(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066788
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】金属積層造形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/64 20210101AFI20230509BHJP
B22F 10/38 20210101ALI20230509BHJP
B22F 10/62 20210101ALI20230509BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230509BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20230509BHJP
【FI】
B22F10/64
B22F10/38
B22F10/62
C23C26/00 B
B33Y40/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177586
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】長藤 圭介
(72)【発明者】
【氏名】土屋 舜太郎
(72)【発明者】
【氏名】小沢 智大
(72)【発明者】
【氏名】高坂 博宣
(72)【発明者】
【氏名】北岡 岳史
【テーマコード(参考)】
4K018
4K044
【Fターム(参考)】
4K018AA15
4K018AA24
4K018AA30
4K018BA13
4K018BA16
4K018BA20
4K018CA44
4K018CA50
4K018EA60
4K018FA08
4K018FA23
4K018KA01
4K018KA07
4K018KA18
4K018KA70
4K044AA02
4K044AB10
4K044BA06
4K044BA08
4K044BB01
4K044BC05
4K044CA15
(57)【要約】
【課題】内部空間の内壁面を平滑化する金属積層造形品の製造方法の提供。
【解決手段】内部空間10aを有する金属積層造形品10の製造方法は、メッキ工程ST11と、加熱工程ST12とを備える。メッキ工程ST11において、金属積層造形品10の内部空間10aの内壁面10bにメッキ加工を行い、メッキ皮膜1を内壁面10b上に形成する。加熱工程ST12において、金属積層造形品10を加熱して、溶融体を内壁面10b上に生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有する金属積層造形品の製造方法であって、
前記金属積層造形品の前記内部空間の内壁面にメッキ加工を行い、メッキ皮膜を前記内壁面上に形成するメッキ工程と、
前記金属積層造形品を加熱して、溶融体を前記内壁面上に生成する加熱工程と、を備える、
金属積層造形品の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程において、前記金属積層造形品を加熱して、前記メッキ皮膜を溶融することによって、前記溶融体を前記内壁面上に生成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の金属積層造形品の製造方法。
【請求項3】
前記メッキ皮膜の融点は、前記金属積層造形品の融点と比較して低い、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属積層造形品の製造方法。
【請求項4】
前記メッキ工程を実施した後において、半田ペーストを前記メッキ皮膜上に供給する半田ペースト供給工程をさらに備え、
前記加熱工程において、前記金属積層造形品を加熱して、前記半田ペーストを溶融することによって、前記溶融体を前記内壁面上に生成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の金属積層造形品の製造方法。
【請求項5】
前記メッキ皮膜は、銀メッキ皮膜である、
ことを特徴とする請求項4に記載の金属積層造形品の製造方法。
【請求項6】
前記金属積層造形品の前記内部空間の前記内壁面において、面荒れ領域が有る場合、
前記加熱工程において、前記面荒れ領域が前記内部空間の下側に位置するように前記金属積層造形品の姿勢を保ったまま前記金属積層造形品を加熱する、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の金属積層造形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属積層造形品の製造方法に関し、特に、内部空間を有する金属積層造形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の金属積層造形品の製造方法は、3次元積層造形方法を用いて、複数の配管を有する棒状構造物を備えた金属積層造形品を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者等は、以下の課題を発見した。
