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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068362
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】神経細胞機能接続の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20230510BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALN20230510BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N5/0793
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179391
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩本 周作
(72)【発明者】
【氏名】林 和花
(72)【発明者】
【氏名】村松 功一
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QS39
4B065AA90X
4B065CA46
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】神経細胞集団のダメージに対する機能修復を評価するモデルとして用いることのできる神経細胞機能接続の評価方法を提供する。
【解決手段】インビトロで神経細胞の機能接続を評価する方法であって、互いに離間して配置され、神経突起を介して連結された複数の細胞集団に対して、前記神経突起を切断する切断工程と、前記神経突起を切断された神経細胞の動態を観察する観察工程と、前記切断工程の前後に、前記複数の細胞集団それぞれの電気活動を測定する電気活動測定工程と、を含み、前記細胞集団のうち少なくとも一つは、神経細胞を含んでいる神経細胞機能接続の評価方法である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロで神経細胞の機能接続を評価する方法であって、
互いに離間して配置され、神経突起を介して連結された複数の細胞集団に対して、
前記神経突起を切断する切断工程と、
前記神経突起を切断された神経細胞の動態を観察する観察工程と、
前記切断工程の前後に、前記複数の細胞集団それぞれの電気活動を測定する電気活動測定工程と、
を含み、
前記細胞集団のうち少なくとも1つは、神経細胞を含んでいる、神経細胞機能接続の評価方法。
【請求項2】
前記観察工程は、神経細胞の動態に対してカメラによる画像観察を行う、請求項1に記載の神経細胞機能接続の評価方法。
【請求項3】
前記複数の細胞集団の全ては、神経細胞を含んでいる、請求項1又は2に記載の神経細胞機能接続の評価方法。
【請求項4】
前記神経細胞は、幹細胞から分化誘導されたものである、請求項1から3のいずれか1項に記載の神経細胞機能接続の評価方法。
【請求項5】
前記複数の細胞集団は、全て幹細胞に由来するものである、請求項1から4のいずれか1項に記載の神経細胞機能接続の評価方法。
【請求項6】
前記幹細胞は、人工多能性幹細胞である、請求項1から5のいずれか1項に記載の神経細胞機能接続の評価方法。
【請求項7】
前記電気活動測定工程は、前記切断工程の前と後にそれぞれ少なくとも1回の測定を行う、請求項1から6のいずれか1項に記載の神経細胞機能接続の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビトロで神経細胞の機能接続を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳は、複数種類の神経細胞が集団で領域を形成し、複雑に相互作用している構造を持つ生体組織である。脳の各領域において興奮性及び抑制性の神経細胞が適切なバランスで配置され、それらの接続構造であるシナプスを介して情報伝達を可能にする回路網が形成されることで、脳は機能する。
【0003】
ここで、損傷した中枢神経系(脳や脊髄)が再生しないということは一般的に知られている。このことは、神経細胞の特殊性(分裂能がないことや成体神経細胞には軸索再生能がないこと)に起因すると考えられている。中枢神経系の損傷は患者のQOLにとりわけ大きく影響を与えてしまうため、中枢神経系の再生には大きな注目がなされている。
【0004】
生体内で起こる現象を生体外で予測するために、動物やヒト細胞を生体外で培養したものが広く利用されている。特に、iPS細胞由来の分化細胞が普及してきたことから、従来は取得の難しかったヒトの神経細胞を研究の対象とすることができ、神経細胞の詳細な研究に取り組むことができる。
【0005】
インビトロモデルの細胞組織に機能を持たせる方法として、細胞の空間制御がある。フォトリソグラフィーをはじめとする微細加工技術を適用することで、細胞体や神経細胞の構成要素である神経突起を自在に配置する事ができるようになってきており、より複雑な細胞組織モデルの作成ができることが既に知られている。
【0006】
特許文献1には、インビトロで細胞を評価する方法であって、互いに離間して配置され、神経突起を介して互いに連結された複数の細胞集団において、少なくとも2つの細胞集団の電気活動をそれぞれ測定することを含み、電気活動を測定される前記少なくとも2つ細胞集団のうち少なくとも1つは、少なくとも1種の神経細胞を含む細胞集団であり、前記少なくとも2つの細胞集団は、電気活動が測定される時点において互いに異なる電気活動特性を示す、インビトロで細胞を評価する方法、細胞基板、及び細胞基板の製造方法が記載されている。この技術は、異なる電気活動特性を有する細胞集団同士の電気生理学的な相互作用を評価することができるインビトロで細胞を評価する方法を提供しようとするものである。
【0007】
非特許文献1には、軸索の切断や神経細胞の配置を、マルチノードネットワークとして可能とする、ラボオンチップのプラットフォームが開示されている。
【0008】
しかし、従来の神経細胞の再生に関わるインビトロの評価系において、神経細胞集団間の機能接続の評価モデルが不足していた。例えば、インビトロで神経細胞集団間の機能接続を破壊した後に、人工的に外部から接続をつなぐ方法はあったが、自発的な修復(機能再接続)に関する研究は充分に行われていない。本発明者らによる特許文献1では、神経細胞を含む細胞集団同士の機能接続を破壊した後に、自発的な修復が行われた結果と、活動電位のデータを報告している。特許文献1では、離間した細胞集団が神経突起で繋がることで電気的に接続し、神経突起の切断により電気的接続が遮断される。また、修復することで接続が回復することを電気的に評価している。しかし、特許文献1及び非特許文献1では、その神経細胞集団の神経突起の修復の過程を示すデータを得ることができていなかった。
【0009】
また、げっ歯類では脊髄損傷に関する研究が行われているが、細胞レベルの電気的な機能接続評価はされていない。すなわち、細胞レベルではなく、さらに高度な評価である行動(locomotion)の評価がなされているのが現状である。行動評価に加えて、細胞レベルの修復メカニズムを理解することが好ましく、これらを理解することで、神経機能の再生を促進する薬剤候補の選定が可能となってくるため、これらの知見を得ることが望まれている。
