(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066345
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】RTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物、繊維強化複合材料及びレドーム
(51)【国際特許分類】
C08F 222/40 20060101AFI20230508BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230508BHJP
C08F 2/40 20060101ALI20230508BHJP
H01Q 1/42 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
C08F222/40
C08J5/04
C08F2/40
H01Q1/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037690
(22)【出願日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2021176167
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】池田 多春
【テーマコード(参考)】
4F072
4J011
4J100
5J046
【Fターム(参考)】
4F072AB09
4F072AD03
4F072AE02
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH21
4F072AL11
4F072AL13
4J011NA02
4J011NA18
4J011NA19
4J011NA23
4J011NA27
4J011NB01
4J011NB06
4J100AM55P
4J100AM55Q
4J100CA04
4J100DA09
4J100DA55
4J100FA03
4J100FA28
4J100JA28
5J046AA13
5J046RA03
(57)【要約】
【課題】誘電特性に優れ、FRPを始めとする繊維強化複合材料を製造するためのRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物、さらにそれを用いた繊維強化複合材料の提供。
【解決手段】
(A-1)1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有する、下記条件で測定した粘度が20Pa・s以下であるマレイミド化合物、
(A-2)1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有する、下記条件で測定した粘度が20Pa・sを超え、かつ、25℃で流動性を示すマレイミド化合物、
(B)ラジカル重合開始剤
及び
(C)重合禁止剤
を含有するRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
測定条件:JIS Z8803:2011に記載の方法に準じ、測定温度25℃で、ブルックフィールド型回転粘度計を用い、スピンドルの回転数5rpmとする
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A-1)1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有する、下記条件で測定した粘度が20Pa・s以下であるマレイミド化合物、
(A-2)1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有する、下記条件で測定した粘度が20Pa・sを超え、かつ25℃で流動性を示すマレイミド化合物、
(B)ラジカル重合開始剤
及び
(C)重合禁止剤
を含有するRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
測定条件:JIS Z8803:2011に記載の方法に準じ、測定温度25℃で、ブルックフィールド型回転粘度計を用い、スピンドルの回転数5rpmとする
【請求項2】
下記条件で測定した粘度が3Pa・s以下である請求項1に記載のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
測定条件:JIS Z8803:2011に記載の方法に準じ、60℃の測定温度で、ブルックフィールド型回転粘度計を用い、スピンドルの回転数5rpmとする
【請求項3】
(A-1)成分が下記式(1)で示されるマレイミド化合物である請求項1または2に記載のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Aはダイマー酸骨格由来の炭化水素基を示す。)
【請求項4】
(A-2)成分が下記式(2)で示されるマレイミド化合物である請求項1~3のいずれか1項に記載のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化2】
(式(2)中、Bは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Xは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基である。nは1~100である。)
【請求項5】
式(2)中のBが下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである請求項4に記載のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化3】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【請求項6】
(A-1)と(A-2)の比率が質量基準で(A-1):(A-2)=95:5~40:60である請求項1~5のいずれか1項に記載のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物と強化繊維とから形成される繊維強化複合材料。
