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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067785
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】補強構造、補強部材及び補強方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20230509BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20230509BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
E01D22/00 B
E04G23/02 F
E01D1/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166546
(22)【出願日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2021178229
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022121755
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100224926
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 雄久
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊太
(72)【発明者】
【氏名】秀熊 佑哉
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
【Fターム(参考)】
2D059AA05
2D059AA07
2D059GG02
2D059GG40
2E176AA07
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】鋼部材の接合箇所において死荷重の増加を抑制でき、補強を容易に行うことが可能となる鋼部材の補強部材を提供する。
【解決手段】実施形態における補強構造100は、フランジ51と、フランジ51に接合される垂直補剛材54と、を有する断面I型鋼桁5と、断面I型鋼桁5を補強するための補強部材1と、を備える。補強部材1は、一方向繊維シートが複数積層されるFRP板材2を有する。FRP板材2は、垂直補剛材54を挟んで両側に形成されるとともにフランジ51に貼り付けられる一対の貼り付け部23と、垂直補剛材54を迂回して一対の貼り付け部23を繋ぐバイパス部24と、が形成される。FRP板材2における繊維配向は、一方の貼り付け部23aから他方の貼り付け部23bに向かう主方向と、主方向と異なる少なくとも2つの方向と、を有する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1鋼材と、前記第1鋼材に接合される第2鋼材と、を有する鋼部材を補強する補強構造であって、
前記鋼部材と、前記鋼部材を補強するための補強部材と、を備え、
前記補強部材は、連続強化繊維が一方向に引き揃えられて樹脂が含浸された一方向繊維シートが複数積層されるFRP板材を有し、
前記FRP板材は、
前記第2鋼材を挟んで両側に形成されるとともに前記第1鋼材に貼り付けられる一対の貼り付け部と、
前記第2鋼材を迂回して一対の前記貼り付け部を繋ぐバイパス部と、が形成され、
前記FRP板材における繊維配向は、一方の前記貼り付け部から他方の前記貼り付け部に向かう主方向と、前記主方向と異なる少なくとも2つの方向と、を有すること
を特徴とする補強構造。
【請求項2】
前記主方向とは異なる方向に配向する少なくとも2つの方向の前記繊維配向は、前記主方向から絶対値で15°~75°で傾いており、前記主方向を軸とした線対称となっていること
を特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項3】
前記補強部材は、前記貼り付け部と前記第1鋼材との間に連続繊維材を更に備え、
前記連続繊維材は、前記第2鋼材を挟んで両側に離間して一対設けられること
を特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項4】
前記補強部材は、前記貼り付け部と前記第1鋼材との間に接着層を更に備え、
前記接着層は、高伸度弾性樹脂層を含むこと
を特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項5】
前記FRP板材の厚みは、前記主方向において、端部側に向けてテーパー状に形成されること
を特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項6】
前記補強部材は、前記FRP板材に貼り付けられる繊維シートを有し、
前記FRP板材は、
側端から切り欠かれるとともに前記第2鋼材が挿入される切欠き部と、前記切欠き部により前記FRP板材の寸法が縮小した縮小部と、を有し、
前記繊維シートは、前記縮小部を跨ぐように、前記FRP板材に貼り付けられること
を特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項7】
前記FRP板材は、前記第1鋼材の接着面が形成される第1主面と、前記第1主面と反対側の第2主面と、を有し、
前記繊維シートは、前記第1主面に貼り付けられること
を特徴とする請求項6記載の補強構造。
【請求項8】
前記FRP板材は、前記第1鋼材の接着面が形成される第1主面と、前記第1主面と反対側の第2主面と、を有し、
前記繊維シートは、前記第2主面に貼り付けられること
を特徴とする請求項6又は7記載の補強構造。
【請求項9】
第1鋼材と、前記第1鋼材に接合される第2鋼材と、を有する鋼部材を補強するための補強部材であって、
連続強化繊維が一方向に引き揃えられて樹脂が含浸された一方向繊維シートが複数積層されるFRP板材を有し、
前記FRP板材は、
前記第2鋼材を挟んで両側に形成されるとともに前記第1鋼材に貼り付けるための一対の貼り付け部と、
前記第2鋼材を迂回して一対の前記貼り付け部を繋ぐためのバイパス部と、が形成され、
前記FRP板材における繊維配向は、一方の前記貼り付け部から他方の前記貼り付け部に向かう主方向と、前記主方向と異なる少なくとも2つの方向と、を有すること
を特徴とする補強部材。
【請求項10】
前記FRP板材に貼り付けられる繊維シートを有し、
前記FRP板材は、
側端から切り欠かれるとともに前記第2鋼材が挿入される切欠き部と、前記切欠き部により前記FRP板材の寸法が縮小した縮小部と、を有し、
前記繊維シートは、前記縮小部を跨ぐように、前記FRP板材に貼り付けられること
を特徴とする請求項9記載の補強部材。
【請求項11】
第1鋼材と、前記第1鋼材に接合される第2鋼材と、を有する鋼部材を補強する補強方法であって、
前記鋼部材に補強部材を設置する設置工程を備え、
前記補強部材は、連続強化繊維が一方向に引き揃えられて樹脂が含浸された一方向繊維シートが複数積層されたFRP板材を有し、
前記FRP板材は、
前記第2鋼材を挟んで両側に形成される一対の貼り付け部と、
一対の前記貼り付け部を繋ぐバイパス部と、が形成され、
前記FRP板材における繊維配向は、一方の前記貼り付け部から他方の前記貼り付け部に向かう主方向と、前記主方向と異なる少なくとも2つの方向と、を有し、
前記設置工程は、前記バイパス部により前記第2鋼材を迂回するように前記第1鋼材に一対の前記貼り付け部を貼り付けること
を特徴とする補強方法。
【請求項12】
前記補強部材は、前記FRP板材に貼り付けられる繊維シートを有し、
前記FRP板材は、
側端から切り欠かれるとともに前記第2鋼材が挿入される切欠き部と、前記切欠き部により前記FRP板材の寸法が縮小した縮小部と、を有し、
前記繊維シートは、前記縮小部を跨ぐように、前記FRP板材に貼り付けられ、
前記設置工程では、前記FRP板材の前記切欠き部に前記第2鋼材を挿入し、前記FRP板材を前記第1鋼材に貼り付けること
を特徴とする請求項11記載の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、第1鋼材と第2鋼材との接合箇所を有する補強構造、補強部材及び補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高速道路リニューアルプロジェクトの一環として、床版取替え等の大規模更新工事等が進められている。その際、床版を取替えることによって、既設鋼桁の耐荷力が不足する場合がある。既設鋼桁の耐荷力が不足する理由には、取替え後の床版による死荷重の増加、竣工時点の設計活荷重からB活荷重への引き上げ、合成桁から非合成桁となる構造上の変化等が挙げられる。そのため、既設鋼桁の補強に対する需要は今後増加することが考えられる。従来、鋼部材を補強する技術として、例えば非特許文献1、特許文献1~2の開示技術が提案されている。
【0003】
非特許文献1の鋼I桁を補強する方法は、2つの鋼I桁の下側フランジ同士を連結する下フランジ連結板を取り替える際に、ウェブ同士を連結するウェブ連結板の下側の一部分を撤去し、この撤去した部分に金属板からなるウェブバイパス部材をボルト接合する。
【0004】
特許文献1の鋼構造物の補修補強方法は、鋼部材の表面にポリウレア樹脂パテ材によりパテ層を形成する工程と、パテ層の上に、複数層の繊維シートを樹脂で接着して積層し、複数層の繊維強化樹脂層を形成する。
【0005】
特許文献2の補修方法は、鋼製母材の面外に継手鋼部材が回し溶接されてなる鋼製構造物における、前記継手鋼部材の止端部に発生したき裂を炭素繊維強化樹脂板を貼付して補修する方法であって、少なくとも前記炭素繊維強化樹脂板を前記継手鋼部材の両側面及び止端部の母材面に略コの字状に貼付すると同時に、該略コの字状の内側面が前記母材と継手鋼部材との溶接部の溶接ビードに密着して貼付されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】松井駿,山口隆司,戸田健介,荒木健二,山内誉史,“鋼I桁下フランジ連結板取替えのためのウェブバイパス工法の適用範囲およびバイパス部材の形状に関する解析的検討”,公益社団法人土木学会,構造工学論文集Vol.67A,2021年、P.323-335
【0007】
【特許文献1】特開2015-124553号公報
【特許文献2】特開2006-057352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、非特許文献1の補強方法では、ウェブバイパス部材をボルト接合するためのボルト孔をウェブに形成したり、ウェブバイパス部材を溶接接合する必要があるため、施工が容易でない。
【0009】
I型断面鋼材は、例えば橋梁の床版等を下方から支持する桁部材として用いられる。しかしながら、I型断面鋼材の上フランジには、床版が載置されることから、上フランジの下面側から補強を行う等、施工が制限されることもある。このため、短い施工時間で補強可能な技術が求められている。
【0010】
