(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069172
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】基板の搬送を行う装置、及び基板を搬送する方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/677 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
H01L21/68 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180835
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 航
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131BB05
5F131BB23
5F131CA12
5F131DB03
5F131DB52
5F131DB76
5F131DB82
5F131DC18
5F131GA14
5F131GA33
5F131HA09
5F131HA12
5F131JA09
5F131JA12
5F131JA24
5F131JA27
5F131KA02
5F131KA06
5F131KA12
5F131KA47
5F131KA55
5F131KA67
(57)【要約】
【課題】磁気浮上を利用して基板を搬送する基板搬送モジュールを清浄化する技術を提供する。
【解決手段】基板の処理が行われる基板処理室に対する基板の搬送を行う装置において、基板搬送室は、第1の磁石が設けられた床面部と、前記基板処理室が接続される開口部が形成された側壁部とを有する。基板搬送モジュールは、基板保持部と第2の磁石とを備え、第1の磁石との間に働く反発力を用いた磁気浮上により、基板搬送室内で移動可能に構成される。加熱部は、基板搬送モジュールの表面に付着した汚染物質を放出させるために、当該基板搬送モジュールを加熱する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の処理が行われる基板処理室に対する基板の搬送を行う装置であって、
第1の磁石が設けられた床面部と、前記基板処理室が接続され、当該基板処理室との間で基板の搬入出が行われる開口部が形成された側壁部とを有する基板搬送室と、
前記基板を保持する基板保持部と、前記第1の磁石との間に反発力が働く第2の磁石と、を備え、前記反発力を用いた磁気浮上により、前記基板搬送室内で移動可能に構成された基板搬送モジュールと、
前記基板搬送モジュールの表面に付着した汚染物質を放出させるために、当該基板搬送モジュールを加熱する加熱部をと、を備えた装置。
【請求項2】
前記加熱部は、前記基板搬送モジュールの表面に加熱光を照射する加熱用光源である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記加熱部は、誘導加熱により、金属からなる前記基板搬送モジュールを加熱する誘導コイルである、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記加熱部は、前記基板搬送モジュールと接触させる接触面と、前記接触面を構成する部材の内部に形成され、温調流体が流れる流路と、前記流路に温調流体である熱媒を供給する熱媒供給部と、を備えた熱交換機構である、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記熱交換機構は、前記熱媒と切り替えて、前記加熱後の基板搬送モジュールを使用温度まで冷却する温調流体である冷媒を供給する冷媒供給部を備える、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記加熱部は、前記基板搬送モジュールに設けられた抵抗発熱体と、前記抵抗発熱体に電力を供給する電力供給部と、を備えた内部加熱機構である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記加熱部により加熱された後の前記基板搬送モジュールを使用温度まで冷却する冷却部を備える、請求項1ないし3、または6のいずれか一つに記載の装置。
【請求項8】