3次元積層造形方法を用いて、内部空間を有する金属積層造形品を造形すると、内部空間の上側の内壁面において、表面が荒れた面荒れ領域が発生する場合がある。このような場合、面荒れ領域に応力が集中して、破損が発生し易くなることがあった。
【0005】
本発明は、上述した課題を鑑み、内部空間の内壁面を平滑化する金属積層造形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る金属積層造形品の製造方法は、
内部空間を有する金属積層造形品の製造方法であって、
前記金属積層造形品の前記内部空間の内壁面にメッキ加工を行い、メッキ皮膜を前記内壁面上に形成するメッキ工程と、
前記金属積層造形品を加熱して、溶融体を前記内壁面上に生成する加熱工程と、を備える。
【0007】
このような構成によれば、溶融体を内壁面上に生成することによって、内壁面の面荒れ領域の底に浸透させる。これによって、面荒れ領域の表面を平滑化して、応力の集中を抑制し、破損の発生を抑制する。
【0008】
また、前記加熱工程において、前記金属積層造形品を加熱して、前記メッキ皮膜を溶融することによって、前記溶融体を前記内壁面上に生成することを特徴としてもよい。
【0009】
このような構成によれば、メッキ皮膜由来の溶融体を内壁面上に生成することによって、内壁面の面荒れ領域の底に浸透させることができる。平滑な膜を面荒れ領域の表面に形成して、面荒れ領域の表面の平滑化を図ることができる。
【0010】
また、前記メッキ皮膜の融点は、前記金属積層造形品の融点と比較して低いことを特徴としてもよい。
【0011】
このような構成によれば、加熱工程において、金属積層造形品の温度を、金属積層造形品の融点よりも低い温度に設定することができる。そのため、金属積層造形品への熱影響を抑制することができる。
【0012】
また、前記メッキ工程を実施した後において、半田ペーストを前記メッキ皮膜上に供給する半田ペースト供給工程をさらに備え、
前記加熱工程において、前記金属積層造形品を加熱して、前記半田ペーストを溶融することによって、前記溶融体を前記内壁面上に生成することを特徴としてもよい。
【0013】
このような構成によれば、半田ペースト由来の溶融体を内壁面上に生成することによって、内壁面の面荒れ領域の底に浸透させることができる。平滑な膜を面荒れ領域の表面に形成して、面荒れ領域の表面の平滑化を図ることができる。また、多くの場合、半田ペーストの融点は、メッキ皮膜、及び金属積層造形品の融点よりも低い。そのため、加熱工程における金属積層造形品の温度を抑制し、金属積層造形品への熱影響を抑制することができる。
【0014】
前記メッキ皮膜は、銀メッキ皮膜であることを特徴としてもよい。
【0015】
このような構成によれば、銀メッキ皮膜と、半田ペースト由来の膜とが強固に接合するため、安定した半田ペースト由来の膜を面荒れ領域の表面に生成することができる。
【0016】
前記金属積層造形品の前記内部空間の前記内壁面において、面荒れ領域が有る場合、
前記加熱工程において、前記面荒れ領域が前記内部空間の下側に位置するように前記金属積層造形品の姿勢を保ったまま前記金属積層造形品を加熱することを特徴としてもよい。
【0017】
このような構成によれば、加熱工程において、溶融体が、内部空間の下側に位置する面荒れ領域に集中する。これによって、平滑な膜の厚みを増大して、面荒れ領域の表面の平滑化を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、内部空間の内壁面を平滑化する金属積層造形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態1に係る金属積層造形品の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】実施の形態1に係る金属積層造形品の製造方法の一部の工程を示す模式図である。
【
図3】実施の形態1に係る金属積層造形品の製造方法の一部の工程を示す模式図である。
【
図4】実施の形態1に係る金属積層造形品の製造方法の加熱工程ST12の一例における経過時間に対する温度を示すグラフである。
【
図5】実施の形態2に係る金属積層造形品の製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】実施の形態2に係る金属積層造形品の製造方法の一部の工程を示す模式図である。
