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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067117
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】IGZOスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230509BHJP
   C04B 35/01 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C04B35/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178111
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】村井 一貴
(72)【発明者】
【氏名】長田 幸三
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BD01
4K029CA05
4K029DC05
4K029DC09
(57)【要約】
【課題】スパッタリング時のアーキングやパーティクル増加などを抑制しつつ、相対密度の高いIGZOスパッタリングターゲットを提供すること。
【解決手段】インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、及び酸素(O)を含有し、残部が不可避的不純物で構成され、Zrを20質量ppm未満で含有し、相対密度が95%以上であるIGZOスパッタリングターゲット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、及び酸素(O)を含有し、残部が不可避的不純物で構成され、Zrを20質量ppm未満で含有し、相対密度が95%以上であるIGZOスパッタリングターゲット。
【請求項2】
相対密度が98%以上である、請求項1に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
【請求項3】
バルク抵抗が100mΩ・cm以下である、請求項1又は2に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
【請求項4】
平均結晶粒径が30μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
【請求項5】
平均結晶粒径が12μm以下である、請求項4に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
【請求項6】
抗折強度が100MPa以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
【請求項7】
円盤状、矩形板状、又は円筒形状である、請求項1~6のいずれか1項に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGZOスパッタリングターゲットに関する。とりわけ、ジルコニウムの含有量を低減しつつ、高い相対密度を実現できるIGZOスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、FPD(フラットパネルディスプレイ)において、そのバックプレーンのTFT(薄膜トランジスタ)に、α-Si(アモルファスシリコン)が用いられてきた。しかし、α-Siでは十分な電子移動度が得られず、近年では、α-Siよりも電子移動度が高いIn-Ga-Zn-O系酸化物(IGZO)を用いたTFTの研究開発が行われている。そして、IGZO-TFTを用いた次世代高機能フラットパネルディスプレイが一部実用化され、注目を集めている。
【0003】
IGZO膜は、主として、IGZO焼結体などのスパッタリングターゲットから作製されるターゲットをスパッタリングして成膜される。スパッタリング法によって薄膜を形成する際に、パーティクルが発生するとパターン不良等の原因となる。このパーティクルの発生原因として最も多いのは、スパッタリング中に発生する異常放電(アーキング)である。特にターゲット表面でアーキングが発生すると、アーキングが発生した周辺のターゲット材がクラスタ状(塊状)でターゲットから放出される。そして、このクラスタ状態のターゲット材が、基板に付着してしまう。
【0004】
また、近年のディスプレイの精度の問題から、スパッタ時のパーティクルは従来よりも厳しい要求となってきている。このようなスパッタ時の問題を解決するために、ターゲットの密度を向上させたり、結晶粒を制御して高強度のターゲットを得る試みがなされてきた。
