(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065089
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】レジリエンスの評価方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20230502BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230502BHJP
C12Q 1/689 20180101ALN20230502BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
C12N15/09 Z
C12Q1/689 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175689
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】萩原 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】竹内 麻里子
(72)【発明者】
【氏名】明和 政子
(72)【発明者】
【氏名】松永 倫子
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ06
4B063QQ54
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】腸内細菌叢を利用してレジリエンスを評価する方法を提供すること。
【解決手段】被験者のレジリエンスを評価する方法であって、被験者の腸内細菌叢におけるブラウチア属細菌および/またはクロストリジウム属細菌の相対存在量を算出する工程を含むことを特徴とする方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者のレジリエンスを評価する方法であって、被験者の腸内細菌叢におけるブラウチア属細菌および/またはクロストリジウム属細菌の相対存在量を算出する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
ブラウチア属細菌の相対存在量が6%以上である場合にレジリエンスが高いと判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ブラウチア属細菌の相対存在量が4%未満である場合にレジリエンスが低いと判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ブラウチア属細菌がBlautia sp. SC05B48である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
クロストリジウム属細菌の相対存在量が1%以上である場合にレジリエンスが高いと判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
クロストリジウム属細菌の相対存在量が0.15%未満である場合にレジリエンスが低いと判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
クロストリジウム属細菌がClostridium sp. SY8519である、請求項1、5および6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
運動機能に関するレジリエンス因子、ストレスに関するレジリエンス因子および表1に示されるRS25日本語版の尺度に関するレジリエンス因子から選択される少なくとも1つのレジリエンス因子を判定する、請求項2~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
オキシトシンホルモンに関するレジリエンス因子および表2に示されるJ-RSの尺度に関するレジリエンス因子から選択される少なくとも1つのレジリエンス因子を判定する、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジリエンスの評価方法に関するものであり、腸内細菌叢を利用してレジリエンスを評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レジリエンスとは、1980年代よりストレスなどにより引き起こされる精神疾患に対する防御因子と抵抗力を意味する概念として導入され始め、現在では「逆境を跳ね返す能力」という意味で用いられることが多い。精神医学領域では、既にレジリエンスとうつ病発症に負の相関がみられることや(非特許文献1)、レジリエンス向上によるうつ病発症の抑制効果(非特許文献2)が報告されており、精神的健康維持のためにはレジリエンスの向上が必要といわれている。また、レジリエンスは予防医学の観点からも注目されており、慢性疾患である心臓疾患(Cardiovascular disease: CVD)、がん患者(非特許文献3)、神経変性疾患(非特許文献4)などの身体的疾患においても、経過中のQOLとレジリエンスの相関性が報告され始めている。つまり、精神医学領域に加え、身体疾患の予防や治療においてもレジリエンスの重要性が注目されてきている。
