(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068730
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合用ツール及び摩擦攪拌点接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20230511BHJP
B29C 65/06 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23K20/12 364
B29C65/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179991
(22)【出願日】2021-11-04
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】麻 寧緒
(72)【発明者】
【氏名】耿 培皓
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
【テーマコード(参考)】
4E167
4F211
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167AA07
4E167AA08
4E167AA22
4E167AA27
4E167BG02
4E167BG05
4E167BG06
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4E167BG26
4E167CB03
4F211AD03
4F211AD16
4F211AD19
4F211AG03
4F211TA01
4F211TC03
4F211TD11
4F211TN21
4F211TQ01
(57)【要約】
【課題】摩擦攪拌点接合による樹脂と金属の異材点接合に好適に用いることができる摩擦攪拌接合用ツールであって、被接合界面に均一な温度分布を形成できると共に、低荷重で良好な接合部を得ることができる摩擦攪拌接合用ツールを提供する。また、本発明の摩擦攪拌接合用ツールを用いた樹脂と金属の摩擦攪拌点接合方法を提供する。
【解決手段】略円柱状を呈する基部と、基部の端面からなる摩擦攪拌面と、を有し、摩擦攪拌面の中央に円盤状凹部を有すること、を特徴とする摩擦攪拌接合用ツール。当該摩擦攪拌接合用ツールは摩擦攪拌面に円環状凹部を有し、円環状凹部が円盤状凹部を中心として円盤状凹部の外側に形成され、円盤状凹部と円環状凹部の間には端面と同じ高さの円環状凸部を有すること、が好ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円柱状を呈する基部と、
前記基部の端面からなる摩擦攪拌面と、を有し、
前記摩擦攪拌面の中央に円盤状凹部を有すること、
を特徴とする摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項2】
前記摩擦攪拌面に円環状凹部を有し、
前記円環状凹部が前記円盤状凹部を中心として前記円盤状凹部の外側に形成され、
前記円盤状凹部と前記円環状凹部の間には前記端面と同じ高さの円環状凸部を有すること、
を特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項3】
内径及び外径の異なる前記円環状凹部を2つ以上有し、
前記円盤状凹部を中心として前記円環状凹部が形成され、
前記円環状凹部同士の間には前記端面と同じ高さの円環状凸部を有すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項4】
前記円盤状凹部及び前記円環状凹部の深さが0.1~0.3mmであること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項5】
前記円盤状凹部の直径が3~9mmであること、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項6】
前記円環状凹部の幅が1~1.5mmであること、
を特徴とする請求項2~5のうちのいずれかに記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項7】
前記円環状凸部の幅が1~1.5mmであること、
を特徴とする請求項2~6のうちのいずれかに記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項8】
前記基部の直径が10~30mmであること、
を特徴とする請求項1~7のうちのいずれかに記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項9】
金属板と熱可塑性樹脂板とを重ね合わせて被接合界面を形成させる第一工程と、
前記金属板の表面から回転させた摩擦攪拌接合用ツールを圧入して接合界面を形成させる第二工程と、を有し、
