(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067248
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】血清または血漿中の還元型アルブミン濃度または酸化型もしくは還元型アルブミンの割合を測定する方法およびキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/52 20060101AFI20230509BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
G01N33/52 C
G01N33/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178318
(22)【出願日】2021-10-29
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内木 智朗
(72)【発明者】
【氏名】多田 功生
(72)【発明者】
【氏名】福島 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】山下 隼
(72)【発明者】
【氏名】矢冨 裕
(72)【発明者】
【氏名】安川 恵子
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045BB36
2G045DA38
2G045FB11
2G045GC10
(57)【要約】
【課題】
発色試薬を用いて、還元型アルブミンを簡易に測定する方法において、従来の方法より、標準法に対する乖離が少なく、より正確な測定が可能な方法およびそのためのキットを提供する。
【解決手段】
特定の酸化剤を添加した検体の吸光度に対する無添加の検体の吸光度の差を用いて還元型アルブミン濃度を測定する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオールと反応して吸光度が変化する発色物質と、還元型アルブミンの遊離SH基を酸化する酸化剤とを含む、還元型アルブミン濃度を測定するためのキットであって、
前記酸化剤が、アルキル化剤、マレイミドおよびその誘導体、ならびに置換若しくは非置換ジチオジピリジンからなる群から選択される、キット。
【請求項2】
前記発色物質は、チオール基の求核反応の結果、吸光度変化を起こす物質である、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記発色物質は、4-4’-ビスジメチルアミノベンズヒドロール(BDAB)である、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
前記アルキル化剤が、ハロゲン化アセチル、4-クロロ-3,5-ジニトロベンゾトリフルオリド(CNBF)、およびブロモアセトニルキノリニウムブロミド(BQB)からなる群から選択される、請求項1~3の何れか1項に記載のキット。
【請求項5】
前記酸化剤が、ヨード酢酸、ヨードアセトアミド、マレイミド、2,2’-ジピリジルジスルフィド、4,4’-ジピリジルジスルフィド、2,2’-ジチオビス(5-ニトロピリジン)、6,6’-ジチオジニコチン酸、4-クロロ-3,5-ジニトロベンゾトリフルオリド(CNBF)、およびブロモアセトニルキノリニウムブロミド(BQB)からなる群から選択される、請求項1~3の何れか1項に記載のキット。
【請求項6】
タンパク変性剤を含む、請求項1~5の何れか1項に記載のキット。
【請求項7】
前記酸化剤のモル濃度が、前記酸化剤を含む試薬と検体または標準品とを混合した際にアルブミンのモル濃度の10倍以上となり、前記酸化剤と前記アルブミンを含む混合物に前記BDABを含む試薬を混合した際の前記発色物質のモル濃度の270倍以下となるように設定されている、請求項1~6の何れか1項に記載のキット。
【請求項8】
キャリブレーターとして、標準血清若しくは血漿、精製アルブミン溶液、または精製還元型アルブミン溶液を含む、請求項1~7の何れか1項に記載のキット。
【請求項9】
前記酸化剤および緩衝液を含有する第1試薬と、前記発色物質および緩衝液を含有する第2試薬とを含み、前記第1試薬および前記第2試薬のいずれかに若しくは両方にタンパク変性剤を含む、請求項1~8の何れか1項に記載のキット。
【請求項10】
還元型アルブミン濃度を測定する方法であって、
試料に、還元型アルブミンの遊離SH基を酸化する酸化剤を添加し、次いでチオールと反応して吸光度が変化する発色物質を含む試薬と混合し、所定の波長で吸光度(ODox)を測定する工程と、
他方、前記試料に、酸化剤を添加せずに前記発色物質を含む試薬を混合し、所定の波長で吸光度(ODnon-ox)を測定する工程と、
前記吸光度(ODox)と前記吸光度(ODnon-ox)との吸光度差(ΔOD)を求め、前記吸光度差(ΔOD)から前記試料中の還元型アルブミン濃度を算出する工程とを含み、
前記酸化剤が、アルキル化剤、マレイミドおよびその誘導体、ならびに置換若しくは非置換ジチオジピリジンからなる群から選択される、方法。
【請求項11】
前記発色物質は、チオール基の求核反応の結果、吸光度変化を起こす物質である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記発色物質は、4-4’-ビスジメチルアミノベンズヒドロール(BDAB)である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記アルキル化剤が、ハロゲン化アセチル、4-クロロ-3,5-ジニトロベンゾトリフルオリド(CNBF)、およびブロモアセトニルキノリニウムブロミド(BQB)からなる群から選択される、請求項10~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化剤が、ヨード酢酸、ヨードアセトアミド、マレイミド、2,2’-ジピリジルジスルフィド、4,4’-ジピリジルジスルフィド、2,2’-ジチオビス(5-ニトロピリジン)、6,6’-ジチオジニコチン酸、4-クロロ-3,5-ジニトロベンゾトリフルオリド(CNBF)、およびブロモアセトニルキノリニウムブロミド(BQB)からなる群から選択される、請求項10~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
更にタンパク変性剤を、前記試料に添加する、請求項10~14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
標準血清若しくは血漿、精製アルブミン溶液、または精製還元型アルブミン溶液をキャリブレーターとして用いて検量線を作成する、請求項10~15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記標準血清若しくは血漿、精製アルブミン溶液、または精製還元型アルブミン溶液の希釈系列を作成し、
前記希釈系列の各希釈液に前記酸化剤を添加し、次いで前記発色物質を含む試薬と混合した後、前記所定の波長で吸光度(ODox)を測定し、
他方、前記希釈系列の各希釈液を、前記酸化剤を添加せずに前記発色物質を含む試薬と混合した後、前記所定の波長で吸光度(ODnon-ox)を測定し、
前記各希釈液について、前記吸光度(ODox)と前記吸光度(ODnon-ox)との吸光度差(ΔOD)を求め、
前記各希釈液についての前記吸光度差(ΔOD)と、前記各希釈液の既知の還元型アルブミン濃度とから、前記検量線を作成する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
還元型アルブミンの割合を決定する方法であって、
改良BCP法により試料中の総アルブミン濃度を決定し、
請求項10~17の何れか1項に記載の方法により前記試料中の還元型アルブミン濃度を決定し、
前記還元型アルブミン濃度を前記総アルブミン濃度で割って、前記還元型アルブミンの割合を算出する、方法。
【請求項19】
1から、請求項18に記載する方法により決定した還元型アルブミンの割合を差し引いて、酸化型アルブミンの割合を算出する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清または血漿中の還元型アルブミン濃度または酸化型もしくは還元型アルブミンの割合を簡易に測定する方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
血中のアルブミンは生体中で最も総量が多いタンパク質であり、酸化型または還元型の形態をとる。このため、ヒト血清若しくは血漿中の酸化型アルブミンの割合は、全身の酸化ストレスを反映する指標と考えられ、慢性腎疾患、糖尿病などの慢性疾患の進行に伴って増加することが報告されている(非特許文献1および2)。また、パーキンソン病、アルツハイマー病などの老化に伴う中枢神経系疾患の補助的な診断のためのバイオマーカーとして使用し得るとの報告もある(非特許文献3および4)。そのため、酸化型または還元型アルブミンの割合の測定はこれらの疾患の診断やリスク判定に有用と考えられている(特許文献1および非特許文献1)。
【0003】
酸化型または還元型アルブミンの割合の測定は、HPLCを用いる方法(非特許文献1および2ならびに特許文献5)または質量分析器を用いる方法(非特許文献2および5)で行われている。これらの方法は、十分確立されており、高い精度で酸化型または還元型アルブミンの割合を測定できるため、標準的な方法として用いられている。
しかし、これらの方法は、スループットに限界があり、特に質量分析器を用いる方法では、質量分析の中でも分子量の大きなタンパクを高分解能で測定できる機器(例えば、EST-TOF MS)が必要となる(非特許文献2および5)。
【0004】
一方、より簡便でスループットが高い測定法として発色試薬を用いる方法が開発されており、アルブミンを測定する代表的な方法としては、BCP法および改良BCP法が知られている。また、BCP法と改良BCP法とを組み合わせることで、還元型アルブミンを定量する方法も報告されている(特許文献1および2)。
BCP法は、ブロモクレゾールパープル(BCP)がアルブミンに結合すると吸収スペクトルが変化するメタクロマジーを利用してアルブミンを定量する方法である。しかし、BCPは、還元型アルブミンと酸化型アルブミンに対する反応性に違いがあるため、両者の割合により総アルブミン値が影響を受けることから、酸化剤により、還元型アルブミンを酸化型アルブミンに変換してからBCPと反応させる改良BCP法が開発され、これが総アルブミンを定量する標準的な方法として用いられている。また、改良BCP法では、種々の酸化剤について検討がなされており、過マンガン酸カリウム、過ヨウ化ナトリウム、メタバナジン酸ナトリウムなどの酸化剤では、還元型アルブミンのSH基による影響を十分に回避することができず、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加した5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)試薬でこの影響を回避できることが報告されている(非特許文献6)。このため、改良BCP法では、標準的に、酸化剤としてSDSおよびDTNBの組み合わせが用いられている(特許文献3)。
【0005】
BCP法と改良BCP法とを組み合わせて、還元型アルブミン濃度を測定する方法は、改良BCP法により総アルブミン濃度を決定し、これからBCP法で決定したアルブミン濃度を引いた値を還元型アルブミン濃度として算出する方法であり、この方法でも、改良BCP法で用いる酸化剤は、標準的にSDSおよびDTNBの組み合わせである(特許文献1および2)。
このBCP法と改良BCP法を組み合わせて還元型アルブミン濃度または割合を決定する方法では、標準的な方法であるHPLC法で測定される酸化型または還元型アルブミンの割合に対して低い相関(r=0.53)が報告されており(非特許文献7)、患者検体では測定誤差が大きいため、アルブミンの酸化還元状態を推定できないという報告もある(非特許文献8)。また、このようなBCPを用いて還元型アルブミン濃度または割合を決定する方法では、これら標準的方法に比べ、総アルブミンの濃度が高い試料ほど酸化型アルブミンの濃度が高く測定される傾向があると共に、感度が低いという問題がある。
【0006】
発色試薬系で、還元型アルブミン濃度を測定する他の方法として、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンズヒドロール(BDAB)を用いる方法(BDAB法)も報告されている(非特許文献9および特許文献4)。この方法は、BDABのカチオンに対するチオール基の求核反応の結果生ずる吸光度変化を利用することを特徴とし、血清もしくは血漿中のチオールの大部分が還元型アルブミンに由来することから、血清もしくは血漿中のチオール濃度を測定することにより還元型アルブミン濃度を近似的に決定するものである(非特許文献9、10、および11ならびに特許文献4)。このBDAB法は、直接還元型アルブミン濃度を測定し得る点でBCP法と改良BCP法とを組み合わせる方法とは異なる。また、この方法では、それ以前に血清中のチオール基の発色試薬として5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)が用いられていた方法と異なり、共存物質の影響を除くためにカラムクロマトグラフィー等による前処理を行う必要がないとされている(特許文献4)。
【0007】
しかし、このBDAB法でも、本発明者らによる検討の結果、標準的な方法であるHPLC法と改良BCP法の測定結果から算出される還元型アルブミン濃度に対して、乖離する検体が散見することが分かっており、標準的な方法に対してより相関し、より信頼性の高い結果が得られる測定方法が望まれる。また、この方法でキャリブレーターとして使っている還元型アルブミンは、Thiol Sepharoseという特殊なカラムを使って精製しており(非特許文献9)、キャリブレーターの調製に手間がかかるという問題がある。また、BDABを用いる方法で、酸化型または還元型アルブミンの割合を決定することはこれまで報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-025486
【特許文献2】特開2018-194453
【特許文献3】特許第3266079号
【特許文献4】特開平1-161151号
【特許文献5】特開2017-058278
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Masudo R.et al., “Evaluation of human nonmercaptalbumin as a marker for oxidative stress and its association with various parameters in blood” Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition, 2017, Vol.61, No.2, p.79-84
【非特許文献2】Nagumo K.et al., “Cys34-Cysteinylated Human Serum Albumin Is a Sensitive Plasma Marker in Oxidative Stress-Related Chronic Diseases”PLOS ONE, 2014, Vo.9, No.1, p. e85216.