前記冷却部は、前記基板搬送モジュールと接触させる接触面と、前記接触面を構成する部材の内部に形成され、温調流体が流れる流路と、前記流路に温調流体である冷媒を供給する冷媒供給部と、を備えた熱交換機構である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記加熱によって、前記基板搬送モジュールの表面から放出された汚染物質を除去する汚染物除去部を備える、請求項1ないし8のいずれか一つに記載の装置。
【請求項10】
前記汚染物除去部は、前記加熱部により前記基板搬送モジュールの加熱が行われる雰囲気の排気を行う排気部である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記汚染物除去部は、前記加熱部により加熱された前記基板搬送モジュールよりも低い温度に温調され、熱泳動により前記汚染物質を捕集する捕集面を備えた汚染物捕集部材である、請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記加熱部は、前記基板搬送室内で前記基板搬送モジュールの加熱を行うように構成された、請求項1ないし11のいずれか一つに記載の装置。
【請求項13】
前記基板搬送室と、前記基板搬送室とは圧力が異なる他の基板搬送室との間での基板の搬入出を行うために、圧力の切り替えを行うロードロック室を備え、
前記加熱部は、前記ロードロック室内で前記板搬送モジュールの加熱を行うように構成された、請求項1ないし11のいずれか一つに記載の装置。
【請求項14】
前記基板搬送室は、真空雰囲気で基板の搬送が行われる真空基板搬送室として構成され、
前記他の基板搬送室は、前記第1の磁石が設けられた床面部を備え、大気雰囲気下で前記基板の搬送が行われる大気搬送室である、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記基板搬送室は、真空雰囲気で基板の搬送が行われる第1の真空基板搬送室として構成され、
前記他の基板搬送室は、第1の磁石が設けられた床面部と、前記第1の真空基板搬送室に接続された前記基板処理室をとは異なる基板処理を行うための他の基板処理室が接続され、前記他の基板処理室との間で基板の搬入出が行われる開口部が形成された側壁部とを有すると共に、前記第1の真空基板搬送室とは真空度が異なる真空雰囲気下で基板の搬送が行われる第2の真空基板搬送室として構成された、請求項13に記載の装置。
【請求項16】
前記第1の磁石と前記第2の磁石との反発力を変化させて前記基板搬送モジュールの移動制御を行う移動制御部と、
前記床面部上で移動する前記基板搬送モジュールの位置を検出する位置検出部と、
前記移動制御部を用いた移動制御により、目的位置まで前記基板搬送モジュールを移動させる際に、前記加熱部の加熱による前記第2の磁石の磁力の熱減磁に伴って生じる、前記目的位置と、前記位置検出部により検出された実際の基板搬送モジュールの位置との位置ずれ量を検出するずれ量検出部と、
前記ずれ量検出部により検出されたずれ量を相殺するように、前記移動制御部による前記反発力を補正する補正部と、を備える請求項1ないし15のいずれか一つに記載の装置。
【請求項17】
基板処理室内で基板を搬送する方法であって、
第1の磁石が設けられた床面部と、前記基板処理室が接続され、当該基板処理室との間で基板の搬入出が行われる開口部が形成された側壁部とを有する基板搬送室内に収容され、前記基板が保持する基板保持部と、前記第1の磁石との間に反発力が働く第2の磁石と、を備え、前記反発力を用いた磁気浮上により、前記基板搬送室内で移動可能に構成された基板搬送モジュールを用い基板の搬送を行う工程と、
前記基板搬送モジュールの表面に付着した汚染物質を放出させるために、当該基板搬送モジュールを加熱する工程と、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板の搬送を行う装置、及び基板を搬送する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、基板である半導体ウエハ(以下、「ウエハ」ともいう)に対する処理を実施する装置(ウエハ処理装置)においては、ウエハを収容したキャリアと、処理が実行されるウエハ処理室との間でウエハの搬送が行われる。ウエハの搬送にあたっては、種々の構成のウエハ搬送機構が利用される。
出願人は、磁気浮上を利用した基板搬送モジュールを利用して基板の搬送を行うウエハ処理装置の開発を進めている。
【0003】
一方、ウエハ処理装置内においてウエハの搬送が行われる空間には、ウエハと機器、または機器同士の接触によって発生するパーティクル、ウエハの処理の際に使用する化学物質など、種々の汚染物質が微量に存在する。これらの汚染物質が基板搬送モジュールに付着、蓄積すると、搬送対象のウエハを汚染する要因となる。