前記摩擦攪拌接合用ツールに請求項1~8のうちのいずれかに記載の摩擦攪拌接合用ツールを用いること、
を特徴とする摩擦攪拌点接合方法。
【請求項10】
前記第二工程において、前記摩擦攪拌接合用ツールに印加する押込荷重を500kgf以下とすること、
を特徴とする請求項9に記載の摩擦攪拌点接合方法。
【請求項11】
前記第二工程において、前記接合界面の最高到達温度を前記熱可塑性樹脂板の完全熱分解温度未満とすること、
を特徴とする請求項9又は10に記載の摩擦攪拌点接合方法。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂板を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とすること、
を特徴とする請求項9~11のうちのいずれかに記載の摩擦攪拌点接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦攪拌接合用ツール及び当該ツールを用いた摩擦攪拌点接合方法に関し、より具体的には、樹脂と金属の異材点接合に好適に用いることができる摩擦攪拌接合用ツール及び当該ツールを用いた樹脂と金属の摩擦攪拌点接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費の向上及び環境負荷低減等の観点から各種輸送用機器の軽量化が切望されており、航空機や自動車への炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の樹脂材の使用が盛んに検討されている。
【0003】
このような背景から、各種金属材と樹脂材との接合技術を確立することが必要不可欠であり、鋼やアルミニウム合金等の金属材と樹脂材とを接合する技術の開発が進められている。
【0004】
ここで、ボルト等を用いて機械的に締結する場合、被接合材への加工が必要になることに加えて、締結部材による重量増加を避けることができない。また、接着剤を用いて接合する場合、接合部に十分な接合強度や信頼性を付与することができない。
【0005】
これに対し、例えば特許文献1(特開2012-170975号公報)においては、金属部材と樹脂部材とを両者の間に樹脂層を介在させずに即ち直接的に接合可能な金属部材と樹脂部材との接合方法、及び金属部材と樹脂部材との接合継手を提供することを目的として、金属部材と樹脂部材とを両者の間に樹脂層を介在させないで接触させ、回転している回転ツールを金属部材の表面の法線に対する回転ツールの軸線の傾斜角θが0°<θ≦5°の条件を満足するように傾斜させて金属部材の表面に押し付けた状態にすることにより金属部材に付与された摩擦エネルギーによって、金属部材と樹脂部材とを接合することを特徴とする金属部材と樹脂部材との接合方法、が提案されている。
【0006】
上記特許文献1に記載の金属部材と樹脂部材との接合方法においては、金属部材と樹脂部材とを両者の間に樹脂層を介在させないで接触させるので、樹脂層を用いない分、安価に且つ容易に接合を行うことができ、金属部材と接合可能な樹脂部材の種類が増加する。更に、金属部材と樹脂部材とを任意の箇所で接合することができる、とされている。
【0007】
また、特許文献2(特開2017-13084号公報)においては、樹脂部材と金属部材との接合を十分な強度で達成することができる金属部材と樹脂部材との接合方法を提供すること、を目的として、金属部材と樹脂部材とを重ね合わせ、回転ツールを回転させつつ、金属部材に押圧して摩擦熱を発生させ、該摩擦熱により樹脂部材を軟化および溶融させた後、固化させて接合を行う摩擦撹拌接合方法による金属部材と樹脂部材との接合方法であって、前記金属部材として、少なくとも樹脂部材側表面の回転ツール直下領域に水酸化物皮膜を有する金属部材を用いる、ことを特徴とする金属部材と樹脂部材との接合方法、が提案されている。
【0008】
上記特許文献2に記載の金属部材と樹脂部材との接合方法においては、接合時において樹脂部材と金属部材の水酸化物皮膜との間で相互作用がさらに働くようになり、接着強度をさらに向上させることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012-170975号公報
【特許文献2】特開2017-13084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1及び2においては摩擦攪拌現象を用いて金属材と樹脂材を直接接合することができるが、使用されている摩擦攪拌接合用ツールは円柱状の基部の底面中央に突起(プローブ)を有する一般的な摩擦攪拌接合用ツールであり、良好な接合部を得ることや接合プロセス最適化等を目的としたツール形状の検討はなされていない。
【0011】
ここで、摩擦攪拌接合を用いて金属と樹脂を直接接合する場合、得られる接合部の強度及び信頼性等は、接合中の被接合界面の温度(接合温度)の値と温度分布の均一性、及び当該被接合界面に印加される接合圧力によって主に決定される。
【0012】
