(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066196
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】検出装置、気体分析装置及び検出装置の使用方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/624 20210101AFI20230508BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
G01N27/624
H01J49/16 800
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176776
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】氏本 勝也
(72)【発明者】
【氏名】丹 国広
(72)【発明者】
【氏名】窪田 進一
(72)【発明者】
【氏名】岸川 準
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA02
2G041DA10
2G041EA05
2G041GA29
2G041KA03
(57)【要約】
【課題】検出感度を向上することができる検出装置、気体分析装置及び検出装置の使用方法を提供する。
【解決手段】検出装置は、コロナ放電により気体をイオン化するイオン化部と、前記イオン化部によりイオン化されたイオンの一部を選択的に透過させるイオンフィルタと、前記イオン化部によりイオン化され、かつ前記イオンフィルタを透過したイオンが衝突するイオン検出電極と、前記コロナ放電により生じたイオンの一部を選択的に排出する排出部と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナ放電により気体をイオン化するイオン化部と、
前記イオン化部によりイオン化されたイオンの一部を選択的に透過させるイオンフィルタと、
前記イオン化部によりイオン化され、かつ前記イオンフィルタを透過したイオンが衝突するイオン検出電極と、
前記コロナ放電により生じたイオンの一部を選択的に排出する排出部と、
を有することを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記排出部は、
前記イオンフィルタに形成された第1排気口と、
前記排出部に形成され、前記第1排気口に連通する第2排気口と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記イオン化部は、
放電針と、
前記第1排気口の内側に設けられた接地電極と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記排出部から排出されるイオンを前記第1排気口に誘導する誘導部を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の検出装置。
【請求項5】
支持層と、前記支持層の上に形成された絶縁層と、前記絶縁層の上に形成された活性層と、を備えた積層体を有し、
前記誘導部は、前記支持層及び前記絶縁層に形成され、
前記イオンフィルタは、前記活性層に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記積層体は、前記活性層をシリコン層とするシリコン・オン・インシュレータ基板であることを特徴とする請求項5に記載の検出装置。
【請求項7】
前記イオン化部は、
放電針と、
前記放電針よりも前記イオンフィルタ側に設けられた接地電極と、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の検出装置。
【請求項8】
前記イオンフィルタは、互いに対向する第1電極及び第2電極を有し、前記第1電極と前記第2電極との間を通過するイオンの移動度を制御することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の検出装置。
【請求項9】
前記排出部から排出されるイオンは、NOx
-であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の検出装置。
【請求項10】
前記排出部から、前記コロナ放電により生じたNOxの分子も排出されることを特徴とする請求項9に記載の検出装置。
【請求項11】
便器に備えられる気体分析装置であって、
大便から発せられる気体を前記気体として用い、前記大便から発せられる気体の分析を行う請求項1乃至10のいずれか1項に記載の検出装置を有することを特徴とする気体分析装置。
【請求項12】
コロナ放電により気体をイオン化するイオン化部と、
前記イオン化部によりイオン化されたイオンの一部を選択的に透過させるイオンフィルタと、
前記イオン化部によりイオン化され、かつ前記イオンフィルタを透過したイオンが衝突するイオン検出電極と、
を有する検出装置の使用方法であって、