【0004】
例えば特許文献1には、減圧処理装置内において、被処理基板を載置するステージなどを構成する部材の温度を上昇させ、熱応力及び熱泳動力により微粒子を飛散させる技術が記載されている。一方で、特許文献1には、磁気浮上を利用した基板搬送モジュールの汚染についての対処法は記載されてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、磁気浮上を利用して基板を搬送する基板搬送モジュールを清浄化する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、基板の処理が行われる基板処理室に対する基板の搬送を行う装置であって、
第1の磁石が設けられた床面部と、前記基板処理室が接続され、当該基板処理室との間で基板の搬入出が行われる開口部が形成された側壁部とを有する基板搬送室と、
前記基板を保持する基板保持部と、前記第1の磁石との間に反発力が働く第2の磁石と、を備え、前記反発力を用いた磁気浮上により、前記基板搬送室内で移動可能に構成された基板搬送モジュールと、
前記基板搬送モジュールの表面に付着した汚染物質を放出させるために、当該基板搬送モジュールを加熱する加熱部と、を備えた装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、磁気浮上を利用して基板を搬送する基板搬送モジュールを清浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ウエハ処理システムの第1の構成例を示す平面図である。
【
図2】搬送モジュールの第1の構成例を示す平面図である。
【
図3】搬送モジュール及びタイルの構成例を示す透視斜視図である。
【
図4】ウエハ処理システムの作用例を示す平面図である。
【
図5A】加熱部の第1の構成例を示す第1の縦断側面図である。
【
図5B】加熱部の第1の構成例を示す第2の縦断側面図である。
【
図6】加熱部の第2の構成例を示す縦断側面図である。
【
図7A】加熱部の第3の構成例を示す第1の縦断側面図である。
【
図7B】加熱部の第3の構成例を示す第2の縦断側面図である。
【
図8】加熱部の第4の構成例を示す縦断側面図である。
【
図9】ウエハ処理システムの第2の構成例を示す平面図である。
【
図10】搬送モジュールの第2の構成例を示す平面図である。
【
図11】ウエハ処理システムの第3の構成例を示す平面図である。
【
図12】搬送モジュールの加熱に伴う位置ずれの補正機構の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ウエハ処理システム>
以下、
図1を参照しながら、本開示の一実施形態に係る基板の搬送を行う装置の構成について説明する。当該基板の搬送を行う装置は、ウエハ処理システム101に設けられている。
図1には、ウエハWを処理する基板処理室である複数のウエハ処理室110を備えたマルチチャンバタイプのウエハ処理システム101を示してある。
図1に示すように、ウエハ処理システム101は、ロードポート141と、大気搬送室140と、ロードロック室130と、真空搬送室160と、複数のウエハ処理室110とを備えている。以下の説明では、ロードポート141が設けられている側を手前側とする。
【0011】
ウエハ処理システム101において、ロードポート141、大気搬送室140、ロードロック室130、真空搬送室160は、手前側から水平方向にこの順に配置されている。また複数のウエハ処理室110は、手前側から見て、真空搬送室160の左右に並べて設けられている。
【0012】
ロードポート141は、処理対象のウエハWを収容するキャリアCが載置される載置台として構成され、手前側から見て左右方向に4台並べて設置されている。キャリアCとしては、例えば、FOUP(Front Opening Unified Pod)などを用いることができる。
【0013】
大気搬送室140は、大気圧(常圧)雰囲気となっており、例えば清浄空気のダウンフローが形成されている。また、大気搬送室140の内部には、ウエハWを搬送するウエハ搬送機構142が設けられている。大気搬送室140内のウエハ搬送機構142は、例えば多関節アームにより構成されている。このウエハ搬送機構142は、キャリアCとロードロック室130との間でウエハWの搬送を行う。また大気搬送室140の例えば左側面にはウエハWのアライメントを行う不図示のアライメント室が設けられている。
