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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065198
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】光学異方性層
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230502BHJP
   C08F 20/38 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
G02B5/30
C08F20/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175861
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 学
【テーマコード(参考)】
2H149
4J100
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA18
2H149AB06
2H149AB13
2H149DA02
2H149DA12
2H149DA18
2H149FA05Y
2H149FA05Z
2H149FA24Y
2H149FA34Y
2H149FA51Y
2H149FA52Y
2H149FA58Y
2H149FD25
4J100AL66P
4J100BA02P
4J100BA02T
4J100BA15P
4J100BA27P
4J100BA46P
4J100BC04P
4J100BC43P
4J100BC49P
4J100BC83P
4J100CA01
4J100DA36
4J100DA47
4J100DA66
4J100FA30
4J100FA47
4J100JA01
4J100JA32
4J100JA39
(57)【要約】
【課題】液晶組成物を含み、耐久性が良好な光学異方性層を提供する。
【解決手段】逆波長分散性液晶化合物と、特定の構造を有する化合物[I]とを含む液晶組成物の硬化物を含み、前記逆波長分散性液晶化合物100重量部に対する、前記化合物[I]の量が、所定量である光学異方性層を提供することにより上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆波長分散性液晶化合物と、下記式(I)で表される化合物[I]とを含む液晶組成物の硬化物を含み、
前記逆波長分散性液晶化合物100重量部に対する、前記化合物[I]の量が、3.8重量部以上11.3重量部以下である、光学異方性層:
【化1】
前記式(I)において、Spは置換基を有してもよい直鎖状脂肪族炭化水素基である。
【請求項2】
前記化合物[I]が、下記式(Ia)で表される化合物[Ia]である、請求項1に記載の光学異方性層:
【化2】
前記式(Ia)において、nは2~10のいずれかの整数を表す。
【請求項3】
前記逆波長分散性液晶化合物が、下記式(II)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の光学異方性層:
【化3】
前記式(II)において、
Arは、下記式(III-1)~式(III-5)のいずれかで表される基を示し、
【化4】
*は、Z又はZとの結合位置を表し、
及びEは、それぞれ独立して、-CR1112-、-S-、-NR11-、-CO-及び-O-からなる群より選ばれる基を表し、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、
~Dは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい非環状基を表し、D及びDは、一緒になって環を形成していてもよく、
は、-C(R)=N-N(R)R、-C(R)=N-N=C(R)R、及び、-C(R)=N-N=Rからなる群より選ばれる基を表し、Rは、水素原子;並びに炭素原子数1~6のアルキル基;からなる群より選ばれる基を表し、Rは、水素原子;並びに置換基を有していてもよい炭素原子数1~30の有機基;からなる群より選ばれる基を表し、Rは、炭素原子数6~30の芳香族炭化水素環及び炭素原子数2~30の芳香族複素環からなる群より選ばれる1以上の芳香環を有する、有機基を表し、Rは、炭素原子数6~30の芳香族炭化水素環及び炭素原子数2~30の芳香族複素環からなる群より選ばれる1以上の芳香環を有する、有機基を表し、
aは、単結合、-O-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR13-C(=O)-、-C(=O)-NR13-、-O-C(=O)-O-、-NR13-C(=O)-O-、-O-C(=O)-NR13-、および、-NR13-C(=O)-NR14-、からなる群より選ばれるいずれかを表し、R13およびR14は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、
Xaは、置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表し、
tは、0または1を表し
及びZは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-O-CH-、-CH-O-、-O-CH-CH-、-CH-CH-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-S-、-S-C(=O)-、-NR21-C(=O)-、-C(=O)-NR21-、-CF-O-、-O-CF-、-CH-CH-、-CF-CF-、-O-CH-CH-O-、-CH=CH-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH=CH-、-CH-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH-、-CH-O-C(=O)-、-C(=O)-O-CH-、-CH-CH-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH-CH-、-CH-CH-O-C(=O)-、-C(=O)-O-CH-CH-、-CH=CH-、-N=CH-、-CH=N-、-N=C(CH)-、-C(CH)=N-、-N=N-、及び、-C≡C-、からなる群より選ばれるいずれかを表し、R21は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表し、
、A、B及びBは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい環状脂肪族基、及び、置換基を有していてもよい芳香族基、からなる群より選ばれる基を表し、
~Yは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR22-C(=O)-、-C(=O)-NR22-、-O-C(=O)-O-、-NR22-C(=O)-O-、-O-C(=O)-NR22-、及び、-NR22-C(=O)-NR23-、からなる群より選ばれるいずれかを表す。R22及びR23は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表し、