【0005】
特許文献1(特開2014-024738号公報)には、In、Ga、及びZnを含有する酸化物焼結体であって、InGaZnO4で表されるホモロガス結晶構造を有し、かつジルコニウムを重量比で20ppm以上100ppm未満含有することを特徴とする焼結体が開示されている。InGaZnO4で表されるホモロガス結晶構造を有する焼結体に重量比で20ppm以上100ppm未満のジルコニウムを含有させることにより、焼結体の相対密度を95%以上に高め、抗折強度を100MPa以上に高められること、また、この焼結体を用いてスパッタリング法により得られたIGZO膜はジルコニウムを添加しないものに比べて優れた透過率を示すことが開示されている。
【0006】
また、特許文献2(特開2015-024944号公報)には、少なくともIn、Ga及びZnを含有する酸化物焼結体であって、InGaZnO4で表されるホモロガス結晶構造を有し、酸化物焼結体の結晶粒径が5μm以下、かつ相対密度が95%以上であり、かつ、酸化物焼結体の抗折強度が100MPa以上であることを特徴とする酸化物焼結体が開示されている。焼結体の結晶粒径、相対密度、および抗折強度を一定の値に制御することによって、量産装置で要求される大型サイズのターゲット製造における歩留まりを改善させると共に、高いパワーを投入可能な円筒形スパッタリングターゲットとして用いた場合においても、スパッタリング時の割れ発生を改善させる効果が記載されている。
【0007】
また、特許文献3(特開2007-223849号公報)には、GaInMxy(Mは正2価以上の金属元素、xは整数で1~3、yは整数で4~8)の式で表され、焼結体密度が相対密度で95%以上であり、Ga23の絶縁相が存在せず、平均結晶粒径が10μm以下であることを特徴とする酸化ガリウム系焼結体が開示されている。当該酸化ガリウム系焼結体を用いると、DCスパッタリング中において、スパッタリングターゲットにクラックおよびノジュールが発生することが抑制され、また、異常放電の発生も少ないため、高品質の透明薄膜を、効率的に、安価に、省エネルギーで成膜することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-024738号公報
【特許文献2】特開2015-024944号公報
【特許文献3】特開2007-223849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
IGZO焼結体からなるスパッタリングターゲットは、結晶粒径を一定以下、かつ相対密度を一定以上となるよう、原料粉末粒度、最高焼結温度、保持時間、焼結雰囲気などを制御することで得られる。IGZO焼結体は通常、原料であるIn23、ZnO、Ga23粉末をビーズミル粉砕し微粒化することで、組織を緻密にし、焼結体密度を向上させることができるが、ビーズミル粉砕には通常ジルコニアビーズが使用され、このジルコニアビーズがビーズミル粉砕工程中に摩耗し、不可避的不純物として原料粉末に混入してしまうことがある。不純物の混入(コンタミネーション)はスパッタ時のアーキングによるパーティクル増加やIGZO膜の透過率低下、TFT素子の移動度低下を引き起こすおそれがある。
【0010】
特許文献1に係る発明は、InGaZnO4で表されるホモロガス結晶構造を有するIGZO焼結体に重量比で20ppm以上100ppm未満のジルコニウムを含有させることにより、密度および抗折強度が高く、スパッタリングターゲットに使用された場合においても割れの少ないIGZO焼結体を得ようとしているが、焼結体の相対密度及び強度を得るために、不純物としてジルコニア(Zr)をあえて添加しているため、スパッタリング時のアーキングやパーティクルが発生すると予想される。Zrの含有量を低くすると、今度は相対密度及び強度の効果がなくなる。
【0011】
また、特許文献1に係る発明は、ジルコニアビーズを用いて湿式ビーズミルにて分散処理を行ったため、前述のように、ジルコニアビーズが不可避的不純物として原料粉末に混入すると考えられる。
【0012】
本発明は上記問題点に鑑み完成された物であり、一実施形態において、スパッタリング時のアーキングやパーティクル増加などを抑制しつつ、相対密度の高いIGZOスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討した結果、IGZOスパッタリングターゲットの原料粉末の粉砕方法を工夫することにより、Zrの混入を抑制しつつ、相対密度の高いIGZOスパッタリングターゲットが得られることを見出した。本発明は当該知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
