(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006559
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ポリイミド及びポリアミド酸
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109222
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】王 宏遠
(72)【発明者】
【氏名】海野 裕人
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA01
4J043QB26
4J043RA34
4J043SA06
4J043SA81
4J043TA22
4J043TA71
4J043TA74
4J043UA132
4J043UA151
4J043VA021
4J043XA16
4J043YA06
4J043ZA12
4J043ZA32
4J043ZA34
4J043ZB47
(57)【要約】
【課題】硫黄原子を含む硫化物系固体電解質を用いた全固体二次電池の構成材料に適用する場合においても、硫化物による腐食を防止することができるとともに、電池使用環境下における諸特性も満足できるポリイミドを提供する。
【解決手段】硫黄原子を含む硫化物系固体電解質の存在下で使用されるポリイミドであって、テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位と、ジアミンに由来する構造単位とからなる繰り返し単位から構成され、1モル当たりの該繰り返し単位中に硫黄原子を10モル%~200モル%含有することを特徴とするポリイミド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄原子を含む硫化物系固体電解質の存在下で使用されるポリイミドであって、
テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位と、ジアミンに由来する構造単位とからなる繰り返し単位から構成され、1モル当たりの該繰り返し単位中に硫黄原子を10モル%~200モル%含有することを特徴とするポリイミド。
【請求項2】
1%熱重量減少温度が400℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド。
【請求項3】
硫化物系固体電解質を用いる全固体二次電池の構成材料として使用されることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド。
【請求項4】
硫化物系固体電解質を用いる全固体二次電池の包装材料として用いられることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリイミド。
【請求項5】
硫化物系固体電解質を用いる全固体二次電池の電極用のバインダー樹脂として用いられることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリイミド。
【請求項6】
硫化物系固体電解質を用いる全固体二次電池の集電体の被膜として用いられることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリイミド。
【請求項7】
硫黄原子を含む硫化物系固体電解質の存在下で使用されるポリイミドを形成するためのポリアミド酸であって、
テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位と、ジアミンに由来する構造単位とからなる繰り返し単位から構成され、1モル当たりの該繰り返し単位中に硫黄原子を10モル%~200モル%含有することを特徴とするポリアミド酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドに関し、特に、全固体二次電池の構成材料として硫黄原子を含む固体電解質が存在する環境下で使用されるポリイミドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電池の用途はますます拡大しており、特に、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン二次電池等の二次電池は、携帯情報端末や携帯電子機器などの携帯端末に加えて、家庭用小型電力貯蔵装置、電動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車など、様々な用途での需要が増加している。
【0003】
ところが、電解液を用いた従来のリチウムイオン二次電池等は、使用環境によっては液漏れや発火などの危険性もあることから、近年では、更なる安全性・信頼性の確保のために、電解質にも無機固体を用いる全固体二次電池が提案されている。そして、全固体二次電池についても、例えば電気自動車等にも普及させるためには、より一層のエネルギー密度の増加、充電時間の短縮、長寿命化等が求められており、その鍵となるイオン電導性について、電解液並みの高いイオン電導性を得るために、成分として硫黄を含む硫化物系の固体電解質〔例えば、Li2S-P2S5系、LGPS(Li、Ge、P、S)系等〕が期待されている。
【0004】
しかしながら、そのような硫化物系固体電解質を用いるとすれば、電池を構成する材料に対して硫化物による腐食の懸念がある。そのような硫化物による腐食への対策のために、電池を構成する材料の樹脂材料を適正化することや、或いは、電池を構成する集電体などの樹脂以外の材料に対して新たに硫化物腐食耐性が高い樹脂材料を適用・追加する試みが考えられる。
【0005】
このように、固体電解質には硫化物が用いられるため、例えば、リチウムイオン二次電池で負極集電体として使用されている従来の銅箔を用いると、電解質中の硫化物と集電体の銅が反応して硫化銅の副生成物が生じるおそれがある。それによって、放電容量、初期容量などの電池特性が低下するという問題があった。
