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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066061
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】複層延伸フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/04 20060101AFI20230508BHJP
   B32B 7/035 20190101ALI20230508BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20230508BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20230508BHJP
   B65H 20/00 20060101ALI20230508BHJP
   B65H 23/02 20060101ALI20230508BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20230508BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20230508BHJP
【FI】
B29C55/04
B32B7/035
B32B7/12
B29C48/08
B65H20/00 Z
B65H23/02
B29K23:00
B29L9:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176553
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 拓也
【テーマコード(参考)】
3F103
3F104
4F100
4F207
4F210
【Fターム(参考)】
3F103AA03
3F103EA15
3F104AA03
3F104JC07
3F104KA05
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AR00A
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100AR00G
4F100AT00
4F100AT002
4F100EC182
4F100EH462
4F100EH46G
4F100EJ191
4F100EJ192
4F100EJ362
4F100EJ363
4F100EJ372
4F100EJ373
4F100EJ943
4F100EJ952
4F100EJ953
4F100EK012
4F100EK062
4F207AA12
4F207AG01
4F207AH73
4F207KA01
4F207KA17
4F210AA12
4F210AC03
4F210AD11
4F210AD32
4F210AG01
4F210AG03
4F210AH73
4F210AJ08
4F210AK03
4F210QC01
4F210QD08
4F210QD21
4F210QG01
4F210QG15
4F210QG18
4F210QW36
4F210QW50
(57)【要約】
【課題】斜め方向に配向角を有する複層延伸フィルムであって、配向角の変動が少なく、且つ、巻回体とした際に、ゲージバンド及び横ダン等の、連続的な厚みムラに起因する不具合が抑制されるフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】基材層と、その一方又は両方の表面に設けられた樹脂層とを備える、複層延伸フィルムの製造方法であって、前記製造方法は、上流から下流へ、長尺状の被搬送物を搬送する搬送経路において、前記被搬送物に順次処理を施すことを含み、斜め延伸処理(t2)より上流において、前記被搬送物を、その幅手方向にオシレートさせる第1のオシレーション工程(Os1)と、前記第1のオシレーション工程(Os1)によりオシレートされた状態の前記被搬送物の幅手方向両端部をトリミングする、第1のトリミング工程(Tr1)とを含む、製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、その一方又は両方の表面に設けられた樹脂層とを備える、複層延伸フィルムの製造方法であって、
前記製造方法は、上流から下流へ、長尺状の被搬送物を搬送する搬送経路において、前記被搬送物に順次処理を施すことを含み、
前記被搬送物は、延伸前基材フィルムを備える被搬送物(p1)、前記被搬送物(p1)及びその一方又は両方の表面に設けられた延伸前樹脂層を備える被搬送物(p2)、及び前記被搬送物(p2)を延伸してなる被搬送物(p3)を含み、
前記処理は、
前記被搬送物(p1)の表面に、樹脂材料を塗布して延伸前樹脂層を形成し、前記被搬送物(p2)を得る処理(t1)と、
前記被搬送物(p2)を斜め延伸し、前記延伸前基材フィルムの延伸物である基材層と、前記延伸前樹脂層の延伸物である樹脂層とを備える被搬送物(p3)を得る処理(t2)とを含み、
前記製造方法はさらに、
前記処理(t2)より上流において、前記被搬送物を、その幅手方向にオシレートさせる第1のオシレーション工程(Os1)と、
前記第1のオシレーション工程(Os1)によりオシレートされた状態の前記被搬送物の幅手方向両端部をトリミングする、第1のトリミング工程(Tr1)と、
前記処理(t2)より下流において、前記被搬送物をロール状に巻き取って前記被搬送物の巻回体(R1)を得る、巻回工程(W1)とをさらに含む、製造方法。
【請求項2】
前記第1のオシレーション工程(Os1)が、前記処理(t1)より下流で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1のオシレーション工程(Os1)が、前記処理(t1)より上流で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記処理(t2)より下流であり且つ前記巻回工程(W1)より上流において、前記被搬送物を、その幅手方向にオシレートさせる第2のオシレーション工程(Os2)と、
前記第2のオシレーション工程によりオシレートされた状態の前記被搬送物の幅手方向両端部をトリミングする、第2のトリミング工程(Tr2)とをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記延伸前基材フィルムを、溶融押出成形法により形成し、前記処理(t1)に供給することをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記処理(t1)を、前記被搬送物(p1)の両面のそれぞれに対して行い、
前記複層延伸フィルムとして、前記基材層と、その両方の表面に設けられた一対の樹脂層とを備える複層延伸フィルムを得る、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
複数回の前記処理(t1)のうちの一部を前記第1のオシレーション工程(Os1)より上流で行い、他の一部を前記第1のオシレーション工程(Os1)より下流で行う、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第1のトリミング工程(Tr1)の下流であって且つ前記処理(t2)より上流において、前記被搬送物をロール状に巻き取って被搬送物の巻回体(R2)を得る、巻回工程(W2)と、
前記巻回工程(W2)により得られた前記巻回体(R2)から前記被搬送物を巻き出し、前記処理(t2)に供する巻き出し工程とをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の層を備える複層延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルム等のフィルムは、通常、製造効率の向上のため、長尺のフィルムとして製造される。さらに、ある種の長尺の光学フィルムは、所望の光学特性を発現するため、斜め方向、すなわち長尺のフィルムの幅手方向に対する角度が0°超90°未満の方向に配向角を有することが求められる。このような長尺の光学フィルムは、溶融押出成形法、溶液キャスト法等の方法により連続的に製造され、さらに、斜め延伸等の処理が施され、その後、ロール状に巻き取られ巻回体にされ、この巻回体の状態で保存及び運搬されるのが一般的である。斜め延伸の例としては、従来より様々な方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-55603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように斜め延伸を含む製造方法で、長尺の光学フィルムを製造した場合、得られるフィルムに連続的な厚みムラが形成されることがある。例えば、フィルムの幅方向のある位置において相対的に厚い部分が、フィルムの長手方向に連続的に形成され、フィルムの幅方向の別のある位置において相対的に薄い部分が、フィルムの長手方向に連続的に形成される、という現象が起こりうる。このような連続的な厚みムラがあるフィルムを巻回体とした場合、厚い部分が重なった状態で巻回されることにより、厚い部分に相当する位置に、ゲージバンドと呼ばれる、帯状に盛り上がった、径の太い部分が発生しうる。一方、薄い部分に相当する位置は、巻回が潰れた状態となることため、巻回体表面に、横ダンと呼ばれる、巻回体の軸方向に略平行な方向に現れるスジが発生しうる。ゲージバンド及び横ダンが存在する状態で巻回体を保存すると、フィルムの変形を招き、光学フィルムとしての品質が低下しうる。そのため、このような不具合を低減することが求められる。また、そのような厚みムラが生じる製造においては、斜め延伸されたフィルムの配向角の変動が大きくなるという不具合も発生しうる。