【0014】
[1]
インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、及び酸素(O)を含有し、残部が不可避的不純物で構成され、Zrを20質量ppm未満で含有し、相対密度が95%以上であるIGZOスパッタリングターゲット。
[2]
相対密度が98%以上である、[1]に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
[3]
バルク抵抗が100mΩ・cm以下である、[1]又は[2]に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
[4]
平均結晶粒径が30μm以下である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
[5]
平均結晶粒径が12μm以下である、[4]に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
[6]
抗折強度が100MPa以上である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
[7]
円盤状、矩形板状、又は円筒形状である、[1]~[6]のいずれか1項に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スパッタリング時のアーキングやパーティクル増加などを抑制しつつ、相対密度の高いIGZOスパッタリングターゲットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0017】
(1.組成)
本発明に係るIGZOスパッタリングターゲットは一実施形態において、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、及び酸素(O)を含有し、残部が不可避的不純物で構成され、かつ、Zrを20質量ppm未満で含有する。
【0018】
不可避的不純物とは、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするもので、本来は不要なものであるが、微量であり、製品の特性に大きな悪影響を及ぼさないため、許容されている不純物である。本発明に係るIGZOスパッタリングターゲットにおいては、原材料のIn23粉、Ga23粉、ZnO粉に含まれる不可避的不純物、粉砕工程で混入する不可避的不純物、成形助剤に含まれる不可避的不純物が代表的な不可避的不純物として挙げられる。本発明に係るIGZOスパッタリングターゲットにおいて、不可避的不純物の合計濃度は例えば100質量ppm以下とすることができ、好ましくは50質量ppm以下とすることができ、より好ましくは30質量ppm以下とすることができる。不可避的不純物の合計濃度の下限は特に制限はないが、製造コストの観点から、例えば10質量ppm以上とすることができ、典型的には30質量ppm以上である。IGZOスパッタリングターゲット中の不可避的不純物の合計濃度が低いことにより、これをスパッタすることにより得られるIGZO膜の性状(導電性、透明性等)が悪影響を受けるのを防止することができる。
【0019】
本発明の一実施形態において、本明細書において、不可避的不純物の合計濃度は、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、S、Cl、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Y、Nb、Mo、Cd、Sb、Ba、Hf、W、Pb、Biの合計濃度を意味する。Zrは不可避的不純物としてみることもできるが、本発明においてZrの濃度が特に制御されているので、便宜上単独に論じている。
【0020】
本発明に係るIGZOスパッタリングターゲットにおいて、Zr濃度は例えば20質量ppm未満とすることができ、好ましくは19質量ppm以下とすることができ、より好ましくは18質量ppm以下とすることができ、さらにより好ましくは17質量ppm以下とすることができ、さらにより好ましくは16質量ppm以下とすることができ、さらにより好ましくは15質量ppm以下とすることができ、さらにより好ましくは14質量ppm以下とすることができ、さらにより好ましくは13質量ppm以下とすることができ、さらにより好ましくは12質量ppm以下とすることができ、さらにより好ましくは11質量ppm以下とすることができ、さらにより好ましくは10質量ppm以下とすることができる。Zr濃度を低く制御することにより、スパッタリング時のアーキングやパーティクル増加などを抑制できる。