この点、特許文献1には、負極集電体として用いられる銅箔にニッケルめっきを施すことにより、銅の硫化物の生成を抑えることが提案されている。しかしながら、ニッケルめっきを形成させるために、煩雑な工程を必要とし、また、ニッケルめっき層が銅箔表面から剥離してしまう恐れがある。
【0006】
また、固体電解質を用いた全固体二次電池の容器として金属基材を樹脂フィルムでラミネートしたラミネートパウチが提案されている(例えば、非特許文献1など)。非特許文献1によると、PPを内層ヒートシール樹脂として、PETを外側フィルムとして用いたラミネートステンレス鋼箔が提案されているが、全固体二次電池の動作温度が従来リチウム電池と比べ、40~80℃の温度から160℃以上と高い動作温度が要求されるため、将来の包装材料に使用される樹脂材料はより高い耐熱性が要求される。
【0007】
ここで、樹脂材料の中でも、ポリイミドは、テトラカルボン酸無水物とジアミンを原料とし、これらの縮合反応により合成されるポリアミド酸を閉環反応して得られる耐熱性の樹脂で、分子鎖の剛直性、共鳴安定化、強い化学結合により熱分解に優れた抵抗を有し、酸化又は加水分解のような化学変化に対して高い耐久性を持ち、柔軟性、機械的特性及び電気的特性に優れている。例えば、一般的に電子機器に使用されるフレキシブルプリント基板の絶縁樹脂層には、ポリイミドが広く用いられている。さらには、電極用のバインダー樹脂(例えば、特許文献2~4)や、フレキシブルディスプレイ(例えば、特許文献5)としても適用が提案されている。
しかしながら、上記のように、特に、全固体二次電池に適用が期待されている硫化物系固体電解質による腐食に対して、それを課題として、実際にポリイミドの配合を設計したものは未だ提案されていない。特に、全固体二次電池の包装材料又は集電体被膜として、ポリイミドが提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許公報5788062号公報
【特許文献2】WO2020/138187号
【特許文献3】特許第6638217号公報
【特許文献4】WO2019/188430号
【特許文献5】WO2021/106627号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】MATERIAL STAFGE Vol.20, No.6 2020 p.1-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、硫黄原子を含む硫化物系固体電解質の存在下、具体的には、全固体二次電池において当該硫化物系固体電解質と接触するような環境下においても硫化物の腐食に耐性を持つような電池構成樹脂材料として、所定の割合で硫黄原子を含むポリイミドを用いることで、このような腐食の課題を解決し得るとともに、しかも、電池使用環境下において要求される諸特性(例えば、包装材料としては耐熱性、プレス成形性、金属箔との密着性などであり、電極用材料としては、耐熱性、集電体との密着性、電極活物質との混合性、Liイオン移動性などが挙げられる)も満足し得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0011】
したがって、本発明の目的は、硫黄原子を含む硫化物系固体電解質を用いた全固体二次電池の構成材料に適用する場合においても硫化物による腐食を防止することができるとともに、電池使用環境下における諸特性も満足できるポリイミドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]硫黄原子を含む硫化物系固体電解質の存在下で使用されるポリイミドであって、
テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位と、ジアミンに由来する構造単位とからなる繰り返し単位から構成され、1モル当たりの該繰り返し単位中に硫黄原子を10モル%~200モル%含有することを特徴とするポリイミド。
[2]1%熱重量減少温度が400℃以上であることを特徴とする[1]に記載のポリイミド。
[3]硫化物系固体電解質を用いる全固体二次電池の構成材料として使用されることを特徴とする[1]又は[2]に記載のポリイミド。
[4]硫化物系固体電解質を用いる全固体二次電池の包装材料として用いられることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のポリイミド。
[5]硫化物系固体電解質を用いる全固体二次電池の電極用のバインダー樹脂として用いられることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のポリイミド。
[6]硫化物系固体電解質を用いる全固体二次電池の集電体の被膜として用いられることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のポリイミド。
[7]硫黄原子を含む硫化物系固体電解質の存在下で使用されるポリイミドを形成するためのポリアミド酸であって、
テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位と、ジアミンに由来する構造単位とからなる繰り返し単位から構成され、1モル当たりの該繰り返し単位中に硫黄原子を10モル%~200モル%含有することを特徴とするポリアミド酸。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリイミドは、硫化物系固体電解質を用いる全固体二次電池の構成材料として使用しても、当該硫化物による腐食を防止することができる。しかも、耐熱性、酸化又は加水分解のような化学変化に対する耐久性、柔軟性、機械的特性及び電気的特性に優れていることから、とくに、包装材料や、電極用のバインダー樹脂や、集電体用の被膜の用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