【請求項8】
強化繊維が石英ガラス繊維である請求項7に記載の繊維強化複合材料。
【請求項9】
請求項8に記載の繊維強化複合材料を有するレドーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物、それを用いた繊維強化複合材料及び該繊維強化複合材料を有するレドームに関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂とからなるFRP(繊維強化プラスチック)を始めとする繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂の利点を生かした材料設計ができるため、航空宇宙、スポーツ、一般産業、車載など多くの用途があり、さらに拡大している。
【0003】
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれも用いられるが、強化繊維への含浸が容易な熱硬化樹脂が用いられることが多い。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、変性(メタ)アクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂などが用いられる(例えば、特許文献1~特許文献4)。強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維などが用いられる。
【0004】
繊維強化複合材料の製造方法としては、プリプレグ法、ハンドレイアップ法、スプレーアップ法、フィラメントワインディング法、RTM(レジン・トランスファー・モールディング)法などが適用される。
【0005】
一方、近年、5Gという次世代通信システムが普及してきており、26GHz~80GHzのミリ波領域を超え、さらには6Gという次々世代の通信システムの開発も始まり、今以上の高速、大容量、低遅延通信を実現しようとしている。これらを実現するためには、3~80GHzの高周波帯用の材料が必要であり、ノイズ対策として伝送損失の低減が必須となるために、誘電特性の優れた(低比誘電率かつ低誘電正接)絶縁材料の開発が求められている。
【0006】
FRPとしても、5G関連の材料開発は必要であり、特にレドームなどの開発が必要となっている。FRPでは、特に比誘電率が重要で、具体的には低比誘電率であることが重要と考えられているが、現行使用されている材料では要求を満たすことが非常に難しくなっており、代替材料の開発が望まれている。
【0007】
近年、誘電特性の優れた熱硬化性樹脂として、ダイマージアミン骨格を有するマレイミド化合物を用いた熱硬化性樹脂組成物が報告されている(特許文献5~特許文献8)。これらの材料を、プリント配線板を中心とした基板用途に用いる記述はあるものの、FRP用途への応用に関する記述はなく、実際にこれらの材料を用いたプリプレグを用いてレドームを製造しようとしても、未硬化時のタック性によりハンドリング性に乏しくFRP用途への適用は難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-2739号公報
【特許文献2】特開2012-77124号公報
【特許文献3】国際公開第2018/105380号
【特許文献4】特開2020-94100号公報
【特許文献5】国際公開第2016/114286号
【特許文献6】特開2016-131243号公報
【特許文献7】特開2016-131244号公報
【特許文献8】特開2020-45446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、誘電特性に優れ、FRPを始めとする繊維強化複合材料を製造するためのRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物、さらにそれを用いた繊維強化複合材料及び該繊維強化複合材料を有するレドームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記熱硬化性マレイミド樹脂組成物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
<1>
(A-1)1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有する、下記条件で測定した粘度が20Pa・s以下であるマレイミド化合物、
(A-2)1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有する、下記条件で測定した粘度が20Pa・sを超え、かつ25℃で流動性を示すマレイミド化合物、
(B)ラジカル重合開始剤
及び
(C)重合禁止剤
を含有するRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
測定条件:JIS Z8803:2011に記載の方法に準じ、測定温度25℃で、ブルックフィールド型回転粘度計を用い、スピンドルの回転数5rpmとする
<2>
下記条件で測定した粘度が3Pa・s以下である<1>に記載のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
測定条件:JIS Z8803:2011に記載の方法に準じ、測定温度60℃で、ブルックフィールド型回転粘度計を用い、スピンドルの回転数5rpmとする
<3>
(A-1)成分が下記式(1)で示されるマレイミド化合物である<1>または<2>に記載のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Aはダイマー酸骨格由来の炭化水素基を示す。)
<4>
(A-2)成分が下記式(2)で示されるマレイミド化合物である<1>~<3>のいずれかに記載のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化2】