及びGは、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の脂肪族炭化水素基;並びに、炭素原子数3~20の脂肪族炭化水素基に含まれるメチレン基の1以上が-O-又は-C(=O)-に置換された基;からなる群より選ばれる有機基を表し、G及びGの前記有機基に含まれる水素原子は、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、又は、ハロゲン原子に置換されていてもよく、ただし、G及びGの両末端のメチレン基が-O-又は-C(=O)-に置換されることはなく、
及びPは、それぞれ独立して、重合性基を表し、
p及びqは、それぞれ独立して、0又は1を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異方性層に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差フィルム等の光学部材を構成するための材料として、光学異方性層、即ち層状の構造を有する構造物であって、光学異方性を有するものが用いられる。
【0003】
光学異方性層の製造方法の一例として、液晶化合物を含む液晶組成物を、配向させ、硬化する方法が知られている(特許文献1及び2)。光学異方性を有する材料の多くは所謂順波長分散性を有する一方、液晶組成物の硬化物のうちある種のものは、所謂逆波長分散性を有し、光学材料として有利に用いうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-137856号公報
【特許文献2】国際公開第2007/046384号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶組成物を用いて形成された光学異方性層は、その耐久性が不足する場合がある。例えば、光学異方性層を85℃100時間といった耐久試験条件下(耐熱性試験条件下)に置くことにより、その位相差が大きく変化することがある。面内レターデーションReに着目し、かかる位相差をReの減少としてとらえた場合、かかるReの減少を「Reドロップ」と呼ぶ場合があり、Reの減少量(Re変化値の絶対値)を「Reドロップ量」と呼ぶ場合がある。また、光学異方性層を高温環境下に長時間置いた場合、Reはある一定時間で大きく減少した後も、時間経過とともに徐々に減少する場合がある。すなわち、Reドロップ量が一定時間で大きく増加した後も、時間経過とともに徐々に増加する場合がある。Reドロップは、表示装置等の高熱を発生する装置の構成要素として光学異方性層を使用する場合、装置の耐久性を低下させる要因となり得る。また、上述したように、Reドロップ量の経時的な増加は表示品質への影響が大きいことから、改善が望まれる。
【0006】
したがって、本発明の目的は、液晶組成物の硬化物を含む光学異方性層であって、耐熱性が良好であり、耐熱性の経時的な低下が抑制された光学異方性層を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するべく検討したところ、液晶組成物中に、逆波長分散性液晶化合物と特定の構造を有する化合物とを特定の比率で含有させることにより、光学異方性層を高温環境下に長時間置いた際、一旦Reドロップが生じた光学異方性層においてReドロップ量の経時的な増加を抑制しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下のものを含む。
【0008】
〔1〕 逆波長分散性液晶化合物と、下記式(I)で表される化合物[I]とを含む液晶組成物の硬化物を含み、前記逆波長分散性液晶化合物100重量部に対する、前記化合物[I]の量が、3.8重量部以上11.3重量部以下である、光学異方性層:
【化1】
前記式(I)において、Spは置換基を有してもよい直鎖状脂肪族炭化水素基である。
〔2〕 前記化合物[I]が、下記式(Ia)で表される化合物[Ia]である、〔1〕に記載の光学異方性層:
【化2】
前記式(Ia)において、nは2~10のいずれかの整数を表す。
〔3〕 前記逆波長分散性液晶化合物が、下記式(II)で表される化合物である、〔1〕又は〔2〕に記載の光学異方性層:
【化3】
前記式(II)において、
Arは、下記式(III-1)~式(III-5)のいずれかで表される基を示し、
【化4】
*は、Z又はZとの結合位置を表し、
及びEは、それぞれ独立して、-CR1112-、-S-、-NR11-、-CO-及び-O-からなる群より選ばれる基を表し、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、
~Dは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい非環状基を表し、D及びDは、一緒になって環を形成していてもよく、
は、-C(R)=N-N(R)R、-C(R)=N-N=C(R)R、及び、-C(R)=N-N=Rからなる群より選ばれる基を表し、Rは、水素原子;並びに炭素原子数1~6のアルキル基;からなる群より選ばれる基を表し、Rは、水素原子;並びに置換基を有していてもよい炭素原子数1~30の有機基;からなる群より選ばれる基を表し、Rは、炭素原子数6~30の芳香族炭化水素環及び炭素原子数2~30の芳香族複素環からなる群より選ばれる1以上の芳香環を有する、有機基を表し、Rは、炭素原子数6~30の芳香族炭化水素環及び炭素原子数2~30の芳香族複素環からなる群より選ばれる1以上の芳香環を有する、有機基を表し、
aは、単結合、-O-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR13-C(=O)-、-C(=O)-NR13-、-O-C(=O)-O-、-NR13-C(=O)-O-、-O-C(=O)-NR13-、および、-NR13-C(=O)-NR14-、からなる群より選ばれるいずれかを表し、R13およびR14は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、
Xaは、置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表し、
tは、0または1を表し
及びZは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-O-CH-、-CH-O-、-O-CH-CH-、-CH-CH-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-S-、-S-C(=O)-、-NR21-C(=O)-、-C(=O)-NR21-、-CF-O-、-O-CF-、-CH-CH-、-CF-CF-、-O-CH-CH-O-、-CH=CH-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH=CH-、-CH-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH-、-CH-O-C(=O)-、-C(=O)-O-CH-、-CH-CH-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH-CH-、-CH-CH-O-C(=O)-、-C(=O)-O-CH-CH-、-CH=CH-、-N=CH-、-CH=N-、-N=C(CH)-、-C(CH)=N-、-N=N-、及び、-C≡C-、からなる群より選ばれるいずれかを表し、R21は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表し、