前記気体を供給せずに、前記イオン化部によりコロナ放電を生じさせる工程と、
前記コロナ放電により生じたイオンの一部を選択的に排出する工程と、
前記コロナ放電により生じたイオンの他の一部を、前記イオンフィルタを通じて前記イオン検出電極に衝突させる工程と、
前記イオン検出電極に接続されたイオン電流検出回路を用いて、前記イオン検出電極で発生した電流を検出する工程と、
前記イオン電流検出回路による検出の結果に応じて、前記イオン電流検出回路の設定を調整する工程と、
を有することを特徴とする検出装置の使用方法。
【請求項13】
前記排出するイオンは、NOx
-であることを特徴とする請求項12に記載の検出装置の使用方法。
【請求項14】
前記コロナ放電により生じたNOxの分子を、前記NOx
-と共に排出する工程を有することを特徴とする請求項13に記載の検出装置の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置、気体分析装置及び検出装置の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電界非対称波形イオン移動度分光分析(Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometry:FAIMS)システムによる分子の検出及び分析について種々の検討が行われている。FAIMSシステムは、非対称の交流信号が印加される1対の電極を備えたイオンフィルタを有しており、イオン化した気体の分子をイオンフィルタに流すと、その移動度の差によって選別される。イオンフィルタを通過したイオンをイオン検出電極に衝突させ、イオン検出電極で発生した電流を検出することで、気体の成分を特定できる。
【0003】
気体の分子をイオン化する方法として、コロナ放電を用いる方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、コロナ放電によりイオン化した気体の分子をFAIMSシステムに用いた場合、十分な検出感度が得られない。
【0005】
本発明は、検出感度を向上することができる検出装置、気体分析装置及び検出装置の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の技術の一態様によれば、検出装置は、コロナ放電により気体をイオン化するイオン化部と、前記イオン化部によりイオン化されたイオンの一部を選択的に透過させるイオンフィルタと、前記イオン化部によりイオン化され、かつ前記イオンフィルタを透過したイオンが衝突するイオン検出電極と、前記コロナ放電により生じたイオンの一部を選択的に排出する排出部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、検出感度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】イオンフィルタの一例におけるイオンの移動の軌跡を示す図である。
【
図2】イオンの移動度の電界強度依存性を示す図である。
【
図3】イオンフィルタで発生する電界波形の一例を示す図である。
【
図4】第1実施形態に係る検出装置を示す模式図である。
【
図5】第1実施形態におけるイオナイザ、イオンフィルタ及びイオン検出電極を示す断面図である。
【
図6】
図3に示す電界波形の一例を実現するための非対称電圧波形の一例を示す図である。
【
図7】
図3に示す電界波形の一例を実現するための非対称電圧波形の他の一例を示す図である。
【
図8】第2実施形態におけるイオナイザ、イオンフィルタ及びイオン検出電極を示す断面図である。
【
図9】第3実施形態におけるイオナイザ、イオンフィルタ及びイオン検出電極を示す断面図である。
【
図10】第4実施形態におけるイオナイザ、イオンフィルタ及びイオン検出電極を示す断面図である。
【
図11】第5実施形態に係るトイレ装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。
【0010】
(イオン検出装置)
まず、FAIMSシステムに用いられるイオンフィルタの構成及び基本原理について説明する。
図1は、イオンフィルタの一例におけるイオンの移動の軌跡を示す図である。
図2は、イオンの移動度の電界強度依存性を示す図である。
図3は、イオンフィルタで発生する電界波形の一例を示す図である。
【0011】
図1に示すように、イオンフィルタ120Aは、互いに対向する第1電極121A及び第2電極122Aを有する。イオンフィルタ120Aの後段に、例えばイオン検出電極130Aが配置される。
【0012】
イオン検出電極130Aには、イオン電流検出回路が接続される。イオン検出電極130Aに衝突したイオンの量に応じて電流が発生し、この電流がイオン電流検出回路により検出される。なお、ここでは、XYZ3次元直交座標系を用い、被分析分子の進行方向を+Z方向とし、第1電極121Aから第2電極122Aが見える方向を+Y方向とし、+Y方向及び+Z方向に直交する方向を+X方向とする。
【0013】