また、非特許文献1の補強方法では、金属板からなるウェブバイパス部材を接合するため、補強後の死荷重の増加が大きくなることが懸念される。更には、例えば鋼I桁の上フランジの下面には、垂直補剛材が接合されることもある。上フランジと垂直補剛材との接合箇所を有する鋼部材を補強する場合、接合箇所の補強が難しいという事情がある。
【0011】
特許文献1の開示技術では、垂直補剛材が設けられたI型断面鋼材を補強しようとしても、垂直補剛材により繊維シートを材軸方向に連続して貼ることができない。また、特許文献2の開示技術は、あくまで疲労き裂に対して適用できるものの、曲げ補強に関するものではない。このため、特許文献1、2の開示技術では、上フランジと垂直補剛材との接合箇所を有する鋼部材を補強する場合、接合箇所の補強が難しいという事情がある。したがって、鋼材同士の接合箇所においても補強効果を発揮できる技術が求められている。
【0012】
そこで本発明は、上述した事情に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、鋼部材の接合箇所において死荷重の増加を抑制でき、かつ容易に補強を行うことが可能となる補強構造、補強部材及び補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1発明に係る補強構造は、第1鋼材と、前記第1鋼材に接合される第2鋼材と、を有する鋼部材を補強する補強構造であって、前記鋼部材と、前記鋼部材を補強するための補強部材と、を備え、前記補強部材は、連続強化繊維が一方向に引き揃えられて樹脂が含浸された一方向繊維シートが複数積層されるFRP板材を有し、前記FRP板材は、前記第2鋼材を挟んで両側に形成されるとともに前記第1鋼材に貼り付けられる一対の貼り付け部と、前記第2鋼材を迂回して一対の前記貼り付け部を繋ぐバイパス部と、が形成され、前記FRP板材における繊維配向は、一方の前記貼り付け部から他方の前記貼り付け部に向かう主方向と、前記主方向と異なる少なくとも2つの方向と、を有することを特徴とする。
【0014】
第2発明に係る補強構造は、第1発明において、前記主方向とは異なる方向に配向する少なくとも2方向の前記繊維配向は、前記主方向から絶対値で15°~75°で傾いており、前記主方向を軸とした線対称となっていることを特徴とする。
【0015】
第3発明に係る補強構造は、第1発明において、前記補強部材は、前記貼り付け部と前記第1鋼材との間に連続繊維材を更に備え、前記連続繊維材は、前記第2鋼材を挟んで両側に離間して一対設けられることを特徴とする。
【0016】
第4発明に係る補強構造は、第1発明において、前記補強部材は、前記貼り付け部と前記第1鋼材との間に接着層を更に備え、前記接着層は、高伸度弾性樹脂層を含むことを特徴とする。
【0017】
第5発明に係る補強構造は、第1発明において、前記FRP板材の厚みは、前記主方向において、端部側に向けてテーパー状に形成されることを特徴とする。
【0018】
第6発明に係る補強構造は、第1発明において、前記補強部材は、前記FRP板材に貼り付けられる繊維シートを有し、前記FRP板材は、側端から切り欠かれるとともに前記第2鋼材が挿入される切欠き部と、前記切欠き部により前記FRP板材の寸法が縮小した縮小部と、を有し、前記繊維シートは、前記縮小部を跨ぐように、前記FRP板材に貼り付けられることを特徴とする。
【0019】
第7発明に係る補強構造は、第6発明において、前記FRP板材は、前記第1鋼材の接着面が形成される第1主面と、前記第1主面と反対側の第2主面と、を有し、前記繊維シートは、前記第1主面に貼り付けられることを特徴とする。
【0020】
第8発明に係る補強構造は、第6発明又は第7発明において、前記FRP板材は、前記第1鋼材の接着面が形成される第1主面と、前記第1主面と反対側の第2主面と、を有し、前記繊維シートは、前記第2主面に貼り付けられることを特徴とする。
【0021】
第9発明に係る補強部材は、第1鋼材と、前記第1鋼材に接合される第2鋼材と、を有する鋼部材を補強するための補強部材であって、連続強化繊維が一方向に引き揃えられて樹脂が含浸された一方向繊維シートが複数積層されるFRP板材を有し、前記FRP板材は、前記第2鋼材を挟んで両側に形成されるとともに前記第1鋼材に貼り付けるための一対の貼り付け部と、前記第2鋼材を迂回して一対の前記貼り付け部を繋ぐためのバイパス部と、が形成され、前記FRP板材における繊維配向は、一方の前記貼り付け部から他方の前記貼り付け部に向かう主方向と、前記主方向と異なる少なくとも2つの方向と、を有することを特徴とする。
【0022】
第10発明に係る補強部材は、第9発明において、前記FRP板材に貼り付けられる繊維シートを有し、前記FRP板材は、側端から切り欠かれるとともに前記第2鋼材が挿入される切欠き部と、前記切欠き部により前記FRP板材の寸法が縮小した縮小部と、を有し、前記繊維シートは、前記縮小部を跨ぐように、前記FRP板材に貼り付けられることを特徴とする。
【0023】
第11発明に係る補強方法は、第1鋼材と、前記第1鋼材に接合される第2鋼材と、を有する鋼部材を補強する鋼部材の補強方法であって、前記鋼部材に補強部材を設置する設置工程を備え、前記補強部材は、連続強化繊維が一方向に引き揃えられて樹脂が含浸された一方向繊維シートが複数積層されたFRP板材を有し、前記FRP板材は、前記第2鋼材を挟んで両側に形成される一対の貼り付け部と、一対の前記貼り付け部を繋ぐバイパス部と、が形成され、前記FRP板材における繊維配向は、一方の前記貼り付け部から他方の前記貼り付け部に向かう主方向と、前記主方向と異なる少なくとも2つの方向と、を有し、前記設置工程は、前記バイパス部により前記第2鋼材を迂回するように前記第1鋼材に一対の前記貼り付け部を貼り付けることを特徴とする。
【0024】
第12発明に係る鋼部材の補強方法は、第11発明において、前記補強部材は、前記FRP板材に貼り付けられる繊維シートを有し、前記FRP板材は、側端から切り欠かれるとともに前記第2鋼材が挿入される切欠き部と、前記切欠き部により前記FRP板材の寸法が縮小した縮小部と、を有し、前記繊維シートは、前記縮小部を跨ぐように、前記FRP板材に貼り付けられ、前記設置工程では、前記FRP板材の前記切欠き部に前記第2鋼材を挿入し、前記FRP板材を前記第1鋼材に貼り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、鋼部材の接合箇所において死荷重の増加を抑制でき、補強を容易に行うことが可能となる。さらに、ボルトや当て板、補剛版などの障害物があるために十分な定着長が取れず、補強が困難な箇所であっても、本発明の補強部材及びこれを用いた補強構造によって障害物を回避しつつ適正な補強を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、第1実施形態における補強構造の一例が設けられる橋梁を一部破断して示す斜視図である。
図2図2(a)は、第1実施形態における補強構造の一例を示す断面図であり、図2(b)は、図2(a)の2A-2A断面図である。
図3図3(a)は、第1実施形態における補強部材の一例を示す正面図であり、図3(b)は、図3(a)の3A-3A断面図である。
図4図4は、第1実施形態における補強方法の一例を示す図であり、図4(a)は、フランジに接着する前の補強部材を示す図であり、図4(b)は、フランジに接着した後の補強部材を示す図である。
図5図5は、第2実施形態における補強構造の一例を示す断面図である。
図6図6(a)は、第3実施形態における補強構造の一例を示す断面図であり、図6(b)は、第3実施形態における補強構造の第1変形例を示す断面図である。
図7図7は、第4実施形態における補強構造の一例が設けられる橋梁を一部破断して示す斜視図である。
図8図8(a)は、第4実施形態における補強構造の一例を示す正面図であり、図8(b)は、図8(a)の8A-8A断面図である。
図9図9は、第4実施形態におけるFRP板材の一例を示す平面図である。
図10図10(a)は、第4実施形態における補強部材の一例を示す正面図であり、図10(b)は、図10(a)の10A-10A断面図である。
図11図11は、第4実施形態における補強構造の一例を拡大して示す側面図である。
図12図12は、第4実施形態における補強方法の一例を示す図であり、図12(a)は、フランジに接着する前の補強部材を示す図であり、図12(b)は、フランジに接着した後の補強部材を示す図である。
図13図13(a)は、第5実施形態における補強構造の一例を示す正面図であり、図13(b)は、図13(a)の13A-13A断面図である。
図14図14は、第6実施形態における補強構造の一例を示す断面図である。
図15図15(a)は、第7実施形態における補強構造の一例を示す断面図であり、図15(b)は、図15(a)の15A-15A断面図である。
図16図16(a)は、第7実施形態における補強構造の一例を拡大して示す側面図であり、図16(b)は、第7実施形態における補強構造の一例を拡大して示す正面図である。
図17図17(a)は、第8実施形態における補強構造の一例を示す側面図であり、図17(b)は、第8実施形態における補強構造の一例を示す平面図である。
図18図18(a)は、第9実施形態における補強構造の一例を示す側面図であり、図18(b)は、第9実施形態における補強構造の一例を示す平面図である。
図19図19は、実施例1の供試体を示す側面図である。
図20図20は、実施例1の供試体を示す断面図である。
図21図21は、実施例1の供試体における補強部材を示す平面図である。
図22図22(a)は、正曲げ試験における比較例1、本発明例1及び本発明例2のひずみ分布を示す図であり、図22(b)は、負曲げ試験における比較例1、本発明例1及び本発明例2のひずみ分布を示す図である。
図23図23(a)は、実施例2におけるCASE1の供試体を示す図であり、図23(b)は、実施例2におけるCASE2の供試体を示す図であり、図23(c)は、実施例2におけるCASE3の供試体を示す図である。
図24図24(a)は、CASE1-1、CASE2-1~CASE2-3及びCASE3-1のひずみゲージの位置を示す図であり、図24(b)は、CASE1-2、CASE1-3、CASE3-2及びCASE3-3のひずみゲージの位置を示す図である。
図25図25は、実施例2における荷重とひずみの関係を示す図である。
図26図26は、実施例2における供試体中央からの距離とひずみの関係を示す図である。
図27図27は、実施例3の供試体を示す断面図である。
図28図28は、実施例3の供試体における補強部材を示す平面図である。
図29図29(a)は、実施例3の供試体における鋼材とCFRP成型板との接着層を示す図であり、図29(b)は、実施例3の供試体における鋼材と炭素繊維シートとの接着層を示す図である。
図30図30は、実施例3における荷重と支間中央鉛直変位との関係を示す図である。
図31図31は、比較例2及び本発明例6のひずみ分布を示す図である。
図32図32は、実施例4の供試体を示す断面図である。
図33図33は、本発明例7における補強部材を示す平面図である。
図34図34(a)は、FEM解析モデルの全体図を示し、図34(b)は、FEM解析モデルの断面図を示し、図34(c)は、FEM解析モデルにおけるバイパス部材を示す。
図35図35は、FEM解析における鋼板下面中央における軸方向応力比分布図を示す。
図36図36は、ひずみゲージの位置図を示す。