、A、B及びBは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい環状脂肪族基、及び、置換基を有していてもよい芳香族基、からなる群より選ばれる基を表し、
~Yは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR22-C(=O)-、-C(=O)-NR22-、-O-C(=O)-O-、-NR22-C(=O)-O-、-O-C(=O)-NR22-、及び、-NR22-C(=O)-NR23-、からなる群より選ばれるいずれかを表す。R22及びR23は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表し、
及びGは、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の脂肪族炭化水素基;並びに、炭素原子数3~20の脂肪族炭化水素基に含まれるメチレン基の1以上が-O-又は-C(=O)-に置換された基;からなる群より選ばれる有機基を表し、G及びGの前記有機基に含まれる水素原子は、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、又は、ハロゲン原子に置換されていてもよく、ただし、G及びGの両末端のメチレン基が-O-又は-C(=O)-に置換されることはなく、
及びPは、それぞれ独立して、重合性基を表し、
p及びqは、それぞれ独立して、0又は1を表す。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液晶組成物の硬化物を含む光学異方性層であって、耐熱性が良好であり、耐熱性の経時的な低下が抑制された光学異方性層を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、例示物及び実施形態を挙げて本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下に挙げる例示物及び実施形態に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0011】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0012】
以下の説明において、層の面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。ここで、nxは、層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、層の前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは層の厚み方向の屈折率を表す。dは、層の厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0013】
以下の説明において、別に断らない限り、「逆波長分散特性」とは、波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)、波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)、及び、波長650nmにおける面内レターデーションRe(650)が、下記の式(1)を満たす特性をいう。逆波長分散特性を有する材料は、好ましくは下記式(1)及び式(2)の両方を満たす。
Re(450)/Re(550)<1.00 (1)
Re(650)/Re(550)>1.00 (2)
【0014】
以下の説明において、別に断らない限り、「順波長分散特性」とは、Re(450)、Re(550)、及びRe(650)が、下記の式(1’)を満たす特性をいう。順波長分散特性を有する材料は、好ましくは下記式(1’)及び式(2’)の両方を満たす。
Re(450)/Re(550)>1.00 (1’)
Re(650)/Re(550)<1.00 (2’)
【0015】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0016】
〔1.光学異方性層の概要〕
本発明の一実施形態の光学異方性層は、逆波長分散性液晶化合物と、特定の構造を有する化合物[I]とを含む液晶組成物の硬化物を含み、逆波長分散性液晶化合物100重量部に対する、化合物[I]の量が、所定の量である。
【0017】
本発明によれば、液晶組成物の硬化物が逆波長分散性液晶化合物と化合物[I]とを所定量で含むことから、高温環境下における光学異方性層のReドロップ量の経時的な増加を抑制しうる。よって、耐熱性の経時的な低下を抑制しうる光学異方性層としうる。
【0018】
また、本発明によれば、液晶組成物の硬化物が逆波長分散性液晶化合物と化合物[I]とを所定量で含むことにより、光学異方性層を長時間高温環境下に置いた場合のReドロップ量を小さくしうる。よって、耐熱性が良好な光学異方性層としうる。
【0019】
〔2.液晶組成物〕
本実施形態に係る液晶組成物は、逆波長分散性液晶化合物と、化合物[I]とを少なくとも含む。
【0020】
〔2.1.化合物[I]〕
化合物[I]は下記式(I)で表される化合物である。
【0021】
【化5】
【0022】
式(I)において、Spは置換基を有してもよい直鎖状脂肪族炭化水素基である。直鎖状脂肪族炭化水素基が有しうる置換基としては、例えば、-C(=O)O-、-O-C(=O)-、-O-、または-S-が挙げられ、-C(=O)O-を含むことが好ましい。
【0023】
化合物[I]が有する直鎖状脂肪族炭化水素基は、化合物[I]において柔軟なスペーサー基として機能しうる。化合物[I]の構造は、メチルヒンダードアミン骨格及び柔軟なスペーサー基(アルキルスペーサー)を備えた構造と捉えうる。
【0024】
本実施形態において、好ましい化合物[I]としては、例えば、下記式(Ia)で表される化合物[Ia]が挙げられる。また、化合物[Ia]の中でも、n=8である化合物、すなわち下記式(A)で表される化合物[A]であることが好ましい。
【0025】
【化6】
前記式(Ia)において、nは2~10のいずれかの整数を表す。
【0026】
【化7】
【0027】
化合物[A]は、例えば、下記式(B)で表される化合物[B]とともに光安定剤として用いられうることから、液晶組成物は化合物[A及び化合物[B]を含む光安定剤を含んでいてもよい。この場合、通常、化合物[A]が所定量含まれるように、光安定剤の量が調整される。
【0028】
【化8】
【0029】
化合物[A]及び化合物[B]を含む光安定剤として、市販品を用いてもよく、具体的には、BASF社製の「Tinuvin292」やADEKA社製の「LA-72」を挙げることができる。
【0030】
化合物[I]の量は、逆波長分散性液晶化合物100重量部に対して、通常3.8重量部以上、好ましくは5.0重量部よりも多く、より好ましくは5.5重量部以上、特に好ましくは6.0重量部以上であり、通常11.3重量部以下、好ましくは10.0重量部以下、特に好ましくは7.5重量部以下である。化合物[I]の量が前記下限値以上であることにより、耐熱性の経時的な低下を抑制しうるからであり、化合物[I]の量が前記上限値以下であることにより、耐熱性の経時的な低下を抑制しつつ、逆波長分散性液晶化合物の配向不良を抑制しうるからである。
【0031】
〔2.2.逆波長分散性液晶化合物〕
逆波長分散性液晶化合物とは、逆波長分散性の複屈折を発現できる液晶化合物である。即ち、逆波長分散性液晶化合物とは、当該液晶化合物の層を形成し、その層において液晶化合物を配向させた際に、逆波長分散性の複屈折を発現する液晶化合物をいう。