特に、ツールを横方向に移動させない点接合においては、ツール外周部と内周部の周速度や抜熱状況の差異により温度分布が形成されやすく、被接合界面における温度を均一化することが極めて困難である。また、当該接合状況を実現するために摩擦攪拌接合用ツールに印加する荷重が大きくなる場合、接合装置が大型かつ高価になり、産業的に使用することが困難となる。
【0013】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、摩擦攪拌点接合による樹脂と金属の異材点接合に好適に用いることができる摩擦攪拌接合用ツールであって、被接合界面に均一な温度分布を形成できると共に、低荷重で良好な接合部を得ることができる摩擦攪拌接合用ツールを提供することにある。また、本発明は、本発明の摩擦攪拌接合用ツールを用いた樹脂と金属の摩擦攪拌点接合方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記目的を達成すべく、摩擦攪拌接合用ツールの摩擦攪拌面(ツール端面)の形状等について鋭意研究を重ねた結果、一般的な摩擦攪拌接合用ツールがツール端面中央部に有する凸状のプローブを設けることなく、それとは反対に、ツール端面中央部に凹部を設けること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
即ち、本発明は、
略円柱状を呈する基部と、
前記基部の端面からなる摩擦攪拌面と、を有し、
前記摩擦攪拌面の中央に円盤状凹部を有すること、
を特徴とする摩擦攪拌接合用ツール、を提供する。
【0016】
本発明者がプローブのないフラットな摩擦攪拌面を有する単純な円柱状のツールを用い、金属板と樹脂板を重ね合わせた状態で樹脂板側から当該ツールを回転させつつ圧入したところ、被接合界面の温度はツール底面の中央部で高く、外周部で低くなることが明らかとなった。これに対し、本発明の摩擦攪拌接合用ツールは摩擦攪拌面の中央が円盤状凹部となっており、当該円盤状凹部における摩擦発熱量が低くなることで被接合界面における温度を均一化することができる。加えて、円盤状凹部によって、ツールに印加する押込み荷重を低減することができる。
【0017】
本発明の摩擦攪拌接合用ツールにおいては、前記摩擦攪拌面に円環状凹部を有し、前記円環状凹部が前記円盤状凹部を中心として前記円盤状凹部の外側に形成され、前記円盤状凹部と前記円環状凹部の間には前記端面と同じ高さの円環状凸部を有すること、が好ましい。
【0018】
円盤状凹部の外側に円環状の凹部を有することで、接合中における被接合界面の温度分布をより均一化することができ、円環状の凹部によってツールに印加する押込み荷重(接合荷重)をより低減することができる。また、ツール端面の凸部が同じ高さとなっていることで、接合中にツールに印加されるトルクの増大を抑制できると共に、円滑な材料流動を形成させることができる。
【0019】
また、本発明の摩擦攪拌接合用ツールにおいては、内径及び外径の異なる前記円環状凹部を2つ以上有し、前記円盤状凹部を中心として前記円環状凹部が形成され、前記円環状凹部同士の間には前記端面と同じ高さの円環状凸部を有すること、が好ましい。
【0020】
複数の円環状凹部を有することで、接合中における被接合界面の温度分布を更に均一化することができることに加え、複数の円環状の凹部によってツールに印加する押込み荷重を更に低減することができる。
【0021】
また、本発明の摩擦攪拌接合用ツールにおいては、前記円盤状凹部及び前記円環状凹部の深さが0.1~0.3mmであること、が好ましい。凹部の深さを0.1mm以上とすることで当該凹部形状に起因する被接合界面温度の均一化及び接合荷重の低下を確実に得ることができる。また、凹部の深さを0.3mm以下とすることで、当該凹部への材料の入り込み等に起因する材料流動の乱れやプロセストルクの増大等を抑制することができる。
【0022】
また、本発明の摩擦攪拌接合用ツールにおいては、前記円盤状凹部の直径が3~9mmであること、が好ましい。円盤状凹部の直径を3mm以上とすることで当該凹部形状に起因する被接合界面温度の均一化及び接合荷重の低下を確実に得ることができる。また、円盤状凹部の直径を9mm以下とすることで、当該凹部への材料の入り込み等に起因する材料流動の乱れやプロセストルクの増大等を抑制することができる。
【0023】
また、本発明の摩擦攪拌接合用ツールにおいては、前記円環状凹部の幅が1~1.5mmであること、が好ましい。円環状凹部の幅を1mm以上とすることで当該凹部形状に起因する被接合界面温度の均一化及び接合荷重の低下を確実に得ることができる。また、円環状凹部の幅を1.5mm以下とすることで、当該凹部への材料の入り込み等に起因する材料流動の乱れやプロセストルクの増大等を抑制することができる。
【0024】
