(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066945
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230509BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20230509BHJP
B41J 2/015 20060101ALN20230509BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/045
B41J2/14 301
B41J2/14 607
B41J2/015 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177832
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康一
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF71
2C057AG12
2C057AG33
2C057AG44
2C057AG68
2C057AM21
2C057AM22
(57)【要約】
【課題】個別液室に加える圧力が制限されずに、液体吐出特性の変動を抑制可能な液体吐出装置を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る液体吐出装置は、液体を吐出するノズルが設けられた少なくとも1つの第1個別液室と、前記ノズルが設けられていない少なくとも1つの第2個別液室と、前記第1および前記第2個別液室それぞれに設けられ、可撓性を有する振動板と、駆動信号に応じて前記振動板を変形させることにより、前記第1および前記第2個別液室それぞれの内部圧力を変化させる圧力可変部材と、前記第1および前記第2個別液室それぞれに連通する共通液室または共通流路と、前記圧力可変部材を駆動させる駆動部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルが設けられた少なくとも1つの第1個別液室と、
前記ノズルが設けられていない少なくとも1つの第2個別液室と、
前記第1および前記第2個別液室それぞれに設けられ、可撓性を有する振動板と、
駆動信号に応じて前記振動板を変形させることにより、前記第1および前記第2個別液室それぞれの内部圧力を変化させる圧力可変部材と、
前記第1および前記第2個別液室それぞれに連通する共通液室または共通流路と、
前記圧力可変部材を駆動させる駆動部と、を有する液体吐出装置。
【請求項2】
前記第1個別液室は、複数の前記第1個別液室が並んで設けられており、
前記第2個別液室は、並んで設けられた複数の前記第1個別液室の端部の外側に設けられている請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記駆動部は、前記圧力可変部材を駆動させる前記第1個別液室の個数または位置の少なくとも一方に応じて、前記圧力可変部材を駆動させる前記第2個別液室の個数を変化させる請求項1または請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記駆動部は、前記第1および前記第2個別液室それぞれの前記圧力可変部材を並行して駆動させる請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記駆動部は、前記第1個別液室の前記圧力可変部材を駆動させる第1駆動信号と、前記第2個別液室の前記圧力可変部材を駆動させる第2駆動信号と、を出力し、
前記第2駆動信号の電圧波形は、前記第1駆動信号の電圧波形とは異なっている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記第2駆動信号の電圧波形における最大電位と最小電位との最大電位差は、前記第1駆動信号の電圧波形における前記最大電位差よりも大きい請求項5に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記第2駆動信号の電圧波形の位相は、前記第1駆動信号の電圧波形の位相に対して逆位相である請求項5または請求項6に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体を吐出するノズルが設けられた個別液室を有し、個別液室に駆動信号を出力して個別液室内の圧力を変化させることによって、ノズルから液体を吐出する液体吐出装置が知られている。
【0003】