【0005】
したがって、本発明の目的は、斜め方向に配向角を有する複層延伸フィルムであって、配向角の変動が少なく、且つ、巻回体とした際に、ゲージバンド及び横ダン等の、連続的な厚みムラに起因する不具合が抑制されるフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上述課題を解決するため検討した結果、斜め延伸工程の上流の工程として、
搬送されるフィルムのオシレーションを行い、当該工程と斜め延伸工程とを組み合わせることにより、
前に行うことを着想した。本発明者は、当該着想に基づいてさらに検討した結果、オシレーション及びトリミングを行った後、フィルムを延伸工程に供し、その後巻回工程を行うことにより、斜め方向の配向角の変動を低減させながら、延伸後の巻回における連続的な厚みムラに起因する不具合を抑制しうることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明によれば、下記が提供される。
【0007】
〔1〕 基材層と、その一方又は両方の表面に設けられた樹脂層とを備える、複層延伸フィルムの製造方法であって、
前記製造方法は、上流から下流へ、長尺状の被搬送物を搬送する搬送経路において、前記被搬送物に順次処理を施すことを含み、
前記被搬送物は、延伸前基材フィルムを備える被搬送物(p1)、前記被搬送物(p1)及びその一方又は両方の表面に設けられた延伸前樹脂層を備える被搬送物(p2)、及び前記被搬送物(p2)を延伸してなる被搬送物(p3)を含み、
前記処理は、
前記被搬送物(p1)の表面に、樹脂材料を塗布して延伸前樹脂層を形成し、前記被搬送物(p2)を得る処理(t1)と、
前記被搬送物(p2)を斜め延伸し、前記延伸前基材フィルムの延伸物である基材層と、前記延伸前樹脂層の延伸物である樹脂層とを備える被搬送物(p3)を得る処理(t2)とを含み、
前記製造方法はさらに、
前記処理(t2)より上流において、前記被搬送物を、その幅手方向にオシレートさせる第1のオシレーション工程(Os1)と、
前記第1のオシレーション工程(Os1)によりオシレートされた状態の前記被搬送物の幅手方向両端部をトリミングする、第1のトリミング工程(Tr1)と、
前記処理(t2)より下流において、前記被搬送物をロール状に巻き取って前記被搬送物の巻回体(R1)を得る、巻回工程(W1)とをさらに含む、製造方法。
〔2〕 前記第1のオシレーション工程(Os1)が、前記処理(t1)より下流で行われる、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕 前記第1のオシレーション工程(Os1)が、前記処理(t1)より上流で行われる、〔1〕に記載の製造方法。
〔4〕 前記処理(t2)より下流であり且つ前記巻回工程(W1)より上流において、前記被搬送物を、その幅手方向にオシレートさせる第2のオシレーション工程(Os2)と、
前記第2のオシレーション工程によりオシレートされた状態の前記被搬送物の幅手方向両端部をトリミングする、第2のトリミング工程(Tr2)とをさらに含む、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔5〕 前記延伸前基材フィルムを、溶融押出成形法により形成し、前記処理(t1)に供給することをさらに含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔6〕 前記処理(t1)を、前記被搬送物(p1)の両面のそれぞれに対して行い、
前記複層延伸フィルムとして、前記基材層と、その両方の表面に設けられた一対の樹脂層とを備える複層延伸フィルムを得る、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔7〕 複数回の前記処理(t1)のうちの一部を前記第1のオシレーション工程(Os1)より上流で行い、他の一部を前記第1のオシレーション工程(Os1)より下流で行う、〔6〕に記載の製造方法。
〔8〕 前記第1のトリミング工程(Tr1)の下流であって且つ前記処理(t2)より上流において、前記被搬送物をロール状に巻き取って被搬送物の巻回体(R2)を得る、巻回工程(W2)と、
前記巻回工程(W2)により得られた前記巻回体(R2)から前記被搬送物を巻き出し、前記処理(t2)に供する巻き出し工程とをさらに含む、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、斜め方向に配向角を有する複層延伸フィルムであって、配向角の変動が少なく、且つ、巻回体とした際に、ゲージバンド及び横ダン等の、連続的な厚みムラに起因する不具合が抑制されるフィルムの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の製造方法及びそれに用いる製造装置の一例を模式的に示す側面図である。
図2図2は、本発明の製造方法及びそれに用いる製造装置の別の一例の、上流部分を模式的に示す側面図である。
図3図3は、本発明の製造方法及びそれに用いる製造装置の別の一例の、下流部分を模式的に示す側面図である。
図4図4は、図1に示すトリミング装置(Tr1)130を拡大して示す斜視図である。
図5図5は、図1に示すトリミング装置(Tr1)130を拡大して示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0011】
本願においては、「略平行」の文言は、正確に平行な場合に加えて、例えば±5°程度の誤差を許容しうることを意味する。
【0012】
本願においては、フィルムが搬送される方向を単にMD方向ということがある。長尺のフィルムを搬送する場合、搬送されるフィルムの長手方向はMD方向と一致する。また、装置においてMD方向と直交し、搬送されるフィルム面に平行な方向を、TD方向ということがある。長尺のフィルムを搬送する場合、TD方向は、フィルムの幅方向と一致する。
【0013】
本願において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長尺のフィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0014】
〔複層延伸フィルムの製造方法:概要〕
本発明の製造方法は、基材層と、その一方又は両方の表面に設けられた樹脂層とを備える、複層延伸フィルムの製造方法である。本発明の製造方法は、上流から下流へ、長尺状の被搬送物を搬送する搬送経路において、被搬送物に順次処理を施すことを含む。被搬送物は、延伸前基材フィルムを備える被搬送物(p1)、被搬送物(p1)及びその一方又は両方の表面に設けられた延伸前樹脂層を備える被搬送物(p2)、及び被搬送物(p2)を延伸してなる被搬送物(p3)を含む。
【0015】
すなわち、本発明の製造方法では、長尺状の被搬送物(p1)が搬送経路に導入され、搬送経路において様々な処理を施され、その結果、被搬送物(p2)となり、さらには被搬送物(p3)となる。単に「被搬送物」と述べた場合、それは、搬送経路上の任意の段階の、搬送される材料を意味し、したがって被搬送物(p1)~(p3)又はその他の段階の被搬送物のいずれかに該当する。
【0016】
被搬送物に施される処理は、下記処理(t1)~(t2)を含む。
処理(t1):被搬送物(p1)の表面に、樹脂材料を塗布して延伸前樹脂層を形成し、被搬送物(p2)を得る処理。
処理(t2):被搬送物(p2)を斜め延伸し、延伸前基材フィルムの延伸物である基材層と、延伸前樹脂層の延伸物である樹脂層とを備える被搬送物(p3)を得る処理。
【0017】
本発明の製造方法は、さらに、下記工程(Os1)、(Tr1)及び(W1)を含む。
工程(Os1):処理(t2)より上流において、被搬送物を、その幅手方向にオシレートさせる第1のオシレーション工程。
工程(Tr1):第1のオシレーション工程(Os1)によりオシレートされた状態の被搬送物の幅手方向両端部をトリミングする、第1のトリミング工程。
工程(W1):処理(t2)より下流において、被搬送物をロール状に巻き取って被搬送物の巻回体(R1)を得る、巻回工程。
