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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067861
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】中空樹脂粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/18 20060101AFI20230509BHJP
   C08F 20/20 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C08F2/18
C08F20/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174667
(22)【出願日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2021177536
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津村 了
【テーマコード(参考)】
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011JB27
4J100AL62P
4J100CA01
4J100CA23
4J100DA15
4J100EA12
4J100FA02
4J100FA21
4J100JA01
4J100JA67
(57)【要約】      (修正有)
【課題】残留金属量の少ない中空樹脂粒子を、高い生産効率にて製造可能な中空樹脂粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂を含むシェルおよび当該シェルに取り囲まれた中空部を備える中空樹脂粒子の製造方法は、重合性単量体、疎水性有機溶剤、重合開始剤、および水系媒体を含有する混合液を調製する混合液調製工程と、前記混合液を懸濁させることにより、前記重合性単量体、前記疎水性有機溶剤、および前記重合開始剤を含有する重合性単量体組成物の液滴が前記水系媒体中に分散した懸濁液を調製する懸濁工程と、前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し、かつ前記中空部に前記疎水性有機溶剤を内包し、水より真密度が小さい前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する重合工程と、前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子を浮上分離させながら、前記前駆体組成物中の金属成分を除去することにより、浮上分離洗浄を行う浮上分離洗浄工程とを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含むシェルおよび当該シェルに取り囲まれた中空部を備える中空樹脂粒子の製造方法であって、
重合性単量体、疎水性有機溶剤、重合開始剤、および水系媒体を含有する混合液を調製する混合液調製工程と、
前記混合液を懸濁させることにより、前記重合性単量体、前記疎水性有機溶剤、および前記重合開始剤を含有する重合性単量体組成物の液滴が前記水系媒体中に分散した懸濁液を調製する懸濁工程と、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し、かつ、前記中空部に前記疎水性有機溶剤を内包し、水より真密度が小さい前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する重合工程と、
前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子を浮上分離させながら、前記前駆体組成物中の金属成分を除去することにより、浮上分離洗浄を行う浮上分離洗浄工程とを有し、
下記式(1)により算出される、25℃における、前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子の浮上速度Vが0.1m/h以上である、
中空樹脂粒子の製造方法。
V=[(ρliquid-ρparticle)×g×D]÷(18×μ) (1)
(上記式(1)中、ρliquidは前記前駆体組成物を構成する水相の密度、ρparticleは前記前駆体粒子の密度、gは重力加速度、Dは前記前駆体粒子の粒径、μは前記前駆体組成物を構成する水相の粘度であり、前記前駆体粒子の粒径Dは、コールターカウンターにより測定される前記前駆体粒子の体積平均一次粒径D1、および、前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子の浮上速度の実測値V2を上記式(1)のVに代入することにより算出される前記前駆体粒子のストークス径D2のうち、いずれか大きい方である。)
【請求項2】
前記重合性単量体が、架橋性単量体を60質量%以上100質量%以下含む、請求項1に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体組成物が凝集性を有する、請求項1又は2に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
前記重合性単量体が、炭化水素単量体であり、前記炭化水素単量体がエチレン性不飽和二重結合を2つ以上含む架橋性単量体を含む、請求項1又は2に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
コールターカウンターにより測定される前記前駆体粒子の体積平均一次粒径D1が25μm以上である、請求項1又は2に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項6】
前記浮上分離洗浄工程において金属成分の除去を行った前駆体組成物を固液分離することにより、前記水系媒体から分離された、前記前駆体粒子を得る固液分離工程、および、
前記固液分離工程において得られた前記前駆体粒子について、加熱乾燥を行うことにより、前記前駆体粒子に内包されている前記疎水性有機溶剤を除去する溶剤除去工程をさらに備える、請求項1又は2に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項7】
前記混合液が、さらに金属含有分散安定剤を含有する請求項1又は2に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項8】
前記重合工程により得られた前記前駆体組成物に酸またはアルカリを添加した後、前記浮上分離洗浄工程において、浮上分離洗浄を行う請求項1又は2に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空樹脂粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体を重合することにより製造される中空樹脂粒子等の中空粒子は、粒子の内部に空洞を有する粒子であり、内部が実質的に樹脂等で満たされた中実粒子と比べて、光を良く散乱させ、光の透過性を低くできるため、不透明度、白色度等の光学的性質に優れた有機顔料や隠蔽剤として水系塗料、紙塗被組成物等の用途で汎用されており、さらに、光反射板、断熱材、遮音材等の成形体用の添加剤(成形用の樹脂に添加する添加剤)等としても利用されている。
【0003】
このような中空樹脂粒子に係る技術として、たとえば、特許文献1には、モノビニル単量体および親水性単量体(ただし、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルを除く。)からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、架橋性単量体、油溶性重合開始剤、炭化水素系溶剤、懸濁安定剤、ならびに、水系媒体を含む混合液を調製する工程と、前記混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程と、前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を持ちかつ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程と、前記前駆体組成物を固液分離することにより前記前駆体粒子を得る工程と、前記前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を気中にて除去することにより中空樹脂粒子を得る工程と、を含むことを特徴とする中空樹脂粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/026899号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術によれば、空隙率が高い中空樹脂粒子を得ることができるものの、中空樹脂粒子の残留金属量の低減が十分でなかったため、中空樹脂粒子の残留金属量の低減ができる技術が望まれていた。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、残留金属量の少ない中空樹脂粒子を、高い生産効率にて製造可能な中空樹脂粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく検討を行ったところ、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度Vが0.1m/h以上である前駆体組成物を調製した後、前駆体組成物中の前駆体粒子を浮上分離させながら、前駆体組成物中の金属成分を除去することにより、浮上分離洗浄を行う浮上分離洗浄工程を有する製造方法により、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、下記の製造方法が提供される。
[1]樹脂を含むシェルおよび当該シェルに取り囲まれた中空部を備える中空樹脂粒子の製造方法であって、
重合性単量体、疎水性有機溶剤、重合開始剤、および水系媒体を含有する混合液を調製する混合液調製工程と、
前記混合液を懸濁させることにより、前記重合性単量体、前記疎水性有機溶剤、および前記重合開始剤を含有する重合性単量体組成物の液滴が前記水系媒体中に分散した懸濁液を調製する懸濁工程と、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し、かつ、前記中空部に前記疎水性有機溶剤を内包し、水より真密度が小さい前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する重合工程と、
前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子を浮上分離させながら、前記前駆体組成物中の金属成分を除去することにより、浮上分離洗浄を行う浮上分離洗浄工程とを有し、
下記式(1)により算出される、25℃における、前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子の浮上速度Vが0.1m/h以上である、
中空樹脂粒子の製造方法の製造方法が提供される。
V=[(ρliquid-ρparticle)×g×D]÷(18×μ) (1)
(上記式(1)中、ρliquidは前記前駆体組成物を構成する水相の密度、ρparticleは前記前駆体粒子の密度、gは重力加速度、Dは前記前駆体粒子の粒径、μは前記前駆体組成物を構成する水相の粘度であり、前記前駆体粒子の粒径Dは、コールターカウンターにより測定される前記前駆体粒子の体積平均一次粒径D1、および、前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子の浮上速度の実測値V2を上記式(1)のVに代入することにより算出される前記前駆体粒子のストークス径D2のうち、いずれか大きい方である。)
【0009】
[2] 上記[1]の製造方法において、前記重合性単量体が、架橋性単量体を60質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。
[3] 上記[1]~[2]の製造方法において、前記前駆体組成物が凝集性を有することが好ましい。
[4] 上記[1]~[3]の製造方法において、前記重合性単量体が、炭化水素単量体であり、前記炭化水素単量体がエチレン性不飽和二重結合を2つ以上含む架橋性単量体を含むことが好ましい。
[5] 上記[1]~[4]の製造方法において、コールターカウンターにより測定される前記前駆体粒子の体積平均一次粒径D1が25μm以上であることが好ましい。
[6] 上記[1]~[5]の製造方法は、前記浮上分離洗浄工程において金属成分の除去を行った前駆体組成物を固液分離することにより、前記水系媒体から分離された、前記前駆体粒子を得る固液分離工程、および、
前記固液分離工程において得られた前記前駆体粒子について、加熱乾燥を行うことにより、前記前駆体粒子に内包されている前記疎水性有機溶剤を除去する溶剤除去工程をさらに備えることが好ましい。
[7] 上記[1]~[6]の製造方法において、前記混合液が、さらに金属含有分散安定剤を含有することが好ましい。
[8] 上記[1]~[7]の製造方法において、前記重合工程により得られた前記前駆体組成物に酸またはアルカリを添加した後、前記浮上分離洗浄工程において、浮上分離洗浄を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、残留金属量の少ない中空樹脂粒子を、高い生産効率にて製造可能な中空樹脂粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(A)は、本発明の製造方法の懸濁工程において調製される懸濁液の一例を示す模式図であり、図1(B)は、乳化重合用の分散液を示す模式図である。
図2図2は、本発明の製造方法の固液分離工程で用いる遠心濾過機の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<中空樹脂粒子の製造方法>
本発明の中空樹脂粒子の製造方法は、
樹脂を含むシェルおよび当該シェルに取り囲まれた中空部を備える中空樹脂粒子の製造方法であって、
重合性単量体、疎水性有機溶剤、重合開始剤、および水系媒体を含有する混合液を調製する混合液調製工程と、
前記混合液を懸濁させることにより、前記重合性単量体、前記疎水性有機溶剤、および前記重合開始剤を含有する重合性単量体組成物の液滴が前記水系媒体中に分散した懸濁液を調製する懸濁工程と、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し、かつ、前記中空部に前記疎水性有機溶剤を内包し、水より真密度が小さい前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する重合工程と、
前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子を浮上分離させながら、前記前駆体組成物中の金属成分を除去することにより、浮上分離洗浄を行う浮上分離洗浄工程とを有し、
下記式(1)により算出される、25℃における、前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子の浮上速度Vが0.1m/h以上である、
中空樹脂粒子の製造方法の製造方法である。
V=[(ρliquid-ρparticle)×g×D]÷(18×μ) (1)
(上記式(1)中、ρliquidは前記前駆体組成物を構成する水相の密度、ρparticleは前記前駆体粒子の密度、gは重力加速度、Dは前記前駆体粒子の粒径、μは前記前駆体組成物を構成する水相の粘度であり、前記前駆体粒子の粒径Dは、コールターカウンターにより測定される前記前駆体粒子の体積平均一次粒径D1、および、前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子の浮上速度の実測値V2を上記式(1)のVに代入することにより算出される前記前駆体粒子のストークス径D2のうち、いずれか大きい方である。)
【0013】
中空樹脂粒子は、樹脂を含有するシェル(外殻)と、当該シェルに取り囲まれた中空部とを備える粒子である。本発明において、中空部は、樹脂材料により形成される中空樹脂粒子のシェルから明確に区別される空洞状の空間である。中空樹脂粒子のシェルは多孔質構造を有するものであってもよいが、その場合には、中空部は、多孔質構造内に均一に分散された多数の微小な空間とは明確に区別できる大きさを有している。