イオンは、電界Eの環境下では次の(1)式で示される移動速度Vで移動する。ここで、Kは、該イオンの移動度である。
V=K×E ・・・ (1)
【0014】
ところで、イオンの移動度には電界強度依存性がある。そして、この電界強度依存性は、イオンの種類によって異なっている。
図2には、一例として、種類が異なる3つのイオン(イオン11、イオン12、イオン13)における移動度の電界強度依存性が示されている。なお、
図2では、分かりやすくするため、各イオンの移動度が電界強度0で等しくなるように正規化されている。
【0015】
3つのイオン(イオン11、イオン12、イオン13)の移動度は、電界強度が9kV/cm以下の低電界強度ではほぼ変化なしである。電界強度が約10kV/cmから増すにつれてイオンの種類固有の特性が移動度に現れる。イオン11の移動度は、電界強度が増加するに従って大きく増加し、正の高電界(Emax)で最大となる。イオン12の移動度は電界強度によらずほとんど変化しない。イオン13の移動度は、緩やかに減少する。このように三者三様の特性を示している。イオンフィルタ120Aは、低電界強度での移動度と高電界強度での移動度との違いを利用してイオンの選別を行う。
【0016】
図1には、イオンフィルタ120Aの第1電極121Aと第2電極122Aとの間における3つのイオン(イオン11、イオン12、イオン13)の移動の軌跡が示されている。なお、ここでは、分かりやすくするため、便宜的に、第1電極121A及び第2電極122Aを導電体でできた平行平板としている。
【0017】
第1電極121Aと第2電極122Aとの間に発生する電界の波形を非対称電界波形とすることによって、任意のイオン(
図1では、イオン12)のみをイオン検出電極130Aに到達させることができる。
【0018】
図3には、第1電極121Aと第2電極122Aとの間に発生させる電界波形の一例が示されている。この電界波形は、正の高電界(Emax)と負の低電界(Emin)を交互に繰り返している。そして、高電界の期間(t1)は低電界の期間(t2)よりも短く、t1とt2との比は1:3~1:5である。このように電界波形は、上下に関して非対称である。この非対称電界波形は、時間平均電界が零であり、次の(2)式が成り立つように設定されている。
|Emax|×t1=|Emin|×t2 ・・・ (2)
【0019】
すなわち、
図3における領域21の面積と領域22の面積が一致するように設定されている。
【0020】
なお、以下では、次の(3)式に示されるように、|Emax|×t1の値、及び|Emin|×t2の値をβとする。
|Emax|×t1=|Emin|×t2=β ・・・ (3)
【0021】
ところで、高電界の期間(t1)に、イオンがY軸方向に関して移動する速度(Vup)は、次の(4)式で示される。ここで、K(Emax)は、高電界(Emax)のときのイオンの移動度である。
Vup=K(Emax)×|Emax| ・・・ (4)
【0022】
例えば、|Emax|が約10kV/cm以上の場合、3つのイオン(イオン11、イオン12、イオン13)では、イオン毎に移動度が異なるので、3つのイオンの移動速度(Vup)は三者三様に異なる。すなわち、
図1に示されるように、高電界の期間(t1)では、3つのイオンの移動軌跡の傾斜は互いに異なっている。
【0023】
そして、高電界の期間(t1)に、イオンがY軸方向に関して移動した距離である変位(yup)は、次の(5)式で示される。
yup=Vup×t1 ・・・ (5)
【0024】
一方、低電界の期間(t2)に、イオンがY軸方向に関して移動する速度(Vdown)は、次の(6)式で示される。ここで、K(Emin)は、低電界(Emin)のときのイオンの移動度である。
Vdown=-K(Emin)×|Emin| ・・・ (6)
【0025】
例えば、|Emin|が約5kV/cm以下の場合、3つのイオン(イオン11、イオン12、イオン13)では、移動度がほぼ同一であるので、3つのイオンの移動速度(Vdown)はほぼ同一である。すなわち、
図1に示されるように、低電界の期間(t2)では、3つのイオンの移動軌跡の傾斜はほぼ同じである。
【0026】
そして、低電界の期間(t2)に、イオンがY軸方向に関して移動した距離である変位(ydown)は、次の(7)式で示される。
ydown=Vdown×t2 ・・・ (7)
【0027】
非対称電界波形の1周期(T)内では、イオンは、+Z方向に移動しつつ、期間(t1)の間に+Y方向に移動し、期間(t2)の間に-Y方向に移動する。
【0028】
そこで、
図1に示されるように、ジグザグ運動を繰り返しながら第1電極121Aに向かうもの(イオン11)と、ジグザグ運動を繰り返しながら第2電極122Aに向かうもの(イオン13)と、+Y方向の変位と-Y方向の変位とが釣り合い、イオン検出電極130Aに向かうもの(イオン12)とに分類される。
【0029】
ところで、非対称電界波形における1周期(T)での、イオンのY軸方向に関する平均変位(ΔyRF)は、次の(8)式で表される。
ΔyRF=yup+ydown