【非特許文献3】Costa M et. al., “Increased Albumin Oxidation in Cerebrospinal Fluid and Plasma from Alzheimer’s Disease Patients”, Journal of Alzheimer’s Disease, 2018, Vol.63, p.1395-1404
【非特許文献4】Ueno S et. al., “Nonmercaptalbumin as an oxidative stress marker in Parkinson’s and PARK2 disease”, Annals of Clinical and Translational Neurology, 2020, Vol.7, No.3, P.307-317
【非特許文献5】Magzal F.et al., “In-vivo oxidized albumin - a pro-inflammatory agent in hypoalbuminemia”PLOS ONE, 2017, Vol.12,No.5, p. e0177799
【非特許文献6】村本 良三 (他2名)、“正確度を改善したブロムクレゾールパープル法による血清アルブミン定量法の開発”、臨床化学、1997、26巻1号、p.38-43
【非特許文献7】Yoshihiro S. et al.. “New colorimetric method with bromocresol purple for estimating the redox state of human serum albumin”, Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition, 2020, Vol.67, No.3,257-262
【非特許文献8】吉冨史美、(他6名)、“ヒト血清アルブミン酸化還元状態を推定する新規分光学的測定法”、第59回日本臨床化学会年会 抄録集、 2019年、 p.194
【非特許文献9】濱 三和夫、田中 満直. “血液中メルカプトアルブミンの測定”緒方医学化学研究所報告、平成三年度号、p. 7 - 13、1991.
【非特許文献10】Colombo G.et.al., “Redox Albuminomics: Oxidized Albumin in Human Diseases” Antioxidants & Redox Signaling, 2012, Vol.17, No.11, p.1515- 1527
【非特許文献11】Turell L.et al., “The thiol pool in human plasma:The central contribution of albumin to redox processes” Free Radical Biology and Medicine, 2013, Vol.65, p.244-253
【非特許文献12】Chen X.et al., “Fluorescence and colorimetric probes for detection of thiols” Chemical Society Review, 2010, Vol.39, No.6, p.2120-2135
【非特許文献13】Deng L.et al., “Colorimetric and Ratiometric Fluorescent Chemosensor Based on Diketopyrrolopyrrole for Selective Detection of Thiols: An Experimental and Theoretical Study”, The Journal of Organic Chemistry, 2011, Vol.76, p.9294-9304
【非特許文献14】Shen Y.et al., “A Simple and New Fluorescent and Colorimetric Probe Based on NBD-Maleimide for Detecting Thiols in Living Cells”, Analytical Methods, 2015, Vol.7, No.15, p.6419-6425
【非特許文献15】Ros-Lis J.V.et al., “Squaraines as Fluoro-Chromogenic Probes for Thiol-Containing Compounds and Their Application to the Detection of Biorelevant Thiols”, Journal of American Chemical Society, 2004, Vol.126, No.13, p.4064-4065
【非特許文献16】Fan J.et al., “A fast response squaraine-basedcolorimetric probe for detection of physiological conditions”, Sensors and Actuators B:Chemical, 2013, Vol.80, p.886-893
【非特許文献17】Yasukawa K.et al., “Establishment of a stable sampling method to assay mercaptoalbumin/non-mercaptoalbumin and reference ranges”Practical Laboratory Medicine, Vol.17,p.e00132, 2019.
【非特許文献18】Hayashi T.et. al., “The importance of sample preservation for analysis of the redox state of human serum albumin”Clinica Chimica Acta, Vol.316, No.1-2, p.175-178, 2002.
【非特許文献19】Fabisiak J.P.et al., “Quantification of Oxidative/Nitrosatie Modification of CYS34 in Human Serum Albumin Using a Fluorescence-Based SDs-PAGE Assay”Antioxidant& Redox Signaling, Vol.4,No.5, p.855-865, 2002.
【非特許文献20】Turell L.et al.,“Oxidation of the albumin thiol to sulfenic acid and its implications in the intravascular compartment” Brazilian Journal of Medical and Biological Research, 2009, Vol.42, No.4, p.305-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、発色試薬を用いて、還元型アルブミン濃度を簡易に測定する方法において、従来の方法より、標準的な方法に対する乖離が少なく、より正確な測定が可能な方法およびそのためのキットを提供することを目的とする。本発明はまた、標準血清もしくは血漿などの調製が容易な試料をキャリブレーターとして利用が可能な還元型アルブミンの測定方法およびそのためのキットを提供することも目的とする。本発明はさらに、発色試薬を用いて、酸化型または還元型アルブミンの割合を決定する新規方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、従来のBDAB法による還元型アルブミン濃度の測定で、標準法に対して比較的大きく乖離する試料が存在することを確認し、この問題を改善すべく検討を重ね、BDAB等の、チオールと反応して吸光度が変化する物質を用いた測定系において、特定の酸化剤を添加した検体の吸光度に対する無添加の検体の吸光度の差を用いて還元型アルブミン濃度を測定することで、標準法に対する乖離を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下の還元型アルブミンを測定するためのキット、試料中の還元型アルブミン濃度を測定する方法、および酸化型もしくは還元型アルブミンの割合を決定する方法を提供する。
[1] チオールと反応して吸光度が変化する発色物質と、還元型アルブミンの遊離SH基を酸化する酸化剤とを含む、還元型アルブミン濃度を測定するためのキットであって、
前記酸化剤が、アルキル化剤、マレイミドおよびその誘導体、ならびに置換若しくは非置換ジチオジピリジンからなる群から選択される、キット。
[2] 前記発色物質は、チオール基の求核反応の結果、吸光度変化を起こす物質であり、例えば、4-4’-ビスジメチルアミノベンズヒドロール(BDAB)、7-ニトロ-2,3-ジヒドロ-1H-シクロペンタ[b]クロメン-1-オン、ジケトピロロピロール、1,3-ビス(4-N、N-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシ-フェノール)クロコニン、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾールマレイミド、および2,4-ビス[4-(N,N-ビス(2-メトキシエトキシ)メチル)-ジフェニル]スクアラインからなる群から選択される、[1]に記載のキット。
[3] 前記発色物質は、4-4’-ビスジメチルアミノベンズヒドロール(BDAB)である、[1]に記載のキット。
[4] 前記アルキル化剤が、ハロゲン化アセチル、4-クロロ-3,5-ジニトロベンゾトリフルオリド(CNBF)、およびブロモアセトニルキノリニウムブロミド(BQB)からなる群から選択される、[1]~[3]の何れか1項に記載のキット。
[5] 前記酸化剤が、ヨード酢酸、ヨードアセトアミド、マレイミド、2,2’-ジピリジルジスルフィド、4,4’-ジピリジルジスルフィド、2,2’-ジチオビス(5-ニトロピリジン)、6,6’-ジチオジニコチン酸、4-クロロ-3,5-ジニトロベンゾトリフルオリド(CNBF)、およびブロモアセトニルキノリニウムブロミド(BQB)からなる群から選択される、[1]~[3]の何れか1項に記載のキット。
[6] タンパク変性剤を含む、[1]~[5]の何れか1項に記載のキット。
[7] 前記酸化剤のモル濃度が、前記酸化剤を含む試薬と試料とを混合した際に混合物中のアルブミンのモル濃度の10倍以上となり、前記混合物に前記発色物質を含む試薬を混合した際に前記発色物質のモル濃度の270倍以下となるように設定されている、[1]~[6]の何れか1項に記載のキット。
[8] キャリブレーターとして、標準血清もしくは血漿、精製アルブミン溶液、または精製還元型アルブミン溶液を含む[1]~[7]の何れか1項に記載のキット。
[9] 前記酸化剤および緩衝液を含有する第1試薬と、前記発色物質および緩衝液を含有する第2試薬とを含み、前記第1試薬および前記第2試薬のいずれか一方または両方にタンパク変性剤を含む、[1]~[8]の何れか1項に記載のキット。
[10] 還元型アルブミン濃度を測定する方法であって、
試料に、還元型アルブミンの遊離SH基を酸化する酸化剤を添加し、次いでチオールと反応して吸光度が変化する発色物質を含む試薬と混合し、所定の波長で吸光度(ODox)を測定する工程と、
他方、前記試料を、前記酸化剤を添加せずに前記発色物質を含む試薬と混合し、所定の波長で吸光度(ODnon-ox)を測定する工程と、