【0021】
Zr濃度に下限は設定されないが、完全にZrを排除するためのコストとの兼ね合いから、一般には1質量ppm以上であり、典型的には5質量ppm以上である。
【0022】
Zrの濃度は、高周波誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)により測定され、スパッタリングターゲット部材の一部を試料として前処理をした測定溶液を用いて各金属元素の分析を行う。他の不可避的不純物の濃度は、グロー放電質量分析法(GDMS)により測定され、高純度のTaを測定試料とともに放電させるTa電極法にて各種元素の分析を行う。
【0023】
(2.相対密度)
スパッタリングターゲットの相対密度は、スパッタリング時のアーキング発生及びパーティクルの発生に影響を与えることから、高い方が望ましい。スパッタリングターゲットに割れや亀裂が発生するのを抑制する観点でもスパッタリングターゲットの相対密度は高い方が好ましい。本発明に係るIGZOスパッタリングターゲットは一実施形態において、相対密度が95%以上である。相対密度は好ましくは98%以上であり、より好ましくは99%以上であり、さらにより好ましくは99.5%以上であり、さらにより好ましくは99.6%以上である。相対密度の上限は特に限定されないが、製造コストとの兼ね合いから、例えば99.99%以下とすることができ、99.9%以下とすることもできる。
【0024】
本発明において「相対密度」は、相対密度=(測定密度/理論密度)×100(%)で表される。理論密度とは、焼結体の各構成元素において、酸素を除いた元素の酸化物の理論密度から算出される密度の値である。本発明におけるIGZOスパッタリングターゲットであれば、各構成元素であるIn、Ga、Zn、Oのうち、Oを除いた元素の酸化物として、酸化インジウム(In23)、酸化ガリウム(Ga23)、酸化亜鉛(ZnO)を理論密度の算出に用いる。IGZOスパッタリングターゲットのIn、Ga、Znの元素分析値(at%、又は質量%)から、酸化インジウム(In23)、酸化ガリウム(Ga23)、酸化亜鉛(ZnO)の質量比に換算する。各酸化物の密度は、In23:7.18g/cm3、Ga23:5.88g/cm3、ZnO:5.61g/cm3を用いる。一方、測定密度とは、重量を体積で割った値である。焼結体の場合は、アルキメデス法により体積を求めて算出する。
【0025】
(3.バルク抵抗)
安定したDCスパッタリングを可能とするために、IGZOスパッタリングターゲットのバルク抵抗が十分に低いことが好ましい。本発明のIGZOスパッタリングターゲットは、一実施形態において、バルク抵抗が100mΩ・cm以下である。これにより、安定したDCスパッタリングが可能になり、スパッタ中の異常放電を抑制することができる。この観点から、IGZOスパッタリングターゲットのバルク抵抗は80mΩ・cm以下であることが好ましく、60mΩ・cm以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明において、バルク抵抗は四探針法により、IGZOスパッタリングターゲットから互いに離れた3箇所で採取したサンプルの各測定結果の和を、測定箇所数で割って平均値として求める。
【0027】
(4.平均結晶粒径)
本発明のIGZOスパッタリングターゲットは、平均結晶粒径が30μm以下であることが好ましい。平均結晶粒径を上記数値範囲内とすることで機械的強度を高めることができる。この観点から、IGZOスパッタリングターゲットの平均結晶粒径は20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらにより好ましく、12μm以下であることがさらにより好ましく、10μm以下であることがさらにより好ましい。
【0028】
平均結晶粒径の測定方法は以下の通りである。IGZOスパッタリングターゲットをFE-SEMを用いて観察し、結晶粒径を測定して平均値を算出する。当該平均結晶粒径の測定法としてコード法を用いる。コード法はSEM画像上で任意の方向に粒界から粒界まで直線を引き、この線が1つの粒子を横切る長さの平均を平均結晶粒径とするものである。SEM画像上に、任意の直線(粒界から粒界まで)を引き、粒界との交点の数を数え、次の(式1)で計算する。
平均結晶粒径=直線の長さ/交点の数 (式1)
【0029】
具体的には、2000倍の倍率で6視野のSEM画像に任意の長さの互いに平行な線を1視野につき3本引き、その線の合計長さと粒界との交点の総数の平均から算出し、平均結晶粒径とする。