[ポリイミド]
本発明のポリイミドは、硫黄原子を含む硫化物系固体電解質の存在下で好適に使用される。とくに、当該硫化物系固体電解質〔例えば、Li2S-P2S5系、LGPS(Li、Ge、P、S)系等〕を使用する全固体二次電池において、当該硫化物系固体電解質と接触するような構成材料において使用される。このような構成材料としては、後述するが、例えば、包装材料、電極用のバインダー樹脂や、集電体用の被膜などとしての用途であることが好ましい。
【0016】
<ポリイミドの構成成分>
このような用途に好適な本発明のポリイミドの基本的な構造としては、既知のとおり、テトラカルボン酸二無水物(以下、単に「酸無水物」ということがある)に由来する構造単位(以下、「構造単位A」ということがある)と、ジアミンに由来する構造単位(以下、「構造単位B」ということがある)とを有し、当該1つの構造単位Aと1つの構造単位Bとが連結されたものを、1つの繰り返し単位としてみた場合に、その繰り返し単位の重合物から構成される。ポリイミドの当該繰り返し単位は以下の一般式(化学式1)で表すことができる。
【0017】
[化学式1]
【化1】
(上記式中、R
1は4価のテトラカルボン酸残基であり、R
2は2価のジアミン残基である。)
【0018】
そして、本発明においては、ポリイミドの分子骨格中に、硫黄原子を所定量含むことを特徴とする。この硫黄原子(又は硫黄原子を含む官能基。以下、単に「硫黄原子」と表記する場合がある)の量については、前記1モル当たりの繰り返し単位中に10モル%~200モル%を含有する。このような範囲の量の硫黄原子を含むことにより、硫化物系固体電解質に対する耐食性を得ることができる。より耐食性を向上させるためには、好ましくは、30モル%~200モル%、さらに好ましくは、50モル%~200モル%である。すなわち、本発明のポリイミドにおいては、前記の1つの繰り返し単位中のうち、構造単位A(化学式1のR1)と構造単位B(化学式1のR2)とに1つずつの硫黄原子を含むことができ、仮に、繰り返し単位の全てに2つずつの硫黄原子を含んだ場合には、前記の量は200モル%となるが、これに限定されない。すなわち、上記の量を満たせば、硫黄原子は構造単位A(化学式1のR1)と構造単位B(化学式1のR2)とのいずれかに含有されてもよく、両方の構造単位に含有されてもよい。なお、上記の数値範囲を満足するものであれば、硫黄原子を含まない繰り返し単位を含んでもよい。
【0019】
本発明のポリイミドが、上記のとおり硫黄原子を含むことにより硫化物系固体電解質に対する耐食性を得ることができる機序としては、必ずしも定かではないものの、ポリイミドの分子骨格中に所定量の硫黄原子が導入されることにより、微量の水分によって硫化物系固体電解質から発生する硫化水素に対して化学的に安定性を有することが、その要因であると推測される。
【0020】
ここで、ポリイミド骨格中に含まれる硫黄原子については、硫黄原子のみから構成される官能基だけでなく、硫黄原子と他の原子とを含む官能基の形態でもよい。このような官能基としては、例えば、スルフィド(-S-)、スルホキシド〔-S(O)-〕、スルホン〔-S(O)2-〕、チオフェン、チオフェンスルホンなどの形態をとり得る。
【0021】
構造単位Aを構成する硫黄原子を含むテトラカルボン酸二無水物としては、特に制限されるものではないが、例えば、3,3’,4,4’ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物などを用いることができる。
【0022】
なお、構造単位Aとしては、硫黄原子を含まないテトラカルボン酸二無水物を用いてもよく、ポリイミドに通常用いられる既知のテトラカルボン酸二無水物を制限なく用いることができる。
例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、4,4’-オキシジフタル酸ニ無水物(ODPA)、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ジフェニルエーテル二無水物、ビス{3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェノキシ}ピロメリット酸二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ベンゼン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}、ビス(ジカルボキシフェノキシ)トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、2,2-ビス{(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’’,4,4’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’’,3,3’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’’,4’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(ヘプタフルオロプロピル)ピロメリット酸二無水物、ペンタフルオロエチルピロメリット酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシビフェニル二無水物、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシビフェニル二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシベンゾフェノン二無水物、トリフルオロメチルベンゼン二無水物等が挙げられる。
【0023】