【0014】
本発明に係る中空樹脂粒子が有する中空部は、たとえば、粒子断面のSEM観察等により、または粒子をそのままTEM観察等することにより確認することができる。また、中空樹脂粒子が有する中空部は、空気等の気体で満たされていてもよいし、溶剤を含有していてもよい。さらに、本発明に係る中空樹脂粒子は、通常、シェルが連通孔およびシェル欠陥を有さず、中空部がシェルによって粒子外部から隔絶されているものであるが、シェルが1または2以上の連通孔を有し、中空部が当該連通孔を介して粒子外部と通じているものであってもよい。
【0015】
(A)混合液調製工程
本発明の製造方法における混合液調製工程は、重合性単量体、疎水性有機溶剤、重合開始剤、および水系媒体を含有する混合液を調製する工程である。
【0016】
[重合性単量体]
重合性単量体は、中空樹脂粒子のシェルを形成するために用いられる重合性単量体である。重合性単量体としては、架橋性単量体を含み、必要に応じて非架橋性単量体を含むことが好ましい。非架橋性単量体は、重合可能な官能基を1つだけ有する重合性単量体であり、架橋性単量体は、重合可能な官能基を2つ以上有し、重合反応により樹脂中に架橋結合を形成する重合性単量体である。重合性単量体としては、重合可能な官能基としてエチレン性不飽和結合を有する化合物が一般に用いられる。
【0017】
本発明において、架橋性単量体は重合可能な官能基を複数有するため、単量体同士を連結することができ、シェルの架橋密度を高めることができる。さらに、架橋性単量体を非架橋性単量体と組み合わせて用いることにより、得られる中空樹脂粒子のシェルの機械的特性を高めることができる。
【0018】
架橋性単量体は、重合可能な官能基の数により分類することができる。また、架橋性単量体は、芳香族基含有架橋性単量体、芳香族基非含有架橋性単量体に分類することができる。架橋性単量体としては、たとえば、ジビニルベンゼン、ジビニルジフェニル、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート等の二官能の芳香族基含有架橋性単量体;アリル(メタ)アクリレート〔アリルアクリレートおよび/またはアリルメタクリレートの意味。以下、同様。〕、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート等の二官能の芳香族基非含有架橋性単量体;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート等の三官能以上の架橋性単量体等を挙げることができる。これらのなかでも、二官能の芳香族基含有架橋性単量体、二官能の芳香族基非含有架橋性単量体が好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートがさらに好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレートが特に好ましい。なお、凝集性を有する前駆体組成物が得られやすくなる観点から、芳香族基含有架橋性単量体を用いても良い。これらの架橋性単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
非架橋性単量体とは、重合可能な官能基を1つのみ有する化合物のことを意味し、具体的には、モノビニル単量体を挙げることができ、より具体的には、親水性単量体および非親水性単量体を挙げることができる。親水性単量体は、水への溶解度が1質量%以上であることが好ましく、非親水性単量体は、水への溶解度が1質量%未満であることが好ましい。
【0020】
親水性単量体としては、たとえば、酸基含有単量体、ヒドロキシル基含有単量体、アミド基含有単量体、ポリオキシエチレン基含有単量体等の親水基を有する単量体が挙げられる。
【0021】
酸基含有単量体は、酸基を含む単量体を意味する。ここでいう酸基とは、プロトン供与基(ブレンステッド酸基)、電子対受容基(ルイス酸基)のいずれをも含む。親水性単量体として酸基含有単量体を用いることにより、得られる中空樹脂粒子の耐熱性をより高めることができる。
【0022】
酸基含有単量体は、酸基を有していれば特に限定されないが、たとえば、カルボキシル基含有単量体、スルホン酸基含有単量体等が挙げられる。
カルボキシル基含有単量体としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸単量体;イタコン酸モノエチル、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル;等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸がより好ましい。
スルホン酸基含有単量体としては、たとえば、スチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0023】
ヒドロキシル基含有単量体としては、たとえば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミド基含有単量体としては、たとえば、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。
ポリオキシエチレン基含有単量体としては、たとえば、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
非親水性単量体としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアクリル系モノビニル単量体;スチレン、エチルビニルベンゼン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のモノオレフィン単量体;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン単量体;ビニルピリジン単量体;等が挙げられる。
【0025】
非架橋性単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、非架橋性単量体は、非親水性単量体を含まなくてもよいが、得られる中空樹脂粒子の耐熱性をより高めることができるという観点より、親水性単量体と非親水性単量体とを組み合わせて含んでいてもよい。
【0026】
非架橋性単量体が非親水性単量体を含有する場合において、非親水性単量体の含有割合は、特に限定はされないが、非架橋性単量体の総含有量100質量%に対し、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0027】
重合性単量体100質量%中における、架橋性単量体と非架橋性単量体との含有割合は、架橋性単量体が60質量%以上100質量%以下であることが好ましく、非架橋性単量体が0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、架橋性単量体が70質量%以上100質量%以下であることが好ましく、非架橋性単量体が0質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、架橋性単量体が80質量%以上100質量%以下であることが好ましく、非架橋性単量体が0質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましく、架橋性単量体が90質量%以上100質量%以下であることが好ましく、非架橋性単量体が0質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。架橋性単量体の含有割合が50質量%以上であることにより、中空樹脂粒子のシェル中に占める架橋性単量体単位の含有割合が十分に多いため、シェル中に共有結合ネットワークが密に張り巡らされる結果、強度に優れ、潰れ難く、外部から付与される熱等に対しても変形し難くなる。一方、非架橋性単量体を50質量%以下の割合で含有する場合は、シェルの連通孔およびシェル欠陥の発生がさらに抑制されやすくなる。
【0028】
なお、重合性単量体が、非架橋性単量体を含有する場合、重合性単量体100質量%中における、架橋性単量体と非架橋性単量体との含有割合は、特に限定されないが、より好ましくは、架橋性単量体が60質量%以上98質量%以下、かつ、非架橋性単量体が2質量%以上40質量%以下であり、さらに好ましくは、架橋性単量体が70質量%以上98質量%以下、かつ、非架橋性単量体が2質量%以上30質量%以下、特に好ましくは、架橋性単量体が80質量%以上98質量%以下、かつ、非架橋性単量体が2質量%以上20質量%以下である。
【0029】
本発明の製造方法における混合液調製工程において調製する混合液中における、重合性単量体(架橋性単量体と非架橋性単量体との総量)の含有量は、特に限定されないが、中空樹脂粒子の空隙率、粒径および機械的強度のバランスの観点から、水系媒体を除く混合液中成分の総質量100質量%に対し、好ましくは15~55質量%、より好ましくは25~50質量%である。
【0030】
[疎水性有機溶剤]
本発明においては、非重合性で、かつ、難水溶性の有機溶剤として疎水性有機溶剤を用いる。疎水性有機溶剤は、粒子内部に中空部を形成するスペーサー材料として作用する。
【0031】
疎水性有機溶剤としては、特に限定されないが、炭化水素系溶剤を好適に用いることができ、その具体例としては、ペンタン、ブタン、ペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等の飽和炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、二硫化炭素、四塩化炭素等の比較的揮発性が高い溶剤が挙げられる。これらの疎水性有機溶剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
疎水性有機溶剤としては、疎水性有機溶剤の総量100質量%中、飽和炭化水素系溶剤の割合が50質量%以上であることが好ましい。これにより、後述する懸濁工程において調製する重合性単量体組成物の液滴内で相分離が十分に発生することにより、中空部を1つのみ有する中空樹脂粒子が得られやすく、多孔質粒子の生成を抑制することができる。飽和炭化水素系溶剤の割合は、多孔質粒子の生成をさらに抑制するという観点、および、各中空樹脂粒子の中空部が均一になりやすいという観点から、疎水性有機溶剤の総量100質量%中、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。
【0033】
また、疎水性有機溶剤としては、炭素数5~8の炭化水素系溶剤が好ましい。炭素数5~8の炭化水素系溶剤は、後述する重合工程時に前駆体粒子中に容易に内包され易く、かつ後述する溶剤除去工程時に前駆体粒子中から容易に除去することができる。中でも、炭素数6~8の炭化水素系溶剤がより好ましく、ヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサンがさらに好ましい。
【0034】
また、疎水性有機溶剤としては、後述する溶剤除去工程で除去されやすいという観点から、沸点が130℃以下のものが好ましく、115℃以下のものがより好ましく、一方、前駆体粒子に内包されやすいという観点から、沸点が30℃以上のものが好ましく、50℃以上のものがより好ましい。
【0035】
なお、本発明において、疎水性有機溶剤が、複数種類の疎水性有機溶剤を含有する混合溶剤であり、沸点を複数有する場合、当該疎水性有機溶剤の沸点とは、当該混合溶剤に含まれる溶剤のうち最も沸点が高い溶剤の沸点、すなわち複数の沸点のうち最も高い沸点とする。
【0036】
また、疎水性有機溶剤は、20℃における比誘電率が3以下であることが好ましい。比誘電率は、化合物の極性の高さを示す指標の1つである。疎水性有機溶剤の比誘電率が3以下と十分に小さい場合には、後述する懸濁工程において調製される重合性単量体組成物の液滴中で相分離が速やかに進行し、中空部が形成されやすいと考えられる。
【0037】
20℃における比誘電率が3以下である疎水性有機溶剤の例としては、ペンタン(1.8)、ヘキサン(1.9)、ヘプタン(1.9)、オクタン(1.9)、シクロヘキサン(2.0)、ベンゼン(2.3)、トルエン(2.4)等が挙げられる(カッコ内は比誘電率の値である)。20℃における比誘電率に関しては、公知の文献(たとえば、日本化学会編「化学便覧基礎編」、改訂4版、丸善株式会社、平成5年9月30日発行、II-498~II-503ページ)に記載の値、およびその他の技術情報を参照できる。20℃における比誘電率の測定方法としては、たとえば、JISC 2101:1999の23に準拠し、かつ測定温度を20℃として実施される比誘電率試験等が挙げられる。
【0038】
混合液中の疎水性有機溶剤の量を変えることにより、中空樹脂粒子の空隙率を調節することができる。後述する重合工程において、重合性単量体組成物の液滴が疎水性有機溶剤を内包した状態で重合反応が進行するため、疎水性有機溶剤の含有量が多いほど、得られる中空樹脂粒子の空隙率が高くなる傾向がある。
【0039】
混合液中の疎水性有機溶剤の含有量は、重合性単量体の総質量100質量部に対し、好ましくは50~500質量部であり、より好ましくは60~400質量部、さらに好ましくは80~350質量部、特に好ましくは100~300質量部である。疎水性有機溶剤の含有量を上記範囲とすることにより、中空樹脂粒子の強度を維持しながら、空隙率を適切に高めることができる。
【0040】
[重合開始剤]
本発明においては、重合開始剤として油溶性重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤として油溶性重合開始剤を用いることにより、後述する懸濁工程で得られる懸濁液において、重合開始剤が重合性単量体組成物の液滴の内部に好適に取り込ませることができる。
【0041】
油溶性重合開始剤としては、水に対する溶解度が0.2質量%以下の親油性のものであれば特に制限されない。油溶性重合開始剤としては、たとえば、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t一ブチルペルオキシド一2-エチルヘキサノエート、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0042】
重合開始剤の含有量は、混合液中の重合性単量体の総質量100質量部に対し、好ましくは0.5~20質量部であり、より好ましくは1~15質量部、さらに好ましくは2~12質量部である。重合開始剤の含有量を上記範囲とすることにより、重合反応を十分進行させ、かつ重合反応終了後に重合開始剤が残存するおそれが小さく、また、予期せぬ副反応が進行するおそれも小さい。
【0043】
[水系媒体]
水系媒体としては、水、親水性溶媒、および、水と親水性溶媒との混合物からなる群より選ばれる媒体を挙げることができる。
【0044】
親水性溶媒としては、水と十分に混ざり合い相分離を起こさないものであれば特に制限されず、たとえば、メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン(THF);ジメチルスルフォキシド(DMSO);等が挙げられる。これらの親水性溶媒は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
水系媒体の中でも、その極性の高さから、水を用いることが好ましい。水と親水性溶媒の混合物を用いる場合には、重合性単量体、疎水性有機溶剤、および重合開始剤を含有する重合性単量体組成物の液滴を適切に形成する観点から、当該混合物全体の極性が低くなりすぎないことが好ましい。水と親水性溶媒の混合物を用いる場合には、水と親水性溶媒との混合比(質量比)を、水:親水性溶媒=99:1~50:50とすることが好ましい。
【0046】
また、本発明の製造方法の混合液調製工程においては、重合性単量体、疎水性有機溶剤、重合開始剤、および水系媒体に加えて、分散安定剤を用いることが好ましい。すなわち、混合液調製工程は、重合性単量体、疎水性有機溶剤、重合開始剤、水系媒体、および分散安定剤を含有する混合液を調整する工程であることが好ましい。分散安定剤を含有させることで、後述する懸濁工程における、重合性単量体組成物の液滴の分散安定性をより高めることができる。
【0047】
分散安定剤は、後述する懸濁工程において、重合性単量体組成物の液滴を水系媒体中に分散させる化合物であり、無機分散安定剤、有機分散安定剤のいずれであってもよい。