前記吸光度(ODox)と前記吸光度(ODnon-ox)との吸光度差(ΔOD)を求め、前記吸光度差(ΔOD)から前記試料中の還元型アルブミン濃度を算出する工程とを含み、
前記酸化剤が、アルキル化剤、マレイミドおよびその誘導体、ならびに置換若しくは非置換ジチオジピリジンからなる群から選択される、方法。
[11] 前記発色物質は、チオール基の求核反応の結果、吸光度変化を起こす物質で、例えば、4-4’-ビスジメチルアミノベンズヒドロール(BDAB)、7-ニトロ-2,3-ジヒドロ-1H-シクロペンタ[b]クロメン-1-オン、ジケトピロロピロール、1,3-ビス(4-N、N-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシ-フェノール)クロコニン、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾールマレイミド、2,4-ビス[4-(N,N-ビス(ブチルカルバメイト))-ジフェニル]スクアライン、および2,4-ビス[4-(N,N-ビス(2-メトキシエトキシ)メチル)-ジフェニル]スクアラインからなる群から選択される、[10]に記載の方法。
[12] 前記発色物質は、4-4’-ビスジメチルアミノベンズヒドロール(BDAB)である、[10]に記載の方法。
[13] 前記アルキル化剤が、ハロゲン化アセチル、4-クロロ-3,5-ジニトロベンゾトリフルオリド(CNBF)、およびブロモアセトニルキノリニウムブロミド(BQB)からなる群から選択される、[10]~[12]の何れか1項に記載の方法。
[14] 前記酸化剤が、ヨード酢酸、ヨードアセトアミド、マレイミド、2,2’-ジピリジルジスルフィド、4,4’-ジピリジルジスルフィド、2,2’-ジチオビス(5-ニトロピリジン)、6,6’-ジチオジニコチン酸、4-クロロ-3,5-ジニトロベンゾトリフルオリド(CNBF)、およびブロモアセトニルキノリニウムブロミド(BQB)からなる群から選択される、[10]~[12]の何れか1項に記載の方法。
[15] 更に、タンパク変性剤を前記試料に添加する、[10]~[14]の何れか1項1項に記載の方法。
[16] 標準血清若しくは血漿、精製アルブミン溶液、または精製還元型アルブミン溶液をキャリブレーターとして用いて検量線を作成する、[10]~[15]の何れか1項に記載の方法。
[17] 前記キャリブレーターの希釈系列を作成し、
前記希釈系列の各希釈液に前記酸化剤を添加し、次いで前記発色物質を含む試薬と混合した後、前記所定の波長で吸光度(ODox)を測定し、
他方、前記希釈系列の各希釈液を、前記酸化剤を添加せずに前記発色物質を含む試薬と混合した後、前記所定の波長で吸光度(ODnon-ox)を測定し、
前記各希釈液について、前記吸光度(ODox)と前記吸光度(ODnon-ox)との吸光度差(ΔOD)を求め、
前記各吸光度差(ΔOD)と、前記各希釈液の既知の還元型アルブミン濃度とから、前記検量線を作成する、[16]に記載の方法。
[18] 還元型アルブミンの割合を決定する方法であって、
改良BCP法により試料中の総アルブミン濃度を決定し、
[10]~[17]の何れか1項に記載の方法により前記試料中の還元型アルブミン濃度を決定し、
前記還元型アルブミン濃度を前記総アルブミン濃度で割って、前記還元型アルブミンの割合を算出する、方法。
[19] 1から、[18]に記載する方法により決定した還元型アルブミンの割合を差し引いて、酸化型アルブミンの割合を算出する方法。
【0013】
本発明により、HPLC法および質量分析法による測定を伴う方法よりも、より簡便にスループットが高い還元型アルブミンの測定が可能となる。また、BCP/改良BCP法および従来のBDAB法よりも標準法に対する相関が高く、標準法に対する乖離が少ないため、より正確に還元型アルブミン濃度を測定することができる。
【0014】
ここで、本明細書で用いるいくつかの用語について、定義する。
本明細書で用いる場合、「HPLC法」とは、HPLCを用いて酸化型/還元型アルブミン比または総アルブミン中の酸化型または還元型アルブミンの割合を決定する方法をいうものとする。
【0015】
本明細書で用いる場合、「質量分析法」とは、質量分析機器を用いて酸化型/還元型アルブミン比または総アルブミン中の酸化型または還元型アルブミンの割合を決定する方法をいうものとする。また、特に言及しない限り、「質量分析法」による分析は、非特許文献2および5に記載する手順及び条件で行うものとする。
【0016】
本明細書で用いる場合、「改良BCP法」とは、還元型アルブミンの遊離SH基を酸化する酸化剤を試料に添加して還元型アルブミンを酸化型アルブミンに変換した後にブロモクレゾールパープル(BCP)を酸化型アルブミンと反応させて総アルブミン濃度を測定する方法を意味する。
【0017】
本明細書で総アルブミン中の酸化型または還元型アルブミンの割合を決定する方法に言及する場合、「標準法」とは、特許文献5に記載する手順及び条件に従って実施する「HPLC法」をいうものとする。この標準法では、具体的には、イオン交換基としてDEAE(Diethylaminoethyl)を有するイオン交換樹脂が充填された陰イオン交換カラムを使用し、緩衝液Aにて平衡化後、検体を注入し、同時に7.5分間、1.0mL/分の流速で、緩衝液A(100%から75%)と緩衝液B(0%から25%)によるリニアグラジエントにかけて、酸化型アルブミンおよび還元型アルブミンを分離し、励起波長280nm、検出波長340nmの蛍光で検出を行う。
緩衝液A:60mM Na2SO4を含む25mMリン酸緩衝液(pH6.0)
緩衝液B:1M MgCl2
【0018】
また、本明細書で総アルブミン濃度を決定する方法に言及する場合、「標準法」とは、特許文献3に記載する手順に従って実施する「改良BCP法」をいうものとする。この標準法では、具体的には、15μLの検体に対して85μLの第一試薬(25mM Tris HCl、pH8.0中に、100μM DTNB、および0.03%(w/v)SDSを含む)を添加、37℃で5分間インキュベーション後、150μLの第二試薬(250mMコハク酸ナトリウム、pH5.5溶液中に、150μMブロモクレソールパープル、および0.3%(v/v)Triton X-100を含む)を添加して、さらに37℃で20分間インキュベーションをし、吸光度600nm(主波長)/660(副波長)を測定して、総アルブミン濃度を決定する。
【0019】
本明細書で還元型アルブミン濃度を決定する方法に言及する場合、「標準法」とは、上記「標準法」によって総アルブミン中の還元型アルブミンの割合を決定し、上記「標準法」によって総アルブミン濃度を決定し、得られた総アルブミン濃度に還元型アルブミンの割合をかけて還元型アルブミン濃度を決定する方法をいうものとする。
【0020】
本明細書で用いる場合、「BDAB法」とは、4-4’-ビスジメチルアミノベンズヒドロール(BDAB)を発色物質として、還元型アルブミン濃度を測定する方法を意味する。
また、本明細書で用いる場合、「改良BDAB法」という用語は、「BDAB法」において、検体に還元型アルブミンの遊離SH基を酸化する酸化剤を含む溶液を添加して調製した試料に、BDABを含む試薬を添加し、所定の波長で測定した吸光度(ODox)と、同じ検体に酸化剤を含まない溶液を添加して調製した試料に、BDABを含む試薬を添加し、所定の波長で測定した吸光度(ODnon-ox)とを測定し、両者の吸光度差(ΔOD)から試料中の還元型アルブミン濃度を算出する方法をいうものとする。
また、本明細書で用いる場合、「従来のBDAB法」とは、「BDAB法」において、検体を還元型アルブミンの遊離SH基を酸化する酸化剤で処理せずに、BDABを含む試薬を添加し、所定の波長で測定した吸光度(ODnon-ox)から試料中の還元型アルブミン濃度を算出する方法をいうものとする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】上段のグラフは、血漿1検体を特許文献5に記載する手順に従ってHPLC法(標準法)により分析したクロマトグラムを示す。下段左の表は、上段のクロマトグラムの還元型アルブミンのピークと酸化型アルブミンのピークの面積および面積割合を示す。下段右の表は、血漿1検体を特許文献3に記載する手順に従って改良BCP法(標準法)により測定した総アルブミン濃度およびこれにHPLC法(標準法)により決定した還元型アルブミンの割合をかけて算出した還元型アルブミン濃度を示す。
【
図2】標準血清をマレイミドで処理する前にHPLC法(標準法)により分析したクロマトグラム、および標準血清をマレイミドで処理した後でHPLC法(標準法)により分析したクロマトグラムを示す。マレイミドで処理することにより、還元型アルブミンのピークが完全に消失し、酸化型アルブミンのピークが大きくなっていることを確認できる。
【
図3】
図3は、表10に示すデータを用いて作成した還元型アルブミン濃度を決定するための検量線である。
図3AおよびBは、吸光度差(ΔOD)を用いて還元型アルブミン濃度を決定する検量線であり、
図3Aは線形検量線であり、
図3Bは非線形検量線である。
図3Cは、OD
non-oxを用いて還元型アルブミン濃度を決定する検量線であり、従来の「BDAB法」と同様の検量線である。
【
図4】12人のドナーから得た検体(血清8件、血漿4件)を、標準法(HPLC法&改良BCP法)により決定した還元型アルブミン濃度に基づいて、緩衝液で希釈して183.5μMの濃度に調整した試料を、酸化剤としてマレイミドを用いる改良BDAB法(補正あり)または従来のBDAB法(補正なし)により
図3に示す検量線を用いて還元型アルブミン濃度を決定し、標準法(HPLC法&改良BCP法)の基準値183.5μMからの乖離を評価した結果を示す。
図4Aは、各検体の基準値からの乖離を示し、
図4Bは、基準値からの乖離の分布を示す。
図4B中のバーの上端及び下端は、それぞれ各測定法で標準法に対する最大較差(絶対値)および最小較差(絶対値)を示す。ボックスの上端及び下端は、それぞれ75%パーセンタイル値および25%パーセンタイル値を示す。×は、標準法に対する較差の中央値を示す。
【
図5】12人のドナーから得た検体(血清8件、血漿4件)を、標準法(HPLC法&改良BCP法)により決定した還元型アルブミン濃度に基づいて、緩衝液で希釈して総て183.5μMの濃度に調整した試料を用いて、酸化剤としてマレイミドを用いる改良BDAB法(補正あり)または従来のBDAB法(補正なし)と、改良BCP法(標準法)により酸化型アルブミンの割合を算出し、標準法(HPLC法)による酸化型アルブミンの割合に対する乖離を評価した結果を示す。図中のバーの上端及び下端は、それぞれ各測定法で標準法に対する最大較差(絶対値)および最小較差(絶対値)を示す。ボックスの上端及び下端は、それぞれ75%パーセンタイル値および25%パーセンタイル値を示す。×は、標準法に対する較差の中央値を示す。(特許文献5、ならびに非特許文献1および2の様に、酸化型アルブミンの割合を記述する事が一般的に多いため、本明細書でも、酸化型アルブミンの割合を優先的に記載する。)
【
図6】表13に示す試験結果について、標準法(HPLC法)により決定した酸化型アルブミンの割合に対する各方法で決定した酸化型アルブミンの割合の相関関係を示す。
【