このような液体吐出装置として、液体吐出特性の変動を抑制するために、吐出ノズルが液体を吐出するタイミングよりも早いタイミングで、吐出ノズルの周辺における少なくとも1つの液体を吐出しない休止ノズルが設けられた個別液室内の液体を、液体が吐出されない程度に加圧する構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構成では、休止ノズルが設けられた個別液室に加える圧力によっては、休止ノズルから不要な液体が吐出されてしまうため、個別液室に加える圧力が制限される点に改善の余地がある。
【0005】
本発明は、個別液室に加える圧力が制限されずに、液体吐出特性の変動を抑制可能な液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る液体吐出装置は、液体を吐出するノズルが設けられた少なくとも1つの第1個別液室と、前記ノズルが設けられていない少なくとも1つの第2個別液室と、前記第1および前記第2個別液室それぞれに設けられ、可撓性を有する振動板と、駆動信号に応じて前記振動板を変形させることにより、前記第1および前記第2個別液室それぞれの内部圧力を変化させる圧力可変部材と、前記第1および前記第2個別液室それぞれに連通する共通液室または共通流路と、前記圧力可変部材を駆動させる駆動部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、個別液室に加える圧力が制限されずに、液体吐出特性の変動を抑制可能な液体吐出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る液体吐出装置の構成例を示す断面図である。
【
図2】実施形態に係る液体吐出装置の作用を説明する第1図である。
【
図3】実施形態に係る液体吐出装置の作用を説明する第2図である。
【
図4】第1実施形態に係る駆動回路による駆動信号例を示す図である。
【
図5】第2実施形態に係る駆動回路による駆動信号例を示す図である。
【
図6】第3実施形態に係る駆動回路による駆動信号例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について詳細に説明する。各図面において、同一構成部には同一符号を付し、重複した説明を適宜省略する。
【0010】
[実施形態]
実施形態に係る液体吐出装置1は、例えば、インクを吐出させて用紙に画像を形成する画像形成装置や、立体造形物を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置等の様々な用途に使用されるものである。液体吐出装置1は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像を可視化するものの他、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0011】
液体吐出装置1により吐出されたインクは、インクが付着可能なものに付着される。インクが付着可能なものとは、インクが少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するもの等を意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布等の被記録媒体、電子基板、圧電素子等の電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セル等の媒体である。インクが付着可能なものの材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等、インクが一時的でも付着可能であればよい。
【0012】
液体吐出装置1から吐出されるインクは、ノズルが吐出する液体の一例である。液体は、液体吐出装置1から吐出可能な粘度や表面張力を備えるものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、液体は、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料等を含む。あるいは、液体は、DNA、アミノ酸やたんぱく質またはカルシウム等の生体適合材料や、天然色素等の可食材料等を含む溶液、懸濁液、エマルジョン等を含む。これらの液体は、例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で使用される。
【0013】
液体吐出装置1としては他にも、用紙の表面を改質する等の目的で、用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置等が含まれる。