また、本発明の摩擦攪拌接合用ツールにおいては、前記円環状凸部の幅が1~1.5mmであること、が好ましい。円環状凸部の幅を1mm以上とすることで、接合に必要な摩擦発熱を効率的に得ることができる。また、円環状凸部の幅を1.5mm以下とすることで、過剰な摩擦発熱による被接合界面における接合温度の不均一化や接合荷重の増大等を抑制することができる。
【0025】
更に、本発明の摩擦攪拌接合用ツールにおいては、前記基部の直径が10~30mmであること、が好ましい。基部の直径を10mm以上とすることで接合に必要な摩擦発熱を効率的に得ることができると共に、実用上要求される接合強度を発現し得る十分に広い接合面積を得ることができる。一方で、基部の直径を30mm以下とすることで、周速度の差異等に起因する接合温度の不均一化を抑制することができることに加え、接合荷重の増大を抑制することができる。
【0026】
なお、本発明の摩擦攪拌接合用ツールは摩擦攪拌点接合用ツールとして好適に使用できるが、これに限られるものではなく、線接合に用いてもよい。
【0027】
また、本発明は、
金属板と熱可塑性樹脂板とを重ね合わせて被接合界面を形成させる第一工程と、
前記金属板の表面から回転させた摩擦攪拌接合用ツールを圧入して接合界面を形成させる第二工程と、を有し、
前記摩擦攪拌接合用ツールに請求項1~9のうちのいずれかに記載の摩擦攪拌接合用ツールを用いること、
を特徴とする摩擦攪拌点接合方法、も提供する。
【0028】
本発明の摩擦攪拌点接合方法においては、本発明の摩擦攪拌接合用ツールを用いることから、接合中の被接合界面の温度を均一化することができると共に、低い接合荷重で金属板と熱可塑性樹脂板の重ね合わせ領域に良好な点接合部を形成することができる。ここで、金属板の表面から圧入した摩擦攪拌接合用ツールは、良好な接合界面が形成された後にそのまま上方に引き抜くことが好ましいが、必要に応じて横方向に移動させてもよい。
【0029】
また、本発明の摩擦攪拌点接合方法においては、前記第二工程において、前記摩擦攪拌接合用ツールに印加する押込み荷重を500kgf以下とすること、が好ましい。押込み荷重を500kgf以下とすることで、汎用の接合用ロボットを使用することができる。
【0030】
また、本発明の摩擦攪拌点接合方法においては、前記第二工程において、前記接合界面の最高到達温度を前記熱可塑性樹脂板の完全熱分解温度未満とすること、が好ましい。完全熱分解温度とは、熱可塑性樹脂板の母材である熱可塑性樹脂の熱分解が完全に進行を開始する温度であり、例えば、熱可塑性樹脂版がポリアミド6の場合、当該完全熱分解温度は500℃となる。接合界面の最高到達温度を完全熱分解温度未満とすることで、一般的な熱可塑性樹脂の強度低下を抑制することができる。
【0031】
更に、本発明の摩擦攪拌点接合方法においては、前記熱可塑性樹脂板を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とすること、が好ましい。本発明の摩擦攪拌点接合方法においては、接合中の被接合界面の温度を正確かつ均一に制御することができるため、接合温度によって接合部の機械的性質が大きく変化する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であっても、良好な接合部を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、摩擦攪拌点接合による樹脂と金属の異材点接合に好適に用いることができる摩擦攪拌接合用ツールであって、被接合界面に均一な温度分布を形成できると共に、低荷重で良好な接合部を得ることができる摩擦攪拌接合用ツールを提供することができる。また、本発明によれば、本発明の摩擦攪拌接合用ツールを用いた樹脂と金属の摩擦攪拌点接合方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の摩擦攪拌接合用ツールの一態様を示す外観図である。
【
図2】本発明の摩擦攪拌接合用ツールのその他の態様を示す外観図である。
【
図3】一般的に使用されている摩擦攪拌接合用ツールの外観図である。
【
図4】摩擦攪拌プロセスに汎用されている摩擦攪拌用ツールの外観図である。
【
図5】本発明の摩擦攪拌点接合方法の一態様を示す模式図である。
【
図6】実施例1における被接合材の配置状況を示す模式図である。
【
図7】実施例1で用いた摩擦攪拌接合用ツールの外観写真である。
【
図8】実施例1で用いた摩擦攪拌接合用ツールの底面図及び側面図である。
【
図12】実施例1におけるシミュレーション結果である。
【
図13】実施例2で用いた摩擦攪拌接合用ツールの外観写真である。
【
図14】実施例2で用いた摩擦攪拌接合用ツールの底面図及び側面図である。
【
図15】実施例2におけるシミュレーション結果である。
【
図16】比較例で用いた摩擦攪拌接合用ツールの外観写真である。
【
図17】比較例におけるシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら本発明の摩擦攪拌接合用ツール及び摩擦攪拌点接合方法の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0035】