=K(Emax)×|Emax|×t1-K(Emin)×|Emin|×t2
・・・ (8)
【0030】
そして、上記(8)式は、上記(3)式を用いて次の(9)式のように表すことができる。
ΔyRF=β{K(Emax)-K(min)} ・・・ (9)
【0031】
ここで、K(Emax)-K(min)をΔKとおくと、上記(9)式は次の(10)式のように表される。
ΔyRF=βΔK ・・・ (10)
【0032】
βは第1電極121Aと第2電極122Aとの間に印加される非対称電界で決まる定数である。そこで、非対称電界波形の1周期(T)あたりのイオンのY軸方向に関する変位は、低電界(Emin)での移動度と高電界(Emax)での移動度の差分であるΔKに依存する。
【0033】
キャリアガスだけがイオンをZ軸方向に移送させると仮定すると、イオンが第1電極121Aと第2電極122Aとの間に滞在しているときの、該イオンのY軸方向に関する変位(Y)は、次の(11)式で示される。ここで、tresは、イオンが第1電極121Aと第2電極122Aとの間に滞在している平均時間(平均イオン滞在時間)である。
【0034】
【0035】
平均イオン滞在時間tresは、次の(12)式で表される。ここで、Aはイオンフィルタ120Aにおけるイオンパスの断面積、LはZ軸方向に関する電極の長さ(電極深さ)、Qはキャリアガスの容積流量である。Vはイオンフィルタ120Aの容積(=A×L)である。
【0036】
【0037】
上記(11)式は、上記(12)式及び上記(3)式を用いて、次の(13)式のように表すことができる。ここで、Dは非対称電界波形のデューティであり、D=t1/Tである。
【0038】
【0039】
非対称電界波形における高電界(Emax)、イオンフィルタ120Aにおけるイオンパスの容積(V)、非対称電界波形のデューティ(D)、及びキャリアガスの容積流量(Q)について、すべてのイオン種に対して同一の値を用いると、上記(13)式から、変位(Y)は、イオン種固有の低電界(Emin)での移動度と高電界(Emax)での移動度との差分ΔKに比例することがわかる。
【0040】
なお、
図1ではイオン12の変位(Y)が最小であり、イオン12のみがイオン検出電極130Aに到達しているが、デューティ(D)を変化させることによってイオン12とは異なるΔKを有するイオンをイオン検出電極130Aに到達させることができる。さらに、デューティ(D)を小刻みに変化させていくことで、ΔKが異なる様々なイオンの有無や量を検出することができる。
【0041】
デューティ(D)を一定としながら、高電界(Emax)と低電界(Emin)との差である分散電圧(VDF)を変化させることでも、ΔKが異なる様々なイオンの有無や量を検出することができる。
【0042】
また、非対称電界波形に低強度のDC電界を重畳することで、ΔKが異なる様々なイオン種を検出することができる。この方法によると、期間(t1)及び期間(t2)でのY軸方向に関する変位量を変化させることができる。そこで、第1電極121A又は第2電極122Aに接触せずにイオン検出電極130Aに到達することができるイオン種を連続的に変えることができる。なお、非対称電界波形に重畳するDC電界は補償電圧(compensation voltages:CV)とよばれている。この方法では、補償電圧を掃引してΔKが異なる様々なイオン種の有無や量を検出する。
【0043】
前述の分散電圧及び補償電圧を様々な値で組み合わせた条件でイオン検出量のデータを取ることによって、様々なイオン種の有無をより正確に分析することが可能となる。
【0044】
ところで、イオン検出電極130Aに到達する前に第1電極121A又は第2電極122Aに接触したイオンは、中和されてイオンでなくなり検出されない。
【0045】
このように、イオンフィルタ120Aを用いてイオンを選択的にイオン検出電極130Aに到達させることができる。
【0046】
(第1実施形態)
次に、第1実施形態について説明する。第1の実施形態は、FAIMSシステムを応用した検出装置に関する。
図4は、第1実施形態に係る検出装置を示す模式図である。
図5は、第1実施形態におけるイオナイザ、イオンフィルタ及びイオン検出電極を示す断面図である。
【0047】
図4及び
図5に示すように、第1実施形態に係る検出装置100は、イオナイザ110と、イオンフィルタ120と、イオン検出電極130と、筐体140と、排出部150とを有する。イオナイザ110、イオンフィルタ120及びイオン検出電極130は筐体140に収容されている。筐体140の入口141から出口142に向けて、イオナイザ110、イオンフィルタ120及びイオン検出電極130がこの順に並んで配置されている。検出装置100は、更に、イオン電流検出回路161と、非対称波形信号発生回路162と、補償電圧発生回路163とを有する。
【0048】