【0014】
<液体吐出装置1の構成例>
図1は、液体吐出装置1の構成を例示する断面図である。液体吐出装置1は、少なくとも1つの第1個別液室11aと、少なくとも1つの第2個別液室11bと、振動板13と、圧力可変部材14と、共通液室15と、駆動回路2と、を有する。
【0015】
共通液室15は、複数の第1個別液室11aと、複数の第2個別液室11bと、が並ぶ方向を長手とし、六方を面に囲まれた直方体状の箱状構造体である。共通液室15は、個別液室とは別にインクが流れる流路であるという観点では、共通流路と称することもできる。
【0016】
共通液室15の材質には、例えばステンレス鋼等の金属材料を適用できる。共通液室15は、流路12を通して共通液室15から流れ込むインク5を内側に収容する。共通液室15は、供給口151と、排出口152と、を一方の面に有する。
【0017】
共通液室15は、供給口151を介して供給用チューブ41と接続しており、供給用チューブ41を通して、インク5を貯留するインクタンク等からインク5が供給される。また共通液室15は、排出口152を介して排出用チューブ42と接続している。液体吐出装置1は、共通液室15からインク5を排出する場合には、栓3が開放された後、排出用チューブ42を通して共通液室15内のインク5を排出できる。例えば、液体吐出装置1は、インクタンクと液体吐出装置1との間においてインク5を循環させる循環機構に接続している場合には、循環機構により循環されるインク5を供給口151から供給し、排出口152から排出できる。
【0018】
第1個別液室11aおよび第2個別液室11bは、それぞれ流路12を通して共通液室15に連通している。共通液室15内のインク5は、流路12を通して第1個別液室11aおよび第2個別液室11bそれぞれに流れ込むことができる。
【0019】
本実施形態では、液体吐出装置1は、並んで設けられた5個の第1個別液室11aと、第1個別液室11aが並ぶ方向における第1個別液室11aの端部の外側に設けられた合計6個の第2個別液室11bと、を有する。但し、第1個別液室11aおよび第2個別液室11bの個数や配置は、上記に限定されるものではなく、液体吐出装置1の用途等に応じて適宜選択可能である。
【0020】
第1個別液室11aおよび第2個別液室11bのそれぞれは、六方を面に囲まれた直方体状の箱状構造体であり、流路12を通して共通液室15から流れ込むインクを内側に収容できる。複数の第1個別液室11aと、複数の第2個別液室11bは、例えば、ステンレス鋼等の金属材料を材質として一体に形成される。
【0021】
第1個別液室11aは、インクを吐出するノズル110を一方の面に有する。ノズル110は、該一方の面に形成された貫通孔である。ノズル110の貫通孔形状は、例えば略真円形状であるが、これに限定されるものではなく、略楕円形状、略矩形状または略多角形状等のいずれの形状であってもよい。
【0022】
ノズル110は、第1個別液室11a内に収容されたインクを、第1個別液室11a内に加えられる圧力に応じ、ノズル110を通して第1個別液室11aの外側に向けて吐出する。
【0023】
一方、第2個別液室11bは、インクを吐出するノズル110を有さない。従って、第2個別液室11b内に収容されたインクは、第2個別液室11b内に圧力が加えられると、この圧力を、流路12を通して共通液室15側に伝達する。
【0024】
振動板13は、可撓性を有する板状部材であり、第1個別液室11aおよび第2個別液室11bそれぞれと対をなすように、第1個別液室11aおよび第2個別液室11bそれぞれと共通液室15との間に設けられている。振動板13は、例えばステンレス鋼等の金属材料を材質として構成される。
【0025】
圧力可変部材14は、振動板13における第1個別液室11aおよび第2個別液室11bとは反対側の面に、振動板13に対して圧力を印加可能に設けられている。圧力可変部材14は、チタン酸バリウムやジルコン酸バリウム等の圧電材料を含み、印加電圧に応じて伸縮する圧電素子を含む。但し、圧力可変部材14は、圧電素子を含むものに限定されず、振動板13に対して圧力を印加できれば静電アクチュエータ等を用いてもよい。本実施形態では、圧力可変部材14は、複数の振動板13と対をなすように、複数の圧力可変部材14を含んでいる。
【0026】
圧力可変部材14は、印加電圧としての駆動信号に応じて駆動、例えば伸縮し、振動板13を変形させることにより、第1個別液室11aおよび第2個別液室11bそれぞれの内部圧力を変化させる。
【0027】
