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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006869
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】回路基板の製造方法及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/46 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
H05K3/46 L
H05K3/46 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109705
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堺 暁東
(72)【発明者】
【氏名】重松 桜子
【テーマコード(参考)】
5E316
【Fターム(参考)】
5E316AA02
5E316AA12
5E316AA22
5E316AA26
5E316CC02
5E316CC08
5E316CC09
5E316CC10
5E316CC12
5E316DD02
5E316EE43
5E316GG28
5E316HH16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】架橋性ポリマーと架橋剤を含有する接着剤フィルムを使用してフロー工程・リフロー工程での不具合の発生を抑制する回路基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】方法は、架橋により硬化する性質を有する架橋性ポリマー及び架橋剤を含有する接着剤フィルム30準備工程A、第1の被接着体10、接着剤フィルム及び第2の被接着体20を、この順で接するように重ねる第1の中間体作製工程B、第1の中間体を真空下で加熱乾燥し接着剤フィルム中に含まれる気化成分の一部分又は全部を除去する第2の中間体作製工程C及び第2の中間体を真空下で加熱加圧処理して接着剤フィルム中の架橋性ポリマーを架橋硬化させ接着剤層30Aを形成するとともに、接着剤層を介し第1の被接着体と第2の被接着体とを熱圧着する回路基板100形成工程Dを含む。工程Cにおける加熱乾燥は、圧力3.0kPa以下、温度60℃~150℃の範囲内で30分~24時間行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の被接着体と、第2の被接着体と、前記第1の被接着体と前記第2の被接着体との間に介在してこれらを接着する接着剤層と、を備えるとともに、前記第1の被接着体及び前記第2の被接着体の片方又は両方が配線層を有する回路基板を製造する方法であって、
下記の工程(i)~(iv);
(i)架橋により硬化する性質を有する架橋性ポリマー及び架橋剤を含有する接着剤フィルムを準備する工程、
(ii)前記第1の被接着体と前記接着剤フィルムと前記第2の被接着体がこの順番で接するように重ねて第1の中間体を作製する工程、
(iii)前記第1の中間体を真空下で加熱乾燥して前記接着剤フィルム中に含まれる気化成分の一部分又は全部を除去して第2の中間体を作製する工程、
(iv)前記工程(iii)の後で、前記第2の中間体を真空下で加熱加圧処理して前記接着剤フィルム中の架橋性ポリマーを架橋硬化させて前記接着剤層を形成するとともに、該接着剤層を介して前記第1の被接着体と前記第2の被接着体とが熱圧着された前記回路基板を形成する工程、
を含み、
前記工程(iii)における加熱乾燥を圧力3.0kPa以下、温度60℃~150℃の範囲内で30分~24時間行うことを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記架橋性ポリマーが、下記のa)及びb);
a)テトラカルボン酸無水物成分と、全ジアミン成分に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を40モル%以上含有するジアミン成分とを反応させてなる架橋性ポリイミド、
b)架橋性水添スチレン-ブタジエン樹脂
から選ばれる1種以上のポリマーである請求項1に記載の回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記接着剤フィルムの厚みが25μm以上100μmの範囲内である請求項1又は2に記載の回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記接着剤フィルムの10GHzにおける誘電正接が0.0032以下、吸湿率が0.2%以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法によって製造された回路基板。
【請求項6】
前記第1の被接着体が、第1の基材と、前記第1の基材の少なくとも一方の面に積層された配線層と、を有しており、
前記接着剤層が、前記第1の基材の前記配線層側の面において前記配線層を覆うように積層されており、
前記第2の被接着体が、前記接着剤層の前記第1の基材とは反対側の面に積層された第2の基材である、請求項5に記載の回路基板。
【請求項7】
前記第1の被接着体が、第1の基材と、前記第1の基材の少なくとも一方の面に積層された第1の配線層と、を有しており、
前記第2の被接着体が、第2の基材と、前記第2の基材の少なくとも一方の面に積層された第2の配線層と、を有しており、
前記接着剤層が、前記第1の基材の前記第1の配線層とは反対側の面と、前記第2の基材の前記第2の配線層とは反対側の面との間に積層されている、請求項5に記載の回路基板。
【請求項8】
前記第1の被接着体が、第1の絶縁樹脂層と、前記第1の絶縁樹脂層の少なくとも片側の面に積層された第1の配線層と、を有する第1の回路基板であり、
