(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066149
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】リチウム含有溶液の製造方法および水酸化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01D 15/02 20060101AFI20230508BHJP
B01J 45/00 20060101ALI20230508BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20230508BHJP
H01M 4/525 20100101ALN20230508BHJP
【FI】
C01D15/02
B01J45/00
C02F1/42 B
H01M4/525
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176695
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
(72)【発明者】
【氏名】仙波 祐輔
【テーマコード(参考)】
4D025
5H050
【Fターム(参考)】
4D025AA01
4D025AB19
4D025AB20
4D025AB21
4D025BA17
4D025BB02
4D025DA10
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050GA12
5H050HA01
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】最終的に得られるリチウム化合物の純度を高めることが可能であるリチウム含有溶液の製造方法および水酸化リチウムの製造方法を提供する。
【解決手段】リチウム含有溶液の製造方法は、イオン交換樹脂を用いて、所定の金属元素が、処理前リチウム含有溶液よりも少ないリチウム含有溶液を得るイオン交換工程を包含する。そのイオン交換工程では、処理前リチウム含有溶液を、イオン交換樹脂が内蔵されたカラムに通液して、所定の金属元素を除去する。そして処理前リチウム含有溶液のうち、コラムに通液し始めてからあらかじめ定められた量の処理前リチウム含有溶液をリチウム含有溶液に含めない。これにより、処理前リチウム含有溶液の廃棄量を抑制しながら、初期段階の通液に含まれる、除去すべき金属元素を除去することができ、リチウム含有溶液における除去すべき金属の含有量を減らすことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理前リチウム含有溶液にイオン交換樹脂を接触させることにより、あらかじめ定められた金属元素が、前記処理前リチウム含有溶液よりも少ないリチウム含有溶液を得るイオン交換工程を包含し、
該イオン交換工程では、前記処理前リチウム含有溶液を、前記イオン交換樹脂が内蔵されたカラムに通液して、あらかじめ定められた金属元素を除去し、
前記処理前リチウム含有溶液のうち、前記カラムに通液し始めてからあらかじめ定められた量の処理前リチウム含有溶液を前記リチウム含有溶液に含めない、
ことを特徴とするリチウム含有溶液の製造方法。
【請求項2】
前記イオン交換樹脂が、イミノ二酢酸型キレート樹脂であり、
該イミノ二酢酸型キレート樹脂の官能基がナトリウム型である、
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウム含有溶液の製造方法。
【請求項3】
前記あらかじめ定められた量は、BV4よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム含有溶液の製造方法。
【請求項4】
前記処理前リチウム含有溶液のpHが、7以上11以下である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のリチウム含有溶液の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかのリチウム含有溶液の製造方法により製造されたリチウム含有溶液を用いて水酸化リチウムを製造する水酸化リチウムの製造方法であって、
該水酸化リチウムの製造方法は、水酸化リチウム含有溶液から固体水酸化リチウムを得る晶析工程と、