【0018】
本発明の製造方法は、さらに、下記工程(Os2)、(Tr2)、(W2)又はこれらの組み合わせを含みうる。
工程(Os2):処理(t2)より下流であり且つ巻回工程(W1)より上流において、被搬送物を、その幅手方向にオシレートさせる第2のオシレーション工程。
工程(Tr2):第2のオシレーション工程によりオシレートされた状態の被搬送物の幅手方向両端部をトリミングする、第2のトリミング工程。
工程(W2):第1のトリミング工程(Tr1)の下流であって且つ処理(t2)より上流において、被搬送物をロール状に巻き取って被搬送物の巻回体(R2)を得る、巻回工程。工程(W2)を行った場合、それにより得られた巻回体(R2)から被搬送物を巻き出し、処理(t2)に供する、巻き出し工程をさらに行う。
【0019】
図1は、本発明の製造方法及びそれに用いる製造装置の一例を模式的に示す側面図である。以下においては説明の便宜のため、処理(t1)~(t2)及び工程(Os1)、(Tr1)及び(W1)のそれぞれを行う装置には、処理を示す符号と同じ符号を付して説明することがある。
【0020】
図1において、製造装置100は、搬送経路の上流から順に、溶融押出成形機110、オシレーション装置(Os1)120、トリミング装置(Tr1)130、延伸前樹脂層形成装置(t1)140、斜め延伸装置150、トリミング装置(Tr2)160、及び巻回装置(W1)170を含む。
【0021】
〔複層延伸フィルム:基材層及び樹脂層〕
本発明の製造方法により製造される複層延伸フィルムは、基材層及び樹脂層を備える。
基材層を構成する材料としては、長尺のフィルムとした場合に搬送及び延伸に供しうる機械的強度を発現しうる材料を採用しうる。複層延伸フィルムとして光学的機能を発現しうるフィルムを製造する場合、延伸により所望の光学的機能を発現しうる材料を使用しうる。
【0022】
樹脂層を構成する材料は、基材層とは異なる材料である。樹脂層を構成する材料としては、基材層に、付加的な機能を付与しうる材料を適宜選択して採用しうる。例えば、基材層に易滑性及び易接着性等の機械的機能を付与する材料、追加的な光学的機能を付与する材料等を採用しうる。特に好ましい例としては、重合性材料と粒子との混合物を樹脂材料として採用し、かかる樹脂材料を処理(t1)において塗布した後、重合性材料を硬化させ、重合体と粒子とを含む層として形成された樹脂層が挙げられる。
【0023】
基材層及び樹脂層を構成する材料の、より具体的な例は、後に詳述する。
【0024】
〔被搬送物(p1)の供給〕
本発明の製造方法に供する被搬送物(p1)は、延伸前基材フィルムを備える。延伸前基材フィルムは、延伸及びその他の本発明の製造方法の工程に供することにより基材層を構成しうるフィルムである。
【0025】
被搬送物(p1)は、延伸前基材フィルムの層に加えて任意の層を有するフィルムであってもよく、延伸前基材フィルムのみからなってもよい。また、延伸前基材フィルムは、単独の層からなるフィルムであってもよく、二層以上の層を備える複層フィルムであってもよい。
【0026】
被搬送物(p1)は、長尺状の形状を有するフィルムである。被搬送物(p1)の幅及び厚みは、得られる複層延伸フィルムが所望の寸法を有するものとなるよう適宜調整しうる。通常の場合、被搬送物(p1)の厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下としうる。被搬送物の幅は、100mm以上2000mm以下としうる。
【0027】
本発明の製造方法に供する被搬送物(p1)の、具体的な供給の方法は、特に限定されず、任意の供給方法を採用しうる。具体的には、被搬送物(p1)の供給は、あらかじめ調製した被搬送物(p1)のフィルムロールから、被搬送物(p1)を巻き出すことにより行ってもよく、被搬送物(p1)を連続的に形成し、それをそのまま供給してもよい。
【0028】
図1の例では、搬送経路の上流において、溶融押出成形機110により、被搬送物(p1)を連続的に形成し、それを搬送経路に供給している。具体的には、溶融押出成形機110は、Tダイ111及びキャスティングドラム112を備え、Tダイ111から溶融状態の樹脂を長尺状のフィルムの形状で吐出させ、それをキャスティングドラム112で冷却し、矢印A1方向に搬送することにより、溶融樹脂の硬化物である延伸前基材フィルムからなる被搬送物(p1)21を連続的に形成し搬送経路に供給している。このような連続的な被搬送物(p1)の形成及び供給を行うことにより、効率的な製造が可能となる。加えて、このようなダイを用いた連続的な形成を行った場合、フィルムの幅方向のある位置において相対的に厚い部分がフィルムの長手方向に連続的に形成される可能性があるところ、本発明の製造方法ではかかる相対的に厚い部分の発生による不具合を回避しうるので、効率的な製造と、そのような不具合の発生の回避とを両立することが可能となる。
【0029】
〔工程(Os1)及び工程(Tr1)〕
工程(Os1)は、処理(t2)より上流において行われる。工程(Tr1)は、工程(Os1)より下流において行われる。工程(Tr1)は、通常は工程(Os1)の下流であって且つ処理(t2)より上流において行われる。
【0030】
工程(Os1)及び工程(Tr1)は、処理(t1)より上流において行ってもよく、処理(t1)より下流において行ってもよい。図1の例では、オシレーション装置(Os1)120及びトリミング装置(Tr1)130による工程(Os1)及び工程(Tr1)は、延伸前樹脂層形成装置(t1)140による処理(t1)よりも上流において行われる。このように、工程(Os1)を処理(t1)より下流において行うことにより、被搬送物(p1)の形成において発生する厚みムラと、処理(t1)により発生する厚みムラとが相加的に大きくなることを抑制することができる。したがって、これらの両方の相加的な作用に起因するゲージバンド及び横ダン等の不具合が発生しうる場合において、そのような不具合を効果的に抑制することが可能となる。このような効果は、被搬送物(p1)の形成において溶融押出成形を行う場合に、特に有益である。
【0031】
図1の例では、溶融押出成形機110で形成された被搬送物(p1)21が、オシレーション装置120に供給される。オシレーション装置120は、被搬送物を搬送するためのローラー等の搬送装置、及びかかる搬送装置を支持し且つ適切な方向に揺動させる揺動装置を備えたものとしうる。かかるオシレーション装置120により被搬送物(p1)21をTD方向に略平行な方向に揺動させ且つMD方向に搬送することにより、工程(Os1)を達成することができる。
【0032】
オシレーション工程(Os1)及びその他のオシレーション工程において、被搬送物をオシレートさせる振幅は、特に限定されず、その後の振幅が固定される工程において、所望の振幅が得られるよう、適宜調整しうる。通常は、オシレーション工程を行なった直後の振幅より、その下流の振幅が固定される工程における振幅のほうが小さくなりうる。
【0033】
トリミング工程(Tr1)では、第1のオシレーション工程(Os1)によりオシレートされた状態の被搬送物の幅手方向両端部をトリミングする。被搬送物の幅手方向両端部のトリミングとは、被搬送物の幅手方向の両端部を切断して除くことをいう。
【0034】
図1に示した第1のトリミング装置120によるトリミングの具体的な操作を、図4を参照して説明する。図4は、図1に示すトリミング装置(Tr1)130を拡大して示す斜視図である。実際の操作では、被搬送物の両端部をトリミングするが、図示の便宜のため、図4においては、手前側の端部のトリミングのみを図示している。
【0035】
図4において、トリミング装置130は、矢印A31で示される位置に設けられたカッター(不図示)、カッターによる切断位置においてフィルムを支持する支持ローラー131、及びカッターにより切断された耳22eを巻き取り回収する巻取りローラー132を含む。トリミング装置(Tr1)130を用いた第1のトリミングの操作において、矢印A1方向に搬送された被搬送物(p1)21は、カッターにより切断され、フィルム幅方向の中央部の、トリミングされた被搬送物(p1)22と、耳22eとに分けられる。耳22eは矢印A2方向に搬送され、巻取りローラー132により巻き取られ、回収される。
【0036】
オシレーション工程(Os1)による長尺の被搬送物(p1)21のオシレーションの結果、被搬送物(p1)21は、トリミング工程(Tr1)に到達した時点においてもオシレートされている。この時点での被搬送物(p1)のオシレーションの振幅は、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上であり、一方好ましくは200mm以下、より好ましくは100mm以下である。振幅を、前記下限以上とすることにより、一般的な光学用途の長尺の延伸フィルムとしての複層延伸フィルムの製造において、ゲージバンド及び横ダンの発生を、特に良好に低減することができる。また、振幅を前記上限以下とすることにより、歩留まりの高い複層延伸フィルムの巻回体の製造を行いうる。