【0003】
しかしながら、現状では日本人におけるレジリエンスの実態把握は十分に検討されているとはいえない。また、レジリエンスに関連する因子としては、健康女性の大規模観察研究におけるレジリエンスとCVDリスク因子とされる食事・運動・睡眠などの生活習慣との関連(非特許文献5)や、運動や食習慣によるレジリエンス向上(非特許文献6)などが報告されているが、具体的方策につながり得る詳細な検討および日本人における検討は十分でない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Lavretsky et al., Aging Health (2007) 3(3), 309-323
【非特許文献2】Julia CP et al., Child Abuse Negl. 64 (2017) 89-100
【非特許文献3】Joao Paulo et al., BMC Palliat Care (2016) 15:70
【非特許文献4】Andrea M et al., J Health Psychol (2016) 3004-3015
【非特許文献5】Springfield S et al., Nutrients. 2020, 12(7), 2107
【非特許文献6】Ho FK et al., BMC pediatrics 2015;15:48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、腸内細菌叢を利用してレジリエンスを評価する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]被験者のレジリエンスを評価する方法であって、被験者の腸内細菌叢におけるブラウチア属細菌および/またはクロストリジウム属細菌の相対存在量を算出する工程を含むことを特徴とする方法。
[2]ブラウチア属細菌の相対存在量が6%以上である場合にレジリエンスが高いと判定する、前記[1]に記載の方法。
[3]ブラウチア属細菌の相対存在量が4%未満である場合にレジリエンスが低いと判定する、前記[1]に記載の方法。
[4]ブラウチア属細菌がBlautia sp. SC05B48である、前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5]クロストリジウム属細菌の相対存在量が1%以上である場合にレジリエンスが高いと判定する、前記[1]に記載の方法。
[6]クロストリジウム属細菌の相対存在量が0.15%未満である場合にレジリエンスが低いと判定する、前記[1]に記載の方法。
[7]クロストリジウム属細菌がClostridium sp. SY8519である、前記[1]、[5]および[6]のいずれか1つに記載の方法。
[8]運動機能に関するレジリエンス因子、ストレスに関するレジリエンス因子および表1に示されるRS25日本語版の尺度に関するレジリエンス因子から選択される少なくとも1つのレジリエンス因子を判定する、前記[2]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
[9]オキシトシンホルモンに関するレジリエンス因子および表2に示されるJ-RSの尺度に関するレジリエンス因子から選択される少なくとも1つのレジリエンス因子を判定する、前記[5]~[7]のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、腸内細菌叢を利用してレジリエンスを評価する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】腸内細菌叢におけるブラウチア属細菌の相対的存在量と有意に相関する調査項目の結果を示す図であり、(A)はRS25によるレジリエンス尺度との相関、(B)は親の育児ストレスとの相関、(C)は2ステップテスト(身体機能評価)のスコアとの相関を示す図である。
【
図2】腸内細菌叢におけるブラウチア属細菌の相対的存在量が低い群(低値群)と、低値群以外の2群間において、有意差が認められた調査項目の結果を示す図であり、(A)は2ステップテスト(身体機能評価)のスコア、(B)は親の育児ストレスのスコアを示す図である。