駆動回路2は、圧力可変部材14を駆動させる駆動部の一例である。駆動回路2は、複数の圧力可変部材14と電気的に接続しており、所定の電圧波形を含む駆動信号を出力し、圧力可変部材14に印加することによって圧力可変部材14を駆動させる。
【0028】
液体吐出装置1は、駆動回路2から圧力可変部材14に駆動信号を出力し、第1個別液室11aの振動板13を変形させることにより、第1個別液室11aのノズル110からインクを吐出させる。また液体吐出装置1は、駆動回路2から圧力可変部材14に駆動信号を出力し、第2個別液室11bの振動板13を変形させることにより、第2個別液室11b内に圧力を加えることができる。液体吐出装置1は、第2個別液室11b内に圧力を加えることによって、第1個別液室11aのノズル110から吐出されるインクの吐出速度等の吐出特性の変動を抑制する。
【0029】
<液体吐出装置1の作用>
図2および
図3を参照して、液体吐出装置1の作用を詳細に説明する。
図2は、インク5を吐出する際における液体吐出装置1の作用を説明する図である。
図3は、インク5を吐出後に、液体吐出装置1にインク5が補給、例えばリフィルされる際における液体吐出装置1の作用を説明する図である。
【0030】
図2および
図3は、液体吐出装置1が有する複数の第1個別液室11aおよび第2個別液室11bのうち、2個の第1個別液室11a1および11a2と、1個の第2個別液室11bと、を示している。第1個別液室11a1は、流路12a1を通して共通液室15と連通している。第1個別液室11a2は、流路12a2を通して共通液室15と連通している。第2個別液室11bは、流路12bを通して共通液室15と連通している。
【0031】
図2に示すように、第1個別液室11a1からインク5を吐出する際に、圧力可変部材14a1が駆動信号に応じてノズル110側に伸長すると、第1個別液室11a1には圧力がかかる。第1個別液室11a1内のインク5は、この圧力によって、ノズル110a1の貫通孔内に移動すると同時に流路12a1を通って共通液室15側にも移動する。ノズル110a1の貫通孔内へのインク5の移動に応じて、ノズル110a1からインク滴Mが吐出される。
【0032】
例えば、液体吐出装置1が所定の吐出周波数により繰り返してインク滴Mを吐出すると、第1個別液室11a1からインク5が共通液室15側に繰り返して移動することにより、共通液室15内のインク5を押す圧力が繰り返し発生する。この繰り返し圧力によって、共通液室15が振動すると共に、第1個別液室11a2が振動する場合がある。
【0033】
第1個別液室11a2が振動すると、振動により生じる圧力によって、共通液室15から流路12a2を通って第1個別液室11a2内にインク5が移動し、第1個別液室11a2が有するノズル110a2の貫通孔内でのインク5の液面の高さが変化する。この液面の高さ変化に応じて、第1個別液室11a2からノズル110a2を通してインク5を吐出する際に吐出速度等の吐出特性が変動する。共通液室15および第1個別液室11a2の振動が共振振動であると、吐出特性の変動はより顕著になる。
【0034】
本実施形態では、液体吐出装置1は、吐出において第1個別液室11a1の圧力可変部材14a1を駆動させる際に、圧力可変部材14a1の駆動動作とは異なる駆動動作を、第2個別液室11bの圧力可変部材14bに行わせる。例えば、液体吐出装置1は、圧力可変部材14a1がノズル110a1側に伸長する場合には、圧力可変部材14bを共通液室15側に収縮させる。
【0035】
液体吐出装置1は、圧力可変部材14bの収縮により、共通液室15内のインク5を第2個別液室11b内に移動させ、吐出の際に第1個別液室11aから共通液室15にインク5が移動することによって生じる圧力を吸収できる。液体吐出装置1は、この圧力吸収によって、共通液室15内から第1個別液室11a2内へのインク5の移動を抑制し、ノズル110a2の貫通孔内におけるインク5の液面の高さ変化を抑えることができる。これにより、液体吐出装置1は、第1個別液室11a2からインク5を吐出する際の吐出特性変動を抑制できる。
【0036】
また
図3に示すように、液体吐出装置1にインクがリフィルされる際には、第1個別液室11a1からインク5が吐出された後に、第1個別液室11a1には白抜き矢印で示す吸引力Pが作用する。この吸引力Pによって第1個別液室11a2内のインク5が共通液室15内に移動することにより、液体吐出装置1が第2個別液室11bを有さない場合には、第1個別液室11a1内および11a2内のインク5に、共通液室15側に向かう力が作用する。そして、第1個別液室11a1内のノズル110a1および第1個別液室11a2内のノズル110a2の各貫通孔内でのインク5の液面高さが変化する。