【0030】
サンプルは鏡面研磨を実施する。SEM画像は、FE-SEM(日本電子株式会社製)にて撮影する。また、サンプル採取場所については焼結体の中央部の10mm×10mm×厚みのサイズで切り出す。そして、サンプルの大きさを縦(Ymm)×横(Xmm)×厚み(Zmm)としたとき、縦と横のそれぞれ1/2の位置を基準として以下の箇所を測定する。
・Y/4mm軸とX/4、X/2、3X/4mm軸との交点から2箇所、Y/2mm軸とX/4、X/2、3X/4mm軸との交点から2箇所、3Y/4mm軸とX/4、X/2、3X/4mm軸との交点から2箇所を選択する。
【0031】
(5.抗折強度)
本発明のIGZOスパッタリングターゲットは、抗折強度が100MPa以上であることが好ましい。抗折強度を100MPa以上とすることにより、スパッタリング中にスパッタリングターゲットに割れが発生する現象を抑制することができる。この観点から、IGZOスパッタリングターゲットの抗折強度は120MPa以上であることがより好ましく、140MPa以上であることがさらにより好ましい。
【0032】
抗折強度はJIS R1601:2008に準拠して3点曲げ試験で測定する。具体的には、試料全長:40mm±0.1mm、幅:4mm±0.1mm、厚さ:3mm±0.1mm、支点間距離:30mm±0.1mm、クロスヘッドスピード:0.5mm/minとする。
【0033】
(6.製造方法)
以下に、本発明に係るIGZOスパッタリングターゲットの好適な製法を例示的に説明する。
[1]粉末
In、Ga、Znをそれぞれ含む粉末を用いることができる。より具体的には、In化合物の粉末、Ga化合物の粉末、Zn化合物の粉末を用いることができる。或いはこれらの元素の組み合わせを含む粉末を用いてもよい。In化合物の粉末の例としては、酸化インジウム(In23)、水酸化インジウム等が挙げられる。Ga化合物の粉末の例としては、酸化ガリウム(Ga23)、硝酸ガリウム等が挙げられる。Zn化合物の粉末の例としては、酸化亜鉛(ZnO)、水酸化亜鉛等が挙げられる。配合量については、所望のIn、Ga、Znの原子比を実現できる量であればよい。
【0034】
[2]微粉砕及び混合
次に、これらの原料粉末を微粉砕し混合する。原料粉末の微粉砕・混合処理は、乾式法又は湿式法を使用することができる。乾式法には、ジルコニア、アルミナ、ナイロン樹脂等のボールやビーズを用いた乾式法が挙げられる。一方、湿式法には、上記のボールやビーズを用いたメディア撹拌型ミルが挙げられる。更に、湿式法には、メディアレスの容器回転式、機械撹拌式、気流式の湿式法が挙げられる。ここで、一般的に湿式法は乾式法に比べて微粉砕及び混合能力に優れている。従って、湿式法を用いて微粉砕・混合を行うことが好ましい。
【0035】
ただし、IGZOスパッタリングターゲットに含まれるZrの量を20質量ppm未満とするためには、少なくともGa化合物の粉末、好ましくはすべての原料粉末をメディアレスな乾式粉砕装置で粉砕する。メディアレスな乾式粉砕装置として、例えば、圧縮空気式乾式粉砕装置や過熱蒸気式乾式粉砕装置などが挙げられる。メディアレスな乾式粉砕装置を用いることにより、ジルコニアビーズの使用を回避することができ、したがって、ジルコニアビーズの摩耗による混入を防止することができるので、IGZOスパッタリングターゲットに含まれるZrの量を低減することができる。
【0036】
本明細書において、過熱蒸気式乾式粉砕装置とは、過熱蒸気を使用することで、圧縮空気と比較して高い衝突エネルギーを生み出すことができるだけでなく、ジルコニアビーズの混入を防ぐことができる乾式粉砕装置である。
【0037】
粉砕後の粒子のサイズについては特に限定されないが、原料粉末を微細化することで高密度な焼結体が得られ、高い電気伝導率やスパッタ時のノジュール抑制が可能であるので、小さいサイズが好ましい。したがって、粉砕後、原料粉末のレーザー回折・散乱法により求めた体積基準のメジアン径(D50)としては、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下である。また、粉砕が不充分であると、製造したターゲット中に各成分が偏析して、高抵抗率領域と低抵抗率領域が存在することになる。これにより、スパッタ成膜時に高抵抗率領域での帯電等によるアーキングなどの異常放電の原因となってしまう。従って、充分な混合と粉砕が必要である。
【0038】
[3]造粒