【
図3】腸内細菌叢におけるクロストリジウム属細菌の相対的存在量と有意に相関する調査項目の結果を示す図であり、(A)はJ-RSによるレジリエンス尺度との相関、(B)はオキシトシンレベルとの相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、レジリエンスを評価する方法を提供する(以下、「本発明の方法」と記す)。本発明の方法は、腸内細菌叢を利用してレジリエンスを評価することを特徴とする。本発明において、レジリエンスには、難しい状況に直面した場合にうまく適応できる力、ストレスがかかっても諦めない強さ、逆境から素早く立ち直り成長する能力、自発的な治癒力、折れない心などが含まれる。また、レジリエンスには、緩衝力、回復力、適応力、継続力、ストレス耐性、柔軟性、復元力、弾性、自尊感情、自制心、感情コントロール、楽観性、ポジティブな人間関係・社会制度、自己効力感、精神的敏捷性、自己認識力などの性質が含まれる。
【0010】
本発明の方法は、被験者の腸内細菌叢におけるブラウチア属細菌および/またはクロストリジウム属細菌の相対存在量を算出する工程を含むものであればよい。被験者は、レジリエンスを評価する対象となるヒトであり、男性であってもよく、女性であてもよい。また、被験者は、アジア系のヒトであってもよく、日系のヒトであってもよく、日本人であってもよい。
【0011】
腸内細菌叢を解析するための検体としては糞便を用いることが好ましい。糞便から公知の用法によりDNAを抽出し、得られたDNAが腸内細菌叢の解析に用いられる。本発明の方法において、腸内細菌叢の解析にはメタゲノム解析を用いることが好ましい。メタゲノム解析は16SrRNAメタゲノム解析でもよく、メタゲノムショットガン解析でもよい。メタゲノム解析は、公知の方法を用いて行うことができる。また、被験者の腸内細菌叢におけるブラウチア属細菌および/またはクロストリジウム属細菌の相対存在量は、例えば、16SrRNAメタゲノム解析データを公知の配列解析ソフトウェアを用いて算出することができる。
【0012】
本発明の方法は、腸内細菌叢を構成する全細菌に対するブラウチア属細菌の相対存在量が多い場合にレジリエンスが高いと判定し、ブラウチア属細菌の相対存在量が少ない場合にレジリエンスが低いと判定することができる。腸内細菌叢を構成する全細菌に対するブラウチア属細菌の相対存在量の多少は、ヒトの腸内細菌叢の蓄積データを用いて判定してもよい。蓄積データは、例えば利用可能なデータベース等から取得できるデータであってもよい。例えば、ヒトの腸内細菌叢の蓄積データにおけるブラウチア属細菌の相対存在量の四分位数を算出し、第1四分位数以下である場合にブラウチア属細菌の相対存在量が少ないと判定してもよく、第3四分位数以上である場合にブラウチア属細菌の相対存在量が多いと判定してもよい。また、例えば、ヒトの腸内細菌叢の蓄積データにおけるブラウチア属細菌の相対存在量の平均値と標準偏差(SD)を算出し、平均値-SD以下である場合にブラウチア属細菌の相対存在量が少ないと判定してもよく、平均値+SD以上である場合にブラウチア属細菌の相対存在量が多いと判定してもよい。
【0013】
本発明者らが腸内細菌叢の16SrRNAメタゲノム解析を委託した株式会社サイキンソーは、同社の研究プロジェクトに参加した日本人の便サンプル由来の16SrRNA配列データを網羅的に解析し、健康な日本人の腸内細菌叢の特徴を調べ、その基準値範囲を作成している(Watanabe et al., Bioscience of Microbiota, Food and Health Vol. 40 (2), 123-134, 2021)。株式会社サイキンソーの蓄積データによれば、ブラウチア属細菌の相対存在量の四分位数(男女別)は以下のとおりである。
●男性:3.15%(第1四分位数)、5.61%(第2四分位数)、7.81%(第3四分位数)
●女性:2.89%(第1四分位数)、5.12%(第2四分位数)、7.85%(第3四分位数)
【0014】
腸内細菌叢を構成する全細菌に対するブラウチア属細菌の相対存在量の多少は、例えば、ブラウチア属細菌の相対存在量が6%以上、6.5%以上、7%以上、7.2%以上、7.4%以上、7.6%以上、7.8%以上、8%以上、8.2%以上である場合にブラウチア属細菌の相対存在量が多いと判定してもよい。また、腸内細菌叢を構成する全細菌に対するブラウチア属細菌の相対存在量の多少は、ブラウチア属細菌の相対存在量が4%未満、3.8%未満、3.6%未満、3.4%未満、3.2%未満、3%未満、2.8%未満、2.6%未満である場合にブラウチア属細菌の相対存在量が少ないと判定してもよい。
【0015】