【0032】
これに対し、順波長分散性液晶化合物とは、順波長分散性の複屈折を発現できる液晶化合物である。即ち、順波長分散性液晶化合物とは、当該液晶化合物の層を形成し、その層において液晶化合物を配向させた際に、順波長分散性の複屈折を発現する液晶化合物をいう。
【0033】
通常は、液晶化合物をホモジニアス配向させた場合に、液晶化合物の層が示す複屈折の波長分散性を調べることで、その液晶化合物が示す複屈折の波長分散性を確認できる。液晶化合物をホモジニアス配向させる、とは、当該液晶化合物を含む層を形成し、その層における液晶化合物の分子の屈折率楕円体において最大の屈折率の方向を、前記層の面に平行なある一の方向に配向させることをいう。
【0034】
具体的には、液晶化合物が、逆波長分散性であることは、下記の方法により確認しうる。
(1)液晶化合物、界面活性剤、及び溶媒を含む液晶組成物を調製する。
(2)配向規制力が表面に付与された基材に、液晶組成物を塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥させて、液晶化合物の層を形成する。
(3)必要に応じて液晶化合物の層を加熱して、液晶化合物の層において液晶化合物を配向させて、液晶化合物の層の、波長450nm、550nm、及び650nmにおける面内レターデーションRe(450)、Re(550)、及びRe(650)を測定し、Re(450)/Re(550)<1.00であること(又は、Re(450)/Re(550)<1.00であり且つRe(650)/Re(550)>1.00であること)を確認する。
【0035】
逆波長分散性液晶化合物は、好ましくは、重合性の液晶化合物である。重合性の液晶化合物とは、液晶相を呈した状態で、液晶組成物中で重合し、液晶相における分子の配向を維持したまま重合体となりうる液晶化合物である。逆波長分散性液晶化合物として重合性の液晶化合物を採用することにより、液晶組成物を用いた固体の光学異方性層の製造を、容易に行うことができる。
【0036】
逆波長分散性液晶化合物としては、1種類の化合物を単独で用いてもよく、2種類以上の化合物を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0037】
逆波長分散性液晶化合物の分子量は、好ましくは300以上、より好ましくは500以上、特に好ましくは800以上であり、好ましくは2000以下、より好ましくは1700以下、特に好ましくは1500以下である。このような範囲の分子量を有する逆波長分散性液晶化合物を用いることにより、所望の配向を容易に得ることができる。
【0038】
逆波長分散性液晶化合物の具体例としては、例えば下記式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
【化9】
【0040】
前記式(II)において、Arは、下記式(III-1)~式(III-5)のいずれかで表される基を示す。ただし、式(III-1)~式(III-5)のいずれかで表される基は、D~D以外に置換基を有していてもよい。
【0041】
【化10】
【0042】
前記式(III-1)~式(III-5)において、*は、Z又はZとの結合位置を表す。
【0043】
前記式(III-1)において、E及びEは、それぞれ独立して、-CR1112-、-S-、-NR11-、-CO-及び-O-からなる群より選ばれる基を表す。R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素原子数1~4のアルキル基を表す。
【0044】
前記式(III-1)において、D~Dは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい非環状基を表す。D及びDは、一緒になって環を形成していてもよい。D~Dが表す基の炭素原子数(置換基の炭素原子数を含む。)は、それぞれ独立して、通常、1~100である。
【0045】
前記式(III-2)~式(III-5)において、Dは、-C(R)=N-N(R)R、-C(R)=N-N=C(R)R、及び、-C(R)=N-N=Rからなる群より選ばれる基を表す。Dが表す基の炭素原子数(置換基の炭素原子数を含む。)は、通常、3~100である。
【0046】
は、水素原子;並びに、炭素原子数1~6のアルキル基;からなる群より選ばれる基を表す。
【0047】
は、水素原子;並びに、置換基を有していてもよい炭素原子数1~30の有機基;からなる群より選ばれる基を表す。Rとして用いうる炭素原子数1~30の有機基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルキル基に含まれる-CH-の少なくとも一つが、-O-、-S-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、または、-C(=O)-に置換された基(ただし、-O-または-S-がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く)、置換基を有していてもよい炭素数2~20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2~20のアルキニル基、置換基を有していてもよい炭素数3~12のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい炭素数2~30の芳香族複素環基、-Gx-Yx-Fx、-SO、-C(=O)-R、または-CS-NH-Rのいずれかが好ましい。
【0048】
Gxは置換基を有していてもよい炭素数1~30の2価の脂肪族炭化水素基、および、置換基を有していてもよい炭素数3~30の2価の脂肪族炭化水素基に含まれる-CH-の少なくとも一つが、-O-、-S-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-O-、-NR15-C(=O)-、-C(=O)-NR15-、-NR15-、または、-C(=O)-に置換された基のいずれかの有機基である。ただし、-O-または-S-がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。R15は、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。
【0049】
Yxは-O-、-C(=O)-、-S-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=O)-O-、-C(=O)-S-、-S-C(=O)-、-NR16-C(=O)-、-C(=O)-NR16-、-O-C(=O)-NR16-、-NR16-C(=O)-O-、-N=N-、または、-C≡C-を表す。R16は、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。
【0050】
Fxは、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環の少なくとも一方を有する有機基を表す。この有機基の炭素原子数は、好ましくは2以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは8以上、特に好ましくは10以上であり、好ましくは30以下である。前記の有機基の炭素原子数には、置換基の炭素原子を含まない。Fxは、少なくとも一つの水素原子が芳香族炭化水素環および芳香族複素環の少なくとも一方を有する環含有基で置換され、且つ、前記環含有基以外の置換基を有していてもよい炭素数1~18のアルキル基、或いは、芳香族炭化水素環および芳香族複素環の少なくとも一方を有する、置換基を有していてもよい炭素数2~20の環状基であることが好ましい。Fxが、複数の芳香族炭化水素環および/または複数の芳香族複素環を有する場合は、それぞれが同じであっても異なっていてもよい。