湿式法を用いて混合を行う場合、上記の工程で得られた混合粉スラリーに成形助剤を添加した上で、スプレードライヤーを用いて造粒粉を作製する。造粒により粉体の流動性を向上させることで、次工程のプレス成形時に粉体を均一に金型へ充填し、均質な成形体を得ることができる。造粒には様々な方式があるが、スプレードライヤーを用いる方法が好ましい。この方法は、スラリーを熱風中に液滴として分散させ、瞬間的に乾燥させる方法であり、球状の造粒粉を連続的に得ることが出来る。造粒粉は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準のメジアン径(D50)が好ましくは35~65μm、より好ましくは40~60μm、更により好ましくは45~55μmである。
【0039】
成形助剤の添加割合は、混合粉スラリー1kg当たり50~250ccとするのが適当である。成形助剤の添加割合は、十分な成形体強度を得るために、混合粉スラリー1kg当たり100cc以上であることが好ましく、120cc以上であることがより好ましい。成形助剤の添加割合は、成形助剤が焼結を阻害し、焼結体の低密度化を引き起こすため、混合粉スラリー1kg当たり175cc以下であることが好ましく、150cc以下であることがより好ましい。
【0040】
[4]成形
次に、混合粉末を金型に充填し、面圧400~1000kgf/cm2、1~3分保持の条件で一軸プレスして、成形体を得る。面圧400kgf/cm2未満であると十分な密度の成形体を得ることができない。また、1000kgf/cm2超の面圧は生産上特に必要とされない。即ち、過度な面圧を加えても成形体の密度はある一定の値以上は向上しにくくなる。また、1000kgf/cm2超の面圧を行うと、一軸プレスでは原理的に成形体内に密度分布が生じやすく、焼結時の変形や割れの原因となる。
【0041】
次に、この成形体をビニールで2重に真空パックし、圧力1500~4000kgf/cm2、1~3分保持の条件でCIP(冷間等方圧加圧法)を施す。圧力1500kgf/cm2未満であると、十分なCIPの効果を得ることができない。一方4000kgf/cm2超の圧力を加えても、成形体の密度はある一定の値以上は向上しにくくなる。従って、4000kgf/cm2超の面圧は生産上特に必要とされない。成形体のサイズについては、特に規定されないが、厚みが大きすぎると、相対密度の高い焼結体を得ることが困難になる。従って、焼結体の厚みが、15mm以下になるように、成形体の厚みを調節することが好ましい。
【0042】
[5]焼結
次に、成形体を温度1300~1500℃(好ましくは1350~1450℃)、5~24時間(好ましくは、10時間~22時間、更に好ましくは15~21時間)、大気雰囲気又は酸素雰囲気で焼結を行い、焼結体を得ることができる。焼結温度が1300℃よりも低いと十分な密度の焼結体を得ることができない。また、結晶相InGaZnO4を充分に得ることができない。焼結温度が1500℃超であると焼結体中の結晶粒のサイズが大きくなり過ぎて、焼結体の機械的強度を低下させる恐れがある。また時間が5時間未満であると十分な密度の焼結体を得ることができず、時間が24時間より長いと、生産コストの観点から好ましくない。
【0043】
焼結工程における昇温速度は、1~10℃/分とすることが好ましい。これは昇温速度が遅すぎると緻密化が十分進む前に粒成長し高密度化しないためである。また、焼結工程における昇温速度は、3~8℃/分とすることが好ましく、4~6℃/分とすることが好ましい。また、焼結工程における降温速度は、20℃/分以下とすることが好ましく、10℃/分以下とすることがより好ましい。これは降温速度が速すぎると熱衝撃により焼結体が破損する恐れがあるためである。
【0044】
また、成形・焼結工程においては、上述した方法以外にも、HP(ホットプレス)やHIP(熱間等方圧加圧法)を用いることができる。
【0045】
[6]研削
上記工程によって得られた焼結体は、必要に応じて平面研削機、円筒研削機、マシニング等の加工機で所望の形状に加工することにより、IGZOスパッタリングターゲットに仕上げることができる。IGZOスパッタリングターゲットの形状には特に制限はないが、例えば円盤状、矩形板状、又は円筒形状とすることができる。IGZOスパッタリングターゲットは、単独で使用してもよいし、適宜バッキングプレートに接合して使用することができる。バッキングプレートとの接合方法としては、例えば、銅製のバッキングプレートに、インジウム系合金などをボンディングメタルとして、貼り合わせる方法が挙げられる。
【0046】
以上の工程を経て、本発明が目的とするIGZOスパッタリングターゲットを得ることができる。
【実施例0047】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
