(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067605
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】膜を形成する方法、及び膜を形成する装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/40 20060101AFI20230509BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20230509BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20230509BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C23C16/40
C23C16/455
H01L21/31 B
H01L21/316 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179003
(22)【出願日】2021-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辛川 孝行
(72)【発明者】
【氏名】宮谷 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】原田 豪繁
(72)【発明者】
【氏名】両角 友一朗
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
5F058
【Fターム(参考)】
4K030AA12
4K030BA01
4K030BA18
4K030BA38
4K030BA42
4K030BB02
4K030BB05
4K030BB12
4K030CA04
4K030CA12
4K030HA01
4K030JA10
4K030LA02
4K030LA15
5F045AA06
5F045AA15
5F045AB31
5F045AC00
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5F058BG03
5F058BG04
5F058BH02
5F058BH04
5F058BJ04
(57)【要約】
【課題】窒化チタン膜上に、ストロンチウムとチタンと酸素とを含有する結晶構造の膜を形成する技術を提供すること。
【解決手段】前記基板に形成された窒化チタン膜の上面に、ストロンチウムと酸素とを含有し、ストロンチウムに対するチタンの原子数基準の含有比が0以上、1.0未満の範囲内の値であるアモルファス構造の膜を形成する。次いで、前記アモルファス構造の膜が形成された前記基板を、500℃以上の温度で加熱し、前記窒化チタン膜から拡散したチタンを含む、前記ストロンチウムとチタンと酸素とを含有する結晶構造の膜を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に対して、ストロンチウムとチタンと酸素とを含有する結晶構造の膜を形成する方法において、
前記基板の表面に形成された窒化チタン膜の上面に、ストロンチウムと酸素とを含有し、ストロンチウムに対するチタンの原子数基準の含有比が0以上、1.0未満の範囲内の値となるようにチタンの含有量が調節されたアモルファス構造の膜を形成する工程と、
前記アモルファス構造の膜が形成された前記基板を、500℃以上の温度で加熱し、前記窒化チタン膜から拡散したチタンを含む、前記ストロンチウムとチタンと酸素とを含有する結晶構造の膜を得る工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記膜を形成する工程では、2nm以上の厚さの前記アモルファス構造の膜を形成し、
前記結晶構造の膜を得る工程では、前記窒化チタン膜と前記アモルファス構造の膜との界面に前記結晶構造の膜を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記結晶構造の膜は、1nm以上、5nm以下の範囲内の厚さである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記膜を形成する工程では、5nm以上、10nm以下の範囲内の厚さの前記アモルファス構造の膜を形成し、
前記結晶構造の膜を得る工程では、前記アモルファス構造の膜が前記結晶構造の膜に変換される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記結晶構造の膜を得る工程の後、当該結晶構造の膜の上面に、ストロンチウムとチタンと酸素とを含有するアモルファス構造の上層膜を形成する工程と、
次いで、前記上層膜が形成された前記基板を、500℃以上の温度で加熱し、前記上層膜を、前記ストロンチウムとチタンと酸素とを含有する結晶構造の膜に変換する工程と、を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アモルファス構造の上層膜は、3nm以上の厚さに形成される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記アモルファス構造の上層膜は、ストロンチウムに対するチタンの原子数基準の含有比が0.8以上、1.2以下の範囲内の値である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
基板に対して、ストロンチウムとチタンと酸素とを含有する結晶構造の膜を形成する装置において、
前記基板の表面に形成された窒化チタン膜の上面に、ストロンチウムと酸素とを含有し、ストロンチウムに対するチタンの原子数基準の含有比が0以上、1.0未満の範囲内の値となるようにチタンの含有量が調節されたアモルファス構造の膜を形成する成膜部と、