【0037】
オシレートされた被搬送物がトリミングされることにより、オシレーションの振幅が固定される。トリミング工程(Tr1)において固定される振幅を、図5を参照してより具体的に説明する。図5は、図1に示すトリミング装置(Tr1)130を拡大して示す上面図である。図5においては、図示の便宜のため、フィルムの幅に対する振幅の割合を、実際の態様より大きくして、振幅を強調して示している。
【0038】
図5において、被搬送物(p1)21は、オシレートされながら矢印A1で示される方向に搬送される。被搬送物(p1)21が矢印A31で示される切断位置に到達する時点での、被搬送物(p1)21の幅方向の中心は、概念的に、波状の破線21Cで示される。かかる破線21Cの振幅は、図5において矢印41で示される長さとなり、これが、トリミング工程(Tr1)において固定される、被搬送物(p1)21の振幅となる。かかる振幅が例えば20mmである場合、被搬送物(p1)21の幅方向の中心は、オシレーションの中心から±10mmの範囲で移動する。
【0039】
また、オシレーションの周期は、破線21Cで描かれる波の周期で示され、オシレーションの周期の長さは、かかる波の1周期が描かれる延伸前フィルムの長さとして示される。かかる破線21Cの周期は、図5において矢印A42で示される長さとなる。オシレーションの周期の長さは、好ましくは50m以上、より好ましくは100m以上であり、一方好ましくは500m以下、より好ましくは300m以下である。オシレーションの周期を、当該範囲内とすることにより、一般的な光学用途の長尺の複層延伸フィルムの製造において、ゲージバンド及び横ダンの発生を、特に良好に低減することができる。
【0040】
トリミング工程(Tr1)は、通常、フィルムの幅方向の伸縮を伴わずに行ないうる。従って、被搬送物(p1)21の幅方向の中心と、被搬送物(p1)21の端部とは略平行にオシレートしうる。その場合、被搬送物(p1)21の幅方向の中心を観察する代わりに、耳21の幅を観察することによっても、オシレーションの振幅及び周期の長さを測定することができる。
【0041】
トリミング工程(Tr1)を行なうことにより、トリミングされた被搬送物(p1)22が得られ、これがさらに搬送されて下流の工程に供給される。図5の例を参照して説明すると、トリミングされた被搬送物(p1)22は、端部が直線状になり、見かけ上オシレートされていない状態でMD方向に搬送される。即ち、トリミングされた被搬送物(p1)22の中心は、破線22Cで示される通り、MD方向に略平行な直線となる。しかしながら、トリミングされた被搬送物(p1)22において、厚みムラは、オシレートされた状態で存在している。例えば、トリミングされた被搬送物(p1)22において、ゲージバンドの原因となる相対的に厚い部分は、波状の形状で存在することとなる。これにより、以下の工程でさらなるオシレーションを行なわなくても、ゲージバンド及び横ダンの少ない巻回体を容易に得ることが可能となる。
【0042】
オシレーション工程(Os1)によるオシレーションの振幅の固定は、その下流のトリミング工程(Tr1)により行いうるが、一般にオシレーションの振幅の固定は、その他の工程によっても行いうる。例えば、オシレーション後にフィルムをロール状に巻き取る場合、かかる巻き取りによりオシレーションの振幅が固定されうる。
【0043】
〔処理(t1)〕
処理(t1)では、被搬送物(p1)の表面に、樹脂材料を塗布し、延伸前樹脂層を形成する。本発明の製造方法において、処理(t1)は、被搬送物(p1)の片面又は両面において、1回又は複数回行いうる。処理(t1)により、被搬送物(p1)及びその一方又は両方の表面に設けられた延伸前樹脂層を備える被搬送物(p2)が得られる。
【0044】
処理(t1)においては、樹脂材料の塗布に先立ち、被塗布面の表面処理を行いうる。かかる表面処理の例としては、コロナ処理装置を用いた放電処理が挙げられる。
【0045】
処理(t1)において使用する樹脂材料としては、塗布及びその後の処理により所望の樹脂層を形成しうる材料を適宜選択し採用しうる。処理(t1)における樹脂材料の塗布の操作は、ダイコーター、バーコーター等の各種の塗布装置により行いうる。処理(t1)は、塗布の工程に加えて、塗布された樹脂材料の層を硬化させる工程を含みうる。かかる硬化の工程の例としては、加熱、減圧又はこれらの組み合わせによる、樹脂材料中の揮発成分の除去、または樹脂材料中の反応性の成分の反応の促進による硬化が挙げられる。
【0046】
図1の例では、延伸前樹脂層形成装置(t1)140は、オシレーション装置(Os1)120の下流に位置し、ダイコーター141及び乾燥装置142を備える。この例での処理(t1)においては、ダイコーター141による樹脂材料の塗布により、トリミングされた被搬送物(p1)22の下側の表面に樹脂材料の層を形成し、かかる層を乾燥装置142で乾燥させ、それにより延伸前樹脂層を形成し、その結果、延伸前基材フィルム及びその一方の表面に設けられた延伸前樹脂層を備える被搬送物(p2)23を得る。延伸前樹脂層は、延伸前基材フィルムの表面の一部に設けてもよいが、通常は、延伸前基材フィルムの表面の全体にわたり設けられる。延伸前樹脂層の厚みは、得られる複層延伸フィルムにおける樹脂層が所望の厚みを有するものとなるよう適宜調整しうる。通常の場合、延伸前樹脂層の厚みは、好ましくは0.01μm以上5μm以下としうる。
【0047】
〔処理(t2)〕
処理(t2)では、被搬送物(p2)を斜め延伸する。処理(t2)により、延伸前基材フィルムの延伸物である基材層と、延伸前樹脂層の延伸物である樹脂層とを備える被搬送物(p3)が得られる。
【0048】
処理(t2)における斜め延伸の操作は、テンター延伸機等の各種の斜め延伸機を用いて行いうる。斜め延伸機及びその具体例としては、例えば特開2019-55603号公報に示されるものが挙げられる。
【0049】
本発明の製造方法では、オシレーション工程(Os1)の後に、処理(t2)の斜め延伸を行う。かかる順序でオシレーション工程及び斜め延伸を行うことにより、オシレーション工程(Os1)より前の段階において発生する厚みムラ(被搬送物(p1)の形成において発生する厚みムラ等)に起因するゲージバンド及び横ダン等の不具合を効果的に抑制することができ、且つ処理(t2)の結果生じる配向角の変動を低減させることができる。このような効果は、被搬送物(p1)の形成において溶融押出成形を行う場合に、特に有益である。
【0050】
図1の例では、斜め延伸装置(t2)150は、溶融押出成形機110、オシレーション装置(Os1)120、トリミング装置(Tr1)130及び延伸前樹脂層形成装置(t1)140の下流に位置し、延伸前樹脂層形成装置(t1)140から搬出された被搬送物(p2)23を、斜め延伸処理に供し、それにより被搬送物(p3)24が得られる。
【0051】
斜め延伸における延伸方向及び延伸倍率は、得られる複層延伸フィルムが所望の光学的機能を有するものとなるよう適宜調整しうる。例えば、複層延伸フィルムとしてλ/4波長板としての光学的機能を有する長尺状のフィルムを製造する場合、その配向角(フィルム幅手方向に対する角度)は、好ましくは40°以上、より好ましくは43°以上であり、一方好ましくは50°以下、より好ましくは47°以下である。したがって、延伸方向も、かかる配向角に沿った角度とすることが好ましい。また、延伸倍率は好ましくは1.01倍以上、より好ましくは1.1倍以上であり、一方好ましくは5倍以下、より好ましくは3倍以下としうる。
【0052】
処理(t2)を、テンター延伸機等の、被搬送物の幅手方向端部を把持子で把持して延伸を行う延伸機により行った場合、処理(t2)終了後の被搬送物(p3)24は、把持子による把持の結果、その幅手方向端部において、把持痕等の形状の乱れを有しうる。そのような乱れを有する部分は、必要に応じて追加のトリミングにより除去しうる。図1の例では、斜め延伸装置(t2)150の下流において、トリミング装置160によるトリミングを行う。トリミング装置160は、カッター(不図示)、支持ローラー161及び巻取りローラー162を備え、これらはそれぞれ、トリミング装置130におけるカッター、支持ローラー131及び巻取りローラー132と同様の構成としうる。そしてそれらの操作方法も、トリミング装置130における操作方法と同様としうる。
【0053】
〔巻回工程(W1)〕
巻回工程(W1)では、被搬送物をロール状に巻き取って被搬送物の巻回体(R1)を得る。巻回工程(W1)は、処理(t2)より下流において行われる。処理(t2)の下流に、追加的に任意の工程を行う場合は、巻回工程(W1)は、それらの任意の工程よりも下流において行いうる。図1の例では、巻回工程は、トリミング装置160による追加のトリミングの工程の下流において、巻回装置(W1)170により被搬送物を巻取ることによって行われ、それによって、被搬送物の巻回体(R1)26が得られる。