図7】32人のドナーから得た検体(血清21件、血漿11件)について、酸化剤としてマレイミドを用いる改良BDAB法(補正あり)または従来のBDAB法(補正なし)により還元型アルブミン濃度を決定し、標準法(HPLC法&改良BCP法)により決定した還元型アルブミン濃度に対する乖離を評価した試験結果を示す。図中のバーの上端及び下端は、それぞれ各測定法で標準法に対する最大較差(絶対値)および最小較差(絶対値)を示す。ボックスの上端及び下端は、それぞれ75%パーセンタイル値および25%パーセンタイル値を示す。×は、標準法に対する較差の中央値を示す。改良BDAB法(補正あり)では、線形検量線と非線形検量線を作成し、還元型アルブミン濃度を決定した。
【
図8】32人のドナーから得た検体(血清21件、血漿11件)について、酸化剤としてマレイミドを用いる改良BDAB法(補正あり)または従来のBDAB法(補正なし)と改良BCP法(標準法)により酸化型アルブミンの割合を決定し、標準法(HPLC法)により決定した酸化型アルブミン濃度に対する乖離を評価した試験結果を示す。図中のバーの上端及び下端は、それぞれ各測定法で標準法に対する最大較差(絶対値)および最小較差(絶対値)を示す。ボックスの上端及び下端は、それぞれ75%パーセンタイル値および25%パーセンタイル値を示す。×は、標準法に対する較差の中央値を示す。改良BDAB法(補正あり)では、線形検量線と非線形検量線を作成し、還元型アルブミン濃度を決定した。
【
図9】表23に示す試験結果について、標準法(HPLC法)により決定した酸化型アルブミンの割合に対する各方法で決定した酸化型アルブミンの割合の相関関係を示す。
【
図10】32人のドナーから得た検体(血清21件、血漿11件)について、酸化剤としてヨードアセトアミドを用いる改良BDAB法(補正あり)または従来のBDAB法(補正なし)により還元型アルブミン濃度を決定し、標準法(HPLC法&改良BCP法)により決定した還元型アルブミン濃度に対する乖離を評価した結果を示す。図中のバーの上端及び下端は、それぞれ各測定法で標準法に対する最大較差(絶対値)および最小較差(絶対値)を示す。ボックスの上端及び下端は、それぞれ75%パーセンタイル値および25%パーセンタイル値を示す。×は、標準法に対する較差の中央値を示す。改良BDAB法(補正あり)では、線形検量線と非線形検量線を作成し、還元型アルブミン濃度を決定した。
【
図11】32人のドナーから得た検体(血清21件、血漿11件)について、酸化剤としてヨードアセトアミドを用いる改良BDAB法(補正あり)または従来のBDAB法(補正なし)と改良BCP法(標準法)により酸化型アルブミンの割合を決定し、標準法(HPLC法)により決定した酸化型アルブミンの割合に対する乖離を評価した結果を示す。図中のバーの上端及び下端は、それぞれ各測定法で標準法に対する最大較差(絶対値)および最小較差(絶対値)を示す。ボックスの上端及び下端は、それぞれ75%パーセンタイル値および25%パーセンタイル値を示す。×は、標準法に対する較差の中央値を示す。改良BDAB法(補正あり)では、線形検量線と非線形検量線を作成し、還元型アルブミン濃度を決定した。
【
図12】表26に示す試験結果について、標準法(HPLC法)により決定した酸化型アルブミンの割合に対する各方法で決定した酸化型アルブミンの割合の相関関係を示す。
【
図13】標準血清、精製アルブミン溶液または精製還元型アルブミン溶液を用いて、従来のBDAB法(補正なし)または改良BDAB法(補正あり)により作成した還元型アルブミン濃度の検量線を示す。
【
図14】標準血清、またはシステイン溶液を用いて、従来のBDAB法(補正なし)または改良BDAB法(補正あり)により作成した還元型アルブミン濃度の検量線を示す。
【
図15】各種標準血清を用いて、従来のBDAB法(補正なし)または改良BDAB法(補正あり)により作成した還元型アルブミン濃度の検量線を示す。
【
図16】各種標準血清又は血漿を用いて、従来のBDAB法(補正なし)または改良BDAB法(補正あり)により作成した還元型アルブミン濃度の検量線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定して理解されるべきものではない。
【0023】
1.還元型アルブミン濃度を測定する方法
本発明の一の実施形態は、チオールと反応して吸光度が変化する物質を用いて試料中の還元型アルブミン濃度を測定する方法に関する。
ヒト血中アルブミンは、その分子中に35個のシステイン残基(SH基)を有し、そのうち17対は分子内ジスルフィド結合を形成しているが、N末端より34番目システインのSH基は遊離している場合と酸化されている場合がある。前者を還元型アルブミンといい、後者を酸化型アルブミンという。ヒト血清アルブミンは生体中で最も総量が多いタンパク質のため、ヒト血清もしくは血漿中の酸化型アルブミンの割合は、全身の酸化ストレスを反映する指標と考えられており、慢性腎疾患、糖尿病などの慢性疾患の進行に伴って上昇することが報告されている(非特許文献1および2)。また、パーキンソン病、アルツハイマー病などの老化に伴う中枢神経系疾患の補助的な診断のためのバイオマーカーとしての使用も報告されている(非特許文献3および4)。このため、還元型アルブミン濃度、酸化型もしくは還元型アルブミンの割合、および酸化型/還元型アルブミン比の測定はこれらの状態および疾患の診断やリスク判定に利用される。
【0024】
チオールと反応して吸光度が変化する発色物質としては、チオール基の求核反応の結果、吸光度変化を起こす物質が好ましく、ジスルフィド構造を有しないチオール反応物質がより好ましい。このような物質は、例えば、4-4’-ビスジメチルアミノベンズヒドロール(BDAB)、7-ニトロ-2,3-ジヒドロ-1H-シクロペンタ[b]クロメン-1-オン、ジケトピロロピロール、1,3-ビス(4-N、N-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシ-フェノール)クロコニン、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾールマレイミド、2,4-ビス[4-(N,N-ビス(2-メトキシエトキシ)メチル)-ジフェニル]スクアライン、2,4-ビス[4-(N,N-ビス(ブチルカルバメイト))-ジフェニル]スクアライン等のスクアライン系色素等を挙げることができる。スクアライン系色素は、下記構造:
【化1】
を有する化合物であり、好ましいスクアライン系色素は、式中のRが、それぞれ独立して
【化2】
(式中の左端が上記化合物のNと結合する)の化合物であり、より好ましい化合物は、式中のRが、上記の構造の何れかである化合物である。
上述した各発色物質については、非特許文献12~16に詳細に記載されている。
【0025】
発色物質としては、4-4’-ビスジメチルアミノベンズヒドロール(BDAB)が特に好ましい。
4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンズヒドロール(BDAB)は、
【化3】
の構造を有する化合物であり、612nmに最大吸光度波長を有する。BDABと還元型アルブミンとの反応は、以下に示すカチオンに対するチオール基の求核反応であり、この反応の結果生じる複合体では、612nmでの吸光度が減少し、この吸光度変化によって、チオール基の量を直接測定することができる。
【化4】
測定波長は、試料中に存在する夾雑物質の吸収スペクトル等を考慮して、BDABの発色を特異的に検出できる波長を選択すればよいが、通常は、最大吸収波長である612nm付近、具体的には、570~660nm、好ましくは600nm~625nmの範囲から選択すればよく、最大吸収波長である612nmが好ましい。また、BDABに対するチオール基の求核反応は、BDABが酸性下で上記のカチオンとなることで生じるため、酸性下、典型的にはpH5~6の溶液中でBDABと還元型アルブミンを反応させることが好ましい。従って、BDABを含む発色試薬は、通常緩衝液を含み、酸性下、典型的にはpH5~6に維持されている。
【0026】
BDABの濃度は、試料と混合した際に試料中の総ての還元型アルブミンがBDABと反応し、酸化剤による発色の影響を受けない濃度とすることが好ましい。この点、ヒト血清中のアルブミン濃度の正常値の上限は、約5g/dLであり、これに、還元型アルブミンの割合、試薬との混合による希釈および還元型アルブミンを完全に酸化型アルブミンに変換するために必要な酸化剤の量等を考慮すると、BDABを含む試薬の濃度は、通常15~80μMで調整し、試薬のボリュームを、アルブミンを含む検体の15~45倍、好ましくは15~40倍とすればよい。同様の点から、BDABの濃度は、反応混合液中の還元型アルブミンのモル濃度に対して、1.5~6倍、好ましくは1.5~3倍となり、反応混合液中の酸化剤のモル濃度に対して、0.05~0.5倍となるように調整することが好ましい。
【0027】
本発明では、このようなBDAB等のチオールと反応して吸光度が変化する発色物質を用いる発色反応で試料中の還元型アルブミンの濃度を測定する方法において、検体を2つに分け、一方の検体に還元型アルブミンの遊離SH基を酸化する酸化剤を含む溶液を添加した試料(補正用試料)と、他方の検体に酸化剤を含まない同量の溶液を添加した試料(還元型アルブミン測定用試料)を準備する。次いで、それぞれ発色物質(例えばBDAB)を含む試薬と混合し、所定の波長で吸光度(ODox)および吸光度(ODnon-ox)を測定し、両者の吸光度差(ΔOD)を求め、この吸光度差(ΔOD)から試料中の還元型アルブミン濃度を算出する。
【0028】
遊離SH基を酸化する酸化剤を添加すると還元型アルブミンは完全に酸化型アルブミンに変換されるが、酸化剤による処理を行った試料を、発色物質を含む試薬と混合した場合でも、ブランクに対して吸光度の減少が認められ、発色物質が還元型アルブミン以外の物質と反応しているまたは還元型アルブミン以外の物質によって測定波長の吸光度が影響を受けていると考えられる検体がある。このような検体では、還元型アルブミン以外の物質による吸光度の減少が還元型アルブミンによる減少として測定されることとなり、HPLC法との乖離を生じさせている原因と理解される。このような現象を踏まえ、本発明の方法では、酸化剤による処理を行った試料の吸光度(ODox)と酸化剤による処理を行なわない試料の吸光度(ODnon-ox)の吸光度差(ΔOD)を用いることで、還元型アルブミンに由来しない吸光度変化を排除する補正を行って、還元型アルブミンを正確に測定する。
従来のBDAB法の問題、およびその原因は、本発明者らによって初めて認識されたものであり、また、その解決原理は、BCP法と改良BCP法とを組み合わせて還元型アルブミンを測定する方法とは全く異なることを理解されたい。
【0029】
本発明の方法ではまた、遊離SH基を酸化する酸化剤として特定の化合物を使用する。本発明者らの検討の結果、原因は不明であるが、改良BCP法で、還元型アルブミンを酸化型アルブミンに変換するために用いられる5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)では、当該変換は生じるものの上記補正によって、標準法であるHPLC法に対する乖離を減少させることが困難であることが分かっている。
【0030】
本発明者らは、様々な遊離SH基を酸化する酸化剤について本発明の方法に対する適合性を検証し、特定の化合物を選択することで上記補正によって、標準法であるHPLC法に対する乖離を減少させることができることを確認している。具体的には、本発明の好ましい実施形態において、遊離SH基を酸化する酸化剤は、アルキル化剤、マレイミドおよびその誘導体、ならびに置換若しくは非置換ジチオジピリジンからなる群から選択される。
【0031】