前記アモルファス構造の膜が形成された前記基板を、500℃以上の温度で加熱し、前記窒化チタン膜から拡散したチタンを含む、前記ストロンチウムとチタンと酸素とを含有する結晶構造の膜を得る熱処理を行う熱処理部と、を備える装置。
【請求項9】
前記成膜部は、
前記窒化チタン膜が形成された前記基板を収容する処理容器と、
前記処理容器にストロンチウムを含むストロンチウム原料のガスを供給する第1の原料ガス供給部と、
前記処理容器にチタンを含むチタン原料のガスを供給する第2の原料ガス供給部と、
前記処理容器に前記ストロンチウム原料及び前記チタン原料を酸化する酸化ガスを供給する酸化ガス供給部と、を備え、
さらに前記装置は、制御部を備え、
前記制御部は、前記処理容器内の前記基板に対し、前記第1のガス供給部から前記ストロンチウム原料のガスを供給して、前記基板に前記ストロンチウム原料を吸着させるステップと、次いで、前記基板に対し、前記酸化ガス供給部から酸化ガスを供給して前記ストロンチウム原料を酸化するステップとを含む第1のサイクルと、前記第2のガス供給部から前記チタン原料のガスを供給して、前記基板に前記チタン原料を吸着させるステップと、次いで、前記基板に対し、前記酸化ガス供給部から酸化ガスを供給して前記チタン原料を酸化するステップとを含む第2のサイクルと、を各々、繰り返し実施するための制御信号を出力するように構成されることと、
前記アモルファス構造の膜における前記含有比は、前記第1のサイクル及び前記第2のサイクルの各々の実施回数の比により調整される、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記成膜部では、2nm以上の厚さの前記アモルファス構造の膜が形成され、
前記熱処理部では、前記熱処理により、前記窒化チタン膜と前記アモルファス構造の膜との界面に前記結晶構造の膜が形成される、請求項8または9に記載の装置。
【請求項11】
前記結晶構造の膜は、1nm以上、5nm以下の範囲内の厚さである、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記熱処理部では、5nm以上、10nm以下の範囲内の厚さの前記アモルファス構造の膜が形成され、
前記熱処理部では、前記熱処理により、前記アモルファス構造の膜が前記結晶構造の膜に変換される、請求項8または9に記載の装置。
【請求項13】
前記熱処理部における熱処理の後、前記結晶構造の膜の上面に、ストロンチウムとチタンと酸素とを含有するアモルファス構造の上層膜を形成する上層膜形成部と、
次いで、前記上層膜が形成された前記基板を、500℃以上の温度で加熱し、前記上層膜を、前記ストロンチウムとチタンと酸素とを含有する結晶構造の膜に変換する熱処理を行う上層膜熱処理部と、を備えた、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記上層膜形成部では、3nm以上の厚さの前記上層膜が形成される、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記アモルファス構造の上層膜は、ストロンチウムに対するチタンの原子数基準の含有比が0.8以上、1.2以下の範囲内の値である、請求項13または14に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜を形成する方法、及び膜を形成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスである例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)を構成する絶縁膜においては、キャパシタ性能のさらなる向上が求められている。このため、絶縁膜の材料として、例えば比誘電率が80~100程度のウルトラHigh-k膜に対するニーズが高まってきている。ウルトラHigh-k膜の候補として、ストロンチウム(Sr)及びチタン(Ti)を含む複合酸化物(以下、「STO」ともいう)の結晶が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、Ru膜上に形成された10nm以下の第1のSr-Ti-O系膜をアニールすることにより、結晶化を行い、さらに第2のSr-Ti-O系膜の形成、アニールによる結晶化を行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、窒化チタン膜上に、ストロンチウムとチタンと酸素とを含有する結晶構造の膜を形成する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、基板に対して、ストロンチウムとチタンと酸素とを含有する結晶構造の膜を形成する方法において、
前記基板の表面に形成された窒化チタン膜の上面に、ストロンチウムと酸素とを含有し、ストロンチウムに対するチタンの原子数基準の含有比が0以上、1.0未満の範囲内の値となるようにチタンの含有量が調節されたアモルファス構造の膜を形成する工程と、
前記アモルファス構造の膜が形成された前記基板を、500℃以上の温度で加熱し、前記窒化チタン膜から拡散したチタンを含む、前記ストロンチウムとチタンと酸素とを含有する結晶構造の膜を得る工程と、を含む方法である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、窒化チタン膜上に、ストロンチウムとチタンと酸素とを含有する結晶構造の膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る結晶構造のSTO膜の成膜法を示す模式図である。
【
図2】前記STO膜を形成するための成膜装置の平面図である。
【
図6】第2の実施形態に係る結晶構造のSTO膜の成膜法を示す模式図である。
【
図7】第3の実施形態に係る結晶構造のSTO膜の成膜法を示す模式図である。
【
図8】実施例及び比較例に係るSTO膜のXRDによる分析結果を示す第1の回折スペクトル図である。
【
図9】前記STO膜の積層構造を示すグラフである。