【0014】
真空搬送室160と大気搬送室140との間には例えば2つのロードロック室130が左右に並べて設置されている。ロードロック室130は、搬入されたウエハWを下方から突き上げて保持する昇降ピン131を有する。例えば昇降ピン131は、周方向に沿って等間隔に3本設けられ、昇降自在に構成されている。なお、後述の昇降ピン113、143についても同様に構成されている。
【0015】
ロードロック室130は、大気圧雰囲気と真空雰囲気とを切り替えることができるように構成されている。ロードロック室130と大気搬送室140とは、ゲートバルブ133を介して接続されている。またロードロック室130と真空搬送室160とは、ゲートバルブ132を介して接続されている。
【0016】
真空搬送室160は本開示の基板搬送室に相当している。
図1に示すように、真空搬送室160は、前後方向に長い、平面視、矩形状の筐体により構成されている。真空搬送室160は、不図示の真空排気機構により、真空雰囲気に減圧されている。また、真空搬送室160には、不活性ガス(例えば窒素ガス)の供給を行う不図示の不活性ガス供給部を接続し、減圧されている真空搬送室160内に常時、不活性ガスを供給するように構成してもよい。
図1に示す例のウエハ処理システム101において、真空搬送室160の左右の側壁部には、各々4基、合計8基のウエハ処理室110が、ゲートバルブ111を介して接続されている。ゲートバルブ111により開閉される開口部を介して、真空搬送室160とウエハ処理室110との間でのウエハWの搬入出が行われる。
【0017】
各ウエハ処理室110は、不図示の真空排気機構により、真空雰囲気に減圧されている。各ウエハ処理室110の内部には、載置台112が設けられ、ウエハWはこの載置台112に載置された状態で所定の処理が実施される。ウエハWに対して実施する処理としては、エッチング処理、成膜処理、クリーニング処理、アッシング処理などを例示することができる。
【0018】
例えば、ウエハWを加熱しながら処理を実施する場合には、載置台112には、ヒーターが設けられる。ウエハWに対して実施する処理が処理ガスを利用するものである場合は、ウエハ処理室110には、シャワーヘッドなどにより構成される処理ガス供給部が設けられる。なお、これらヒーターや処理ガス供給部は、図示を省略してある。また載置台112には、搬入出されるウエハWの受け渡しを行うための昇降ピン113が設けられている。ウエハ処理室110は本実施の形態の基板処理室に相当している。
【0019】
<搬送モジュール30>
上述の構成を備える真空搬送室160においては、磁気浮上式の搬送モジュール(基板搬送モジュール)30を用いてウエハWの搬送が行われる。
図2、
図3に示す例の搬送モジュール30は、平面視矩形状の本体部31を備える。この本体部31には、ウエハWを水平に保持するアーム部32が設けられている。アーム部32は、本体部31側の基端部から、水平方向に延在するように設けられている。アーム部32の先端部には、3本の昇降ピン131、113が設けられた領域を左右から囲むように配置可能なフォークが設けられている。フォークは、搬送モジュール30における基板保持部に相当する。
【0020】
アーム部32は、本体部31を真空搬送室160内に位置させたまま、ゲートバルブ111を開いてウエハ処理室110内に挿入することにより、載置台112にウエハWを受け渡すことができる長さに構成されている。
また搬送モジュール30の本体部31の内部には、モジュール側磁石33が設けられているが、その構成例については、
図3を参照しながら後述する。
【0021】
<磁気浮上機構>
図3に模式的に示すように、真空搬送室160の床面部には複数のタイル(移動用タイル)10が設けられている。これらタイル10は、外部の大気搬送室140との間でのウエハWの受け渡し位置(ロードロック室130に対向する位置)から、ウエハ処理室110の手前に至る、搬送モジュール30の移動領域に設けられている。また、搬送モジュール30がロードロック室130内やウエハ処理室110内にまで進入して移動するように搬送領域が設定されている場合には、これらロードロック室130やウエハ処理室110の床面部にもタイル10が設けられる。
【0022】
タイル10には、その内部に各々、複数の移動面側コイル11が配列されている。移動面側コイル11は、不図示の電力供給部から電力が供給されることにより磁場を発生する。移動面側コイル11は、本開示の第1の磁石に相当する。