(式(2)中、Bは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Xは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基である。nは1~100である。)
<5>
式(2)中のBが下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである<4>に記載のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
【化3】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
<6>
(A-1)と(A-2)の比率が質量基準で(A-1):(A-2)=95:5~40:60である<1>~<5>のいずれかに記載のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
<7>
<1>~<6>のいずれかに記載のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物と強化繊維とから形成される繊維強化複合材料。
<8>
強化繊維が石英ガラス繊維である<7>の繊維強化複合材料。
<9>
<8>に記載の繊維強化複合材料を有するレドーム。
【発明の効果】
【0012】
本発明のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、高周波領域において比誘電率が低く誘電特性に優れる硬化物を与え、組成物の流動性は良好で成形性に優れる。従って、本発明のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物は繊維強化複合材料として有用であり、該繊維強化複合材料はレドームなどに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0014】
まず、RTM(レジン・トランスファー・モールディング)について説明する。RTMは型内に強化繊維基材を配置した後、型を閉じ、樹脂を注入し(注入工程)、強化繊維基材の繊維間に樹脂を流して型内に樹脂を充填し、樹脂を硬化させた後に、型を開いて成形物を取り出す成型方法である。このとき、注入する樹脂としては、強化繊維基材への注入工程の際、樹脂組成物が低粘度であり、かつ注入工程中で、粘度の上昇が抑えられかつ含浸性に優れることが好ましい。このとき、注入温度は室温から100℃以下であることが好ましい。
【0015】
また、注入する樹脂の粘度は低粘度であることが好ましい。具体的には室温から100℃の間で低粘度を維持しつつ、容易に増粘しない温度で注入する必要があり、注入温度での粘度が3Pa・s以下であることが好ましい。一方で、150~180℃といった高温領域では高速硬化することが求められ、これらを両立する必要がある。
したがって、本発明のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、室温から100℃の温度範囲では低粘度を維持し、かつ容易に増粘しないものであり、さらに、150~180℃の温度範囲では速やかに硬化する、という特性を備えるものである。
【0016】
本発明のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物におけるRTMは、VaRTM(バキューム・アシスタント・レジン・トランスファー・モールディング)を含むものであり、これは型内を真空吸引して樹脂を注入する真空RTMと言われている。
【0017】
[(A)特定のマレイミド化合物]
(A)成分は、(A-1)成分と(A-2)成分との2種類のマレイミド化合物であり、共に1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有する。
【0018】
ここで言う、ダイマー酸とは、植物系油脂などの天然物を原料とする炭素数18の不飽和脂肪酸の二量化によって生成された、炭素数36のジカルボン酸を主成分とする液状の二塩基酸であり、ダイマー酸は単一の骨格ではなく、複数の構造を有し、何種類かの異性体が存在する。ダイマー酸の代表的なものは直鎖型(a)、単環型(b)、芳香族環型(c)、多環型(d)という名称で分類される。
本明細書において、ダイマー酸骨格とは、このようなダイマー酸のカルボキシ基を1級アミノメチル基で置換した構造を有するダイマージアミンから誘導される基をいう。すなわち、(A)成分は、ダイマー酸骨格として、下記(a)~(d)で示される各ダイマー酸において、2つのカルボキシ基がメチレン基で置換された基を有するものが好ましい。
また、(A)成分が有するダイマー酸骨格由来の炭化水素基は、水添反応により、該ダイマー酸骨格由来の炭化水素基中の炭素-炭素二重結合が低減した構造を有するものが、硬化物の耐熱性や信頼性の観点からより好ましい。
【0019】
【0020】
[(A-1)1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有する、25℃での粘度が20Pa・s以下であるマレイミド化合物]
(A-1)成分は1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物である。(A-1)成分のマレイミド化合物は原料の入手のしやすさや、合成の安定性の観点から、1分子中に2個のマレイミド基を有するビスマレイミド化合物であることが好ましい。
【0021】
また、室温でのハンドリング性及び注入時の低粘度化のために、(A-1)成分は、25℃かつ下記測定条件で測定した粘度が20Pa・s以下であり、好ましくは1~20Pa・sであるマレイミド化合物である。
測定条件:JIS Z8803:2011に記載の方法に準じ、指定の測定温度で、ブルックフィールド型回転粘度計を用い、スピンドルの回転数5rpmとする。
なお、本明細書において、特に断りが無い限り、粘度は、上記条件において「指定の測定温度」で特定される温度で測定された値を示すものとする。