【
図10】実施例及び比較例に係るSTO膜のXRDによる分析結果を示す第2の回折スペクトル図である。
【
図11】実施例及び比較例に係るSTO膜の表面の第1の電子顕微鏡写真である。
【
図12】実施例及び比較例に係るSTO膜の表面の第2の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1の実施形態>
初めに、
図1を参照しながら本開示の結晶構造のSTO膜(以下、「結晶STO膜」ともいう)の形成方法について説明する。
図1(a)、(b)は、例えばDRAMが形成される過程において、基板である半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)Wに形成される膜の積層構造を模式的に示している。なお、
図1、
図6、
図7においては、ウエハWに形成されるトレンチやビアホールなどの構造は記載を省略してある。
【0010】
図1(a)に例示するように、結晶STO膜が形成されるウエハWは、シリコンウエハ81の本体の上面に、下地膜であるシリコン酸化膜(SiO膜)82、不図示のトレンチやビアホールを介して、シリコンウエハ81とのコンタクトを取るための窒化チタン膜(TiN膜)83とが積層されている。ウルトラHigh-k膜である結晶STO膜85は、このTiN膜83の上面に成膜される。
【0011】
ここで結晶STO膜85を得る手法としては、成膜対象のウエハW上にアモルファス構造のSTO膜(以下、「アモルファスSTO膜」ともいう)を形成し、このウエハWを熱処理(アニール)することにより、結晶STO膜に変換する技術が知られている。
【0012】
一方で本開示に係る発明者らは、後述の実施例に実験結果を示すように、通常の金属とは異なり、TiN膜83の上面にアモルファスSTO膜を形成した後、熱処理を行っても、結晶STO膜が形成されない場合があることを見出した。
この場合には、熱処理を実施した後のアモルファスSTO膜の上面に、さらにアモルファスSTO膜を積層して熱処理を行うことにより、TiN膜83と接していない領域にて結晶STO膜を得る手法も考えられる。しかしながら、当該手法により結晶STO膜を得たとしても、結晶STO膜の表面に、ブリスターと呼ばれる凹凸が形成されてしまう場合があることも分かった。
【0013】
熱処理を行っても結晶STO膜が得られない理由については明らかではない。この点につき、発明者らは、TiN膜83とアモルファスSTO膜との界面付近におけるチタンの含有量が多いと、STOの結晶が成長しにくい条件が形成されるのではないかと予想した。
【0014】
そこで第1の実施形態に係る結晶STO膜の形成方法では、
図1(a)に示すように、チタンの添加を行わずにストロンチウム酸化膜(SrO膜)84をTiN膜83の表面に形成する(アモルファスSTO膜を成膜する工程)。しかる後、SrO膜84が形成されたウエハWの熱処理を行い、TiN膜83からSrO膜84へチタンを拡散させることにより結晶STO膜85を得る(結晶STO膜を得る工程、
図1(b))。
【0015】
例えば1nm以上、5nm以下の範囲内の厚さの結晶STO膜85を得る場合には、2nm以上、10nm以下の範囲内の厚さのSrO膜84を形成することが好ましい。
また熱処理は、アルゴン(Ar)ガスや窒素(N2)ガスなどの不活性ガス雰囲気下にて、500~700℃の温度範囲内の例えば630℃にて、5分~1時間の範囲内の例えば1時間行われる。
【0016】
以下、
図2~
図4を参照しながら、上述の処理を行い、結晶STO膜85を形成する装置(成膜装置1)の構成について説明する。
成膜装置1は、例えばマルチチャンバーシステムの真空処理装置として構成されている。
図2に示すように、成膜装置1は、例えばArガスにより常圧雰囲気とされる常圧搬送室22を備えている。常圧搬送室22の手前には、例えばウエハWを収容したキャリアCとの間でウエハWの受け渡しを行うためのロードポート21が設置されている。常圧搬送室22の正面壁には、キャリアCとの間でウエハWの搬入出を行う際に開かれる開閉ドア27が設けられている。また常圧搬送室22内には、ウエハWを搬送するための搬送アーム25が設けられている。さらに常圧搬送室22のロードポート21側から見て左側壁には、ウエハWの向きや偏心の調整を行うアライメント室26が設けられている。
【0017】
常圧搬送室22におけるロードポート21の反対側の壁面には、ロードロック室23が接続されている。ロードロック室23は、ウエハWを収容した状態で内部の雰囲気を常圧雰囲気と真空雰囲気との間で切り替える機能を備える。常圧搬送室22側から見て、ロードロック室23は、左右に並ぶように例えば2個、配置されている。常圧搬送室22から見て、これらロードロック室23の奥手側には、真空搬送室24が配置されている。各ロードロック室23に対しては、ゲートバルブ29を介して常圧搬送室22及び真空搬送室24が接続されている。
【0018】
真空搬送室24には、ウエハWに形成されているTiN膜83の上面にSrO膜84を形成する成膜モジュール(成膜部)101と、SrO膜84が形成された後のウエハWの熱処理を行い、TiN膜83とSrO膜84との界面に結晶STO膜85を形成する熱処理モジュール(熱処理部)102とが接続されている。この例では、真空搬送室24に対して成膜モジュール101、熱処理モジュール102が2基ずつ接続されている。真空搬送室24には、搬送アーム28が設けられており、この搬送アーム28により、各ロードロック室23、成膜モジュール101、熱処理モジュール102間でのウエハWの受け渡しが行われる。
【0019】
次に、TiN膜83の上面側に、原子層堆積法であるALD(Atomic Layer Deposition)法によりSrO膜84を形成する成膜モジュール101の構成例について説明する(
図3)。なお、説明の便宜上、
図3に示す成膜モジュール101は、第2、第3の実施形態にて説明するSrリッチSTO膜86やSTO上層膜87を成膜することも可能な構成となっている。