【
図7】実施の形態2に係る金属積層造形品の製造方法の一部の工程を示す模式図である。
【
図8】メッキ皮膜を生成した後の金属積層造形品の内部空間を示す写真である。
【
図9】一つの実施例に係る金属積層造形品の内部空間を示す写真である。
【
図10】実施例に係る金属積層造形品の内部空間について観察した部位を示す模式図である。
【
図11】実施例に係る金属積層造形品の内部空間について観察した部位の断面を示す模式断面図である。
【
図12】メッキ皮膜を生成した後の金属積層造形品の断面についてEPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)分析の結果の一例である。
【
図13】メッキ皮膜を生成した後の金属積層造形品の断面についてEPMA分析の結果の一例の拡大図である。
【
図14】一つの実施例に係る金属積層造形品の断面についてEPMA分析の結果の一例である。
【
図15】一つの実施例に係る金属積層造形品の断面についてEPMA分析の結果の一例の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0021】
(実施の形態1)
図1~
図4を参照して実施の形態1について説明する。
図1は、実施の形態1に係る金属積層造形品の製造方法を示すフローチャートである。
図2及び
図3は、
図1に示す金属積層造形品の製造方法の一部の工程を示す模式図である。
図4は、
図1に示す加熱工程ST12の一例における経過時間に対する温度を示すグラフである。なお、当然のことながら、
図2及びその他の図面に示した右手系xyz座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。通常、z軸プラス向きが鉛直上向き、xy平面が水平面であり、図面間で共通である。
【0022】
図1及び
図2に示すように、金属積層造形品10の内部空間10aの内壁面10bにメッキ加工を行い、内部空間10aの内壁面10b上にメッキ皮膜1を形成する(メッキ工程ST11)。
【0023】
金属積層造形品10は、金属積層造形(AM:Additive Manufacturing)方法を用いて製造された造形品である。金属積層造形方法では、金属粉末を溶融して凝固させたものを、積層する。金属粉末として、多種多様な金属材料からなる粉末を利用することができる。当該金属材料は、金属積層造形方法を適用可能なものであればよく、例えば、マルエージング鋼、ダイス鋼、アルミニウム合金である。ダイス鋼には、JIS規格に定められたSKD61相当材を含む。金属積層造形品10は、内部空間10aを有する。内部空間10aは、三次元空間において仮想曲線上に延びた形状を有してもよく、例えば、回路、通路、管等である。当該仮想曲線は、屈曲部を複数備えてもよい。内部空間10aは、冷却媒体やオイルが通過してもよい。金属積層造形品10は、多種多様な製品に適用可能であるが、例えば、冷却回路又はオイル通路を含むダイカスト用金型や各種エンジン部品に好適である。三次元空間において仮想曲線上に延びた内部空間10aを有する構造物を、金属積層造形を用いて製造した場合、メルトダウンが生じて、面荒れ領域10cが内部空間10a上部に発生することがある。
【0024】
メッキ加工として、例えば、無電解メッキを利用することができる。無電解メッキは、例えば、無電解ニッケルメッキ、無電解金メッキ、無電解銀メッキ、無電解銅ニッケルメッキ、無電解パラジウムメッキ等である。具体的には、メッキ液GL1を金属積層造形品10の内部空間10aに供給して、メッキ液GL1と内壁面10bとを接触させる。メッキ液GL1は、金属イオンを含む。当該金属イオンは、メッキ皮膜1を構成する金属と同じ種類の金属原子がイオン化したものである。無電解メッキは、自己触媒型無電解メッキであってもよい。メッキ液GL1が含む金属イオンは還元されて、メッキ皮膜1が内壁面10bに析出する。メッキ液GL1には、適宜、還元剤を添加するとよい。この還元剤の添加によって、厚メッキ、すなわち、メッキ皮膜1の膜厚を増大することができる。メッキ皮膜1は、内部空間10aの内壁面10bを覆い、面荒れ領域10cも覆う。
【0025】
続いて、
図1及び
図3に示すように、金属積層造形品10を真空炉100において加熱して、溶融体を内壁面10b上に生成する(加熱工程ST12)。具体的には、面荒れ領域10cが内部空間10aの下側(ここでは、z軸マイナス方向)に位置するように、金属積層造形品10を真空炉100内に配置する。
図4に示す温度履歴曲線H1に従うように、金属積層造形品10を加熱保持し、冷却する。より具体的には、まず、真空炉100を用いて金属積層造形品10を加熱して、金属積層造形品10の温度が常温T