イオンフィルタ120は、矩形板状の形状を有し、第1電極121と、第2電極122とを備える。第1電極121及び第2電極122の材料は、例えば、金属又は不純物により導電性を付与された半導体である。第1電極121及び第2電極122は、櫛歯状に交互に配置されており、板面に平行な方向で互いに対向している。第1電極121と第2電極122との間には、例えば10μm~50μm程度の隙間が存在する。板面に垂直な方向から見たときのイオンフィルタ120の中心に円筒状の第1開口151が形成されている。第1開口151の直径は、例えば1mm程度である。第1開口151は、第1電極121及び第2電極122の両方にわたって形成されている。第1開口151は第1排気口の一例である。
【0049】
第1電極121及び第2電極122に、非対称波形信号発生回路162及び補償電圧発生回路163が接続されている。非対称波形信号発生回路162は、
図3に示す非対称電界波形の一例を実現するための非対称電圧波形の信号を第1電極121及び第2電極122に供給する。第1電極121には、非対称波形信号発生回路162から信号P1が供給され、第2電極122には、非対称波形信号発生回路162から信号P2が供給される。補償電圧発生回路163は、オフセット電圧及び補償電圧を第1電極121及び第2電極122に供給する。第1電極121には、補償電圧発生回路163から信号CV1が供給され、第2電極122には、補償電圧発生回路163から信号CV2が供給される。
【0050】
ここで、非対称電圧波形の信号について説明する。
図6は、
図3に示す電界波形の一例を実現するための非対称電圧波形の一例を示す図である。
図6に示す例では、電圧が一定(ここでは0V)の信号P1を第1電極121に供給し、
図3の非対称波形電界と等しい周期T、パルス幅t1、t2を有する高周波波形信号P2を第2電極122に供給する。高周波波形信号P2の振幅は、Emax~Eminに対応するVmax~-Vminである。
【0051】
図4に示すように、信号P1及びP2はコンデンサを介して、それぞれ第1電極121及び第2電極122に供給される。このため、非対称電圧波形の交流成分だけが第1電極121及び第2電極122に伝えられる。また、信号CV1及びCV2は抵抗を介して、それぞれ第1電極121及び第2電極122に供給される。従って、第1電極121に印加される信号の平均電圧は信号CV1の電圧となり、第2電極122に印加される信号の平均電圧は信号CV2の電圧となる。
【0052】
イオナイザ110は、コロナ放電によりサンプルガスをイオン化させる。サンプルガスは、検出対象の気体分子を含む気体である。イオナイザ110は、放電針111と、接地電極112とを有する。放電針111は、イオンフィルタ120よりも入口141側に配置されている。接地電極112は第1開口151の内側に設けられている。接地電極112と第1開口151の内壁との間に隙間が存在する。放電針111と接地電極112とを通る直線は、イオンフィルタ120の板面に略垂直である。検出装置100は、放電針111に電圧を印加する電源164を有する。電源164から放電針111に電圧を印加することで、放電針111と接地電極112との間にコロナ放電が生じる。コロナ放電が生じると、周囲の窒素ガス及び酸素ガスから、NOx、NOx
-及びOH-が発生する。このとき、イオンフィルタ120の板面に平行な方向において、NOx及びNOx
-は接地電極112の近傍の領域113に集中して発生し、OH-は接地電極112から若干離れた領域114に集中して発生する。第1開口151は、イオンフィルタ120の板面に垂直な方向から見たときに、領域113と重なり、また、領域114が第1開口151の外側に位置するように形成されている。イオナイザ110はイオン化部の一例である。
【0053】
イオン検出電極130は、矩形板状の形状を有する。板面に垂直な方向から見たときのイオン検出電極130の中心に円筒状の第2開口152が形成されている。第2開口152は第1開口151に連通する。第2開口152の直径は、例えば1mm程度である。第2開口152は第2排気口の一例である。第1開口151及び第2開口152が排出部150に含まれる。
【0054】
イオン電流検出回路161は、イオン検出電極130に接続されている。イオン電流検出回路161は、イオン検出電極130に衝突したイオンの量に応じて発生する電流の大きさを検出する。
【0055】
第1実施形態に係る検出装置100では、入口141からサンプルガスが筐体140内に導入される。筐体140内に導入されたサンプルガスはイオナイザ110によりイオン化される。イオンフィルタ120の作用により、イオン化されたサンプルガス(イオン)の一部がイオン検出電極130に到達し、イオン検出電極130に衝突したイオンの量に応じて電流が発生し、この電流がイオン電流検出回路161により検出される。従って、サンプルガスに含まれる検出対象の気体分子(例えば硫化水素)のイオンのみがイオンフィルタ120を透過するように制御することで、検出対象の気体分子の量を特定することができる。また、サンプルガスは出口142から外部に排出される。
【0056】
ここで、サンプルガスのイオン化について説明する。上述のように、コロナ放電によってNOx、NOx