SrO膜84の成膜の場合、チタン(Ti)原料のガスの供給に係るTi原料ガス供給部62の設置を省略する、またはTi原料ガス供給部62を使用しない点がSrリッチSTO膜86やSTO上層膜87の成膜とは異なる。以下の説明では、Ti原料ガス供給部62も含めて成膜モジュール101の構成を説明する。
【0020】
成膜モジュール101は、ウエハWを収容する処理容器30を備え、この処理容器30の側面には、既述のゲートバルブ29により開閉自在に構成された搬入出口31が形成されている。
【0021】
処理容器30の側壁の上部には、例えば円環状の排気ダクト32が配置されている。さらにこの排気ダクト32の上面には、処理容器30の上部開口を塞ぐように天板33が設けられている。処理容器30は、排気ダクト32の排気口331に接続された真空排気路34を介し、例えば真空ポンプよりなる真空排気部35に接続される。真空排気路34には、処理容器30内の圧力調節を行うAPC(Auto pressure Controller)バルブ36が介設されている。
【0022】
処理容器30の内部には、ウエハWを水平に支持する載置台4が設けられている。この載置台4には、ウエハWを加熱するためのヒーター41が埋設されている。また載置台4は、支柱43を介して昇降機構44に接続され、この昇降機構44により昇降自在に構成されている。なお
図3中、ウエハWの受け渡し位置に移動した載置台4を一点鎖線にて示してある。同図中、符号45は、ウエハWの受け渡し用の支持ピンを指し、支持ピン45は昇降機構46により昇降自在に構成される。また符号42は、支持ピン45用の貫通孔、符号47及び48は、載置台4、支持ピン45の昇降動作に伴って伸縮するベローズを夫々指す。
【0023】
成膜モジュール101には、載置台4と対向するように、処理容器30内に処理ガスを供給するためのシャワーヘッド5が設けられている。シャワーヘッド5は、その内部にガス拡散空間51を備えると共に、その下面は、多数のガス吐出孔53が形成されたシャワープレート52として構成される。ガス拡散空間51にはガス導入孔54を介して、ガス供給系6が接続されている。
【0024】
ガス供給系6は、処理容器30に向けて、ストロンチウム(Sr)原料のガスを供給するためのSr原料ガス供給部61と、Ti原料のガスを供給するためのTi原料ガス供給部62と、Sr原料、Ti原料を酸化する酸化ガスを供給するための酸化ガス供給部63と、を備えている。
【0025】
Sr原料ガス供給部61から供給されるSr原料としては、Sr(Me5Cp)2(ビスペンタメチルシクロペンタジエニルストロンチウム)や、Sr(THD)2(ストロンチウムビステトラメチルヘプタンジオナト)などのストロンチウムを含む化合物が用いられる。またTi原料ガス供給部62から供給されるTi原料としては、Ti(Me5Cp)(MeO)3(ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリメトキシド)やTi(Me5Cp)(NMe2)3(メチルシクロペンタジエニルトリスジメチルアミノチタン)などのチタンを含む化合物が用いられる。
また、本例では酸化ガスとして、反応性の高いオゾン(O3)ガスが用いられる。なお、例えば酸素ガスを電離させて得られたリモートプラズマを酸化ガスとして供給する構成としてもよい。
【0026】
Sr原料ガス供給部61は、ストロンチウム(Sr)原料ガスの供給を行うためのガス供給源64及びそのガス供給路641を含む。Sr原料ガス供給源64は、既述のSr原料をキャリアガスと接触させて気化または昇華させ、原料ガスとして供給する機能を備える。例えばストロンチウムガス供給路641には、上流側から順に、流量調節部642、貯留タンク643及びバルブV1が介設されている。
【0027】
Ti原料ガス供給部62は、Ti原料ガスの供給を行うためのガス供給源65及びそのガス供給路651を含む。Ti原料ガス供給源65は、既述のTi原料をキャリアガスと接触させて気化または昇華させ、原料ガスとして供給する機能を備える。例えばチタンガス供給路651には、上流側から順に、流量調節部652、貯留タンク653及びバルブV2が介設される。
【0028】
また、酸化ガス供給部63は、酸化ガスの供給を行うためのO3のガス供給源66及びそのガス供給路661を含む。例えばガスO3ガス供給路661には、上流側から順に、流量調節部662、貯留タンク663及びバルブV3が介設される。
【0029】
これらSr原料ガス、Ti原料ガス及びO3は、夫々貯留タンク643、653、663に一旦貯留されて、所定の圧力に昇圧された後、成膜モジュール101に供給される。貯留タンク643、653、663から成膜モジュール101への夫々のガスの供給及び停止は、バルブV1、V2、V3の開閉により行われる。
【0030】
さらに、ガス供給系6は、成膜モジュール101に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部を備え、不活性ガスとしては例えばArガスが用いられる。この例における不活性ガス供給部は、Arガス供給源67、68、69及びArガス供給路671、681、691を含むものである。
【0031】
本例では、Sr原料ガス供給部61のArガス供給源67から供給されるArガスはSr原料ガス用のパージガスである。このArガス供給源67はArガス供給路671を介して、既述のSr原料ガス供給路641に設けられたバルブV1の下流側に接続される。また、Ti原料ガス供給部62のArガス供給源68から供給されるArガスはTi原料ガス用のパージガスである。このArガス供給源68は、Arガス供給路681を介して、Ti原料ガス供給路651に設けられたバルブV2の下流側に接続される。
【0032】
さらに酸化ガス供給部63のArガス供給源69から供給されるArガスは酸化ガスのパージガスである。Arガス供給源69は、Arガス供給路691を介して、O