(1)摩擦攪拌接合用ツール
本発明の摩擦攪拌接合用ツールの外観図を
図1及び
図2に示す。また、一般的に使用されている摩擦攪拌接合用ツールの外観図を
図3に、摩擦攪拌プロセスに汎用されている摩擦攪拌接合用ツールの外観を
図4に示す。なお、
図1~
図4においては、摩擦攪拌面となるツール基部の端面を下側としている。
【0036】
一般的に使用されている汎用摩擦攪拌接合用ツール2においては、基部4の端面(摩擦攪拌面6)の中央に、凸形状のプローブ部8が備えられている。プローブ部8の長さは被接合材の板厚や接合態様(突合せ接合や重ね合わせ接合等)によって異なるが、当該板厚と同じ長さ又は僅かに短い長さとされることが多い。
【0037】
例えば、汎用摩擦攪拌接合用ツール2を用いて突合せ接合を行う場合、プローブ部8によって突合せ界面を被接合材の表面側から裏面側まで摩擦攪拌することで、欠陥のない良好な攪拌部を形成することができる。
【0038】
一方で、プローブ部8が長くなると汎用摩擦攪拌接合用ツール2が破損しやすくなることから、表面改質を目的とする摩擦攪拌プロセスを施す場合、
図4に示すようにプローブ部8を設けないフラット状態の摩擦攪拌面6を有する摩擦攪拌プロセス用ツール10が使用されている。
【0039】
これらに対し、本発明の摩擦攪拌接合用ツール12は、摩擦攪拌面6の中央に円盤状凹部14を有することが最大の特徴となっている。円盤状凹部14によって摩擦攪拌面6の中央における摩擦発熱が抑制され、当該円盤状凹部14に対応する被接合界面の温度上昇を抑制することができる。その結果、接合中における接合界面の温度分布が均一化され、良好な接合部を得ることができる。摩擦攪拌面6の周速は外周部の方が早くなり、摩擦発熱量は大きくなるところ、摩擦攪拌面6の中央部分の摩擦発熱量を低減させることで接合温度分布が均一化する理由については必ずしも明らかにはなっていないが、摩擦発熱と熱伝導や材料流動等による抜熱が動的にバランスする結果であると考えられる。
【0040】
円盤状凹部14は厳密に円盤状である必要はなく、例えば、球冠状や円錐台形状であってもよい。
【0041】
ここで、本発明者が、サーモメカニカルモデルを組み込んだ非線形有限要素解析ソフトウェア(Ls-Dyna)を用いて接合温度分布を鋭意検討した結果、プローブ部8が設けられていないフラット状態の摩擦攪拌面6を有する摩擦攪拌プロセス用ツール10を用いて金属板と樹脂板の重ね摩擦攪拌点接合を施す場合、摩擦攪拌面6の外周側と比較して、中央部に対応する被接合界面の温度が高くなることが明らかとなった。当該結果の詳細については、Journal of Materials Research and Technology 2021;12:1777-1793に開示されている。
【0042】
これに対し、摩擦攪拌面6の中央に円盤状凹部14を有する本発明の摩擦攪拌接合用ツール12においては、フラット状態の摩擦攪拌面6を有する摩擦攪拌プロセス用ツール10を用いた場合と比較して、被接合界面全体に均一な温度分布を付与することができる。
【0043】
また、
図2に示すように、摩擦攪拌接合用ツール12においては、摩擦攪拌面6に円環状凹部16を有し、円環状凹部16が円盤状凹部14を中心として円盤状凹部14の外側に形成され、円盤状凹部14と円環状凹部16の間には基部4の端面(摩擦攪拌面6)と同じ高さの円環状凸部18を有することが好ましい。
【0044】
円盤状凹部14の外側に円環状凹部16を有することで、接合中における被接合界面の温度分布をより均一化することができ、円環状凹部16によってツールに印加する押込み荷重をより低減することができる。また、ツール端面の凸部が同じ高さとなっていることで、接合中にツールに印加されるトルクの増大を抑制できると共に、円滑な材料流動を形成させることができる。
【0045】
また、摩擦攪拌接合用ツール12においては、内径及び外径の異なる円環状凹部16を2つ以上有し、円盤状凹部14を中心として円環状凹部16が形成され、円環状凹部16同士の間には基部4の端面(摩擦攪拌面6)と同じ高さの円環状凸部18を有することが好ましい。
【0046】
複数の円環状凹部16を有することで、接合中における被接合界面の温度分布を更に均一化することができることに加え、複数の円環状凹部16によってツールに印加する押込み荷重を更に低減することができる。
【0047】
また、摩擦攪拌接合用ツール12においては、円盤状凹部14及び円環状凹部16の深さが0.1~0.3mmであることが好ましい。凹部の深さを0.1mm以上とすることで当該凹部形状に起因する被接合界面温度の均一化及び接合荷重の低下を確実に得ることができる。また、凹部の深さを0.3mm以下とすることで、当該凹部への材料の入り込み等に起因する材料流動の乱れやプロセストルクの増大等を抑制することができる。ここで、より好ましい円盤状凹部14及び円環状凹部16の深さは0.15~0.25mmである。