【0051】
は炭素数1~6のアルキル基、または、炭素数1~6のアルキル基若しくは炭素数1~6のアルコキシ基を置換基として有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素環基を表す。
【0052】
は、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3~12のシクロアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素環基を表す。
【0053】
は、炭素原子数6~30の芳香族炭化水素環及び炭素原子数2~30の芳香族複素環からなる群より選ばれる1以上の芳香環を有する、有機基を表す。Rとして用いうる有機基としては、一以上の炭素数6~30の芳香族炭化水素環を有する、炭素数6~40の炭化水素環基;炭素数6~30の芳香族炭化水素環および炭素数2~30の芳香族複素環からなる群から選ばれる一以上の芳香環を有する、炭素数2~40の複素環基;炭素数6~30の芳香族炭化水素環基および炭素数2~30の芳香族複素環基の少なくとも1つで置換された、炭素数1~12のアルキル基;炭素数6~30の芳香族炭化水素環基および炭素数2~30の芳香族複素環基の少なくとも1つで置換された、炭素数2~12のアルケニル基;炭素数6~30の芳香族炭化水素環基および炭素数2~30の芳香族複素環基の少なくとも1つで置換された、炭素数2~12のアルキニル基;の何れかであることが好ましい。
【0054】
は、炭素原子数6~30の芳香族炭化水素環及び炭素原子数2~30の芳香族複素環からなる群より選ばれる1以上の芳香環を有する、有機基を表す。Rとして用いうる有機基としては、一以上の炭素数6~30の芳香族炭化水素環を有する、炭素数6~40の炭化水素環基、または、炭素数6~30の芳香族炭化水素環および炭素数2~30の芳香族複素環からなる群から選ばれる一以上の芳香環を有する、炭素数2~40の複素環基であることが好ましい。
【0055】
前記式(III-5)において、Yaは、単結合、-O-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR13-C(=O)-、-C(=O)-NR13-、-O-C(=O)-O-、-NR13-C(=O)-O-、-O-C(=O)-NR13-、および、-NR13-C(=O)-NR14-、からなる群より選ばれるいずれかを表す。ここで、R13およびR14は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表す。
【0056】
前記式(III-5)において、Xaは、置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表し、置換基を有していてもよい炭素数1~18のアルキレン基、または置換基を有していてもよい炭素数6~18の芳香族炭化水素環基が好ましい。
【0057】
前記式(III-5)において、tは、0または1を表す。
【0058】
前記式(II)において、Z及びZは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-O-CH-、-CH-O-、-O-CH-CH-、-CH-CH-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-S-、-S-C(=O)-、-NR21-C(=O)-、-C(=O)-NR21-、-CF-O-、-O-CF-、-CH-CH-、-CF-CF-、-O-CH-CH-O-、-CH=CH-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH=CH-、-CH-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH-、-CH-O-C(=O)-、-C(=O)-O-CH-、-CH-CH-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH-CH-、-CH-CH-O-C(=O)-、-C(=O)-O-CH-CH-、-CH=CH-、-N=CH-、-CH=N-、-N=C(CH)-、-C(CH)=N-、-N=N-、及び、-C≡C-、からなる群より選ばれるいずれかを表す。R21は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表す。
【0059】
前記式(II)において、A、A、B及びBは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい環状脂肪族基、及び、置換基を有していてもよい芳香族基、からなる群より選ばれる基を表す。
【0060】
前記式(II)において、Y~Yは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR22-C(=O)-、-C(=O)-NR22-、-O-C(=O)-O-、-NR22-C(=O)-O-、-O-C(=O)-NR22-、及び、-NR22-C(=O)-NR23-、からなる群より選ばれるいずれかを表す。R22及びR23は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表す。
【0061】
前記式(II)において、G及びGは、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の脂肪族炭化水素基;並びに、炭素原子数3~20の脂肪族炭化水素基に含まれるメチレン基の1以上が-O-又は-C(=O)-に置換された基;からなる群より選ばれる有機基を表す。G及びGの前記有機基に含まれる水素原子は、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、又は、ハロゲン原子に置換されていてもよい。ただし、G及びGの両末端のメチレン基が-O-又は-C(=O)-に置換されることはない。
【0062】
前記式(II)において、P及びPは、それぞれ独立して、重合性基を表す。
【0063】
前記式(II)において、p及びqは、それぞれ独立して、0又は1を表す。
【0064】
また、式(II)で表される液晶化合物において、Arが式(III-2)で表される基を有する場合、好ましくは、下記構造式(IV-2)で表される基を有することが好ましい。
【0065】
【化11】
【0066】
式(II)で表される液晶性化合物については、例えば、国際公開第2019/146468号、国際公開第2021/131856号を参照しうる。
【0067】
〔2.3.任意成分〕
液晶組成物は、前述の成分に加えて、任意成分を含みうる。任意成分の種類及び割合は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜選択しうる。かかる任意成分の例としては、界面活性剤、酸化防止剤、各種の有機溶媒等の溶媒、及び重合開始剤が挙げられる。重合開始剤としては、紫外線重合開始剤等の光重合開始剤が、重合の操作が容易である観点から好ましい。