前記第2の被接着体が、第2の絶縁樹脂層と、前記第2の絶縁樹脂層の少なくとも片側の面に積層された第2の配線層と、を有する第2の回路基板である、請求項5に記載の回路基板。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板の製造方法及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高周波領域への対応のために、スマートフォン等の電子機器において、大容量の情報を低損失かつ高速で伝送することが必要になっている。電子機器の回路基板材料として用いられる接着剤フィルムについても、伝送損失を低減させるために、低誘電率かつ低誘電正接であることが求められており、低誘電率化・低誘電正接化を企図したものが提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【0003】
ところで、回路基板に部品を実装する際に、はんだを用い260℃程度で熱処理するフロー工程・リフロー工程が実施される。そのため、回路基板に使用される接着剤フィルムには、フロー工程・リフロー工程での加熱温度に耐え得る特性として、いわゆる「はんだ耐熱性」が要求される。はんだ耐熱性が低い場合、回路基板を構成する層間にふくれや剥がれなどの不具合が発生し、信頼性の低下や歩留まりの悪化を招く原因となる。
【0004】
はんだ耐熱性の改善に関して、熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対し、予備的な脱気工程を繰り返し行うことによって、層間接着性を高め、はんだ耐熱性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献4)。
また、上記特許文献2、3では、低誘電率化・低誘電正接化された接着剤フィルム中に架橋性ポリマーとともに架橋剤を配合しておき、熱圧着工程の熱を利用して架橋形成させることによって、はんだ耐熱性を向上させている。しかしながら、架橋剤を配合した接着剤フィルムにおいても、フロー工程・リフロー工程でふくれや剥がれが発生することがあり、問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-196876号公報
【特許文献2】特開2016-194055号公報
【特許文献3】特開2021-70824号公報
【特許文献4】特開2019-135301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、架橋性ポリマーと架橋剤を含有する接着剤フィルムを使用した回路基板について、フロー工程・リフロー工程での不具合の発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究の結果、接着剤フィルム中に架橋性ポリマーとともに架橋剤を配合しておく場合、架橋剤中に含まれる極性基の存在によって、接着剤フィルム中に極性溶媒が残留しやすくなったり、環境中の水分を吸収しやすくなったりする可能性があり、これがフロー工程・リフロー工程での不具合の発生の一因であると推測した。そして、特定のタイミングで加熱乾燥を実施することによって、上記不具合の発生を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の回路基板の製造方法は、第1の被接着体と、第2の被接着体と、前記第1の被接着体と前記第2の被接着体との間に介在してこれらを接着する接着剤層と、を備えるとともに、前記第1の被接着体及び前記第2の被接着体の片方又は両方が配線層を有する回路基板を製造する方法である。
本発明の回路基板の製造方法は、下記の工程(i)~(iv);
(i)架橋により硬化する性質を有する架橋性ポリマー及び架橋剤を含有する接着剤フィルムを準備する工程、
(ii)前記第1の被接着体と前記接着剤フィルムと前記第2の被接着体がこの順番で接するように重ねて第1の中間体を作製する工程、
(iii)前記第1の中間体を真空下で加熱乾燥して前記接着剤フィルム中に含まれる気化成分の一部分又は全部を除去して第2の中間体を作製する工程、
(iv)前記工程(iii)の後で、前記第2の中間体を真空下で加熱加圧処理して前記接着剤フィルム中の架橋性ポリマーを架橋硬化させて前記接着剤層を形成するとともに、該接着剤層を介して前記第1の被接着体と前記第2の被接着体とが熱圧着された前記回路基板を形成する工程、
を含んでいる。
そして、本発明の回路基板の製造方法は、前記工程(iii)における加熱乾燥を圧力3.0kPa以下、温度60℃~150℃の範囲内で30分~24時間行う。
【0009】
本発明の回路基板の製造方法は、前記架橋性ポリマーが、下記のa)及びb);
a)テトラカルボン酸無水物成分と、全ジアミン成分に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を40モル%以上含有するジアミン成分とを反応させてなる架橋性ポリイミド、及び、
b)架橋性水添スチレン-ブタジエン樹脂
から選ばれる1種以上のポリマーであってもよい。
【0010】
本発明の回路基板の製造方法は、前記接着剤フィルムの厚みが25μm以上100μmの範囲内であってもよい。
【0011】
本発明の回路基板の製造方法は、前記接着剤フィルムの10GHzにおける誘電正接が0.0032以下、吸湿率が0.2%以下であってもよい。
【0012】
本発明の回路基板は、上記方法によって製造された回路基板である。
【0013】
本発明の回路基板は、前記第1の被接着体が、第1の基材と、前記第1の基材の少なくとも一方の面に積層された配線層と、を有していてもよく、前記接着剤層が、前記第1の基材の前記配線層側の面において前記配線層を覆うように積層されていてもよい。そして、本発明の回路基板は、前記第2の被接着体が、前記接着剤層の前記第1の基材とは反対側の面に積層された第2の基材であってもよい。
【0014】
本発明の回路基板は、前記第1の被接着体が、第1の基材と、前記第1の基材の少なくとも一方の面に積層された第1の配線層と、を有していてもよく、前記第2の被接着体が、第2の基材と、前記第2の基材の少なくとも一方の面に積層された第2の配線層と、を有していてもよい。そして、本発明の回路基板は、前記接着剤層が、前記第1の基材の前記第1の配線層とは反対側の面と、前記第2の基材の前記第2の配線層とは反対側の面との間に積層されていてもよい。
【0015】