【0048】
また、摩擦攪拌接合用ツール12においては、円盤状凹部14の直径が3~9mmであることが好ましい。円盤状凹部14の直径を3mm以上とすることで当該凹部形状に起因する被接合界面温度の均一化及び接合荷重の低下を確実に得ることができる。また、円盤状凹部14の直径を9mm以下とすることで、当該凹部への材料の入り込み等に起因する材料流動の乱れやプロセストルクの増大等を抑制することができる。ここで、より好ましい円盤状凹部の直径は4~8mmであり、最も好ましい直径は5~7mmである。
【0049】
また、摩擦攪拌接合用ツール12においては、円環状凹部16の幅が1~1.5mmであることが好ましい。円環状凹部16の幅を1mm以上とすることで当該凹部形状に起因する被接合界面温度の均一化及び接合荷重の低下を確実に得ることができる。また、円環状凹部16の幅を1.5mm以下とすることで、当該凹部への材料の入り込み等に起因する材料流動の乱れやプロセストルクの増大等を抑制することができる。ここで、円環状凹部16のより好ましい幅は1.2~1.3mmである。
【0050】
また、摩擦攪拌接合用ツール12においては、円環状凸部18の幅が1~1.5mmであることが好ましい。円環状凸部の幅を1mm以上とすることで、接合に必要な摩擦発熱を効率的に得ることができる。また、円環状凸部18の幅を1.5mm以下とすることで、過剰な摩擦発熱による被接合界面における接合温度の不均一化や接合荷重の増大等を抑制することができる。ここで、円環状凸部18のより好ましい幅は1.2~1.3mmである。
【0051】
更に、摩擦攪拌接合用ツール12においては、基部の直径が10~30mmであること、が好ましい。基部4の直径を10mm以上とすることで接合に必要な摩擦発熱を効率的に得ることができると共に、実用上要求される接合強度を発現し得る十分に広い接合面積を得ることができる。一方で、基部4の直径を30mm以下とすることで、周速度の差異等に起因する接合温度の不均一化を抑制することができることに加え、接合荷重の増大を抑制することができる。ここで、より好ましい基部4の直径は12~28mmであり、最も好ましい直径は15~25mmである。
【0052】
摩擦攪拌接合用ツール12の素材は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、摩擦攪拌接合用ツールに用いられている従来公知の種々の素材とすることができる。また、摩擦攪拌接合用ツール12は全てを同一の素材で形成してもよく、複数の素材を組み合わせてもよい。例えば、摩擦攪拌面6を基材4と異なる素材としてもよく、摩擦攪拌面6に適当な被膜を形成させてもよい。摩擦攪拌接合用ツール12の素材としては、例えば、工具鋼、超硬合金及び各種セラミックス等を用いることができる。
【0053】
(2)摩擦攪拌点接合方法
本発明の摩擦攪拌点接合方法は、金属板と熱可塑性樹脂板とを重ね合わせて点接合部を形成する方法であり、本発明の摩擦攪拌接合用ツール12を用いることを最大の特徴としている。本発明の摩擦攪拌点接合方法の一態様を示す模式図を
図5に示す。
【0054】
本発明の摩擦攪拌点接合方法は、金属板20と熱可塑性樹脂板22とを重ね合わせて被接合界面を形成させる第一工程と、金属板20の表面から回転させた摩擦攪拌接合用ツール12を圧入して接合界面を形成させる第二工程と、を有している。
【0055】
被接合材として用いる金属板20の材質は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、摩擦攪拌接合の対象とされている従来公知の種々の金属材とすることができる。ここで、金属板20をアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅及び銅合金とすることで、工具鋼製の安価な摩擦攪拌接合用ツール12を用いて容易に摩擦攪拌を施すことができる。
【0056】
金属板20の厚さは所望の構造物に応じて適宜決定すればよいが、1~5mmとすることが好ましく、1.5~3mmとすることがより好ましい。金属板20の厚さを1mm以上とすることで、摩擦攪拌接合用ツール12を挿入する際の金属板20の不要な塑性変形を抑制することができることに加え、得られる継手に十分な強度及び信頼性を付与することができる。また、金属板20の厚さを5mm以下とすることで、摩擦攪拌面6と金属板20との相互作用によって生じる摩擦発熱及び加工発熱によって、被接合界面を容易かつ効率的に昇温することができる。
【0057】
また、熱可塑性樹脂板22の材質も、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の熱可塑性樹脂とすることができる。ここで、熱可塑性樹脂板22は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とすることが好ましい。熱可塑性樹脂板22を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とすることで、接合部に高い強度と信頼性を付与することができる。また、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の種類は特に限定されず、種々の熱可塑性樹脂マトリックス及び炭素繊維からなるものを使用することができる。また、炭素繊維の含有量や配置状態等についても、特に限定されない。