図37図37は、実施例4における荷重-支間中央鉛直たわみ関係を示す。
図38図38は、供試体の座屈、はく離等が発生する以前である200kN時における、各供試体の上フランジ鋼材のひずみ分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態としての補強構造、補強部材及び補強方法の一例について、図面を参照しながら説明する。なお、各図において、高さ方向を第3方向Zとし、第3方向Zと交差、例えば直交する1つの平面方向を第1方向Xとし、第3方向Z及び第1方向Xのそれぞれと交差、例えば直交する別の平面方向を第2方向Yとする。また、各図における構成は、説明のため模式的に記載されており、例えば各構成の大きさや、構成毎における大きさの対比等については、図とは異なってもよい。
【0028】
(第1実施形態:補強構造100)
図1は、第1実施形態における補強構造100の一例が設けられる橋梁9を一部破断して示す斜視図である。図2(a)は、第1実施形態における補強構造100の一例を示す正面図であり、図2(b)は、図2(a)の2A-2A断面図である。図3(a)は、第1実施形態における補強部材1の一例を示す正面図であり、図3(b)は、図3(a)の3A-3A断面図である。
【0029】
補強構造100は、例えば橋梁9の床版91を下方から支持する既設のI型断面鋼材5を補強する。補強構造100は、I型断面鋼材5と、補強部材1と、を備える。I型断面鋼材5は、床版91を支持する桁材として用いられるほか、例えば梁材として用いられる。
【0030】
<I型断面鋼材5>
I型断面鋼材5は、橋脚92に載置され、材軸方向が第2方向Yに沿って配置される。I型断面鋼材5は、一対のフランジ51、52と、一対のフランジ51、52を繋ぐウェブ53と、一対のフランジ51、52の間に設けられる垂直補剛材54と、を有する。フランジ51は、第3方向Zの上側のフランジであり、フランジ52は、下側のフランジである。I型断面鋼材5は、フランジ51の上面51aに床版91が載置される。I型断面鋼材5は、例えばフランジ51の下面51bに補強部材1が設けられる。垂直補剛材54は、例えば鋼板が用いられ、ウェブ53の座屈を防止するための補剛材である。
【0031】
<補強部材1>
補強部材1は、I型断面鋼材5を補強する。補強部材1は、FRP板材2と、繊維シート3と、接着層4と、を備える。
【0032】
<FRP板材2>
FRP板材2は、FRP(Fiber Reinforced Plastics)製で、例えばCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)製の板材が用いられる。FRPのマトリックス樹脂は熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂のいずれも使用することができるが、熱硬化性樹脂であるビニルエステル樹脂やエポキシ樹脂が好ましい。FRP板材2は、外形が矩形状の板材であり、長手方向が第2方向Yに延びて形成される。FRP板材2は、フランジ51の下面51bに接着層4を介して接着される。FRP板材2は、フランジ51の下面51bに接着される接着面が形成される第1主面2aと、第1主面2aとは反対側の第2主面2bと、を有する。本実施形態では、第1主面2aは、FRP板材2の上面であり、第2主面2bは、FRP板材2の下面である。
【0033】
FRP板材2は、軸方向弾性係数の値に対するせん断弾性係数の値の比が0.05以上6.00以下であることが好ましく、0.15以上0.35以下であることがさらに好ましい。これにより、切欠き部分における軸直角方向への応力伝達ロスを低減することができる。
【0034】
FRP板材2は、第1方向Xの一方の側端から切り欠かれて形成される切欠き部21と、切欠き部21によりFRP板材2の寸法が縮小した縮小部22と、を有する。切欠き部21には、垂直補剛材54が挿入される。縮小部22は、切欠き部21と第1方向Xで隣接して形成される。なお、FRP板材2は、切欠き部21が複数形成されてもよい。
また、切欠き部分においても応力伝達するように、軸方向に対し-45/0/45°方向に一方向材(後述する一方向繊維シート29)が積層されたものであることが好ましい。
【0035】
<繊維シート3>
繊維シート3は、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、アラミド繊維等の連続繊維シート(例えば、トウシート(登録商標))や予め樹脂を含侵、硬化させた複数のFRPストランドをすだれ状に加工したシート(例えば、ストランドシート(登録商標))が用いられる。繊維シート3は、炭素繊維等の繊維シートが例えば複数積層され、複数の層が互いに接着されてなるものであり、前記トウシートや前記ストランドシートに施工現場で樹脂を含侵、硬化させて形成されてもよいし、予めプレート状に成形したものを接着してもよい。
【0036】
繊維シート3は、縮小部22を第2方向Yで跨ぐように、FRP板材2の第1主面2aに貼り付けられる。繊維シート3は、FRP板材2において、接着層4が設けられない部分に貼り付けられる。繊維シート3は、縮小部22の中心線に対して第2方向Yに向かって左右均等な長さとなるように貼り付けられるが、応力伝達区間確保のために接着長を少なくとも両端100mm以上設けておくことが好ましい。
【0037】
<接着層4>
接着層4は、フランジ51の下面51bとFRP板材2の第1主面2aとを互い接着し、フランジ51の下面51bとFRP板材2の第1主面2aとの間に設けられる。接着層4は、高伸度弾性樹脂層を含むことが望ましく、例えばポリウレア樹脂層41と、エポキシ樹脂層42と、を含む。ポリウレア樹脂層41は、フランジ51に接触され、FRP板材2から離間する。このとき、エポキシ樹脂層42は、FRP板材2に接触され、フランジ51から離間する。これにより、フランジ51の降伏後、早期にポリウレア樹脂層41が剥離するのを抑制することができる。
【0038】
なお、ポリウレア樹脂層41は、FRP板材2に接触され、フランジ51から離間してもよい。エポキシ樹脂層42は、フランジ51に接触され、FRP板材2から離間する。このように、ポリウレア樹脂層41は、FRP板材2に接着し、エポキシ樹脂層42は、フランジ51に接触される。これにより、FRP板材2側でポリウレア樹脂層41を接着する作業と、フランジ51側で他の樹脂層を施工する作業と、を同時に行うことができる。
【0039】
接着層4は、フランジ51の下面51bとFRP板材2の第1主面2aとを互い接着できる周知の樹脂材料が用いられる。接着層4として、例えばエポキシ樹脂層42の代わりとしてアクリル樹脂、ポリウレア樹脂層41の代わりとしてウレアウレタン樹脂等の高伸度弾性樹脂を用いることもできる。高伸度弾性樹脂とは引張弾性率が50~100N/mm2かつ、引張最大荷重時伸びが300%以上の樹脂である。なお、高伸度弾性樹脂の引張最大荷重伸びは好ましくは300%~1200%であり、より好ましくは300%~700%であり、更に好ましくは300%~500%である。
【0040】
接着層4は、FRP板材2に予め形成されていることが好ましいが、施工現場にてFRP板材に形成してもよいし、フランジ下面51bに形成してもよい。
【0041】
(第1実施形態:補強方法の一例)
次に、第1実施形態における補強方法の一例を説明する。図4は、第1実施形態における補強方法の一例を示す図であり、図4(a)は、フランジ51に接着する前の補強部材1を示す図であり、図4(b)は、フランジ51に接着した後の補強部材1を示す図である。補強方法は、I型断面鋼材5に補強部材1を設ける設置工程を備える。
【0042】
先ず、図4(a)に示すように、設置工程では、FRP板材2の側端から切り欠かれた切欠き部21によりFRP板材2の寸法が縮小した縮小部22を第2方向Yで跨ぐように繊維シート3を第1主面2aに貼り付ける。そして、設置工程では、FRP板材2の第1主面2aに接着層4を設ける。そして、設置工程では、FRP板材2の切欠き部21に垂直補剛材54を挿入する。
【0043】
次に、図4(b)に示すように、設置工程では、第1主面2aに設けた接着層4を、フランジ51の下面51bに接着する。
【0044】
以上により、第1実施形態における補強方法の一例が完了する。
【0045】
本実施形態によれば、補強部材1は、フランジ51に接着されるFRP板材2と、FRP板材2に貼り付けられる繊維シート3と、を有し、FRP板材2は、側端から切り欠かれるとともに垂直補剛材54が挿入される切欠き部21と、切欠き部21によりFRP板材2の寸法が縮小した縮小部22と、を有し、繊維シート3は、縮小部22を跨ぐように、FRP板材2に貼り付けられる。すなわち、切欠き部21が垂直補剛材54をかわすように配置され、切欠き部21によるFRP板材2の断面欠損を補うように繊維シート3が配置される。このため、荷重が作用したとき、FRP板材2と欠損断面補強用の繊維シート3まで応力伝達が行われ補強部材1が応力を受け持つことによりフランジ51の応力を低減させることができる。したがって、垂直補剛材54が設けられるI型断面鋼材5に、正曲げと負曲げの両方に対する曲げ補強効果を発揮させることが可能となる。
【0046】
また、本実施形態によれば、繊維シート3が貼り付けられたFRP板材2の切欠き部21に垂直補剛材54を挿入し、FRP板材2をフランジ51に接着する。このため、垂直補剛材54が設けられたI型断面鋼材5に対して、短時間で施工可能となる。
【0047】
本実施形態によれば、FRP板材2は、軸方向弾性係数の値に対するせん断弾性係数の値の比が0.05以上6.00以下である。これにより、切欠き部21での応力伝達ロスを低減することができる。このため、曲げ補強効果を更に発揮させることが可能となる。特に、FRP板材2は、軸方向弾性係数の値に対するせん断弾性係数の値の比が0.15以上0.35以下であることにより、切欠き部21での応力伝達ロスを大きく低減することができる。このため、曲げ補強効果を更に発揮させることが可能となる。
【0048】
本実施形態によれば、補強部材1は、FRP板材2をフランジ51に接着するための接着層4を更に有し、接着層4は、ポリウレア樹脂層41等の高伸度弾性樹脂層を含む。エポキシ樹脂層のみで接着させる場合と比較して、より柔軟に変形可能なポリウレア樹脂層41等の高伸度弾性樹脂層を用いることで、FRP板材2がI型断面鋼材5から剥離するのを抑制し、より大きな変形に対しても補強効果を保つことができ、高伸度弾性樹脂層のせん断遅れ効果を発揮できる。このため、FRP板材2がI型断面鋼材5から剥離せずに曲げ補強効果を発揮させることが可能となる。
【0049】
本実施形態によれば、補強部材1は、FRP板材2をフランジ51に接着するための接着層4を更に有し、接着層4は、ポリウレア樹脂層41等の高伸度弾性樹脂層を含み、ポリウレア樹脂層41等の高伸度弾性樹脂層は、フランジ51に接触し、FRP板材2から離間する。これにより、フランジ51の降伏後、早期に高伸度弾性樹脂層が剥離するのを抑制することができる。このため、曲げ補強効果をより一層発揮させることが可能となる。
【0050】