本発明の回路基板は、前記第1の被接着体が、第1の絶縁樹脂層と、前記第1の絶縁樹脂層の少なくとも片側の面に積層された第1の配線層と、を有する第1の回路基板であってもよく、前記第2の被接着体が、第2の絶縁樹脂層と、前記第2の絶縁樹脂層の少なくとも片側の面に積層された第2の配線層と、を有する第2の回路基板であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明方法によれば、架橋性ポリマーと架橋剤を含有する接着剤フィルムを使用した回路基板について、フロー工程・リフロー工程でのふくれ、剥がれなどの不具合の発生を効果的に抑制できる。したがって、本発明方法によって製造される回路基板の信頼性を向上させ得るとともに、歩留まりを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態に係る回路基板の製造方法の概略工程を示す説明図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る回路基板の断面の構成を示す模式図である。
図3】本発明の別の実施の形態に係る回路基板の断面の構成を示す模式図である。
図4】本発明のさらに別の実施の形態に係る回路基板の断面の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態に係る回路基板の製造方法の概略工程を示している。本実施の形態によって製造される回路基板100は、例えば図1(E)に示すように、第1の被接着体10と、第2の被接着体20と、第1の被接着体10と第2の被接着体20との間に介在してこれらを接着する接着剤層30Aと、を備えている。回路基板100は、第1の被接着体10及び第2の被接着体20の片方又は両方が配線層を有している。
【0020】
本実施の形態の製造方法で使用する第1の被接着体10及び第2の被接着体20は、いずれも回路基板100の材料として一般的に用いられるものである。図1では、第1の被接着体10が配線層50を有する例を挙げているが、第1の被接着体10及び第2の被接着体20のうち、少なくとも片方が配線層を有するものであればよい。第1の被接着体10と第2の被接着体20の好ましい組み合わせとしては、例えば、第1の被接着体10が配線層を含む回路基板100であり、第2の被接着体20が配線層を含まない金属層、絶縁樹脂層もしくは金属張積層板等の基材である組み合わせ、第1の被接着体10が配線層を含まない金属層、絶縁樹脂層もしくは金属張積層板等の基材であり、第2の被接着体20が配線層を含む回路基板である組み合わせ、第1の被接着体10と第2の被接着体20の両方が配線層を含む回路基板どうしである組み合わせなどを挙げることができる。なお、「基材」としては、例えば金属層、単層又は複数層からなる絶縁樹脂層、金属層と絶縁樹脂層とが積層されている金属張積層板などが例示される。また、「回路基板」は、複数の配線層を有する多層回路基板も含む意味で用いる。また、第1の被接着体10及び第2の被接着体20は、同一の構成でもよいし、異なる構成であってもよい。
【0021】
本実施の形態の回路基板100の製造方法は、下記の工程(i)~(iv)を含んでいる。
【0022】
工程(i):
架橋により硬化する性質を有する架橋性ポリマー及び架橋剤を含有する接着剤フィルム30を準備する工程。
本工程では、図1(A)に示すように、まず、接着剤フィルム30を準備するとともに、第1の被接着体10と第2の被接着体20を別途準備する。
【0023】
本実施の形態の製造方法で使用する架橋性ポリマーは、架橋形成によって硬化する性質を有するポリマーであれば特に制限はなく、例えば架橋性ポリイミド、架橋性水添スチレン-ブタジエン樹脂、架橋性エポキシ樹脂、架橋性フェノキシ樹脂、架橋性ポリエステル、架橋性ビスマレイミドトリアジン樹脂、架橋性ポリプロピレン、架橋性ポリフェニレンエーテルなどを挙げることができる。
【0024】
上記架橋性ポリマーの中でも、接着剤フィルム30の誘電正接を下げ、伝送損失を低減する観点から、下記のa)及びb);
a)テトラカルボン酸無水物成分と、全ジアミン成分に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を40モル%以上含有するジアミン成分とを反応させてなる架橋性ポリイミド、
b)架橋性水添スチレン-ブタジエン樹脂
から選ばれる1種以上のポリマーであることが好ましい。架橋性水添スチレン-ブタジエン樹脂としては、例えばBHF25(TAIFLEX社製)などの市販品を利用できる。
【0025】
本実施の形態の製造方法で使用する架橋剤は、上記架橋性ポリマーに応じて適宜選択されるが、一般的には、酸無水物、ジアミノ化合物、反応性の高い官能基を有するポリマー等を使用できる。例えば、架橋性ポリマーが上記a)の架橋性ポリイミドである場合は、ポリイミド鎖中のケトン基(-CO-)とイミン結合し得るジアミノ化合物や、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、活性化エステル樹脂、スチレン骨格などの不飽和結合を有する樹脂等を架橋剤として用いることができる。
また、架橋性ポリマーが上記b)の架橋性水添スチレン-ブタジエン樹脂である場合は、例えばエポキシ樹脂、複素環式芳香族アミン、イソシアネート化合物等を架橋剤として用いることができる。
【0026】
ここで、架橋性ポリマーが上記a)の架橋性ポリイミドである場合について具体例を挙げて詳しく説明する。架橋性ポリイミドがポリイミド鎖中にケトン基(-CO-)を有する場合、該ケトン基と、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物(以下、「架橋形成用アミノ化合物」と記すことがある)のアミノ基を反応させてC=N結合を形成させることによって、架橋構造を形成することができる。架橋構造の形成によって、架橋性ポリイミドの耐熱性を向上させることができる。ケトン基を有する架橋性ポリイミドを形成するために好ましい酸二無水物としては、例えば3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を、ジアミン化合物としては、例えば、4,4’―ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)等の芳香族ジアミンを挙げることができる。
【0027】