【0058】
熱可塑性樹脂板22の厚さは所望の構造物に応じて適宜決定すればよいが、1~6mmとすることが好ましく、2~5mmとすることがより好ましい。熱可塑性樹脂板22の厚さを1mm以上とすることで、接合部の強度及び信頼性を担保することができ、6mm以下とすることで、不要な板厚の増加に起因する材料コストの増加を抑制することができる。
【0059】
第一工程においては、熱可塑性樹脂板22の表面に金属板20を重畳させて被接合界面を形成させ、摩擦攪拌接合用ツール12を挿入する金属板20の表面側には十分な空間を設けておくことが好ましい。また、熱可塑性樹脂板22及び金属板20を適当なクランプ機構等で固定し、摩擦攪拌接合用ツール12を挿入する際の位置変化や不要な箇所における塑性変形等を抑制することが好ましい。
【0060】
第二工程においては、第一工程で形成させた被接合界面に対応する金属板20の表面側から摩擦攪拌接合用ツール12を挿入する。ここで、摩擦攪拌接合用ツール12を挿入する位置(挿入量)は、金属板20及び熱可塑性樹脂板22の材質や厚さ、及びツール回転速度等のその他の接合条件によって適宜調整すればよいが、金属板20の板厚の範囲とし、被接合界面に摩擦攪拌面6が直接作用しないようにする必要がある。
【0061】
金属板20への摩擦攪拌接合用ツール12の挿入量は、例えば、2mm厚のアルミニウム合金板を用いた場合、0.05~0.5mmとすることが好ましく、0.1~0.3mmとすることがより好ましい。ツール挿入量を0.05mm以上とすることで、摩擦攪拌面6とアルミニウム合金板の表面との相互作用によって安定的に摩擦熱及び/又は加工発熱を発生させることができる。また、ツール挿入量を0.5mm以下とすることで、接合部における凹部の形成を抑制することができると共に、ツールトルクやツール押込み荷重の増大を抑制することができる。
【0062】
ツール挿入量以外の主要な接合条件として、ツール回転速度、ツール挿入速度及び設定したツール挿入位置における保持時間等が存在するが、これらは金属板20及び熱可塑性樹脂板22の材質や厚さ、及びその他の接合条件によって適宜調整すればよい。例えば、ツール回転速度は100~3000rpm、ツール挿入速度は0.01~1mm/s、保持時間は0~10秒とすることができる。
【0063】
また、第二工程においては、摩擦攪拌接合用ツール12に印加する押込荷重を500kgf以下とすることが好ましい。押込み荷重を500kgf以下とすることで、汎用の接合用ロボットを使用することができる。ここで、摩擦攪拌接合用ツール12を用いることで、簡便かつ効率的に、押込み荷重を500kgf以下とすることができる。
【0064】
また、第二工程においては、接合界面の最高到達温度を熱可塑性樹脂板22の完全熱分解温度未満とすることが好ましい。完全熱分解温度とは、熱可塑性樹脂板22の母材である熱可塑性樹脂の熱分解が完全に進行を開始する温度であり、例えば、熱可塑性樹脂版22がポリアミド6の場合、当該完全熱分解温度は500℃となる。接合界面の最高到達温度を完全熱分解温度未満とすることで、一般的な熱可塑性樹脂の強度低下を抑制することができる。ここで、摩擦攪拌接合用ツール12を用いることで、接合界面の温度分布を均一化できることから、最高到達温度の制御が容易となり、ツール回転速度やツール圧入量等によって簡単に最高到達温度を500℃未満とすることができる。
【0065】
金属板20へツール挿入する際は大気中で行ってもよいが、接合部における金属板20の酸化や摩擦攪拌接合用ツール12の劣化等を抑制したい場合は、アルゴンガス等の不活性ガスをシールドガスとして用いることが好ましい。
【0066】
第二工程の後、金属板20に圧入した摩擦攪拌接合用ツールは挿入時と逆の経路を辿って元の位置に戻せばよいが、接合領域を拡大したい場合等は、接合位置から横方向に移動させてもよい。
【0067】
摩擦攪拌点接合方法に用いる摩擦攪拌接合装置は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の摩擦攪拌接合装置を用いることができる。例えば、摩擦攪拌接合装置には位置制御方式、荷重制御方式及びトルク制御方式が存在するが、何れの装置を用いてもよい。
【0068】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0069】
≪実施例1≫