【0048】
無機分散安定剤としては、たとえば、コロイダルシリカ、水酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、リン酸三カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化第二鉄、ヒドロキシアパタイト、珪酸ケイソウ土、粘土、ベントナイト等が挙げられる。
【0049】
また、有機分散安定剤としては、たとえば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン等が挙げられる。
【0050】
これらのなかでも、分散安定化効果が高く、また、重合性単量体、疎水性有機溶剤、および重合開始剤を含有する重合性単量体組成物の液滴の粒子径の制御がより容易なものとなるという観点より、無機分散安定剤が好ましく、無機分散安定剤のなかでも、金属含有分散安定剤が好ましく、難水溶性無機金属塩がより好ましい。また、難水溶性無機金属塩としては、100gの水に対する溶解度が0.5g以下である無機金属塩が好ましく、たとえば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、リン酸カルシウム等が挙げられ、これらのなかでも、水酸化マグネシウムがより好ましい。分散安定剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
また、分散安定剤としては、分散安定化効果をより高めることができるという観点より、水系媒体中に分散あるいは溶解させることにより、分散安定剤の分散液または溶液の状態で用いることが好ましい。すなわち、本発明の製造方法の混合液調製工程においては、分散安定剤を、分散液または溶液の状態で、重合性単量体、疎水性有機溶剤、および重合開始剤と混合することで、混合液を得ることが好ましい。
【0052】
また、水系媒体としては、水、親水性溶媒、および、水と親水性溶媒との混合物からなる群より選ばれる媒体であればよく、親水性溶媒としては、水と十分に混ざり合い相分離を起こさないものであれば特に制限されず、たとえば、メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン(THF);ジメチルスルフォキシド(DMSO);等が挙げられる。
【0053】
水系媒体の中でも、その極性の高さから、水を用いることが好ましい。水と親水性溶媒の混合物を用いる場合には、重合性単量体および疎水性有機溶剤を含有する重合性単量体組成物の液滴を適切に形成する観点から、当該混合物全体の極性が低くなりすぎないことが好ましい。水と親水性溶媒の混合物を用いる場合には、水と親水性溶媒との混合比(質量比)を、水:親水性溶媒=99:1~50:50とすることが好ましい。
【0054】
分散安定剤の分散液または溶液を調製する際における、分散安定剤と水系媒体との混合比率は、「分散安定剤:水系媒体」の重量比率で、好ましくは0.7:100~7:100、より好ましくは1.0:100~4.0:100、さらに好ましくは1.4:100~3:100である。分散安定剤と水系媒体との混合比率を上記範囲とすることにより、分散安定化効果をより適切に高めることができる。
【0055】
また、本発明の製造方法の混合液調製工程においては、上記した各成分に加えて、粒径に対する粒径分布の値をより適切なものとすることができるという観点より、極性成分として、有機酸および有機酸の金属塩からなる群から選択される少なくとも一種をさらに混合してもよい。
【0056】
有機酸としては、ロジン酸や高級脂肪酸を挙げることができる。高級脂肪酸としては、例えば、カルボキシル基中の炭素原子を含まない炭素数が10~25の高級脂肪酸を挙げることができる。有機酸の金属塩に用いられる金属としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属、及びMg、Ca等のアルカリ土類金属等を挙げることができ、中でもアルカリ金属が好ましく、Li、Na及びKから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0057】
極性成分として、有機酸又はその金属塩を用いる場合は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。有機酸又はその金属塩の含有量は、混合液中の重合性単量体の総質量100質量部に対し、好ましくは0.001~0.2質量部であり、より好ましくは0.004~0.1質量部、さらに好ましくは0.005~0.05量部である。有機酸又はその金属塩の含有量を上記範囲とすることにより、その使用効果をより高めることができる。
【0058】
本発明の製造方法の混合液調製工程においては、極性成分として、有機酸又はその金属塩からなる群から選択される少なくとも一種に加えて、または、有機酸又はその金属塩からなる群から選択される少なくとも一種に代えて、極性樹脂を添加してもよい。極性樹脂とは、ヘテロ原子を含む繰り返し単位を含有する重合体をいう。具体的には、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ヘテロ原子を含むビニル系樹脂等が挙げられる。
【0059】
極性樹脂を用いる場合、混合液中の極性樹脂の含有量は、混合液中の重合性単量体の総質量100質量部に対し、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.3~8.0質量部であり、さらに好ましくは0.5~8.0質量部である。中空樹脂粒子の潰れを抑制しながら、シェル強度をより高めることができる。
【0060】
本発明の製造方法の混合液調製工程においては、上記した各成分を、攪拌等により混合することで、混合液を得ることができる。この際においては、上記した各成分に加え、必要に応じて他の材料を混合してもよい。本発明の製造方法の混合液調製工程によれば、重合性単量体、疎水性有機溶剤、および重合開始剤等の親油性材料を含む油相が、水系媒体、および必要に応じて用いられる分散安定剤を含む水相中において、粒径数mm程度の大きさで分散してなる混合液が調製される。混合液におけるこれら成分の分散状態は、各成分の種類によっては肉眼でも観察することが可能である。
【0061】
また、混合液調製工程においては、シェル部分の組成が均一になりやすいという観点から、重合性単量体、疎水性有機溶剤、および重合開始剤を含む油相を予め調製し、これと、分散安定剤を水系媒体に分散あるいは溶解してなる分散液または溶液とを混合することにより、混合液を調製することが好ましい。
【0062】
(B)懸濁工程
懸濁工程は、上述した混合液調製工程で得られた混合液を懸濁させることにより、重合性単量体、疎水性有機溶剤、および重合開始剤を含有する重合性単量体組成物の液滴が、水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程である。
【0063】
重合性単量体組成物の液滴を形成するための懸濁方法は特に限定されないが、上述した混合液調製工程で得られた混合液を、強攪拌が可能な攪拌装置を用いて攪拌する方法が好ましい。懸濁工程で用いる攪拌装置としては、特に限定されないが、たとえば、攪拌翼または回転子を備えた攪拌機と、攪拌機に供給するための供給槽とを備える攪拌装置を用いることができる。また、攪拌機としては、攪拌翼または回転子を備えるものであればよく、特に限定されないが、懸濁液を効率的に形成できるという観点より、櫛歯型同心リングである回転子と固定子との組み合わせを有し、回転子を高速で回転させて、回転子の内側から固定子の外側に前記分散液を流通させ、回転子と固定子との間隙で分散液を攪拌する攪拌機が好適である。
【0064】
このような構成を有する攪拌機としては、インライン型乳化分散機が挙げられ、インライン型乳化分散機としては、製品名「キャビトロン」(ユーロテック社製)、製品名「マイルダー」(太平洋機工社製)、製品名「エバラマイルダー」(荏原製作所社製)、製品名「TKパイプラインホモミキサー」(特殊機化工業社製)、製品名「コロイドミル」(神鋼パンテック社製)、製品名「スラッシャー」(日本コークス工業社製)、製品名「トリゴナル湿式微粉砕機」(三井三池化工機社製)、製品名「ファインフローミル」(太平洋機工社製)等が挙げられる。
【0065】
本発明の製造方法の懸濁工程によれば、懸濁液として、上記親油性材料を含む重合性単量体組成物の液滴が、水系媒体中に均一に分散したものを得ることができる。このような重合性単量体組成物の液滴は肉眼では観察が難しく、たとえば、光学顕微鏡等の公知の観察機器により観察できる。また、懸濁工程においては、重合性単量体組成物の液滴中に相分離が生じるため、極性の低い疎水性有機溶剤が液滴の内部に集まりやすくなる。その結果、得られる液滴は、その内部に疎水性有機溶剤が、その周縁に疎水性有機溶剤以外の材料が分布することとなる。
【0066】
ここで、本発明の製造方法においては、乳化重合法ではなく懸濁重合法を採用するものであるが、以下、乳化重合法と対比しながら、懸濁重合法について説明する。
【0067】
図1(B)は、乳化重合用の分散液を示す模式図である。図1(B)中のミセル60は、その断面を模式的に示したものとする。図1(B)においては、水系媒体51中に、ミセル60、ミセル前駆体60a、溶媒中に溶出した単量体53a、および水溶性重合開始剤54が分散している様子を示している。ミセル60は、油溶性の重合性単量体組成物53の周囲を、界面活性剤52が取り囲むことにより構成される。重合性単量体組成物53中には、重合体の原料となる単量体等が含まれるが、重合開始剤は含まれない。
【0068】
一方、ミセル前駆体60aは、界面活性剤52の集合体ではあるものの、その内部に十分な量の重合性単量体組成物53を含んでいない。ミセル前駆体60aは、溶媒中に溶出した単量体53aを内部に取り込んだり、他のミセル60等から重合性単量体組成物53の一部を調達したりすることにより、ミセル60へと成長する。水溶性重合開始剤54は、水系媒体51中を拡散しつつ、ミセル60やミセル前駆体60aの内部に侵入し、これらの内部の油滴の成長を促す。したがって、乳化重合法においては、各ミセル60は水系媒体51中に単分散しているものの、ミセル60の粒径は数百nmまで成長することが予測される。
【0069】
これに対し、図1(A)は、本発明に係る懸濁液調製工程において調製される懸濁液の一例を示す模式図である。図1(A)中のミセル10は、その断面を模式的に示したものとする。なお、図1(A)はあくまで模式図であり、本発明の製造方法により得られる懸濁液は、必ずしも図1(A)に示すものに限定されない。
【0070】
図1(A)には、水系媒体1中に、ミセル10および水系媒体中に分散した単量体4aが分散している様子が示されている。ミセル10は、油溶性の重合性単量体組成物4の周囲を、界面活性剤3が取り囲むことにより構成される。重合性単量体組成物4中には重合開始剤5、ならびに、単量体および疎水性有機溶剤(いずれも図示せず)が含まれる。
【0071】
図1(A)に示すように、本発明に係る懸濁液調製工程においては、ミセル10の内部に重合性単量体組成物4を含む微小油滴を予め形成した上で、重合開始剤5により、重合開始ラジカルが微小油滴中で発生する。したがって、微小油滴を成長させ過ぎることなく、目的とする粒径の中空樹脂粒子前駆体を製造することができる。
【0072】
また、図1(A)に示す懸濁重合と、図1(B)に示す乳化重合との比較からも明らかなように、図1(A)に示す懸濁重合においては、重合開始剤5として油溶性重合開始剤を使用することで、重合開始剤5が、水系媒体1中に分散した単量体4aと接触する機会は存在しない。したがって、油溶性重合開始剤を使用することにより、目的としている中空樹脂粒子の他に、余分なポリマー粒子が生成することを防止できる。本発明によれば、このような懸濁重合を採用することにより、目的とする中空部を有する樹脂粒子の他に、比較的粒径の小さい密実粒子等の余分なポリマー粒子が生成することを抑制することができるものである。
【0073】
(C)重合工程
重合工程は、上述した懸濁工程で調製した懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し、かつ、中空部に疎水性有機溶剤を内包し、水より真密度が小さい前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程である。
【0074】
重合工程では、重合性単量体組成物の液滴が疎水性有機溶剤を内包したまま、当該液滴中の重合性単量体が重合することにより、重合性単量体の重合物である樹脂を含有するシェルと、疎水性有機溶剤で満たされた中空部とを有する前駆体粒子が形成される。
【0075】
本発明の製造方法では、重合性単量体組成物の液滴が疎水性有機溶剤を内包した状態で重合反応に供されることにより、形状を維持したまま重合反応が進行しやすく、前駆体粒子の大きさおよび空隙率を調整しやすい。また、重合性単量体と疎水性有機溶剤とを組み合わせて用いるため、前駆体粒子のシェルに対して疎水性有機溶剤の極性が低く、疎水性有機溶剤がシェルと馴染みにくいため、相分離が十分に発生して中空部が1つのみとなりやすい。また、疎水性有機溶剤の量を調整することで、前駆体粒子の空隙率を容易に調整することができる。
【0076】
重合方式に特に限定はなく、たとえば、回分式(バッチ式)、半連続式、連続式等が採用できる。重合温度は、好ましくは40~90℃であり、更に好ましくは50~80℃である。また、重合の反応時間は好ましくは1~48時間であり、さらに好ましくは3~24時間である。
【0077】
重合工程により、水より真密度が小さい前駆体粒子が、水系媒体を主成分とする水相中に分散してなる前駆体組成物が得られる。
【0078】
本発明の製造方法において、下記式(1)により算出される、25℃における、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度Vは、0.1m/h以上である。
V=[(ρliquid-ρparticle)×g×D]÷(18×μ) (1)
(上記式(1)中、ρliquidは前駆体組成物を構成する水相の密度、ρparticleは前駆体粒子の密度、gは重力加速度、Dは前駆体粒子の粒径、μは前駆体組成物を構成する水相の粘度であり、前駆体粒子の粒径Dは、コールターカウンターにより測定される前駆体粒子の体積平均一次粒径D1、および、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値V2を上記式(1)のVに代入することにより算出される前駆体粒子のストークス径D2のうち、いずれか大きい方である。)
【0079】
本発明の製造方法において、前駆体組成物を構成する水相の密度(ρliquid)は、特に限定されないが、998~2000kg/mであることが好ましく、998~1600であることがより好ましく、998~1300kg/mであることがさらに好ましい。前駆体組成物を構成する水相の密度(ρliquid)は、前駆体組成物を構成する水相の組成、具体的には、水系媒体の種類や、必要に応じて用いる分散安定剤の種類および量などにより調整することができる。本明細書において、前駆体組成物を構成する水相の密度(ρliquid)は、前駆体組成物を静置した際に、前駆体粒子の浮上に伴い生じる、下層としての前駆体粒子を含まない相を抜き取り、抜き取った相の密度として求める。
【0080】
本発明の製造方法において、前駆体粒子の密度(ρparticle)は、前駆体組成物を構成する水相の密度(ρliquid)よりも小さい。前駆体粒子の密度(ρparticle)は、前駆体組成物を構成する水相の密度(ρliquid)よりも小さければ特に限定されないが、100~997kg/mであることが好ましく、100~980kg/mであることがより好ましい。たとえば、前駆体粒子の密度(ρparticle)は、700~997kg/mであってよく、750~980kg/mであってよい。前駆体粒子の密度(ρparticle)は、用いる単量体組成物の種類や量を調整する方法、疎水性有機溶剤の密度を調整する方法、前駆体粒子の空隙率を調整する方法などにより、調整することができる。前駆体粒子の密度(ρparticle)は、最終的に得られる中空樹脂粒子の見かけ密度および空隙率、ならびに、前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤の密度から算出することができる。
【0081】