アルキル化剤としては、例えば、ハロゲン化アセチル、4-クロロ-3,5-ジニトロベンゾトリフルオリド(CNBF)、およびブロモアセトニルキノリニウムブロミド(BQB)が挙げられる。ハロゲン化アセチルとしては、例えば、ハロゲン化酢酸、ハロゲン化アセトアミドおよびハロゲン化アセトフェノンが挙げられ、より具体的には、ヨード酢酸、ヨードアセトアミドおよびヨードアセトフェノン等が挙げられる。
マレイミドの誘導体としては、例えば、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド等のN-アルキル(好ましくはN-C1-5アルキル)マレイミド、N,N’-p-フェニレンジマレイミド等のN,N’-C5-12芳香族環ジマレイミドが挙げられる。置換ジチオジピリジンの置換基としては、ニトロ基、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシ基、等が挙げられ、具体的化合物としては、2,2’-ジピリジルジスルフィド、4,4’-ジピリジルジスルフィド、2,2’-ジチオビス(5-ニトロピリジン)、6,6’-ジチオジニコチン酸、2,2’-ジチオビス(5-アミノピリジン)、2,2’-ジチオビス(5-ヒドロキシピリジン)が挙げられる。
これらの中でも、置換若しくは非置換ジチオジピリジンは、BDABの反応pHであるpH5~6で酸化反応ができる点で分析上有利であり、補正による効果も大きい点で好ましく、特に2,2’-ジピリジルジスルフィドが好ましい。
【0032】
酸化剤の濃度は、酸化剤を含む試薬と試料とを混合した際に混合物中の還元型アルブミンがすべて酸化型アルブミンに変換し、更にBDABを含む試薬を混合した際にBDABの発色に悪影響を及ぼさない濃度とすることが好ましい。このような酸化剤の濃度は、酸化剤の種類の他、反応温度や反応時間によっても変わり得るが、通常、反応試薬中の酸化剤のモル濃度が、酸化剤を含む試薬と試料とを混合した際に混合物中のアルブミンのモル濃度の10倍以上となり、この混合物に更にBDABを含む試薬を混合した際にBDABのモル濃度の270倍以下となるように設定すればよい。
この点、ヒト血清中のアルブミン濃度の正常値の上限は、約5g/dLであり、これに、還元型アルブミンの割合、試薬との混合による希釈および還元型アルブミンとの反応に必要なBDABの量等を考慮すると、試薬中の酸化剤の濃度は、通常1~500mM、好ましくは2~200mMとなるように設定される。なお、血清または血漿を希釈して反応に供する場合には、希釈率も考慮して酸化剤の濃度を決めることが好ましい。
【0033】
好ましい実施形態によれば、本発明の方法では、タンパク変性剤を試料に添加する。
【0034】
本発明に使用されるタンパク変性剤としては、タンパク質を変性させ、BDABの呈色を上昇させる(=感度を上げる)ものが好ましく、例えば、尿素;グアニジン塩酸塩、グアニジン硫酸塩等のグアニジン塩;フッ化ナトリウム、アジ化ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム等の有機塩;エタノール等のアルコール;アセトン等のケトン類などが挙げられ、これらは単独で、又は適宜組み合わせて用いることができる。
中でもグアニジン塩、特にグアニジン塩酸塩が好ましい。
また、タンパク変性作用を有する、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤を含んでもよく、上記タンパク質変性剤と共に用いてもよい。
【0035】
このような界面活性剤としては、特許文献3に記載する界面活性剤が挙げられるが、中でも陰イオン界面活性剤が好ましい。また、陰イオン界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル系界面活性剤が好ましく、特にラウリル硫酸ナトリウム(SDS)が好ましい。
タンパク変性剤は、発色物質を含む試薬の添加前もしくは添加時に添加することが好ましい。
【0036】
タンパク変性剤の濃度は、変性剤の種類に応じて変わり得るが、BDABの還元型アルブミンの測定値に影響を与えずにBDABの呈色を向上させる濃度とすることが好ましい。
通常、反応混合液中で0.5~80質量%となるように試薬中の濃度を設定すればよく、好ましくは10~70質量%、より好ましくは20~60質量%となるように試薬中の濃度を設定すればよい。
【0037】
還元型アルブミンの測定に用いる検体は、典型的には、ヒト血清または血漿であるが、輸血用アルブミン製剤などの血液製剤等を検体とすることもできる。
【0038】
検体は、そのまま測定に供することもできるが、還元型アルブミンが比較的不安定なため、安定化剤を添加して分析に供する試料を調製することが好ましい。安定化剤としては、クエン酸塩、酢酸塩、コハク酸塩等を挙げることができ、クエン酸塩が好ましい。また、還元型アルブミンは、pH5~6で安定なため、これら安定化剤を検体に添加することにより、得られる試料がpH5~6となるようにすることが好ましい。
【0039】
分析に供する試料の量は、試薬中のBDABおよび酸化剤等の濃度および試薬分注量に応じて、代わり得るが、通常は、1~40μLであり、好ましくは2~15μLである。
試料に酸化剤を含む試薬を添加した際の反応時間は、10~120分とすることができ、10~20分が好ましい。また、試料と酸化剤を含む試薬の混合液にBDABを含む発色試薬を添加した際の反応温度は、15~37℃であり、好ましくは37℃である。試料と酸化剤を含む試薬の混合液にBDABを含む発色試薬を添加した際の反応時間は、10~30分とすることができ、15~20分が好ましい。また、反応温度は、通常15~37℃とすることができ、37℃が好ましい。
吸光度の測定は、例えば、BDABの最大吸収波長である612nm付近、具体的には570~660nm、好ましくは600nm~625nmの範囲から選択される波長、特に好ましくは最大吸収波長である612nmで行えばよい。また、BDABに対するチオール基の求核反応は、酸性下で生じるため、酸性の溶液中でBDABと還元型アルブミンを反応させることが好ましい。試料および試薬の分注から吸光度の測定を、自動分析機を用いて行うことも可能である。
【0040】
改良BDAB法では、酸化剤での処理を行った試料と、酸化剤での処理を行わなかった試料との吸光度差(ΔOD)を利用して還元型アルブミンを測定するために、従来のBDAB法と異なり、精製アルブミン、および精製還元型アルブミンのみならず、標準血清または標準血漿を用いて検量線を作成することが可能である。この場合、検量線は、標準血清または標準血漿中の還元型アルブミン濃度を標準法(HPLC法&改良BCP法)で決定しておく一方で、標準血清または標準血漿の希釈系列について酸化剤での処理を行った試料と、酸化剤での処理を行わなかった試料との吸光度差(ΔOD)を決定して、還元型アルブミン濃度と吸光度差(ΔOD)をプロットして作成することができる。
【0041】
より具体的には、本発明の一の実施形態においては、キャリブレーターとして標準血清または標準血漿等を用いてその希釈系列を作成し、希釈系列の各希釈血清または血漿に酸化剤を含む溶液を添加し、次いでBDABを含む試薬と混合した後で、所定の波長で吸光度(ODox)を測定し、他方、同じ希釈系列の各希釈血清または血漿を、酸化剤を含まない溶液を同量添加し、次いでBDABを含む試薬と混合した後、所定の波長で吸光度(ODnon-ox)を測定し、各希釈血清または血漿について、吸光度(ODox)と吸光度(ODnon-ox)との吸光度差(ΔOD)を求め、各吸光度差(ΔOD)と、各希釈血清または血漿の既知の還元型アルブミン濃度(標準法(HPLC法&改良BCP法)で決定される)とから検量線を作成する。このような補正がなされた検量線は、還元型アルブミン以外の物質によるBDABの発色への影響が除かれているため、標準法と高い相関係数を有し傾きが1に近い。このため、従来のBDAB法より、より正確に還元型アルブミン濃度を測定することができる。
【0042】
本発明による改良BDAB法は、BCP法または改良BCP法と組み合わせて、簡易に、総アルブミン中の酸化型もしくは還元型アルブミンの割合を決定することができる。
例えば、上記の改良BDAB法で還元型アルブミン濃度を決定し、改良BCP法により総アルブミン濃度を決定し、還元型アルブミン濃度を総アルブミン濃度で割って、総アルブミン中の還元型アルブミンの割合を決定することもできる。また、そこで得られた還元型アルブミンの割合を1から差し引くことにより酸化型アルブミンの割合を算出する事もできる。
【0043】
2.還元型アルブミンを測定するためのキット
本発明の他の実施形態は、上述した還元型アルブミンを測定する方法を実施するためのキットに関する。
従って、この実施形態によるキットは、チオールと反応して吸光度が変化する発色物質と、還元型アルブミンの遊離SH基を酸化する酸化剤とを含む。発色物質および酸化剤の具体例は、上述の通りである。好ましい実施形態では、発色物質は、4-4’-ビスジメチルアミノベンズヒドロール(BDAB)であり、酸化剤は、アルキル化剤、マレイミドおよびその誘導体、ならびに置換若しくは非置換ジチオジピリジンからなる群から選択される。また、酸化剤は、置換若しくは非置換ジチオジピリジンがより好ましく、2,2’-ジピリジルジスルフィドが特に好ましい。
【0044】
また、好ましい実施形態では、キットは、タンパク変性剤を含み、その具体例も上述の通りである。
また、酸化剤、BDABおよびタンパク変性剤の試薬中の濃度も、前述の通り設定することができる。
【0045】
また、上述の通り、改良BDAB法用のキットは、キャリブレーターとして、血清若しくは血漿の標準品、精製アルブミン、または精製還元型アルブミンを含むことができ、特に、製造が容易な血清若しくは血漿の標準品が便宜である。
従来のBDAB法では、Thiol Sepharoseを使って精製した還元型アルブミンをキャリブレーターとして使用しており、キャリブレーターの調製に非常に手間がかかっていた。改良BDAB法用のキットでは、このような調整に手間のかかる標準品を用いる必要はなく、これは実務上大きな利点である。
【0046】
キットを構成する各試薬は、生化学または臨床化学検査用試薬で通常用いられる成分を含んでよい。このような成分としては、例えば、緩衝剤、防腐剤、タンパク変性剤に該当しない界面活性剤等が挙げられる。これらの成分は、生化学または臨床化学検査用試薬で用いられる際に通常選択される濃度範囲とすればよい。
界面活性剤としては、例えばTriton X-405又はTriton X-100などが挙げられる。
また、緩衝剤としては、例えば、酢酸塩、グリシン、クエン酸塩、リン酸塩、ベロナール、ホウ酸塩、コハク酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)、グッド緩衝剤(例えば3-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)等)が挙げられる。これら緩衝剤を含む緩衝液は、試料および試薬を、改良BDAB法を実施する上で適切なpHを保持するために、適宜適切な緩衝液を選択することが好ましい。特に、還元型アルブミンは、pH5~6で安定なため、試料に添加される試薬、特に発色物質を含む試薬は、緩衝液でpH5~6となるように調製することが好ましい。他方、酸化剤を含む試薬は、pH5~8とすることができるが、pH5~6とすることが好ましい。
【0047】
本発明の一の実施形態によれば、キットは、酸化剤、および緩衝液を含有する第1試薬と、BDABおよび緩衝液を含有する第2試薬とを含み、前記第一試薬、および前記第二試薬のいずれか一方または両方にタンパク質変性剤を含む。
【0048】