他方、構造単位Bを構成する硫黄原子を含むジアミンとしては、特に制限されるものではないが、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、3,7-ジアミノ-2,8-ジメチルベンゾチオフェンスルホン等を用いることができる。
【0024】
なお、構造単位Bについても、硫黄原子を含まないジアミン化合物を用いてもよく、ポリイミドに通常用いられる既知のジアミン化合物を制限なく用いることができる。
例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)、2,2’-ジフルオロー4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジフルオロー4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-DAPE)、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、又は1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンが挙げられる。より好ましくは、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-DAPE)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、又は1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3’-ジアミノ-p-テルフェニル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール等が挙げられる。
【0025】
<その他の成分>
本発明のポリイミドは、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、必要に応じ、無機フィラーを含有してもよい。具体的には、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、カーボン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
<ポリイミドの厚み>
本発明のポリイミドの厚みは、用途に応じて適宜調整することができるが、通常5μm以上50μm以下程度とすることが好適である。このような厚みであれば、全固体二次電池の構成材料として広く用いることができるとともに、薄すぎる場合の破損や、厚すぎる場合に、例えば集電体被膜としての用途の際に電気抵抗値の低下を防止することができる。
【0027】
<1%熱重量減少温度Td1>
また、本発明のポリイミドは、モノマーの種類、モル比、重量平均分子量等を変えることで、耐熱性に優れたものとすることが好ましい。特に、電池使用環境や、或いは、電池構成材料として成形を行う際において160℃以上の熱処理を行っても分解しにくいものとすることが好適である。この分解のしにくさの指標として、1%熱重量減少温度(Td1)が挙げられる。これが高いほど、高温の熱処理でも分解に起因する重量減少が起こりにくいと言える。逆にTd1が低いほど、高温の熱処理により分解に起因する重量減少が起こりやすいと言える。より好ましくは、Td1が400℃以上であり、さらに好ましくは430℃以上である。
【0028】
<ガラス転移温度Tg>
また、本発明のポリイミドは、モノマーの種類、モル比、重量平均分子量等を適正化することで、ガラス転移温度Tgが150℃以上であることが好ましい。このようにすることで、特に、電池使用環境や、或いは、電池構成材料として成形等の際に熱処理を行う場合でも、ポリイミドが変質しにくく、寸法変化も起こりづらいという長所がある。例えば電極用のバインダー樹脂又は集電体被膜として用いられる場合は、ガラス転移温度Tgとしてはより好ましくは200℃以上であり、さらに好ましくは250℃以上であり、さらにより好ましくは300℃以上である。
一方、全固体二次電池の包装材料として用いられる場合は、ラミネート形成しやすいように、最表面のポリイミド層を形成するポリイミドのガラス転移温度Tgとしてはより好ましくは150℃~300℃であり、さらに好ましくは150~250℃であり、さらにより好ましくは160℃~220℃である。
【0029】
<貯蔵弾性率>
また、本発明のポリイミドは、モノマーの種類、モル比、重量平均分子量等を適正化することで、温度上昇に伴って貯蔵弾性率が変化するものであってもよい。このような特性により、熱圧着時の内部応力の緩和や寸法安定性を保持することができると考えられる。熱圧着面ポリイミドは、ラミネート加工時に貯蔵弾性率が低いほうが圧着しやすい。硫化物系固体電解質を用いる全固体二次電池の包装材料として用いられる場合は、最表面にあるポリイミドは、300℃での動的熱機械分析(DMA)による貯蔵弾性率が、好ましくは、1.0GPa以下であることが良く、より好ましくは0.05GPa以下である。
また、長期使用温度においては、緩和が起こらないことが望ましい。好ましくは、150℃での貯蔵弾性率が、1.0GPa以上であることがよく、より好ましくは、2.0GPa以上である。
【0030】
<引張伸度、引張強度、引張弾性率>
本発明のポリイミドは、モノマーの種類、モル比、重量平均分子量等を適正化することで、引張伸度、引張強度、引張弾性率を調整することが好ましい。全固体電池の構成材料として要求は異なるものの、通常、引張伸度が5%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上である。また、引張強度が50MPa以上であることが好ましく、より好ましくは100MPa以上である。さらに、引張弾性率が1GPa以上であることが好ましく、より好ましくは3GPa以上である。このような特性を満足すれば、ポリイミドとして成形する際や、或いは、電池使用環境下においても破損などはなく、折り曲げ性にも優れている。
【0031】
<熱膨張係数(CTE)>