3ガス供給路661に設けられたバルブV3の下流側に接続される。
なお、
図3中、符号672、682、692は、各々、流量調節部を指し、符号V4、V5、V6は夫々バルブを指している。
【0033】
図3に示す成膜モジュール101を用いてTiN膜83の上面にSrO膜84(または後述のSrリッチSTO膜86)を形成する場合には、Sr原料ガス供給部61は第1の原料ガス供給部に相当し、Ti原料ガス供給部62は第2の原料ガス供給部に相当する。
【0034】
次いで
図4を参照しながら、熱処理モジュール102の構成について説明する。
図4において、
図3を用いて説明した成膜モジュール101と共通の機能を備える構成要素には、
図3にて用いたものと共通の符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0035】
図4に示すように、熱処理モジュール102は、処理容器30と、処理対象のウエハWが載置される載置台4aと、載置台4aと対向するように処理容器30の天井面側に設けられたシャワーヘッド5とを備える。
【0036】
本例の載置台4aは、処理容器30の底板上に固定して配置されている。載置台4aには、成膜モジュール101にてSrO膜84を形成した後のウエハWが配置される。載置台4aの内部には、昇降自在に構成された複数支持ピン(不図示)が設けられ、これらの支持ピンを載置台4aの上面から突没させることにより、ウエハWの受け渡しが行われる。
【0037】
載置台4aの内部には、ウエハWを500~700℃の温度範囲内の例えば630℃に加熱するためのヒーター41が設けられている。載置台4aの周囲の底板には、処理容器30内の排気を行うための複数の排気口331が開口している。
【0038】
シャワーヘッド5には、処理容器30に不活性ガスの一例であるArガスを供給するための不活性ガス供給部60が接続されている。不活性ガス供給部60は、Ar不活性ガス供給源600及びそのガス供給路601を含む。例えばArガス供給路601には、上流側から順に、流量調節部602及びバルブV7が介設される。
【0039】
上述の構成を備えた成膜装置1は、
図2に示すように制御部100を備えている。制御部100は、プログラムを記憶した記憶部、メモリ、CPUを含むコンピュータにより構成される。プログラムは、制御部100から成膜装置1の各部に向けて制御信号を出力し、ウエハWに対するSrO膜84の成膜やその後の熱処理を実行するように命令(ステップ)が組まれている。プログラムは、コンピュータの記憶部、例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、MO(光磁気ディスク)、不揮発性メモリなどに格納され、この記憶部から読み出されて制御部100にインストールされる。
【0040】
以上に説明した構成を備える成膜装置1の作用について説明する。
初めに、複数枚のウエハWを収容したキャリアCが、成膜装置1のロードポート21に搬送される。各ウエハWの上面には、
図1(a)の模式図に示すSiO膜82が形成された状態となっている。ウエハWは、搬送アーム25によってキャリアCから取り出され、常圧搬送室22を介してアライメント室26に搬入され、アライメントが行われた後、ロードロック室23を介して、真空搬送室24に搬入される。
【0041】
続いてウエハWは、搬送アーム28により成膜モジュール101に搬送され、ALD法によるSrO膜84の形成が行われる。処理容器30内に搬入されたウエハWは載置台4に載置され、250~400℃の範囲内の温度にヒーター41を昇温することにより、ウエハWの加熱が開始される。この加熱操作と共に、処理容器30内には、Arガス供給源67、68、69から夫々予め設定された流量でArガスが供給される。そして、真空排気部35により処理容器30内の真空排気を実施し、処理容器30内が目標圧力になるようにバルブ36の開度を調節する。
【0042】
続いて、
図5の成膜シーケンスに基づき、SrO膜84を形成する工程を実施する。SrO膜84の成膜の場合は、
図5中に示すステップ1~4のサイクル(第1のサイクル)のみを実施する。一方、ステップ5~8のサイクル(第2のサイクル)の実施回数はゼロとなる。
先ず、バルブV1を開いてSr原料ガスを供給すると共に、Arガス供給源67、68、69から夫々予め設定された流量でArガスを供給する(ステップ1)。この処理により、ウエハWの全面にSr原料が吸着する。
【0043】
次に、バルブV1を閉じてSr原料ガスの供給を停止する一方、Arガス供給源67、68、69からのArガスの供給を続ける。このようにして、Arガスによるパージを行い、処理容器30内に残存するSr原料ガスを除去する(ステップ2)。
【0044】
次いで、Arガス供給源67、68、69からのArガスの供給を続けた状態で、バルブV3を開いて、酸化ガスであるO3を供給する。この処理により、ウエハWに吸着されたSr原料とO3とが反応し、SrOの薄膜が形成される(ステップ3)。なお、既述したSr原料の例のように、Sr原料が有機金属化合物により構成されている場合には、SrOの薄膜中には、炭素を含有する成分(例えばSrCO3など)が含まれる場合がある。
続いて、バルブV3を閉じてO3の供給を停止する一方、Arガス供給源67、68、69からのArガスの供給を続けて、Arガスによるパージを行い、処理容器30内に残存するO3を除去する(ステップ4)。
【0045】
こうして、SrO膜84を形成する工程では、処理容器30内に不活性ガスであるArガスの供給を行いながら、Sr原料ガスと酸化ガスとを交互に供給して、ステップ1~4を設定されたサイクル数繰り返して実施し、所望の厚さのSrO膜84を形成する。SrO膜84の厚さの例としては、2nm以上、10nm以下の範囲内の厚さの10nmを例示することができる。
【0046】
SrO膜84の形成を終えたら、成膜モジュール101からウエハWを搬出し、当該ウエハWを熱処理モジュール102へ搬入し、結晶STO膜85を得る工程を実施する。