より具体的なキットの例を、以下に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【実施例0049】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
I.従来のBDAB法との比較による改良BDAB法の検討
本試験では、改良BDAB法の補正による効果を従来のBDAB法と比較して評価した。
1.材料および測定方法
1-1.検体
ドナーから個別に採取した血液から調製したヒト血清および血漿を使用し、安定化剤であるクエン酸緩衝液で、還元型アルブミン濃度が一律183μMになるように希釈して試料を調製した。還元型アルブミン濃度は、下記「1-3」に記載する標準法により決定した。
【0051】
1-2.標準品
標準血清としてコンセーラ1号(日水製薬)を使用し、クエン酸緩衝液、pH5.0で希釈系列を調製してキャリブレーターとした(希釈倍数:1~10倍。還元型アルブミン濃度:10~300μM)。還元型アルブミン濃度は、下記「1-3」に記載する標準法により決定した。
【0052】
1-3.標準法による還元型アルブミン濃度ならびに酸化型または還元型アルブミンの割合(基準値)の決定
試料中の酸化型または還元型アルブミンの割合(ピーク面積%(以下、酸化型または還元型アルブミンの割合について、%は、ピーク面積%を意味する)、基準値)は、HPLC法(標準法)によって決定した。また、試料中の還元型アルブミン濃度(基準値)は、還元型アルブミンの割合をHPLC法(標準法)で決定し、総アルブミン濃度を改良BCP法(標準法)で決定し、下記式の通り、HPLC法で決定した還元型アルブミンの割合(%)に、改良BCP法で決定した総アルブミン濃度を掛けて算出した。
【数1】
HPLC法による酸化型または還元型アルブミンの割合の決定は、特許文献5に従って実施した。具体的には、イオン交換基としてDEAE(Diethylaminoethyl)を有するイオン交換樹脂が充填された陰イオン交換カラムを使用し、以下の緩衝液Aにて平衡化した。その後、検体を注入し、同時に、緩衝液A(100%から75%)と以下の緩衝液B(0%から25%)によるリニアグラジエントに、7.5分間1.0mL/minの流速でかけて、酸化型アルブミンおよび還元型アルブミンを分離し、励起波長280nm、検出波長340nmの蛍光での検出を行った。
緩衝液A:60mM Na
2SO
4を含む25mMリン酸緩衝液(pH6.0)
緩衝液B:1M MgCl
2
改良BCP法による総アルブミン濃度の決定は、特許文献3の記載に従って実施をした。15μLの検体に対して85μLの第一試薬(25mM Tris HCl、pH8.0中に、100μM DTNB、および0.03%(w/v)SDSを含有)を添加、37℃で5分間インキュベーション後、150μLの第二試薬(250mコハク酸ナトリウム、pH5.5中に、150μMブロモクレソールパープル、および0.3%(v/v)Triton X-100を含有)を添加して、さらに37℃で20分間インキュベーションし、600nm(主波長)/660(副波長)で吸光度を測定した
一例として、血漿1検体をHPLC法(標準法)により分析したクロマトグラムを
図1に示す。還元型アルブミンと酸化型アルブミンを示すピークの面積比は、それぞれ、79.7%および20.3%である。また、改良BCP法(標準法)により同じ検体の総アルブミン濃度は、550μMと決定され、これにHPLC法により決定された還元型アルブミンの割合(79.7%)をかけることで還元型アルブミン濃度が、439μMと算出された。
【0053】
1-4.前処理と吸光度測定
全ての検体および標準品希釈液は、それぞれ補正用と還元型アルブミン測定用として5μLずつ96ウェルプレートの各ウェルに分注した。補正用の検体および標準品希釈液には10μLの2mMマレイミド(シグマアルドリッチ製、500mMトリス緩衝液、pH7.2に溶解)を、還元型アルブミン測定用の検体および標準品希釈液には500mMトリス緩衝液、pH7.2を同量添加、混合し、37℃で15分間インキュベーションした。その後、200μLの発色試薬(15μM BDAB(東京化成工業製)、および6M塩酸グアニジン(東京化成工業製)を、250mM酢酸緩衝液、pH5.0に溶解)を添加、混合し、室温で20分間インキュベーションした後、キュベット(10mmパス)に溶液を移して612nmの波長で、吸光度を測定した。前処理および吸光度測定は、各検体および各標準品希釈液について、補正用と還元型アルブミン測定用の試料を3セット(n=3)準備して実施した。3セット(n=3)の平均値を各検体および各標準品希釈液の測定値として用い、次に述べる補正、検量線作成、濃度算出に使用した。)
【0054】
1-5.酸化剤処理による還元型アルブミンの消失の確認
標準品希釈液に、酸化剤溶液を添加する前後の補正用試料をHPLC法で分析し、酸化剤により還元型アルブミンのピークが消失しているかを確認した。
図2に、標準品(希釈倍数:1倍)に、2mMマレイミド溶液を添加する前後の補正用試料をHPLC法で分析したクロマトグラムの例を示す。酸化剤により還元型アルブミンのピークが消失していることが確認された。
【0055】
1-6.検量線の作成
改良BDAB法では、以下の表に示す通り、各標準品希釈液の補正用試料の612nmでの吸光度(OD
ox)から対応する還元型アルブミン測定用試料の同じ波長での吸光度(OD
non-ox)を差し引き、ΔODを算出した。
【表10】
次いで、各標準品希釈液のΔODと、上記1-3より算出した還元型アルブミン濃度をプロットし、検量線を作成した。作成した検量線は、
図3に示す。検量線は、最小二乗法による線形検量線(
図3A)と、4パラメータロジスティクスモデルによる非線形検量線(
図3B)を作成した。
比較対象として、特許文献4に記載する従来のBDAB法に従って、還元型アルブミン濃度を決定する検量線を作成した(
図3C)。ここでは各標準品希釈液の補正用試料の612nmでの吸光度(OD
ox)は使用せずに(補正無し)、各標準品希釈液の還元型アルブミン測定用試料の同じ波長での吸光度(OD
non-ox)のみを使い、各標準品希釈液の吸光度(OD
non-ox)と上記1-3より算出した還元型アルブミン濃度をプロットし、検量線を作成した。
【0056】
1-7.各検体の還元型アルブミン濃度ならびに酸化型アルブミンの割合の決定
改良BDAB法では、各検体の補正用試料の612nmでの吸光度(OD
ox)から対応する還元型アルブミン測定用試料の同じ波長での吸光度(OD
non-ox)を差し引き、ΔODを算出した。各データを、以下の表に示す。
【表11】
次いで、各検体のΔODを、上述の各標準品希釈液のΔODと還元型アルブミン濃度をプロットした検量線(線形および非線形)に当てはめ、還元型アルブミン濃度を算出した。
従来のBDAB法に従った方法では、各検体の還元型アルブミン測定用試料の612nmでの吸光度(OD
non-ox)を、上述の各標準品希釈液の吸光度(OD
non-ox)と還元型アルブミン濃度をプロットした検量線に当てはめ、還元型アルブミン濃度を算出した。
また、何れの方法でも、算出した還元型アルブミン濃度を、改良BCP法(標準法)で決定した同じ検体の総アルブミン濃度で割り、還元型アルブミンの割合(%)を算出した。さらに、そこで算出した還元型アルブミンの割合(%)を1から差し引き、酸化型アルブミンの割合を算出した(近年の論文等では酸化型アルブミンの割合での表示が一般的になりつつあるため、以下では酸化型アルブミンの割合を記載する)。得られた還元型アルブミン濃度および酸化型アルブミンの割合を以下の表に示す。
【表12】
【表13】
【0057】
1-8.評価方法
従来のBDAB法(補正なし)、改良BDAB法(補正あり、線形検量線)および改良BDAB法(補正あり、非線形検量線)で決定した還元型アルブミンの濃度、ならびにそれらの方法と改良BCP法から決定した酸化型アルブミンの割合(1-(還元型アルブミン濃度/トータルアルブミン濃度)から、標準法で決定したそれぞれの基準値を差し引き、その差の絶対値を基準法からの乖離とした。改良BDAB法(補正あり)が、従来のBDAB法(補正なし)と比較して、基準値に対する乖離が縮小しているかどうかによって各酸化剤による補正効果を評価した。
【0058】
2.結果
以下の表および
図4に、各方法により決定された還元型アルブミンの濃度の基準値に対する乖離を示す。
【表14】
【0059】
また、以下の表ならびに
図5および6に、各方法により決定された酸化型アルブミンの割合の基準値に対する乖離を示す。
図6に各方法により決定された酸化型アルブミンの割合の基準値の相関を示す。
【表15】
【0060】
表14および
図4で示すように、従来のBDAB法では183μMから大きく乖離する検体があったが、改良BDAB法では、1例を除く全ての検体において乖離が減少することが確認された。
また、表15および
図5で示すように、従来のBDAB法と改良BCP法(標準法)で決定した酸化元型アルブミンの割合(%)は、HPLC法(標準法)と改良BCP法(標準法)で決定した酸化型アルブミンの割合(%)から大きく乖離する検体があったが、改良BDAB法と改良BCP法(標準法)で決定した酸化型アルブミンの割合(%)は、全ての検体でその乖離が減少することが確認された。また、
図6に示す通り、従来のBDAB法と改良BCP法(標準法)で決定した酸化型アルブミンの割合(%)に比べ、改良BDAB法と改良BCP法(標準法)で決定した酸化型アルブミンの割合(%)は、HPLC法(標準法)と改良BCP法(標準法)で決定した酸化型アルブミンの割合(%)に対する相関が改善した。
【0061】
II.各種酸化剤の比較検討(1)
本試験は、試験Iの結果を踏まえ、様々な酸化剤について改良BDAB法を従来のBDAB法と比較して評価した。
【0062】
1.材料および測定
1-1.検体および標準品
検体は試験Iで使用した血清検体を使用し、標準品は試験Iで使用した標準品を使用した。ただし、本試験は全ての検体を一律、クエン酸緩衝液と1:1の体積比で混合して1/2に希釈した。従って、本試験で用いる検体の還元型アルブミン濃度は異なる。
【0063】
1-2.標準法による還元型アルブミン濃度ならびに酸化型または還元型アルブミンの割合(基準値)の決定
試験Iと同様に、試料中の酸化型または還元型アルブミンの割合(%、基準値)は、HPLC法(標準法)によって決定した。また、試料中の還元型アルブミン濃度(基準値)は、還元型アルブミンの割合をHPLC法(標準法)で決定し、総アルブミン濃度を改良BCP法(標準法)で決定し、HPLC法で決定した還元型アルブミンの割合(%)に、改良BCP法で決定した総アルブミン濃度を掛けて算出した。
【0064】
1-3.酸化剤
酸化剤溶液として、以下の8種類のチオ-ル反応剤の溶液を調製した。
・200mM 4-ビニルピリジン(東京化成工業製、250mMトリス緩衝液、pH8.0に溶解)
・200mM ヨードアセトアミド(東京化成工業製、250mMトリス緩衝液、pH8.0に溶解)
・200mM ヨード酢酸 (富士フィルム和光純薬製、250mMトリス緩衝液、pH8.0に溶解)
・1mM 2,2’-ジチオビス(5-ニトロピリジン)(東京化成工業製、250mMトリス緩衝液、pH8.0に溶解)
・1mM 6,6’-ジチオジニコチン酸(東京化成工業製、250mMトリス緩衝液、pH8.0に溶解)
・4mM マレイミド (シグマアルドリッチ製、250mMトリス緩衝液、pH7.2に溶解)
・4mM 2,2’-ジピリジルジスルフィド(東京化成工業製、50mMクエン酸緩衝液、pH5.0で希釈)