【0037】
第1個別液室11a1のノズル110a1および11a2のノズル110a2それぞれにおけるインク5の液面高さが変化するタイミングが相互に異なることにより、第1個別液室11a1および11a2それぞれからインク5が吐出される際に、吐出速度が異なる等、吐出特性が変動する。
【0038】
本実施形態では、例えば第1個別液室11a1からインク5を吐出した後のリフィルの際に、第2個別液室11bの圧力可変部材14bに、第1個別液室11a1の圧力可変部材14a1の駆動動作とは異なる駆動動作を行わせる。液体吐出装置1は、圧力可変部材14bの駆動動作によって第2個別液室11bから共通液室15へインク5を移動させる。これにより液体吐出装置1は、第1個別液室11a2に作用する、共通液室15側にインク5を移動させる力を低減し、ノズル110a2の貫通孔内におけるインク5の液面高さ変化を抑制する。この結果、液体吐出装置1は、第1個別液室11a1および11a2それぞれからインク5を吐出する際の吐出特性変動を抑制することができる。
【0039】
<第1実施形態に係る駆動回路2による駆動信号例>
図4は、第1実施形態に係る駆動回路2による駆動信号の一例を説明する図である。
図4において、横軸は時間(μs)、縦軸は電位(%)を表している。駆動信号は、電位の時間変化を表す電圧波形を含む信号である。
【0040】
第1駆動信号21a1は、ノズル110が設けられている第1個別液室11aの圧力可変部材14を駆動させる信号である。第2駆動信号21b1、21b2および21b3は、ノズル110が設けられていない第2個別液室11bの圧力可変部材14を駆動させる信号である。第2駆動信号21b1、21b2および21b3は、それぞれ異なる第2個別液室11bに印加される。
【0041】
第1駆動信号21a1が第1個別液室11aの圧力可変部材14に印加されると、電位に応じて圧力可変部材14が駆動され、第1個別液室11aの圧力が変化することによって、ノズル110はインク5を吐出する。
【0042】
一方、第2駆動信号21b1、21b2および21b3が第2個別液室11bの圧力可変部材14に印加されると、電位に応じて圧力可変部材14が駆動され、第1個別液室11aの圧力が変化する。
【0043】
例えば、駆動回路2は、第1個別液室11aの圧力可変部材14に第1駆動信号21a1を出力することと並行して、第2個別液室11bの圧力可変部材14に第2駆動信号21b1、21b2および21b3を出力する。第2駆動信号21b1、21b2および21b3それぞれの電圧波形は、第1駆動信号21a1の電圧波形に対して異なっている。具体的には、電位の大きさおよび電位変化のタイミング(位相)が異なっている。このため、第2駆動信号21b1、21b2および21b3に応じた第2個別液室11bの圧力可変部材14の駆動動作は、第1駆動信号21a1に応じた第1個別液室11aの圧力可変部材14の駆動動作とは異なるものとなる。
【0044】
駆動回路2は、第1個別液室11aの圧力可変部材14に第1駆動信号21a1を出力するタイミングに対し、第2個別液室11bの圧力可変部材14に第2駆動信号21b1、21b2および21b3を、タイミングをずらして、換言すると非並行に出力してもよい。この場合にも、第2個別液室11bの圧力可変部材14の駆動動作は、第1個別液室11aの圧力可変部材14の駆動動作とは異なるものとなる。
【0045】
また
図4では、相互に異なる電圧波形を含む第2駆動信号21b1、21b2および21b3を例示したが、第1駆動信号21a1に対して異なっていれば、第2駆動信号21b1、21b2および21b3は、いずれも同じであってもよい。
【0046】
ここで、吐出変動は、吐出させる第1個別液室の個数または位置に応じて異なる場合がある。このため本実施形態では、駆動回路2は、圧力可変部材14を駆動させる第1個別液室11aの個数または位置の少なくとも一方に応じて、圧力可変部材14を駆動させる第2個別液室11bの個数を変化させる。
【0047】
例えば、駆動回路2は、5個の第1個別液室11aそれぞれの圧力可変部材14を駆動させてインク5を吐出する場合には、2個の第2個別液室11bそれぞれの圧力可変部材14を駆動させて、2個の第2個別液室11b内に圧力を加える。また駆動回路2は、10個の第1個別液室11aそれぞれの圧力可変部材14を駆動させてインク5を吐出する場合には、4個の第2個別液室11bそれぞれの圧力可変部材14を駆動させて、4個の第2個別液室11b内に圧力を加える。
【0048】
