01~x04の組み合わせ)のそれぞれに対し、粘度の予測値(μ)を算出する。具体的には、MODEL2は、各配合割合パターンに対応する説明変数(X)をMODEL1に入力することにより、当該MODEL1にμを目的変数として出力させる。本例では、MODEL1は、各配合割合パターンについて、μに加えてσをさらに出力する。
【0102】
続いて、第2段階では、MODEL2は、第1段階において算出されたμおよびσに基づき、当該MODEL2に入力された任意の粘度データが得られる確率が最大である、配合割合パターン(X)を出力する(上述の
図3も参照)。
【0103】
図9の例において、MODEL2は、任意の樹脂組成物特性データ2200が得られる確率が最大である予測データセット2300を予測する。
図9の例では、任意の樹脂組成物特性データ2200が「μ=290~310」という粘度を示すデータである場合が例示されている。
【0104】
μ=290~310という上記数値範囲は、樹脂組成物Cを接着剤として用いる場合を想定して設定された数値範囲の一例である。例えば、接着剤の粘度が高すぎる場合には、当該接着剤を所望の形に整形して使用することは困難である。他方、接着剤の粘度が低すぎる場合には、当該接着剤に液だれが生じやすくなる。従って、接着剤の粘度には、好適な数値範囲が存在すると考えられる。μ=290~310という上記数値範囲は、当該好適な数値範囲の一例である。
【0105】
図9の例では、MODEL2は、「μが290~310という目標範囲内に収まる確率」(以下、「目標範囲に対する確率」と称する)が最も高い配合割合パターンを、最適配合割合パターンとして選択する。そして、MODEL2は、当該最適配合割合パターンを、予測結果(すなわち、予測データセット2300)として出力する。
図9の例では、MODEL2は、取り得る複数の配合割合パターンの全ての組み合わせに対し、目標範囲に対する確率を算出する。具体的には、
図9の例では、MODEL2は、μが正規分布に従うとの仮定の下にて、目標範囲に対する確率を算出する。
【0106】
図9の例では、「各配合割合パターン」と「μおよびσ」と「目標範囲に対する確率」との対応関係を示すデータセットが、idごとに作成されている。
図9の例において、j番目のid(idj)に対応するデータセットを、DATASET2_idjと称する。
【0107】
図9の例において、MODEL2は、全てのjについて、目標範囲に対する確率が最大であるデータセット(以下、確率最大データセットと称する)を探索する。
図9の例では、MODEL2による探索の結果、DATASET2_id1が、確率最大データセットであることが見出された。なお、
図9の例における第1配合割合パターンは、「x00=65、x01=5、x02=20、x03=0、x04=10」という配合割合パターンである。
【0108】
MODEL2は、確率最大データセットを、最適データセット(DATASET2_OPT)として選択する。そして、MODEL2は、最適データセットに対応する配合割合パターンを、最適配合割合パターンとして決定する。
図9の例では、MODEL2は、DATASET2_id1を、最適データセットとして選択する。そして、第3アルゴリズム実行部223は、DATASET2_id1に対応する上述の第1配合割合パターンを、最適配合割合パターンとして決定する。このように、
図9の例では、第1配合割合パターンが予測結果として出力される。
【0109】
以上の通り、第3アルゴリズム実行部223は、第3アルゴリズム(例:グリッドサーチ)によって、MODEL2(任意の樹脂組成物特性データ2200を満たす予測データセット2300を予測するモデル)を生成する。但し、当業者であれば明らかである通り、最適配合割合パターンの決定手法は、上記の例に限定されない。
【0110】
例えば、MODEL2は、
図9の例における全ての配合割合パターンの内、300(上述の粘度の数値範囲の中央値)に最も近い予測値(μ)が得られているデータセット(以下、予測値最近データセットと称する)に対応する配合割合パターンを探索してもよい。そして、MODEL2は、予測値最近データセットに対応する配合割合パターンを、最適配合割合パターンとして決定してもよい。
【0111】
(推奨データ導出部34における推奨データの導出例)
上述の通り生成されたMODEL2を使用することにより、推奨データ導出部34において、第3入力データ330(樹脂組成物要求特性データ)に基づいて、推奨データ340を導出できる(上述の
図4も参照)。
【0112】
一例として、第3入力データ330は、「μ=350~370」という粘度を示すデータであってよい。この場合、推奨データ導出部34は、第3入力データ330をMODEL2に入力することにより、当該第3入力データ330に応じた推奨データ340を導出できる。本例における推奨データ340は、例えば、μ=350~370という粘度に対応する最適配合割合パターンである。