0から所定の温度T
1に到達するまで昇温させる。また、金属積層造形品10の温度が所定の温度T
1のまま、所定の時間t
2-t
1が経過するまで、金属積層造形品10を加熱保持する。所定の時間t
2-t
1が経過した後、金属積層造形品10を冷却し、金属積層造形品10の温度が所定の温度T
1から常温T
0に到達するまで降温させる。
【0026】
所定の温度T2、及び所定の時間t2-t1は、メッキ皮膜1を溶解して溶融体を生成可能なように、設定されるとよい。具体的には、所定の温度T2は、メッキ皮膜1の融点よりも高いとよい。より具体的には、メッキ皮膜1がニッケルからなる場合、所定の温度T2が900℃以上であるとよい。メッキ皮膜1が金からなるである場合、所定の温度T2が1064℃以上であるとよい。メッキ皮膜1が銀からなるである場合、所定の温度T2が961℃以上であるとよい。メッキ皮膜1が銅からなるである場合、所定の温度T2が1084℃以上であるとよい。メッキ皮膜1がパラジウムからなるである場合、所定の温度T2が1552℃以上であるとよい。メッキ皮膜1の融点は、金属積層造形品10の融点よりも低いとよい。所定の時間t2-t1は、メッキ皮膜1の体積に応じて決定してもよい。メッキ皮膜1を溶融することによって、溶融体を生成する。溶融体が凝固して、膜2が形成される。
【0027】
なお、加熱工程ST12を実施することによって、金属積層造形品10は熱影響を受ける場合がある。このような場合であっても、金属積層造形品10は、金属積層造形品として必要な特性、例えば、機械的強度等を維持する。所定の温度T2、及び所定の時間t2-t1は、メッキ皮膜1を溶解して、溶融体を生成可能なように、設定されるからである。また、金属積層造形品10は、メッキ皮膜1と比較して格段に大きな体積を有するからである。
【0028】
また、加熱工程ST12を実施した後、必要に応じて、金属積層造形品10の熱処理を行ってもよい。このような熱処理によって、金属積層造形品10の材質を適宜調整し、加熱工程ST12の実施による金属積層造形品10への熱影響を抑制することができる。このような熱処理は、例えば、焼き入れ処理や時効処理である。
【0029】
以上より、溶融体を内壁面10b上に生成することによって、内壁面10bの面荒れ領域10cの底に浸透させる。溶融体が凝固し、膜2が形成される。メッキ皮膜1の表面は内壁面10bの表面に倣う形状を有する。一方、膜2の表面は、溶融体の表面張力によって、メッキ皮膜1の表面から平面に近い形状へ変化する。よって、膜2は、メッキ皮膜1と比較して、平滑である。膜2は、内壁面10bを覆い、面荒れ領域10cも覆う。これによって、面荒れ領域10cの表面を平滑化して、応力の集中を抑制する。金属積層造形品10の内部空間10aの内壁面10bにおける破損の発生を抑制する。
【0030】
また、本実施の形態1に係る加熱工程ST12において、金属積層造形品10を加熱して、メッキ皮膜1を溶融することによって、溶融体を内壁面10b上に生成する。このような構成によれば、メッキ皮膜1由来の溶融体を内壁面10bに生成することによって、内壁面10bの面荒れ領域10cの底に浸透させることができる。平滑な膜2を面荒れ領域10cの表面に形成して、内部空間10aの内壁面10bの平滑化を図ることができる。
【0031】
また、本実施の形態1に係るメッキ皮膜1の融点は、金属積層造形品10の融点と比較して低い場合がある。このような場合、加熱工程ST12において金属積層造形品10の温度を抑制して、金属積層造形品10への熱影響を抑制することができる。
【0032】
(実施の形態2)
次に、
図5~
図7を参照して実施の形態2について説明する。
図5は、実施の形態2に係る金属積層造形品の製造方法を示すフローチャートである。
図6及び
図7は、
図5に示す金属積層造形品の製造方法の一部の工程を示す模式図である。
【0033】
図5及び
図6に示すように、金属積層造形品10の内部空間10aの内壁面10bに無電解銀メッキを行い、内部空間10aの内壁面10b上に銀メッキ皮膜1aを形成する(メッキ工程ST21)。メッキ工程ST21は、無電解銀メッキを行って銀メッキ皮膜1aを形成するように限定されているところを除いて、
図1及び
図2に示すメッキ工程ST11と同じ構成を備える。
【0034】
続いて、
図5及び
図7に示すように、半田ペースト2aを銀メッキ皮膜1a上に供給する(半田ペースト供給工程ST22)。
【0035】
研磨体3を用いて、半田ペースト2aを銀メッキ皮膜1a上に供給することができる。具体的には、