本実施形態によれば、補強部材1は、FRP板材2をフランジ51に接着するための接着層4を更に有し、接着層4は、ポリウレア樹脂層41等の高伸度弾性樹脂層と、ポリウレア樹脂層41とは異なるエポキシ樹脂層42等の他の樹脂層と、を含み、ポリウレア樹脂層41等の高伸度弾性樹脂層は、FRP板材2に接着し、他の樹脂層は、フランジ51に接触される。これにより、FRP板材2側で高伸度弾性樹脂層を接着する作業と、フランジ51側で他の樹脂層を施工する作業と、を同時に行うことができる。このため、より短時間で施工可能となる。
【0051】
本実施形態によれば、繊維シート3は、第1主面2aに貼り付けられる。これにより、繊維シート3が、第2主面2bに貼り付けられる場合よりも、I型断面鋼材5の中立軸からより離間した位置に配置される。このため、補強構造100全体としての断面2次モーメントを増加させることができ、曲げ補強効果を更に発揮させることが可能となる。
【0052】
本実施形態によれば、上側のフランジ51の下面51bにFRP板材2が接着される。このため、フランジ51の上面51aに床版91等の構造物が設けられる場合であっても、I型断面鋼材5に対して、曲げ補強効果を発揮させることが可能となる。
【0053】
本実施形態によれば、補強部材1は、フランジ51に貼り付けられるFRP板材2を有する。これにより、鋼部材を当て板にて補強する際に、金属板からなるウェブバイパス部材をボルトや溶接により接合する場合よりも、大幅に軽量化できる。このため、補強後の死荷重の増加を抑制できる。
【0054】
(第2実施形態:補強構造100)
次に、第2実施形態における補強構造100の一例について説明する。以下、上述した第1実施形態と同様の構成については、詳細な説明を省略する。図5は、第2実施形態における補強構造100の一例を示す断面図である。図5に示すように、本実施形態では、上側のフランジ51にFRP板材2が接着される。繊維シート3は、第2主面2bに貼り付けられる。
【0055】
特に、本実施形態によれば、繊維シート3は、第2主面2bに貼り付けられる。これにより、フランジ51の上面51aに床版91等の構造物が設けられる場合であっても、繊維シート3の厚さの制限を受けることなく、I型断面鋼材5に対して、曲げ補強効果を発揮させることが可能となる。
【0056】
(第3実施形態:補強構造100)
次に、第3実施形態における補強構造100の一例について説明する。図6(a)は、第3実施形態における補強構造100の一例を示す断面図であり、図6(b)は、第3実施形態における補強構造100の第1変形例を示す断面図である。図6に示すように、本実施形態では、下側のフランジ52にFRP板材2が接着される。FRP板材2は、フランジ52の上面52aに接着される接着面が形成される第1主面2aと、第1主面2aとは反対側の第2主面2bとを、有する。本実施形態では、第1主面2aは、FRP板材2の下面であり、第2主面2bは、FRP板材2の上面である。
【0057】
図6(a)に示すように、繊維シート3は、FRP板材2の第1主面2aに貼り付けられる。
【0058】
図6(b)に示すように、繊維シート3は、FRP板材2の第2主面2bに貼り付けられる。
【0059】
特に、本実施形態によれば、下側のフランジ52にFRP板材2が接着される。これにより、上向き作業とならずに、FRP板材2を下側のフランジ52に接着することができる。このため、施工時の作業者の負担を低減させることが可能となる。
【0060】
特に、本実施形態によれば、繊維シート3は、第1主面2aに貼り付けられる。これにより、繊維シート3が、第2主面2bに貼り付けられる場合よりも、I型断面鋼材5の中立軸からより離間した位置に配置される。このため、補強構造100全体としての断面2次モーメントを増加させることができ、曲げ補強効果を更に発揮させることが可能となる。
【0061】
特に、本実施形態によれば、繊維シート3は、第2主面2bに貼り付けられる。これにより、フランジ52の下面52bに橋脚92等の構造物が設けられる場合であっても、繊維シート3の厚さの制限を受けることなく、I型断面鋼材5に対して、曲げ補強効果を発揮させることが可能となる。
【0062】
(第4実施形態:補強構造100)
図7図8(a)及び図8(b)に示すように、補強構造100は、例えば橋梁9の床版91を下方から支持する既設のI型断面鋼材5を補強する。補強構造100は、鋼部材としてのI型断面鋼材5と、補強部材1と、を備える。I型断面鋼材5は、床版91を支持する桁材として用いられるほか、例えば梁材として用いられる。
【0063】
<補強部材1>
補強部材1は、I型断面鋼材5を補強する。補強部材1は、FRP板材2と、接着層4と、を備える。
【0064】
<FRP板材2>
FRP板材2は、フランジ51の下面51bに接着層4を介して貼り付けられる。
【0065】
図9に示すように、FRP板材2は、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、アラミド繊維等の連続強化繊維が一方向に引き揃えられて樹脂が含浸された一方向繊維シート29が複数積層されて構成される。一方向繊維シート29は、FRP(Fiber Reinforced Plastics)製で、例えばCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)製である。なお、CFRP製とする場合、一方向繊維シート29は、JIS A1191:2004にて測定される引張強度が2300N/mm2以上、かつ、弾性率が280GPa~450GPaの炭素繊維シートであることが好ましい。
【0066】
FRPのマトリックス樹脂は熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂のいずれも使用することができるが、熱硬化性樹脂であるビニルエステル樹脂やエポキシ樹脂が好ましい。FRP板材2は、長手方向が第2方向Yに延びて形成され、FRP板材2の長手方向の端部28は応力集中の回避や施工性、応力伝達に関与しない不必要な箇所を設けないといった観点から端部28に平面視において任意の角度のテーパーを付けることが望ましい。なお、端部28におけるテーパー角については特に制限はないが、FRP板材2を構成する一方向繊維シートのうち、主方向以外の少なくとも2方向の配向方向に沿った角度であることが好ましい。
【0067】
FRP板材2は、主方向に配向する一方向繊維シート29の繊維配向と、他の一方向繊維シート29の繊維配向と、が異なる。これにより、FRP板材2の一方の貼り付け部23aからバイパス部24を介して他方の貼り付け部23bに応力が伝達され、I型断面鋼材5の応力を低減できる。例えばFRP板材2は、一方の貼り付け部23aから他方の貼り付け部23bに向かう第2方向Yを繊維配向(図9中のP1方向、「主方向」とも呼ぶ)とする一方向繊維シート29と、第2方向Yに対して角度θ1(例えば+45°)傾いた方向(図9中のP2方向)を繊維配向とする一方向繊維シート29と、第2方向Yに対して角度θ2(例えば-45°)傾いた方向(図9中のP3方向)を繊維配向とする一方向繊維シート29と、を有する。このように、FRP板材2は、主方向と当該主方向とは異なる少なくとも2つの方向の少なくとも計3方向の繊維配向となっており、第2方向Yを繊維配向とする一方向繊維シート29を有する場合、他の少なくとも2つの方向の一方向繊維シート29の繊維配向が第2方向Yに対して絶対値で15°~75°程度傾いていることが好ましく、30°~60°程度傾いていることがより好ましく、45°傾いていることが最も好ましい。
なお、4軸以上の繊維配向をとる場合は、主方向に直角(90°)方向の繊維配向が含まれてもよい。
【0068】
図10に示すように、FRP板材2は、一対の貼り付け部23(23a及び23b)と、バイパス部24と、切欠き部21と、を有する。貼り付け部23は、垂直補剛材54を挟んで第2方向Yの両側に形成される。貼り付け部23は、接着層4が設けられ、フランジ51の下面51bに貼り付けられる。バイパス部24は、貼り付け部23と第1方向Xで隣接して形成され、垂直補剛材54を迂回して一対の貼り付け部23を繋ぐ。切欠き部21は、第1方向Xの一方の側端から切り欠かれて形成され、切欠き部21によりFRP板材2の幅寸法が縮小した縮小部22が形成される。縮小部22は、バイパス部24に形成される。切欠き部21には、垂直補剛材54が挿入される。切欠き部21は、例えば台形状に切り欠かれるが、その形状は任意であるものの、FRP板材2を構成する一方向繊維シート29の繊維配向に沿った形状であることが好ましい。また、FRP板材全体での一方向繊維シートの繊維配向は主方向を軸とした線対称であることが望ましい。
【0069】
FRP板材2の各種寸法は、補強する構造物次第によってFRP板材2が設計されるために特に規定はないが、全長については作業性の観点などから2500mm程度が上限となる。
また、FRP板材2に設けられた一対の貼り付け部23(23a,23b)の端部から切欠き部21までの伝達区間Lの長さは、一方の貼り付け部からバイパス部24を通じて伝達される応力が局所的にかからないようする観点から、300mm以上あることが望ましく、600mm以上あることがより望ましい。
【0070】
図11に示すように、FRP板材2の厚みは、主方向において、端部28側に向けてテーパー状に形成されることが好ましい。なお、テーパー形状は直方体などの板状の一方向繊維シートの端部を削る・切るなどをすることで形成してもよいし、サイズのみ異なる相似形状の一方向繊維シート29を複数枚積層して形成してもよい。
【0071】
<接着層4>
接着層4は、フランジ51の下面51bとFRP板材2の貼り付け部23とを互いに接着し、フランジ51の下面51bとFRP板材2の貼り付け部23との間に設けられる。接着層4は、高伸度弾性樹脂層を含むことが望ましく、例えばエポキシ樹脂層を含む。
【0072】
接着層4は、フランジ51の下面51bとFRP板材2の貼り付け部23とを互い接着できる周知の樹脂材料が用いられる。接着層4として、例えばエポキシ樹脂層の代わりとしてアクリル樹脂層、ポリウレア樹脂層、ウレアウレタン樹脂等の高伸度弾性樹脂を用いることもできる。高伸度弾性樹脂とは、引張弾性率が50~100N/mm2かつ、引張最大荷重時伸びが300%以上の樹脂である。なお、高伸度弾性樹脂の引張最大荷重伸びは好ましくは300%~1200%であり、より好ましくは300%~700%であり、更に好ましくは300%~500%である。
【0073】
(第4実施形態:鋼部材の補強方法の一例)
次に、第4実施形態における鋼部材の補強方法の一例を説明する。図12(a)及び図12(b)に示すように、鋼部材の補強方法は、I型断面鋼材5に補強部材1を設置する設置工程を備える。
【0074】
先ず、図12(a)に示すように、設置工程では、貼り付け部23に接着層4を設ける。そして、図12(b)に示すように、設置工程では、バイパス部24により垂直補剛材54を迂回するようにフランジ51の下面51bに一対の貼り付け部23を接着層4を介して貼り付ける。
【0075】
以上により、第1実施形態における補強方法の一例が完了する。
【0076】
本実施形態によれば、補強部材1は、フランジ51に貼り付けられるFRP板材2を有する。これにより、鋼部材を当て板にて補強する際に、金属板からなるウェブバイパス部材をボルトや溶接により接合する場合よりも、大幅に軽量化できる。このため、補強後の死荷重の増加を抑制できる。
【0077】