式(1)において、前駆体粒子の粒径(D)は、コールターカウンターにより測定される前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)、および、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)を上記式(1)のVに代入することにより算出される前駆体粒子のストークス径(D2)のうち、いずれか大きい方である。
【0082】
前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)は、25℃において、コールターカウンターを用いて、前駆体組成物について測定することにより求められる値である。前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)は、特に限定されないが、1~500μmであることが好ましく、1~150μmであることがより好ましく、1~100μmであることがさらに好ましく、1~80μmであることが特に好ましく、1~50μmであることが最も好ましい。前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)は、用いる単量体組成物の種類や量を調整する方法、疎水性有機溶剤の種類を調整する方法、必要に応じて用いる分散安定剤の調製条件を調整する方法などにより、調整することができる。また、前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)が比較的大きい場合、具体的には、好ましくは25μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは35μm以上である場合、前駆体粒子が凝集していない状態であっても、前駆体粒子の流出を抑制しながら、高い効率で浮上分離洗浄を行うことができ、その結果、残留金属量の一層少ない中空樹脂粒子を、一層高い生産効率にて製造することができるため好ましい。
【0083】
なお、前駆体組成物を構成する水相の粘度(μ)、密度(ρliquid)、および、前駆体粒子の密度(ρparticle)を式(1)に代入し、また、前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)を式(1)のDに代入することにより、前駆体組成物中の前駆体粒子の終端浮上速度の理論値(V1)を求めることができる。前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)が、前駆体粒子のストークス径(D2)以上である場合、式(1)により算出される前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度(V)は、前駆体組成物中の前駆体粒子の終端浮上速度の理論値(V1)である。言い換えると、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度Vは、前駆体組成物中の前駆体粒子の終端浮上速度の理論値(V1)および前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)のうち、いずれか大きい方である。
【0084】
前駆体粒子のストークス径(D2)は、前駆体組成物を構成する水相の粘度(μ)、密度(ρliquid)、および、前駆体粒子の密度(ρparticle)を式(1)に代入し、また、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)を式(1)のVに代入することにより算出される値である。
【0085】
前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)は、以下の方法により測定される値である。すなわち、温度25℃の環境下で、メスシリンダーに前駆体組成物を入れ、十分に攪拌してから静置し、前駆体粒子が完全に分散した状態から、前駆体粒子の浮上に伴い、時間経過とともに、上層としての前駆体粒子を含む相と、下層としての前駆体粒子を含まない相とに分離した後の、上層および下層の境界面の高さの経時変化から求めることができる。前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)は、特に限定されないが、0.05m/h以上であることが好ましく、0.06m/h以上であることがより好ましく、0.08m/h以上であることがさらに好ましく、0.10m/h以上であることが特に好ましく、0.15m/h以上であることが最も好ましい。前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)は、前駆体組成物を構成する水相の組成を調整する方法、用いる単量体組成物の種類や量を調整する方法、疎水性有機溶剤の密度を調整する方法、前駆体粒子の空隙率や粒径を調整する方法、後述する前駆体組成物の凝集性の有無を調整する方法などにより、調整することができる。
【0086】
一実施態様において、残留金属量の一層少ない中空樹脂粒子を、一層高い生産効率にて製造することができることから、前駆体組成物が凝集性を有することが好ましい。特に、前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)が比較的小さい場合、具体的には、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下である場合には、前駆体組成物が凝集性を有することが好ましい。
【0087】
本明細書において、「前駆体組成物が凝集性を有する」とは、前駆体組成物中の前駆体粒子が凝集していることを表し、具体的には、前駆体粒子のストークス径(D2)が、前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)の2倍以上、たとえば、10倍以上である場合に、前駆体組成物が凝集性を有すると判断することができる。前駆体組成物の凝集性は、用いる単量体組成物の種類や量を調整する方法や、前駆体粒子の一次粒径を調製する方法などにより、調整することができる。たとえば、前駆体粒子の一次粒径をより小さなものとすることにより、前駆体粒子の凝集を促進させ、前駆体組成物の凝集性を高めることができる。一方、前駆体組成物が凝集性を有しない場合、前駆体粒子のストークス径(D2)は、通常、前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)と同程度になる。
【0088】
前駆体組成物が凝集性を有する場合、前駆体粒子のストークス径(D2)は、特に限定されないが、25~10000μmであることが好ましく、50~10000μmであることがより好ましく、100~10000μmであることがさらに好ましく、150~10000μmであることが特に好ましく、200~10000μmであることが最も好ましい。なお、前駆体粒子のストークス径(D2)が、前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)より大きい場合、式(1)により算出される前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度(V)は、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)である。
【0089】
なお、後述する加圧浮上分離法を用いる場合には、前駆体粒子に気泡が付着し、気泡と前駆体粒子とが一体となって浮上するようになる。そのため、加圧浮上分離法を用いることにより、実体的な前駆体粒子の密度(ρparticle)を小さくすることができると同時に、実体的な前駆体粒子のストークス径(D2)を大きくすることができ、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)を大きくすることができる。加圧浮上分離法を用いる場合の、実体的な前駆体粒子の密度(ρparticle)は、たとえば、100~500kg/mとなる。また、加圧浮上分離法を用いる場合の、実体的な前駆体粒子のストークス径(D2)は、通常、前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)の2倍以上となる。
【0090】
(D)浮上分離洗浄工程
浮上分離洗浄工程は、重合工程により得られた前駆体組成物中の前駆体粒子を浮上分離させながら、前駆体組成物中の金属成分を除去することにより、浮上分離洗浄を行う工程である。本発明の製造方法は、重合工程により得られた前駆体組成物を、スラリー状態のまま用いて、浮上分離洗浄を行うものであり、このような製造方法により、残留金属量の少ない中空樹脂粒子を、高い生産効率にて製造することができるものである。
【0091】
本発明の製造方法では、重合工程において、25℃における、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度Vが0.1m/h以上である前駆体組成物を調製する。このような前駆体組成物を浮上分離槽に入れて静置すると、前駆体粒子の浮上に伴い、時間経過とともに、上層としての前駆体粒子を含む相と、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)とに分離する。このようにして前駆体粒子を浮上分離させた状態で、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)を除去することにより、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)中に溶解、分散または沈殿した金属成分を除去することができる。
【0092】
なお、重合工程により得られた前駆体組成物中の前駆体粒子を浮上分離させる際には、前駆体組成物を必ずしも静置する必要はなく、前駆体粒子を浮上分離させることができる限りにおいて、前駆体組成物に流れが生じるような方法を採用することができる。前駆体組成物中の前駆体粒子を浮上分離させる際には、金属成分の除去効率を一層高める観点から、浮上分離槽内部の温度を、0~100℃に制御することが好ましく、20~80℃に制御することがより好ましく、40~60℃に制御することがさらに好ましい。
【0093】
浮上分離洗浄工程において除去する金属成分としては、前駆体組成物が含有する金属成分であれば特に限定されないが、たとえば、混合液調製工程において調製した混合液が含有する金属成分が挙げられる。一例を挙げると、混合液が、金属含有分散安定剤を含有する場合には、金属含有分散安定剤に由来する金属成分を、浮上分離洗浄工程において除去することができる。また、重合開始剤やその他の重合副資材が、金属原子を含有する場合には、それらの重合副資材に由来する金属成分を、浮上分離洗浄工程において除去することができる。
【0094】
本発明の製造方法において、重合工程により得られた前駆体組成物に酸またはアルカリを添加した後、浮上分離洗浄工程において、浮上分離洗浄を行うことが好ましく、重合工程により得られた前駆体組成物に酸を添加した後、浮上分離洗浄工程において、浮上分離洗浄を行うことがより好ましい。特に、前駆体組成物が、酸またはアルカリに可溶な金属化合物を含有している場合には、浮上分離洗浄を行う前に、前駆体組成物に酸またはアルカリを添加して、酸またはアルカリに可溶な金属化合物を可溶化することが好ましい。たとえば、前駆体組成物に酸を添加する場合には、pHを、好ましくは6.5以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは5.5以下、特に好ましくは5.0以下に調整することが好ましい。添加する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、および蟻酸、酢酸等の有機酸を用いることができるが、金属成分の除去効率が大きいことや製造設備への負担が小さいことから、特に硫酸が好適である。
【0095】
下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)を除去する方法としては、前駆体組成物を入れた浮上分離槽の底部から、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)を排出する方法が好ましい。
【0096】
下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)の排出速度(浮上分離槽の高さ換算での速度)は、特に限定されないが、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)の1.2倍以下であることが好ましく、浮上速度の実測値(V2)の1.1倍以下であることがより好ましく、浮上速度の実測値(V2)の1.0倍以下であることがさらに好ましい。なお、浮上分離槽から下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)を排出することができる最大速度(浮上分離槽の高さ換算での速度)が、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)以下である場合には、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)の排出速度を、該最大速度とすることが好ましい。下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)の排出速度が上記範囲内であることにより、前駆体粒子の流出を抑制しながら、前駆体組成物中の金属成分を除去することができ、結果として、残留金属量の少ない中空樹脂粒子を、一層高い生産効率にて製造することができる。また、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)の排出速度の下限値(浮上分離槽の高さ換算での速度)は、特に限定されないが、高い効率で前駆体組成物中の金属成分を除去することができ、結果として、残留金属量の少ない中空樹脂粒子を、一層高い生産効率にて製造することができることから、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)の0.4倍以上であることが好ましく、浮上速度の実測値(V2)の0.6倍以上であることがより好ましく、浮上速度の実測値(V2)の0.8倍以上であることがさらに好ましい。たとえば、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)の排出速度は、浮上速度の実測値(V2)と略等しい速度であってよい。
【0097】
一実施態様において、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)の排出速度(浮上分離槽の高さ換算での速度)は、たとえば、前駆体組成物中の前駆体粒子の終端浮上速度の理論値(V1)の0.2倍~1.2倍であってよく、浮上速度の理論値(V1)の0.4倍~1.1倍であってよく、浮上速度の理論値(V1)の0.5倍~1.0倍であってよい。特に、前駆体組成物が凝集性を有しない場合に、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)の排出速度を上記範囲内に調整することが有効である。
【0098】
浮上分離洗浄において、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)の排出を行う際には、前駆体組成物に対し、連続的あるいは断続的に洗浄液の補充を行うことが好ましい。洗浄液の補充を行いながら、浮上分離洗浄を行うことで、残留金属量のさらなる低減が可能となる。洗浄液としては、残留金属量の一層少ない中空樹脂粒子を、一層高い生産効率にて製造することができる観点から、水系媒体が好ましい。水系媒体としては、本発明の製造方法において用いる混合液が含有する水系媒体として上述したものが挙げられ、なかでも、水が好ましい。洗浄液の温度は、金属成分の除去効率を一層高める観点から、0~100℃が好ましく、20~80℃がより好ましく、40~60℃がさらに好ましい。
【0099】
前駆体粒子を含む相に洗浄液を補充する方法としては、特に限定されないが、前駆体粒子を含む相の上部から洗浄液を添加する方法が好ましい。前駆体粒子を含む相の上部から添加された洗浄液は、前駆体粒子を含む相中を通過し、下層としての前駆体粒子を含まない相まで移動する。この際、前駆体粒子を含む相中を移動する洗浄液中に、前駆体粒子を含む相中の金属成分が分散または溶解することにより、前駆体粒子を含む相から金属成分を高い効率で除去することができ、結果として、残留金属量の一層少ない中空樹脂粒子を、一層高い生産効率にて製造することができる。