【0022】
(A-1)成分のマレイミド化合物としては、下記式(1)で示されるマレイミド化合物が好ましい。この下記式(1)で示されるマレイミド化合物は室温で低粘度であり、組成物に配合した際に室温でのハンドリング性を高めるだけなく、熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物が測定周波数4~80GHzにおいて比誘電率2.6以下、誘電正接0.004以下となり、誘電特性に優れるものとなる。なお、(A-1)成分は1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【化5】
(式(1)中、Aはダイマー酸骨格由来の炭化水素基を示す。)
【0023】
[(A-2)(A-1)以外の1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物]
(A-2)成分は1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有する、25℃での粘度が20Pa・sを超え、かつ25℃で流動性を有するマレイミド化合物であり、(A-1)成分とは異なる化合物である。
本明細書において流動性はマレイミド化合物を入れた瓶を横に傾けた時、ゆっくりでも動けば流動性を示すと言うことができ、粘度で示すと「流動性を有する」とは上記測定条件における25℃の粘度が100~1500Pa・sのものを示す。化合物及び得られる組成物のハンドリング性の観点から、(A-2)成分の粘度上限は1200Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは1000Pa・s以下である。また、(A-2)成分の粘度の下限は(A-1)成分以外であることから20Pa・sを超える粘度であるが、100Pa・s以上であることが好ましく、200Pa・s以上であることが好ましい。
【0024】
(A-2)成分のマレイミド化合物としては、下記式(2)で示されるマレイミド化合物が好ましいものとして挙げられる。この下記式(2)で示されるマレイミド化合物を使用すると、硬化後に後述する強化繊維との密着力が強く、硬化物の強靭性を高めることができ、かつ硬化物が測定周波数4~80GHzにおいて比誘電率2.6以下、誘電正接0.004以下となり、誘電特性に優れるものとなる。
【化6】
(式(2)中、Bは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Xは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、少なくとも1つはダイマー酸骨格である。nは1~100である。)
【0025】
ここで、前記式(2)中、Bは独立して環状構造を有する4価の有機基を示し、中でも下記構造式で示される4価の有機基のいずれかであることが好ましい。
【化7】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【0026】
また、前記式(2)中、Xは独立して炭素数6~200、好ましくは8~100、より好ましくは10~50の2価炭化水素基である。中でも、前記2価炭化水素基中の水素原子の1個以上が、炭素数6~200、好ましくは8~100、より好ましくは10~50のアルキル基又はアルケニル基で置換されている分岐状2価炭化水素基であることが好ましい。分岐状2価炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれでもよく、分子鎖の途中に脂環式構造又は芳香族環構造を有していてもよい。
前記分岐状2価炭化水素基として、具体的には、ダイマージアミンと呼ばれる両末端ジアミン由来の2価炭化水素基が挙げられる。なお、ダイマージアミンとは、前述の不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸など)の二量体(ダイマー酸)から誘導される化合物であり、従って、Xとしては、上記(a)~(d)で示される各ダイマー酸において、2つのカルボキシ基がメチレン基で置換された分岐状2価炭化水素基が特に好ましい。
【0027】
前記式(2)において、nは1~100であり、好ましくは1~60であり、より好ましくは1~50である。nが大きすぎると溶解性や流動性が低下し、成形性に劣るおそれがある。また、(A-2)成分は1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0028】
(A-2)成分のマレイミド化合物の数平均分子量は特に制限はないが、組成物のハンドリング性の観点から1,000~30,000が好ましく、より好ましくは1,200~10,000である。
なお、本発明中で言及する数平均分子量とは、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした数平均分子量を指すこととする。
【0029】
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.35mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperHZ4000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ3000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ2000(4.6mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL(濃度0.2質量%のTHF溶液)
【0030】
(A)成分における上記(A-1)成分と(A-2)成分の比率としては、硬化前に組成物が室温で液状であることを考慮し、質量基準で、(A-1):(A-2)=95:5~40:60であり、硬化性も考慮すると(A-1):(A-2)=93:7~45:55が好ましく、より好ましくは(A-1):(A-2)=90:10~50:50である。(A-1)の単独使用だと反応性が高すぎて、保存安定性に欠ける。