前記固体水酸化リチウムを洗浄液体で洗浄する洗浄工程と、
を包含し、
前記洗浄液体が、あらかじめ定められた溶解度以上の水酸化リチウム含有溶液である、
ことを特徴とする水酸化リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記洗浄液体が、飽和水酸化リチウム溶液である、
ことを特徴とする請求項5に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム含有溶液の製造方法および水酸化リチウムの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、最終的に得られるリチウム化合物の純度を高めることが可能であるリチウム含有溶液の製造方法および水酸化リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載バッテリー用の正極材料として、ニッケル系正極材料であるNCAの需要が拡大している。そして、ニッケル系正極材量が車載バッテリーに使用される場合、その構成元素であるリチウムは、水酸化リチウムとして供給されることが経済的に好ましい。特許文献1では、塩湖かん水等から得られた所定のリチウム含有溶液から、水酸化リチウムが溶解している水酸化リチウム含有溶液を得ることが可能である水酸化リチウムの製造方法が開示されている。この方法により、低コストで高純度な水酸化リチウムを得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、転換工程の前に不純物除去工程が設けられており、この不純物除去工程において、第2リチウム含有溶液から金属イオンの一部が除去され、最終的な製品である水酸化リチウムの純度が高められている。特許文献1では、この不純物除去工程は、例えば、中和工程とイオン交換工程と、を包含する場合、または酸化工程と中和工程とイオン交換工程と、を包含する場合の開示がある。
【0005】
しかるに、車載バッテリー用の正極材料に対しては、さらに水酸化リチウムの純度を上げることが求められる場合がある。この場合、特許文献1の製造方法によって製造された水酸化リチウムでは、金属イオンの一部が残留することで、最終的に得られる水酸化リチウムの純度を、あらかじめ定められた純度まで高めることができないという問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、最終的に得られるリチウム化合物の純度を高めることが可能であるリチウム含有溶液の製造方法および水酸化リチウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のリチウム含有溶液の製造方法は、処理前リチウム含有溶液にイオン交換樹脂を接触させることにより、あらかじめ定められた金属元素が、前記処理前リチウム含有溶液よりも少ないリチウム含有溶液を得るイオン交換工程を包含し、該イオン交換工程では、前記処理前リチウム含有溶液を、前記イオン交換樹脂が内蔵されたカラムに通液して、あらかじめ定められた金属元素を除去し、前記処理前リチウム含有溶液のうち、前記カラムに通液し始めてからあらかじめ定められた量の処理前リチウム含有溶液を前記リチウム含有溶液に含めないことを特徴とする。
第2発明のリチウム含有溶液の製造方法は、第1発明において、前記イオン交換樹脂が、イミノ二酢酸型キレート樹脂であり、該イミノ二酢酸型キレート樹脂の官能基がナトリウム型であることを特徴とする。
第3発明のリチウム含有溶液の製造方法は、第1発明または第2発明において、前記あらかじめ定められた量は、BV4よりも小さいことを特徴とする。
第4発明のリチウム含有溶液の製造方法は、第1発明から第3発明のいずれかにおいて、前記処理前リチウム含有溶液のpHが、7以上11以下であることを特徴とする。
第5発明の水酸化リチウムの製造方法は、第1発明から第4発明のいずれかのリチウム含有溶液の製造方法により製造されたリチウム含有溶液を用いて水酸化リチウムを製造する水酸化リチウムの製造方法であって、該水酸化リチウムの製造方法は、水酸化リチウム含有溶液水酸化リチウムの結晶を晶析させる晶析工程と、前記結晶を洗浄液体で洗浄する洗浄工程と、を包含し、前記洗浄液体が、あらかじめ定められた溶解度以上の水酸化リチウム含有溶液であることを特徴とする。