In23粉、Ga23粉、ZnO粉を、焼結体の組成比がIn、Ga及びZnの原子比でおおよそ1:1:1となるように秤量した後、表1に示される条件により、これらの原料粉を微粉砕・混合した。その後、混合原料粉を純水中に分散させて固形分45~50質量%になるようにスラリーを作製し、スプレードライヤー(大川原化工機社製、装置名:FOC-25E)で乾燥・造粒して、混合粉末を得た。次に、この混合粉末を面圧400~1000kgf/cm2で一軸プレスして、直径280mmの円盤状成形体を得た。次に得られた成形体を表1に示される条件で焼結した。
【0049】
原料粉末を微粉砕・混合するための方法として、表1に示されるように、湿式ビーズミル又は過熱蒸気式乾式粉砕装置を採用した。それぞれの条件は以下の通りである。
【0050】
(湿式ビーズミルの条件)
原料粉末を用意し、純水中に分散させて固形分45質量%になるようにスラリーを作製した(比較例1についてはGa23粉のみ)。次に、粉砕媒体をZrO2ビーズとしたビーズミル(アシザワ・ファインテック社製、装置名:LMZ)に投入し、混合粉のメジアン径(D50)が試験番号に応じて表1に記載の値になるまで粉砕を実施し、各試験番号に係る混合粉スラリーを得た。
【0051】
(過熱蒸気式乾式粉砕装置の条件)
Ga23粉を用意し、粉砕蒸気圧力3.8MPa、分級機速度7000rpm、粉砕蒸気温度250~340℃で、Ga23粉のメジアン径(D50)が試験番号に応じて表1に記載の値になるまで粉砕を実施し、Ga23粉砕粉を得た。
【0052】
(メジアン径(D50))
また、粉砕後の各原料粉末について、レーザー回折・散乱法粒度測定装置(堀場製作所社製、装置名:LA-960)を用いて体積基準による粒度の累積分布を測定して、メジアン径(D50)を求めた。分散剤としてアルコゾールを使用し、屈折率を1.9として測定した。粉砕方法として「なし」で表示される例に関しては、原料粉末のメジアン径(D50)を直接示している。粉砕方法として「湿式ビーズミル」で表示される例に関しては、微粉砕・混合後のIn23、ZnO、Ga23の混合粉スラリーのメジアン径(D50)を測定した。粉砕方法として「湿式ビーズミル(注)」で表示される例に関しては、「湿式ビーズミル」と比較して粉砕時間を半分にし、微粉砕・混合後のIn23、ZnOの混合粉スラリーのメジアン径(D50)を測定した。なお、各実施例及び比較例において、Ga23粉はいずれもメジアン径(D50)が2.17μmのものを使用した。
【0053】
(相対密度)
上記で得られた各試験番号に係るIGZOスパッタリングターゲットの測定密度をアルキメデス法で求め、先述した方法に従い、相対密度=実測密度/理論密度×100(%)によって相対密度を求めた。結果を表1に示す。
【0054】
(平均結晶粒径)
上記で得られた各試験番号に係るIGZOスパッタリングターゲットの平均結晶粒径を先述した方法に従って測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(バルク抵抗)
上記で得られた各試験番号に係るIGZOスパッタリングターゲットのバルク抵抗を先述した方法に従って測定した。結果を表1に示す。
【0056】
(抗折強度)
実施例7について、上記で得られた各試験番号に係るIGZOスパッタリングターゲットの抗折強度を先述した方法に従って測定した。結果として実施例7の抗折強度は160.9MPaであった。
【0057】
(Zr含有量)
上記で得られた各試験番号に係るIGZOスパッタリングターゲット中のZr濃度を、高周波誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)により、先述した条件で測定した。結果を表1に示す。なお、表中、「<」とあるのは、検出限界未満であることを指す。
【0058】
【表1】
【0059】
(考察)
表1からわかるように、各実施例において、Ga23粉を湿式ビーズミルではなく、過熱蒸気式乾式粉砕装置で粉砕することにより、Zrの混入を抑制することができ、結果として得られたIGZOスパッタリングターゲットのZr含有量は20質量ppm未満となった。また、各実施例のIGZOスパッタリングターゲットは、相対密度が95%以上であり、バルク抵抗が100mΩ・cm以下であり、平均結晶粒径が30μm以下であった。
【0060】
一方、Ga23粉を湿式ビーズミルで粉砕すると、最終的に得られたIGZOスパッタリングターゲットのZr含有量が大きく増加した(比較例1)。Ga23粉を全く粉砕せずにIGZOスパッタリングターゲットを作製する場合、Zrの混入を防止することはできたが、原料粉末の粒度が高かったため、相対密度を95%以上とすることができなかった(比較例2~5)。