また、本発明のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物中、(A)成分の配合量は、50~99.5質量%であることが好ましく、60~99質量%であることがより好ましく、65~99質量%であることが更に好ましい。
【0031】
[(B)ラジカル重合開始剤]
(B)成分であるラジカル重合開始剤は、(A)成分であるマレイミド化合物の架橋反応や(A)成分中のマレイミド基と反応しうる反応基とのラジカル重合反応を促進するために添加するものである。
(B)成分としてはラジカル重合反応を促進するものであれば特に制限されるものではなく、ジアリルパーオキシド、ジアルキルパーオキシド、パーオキシドカーボネート、ヒドロパーオキシド等の有機過酸化物;アゾイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物などが挙げられるが、有機過酸化物が好適に用いられる。
有機過酸化物としては、ジクミルパーオキシド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシベンゾエート、ジベンゾイルパーオキシド、ジウラロイルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド等が挙げられる。
アミン化合物は、該アミン化合物中のアミノ基と(A)成分のマレイミド化合物中のマレイミド基との間で付加反応が生じるが、保存安定性が乏しい点で本発明の組成物での使用は好ましくない。また、イミダゾール化合物による重合反応も可能であるが、非常に高温での反応を必要とするものであり、生産性の観点から本発明の組成物においての使用は好ましくない。
【0032】
ラジカル重合開始剤は、(A)成分100質量部に対して0.05~10質量部配合することが好ましく、0.1~5質量部配合することがより好ましい。また、組成物中に後述するその他の熱硬化性樹脂を配合する場合は、(A)成分及びその他の熱硬化性樹脂成分の総和100質量部に対して0.05~10質量部、特に0.1~5質量部の範囲内で配合することが好ましい。上記範囲を外れると、マレイミド樹脂組成物の成形時に硬化が非常に遅くなったり速くなったりするおそれがあるため好ましくない。また、得られた硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスも悪くなるおそれがある。
(B)成分のラジカル重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
[(C)重合禁止剤]
本発明で用いる(C)成分は重合禁止剤である。重合禁止剤は、本発明のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物の保存安定性を高めるためだけでなく、室温より温度を上げて樹脂を注入する際の増粘を抑制するために配合するものであり、これらの効果を得ることができるものであれば特に制限はない。
【0034】
重合禁止剤としては、例えば、カテコール、レゾルシノール、1,4-ヒドロキノンなど一般的によく使用されるものを始め、2-メチルカテコール、3-メチルカテコール、4-メチルカテコール、2-エチルカテコール、3-エチルカテコール、4-エチルカテコール、2-プロピルカテコール、3-プロピルカテコール、4-プロピルカテコール、2-n-ブチルカテコール、3-n-ブチルカテコール、4-n-ブチルカテコール、2-tert-ブチルカテコール、3-tert-ブチルカテコール、4-tert-ブチルカテコール、3,5-ジ-tert-ブチルカテコール等のアルキルカテコール系化合物;2-メチルレゾルシノール、4-メチルレゾルシノール、2-エチルレゾルシノール、4-エチルレゾルシノール、2-プロピルレゾルシノール、4-プロピルレゾルシノール、2-n-ブチルレゾルシノール、4-n-ブチルレゾルシノール、2-tert-ブチルレゾルシノール、4-tert-ブチルレゾルシノール等のアルキルレゾルシノール系化合物;メチルヒドロキノン、エチルヒドロキノン、プロピルヒドロキノン、tert-ブチルヒドロキノン等のアルキルヒドロキノン系化合物;トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物;トリオクチルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド化合物;トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等のホスファイト化合物;2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル等のヒンダードアミン系化合物;1,4-ジヒドロキシ-2-ナフタレンスルホン酸アンモニウム、4-メトキシ-1-ナフトール等のナフタレン化合物;1,4-ナフトキノン、2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、アントロン等のナフトキノン化合物;ピロガロール、フロログルシン、4,4’-ブチリデン-ビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)等のフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
【0035】
(C)成分の重合禁止剤の含有量は(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.01~0.80質量部であり、より好ましくは0.02~0.60質量部であり、更に好ましくは0.03~0.50質量部である。
また、本発明の組成物が後述する(A)成分以外の、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂を含有する場合、(C)成分の含有量は、(A)成分及び(A)成分以外の、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂の総和(以下、両成分を合わせて単に「熱硬化性樹脂成分」という場合がある)100質量部に対して、好ましくは0.01~0.70質量部であり、より好ましくは0.02~0.60質量部であり、更に好ましくは0.03~0.50質量部である。