架橋性ポリイミドは、原料として一般にポリイミドに使用される酸二無水物及びジアミン化合物を特に制限なく使用できるが、ポリイミドの比誘電率及び誘電正接を低下させる観点から、全ジアミン成分に対して、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を40モル%以上含有する原料を用いることが好ましい。ここで、ダイマージアミン組成物は、下記の成分(a)を主成分として含有するとともに、成分(b)及び(c)の量が制御されている精製物である。
【0028】
(a)ダイマージアミン;
(a)成分のダイマージアミンとは、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(-COOH)が、1級のアミノメチル基(-CH-NH)又はアミノ基(-NH)に置換されてなるジアミンを意味する。ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の分子間重合反応によって得られる既知の二塩基酸であり、その工業的製造プロセスは業界でほぼ標準化されており、炭素数が11~22の不飽和脂肪酸を粘土触媒等にて二量化して得られる。工業的に得られるダイマー酸は、オレイン酸やリノール酸、リノレン酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られる炭素数36の二塩基酸が主成分であるが、精製の度合いに応じ、任意量のモノマー酸(炭素数18)、トリマー酸(炭素数54)、炭素数20~54の他の重合脂肪酸を含有する。また、ダイマー化反応後には二重結合が残存するが、本発明では、更に水素添加反応して不飽和度を低下させたものもダイマー酸に含めるものとする。(a)成分のダイマージアミンは、炭素数18~54の範囲内、好ましくは22~44の範囲内にある二塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるジアミン化合物、と定義することができる。
【0029】
ダイマージアミン組成物は、分子蒸留等の精製方法によって(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上、好ましくは97重量%以上、より好ましくは98重量%以上にまで高めたものを使用することがよい。(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上とすることで、ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。なお、技術的に可能であれば、ダイマージアミン組成物のすべて(100重量%)が、(a)成分のダイマージアミンによって構成されていることが最もよい。
【0030】
(b)炭素数10~40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物;
炭素数10~40の範囲内にある一塩基酸化合物は、ダイマー酸の原料に由来する炭素数10~20の範囲内にある一塩基性不飽和脂肪酸、及びダイマー酸の製造時の副生成物である炭素数21~40の範囲内にある一塩基酸化合物の混合物である。モノアミン化合物は、これらの一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるものである。
【0031】
(c)炭素数41~80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く);
炭素数41~80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物は、ダイマー酸の製造時の副生成物である炭素数41~80の範囲内にある三塩基酸化合物を主成分とする多塩基酸化合物である。また、炭素数41~80のダイマー酸以外の重合脂肪酸を含んでいてもよい。アミン化合物は、これらの多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるものである。
【0032】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた測定によって(a)~(c)成分の定量を行う場合、ダイマージアミン組成物の各成分のピークスタート、ピークトップ及びピークエンドの確認を容易にするために、ダイマージアミン組成物を無水酢酸及びピリジンで処理したサンプルを使用し、また内部標準物質としてシクロヘキサノンを使用する。このように調製したサンプルを用いて、GPCのクロマトグラムの面積パーセントで各成分を定量する。各成分のピークスタート及びピークエンドは、各ピーク曲線の極小値とし、これを基準にクロマトグラムの面積パーセントの算出を行うことができる。
【0033】
また、ダイマージアミン組成物は、GPC測定によって得られるクロマトグラムの面積パーセントで、成分(b)及び(c)の合計が4%以下、好ましくは4%未満がよい。成分(b)及び(c)の合計を4%以下とすることで、ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。
また、(b)成分のクロマトグラムの面積パーセントは、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下がよい。このような範囲にすることで、ポリイミドの分子量の低下を抑制することができ、更にテトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分の仕込みのモル比の範囲を広げることができる。なお、(b)成分は、ダイマージアミン組成物中に含まれていなくてもよい。
また、(c)成分のクロマトグラムの面積パーセントは、2%以下であり、好ましくは1.8%以下、より好ましくは1.5%以下がよい。このような範囲にすることで、ポリイミドの分子量の急激な増加を抑制することができ、更に樹脂フィルムの広域の周波数での誘電正接の上昇を抑えることができる。なお、(c)成分は、ダイマージアミン組成物中に含まれていなくてもよい。
【0034】
また、成分(b)及び(c)のクロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1以上である場合、テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)は、好ましくは0.97以上1.0未満とすることがよく、このようなモル比にすることで、ポリイミドの分子量の制御がより容易となる。