【0100】
洗浄液の補充は、噴霧により行うことが好ましい。洗浄液の添加を噴霧により行うことにより、前駆体粒子を浮上させた状態を良好に保ちつつ、浮上分離洗浄を行うことができ、前駆体粒子を含む相中の金属成分と、洗浄液との接触頻度を高めることができ、結果として、残留金属量の一層少ない中空樹脂粒子を、一層高い生産効率にて製造することができる。
【0101】
浮上分離洗浄工程においては、必要に応じて前駆体組成物に酸を添加した後、前駆体粒子を浮上分離させた状態で、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)を除去しながら、前駆体組成物に対し、連続的あるいは断続的に洗浄液の補充を行うことで、連続的あるいは断続的に、前駆体組成物中の金属成分を除去してもよい。また、必要に応じて前駆体組成物に酸を添加した後、前駆体粒子を浮上分離させた状態で、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)を除去した後、前駆体組成物に対し、洗浄液の補充を行い、再度、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)の除去と、洗浄液の補充とを繰り返し行うことにより、段階的に前駆体組成物中の金属成分を除去してもよい。
【0102】
残留金属量の一層少ない中空樹脂粒子を、一層高い生産効率にて製造することができる観点から、前駆体粒子を浮上分離させた状態で、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)を除去しながら、前駆体組成物に対し、洗浄液を補充することで、連続的または断続的に前駆体組成物中の金属成分を除去する方法が好ましい。連続的または断続的に、前駆体組成物中の金属成分を除去する方法においては、前駆体組成物に対して添加する洗浄液の単位時間あたりの添加量の平均値を、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)の単位時間あたりの排出量の0.8倍~1.2倍とすることが好ましく、0.9倍~1.1倍とすることがより好ましく、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)の単位時間あたりの排出量と略等しい量とすることがさらに好ましい。この場合において下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)を除去しながら、前駆体組成物に対し、洗浄液を補充する操作を、合計で、10分~2400分間行うことが好ましく、30分~1500分間行うことがより好ましい。
【0103】
また、前駆体組成物中に微細な気泡を発生させて、気泡を前駆体粒子に付着させることにより、前駆体粒子の浮上を促進させる加圧浮上分離法を用いてもよい。加圧浮上分離法を用いることにより、実体的な前駆体粒子の密度(ρparticle)を小さくすることができると同時に、実体的な前駆体粒子のストークス径(D2)を大きくすることができ、前駆体組成物中に微細な気泡を発生させた状態における前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)を大きくすることができる。
【0104】
加圧浮上分離法においては、具体的には、前駆体組成物を加圧した後脱圧することにより、前駆体組成物中に微細な気泡を発生させることができる。加圧時の圧力(ゲージ圧)は、0.2~1MPaであることが好ましく、0.3~0.5MPaであることがより好ましい。加圧方法としては、浮上分離槽に圧縮空気または圧縮窒素を注入する方法が好ましい。また、加圧操作および脱圧操作は、金属成分の除去効率を一層高める観点から、浮上分離槽内部の温度を、0~100℃に制御しながら行うことが好ましく、20~80℃に制御しながら行うことがより好ましく、40~60℃に制御しながら行うことがさらに好ましい。
【0105】
加圧浮上分離法においては、気泡を発生させた前駆体組成物を用いて、前駆体粒子を浮上分離させながら、前駆体組成物中の金属成分を除去することにより、浮上分離洗浄を行うことができる。具体的には、気泡を発生させた前駆体組成物を用いて、前駆体粒子を浮上分離させた状態で、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)を除去することにより、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)中に溶解、分散または沈殿した金属成分を一層高い効率にて除去することができる。
【0106】
下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)の排出速度(浮上分離槽の高さ換算での速度)は、前駆体組成物中に微細な気泡を発生させた状態における前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)の0.4倍~1.2倍であることが好ましく、0.6倍~1.1倍であることがより好ましく、0.8倍~1.0倍であることがさらに好ましい。また、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)の排出速度(浮上分離槽の高さ換算での速度)は、前駆体組成物中に微細な気泡を発生させた状態における前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)と略等しい速度であってよい。
【0107】
気泡を発生させた前駆体粒子を浮上分離させながら、前駆体組成物中の金属成分を除去する操作を、長時間継続して行うと、通常、気泡量が減少し、気泡による浮上促進効果が低減する。そのため、加圧・脱圧により気泡を発生させる操作と、前駆体粒子を浮上分離させながら、前駆体組成物中の金属成分を除去する操作を、繰り返し行うことが好ましい。具体的には、気泡による浮上促進効果を維持するために、気泡を発生させた前駆体粒子を浮上分離させながら、前駆体組成物中の金属成分を除去する操作を5~30分間行う毎に、加圧・脱圧により気泡を発生させる操作を行うことが好ましい。一連の操作は、金属成分の除去効率を一層高める観点から、浮上分離槽内部の温度を、0~100℃に制御しながら行うことが好ましく、20~80℃に制御しながら行うことがより好ましく、40~60℃に制御しながら行うことがさらに好ましい。
【0108】
また、残留金属量の一層少ない中空樹脂粒子を製造することができる観点から、前駆体組成物と洗浄液とを攪拌混合する操作を行ってもよい。たとえば、前駆体粒子を浮上分離させた状態で、下層としての前駆体粒子を含まない相(水相)を除去しながら、前駆体組成物に対し、洗浄液を補充する処理を行う場合には、水相の除去操作を一時的に停止し、必要に応じて洗浄液の補充操作も一時的に停止した後、前駆体組成物と洗浄液とを攪拌混合し、必要に応じて混合液を静置し、次いで、水相の除去操作および洗浄液の補充操作を再度行ってもよい。前駆体組成物と洗浄液との攪拌混合時間は、通常、1~60分間である。
【0109】
(E)溶剤除去工程
本発明の製造方法においては、浮上分離洗浄工程において金属成分の除去を行った前駆体組成物について、加熱乾燥を行うことにより、前駆体粒子に内包されている疎水性有機溶剤を除去する溶剤除去工程をさらに備えることが好ましい。
【0110】
また、本発明の製造方法においては、溶剤除去工程により溶剤除去を行う前に、浮上分離洗浄工程において金属成分の除去を行った前駆体組成物について、予め固液分離を行い、固液分離により、疎水性有機溶剤を内包する前駆体粒子を含む固形分を得ることが好ましい。すなわち、本発明の製造方法は、浮上分離洗浄工程の後、溶剤除去工程の前に、固液分離工程を有することが好ましい。固液分離工程において、前駆体粒子を含む固形分を得た後に、前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤を気中にて除去することにより、前駆体粒子内部の疎水性有機溶剤が空気と入れ替わり、気体で満たされた中空樹脂粒子を得ることができる。
【0111】
浮上分離洗浄工程において金属成分の除去を行った前駆体組成物を固液分離する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。固液分離の方法としては、たとえば、遠心ろ過法、遠心分離法、ろ過法、静置分離等が挙げられ、この中でも遠心ろ過法、遠心分離法、または、ろ過法を採用することができ、含水率の低い中空樹脂粒子を、高い生産効率にて製造することができる観点から、遠心ろ過法を採用することが好ましい。
【0112】
固液分離工程において、前駆体組成物を固液分離することにより、水系媒体から分離された前駆体粒子を得る際に、このような固液分離を、回転軸と、該回転軸と一体的に回転し、内周壁に濾布面を有する円筒形のバスケットとを備える遠心濾過機を用いて行うことが好ましい。より具体的には、遠心濾過機に備えられたバスケットを回転させながら、バスケットの内周壁に形成された濾布面に向けて、前駆体組成物を供給することにより遠心濾過を行うことで、濾布面上に、ケーキ(湿潤状態の前駆体粒子)を形成することにより行うことが好ましい。これにより、含水率の低い中空樹脂粒子を製造することができる。
【0113】
図2は、固液分離工程で用いることができる遠心濾過機の一例を示す図である。以下においては、図2に示す遠心濾過機を用いる場合を例示して、固液分離工程における操作について説明するが、図2に示す遠心濾過機を用いる場合に特に限定されるものではない。
【0114】
図2に示す遠心濾過機20は、円筒形の回転バスケット21を備えており、回転バスケット21は、内周壁に濾布22が貼着されているとともに、軸受部23を介して、不図示のモータにより回転可能となっている。そして、遠心濾過機20においては、回転バスケット21を回転させた状態としながら、給液管24より前駆体組成物を投入し、供給口25から、回転バスケット21の内周壁に貼着された濾布22の表面に向けて、前駆体組成物を供給することで、前駆体組成物の遠心濾過を行うものである。
【0115】
具体的には、供給口25から、回転バスケット21の内周壁に貼着された濾布22の表面に向けて、前駆体組成物を供給することで、回転バスケット21の遠心力により、水系媒体は、回転バスケット21の内周壁に貼着された濾布22を透過して、回転バスケット21の円周部に形成された穿孔を通って、ケーシング26内に排出され、濾液出口から機外に抜出される。そして、この際に、濾布22の表面には、湿潤状態の前駆体粒子から構成されるケーキ層が形成され、これにより、水系媒体から前駆体粒子を分離するものである。
【0116】
なお、図2に示す遠心濾過機20は、濾布22の表面に形成されたケーキを掻き取る掻取刃27、および掻き取ったケーキを回収するための回収シュート28を備えるものであるが、このような構成に特に限定されるものではない。
【0117】
回転バスケット21を回転させた状態としながら、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における、前駆体組成物の濾布22の表面への供給速度は、濾布22の表面の単位面積当たりの速度(濾布22の表面の単位面積当たりの1分間の供給量(kg))で、好ましくは1~40kg/min/mの範囲、より好ましくは5~35kg/min/mの範囲、さらに好ましくは10~30kg/min/mの範囲である。前駆体組成物の濾布22の表面への供給速度が上記範囲内であることにより、高い収率で、前駆体粒子を回収できる。また、湿潤状態の前駆体粒子から構成されるケーキ層を均一に形成できることにより、固液分離を良好に行うことができる。
【0118】
また、固液分離工程においては、前駆体組成物を、上記した重合工程において得られた状態のまま用いてもよいし、固形分濃度を調整したものを用いてもよい。固液分離工程において、回転バスケット21を回転させた状態としながら、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における、前駆体組成物の固形分の濃度は、5~50質量%の範囲とすることが好ましく、10~40質量%の範囲とすることがより好ましく、20~35質量%の範囲とすることがさらに好ましい。前駆体組成物の固形分の濃度を上記範囲とすることにより、前駆体組成物を遠心濾過機20への供給を良好に行うことができる。
【0119】
固液分離工程において、回転バスケット21を回転させた状態としながら、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における遠心効果を、100~1000Gの範囲とすることが好ましく、150~700Gの範囲とすることがより好ましく、200~600Gの範囲とすることがさらに好ましい。ここで、遠心効果は、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における、前駆体組成物に与えられる遠心力の強さを示す指標であり、回転バスケット21の回転数および回転半径により調整されるものである。前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における遠心効果を、上記範囲とすることにより、生産性を良好なものとしながら、固液分離工程における、前駆体粒子の回収率をより高めることができる。
【0120】
固液分離工程において、回転バスケット21を回転させた状態としながら、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における供給時間は、前駆体組成物の濾布22の表面への供給速度、および形成するケーキ層の厚みに応じて決定すればよいが、好ましくは1~30分、より好ましくは2~20分である。
【0121】
回転バスケット21の内周壁に貼着する濾布22としては、特に限定されないが、たとえば、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維等を用いることができる。また、濾布22としては、通気度が0.5~200cc/cm/minの範囲にあるものを用いることが好ましく、通気度が1~100cc/cm/minの範囲にあるものを用いることがより好ましく、通気度が10~80cc/cm/minの範囲にあるものを用いることがさらに好ましい。濾布22として、通気度が上記範囲にあるものを用いることにより、生産性を良好なものとしながら、固液分離工程における、前駆体粒子の回収率をより高めることができる。
【0122】
また、濾布22の通気度については、前駆体組成物に含まれる前駆体粒子の体積平均粒径(Dv)との関係で決定してもよく、前駆体粒子の体積平均粒径(Dv)に対する、通気度の値(通気度/前駆体粒子の体積平均粒径(Dv))が、好ましくは0.1~10cc/cm/min/μmであり、より好ましくは0.5~8cc/cm/min/μm、さらに好ましくは1~7cc/cm/min/μmである。前駆体粒子の体積平均粒径(Dv)に対する、通気度の値を上記範囲とすることにより、生産性を良好なものとしながら、固液分離工程における、前駆体粒子の回収率をより高めることができる。
【0123】
濾布22の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.3~1.0mmである。
【0124】
また、固液分離工程においては、濾布22の表面に、予め、湿潤状態の前駆体粒子から構成される基礎ケーキ層が形成された状態で、遠心濾過機20を用いた遠心濾過を行うことが好ましく、これにより、生産効率をより高めることができる。具体的には、基礎ケーキ層が形成された状態で、遠心濾過機20を用いた遠心濾過を行うことにより、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における遠心効果をより高いものとした場合でも、前駆体粒子の回収率を高いものとすることができることから、遠心効果をより高いものとすることにより、ケーキ層の含水率を低くすることができ、結果として、生産効率をより高めることができる。基礎ケーキ層を形成する方法としては、特に限定されないが、遠心濾過機20を用いた固液分離を行った後、形成されたケーキ層を回収する際に、一部のみを残存させておく方法が好適である。基礎ケーキ層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.5~3cm、より好ましくは1~2cmである。