-及びOH-が発生する。OH-のプロトン親和力は、NOx
-のプロトン親和力よりも大きい。このため、OH-がサンプルガスからプロトンを引き抜き、サンプルガスが負イオン化する。この結果、OH-はH2O等の分子となる。一方、NOx
-はサンプルガスからプロトンを引き抜きにくく、NOx
-はイオンのまま存在する。従って、NOx
-は検出対象の気体分子の検出に寄与しない。
【0057】
また、検出装置100を用いた実際の測定の前には、検出装置100に接続されるイオン電流検出回路161の較正が行われる。この較正の際には、サンプルガスを供給せず、かつイオンフィルタ120を動作させずにコロナ放電を生じさせる。そして、このコロナ放電で発生したイオンがイオン検出電極130に衝突したときにイオン電流検出回路161により検出される電流が極力大きくなるように、イオン電流検出回路161の設定を調整する。
【0058】
較正の際に、NOx
-がイオン検出電極130に衝突すると、NOx
-の量をも反映した調整が行われることとなる。特に、NOx
-の量が支配的であると、実質的にNOx
-の量の検出に適した調整が行われることとなる。この場合、実際の測定の際には、イオンフィルタ120によってNOx
-がイオン検出電極130に衝突しないようにしても、検出対象の気体分子の量に応じた電流は小さくなってしまい、検出対象の気体分子の量を高感度で検出することができない。
【0059】
そこで、イオン電流検出回路161の較正では、排出部150を用いてNOx
-を出口142から排出し、できるだけNOx
-がイオン検出電極130に衝突しないようにする。すなわち、較正の際には、コロナ放電によってNOx
-が発生するものの、第1開口151及び第2開口152を通じてNOx
-をイオン検出電極130に衝突させずに筐体の140の出口142まで移動させ、排出する。その一方で、コロナ放電で発生したOH-を、イオンフィルタ120を通じてイオン検出電極130に衝突させ、OH-がイオン検出電極130に衝突したときに発生する電流をイオン電流検出回路161により検出する。そして、この状態で、イオン電流検出回路161により検出される電流が極力大きくなるように、イオン電流検出回路161の設定を調整する。例えば、イオン電流検出回路161における電流/電圧変換のゲインと、デジタル-アナログ変換のダイナミックレンジ及び分解能とを調整する。この調整は、主として、OH-の量に応じて行われることとなる。上記のように、サンプルガスのイオン化はOH-によって行われる。このため、イオン電流検出回路161の設定は、OH-によってイオン化されたサンプルガス(イオン)の量の検出に適するように調整される。従って、実際の測定の際には、検出対象の気体分子の量を高感度で検出することができる。
【0060】
また、実際の測定の際に、コロナ放電により生じたNOxとOH-によってイオン化されたサンプルガス(イオン)とが混ざり合うと、イオン化されたサンプルガス(イオン)にNOxがプロトンを付与して、サンプルガス(イオン)が中性化されることがある。本実施形態では、コロナ放電により生じたNOxも排出部150から排出されるため、コロナ放電により生じたNOxとOH-によってイオン化されたサンプルガス(イオン)とが混ざり合いにくい。このため、サンプルガス(イオン)の中性化を抑制し、中性化に伴う検出感度の低下を抑制することもできる。
【0061】
なお、非対称電圧波形の信号は
図6に示す例に限定されない。
図7は、
図3に示す電界波形の一例を実現するための非対称電圧波形の他の一例を示す図である。
図7に示す例では、
図3の非対称波形電界と等しい周期T、パルス幅t1、t2を有する高周波波形信号P1を第1電極121に供給し、
図3の非対称波形電界と等しい周期T、パルス幅t1、t2を有する高周波波形信号P2を第2電極122に供給する。高周波波形信号P1の振幅は、Vmin/2~-Vmax/2であり、高周波波形信号P2の振幅は、Vmax/2~-Vmin/2である。このような非対称電圧波形の信号を用いても
図3に示す電界波形の一例を実現することができる。
【0062】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、主として、接地電極の構成の点で第1実施形態と相違する。
図8は、第2実施形態におけるイオナイザ、イオンフィルタ及びイオン検出電極を示す断面図である。
【0063】
図8に示すように、第2実施形態では、接地電極112が第1開口151及び第2開口152の内側に設けられている。接地電極112と第1開口151の内壁との間に隙間が存在し、接地電極112と第2開口152の内壁との間にも隙間が存在する。
【0064】
他の構成は第1実施形態と同様である。
【0065】
第2実施形態によっても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0066】
なお、接地電極112が第2開口152の内側に設けられ、第1開口151の内側に設けられていなくてもよい。
