(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068430
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】抗菌ペプチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20230510BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230510BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230510BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230510BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230510BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230510BHJP
C07K 4/00 20060101ALI20230510BHJP
C07K 7/00 20060101ALI20230510BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20230510BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K4/00
C07K7/00
C07K14/00
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179551
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小森 優美
(72)【発明者】
【氏名】桑原 弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】味方 和樹
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA30X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA15
4H045BA17
4H045BA19
4H045EA20
4H045EA29
4H045EA61
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗菌活性を有する新たなポリペプチドを提供する。
【解決手段】(a)特定の配列を含むアミノ酸配列、(b)前記特定の配列を含むアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列、(c)前記特定の配列を含むアミノ酸配列に対して1もしくは数個のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドが提供される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のいずれかのアミノ酸配列を含み、抗菌活性を有するポリペプチド;
(1a)配列番号3に記載のアミノ酸配列、
(1b)配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列、
(1c)配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して1もしくは数個のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列、
(1d)上記(1a)~(1c)のいずれかのアミノ酸配列に対してC末端から1以上26以下のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列、
(2a)配列番号4に記載のアミノ酸配列、
(2b)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列、
(2c)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して1もしくは数個のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列、
(2d)上記(2a)~(2c)のいずれかのアミノ酸配列に対してC末端から1以上8以下のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列、
(3a)配列番号6に記載のアミノ酸配列、
(3b)配列番号6に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列、または
(3c)配列番号6に記載のアミノ酸配列に対して1もしくは数個のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列。
【請求項2】
請求項1に記載の(1a)~(1c)のいずれかのアミノ酸配列の少なくとも一部のアミノ酸配列を含み、抗菌活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリペプチドの前駆体ポリペプチド。
【請求項4】
配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項6】
配列番号2に記載のDNA配列を有する、請求項5に記載の核酸。
【請求項7】
請求項5または6に記載の核酸を含むベクター。
【請求項8】
請求項5または6に記載の核酸が導入された形質転換体。
【請求項9】
請求項8に記載の形質転換体を用いたポリペプチドの製造方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載のポリペプチドと添加剤とを含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌ペプチドは、多種な生物が産生することができ、生体防御に重要な役割を果たす。抗菌ペプチドは、抗生物質と比べて即効性が高いこと、および消化酵素等によってアミノ酸に分解され環境中に残留しないことから、耐性菌を生じにくいと考えられている。抗菌ペプチドは、今日深刻な社会問題となっている薬剤耐性菌への対抗手段として期待されている。
【0003】
乳酸菌(Lactococcus lactis ATCC-11454株)が産生する抗菌ペプチドとして、ナイシンAが知られている。ナイシンAは、耐熱性芽胞菌を含む多くのグラム陽性菌に対して高い抗菌活性を示し、酸に対して安定で、腸管内の消化酵素でアミノ酸に分解されることから、50か国以上で食品保存料として実用されている。しかしながら、ナイシンAは中性からアルカリ性域では不安定であり、中性域での熱安定性も低い。そのため、ナイシンAの利用は、酸性域にpH調整して市販されることが多い食品の保存料等に限られていた。また、ナイシンAは細胞内での翻訳後修飾によって生じる異常アミノ酸を含むこと、およびランチオニン等によるモノスルフィド結合の架橋構造をとることから、化学合成やin vitro翻訳による合成が困難であった。米国特許第4584199号明細書(特許文献1)、米国特許第3295989号明細書(特許文献2)、国際公開第89/12399号(特許文献3)、国際公開第2004/029082号(特許文献4)には、ナイシンが食品の保存のために用いられることが開示されている。