【0054】
本発明の製造方法では、上に述べたオシレーション工程(Os1)を特定の段階において行うことにより、得られる巻回体(R1)の品質を向上させることができる。具体的には、ゲージバンド及び横ダン等の、複層延伸フィルムの長手方向に連続的な厚みムラに起因する不具合が抑制され、且つ、配向角の変動が少ない、斜め方向に配向角を有する複層延伸フィルムの巻回体を得ることができる。
【0055】
〔変形例〕
本発明の製造方法は、上で説明した例に限定されず、この例に変形を加えた方法であってもよい。
図1の例では、オシレーション装置(Os1)120及びトリミング装置(Tr1)130による工程(Os1)及び工程(Tr1)は、延伸前樹脂層形成装置(t1)140による処理(t1)よりも上流において行っているが、本発明はこれに限られず、工程(Os1)及び工程(Tr1)は、処理(t1)より下流において行ってもよい。工程(Os1)を処理(t1)より下流において行った場合は、処理(t1)により発生する長手方向に連続する厚みムラに起因するゲージバンド及び横ダン等の不具合を、工程(Os1)において効果的に抑制することが可能となる。
【0056】
図1の例では、処理(t1)を、被搬送物(p1)の片面に一回のみ行っているが、本発明はこれに限られず、処理(t1)は、被搬送物の片面のみに行ってもよく、両面に行ってもよい。またそれぞれの面において、処理(t1)は、一回のみ行ってもよく、複数回行ってもよい。複数回の処理(t1)を行う場合、それらのうちの一部を第1のオシレーション工程(Os1)より上流で行い、他の一部を第1のオシレーション工程(Os1)より下流で行ってもよい。処理(t1)を、被搬送物の両面に対して行った場合、複層延伸フィルムとして、基材層と、その両方の表面に設けられた一対の樹脂層とを備えるものを得ることができる。
【0057】
図1の例では、オシレーションの工程として、第1のオシレーション工程(Os1)のみを行っているが、本発明はこれに限られず、第1のオシレーション工程(Os1)に加えて、追加のオシレーション工程を行ってもよい。例えば、本発明の製造方法は、処理(t2)より下流であり且つ巻回工程(W1)より上流において、被搬送物をその幅手方向にオシレートさせる第2のオシレーション工程(Os2)と、第2のオシレーション工程によりオシレートされた状態の前記被搬送物の幅手方向両端部をトリミングする、第2のトリミング工程(Tr2)とをさらに含みうる。より具体的には例えば、図1の例の搬送経路の、斜め延伸装置150と、トリミング装置(Tr2)160との間に、追加のオシレーション装置を設け、当該オシレーション装置と、トリミング装置(Tr2)160とにより、上に述べた工程(Os2)及び工程(Tr2)を行いうる。このような追加のオシレーション工程を行うことにより、ゲージバンド及び横ダン等の不具合をさらに効果的に抑制することが可能となるので、このような態様は、配向角の均一性よりもゲージバンド及び横ダン等の不具合の抑制の必要性がより高い場合において、特に有用である。
【0058】
図1の例では、溶融押出成形法による延伸前基材フィルムの形成から、巻回工程(W1)までを、一連の搬送経路において行っているが、本発明はこれに限られず、製造方法の実施の途中の段階で一旦被搬送物を巻き取って巻回体とし、当該巻回体から被搬送物を巻き出して、その後の工程を行ってもよい。例えば、本発明の製造方法は、第1のトリミング工程(Tr1)の下流であって且つ処理(t2)より上流において、被搬送物をロール状に巻き取って被搬送物の巻回体(R2)を得る、巻回工程(W2)と、得られた巻回体(R2)から被搬送物を巻き出し処理(t2)等のその後の操作に供する巻き出し工程とをさらに含みうる。このような製造方法の実施の途中の段階で、巻回工程及び巻き出し工程を行った場合、製造方法の実施のための操作の自由度が高まるという利益が得られる。例えば、巻回工程前と、巻回工程後のそれぞれにおいて1回ずつ処理(t1)を行う場合、巻回工程前における処理(t1)のための設備と、巻回工程後における処理(t1)のための設備とを、兼用することが可能となる。そのため、設備コストを低減させることが可能となる。
【0059】
巻回工程(W2)を含む製造方法の例を、図2図3を参照して説明する。図2及び図3は、本発明の製造方法及びそれに用いる製造装置の別の一例の、上流部分及び下流部分を模式的に示す側面図である。
【0060】
図2において、上流部製造装置200は、搬送経路の上流から順に、溶融押出成形機110、第1の延伸前樹脂層形成装置(t1)240、オシレーション装置(Os1)120、トリミング装置(Tr1)130、及び巻回装置(W2)270を含む。図3において、下流部製造装置300は、搬送経路の上流から順に、巻き出し装置380、第2の延伸前樹脂層形成装置(t1)340、斜め延伸装置150、トリミング装置(Tr2)160、及び巻回装置(W1)370を含む。
【0061】
製造装置200及び300において、溶融押出成形機110(構成要素としてTダイ111及びキャスティングドラム112を備える)、オシレーション装置(Os1)120、トリミング装置(Tr1)130(構成要素としてカッター(不図示)、支持ローラー131及び巻取りローラー132を備える)、斜め延伸装置150、トリミング装置(Tr2)160(構成要素としてカッター(不図示)、支持ローラー161及び巻取りローラー162を備える)、及び巻回装置(W1)170のそれぞれの構成及び操作方法は、図1の例と同じものとしうる。第1の延伸前樹脂層形成装置(t1)240(及びその構成要素であるダイコーター241及び乾燥装置242)、並びに第2の延伸前樹脂層形成装置(t1)340(及びその構成要素であるダイコーター341及び乾燥装置342)のそれぞれの構成及び操作方法は、図1の例における延伸前樹脂層形成装置(t1)140(及びその構成要素であるダイコーター141及び乾燥装置142)と同じものとしうる。
【0062】
図2の例では、図1の例と同じ操作により、溶融押出成形機110で被搬送物(p1)31が形成される。被搬送物(p1)31は、矢印A1方向に搬送され、第1の延伸前樹脂層形成装置(t1)240による第1の処理(t1)に供される。コーター241による樹脂材料の塗布により、被搬送物(p1)31の下側の表面に樹脂材料の層が形成される。かかる層を乾燥装置242で乾燥させ、それにより延伸前樹脂層を形成し、その結果、延伸前基材フィルム及びその一方の表面に設けられた第1の延伸前樹脂層を備える被搬送物(p2)32を得る。被搬送物(p2)32は、オシレーション装置(Os1)120及びトリミング装置(Tr1)130に供給され、図1の例と同じ操作により、オシレーション工程(Os1)及びトリミング工程(Tr1)に供され、トリミングされた被搬送物(p2)33を得る。得られた被搬送物(p2)33は、巻回装置(W2)270でロール状に巻き取られ、これにより巻回体(R2)34が得られる。
【0063】
続いて、図3において示す通り、巻き出し装置380にて、巻回体(R2)34から、被搬送物(p2)を巻き出し、矢印A3方向に搬送する。この例では、第1の処理(t1)が施された面とは反対側の面が下側となるよう、巻き出しを行っている。巻き出された被搬送物(p2)は、矢印A3方向に搬送され、第2の延伸前樹脂層形成装置(t1)340による第2の処理(t1)に供される。コーター341による樹脂材料の塗布により、被搬送物(p2)の下側の表面に樹脂材料の層が形成される。かかる層を乾燥装置342で乾燥させ、それにより延伸前樹脂層を形成し、その結果、延伸前基材フィルム及びその両方の表面に設けられた延伸前樹脂層を備える被搬送物(p2)’35を得る。被搬送物(p2)’35は、斜め延伸装置(t2)150による斜め延伸処理(t2)に供され、斜め延伸された被搬送物(p3)36となり、さらにトリミング装置160によるトリミング処理に供され、製品たる複層延伸フィルム37となる。得られた複層延伸フィルム37は、巻回装置(W1)370でロール状に巻き取られ、これにより巻回体(R1)38が得られる。
【0064】
図2図3に示す例では、装置200における設備の一部と、装置300における設備の一部とを兼用することが可能である。例えば、装置200により巻回体(R2)34を得るまでの操作を行った後、装置200の構成要素を組み替えて装置300とし、その後の工程を行うことが可能である。この際、第2の延伸前樹脂層形成装置(t1)340としては第1の延伸前樹脂層形成装置(t1)240として使用していたものを流用することができ、トリミング装置(Tr1)160としてはトリミング装置(Tr1)130として使用していたものを流用することができ、巻回装置(W1)370としては巻回装置(W2)270として使用していたものを流用することができる。特に、延伸前樹脂層形成装置(t1)が備える乾燥装置に関しては、乾燥時間が長時間である場合に長い搬送距離において乾燥を行うことができる装置が必要になり、大掛かりな装置が必要となるところ、これらの兼用は、設備コストの低減において特に有益である。