・4mM 4,4’-ジピリジルジスルフィド(東京化成工業製、50mMクエン酸緩衝液、pH5.0で希釈)
【0065】
1-4.前処理と吸光度測定
前処理および吸光度測定は基本的には上記試験Iと同様に行ったが、より多くの検体に対応するためにプレートリーダーを使用した。それに合わせて感度を担保するため、試料および各試薬の添加量、酸化剤や他の試薬の濃度等に若干の変更を加えた。
具体的には、全ての検体および標準品希釈液は、補正用と還元型アルブミン測定用として15μLずつ96ウェルプレートの各ウェルに分注した。補正用の検体および標準品希釈液には10μLの各酸化剤を、還元型アルブミン測定用の検体および標準品希釈液には250mMトリス緩衝液、pH7.2を同量添加、混合し、37℃で20分間インキュベーションした。その後、225μLの発色試薬(35μM DBAB(東京化成工業製)、および6M塩酸グアニジン(東京化成工業製)を250mM酢酸緩衝液、pH5.0に溶解)を添加、混合し、室温で20分間インキュベーションした後、プレートリーダーにて612nmの波長で、吸光度を測定した。前処理および吸光度測定は、各検体および各標準品希釈液について、補正用と還元型アルブミン測定用の試料を3セット(n=3)準備して実施した。3セット(n=3)の平均値を各検体および各標準品希釈液の測定値として用い、次に述べる補正、検量線作成、濃度算出に使用した。
【0066】
1-5.検量線の作成、還元型アルブミンの濃度および酸化型アルブミンの割合の決定
試験Iと同様にして標準品希釈系列を使用して、検量線を作成し(補正ありの線形検量線、補正ありの非線形検量線、および補正無しの検量線)、改良BDAB法では、各検体のΔODを補正ありの線形検量線、または補正ありの非線形検量線に当てはめ、従来のBDAB法では、各検体を酸化剤で処理しない試料の吸光度(ODnon-ox)を、補正無しの検量線に当てはめ、還元型アルブミン濃度を算出した。また、何れの方法でも、算出した還元型アルブミン濃度を、改良BCP法(標準法)で決定した同じ検体の総アルブミン濃度で割り、還元型アルブミンの割合(%)を算出し、さらに還元型アルブミンの割合を1から差し引いて酸化型アルブミンの割合(%)を算出した。
【0067】
1-6.評価方法
試験Iと同様にして各方法で決定した還元型アルブミンの濃度または酸化型アルブミンの割合から、標準法で決定したそれぞれの基準値を差し引き、その差の絶対値を基準法からの乖離とした。改良BDAB法(補正あり)が、従来のBDAB法(補正なし)と比較して、基準値に対する乖離が縮小しているかどうかによって各酸化剤による補正効果を評価した。
【0068】
2.結果
以下の表16に、還元型アルブミン濃度を、酸化剤としてマレイミドを用いる改良BDAB法(補正あり)または従来のBDAB法(補正なし)により決定した結果を、標準法(HPLC法&改良BCP法)により決定した還元型アルブミン濃度と共に示す。また、表17に、酸化型アルブミンの割合を、酸化剤としてマレイミドを用いる改良BDAB法(補正あり)または従来のBDAB法(補正なし)と改良BCP法により決定した結果を、標準法(HPLC法)により決定した還元型アルブミン濃度と共に示す。改良BDAB法(補正あり)を利用する場合、線形検量線と非線形検量線を作成して決定した還元型アルブミン濃度および当該還元型アルブミン濃度を使用して算出した酸化型アルブミンの割合を示す。
表18および19には、酸化剤として、4-ビニルピリジン、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、2,2’-ジチオビス(5-ニトロピリジン)、6,6’-ジチオジニコチン酸、マレイミド、2,2’-ジピリジルジスルフィド、4,4’-ジピリジルジスルフィド、またはマレイミドを用いる改良BDAB法(補正あり)または従来のBDAB法(補正なし)により決定した還元型アルブミン濃度およびこれに改良BCP法を組み合わせて決定した酸化型アルブミンの割合が、標準法(HPLC法&改良BCP法)により決定した還元型アルブミン濃度および標準法(HPLC法)により決定した酸化型アルブミンの割合に対して乖離した程度を示す。改良BDAB法(補正あり)を利用する場合、線形検量線と非線形検量線を作成して決定した還元型アルブミン濃度および当該還元型アルブミン濃度を使用して算出した酸化型アルブミンの割合を示す。
【表16】
【表17】
【表18】
【表19】
上記表に示す通り、8種の酸化剤の総てにおいて、改良BDAB法(補正あり)での補正効果が認められ、従来のBDAB法(補正なし)と比べて還元型アルブミンの濃度および酸化型アルブミンの割合は標準法による基準値に対して乖離が減少した。
【0069】
III.各種酸化剤の比較検討(2)
本試験は、試験Iの結果を踏まえ、更に様々な酸化剤について改良BDAB法を従来のBDAB法と比較して評価した。
【0070】
1.材料および測定
1-1.検体および標準品
検体および標準品は、試験IIと同じである。また、検体をクエン酸緩衝液と1:1の体積比で混合して1/2に希釈した点も同一である。
【0071】
1-2.標準法による還元型アルブミン濃度ならびに酸化型または還元型アルブミンの割合(基準値)の決定
試験Iと同様に、試料中の酸化型または還元型アルブミンの割合(%、基準値)は、HPLC法(標準法)によって決定した。また、試料中の還元型アルブミン濃度(基準値)は、還元型アルブミンの割合をHPLC法(標準法)で決定し、総アルブミン濃度を改良BCP法(標準法)で決定し、HPLC法で決定した還元型アルブミンの割合(%)に、改良BCP法で決定した総アルブミン濃度を掛けて算出した。
【0072】
1-3.酸化剤、前処理および吸光度測定
酸化剤として、4種類のチオール反応剤を用い、基本的には試験IIと同様に前処理および吸光度測定を行ったが、試薬の反応性や溶解度に合わせて、試薬調製用緩衝液、試薬、および混合比を変更して実施した。各チオール反応剤、前処理条件および吸光度測定は以下の通りである。
【0073】
5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)
4mM 5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(シグマアルドリッチ製)を、250mMトリス緩衝液、pH8.0に希釈して、酸化剤溶液を調製した。次に、各希釈検体および各標準品希釈液を、補正用および還元型アルブミン測定用として15μLずつ96ウェルプレートの各ウェルに分注した。補正用の試料には10μLの酸化剤溶液を、還元型アルブミン測定用の検試料には250mMトリス緩衝液、pH8.0を同量添加、混合し、37℃で20分間インキュベーションした。その後、200μLの発色試薬(39μM DBAB、および6M塩酸グアニジンを250mM酢酸緩衝液、pH5.0に溶解)を添加、混合し、室温で20分間インキュベーションした後、プレートリーダーにて612nmの波長で吸光度を測定した。3セット(n=3)の平均値を各検体および各標準品希釈液の測定値として用いた。
【0074】
2,2’-ジチオ二安息香酸
0.3mM2,2’-ジチオ二安息香酸(東京化成工業製)を、6M塩酸グアニジン(東京化成工業製)を含む50mMトリス緩衝液、pH8.0に希釈して、酸化剤溶液を調製した。次に、各希釈検体および各標準品希釈液を、補正用と還元型アルブミン測定用として15μLずつ96ウェルプレートの各ウェルに分注した。補正用の試料には35μLの酸化剤溶液を添加し、還元型アルブミン測定用の試料には上記トリス緩衝液を同量添加、混合し、37℃で20分間インキュベーションした。その後、200μLの発色試薬(39μM DBAB、および6M塩酸グアニジンを250mM酢酸緩衝液、pH5.0に溶解)を添加、混合し、室温で20分間インキュベーションした後、プレートリーダーにて612nmの波長で吸光度を測定した。3セット(n=3)の平均値を各検体および各標準品希釈液の測定値として用いた。
【0075】
ビス(4-ニトロフェニル)ジスルフィド
0.4mMビス(4-ニトロフェニル)ジスルフィド(東京化成工業製)を、6M塩酸グアニジン(東京化成工業製)および20%(v/v)DMSOを含む50mMトリス緩衝液、pH8.0に希釈して、酸化剤溶液を調製した。次に、各希釈検体および各標準品希釈液を、補正用と還元型アルブミン測定用として15μLずつ96ウェルプレートの各ウェルに分注した。補正用の試料には35μLの酸化剤溶液を添加し、還元型アルブミン測定用の試料には上記トリス緩衝液を同量添加、混合し、37℃で20分間インキュベーションした。その後、200μLの発色試薬(39μM DBAB、および6M塩酸グアニジンを250mM酢酸緩衝液、pH5.0に溶解)を添加、混合し、室温で20分間インキュベーションした後、プレートリーダーにて612nmの波長で吸光度を測定した。3セット(n=3)の平均値を各検体および各標準品希釈液の測定値として用いた。
【0076】
過酸化水素
50mM過酸化水素(富士フィルム和光純薬製)を、250mMトリス緩衝液、pH7.2に希釈して酸化剤溶液を調製した。次に、各希釈検体および各標準品希釈液を、補正用と還元型アルブミン測定用として15μLずつ96ウェルプレートの各ウェルに分注した。補正用の試料には10μLの酸化剤溶液を添加し、還元型アルブミン測定用の試料にはトリス緩衝液、pH7.2を同量添加、混合し、37℃で20分間インキュベーションした。その後、225μLの発色試薬(35μM DBAB、および6M塩酸グアニジンを250mM酢酸緩衝液、pH5.0に溶解)を添加、混合し、室温で20分間インキュベーションした後、プレートリーダーにて612nmの波長で吸光度を測定した。3セット(n=3)の平均値を各検体および各標準品希釈液の測定値として用いた。
【0077】
1-4.検量線の作成、還元型アルブミンの濃度および酸化型アルブミンの割合の決定
試験Iと同様にして標準品希釈系列を使用して、検量線を作成し(補正ありの線形検量線、補正ありの非線形検量線、および補正無しの検量線)、改良BDAB法では、各検体のΔODを補正ありの線形検量線、または補正ありの非線形検量線に当てはめ、従来のBDAB法では、各検体を酸化剤で処理しない試料の吸光度(ODnon-ox)を、補正無しの検量線に当てはめ、還元型アルブミン濃度を算出した。また、何れの方法でも、算出した還元型アルブミン濃度を、改良BCP法(標準法)で決定した同じ検体の総アルブミン濃度で割り、還元型アルブミンの割合(%)を算出し、還元型アルブミンの割合を1から差し引いて酸化型アルブミンの割合(%)を算出した。
【0078】
1-5.評価方法
試験Iと同様にして各方法で決定した還元型アルブミンの濃度または酸化型アルブミンの割合から、標準法で決定したそれぞれの基準値を差し引き、その差の絶対値を基準法からの乖離とした。改良BDAB法(補正あり)が、従来のBDAB法(補正なし)と比較して、基準値に対する乖離が縮小しているかどうかによって各酸化剤による補正効果を評価した。
【0079】
2.結果
以下の表に、酸化剤として、5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)、2,2’-ジチオ二安息香酸、ビス(4-ニトロフェニル)ジスルフィド、または過酸化水素を用いた改良BDAB法(補正あり)または従来のBDAB法(補正なし)により決定した還元型アルブミン濃度、ならびに当該還元型アルブミン濃度と改良BCP法(標準法)で決定した総アルブミン濃度から算出された酸化型アルブミンの割合を、それぞれ標準法(HPLC法&改良BCP法)により決定した還元型アルブミン濃度および標準法(HPLC法)により決定した酸化型アルブミンの割合に対して乖離した程度を示す。改良BDAB法(補正あり)では、線形検量線と非線形検量線を作成して決定した還元型アルブミン濃度を示し、酸化型アルブミンの割合は、これらの検量線から決定した還元型アルブミン濃度を使用した値を示す。