【0004】
ポリリジンは、放線菌の培養により産生される天然のペプチド性抗菌物質である。ポリリジンもまた、食品の保存料として利用されている。ポリリジンは熱に対しては安定であるが、pH9以上では抗菌活性を失う。ポリリジンは食品成分に吸着されて抗菌活性が低下しやすいことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4584199号明細書
【特許文献2】米国特許第3295989号明細書
【特許文献3】国際公開第89/12399号
【特許文献4】国際公開第2004/029082号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗菌活性を有する新たなポリペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に例示する項目に関する。
[1] 下記のいずれかのアミノ酸配列を含み、抗菌活性を有するポリペプチド;
(1a)配列番号3に記載のアミノ酸配列、
(1b)配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列、
(1c)配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して1もしくは数個のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列、
(1d)上記(1a)~(1c)のいずれかのアミノ酸配列に対してC末端から1以上26以下のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列、
(2a)配列番号4に記載のアミノ酸配列、
(2b)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列、
(2c)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して1もしくは数個のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列、
(2d)上記(2a)~(2c)のいずれかのアミノ酸配列に対してC末端から1以上8以下のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列、
(3a)配列番号6に記載のアミノ酸配列、
(3b)配列番号6に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列、または
(3c)配列番号6に記載のアミノ酸配列に対して1もしくは数個のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列。
[2] [1]に記載の(1a)~(1c)のいずれかのアミノ酸配列の少なくとも一部のアミノ酸配列を含み、抗菌活性を有するポリペプチド。
[3] [1]または[2]に記載のポリペプチドの前駆体ポリペプチド。
[4] 配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する、[3]に記載のポリペプチド。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載のポリペプチドをコードする核酸。
[6] 配列番号2に記載のDNA配列を有する、[5]に記載の核酸。
[7] [5]または[6]に記載の核酸を含むベクター。
[8] [5]または[6]に記載の核酸が導入された形質転換体。
[9] [8]に記載の形質転換体を用いたポリペプチドの製造方法。
[10] [1]または[2]に記載のポリペプチドと添加剤とを含む組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、抗菌活性を有する新たなポリペプチドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】新規ポリペプチドであるラクトバシンAの構造を示す図である。
【
図2】実験4において、ラクトバシンAのアミノ酸配列とラクトコッシンAのアミノ酸配列との相同性解析結果である。
【
図3】実験4において、ラクトバシンAのアミノ酸配列とLactobacillus johnsonii由来hypothetical proteinのアミノ酸配列との相同性解析結果である。
【
図4】実験5において、ラクトバシンAの全長ポリペプチドおよび部分ポリペプチドの抗菌活性試験の結果を示す図である。
【
図5】実験6において、ラクトバシンAの全長ポリペプチドのpH安定性試験の結果を示す図である。
【
図6】実験6において、ラクトバシンAの部分ポリペプチドのpH安定性試験の結果を示す図である。
【
図7】実験7において、ラクトバシンAの全長ポリペプチドおよび部分ポリペプチドの熱安定性試験の結果を示す図である。
【
図8】実験8において、ラクトバシンAの全長ポリペプチドの酸化安定性試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
[抗菌活性を有するポリペプチド]
本発明の一実施形態に係るポリペプチドは下記のいずれかのアミノ酸配列を含む。ポリペプチドは、好ましくは抗菌活性を有する。
(1a)配列番号3に記載のアミノ酸配列、
(1b)配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列、
(1c)配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して1もしくは数個のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列、または
(1d)上記(1a)~(1c)のいずれかのアミノ酸配列に対してC末端から1以上26以下のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列。
【0012】
本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して例えば85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなってもよい。
【0013】
「1もしくは数個」とは、タンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置および種類等によっても異なるが、例えば1~10個であってよい。本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して例えば1以上10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下または2以下のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。