【0065】
〔基材層/延伸前基材フィルムの材料〕
続いて、本発明の製造方法の供給工程において供給される延伸前基材フィルムを構成する材料について、具体的に説明する。
延伸前基材フィルムは、本発明の製造方法に供された結果、製品たる複層延伸フィルムにおいて、基材層を構成する。したがって、延伸前基材フィルムの材料は、製品たる複層延伸フィルムにおいて、基材層を構成する材料となる。
【0066】
延伸前基材フィルムの材料としては、製品たる複層延伸フィルムの用途に適合した任意の材料を適宜選択して用いうる。延伸前基材フィルムの材料としては通常は熱可塑性樹脂を用いる。熱可塑性樹脂は、主成分としての重合体を含み、任意成分として添加剤を含みうる。
【0067】
熱可塑性樹脂に含まれる重合体の例としては、アクリル重合体、メタクリル重合体、ポリカーボネート重合体、ポリエステル重合体、ポリエーテルスルホン重合体、ポリアリレート重合体、ポリイミド重合体、鎖状ポリオレフィン重合体、ポリエチレンテレフタレート重合体、ポリスルホン重合体、ポリ塩化ビニル重合体、ジアセチルセルロース重合体、トリアセチルセルロース重合体、脂環式オレフィン重合体などが挙げられる。これらの中でも、脂環式オレフィン重合体及びメタクリル重合体が好適である。
【0068】
メタクリル重合体は、メタクリル酸アルキルエステル単位を主モノマー単位として含む重合体である。メタクリル重合体の例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの単独重合体;アルキル基の水素がOH基、COOH基若しくはNH基などの官能基によって置換された炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの単独重合体;又はメタクリル酸アルキルエステルと、スチレン、酢酸ビニル、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸アルキルエステルなどのメタクリル酸アルキルエステル以外のエチレン性不飽和単量体との共重合体等が挙げられる。これらのうち、アクリル酸アルキルエステルがメタクリル酸アルキルエステルとの共重合に好適である。好適なメタクリル重合体では、官能基によって置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単位を、好ましくは50~100重量%、より好ましくは50~99.9重量%、さらに好ましくは50~99.5重量%含有し、アクリル酸アルキルエステル単位を好ましくは0~50重量%、より好ましくは0.1~50重量%、さらに好ましくは0.5~50重量%含有する。
【0069】
脂環式オレフィン重合体は、主鎖及び/又は側鎖に脂環構造を有する非晶性の熱可塑性重合体である。脂環式オレフィン重合体中の脂環構造の例としては、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造が好ましい。脂環構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4~30個、好ましくは5~20個、より好ましくは5~15個であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
【0070】
脂環式オレフィン重合体を構成する脂環構造を有する繰り返し単位の割合は、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式オレフィン重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、透明性および耐熱性の観点から好ましい。
【0071】
脂環式オレフィン重合体としては、例えば、ノルボルネン重合体、単環の環状オレフィン重合体、環状共役ジエン重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及び、これらの水素化物等が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン重合体は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0072】
ノルボルネン重合体としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体、又はそれらの水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体、又はそれらの水素化物等が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
なお、これらの重合体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0073】
延伸前基材フィルムを構成する樹脂に含まれる重合体の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサンを用いて(但し、重合体がシクロヘキサンに溶解しない場合にはトルエンを用いてもよい)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン換算(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは20,000以上であり、通常100,000以下、好ましくは80,000以下、より好ましくは50,000以下である。重量平均分子量がこのような範囲にあることにより、得られる複層延伸フィルムの機械的強度及び成型加工性などが高度にバランスされる。
【0074】
延伸前基材フィルムを構成する樹脂、必要に応じて、添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含みうる。添加剤の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、強化剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機又は無機の充填剤、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止剤、及び抗菌剤が挙げられる。これらの添加剤の量は、樹脂に含まれる重合体100重量部に対して、通常0~50重量部、好ましくは0~30重量部である。
【0075】
〔樹脂層/延伸前樹脂層/樹脂材料〕
続いて、本発明の製造方法の処理(t1)において使用される樹脂材料について、具体的に説明する。
樹脂材料は、本発明の製造方法において延伸前樹脂層を形成するのに用いられる。さらに延伸前樹脂層は、本発明の製造方法に供された結果、製品たる複層延伸フィルムにおいて、樹脂層を構成する。したがって、樹脂材料を構成する成分の一部または全部は、製品たる複層延伸フィルムにおいて、樹脂層を構成する材料となる。
【0076】
樹脂材料としては、製品たる複層延伸フィルムにおいて樹脂層に所望の物性を付与しうる任意の材料を適宜選択して用いうる。樹脂層としては、特に、複層延伸フィルム同士の易滑性を高める機能、及び複層延伸フィルムとそれを設置する装置との易接着性を高める機能を有する層であることが特に好ましい。そのような機能を発現する材料としては、基材層の材質及び複層延伸フィルムの接着対象の材質に応じて適切なものを適宜選択しうる。特に多くの場合、樹脂層を構成する樹脂として、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、又はこれらの混合物等の樹脂を採用した場合、そのような易接着層としての機能を良好に発現することができる。これらの中でも、特にポリウレタン樹脂が好ましい。
【0077】
ポリウレタン樹脂が含むポリウレタンの例としては、(i)1分子中に平均2個以上の活性水素を含有する成分と(ii)多価イソシアネート成分とを反応させて得られるポリウレタン;または、上記(i)成分及び(ii)成分をイソシアネート基過剰の条件下で、反応に不活性で水との親和性の大きい有機溶媒中でウレタン化反応させてイソシアネート基含有プレポリマーとし、次いで、該プレポリマーを中和し、鎖延長剤を用いて鎖延長し、水を加えて分散体とすることによって製造されるポリウレタン;などが挙げられる。これらのポリウレタンは酸構造(酸残基)を含有するものであってもよい。また、ポリウレタンの数平均分子量は、1,000以上が好ましく、より好ましくは20,000以上であり、1,000,000以下が好ましく、より好ましくは200,000以下である。
【0078】
変性ポリオレフィン樹脂は、酸単量体とオレフィン単量体との共重合体を含む樹脂であることが好ましい。当該共重合体を構成するオレフィン単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のアルケン、又はこれらの混合物が挙げられる。中でも、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2~4のアルケンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0079】