即ち、成膜モジュール101の載置台4a上にウエハWが載置されたら、ゲートバルブ29を閉じ、処理容器30内の排気を行いながら不活性ガス供給部60よりArガスの供給を行い、処理容器30内を予め設定された圧力に調節する。また、不図示の電源部からヒーター41に電力を供給し、載置台4a上のウエハWを500~700℃の温度範囲内の例えば630℃に加熱する。
【0047】
TiN膜83の上面側にSrO膜84を形成することにより、チタンの濃度差に起因して、TiN膜83側からSrO膜84側へとチタンが拡散していく。チタンの拡散は、ウエハWを加熱することにより促進される。一方、拡散によってチタンがSrO膜84側へ移動した場合であっても、従来のアモルファスSTO膜と比較してチタンの濃度は低く、ストロンチウム、チタン、酸素を含む領域の結晶化を妨げるほどの高濃度とはならない場合がある。
【0048】
そこでTiN膜83上にSrO膜84が形成されたウエハWの熱処理を行うことにより、TiN膜83とSrO膜84との界面における、SrO膜84側にチタンが拡散してきた領域にて結晶化を進行させることができる。この結果、
図1(b)に示すように、結晶STO膜85を得ることができる。
【0049】
例えば既述の加熱温度で1nm以上、5nm以下の範囲内の厚さの結晶STO膜85を得る場合には、5分~1時間の範囲内の処理時間にて、熱処理を行う。なお、結晶STO膜85の上面側に残存するSrO膜84は、成膜装置1からウエハWを取り出した後、エッチングやCMP(Chemical Mechanical Polishing)により除去してもよい。
【0050】
熱処理モジュール102にて、予め設定した時間、ウエハWの熱処理を実施したら、熱処理モジュール102からウエハWを取り出し、搬入時とは反対の経路で真空搬送室24、ロードロック室23、常圧搬送室22を通ってウエハWを搬送し、元のキャリアCへ処理済みのウエハWを収容する。
【0051】
本開示に係る成膜装置1によれば、TiN膜83の上面に、チタンを含まないSrO膜84を形成した後、ウエハWの熱処理を行う。この結果、TiN膜83とSrO膜84との界面におけるチタン含有量の過剰な上昇を抑え、従来、アモルファスSTO膜を結晶化させることが困難であったTiN膜83の上面に結晶STO膜85を形成することができる。
【0052】
ここで、
図1(a)、(b)を用いて説明した手法により結晶STO膜85を得るためにTiN膜83の上面に形成される膜は、チタンを含まないSrO膜84に限定されない。例えば、ストロンチウムに対するチタンの含有比(原子数基準)が、相対的に少ない、ストロンチウム(Sr)リッチSTO膜であってもよい。SrリッチSTO膜の構成は、以下に説明する第2の実施形態中に例示する。
【0053】
<第2の実施形態>
図6は第2の実施形態に係る結晶STO膜85の成膜法を模式的に示している。第2の実施形態においては、TiN膜83の上面側に形成される結晶STO膜85の膜厚に近い、5nm以上、10nm以下の範囲内の厚さのSrO膜84a(またはSrリッチSTO膜86)を形成する。そして、熱処理により、当該SrO膜84a(またはSrリッチSTO膜86)の全体を結晶STO膜85に変換する点が、SrO膜84におけるTiN膜83との界面領域を結晶化する第1の実施形態とは異なっている。
【0054】
図1(a)に記載のSrO膜84(例えば2nm以上、10nm以下の厚さ)と比較して、
図6(a-1)に記載のSrO膜84aは、その厚さが5nm以上、10nm以下の範囲内に構成されている点を除いて、その成膜手法は第1の実施形態と同様である。
また、SrO膜84a全体を結晶STO膜85に変換することが可能な熱処理の実施時間を確保できれば、熱処理の手法についても第1の実施形態からの変更点はない。
【0055】
TiN膜83から拡散したチタンが、SrO膜84aの厚さ方向の全体に行き渡る範囲内の厚さであれば、第1の実施形態にて説明した例と同様のメカニズムにより、SrO膜84aの全体を結晶STO膜85に変換することが可能となる。
【0056】
また、熱処理により結晶STO膜85に変換することが可能な膜は、チタンを含まないSrO膜84に限定されない。
図6(a-2)は、TiN膜83の上面側に、ストロンチウムに対するチタンの含有比が相対的に少ないSrリッチSTO膜86を成膜した例を示している。SrリッチSTO膜86は、原子数基準でみたとき、ストロンチウムに対するチタンの原子数基準の含有比が0より大きく、1.0未満の範囲内、好適には0より大きく、0.7以下の値となるように成膜されている。SrリッチSTO膜86の厚さ範囲については、既述のSrO膜84aの場合と同様である。
【0057】
SrリッチSTO膜86は、
図3を用いて説明した成膜モジュール101(但し、Ti原料ガス供給部62を備える)を用い、
図5に示す成膜シーケンスのステップ1~8の全体を実施することにより形成することができる。
【0058】
即ち、SrリッチSTO膜86の形成にあたっては、既述のステップ1~4のサイクルを実施してSrOの薄膜を形成する。次いでTi原料ガスの供給、ウエハWへのTi原料の吸着(ステップ5)、Ti原料ガスの供給停止、処理容器30内のパージ(ステップ6)、酸化ガス(O
3)の供給(ステップ7)、Ti原料ガスの供給停止、処理容器30内のパージ(ステップ8)のサイクルを実施してTiOの薄膜を形成する。そして、これらステップ1~4のサイクル(第1のサイクル)とステップ5~8のサイクル(第2のサイクル)とを複数サイクルずつ交互に繰り返し実施する。これにより、所望の厚さのSrリッチSTO膜86を形成することができる。
図5中には、第1のサイクルと、第2のサイクルとの交互の繰り返し回数を「Z」と記載してある。
【0059】
ここでSrリッチSTO膜86におけるストロンチウムに対するチタンの含有比は、これら第1のサイクルの実施回数(
図5中に「X」と記載してある)と、第2のサイクルの実施回数(