【0014】
アミノ酸残基の置換、欠失、挿入および/または付加の一例は、ポリペプチドの機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、AlaからSerまたはThrへの置換、ArgからGln、HisまたはLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、HisまたはAspへの置換、AspからAsn、GluまたはGlnへの置換、CysからSerまたはAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、AspまたはArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、LysまたはAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、ArgまたはTyrへの置換、IleからLeu、Met、ValまたはPheへの置換、LeuからIle、Met、ValまたはPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、HisまたはArgへの置換、MetからIle、Leu、ValまたはPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、IleまたはLeuへの置換、SerからThrまたはAlaへの置換、ThrからSerまたはAlaへの置換、TrpからPheまたはTyrへの置換、TyrからHis、PheまたはTrpへの置換、及び、ValからMet、IleまたはLeuへの置換が挙げられる。
【0015】
本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、上記(1a)~(1c)のいずれかのアミノ酸配列の少なくとも一部のアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。ポリペプチドは、好ましくは抗菌活性を有する。(1a)~(1c)のいずれかのアミノ酸配列の少なくとも一部のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、(1a)~(1c)のいずれかのアミノ酸配列においてC末端および/またはN末端のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列からなってもよく、C末端の1以上26以下、20以下、15以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下または2以下のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列からなってもよく、N末端の1以上10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下または2以下のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列からなってもよい。(1a)~(1c)のいずれかのアミノ酸配列の少なくとも一部のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、(1a)~(1c)のいずれかのアミノ酸配列においてC末端またはN末端のアミノ酸残基が欠損していなくてもよい。(1a)~(1c)のいずれかのアミノ酸配列の少なくとも一部のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、後述する(2a)~(2d)のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドであってよく、(3a)~(3c)のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドであってよい。
【0016】
配列番号3に記載のアミノ酸配列は、乳酸菌Lactobacillus sp.SC-2001のゲノム配列から予測されたタンパク質の成熟体のアミノ酸配列である。配列番号3に記載のアミノ酸配列からなる新規ポリペプチドをラクトバシンA(Lactobacin A)とも称する。
【0017】
ラクトバシンAは広範な細菌種に対して抗菌活性を有し、特に食中毒の原因ともなる耐熱性芽胞菌、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌等に対して抗菌活性を有する。ポリペプチドの抗菌活性は、例えば後述の抗菌活性試験の方法に従って測定することができる。ラクトバシンAは、pH安定性が高く、酸性域(例えばpH4.0)だけでなく、中性域(例えばpH7.4)からアルカリ性域(例えばpH10.0)においても抗菌活性を有する。ラクトバシンAは、熱安定性が高く、例えば中性域での熱処理後(温度80℃、100℃、121℃等)でも抗菌活性を有する。ラクトバシンAは、酸化安定性が高く、例えば10mM過酸化水素処理後でも抗菌活性を有する。ラクトバシンAは、ポリリジンと同等以上の抗菌活性を有する。以上のように、ラクトバシンAは、高い抗菌活性を有する天然由来ポリペプチドであり、利用可能なpH域が広く、加熱、酸化等にも安定であるため、抗菌成分として汎用性が高い。ラクトバシンAは、直鎖状のポリペプチドであり、かつ特殊な修飾を受けたアミノ酸残基を有さないため、化学合成も容易である。
【0018】
本発明の一実施形態に係るポリペプチドは下記のいずれかのアミノ酸配列を含む。ポリペプチドは、好ましくは抗菌活性を有する。
(2a)配列番号4に記載のアミノ酸配列、
(2b)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列、
(2c)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して1もしくは数個のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列、または
(2d)上記(2a)~(2c)のいずれかのアミノ酸配列に対してC末端から1以上8以下のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列。
【0019】
本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して例えば85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなってもよい。
【0020】
本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して例えば1以上10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下または2以下のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。
【0021】