酸単量体は、不飽和カルボン酸又はその無水物としうる。当該単量体により、共重合体に酸基が導入される。不飽和カルボン酸としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また、変性ポリオレフィン樹脂を構成する重合体は、基材層との密着性を向上させる理由から、(メタ)アクリル酸エステルの重合により得られる単位を含有することが好ましい。
【0080】
樹脂材料は、ポリウレタン等の重合体に組み合わせて、任意の成分を含みうる。任意の成分の例としては、耐熱安定剤、耐候安定剤、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス及び粒子が挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0081】
特に、樹脂層は、粒子を含むことが好ましい。したがって、樹脂層を形成するための樹脂材料として粒子を含むものを採用することが好ましい。ブロッキング防止の観点から、粒子としては、平均粒子径の異なる複数の粒子を組み合わせて用いることが好ましい。
【0082】
粒子としては、無機材料からなる無機粒子、有機材料からなる有機粒子、並びに、無機材料と有機材料とを組み合わせて含む複合粒子のいずれを用いてもよい。無機粒子の材料を挙げると、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア等の無機酸化物;炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、燐酸カルシウム等が挙げられる。また、有機粒子の材料を挙げると、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0083】
これらの例示した粒子の材料の中でも、シリカが好ましい。シリカの粒子は、透明性に優れ、内部ヘイズを生じ難く、着色が無いため、複層フィルムの光学特性に与える影響が小さい。
【0084】
前記のようなシリカ粒子としては、市販品を用いてもよい。市販品の例を挙げると、日産化学社製のスノーテックスMP2040及びスノーテックスZLが挙げられる。
【0085】
樹脂層の厚みは、0.01μm以上が好ましく、0.02μm以上がより好ましく、0.03μm以上が特に好ましく、また、5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下が特に好ましい。前記範囲内にあると、易接着層としての十分な接着強度が得られ、かつ、複層延伸フィルムの反りを抑制できる。
【0086】
樹脂層としてポリウレタン樹脂の層を形成する場合には、当該樹脂層を形成するための樹脂材料として、ポリウレタンと、溶媒と、必要に応じて任意の成分とを含む塗布液を採用しうる。樹脂材料は、溶媒として水を含む塗布液であることが好ましい。このように溶媒として水を含む塗布液では、通常、ポリウレタンは水中に分散している。ポリウレタン及び水を含む塗布液は、「水系ウレタン樹脂」と呼ばれることがある。
【0087】
水系ウレタン樹脂として、市販されている水系ウレタン樹脂を使用してもよい。水系ウレタン樹脂としては、例えば、旭電化工業社製の「アデカボンタイター」シリーズ、三井東圧化学社製の「オレスター」シリーズ、大日本インキ化学工業社製の「ボンディック」シリーズ、「ハイドラン」シリーズ、バイエル社製の「インプラニール」シリーズ、日本ソフラン社製の「ソフラネート」シリーズ、花王社製の「ポイズ」シリーズ、三洋化成工業社製の「サンプレン」シリーズ、保土谷化学工業社製の「アイゼラックス」シリーズ、第一工業製薬社製の「スーパーフレックス」シリーズ、ゼネカ社製の「ネオレッツ」シリーズなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0088】
樹脂層の機械強度を向上させる目的で、塗布液は架橋剤を含んだものとしうる。架橋剤は、樹脂層形成の過程で、ポリウレタン又はその他の成分と架橋反応し、樹脂層において重合体を構成しうる。架橋剤の例としては、水系エポキシ化合物、水系アミノ化合物、水系イソシアネート化合物、水系カルボジイミド化合物、及び水系オキサゾリン化合物が挙げられる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。架橋剤の量は、ポリウレタン100重量部に対して、固形分で、好ましくは1重量部以上、より好ましくは5重量部以上であり、好ましくは70重量部以下、より好ましくは65重量部以下である。
【0089】
〔製品の用途〕
本発明の製造方法により巻回体として得られた複層延伸フィルムは、例えば位相差板等の光学フィルムとして、液晶表示装置、及びその他の表示装置の構成要素として好適に使用しうる。
【実施例0090】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0091】
(配向角、配向角変動)
位相差計(AxoScan、AXOMETRICS社製)を用いて、斜め延伸フィルムの幅方向の100mm間隔の遅相軸を測定し、その遅相軸が斜め延伸フィルムの幅方向となす配向角を計算した。配向角の平均値を計算し、これを斜め延伸フィルムの平均配向角θとし、配向角の変動は、前記斜め延伸フィルムの前記配向角の最大値と最小値との差で求めた。測定波長は590nmとした。
【0092】
(外観評価)
得られた巻回体(R1)の外観を目視で観察し、ゲージバンドがはっきり見えるものを「不良」、ゲージバンドが僅かに見えるものを「可」、ゲージバンドが見えないものを「良」とする評価基準に従って評価した。
【0093】
〔実施例1〕
図1に模式的に示す製造装置100を用いて、複層延伸フィルムの製造を行った。
【0094】
(1-1.延伸前基材フィルム:被搬送物(p1))
ノルボルネン重合体を含む脂環式オレフィン樹脂(日本ゼオン社製「ZEONOR」;ガラス転移温度126℃)のペレットを用意した。ペレットを100℃で5時間乾燥し、押出機に供給した。ペレットを押出機内で溶融樹脂温度270℃で溶融させ、溶融樹脂とした。溶融樹脂を、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを通過させ、Tダイ111及びキャスティングドラム112を備える溶融押出成形機110に供給した。溶融樹脂をTダイからキャスティングドラム112上にシート状に押し出し、冷却して、厚み70μm、幅1700mmの、延伸前基材フィルムからなる被搬送物(p1)21を得た。
【0095】
(1-2.オシレーション工程(Os1)-トリミング工程(Tr1))
被搬送物(p1)21を、矢印A1方向に搬送し、オシレーション装置(Os1)120に導入した。オシレーション装置(Os1)120における、被搬送物(p1)21の搬送経路を、TD方向に周期的にオシレーションした。その後、得られた基材の幅方向の両端部をトリミング装置130のカッター(不図示)にて矢印A31の位置にて切断し、耳22eを支持ローラー131及び巻取りローラー132で巻き取って除去し、トリミングされた被搬送物(p1)22を得た。オシレートの振幅は65mmであり、得られたトリミングされた被搬送物(p1)22の幅は1540mmであった。
【0096】
(1-3.処理(t1):延伸前樹脂層を備える被搬送物(p2))
ウレタンの水分散体(スーパーフレックス870、第一工業製薬社製、エーテル系ポリウレタン、Tg78℃、固形分30%)を用意した。当該水分散体をポリウレタンが100部となる量だけ取り分けた。この水分散体に、エポキシ化合物であるグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX-313」;エポキシ当量141g/eq)15部と、平均粒子径80nmのシリカ微粒子(日産化学工業社製「スノーテックスZL」)10部と、シリカ粒子の水分散液(日産化学社製「スノーテックスMP2040」;平均粒子径200nm)をシリカ粒子の量で2.5部と、非イオン系界面活性剤として4,7-ジヒドロキシ-2,4,7,9-テトラメチル-5-デシンのエチレンオキサイド付加物(日信化学工業社製「サーフィノール465」)と、水とを配合して、未硬化状態のウレタン樹脂である、固形分濃度5%の液状の水系樹脂を、樹脂材料として得た。非イオン系界面活性剤の添加量は、得られる水系樹脂に対し100ppmとなる量とした。
【0097】
(1-2)で得た、トリミングされた被搬送物(p1)22の一方の表面(図1における下面側)に対して、コロナ処理装置(不図示)を用いて放電処理を施した。放電処理を施した面に、延伸前樹脂層形成装置(t1)140のコーター141を用いて、樹脂材料を、乾燥厚みが0.2μmになるように塗布した。その後、乾燥装置142を用いて樹脂材料の層を乾燥させて、延伸前樹脂層を形成した。これにより、延伸前基材フィルム及びその一方の表面に設けられた延伸前樹脂層を備える被搬送物(p2)23を得た。