本発明のポリイミドは、モノマーの種類、モル比、重量平均分子量等を適正化することで、CTEが100ppm/K以下であることが好ましく、より好ましくは60ppm/K以下であり、さらに好ましくは30ppm/K以下がよい。下限については特に制限は無いが、寸法安定性の観点から-10ppm/K以上が好ましい。これに関連して、後述の実施例で評価するような積層体とした場合の「反り」が少ないことが好ましく、反りの好ましい数値範囲は±7mm以内であり、より好ましくは±5mm以内である。
【0032】
<引き裂き伝搬抵抗>
本発明のポリイミドは、モノマーの種類、モル比、重量平均分子量等を適正化することで、引き裂き伝播抵抗が1.0kN/m以上であることが好ましい。より好ましくは1.5kN/m以上であり、さらに好ましくは2.0kN/m以上である。このような特性により、電池使用環境や、或いは、電池構成材料として成形等の際にポリイミドが破断する恐れなどを防止することができる。
【0033】
<接着強度(ピール強度)>
本発明のポリイミドは、モノマーの種類、モル比、重量平均分子量等を適正化することで、積層体〔例えば、金属箔(銅箔、ステンレス箔)との積層体〕における接着強度(ピール強度)が0.1kN/m以上であることが好ましい。より好ましくは0.15kN/m以上であり、さらに好ましくは0.20kN/m以上である。このような特性により、とくに金属箔の被膜などとして用いる際にポリイミドの剥がれなどを防止することができる。
【0034】
[ポリイミドの製造方法、ポリアミド酸]
<ポリイミドの合成方法>
次に、ポリイミドの合成方法について説明する。
本発明のポリイミドは、上記した所定の酸無水物及びジアミンを溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。このように製造される本発明に係るポリアミド酸は、前記したポリイミドと同様の硫黄原子量を有し、テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位と、ジアミンに由来する構造単位とからなる繰り返し単位から構成される1モル当たりの該繰り返し単位中に硫黄原子を10モル%~200モル%、好ましくは30モル%~200モル%、さらに好ましくは50モル%~100モル%含有する。ポリアミド酸の当該繰り返し単位は以下の一般式(化学式2)で表すことができる。
【0035】
[化学式2]
【化2】
(上記式中、R
1は4価のテトラカルボン酸残基であり、R
2は2価のジアミン残基である。)
【0036】
例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~30重量%の範囲内、好ましくは10~20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチル-2-ピロリドン、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、γ‐プチロラクトン等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶剤の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0037】
ポリイミドの合成において、上記酸無水物及びジアミンはそれぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。酸無水物及びジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度等を制御することができる。
【0038】
また、末端封止剤を用いてもよい。末端封止剤としてはモノアミン類あるいはジカルボン酸類が好ましい。導入される末端封止剤の仕込み量としては、酸無水物成分1モルに対して0.0001~0.1モルが好ましく、特に0.001~0.05モルが好ましい。モノアミン類末端封止剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、4-メチルベンジルアミン、4-エチルベンジルアミン、4-ドデシルベンジルアミン、3-メチルベンジルアミン、アニリン、4-メチルアニリン等が推奨される。これらのうち、ベンジルアミン、アニリンが好適に使用できる。ジカルボン酸類末端封止剤としては、ジカルボン酸類が好ましく、その一部を閉環していてもよい。例えば、フタル酸、無水フタル酸、4-クロロフタル酸、テトラフルオロフタル酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等が推奨される。これらのうち、フタル酸、無水フタル酸が好適に使用できる。
【0039】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で30分~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0040】
ポリアミド酸の重量平均分子量は、例えば10,000~1,000,000の範囲内が好ましく、50,000~500,000の範囲内がより好ましい。この重量平均分子量の範囲内であれば、フィルムの強度の低下を防止したり、過度に粘度が増加して塗工作業の際の厚みムラ、スジ等の不良の発生を防止できる。
【0041】
<ポリイミドの形成方法>