あるいは、駆動回路2は、第1個別液室11aの総個数の50%に対応する第1個別液室11aからインク5を吐出する場合には、第2個別液室11bの総個数の10%に対応する第2個別液室11bに圧力を加える。また駆動回路2は、第1個別液室11aの総個数の30%に対応する第1個別液室11aからインク5を吐出する場合には、第2個別液室11bの総個数の5%に対応する第2個別液室11bに圧力を加える。
【0049】
圧力可変部材14を駆動させる第2個別液室11bの個数を変化させることによって、吐出変動の抑制作用を異ならせることができる。本実施形態では、圧力可変部材14を駆動させる第1個別液室11aの個数または位置に応じて、吐出変動を好適に抑制可能な、圧力可変部材14を駆動させる第2個別液室11bの個数を予め定めておく。そして駆動回路2は、圧力可変部材14を駆動させる第1個別液室11aの個数または位置に応じて、圧力可変部材14を駆動させる第2個別液室11bの個数を変化させることにより、吐出特性変動の抑制作用を適正化できる。また、液体吐出装置1は、圧力可変部材14を駆動させる第1個別液室11aの個数または位置に応じて、第2個別液室11bの圧力可変部材14に印加する電圧波形を変化させても同様の効果を得ることができる。
【0050】
<液体吐出装置1の効果>
液体吐出装置1の効果について説明する。
【0051】
従来、液体吐出装置は、インクを吐出することによって印刷媒体に印刷する速度と密度との組み合わせ等に応じて、異なる吐出周波数によりインクを吐出する場合がある。また液体吐出装置は、ノズルからインクを吐出する個別液室の構造に応じて、特定の周波数では吐出されるインク滴の重量やインク滴の速度が増減する等、吐出特性が変動する場合がある。このような吐出特性変動を抑制するために、圧力可変部材を駆動させる駆動信号における電圧波形を変化させる技術が知られている。
【0052】
しかしながら、従来の技術では、駆動信号の電圧波形を変化させるために複雑な駆動回路を要したり、電圧波形の時間的な長さを確保するために吐出周波数の高速化が制限されたりする場合があった。
【0053】
一方で、ノズルが設けられた個別液室のうち、インクを吐出しない休止ノズルに対し、吐出しない程度の電圧の駆動信号を印加することによって共振振動を制振し、吐出特性の変動を抑制する構成が開示されている。
【0054】
しかしながら、制振のために、大きな電圧の駆動信号を印加して大きな圧力を加えると、この圧力によって個別液室のノズルから不要なインクが吐出されたり、漏れ出したりして、印刷媒体をインクにより汚染する等の不具合が生じる場合があった。
【0055】
本実施形態に係る液体吐出装置1は、ノズルが設けられていない少なくとも1つの第2個別液室11bを有し、第1個別液室11aからインク5を吐出させる際、または第1個別液室11aにインク5をリフィルする際等に、第2個別液室11b内に圧力を加える。これにより、液体吐出装置1は、吐出時やリフィル時に発生する共通液室15または第1個別液室11aの振動を抑え、第1個別液室11aから吐出されるインク5の吐出特性変動を抑制できる。また第2個別液室11bにはノズル110bが設けられていないため、圧力を加えても第2個別液室11b内のインク5が吐出されたり、漏れ出したりすることはない。このため、本実施形態では、個別液室に加える圧力が制限されずに、吐出特性の変動を抑制可能な液体吐出装置1を提供できる。
【0056】
また本実施形態では、第1個別液室11aは、複数の第1個別液室11aが並んで設けられており、第2個別液室11bは、並んで設けられた複数の第1個別液室11aの端部の外側に設けられている。この配置により、液体吐出装置1は、第1個別液室11aが並ぶ間隔等に影響を与えることなく、第2個別液室11bを設けることができる。
【0057】
また本実施形態では、駆動回路2(駆動部)は、圧力可変部材14を駆動させる第1個別液室11aの個数または位置の少なくとも一方に応じて、圧力可変部材14を駆動させる第2個別液室11bの個数を変化させる。これにより、吐出させる第1個別液室の個数または位置に応じて異なる吐出特性変動を、好適に抑制することができる。
【0058】
また本実施形態では、駆動回路2は、第1個別液室11aおよび第2個別液室11bそれぞれの圧力可変部材14を並行して駆動させる。これにより、液体吐出装置1は、駆動回路2による駆動信号の出力動作を簡単にできる。
【0059】
また本実施形態では、第2駆動信号21b1、21b2および21b3の電圧波形は、第1駆動信号21a1の電圧波形とは異なっている。これにより、液体吐出装置1は、第2個別液室11bの圧力可変部材14の駆動動作と、第1個別液室11aの圧力可変部材14の駆動動作と、を異ならせることができる。その結果、液体吐出装置1は、第1個別液室11aの圧力可変部材14の駆動により発生する圧力に応じた吐出特性変動を抑制できる。