また、前記げっ歯類による研究でも、脳神経の場合の機能接続評価は困難であった。さらに、動物実験では種差の問題や動物愛護、多量に実験を行うことができないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、神経細胞集団のダメージに対する機能修復を評価するモデルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る、神経細胞機能接続の評価方法は、インビトロで神経細胞の機能接続を評価する方法であって、互いに離間して配置され、神経突起を介して連結された複数の細胞集団に対して、前記神経突起を切断する切断工程と、前記神経突起を切断された神経細胞の動態を観察する観察工程と、前記切断工程の前後に、前記複数の細胞集団それぞれの電気活動を測定する電気活動測定工程と、を含み、前記細胞集団のうち少なくとも一つは、神経細胞を含んでいる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、神経細胞集団のダメージに対する機能修復を評価するモデルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る細胞基板を示す平面図である。
図2図1に示すII-II線で切断した細胞基板を示す断面図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る細胞基板を示す平面図である。
図4】実施例1における試験フローを示す図である。
図5】実施例1における細胞の配置を示す写真図及び模式図である。
図6】実施例1における電気活動の測定データを示す図である。
図7】実施例2における使用治具を示す模式図、細胞の配置及び画像観察の写真を示す図である。
図8】実施例2における画像観察の写真を示す図である。
図9】実施例2における画像観察の写真を示す別の図である。
図10】実施例2における画像観察による解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<神経細胞機能接続の評価方法>
1実施形態において、本発明は、インビトロで神経細胞の機能接続を評価する方法であって、互いに離間して配置され、神経突起を介して連結された複数の細胞集団に対して、前記神経突起を切断する切断工程と、前記神経突起を切断された神経細胞の動態を観察する観察工程と、前記切断工程の前後に、前記複数の細胞集団それぞれの電気活動を測定する電気活動測定工程と、を含み、前記細胞集団のうち少なくとも一つは、神経細胞を含んでいる神経細胞機能接続の評価方法を提供する。
【0015】
神経細胞機能接続とは、神経細胞同士、又は神経細胞と他の細胞について、相互に物理的に接続することで機能的な作用が生じていることを指す。接続には物理的な接続が広く含まれるが、特に、神経細胞から伸展する神経突起の部位が、他の細胞と接続していることを指す。機能接続とは、前記物理的な接続によって、電気的、化学的等の機能面において相互の作用が生じ、それらの作用を介して複数の細胞による機能が生じていることを指す。特に、電気的な作用が生じていることを指す。
【0016】
評価方法とは、細胞に関する前記物理的な状態と、機能的な状態についての情報を得、解析する方法を広く指す。好ましくは、前記複数の状態を複合的に評価し、解析することを指す。
【0017】
実施例において後述するように、本実施形態においては、離間した神経細胞集団間の機能接続切断後において、修復メカニズムを示す機能修復の過程(神経突起の動態観察)と機能修復の結果(細胞集団間の電気的接続の状態)を評価しているので、これらの評価を併せて行うことで、細胞の修復における動態と機能的接続の関連についての評価を得ることができる。そのため、本実施形態のいては、神経細胞集団のダメージに対する機能修復を評価するモデルを提供することができる。
【0018】
[細胞集団]
本明細書において、「細胞集団」とは、2個以上の細胞を含む細胞の集まりであり、例えば、平面的に細胞同士が集まった状態のものであってもよく、3次元的に細胞同士が接着して構成された細胞塊であってもよい。また、単一種の細胞により形成されていてもよいし、複数種の細胞が含まれていてもよい。また、細胞集団は、集団として特定の電気活動特性を示す。
【0019】
細胞集団は、互いに離間して配置され、神経突起を介して連結されている。
細胞集団の離間距離は、神経突起を介した連結が達成される限り特に限定されないが、100μm以上が好ましい。離間距離が前記下限値以上であることで、細胞集団同士の各活動電位が混同せず、より精度が高く測定することができる。一方、距離の上限は、神経突起が伸長できる距離を考慮すると、例えば、3cm程度とすることができる。典型的には、100μm以上1cm以下程度が好ましい。
【0020】
また、細胞集団を配置する際には、後述する実施例のように、細胞集団をそれぞれ別々の培養空間に配置し、培養空間同士が、μmオーダー(少なくとも一片の大きさが1000μm未満)のマイクロトンネルを介して接続されていることも好ましい。マイクロトンネルには細胞の細胞体は進入できず、細胞突起は進入することができるため、細胞同士の接続が細胞突起同士で行われることになり、また、細胞と神経突起同士の空間的な位置をより詳細にコントロールすることができるので、細胞の神経突起の動態のより詳細な検討が可能となる。
【0021】
電気活動が測定される細胞集団のうち、少なくとも1つの細胞集団には、神経細胞が含まれている。神経細胞としては、例えば末梢神経と中枢神経に大別することもできる。末梢神経としては、例えば、感覚神経細胞、運動神経細胞、自律神経細胞が挙げられる。中枢神経としては、例えば、介在神経細胞、投射ニューロンが挙げられる。投射ニューロンとしては、例えば、皮質ニューロン、海馬ニューロン、扁桃体ニューロン等が挙げられる。また、中枢神経細胞は、興奮性ニューロンと抑制性ニューロンとに大別することもできる。中枢神経系で主に興奮性伝達を担うグルタミン酸作動性ニューロン、主に抑制性伝達を担うGABA(γ-aminobutyric acid)作動性ニューロン等が挙げられる。その他神経調節物質を放出するニューロンとして、コリン作動性ニューロン、ドーパミン作動性ニューロン、ノルアドレナリン作動性ニューロン、セロトニン作動性ニューロン、ヒスタミン作動性ニューロン等が挙げられる。
【0022】
神経細胞が含まれる少なくとも1つの細胞集団以外の他の細胞集団には、前記神経細胞が含まれる少なくとも1つの細胞集団と神経突起を介して連結し、該少なくとも1つの細胞集団からの伝達シグナルを受信可能な細胞が含まれる。かかる伝達シグナルを受信可能な細胞としては、例えば神経細胞、筋細胞等が挙げられる。筋細胞としては、例えば、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞等が挙げられる。これら細胞を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。前記他の細胞集団に含まれる伝達シグナルを受信可能な細胞としては、評価系全体でネットワークを構築できるという観点から、神経細胞であることが好ましい。すなわち、全ての細胞集団が神経突起を介して相互にシグナルをやり取り可能となることから、評価系の全ての細胞集団に神経細胞が含まれることが好ましい。
【0023】