本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、上記(2a)~(2c)のいずれかのアミノ酸配列の少なくとも一部のアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。ポリペプチドは、好ましくは抗菌活性を有する。(2a)~(2c)のいずれかのアミノ酸配列の少なくとも一部のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、(2a)~(2c)のいずれかのアミノ酸配列においてC末端および/またはN末端のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列からなってもよく、C末端の1以上8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下または2以下のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列からなってもよく、N末端の1以上10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下または2以下のアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列からなってもよい。(2a)~(2c)のいずれかのアミノ酸配列の少なくとも一部のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、(2a)~(2c)のいずれかのアミノ酸配列においてC末端またはN末端のアミノ酸残基が欠損していなくてもよい。(2a)~(2c)のいずれかのアミノ酸配列の少なくとも一部のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、後述する(3a)~(3c)のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドであってよい。
【0022】
本発明の一実施形態に係るポリペプチドは下記のいずれかのアミノ酸配列を含む。ポリペプチドは、好ましくは抗菌活性を有する。
(3a)配列番号6に記載のアミノ酸配列、
(3b)配列番号6に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列、または
(3c)配列番号6に記載のアミノ酸配列に対して1もしくは数個のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列。
【0023】
本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、配列番号6に記載のアミノ酸配列に対して例えば85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなってもよい。
【0024】
本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、配列番号6に記載のアミノ酸配列に対して例えば1以上5以下、4以下、3以下または2以下のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。
【0025】
配列番号4に記載のアミノ酸配列は、配列番号3に記載のアミノ酸配列の1~17位のアミノ酸配列である。配列番号6に記載のアミノ酸配列は、配列番号3に記載のアミノ酸配列の1~9位のアミノ酸配列である。配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドおよび配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、それぞれラクトバシンAのC末端のアミノ酸残基が欠損しているが抗菌活性を有する。短いアミノ酸配列を有するポリペプチドは、長いアミノ酸配列を有するポリペプチドよりも化学合成が容易である。ラクトバシンAの少なくとも一部を有するポリペプチド、例えばラクトバシンAのC末端のアミノ酸残基が欠損しているポリペプチドであっても、ラクトバシンAと同様にpH安定性、熱安定性および酸化安定性を有する。
【0026】
本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、シグナルペプチドを含んでもよく、上述のポリペプチドの前駆体ポリペプチドであってよい。前駆体ポリペプチドは細胞内または細胞外でペプチダーゼによって切断され、上述のポリペプチドとなり得る。前駆体ポリペプチドは通常、特定のペプチダーゼによって切断されるためのアミノ酸配列を含む。前駆体ポリペプチドとしては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。例えば配列番号1として細胞内で合成された前駆体ポリペプチドは、細胞膜上で切断され、抗菌活性を有する成熟体のラクトバシンAとなる。本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、分泌型ポリペプチドであってもよく、膜結合型ポリペプチドであってもよい。
【0027】
本発明の一実施形態は、上述のポリペプチドを含む組成物である。本発明の一実施形態は、上述のポリペプチドを含む細菌の増殖抑制剤または殺菌剤であってよい。本発明の一実施形態は、上述のポリペプチドを用いた細菌の増殖抑制または殺菌方法である。組成物は、さらに添加剤を含んでよい。添加剤は、例えば界面活性剤、保存剤、防腐剤、pH調整剤、増粘剤、賦形剤、着色剤、香料が挙げられ、これらを組み合わせて含んでもよい。
【0028】
界面活性剤はアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤または両性界面活性剤であってよい。アニオン界面活性剤としては、N-アシルアミノ酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなど)、グリセリン脂肪酸エステルの硫酸塩等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、アルキロールアミド、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグリコシド等が挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤、イミダゾリニウムベタイン系界面活性剤が挙げられる。その具体例としては、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油アルキルベタイン(ヤシ油アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン)、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルベタインナトリウム、ヤシ油脂肪酸アミドアルキルベタイン、パーム油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、リシノレイン酸アミドプロピルベタイン、ステアリルジヒドロキシエチルベタイン等が挙げられる。