また、成分(b)及び(c)の前記クロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1未満である場合、テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)は、好ましくは0.97以上1.1以下とすることがよく、このようなモル比にすることで、ポリイミドの分子量の制御がより容易となる。
【0035】
ダイマージアミン組成物は、市販品が利用可能であり、(a)成分のダイマージアミン以外の成分を低減する目的で精製することが好ましく、例えば(a)成分を96面積%以上とすることが好ましい。精製方法としては、特に制限されないが、蒸留法や沈殿精製等の公知の方法が好適である。ダイマージアミン組成物の市販品としては、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、同PRIAMINE1075(商品名)等が挙げられる。
【0036】
なお、架橋性ポリイミドは、上記以外の酸二無水物成分及びジアミン成分を原料として含むことができる。
【0037】
一方、架橋形成用アミノ化合物としては、(I)ジヒドラジド化合物、(II)芳香族ジアミン、(III)脂肪族アミン等を例示することができる。これらの中でも、ジヒドラジド化合物が好ましい。また、上記(I)ジヒドラジド化合物、(II)芳香族ジアミン、(III)脂肪族アミン等のアミノ化合物は、例えば(I)と(II)の組み合わせ、(I)と(III)との組み合わせ、(I)と(II)と(III)との組み合わせのように、カテゴリーを超えて2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0038】
架橋性ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物とを架橋形成させる場合は、架橋性ポリイミドを含む樹脂溶液に、上記架橋形成用アミノ化合物を加えて、架橋性ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物の第1級アミノ基とを縮合反応させる。この縮合反応により、樹脂溶液は硬化して硬化物となる。すなわち、ケトン基含有ポリイミド中のケトン基と架橋剤の官能基とを求核付加反応させることによって架橋形成し、硬化物である架橋ポリイミドとなる。架橋形成のための求核付加反応の条件は特に制限されず、例えば、加熱による縮合反応によってイミン結合(C=N結合)が生成し、架橋構造が形成される。加熱縮合の温度は、縮合によって生成する水を系外へ放出させるため、例えば160~200℃の範囲内が好ましい。反応時間は、30分~24時間程度が好ましい。反応の終点は、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1670cm-1付近のポリイミド樹脂におけるケトン基に由来する吸収ピークの減少又は消失、及び1635cm-1付近のイミン基に由来する吸収ピークの出現により確認することができる。
【0039】
架橋性ポリマー及び架橋剤を使用して接着剤フィルム30を形成する方法は特に制限されず、常法に従ってフィルム化できる。なお、接着剤フィルム30は、架橋性ポリマー及び架橋剤を含有する層のみからなるものでもよいし、架橋性ポリマー及び架橋剤を含有する層以外に、この層に積層された任意の層を含んでいてもよい。
【0040】
接着剤フィルム30の厚みは、特に制限はないが、例えば25μm以上100μmの範囲内とすることが好ましい。接着剤フィルム30の厚みが25μmに満たない場合は、気化成分の含有量も少なくなるため、発明の効果が発現しにくい。一方、厚みが100μmを超えると、吸湿量が多くなり過ぎ、加熱乾燥工程を実施してもはんだ耐熱性が向上し難くなる。
【0041】
接着剤フィルム30の10GHzにおける誘電正接は、特に制限はないが、高周波伝送における伝送損失を抑えるため、例えば0.0032以下であることが好ましい。
【0042】
また、接着剤フィルム30の吸湿率は、特に制限はないが、誘電正接を十分に下げるとともに、フロー・リフロー工程でのはんだ耐熱性を担保するため、例えば0.2%以下であることが好ましい。吸湿率が0.2%を超えると加熱乾燥工程を実施してもはんだ耐熱性が向上し難くなる。
【0043】
工程(ii):
第1の被接着体10と接着剤フィルム30と第2の被接着体20がこの順番で接するように重ねて第1の中間体を作製する工程。
本工程は、仮の積層工程であり、図1(B)に示すように、第1の被接着体10と接着剤フィルム30と第2の被接着体20をこの順番に位置合わせして重ねて配置することによって第1の中間体とする。
【0044】
工程(iii):
第1の中間体を加熱乾燥して接着剤フィルム30中に含まれる気化成分の一部分又は全部を除去して第2の中間体を作製する工程。
本工程は、図1(C)に示すように、真空条件下での加熱により接着剤フィルム30の乾燥を行う工程である。本工程は、接着剤フィルム30中の架橋性ポリマーの架橋硬化を目的とするものではなく、接着剤フィルム30中に含まれる気化成分の一部分又は全部が除去された状態の第2の中間体を形成することを目的とする工程である。
【0045】
ここで、接着剤フィルム30中に含まれる気化成分としては、例えば水分、有機溶媒などを挙げることができる。
接着剤フィルム30中に含まれる水分は、架橋性ポリマーの形成過程で生成した水分(例えばイミド化水)や、環境中から吸湿した水分などである。
有機溶媒としては、架橋性ポリマーの形成過程で使用した有機溶媒、接着剤フィルム30をキャスト法で形成する場合に使用した有機溶媒などであり、例えば、N、N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、ベンジルアルコール、クレゾール、アセトン、テトラヒドロフラン、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、ジグライム、トリグライム、キシレン、トルエン等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