本実施形態によれば、補強部材1は、一方向繊維シート29が複数積層されるFRP板材2を有し、FRP板材2は、垂直補剛材54を挟んで両側に形成されるとともにフランジ51に貼り付けられる一対の貼り付け部23と、垂直補剛材54を迂回して一対の貼り付け部23を繋ぐためのバイパス部24と、が形成され、FRP板材2における繊維配向は、一方の貼り付け部23aから他方の貼り付け部23bに向かう主方向と、主方向と異なる少なくとも2つの方向と、を有する。これにより、I型断面鋼材5のフランジ51に荷重が作用したとき、一方の貼り付け部23aからバイパス部24を介して他方の貼り付け部23bへの応力の伝達を円滑に行うことができる。このように、補強部材1が応力を受け持つことによりフランジ51の応力を低減させることができる。このため、I型断面鋼材5におけるフランジ51と垂直補剛材54との接合箇所において、正曲げと負曲げの両方に対する曲げ補強効果を発揮させることが可能となる。
【0078】
また、本実施形態によれば、FRP板材2の貼り付け部23をフランジ51に貼り付ける。これにより、補強部材1による鋼部材の補強を容易に行うことが可能となる。
【0079】
さらに、本実施形態によれば、垂直補剛材54のような第2鋼材を迂回して一対の貼り付け部23を繋ぐためのバイパス部24と、が形成される。これにより、ボルトや当て板、補剛版などの障害物があるために十分な定着長が取れず、補強が困難な箇所であっても、障害物を回避しつつ適正な補強を行うことができる。
【0080】
本実施形態によれば、主方向とは異なる方向に配向する少なくとも2つの方向の繊維配向は、主方向から絶対値で15°~75°で傾いており、主方向を軸とした線対称となっている。これにより、FRP板材2の等方性を高め、応力を効率よく均一に伝達することができる。このため、圧縮と引張の両方に対する曲げ補強効果を更に発揮させることが可能となる。
【0081】
本実施形態によれば、切欠き部21は、一方向繊維シート29の繊維配向に沿った形状である。これにより、切欠きに沿った方向に配向する繊維の連続性が保たれるため、一方の貼り付け部23aからバイパス部24を経由して他方の貼り付け部23bへの円滑な応力伝達が可能となる。
【0082】
本実施形態によれば、補強部材1は、貼り付け部23とフランジ51との間に接着層4を更に備え、接着層4は、高伸度弾性樹脂層を含む。これにより、フランジ51の降伏後、早期に高伸度弾性樹脂層が剥離するのを抑制することができる。このため、曲げ補強効果をより一層発揮させることが可能となる。
【0083】
本実施形態によれば、FRP板材2の厚みは、主方向において、端部28側に向けてテーパー状に形成される。これにより、FRP板材2による断面の急変を抑制でき、FRP板材2の端部28における応力集中を抑制できる。このため、一方の貼り付け部23aからバイパス部24を介して他方の貼り付け部23bへと応力伝達がより円滑に行われる。
【0084】
本実施形態によれば、FRP板材2は、軸方向弾性係数の値に対するせん断弾性係数の値の比が0.05以上6.00以下である。これにより、切欠き部21での応力伝達ロスを低減することができる。このため、曲げ補強効果を更に発揮させることが可能となる。特に、FRP板材2は、軸方向弾性係数の値に対するせん断弾性係数の値の比が0.15以上0.35以下であることにより、切欠き部21での応力伝達ロスを大きく低減することができる。このため、曲げ補強効果を更に発揮させることが可能となる。
【0085】
本実施形態によれば、上側のフランジ51の下面51bにFRP板材2の貼り付け部23が貼り付けられる。このため、フランジ51の上面51aに床版91等の構造物が設けられる場合であっても、I型断面鋼材5に対して、曲げ補強効果を発揮させることが可能となる。
【0086】
(第5実施形態:補強構造100)
次に、第5実施形態における補強構造100の一例について説明する。図13(a)及び図13(b)に示すように、本実施形態では、補強部材1は、第1実施形態と同様に、FRP板材2と、繊維シート3と、接着層4と、を備える。この場合、第1実施形態と同様に、繊維シート3は、縮小部22を跨ぐように、FRP板材2に貼り付けられる。
【0087】
(第6実施形態:補強構造100)
次に、第6実施形態における補強構造100の一例について説明する。図14に示すように、本実施形態では、下側のフランジ52の上面52aにFRP板材2の貼り付け部23が接着層4を介して貼り付けられる。
【0088】
特に、本実施形態によれば、下側のフランジ52にFRP板材2の貼り付け部23が貼り付けられる。これにより、上向き作業とならずに、FRP板材2を下側のフランジ52に接着することができる。このため、施工時の作業者の負担を低減させることが可能となる。
【0089】
(第6実施形態:補強構造100)
次に、第6実施形態における補強構造100の一例について説明する。図15(a)、15(b)、16(a)、及び図16(b)に示すように、本実施形態では、補強部材1は、貼り付け部23とフランジ51との間に連続繊維材8と接着層4、6とを更に備え、連続繊維材8は、垂直補剛材54を挟んで両側に離間して一対設けられる。連続繊維材8は、フランジ51を補強するものであり、主としてフランジ51と垂直補剛材54との接合箇所とならない部分を補強する。
【0090】
<連続繊維材8>
連続繊維材8は、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、アラミド繊維等の連続繊維シート(例えば、トウシート(登録商標))や予め樹脂を含侵、硬化させた複数のFRPストランドをすだれ状に加工したシート(例えば、ストランドシート(登録商標))が用いられる。連続繊維材8は、炭素繊維等の繊維シートが例えば複数積層され、複数の層が互いに接着されてなるものであり、前記トウシートや前記ストランドシートに施工現場で樹脂を含侵、硬化させて形成されてもよいし、予めプレート状に成形したものを接着してもよい。連続繊維材8は、繊維配向が所定の一方向に配向された一方向繊維シートが複数積層されて構成され、積層されるすべての一方向繊維シートの繊維配向が連続繊維材8の長手方向に配向されてもよい。
【0091】
連続繊維材8は、垂直補剛材54を挟んで両側に離間してそれぞれ設けられる。連続繊維材8は、FRP板材2の貼り付け部23に接着層6を介して貼り付けられ、フランジ51に接着層4を介して貼り付けられる。
【0092】
<接着層4>
接着層4は、フランジ51の下面51bと連続繊維材8とを互い接着し、フランジ51の下面51bと連続繊維材8との間に設けられる。接着層4は、高伸度弾性樹脂層を含むことが望ましく、例えば図16に示すように、ポリウレア樹脂層41と、エポキシ樹脂層42と、を含む。ポリウレア樹脂層41は、フランジ51に接触され、エポキシ樹脂層42は、連続繊維材8に接触される。これにより、フランジ51の降伏後、早期にポリウレア樹脂層41が剥離するのを抑制することができる。
【0093】
なお、図示は省略するが、ポリウレア樹脂層41は、連続繊維材8に接着され、エポキシ樹脂層42は、フランジ51に接着されてもよい。これにより、連続繊維材8側でポリウレア樹脂層41を接着する作業と、フランジ51側で他の樹脂層を施工する作業と、を同時に行うことができる。
【0094】
接着層4は、フランジ51の下面51bと連続繊維材8とを互い接着できる周知の樹脂材料が用いられる。接着層4として、例えばエポキシ樹脂層42の代わりとしてアクリル樹脂、ポリウレア樹脂層41の代わりとしてウレアウレタン樹脂等の高伸度弾性樹脂を用いることもできる。高伸度弾性樹脂とは引張弾性率が50~100N/mm2かつ、引張最大荷重時伸びが300%以上の樹脂である。なお、高伸度弾性樹脂の引張最大荷重伸びは好ましくは300%~1200%であり、より好ましくは300%~700%であり、更に好ましくは300%~500%である。
【0095】
接着層4は、連続繊維材8に予め形成されていることが好ましいが、施工現場にて連続繊維材8に形成してもよいし、フランジ51の下面51bに形成してもよい。
【0096】
<接着層6>
接着層6は、連続繊維材8とFRP板材2とを互い接着し、貼り付け部23と連続繊維材8との間に設けられる。接着層6は、連続繊維材8とFRP板材2を強固に接着できるものであれば特に制限はなく、エポキシ系接着剤やアクリル系接着剤、ウレタン系接着剤などの任意の接着剤が使用できるが、好ましくはエポキシ系接着剤である。
【0097】
特に、本実施形態によれば、補強部材1は、貼り付け部23とフランジ51との間に連続繊維材8を更に備え、連続繊維材8は、垂直補剛材54を挟んで両側の互いに離間して一対設けられる。これにより、フランジ51と垂直補剛材54との接合箇所とならない部分を連続繊維材8により補強しつつ、FRP板材2により一方の貼り付け部23からバイパス部24を介して他方の貼り付け部23へと応力伝達が行われる。このため、I型断面鋼材5におけるフランジ51と垂直補剛材54との接合箇所と接合箇所以外の箇所とにおいて、正曲げと負曲げの両方に対する曲げ補強効果を発揮させることが可能となる。
【0098】
(第7実施形態:補強構造100)
次に、第7実施形態における補強構造100の一例について説明する。図17(a)及び図17(b)に示すように、補強構造100は、第1鋼材としての1つの鋼板71と、1つの鋼板71に溶接により接合される第2鋼材としての面外ガセット72と、を有する鋼部材7を補強するものである。面外ガセット72は、鋼板71に対して略垂直に配置される。
【0099】
本実施形態によれば、補強部材1は、鋼板71に貼り付けられるFRP板材2を有する。これにより、鋼部材を当て板にて補強する際に、金属板からなるウェブバイパス部材をボルトや溶接により接合する場合よりも、大幅に軽量化できる。このため、補強後の死荷重の増加を抑制できる。
【0100】
本実施形態によれば、補強部材1は、一方向繊維シート29が複数積層されるFRP板材2を有し、FRP板材2は、面外ガセット72を挟んで両側に形成されるとともに鋼板71に貼り付けられる一対の貼り付け部23と、面外ガセット72を迂回して一対の貼り付け部23を繋ぐためのバイパス部24と、が形成され、FRP板材2における繊維配向は、一方の貼り付け部23aから他方の貼り付け部23bに向かう主方向と、主方向と異なる少なくとも2つの方向と、を有する。これにより、鋼部材7の鋼板71に荷重が作用したとき、一方の貼り付け部23aからバイパス部24を介して他方の貼り付け部23bへと応力伝達を円滑に行うことができる。このように、補強部材1が応力を受け持つことにより鋼板71の応力を低減させることができる。このため、鋼部材7における鋼板71と面外ガセット72との接合箇所において、正曲げと負曲げの両方に対する曲げ補強効果を発揮させることが可能となる。
【0101】
また、本実施形態によれば、FRP板材2の貼り付け部23を鋼板71に貼り付ける。これにより、補強部材1による鋼部材の補強を容易に行うことが可能となる。
【0102】
なお、図10では貼り付け部23は、鋼板71の全幅の一部を覆う程度の大きさとなっているが、鋼板71の全幅を覆うような大きさであってもよい。
【0103】
(第8実施形態:補強構造100)
次に、第8実施形態における補強構造100の一例について説明する。図18(a)及び図18(b)に示すように、補強構造100は、第1鋼材としての2つの鋼板71と、鋼板71にボルト74により接合される第2鋼材としての添接板73と、を有する鋼部材7を補強するものである。添接板73は、2つの鋼板71同士を連結する。