(A)成分100質量部に対する(C)成分の配合量が0.01質量部未満では重合禁止の効果が弱くなることがあり、0.80質量部より多くなると効果が頭打ちとなり保存安定性の向上もあまり期待できないだけでなく、硬化性に悪影響を及ぼす可能性がある。
また、(C)成分は1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0036】
[その他の添加剤]
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に必要に応じて上記(A)~(C)成分以外の各種の添加剤を配合することができる。その他の添加剤を以下に例示する。
【0037】
[マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂]
本発明ではさらに、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂を添加してもよい。
熱硬化性樹脂としてはその種類を限定するものではなく、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、(A)成分以外のマレイミド化合物を始めとする環状イミド樹脂、ユリア樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、エポキシ・シリコーンハイブリッド樹脂など(A)成分以外の各種樹脂が挙げられる。また、マレイミド基と反応しうる反応性基としては、エポキシ基、マレイミド基、水酸基、酸無水物基、アリル基やビニル基のようなアルケニル基、(メタ)アクリル基、チオール基などが挙げられる。
【0038】
反応性の観点から、熱硬化性樹脂の反応性基は、ラジカル重合を行えるものが好ましく、例えばマレイミド基、アルケニル基、(メタ)アクリル基であることが好ましく、さらに誘電特性の観点からはアルケニル基又は(メタ)アクリル基がより好ましい。
ただし、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂の配合量は、熱硬化性樹脂の総和中、0~60質量%である。
【0039】
[上記熱硬化性樹脂以外の添加剤]
上記以外に、無官能シリコーンオイル、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、無機充填材、チキソ性付与剤、光増感剤、光安定剤、難燃剤、顔料、染料、シランカップリン剤を始めとする接着助剤、離型剤、酸化防止剤、可塑剤等を配合してもよい。
【0040】
[製造方法]
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、次に示されるような方法で製造することができる。
例えば、(A-1)成分及び(A-2)成分のマレイミド化合物、(B)成分のラジカル重合開始剤及び(C)重合禁止剤を、同時に又は別々に必要により加熱処理を行いながら混合し、撹拌、溶解及び/又は分散させることで(A)~(C)成分の混合物を得ることができる。また、使用用途によっては前述のその他の成分を単独、または複数種類添加して混合してもよい。
上記製造方法では、混合、撹拌及び分散を行う装置について特に限定されない。具体的には、撹拌及び加熱装置を備えたライカイ機、2本ロール、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー、またはマスコロイダーなどを用いることができ、さらにこれらの装置を適宜組わせて使用することができる。
【0041】
[繊維強化複合材料]
本発明の組成物はRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物であり、強化繊維と組み合わせて硬化させることで繊維強化複合材料(FRP)となる。
強化繊維としては、例えば、石英ガラス、Eガラス、Tガラス、Sガラスなどのガラス繊維、アクリル、PBO、ナイロンなどの有機繊維、炭素繊維、ボロン繊維及び銅や鉄などの金属繊維などが挙げられる。強化繊維は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、不純物が少なく、誘電特性が優れる石英ガラス繊維が好ましい。
【0042】
石英ガラス繊維としては、石英クロス、石英チョップドストランド、石英不織布、石英ウールの中から選ばれることが好ましい。繊維状でもガラスクロスと呼ばれる布帛状でも石英チョップドストランドでも不織布でも石英ウールでもよいが、取扱いが容易であるなどの理由で、石英ガラスクロスを用いることがより好ましい。また、石英ガラスクロスは、平織、朱子織、綾織、などが挙げられるが、厚みの均一性などから平織、朱子織が好ましい。
石英ガラスクロスは、例えば、石英ガラスストランド及び/又は石英ガラスヤーンを用いて作製されたものである。石英ガラスストランド及び/又は石英ガラスヤーンは、上記石英ガラス繊維を50本以上500本以下束ねたものである。
【0043】
また、マレイミド樹脂組成物と石英ガラス繊維との密着性を向上するために、石英ガラス繊維表面をシランカップリング剤で処理することが好ましい。シランカップリング剤としては、エポキシ基含有アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、(メタ)アクリル基含有アルコキシシラン、及びアルケニル基含有アルコキシシラン等が挙げられる。
特に(メタ)アクリル基及び/又はアミノ基含有アルコキシシランが好適に用いられ、具体的には、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。なお、これらは1種あるいは2種以上混合して使用してもよい。また、これらに限定されるものではない。