【0067】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態は、主として、イオンフィルタの構成の点で第1実施形態と相違する。
図9は、第3実施形態におけるイオナイザ、イオンフィルタ及びイオン検出電極を示す断面図である。
【0068】
図9に示すように、第3実施形態では、イオンフィルタ120がSOI(シリコン・オン・インシュレータ)基板310に設けられている。SOI基板310は、支持層320と、絶縁層330と、活性層340とを有する。絶縁層330が支持層320の上に形成され、活性層340が絶縁層330の上に形成されている。支持層320は、例えば、導電性を備えたシリコン基板である。絶縁層330は、例えば、シリコン酸化層である。活性層340は、例えば、導電層を備えたシリコン層であり、活性層340にイオンフィルタ120が形成されている。SOI基板310は積層体の一例である。
【0069】
第1開口151に連通する第3開口153が絶縁層330に形成され、第3開口153に連通する第4開口154が支持層320に形成されている。また、第1電極121と第2電極122との間の隙間に連通する第5開口155が絶縁層330に形成され、第5開口155に連通する第6開口156が支持層320に形成されている。第3開口153及び第4開口154は誘導部の一例である。
【0070】
接地電極112は、第1開口151、第3開口153及び第4開口154の内側に設けられている。接地電極112と第1開口151の内壁との間に隙間が存在し、接地電極112と第3開口153の内壁との間に隙間が存在し、接地電極112と第4開口154の内壁との間に隙間が存在する。
【0071】
SOI基板310は、例えば、NOx及びNOx
-が集中して発生する領域113の一部又は全部が第4開口154の内側に位置し、OH-が集中して発生する領域114の一部又は全部が第6開口156の内側に位置するように、配置される。
【0072】
他の構成は第1実施形態と同様である。
【0073】
第3実施形態によっても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、支持層320により、NOx
-及びNOxと、OH-とを互いに分離しやすい。このため、NOx
-をよりイオン検出電極130に到達させにくくすることができ、また、NOxとOH-とをより混ざり合いにくくすることができる。従って、検出感度を更に向上することができる。
【0074】
なお、検出対象とする気体分子の測定の際には、支持層320に一定の電圧を印加することが好ましい。支持層320に一定の電圧を印加することで、イオン化したサンプルガスを第1電極121と第2電極122との間の隙間に誘導しやすくなる。
【0075】
接地電極112が、第1開口151、第2開口152、第3開口153及び第4開口154の内側に設けられていてもよい。
【0076】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、主として、接地電極の構成の点で第3実施形態と相違する。
図10は、第4実施形態におけるイオナイザ、イオンフィルタ及びイオン検出電極を示す断面図である。
【0077】
図10に示すように、第4実施形態では、絶縁層330が電極支持部331を有する。電極支持部331は第3開口153の内側に設けられている。そして、接地電極112が電極支持部331に支持されて第4開口154の内側に設けられている。電極支持部331と第3開口153の内壁との間に隙間が存在し、接地電極112と第4開口154の内壁との間に隙間が存在する。
【0078】
他の構成は第3実施形態と同様である。
【0079】
第4実施形態によっても第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0080】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について説明する。第5実施形態は、気体分析装置を備えたトイレ装置に関する。
図11は、第5実施形態に係るトイレ装置を示す断面図である。
【0081】
第5実施形態に係るトイレ装置200は、
図11に示すように、便器本体210と、コントロールパネル230と、便座240とを有する。便座240は便器本体210の上に載置される。
【0082】
便器本体210は、大便用の第1便鉢部211と、小便用の第2便鉢部212と、第1便鉢部211と第2便鉢部212とを区切る壁部213とを有する。第1便鉢部211の底部に大便用の便器排水路216が接続され、第2便鉢部212の底部に小便用の便器排水路218が接続されている。便器排水路216及び218は、便器本体210の底部に設けられた合流部219において互いに接続されている。
【0083】