これらの細胞集団に含まれる細胞は、初代培養細胞であってもよく、継代培養細胞であってもよく、株化された細胞であってもよく、不死化細胞であってもよく、各種遺伝子編集を施した細胞であってもよい。また、所望の細胞を多く含む細胞集団を得やすいという観点から、幹細胞から分化誘導された細胞が好ましい。幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、臍帯血由来幹細胞、神経幹細胞等が挙げられる。人工多能性幹細胞としては、例えば、核移植胚性幹細胞(ntES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)等が挙げられる。間葉系幹細胞としては、例えば、骨髄間葉系幹細胞、脂肪組織由来間葉系幹細胞等が挙げられる。中でも、幹細胞としては、iPS細胞が好ましい。iPS細胞は健常者由来のものであってもよく、各種神経系の疾患を有する患者由来のものであってもよい。また、各種遺伝子編集が施されたものであってもよく、例えば、遺伝子編集を施し各種神経系の疾患の原因又はリスク因子となる遺伝子を持つものであってもよい。iPS細胞が各種神経系の疾患を有する患者由来の細胞である場合には、当該神経系の疾患モデルを構築するために利用することができる。神経系の疾患としては、特別に限定されないが、例えば、神経変性疾患、自閉症、てんかん、注意欠陥-多動性障害(Attention-deficit hyperactivity disorder;ADHD)、統合失調症、双極性障害等が挙げられる。神経変性疾患としては、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症等が挙げられる。
【0024】
細胞の由来となる動物種としては、限定されるものではないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等が挙げられる。中でも、哺乳動物が好ましく、ヒトが特に好ましい。
【0025】
細胞集団に含まれる細胞は、上述のとおり生体から採取されたものであってもよく、株化され培養されたものであってもよく、幹細胞から分化誘導されたものであってもよい。細胞集団としては、上記のとおり得られた細胞をそのまま用いてもよく、さらに他の細胞を混合して形成してもよい。所望の特性を有する細胞集団を得やすいという観点から、細胞集団は幹細胞に由来するもの、すなわち幹細胞を分化誘導して得られる細胞集団であることが好ましい。本実施形態の評価方法に用いる場合、所望の評価系を構築しやすいという観点から、全ての細胞集団が幹細胞に由来するものであることが好ましい。
【0026】
複数の細胞集団が神経突起を介して連結しているとは、特に機能接続していることを指す。機能接続とは、細胞同士が神経突起を介して電気信号をやりとり可能な状態であることを指す。
【0027】
[切断工程]
本発明の一態様において、切断工程は、細胞集団を連結する神経突起の少なくとも1つを切断することを含む。
【0028】
切断工程は、細胞集団同士を連結する神経突起のうち、一部を切断してもよい。一部を切断することで、本神経細胞機能接続の評価方法により、細胞集団の一部の連結が切断され一部が残っている際の修復等の挙動のデータを得ることができる。また、切断工程は、細胞集団同士を連結する神経突起のうち、全部を切断してもよい。全部を切断することで、本神経細胞機能接続の評価方法により、細胞集団の全部の連結が切断された際の修復等の挙動のデータを得ることができる。これらのデータを適宜選択し、また比較することで、神経組織の損傷及びその修復に関するデータを得ることができる。
【0029】
切断工程は、前記神経突起の切断を行うことのできる手段であれば適宜使用できる。例えば、機械的な切断手段、又は熱的な切断手段などを用いることができる。機械的な切断手段としては、例えばメスやニードル等による切断を用いることができる。これらの切断手段は、自動制御機器、例えばマニピュレーター等を併用して切断を制御してもよい。
【0030】
[観察工程]
本実施形態は、前記切断工程の後に、前記神経突起を切断された神経細胞の動態を観察する観察工程を含む。
【0031】
前記観察工程は、神経細胞の動態を観察できる手段であれば適宜用いてもよい。例えば、画像観察、光センサーや電気センサーによる観察、透過率の観察、光イメージング、電気的挙動の観察などを行ってもよい。画像の観察としては、各種の染色手段や波長などを介してもよい。光を電気信号に変換するセンサーなどを用いてもよく、このようなセンサーとしてはCMOSセンサーなどが挙げられる。本実施形態では特に、神経細胞の動態に対してカメラによる画像観察を行うことができる。
【0032】
観察工程は、連続的に行われていてもよく、断続的に行われていてもよい。連続的な工程としては、切断の後の一定の時間の観察を少なくとも1回行ってもよい。また、連続的な工程として、切断の前後を通じ連続した少なくとも1回の測定の工程を含んでいてもよい。断続的な工程としては、短時間の測定を切断の後に少なくとも1回行ってもよい。
【0033】
例えば、断続的な観察を複数回行う場合は、切断工程の直後に1回の観察と、一定の期間を置いてその後に複数回の観察を行うことで、切断した神経突起が修復される過程を観察することができる。観察の期間及び複数回の回数は、細胞の修復時間や培養時間に応じて適宜選択してよい。
【0034】
画像観察における連続的な工程では、例えば動画撮影、タイムラップス等の観察を行うことができる。断続的な工程としては、例えば静止画撮影を行うことができる。
【0035】
また、画像観察としては、画像内における電気的な挙動を観察してもよい。例えば、電気測定、電極測定の各種の手段を用いることができる。さらに具体例としては、細胞の下に配置されたセンサーによって、軸索領域をトレースする手段などが考えられる。これらの手段としては、トンネルCMOS電極などを用いることができる。
【0036】
[電気活動測定工程]
本実施形態は、前記切断工程の前後に、前記複数の細胞集団それぞれの電気活動を測定する電気活動測定工程を含む。電気活動を測定するとは、後述するように、電気活動特性を検知、測定及び解析する工程を広く含み、望ましくは細胞活動に伴う上記の電気活動特性の経時的変化を測定することを含む。
【0037】
前記切断工程の前後に行うとは、電気活動測定工程が、切断の前と、切断の後に行われていることを指す。特に、前記切断工程の前と後にそれぞれ少なくとも1回の測定を行うことが好ましい。この切断工程の前後に行う電気活動測定工程は、連続的に行われていてもよく、断続的に行われていてもよい。連続的な工程としては、切断の前の一定の時間の測定と、切断の後の一定の時間の測定を少なくとも1回ずつ行ってもよい。また、連続的な工程として、切断の前後を通じ連続した少なくとも1回の測定の工程を含んでいてもよい。断続的な工程としては、短時間の測定をそれぞれ切断の前と後に少なくとも1回ずつ行ってもよい。
【0038】
本明細書において、「電気活動特性」とは、細胞の活動に伴って示される電気化学的活動に関する性質を意味し、例えば細胞の発火の発火頻度、発火振幅、発火パターン、細胞集団の同期バーストのバースト頻度、バースト振幅、バーストパターン、バースト周期性、神経振動の振動周波数、振動振幅、振動位相、細胞内のナトリウムイオン、カルシウムイオン等のカチオン濃度及びその変化パターン等が挙げられる。ここで細胞の発火とは、自発的なものでも、刺激によるものでもよく、アクションポテンシャルも含む。電気活動特性は、単一の特性だけを観察してもよいが、近年では複数の特性(パラメータ)を同時に計測し、多変量解析等を用いて特徴づけを行うこともあり、このような複数の特性の組み合わせによる特徴も本発明の「電気活動特性」に包含される。測定の簡便さの点で、電極を用いて測定可能な電気化学的特性が好ましく、細胞の発火の発火頻度、発火振幅、発火パターン、細胞集団の同期バーストのバースト頻度、バースト振幅、バーストパターン、バースト周期性、神経振動の振動周波数、振動振幅及び振動位相からなる群から選択される少なくとも1つが異なる細胞集団を用いることが好ましい。細胞又は細胞集団の電気活動特性は、公知の電気生理学的手法を用いて測定することができる。かかる電気生理学的手法としては、これに限定するものではないが、例えば多電極アレイ等の電極を用いて局所的な電場電位を測定する方法、パッチクランプ法等により直接的に活動電位を測定する方法、膜電位感受性色素等を用いて膜電位の変化を測定する方法、カルシウムイメージング法等のカチオン変動を測定する方法等が挙げられる。膜電位感受性色素としては、例えば、カルシウムキレーター及び蛍光団からなるカルシウム感受性色素、styryl系化合物、cyanine系及びoxonol系化合物、rhodamine誘導体等が挙げられる。