図7に示すように、半田ペースト2aを研磨体3に塗布する。研磨体3を第1の挟持部24と、第2の挟持部25との間に挟む。紐4の一端は第2の挟持部25に取り付けられている。紐4の一端及び他端の間には、第1の挟持部24が配置される。紐4の他端を研磨体3から離隔するように引っ張ると、紐4の一端が第2の挟持部25を研磨体3側に引っ張る。これによって、第2の挟持部25を第1の挟持部24側に接近させる。紐5は第1の挟持部24に取り付けられている。紐5の一端及び他端の間には、第2の挟持部25が配置される。紐5の他端を研磨体3から離隔するように引っ張ると、紐4の一端が第1の挟持部24を研磨体3側に引っ張る。これによって、第1の挟持部24を第2の挟持部25側に接近させる。第1の挟持部24及び第2の挟持部25を相互に接近させることによって、研磨体3を挟持する。研磨体3、第1の挟持部24、及び第2の挟持部25は、それぞれ一気通貫する孔を有し、紐4及び紐5がそれらの孔を通過してもよい。この挟持された研磨体3を金属積層造形品10の内部空間10aへ挿入することによって、半田ペースト2aが銀メッキ皮膜1aに付着する。以上より、半田ペースト2aを銀メッキ皮膜1a上に供給する。
【0036】
続いて、
図1及び
図3に示すように、金属積層造形品10を真空炉100において加熱して、溶融体を内壁面10b上に生成する(加熱工程ST23)。具体的には、金属積層造形品10を加熱して、半田ペースト2aを溶融することによって、溶融体を内壁面10b上に生成する。
図3に示す加熱工程ST12と異なり、金属積層造形品10を加熱して、銀メッキ皮膜1aを溶融しなくてもよい。
【0037】
具体的には、
図4に示す温度履歴曲線H1に従うように、金属積層造形品10を加熱保持し、冷却する。所定の温度T
2、及び所定の時間t
2-t
1は、半田ペースト2aを溶解して、溶融体を生成可能なように、設定されるとよい。具体的には、所定の温度T
2は、半田ペースト2aの融点よりも高く、銀メッキ皮膜1aの融点よりも低いとよく、例えば、300℃である。所定の時間t
2-t
1は、半田ペースト2aの体積に応じて決定してもよい。半田ペースト2aを溶融することによって、溶融体を生成する。溶融体が凝固して、膜2bが形成される。
【0038】
なお、多くの場合、半田ペースト2aの融点は、金属積層造形品10の金属材料の融点と比較して格段に低い。そのため、加熱工程ST23における所定の温度T2は、金属積層造形品10の金属材料の融点と比較して格段に低い。従って加熱工程ST23を実施することによって、金属積層造形品10は熱影響をほとんど受けない。さらに、加熱工程ST23を実施した後、金属積層造形品10の熱処理を行う必要性が殆ど無い。
【0039】
以上より、溶融体を内壁面10b上に生成することによって、内壁面10bの面荒れ領域10cの底に浸透させる。溶融体が凝固し、膜2bが形成される。銀メッキ皮膜1aの表面、及び、銀メッキ皮膜1aに供給された半田ペースト2aの表面は、内壁面10bの表面に倣う形状を有する。一方、膜2bの表面は、溶融体の表面張力によって、銀メッキ皮膜1a及び半田ペースト2aの表面から平面に近い形状へ変化する。よって、膜2bは、銀メッキ皮膜1aと比較して、平滑である。膜2bは、内壁面10bを覆い、面荒れ領域10cも覆う。これによって、面荒れ領域10cの表面を平滑化して、応力の集中を抑制し、破損の発生を抑制する。加熱工程ST23における所定の温度T2が低いことから、銀メッキ皮膜1aを溶融しなくてもよいし、金属積層造形品10に熱影響を殆ど与えない。
【0040】
また、本実施の形態2に係る加熱工程ST23において、半田ペースト2a由来の膜2bが銀メッキ皮膜1a上に形成される。銀メッキ皮膜1aと、半田ペースト2a由来の膜2bとが強固に接合するため、安定した半田ペースト2a由来の膜2bを面荒れ領域10cの表面に生成することができる。
【0041】
なお、上記した半田ペースト供給工程ST22において、半田ペースト2aが塗布された研磨体3を用いて、半田ペースト2aを銀メッキ皮膜1a上に供給したが、これに限定されず、他の方法を用いて、半田ペースト2aを銀メッキ皮膜1a上に供給してもよい。例えば、半田ペースト2aを金属積層造形品10の内部空間10aへ注入した後、ピストンを内部空間10aへ挿入することによって、半田ペースト2aを銀メッキ皮膜1a上に供給してもよい。例えば、半田ペースト2aをカプセルに充填し、このカプセルを複数の研磨体3の間に挟み込む。続いて、複数の研磨体3とこのカプセルとを金属積層造形品10の内部空間10aに移動し、このカプセルを破損させ、半田ペースト2aを銀メッキ皮膜1a上に供給してもよい。
【0042】
また、上記した加熱工程ST23において、金属積層造形品10の姿勢や向きを特定していないが、
図3に示す加熱工程ST12と同様に、面荒れ領域10cが内部空間10aの下側(ここでは、z軸マイナス方向)に位置するように、金属積層造形品10を真空炉100内に配置してもよい。
【0043】
(実施例)
次に、