【0029】
保存剤または防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン、イソプロピルパラベン、プロピルパラベン、イソブチルパラベン、ベンジルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノール、エタノール等のアルコール類、あるいはソルビン酸、安息香酸、デヒドロ酢酸、プロピオン酸またはこれらの塩、塩化ナトリウム等の塩、エチレンジアミン四酢酸塩、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等が挙げられる。
【0030】
pH調整剤としては、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、グルコン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタミン酸、ピロリン酸、酒石酸、酢酸水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸水素ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムリン酸二水素カリウム等の酸やアルカリ、緩衝剤等が挙げられる。
【0031】
増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはこれらの塩、プルラン、ゼラチン、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウム、アラビアガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー等の有機系粘結剤、増粘性無水ケイ酸、ベントナイト等の無機系粘結剤等が挙げられる。
【0032】
賦形剤としては、結晶セルロース、粉末セルロース、バレイショデンプン、トウモロコシデンプン、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素、沈降炭酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、酸化マグネシウム、乳酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、合成ケイ酸アルミニウム、乳糖、白糖、D-マンニトール、エリスリトール、ブドウ糖、果糖等が挙げられる。
【0033】
[ポリペプチドをコードする核酸]
本発明の一実施形態に係る核酸は、上述のポリペプチドをコードする核酸である。核酸はDNAまたはRNAであってよい。核酸は、5’末端側に開始コドンを、3’末端側に終始コドンを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。核酸はイントロン配列を含んでもよく、含んでいなくてもよい。本発明の一実施形態に係る核酸の一例は、配列番号2に記載のDNA配列を有する。配列番号2は、乳酸菌Lactobacillus sp.SC-2001のゲノム配列に由来する配列であり、配列番号1に記載の前駆体ポリペプチドをコードする。
【0034】
核酸は、Lactobacillus sp.SC-2001が有する核酸配列に限定されず、コード領域において各アミノ酸をコードするコドンを同じアミノ酸をコードする他の等価のコドンに置換した塩基配列を含む核酸であってもよい。本発明の一実施形態に係る核酸は、本発明に係るポリペプチドの発現を向上させるように、コドン出現頻度(Codon usage)を変更した塩基配列を含む核酸であってもよい。
【0035】
本発明に係る核酸、化学合成によって、またはLactobacillus sp.SC-2001のゲノム配列を鋳型にするPCR等によって得ることができる。
【0036】
[ベクター]
本発明の一実施形態に係るベクターは、上述の核酸を含む。ベクターは、DNAを増幅、維持できる核酸分子であり、例えば発現ベクターおよびクローニングベクターが挙げられる。一例において、上述の核酸は、発現ベクターに挿入された形で宿主細胞等に導入され、抗菌活性を有するポリペプチドを発現する。ベクターは、宿主細胞へ導入されることによって宿主細胞においてポリペプチドを発現させることができる。発現ベクターは、組み込まれた遺伝子を発現するためのプロモーター配列およびターミネーター配列を有してもよい。ベクターは、通常の遺伝子工学的手法に準じて基本ベクターに上述の核酸を組み込むことにより構築できる。基本ベクターは、選択マーカー配列を有していてもよい。
【0037】
ベクターは、例えば細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、ファージミドベクター、人工染色体ベクター等であってよい。基本ベクターとしては、pBR322、pUCプラスミドベクター、pET系プラスミドベクター等が挙げられる。具体的には、大腸菌を宿主細胞とする場合にはpUC19、pUC18、pUC119、pBluescriptII、pET32等を挙げることができる。哺乳動物細胞を宿主細胞とする場合には、例えばpRc/RSV、pRc/CMV、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等を挙げることができる。
【0038】
[形質転換体]
本発明の一実施形態に係る形質転換体は、上述の核酸が導入された細胞である。核酸は、ベクターに含まれた形態で宿主細胞に導入されてもよい。形質転換体は、本発明に係るポリペプチドを発現できる。
【0039】
核酸が導入される細胞としては、真核生物または原核生物の細胞を用いることができ、細菌、真菌、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞が挙げられる。細胞は、酵母、大腸菌または哺乳動物の細胞であってよく、哺乳動物としては、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ブタ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ等が挙げられる。
【0040】
細胞に核酸を導入する方法としては、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、カチオニックリポソーム法などの化学的手法;アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、HVJリポソームなどの生物学的手法;エレクトロポレーション、DNA直接注射、遺伝子銃などの物理的手法などが例示される。導入する細胞に応じて、適切な導入方法を選択することができる。
【0041】
核酸およびベクターは、宿主細胞内で染色体外で保持されていてもよいし、染色体内に組み込まれていてもよい。核酸およびベクターは、形質転換体内で、宿主細胞内で機能するプロモーターの制御下で遺伝子が発現可能な状態で保持されていることが好ましい。
【0042】