【0125】
本発明の製造方法においては、固液分離工程において、回転バスケット21を回転させた状態としながら、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給した後、形成されたケーキ層に含まれる水系媒体を除去するために、脱液処理を行うことが好ましい(脱液工程)。脱液工程における脱液処理は、ケーキ層が形成された状態で、回転バスケット21を回転させることで、遠心力により、ケーキ層に含まれる水系媒体を除去する処理であり、脱液処理においては、遠心効果を固液分離工程より大きくすることが好ましく、100~5000Gの範囲とすることが好ましく、300~3000Gの範囲とすることがより好ましく、500~2000Gの範囲とすることがさらに好ましい。また、脱液処理における処理時間は、特に限定されないが、好ましくは1~60分、より好ましくは3~20分である。
【0126】
固液分離を行った後、予備乾燥工程等の任意の工程をさらに採用してもよい。予備乾燥工程としては、たとえば、固液分離工程後に得られた固形分を、乾燥機等の乾燥装置や、ハンドドライヤー等の乾燥器具により予備乾燥する工程が挙げられる。
【0127】
固液分離工程を行うことにより、濾布22の表面に形成されたケーキ層を回収することで、水系媒体から分離された前駆体粒子を得ることができる。
【0128】
溶剤除去工程における「気中」とは、厳密には、前駆体粒子の外部に液体分が全く存在しない環境下、および、前駆体粒子の外部に、疎水性有機溶剤の除去に影響しない程度のごく微量の液体分しか存在しない環境下を意味する。「気中」とは、前駆体粒子がスラリー中に存在しない状態と言い替えることもできるし、前駆体粒子が乾燥粉末中に存在する状態と言い替えることもできる。すなわち、溶剤除去工程においては、前駆体粒子が外部の気体と直に接する環境下で疎水性有機溶剤を除去することが望ましい。
【0129】
前駆体粒子中の疎水性有機溶剤を気中にて除去する方法は、特に限定されず、公知の方法が採用でき、たとえば、減圧乾燥法、加熱乾燥法、気流乾燥法が挙げられ、これらは併用してもよい。特に、加熱乾燥法を用いる場合には、加熱温度は疎水性有機溶剤の沸点以上、かつ前駆体粒子のシェル構造が崩れない最高温度以下とする必要がある。したがって、前駆体粒子中のシェルの組成と疎水性有機溶剤の種類によるが、加熱温度は、好ましくは50~200℃であり、より好ましくは70~200℃、さらに好ましくは100~200℃である。気中における乾燥操作によって、前駆体粒子内部の疎水性有機溶剤が、外部の気体により置換される結果、中空部を気体が占める中空樹脂粒子が得られる。
【0130】
乾燥雰囲気は特に限定されず、中空樹脂粒子の用途によって適宜選択することができる。乾燥雰囲気としては、たとえば、空気、酸素、窒素、アルゴン等が考えられる。また、いったん気体により中空樹脂粒子内部を満たした後、減圧乾燥することにより、一時的に内部が真空である中空樹脂粒子も得られる。
【0131】
また、浮上分離洗浄工程において金属成分の除去を行うことにより得られたスラリー状の前駆体組成物を固液分離せずに、前駆体粒子及び水系媒体を含むスラリー中で、前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤をスラリーの水系媒体に置換することにより、疎水性有機溶剤を除去してもよい。この方法においては、疎水性有機溶剤の沸点から35℃差し引いた温度以上の温度で、前駆体組成物に不活性ガスをバブリングすることにより、前駆体組成物中の前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤を除去することにより、中空樹脂粒子中の疎水性有機溶剤の残留量を低減できる。ここで、疎水性有機溶剤が、複数種類の疎水性有機溶剤を含有する混合溶剤であり、沸点を複数有する場合、溶剤除去工程での疎水性有機溶剤の沸点とは、混合溶剤に含まれる溶剤のうち最も沸点が高い溶剤の沸点、すなわち複数の沸点のうち最も高い沸点とする。
【0132】
前記前駆体組成物に不活性ガスをバブリングする際の温度は、中空樹脂粒子中の疎水性有機溶剤の残留量を低減する点から、疎水性有機溶剤の沸点から30℃差し引いた温度以上の温度であることが好ましく、20℃差し引いた温度以上の温度であることがより好ましい。なお、バブリングの際の温度は、通常、前記重合工程での重合温度以上の温度とする。特に限定されないが、バブリングの際の温度を、50℃以上100℃以下としてもよい。バブリングする不活性ガスとしては、特に限定されないが、たとえば、窒素、アルゴン等を挙げることができる。
【0133】
バブリングの条件は、疎水性有機溶剤の種類および量に応じて、前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤を除去できるように適宜調整され、特に限定されないが、たとえば、不活性ガスを1~3L/minの量で、1~10時間バブリングする方法が好ましい。この方法によれば、前駆体粒子に水系媒体が内包された水系スラリーが得られる。このスラリーを固液分離して得られた中空樹脂粒子を乾燥し、中空樹脂粒子内の水系媒体を除去することにより、中空部を気体が占める中空樹脂粒子が得られる。
【0134】
スラリー状の前駆体組成物を固液分離した後、前駆体粒子中の疎水性有機溶剤を気中にて除去することにより中空部が気体で満たされた中空樹脂粒子を得る方法と、前駆体粒子、および水系媒体を含むスラリー中で、当該前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤をスラリーの水系媒体に置換した後、固液分離し、前駆体粒子中の水系媒体を気中にて除去することにより中空部が気体で満たされた中空樹脂粒子を得る方法を比べると、前者の方法は、疎水性有機溶剤を除去する工程で中空樹脂粒子が潰れにくいという利点があり、後者の方法は、不活性ガスを用いたバブリングを行うことにより疎水性有機溶剤の残留が少なくなるという利点がある。
【0135】
その他、重合工程の後、固液分離工程の前に、浮上分離洗浄工程において金属成分の除去を行うことにより得られたスラリー状の前駆体組成物を固液分離せずに、前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤を除去する方法として、例えば、所定の圧力下(高圧下、常圧下又は減圧下)で、前駆体組成物から前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤を蒸発留去させる方法;所定の圧力下(高圧下、常圧下又は減圧下)で、前駆体組成物に窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスあるいは水蒸気を導入して蒸発留去させる方法;を用いてもよい。
【0136】
また、本発明の製造方法においては、中空部の再置換工程をさらに備えるものとしてもよい。
【0137】
中空部の再置換工程とは、中空樹脂粒子内部の気体や液体を、他の気体や液体に置換する工程である。このような置換により、中空樹脂粒子内部の環境を変化させたり、中空樹脂粒子内部に選択的に分子を閉じ込めたり、用途に合わせて中空樹脂粒子内部の化学構造を修飾したりすることができる。
【0138】
<中空樹脂粒子>
本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子の形状は、内部に中空部が形成されていれば特に限定されない。中空樹脂粒子の外形としては、特に限定されないが、製造の容易さから、球形が好ましい。また、本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、1または2以上の中空部を有していてもよいが、高い空隙率と機械強度との良好なバランスを維持するために、中空部を1つのみ有するものが好ましい。なお、中空樹脂粒子のシェル、および、中空部を2つ以上有する場合に隣接し合う中空部を仕切る隔壁は、多孔質状となっていてもよい。本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、平均円形度が、好ましくは0.950~0.995である。
【0139】
なお、中空樹脂粒子の外形は、たとえば、粒子をSEMまたはTEMで観察することにより確認することができる。また、中空樹脂粒子の内部の形状は、たとえば、粒子の断面のSEM観察または粒子のTEM観察により確認することができる。
【0140】
本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)は、好ましくは1~50μm、より好ましくは2~50μm、さらに好ましくは3~50μmである。また、粒度分布(体積平均粒径(Dv)/個数平均粒径(Dp))が、好ましくは1.05~2.0、より好ましくは1.05~1.5、さらに好ましくは1.05~1.3である。中空樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)および個数平均粒径(Dp)は、たとえば、レーザー回折式粒度分布測定装置により中空樹脂粒子の粒径を測定し、その個数平均および体積平均をそれぞれ算出し、得られた値をその粒子の個数平均粒径(Dp)および体積平均粒径(Dv)とすることができる。粒度分布は、体積平均粒径を個数平均粒径で除した値とする。
【0141】
また、本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子の空隙率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは50~95%、さらに好ましくは55~90%である。空隙率を上記範囲とすることにより、中空樹脂粒子を、軽量性、耐熱性および断熱性に優れたものとすることができる。
【0142】
中空樹脂粒子の空隙率は、中空樹脂粒子の見かけ密度Dと真密度Dから算出される。
中空樹脂粒子の見かけ密度Dの測定法は以下の通りである。まず、容量100cmのメスフラスコに約30cmの中空樹脂粒子を充填し、充填した中空樹脂粒子の質量を精確に秤量する。次に、中空樹脂粒子が充填されたメスフラスコに、気泡が入らないように注意しながら、イソプロパノールを標線まで精確に満たす。メスフラスコに加えたイソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(I)に基づき、中空樹脂粒子の見かけ密度D(g/cm)を計算する。
見かけ密度D=[中空樹脂粒子の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重]) (I)
見かけ密度Dは、中空部が中空樹脂粒子の一部であるとみなした場合の、中空樹脂粒子全体の比重に相当する。
【0143】
また、中空樹脂粒子の真密度Dの測定法は以下の通りである。中空樹脂粒子を予め粉砕した後、容量100cmのメスフラスコに中空樹脂粒子の粉砕片を約10g充填し、充填した粉砕片の質量を精確に秤量する。次いで、上記した見かけ密度Dの測定と同様にイソプロパノールをメスフラスコに加え、イソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(II)に基づき、中空樹脂粒子の真密度D(g/cm)を計算する。
真密度D=[中空樹脂粒子の粉砕片の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重]) (II)
真密度Dは、中空樹脂粒子のうちシェル部分のみの比重に相当する。上記測定方法から明らかなように、真密度Dの算出に当たっては、中空部は中空樹脂粒子の一部とはみなされない。
【0144】
中空樹脂粒子の空隙率(%)は、中空樹脂粒子の見かけ密度Dと真密度Dにより、下記式(III)により算出される。
空隙率(%)=100-(見かけ密度D/真密度D)×100 (III)
中空樹脂粒子の空隙率は、中空樹脂粒子の比重において中空部が占める割合であると言い替えることができる。
【0145】
本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、上記した本発明の製造方法により得られるものであるため、残留金属量が少ないものであるため、残留金属による吸水が抑制され、含水率が低減されたものである。そのため、本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、このような特性を活かし、各種ゴムや樹脂に配合して、ゴム組成物や樹脂組成物等のポリマー組成物とした場合に、得られるゴム組成物や樹脂組成物等のポリマー組成物について、耐水性を低下させることなく、中空樹脂粒子の添加効果(たとえば、軽量化)を好適に付与できるものである。
【0146】
<樹脂組成物等のポリマー組成物>
本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、樹脂やゴム等のポリマーと混合することで、樹脂組成物やゴム組成物等のポリマー組成物とすることができる。
【0147】
樹脂組成物等のポリマー組成物は、たとえば、本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子と、樹脂やゴム等のポリマーと、必要に応じて添加される添加剤等とを混合や混練することにより得られるものである。樹脂組成物等のポリマー組成物においては、中空樹脂粒子が中空部を有するものであるため、中空樹脂粒子を用いることにより、樹脂組成物等のポリマー組成物を用いて得られる成形体の軽量化を図ることができる。
【0148】
樹脂組成物等のポリマー組成物に用いられる樹脂としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、公知のものを用いることができ、特に限定されないが、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン;PA6、PA66、PA12等のポリアミド;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー(ABS)、アクリロニトリル-スチレンコポリマー(AS)、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステル、ポリテトラフルオロロエチレン、熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0149】
熱硬化性樹脂としては、公知のものを用いることができ、特に限定されないが、たとえば、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、アルキド系樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0150】
ポリマー組成物は、上記の樹脂に加えてゴムを含有してもよく、上記の樹脂に代えてゴムを含有してもよい。
【0151】
ポリマー組成物(ゴム組成物)に用いられるゴムとしては、特に限定されないが、たとえば、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-イソプレンブロックポリマー(SIS)、スチレン-ブタジエンブロックポリマー(SBS)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などのジエン系ゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマーゴム(EPDM)、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、フッ素ゴムなどのオレフィン系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。
【0152】
なお、樹脂組成物等のポリマー組成物が熱硬化性樹脂や架橋可能なゴム等を含有する場合は、必要に応じて、熱硬化性樹脂を熱により架橋させるための架橋剤、架橋可能なゴムを架橋させるための架橋剤、および、各成分を溶解若しくは分散させるための溶剤等をさらに含有していてもよい。架橋剤や溶剤としては公知のものを用いることができ、熱硬化性樹脂や架橋可能なゴム等の種類に応じて適宜選択される。
【0153】