【0044】
次に、本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物を使用したRTM法による繊維強化複合材料の製造方法について説明する。
【0045】
本発明の繊維強化複合材料は、加温した前記熱硬化性マレイミド樹脂組成物を、特定温度に加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に注入し、含浸させ、該成形型内で硬化することにより製造される。
【0046】
熱硬化性マレイミド樹脂組成物を加温する温度は、強化繊維基材への含浸性の点から、本樹脂組成物の初期粘度と粘度上昇の関係から決められるが、40~100℃が好ましく、より好ましくは50~90℃である。この際、温度と粘度の目安としては、60℃における粘度が0.01~3Pa・sであり、より好ましくは0.02~2Pa・sである。
【0047】
また、繊維強化複合材料の製造方法においては、成形型に複数の注入口を有するものを用い、マレイミド樹脂組成物を複数の注入口から同時に、または時間差を設けて順次注入するなど、得ようとする繊維強化複合材料に応じて適切な条件を選ぶことができる。注入口の数や形状に制限はないが、短時間での注入を可能にするために注入口は多い程好ましく、その配置は成形品の形状に応じて樹脂の流動長を短くできる位置が好ましい。
【0048】
マレイミド樹脂組成物のRTMでの注入圧力は通常0.1~20.0MPaであるが、成形型内を真空吸引して樹脂組成物を注入するVaRTM法も用いることができ、VaRTMの場合は注入時間と設備の経済性の点から0.1~5.0MPaが好ましい。
【0049】
強化繊維基材にマレイミド樹脂組成物が含浸された後、成形型内の温度を120~200℃、好ましくは130~190℃、時間を20~600分、好ましくは30~300分の条件で硬化することで、繊維強化複合材料が得られる。
こうして得られた繊維強化複合材料は、誘電特性と成形性に優れるため、繊維強化プラスチック(FRP)として、例えば、レドーム、通信用アンテナ、プリント基板等の用途に有用であり、特にレドームに好適に用いられる。
【0050】
レドームは雨や風などの自然環境からアンテナを保護する役割やアンテナなどを外観上隠し、接触を防ぐ役割をしている。近年、5Gという次世代通信システムが普及してきており、特に26GHz~80GHzのミリ波領域のような高周波領域での通信システム用レドームには、アンテナの保護性だけでなく、電波の送受信損失をなるべく低減させるために低比誘電率、低誘電正接である誘電特性も要求される。
また、レドームはその設置場所や目的に応じて、形状も多岐にわたるため、レドームの材料には優れた成形性も必要である。
したがって、高周波領域において比誘電率が低く誘電特性に優れる硬化物を与え、組成物の流動性は良好で成形性に優れる本発明のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物及びそれを用いた繊維強化複合材料はレドーム用の材料として好適である。
【0051】
なお、本発明の樹脂組成物はRTMに特化したものではあるが、必要に応じてハンドレイアップ法など他の成形方法に用いてもよい。また、接着剤など他の用途に使用してもよい。
【実施例0052】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0053】
[(A-1)1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有する、25℃での粘度が20Pa・s以下であるマレイミド化合物]
(A-1-1):下記式で示されるダイマー酸骨格由来の炭化水素基含有ビスマレイミド化合物(商品名:X-45-6895、信越化学工業(株)製、25℃の粘度:3.5Pa・s)
【化8】
-C
36H
70-はダイマー酸骨格由来の構造を示す。
【0054】
[(A-2)1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有する、25℃での粘度が20Pa・sを超え、かつ25℃で流動性を示すマレイミド化合物]
(A-2-1):下記式で示される流動性ダイマー酸骨格由来の炭化水素基含有ビスマレイミド化合物(商品名:X-45-1400、信越化学工業(株)製、25℃の粘度:450Pa・s、数平均分子量1500)
【化9】
-C
36H
70-はダイマー酸骨格由来の構造を示す。
n≒2(平均値)
(A-2-2):下記式で示される流動性ダイマー酸骨格由来の炭化水素基を含有ビスマレイミド化合物(商品名:X-45-1500、信越化学工業(株)製、25℃の粘度:500Pa・s、数平均分子量1500)
【化10】
n≒2(平均値)
-C
36H
70-はダイマー酸骨格由来の構造を示す。
【0055】
[(A-3)比較例用マレイミド化合物]
(A-3-1):下記式で示される非流動性ダイマー酸骨格由来の炭化水素基を含有ビスマレイミド化合物(商品名:BMI-5000、Designer Molecules Inc.製、25℃で非流動性(パウダー状)、数平均分子量10000)
【化11】
-C
36H
70-はダイマー酸骨格由来の構造を示す。
n≒10(平均値)
(A-3-2):1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン(商品名:BMI-TMH、大和化成工業(株)製、25℃で固体)
(A-3-3):ビスフェノール-A-ジフェニルエーテルビスマレイミド(商品名:BMI-4000、大和化成工業(株)製、25℃で固体)
【0056】
[(B)反応開始剤]
(B-1):2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(商品名:トリゴノックス101、化薬ヌーリオン(株)製)
(B-2):2-エチル-4-メチルイミダゾール(商品名:2E4MZ、四国化成工業(株)製、比較例用)
【0057】
[(C)重合禁止剤]