第6発明の水酸化リチウムの製造方法は、第5発明において、前記洗浄液体が、飽和水酸化リチウム溶液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、イオン交換工程でカラムへの通液開始からあらかじめ定められた量の処理前リチウム含有溶液をリチウム含有溶液に含めないことにより、処理前リチウム含有溶液の廃棄量を抑制しながら、初期段階の通液に含まれる、除去すべき金属元素を除去することができ、リチウム含有溶液における除去すべき金属の含有量を減らすことができる。
第2発明によれば、イオン交換樹脂がイミノ二酢酸型キレート樹脂であり、そのイミノ二酢酸型キレート樹脂の官能基がナトリウム型であることにより、イオン交換工程における溶液の性状が安定し、除去すべき金属元素の除去の確実性が向上する。
第3発明によれば、初期段階の通液のあらかじめ定められた量が、BV4よりも小さいことにより、リチウム含有溶液の廃棄量をより抑制して、高純度のリチウム含有溶液の取得率を上げることができる。
第4発明によれば、処理前リチウム含有溶液のpHが、7以上11以下であることにより、除去すべき金属元素のうちカルシウムの除去をさらに確実に行うことができる。
第5発明によれば、晶析工程後の洗浄工程において、所定の溶解度以上の水酸化リチウム含有溶液が用いられることで、得られた結晶が再度溶解することを抑制でき、水酸化リチウムの結晶を無駄なく獲得することができる。
第6発明によれば、洗浄液体が飽和水酸化リチウム溶液であることにより、晶析した結晶が再度溶解することがなくなり、水酸化リチウムの結晶をさらに無駄なく獲得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るリチウム含有溶液の製造方法を含む水酸化リチウム含有溶液の製造方法のフロー図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法のフロー図である。
【
図3】イオン交換工程におけるBVとLiおよびNaの液中濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するためのリチウム含有溶液の製造方法または水酸化リチウムの製造方法を例示するものであって、本発明はリチウム含有溶液の製造方法および水酸化リチウムの製造方法を以下のものに特定しない。
【0011】
本発明に係るリチウム含有溶液の製造方法は、処理前リチウム含有溶液にイオン交換樹脂を接触させることにより、あらかじめ定められた金属元素が、前記処理前リチウム含有溶液よりも少ないリチウム含有溶液を得るイオン交換工程を包含する。そのイオン交換工程では、前記処理前リチウム含有溶液を、前記イオン交換樹脂が内蔵されたカラムに通液して、あらかじめ定められた金属元素を除去する。そして前記処理前リチウム含有溶液のうち、前記カラムに通液し始めてからあらかじめ定められた量の処理前リチウム含有溶液をリチウム含有溶液に含めない。
【0012】
イオン交換工程でカラムへの通液開始からあらかじめ定められた量の処理前リチウム含有溶液をリチウム含有溶液に含めないことにより、処理前リチウム含有溶液の廃棄量を抑制しながら、初期段階の通液に含まれる、除去すべき金属元素を除去することができ、リチウム含有溶液における除去すべき金属の含有量を減らすことができる。
【0013】
また、リチウム含有溶液の製造方法においては、前記イオン交換樹脂が、イミノ二酢酸型キレート樹脂であり、該イミノ二酢酸型キレート樹脂の官能基がナトリウム型であることが好ましい。これにより、イオン交換工程における溶液の性状が安定し、除去すべき金属元素の除去の確実性が向上する。
【0014】
また、前記あらかじめ定められた量は、BV4以下であることが好ましい。これにより、リチウム含有溶液の廃棄量をより抑制して、高純度のリチウム含有溶液の取得率を上げることができる。
【0015】
また、前記処理前リチウム含有溶液のpHが、7以上11以下であることが好ましい。除去すべき金属元素のうちカルシウムの除去をさらに確実に行うことができる。
【0016】
また、本発明に係る水酸化リチウムの製造方法は、上記のいずれかのリチウム含有溶液の製造方法により製造されたリチウム含有溶液を用いて水酸化リチウムを製造する水酸化リチウムの製造方法であって、該水酸化リチウムの製造方法は、水酸化リチウム含有溶液から固体水酸化リチウムを得る晶析工程と、前記固体水酸化リチウムを洗浄液体で洗浄する洗浄工程と、を包含し、前記洗浄液体が、あらかじめ定められた溶解度以上の水酸化リチウム溶液であることが好ましい。これにより、得られた結晶が再度溶解することを抑制でき、水酸化リチウムの結晶を無駄なく獲得することができる。