樹脂組成物等のポリマー組成物中における、樹脂の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物等のポリマー組成物の総質量100質量%中、好ましくは70質量%以上99質量%以下である。また、樹脂組成物等のポリマー組成物中における、中空樹脂粒子の含有量は、特に限定されないが、好ましくは1質量%以上30質量%以下である。樹脂および中空樹脂粒子の含有量を上記範囲とすることにより、樹脂の備える特性を十分なものとしながら、樹脂組成物等のポリマー組成物を十分に軽量化することができる。
【0154】
樹脂組成物等のポリマー組成物には、本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子および樹脂の他に、必要に応じ、紫外線吸収剤、着色剤、熱安定剤、フィラー等の添加剤や、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維等の繊維をさらに配合してもよい。
【0155】
樹脂組成物等のポリマー組成物は、たとえば、本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子と、樹脂と、必要に応じて添加される添加剤や繊維とを混合し、次いで必要に応じて混練することにより得られる。混練は、公知の方法で行うことができ、特に限定されないが、たとえば、単軸混練機または二軸混練機等の混練装置を用いて行うことができる。
【0156】
また、樹脂として熱可塑性樹脂を使用する場合、樹脂組成物等のポリマー組成物を加熱して熱可塑性樹脂を溶融させて行う溶融混練により行うことが好ましく、溶融混練時の温度は、使用する熱可塑性樹脂を溶融できる温度であればよく、特に限定されないが、中空樹脂粒子の潰れを抑制する点から、250℃以下であることが好ましい。樹脂組成物等のポリマー組成物をペレットとする場合は、通常、樹脂組成物等のポリマー組成物中の樹脂が熱可塑性樹脂の場合であり、溶融混練後、押出成形、射出成形等の公知の成形方法により、樹脂組成物等のポリマー組成物をペレット状に成形することにより、樹脂組成物等のポリマー組成物をペレットとすることができる。特に、本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子を用いることにより、得られる樹脂組成物等のポリマー組成物の流れ性を充分なものとすることでき、これにより、成形時の圧力が高くなることなく成形を行うことができ、結果として、中空樹脂粒子の割れの発生を有効に抑制でき、中空樹脂粒子の添加効果(たとえば、軽量化)を充分なものとすることができるものである。
【0157】
一方、樹脂として熱硬化性樹脂を使用する場合、熱硬化性樹脂の硬化温度未満の温度環境下で混合又は混練を行えばよく、混合温度又は混練温度は、特に限定されないが、通常240℃以下である。樹脂組成物等のポリマー組成物が溶剤を含有する場合は、当該溶剤が揮発しない温度範囲、例えば、室温以上溶剤の沸点以下で混合すればよい。
【0158】
<成形体>
また、上記した樹脂組成物等のポリマー組成物を成形することで、成形体を得ることができる。
【0159】
樹脂として熱可塑性樹脂を含有する場合には、たとえば、樹脂組成物等のポリマー組成物を溶融混練した後、押出成形、射出成形、プレス成形等の公知の成形方法で所望の形状に成形することにより、成形体を得ることができる。なお、成形体を得る際に行われる溶融混練の方法は、上述した樹脂組成物等のポリマー組成物を得る際に行われる溶融混練の方法と同様であってよい。
【0160】
一方、樹脂として熱硬化性樹脂を含有する場合や、ゴムを含有する場合において、たとえば、支持体上に樹脂組成物等のポリマー組成物を塗布し、必要に応じて乾燥した後、加熱により硬化させることより、成形体を得ることができる。支持体の材料としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の樹脂;銅、アルミ、ニッケル、クロム、金、銀等の金属等を挙げることができる。樹脂組成物等のポリマー組成物を塗布する方法としては、公知の方法を用いることができ、たとえば、ディップコート、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、スリットコート、グラビアコート等が挙げられる。また、樹脂組成物等のポリマー組成物が溶剤を含有する場合は、塗布の後、乾燥させることが好ましい。乾燥温度は、樹脂組成物等のポリマー組成物を未硬化または半硬化の状態としたまま、溶剤を除去する観点から、樹脂組成物等のポリマー組成物が硬化しない程度の温度とすることが好ましく、通常、20℃以上200℃以下、好ましくは30℃以上150℃以下である。また、乾燥時間は、通常、30秒間以上1時間以下、好ましくは1分間以上30分間以下である。
【0161】
樹脂組成物等のポリマー組成物を硬化させるための加熱の温度は、熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜調整され、特に限定されないが、通常、30℃以上400℃以下、好ましくは70℃以上300℃以下、より好ましくは100℃以上200℃以下である。また、硬化時間は、5分間以上5時間以下、好ましくは30分間以上3時間以下である。加熱の方法は特に制限されず、例えば電気オーブン等を用いて行えばよい。
【0162】
成形体の形状は、特に限定されず、樹脂組成物等のポリマー組成物を用いて成形可能な各種形状とすることができ、たとえば、シート状、フィルム状または板状であってもよい。成形体が繊維を含む場合は、成形体中の繊維が不織布状であってもよい。また、成形体が繊維を含む場合は、上述したような樹脂および繊維を含有する繊維強化プラスチックに本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子を添加した樹脂組成物等のポリマー組成物の成形体であってもよい。
【0163】
本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子を含むゴム組成物や樹脂組成物等のポリマー組成物、これらの成形体の用途としては、例えば、自動車、電気、電子、建築、航空、宇宙等の各種分野に用いられる光反射材、断熱材、遮音材及び低誘電体等の部材、食品用容器、スポーツシューズ、サンダル等の履物、家電部品、自転車部品、文具、工具、3Dプリンター用フィラメント等を挙げることができる。
そのほか、アンダーコート材に要求される断熱性、緩衝性(クッション性)を満たし、感熱紙用途に即した耐熱性も満たす。また、本開示の中空樹脂粒子は、光沢、隠ぺい力等に優れたプラスチックピグメントとしても有用である。
【0164】
更に、本開示の中空樹脂粒子は、内部に香料、薬品、農薬、インキ成分等の有用成分を浸漬処理、減圧または加圧浸漬処理等の手段により封入できるため、内部に含まれる成分に応じて各種用途に利用することができる。
【実施例0165】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断りのない限り重量基準である。
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
【0166】
<前駆体組成物を構成する水相の粘度(μ)および密度(ρliquid)>
後述する前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)において、所定時間静置した後に、下層としての前駆体粒子を含まない相を抜き取った。そして、抜き取った相について、粘度計(BROOKFIELD社製、商品名:「LVDVI+」)を用いて、温度25℃、スピンドル1、回転数60rpmの条件下で、粘度を測定し、前駆体組成物を構成する水相の粘度(μ)とした。また、抜き取った相について、重量および体積を測定し、密度を算出して、前駆体組成物を構成する水相の密度(ρliquid)とした。なお、本測定における、上記所定時間は、前駆体粒子の浮上速度に応じて、適切な時間を選択した。
【0167】
<前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)>
粒径分布測定機(ベックマン・コールター社製、商品名:「マルチサイザー4e」)を用いて、個々の前駆体粒子の粒径をそれぞれ測定し、前駆体粒子を球形と仮定して体積平均をそれぞれ算出して、前駆体粒子の体積平均粒径(D1)を求めた。測定は温度25℃において行った。
【0168】
<前駆体粒子の密度(ρparticle)>
各実施例・比較例で得られた前駆体組成物の一部を用いて、浮上分離洗浄を行わないこと以外は、実施例1と同様にして、中空樹脂粒子を得た。得られた中空樹脂粒子について、後述する方法により、中空樹脂粒子の見かけ密度Dおよび空隙率を求め、これらの値から、前駆体粒子の密度(ρparticle)を算出した。すなわち、シクロヘキサンの真密度と中空樹脂粒子の空隙率との積を求め、求めた積を、中空樹脂粒子の見かけ密度Dに加えることで、前駆体粒子の密度(ρparticle)を求めた。
【0169】
<前駆体組成物中の前駆体粒子の終端浮上速度の理論値(V1)>
実施例1~5および比較例3,4における、前駆体組成物中の前駆体粒子の終端浮上速度の理論値(V1)を、以下のとおり求めた。すなわち、上記にて求めた、前駆体組成物を構成する水相の粘度(μ)、密度(ρliquid)、および、前駆体粒子の密度(ρparticle)を、上記式(1)に代入し、また、前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)をDに代入することにより、前駆体組成物中の前駆体粒子の終端浮上速度の理論値(V1)を求めた。
V=[(ρparticle-ρliquid)×g×D]÷(18×μ) (1)
【0170】
<前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)>
容量2000mLのメスシリンダーに前駆体組成物を2000mL入れ、十分に攪拌した後、静置した。静置後、前駆体粒子が完全に分散した状態から、前駆体粒子の浮上に伴い、時間経過とともに、上層としての前駆体粒子を含む相と、下層としての前駆体粒子を含まない相とに分離するので、上層および下層の境界面の高さの経時変化を、目視により記録した。そして、静置後、所定時間経過時の、上層および下層の境界面の高さを、経過時間で除することにより、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)を求めた。測定は温度25℃において行った。なお、本測定における、上記所定時間は、前駆体粒子の浮上速度に応じて、適切な時間を選択した。
【0171】
<前駆体粒子のストークス径(D2)>
上記にて求めた、前駆体組成物を構成する水相の粘度(μ)、密度(ρliquid)、および、前駆体粒子の密度(ρparticle)を、下記式(1)に代入し、また、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)を下記式(1)のVに代入することにより、前駆体粒子のストークス径(D2)を求めた。実施例1~5および比較例1~4においては、前駆体粒子のストークス径(D2)は、前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)以下であった。また、実施例6,7における前駆体粒子のストークス径(D2)を表1に示す。
V=[(ρparticle-ρliquid)×g×D]÷(18×μ) (1)
【0172】
<前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度(V)>
上記にて求めた、前駆体組成物を構成する水相の粘度(μ)、密度(ρliquid)、および、前駆体粒子の密度(ρparticle)を、上記式(1)に代入し、また、前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)および前駆体粒子のストークス径(D2)のうち、いずれか大きい方を、上記式(1)のDに代入することにより、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度(V)を求めた。なお、実施例1~5および比較例3~4については、前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)をDに代入し、実施例6,7については、前駆体粒子のストークス径(D2)をDに代入することにより、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度(V)を求めた。
V=[(ρparticle-ρliquid)×g×D]÷(18×μ) (1)
【0173】
<中空樹脂粒子の真密度(D)および空隙率>
中空樹脂粒子の見かけ密度Dおよび真密度Dを求め、求めた見かけ密度Dおよび真密度Dから、中空樹脂粒子の空隙率を算出した。測定は25℃において行った。
・見かけ密度Dの測定
まず、容量100cmのメスフラスコに約30cmの中空樹脂粒子を充填し、充填した中空樹脂粒子の質量を精確に秤量した。次に、中空樹脂粒子の充填されたメスフラスコに、気泡が入らないように注意しながら、イソプロパノールを標線まで精確に満たした。メスフラスコに加えたイソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(I)に基づき、中空樹脂粒子の見かけ密度D(g/cm)を計算した。
見かけ密度D=[中空樹脂粒子の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重]) (I)
・真密度Dの測定
予め中空樹脂粒子を粉砕した後、容量100cmのメスフラスコに中空樹脂粒子の粉砕片を約10g充填し、充填した粉砕片の質量を精確に秤量した。次いで、上記した見かけ密度の測定と同様にイソプロパノールをメスフラスコに加え、イソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(II)に基づき、中空樹脂粒子の真密度D(g/cm)を計算した。
真密度D=[中空樹脂粒子の粉砕片の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重]) (II)
・空隙率の算出
上記にて測定した見かけ密度Dを上記にて測定した真密度Dにより除し、さらに100を乗じた値を100から引いたものを、中空樹脂粒子の実測空隙率(%)とした。
【0174】
<中空樹脂粒子の残留金属量>
マイクロウェーブ(PerkinElmer社製、Multiwave 3000)を用いて、精秤した中空樹脂粒子10gの湿式分解を行い、得られた分解物についてICP発光分析装置(PerkinElmer社製、Optima 2100 DV型)を用いてICP発光分析を行い、金属の合計質量を測定した。なお、金属種の特定は、蛍光X線分析(XRF)による元素分析により行った。中空樹脂粒子の質量に対する、分解物中の金属の合計質量の割合を算出し、中空樹脂粒子中の金属含有量とした。
【0175】
<中空樹脂粒子の水分含有率>
最初に、マイクロシリンジで純水を10μl精秤し、この水を除去するのに必要な試薬滴定量より、カールフィッシャー試薬1ml当たりの水分量(mg)を算出した。次いで、中空樹脂粒子を100~200mg精秤し、30℃、80%RHの環境下に2時間放置した後、測定フラスコ内で5分間マグネチックスターラーにより充分分散させた。次いで、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製、MKA-3p)を使用して測定を開始し、滴定に要したカールフィッシャー試薬の滴定量(ml)を求め、下記式より、中空樹脂粒子の水分量および水分含有率を算した。
水分量[mg]=試薬消費量[ml]×試薬力価[mgHO/ml]
水分含有率[%]=(水分量[mg]/サンプル量[mg])×100
【0176】
<実施例1>
(A)混合液調製工程
まず、下記材料を混合した。得られた混合物を油相とした。
エチレングリコールジメタクリレート 45.5部
2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(油溶性重合開始剤、和光純薬社製、商品名:V-65) 3部
シクロヘキサン 54.5部
ロジン酸 0.006部
【0177】
また、上記とは別に、攪拌槽において、イオン交換水230部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)7.8部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属)5.5部を溶解した水溶液を、攪拌下、一定の速度にて添加することで反応させた。次いで、水酸化ナトリウムの水溶液の添加を終了した後、60分間、混合することで、水酸化マグネシウムの水分散液を得た。水酸化マグネシウムの水分散液は、イオン交換水280部に対し、水酸化マグネシウム4部を含有するものであった。得られた水酸化マグネシウムの水分散液を水相とした。