【0113】
(推奨データ導出部34において導出される推奨データの具体例)
上述の通り生成されたMODEL2を使用することにより、推奨データ導出部34は、無機充填材A中の(I)第1シリカ粒子の配合割合、(II)第2シリカ粒子の配合割合、(III)第3シリカ粒子の配合割合、及び(IV)第4シリカ粒子の配合割合を、樹脂組成物Cについての要求特性を充足する推奨無機充填材配合データとして導出することができる。
【0114】
推奨データ導出部34は、一例として、樹脂組成物Cについての要求特性を充足する確率が25%以上である無機充填材配合データを要求特性充足必要条件として導出する。また、推奨データ導出部34は、一例として、樹脂組成物Cについての要求特性を充足する確率が90%以上である無機充填材配合データを要求特性充足十分条件として導出する。
【0115】
一例として、第3入力データ330は、「μ=250Pa・s以下」という粘度を示すデータである。この場合、推奨データ導出部34は、第3入力データ330をMODEL2に入力することにより、当該第3入力データ330に応じた推奨データ340を導出できる。本例における推奨データ340は、例えば、μ=250Pa・s以下という粘度を所定の確率で実現し得る無機充填材の配合割合を示すデータである。
【0116】
この例において、予測装置300は、まず、データ取得部33により、第3入力データ330として、「μ=250Pa・s以下」という粘度を示すデータを取得する。そして、推奨データ導出部34において、「μ=250Pa・s以下」という粘度を示すデータをMODEL2に入力することにより、樹脂組成物Cが「μ=250Pa・s以下」という粘度を満たすための推奨無機充填材配合データを導出する。
【0117】
μ=250Pa・s以下という数値範囲は、樹脂組成物Cを半導体封止剤として用いる場合を想定して設定された数値範囲の一例である。例えば、半導体封止材の粘度が高すぎる場合には、当該半導体封止材を所望の形に整形して使用することは困難である。従って、半導体封止剤の粘度には、好適な数値範囲が存在すると考えられる。μ=250Pa・s以下という上記数値範囲は、当該好適な数値範囲の一例である。
【0118】
第3入力データ330として、μ=250Pa・s以下という粘度の数値範囲を示すデータを用いた場合、推奨データ導出部34において導出される、樹脂組成物Cの粘度がμより低くなる要求特性充足必要条件は、無機充填材A中の(II)第2シリカ粒子の配合割合をcとし、(III)第3シリカ粒子の配合割合をdとし、(IV)第4シリカ粒子の配合割合をbとすると、下記の式(1)
-0.078×b-0.105×c-0.011×d-0.0159×b2-0.0217×c2-0.0130×d2-0.0393×b×c-0.0257×c×d+0.0218×d×b+25.498≧0・・・・(1)
により表されるデータである。
【0119】
第3入力データ330として、μ=250Pa・s以下という粘度の数値範囲を示すデータを用いた場合、推奨データ導出部34において導出される、樹脂組成物Cの粘度がμより低くなる要求特性充足十分条件は、無機充填材A中の(II)第2シリカ粒子の配合割合をcとし、(III)第3シリカ粒子の配合割合をdとし、(IV)第4シリカ粒子の配合割合をbとすると、下記の式(2)
-0.205×b+0.125×c+0.244×d-0.0151×b2-0.0102×c2-0.0079×d2-0.0154×b×c-0.0104×c×d+0.0252×d×b+0.964≧0・・・・(2)
により表されるデータである。
【0120】
(効果)
予測装置300によれば、モデル生成装置100において予め生成されたMODEL2を用いて、樹脂組成物についての要求特性充足条件を予測できる。具体的には、予測装置300では、樹脂組成物要求特性データをMODEL2に入力することにより、推奨データ340を導出できる。上述の各説明から明らかである通り、推奨データ340は、樹脂組成物要求特性データについての予測結果である。
【0121】
予測装置300によれば、樹脂組成物Cについての要求特性を充足する確率が最大である無機充填材配合データを導出することができる。また、予測装置300によれば、樹脂組成物Cについての要求特性を充足する確率が25%以上である無機充填材配合データ(要求特性充足必要条件)や、当該確率が90%以上である無機充填材配合データ(要求特性充足十分条件)のように、所望の確率で樹脂組成物Cについての要求特性を充足する無機充填材配合データを導出することもできる。
〔実施例〕
【0122】
表1に示す球状シリカ粒子A(第1シリカ粒子に対応)、球状シリカ粒子B(第4シリカ粒子に対応)、球状シリカ粒子C(第2シリカ粒子に対応)、及び球状シリカ粒子D(第3シリカ粒子に対応)を用いて樹脂組成物を生成した。
【表1】
【0123】