【0023】
一方、搬送モジュール30の内部には、例えば永久磁石により構成される複数のモジュール側磁石33が配列されている。モジュール側磁石33に対しては、移動面側コイル11によって生成される磁場との間に反発力(磁力)が働く。この作用によりタイル10の上面側の移動面に対して搬送モジュール30を磁気浮上させることができる。搬送モジュール30に設けられたモジュール側磁石33は、本開示の第2の磁石に相当する。
【0024】
また、タイル10は、複数の移動面側コイル11により、磁場を生成する位置や磁力の強さを調節し、磁界の状態を変化させることができる。この磁界の制御により、移動面上で搬送モジュール30を所望の方向に移動させることや、移動面からの浮上距離の調節、搬送モジュール30の向きの調節を行うことができる。タイル10側の磁界の制御は、電力が供給される移動面側コイル11の選択や、移動面側コイル11に供給される電力の大きさを調節することにより実施される。
【0025】
なお、複数のモジュール側磁石33は、搬送モジュール30内に設けられたバッテリーより電力が供給され、電磁石として機能するコイルによって構成してもよい。また、永久磁石及びコイルの双方を設けてモジュール側磁石33を構成してもよい。
【0026】
図1、
図3に示す例において、平面視、矩形状の真空搬送室160の短辺方向の長さは、各々、ウエハWを保持した2台の搬送モジュール30が、左右に並んだ状態ですれ違うことができる程度の寸法となっている。またこの例の真空搬送室160の短辺方向の長さは、搬送モジュール30がウエハWを保持したときの本体部31からウエハWの先端までの長さ(ウエハWを保持した状態の搬送モジュール30の全長)よりも短い。この例では、真空搬送室160内に設けられた複数台の搬送モジュール30を用いてウエハWの搬送が行われる。
以上に説明した、搬送モジュール30を備え、ウエハ処理室110が接続される真空搬送室160は、本開示の基板の搬送を行う装置に相当する。
【0027】
<制御部5>
ウエハ処理システム101は、制御部5を備える。制御部5は、CPUと記憶部とを備えたコンピュータにより構成され、ウエハ処理システム101の各部を制御するものである。記憶部には搬送モジュール30の移動制御やウエハ処理室110の動作などを制御するためのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリカード、不揮発メモリなどの記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0028】
<ウエハWの搬送動作>
次に、上述の構成を備えるウエハ処理システム101におけるウエハW搬送動作の一例について説明する。初めに、ロードポート141に対し、処理対象のウエハWを収容したキャリアCが載置されると、大気搬送室140内のウエハ搬送機構142によって、キャリアCからウエハWが取り出される。次いで、ウエハWは、不図示のアライメント室に搬送されて、ウエハWのアライメントが行われる。さらにウエハ搬送機構142によりウエハWがアライメント室から取り出されると、ゲートバルブ133が開かれる。
【0029】
ウエハ搬送機構142がロードロック室130内に進入すると、昇降ピン131は、ウエハWを突き上げて受け取る。しかる後、ウエハ搬送機構142がロードロック室130から退避すると、ゲートバルブ133が閉じられる。さらにロードロック室130内が大気圧雰囲気から真空雰囲気へと切り替えられる。
【0030】
ロードロック室130内が真空雰囲気となったら、ゲートバルブ132が開かれる。このとき真空搬送室160内では、ロードロック室130の接続位置の近傍にて、搬送モジュール30がロードロック室130に正対した姿勢で待機している。そして、タイル10に設けられている移動面側コイル11によって生成した磁場を利用し、磁気浮上により搬送モジュール30を上昇させる。
【0031】
そして
図1に示すように当該搬送モジュール30のアーム部32をロードロック室130内に進入させ、昇降ピン131に支持されたウエハWの下方に位置させる。さらに昇降ピン131を降下させて、アーム部32のフォークにウエハWを受け渡す。
【0032】
次いでウエハWを保持したアーム部32をロードロック室130から退出させ、ウエハWの処理を実行するウエハ処理室110の側方位置まで搬送モジュール30を後退させる。このとき当該搬送モジュール30の本体部31は、前記ゲートバルブ111の配置位置を通り過ぎて、奥手側まで移動する。この動作により、ウエハWを保持したアーム部32の先端側が、ゲートバルブ111の側方に配置される。