【0017】
また、前記洗浄液体が、飽和水酸化リチウム溶液であることが好ましい。これにより、晶析した結晶が再度溶解することがなくなり、水酸化リチウムの結晶をさらに無駄なく獲得することができる。、
【0018】
(リチウム含有溶液の製造方法の一実施形態を含む水酸化リチウム含有溶液の製造方法)
図1には、本発明の一実施形態に係るリチウム含有溶液の製造方法を含む水酸化リチウム含有溶液の製造方法のフロー図を示す。本実施形態のリチウム含有溶液の製造方法の前後に設けられる工程は、特に限定されないが、例えば以下に示すような工程が前後に設けられることにより、純度の高い水酸化リチウム含有溶液を得ることが可能となる。
<中和工程>
図1には、本発明の一実施形態に係るリチウム含有溶液の製造方法を含む水酸化リチウム含有溶液の製造方法のフロー図を示す。
図1に示す中和工程は、本実施形態に係るリチウム含有溶液の製造方法の上流側に設けられることが好ましい。この中和工程は、粗リチウム含有溶液にアルカリを添加し、中和後液である処理前リチウム含有溶液を得る工程である。この工程により、例えば塩化リチウム以外の不純物を含んだ中和澱物が得られる。ここで粗リチウム含有溶液とは、この液体を晶析した際にリチウム化合物が含まれている溶液を言う。たとえば、炭酸リチウムと塩酸とを反応させて得られた溶液、リチウム含有鉱石から塩酸による抽出により得られた溶液、または潅水からリチウムを選択的に吸着・分離することにより得られた溶液が該当する。なお、この粗リチウム含有溶液は、潅水からリチウムを選択的に吸着・分離することにより得られた溶液が好ましい。
【0019】
中和工程では、アルカリを添加してリチウム以外の金属を除去する。イオン交換樹脂は、主に2価以上の金属イオンを除去するために用いられる。しかし、2価以上の金属イオンが、イオン交換樹脂に接する前の液体に非常に多く含まれていると、イオン交換樹脂を頻繁に交換する必要が生じる。しかし、イオン交換樹脂は高価であるため、水酸化リチウムを製造するためのコストが上がったり、イオン交換樹脂を交換する作業の負荷が増大したりする。また、イオン交換樹脂を再生する作業の負荷も増大する。そのため、中和工程では、アルカリを添加して、リチウム以外の金属の一部を除去する。リチウム以外の金属としては、2価のマグネシウム、マンガンなどが該当する。具体的に中和工程では、例えば粗リチウム含有溶液である塩化リチウム含有溶液に、水酸化ナトリウムを加えることにより、マグネシウムおよびマンガンを、水酸化マグネシウムおよび水酸化マンガンとして沈殿させ、その沈殿物を回収することによりリチウム以外の金属を除去する。マグネシウム等を沈殿除去するには、アルカリ性であれば良いが、pHが高すぎる場合、中和剤コストが増加し、好ましくない。このため中和工程後の中和後液のpHは8.5以上12以下とすることが好ましい。
【0020】
なお、水酸化リチウム含有溶液の製造方法を構成する工程として中和工程について説明したが、本発明のリチウム含有溶液の製造方法における処理前リチウム含有溶液は、必ずしも中和工程を経て得られた処理前リチウム含有溶液である必要はない。また、中和工程以外の工程を含んで得られた処理前リチウム含有溶液であっても問題なく使用することが可能である。
【0021】
<イオン交換工程>
本発明の一実施形態に係るリチウム含有溶液の製造方法は、イオン交換工程を包含する。
図1には、水酸化リチウム含有溶液の製造方法におけるイオン交換工程の位置づけの一例が示されている。このイオン交換工程は、処理前リチウム含有溶液とイオン交換樹脂とを接触させて、リチウム含有溶液を得る工程である。イオン交換工程では、あらかじめ定められた金属元素であるカルシウム、アルミニウム、マンガン、マグネシウムの全てまたは一部が除去される。処理前リチウム含有溶液と比較すると、リチウム含有溶液に含まれるこれらの金属元素の一部または全部は少なくなる。
【0022】
ここで「処理前リチウム含有溶液」は、イオン交換工程が終わるまでの溶液を意味する言葉として使用する。すなわち、「処理前リチウム含有溶液」は、イオン交換樹脂と接触される前段階での溶液と、イオン交換樹脂と接触している段階での溶液の両方を含む。
【0023】