図5中に「Y」と記載してある)との比を変化させることにより調整される。
【0060】
具体的には、事前の予備実験により、これらのサイクルの比「X:Y」を変化させて得られたアモルファスSTO膜の組成分析(例:二次イオン質量分析法など)を行う。そして、ストロンチウムに対するチタンの含有比(原子数基準)が0より大きく、1.0未満となる範囲のうち、所望の含有比に対応する各サイクルの実施回数X、Yを実際のSrリッチSTO膜86の成膜条件として採用する。
【0061】
上述の手法により形成されたSrリッチSTO膜86についても、
図6(a-1)に示したSrO膜84aの場合と同様に、熱処理モジュール102を用いた熱処理により、SrリッチSTO膜86の全体を結晶STO膜85に変換することが可能となる。
【0062】
<第3の実施形態>
第1の実施形態や第2の実施形態にて説明した手法により、TiN膜83の上面に結晶STO膜85を形成することができれば、この結晶STO膜85をTiN膜83に対する隔壁として活用し、さらに厚い結晶STO膜を形成することができる。
図7(a)~(d)に示す第3の実施形態は、この手法により結晶STO膜を形成する例を示している。
【0063】
図7(a)、(b)は、各々、
図6(a-1)、(b)を再記載したものであり、TiN膜83の上面にSrO膜84aを形成した後、熱処理を行って結晶STO膜85を得た例を示している。次いでこの結晶STO膜85の上面に、アモルファス構造のSTO上層膜87を形成する(
図7(c))。
【0064】
STO上層膜87は、
図3を用いて説明したTi原料ガス供給部62を備える成膜モジュール101を用いて形成することができる。STO上層膜87の形成を行う成膜モジュール101は、本例の上層膜形成部に相当する。上層膜形成部としては、第1の実施形態に係るSrO膜84や、第2の実施形態に係るSrO膜84aやSrリッチSTO膜86の形成を行うものと共通の成膜モジュール101を用いてもよい。また、これらの膜84、84a、86を形成する成膜モジュール101とは別の成膜モジュール101を真空搬送室24に接続してもよい。
【0065】
STO上層膜87は、結晶STO膜85よりも厚い、3nm以上、30nm以下の厚さに形成される。また、STO上層膜87においては、ストロンチウムに対するチタンの原子数基準の含有比を1.0以上の値とすることもできる。STO上層膜87がTiN膜83と直接、接していないので、0以上、1.0未満の範囲に限定されず、より自由にストロンチウムとチタンとの含有比を調節することができる。例えば前記含有比が1.0に近い範囲、または1.0以上となる範囲に、より比誘電率の高い結晶STO膜が得られる条件が含まれている場合などには、TiN膜83の上面に結晶STO膜85を形成するための制約を受けずに、上質なSTO上層膜87を形成することができる。このような場合の、好適な含有比として、STO上層膜87は、ストロンチウムに対するチタンの原子数基準の含有比が0.8以上、1.2以下の範囲内の値である場合を例示できる。
【0066】
上述の手法により形成されたSTO上層膜87についても、熱処理モジュール102を用いた熱処理により、結晶STO膜88に変換することができる。STO上層膜87の熱処理を行う上層膜熱処理部としては、第1の実施形態に係るSrO膜84や、第2の実施形態に係るSrO膜84aやSrリッチSTO膜86の熱処理を行うものと共通の熱処理モジュール102を用いてもよい。また、これらの膜84、84a、86を形成する熱処理モジュール102とは別の熱処理モジュール102を真空搬送室24に接続してもよい。
【0067】
以上に説明した第1~第3の実施形態においては、共通の真空搬送室24に枚葉式のモジュールである成膜モジュール101、熱処理モジュール102を接続した構成となっている。一方で、アモルファスの膜(SrO膜84、84a、SrリッチSTO膜86)を形成する工程や、熱処理によりこれらの膜84、84a、86を結晶STO膜85に変換する工程は、共通の成膜装置1にて実施する場合に限定されない。例えば、多数枚のウエハWを保持したボートを加熱炉内に収容して処理を行うバッチ式の処理装置を用い、アモルファスの膜の形成と熱処理とを別々に行ってもよい。熱処理については、例えば赤外線ランプを用いたRTA(Rapid Thermal Annealing)装置により、既述の5分よりも短い処理時間でウエハWの加熱を行ってもよい。
また、アモルファスの膜の形成には、回転テーブル上に複数のウエハWを配置して、回転軸の周りにウエハWを公転させ、互いに区画された複数の処理空間を通過させて原料ガスの吸着と、酸化ガスによるSiOやTiOの薄膜の形成とを繰り返し行うセミバッチ式の成膜装置を用いてもよい。
【0068】
一方で、例えば
図2に示した成膜装置1の真空搬送室24に対し、TiN膜83を成膜するモジュールなど、他のモジュールを接続してもよい。この場合には、ウエハWに形成される複数種の膜の積層構造を共通の成膜装置1にて形成することが可能となる。
【0069】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【実施例0070】
(実験1)
第1の実施形態に対応させて、
図1にて説明したTiN膜83の上面側にSrO膜84を形成し、熱処理の有無による膜構造の相違を確認した。
A.実験条件
(実施例1)ウエハW上に膜厚10nmのTiN膜83を形成し、さらにその上面側に、
図5のステップ1~4に基づくALD法により、厚さ10nmのSrO膜84を形成した。Sr原料にはシクロペンタジエニル系のストロンチウム化合物を用い、ウエハWの加熱温度は350℃とした。その後、アルゴンガスの供給雰囲気下(圧力400Pa(3Torr))で、ウエハWを600℃に加熱し、1時間の熱処理を行った。熱処理後のウエハWについて、XRD(X-ray Diffraction)による結晶構造分析、及びTEM(Transmission Electron Microscope)による断面観察を行った。