【0039】
本発明の評価方法は、上述のとおり細胞集団の電気活動を測定することを含んでいる。電気活動の測定は、少なくとも2つの細胞集団に対して行われ、例えば2つ、3つ、4つ5つ以上等の細胞集団に対して行ってもよい。これらの細胞集団は、平面視で互いに離間して配置されている。電気活動が測定される少なくとも2つの細胞集団は、神経突起(軸索)を介して互いに連結されている。ここでいう「神経突起を介して互いに連結されている」とは、ある細胞集団から別の細胞集団に対して、神経突起を介してシグナルが伝達されることを意味し、典型的には同期的な発火やバーストが観察される。電気活動が測定される細胞集団が3つ以上である場合、神経突起を介した連結は、ある細胞集団において生じたシグナルが、全ての細胞集団に伝達される限り特に制限されず、直列的な連結であっても並列的な連結であってもよい。例えば並列的に、それぞれの細胞集団が別個独立して互いに連結しあっていてもよく、全ての細胞集団が直列的に連結していてもよく、それらが混在していてもよい。
【0040】
本明細書において、「電気活動を測定する」とは、細胞活動に伴う上記の電気活動特性の経時的変化を測定することを意味する。少なくとも2以上の、神経突起を介して互いに連結された細胞集団の電気活動を測定することにより、それらの細胞集団がどのようにシグナルをやり取りしているのか、ひいてはそれぞれの細胞集団が組織的にどのように連携しているのか、等を評価することができる。電気活動の測定は、電気活動の評価が可能な程度の間、行われればよく、また複数回行われてもよい。本発明の一態様において、電気活動は、試験の間、継続的に測定される。
【0041】
電気活動が測定される少なくとも2つの細胞集団は、電気活動が測定される時点において、その電気活動特性が同じであっても、異なっていてもよい。前記電気活動特性が異なっている場合、本来的に電気活動特性の異なる細胞集団であってもよく、もともと同一の電気活動活性を示す細胞集団であったものが、例えば電気活動特性に影響する薬剤(例えばNMDA受容体阻害剤等)の添加や、別の細胞集団からの神経突起を介した連絡等により、電気活動特性が変化した結果、異なる電気活動特性を有するようになったものであってもよい。かかる電気活動特性の変化は、少なくとも2つの細胞集団の電気活動を測定する時点までに達成されていればよい。
【0042】
上述のとおり、従前は1つの細胞集団内におけるランダムな神経回路網の接続による同期バーストが観察できていたのみであり、神経細胞に作用する薬剤の正確な評価等はできなかった。すなわち、実際の脳組織内では、シグナル下流での電気活動の変化がシグナル上流に作用するフィードバック等、様々な神経回路が複雑に構築されているため、単純に1つの細胞集団における電気活動を確認しただけでは、細胞やそれに作用する薬剤の正確な評価は出来なかった。本実施形態の評価方法によれば、複数の異なる細胞集団による同期的効果やフィードバック効果等の影響も評価できるため、従来よりも正確に細胞やそれに作用する薬剤の評価が可能となる。
【0043】
本発明の一態様において、電気活動の測定は電極を用いて行われる。電気活動を直接的に且つ簡便に計測可能であるため、電極を用いることが好ましい。かかる電極としては、例えば多点平面電極(MEA)等の局所的な電場電位を測定することが可能な電極の他、微小ガラス電極等の細胞の活動電位を直接計測可能な電極も用いることができる。かかる電極を用いた態様については、具体例とともに細胞基板についての項目で詳述する。
【0044】
本実施形態の評価方法は、評価系を構築した状態での発火等を確認することにより、各細胞集団の性質や細胞集団同士の相関関係等を評価することができる。例えば神経突起を介して連結された、任意の細胞集団A及びBの発火を観察した場合に、細胞集団Aの発火以外に、細胞集団Bの発火と同期した発火が確認できた場合、細胞集団Aは細胞集団Bからの伝達シグナルを受信していると評価できる。またこの場合に、細胞集団Bにおいて細胞集団Aの発火と同期した発火が確認できない場合、細胞集団Bは細胞集団Aの上流にある集団であり、フィードバック的な投射を受けていないと評価できる。
【0045】
本発明の評価方法の好ましい一態様において、神経細胞に作用すると推測される薬剤(本開示において「候補薬剤」と称する)を、電気活動を計測される細胞集団に添加することを含む。候補薬剤が添加された結果、電気活動に何らかの変化が生じた場合、かかる候補薬剤は神経細胞に作用するものであると判断できる。このことにより、神経細胞に作用する候補薬剤を効率的に選抜することが可能となる。したがって本発明の一態様において、候補薬剤の細胞集団(又はそこに存在する神経細胞)に対する作用を評価することを含み、さらなる一態様において、かかる評価に基づいて効果的な候補薬剤をスクリーニングすることが包含される。すなわち、本発明には、本発明の評価方法を用いた候補薬剤のスクリーニング方法が包含される。なお、本発明の評価方法の詳細については、具体例とともに細胞基板の項目において詳述する。
【0046】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態の測定方法では、細胞突起の切断後に神経細胞の動態を観察することで、神経細胞の動態、特に切断後に神経突起が修復される過程についてデータを得ることができる。
【0047】
加えて、細胞の動態と電気活動の測定とをあわせて解析することで、神経細胞の動態と機能の相関、特に神経細胞の細胞突起の修復と電気活動の機能の回復の相関についてのデータを得ることができる。
【0048】
切断工程における細胞突起の切断後に電気活動を測定した細胞集団における電気活動の変化を測定することにより、かかる神経突起を介した連絡がどのように集団に作用していたかを評価することができる。また、神経突起が切断された評価系において上記の候補薬剤の効果を確認することにより、外傷性脳損傷等のモデルとして候補薬剤の評価を行うことができる。
【0049】
<細胞基板>
ついで、本実施形態の神経細胞機能接続の評価方法に好適に用いることのできる細胞基板について説明する。
本発明の細胞基板は、特にインビトロで細胞を評価するために用いることができる。以下に、本発明の細胞基板について、実施形態の具体例を用いて詳述する。また、本実施形態の評価方法の詳細については、以下に示すインビトロで細胞を評価する系の使用方法において具体的に説明する。
【0050】
[第1実施形態]
図1~2は、本発明の第1実施形態に係る細胞基板を示す図である。図1は、本発明の第1実施形態に係る細胞基板100を示す平面図である。図2は、図1に示すII-II線で切断した細胞基板100の断面図である。
【0051】
細胞基板100は、複数の検出部3を有する基板5と、異なる検出部上3に、平面視で互いに離間して配置された第1細胞集団10及び第2細胞集団20と、を備える。基板5上には、培地4が満たされている。第1細胞集団10と第2細胞集団20とは、異なる電気活動特性を示し、神経突起1aを介して結合を形成している。本実施形態の評価方法では、上記構成を有する細胞基板を用いることで、異なる又は同じ電気活動特性を有する細胞集団同士の電気生理学的な相互作用を評価することができる。
【0052】