核酸が導入された形質転換体は、選択マーカーを用いて選択してもよい。例えば本発明の一実施形態に係る核酸と同時に選択マーカー遺伝子とを宿主細胞に導入し、選択マーカーの性質に応じた方法によって培養する。選択マーカー遺伝子が宿主細胞に致死活性を示す選抜薬剤に対する薬剤耐性を付与する遺伝子である場合には、核酸の導入操作後に、当該選抜薬剤が添加された培地を用いて宿主細胞を培養すればよい。
【0043】
[ポリペプチドの製造方法]
本発明に係るポリペプチドは、化学合成によって、または上述の核酸が導入された形質転換体を用いて製造することができる。本発明に係るポリペプチドは、上述の核酸が導入された形質転換体を適切な培地を用いて培養して得ることができる。形質転換体の培養は、宿主細胞を培養する方法によって行えばよい。形質転換体が微生物である場合には、例えば微生物における培養に通常使用される炭素源、窒素源、有機および無機塩等を適宜含む各種の培地を用いて培養することができる。
【0044】
形質転換体を培養することにより、本発明に係るポリペプチドを含有する培養物が得られる。本発明に係るポリペプチドは、例えば形質転換体の中および/または外(例えば形質転換体の培養上清中)に蓄積し得る。本発明に係るポリペプチドは、形質転換体および/またはその培養上清から取得できる。本発明に係るポリペプチドは、形質転換体を適宜破砕、溶解、抽出および精製したポリペプチドであってもよい。破砕、溶解、抽出等は、公知の方法により行うことができる。このような方法としては、例えば超音波破砕法、ダイノミル法、ビーズ破砕、フレンチプレス破砕、リゾチーム処理が挙げられる。これらの方法は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。精製は、ポリペプチドの精製に用いられる公知の方法により行うことができる。そのような方法としては、例えば硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、等電点沈殿が挙げられる。これらの方法は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。形質転換体は、遠心分離等により培養物から回収してもよい。培養上清中に本発明に係るポリペプチドが蓄積する場合、遠心分離等により培養上清を取得し、培養上清から本発明に係るポリペプチドを回収することができる。本発明に係るポリペプチドは、形質転換体の培養上清の任意の画分であってもよい。本発明に係るポリペプチドは、Lactobacillus sp.SC-2001をMRS液体培地等の適切な培地で培養して得ることもできる。本発明に係るポリペプチドは、形質転換体の培養物と同様の方法によって、Lactobacillus sp.SC-2001の培養物から回収、抽出および精製してもよい。
【実施例0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実験1.Lactobacillus sp.SC-2001の培養上清の抗菌活性試験]
Lactobacillus sp.SC-2001の培養上清が細菌に対して抗菌活性を有するかを検証した。対照として、ナイシンA産生株であるLactococcus lactis ATCC-11454の培養上清を用いた。Lactobacillus sp.SC-2001およびナイシンA産生株の培養上清は、それぞれの菌をMRS Brothで温度30℃で培養し、遠心分離によって菌体を沈殿させた上清を用いた。
【0047】
(実験1A)
Lactobacillus sp.SC-2001の培養上清が、Ralstonia solanacearum、Staphylococcus aureus、Lactobacillus sakeiおよびListeria innocuaの増殖を抑制するかを検証した。抗菌活性は、平面状に培養した検定菌の上に10μLのLactobacillus sp.SC-2001の培養上清をスポットするspot-on-lawn法を用いて評価した。spot-on-lawn法の詳細は、Mayr-Harting, A. et al., Methods Microbiol., 7A, 315-422(1972)の記載のとおりである。まず、表1に記載の各菌株を一晩前培養した。検定菌を測定波長600nMの吸光度(OD600)が0.1~0.3となるように軟寒天培地に混釈し、これを寒天培地上に重層して表1に記載の測定培地を準備した。Lactobacillus sp.SC-2001またはナイシンA産生株の培養上清を検定菌の上にスポットし、表1に記載の温度で一晩インキュベーションした。形成された生育阻止円の大きさを抗菌活性として評価した。結果を表2に示す。
【0048】
(実験1B)
Lactobacillus sp.SC-2001の培養上清が、Bacillus subtilis、Bacillus cereusおよびStreptococcus pneumoniaeの増殖を抑制するかを検証した。表2に記載の各菌株を一晩前培養した。検定菌を滅菌生理食塩液に懸濁し、McFarland No.0.5(約1~2×108cfu/mL)となるように調整した。これをさらに10倍希釈して約1~2×107cfu/mLの検定菌の懸濁液を得た。100μLの検定菌懸濁液を測定培地に滴下し、コンラージ棒で均一に塗布した。寒天培地の表面が乾いたら、Lactobacillus sp.SC-2001またはナイシンA産生株の培養上清を10μL滴下し、35℃で18~24時間、好気性環境下で培養した。形成された生育阻止円の大きさを抗菌活性として評価した。結果を表2に示す。
【0049】
【0050】
【0051】
Lactobacillus sp.SC-2001の培養上清は、多種の細菌に対して抗菌活性を有することがわかった。Lactobacillus sp.SC-2001の培養上清は、抗菌ペプチドとして知られるナイシンAと似た抗菌性スペクトルを示した。
【0052】
[実験2.Lactobacillus sp.SC-2001が有する抗菌成分の単離・精製]
(1)活性成分の精製
Lactobacillus sp.SC-2001の培養上清に含まれる抗菌成分を次の方法で単離および精製した。Lactobacillus sp.SC-2001をMRS Brothで培養後、培養液を6000gで10分間遠心分離し、培養上清を回収した。培養上清をさらにポアサイズ0.22μmのセルロースアセテート膜に通して、細胞を除去した。細胞を除いた培養上清500mLに対して80%硫酸アンモニウムを添加して6℃で一晩攪拌し、抗菌ペプチドを含むタンパク質を沈殿させた。得られた沈殿物を13000gで60分間遠心分離して回収し、50mLの50mM sodium phosphate buffer(pH5.6;以下「buffer A」ともいう。)で再溶解した。この溶液を、Celite column(biotage社製)にロードして不純物を除去した。続いて、buffer Aで平衡化したアミコンウルトラメンブレン 3kDa(Merck Millipore社製)を用いてバッファー置換を行った。さらに、Hitrap SP FF 1mL(GEヘルスケア社製)を接続したAKTA pure Fraction Collector(Cytiva社製)用いて分画を行った。移動相としては移動相Aにbuffer A、移動相Bに1M NaCl含有50mM sodium phosphate buffer(pH5.6)を用い、流速1mL/minで陽イオン交換クロマトグラフィーを実施した。グラジエント条件として初期移動相組成をB0%、最終組成をB100%とし、グラジエント時間を10分に設定した。フラクションは1mLずつ回収した。このうち活性画分を3mL RESOURCE PRC(GEヘルスケア社製)を接続したAKTA pure Fraction Collecter(Cytiva社製)を用いてさらに精製した。移動相としては、移動相Aに0.1%ギ酸、移動相Bに0.1%ギ酸、エタノールを用い、流速1mL/minで逆相クロマトグラフィーを実施した。グラジエント条件として初期移動相組成をB0%、最終組成をB100%とし、グラジエント時間を10分に設定した。フラクションは1mLずつ回収した。精製した画分は-30℃で保存した。得られた画分の抗菌活性は下記のように評価した。