上記株式会社サイキンソーの蓄積データにおけるブラウチア属細菌の相対存在量の四分位数を考慮した場合、腸内細菌叢を構成する全細菌に対するブラウチア属細菌の相対存在量の多少は、ブラウチア属細菌の相対存在量が7.8%以上、8%以上、8.2%以上の場合にブラウチア属細菌の相対存在量が多いと判定してもよく、ブラウチア属細菌の相対存在量が3.2%未満、3%未満、2.8%未満、2.6%未満である場合にブラウチア属細菌の相対存在量が少ないと判定してもよい。
【0016】
ブラウチア属細菌はBlautia sp. SC05B48であってもよい。実施例に記載の調査に参加した27名の腸内細菌叢を解析した結果、多くの検体でBlautia sp. SC05B48がブラウチア属細菌の最優位の種であることが確認されている。したがって、腸内細菌叢を構成する全細菌に対するBlautia sp. SC05B48の相対存在量の多少を指標に、レジリエンス強度を判定することができる。
【0017】
本発明の方法は、腸内細菌叢を構成する全細菌に対するクロストリジウム属細菌の相対存在量が多い場合にレジリエンスが高いと判定し、クロストリジウム属細菌の相対存在量が少ない場合にレジリエンスが低いと判定することができる。腸内細菌叢を構成する全細菌に対するクロストリジウム属細菌の相対存在量の多少は、ヒトの腸内細菌叢の蓄積データを用いて判定してもよい。蓄積データは、例えば利用可能なデータベース等から取得できるデータであってもよい。例えば、ヒトの腸内細菌叢の蓄積データにおけるクロストリジウム属細菌の相対存在量の四分位数を算出し、第1四分位数以下である場合にクロストリジウム属細菌の相対存在量が少ないと判定してもよく、第3四分位数以上である場合にクロストリジウム属細菌の相対存在量が多いと判定してもよい。また、例えば、ヒトの腸内細菌叢の蓄積データにおけるクロストリジウム属細菌の相対存在量の平均値と標準偏差(SD)を算出し、平均値-SD以下である場合にクロストリジウム属細菌の相対存在量が少ないと判定してもよく、平均値+SD以上である場合にクロストリジウム属細菌が多いと判定してもよい。
【0018】
腸内細菌叢を構成する全細菌に対するクロストリジウム属細菌の相対存在量の多少は、例えば、クロストリジウム属細菌の相対存在量が1%以上、1.1%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上、1.5%以上である場合にクロストリジウム属細菌の相対存在量が多いと判定してもよく、クロストリジウム属細菌の相対存在量が0.15%未満、0.14%未満、0.13%未満、0.12%未満、0.11%未満、0.1%未満である場合にクロストリジウム属細菌の相対存在量が少ないと判定してもよい。
【0019】
クロストリジウム属細菌はClostridium sp. SY8519であってもよい。実施例に記載の調査に参加した27名の腸内細菌叢腸内細菌叢を解析した結果、多くの検体でClostridium sp. SY8519がクロストリジウム属細菌の最優位の種であることが確認されている。したがって、腸内細菌叢を構成する全細菌に対するClostridium sp. SY8519の相対存在量の多少を指標に、レジリエンス強度を判定することができる。
【0020】
レジリエンス関連因子には、身体生理機能に関する因子および精神機能に関する因子が含まれる。ブラウチア属細菌の相対存在量は、運動機能に関するレジリエンス因子、ストレスに関するレジリエンス因子および下記の表1に示されるRS25日本語版の尺度に関するレジリエンス因子と相関することが確認されている。クロストリジウム属細菌の相対存在量は、オキシトシンホルモンに関するレジリエンス因子および下記の表2に示されるJ-RSの尺度に関するレジリエンス因子と相関することが確認されている。
【0021】
本発明の方法により、レジリエンスが低いと判定された被検者は、例えば気分障害に属する疾患に罹りやすいと予想することできる。気分障害に属する疾患としては、例えば双極性感情障害、反復性うつ病性障害、持続性気分障害、抑うつ障害(うつ病、持続性抑うつ障害等)、心的外傷後ストレス障害(PTSDとも称される)等が挙げられる。
【実施例0022】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
〔実施例1〕
1-1 調査対象
2019年9月より産後女性の心身状態を評価する観察研究に参加した27名(産後3-5か月の女性)を調査対象とした。
【0024】
1-2 調査項目
A:身体生理機能
(1)握力、歩行速度:Chen LK.et al., Sarcopenia in Asia: consensus report of the Asian Working Group for Sarcopenia.J Am Med Dir Assoc 2014;15:95-101 参照