【表20】
【表21】
上記表に示す通り、本試験で用いた4種類の酸化剤を使った改良BDAB法では、従来のBDAB法(補正なし)と比較して、基準値に対する乖離が縮小している検体もあったが、基準値に対する乖離が縮小しなかった検体、むしろ基準値に対する乖離が大きくなった検体も多くあり、全体として明らかな補正の効果が見られなかった。
【0080】
IV.マレイミドを酸化剤として用いた拡張試験
1.材料および測定方法
1-1.検体
検体は、試験Iで使用した検体(血清および血漿)に加え、ドナーから採血直後に全血を安定化剤であるクエン酸緩衝液と1:1ボリューム比で混合し、遠心後、採取した血漿も使用した(実運用で想定されている検体の酸化を防ぎ安定保存するための調製法である。非特許文献17参照)。試験Iで使用した検体は、測定直前にクエン酸緩衝液と1:1の体積比で混合して1/2に希釈をした。
標準品は試験Iで使用した標準品を使用した。
1-2.酸化剤
4mMマレイミド(シグマアルドリッチ製、トリス緩衝液、pH7.2に溶解)を用いた。
1-3.その他
その他の点は、試験IIと同様に実施した。
【0081】
2.結果
以下の表22および23ならびに
図7および8に、各方法により決定された還元型アルブミンの濃度および酸化型アルブミンの割合ならびにこれらの値の基準値に対する乖離を示す。また、下記表24に、表23に示す酸化型アルブミンの割合の値の基準値に対する乖離の統計解析を示し、
図9に、各方法により決定された酸化型アルブミンの割合の基準値の相関を示す。
【表22】
【表23】
【表24】
上記表ならびに
図7および8に示す通り、還元型アルブミンの濃度および酸化型アルブミンの割合が、標準法による基準値から乖離する検体があったが、全体として補正により基準値からの乖離が減少し、乖離度合いのばらつきも収束した。
また、
図9に示す通り、酸化型アルブミンの割合について、標準法との相関係数が従来のBDAB法(補正なし)では0.88であったのに対し、改良BDAB法(補正あり、線形)では0.97になり、相関直線の傾きもBDAB法(補正なし)では0.68であったのに対して、改良BDAB法(補正あり)では、0.97(線形検量線)および0.93(非線形検量線)となり、傾きがより1に近づいた。従って、改良BDAB法では標準法に近似するより正確な数値が得られることが確認された。
【0082】
V.ヨードアセトアミドを酸化剤として用いた拡張試験
1.材料および測定方法
1-1.検体
検体は試験IVと同じ検体を同様に処理して使用した。
1-2.酸化剤
200mMヨードアセトアミド(東京化成工業製、トリス緩衝液、pH8.0に溶解)を用いた。
1-3.その他
その他の点は、試験IIと同様に実施した。
【0083】
2.結果
以下の表25および26ならびに
図10および11に、各方法により決定された還元型アルブミンの濃度および酸化型アルブミンの割合ならびにこれらの値の基準値に対する乖離を示す。また、下記表27に、表26に示す酸化型アルブミンの割合の値の基準値に対する乖離の統計解析を示し、
図12に各方法により決定された酸化型アルブミンの割合の基準値の相関を示す。
【表25】
【表26】
【表27】
上記表ならびに
図10および11に示す通り、還元型アルブミン濃度および酸化型アルブミン割合について、検体によっては標準法による基準値から大きく乖離する検体があったが、全体として補正により乖離が減少し、乖離度合いのばらつきも収束した。より具体的には、還元型アルブミンの濃度について、改良BDAB法(補正あり、線形)では32検体中25検体、改良BDAB法(補正あり、非線形)では24検体で乖離が減少した。酸化型アルブミンの割合について、改良BDAB法(補正あり、線形)では32検体中26検体、改良BDAB法(補正あり、非線形)では24検体で乖離が減少した(
図11)。中には、従来のBDAB法(補正なし)で、標準法による基準値からの乖離が小さく、改良BDAB法(補正あり)で若干乖離が大きくなったものもあったが、そのような検体でも酸化型アルブミン割合の基準法による基準値からの乖離は7%以下であり、全体として改良BDAB法(補正あり)の標準法からの乖離は小さく、平均で2.2%であり、最も乖離が大きな数値でも6-7%に収まることが確認された。
また、
図12に示す通り、酸化型アルブミンの割合について、標準法との相関係数が従来のBDAB法(補正なし)では0.88であったのに対し、改良BDAB法(補正あり)では0.97になり、相関直線の傾きもBDAB法(補正なし)では0.68であったのに対して、改良BDAB法(補正あり)では、1.03(線形検量線)および0.98(非線形検量線)となり、傾きがより1に近づいた。従って、改良BDAB法では標準法に近似するより正確な数値が得られることが確認された。
【0084】
VI.精製したアルブミンおよび還元型アルブミンの標準品としての使用についての検討
本試験では、種々の標準品について比較検討した。
【0085】
1.材料および測定方法
1-1.ヒト血清アルブミン標準品の調製
これまでの試験で用いた標準血清(コンセーラ1号)からアルブミンを精製した。担体としてアフィゲルブルーゲル(バイオラッド製)10mL(bed volume)を、内径15mmのプラスチックカラムに充填させ、リン酸緩衝液pH7.1で平衡化した後に、カラムをキャップし、6mLの標準血清を加え、1時間混合した。その後、カラムを計30mLのリン酸緩衝液で洗浄し、1.2M NaClを含むリン酸緩衝液で溶出した。溶出後の検体は100mM NaClを含むクエン酸緩衝液、pH5.0で、分子量カットオフ3500のセルロース性透析膜を使って透析をし、次いで限界ろ過膜にて濃縮して、精製アルブミン溶液を得た。得られた精製アルブミン溶液の酸化型または還元型アルブミンの割合(基準値)を、試験Iと同様に、HPLC法(標準法)によって決定した。また、精製アルブミン溶液中の還元型アルブミン濃度(基準値)も、試験Iと同様に、還元型アルブミンの割合をHPLC法(標準法)で決定し、総アルブミン濃度を改良BCP法(標準法)で決定し、HPLC法で決定した還元型アルブミンの割合(%)に、改良BCP法で決定した総アルブミン濃度を掛けて算出した。
得られた精製アルブミン溶液を、クエン酸緩衝液で段階的に希釈して希釈系列を調製し、キャリブレーターとして使用した。
【0086】
1-2.還元型ヒト血清アルブミン標準品の調製
イソプロピル-チオール-アガロース(クリエイティブバイオマート製)を担体として使い還元型アルブミンを精製した(非特許文献9参照)。4mL(bed volume)の担体を内径15mmのプラスチックカラムに充填し、500mM NaClを含むトリス緩衝液、pH7.5で平衡化後に、カラムをキャップし、上述の通りアフィゲルブルーゲルにて精製した5mLの精製アルブミン溶液を加え、1時間混合した。その後、カラムを計15mLの500mM NaClを含むトリス緩衝液で洗浄し、25mM DTT、500mM NaClを含むトリス緩衝液で溶出した。溶出後の検体は100mM NaClを含むクエン酸緩衝液、pH5.0で、分子量カットオフ3500のセルロース性透析膜を使って透析し、次いで限界ろ過膜にて濃縮して、精製還元型ヒト血清アルブミン溶液を得た。溶液中のチオール濃度は、非特許文献9に従って5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)と反応させた際の412nmでの吸光度を基に算出した。
得られた精製還元型ヒト血清アルブミン溶液を、クエン酸緩衝液で段階的に希釈して希釈系列を調製し、キャリブレーターとして使用した。
【0087】
1-3.比較用標準品
比較用標準品として、これまでの試験で用いた標準血清(コンセーラ1号)と、低分子チオール化合物としてシステインをクエン酸緩衝液に溶解した溶液を使用し、同様にクエン酸緩衝液で段階的に希釈して希釈系列を調製し、キャリブレーターとして使用した。
【0088】
1-4.酸化剤
酸化剤溶液として、4mMマレイミド(シグマアルドリッチ製、トリス緩衝液、pH7.2に溶解)を使用した。
1-5.前処理と吸光度測定
前処理および吸光度測定は、試験IIと同様に行った。
1-6.検量線の作成
各標準品および比較用標準品の希釈系列を使用して、試験Iと同様にして、改良BDAB法(補正あり)による検量線(線形)と、従来のBDAB法(補正無し)による検量線を作成した。
1-7.評価
標準血清(コンセーラ1号)により作成した検量線を基準として、今回検討した各標準品および比較用標準品により作成した検量線の傾き、切片を比較した。
【0089】
2.結果
図13に示す通り、従来のBDAB法(補正なし)では、精製アルブミンおよび精製還元型アルブミンで作成した検量線は、標準血清で作成した検量線からややずれが見られたが、改良BDAB法(補正あり)では、ほぼ同様の検量線が得られた。
一方、
図14に示す通り、システイン溶液で作成した検量線は、改良BDAB法(補正あり)でも、標準血清で作成した検量線から大幅なずれが見られ、補正によってずれは解消されなかった。このことから、改良BDAB法(補正あり)では、標準血清、精製アルブミン、および精製還元型アルブミンのいずれも標準品として使用可能であることが示された。
【0090】
VII.キャリブレーター候補としての複数種の標準血清・血漿の評価
本試験では複数種の標準血清若しくは血漿の希釈系列を作成して、キャリブレーターとしての適性を評価した。
1.材料および測定方法
1-1.標準血清または血漿ならびに希釈系列の調製
キャリブレーター候補として下記の標準血清または血漿を用いた。
【表28】
各標準血清または血漿中の還元型アルブミンの割合(基準値)を、試験Iと同様に、HPLC法(標準法)によって決定した。また、各標準血清または血漿中の総アルブミン濃度は改良BCP法(標準法)で決定した。また、各標準血清または血漿中の還元型アルブミン濃度(基準値)は、試験Iと同様に、HPLC法(標準法)で決定した還元型アルブミンの割合を、改良BCP法で決定した総アルブミン濃度を掛けて算出した。
得られた精製アルブミン溶液を、クエン酸緩衝液で段階的に希釈して希釈系列を調製し、キャリブレーターとして使用した。
各標準血清または血漿は、クエン酸緩衝液で段階的に希釈し希釈系列を調製し、キャリブレーターとして使用した。
1-2.酸化剤
酸化剤溶液として、4mMマレイミド(トリス緩衝液、pH7.2に溶解)を使用した。
1-3.前処理と吸光度測定
前処理および吸光度測定は、試験IIと同様に行った。
1-4.検量線の作成
各標準血清または血漿の希釈系列を使用して、試験Iと同様にして、改良BDAB法(補正あり)による検量線(線形)と、従来のBDAB法(補正無し)による検量線を作成した(
図15および
図16)。
1-5.評価
標準血清(コンセーラ1号)により作成した検量線を基準として、今回検討した各標準血清または血漿により作成した検量線の傾き、切片を比較した。
【0091】
2.結果
従来のBDAB法(補正無し)の場合、一部の標準血漿を用いて作製した検量線は、基準とした検量線に対して乖離を生じたが、改良BDAB法(補正あり)の場合、何れの標準血清または血漿でも基準とした検量線に対して乖離がなく、類似の検量線を得た(
図15および16)。このことから、本発明の方法では、測定レンジをカバーすることができるだけの還元型アルブミン濃度が得られれば、血清または血漿をキャリブレーターとして使用できることが示唆された。