【0053】
(2)抗菌活性試験
抗菌ペプチドの抗菌活性は、実験1Aと同じspot-on-lawn法を用いて評価した。検定菌には、Lactobacillus sakei(NBRC15893)を用いた。一晩培養した検定菌を4×107CFU/mLの密度になるようにLactobacilli AOAC agarに混釈して、2% agar含有MRSプレート上に重層した。試験液を検定菌の上にスポットし、30℃で一晩インキュベーションした。L.sakeiの生育阻止円の大きさを抗菌活性として評価した。
【0054】
[実験3.抗菌性物質の構造決定]
(1)酸性トリプシン消化
次の方法に従って、Lactobacillus sp.SC-2001の培養上清に含まれる抗菌ポリペプチドを同定した。まず、精製した活性画分250μLをTris-Tricin SDS Pageで分離したのち、目的のバンドを切り出して、Protein Extraction Kit from Gel Slices(コスモバイオ社製)によってタンパク質を抽出した。タンパク質を含む試料をAccuMAP(商標) Low pH Protein Digestion Kits(promega社製)を用いてトリプシン消化した。Digestion Kitsのプロトコルに従って試料を還元アルキル化したのち、25μL rLys-Cを加えて37℃で4時間反応させた。反応溶液を希釈してさらに25μL rLys-Cを加えて37℃で16時間反応させた。その後、Trypsinを20μL添加して37℃で3時間インキュベーションし、20%トリフルオロ酢酸(TFA)を添加して反応を停止した。消化物は脱塩後、質量分析計によって反応の進行を確認した。
【0055】
(2)臭化シアンによる化学的断片化
精製した活性画分100μLを50μmol臭化シアンを含む70%(v/v)ギ酸に溶解した。反応は室温で18時間行った。方法の詳細は、E Gross, Methods in enzymology, 27, 238 (1967)に記載のとおりである。断片化ペプチドは脱塩後、質量分析計によって分析した。
【0056】
(3)質量分析
活性画分のペプチド断片の解析は、インターフェイスにエレクトロスプレーイオン化法を用いた液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC/MS/MS)により実施した。液体クロマトグラフとオートサンプラーにはUltimate3000 RSLCnano(Thermo Fisher Scientific社製)を使用した。移動相Aに0.5%ギ酸、移動相Bに0.5%ギ酸、メタノールを用い、流速250nL/minで測定を行った。グラジエント条件として初期移動相組成をB5%、最終組成をB55%とし、グラジエント時間を90分と設定した。分析用カラムとしては、Acclaim PepMap RSLC 75μm×50cm nanoViper C18,2μm,100Å(Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。質量分析計としては、Q Exactive HF(Thermo Fisher Scientific社製)を使用し、Data Dependent Acquisition(DDA)モードにてMS/MSスペクトルを取得した。測定溶媒には、100%メタノール、0.1%トリフルオロ酢酸を用いた。
【0057】
(4)de novo sequencing
得られたプロダクトイオンスペクトルに対して、PEAKS Studio 10.6を用いて抗菌ペプチドの配列解析を行った。
【0058】
(5)推定配列とゲノム解析の照合
de novo sequencingにより推定した配列は、Lactobacillus sp.SC-2001株の全ゲノム塩基配列の6frame翻訳に対して検索を行った。
【0059】
以上により、精製画分に含まれていた抗菌ペプチドのアミノ酸配列を決定した。抗菌ペプチドの前駆体全長配列を配列番号1に、そのゲノム配列を配列番号2に示す。配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、翻訳後にペプチダーゼによってリーダーペプチドが切断されて、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する成熟型の抗菌ペプチドとなる(
図1)。
【0060】
[実験4.抗菌ペプチドのアミノ酸配列相同性検索]
同定された抗菌ペプチドのアミノ酸配列について、抗菌ペプチドのデータベースであるDRAMP(Kang, X. et al., Sci. Data 6, 148 (2019))およびBACTIBASE(Hammami, R. et al., BMC Microbiol., 10, 22 (2010))に収録されている既知の抗菌ペプチドのアミノ酸配列との相同性検索を行った。その結果、精製画分に含まれていた抗菌ペプチドと類似性が最も高いペプチドはラクトコッシンA(Lactococcin A)(配列番号8)であったが、ほとんど一致しなかった(
図2)。
【0061】
BLASTにて、Queryにリーダー配列を含むポリペプチドのアミノ酸配列を、Databaseに「All non-redundant GenBank CDS translations+PDB+SwissProt+PIR+PRF excluding environmental samples from WGS projects」を用いて相同性検索を行った。その結果、「MSKFQQLTPEDLMETKGGKIYHATPWQICNSKTHKCWADNAAIARTCGRVIVNGWLQHGPW」配列(配列番号9)のhypothetical protein(由来:Lactobacillus johnsonii)が類似性の最も高いペプチドとして見つかったが、一致率は半分以下であった(
図3)。以上より、Lactobacillus sp.SC-2001から見つかった配列番号1に記載のポリペプチドは、新規の抗菌ペプチドであると考えられる。
【0062】
[実験5.合成ペプチドの抗菌活性試験]