(2)2ステップテスト:ロコモ ON LINE(日本整形外科学会公式ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト、https://locomo-joa.jp/assets/pdf/two-step.pdf)参照
(3)体組成成分分析:体組成分分析装置(In Body 770)を用いて測定した。
(4)自律神経機能:安静時の心電図を3分間測定した(Polymate mini、ミユキ技研)。心拍間隔の時系列データを抽出し、最後の1分間のデータを用いてローレンツプロットにより評価する方法(Toichi et al., Journal of the Autonomic Nervous System 1997)で交感神経機能と迷走神経(副交感神経)機能を評価した(解析ソフトウェアMap1060)。
(5)オキシトシンホルモン:うがい後、舌下に口腔用綿棒(Salimetrics, State College, PA, USA)を3分間挟んで唾液を採取した。採取後の唾液は直ちに-80℃で保存し、このプロセスを2回行った。240μLの唾液をSpeedvacのエバポレーターを用いて室温で3時間乾燥させ、240μLのアッセイバッファーに再構成し、そのうち100μLをアッセイに使用した。オキシトシン濃度の測定は市販のキット(ADI-900-153A-0001; ENZO Co. Ltd., Tokyo, Japan)を用いて、メーカーのプロトコル通りに測定した。
【0025】
B:精神機能
(6)RS25日本語版(Nishi D, et al., BMC Res Notes. 2010, 3: 310)
【表1】
【0026】
(7)J-RS(本発明者らが開発したレジリエンス尺度)
【表2】
【0027】
(8)親の育児ストレス(PSI:Parenting Stress Index):Abidin, R. R., Scarecrow Education. 1997; 277-291、およびNarama et al., The Journal of Child Health, 1999; 58(5): 610-616 参照
(9)抑うつ症状の自己評価尺度(CES-D:Center for Epidemiologic Studies Depression Scale):LS Radloff, Applied Psychological Measurement. 1977; 1 :385-401 参照
(10)QOL(SF-8:MOS 8-Item Short-Form Health Survey):福原俊一、鈴鴨よしみ、医学のあゆみ 2005, 213, 133-136 参照
【0028】
C:腸内細菌叢
(11)腸内細菌叢の16SrRNAメタゲノム解析
16SrRNAメタゲノム解析は株式会社サイキンソーに委託し、Kameokaら(BMC Genomics, 2021, 22:527)に記載の方法に従って実施した。
参加者全員から糞便採取キット(テクノスルガ・ラボ)を用いて糞便を採取し、常温で輸送、4℃で保存した。DNeasy PowerSoil Kit(QIAGEN)を用いて、メーカーのプロトコルに従い、糞便サンプルからDNAを抽出した。フォワードプライマー(16S_27Fmod:TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGAGRGTTTGATYMTGGCTCAG、配列番号1)とリバースプライマー(16S_338R:GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGTGCTGCCTCCCGTAGGAGT、配列番号2)を用いて、V1-V2領域のアンプリコンを調製した。シークエンスライブラリは、イルミナ社の16Sライブラリ調製プロトコルに従って調製した。すなわち、Nextera XT Index kit(イルミナ社)を使用して、イルミナ MiSeq プラットフォームでのシーケンス用デュアルインデックスアダプターを取り付けた。MiSeq Reagent Kit v2を用いた250 bpペアエンドラン(500サイクル)でシーケンスを行った。
【0029】