【0104】
本実施形態によれば、補強部材1は、鋼板71に貼り付けられるFRP板材2を有する。これにより、鋼部材を当て板にて補強する際に、金属板からなるウェブバイパス部材をボルトや溶接により接合する場合よりも、大幅に軽量化できる。このため、補強後の死荷重の増加を抑制できる。
【0105】
本実施形態によれば、補強部材1は、一方向繊維シート29が複数積層されるFRP板材2を有し、FRP板材2は、添接板73を挟んで両側に形成されるとともに鋼板71に貼り付けられる一対の貼り付け部23と、添接板73を迂回して一対の貼り付け部23を繋ぐためのバイパス部24と、が形成され、FRP板材2における繊維配向は、一方の貼り付け部23aから他方の貼り付け部23bに向かう主方向と、主方向と異なる少なくとも2つの方向と、を有する。これにより、鋼部材7の鋼板71に荷重が作用したとき、一方の貼り付け部23aからバイパス部24を介して他方の貼り付け部23bへと応力の伝達を円滑に行うことができる。このように、補強部材1が応力を受け持つことにより鋼板71の応力を低減させることができる。このため、鋼部材7における鋼板71と添接板73との接合箇所において、正曲げと負曲げの両方に対する曲げ補強効果を発揮させることが可能となる。
【0106】
また、本実施形態によれば、FRP板材2の貼り付け部23を鋼板71に貼り付ける。これにより、補強部材1の施工を容易に行うことが可能となる。
【0107】
なお、図18ではFRP板材の貼り付け部23は鋼板71の全幅の一部を覆う程度の大きさとなっているが、鋼板71の全幅を覆うような大きさであってもよい。加えて、FRP板材2は鋼板71の裏面(図18の添接板73と鋼板71を挟んだ反対面)に貼り付けられていてもよい。
【0108】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【実施例0109】
実施例1では、作製した供試体に曲げ試験を行い、曲げ補強効果を検討した。
【0110】
<供試体>
図19は、実施例1の供試体を示す側面図である。図20は、実施例1の供試体を示す断面図である。実施例1では、曲げモード及び上下のフランジの補強の有無をパラメータとして、比較例1、本発明例1及び本発明例2の供試体を作製した。供試体は、全長6,300mm、腹板高さ1,000mmのI型断面鋼材とした。また、供試体には、垂直補剛材と、水平補剛材と、を設置した。供試体は、中央のプレートガーダーの上下のフランジの幅を150mmとし、板厚を6mmとした。供試体は、両端のプレートガーダーの上下のフランジの幅を200mmとし、板厚を12mmとした。これにより、中央のプレートガーダーにおいて破壊を先行させた。本試験では両端のプレートガーダーはすべて同じものを使用し、中央のプレートガーダーのみ交換しながら試験を行った。
【0111】
表1に、供試体の概要を示す。本発明例1の供試体では、上フランジに接着層を介して補強部材を接着した。補強部材は、切欠き部が形成されたCFRP成型板と、切欠き部によりCFRP成型板の寸法が縮小した縮小部に跨がるように貼り付けた炭素繊維ストランドシートと、を有する。CFRP成型板は、炭素繊維シートと、エポキシ系樹脂とからハンドレイアップ成型法により作製した。また、本発明例2の供試体では、下フランジの下面に、更に炭素繊維シートを接着した。比較例1では、補強部材による補強を行っていない。
【0112】
【表1】
【0113】
表2に、繊維シートの概要を示す。表2の炭素繊維シートは、CFRP成型板の作製に用いられるほか、本発明例2の下フランジの下面に接着される。表2の炭素繊維ストランドシートは、本発明例1及び本発明例2で用いる補強部材の縮小部に貼り付けられる。
【0114】
【表2】
【0115】
表3に供試体に用いた樹脂の概要を示す。エポキシ系樹脂は、CFRP成型板の作製に用いられる。ポリウレアパテとエポキシパテとは、フランジとCFRP成型板との接着に用いられる。炭素繊維ストランドシートとCFRP成型板との接着は、「炭素繊維シートによる鋼構造物の補修・補強工法 設計・施工マニュアル」(株式会社高速道路総合技術研究所、2013)に基づき、行った。
【0116】
【表3】
【0117】
表4にCFRP成型板の概要を示す。表4の弾性率は、JIS K 7165で規定される引張試験による実測値である。
【0118】
【表4】
【0119】
図21は、実施例1の供試体における補強部材を示す平面図である。CFRP成型板の形状は作製の簡便さを考慮し平板型とし、供試体中央の垂直補剛材をかわすための切欠きを入れた。切欠きの大きさは供試体中央の垂直補剛材をかわせる大きさとし、切欠きの角部は円弧状とした。CFRP成型板の全幅は100mmとし、長さは供試体の板厚変化点(外側)から定着長200mmを確保できる長さである1,600mmとした。切欠き部分には切欠きの断面欠損分を補強するため、CFRP成型板の上面に30mm幅の炭素繊維ストランドシートをエポキシ樹脂を用いて接着した。炭素繊維ストランドシート接着長は最外層が切欠き両端部から200mmとし、ずらし量を各層両端25mmずつとした。
【0120】
CFRP成型板の繊維配向は切欠き部分においても応力伝達するように軸方向に対し-45/0/45°方向に1/2/1層の比率とし、積層数は上下フランジを補強した際に供試体中央部の曲げ剛性が25%増加するように決定し、積層数は[0°/±45°/0°] 4の計16層とした。積層順は板厚方向に対称となるように積層した。また、切欠き部の炭素繊維ストランドシートの層数は炭素繊維ストランドシートの断面剛性が欠損断面の断面剛性と等しくなるように決定し、7層とした。炭素繊維ストランドシートはエポキシパテを用いてCFRP成型板に接着した。
【0121】
上フランジへのCFRP成型板の接着には、従来の方法では鋼材側にポリウレアパテ層を設けるが、本試験ではCFRP成型板側にポリウレアパテ層を設けた。このようにすることでCFRP成型板側と鋼材側を同時に作業できるため施工の省力化につながる。接着手順は、鋼材とCFRP成型板ともに接着範囲のケレンを行い、鋼材にはエポキシプライマー、CFRP成型板にはウレタンプライマーを塗布した後にポリウレアパテを塗布した。エポキシプライマーおよびポリウレアパテの乾燥後エポキシパテを用いて上フランジ下面に接着した。下フランジ補強の炭素繊維シート接着の手順は、「炭素繊維シートによる鋼構造物の補修・補強工法 設計・施工マニュアル」(株式会社高速道路総合技術研究所、2013)に基づき、行った。
【0122】
<試験概要>
試験は支間長6,000mm、等曲げ区間2,500mm、せん断区間1,750mmの4点曲げ試験とした。載荷は変位制御による単調載荷とし、荷重が増加しなくなるまで載荷した。
【0123】
また、曲げ試験に際し、上フランジのひずみをひずみゲージにより計測した。ひずみゲージは、供試体のフランジの上面に、供試体の材軸方向の中央、供試体の中央から±100mm、±300mm、±500mmの計7箇所に、材軸直交方向で3枚ずつ、合わせて21枚設置した。ひずみは、座屈や剥離が発生する以前の200kN時における各供試体の上フランジのひずみを計測した。
【0124】
<試験結果:破壊状況>
表5に各試験の最大荷重、最大荷重時変位および破壊状況を示す。
【0125】
【表5】
【0126】
正曲げ試験については、本発明例1は558kN時、本発明例2は555kN時にCFRP成型板が圧縮破壊を起こした。このため、本発明例1においては比較例1と、同程度の最大荷重となったが、下フランジに炭素繊維シートを接着補強した本発明例2は下フランジの炭素繊維シートは終局時も剥離、破断等の損傷は確認されなかったこともあり、比較例1より最大荷重が向上した。
【0127】
負曲げ試験については、本発明例1は575kN時、本発明例2は675kN時にCFRP成型板が鋼材-エポキシ樹脂間から切欠きの入った端部より剥離し、荷重を増加させると切欠きの無い側のCFRP成型板もその後剥離した。また、本発明例2は、終局時に下フランジの炭素繊維シートも圧縮破壊していた。このため、本試験では、本発明例1、本発明例2の最大荷重はいずれも比較例1と同様の結果であった。本試験では施工の省力化のためポリウレアパテの位置をCFRP成型板側に配置した。しかし、鋼材の降伏以前に鋼材-エポキシ樹脂間で脆性的に剥離し、ポリウレアパテの剥離抑制効果を発揮されなかった可能性がある。
【0128】
<試験結果:上フランジのひずみ>
図22(a)は、正曲げ試験における比較例1、本発明例1及び本発明例2のひずみ分布を示す図であり、図22(b)は、負曲げ試験における比較例1、本発明例1及び本発明例2のひずみ分布を示す図である。図22は、横軸を供試体中央からの距離とし、縦軸をひずみとした。図22は、供試体に座屈、剥離等が発生する以前である200kN時における各供試体の上フランジひずみ分布を示す。
なお、図22に示すひずみ分布図の値は、材軸直角方向に並ぶ3枚のひずみゲージから読み取れるひずみの平均値である。また、図22に示す「比較例1(計算値)」、「本発明例1(計算値)」、「本発明例2(計算値)」、は、各供試体における計算値であり、梁理論に従い算出した。炭素繊維シートによる鋼構造物の補修・補強工法 設計・施工マニュアル」(株式会社高速道路総合技術研究所、2013)では、ポリウレアパテを接着に用いた場合は、ポリウレアパテによる影響で完全合成断面とならないため、炭素繊維の断面積に応力低減係数を乗じて設計を行うと示されている。この応力低減係数は、炭素繊維シートの積層数、接着長さ、端部処理方法等によって決定される値であるが、本試験で用いたCFRP成型板による補強における応力低減係数は未検討であるため、応力低減係数を考慮せずに完全合成断面としているほか、垂直補剛材および水平補剛材は考慮せず、炭素繊維補強材への応力伝達区間(炭素繊維補強材の両端200mm)を考慮し、中央の1,200mm区間のみを補強断面とし、その他の区間を無補強断面として算出した値であり、炭素繊維ストランドシートおよび切欠きがない断面での計算結果である。
【0129】
正曲げ試験では、各供試体、供試体中央で大きく圧縮ひずみ生じる分布であった。また、比較例1と比較すると、本発明例1、本発明例2ともに測定したすべての点で応力低減されていることが確認でき、各供試体上フランジの全ひずみゲージ21個のひずみを平均し、比較例1と比較すると、本発明例1で13%、本発明例2で25%応力低減された。本発明例1および本発明例2のひずみ分布から、中央から±100mmの点でひずみが小さく、中央では±100mmの点のひずみより大きいひずみであった。これは中央から±100mmのあたりはCFRP成型板に切欠きがなくかつ炭素繊維ストランドシートがある部分であり、ほかの点より補強材の断面積が大きく断面剛性が大きいので補強効果が大きく上フランジのひずみが小さいと考えられ、供試体中央では切欠きがあるためひずみが±100mmの点のひずみより大きく生じたと考えられる。計算値と比較すると供試体中央における上フランジのひずみのほうが大きいが、これは計算値が補強断面を完全合成断面と仮定した場合の計算値であるため、ポリウレア樹脂による応力低減係数を考慮した計算を行うことで計算値と一致すると考えられる。
【0130】