イオン交換樹脂とは、合成樹脂の一種であり、その分子構造の一部にイオン交換基として電離する構造を有するものをいう。イオン交換工程では、2価以上の金属イオンが除去できるイオン交換樹脂、すなわちイミノ二酢酸型キレート樹脂またはイミノ二酢酸塩型キレート樹脂が好ましい。イオン交換工程における中和後液のpHは、イオン交換樹脂により好ましい値が決定される。ただし、中和工程で得られた処理前リチウム含有溶液に対して、そのままイオン交換工程が行われるのが好ましい。
【0024】
さらに、イミノ二酢酸型キレート樹脂およびイミノ二酢酸塩型キレート樹脂の中でも、官能基がナトリウム型であることが好ましい。
【0025】
イオン交換樹脂がイミノ二酢酸型キレート樹脂であり、そのイミノ二酢酸型キレート樹脂の官能基がナトリウム型であることにより、イオン交換工程における溶液の性状が安定し、除去すべき金属元素の除去の確実性が向上する。
【0026】
本実施形態では、イオン交換樹脂と、処理前リチウム含有溶液との接触方法は、カラムを使用する方式である。このカラムを通過する処理前リチウム含有溶液の通液速度は、SV1以上SV7以下であることが好ましい。SVはSpace Velocityの略であり、単位時間(1時間)あたりの通液量(単位は以下に説明するBV)を表している。通液速度がSV1未満であると、水酸化リチウムの製造の効率が悪くなる。また、通液速度がSV7よりも大きいと、液体の流れが速くなりすぎ、金属の捕捉ができなくなる場合がある。この通液速度であることにより、2価金属であるマグネシウムとカルシウムを、より確実に除去することができる。
【0027】
また、カラムを通過する中和後液の通液量はBV10以上BV35以下であることが好ましい。BVは、Bed Volumeの略であり、カラム内のイオン交換樹脂の体積の何倍かを表す単位である。通液量がBV10未満であると、水酸化リチウムの製造の効率が悪くなる。また、通液量がBV35よりも大きいと、イオン交換樹脂による金属の捕捉容量を超える破過に至り、金属の捕捉ができなくなる場合がある。この通液量であることにより、さらに確実にマグネシウムとカルシウムとを除去することができる。
【0028】
なお、イオン交換工程において使用されたイオン交換樹脂は、再生可能である。使用後のイオン交換樹脂を、酸の水素濃度が0.3mol/L以上2.0mol/L以下の液体に浸漬させることにより、捕捉された金属が溶離する。
【0029】
本実施形態のイオン交換工程では、処理前リチウム含有溶液のうち、カラムに通液し始めてからあらかじめ定められた量の処理前リチウム含有溶液を抜き取り、この抜き取られた処理前リチウム含有溶液を、イオン交換工程後に得られるリチウム含有溶液に含めない。
【0030】
例えば、イオン交換樹脂として、官能基がナトリウム型であるにイミノ二酢酸型キレート樹脂が用いられた場合、イオン交換工程を始めた初期段階において、ナトリウムが処理前リチウム含有溶液に混入し、そのナトリウムがイオン交換工程後に得られるリチウム含有溶液に残存するという問題がある。リチウム含有溶液に残存した、リチウム以外の金属は、最終的なリチウム化合物において不純物となり、例えばこのリチウム化合物が二次電池の正極の材料として使用された場合、二次電池の寿命が短くなるなどの不具合を生じさせる。よってイオン交換工程の初期段階で混入される不純物を除去するために、カラムに通液し始めてからあらかじめ定められた量の処理前リチウム含有溶液を抜き取り、その後抜き取られた処理前リチウム含有溶液を、イオン交換工程後に得られるリチウム含有溶液に含めないようにする。例えば、処理前リチウム含有溶液が、カラムに繰り返し通液される場合、初期段階の処理前リチウム含有溶液を抜き取り、他の処理前リチウム含有溶液を繰り返し通液させる。
【0031】
イオン交換工程でカラムへの通液開始からあらかじめ定められた量の処理前リチウム含有溶液を、イオン交換工程後に得られるリチウム含有溶液に含めないことにより、処理前リチウム含有溶液の廃棄量を抑制しながら、初期段階の通液に含まれる、除去すべき金属元素を除去することができ、リチウム含有溶液における除去すべき金属の含有量を減らすことができる。
【0032】
本実施形態では、カラムに通液し始めてからあらかじめ定められた量の処理前リチウム含有溶液が抜き取られるが、この抜き取られるあらかじめ定められた量は、BV4よりも小さいことが好ましい。これにより、リチウム含有溶液の廃棄量を抑制し、高純度のリチウム含有溶液の取得率を上げることができる。