便器排水路216は、合流部219と第1便鉢部211の底部との間にU字状の封水貯留部v15を有し、便器排水路218は、合流部219と第2便鉢部212の底部との間にU字状の封水貯留部217を有する。封水貯留部215、217のそれぞれに封水が貯留される。便器排水路216は、更に、封水貯留部215と第1便鉢部211の底部との間に設けられ、大便を保持する保持部214を有する。保持部214は、例えば、鉛直上方を向く水平面214Aを有し、水平方向に延びる。保持部214は、例えば、便座240の座面に略平行な面を有してもよい。保持部214は、例えば、便器排水路216の第1便鉢部211につながる開口に略平行な面を有してもよい。
【0084】
便器本体210は、第1便鉢部211の上端近傍に、第1便鉢部211の内面を洗浄する水等の洗浄液を排出する洗浄液ノズル221を有し、第2便鉢部212の上端近傍に、第2便鉢部212の内面を洗浄する水等の洗浄液を排出する洗浄液ノズル222を有する。
【0085】
コントロールパネル230は、吸引装置231と、分析装置232と、出力装置233と、制御装置234とを備える。
【0086】
吸引装置231には管223を介して、可動式の吸入ヘッド220が接続されている。吸入ヘッド220は、例えば、便器本体210の縁の上の第1位置と、第1便鉢部211の上端の中央近傍の第2位置との間に移動可能である。
【0087】
分析装置232は、吸引装置231によって吸引された気体の組成を分析する。分析装置232は、第1~第4実施形態のいずれかに係る検出装置を備える。
【0088】
出力装置233は、分析装置232による分析の結果を出力する。出力装置233は、例えば表示装置を備える。出力装置は、記憶媒体に出力結果を記憶させてもよく、無線又は有線の通信により外部機器に分析結果を送信してもよい。
【0089】
制御装置234は、吸引装置231、分析装置232及び出力装置233を制御する。
【0090】
トイレ装置200を用いて排便が行われると、壁部213により区切られた大便用の第1便鉢部211、小便用の第2便鉢部212に、それぞれ大便、小便が導かれる。なお、排便行為の際には、吸入ヘッド220は便器本体210の縁の上の第1位置に配置しておく。第2便鉢部212に導かれた小便は、第2便鉢部212の内面に沿って封水貯留部217まで落下する。一方、第1便鉢部211に導かれた大便は、第1便鉢部211の内面に沿って落下するが、封水貯留部215に達する前に保持部214の水平面214A上に保持される。そして、保持部214に保持された大便から発せられる気体は第1便鉢部211内に拡散していく。
【0091】
大便から発せられる気体が第1便鉢部211内に拡散した状態で、制御装置234を動作させると、吸入ヘッド220を第1便鉢部211の上端の中央近傍の第2位置に移動させ、吸引装置231が気体の吸引を開始する。すなわち、吸引装置231は、大便から発せられ、第1便鉢部211内に拡散した気体を、吸入ヘッド220及び管223を介して吸引する。そして、分析装置232が、吸引装置231によって吸引された気体に含まれるガスを分析し、出力装置233が、分析装置232による分析の結果を出力する。分析装置232による分析が終了すると、吸引装置231による気体の吸引を終了し、吸入ヘッド220を第1位置に移動させる。分析装置232は、例えば、気体に含まれるアンモニア等の化学物質の濃度を分析する。
【0092】
その後、洗浄液ノズル221から水を排出することで、第1便鉢部211が洗浄され、大便が封水貯留部215に導かれ、合流部219から外部に排出される。また、洗浄液ノズル222から水を排出することで、第2便鉢部212が洗浄され、小便が合流部219から外部に排出される。
【0093】
第5実施形態によれば、小便から発せられる気体の影響を受けずに、大便から発せられる気体の分析を行うことができる。また、第1便鉢部211と第2便鉢部212とが区切られていたとしても、大便が封水中に落下した状態で大便から発せられる気体を分析しようとする場合、大便から発せられた気体が封水に溶け込んだり、封水から発せられた気体が混入したりする。従って、大便が封水中に落下していると、大便から発せられた気体を高精度で分析することは困難である。これに対し、第5実施形態では、大便が保持部214に保持された状態で吸引装置231による吸引と、分析装置232による分析とが行われる。このため、第5実施形態によれば、封水の影響を抑制しながら、大便から発せられた気体を高精度で分析することができる。すなわち、大便から発せられた気体を、その成分比及び濃度の変化を抑制しながら、回収して高精度で分析することができる。そして、この分析結果を用いることで、被験者の体調を高精度で管理し、病気の早期発見に貢献することができる。分析装置232は気体分析装置の一例である。
【0094】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0095】
100 検出装置
110 イオナイザ
111 放電針
112 接地電極
120 イオンフィルタ
121 第1電極
122 第2電極
130 イオン検出電極
150 排出部
151 第1開口
152 第2開口
161 イオン電流検出回路
200 トイレ装置
232 分析装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0096】