負曲げ試験においても正曲げ試験と同様に、供試体中央の上フランジ引張ひずみが大きく生じる分布であり、比較例1と比較すると測定したすべての点で応力低減されていることが確認され、各供試体上フランジの全ひずみゲージ21個のひずみを平均し、比較例1と比較すると、本発明例1で15%、本発明例2で18%応力低減された。負曲げ試験では、本発明例1及び本発明例2のひずみ分布も正曲げ試験と同様に、中央から±100mmの点でひずみが小さく、中央では±100mmの点のひずみより大きいひずみであった。計算値と比較した場合も正曲げ試験結果と同様にポリウレア樹脂による応力低減係数を考慮した計算を行うことで計算値と一致すると考えられる。
【0131】
以上の曲げ試験の結果及び解析から、切欠きのあるCFRP成型板で上フランジを補強した場合においても、切欠き部分で欠損断面補強用の炭素繊維ストランドシートまで応力伝達が行われCFRP成型板が応力を受け持つことにより鋼材の応力低減が確認された。なお、供試体の最大荷重を向上させるには、CFRP成型板が圧縮破壊しないように、本試験に用いた炭素繊維シートより強度の高い炭素繊維シートで作製したCFRP成型板で補強すればよい。
【実施例0132】
実施例1のI型鋼材の負曲げ試験において、CFRP成型板が鋼材降伏以前に剥離することが確認された。この時の剥離面は鋼材-エポキシ樹脂間であり、樹脂層の順番が付着に影響を及ぼす可能性が示唆された。そこで、実施例2では、接着樹脂層内のポリウレア樹脂の位置による影響を確認するための付着試験を行った。
【0133】
図23(a)は、実施例2におけるCASE1(本発明例3:本発明例1および本発明例2でのCFRP成形板の接着樹脂層)の供試体を示す図であり、図23(b)は、実施例2におけるCASE2(本発明例4)の供試体を示す図であり、図23(c)は、実施例2におけるCASE3(本発明例5)の供試体を示す図である。本試験ではポリウレア樹脂の有無およびポリウレア樹脂層の位置をパラメータとして各供試体3体ずつ供試体を作製した。本試験は鋼板幅50mm、板厚12mmであり、曲げ供試体の中央のプレートガーダーと同様に鋼板はSS400とし、鋼板中央の両面に幅50mm、長さ400mmのCFRP成型板を接着し、両端引張試験を行った。
【0134】
図24(a)は、CASE1-1、CASE2-1~CASE2-3及びCASE3-1のひずみゲージの位置を示す図であり、図24(b)は、CASE1-2、CASE1-3、CASE3-2及びCASE3-3のひずみゲージの位置を示す図である。CASE1-1、CASE2-1~CASE2-3、CASE3-1は、図24(a)に示す位置にひずみゲージを、供試体の両面に貼り付けた。更に、CASE1-1、CASE2-1~CASE2-3、CASE3-1は、供試体の材軸方向の中央から一端に向けて、供試体の側面に20mm間隔でひずみゲージを貼り付けた。また、CASE1-2、CASE1-3、CASE3-2、CASE3-3は、図24(b)に示す位置にひずみゲージを、供試体の両面に貼り付けた。接着層、CFRP成型板の材料特性および施工手順は曲げ試験と同様である。試験は万能試験機を用い、変位制御で載荷した。
【0135】
表6に試験結果を示す。なお、表6中の「比」は、本発明例5(CASE3)の最大荷重の平均値に対する本発明例3及び本発明例4(CASE1及びCASE2)の最大荷重の平均値の比を示す。
【0136】
すべての供試体で母材鋼板の降伏までは剥離せず母材降伏後に終局した。破壊個所は本発明例4(CASE2)ではポリウレア樹脂層が破壊する凝集破壊であり、本発明例3(CASE1)、本発明例5(CASE3)では鋼材-エポキシ樹脂間剥離となった。最大荷重はポリウレア層を持たない本発明例5と比較し、本発明例3では8%、本発明例4では36%上昇する結果であり、破壊状況および最大荷重からポリウレア樹脂を有し、前記ポリウレア層が鋼材側にあるほうがCFRP成型板の付着性能がより高くなることが確認された。
【0137】
【表6】
【0138】
図25は、実施例2における荷重とひずみの関係を示す図である。図25中に示すひずみは両面のCFRP成型板の平均値であり、図中の点線は完全合成断面とした計算値である。
【0139】
図25より本発明例5は線形にひずみが増加し母材降伏時にCFRPのひずみは約1,000×10-6であり、計算値と概ね等しい挙動であった。
一方、本発明例3、4は、母材鋼材降伏までは同様の挙動を示したが、本発明例3では母材降伏後の早期に鋼材-エポキシ樹脂間で剥離したのに対し、本発明例4は母材降伏後も剥離は起こさずに荷重およびひずみが増加し、約1,000×10-6で終局した。また、本発明例3及び本発明例4の鋼材降伏時のひずみは約400×10-6であり、本実施例5と比較すると約0.4倍まで低減するとなったが、これはポリウレア樹脂によるせん断遅れによる効果であると考えられる。
【0140】
図26は、実施例2における供試体中央からの距離とひずみの関係を示す図である。図26は、各供試体の母材降伏前である150kN時のCFRP成型板ひずみ分布を示す。図26中の点線は完全合成断面として算出した計算値である。
本発明例5は供試体中央から130mmあたりまでのひずみは約900×10-6であり、130mm以降はひずみが急激に低下する分布であった。本発明例3及び本発明例4では供試体中央のひずみが約400×10-6であり、供試体中央から端部までなだらかにひずみが減少する分布であった。
【0141】
以上から、接着樹脂層の構成によらず母材の降伏までは、CFRP成型板の剥離が生じずCFRP成型材が応力を負担しているため、本発明例3~5で補強効果はいずれも発揮されたが、本発明例3及び本発明例4はポリウレア樹脂によるせん断遅れ効果が発揮され、特に本発明例4のように接着層でポリウレア層を鋼材側に配置することによって母材降伏後もCFRP成型板が早期に剥離せず、より高い補強効果を期待することができる。
【実施例0142】
実施例3では、実施例1と同様に、作製した供試体に曲げ試験を行い、曲げ補強効果を検討した。
【0143】
実施例1では、正曲げ試験において、CFRP成型板が圧縮破壊した。そこで、実施例3では、CFRP成型板の引張強度を実施例1で用いたCFRP成型板の引張強度よりも高いものを用いた。また、実施例3では、接着層のポリウレア層を鋼材側に配置した。以下、実施例3の説明にあたり、実施例1と異なる点を主に説明し、実施例1と同じ点については適宜説明を省略する。
【0144】
<供試体>
図27は、実施例3の供試体を示す断面図である。実施例3では、曲げモード及び上下のフランジの補強の有無をパラメータとして、比較例2、本発明例6の供試体を作製し、実施例1と同様に正曲げと負曲げの4点曲げ試験を行った。
【0145】
表7に、供試体の概要を示す。本発明例6の供試体では、上フランジに接着層を介して補強部材を接着した。補強部材は、切欠き部が形成されたCFRP成型板と、切欠き部によりCFRP成型板の寸法が縮小した縮小部に跨がるように貼り付けた炭素繊維ストランドシートと、を有する。また、下フランジの下面に、炭素繊維シートを接着した。比較例2では、補強部材による補強を行っていない。
【0146】
【表7】
【0147】
表8に、繊維シートの概要を示す。表8の炭素繊維シートは、CFRP成型板の作製に用いられるほか、本発明例6の下フランジの下面に接着される。表8の炭素繊維ストランドシートは、本発明例6で用いる補強部材の縮小部に貼り付けられる。
【0148】
【表8】
【0149】
供試体に用いた樹脂は、表3と同じである。
【0150】
表9にCFRP成型板の概要を示す。表9の弾性率は、JIS K 7165で規定される引張試験による実測値である。
【0151】
【表9】
【0152】
図28は、実施例3の供試体における補強部材を示す平面図である。CFRP成型板の形状は作製の簡便さを考慮し平板型とし、供試体中央の垂直補剛材をかわすための切欠きを入れた。切欠きの大きさは供試体中央の垂直補剛材をかわせる大きさとし、切欠きの角部は円弧状とした。CFRP成型板の全幅は100mmとし、長さは供試体の板厚変化点(外側)から定着長200mmを確保できる長さである1,600mmとした。切欠き部分には切欠きの断面欠損分を補強するため、CFRP成型板の上面に30mm幅の炭素繊維ストランドシートをエポキシ樹脂を用いて接着した。炭素繊維ストランドシート接着長は最外層が切欠き両端部から200mmとし、ずらし量を各層両端25mmずつとした。
【0153】
CFRP成型板の繊維配向は切欠き部分においても応力伝達するように軸方向に対し-45/0/45°方向に1/2/1層の比率とし、積層数は上下フランジを補強した際に供試体中央部の曲げ剛性が25%増加するように決定し、積層数は[0°/±45°/0°] 6の計24層とした。積層順は板厚方向に対称となるように積層した。また、切欠き部の炭素繊維ストランドシートの層数は炭素繊維ストランドシートの断面剛性が欠損断面の断面剛性と等しくなるように決定し、10層とした。炭素繊維ストランドシートはエポキシパテを用いてCFRP成型板に接着した。
【0154】
図29(a)に示すように、フランジにCFRP成型板を接着する際には、鋼材(フランジ)側にポリウレアパテ層を設けた。ポリウレアパテの硬化後、エポキシパテを用いてCFRP成型板を上フランジ下面に接着した。図29(b)に示すように、フランジに炭素繊維シート接着の手順は、「炭素繊維シートによる鋼構造物の補修・補強工法 設計・施工マニュアル」(株式会社高速道路総合技術研究所、2013)に基づき、行った。
【0155】
<試験概要>
試験は支間長6,000mm、等曲げ区間2,500mm、せん断区間1,750mmの4点曲げ試験とした。載荷は変位制御による単調載荷とし、荷重が増加しなくなるまで載荷した。
【0156】
また、曲げ試験に際し、上フランジのひずみをひずみゲージにより計測した。ひずみゲージは、供試体のフランジの上面に、供試体の材軸方向の中央、供試体の中央から±100mm、±300mm、±500mmの計7箇所に、材軸直交方向で3枚ずつ、合わせて21枚設置した。ひずみは、座屈や剥離が発生する以前の200kN時における各供試体の上フランジのひずみを計測した。
【0157】
<試験結果:破壊状況>
表10に各試験の最大荷重、CFRP成型板が剥離したときの荷重(以下、剥離荷重ともいう)および破壊状況を示す。
【0158】
【表10】
【0159】
最大荷重については、比較例2では889kNであったのに対し、本発明例6では正曲げで944kN、負曲げでは1045kNとなり、実施例3においても、補強部材で補強した本発明例6の最大荷重は、無補強の比較例2の最大荷重を上回った。
【0160】
また、破壊状況については、本発明例6は正曲げ試験で944kN時、負曲げ試験では830kN時に、CFRP成型板の剥離が生じた。表5を参照し、実施例1の本発明例2の正曲げ試験では555kN時に圧縮破壊を起こし、実施例1の本発明例2の負曲げ試験では675kN時にCFRP成型板の剥離が生じた。
【0161】
以上から、本発明例6と本発明例2を比較すると、本発明例6の正曲げ試験の剥離荷重(944kN)は、本発明例2の正曲げ試験の破壊荷重(555kN)より70%向上し、本発明例6の負曲げ試験の剥離荷重(830kN)は、本発明例2の負曲げ試験の剥離荷重(675kN)より23%向上した。
【0162】
本発明例6で用いた炭素繊維シートの引張強度は、3925(N/mm2)であり、実施例1で用いた炭素繊維シートの引張強度(2848(N/mm2))より高い。その結果、CFRP成型板及びフランジ補強の炭素繊維シートともに最大荷重時においても炭素繊維の圧縮破壊が生じなかった。