QIIME 2 解析は、ペアエンドシーケンスリードを用いてASVテーブルを構築した後,QIIME 2 パイプライン(バージョン2020.2)(Bolyen et al. Nat Biotechnol. 2019;37:852-857)を用いてGreengenes(DeSantis et al. Appl Environ Microbiol. 2006;72:5069-5072)により分類学的情報を付与するという戦略で実施した。(1) DADA2(Callahan et al. Nat Methods. 2016;13:581-583)でペアエンドリードの結合、フィルタリング、ノイズ除去を行い、(2) シーケンスの16SrRNA遺伝子V2領域データを用いて、QIIME 2の分類器で単純ベイズ分類器を用いて、各ASV(amplicon sequence variant)に分類情報を割り当て、同一性と細菌組成を決定した。
【0030】
(12)メタゲノムショットガン解析
上記(11)の解析において着目したブラウチア属(Blautia)細菌およびクロストリジウム属(Clostridium)細菌について、種の同定を行うために27名の参加者中、19検体でメタゲノムショットガン解析を行った。16SrRNAメタゲノム解析と同じサンプルを用い、各サンプルのDNAをCovaris ME220(Covaris社)を用いて約300bpに切断した。KAPA Hyper Prep Kit (KAPA Biosystems)を用いてショットガンシークエンスライブラリを構築した。ライブラリはDNBSEQ-G400を用いて150bpペアエンドでシークエンスした。各リードペアは、Kraken2により、ヒトゲノム(hg19)、RefSeqのバクテリアと真菌、ヌクレオチドコレクション(NCBI-nt)のウイルスを含むカスタムデータベースとマッピングされた。解析は、大阪大学微生物病研究所附属遺伝情報実験センターゲノム解析室に依頼した。
【0031】
1-3 調査時期
2019年9月~2020年2月に調査を行った。
【0032】
1-4 結果
(1)ブラウチア属細菌の相対的存在量との相関
ブラウチア属細菌の相対的存在量と有意に相関する調査項目の結果を
図1(A)~(C)に示した。(A)はRS25によるレジリエンス尺度が高いほどブラウチア属細菌の相対的存在量が多いことを示し、(B)は親の育児ストレスが低いほどブラウチア属細菌の相対的存在量が多いことを示し、(C)は2ステップテスト(身体機能評価)のスコアが高いほどブラウチア属細菌の相対的存在量が多いことを示している。すなわち、この結果は、腸内細菌叢においてブラウチア属細菌の相対的存在量が多いヒトが、レジリエンスが高いと判定できることを示している。なお、ブラウチア属細菌の存在割合に基づいて参加者27名を3群に分けた場合、高い群は6%以上、中間群は4%以上6%未満、低い群は4%未満とすることが妥当であった。
【0033】
(2)ブラウチア属細菌の相対的存在量が少ない参加者のレジリエンス評価
株式会社サイキンソーが所有する健康な日本人の腸内細菌叢の蓄積データにおけるブラウチア属細菌の相対存在量の四分位数を考慮して、27名の参加者中、ブラウチア属細菌の相対存在量が3%未満を低値群とした。上記調査項目について、低値群(n=8)と、低値群以外(n=19)との2群間における有意差の有無を検討した。有意差検定には、ウィルコクソンの順位和検定(Wilcoxon rank sum test)を用いた。
結果を
図2に示した。(A)は2ステップテストの結果、(B)は親の育児ストレスの結果である。これら2つの調査項目において、低値群と値群以外との間に有意差が認められた。したがって、ブラウチア属細菌の相対存在量が少ないヒトは、2ステップテストのスコアが低く、親の育児ストレスが高いと判定することができる。
【0034】
(3)ブラウチア属細菌の種の同定
メタゲノムショットガン解析によりブラウチア属細菌の種を同定した結果を表3に示した。多くの検体でBlautia sp. SC05B48が最優位であった。
【0035】
【0036】
(4)クロストリジウム属細菌の相対的存在量との相関
クロストリジウム属細菌の相対的存在量と有意に相関する調査項目の結果を
図3(A)、(B)に示した。(A)はJ-RSによるレジリエンス尺度が高いほどクロストリジウム属細菌の相対的存在量が多いことを示し、(B)はオキシトシンレベルが低い(ストレス耐性が強い)ほうがクロストリジウム属細菌の相対的存在量が多いことを示している。なお、クロストリジウム属細菌の存在割合に基づいて参加者27名を3群に分けた場合、高い群は1%以上、中間群は0.15%以上1%未満、低い群は0.15%未満とすることが妥当であった。
【0037】
(5)クロストリジウム属細菌の種の同定
メタゲノムショットガン解析によりクロストリジウム属細菌の種を同定した結果を表4に示した。多くの検体でClostridium sp. SY8519が最優位であった。
【0038】
【0039】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。