【0178】
次いで、上記にて調製した油相と、上記にて調製した水相としての水酸化マグネシウムの水分散液とを混合することにより、混合液を調製した。
【0179】
(B)懸濁工程
次いで、上記にて得られた混合液を用いて、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)により、回転数15,000rpmの条件下で攪拌して懸濁させることにより、シクロヘキサンを内包したモノマー液滴が水中に分散した懸濁液を調製した。
【0180】
(C)重合工程
次いで、上記にて得られた懸濁液を、窒素雰囲気で65℃の温度条件下で4時間攪拌し、重合反応を行った。この重合反応により、シクロヘキサンを内包した前駆体粒子を含む前駆体組成物を得た。得られた前駆体組成物を用いて、前駆体組成物を構成する水相の粘度(μ)および密度(ρliquid)、前駆体粒子の体積平均一次粒径(D1)、前駆体粒子の密度(ρparticle)、前駆体組成物中の前駆体粒子の終端浮上速度の理論値(V1)、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)、前駆体粒子のストークス径(D2)、ならびに、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度(V)を求めた。結果を表1に示す。
【0181】
(D)浮上分離洗浄工程
上記にて得られた前駆体組成物に対し、pH=5になるまで硫酸を添加することで酸洗浄を行った。酸洗浄を行った前駆体組成物を1m計量し、直径2.4m、高さ3mの円柱型の浮上分離槽に入れ、30分間静置させた。その後、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)と同じ速度(ただし、浮上速度の実測値(V2)が2m/h以上の場合は、2m/h)で、浮上分離槽の底から清澄液を排出し、清澄液の排出速度と同じ速度で、前駆体組成物の上部から水を噴霧した。この浮上分離洗浄操作を合計20時間継続することによって、洗浄後前駆体組成物を得た。すなわち、浮上速度の実測値(V2)である0.069m/hの条件にて、清澄液の排出および水の噴霧を行った(いずれも、浮上分離槽の高さ換算での速度である)。
【0182】
(E)固液分離工程、脱液工程および溶剤除去工程
上記にて得られた洗浄後前駆体組成物について、ポリプロピレン製の濾布(通気量20cc/cm/min、濾布面積0.36m)を取り付けた遠心濾過機(タナベウィルテック社製、商品名CT-20-20型」)を使用して固液分離工程を行った。具体的には、回転バスケットを遠心効果300Gにて回転させながら、洗浄後前駆体組成物を、濾布面に対し、10kg/分の速度(濾布の表面の単位面積当たりの速度で、27.9kg/min/m)で2分間供給することで、固液分離させることで、ケーキ層を形成させた(固液分離工程)。洗浄後前駆体組成物の供給を終了した後、回転バスケットを遠心効果1000Gで5分間回転させることで、脱液処理を行った(脱液工程)。そして、得られた固形分を乾燥機にて40℃の温度で乾燥させることで、シクロヘキサンを内包した前駆体粒子を得た。
【0183】
上記にて得られた前駆体粒子を、真空乾燥機にて、200℃で6時間の条件にて、真空条件下で加熱処理することで、実施例1の中空樹脂粒子を得た(溶剤除去工程)。得られた中空樹脂粒子の走査型電子顕微鏡による観察結果から、粒子が球状であり、かつ中空部を有することを確認した。得られた中空樹脂粒子の真密度(D)および空隙率、中空樹脂粒子の残留金属量、ならびに、中空樹脂粒子の水分含有率を求めた。結果を表1に示す。
【0184】
<実施例2>
攪拌槽において、イオン交換水230部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)7.8部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属)5.5部を溶解した水溶液を、攪拌下、一定の速度にて添加することで反応させた。次いで、水酸化ナトリウムの水溶液の添加を終了した後、90分間混合することで、水酸化マグネシウムの水分散液を得た。水酸化マグネシウムの水分散液は、イオン交換水280部に対し、水酸化マグネシウム4部を含有するものであった。得られた水酸化マグネシウムの水分散液を水相として用いた以外は、実施例1と同様にして、前駆体組成物を得て、中空樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0185】
<実施例3>
攪拌槽において、イオン交換水230部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)7.8部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属)5.5部を溶解した水溶液を、攪拌下、一定の速度にて添加することで反応させた。次いで、水酸化ナトリウムの水溶液の添加を終了した後、360分間、混合することで、水酸化マグネシウムの水分散液を得た。水酸化マグネシウムの水分散液は、イオン交換水280部に対し、水酸化マグネシウム4部を含有するものであった。得られた水酸化マグネシウムの水分散液を水相として用いた以外は、実施例1と同様にして、中空樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0186】
<実施例4>
エチレングリコールジメタクリレートの使用量を28部に、シクロヘキサンの使用量を72部に、それぞれ変更したこと以外は、実施例3と同様にして、中空樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0187】
<実施例5>
攪拌槽において、イオン交換水230部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)7.8部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属)5.5部を溶解した水溶液を、攪拌下、一定の速度にて添加することで反応させた。次いで、水酸化ナトリウムの水溶液の添加を終了した後、24時間混合することで、水酸化マグネシウムの水分散液を得た。水酸化マグネシウムの水分散液は、イオン交換水280部に対し、水酸化マグネシウム4部を含有するものであった。得られた水酸化マグネシウムの水分散液を水相として用いた以外は、実施例4と同様にして、中空樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0188】
<実施例6>
(A)混合液調製工程
まず、下記材料を混合した。得られた混合物を油相とした。
ジビニルベンゼン 25.2部
エチルビニルベンゼン 1.0部
2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(油溶性重合開始剤、富士フイルム和光純薬社製、商品名:V-70) 0.6部
ロジン酸(軟化点150℃以上、酸価:150~160mgKOH/g) 0.002部
ヘキサン(疎水性溶剤) 73.4部
【0189】
また、上記とは別に、攪拌槽において、イオン交換水225部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)15.67部を溶解した水溶液に、イオン交換水55部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属)10.97部を溶解した水溶液を、攪拌下、一定の速度にて添加することで反応させた。次いで、水酸化ナトリウムの水溶液の添加を終了した後、40分間、混合することで、水酸化マグネシウムの水分散液を得た。水酸化マグネシウムの水分散液は、イオン交換水280部に対し、水酸化マグネシウム4部を含有するものであった。得られた水酸化マグネシウムの水分散液を水相とした。
得られた水相と油相を混合することにより、混合液を調製した。
【0190】
(B)懸濁工程
上記混合液調製工程で得た混合液を、分散機(プライミクス社製、商品名:ホモミクサー)により、回転数4,000rpmの条件下で1分間攪拌して懸濁させ、疎水性溶剤を内包した単量体組成物の液滴が水中に分散した懸濁液を調製した。
【0191】
(C)重合工程
上記懸濁工程で得た懸濁液を、窒素雰囲気で、1時間30分かけて65℃まで昇温し、その後65℃の温度条件下で4時間攪拌して重合反応を行った。この重合反応により、疎水性溶剤を内包した前駆体粒子が水中に分散したスラリー液である前駆体組成物を得た。得られた前駆体組成物を用いて、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0192】
(D)浮上分離洗浄工程、(E)固液分離工程、脱液工程および溶剤除去工程
上記にて得られた前駆体組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、中空樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0193】
<実施例7>
実施例6と同様にして、前駆体組成物を得た。得られた前駆体組成物を用い、浮上分離洗浄操作の継続時間を20時間から1時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、中空樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0194】
<実施例8>
(D)浮上分離洗浄工程
実施例1と同様にして、前駆体組成物を得た。得られた前駆体組成物に対し、pH=5になるまで硫酸を添加することで酸洗浄を行った。酸洗浄を行った前駆体組成物を1m計量し、直径2.4m、高さ3mの円柱型の浮上分離槽に入れた。浮上分離槽に圧縮空気を注入し、浮上分離槽の内部を、圧力(ゲージ圧)が0.4MPaとなるまで加圧した。その後、圧力を開放し、浮上分離槽の内部を常圧に戻した。このような加圧・脱圧操作により、前駆体組成物中に気泡が発生し、発生した気泡の表面に、1または2以上の前駆体粒子が付着し、気泡と前駆体粒子とが一体となって浮上するようになった。その結果、前駆体粒子の実体的な粒径が大きくなり、かつ、実体的な前駆体粒子の密度(ρparticle)が小さくなった。加圧・脱圧操作後の前駆体組成物について、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度の実測値(V2)を求めた。結果を表1に示す。なお、加圧・脱圧操作後の実体的な前駆体粒子の密度(ρparticle)は、240kg/mであると見積もられた。また、この実体的な密度を用いて算出されたストークス径(D2)は、148μmであった。
【0195】
脱圧操作の後、2m/hの速度(浮上分離槽の高さ換算での速度である)で、浮上分離槽の底から清澄液を排出し、清澄液の排出速度と同じ速度で、前駆体組成物の上部から水を噴霧した。この浮上分離洗浄操作を20分間継続した後、再度、上記と同様に、加圧・脱圧操作を行った。脱圧操作の後、さらに浮上分離洗浄操作を20分間行った。このようにして、加圧・脱圧操作と浮上分離洗浄操作とを、合計3回ずつ繰り返し行い(すなわち、浮上分離洗浄操作を合計1時間行い)、洗浄後前駆体組成物を得た。
【0196】
(E)固液分離工程、脱液工程および溶剤除去工程
上記にて得られた洗浄後前駆体組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、中空樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0197】
<実施例9>
攪拌槽において、イオン交換水230部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)7.8部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属)5.5部を溶解した水溶液を、攪拌下、一定の速度にて添加することで反応させた。水酸化ナトリウムの水溶液の添加を終了した後には混合せずに(混合時間0分)、水酸化マグネシウムの水分散液を得た。水酸化マグネシウムの水分散液は、イオン交換水280部に対し、水酸化マグネシウム4部を含有するものであった。得られた水酸化マグネシウムの水分散液を水相として用いた以外は、実施例1と同様にして、前駆体組成物を得た。得られた前駆体組成物を用いて、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0198】
上記にて得られた前駆体組成物を用いた以外は、実施例8と同様にして、中空樹脂粒子を得て、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。なお、実施例9において、加圧・脱圧操作後の前駆体粒子の実体的な見かけ密度(ρparticle)は、240kg/mであると見積もられた。また、この実体的な見かけ密度を用いて算出されたストークス径(D2)は、118μmであった。
【0199】
<比較例1>
実施例1と同様にして、前駆体組成物を得た。得られた前駆体組成物に対して、浮上分離洗浄工程を行わない以外は、実施例1と同様にして、中空樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0200】
<比較例2>
実施例6と同様にして、前駆体組成物を得た。得られた前駆体組成物に対して、浮上分離洗浄工程を行わない以外は、実施例1と同様にして、中空樹脂粒子を得た。実施例1と同様にして、中空樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0201】
<比較例3>
攪拌槽において、イオン交換水230部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)7.8部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属)5.5部を溶解した水溶液を、攪拌下、一定の速度にて添加することで反応させて、水酸化マグネシウムの水分散液を得た。水酸化マグネシウムの水分散液は、イオン交換水280部に対し、水酸化マグネシウム4部を含有するものであった。得られた水酸化マグネシウムの水分散液を水相として用いた以外は、実施例1と同様にして、中空樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0202】
<比較例4>
攪拌槽において、イオン交換水230部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)7.8部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属)5.5部を溶解した水溶液を、攪拌下、一定の速度にて添加することで反応させた。次いで、水酸化ナトリウムの水溶液の添加を終了した後、20分間、混合することで、水酸化マグネシウムの水分散液を得た。水酸化マグネシウムの水分散液は、イオン交換水280部に対し、水酸化マグネシウム4部を含有するものであった。得られた水酸化マグネシウムの水分散液を水相として用いた以外は、実施例1と同様にして、中空樹脂粒子を得た。また、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0203】
【表1】
【0204】
表1に示すように、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度Vが0.1m/h以上である前駆体組成物を調製した後、前駆体組成物中の前駆体粒子を浮上分離させながら、前駆体組成物中の金属成分を除去することにより、浮上分離洗浄を行う浮上分離洗浄工程を有する製造方法により、残留金属量の少ない中空樹脂粒子を、高い生産効率にて製造することができた(実施例1~9)。また、このような浮上分離洗浄工程を有する製造方法により、残留金属量の低減に要する洗浄時間を短縮することも可能であることが確認できた(実施例7~9)。
【0205】
一方、浮上分離洗浄工程を有しない場合や、前駆体組成物中の前駆体粒子の浮上速度Vが0.1m/h未満である場合には、中空樹脂粒子の残留金属量が多くなった(比較例1~4)。
図1
図2