【0033】
また、本実施形態では、処理前リチウム含有溶液のpHが7以上11以下であることが好ましい。イオン交換樹脂のうち、キレート樹脂はpHが高いと吸着効率が上がるpH依存性がある。そのため、pHが7より小さい場合、カルシウムの吸着除去ができなくなる。また、pHが11よりも大きい場合、共吸着されるLiの吸着量が増加する。すなわちLiのロスが増加する。さらにNaOHなどの中和剤の使用量が増加してコストが増加する。処理前リチウム含有溶液のpHが7以上11以下であることにより、除去すべき金属元素のうちカルシウムの除去をさらに確実に行うことができる。
【0034】
<転換工程>
図1に示すように、本実施形態に係るリチウム含有溶液の製造方法により得られたリチウム含有溶液は、例えば転換工程において、リチウム含有溶液に含まれる、塩化リチウムなどのリチウム化合物を水酸化リチウムに転換し、水酸化リチウムが溶解している水酸化リチウム含有液を得る。以下の説明では、リチウム含有溶液に含まれるリチウム化合物が塩化リチウムであるとして説明する。
【0035】
リチウム含有溶液内のリチウム化合物が塩化リチウムの場合、リチウム含有溶液には塩化リチウムが溶解している。本工程では、たとえばバイポーラ膜を用いた電気透析でこれらの液体を、水酸化リチウムを含有する水酸化リチウム含有液と、塩酸とに転換する。すなわち、電気透析を行うことにより、リチウム含有溶液中の塩化リチウムが分解され、塩化リチウムのリチウムイオンが、カチオン膜を通過して、水酸化物イオンと結びつき、水酸化リチウムとなり、たとえば塩化物イオンが、アニオン膜を通過して塩酸となる。回収した塩酸は溶離工程にリサイクルすることが可能である。これにより塩酸の使用量を減らすことができる。
【0036】
なお、転換工程には、バイポーラ膜を用いた電気透析以外に、たとえばイオン交換膜を用いた電気透析が該当する。イオン交換膜として陽イオン交換膜が用いられた場合、陰極室に水酸化リチウムが生成される。
【0037】
(本発明の一実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法)
図2には、本発明の一実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法のフロー図を示す。
図2に示すように、以下に説明する水酸化リチウムの製造方法は、
図1に示す水酸化リチウム含有溶液の製造方法で製造された水酸化リチウム含有溶液から晶析工程と洗浄工程とを追加した構成である。水酸化リチウム含有溶液を得るための工程は、
図1に示す製造方法と同じであるので、その説明を省略する。
【0038】
<晶析工程>
晶析工程では、水酸化リチウム含有液に溶解している水酸化リチウムを固形化することで、固体水酸化リチウムが得られる。この固体水酸化リチウムと合わせて、晶析母液が得られる。転換工程では、リチウムが水酸化リチウムになるとともに、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属も水酸化物となる。よってこれらも転換工程で得られる水酸化リチウム含有液に含まれる。さらに、リチウム含有溶液に含まれるリチウム化合物が塩化リチウムである場合、アニオンである塩素イオンも膜を通して、水酸化リチウム含有液に含まれる。晶析工程では各水酸化物の溶解度の違いを利用し、水酸化リチウムの固形化を行うとともに、含有する不純物を分離する。
【0039】
晶析工程では水酸化リチウム含有液が加熱濃縮される。この際液中に含有する金属イオン濃度が上昇し、最初に比較的溶解度の低い水酸化リチウムが析出固化する。この析出した水酸化リチウムは、固体水酸化リチウムとして回収される。この際、比較的溶解度の高い水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムは、析出させずに液体中に残存させる。これにより回収された水酸化リチウムの純度が上がる。
【0040】
たとえば60℃ における、水酸化リチウムの溶解度は13.2g/100g-水であり、水酸化ナトリウムの174g/100g-水、水酸化カリウムの154g/100g-水と比較すると、水酸化リチウムの溶解度が極めて低いことがわかる。塩素イオンは加熱濃縮操作を行っている際も2g/Lであることから、アルカリ金属の塩化物として水酸化リチウム中に析出することはない。
【0041】