【0068】
〔3.光学異方性層〕
本実施形態に係る光学異方性層は、液晶組成物の硬化物である。光学異方性層の厚みは、特に限定されず、用途に応じた位相差を発現できる所望の厚みとしうる。厚みの範囲は、例えば2.3μm~2.8μmの範囲としうる。
【0069】
本実施形態に係る光学異方性層は、経時的な耐熱性の低下が抑制された層である。光学異方性層は、例えば、85℃100時間の耐熱性試験前後でのRe変化値をReD(100)とし、85℃500時間の耐熱性試験前後でのRe変化量をReD(500)とした場合、式(3)を満たすことが好ましく、(3’)を満たすことがより好ましい。
|ReD(100)|≧|ReD(500)| (3)
|ReD(100)|>|ReD(500)| (3’)
【0070】
また、光学異方性層は、例えば、85時間250時間の耐熱性試験前後でのRe変化値をRe(250)とし、85℃500時間の耐熱性試験前後でのRe変化量をRe(500)とした場合、式(4)を満たすことが好ましく、(4’)を満たすことがより好ましい。
|ReD(250)|≧|ReD(500)| (4)
|ReD(250)|>|ReD(500)| (4’)
【0071】
本実施形態においては、光学異方性層が、式(3)及び(4)を満たすことが好ましく、式(3’)及び(4’)を満たすことがより好ましい。光学異方性層が上記式(3)、(3’)、(4)及び(4’)の少なくとも一つの関係を満たす場合、ReD(100)、ReD(250)及びReD(500)は、通常、同一の符号を有する。
【0072】
また、光学異方性層は、85℃500時間の耐熱性試験前後でのRe変化量をReD(500)とした場合、ReD(500)の絶対値は、好ましくは2.5%未満、より好ましくは2.35%以下、より好ましくは2%以下である。ReD(500)の絶対値の下限値は理想的には0%である。
【0073】
ReDは、耐熱性試験前のReの値Re0と、耐熱性試験後(100時間、250時間、または500時間経過後)のReの値Re1から、Re変化値ReD(%)を、式ReD=((Re1-Re0)/Re0)×100に基づいて計算しうる。耐熱性試験の詳細な条件について説明する内容と同様としうる。
【0074】
〔4.製造方法〕
本発明の一実施形態に係る光学異方性層の製造方法としては、例えば、基材の一方の表面上に、前述の液晶組成物の塗膜を形成し、基材及び塗膜を含む複層物を得る工程(S1)、及び塗膜を硬化させ、光学異方性層を形成する工程(S2)を含む、製造方法により製造しうる。
【0075】
工程(S1)に用いる基材としては、当該技術分野に応じて一般的に用いられるものを適宜選択しうる。基材は、その表面において配向規制力を有するものとしうる。例えば、延伸処理、ラビング処理等により、その表面に、逆波長分散性液晶化合物の配向方向を規制する規制力を付与したものとしうる。
【0076】
塗膜の形成は、液晶組成物を基材の表面上に塗布することにより行いうる。塗布は、バーコーターによる塗布等の、一般的な液体の塗布方法により行いうる。塗膜の厚みは、製品たる光学異方性層の厚みが所望の厚みとなるよう適宜調整しうる。
【0077】
工程(S1)の後、工程(S2)に先立ち、必要に応じて任意の工程を行いうる。例えば、溶媒の揮発、逆波長分散性液晶化合物の配向の促進等のために、塗膜を加熱し乾燥させる操作を行いうる。
【0078】
工程(S2)としては、使用する液晶組成物の硬化を達成しうる適切な方法を選択しうる。例えば、液晶組成物として、重合性液晶化合物及び必要であれば光重合開始剤を含むものを採用した場合、エネルギー線の照射により、塗膜の硬化を達成しうる。エネルギー線としては、液晶組成物の硬化を達成するのに適したものを適宜選択でき、具体的には紫外光等の光を用いうる。
【0079】
[5.用途]
本発明の光学異方性層は、位相差フィルムとして用いうる。具体的には、液晶表示装置及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表示装置における、位相差を有する光学フィルムとして用いうる。例えば、偏光子層と組み合わせて構成された反射防止フィルムとして用いうる。
【0080】
本発明の光学異方性層は、逆波長分散性を有する層としうるため、位相差フィルムとしての機能を、広い視野角において良好に発現しうる等の利点を有する。本発明の光学異方性層は、耐熱性の経時的な低下が抑制されていることから、使用に際しての熱負荷に対する耐久性が高いため、それを備える装置の寿命を延長させることができる。
【実施例0081】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0082】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温常圧(23℃1気圧)大気中の条件において行った。
【0083】
〔評価方法〕
(光安定剤中の化合物[A]の含有量)
光安定剤(ADEKA社製の「LA-72」)に含まれる下記式(A)で表される化合物[A]及び下記式(B)で表される化合物[B]の含有比率をH-NMRにより定量したところ、化合物[A]:化合物[B]=75%:25%であった。また、光安定剤(BASF社製の「Tinuvin292」)に含まれる化合物[A]及び化合物[B]の含有比率を測定したところ、化合物[A]:化合物[B]=76%:24%であった。以下、実施例及び比較例における化合物[A]の量は、H-NMRにより求められた含有比率から算出した。
H-NMRによる化合物[A]の含有比率の具体的な測定条件及び算出方法は下記の通りである。
【0084】
【化12】
【0085】
H-NMRの測定条件>
<1H-NMR測定操作>
測定核:
FREQ:500MHz
Pulse:30°パルス
H90°パルス:13.0μsec(パルス幅)、8.0W(パルス出力)
Scan:16
待ち時間:1sec
溶媒:重クロロホルム
温度:300K
サンプル濃度:0.5%(試料を約0.5%の重クロロホルム溶液に調整)
装置:AVANCE III(周波数500MHz)(ブルカー社製)
【0086】
<化合物[A]及び化合物[B]の含有比率の算出方法>
H-NMRの測定結果から光安定剤に含まれる化合物[A]及び化合物[B]の含有比率を以下のように算出した。化合物[B]の-COOCHのCH(式(B)中、bのCH)に由来するピーク(化学シフト値:3.67ppm)の積分値を、化合物[B]中の前記CHのH数(3)で割ることで、化合物[B]の相対的なモル量の指標となる値を算出した。また、化合物[A]及び化合物[B]中のメチルヒンダードアミン及びスペーサー基(-OCO(CHCOO-)の結合部に存在するCH(式(A)及び式(B)中、aのCH)に由来するピーク(化学シフト値:5.05ppm)の積分値から、化合物[B]の前述のCHに由来するピークの1水素分の積分値(化合物[B]中の前記CHに由来するピークの積分値に相当)を差し引くことで、化合物[A]における前記CHに由来するピークの積分値を算出した。この値を化合物[A]中の前記CHのH数(2)で割ることで、化合物[A]の相対的なモル量の指標となる値を算出した。化合物[A]及び化合物[B]の相対的なモル量の指標の値をもとに、化合物[B]の1.00モルに対する化合物[A]のモル量の比率を求めた。得られたモル量の比率、化合物[A]の分子量、及び化合物[B]の分子量から化合物[A]及び化合物[B]の含有比率を算出した。結果を表1に示す。表1中、化合物[A]の積分値は(化合物[A]の積分値=(5.05ppmのピークの積分値)-(3.67ppmのピークの1水素分の積分値))として算出された値である。化合物Aの分子量は組成式:C3056から算出された値であり、化合物Bの分子量は組成式:C2139NOから算出された値である。