(比較例1)SrO膜84を形成した後、熱処理を行っていないウエハWについて、実施例1と同様の分析を行った。
【0071】
B.実験結果
実施例1、比較例1に係るXRD分析の結果を
図8に示す。
図8の横軸は、X線の回折角度、縦軸は検出されたX線強度を示している。また、TEM観察の結果に基づくTiN膜83、SrO膜84、結晶STO膜85の積層構造を各層の厚さの積み上げ棒グラフにまとめた結果を
図9に示す。
【0072】
図8に示すXRD分析の結果によると、SrO膜84の形成後に熱処理を行った実施例1においては、結晶STOの結晶面に対応する回折角度にて、X線の回折ピークが確認された。これは、TiN膜83の上面にSrO膜84を形成した後のウエハWの熱処理を行うことにより、結晶STO膜85が形成されることを示唆している。一方、比較例1においては、結晶STOに対応する回折ピークは確認されなかった。
【0073】
図9に示すTEM観察の結果によると、実施例1においては、TiN膜83とSrO膜84との間に厚さ6nm程度の層が形成されていることが確認された。この層が、XRD分析にて結晶STOの結晶面に対応する回折ピークを示した結晶STO膜85に相当していると理解できる。
一方、比較例1のTEM観察の結果においても、TiN膜83とSrO膜84との間には3.5nm程度の薄い層が形成されていた。しかしながら、XRD分析にて結晶STOの結晶面に相当する回折ピークが確認できなかったことを踏まえると、SrO膜84の成膜時に形成された、SrOとSiNとの混合アモルファス層と理解することができる。
【0074】
(実験2)
第2の実施形態に対応させて、
図6にて説明したTiN膜83の上面側に形成する膜の膜種を変化させて熱処理後の膜構造の相違を確認した。
A.実験条件
(実施例2-1)厚さを5nmとした点を除き、実施例1と同じ条件でSrO膜84aを形成した。その後、アルゴンガスの供給雰囲気下(圧力400Pa(3Torr))で、ウエハWを630℃に加熱し、1時間の熱処理を行った。熱処理後のウエハWについて、XRDによる結晶構造分析、及びSEM(Scanning Electron Microscope)による表面観察を行った。
(実施例2-2)SrO膜84aに替えて、
図5のサイクル1~8に基づくALD法により、ストロンチウムに対するチタンの含有比が9.4(第1のサイクル実施回数X:第1のサイクル実施回数Y=10:1)のSrリッチSTO膜86を成膜した。このウエハWについて、実施例2-1と同様の分析を行った。
(比較例2-1)実施例2-1と同様の手法により、ストロンチウムに対するチタンの含有比が1.0(第1のサイクル実施回数X:第1のサイクル実施回数Y=2:3)のアモルファスSTO膜を成膜した。このウエハWについて、実施例2-1と同様の熱処理及び分析を行った。
【0075】
B.実験結果
実施例2-1、2-2、比較例2-1に係るXRD分析の結果を
図10に示す。
図10の横軸及び縦軸は
図8と同様である。また、各ウエハWの表面のSEM写真を
図11(a)~(c)に示す。
【0076】
図10に示すXRD分析の結果によると、厚さ5nmのSrO膜84aを形成した実施例2-1、厚さ5nmのSrリッチSTO膜86を形成した実施例2-2のいずれについても、結晶STOに対応する回折ピークが確認された。このXRD分析の結果から、これらの膜84a、86が結晶STO膜85に変換されたことが分かる。一方、チタンの含有比が高い比較例2-1においては、結晶STOに対応する回折ピークは確認されなかった。
【0077】
また、
図11(a)、(b)に示すSEM写真によると、SrO膜84a、SrリッチSTO膜86を熱処理して得られた実施例2-1、2-2に係る結晶STO膜85は、いずれも平坦な表面を有していた。一方、
図11(c)によると、ストロンチウムに対するチタンの含有比が1.0のアモルファスSTOを熱処理して得られた比較例2-2に係るウエハWの表面には、ブリスターと呼ばれる多数の凸部が形成されていた。これらのブリスターは、アモルファスSTOの膜の一部が剥がれることにより生じるものであり、膜剥がれの進展や、比誘電率の低下などの膜特性の劣化を引き起こす要因となり好ましくない。
【0078】
(実験3)
第3の実施形態に対応させて、
図7にて説明したSTO上層膜87の下面側に形成する膜の膜種を変化させて熱処理後の膜構造の相違を確認した。
A.実験条件
(実施例3-1)実施例2-2に記載の手法で形成した結晶STO膜85の上面に、厚さ20nm、ストロンチウムに対するチタンの含有比が1.0のSTO上層膜87を成膜した。STO上層膜87の成膜手法は、比較例2-1と同様である。STO上層膜87形成後のウエハWについて、アルゴンガスの供給雰囲気下(圧力400Pa(3Torr))で、ウエハWを630℃に加熱し、1時間の熱処理を行った。熱処理後のウエハWについてSEMによる表面観察を行った。
(比較例3-1)比較例2-1に記載の手法で形成した、ストロンチウムに対するチタンの含有比が1.0であるアモルファスSTO膜を熱処理した後、その上面にSTO上層膜87を形成した点を除いて実施例3-1と同様の条件でSTO上層膜87の形成、熱処理を実施し、SEMによる表面観察を行った。
【0079】
B.実験結果
実施例3-1、比較例3-1のSEM写真を
図12(a)、(b)に各々示す。なお、いずれの実験結果についても、STO上層膜87の熱処理後には、結晶STO膜88が形成されていることをXRD分析により確認している。
図12(a)に示す結果によれば、
図11(b)に示す平坦な結晶STO膜85の上面にSTO上層膜87を形成した場合には、熱処理後の結晶STO膜88の表面も平坦な状態となることが確認できる。一方、
図12(b)に示す結果によれば、
図11(c)に示すブリスターを有する膜の表面にSTO上層膜87を形成した場合には、熱処理後の結晶STO膜88の表面にもブリスターが形成されてしまうことが分かった。