図8~
図15を参照して実施例について説明する。
図8は、メッキ皮膜を生成した後の金属積層造形品の内部空間を示す写真である。
図9は、一つの実施例に係る金属積層造形品の内部空間を示す写真である。
図10は、実施例に係る金属積層造形品の内部空間について観察した部位を示す模式図である。
図11は、
図10に示す部位の断面を示す模式断面図である。
図12は、メッキ皮膜を生成した後の金属積層造形品の断面についてEPMA分析の結果の一例である。
図13は、
図12に示すEPMA分析の結果の一例の拡大図である。
図14は、一つの実施例に係る金属積層造形品の断面についてEPMA分析の結果の一例である。
図15は、
図14に示すEPMA分析の結果の一例の拡大図である。
【0044】
金属積層造形方法を用いて、金属積層造形品10の一実施例を製造した。金属積層造形品10の一実施例の金属材料は、マルエージング鋼である。金属積層造形品10の一実施例を切断した。この切断した金属積層造形品10の一実施例では、内部空間10aの内壁面10bは目視観察を行うことができる。さらに、実施の形態1に係る金属積層造形品の製造方法の一例を用いて、金属積層造形品10の一実施例についてメッキ工程ST11を実施した。メッキ加工として、無電解ニッケルメッキを用いた。加熱工程ST12において、所定の温度T1は900℃、所定の時間t1は60min、所定の時間t2は90min、所定の時間t3は150minと設定した。
【0045】
メッキ皮膜1が形成された金属積層造形品10の一実施例である金属積層造形品110を、
図8に示す。さらに、金属積層造形品110について加熱工程ST12を実施した。膜2が生成された金属積層造形品10の一実施例である金属積層造形品210を、
図9に示す。
【0046】
図10及び
図11に示すように、金属積層造形品10には、内壁面10b近傍における断面10dにおける観察領域P1、P2、P3、P4がある。金属積層造形品110、210の断面10dにおける観察領域P1、P2、P3、P4についてEPMA分析を行った。Fe(鉄)、Ni(ニッケル)について分析した結果を、
図12、及び
図14にそれぞれ示す。また、観察領域P3の拡大図を、
図13、及び
図15にそれぞれ示す。
【0047】
図8に示すように、金属積層造形品110の内壁面110aには、面荒れ部が発生している。一方、
図9に示すように、金属積層造形品210の内壁面210aは、
図8に示す金属積層造形品110の内壁面110aと比較して、平滑である。よって、金属積層造形品210の内壁面210aの面荒れ部が平滑化されていることが確認された。
【0048】
図12に示すように、Feの分析結果を見ると、金属積層造形品110の断面10dにおける観察領域P1、P2、P3、P4において、面荒れ部が発生していることが確認された。Niの分析結果を見ると、金属積層造形品110の断面10dにおける観察領域P1、P2、P3、P4において、メッキ皮膜が面荒れ部を覆っていることが確認された。メッキ皮膜の表面形状は、面荒れ部の表面形状に概ね倣う傾向にある。
図13に示すように、メッキ皮膜の表面には、面荒れ部の表面形状に起因する谷形状が残存する。
【0049】
図14に示すように、Feの分析結果を見ると、金属積層造形品210の断面10dにおける観察領域P1、P2、P3、P4において、面荒れ部が発生していることが確認された。Niの分析結果を見ると、金属積層造形品110の断面10dにおける観察領域P1、P2、P3、P4において、メッキ皮膜が面荒れ部を覆っていることが確認された。メッキ皮膜の表面形状は、面荒れ部の表面形状に倣っていない。
図15に示すように、面荒れ部の表面形状における谷形状部分に、メッキ被膜が充分に充填されている。メッキ皮膜の表面には、面荒れ部の表面形状に起因する谷形状部分が殆ど残存していない。メッキ皮膜の表面形状は、面荒れ部の表面形状と比較して、平滑である。
【0050】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。また、本発明は、上記実施の形態やその一例を適宜組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 メッキ皮膜 1a 銀メッキ皮膜
2、2b 膜 2a 半田ペースト
3 研磨体 4、5 紐
10、110、210 金属積層造形品
10a 内部空間 10b、110b、210b 内壁面
10c 面荒れ領域 10d 断面
24 第1の挟持部 25 第2の挟持部
100 真空炉
GL1 メッキ液 H1 温度履歴曲線
P1、P2、P3、P4 観察領域
ST11、ST21 メッキ工程 ST12、ST23 加熱工程
ST22 半田ペースト供給工程
T0 常温 T1、T2 温度
t1、t2、t3 時間