【0087】
【表1】
【0088】
(配向状態(面状態)の評価)
ガラス板及び光学異方性層を備えるサンプルの偏光顕微鏡観察(対物レンズ10倍、Nicon社製)を実施し、光学異方性層の配向状態を確認した。観察エリアは、転写サンプルの中央部における10mm×10mmのエリアとした。配向状態の判断として、観察エリア内に配向欠陥が1個以内で、かつ、液晶化合物の配向性が光安定剤を含まない比較例と同レベルの場合は、「A+」と判定した。観察エリア内に配向欠陥が1個以内であるが、液晶化合物の配向性が光安定剤を含まない比較例よりも悪い場合は、「A」判定とした。観察エリア内に配向欠陥が2個以上確認された場合、配向欠陥多数として「B」判定とした。
【0089】
(波長分散性(Re(450)/Re(550))の評価)
ガラス板及び光学異方性層を備えるサンプルを、位相差計(Axometrics社製)のステージに設置して、光学異方性層の面内レターデーションReの波長分散(波長400nm~800nm)を測定した。こうして得られた光学異方性層の面内レターデーションReの波長分散から、波長450nm、550nmにおける光学異方性層の面内レターデーションRe(450)、Re(550)を求め、波長分散性(Re(450)/Re(550))の値を算出した。
【0090】
波長分散性を測定したサンプルをアルミバッドへ載せ、85℃×Dryの恒温槽へ投入した。100時間、250時間、及び500時間経過後にそれぞれアルミバットを取り出し、耐熱性試験後の光学異方性層の波長分散性(Re(450)/Re(550))の値を求めた。具体的な測定方法は上記と同様である。
【0091】
(耐熱性試験の測定方法、光学特性の測定方法)
ガラス板及び光学異方性層を備えるサンプルを、位相差計(Axometrics社製)のステージに設置して、光学異方性層の面内レターデーションReの波長分散(波長400nm~800nm)を測定した。こうして得られた光学異方性層の面内レターデーションReの波長分散結果から薄膜干渉の影響を除去するために、コーシーフィッテイングを行った。その後、波長590nmにおける光学異方性層の面内レターデーションRe(590)を求めた。
【0092】
光学特性を測定したサンプルをアルミバッドへ載せ、85℃×Dryの恒温槽へ投入した。100時間、250時間、500時間経過後にそれぞれアルミバットを取り出し、耐熱性試験後の光学異方性層の光学特性(Re(590))を測定した。測定方法は上記と同様である。
【0093】
耐熱性試験前のReの値Re0と、耐熱性試験後(100時間、250時間、または500時間経過後)のReの値Re1から、Re変化値ReD(%)を、式ReD=((Re1-Re0)/Re0)×100に基づいて計算した。
【0094】
500時間経過後のReDにおいて、ReD<±2.5%である場合を「A」判定とし、ReD≧±2.5%である場合を「B」判定とした。
【0095】
また、耐熱性試験における0時間~500時間までのReDの変化の推移として、100時間におけるReD(100)、250時間におけるReD(250)及び500時間におけるReD(500)から下記式(3’)及び(4’)を満たす場合を「A+」とし、下記式(4’)のみを満たす場合を「A」とし、下記式(3’)及び(4’)の両方を満たさない場合を「B」と判定した。
|ReD(100)|>|ReD(500)| (3’)
|ReD(250)|>|ReD(500)| (4’)
【0096】
[実施例1]
(1-1.液晶組成物の調製)
下記式(C1)で表される光重合性液晶化合物[C1]を100.0部、前述の式(A)で表される化合物[A]及び前述の式(B)で表される化合物[B]を含む光安定剤(ADEKA社製の「LA-72」、化合物[A]の含有比率:75%及び化合物[B]の含有比率:25%)を5.0部、光重合開始剤(ADEKA社製の「NCI-730」)を4.0部、及び界面活性剤(DIC社製の「メガファックF-562」)を0.3部、酸化防止剤(2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール;BHT)0.1部量り取り、さらに、希釈溶媒(シクロペンタノン:1,3-ジオキソラン=4:6)を、固形分が22%になるように加え、50℃に加温し溶解させた。目視観察で、析出物が無いことを確認した。その後、得られた混合物を、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、液晶組成物を調製した。光重合性液晶化合物[C1]は逆波長分散性液晶化合物である。実施例1においては、液晶組成物中における、光重合性液晶化合物[C1]100部に対する、化合物[A]の量を3.8部となるように調製した。
【0097】
【化13】
【0098】
(1-2.光学異方性層の形成)
基材フィルムとして、脂環式構造含有重合体を含む樹脂の、斜め延伸された長尺のフィルム(製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム、Tg126℃」、日本ゼオン株式会社製、厚さ77μm、波長550nmにおける面内方向の位相差Re141nm、延伸方向は短尺方向に対して45°の方向)を用意した。
基材フィルム上に、(1-1)で得られた液晶組成物を、バーコーターで塗布し、液晶組成物の層を形成した。液晶組成物の層の厚みは、得られる光学異方性層の厚みが2.5μm程度になるように調整した。その後、110℃オーブンで4分ほど乾燥させて、液晶組成物中の溶媒を蒸発させて、同時に光重合性液晶化合物[C1]を基材延伸軸方向に配向させた。乾燥された光重合性液晶組成物[C1]の層に、紫外線照射装置により、紫外線を窒素雰囲気下、積算照度700mJ/cm(照射強度350mW/cm、照射時間2秒)照射し、その際、基材フィルムは、70℃のSUS板に密着させた状態で行った。これにより光重合性液晶化合物[C1]を硬化させ、光学異方性層を形成した。
【0099】
得られた光学異方性層にコロナ処理をし、粘着剤付ガラス板(粘着剤層は、日東電工社製「CS9861US」、ガラスは、青板ガラスを使用、厚み:0.7mm、サイズ:35mm×35mm)に貼り合せた。その後、基材フィルムを剥離し、ガラス板及び光学異方性層を備えるサンプルを得た。得られたサンプルを前述の評価方法により評価した。
【0100】
[実施例2~4]
液晶組成物中の光重合性液晶化合物[C1]100部に対する、光安定剤(「LA-72」)の量を、それぞれ8部(実施例2)、10部(実施例3)、及び15部(実施例4)に変更した点、すなわち、光重合性液晶化合物[C1]100部に対する、化合物[A]の量を、それぞれ6.0部(実施例2)、7.5部(実施例3)、及び11.3部(実施例4)に変更した点以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作製し、サンプルを前述の評価方法により評価した。
【0101】
[実施例5]
化合物[A]を含む光安定剤として、ADEKA製の「LA-72」の代わりにBASF社製の「Tinuvin292」(化合物[A]の含有比率:76%、及び化合物[B]の含有比率:24%)を用い、光重合性液晶化合物[C1]100部に対する光安定剤の量を8部とした点以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作製し、サンプルを前述の評価方法により評価した。実施例5においては、液晶組成物中における、光重合性液晶化合物[C1]100部に対する、化合物[A]の量を6.1部となるように調製した。