配列番号3に記載のアミノ酸配列からなる成熟型全長ラクトバシンAおよび配列番号4~7に記載のアミノ酸配列からなる部分ポリペプチド(表3)の抗菌活性を評価した。各ポリペプチドは水に溶解して、表4または表5に記載の濃度とした。各ポリペプチドは化学合成ペプチドであり、北海道システムサイエンス社から入手した。上述の抗菌活性試験に記載のspot-on-lawn法と同じ方法で、ポリペプチド滴下によるL.sakeiの生育阻止円の形成によって、抗菌活性を評価した。ポジティブコントロールとして、ナイシンAを産生する乳酸菌(Lactococcus lactis ATCC-11454株)の培養上清を使用した。対照であるポリリジンは、ε-Poly-L-lysine coating solution,Code No.SPL01(コスモ・バイオ株式会社製)を用いた。分子量を2500と仮定し、濃度0.0125%のポリリジン製品(約50μM)を減圧乾固し、20倍(約1mM,2.5mg/mL)、40倍(約2mM,5.0mg/mL)、80倍(約4mM,10mg/mL)濃縮となる容量の水で再溶解し、抗菌活性試験に供した。合成ポリペプチドの抗菌活性試験の結果を表4~表5および
図4に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
成熟型全長の合成ポリペプチドは、100nM以上の濃度でL.sakeiに対する抗菌活性を有することが確認された。ラクトバシンAのN末端側の配列を有する部分ポリペプチド(part1およびpart3)はL.sakeiに対する抗菌活性を有することが示された。part1は、ポリリジンと同程度の抗菌活性を有することが示された。
【0067】
[実験6.広pH域安定性試験]
10μMラクトバシンA、10μMナイシンA、1mMpart1および5mMpart3について、広範なpH域において抗菌活性を有しているかを評価した。各ペプチドは、下記のバッファーで再溶解して調製した;Sodium acetate-acetic acid(50mM、pH4.0)、Sodium phosphate(50mM、pH7.4)、glycine-NaOH(50mM、pH10.0)。それぞれのpHに調製した試験溶液を30℃でインキュベーションした。インキュベーションの時間は、0時間、0.5時間、2時間、4時間、6時間、24時間とし、インキュベーション終了時には終濃度0.2%になるようにTFAを添加した。TFA添加後の試験溶液のpHが酸性であることをpH試験紙で確認した。上述の抗菌活性試験に記載のspot-on-lawn法と同じ方法で、ポリペプチド滴下によるL.sakeiの生育阻止円の形成によって、pH処理後のポリペプチドの抗菌活性を評価した。ポジティブコントロール(PC)として、ナイシンAを産生する乳酸菌(Lactococcus lactis ATCC-11454株)の培養上清を使用した。0.2%TFA水溶液で調製したのみの試料を未処理のコントロールとした。結果を表6および
図5~
図6に示す。
【0068】
実施例において使用したナイシンAは、Nisin from Lactococcus lactis 2.5%(Sigma-Aldrich社製)を濃縮精製して用いた。ナイシンAの詳細はJ. C. Slootweg et al., J. Pept. Sci., 19, 692-699(2013)に記載のとおりである。市販の2.5%ナイシンA1g(ナイシンAを約25mg含有)を秤量し、25mLの水を添加して15分間室温で攪拌した。遠心分離(15分、2500rpm)で沈殿を分離し、上清のみを別のチューブへ移した。この溶液にジクロロメタンを20mL添加した。水層と有機層の間に生じた白色沈殿を回収するため、上層および下層を除去した。さらに遠心分離(15分、2500rpm)を行い、上層および下層の除去を再度行った。減圧遠心機で目的の中間層を乾固し、7.45mLの水で再溶解することで、1mMのNisin精製物が得られた。この精製物をナイシンAとして各安定性試験に用いた。
【0069】
【0070】
ラクトバシンAは、pH4~pH10.0まで広範囲のpH域において、24時間インキュベーションしても抗菌活性を失わなかった。一方、ナイシンAは中性~アルカリ性域で抗菌活性を失っていた。ラクトバシンAの部分ポリペプチドも低pHおよび高pH条件下で活性が低下しなかった。ラクトバシンAおよびその部分ポリペプチドは、広範なpH域で抗菌活性を有しており、pH安定性に優れていることがわかった。
【0071】
[実験7.熱安定性試験]
10μMラクトバシンA、10μMナイシンA、1mMpart1および5mMpart3について、熱処理後に抗菌活性を有しているかを評価した。試験溶液を80℃で10分間、80℃で30分間、100℃で10分間、100℃で30分間、または121℃で15分間、熱処理した。上述の抗菌活性試験に記載のspot-on-lawn法と同じ方法で、ポリペプチド滴下によるL.sakeiの生育阻止円の形成によって、熱処理後のポリペプチドの抗菌活性を評価した。ポジティブコントロール(PC)として、ナイシンAを産生する乳酸菌(Lactococcus lactis ATCC-11454株)の培養上清を使用した。加熱操作を行っていない試料を未処理のコントロールとした。結果を表7および
図7に示す。
【0072】
【0073】
ラクトバシンAは、80℃または100℃で10分または30分間、121℃で15分間熱処理しても抗菌活性を失わなかった。一方、ナイシンAは80℃10分間の熱処理では活性が残存していたが、それ以上の熱処理では抗菌活性を失っていた。ラクトバシンAの部分ポリペプチドも80℃または100℃で10分または30分間、121℃で15分間熱処理しても抗菌活性を失わなかった。ラクトバシンAおよびその部分ポリペプチドは、熱安定性に優れていることがわかった。
【0074】
[実験8.酸化安定性試験]
ラクトバシンAおよびナイシンAについて酸化処理後に抗菌活性を有しているかを評価した。酸化処理の方法は、Toshihiro T. et al., J. Proteome Res., 12, 753-762(2013)に記載のとおりである。1mMのラクトバシンAまたはナイシンA溶液に対して終濃度10mMになるように過酸化水素を添加して、40℃で6時間反応させた。反応終了後、ポリペプチドの濃度が10μMまたは1μMの濃度となるように反応液を水で希釈した。上述の抗菌活性試験に記載のspot-on-lawn法と同じ方法で、ポリペプチド滴下によるL.sakeiの生育阻止円の形成によって、酸化処理後のポリペプチドの抗菌活性を評価した。酸化反応の進行は、酸化処理を実施しない試験溶液を基準として、酸化処理実施試験溶液のLC/MS測定により得られるピーク面積の相対値として算出した。ポジティブコントロール(PC)として、ナイシンAを産生する乳酸菌(Lactococcus lactis ATCC-11454株)の培養上清を使用した。結果を表8および
図8に示す。
【0075】
【0076】
ラクトバシンAは、10mM過酸化水素による酸化処理で抗菌活性を失わなかった。一方、ナイシンAは同じ酸化処理によって抗菌活性を失っていた。ラクトバシンAは、酸化安定性に優れていることがわかった。