特に、接着剤フィルム30中に架橋性ポリマーとともに架橋剤が配合されている場合、架橋剤中に含まれる極性基の存在によって、接着剤フィルム30中に極性溶媒が残留しやすくなったり、環境中の水分を吸湿しやすくなったりする可能性がある。また、接着剤フィルム30の製造後、一旦、乾燥処理を行った場合でも、実装工程までの間に吸湿し、水分含量が増加する可能性がある。
【0046】
工程(iii)における加熱乾燥の条件は以下のとおりである。
加熱乾燥の圧力は、真空下、例えば3.0kPa以下であり、1.7kPa以下が好ましい。第1の中間体は、工程(ii)で仮積層されている状態にあるため、接着剤フィルム30中の気化成分が抜けにくい状態となっているが、真空下で行うことによって気化成分の除去効率を高めることができる。圧力が3.0kPaを超える場合は、気化成分の除去が不十分となり、フロー工程・リフロー工程での熱処理によってふくれ、剥がれなどが発生しやすくなる。
【0047】
加熱乾燥の温度は、60℃~150℃の範囲内であり、60~145℃の範囲内が好ましい。加熱乾燥の温度が60℃未満であると、気化成分の除去が不十分となり、フロー工程・リフロー工程での熱処理によってふくれ、剥がれなどが発生しやすくなる。一方、加熱乾燥の温度が150℃を超えると、架橋性ポリマーの架橋硬化が進行してしまい、接着剤フィルム30の接着性が低下し、次の工程(iv)の熱圧着工程を経ても十分な接着性が担保できなくなる場合がある。
【0048】
また、加熱乾燥時間は、上記圧力及び温度を前提として、30分~24時間であり、好ましくは30分~12時間である。加熱乾燥時間が30分未満であると、気化成分の除去が不十分となり、フロー工程・リフロー工程での熱処理によってふくれ、剥がれなどが発生しやすくなる。一方、加熱乾燥時間が24時間を超えると、架橋性ポリマーの架橋硬化が進行してしまい、接着剤フィルム30の接着性が低下し、次の工程(iv)の熱圧着工程を経ても十分な接着性が担保できなくなる場合がある。
【0049】
本工程では、次の工程(iv)の熱圧着の直前のタイミングで加熱乾燥を実施するため、気化成分の除去効率を高めることができる。それに対して、工程(iv)の熱圧着の後では、積層構造が形成されてしまっているため、同じ条件で加熱乾燥を実施しても、気化成分の除去効率が低下してしまう。また、工程(ii)より前に加熱乾燥を実施しても気化成分を除去する一定の効果は認められるが、その後、大気環境下で吸湿が生じる可能性があることから効果的ではない。
【0050】
工程(iv):
工程(iii)の後で、第2の中間体を真空下で加熱加圧処理して接着剤フィルム30中の架橋性ポリマーを架橋硬化させて接着剤層30Aを形成するとともに、該接着剤層30Aを介して第1の被接着体10と第2の被接着体20とが熱圧着された回路基板100を形成する工程。
本工程は、図1(D)に示すように、真空下での加熱加圧処理によって、第2の中間体中の第1の被接着体10と第2の被接着体20とを接着剤フィルム30を介して熱圧着し、図1(E)に示す回路基板100を作製する工程である。加熱加圧処理によって、接着剤フィルム30中の架橋性ポリマーが架橋硬化されて接着剤層30Aとなり、第1の被接着体10と第2の被接着体20とが強固に接着される。
【0051】
本工程における加熱加圧処理の温度、圧力の条件は、特に制限はなく、第1の被接着体10、第2の被接着体20及び架橋性ポリマーの種類に応じて適宜設定することができる。なお、架橋性ポリマーが上記a)の架橋性ポリイミドである場合の加熱温度は、上記のとおり、例えば160~200℃の範囲内が好ましい。また、本工程は、真空下で行われ、その圧力に特に制限はないが、例えば1.0~5.0MPaの範囲内が好ましい。
【0052】
[回路基板]
本実施の形態の回路基板は、以上の方法によって製造されるものであれば、その構成は問わないが、図1に示した回路基板100のほかに、好ましい構成例として図2図4を例示できる。
【0053】
図2に例示する回路基板101は、基材11と、基材11の少なくとも一方の面に積層された配線層50と、基材11の配線層50側の面において配線層50を覆うように積層された接着剤層30Aと、接着剤層30Aの基材11とは反対側の面に積層された基材21と、を備えている。回路基板101における基材11は、第1の被接着体10に相当し、基材21は、第2の被接着体20に相当する。基材11及び基材21は、特に限定はないが、例えば金属層、電気的絶縁性を有する樹脂により構成される単層又は複数層からなる絶縁樹脂層、金属層と絶縁樹脂層とが積層されている金属張積層板等であってよい。ここで、絶縁樹脂層としては、例えばポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ETFEなどによる樹脂層を挙げることができる。なお、回路基板101は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。
【0054】
図3に例示する回路基板102は、基材12と、基材12の少なくとも一方の面に積層された配線層51と、基材22と、基材22の少なくとも一方の面に積層された配線層52と、を有しており、接着剤層30Aが、基材12の配線層51とは反対側の面と、基材22の配線層52とは反対側の面と、の間に積層されている。回路基板102における基材12は第1の被接着体10に相当し、基材22は、第2の被接着体20に相当する。回路基板102における基材12及び基材22は、図2の回路基板101における基材11及び基材21と同様の構成であってよい。なお、回路基板102は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。
【0055】
図4に例示する回路基板103は、多層回路基板であり、少なくとも2層以上の絶縁樹脂層13,23、及び、少なくも2層以上の配線層51,52を有するものであり、少なくとも1つの配線層51は接着剤層30Aで被覆されている。回路基板103における絶縁樹脂層13及び配線層51は第1の被接着体10に相当し、絶縁樹脂層23及び配線層52は、第2の被接着体20に相当する。配線層51を被覆する接着剤層30Aは、配線層51の表面を部分的に被覆するものでもよいし、配線層50Aの全表面に亘って被覆するものでもよい。回路基板103における絶縁樹脂層13,23は、図2の回路基板101における基材11及び基材21と同様の構成であってよい。また、回路基板103は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。