(C-1)4,4’-ブチリデン-ビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)(商品名:ANTAGE W-300、川口化学工業株式会社製)
【0058】
[(D)比較例用樹脂組成物]
(D-1):下記の方法で製造されたエポキシ樹脂組成物
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:YD-128、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)100g、メチルヘキサヒドロフタル酸とヘキサヒドロフタル酸の混合物(商品名:リカシッドMH-700、新日本理化(株)製)90g及び1,2-ジメチルイミダゾール(商品名:キュアゾール1,2-DMZ、四国化成工業(株)製)10gを500mLフラスコに入れ、室温で30分撹拌することでエポキシ樹脂組成物(D-1)を得た。
(D-2):下記の方法で製造されたエポキシ樹脂組成物
1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(商品名:1,3-BAC、三菱ガス化学(株))100g及びメタンスルホン酸(東洋紡(株)製)3gを500mLフラスコに入れ、室温で1時間撹拌した。さらに、該フラスコに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:YD-128、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)141gを加え、室温で30分撹拌することでエポキシ樹脂組成物(D-2)を得た。
(D-3):不飽和ポリエステル樹脂組成物(商品名:ユピカ4001、日本ユピカ(株)製)及び硬化促進剤(商品名:PR-D、日本ユピカ(株)製)、配合比100:1(質量比)
【0059】
<サンプルの調製、実施例1~7、比較例1~10>
表1、2の配合比で各成分を、ゲートミキサーを用いて混合し、樹脂組成物を調製した。比較例4~7に関しては、配合する成分の融点が高く、混合が難しかったので80℃で全体がなじむまで混合したが、比較例7に関しては成分の一つである(A-3-3)が溶解せず、完全に分離してしまったままであったので評価は実施しないものとした。
比較例用の樹脂組成物(D-1)~(D-3)に関しては、上記の方法で調製したものを使用した。
【0060】
<粘度、保存安定性>
JIS Z8803:2011に記載の方法に準じ、測定温度25及び60℃で、ブルックフィールド型回転粘度計を用いて、スピンドルの回転数5rpmにて粘度を測定した。続いて、各樹脂組成物を25℃、72時間放置したものを同様に測定温度25℃で粘度を測定し、保存安定性を確認することとした。また、各樹脂組成物を60℃、10分放置したものを同様に測定温度60℃で粘度を測定した。
【0061】
<誘電特性および硬化性>
70mm×70mm、200μm厚の枠を用意し、各樹脂組成物を厚さ50μmの離型処理されたPETフィルム(E7006、東洋紡製)で挟み込んで、真空プレス機(ニッコーマテリアルズ製)を用いて150℃で5分の条件で成形し、硬化物(成形フィルム)を作製した。硬化性の評価として、この条件で硬化したものを「○」、硬化しなかったものを「×」とし、硬化しなかったものは誘電特性の評価を行わないものとした。
前記成形フィルムを180℃で1時間ポストキュアし、硬化樹脂フィルムを得た後、前記硬化樹脂フィルムを用いてネットワークアナライザ(キーサイト製、製品名:E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続し、上記硬化樹脂フィルムの周波数10及び28GHzにおける比誘電率と誘電正接を測定した。
【0062】
【0063】
【表2】
*硬化が早すぎるため、150℃での成形は不可能であったため、50℃で30分の条件で硬化させ、その硬化物を用いて誘電特性を評価した。
【0064】
本発明のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物は組成物の流動性は良好で、特に室温から100℃の温度範囲では低粘度を維持し、容易に増粘せず、保存安定性に優れ、成形性に優れるものであり、その硬化物は比誘電率及び誘電正接が低く誘電特性に優れるものであった。
一方、比較例1より、(C)重合禁止剤を含まない組成物では早期に粘度が上昇し、RTM用の成形材料としては成形性に問題があることがわかった。また、比較例2~3より、(B)ラジカル重合開始剤を含まない組成物では150℃で5分間の硬化条件では硬化せず、硬化性の面からRTM用の成形材料としては不適であることがわかった。
【0065】
続いて、実施例1及び比較例1~4の各樹脂組成物を用いて下記方法により繊維強化複合材料を作製し、外観及び成形性を確認した。
<繊維強化複合材料の作製、外観および成形性>
500mm×500mm×0.8mmの板状キャビティ―を有する金型に、495mm×495mmに切り出した石英クロス(製品名:SQX-2116、信越化学工業(株)製)を4枚積層したものをセットし、型締めを行った。続いて、金型を60℃に加温した後、60℃で10分間予熱された各樹脂組成物を、樹脂注入装置を用いて、注入圧力0.2MPaで金型に注入し、石英クロスに樹脂組成物を含浸させた。その後、金型を180℃で2時間加熱し樹脂組成物を硬化した後、25℃まで冷却し繊維強化複合材料を得た。そして金型から繊維強化複合材料を取り出し、外観および成形性を確認した。
【0066】
実施例1の繊維強化複合材料は未充填やボイド等の発生がなく、外観に異常がみられなかった。一方で、比較例1の繊維強化複合材料は四隅に未充填が発生し、比較例2、3の繊維強化複合材料はそもそも樹脂組成物が未硬化で繊維強化複合材料が得られなかった。比較例4の繊維強化複合材料は未充填がなかったものの、一部ボイドが確認され、外観を満足するものではなく、さらに靭性不足から金型から取り出す際に樹脂のみが一部欠けてしまった。
【0067】
以上の結果からも、本発明のRTM成形用熱硬化性マレイミド樹脂組成物は繊維強化複合材料に好適に使用できることが確認できた。