球状シリカ粒子(A)としてシリカ エクセリカUF-320(トクヤマ製)、球状シリカ粒子(B)としてシリカ サンシール SP-10P(トクヤマ製)、球状シリカ(C)としてシリカ サンシール SP-03P(トクヤマ製)、球状シリカ粒子(D)としてシリカ サンシール SP-01P(トクヤマ製)を、それぞれ用いた。各球状シリカ粒子のBET比表面積、体積基準粒度分布、及び表面炭素量を下記の通り測定した。
【0124】
(BET比表面積)
柴田理化学社製比表面積測定装置SA-1000を用い、窒素吸着BET1点法によりBET比表面積S(m2/g)を測定した。
【0125】
(レーザー回折・散乱法による体積基準粒度分布)
50mLのガラス瓶に球状シリカ粒子約0.1gを電子天秤ではかりとり、エタノールを約40ml加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Sonifier 250)を用いて、40W・10分の条件で分散させた後、球状シリカ粒子の体積基準50%径(D50)(μm)及び変動係数(C.V.)をレーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製、LS 13 320)により測定した。
【0126】
(表面炭素量測定)
燃焼酸化法(堀場製作所社製、EMIA-511)により球状シリカ粒子の炭素量(質量%)を測定した。具体的には、球状シリカ粒子試料を酸素雰囲気中で1350℃に加熱し、得られた炭素量を単位質量当たりに換算して求めた。なお、測定に供する球状シリカ粒子は、前処理として80℃で加熱し、系内を減圧にすることによって空気中で吸着した水分等を除いた後、前記炭素含有量の測定に供する。
【0127】
表2に記載された実施例1~5及び比較例1~2のそれぞれの割合で球状シリカ粒子(A)~球状シリカ粒子(D)を含む無機充填材24.8gを、ビスフェノールA+F型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル製、ZX-1059)7gに加え、手練りした。表2において、無機充填材量は、樹脂組成物全体に対する無機充填材の割合(wt%)を示し、a~dは、無機充填材全体に対する球状シリカ粒子(A)~球状シリカ粒子(D)それぞれの配合割合(%)を示している。
【0128】
手練りした樹脂組成物を自転公転式ミキサー(THINKY製、あわとり練太郎 AR-500)により予備混練した(混練:1000rpm、8分、脱泡:2000rpm、2分)。予備混練後の樹脂組成物を、25℃恒温水槽内にて保管後、三本ロール(アイメックス社製、BR-150HCV ロール径φ63.5)を用いて混練した。混練条件は、混練温度を25℃、ロール間距離を20μm、混練回数を5回として行った。得られた樹脂組成物を、真空ポンプ(佐藤真空製TSW-150)を用いて減圧下、30分間脱泡した。
【0129】
前記混練樹脂組成物をレオメータ(Thermo Fisher Scientific社製、HAAKE MARS40)を用いて粘度を測定した。なお、測定温度は25℃、使用センサーはC35/1(コーンプレート型 直径35mm、角度1°、材質チタン)とした。
【表2】
実施例1及び2は、上述した式(1)を満たしている。実施例3~5は上述した式(1)及び式(2)を満たしている。比較例1及び2は、上述した式(1)及び式(2)を満たしてない。上述した式(1)及び式(2)の少なくとも一方を満たすことにより、粘度250Pa・sの以下の樹脂組成物を生成することができることが示された。
【0130】
〔ソフトウェアによる実現例〕
樹脂組成物製造システム1(以下、「システム」と呼ぶ)の機能は、当該システムとしてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該システムの各制御ブロック(特に、モデル生成装置100及び予測装置300に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0131】
この場合、上記システムは、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0132】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0133】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0134】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0135】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の一態様は、一例として、電子機器の製造分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0137】
1 樹脂組成物製造システム
100 モデル生成装置
300 予測装置
33 第3入力データ取得部(データ取得部)
34 推奨データ導出部