【0098】
(1-4.処理(t2))
(1-3)で得た被搬送物(p2)23を、斜め延伸装置150に供給し、延伸温度143℃で、斜め方向45°に延伸した。延伸倍率は1.5倍とした。これにより、被搬送物(p2)における延伸前基材フィルム及び延伸前樹脂層を共延伸して、基材層及び樹脂層とし、これらを備える被搬送物(p3)24を得た。得られた被搬送物(p3)の平均厚みは47μmであった。平均厚みは、幅方向に100mm間隔でマイクロゲージ式厚み計(ミツトヨ社製)を用いて測定した値の平均値を計算した。
【0099】
(1-5.トリミング及び巻回工程(W1))
(1-4)で得られた被搬送物(p3)の幅方向の両端部をトリミング装置160のカッター(不図示)にて切断し、耳を支持ローラー161及び巻取りローラー162で巻き取って除去し、製品たる複層延伸フィルム25とした。複層延伸フィルムの幅は1350mmであった。得られた複層延伸フィルムは、巻回装置(W1)170でロール状に巻き取って、巻回体(R1)26を得た。巻回した複層延伸フィルムの長さは500mであった。
【0100】
(1-6.評価)
(1-5)で得られた複層延伸フィルムの巻回体(R1)について、外観を評価した。さらに、巻回体(R1)から複層延伸フィルムを巻き出し、配向角変動を評価した。
【0101】
〔実施例2〕
以下の変更点の他は、実施例1と同じ操作により、複層延伸フィルム及びその巻回体を得て評価した。
・(1-3)で得られた被搬送物(p2)の、延伸前樹脂層が形成された表面とは反対側の表面に対し、(1-3)と同じ操作により
もう一層の延伸前樹脂層を形成した。これにより、延伸前基材フィルム及びその両方の表面に設けられた延伸前樹脂層を備える被搬送物(p2)’を得た。
・(1-4)において、被搬送物(p2)に代えて、上記で得た被搬送物(p2)’を供給した。
得られた複層延伸フィルムの平均厚みは48μmであった。巻回した複層延伸フィルムの長さは500mであった。
【0102】
〔実施例3〕
図2図3に模式的に示す製造装置200及び300を用いて、複層延伸フィルムの製造を行った。
【0103】
(3-1.延伸前基材フィルム:被搬送物(p1))
実施例1の(1-1)と同じ操作により、溶融押出成形機による樹脂の成形を行い、延伸前基材フィルムからなる被搬送物(p1)31を得た。
【0104】
(3-2.処理(t1):延伸前樹脂層を備える被搬送物(p2))
樹脂材料(実施例1の(1-3)で調製したものと同じもの)を用意した。
(3-1)で得た被搬送物(p1)31を、矢印A1方向に搬送し、その一方の表面(図2における下面側)に対して、コロナ処理装置(不図示)を用いて放電処理を施した。放電処理を施した面に、延伸前樹脂層形成装置(t1)240のコーター241を用いて、樹脂材料を、乾燥厚みが0.2μmになるように塗布した。その後、乾燥装置242を用いて樹脂材料の層を乾燥させて、延伸前樹脂層を形成した。これにより、延伸前基材フィルム及びその一方の表面に設けられた延伸前樹脂層を備える被搬送物(p2)32を得た。
【0105】
(3-3.オシレーション工程(Os1)-トリミング工程(Tr1))
被搬送物(p2)32を、オシレーション装置(Os1)120に導入した。オシレーション装置(Os1)120における、被搬送物(p1)32の搬送経路を、TD方向に周期的にオシレーションした。その後、得られた基材の幅方向の両端部をトリミング装置130のカッター(不図示)にて矢印A31の位置にて切断し、耳22eを支持ローラー131及び巻取りローラー132で巻き取って除去し、トリミングされた被搬送物(p2)33を得た。オシレートの振幅は65mmであり、得られた被搬送物(p2)33の幅は1540mmであった。
【0106】
(3-4.巻回工程(W2))
(3-3)で得られた被搬送物(p2)33を、巻回装置(W2)270でロール状に巻き取って、巻回体(R2)34を得た。巻回した被搬送物(p2)の長さは1000mであった。
【0107】
(3-5.巻き出し)
巻き出し装置380にて、(3-4)で得られた巻回体(R2)34から、被搬送物(p2)を巻き出し、矢印A3方向に搬送した。
【0108】
(3-6.処理(t1)(2回目))
樹脂材料(実施例1の(1-3)で調製したものと同じもの)を用意した。
(3-5)で巻き出された被搬送物(p2)の、延伸前樹脂層が形成された表面とは反対側の表面(図3における下面側)に対して、コロナ処理装置(不図示)を用いて放電処理を施した。放電処理を施した面に、延伸前樹脂層形成装置(t1)340のコーター341を用いて、樹脂材料を、乾燥厚みが0.2μmになるように塗布した。その後、乾燥装置342を用いて樹脂材料の層を乾燥させて、延伸前樹脂層を形成した。これにより、延伸前基材フィルム及びその両方の表面に設けられた延伸前樹脂層を備える被搬送物(p2)’35を得た。
【0109】
(3-7.処理(t2))
(3-6)で得た被搬送物(p2)’35を、斜め延伸装置150に供給し、延伸温度143℃で、斜め方向45°に延伸した。延伸倍率は1.5倍とした。これにより、被搬送物(p2)’における延伸前基材フィルム及び延伸前樹脂層を共延伸して、基材層及び樹脂層とし、これらを備える被搬送物(p3)36を得た。得られた被搬送物(p3)の平均厚みは48μmであった。
【0110】
(3-8.トリミング及び巻回工程(W1))
(3-7)で得られた被搬送物(p3)の幅方向の両端部をトリミング装置160のカッター(不図示)にて切断し、耳を支持ローラー161及び巻取りローラー162で巻き取って除去し、製品たる複層延伸フィルム37とした。複層延伸フィルムの幅は1350mmであった。得られた複層延伸フィルムは、巻回装置(W1)370でロール状に巻き取って、巻回体(R1)38を得た。巻回した複層延伸フィルムの長さは500mであった。
【0111】
(3-9.評価)
(3-8)で得られた複層延伸フィルムの巻回体(R1)について、外観を評価した。さらに、巻回体(R1)から複層延伸フィルムを巻き出し、配向角変動を評価した。
【0112】
〔比較例1〕
以下の変更点の他は、実施例1と同じ操作により、複層延伸フィルム及びその巻回体を得て評価した。
・(1-2)において、オシレーション工程(Os1)を行わず、トリミング工程(Tr1)のみを行った。
・(1-3)を行わず、(1-2)で得られたトリミングされた被搬送物(p1)をそのまま、(1-4)の斜め延伸処理(t2)に供した。
・(1-4)で得られた被搬送物に、同じ幅の、長尺のポリエチレンテレフタレートのマスキングフィルム(厚み38μm)を、ロールトゥーロールで貼合し、それを(1-5)のトリミング及び巻回工程に供した。
得られた複層延伸フィルムの平均厚みは47μmであった。巻回した複層延伸フィルムの長さは500mであった。
【0113】
実施例及び比較例の概要及び評価結果を、表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
以上の結果から明らかな通り、実施例1~3において得られた複層延伸フィルムの巻回体では、オシレーションを行っていない比較例1に比べて配向角変動が少なかった。加えて、実施例1~3において得られた複層延伸フィルムの巻回体では、ゲージバンドの発生も少なかった。さらに、実施例1~3において得られた複層延伸フィルムの巻回体では、マスキングフィルムを用いずに巻回したにも拘わらず、スクラッチの発生も少なかった。
【符号の説明】
【0116】
21:被搬送物(p1)
21C:被搬送物(p1)21の幅方向の中心
22:トリミングされた被搬送物(p1)
22C:被搬送物(p1)22の中心
22e:耳
23:被搬送物(p2)
24:被搬送物(p3)
25:複層延伸フィルム
26:被搬送物の巻回体(R1)
31:被搬送物(p1)
32:被搬送物(p2)
33:トリミングされた被搬送物(p2)
34:巻回体(R2)
35:被搬送物(p2)’
36:被搬送物(p3)
37:複層延伸フィルム
38:巻回体(R1)
100:製造装置
110:溶融押出成形機
111:Tダイ
112:キャスティングドラム
120:オシレーション装置(Os1)
130:トリミング装置(Tr1)
131:支持ローラー
132:巻取りローラー
140:延伸前樹脂層形成装置(t1)
141:ダイコーター
142:乾燥装置
150:斜め延伸装置
160:トリミング装置
170:巻回装置(W1)
200:上流部製造装置
240:第1の延伸前樹脂層形成装置(t1)
241:ダイコーター
242:乾燥装置
270:巻回装置(W2)
300:下流部製造装置
340:第2の延伸前樹脂層形成装置(t1)
341:ダイコーター
342:乾燥装置
370:巻回装置(W1)
380:巻き出し装置
A31:カッター位置
A41:振幅
A42:オシレーションの周期の長さ
図1
図2
図3
図4
図5