【0102】
[実施例6]
光重合性液晶化合物[C1]の代わりに下記式(C2)で表される光重合性液晶化合物[C2]を用いた点、及び光重合性液晶化合物[C2]100部に対する光安定剤(「LA-72」)の量を8部とした点以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作製し、サンプルを前述の評価方法により評価した。実施例6においては、液晶組成物中における、光重合性液晶化合物[C1]100部に対する、化合物[A]の量を6.0部となるように調製した。
【0103】
【化14】
【0104】
[比較例1]
液晶組成物中に光安定剤を添加しなかった点以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製し、サンプルを前述の評価方法により評価した。
【0105】
[比較例2~4]
液晶組成物中の光重合性液晶化合物[C1]100部に対する、光安定剤(「LA-72」)の量を、それぞれ1部(比較例2)、3部(比較例3)、及び20部(比較例4)に変更した点、すなわち、光重合性液晶化合物[C1]100部に対する、化合物[A]の量を、それぞれ0.8部(比較例2)、2.3部(比較例3)及び15.0部(比較例4)に変更した点以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作製し、サンプルを前述の評価方法により評価した。
【0106】
[比較例5]
液晶組成物中に光安定剤を添加しなかった点以外は実施例6と同様にしてサンプルを作製し、サンプルを前述の評価方法により評価した。
【0107】
[比較例6]
化合物[A]の代わりに下記式(D1)で表される化合物[D1](ADEKA社製、「LA-82」)を、光重合性液晶化合物[C1]100部に対し8部添加したこと以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製し、前述の評価方法により評価した。
【0108】
【化15】
【0109】
[比較例7]
化合物[A]の代わりに下記構造式(D2)で表される化合物[D2](ADEKA社製、「LA―63P」)を、光重合性液晶化合物[C1]100部に対し8部添加したこと以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製し、前述の評価方法により評価した。下記構造式(D2)中、Rはメチル基(-CH)である。
【0110】
【化16】
【0111】
[比較例8]
光重合性液晶化合物として、下記式(E)で表される光重合性液晶化合物[E]を用いたこと以外は比較例1と同様にしてサンプルを作製し、サンプルを前述の評価方法により評価した。光重合性液晶化合物[E]は順波長分散性液晶化合物である。
【0112】
【化17】
【0113】
[比較例9]
光重合性液晶化合物として、光重合性液晶化合物[E]を用いたこと以外は実施例2と同様にしてサンプルを作製し、サンプルを前述の評価方法により評価した。
【0114】
表2~4に評価結果を示す。表2~4中、液晶化合物の波長分散性について「逆」は逆波長分散性を示し、「順」は順波長分散性を示す。また、液晶化合物の種類C1、C2及びEは以下の通りである。
C1:前記式(C1)で表される光重合性液晶化合物[C1]。
C2:前記式(C2)で表される光重合性液晶化合物[C2]。
E:前記式(E)で表される光重合性液晶化合物[E]。
【0115】
また、表2及び3中、「HALS」は光安定剤を示し、光安定剤の品名は以下の通りである。
LA-72:ADEKA社製の「LA-72」。前記式(A)で表される化合物[A]及び式(B)で表される化合物[B]を、化合物[A]:化合物[B]=75%:25%の比率で含む光安定剤。
292:BASF社製の「Tinuvin292」。化合物[A]及び化合物[B]を化合物[A]:化合物[B]=76%:24%の比率で含む光安定剤。
LA-82:ADEKA社製の「LA-82」。前記式(D1)で表される化合物[D1]。
LA-63P:ADEKA社製の「LA-63P」。前記式(D2)で表される化合物[D2]。
【0116】
「耐熱性」及び「耐熱性の推移」の項目において「NG」は光学異方性層の面状態が不良であったため、測定ができなかったことを示す。また、「面状態」の項目において「-」は、光安定剤を含まない比較例について、同じ光重合性液晶化合物を含む光学異方性層の面状態を比較するための基準として用いられたことを指す。
【0117】
【表2】
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
実施例1~6に示すように、逆波長分散性液晶化合物100部に対し、化合物[A]を3.8部以上11.3部以下の範囲で含む液晶組成物の硬化物を用いた光学異方性層は、耐熱性試験条件下100時間~500時間の間においてReドロップ量の減少が確認され、500時間経過後のReドロップの値が小さくなることが確認された。
一方、化合物[A]を0.8部添加した比較例2においては、耐熱性試験条件下100時間~500時間の間におけるRe量の経時的な増加が生じていることが確認された。化合物[A]を2.3部添加した比較例3においては耐熱性試験条件下100時間~500時間の間においてReドロップ量の減少が確認されたものの、500時間経過後のReドロップの値を十分に小さくできないことが確認された。
また、化合物[A]を15部添加した比較例4においては、光学異方性層に配向欠陥が多数生じたことから、化合物[A]の添加量が多すぎる場合は、逆波長分散性液晶化合物の配向を阻害することが確認された。
【0121】
また、実施例2及び比較例1、並びに実施例6及び比較例5に示すように、逆波長分散性液晶化合物の種類を変えた場合でも、化合物[A]を添加しなかった場合には耐熱性試験条件下100時間~500時間の間においてReドロップ量の増加が確認され、化合物[A]を添加した場合には、耐熱性試験条件下100時間~500時間の間においてReドロップ量の減少が確認された。
一方、比較例8に示すように、順波長分散性液晶化合物においては耐熱性試験条件下100時間~500時間の間においてReドロップ量の増加は確認されるものの、逆波長分散性液晶化合物に比べ、Reドロップの値が小さいことが確認された。また、比較例9に示すように、順波長分散性液晶化合物においては、化合物[A]を添加した場合は光学異方性層に配向欠陥が生じることが確認された。
また、比較例6及び7に示すように、化合物[A]の代わりに、メチルヒンダードアミン骨格を有する化合物として、化合物[D1]を添加した場合はReドロップ量の増加が生じてしまうことが確認され、化合物[D2]を添加した場合は光学異方性層に配向欠陥が生じてしまうことが確認された。
【0122】
これらの結果から、逆波長分散性液晶化合物と、ヒンダードアミン骨格及び直鎖脂肪族炭化水素基(柔軟なスペーサー基)を備える化合物[A]の構造とが、経時的なReドロップ量の増加の抑制に寄与していると推測される。
【0123】
表4に示されるように、液晶化合物[C1]を含む光学異方性層、及び液晶化合物[C2]を含む光学異方性層は、化合物[A]の有無、及び化合物[A]の添加量によらず、逆波長分散性を示すことが確認された。