図2に示すように、第1細胞集団10は、基板5に埋め込まれた検出部3a、3b及び3c上に配置されている。第1細胞集団10は1以上の検出部3上に配置されていればよいが、2以上の検出部3上に配置されていることが好ましい。これにより、第1細胞集団10に含まれる複数の細胞の活動電位変化により生じる電場電位をそれぞれの検出部3において検出することができ、得られた電場電位の平均値を算出することで、より精度の高い電場電位のデータを得ることができる。
【0053】
(第1細胞集団)
本実施形態では、第1又は第2の細胞集団の少なくとも1つが神経細胞を含むが、図示した例では、第1細胞集団10は、1細胞以上の神経細胞1を含む神経細胞集団である。第1細胞集団10は、集団として特定の電気活動特性を示すものであれば、神経細胞1のみからなる細胞集団であってもよく、神経細胞1と該神経細胞1以外の細胞との混合細胞からなる細胞集団であってもよい。また、第1細胞集団10が神経細胞1のみからなる細胞集団である場合に、1種の神経細胞1からなる細胞集団であってもよく、2種以上の神経細胞1の混合細胞からなる細胞集団であってもよい。
【0054】
神経細胞集団中の神経細胞の含有量は、特に制限はないが、通常、神経細胞中の全細胞数に対して1%以上、5%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。
【0055】
神経細胞1としては、上述した神経細胞を用いることができる。
【0056】
第1細胞集団10に含まれる神経細胞1以外の細胞としては、例えば、グリア細胞等が挙げられる。グリア細胞は、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、上衣細胞、シュワン細胞等に大別される。
【0057】
第1細胞集団10に含まれる細胞の由来となる動物種としては、上述の動物種を用い得る。
【0058】
(第2細胞集団)
第2細胞集団20は、神経細胞1と電気信号を伝達し合う細胞2(以下、単に「細胞2」と称する場合がある)を1細胞以上含む細胞集団である。
第2細胞集団20は、外部からの刺激に応答して、同期的な活動電位を示すものであれば、細胞2のみからなる細胞集団であってもよく、細胞2と該細胞2以外の細胞との混合細胞からなる細胞集団であってもよい。また、第2細胞集団20が細胞2のみからなる細胞集団である場合に、1種の細胞2からなる細胞集団であってもよく、2種以上の細胞2の混合細胞からなる細胞集団であってもよい。
【0059】
第2細胞集団中の細胞2の含有量は、特に制限はないが、通常、神経細胞中の全細胞数に対して1%以上、5%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。
【0060】
細胞2としては、例えば、神経細胞、筋細胞等が挙げられる。筋細胞としては、例えば、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞等が挙げられる。これら細胞を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0061】
第2細胞集団20に含まれる細胞2以外の細胞としては、例えば、上記グリア細胞の他、線維芽細胞、血管内皮細胞等の心臓及び筋組織に含まれる筋細胞以外の細胞等が挙げられる。
【0062】
第2細胞集団20に含まれる細胞は、上記第1細胞集団10において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0063】
第2細胞集団20に含まれる細胞の由来となる動物種としては、上記第1細胞集団10において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0064】
(培地)
培地4としては、第1細胞集団10及び第2細胞集団20に含まれる細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等を含む基本培地であればよく、細胞の種類により適宜選択することができる。例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI-1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F-12(DMEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)等の基礎培地に必要成分を添加したもの等が挙げられるが、これらに限定されない。神経細胞の培養において用いられる培地として市販されている培地を用いてもよく、かかる培地としては、例えば、BrainPhys(Stemcell technologies社)、Neurobasal、Neurobasal Plus(共にThermo Fisher Scientific社)等が挙げられる。
【0065】
(検出部)
検出部3は、第1細胞集団10及び第2細胞集団20に含まれる各細胞の活動電位変化により生じる電場電位を検出するように構成されている。なお、ここでいう「検出する」には、電場電位の発生を検出することや、電場電位の変化の具体的な周波数、振幅及び位相を検出することが包含される。検出部3は、基板5内に検出部3の表面が露出し、各細胞集団と接するように埋め込まれていてもよく、基板5上に配置されていてもよい。
【0066】
検出部3の数は、2個以上であればよく、例えば、4個、8個、16個、32個、64個等とすることができる。
【0067】
検出部3として具体的には、例えば、電極が挙げられる。検出部3が電極であることで、細胞集団が生じる電場電位の周波数、振幅及び位相の経時的な変化を検出することができる。
【0068】
(基板)
基板5は、検出部3を有する。検出部3(特に電極)を有する基板5として具体的には、例えば、多点電極アレイ(Multi-Electrode Array;MEA)等が挙げられる。また、基板5は、第1細胞集団10及び第2細胞集団20を維持培養するために、培地4を保持できるように構成されていることが好ましく、例えば、ウェル内にMEAが配置された培養容器等が挙げられる。培養容器の形状は1つのウェルを有するディッシュ型であってもよく、複数のウェルを有するマルチウェルプレート型であってもよい。
【0069】
基板5は、細胞への毒性がなければどのような材料で構成されていてもよいが、弾性材料や、ガラス、セラミック、ステンレス鋼等の金属材料等が好ましい。弾性材料としては、例えば、シクロオレフィン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート(ポリメチルメタクリレート(PMMA)等)、ポリビニル等の合成樹脂;PDMS(Poly-Dimethylsiloxane)等のシリコン系樹脂;EPDM(Ethylene Propylene Diene Monomer)等の合成ゴム;天然ゴム等が挙げられる。
基板5には、これら材料を1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
[第2実施形態]
図3は、本発明の第2実施形態に係る細胞基板200を示す平面図である。図3に示す細胞基板200は、第1細胞集団及び第2細胞集団に加えて、第3細胞集団及び第4集団を含む4つの細胞集団を備える点で図1~2に示す細胞基板100と異なる。細胞基板200では、4つの細胞集団を備えることで、より複雑な神経突起を介した結合を構築することができ、4つの細胞集団間での電気生理学的な相互作用を評価することができる。
【0071】
(第3細胞集団及び第4細胞集団)
第3細胞集団30及び第4細胞集団40は、第1細胞集団10及び第2細胞集団20が配置された検出部3以外の検出部3上に、平面視で第1細胞集団10及び第2細胞集団20と離間して配置されている。