【0060】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一の構成部には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。この点は、以降に示す実施形態においても同様とする。
【0061】
図5は、第2実施形態に係る駆動回路2による駆動信号の一例を示す図である。
図5において、横軸は時間(μs)、縦軸は電位(%)を表している。
【0062】
第1駆動信号21a2は、ノズル110が設けられている第1個別液室11aの圧力可変部材14を駆動させる信号である。第2駆動信号21b4は、ノズル110が設けられていない第2個別液室11bの圧力可変部材14を駆動させる信号である。
【0063】
図5に示すように、第2駆動信号21b4の電圧波形における最大電位Vb1と最小電位Vb2との最大電位差Vbは、第1駆動信号21a2の電圧波形における最大電位Va1と最小電位Va2との最大電位差Vaよりも大きい。
【0064】
液体吐出装置1は、吐出時やリフィル時における共通液室15または第1個別液室11aの振動が大きい場合にも、最大電位差Vbを最大電位差Vaよりも大きくすることによって、第2個別液室11bおよび共通液室15に大きな圧力を加え、振動を抑えることができる。第2個別液室11bにはノズル110が設けられていないため、最大電位差Vbを大きくし、加える圧力を大きくしても、第2個別液室11bからインク5が吐出されたり、漏れ出したりすることはない。このように本実施形態では、個別液室に加える圧力が制限されずに、吐出特性の変動を抑制可能な液体吐出装置1を提供できる。
【0065】
なお、上記以外の効果は、第1実施形態と同様である。
【0066】
[第3実施形態]
第3実施形態について説明する。
図6は、第3実施形態に係る駆動回路2による駆動信号の一例を示す図である。
図6において、横軸は時間(μs)、縦軸は電位(%)を表している。
【0067】
第1駆動信号21a3は、ノズル110が設けられている第1個別液室11aの圧力可変部材14を駆動させる信号である。第2駆動信号21b5は、ノズル110が設けられていない第2個別液室11bの圧力可変部材14を駆動させる信号である。
【0068】
図6に示すように、第2駆動信号21b5の電圧波形の位相φbは、第1駆動信号21a3の電圧波形の位相φaに対して逆位相である。ここで、逆位相とは、位相角が略180度ずれていることをいう。略180度とは、厳密に180度であることを要求するものではなく、多少のずれは許容することを意味する。例えば、位相φbが位相φaに対して175度以上で185度以下ずれている場合にも、位相φbは、位相φaに対して逆位相といえる。
【0069】
液体吐出装置1は、位相φbを位相φaに対して逆位相にすることにより、第1駆動信号21a3を第1個別液室11aに印加することにより生じた振動の圧力に対し、逆向きとなる圧力を発生させ、振動の圧力を相殺させることができる。このようにして本実施形態では、個別液室に加える圧力が制限されずに、吐出特性の変動を抑制可能な液体吐出装置1を提供できる。
【0070】
なお、上記以外の効果は、第1実施形態と同様である。
【0071】
以上、本発明の実施形態の例について記述したが、本発明は斯かる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0072】
実施形態の説明で用いた序数、数量等の数字は、全て本発明の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。また、構成要素間の接続関係は、本発明の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本発明の機能を実現する接続関係をこれに限定するものではない。
【符号の説明】
【0073】
1 液体吐出装置
11a 第1個別液室
110 ノズル
11b 第2個別液室
12 流路
13 振動板
14 圧力可変部材
15 共通液室
151 供給口
152 排出口
2 駆動回路(駆動部の一例)
3 栓
41 供給用チューブ
42 排出用チューブ
5 インク
21a1、21a2 第1駆動信号
21b1、21b2、21b3、21b4、21b5 第2駆動信号
M インク滴
Va1、Vb1 最大電位
Va2、Vb2 最小電位
Va、Vb 最大電位差
φa、φb 位相
【先行技術文献】
【特許文献】
【0074】