本発明のポリイミドの形成方法については、使用する用途や形態に応じて適宜選択できるものであり特に限定されないが、例えば、全固体二次電池の包装材料や、集電体の被膜に適用する場合には、ポリイミドフィルムを形成させることが好適である。ポリイミドフィルムとして得る場合には、例えば、[1]ガラス、金属箔(銅箔、ステンレス箔等)、ポリイミドフィルム等の用途に応じた支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、イミド化してポリイミドの樹脂フィルムを製造する方法(以下、キャスト法)、[2]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、イミド化してポリイミドの樹脂フィルムを製造する方法などが挙げられる。また、複数のポリイミド層からなる場合、その製造方法の態様としては、例えば、[3]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥することを複数回繰り返した後、イミド化を行う方法(以下、逐次塗工法)、[4]支持基材に、多層押出により、同時にポリアミド酸の積層構造体を塗布・乾燥した後、イミド化を行う方法(以下、多層押出法)などが挙げられる。ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ、スピン等のコーターにて塗布することが可能である。多層のポリイミド層の形成に際しては、ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材に塗布、乾燥する操作を繰り返す方法が好ましい。
【0042】
<導体層>
本発明のポリイミドは、全固体二次電池の包装材料や、集電体の被膜に適用する場合には、導体層との積層体として用いられることが望ましい。例えば、このような積層体における導体層の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば銅、ステンレス、鉄、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、包装材料用にはステンレス、集電体には銅が好ましい。
【0043】
導体層の厚みは特に限定されるものではないが、好ましくは5~50μmの範囲内、より好ましくは5~20μmの範囲内がよい。
【0044】
導体層に金属層を適用した金属張積層体の場合は、例えば本実施の形態のポリイミドを含んで構成される樹脂フィルムを用意し、これに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えばメッキによって金属層を形成することによって調製してもよい。
【0045】
また、導体層に金属層を適用した金属張積層体の場合は、本実施の形態のポリイミドを含んで構成される樹脂フィルムを用意し、これに金属箔を熱圧着などの方法でラミネートすることによって調製してもよい。
【0046】
導体層に金属層を適用した金属張積層体の場合は、樹脂フィルムと金属層の接着性を高めるために、樹脂フィルムの表面を例えばプラズマ処理などの改質処理を施してもよい。
【0047】
さらに、導体層に金属層を適用した金属張積層体の場合は、金属層の上に本実施の形態のポリアミド酸を含有する塗布液をキャストし、乾燥して塗布膜とした後、熱処理してイミド化し、ポリイミド層を形成する方法(キャスト法)によって調製してもよい。なお、本実施の形態のポリアミド酸を含有する塗布液は、金属層の上に直接にキャストしてもよいし、他のポリアミド酸を含有する塗布膜を形成した後にキャストしてもよい。
【0048】
キャスト法では、ポリアミド酸の樹脂層が金属箔に固定された状態でイミド化されるので、イミド化過程におけるポリイミド層の伸縮変化を抑制して、搬送方向(MD方向)と幅方向(TD方向)の異方性を低減することができるので、好ましい実施形態となる。
【0049】
本発明のポリイミドは複数層のポリイミドからなることは可能である。その場合は、導体-ポリイミド積層体の寸法安定性と耐熱性を維持するために、真ん中のポリイミド層はガラス転移温度が高く、導体層との接着性を向上させるために、金属と接触するポリイミド層はガラス転移温度が低いことが好ましい。
【0050】
また、本発明のポリイミドを電極用のバインダーとして用いる場合は次のように製造する。すなわち、特に制限はされないが、通常は、ポリアミド酸の状態で、電極活物質、溶媒、その他必要な添加剤と分散混合させて、電極活物質層を形成するための組成物とされる。具体的には、電極活物質とポリアミド酸とを所定の比率で溶媒に混錬してスラリー状の組成物とし、それを集電体に所望の厚みとなるように均一に塗布し、その後不活性雰囲気下で熱処理してイミド化し、集電体上に活物質層として形成する。その後、乾燥し、所定の電極密度になるようにプレスして、所望の厚みの電極シートとして作製することができる。
【0051】
[全固体二次電池の構成材料としての用途]
本発明のポリイミドの、全固体二次電池の構成材料としての好適な用途は以下のとおりであるが、これらに限定されない。
<包装材料>
リチウムイオン二次電池やキャパシタなどの蓄電素子のケースとしては、円筒缶や角型缶のような缶タイプのものに加えて、ソフトな材料(ラミネートパウチ)を用いてパッキングするような、通常ラミネート形と呼ばれるものが採用されている。そして、本発明のポリイミドを全固体二次電池の包装材料(外装材)として用いようとする場合、特に制限はされないが、金属箔とラミネートしたラミネートフィルムとして用いることができる。金属箔としては、例えば、アルミニウム、ステンレスなどが用いられる。製造方法としては、例えば、金属箔に対してポリイミドをコーティングして金属箔とポリイミド樹脂とをラミネートした後に、全固体二次電池を真ん中に置き、ポリイミド面を張り合わせるように、上下の2枚金属積層体をラミネートする。なお、金属箔とポリイミドフィルムの層以外の層や素材を設けることもできる。本発明のポリイミドをこのような用途に適用する場合には、好適には、厚みが15~35μm程度であって、特性としては特にプレス成形性が良好であることが好ましく、それを達成するようなポリイミドの物性値としてガラス転移温度が150℃以上、150℃での貯蔵弾性率が1GPa以上、ラミネート面のポリイミドは300℃での貯蔵弾性率が0.05GPaであることが望ましいが、本用途に要求される特性に応じて適宜変更可能である。
【0052】
<電極用のバインダー樹脂>