【実施例0056】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0057】
[試験片の調湿]
積層体を2.5cm角にカットし試験片とし、恒温恒湿器(東洋精機社製)を用い、温度40℃、湿度90%RHの条件下で、96時間調湿した。
【0058】
[はんだ耐熱性試験]
上記試験片を、下記、(1)または(2)の試験方法のいずれかで実施した。
(1)288℃のはんだ浴中に10秒浸漬させ、取り出した後にふくれ等の外観異常がないかを確認する。ふくれが確認されない場合は合格(〇)、ふくれが発生した場合は不合格(×)とした。
(2)288℃のはんだ浴面上にフロートさせ、目視にてふくれ等の外観異常が確認されるまでの時間を計測した。9秒を超える場合は合格(〇)、9秒以下の場合は不合格(×)とした。
【0059】
[誘電正接の測定]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名:ベクトルネットワークアナライザE8363C)及びスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)を用いて、北川精機社製小型精密プレス機で、温度160℃、圧力3.5MPa、1時間の条件で熱処理した接着剤フィルムを温度23℃、湿度50%RHの条件下で、24時間放置した後、周波数が10GHzにおける誘電正接を測定した。
【0060】
[吸湿率の測定]
精密電子天秤(メトラー社製)を用いて、北川精機社製小型精密プレス機で、温度160℃、圧力3.5MPa、1時間の条件で熱処理した接着剤フィルムを、乾燥オーブン(エスペック社製)にて、80℃、1時間乾燥後の乾燥後重量を測定した。その後、温度23℃、湿度50%RHの条件下で、24時間放置した後の調湿後重量を測定した。これらより、吸湿率を下記式によって、求めた。
吸湿率(%)=[(調湿後重量-乾燥後重量)/乾燥後重量]×100
【0061】
[GPC及びクロマトグラムの面積パーセントの算出]
GPCは、20mgのダイマージアミン組成物を200μLの無水酢酸、200μLのピリジン及び2mLのTHFで前処理した100mgの溶液を、10mLのTHF(1000ppmのシクロヘキサノンを含有)で希釈し、サンプルを調製した。調製したサンプルを東ソー株式会社製、商品名;HLC-8220GPCを用いて、カラム:TSK-gel G2000HXL,G1000HXL、フロー量:1mL/min、カラム(オーブン)温度:40℃、注入量:50μLの条件で測定した。なお、シクロヘキサノンは流出時間の補正のために標準物質として扱った。
【0062】
このとき、シクロヘキサノンのメインピークのピークトップがリテンションタイム27分から31分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのメインピークのピークスタートからピークエンドが2分になるように調整し、シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークトップが18分から19分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークスタートからピークエンドまでが2分から4分30秒となる条件で、各成分(a)~(c);
(a)メインピークで表される成分;
(b)メインピークにおけるリテンションタイムが遅い時間側の極小値を基準にし、それよりも遅い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
(c)メインピークにおけるリテンションタイムが早い時間側の極小値を基準にし、それよりも早い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
を検出した。
【0063】
[アミン価の測定方法]
約2gのダイマージアミン組成物を200~250mLの三角フラスコに秤量し、指示薬としてフェノールフタレインを用い、溶液が薄いピンク色を呈するまで、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液を滴下し、中和を行ったブタノール約100mLに溶解させる。そこに3~7滴のフェノールフタレイン溶液を加え、サンプルの溶液が薄いピンク色に変わるまで、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液で攪拌しながら滴定する。そこへブロモフェノールブルー溶液を5滴加え、サンプル溶液が黄色に変わるまで、0.2mol/Lの塩酸/イソプロパノール溶液で攪拌しながら滴定する。
アミン価は、次の式(1)により算出する。
アミン価={(V×C)-(V×C)}×MKOH/m ・・・(1)
ここで、アミン価はmg-KOH/gで表される値であり、MKOHは水酸化カリウムの分子量56.1である。また、V、Cはそれぞれ滴定に用いた溶液の体積と濃度であり、添え字の1、2はそれぞれ0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液、0.2mol/Lの塩酸/イソプロパノール溶液を表す。さらに、mはグラムで表されるサンプル重量である。
【0064】
[ポリイミドの重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC-8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にテトラヒドロフラン(THF)を用いた。
【0065】
本実施例で用いた略号は以下の化合物を示す。
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
DDA1:炭素数36の脂肪族ジアミン(クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1074を精製したもの、a成分;97.9%、b成分;0.3%、c成分;1.8%、アミン価;210mgKOH/g、環状構造及び鎖状構造のダイマージアミンの混合物)