第3細胞集団30及び第4細胞集団40は、外部からの刺激に応答して、同期的な活動電位を示す細胞集団である。第3細胞集団30及び第4細胞集団40は、第1細胞集団10又は第2細胞集団20と同一の細胞からなる細胞集団であってもよく、第1細胞集団10及び第2細胞集団20のいずれとも異なる細胞からなる細胞集団であってもよい。第3細胞集団30及び第4細胞集団40は、第1細胞集団10及び第2細胞集団20のうち少なくともいずれか一方の細胞集団と神経突起を介した結合を形成することができ、図3に示すように、第1細胞集団10と第3細胞集団30とが神経突起1a及び2bを介した結合を形成しており、第2細胞集団20と第4細胞集団40とが神経突起2a及び2cを介した結合を形成していてもよい。また、第3細胞集団30及び第4細胞集団40が、神経突起2b及び2cを介した結合を形成していてもよい。
【0072】
第3細胞集団30及び第4細胞集団40に含まれる細胞としては、上記第1細胞集団10及び上記第2細胞集団20において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0073】
細胞基板は、図1~3に示すものに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲内において、図1~3に示すものの一部の構成が変更又は削除されたものや、これまでに説明したものにさらに他の構成が追加されたものであってもよい。
【0074】
例えば、図1~2に示す細胞基板100において、第2細胞集団20は、神経細胞1とは異なる種類の神経細胞を1細胞以上含む細胞集団であってもよい。第2細胞集団20に含まれる神経細胞としては、上記第1細胞集団10において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0075】
例えば、図3に示す細胞基板200において、細胞集団の数は4に限定されず、5以上の複数の細胞集団を備えていてもよい。
【0076】
<細胞基板の製造方法>
細胞基板は、例えば、以下に示す方法により製造することができる。
まず、検出部(電極等)を有する基板上に、複数の細胞集団を配置する領域の間に仕切り部材を配置する。このとき、各細胞集団を基板上の一定の領域内に留めるために、各細胞集団をそれぞれ囲うように、枠部材を配置してもよい。仕切り部材及び枠部材を構成する材料としては、細胞への毒性がなければどのような材料で構成されていてもよく、基板5の材料として例示されたものと同様のものが挙げられる。また、細胞集団としては、上記において詳述された細胞集団を用いることができる。
【0077】
次いで、当該仕切り部材を挟んで、複数の細胞集団が平面視で互いに離間するように配置する。或いは、枠部材がさらに配置された基板を用いる場合には、当該枠部材で囲われた領域内に各細胞集団がそれぞれ収まるように配置する。
【0078】
細胞集団の配置方法としては、細胞集団を培地や緩衝液と混合した細胞懸濁液を調製し、当該細胞懸濁液を、マイクロピペッターを用いて播種する方法や、配置面積が10mm以下等の狭い領域である場合には、上記細胞懸濁液をインクジェットバイオプリンタを用いて播種する方法等が挙げられる。特に高精度のバイオプリンタを用いて播種する場合、仕切り部材等がなくても、狭い離間距離で、各細胞集団を離間して配置することが可能となるため好ましい。
【0079】
各細胞集団を配置後、基板上に各細胞集団が接着するまで、培養する。培養条件としては、例えば、10時間以上48時間以下程度の一定期間、37℃、5%CO濃度等の通常の細胞培養条件下で培養することができる。また、培養時に使用する培地についても、細胞の種類に応じて適宜選択することができ、上記細胞基板において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0080】
各細胞集団に含まれる細胞が基板上に接着したことを確認した後、前記仕切り部材(及び前記枠部材)を除去して、培養する。培養条件として、5日間以上60日間以下程度、例えば、18日間以上28日間以下の一定期間、37℃、5%CO濃度等の通常の細胞培養条件下で培養することができる。上記一定期間培養することで、第1細胞集団10と第2細胞集団20との間に、神経突起を介した結合を形成させることができる。
【0081】
細胞集団に含まれる細胞がiPS細胞由来の細胞である場合には、公知の方法を用いて、iPS細胞を各種細胞に分化させた後、使用することができる。iPS細胞から各種細胞への分化誘導には、市販の分化誘導キット、例えば、Elixirgen Scientific社製の分化誘導キット(具体的には、ドーパミン作動性神経細胞、コリン作動性神経細胞、グルタミン酸作動性神経細胞及びセロトニン作動性神経細胞の混合培養物分化誘導キット;コリン作動性神経細胞分化誘導キット;ドーパミン作動性神経細胞分化誘導キット;GABA作動性神経細胞分化誘導キット;骨格筋細胞分化誘導キット)等を用いることができる。また、市販のiPS細胞由来の分化誘導神経細胞を用いてもよい。
【0082】
iPS細胞から分化誘導された各種細胞は、細胞種に特異的なバイオマーカーを検出することで、所望の細胞に分化誘導されたことを確認することができる。例えば、成熟した神経細胞である場合には、例えば、Dcx、MAP-2、シナプシン1、TuJ1、NSE、Map2a、Gap43、NF、CD24、CDH2/CD325、シナプトフィジン、及びCD56/NCAMからなる群より選ばれる少なくとも1種のマーカーを発現していることに基づいて、成熟した神経細胞と同定することができる。
【0083】
また、神経細胞は、軸索及び樹状突起を有する形態であることや、活動電位を発生することからも同定することができる。
【0084】
特定の種類の神経細胞であることは、ドーパミン作動性ニューロン(TH、AaDC、Dat、Otx-2、FoxA2、LMX1A及びVMAT2からなる群より選ばれる少なくとも1種のマーカー)、コリン作動性ニューロン(NGF及びChATからなる群より選ばれる少なくとも1種のマーカー)、GABA作動性ニューロン(GAD67及びvGATからなる群より選ばれる少なくとも1種のマーカー)、グルタミン酸作動性ニューロン(vGLUT1)、セロトニン作動性ニューロン、運動ニューロン(HB9、SMN、ChAT及びNKX6からなる群より選ばれる少なくとも1種のマーカー)、感覚ニューロン(POU4F1及びペリフェリンからなる群より選ばれる少なくとも1種のマーカー)、アストロサイト(GFAP及びTapa1からなる群より選ばれる少なくとも1種のマーカー)、並びに、オリゴデンドロサイト(O1、O4、CNPアーゼ(CNPase)、及びMBPからなる群より選ばれる少なくとも1種のマーカー)に特徴的な表現型マーカーをそれらが発現しているか否かに基づいて同定することができる。
【0085】
特定の神経伝達物質に対する感受性を有する神経細胞であることは、神経伝達物質の生合成、放出、及び再取り込みに関わる受容体及び酵素を有すること、並びにシナプス伝達に関連する脱分極及び再分極事象に関わるイオンチャネルを有することに基づいて同定することができる。シナプス形成は、シナプトフィジンの染色によって確認することができる。特定の神経伝達物質の受容性は、例えば、γ-アミノ酪酸(GABA)、グルタミン酸、ドーパミン、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)、ノルアドレナリン、アセチルコリン、及びセロトニンの受容体を検出することによって確認することができる。
【0086】
細胞基板に用いられる細胞集団の電気活動特性は、細胞集団に含まれる細胞の活動電位や細胞集団が呈する同期バースト等を、公知の電気生理学的手法を用いて測定することで確認することができる。具体的には、後述する実施例に示すように、MEAを備える基板上に第1細胞集団10及び第2細胞集団20をそれぞれ配置し、例えば、MED64システム(株式会社SCREENホールディングス製)、Maestro MEA(Axion BioSystems社製)、MEA systems(Multichannel systems製)等のMEAシステムを用いて、活動電位を5分間程度測定することで確認することができる。