本発明のポリイミドは、全固体二次電池の電極活物質のバインダー樹脂として用いることができる。好適には、カーボンとの接着性があり、樹脂としての耐熱性が高いとの理由から負極活物質層に用いることがよい。製造方法は上記したとおり、ポリアミド酸の状態で、電極活物質、溶媒、その他必要な添加剤と分散混合させ電極活物質層を形成するためのスラリー状の組成物とし、それを集電体に所望の厚みとなるように均一に塗布し、その後不活性雰囲気下で熱処理してイミド化し、集電体上に活物質層として形成する。その後、乾燥し、所定の電極密度になるようにプレスして、所望の厚みの電極シートとして作製することができる。集電体や電極活物質としては、正極、負極共に既知のものを制限なく用いることができる。例えば負極に用いる場合、負極集電体として銅箔を用い、また、負極活物質としてはカーボンを用いて、これらを溶媒であるDMAcやNMPなどの非プロトン性極性溶剤に混錬し、これを銅箔上に厚みが5~50μm程度となるように均一に塗布し、その後不活性雰囲気下で、例えば温度360℃で30分間イミド化し、銅箔上に負極活物質層として形成することできる。このような用途の場合、特性としては特に負極活物質との混合性があることが好ましく、それを達成するようなポリイミドの物性値としてTd1が400℃以上、引張伸度が10%以上であることが望ましいが、本用途に要求される特性に応じて適宜変更可能である。
【0053】
<集電体の被膜>
さらに、本発明のポリイミドは、全固体二次電池の集電体、特に負極である銅箔の腐食を防止するための被膜として用いることができる。前記特許文献1のとおり、腐食防止のために従来ではニッケルメッキなどが行われているが、メッキの構成が増えることと、さらには、硫化物系固体電解質を用いる電池使用環境下においては腐食や剥がれなどが懸念されることから、本発明のポリイミドを適用して解決を図ることができる。銅箔上に本発明のポリイミド被膜を形成する方法としては、前記した金属張積層体のように特に制限はされないが、銅箔の上にポリアミド酸(ポリイミド前駆体)のワニスを塗工し硬化させる方法(キャスト法)や、銅箔とポリイミドフィルムをラミネートすることで積層させる方法(ラミネート法)が挙げられるが、接着性の観点からキャスト法が好ましい。なお、ポリイミドには、カーボンなどの充填材を用いることもできる。このような用途の場合、特性としては特に銅箔からの剥離が起こらないことや、反りが起こらないものであることが好ましく、それを達成するようなポリイミドの物性値として接着強度が0.1kN/m以上であり、ポリイミドと銅箔の反りが1mm以下と少ない数値であることが望ましいが、本用途に要求される特性に応じて適宜変更可能である。
【実施例0054】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0055】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
ポリイミドフィルム(3mm×15mm)を、熱機械分析(TMA)装置にて5.0gの荷重を加えながら10℃/minの昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、次いで降温し、降温時における250℃から100℃までのポリイミドフィルムの伸び量(線膨張)から熱膨張係数を測定した。
【0056】
[熱重量減少温度(Td1、Td5)の測定]
窒素雰囲気下で10~20mgの重さのポリイミドフィルムを、SEIKO社製の熱重量分析(TG)装置TG/DTA6200にて一定の速度で30℃から550℃まで昇温させたときの重量変化を測定し、200℃での重量をゼロとし、重量減少率が1%と5%の時の温度をそれぞれ熱重量減少温度(Td1とTd5)とした。
【0057】
[粘度の測定]
粘度は、恒温水槽付のコーンプレート式粘度計(トキメック社製)にて、合成例で得られたポリアミド酸溶液について25℃で測定した。
【0058】
[重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー株式会社製、商品名;HLC-8220GPC)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にはN,N-ジメチルアセトアミドを用いた。
【0059】
[ガラス転移温度(Tg)、貯蔵弾性率の測定]
ポリイミドフィルム(10mm×22.6mm)を動的熱機械分析装置(DMA)にて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、ガラス転移温度(Tanδ極大値:℃)と、所定温度における貯蔵弾性率を求めた。
【0060】
[ピール強度の測定]
テンションテスターを用い、積層体から得られた幅1mmの回路パターンを有する試験サンプルの樹脂側を両面テープによりアルミ板に固定し、銅を180°方向に50mm/minの速度で剥離して、ピール強度を求めた。
【0061】
[引張弾性率、引張伸度、引張強度の測定]
ポリイミドフィルム(10mm×15cm)の試験片を準備し、テンシロン万能試験機(オリエンテック株式会社製、RTA-250)を用い、引張速度10mm/minで、温度23℃、相対湿度50%RHの環境下で引張試験を行い、フィルムの引張弾性率(以下、単に「弾性率」と記載することがある)、引張伸度、引張強度を算出した。
【0062】
[引き裂き伝播抵抗の測定]
ポリイミドフィルム(63.5mm×50mm)の試験片を準備し、試験片に長さ12.7mmの切り込みを入れ、軽荷重引裂き試験機(東洋精機社製)を用いて室温で引き裂き伝播抵抗値を測定した。測定した引き裂き伝播抵抗値は、単位厚み当たりの抵抗値(kN/m)として表した。
【0063】
[積層体反りの測定]
反りは、50mm×50mmのサイズのサンプルを23℃、湿度50%下で、20時間調湿後、サンプルのポリイミド側を上、金属箔を下になるように静置し、サンプルの4角の静置面からの浮き上がりの距離を計測し、その最大値を反り量とした。反り量が10mmを超える場合は、カールとし、10mm以下となる場合は、〇とした。また、ポリイミド側に反りが発生する場合は、「+」とし、金属箔側に反りが発生する場合は、「-」とした。