炭素繊維強化プラスチック板の上にA6061-T6アルミニウム合金板を重ね合わせ、アルミニウム合金板の表面から摩擦攪拌接合用ツールを圧入して摩擦攪拌点接合を施した。炭素繊維強化プラスチックはポリアミド6をマトリクスとし、20wt%の短炭素繊維がランダムに分散したものである。炭素繊維強化プラスチック板は100mm×25mm×3mm、アルミニウム合金板は100mm×25mm×2mmであり、各板の端部(50mm×50mm)を重畳させた。被接合材の配置状況の模式図を
図6に示す。
【0070】
摩擦攪拌接合用ツールの外観写真を
図7、底面図及び側面図を
図8にそれぞれ示す。
図7においては摩擦攪拌面が上側となっている。摩擦攪拌接合用ツールは工具鋼製で直径が20mmの円柱状であり、摩擦攪拌接合面の中央に円盤状凹部を有している。円盤状凹部の直径は12mm、深さは0.2mmである。
【0071】
摩擦攪拌点接合の条件は、ツール回転速度:1500rpm、ツール挿入速度:0.1mm/s、ツール挿入量:0.3mmとし、0.3mmのツール挿入量に到達後、直ちに上方に引き抜いた。ここで、挿入時のZ軸荷重(ツール印加荷重)を測定したところ、最大値は360~380kgfであった。
【0072】
得られた継手のアルミニウム合金板側からの外観写真を
図9に示す。なお、炭素繊維強化プラスチック板との重畳領域に対応するアルミニウム合金板の表面は温度測定を目的として黒化処理を施しているが、当該重畳領域の中央に摩擦攪拌点接合部が形成されていることが確認できる。
【0073】
得られた継手に対して
図10に示す態様で引張試験を行ったところ、引張りせん断強度は6300~7000Nとなった。また、0.3mmのツール挿入量に到達後、当該位置において10秒間保持した後に上方に引き抜いたこと以外は上記と同様にして継手を作製し、当該継手に対しても引張試験を行ったところ、引張りせん断強度は8000~9000Nとなった。引張試験後の継手外観を
図11に示すが、炭素繊維強化プラスチック板の母材破断となっている。
【0074】
各被接合材及び摩擦攪拌接合用ツールの材質及び形状等を基に、サーモメカニカルモデルを組み込んだ非線形有限要素解析ソフトウェア(Ls-Dyna)を用いて接合温度分布をシミュレーションした結果を
図12に示す。摩擦攪拌面の外周領域に広い範囲で接合温度が220~340℃となる領域が形成されており、当該領域において強固な接合界面が形成されたものと考えられる。なお、シミュレーション方法の詳細については、Journal of Materials Research and Technology 2021;12:1777-1793に開示されている。
【0075】
≪実施例2≫
図13の外観を有する摩擦攪拌接合用ツールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、継手を得た。なお、摩擦攪拌接合用ツールは0.3mmのツール挿入量に到達後、直ちに上方に引き抜いた。ここで、挿入時のZ軸荷重(ツール印加荷重)を測定したところ、最大値は380~400kgfであった。
【0076】
当該摩擦攪拌接合用ツールの底面図及び側面図を
図14に示す。摩擦攪拌面の中央に円盤状凹部を有し、当該円盤状凹部の外周に2つの円環状凹部が設けられている。円盤状凹部の直径は6mm、円環状凹部の外径は11mm及び16mmである。
【0077】
実施例1と同様にして得られた継手の引張試験を行ったところ、引張りせん断強度は6000~6500Nとなった。また、実施例1と同様にして接合温度分布をシミュレーションした結果を
図15に示す。実施例1の場合と同様に、摩擦攪拌面の外周領域に広い範囲で接合温度が220~340℃となる領域が形成されており、当該領域において強固な接合界面が形成されたものと考えられる。
【0078】
≪比較例≫
図16の外観を有する摩擦攪拌接合用ツールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、継手を得た。当該摩擦攪拌接合用ツールは単純なφ20mmの円柱状となっており、摩擦攪拌面は凹部や凸部の無いフラットな形状を有している。なお、摩擦攪拌接合用ツールは0.3mmのツール挿入量に到達後、直ちに上方に引き抜いた。
【0079】
実施例1と同様にして得られた継手の引張試験を行ったところ、引張りせん断強度は4500~5200Nとなり、十分に高い値を得ることができなかった。実施例1と同様にして接合温度分布をシミュレーションした結果を
図17に示す。実施例1及び実施例2の場合とは異なり、摩擦攪拌面の中央に500℃以上の高温領域が形成されている。加えて、ツール回転速度、ツール圧入荷重及びツール保持時間等の接合条件を種々調整した場合であっても、220~340℃となる領域を形成させつつ500℃以上の領域を除去することはできなかった。
【0080】
ここで、炭素繊維強化プラスチックのマトリックスであるポリアミド6は500℃以上の高温に保持されると著しく強度低下することが知られており、フラットな摩擦攪拌面を有する摩擦攪拌接合用ツールでは、接合部の強度と信頼性を担保するために必要な良好な接合界面を広域に形成させることはできないことが分かる。