【0087】
<評価系を用いた評価方法>
上記細胞基板は、インビトロで細胞を評価する系(以下、単に「評価系」と称する場合がある)として利用することもできる。
【0088】
[使用方法]
本実施形態の評価系の使用方法について、以下に説明する。
例えば、本発明の第1実施形態に係る細胞基板100を用いる場合には、第1細胞集団10と前記第2細胞集団20との活動電位を検出部3で検出し、検出部3から配線6a、6b、6c、7a、7b及び7cを介して測定部(図示せず)に活動電位のデータを送信し、解析する。各細胞集団の活動電位の測定結果から、第1細胞集団10及び第2細胞集団20の活動電位の周期、振幅及び位相からなる群より選ばれる1つ以上が部分的に又は全体的に同期しているか否かを確認することで、第1細胞集団10と第2細胞集団20と間の電気生理学的な相互作用の有無を判断することができる。
【0089】
例えば、後述する実施例に示すように、第1細胞集団10及び第2細胞集団20の活動電位の一部の発火パターンが同期した場合には、神経突起を介した結合により第1細胞集団10と第2細胞集団20と間の電気生理学的な相互作用があると判断することができる。
【0090】
さらに、形成された結合を、医療用メス等を用いて人為的に切断し、切断後における第1細胞集団10及び第2細胞集団20の活動電位を測定することで、各細胞集団の電気活動を評価することもできる。
例えば、後述する実施例に示すように、切断後における第1細胞集団10及び第2細胞集団20の電気活動特性が、神経突起を介した結合の形成前と同様に、互いに異なる電気活動特性に戻った場合には、上記活動電位の一部の発火パターンの同期は、当該結合の形成に基づくものであると判断することができる。
【0091】
例えば、本発明の第2実施形態に係る細胞基板200を用いる場合には、第1細胞集団10、第2細胞集団20、第3細胞集団30、及び第4細胞集団40の活動電位を検出部3で検出し、検出部3から配線を介して測定部に活動電位のデータを送信し、解析する。これにより、複雑な細胞基板内において個々の細胞集団がいずれの細胞集団に影響を受ける又は及ぼすのか、或いは、影響を受けない又は及ぼさないのか、について判断することができる。
【0092】
さらに、上記細胞基板100を用いた場合と同様に、形成された結合のうち1以上の結合を切断し、切断後の各細胞集団の活動電位の測定することで、各細胞集団の電気活動を評価することもできる。このとき、各細胞集団間の結合を全て切断してもよく、所望の細胞集団間においてのみ部分的に結合を切断してもよく、所望の順番で細胞集団間の結合を順次切断してもよい。
【0093】
加えて、切断後において、カメラ(図示せず)を用いて前記細胞基板100上の細胞を観察する観察工程を行い、切断後における第1細胞集団10及び第2細胞集団20の動態を観察することもできる。具体的には、形成された神経突起による結合を切断された後に、一定時間を置いて複数回カメラによる画像観察を行うことで、神経突起が再形成される過程を観察することができる。
【0094】
加えて、前記動態と前記電気活動の評価をあわせて解析することで、動態と電気的な機能の相関関係、例えば細胞の連結の回復と、電気的な機能の回復が相関しているかのデータを得ることができる。
【0095】
本実施形態の評価方法及び評価系は、軸索誘導、神経変性障害、神経細胞の可塑性、神経細胞の学習及び記憶等の神経の発達や障害の細胞学的、損傷した神経細胞の修復等のその後の挙動、及び分子学的な基礎研究において非常に有用である。
【0096】
本実施形態の評価方法は、細胞の神経細胞集団間の機能接続の評価モデルを提供することができ、特に神経細胞の自発的な修復(機能再接続)に関する研究に寄与することができる。神経細胞が修復することで接続が回復することを、細胞の動態面及び電気的な面の両面から評価することができる。中枢神経系の再生に対する知見を得ることで、中枢神経系の損傷による患者のQOLの向上に寄与することができる。
【0097】
また、本実施形態の評価方法及び評価系は、任意の化合物の評価に用いることもできる。具体的には、複数の細胞集団のうち1以上の細胞集団に任意の化合物を添加した後、各細胞集団の活動電位を測定する。これにより、任意の化合物の各細胞集団に対する影響、具体的には、任意の化合物の神経回路網の活性化能や同期発火を変化させる能力、化合物の毒性を評価することができる。また、当該評価に基づいて、任意の化合物が特定の疾患の治療に有用である可能性があるか否かについて判断することができる。
【0098】
例えば、後述する実施例に示すように、神経突起を介した結合が形成された興奮性ニューロンを多く含む第1細胞集団及び抑制性ニューロンを多く含む第2細胞集団に、任意の化合物を曝露した場合に、第1細胞集団の活動電位の発火パターンが第2細胞集団に完全に同期した場合には、当該化合物が神経細胞の同期発火を抑制する能力を有するものであると判断することができる。また、当該判断に基づいて、上記化合物は、同期発火が過多である疾患(例えば、てんかん、自閉症、統合失調症等)の治療に有用な可能性があると判断することができる。このように、本実施形態の評価方法及び評価系は、化合物のスクリーニングに好適に用いられる。
【実施例0099】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定され
るものではない。
【0100】
[実施例1]
(2つの神経集団を含む細胞基板を用いたインビトロ評価系の構築)
(細胞の準備)
Elixirgen Scientific社が市販している2種類の凍結iPS細胞由来神経細胞(GABAergic Neurons from Healthy DonorとMixed Neurons from Healthy Donor)を用意した。培地に懸濁し、予め0.05%ポリエチレンイミン(PEI;シグマ製)及び80μg/mLのラミニン溶液(シグマ製)でコーティングしておいた多点電極アレイ(MEA;株式会社SCREENホールディングス)の電極を含む基板上に播種した。播種後1週間培養を行い、その後レンチウイルスLV-Synapsin-GFP(SignaGen Laboratories社製)を培地に添加して導入し、GFPを強制発現させた。
培養3週間目以降に回路網の形成により神経細胞の同期的な発火が誘発されることを確認した。
【0101】
(細胞の配置)
図4は実施例1における試験のフローを示す図である。まず、細胞集団A(10)を含む領域と細胞集団B(20)を含む領域とを区切るように、ジメチルポリシロキサン(dimethylpolysiloxane;PDMS)からなる仕切り部材8a及び8b、並びに枠部材9a及び9bを張り付けた基板5を準備した。次いで、当該基板5上に、上記した同じ神経細胞を2つの集団に分けた細胞集団A(10)及び細胞集団B(20)をそれぞれ含む2種類の細胞懸濁液を、これら細胞集団が混ざらないように、枠部材9a及び9bで囲われた各領域に播種した。領域の面積が10mm超と広い場合には、マイクロピペットを用いて各細胞懸濁液を播種した。面積が10mm以下と狭い場合には手技では困難なため、細胞吐出用のインクジェットバイオプリンタを用いて各細胞懸濁液を播種した。
【0102】
細胞が基板5に接着したことを確認し、培養1日後にPDMSの仕切り部材8a及び8b、並びに枠部材9a及び9bを剥がして除去して、培養を継続した。細胞集団A(10)及び細胞集団B(20)に含まれる細胞体はそれぞれ領域内に留まったまま、神経突起を伸ばし1週間以上2週間以下の期間で互いの領域が接続された回路網が形成した。