N-12:ドデカン二酸ジヒドラジド
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
OP935:ホスフィン酸のアルミニウム塩(クラリアント社製、商品名;Exolit OP935、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、リン含有量;23質量%、粒子径D50;2μm)
なお、上記DDA1において、a成分、b成分及びc成分の「%」は、GPC測定におけるクロマトグラムの面積パーセントを意味する。また、上記DDA1の分子量は次式により算出した。
分子量=56.1×2×1000/アミン価
【0066】
[ポリイミド溶液の合成]
1000mlのセパラブルフラスコに、45.43gのBTDA(0.1410モル)、74.57gのDDA1(0.1396モル)、168gのNMP及び112gのキシレンを装入し、40℃で1時間良く混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、5時間加熱、攪拌し、98gのキシレンを加えてイミド化を完結したポリイミド溶液1(固形分;30重量%、重量平均分子量;58,000)を調製した。
【0067】
[接着剤フィルムの作製]
(作製例1)
100gのポリイミド溶液1(固形分として30g)に1.1gのN-12(0.0042モル)を配合し、7.5gのOP935、2.0gのNMP及び12.0gのキシレンを加えて希釈し、更に1時間攪拌することで接着剤組成物1を調製した。接着剤組成物1を離型PETフィルム1(東山フィルム社製、商品名;HY-S05、縦×横×厚さ=200mm×300mm×25μm)の片面に塗布し、80℃で15分間乾燥後、離型PETフィルム1から剥離することによって、厚さが25μmの接着剤フィルム1を調製した。
接着剤フィルム1の周波数10GHzにおける誘電正接は0.0023、吸湿率は0.1%であった。
【0068】
(作製例2)
作製例1における乾燥条件を80℃で30分間にしたこと以外、作製例1と同様にして、厚さが50μmの接着剤フィルム2を調製した。
接着剤フィルム1の周波数10GHzにおける誘電正接は0.0023、吸湿率は0.1%であった。
【0069】
[比較例1]
市販の両面フレキシブル銅張積層板1(日鉄ケミカル&マテリアル社製、圧延銅箔、長尺状、銅箔の厚み;12μm、ポリイミド層の厚み;50μm)の片側に接着剤フィルム1を積層し、さらにその上に市販の片面フレキシブル銅張積層板1(日鉄ケミカル&マテリアル社製、圧延銅箔、長尺状、銅箔の厚み;12μm、ポリイミド層の厚み;50μm)のポリイミド層側を積層して、積層中間体1を得た。積層中間体1を、北川精機社製小型精密プレス機で、真空下(圧力1.7kPa)、温度40℃、3時間の条件で加熱乾燥した後、同装置で温度160℃、圧力3.5MPa、1時間の条件で真空下(圧力1.7kPa)、熱圧着して、積層体1を得た。積層体1をサンプルカットし、調湿した後、はんだ耐熱性試験を行った結果、不合格であった。
【0070】
[比較例2]
比較例1における加熱乾燥条件を、温度60℃、1時間にしたこと以外、比較例1と同様にして、積層中間体2、積層体2を得た。積層体2をサンプルカットし、調湿した後、はんだ耐熱性試験を行った結果、不合格であった。
【0071】
[実施例1]
比較例1における加熱乾燥条件を、温度60℃、2時間にしたこと以外、比較例1と同様にして、積層中間体3、積層体3を得た。積層体3をサンプルカットし、調湿した後、はんだ耐熱性試験を行った結果、合格であった。
【0072】
[比較例3]
比較例1における加熱乾燥条件を、温度90℃、0.5時間にしたこと以外、比較例1と同様にして、積層中間体4、積層体4を得た。積層体4をサンプルカットし、調湿した後、はんだ耐熱性試験を行った結果、不合格であった。
【0073】
[実施例2]
比較例1における加熱乾燥条件を、温度90℃、1時間にしたこと以外、比較例1と同様にして、積層中間体5、積層体5を得た。積層体5をサンプルカットし、調湿した後、はんだ耐熱性試験を行った結果、合格であった。
【0074】
[実施例3]
比較例1における加熱乾燥条件を、温度120℃、0.5時間にしたこと以外、比較例1と同様にして、積層中間体6、積層体6を得た。積層体6をサンプルカットし、調湿した後、はんだ耐熱性試験を行った結果、合格であった。
【0075】
[実施例4]
比較例1における加熱乾燥条件を、温度145℃、0.5時間にしたこと以外、比較例1と同様にして、積層中間体7、積層体7を得た。積層体7をサンプルカットし、調湿した後、はんだ耐熱性試験を行った結果、合格であった。
【0076】
[実施例5]
比較例1における接着剤フィルムを接着剤フィルム2とし、加熱乾燥条件を、温度120℃、1時間にしたこと以外、比較例1と同様にして、積層中間体8、積層体8を得た。積層体8をサンプルカットし、調湿した後、はんだ耐熱性試験を行った結果、合格であった。
【0077】
[比較例4]
比較例1における接着剤フィルム1の代わりに、水添スチレン系ポリマー(商品名;BHF25、TAIFLEX社製)とエポキシ系架橋剤を含む市販の接着剤フィルム3(厚み;25μm)を用いて、加熱乾燥処理を、実施しないこと以外、比較例1と同様にして、積層中間体9、積層体9を得た。積層体9をサンプルカットし、調湿した後、はんだ耐熱性試験を行った結果、不合格であった。
【0078】
[実施例6]
比較例1における接着剤フィルム1の代わりに、接着剤フィルム3を用いて、加熱乾燥条件を、120℃、0.5時間にしたこと以外、実施例1と同様にして、積層中間体10、積層体10を得た。積層体10をサンプルカットし、調湿した後、はんだ耐熱性試験を行った結果、合格であった。
【0079】
以上の結果をまとめて表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0082】
10…第1の被接着体、11,12…基材、13…絶縁樹脂層、20…第2の被接着体、21,22…基材、23…絶縁樹脂層、30…接着剤フィルム、30A…接着剤層、50,51,52…配線層、100,101,102,103…回路基板

図1
図2
図3
図4