晶析工程は、工業的には晶析缶を用いた連続晶析で行うことが可能である。また、バッチ晶析で行うこともできる。晶析工程で発生する晶析母液は濃いアルカリ溶液である。なおこの晶析母液には、溶解度分の水酸化リチウムが含まれるため、中和工程以前の工程に繰り返すことで、リチウムの回収率が上がる。加えて中和剤のコストが下がる。
【0042】
<洗浄工程>
晶析工程で得られた固体水酸化リチウムを回収する際、固体水酸化リチウムに晶析母液が付着している場合がある。
図2に示すように、本実施形態では、晶析工程で得られた固体水酸化リチウム(洗浄工程前)を、洗浄液体で洗浄し、固体水酸化リチウム(洗浄工程前)に付着した晶析母液を洗い流すことで、固体水酸化リチウム(洗浄工程後)が得られる。
【0043】
本実施形態では、洗浄工程で用いられる洗浄液体は、あらかじめ定められた溶解度以上の水酸化リチウム含有溶液である。例えば、0℃における水酸化リチウムの溶解度は、12g/100g-水であるので、それよりも低い10g/100gの溶解度の水酸化リチウム含有溶液が好ましい。さらに、洗浄液体は、飽和水酸化リチウム溶液であることが好ましい。
【0044】
晶析工程後の洗浄工程において、所定の溶解度以上の水酸化リチウム含有溶液を用いることで、得られた結晶が再度溶解することを抑制でき、水酸化リチウムの結晶を無駄なく獲得することができる。
【0045】
洗浄液体が飽和水酸化リチウム溶液であることにより、晶析した結晶が再度溶解することがなくなり、水酸化リチウムの結晶をさらに無駄なく獲得することができる。
【0046】
(その他)
本発明に係る水酸化リチウムの製造方法では、
図1に示す水酸化リチウム含有溶液の製造方法で得られた水酸化リチウム含有溶液を用いるように説明したが、特にこれに限定されない。水酸化リチウムを含有する溶液であれば、本発明に係る水酸化リチウムの製造方法を適用することは可能である。
【実施例0047】
以下に本発明に係るリチウム含有溶液の製造方法の具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
<イオン交換工程の前段階>
処理前リチウム含有溶液として、中和工程等を経て表1に示す組成の塩化リチウム含有溶液が準備された。
【0049】
【0050】
<イオン交換工程>
イオン交換樹脂が内蔵されたカラムが準備された。イオン交換樹脂は、イミノ二酢酸型のイオン交換樹脂であり、官能基がナトリウム型であるもの(アンバーライトIRC743)が用いられた。このカラムに対して、pHが8.2に調整された処理前リチウム含有溶液を、SV(Space Velocity)5で、BV(Bed Volume)30だけ通液した。その際、BV1ごとに処理前リチウム含有溶液の一部を抜き取り、BV1ごとのリチウムおよびナトリウムの液中濃度を測定した。その測定結果を
図3に示す。また、通液をし始めてBV3だけ処理前リチウム含有溶液を抜き取り、その後回収したBV4からBV30までのリチウム含有溶液全体の組成を表2に示す。
【0051】
【0052】
図3に示すように、BV1~BV3までの間に、ナトリウムの液中の濃度が高くなっていることがわかる。これは、キレート樹脂の官能基のナトリウムが溶出しているためであると推測できる。そして、本実施例では、このBV3までの処理前リチウム含有溶液を抜き取り、BV4からBV30までのリチウム含有溶液の組成が測定された。イオン交換工程を経ることで、2価の金属元素であるCaの液中濃度が少なくなるのに対し、Naの濃度の上昇を抑制できたことがわかる。なお
図3において、LiがBV1、BV2では少なくなっているが、これは、カラムの隙間にあった液が押し出されたり、キレート樹脂がNaの代わりにLiを取り込んだりしたためと推測できる。
【0053】
<イオン交換工程の後段階>
イオン交換工程で得られたリチウム含有溶液を用いて、転換工程が実施され、不純物の少ない水酸化リチウム含有溶液が得られた。
【0054】
(比較例1)
処理前リチウム含有溶液をカラムに通液し、特に処理前リチウム含有溶液を抜き取ることをせずに、リチウム含有溶液が得られた。その他の条件は実施例1と同じである。この場合のリチウム含有溶液全体の金属の液中濃度を測定した結果を表3に示す。
【0055】
【0056】
イオン交換工程によりCaの液中濃度が少なくなるのは実施例1と同じであるが、初期通液を除かなかったため、Naの濃度が上昇してしまったことがわかる。