【0103】
(電気活動測定工程:切断の前)
細胞集団A及び細胞集団Bが、神経突起を介して接続された状態(神経回路網が形成された状態)で4週間培養し、電極から検出できる活動電位をMED64システム(株式会社SCREENホールディングス)で5分間測定した。電気波形の解析はMED64システムに付属のソフトウェアBurstScopeで行った。
【0104】
(切断工程)
電気活動測定工程の後に、マイクロマニピュレーターに取りつけたメス(フェザー安全剃刀株式会社)で神経突起を図4に示すように切断した。切断後、30分間、COインキュベーターで培養し、安定させた。
【0105】
(電気活動測定工程:切断の後)
前記切断から30分後に、再度、前記した電気活動測定工程を行った。
【0106】
(観察工程)
前記切断工程の後に、切断箇所をタイムラプスイメージングによって観察した。具体的には、プレートリーダーCytation5(BioTek社)を用い、37℃、5% CO2の環境下で3日間の明視野と蛍光の連続撮影を行った。測定時に乾燥による細胞への影響を防ぐためにサンプル周辺に加湿用の滅菌水を含ませたベンコットを配置し、光毒性を軽減するために蛍光観察に適した培地であるBrainPhys Imaging Optimized Medium(STEMCELL Technologies社)を用いた。レンチウイルスにより蛍光観察には一般的なGFP観察用のフィルターとLEDを用いており、10倍対物レンズを用いた。
【0107】
(測定結果)
図5(a)に細胞集団A,Bの配置時、図5(b)に4週間培養した後の顕微鏡写真を示した。図5(c)に神経突起の切断時、図5(d)に切断工程の8日後に神経突起が伸展し再形成された顕微鏡写真を示した。
【0108】
図6に、電気活動測定工程について、多点電極アレイシステム(MED64アルファメッド・サイエンティフィック社)による電気活動の測定データを示した。切断工程の前と後で電気活動を測定した結果である。右図より、神経突起切断前には神経細胞集団同士の電気活動が同期しているのに対して、切断後には電気活動が同期していないことがわかる。さらに培養を続けて電気活動を継続的に測定し続けたところ、1週間程度で神経細胞集団同士の電気活動の同期が回復し始めることが観察された。切断2週間後においては、神経細胞集団同士の電気活動の同期が回復していることがわかる。
【0109】
[実施例2]
図7に、別の治具を用いた神経細胞機能接続の評価方法を示した。PDMSを加工した治具を用いて、細胞体と神経突起の空間的配置をコントロールすることができる。図7(a)に示すように、本実施例の治具は、PDMS治具にマイクロトンネル(μmオーダー高さ)を備えており、細胞体は侵入することができないが、細胞突起は侵入できることから、細胞体と神経突起の空間的位置をコントロールすることができる。神経突起が切断された細胞集団において、神経細胞が遊走して機能接続が再度起こる可能性があるが、この治具を用いることで神経細胞の遊走による修復への寄与を無視することができる。
【0110】
図7(b)は、図7(a)の治具を用いて培養(細胞集団の配置)を行った細胞培養の10×顕微鏡写真、図7(c)は2×顕微鏡写真を示す。図7(d)は実施例1と同様に画像観察を行った結果を示す。本実施例により、神経突起の再伸展についてより詳細に観察が可能であることが示された。
【0111】
図8に、図7の治具を用いた観察工程における画像観察の写真を示す。図8(a)が切断工程から直後~数時間、図8(b)が切断工程から24時間後である。神経突起がメスによって切断されたが、24時間程度で神経突起間の空間的なギャップが埋まっていることがわかる。
【0112】
図9に、同様の画像観察を時間ごとに行った(タイムラプスイメージング)結果を示す。それぞれ図9(a)が切断工程の直後、図9(b)が17h後、図9(c)が29h後の観察結果であり、矢印のついた個所では神経突起が切断されたであろう突起から再度神経突起が伸展している様子が観察された。個別の神経細胞の突起伸展の様子を観察することで、どのような神経細胞がどのように修復に寄与しているか判断ができる。
【0113】
図10に、タイムラプスイメージングで得られた画像をさらに詳細に解析した結果を表す。タイムラプスイメージングでは、対象を時間ごとに撮影し、それを時系列ごとに並べることで時間経過による変化を観察することができる(図10(a))が、時系列順で前後となる2つの画像の差分を検出することで、時間経過により動いた箇所を可視化することができる(図10(b)および図10(c))。画像のトンネルの方向(上下方向)をy軸として、観察した72時間でy座標のどの位置にある突起が動いていたかを計数し、まとめた結果を図10(d)に示す。画像のy軸に対して切断箇所の近傍で神経突起が多く動いていることがわかる。
以上の観察結果から、切断された箇所の空間的なギャップそのものは24時間程度で修復されるものの、電気的な機能接続が回復するのはさらに1週間程度かかることがわかった。物理的な修復の様子の解析(例えば突起の形状、動態、伸長速度などの解析)と、電気的な機能計測解析によって、より詳細な修復機能の解析が可能となることがわかる。
【0114】
本発明は、以下の態様を含む。
[1] インビトロで神経細胞の機能接続を評価する方法であって、
互いに離間して配置され、神経突起を介して連結された複数の細胞集団に対して、
前記神経突起を切断する切断工程と、
前記神経突起を切断された神経細胞の動態を観察する観察工程と、
前記切断工程の前後に、前記複数の細胞集団それぞれの電気活動を測定する電気活動測定工程と、
を含み、
前記細胞集団のうち少なくとも一つは、神経細胞を含んでいる、神経細胞機能接続の評価方法。
[2] 前記観察工程は、神経細胞の動態に対してカメラによる画像観察を行う、[1]に記載の神経細胞機能接続の評価方法。
[3] 前記複数の細胞集団の全ては、神経細胞を含んでいる、[1]又は[2]に記載の神経細胞機能接続の評価方法。
[4] 前記神経細胞は、幹細胞から分化誘導されたものである、[1]から[3]のいずれか1項に記載の神経細胞機能接続の評価方法。
[5] 前記複数の細胞集団は、全て幹細胞に由来するものである、[1]から[4]のいずれか1項に記載の神経細胞機能接続の評価方法。
[6] 前記幹細胞は、人工多能性幹細胞である、[1]から[5]のいずれか1項に記載の神経細胞機能接続の評価方法。
[7] 前記電気活動測定工程は、前記切断工程の前と後にそれぞれ少なくとも1回の測定を行う、[1]から[6]のいずれか1項に記載の神経細胞機能接続の評価方法。
【符号の説明】
【0115】
1:神経細胞
1a、2a、2b、2c:神経突起
2:神経細胞と電気信号を伝達し合う細胞
3、3a、3b、3c、3d、3e、3f:検出部(電極)
4:培地
5:基板(培養容器)
6a、6b、6c、7a、7b、7c:配線
8a、8b:仕切り部材
9a、9b:枠部材
10:第1細胞集団(細胞集団A)
20:第2細胞集団(細胞集団B)
30:第3細胞集団
40:第4細胞集団
100:細胞基板
【先行技術文献】
【特許文献】
【0116】
【特許文献1】特開2020-156463号公報
【非特許文献】
【0117】
【非特許文献1】van de Wijdeven et al., A novel lab-on-chip platform enabling axotomy and neuromodulation in a multi-nodal network, Biosensors and Bioelectronics 140 (2019) 111329
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