【0163】
剥離荷重については、CFRP成型板と鋼材との接着の際に、鋼材側にポリウレアパテを配置したため、本発明例6における剥離荷重は、本発明例2の破壊荷重や剥離荷重よりも大きくなったと考えられる。
【0164】
本発明例6のCFRP成型板の剥離モードは、CFRP成型板端部からの剥離となり、破壊面はCFRP成型板-エポキシ樹脂間での剥離であった。
【0165】
図30は、荷重と支間中央鉛直変位との関係を示す図である。本発明例6は、正曲げ試験では最大荷重時まで剥離等の変状は生じず、無補強より高い剛性を保ったまま最大荷重に達し、剥離により終局となった。また、負曲げ試験では830kN時に垂直補剛材側のCFRP成型板が剥離により剛性が低下、さらに1,000kN時に反対側のCFRP成型板が剥離し剛性が低下する挙動を示した。
【0166】
図31は、各供試体の上フランジ鋼材のひずみ分布を示す。なお、図31に示す、例えば「本発明例6_cal」等の添え字「_cal」は、完全合成断面として算出した計算値である。本発明例6は、比較例2と比較して、正曲げ試験においては約19%上フランジ鋼材の応力が低減された。また、負曲げ試験においては約30%上フランジ鋼材の応力が低減されたことが確認された。
【0167】
以上の曲げ試験の結果及び解析から、炭素繊維シートの引張強度、すなわちこれを積層したCFRP成型板の引張強度をより高いものを用いることで、終局時においても炭素繊維シートの圧縮破壊が生じなかった。炭素繊維シートの引張強度については、本発明例6においては、3,925(N/mm2)であり、本発明例2では2,848(N/mm2)であったことから、炭素繊維シートの引張強度として2,900(N/mm2)以上のものを用いることが好ましい。
【実施例0168】
実施例4では、作製した供試体に曲げ試験を行い、曲げ補強効果を検討した。
【0169】
<供試体>
図32は、実施例4の供試体を示す断面図である。図33は、本発明例7における補強部材を示す平面図である。実施例4では、曲げモード及び上下のフランジの補強の有無をパラメータとして、比較例3及び本発明例7の供試体を作製した。供試体は、全長6,300mm、腹板高さ1,000mmのI型断面鋼材とした。また、供試体には、垂直補剛材と、水平補剛材と、を設置した。供試体は、中央のプレートガーダーの上下のフランジの幅を150mmとし、板厚を6mmとした。供試体は、両端のプレートガーダーの上下のフランジの幅を200mmとし、板厚を12mmとした。これにより、中央のプレートガーダーにおいて破壊を先行させた。本試験では両端のプレートガーダーはすべて同じものを使用し、中央のプレートガーダーのみ交換しながら試験を行った。
【0170】
表11に、供試体の概要を示す。本発明例7の供試体では、フランジに補強部材を貼り付けた。本発明例7では、正曲げ試験と負曲げ試験と、を行う。正曲げ試験を行う供試体は上フランジに補強部材を貼り付け、下フランジに炭素繊維シートを貼り付けた。負曲げ試験を行う供試体は下フランジに補強部材を貼り付け、上フランジに炭素繊維シートを貼り付けた。補強部材は、フランジに一方向CFRP成型板を貼り付け、この一方向CFRP成型板に垂直補剛材を迂回するようにCFRP成型板(以下、バイパス部材という)を貼り付けた。一方向CFRP成型板とバイパス部材とは、炭素繊維シートと、エポキシ系樹脂とからハンドレイアップ成型法により作製した。比較例3では、補強部材による補強を行っていない。
【0171】
【表11】
【0172】
表12に、炭素繊維シートの概要を示す。表2の炭素繊維シートは、中弾性型炭素繊維シートを用いた。炭素繊維シートは、一方向CFRP成型板、バイパス部材の作製に用いられるほか、補強部材が設けられるフランジとは反対側のフランジに接着される。
【0173】
【表12】
【0174】
表13に供試体に用いた樹脂の概要を示す。本試験で用いた炭素繊維シート、一方向CFRP成型板及びバイパス部材の接着に用いる樹脂は、「炭素繊維シートによる鋼構造物の補修・補強工法 設計・施工マニュアル」(株式会社高速道路総合技術研究所発行、2020年)に記載されている材料である。一方向CFRP成型板のマトリックス樹脂と、バイパス部材のマトリックス樹脂と、にはエポキシ系樹脂を用いた。フランジと一方向CFRP成型板との接着は高伸度弾性パテ(ポリウレア樹脂)およびエポキシ樹脂を使用した。一方向CFRP成型板とバイパス部材との接着は、エポキシ樹脂を使用した。試験に用いた鋼桁供試体の試験パネル部分の鋼材はSS400であり、降伏強度は293N/mm2(試験値)であった。
【0175】
【表13】
【0176】
表14に一方向CFRP成型板とバイパス部材との概要を示す。一方向CFRP成型板の繊維配向は、軸方向に対し0°とし、炭素繊維シートを20層積層した。バイパス部材の繊維配向は幅方向へ応力伝達するように軸方向に対し-45/0/45°方向に1/2/1層の比率とし、炭素繊維シートを10層積層した。表14中のCFRP成型板の厚さ(板厚)は測定値である。板厚と表12、表13に示す値から複合則・積層理論に基づき、繊維体積含有率Vfおよび軸方向弾性率を算出した。一方向CFRP成型板の積層数は上下フランジを補強した際に鋼桁供試体中央部の曲げ剛性が25%増加するように決定した。また、バイパス部材の積層数は中央の最も断面積が小さい部分での引張剛性が一方向CFRP成型板の引張剛性と同様となるように決定した。また、バイバス部材の形状はFEM解析を用いて検討した。以下に検討内容を示す。
【0177】
【表14】
【0178】
<FEM解析によるバイパス部材の形状の検討>
図34(a)は、FEM解析モデルの全体図を示し、図34(b)は、FEM解析モデルの断面図を示し、図34(c)は、FEM解析モデルにおけるバイパス部材の形状を示す。解析モデルはフランジ部分のみをモデル化し、ソリッド要素でモデル化した。各材料はすべて線形材料とし、接着樹脂の弾性係数は表3の値を用いた。表15に解析に用いたCFRP成型板の材料特性値を示す。各値は繊維体積含有率Vf=0.5として、炭素繊維シート(弾性係数Ef=390,000N/mm2、ポアソン比νf=0.3)およびマトリックス樹脂(弾性係数Em=2860N/mm2、ポアソン比νm=0.4)の物性値から算出した。拘束条件は端部をローラー支持とし、一軸引張荷重を与えた。解析パラメータは図34(c)に示すように、バイパス部材の幅方向伝達区間の長さ(CASE4:150mm、CASE5:300mm、CASE6:600mm)とした。また、バイパス区間の長さは、30mmとした。
【0179】
【表15】
【0180】
<FEM解析結果>
図35は、FEM解析モデルにおける鋼板下面中央における軸方向応力比分布図を示す。理論値はCFRP成型板と鋼板の引張剛性比から算出した。CASE4~6では、バイパス部材の端部および中央(端部から800mm)で鋼材の応力が大きくなる傾向であった。CASE4~6を比較すると伝達区間が長いほど中央の鋼材応力が小さくなる傾向を示した。伝達区間600mmの場合は中央の鋼材応力は概ね理論値通りであるが、伝達区間においては鋼材の応力が理論値を下回っており、過補強となる区間が多く、経済性に欠ける。また、実橋鋼桁の垂直補剛材間隔は1m程度であることが多く、伝達区間600mmの場合は隣り合うバイパス部材同士が干渉し、適用できない。伝達区間300mmの場合は中央の鋼材応力は理論値より約7%大きいが、本モデルにおいて、端部から中央までの全区間おいて、概ね理論値に近い。そのため、経済性および現場での適用性を考慮し、本試験においては伝達区間300mmのバイパス部材を採用した。
【0181】
<試験概要>
試験は支間長6,000mm、等曲げ区間2,500mm、せん断区間1,750mmの4点曲げ試験とした。載荷は変位制御による単調載荷とし、荷重が増加しなくなるまで載荷した。
【0182】
また、曲げ試験に際し、上フランジのひずみをひずみゲージにより計測した。図36は、ひずみゲージの位置図を示す。ひずみゲージは、供試体のフランジの上面に、供試体の材軸方向の中央、供試体の中央から±100mm、±300mm、±500mmの計7箇所に、材軸直交方向で3枚ずつ、合わせて21枚設置した。ひずみは、座屈や剥離が発生する以前の200kN時における各供試体の上フランジのひずみを計測した。
【0183】
<曲げ試験結果:試験結果および破壊状況>
表16に試験結果一覧を示す。破壊状況は本発明例7の正曲げ試験の供試体と本発明例7の負曲げ試験の供試体ともに、一方向CFRP成型板-バイパス部材間のはく離が先行する結果であり、正曲げ試験の供試体では661kN、正曲げ試験の供試体では850kNでバイパス部材がはく離した。
【0184】
【表16】
【0185】
<曲げ試験結果:荷重-支間中央鉛直たわみ関係>
図37は、実施例4における荷重-支間中央鉛直たわみ関係を示す。計算値は鋼材の弾性係数を200,000N/mm2とし、垂直補剛材および水平補剛材は無視して、梁理論に従い算出した。図37より本発明例7の正曲げ試験の供試体は、比較例3の降伏荷重(計算値)である798kN以前の661kNでバイパス部材のはく離により、剛性が低下する挙動を示した。本試験で用いたバイパス部材は端部のテーパー処理等を施していないため、バイパス部材の接着端部の急な断面変化により剛性が変化する。そのため、接着端部に応力集中が生じ、母材鋼桁の降伏以前にはく離が生じたと考えられる。
【0186】
本発明例7の負曲げ試験の供試体は889kN時にバイパス部材のはく離により剛性が低下した。本発明例7の正曲げ試験の供試体と比較すると、はく離荷重が約29%大きくなった。
【0187】
<曲げ試験結果:上フランジの応力低減効果>
図38は、供試体の座屈、はく離等が発生する以前である200kN時における、各供試体の上フランジ鋼材のひずみ分布を示す。図38に示すように、本発明例7の正曲げ試験の供試体、本発明例7の負曲げ試験の供試体ともに比較例3と比較して、測定したすべての断面で応力が低減したことが確認された。各供試体上フランジの全ひずみゲージ21か所のひずみを平均し、比較例3と比較すると、正曲げ試験の供試体は約24%、負曲げ試験の供試体は約26%上フランジ鋼材の応力が低減されたことが確認され、概ね計算通りの補強効果が得られた。以上から、バイパス部材を用いた補強部材で上フランジを補強した場合、バイパス部材まで応力が伝達することで、鋼桁供試体の応力低減が確認された。
【符号の説明】
【0188】
100 :補強構造
1 :補強部材
2 :FRP板材
21 :切欠き部
22 :縮小部
23 :貼り付け部
24 :バイパス部
29 :一方向繊維シート
3 :繊維シート
4 :接着層
5 :I型断面鋼材
51 :フランジ
51a :上面
51b :下面
52 :フランジ
52a :上面
53 :ウェブ
54 :垂直補剛材
6 :接着層
7 :鋼部材
71 :鋼板
72 :面外ガセット
73 :添接板
74 :ボルト
8 :連続繊維材
9 :橋梁
91 :床版
92 :橋脚
X :第1方向
Y :第2方向
Z :第3方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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