【0064】
実施例等に用いた略号は、以下の化合物を示す。
APB:1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン
m-TB:2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル
BAPS:ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
BAPP:2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DSDA:3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸ニ無水物
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸二無水物
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
【0065】
合成例1~11
ポリアミド酸溶液A~Kを合成するため、窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコの中に、表1で示した固形分濃度となるように溶剤のDMAcを加え、表1に示したジアミン成分及び酸無水物成分を添加し、室温で24時間攪拌し、重合反応を行い、ポリアミド酸の粘稠な溶液A~Kを調製した。
【0066】
【0067】
[実施例1]
銅箔1(電解銅箔、福田金属箔粉工業社製UE箔、厚み;12μm)の上に、ポリアミド酸溶液A(粘度;31000cps)を硬化後の厚みが23μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。続いて、130℃から360℃まで段階的な熱処理を40分かけて行い、イミド化を完結し、ポリイミド層Aからなる厚みが23μmのポリイミド層1を形成し、金属張積層体1(以下、単に「積層体1」ということがある)を調製した。金属張積層体1におけるピール強度は、0.4kN/mであった。
【0068】
塩化第二鉄水溶液を用いて、銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム1を調製した。ポリイミドフィルム1について、各物性を測定した。これらの測定結果を表2に示す。
【0069】
[実施例2~9、比較例1,2]
実施例1と同様に、金属張積層体2~11を調製するため、表2で示したように、ポリアミド酸の種類を変えて、ポリイミド層2~11を形成し、金属張積層体2~11を調製した。金属張積層体2~11のピール強度を測定した。
【0070】
塩化第二鉄水溶液を用いて、金属張積層体2~11の銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム2~11を調製した。各ポリイミドフィルムの測定結果を表2~4に示す。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
[実施例10]
金属箔2(ステレンス箔304、厚み;15μm)の上に、ポリアミド酸溶液Aの希釈溶液(粘度;3000cP)を硬化後の厚みが1.5μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。次に、その上にポリアミド酸溶液G(粘度;15600cP)を硬化後の厚みが17μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液Cの希釈溶液(粘度;3000cP)を硬化後の厚みが1.5μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。このようにして、3層のポリアミド酸層を形成した後、120℃から360℃まで段階的な熱処理を40分かけて行い、イミド化を完結し、ポリイミド層A/ポリイミド層G/ポリイミド層Cからなる厚みが20μmのポリイミド層10を形成し、金属張積層体10を調製した。金属張積層体10におけるピール強度は、0.4kN/mであった。積層体の反りが0.7mmで良好であった。この積層体は300℃でラミネートにより積層可能である。
【0075】
[実施例11]
金属箔2(ステレンス箔304、厚み;15μm)の上に、ポリアミド酸溶液Dの希釈溶液(粘度;3000cP)を硬化後の厚みが1.5μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。次に、その上にポリアミド酸溶液Fの希釈溶液(粘度;20000cPを硬化後の厚みが17μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液Eの希釈溶液(粘度;3000cP)を硬化後の厚みが1.5μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。このようにして、3層のポリアミド酸層を形成した後、120℃から360℃まで段階的な熱処理を40分かけて行い、イミド化を完結し、ポリイミド層D/ポリイミド層F/ポリイミド層Eからなる厚みが20μmのポリイミド層11を形成し、金属張積層体11を調製した。金属張積層体11におけるピール強度は、0.5kN/mであった。積層体の反りが1.5mmで良好であった。この積層体は200℃でラミネートにより積層可能である。
【0076】
比較例1と比較例2と比べると、硫黄原子を含有するポリイミドは、硫化物を有する環境下において、硫化物耐食性を有し、長期信頼性を持つ。実施例6~9は、ガラス転移温度が350℃以上を有し、高温環境中にも使用可能である。実施例1~5は、金属との接着強度を保持しながら、300℃以下の温度でラミネートが可能であり、包装材料の製作にも好適である。更に、実施例10~11は、積層体の反りが良好の状態を保ちながら、高い温度で使用できると同時に、低い温度でラミネートが可能である。