【0033】
こうして、アーム部32の先端側がゲートバルブ111の側方に到達したら、後退動作に加えて、アーム部32の先端側をゲートバルブ111に向けるように、回動する。続いてゲートバルブ111を開き、ウエハWをウエハ処理室110内に挿入するように回動しながら、搬送モジュール30の移動方向を前進に切り替える。
【0034】
既述のように、真空搬送室160の短辺方向の長さは、ウエハWを保持した搬送モジュール30の全長よりも短い。この場合であっても、回転動作を組み合わせながら搬送モジュール30を前進/後退させる切り返し動作により、真空搬送室160内にてウエハ処理室110に対するウエハWの搬入を実施することができる。
【0035】
しかる後、搬送モジュール30がウエハ処理室110に正対する状態となったら、回転を停止しウエハWが載置台112の上方に到達するまで直進する。しかる後、ウエハWを載置台112に受け渡し、搬送モジュール30をウエハ処理室110から退避させる。さらにゲートバルブ111を閉じた後、ウエハWの処理を開始する。
【0036】
即ち、必要に応じて載置台112に載置されたウエハWの加熱を行い、予め設定された温度に昇温すると共に、処理ガス供給部が設けられている場合には、ウエハ処理室110内に処理ガスを供給する。こうして、ウエハWに対する所望の処理が実行される。
【0037】
予め設定した期間、ウエハWの処理を実行したら、ウエハWの加熱を停止すると共に、処理ガスの供給を停止する。また、必要に応じてウエハ処理室110内に冷却用ガスを供給し、ウエハWの冷却を行ってもよい。しかる後、搬入時とは逆の手順でウエハWを搬送して、ウエハ処理室110からロードロック室130にウエハWを戻す。
さらに、ロードロック室130の雰囲気を常圧雰囲気に切り替えた後、大気搬送室140側のウエハ搬送機構142によりロードロック室130内のウエハWを取り出し、所定のキャリアCに戻す。
【0038】
<汚染物質放出>
以上に説明した構成を備えるウエハ処理システム101においては、例えばゲートバルブ132、111の開閉動作など、機器同士の接触により、パーティクルが発生する場合がある。また、ウエハ処理室110内で供給された処理ガスの分子が、ウエハWに吸着した状態で真空搬送室160に持ち込まれた後、ウエハWから放出されることもある。処理ガスの分子には、真空搬送室160内にわずかに存在し、または機器の表面に吸着している水分と反応してパーティクルや腐食性物質が形成される場合もある。
【0039】
後述するように、真空搬送室160の内部は、常時、真空排気が行われているので、これらのパーティクルや分子(化学物質)は、真空搬送室160の外部へ排出される。一方で、パーティクルや化学物質の一部は、真空搬送室160から排出される前に搬送モジュール30の表面に付着してしまう場合もある。
【0040】
搬送モジュール30の表面にてパーティクルや化学物質が付着、蓄積され、再飛散すると、ウエハWを汚染する要因となる。また既述のように、機器の表面に吸着している水分が、化学物質と反応してパーティクルや腐食性物質を形成する要因ともなる。そこで本例のウエハ処理システム101は、搬送モジュール30の表面に付着したパーティクル、化学物質や水分などの汚染物質を放出させる機構を備える。なお、本開示では、水分についても「汚染物質」の概念に含めている。
【0041】
図1、
図3に例示するウエハ処理システム101において、汚染物質を放出させる機構は、真空搬送室160の後端部に設定されたクリーニング領域20に設けられている。真空搬送室160の後端部は、ロードポート141から見て最後部側のウエハ処理室110に対しウエハWを搬入、搬出させる際の切り返し動作を実施するにあたり、本体部31を進入させるスペースにもなっている。
クリーニング領域20には、搬送モジュール30を加熱することにより、搬送モジュール30の表面から汚染物質を放出させるための加熱部が設けられている。以下、
図5A~
図8を参照しながら、加熱部の種々の構成例を説明する。
【0042】
<加熱部構成例1:加熱用光源411>
図5A、
図5Bは、
図4のA-A’位置における真空搬送室160の縦断側面図である(
図6~
図8において同じ)。
図5Aに示すように、クリーニング領域20における真空搬送室160の天井部には、本開示の加熱部の第1の構成例である加熱用光源411が設けられている。本例において、ウエハ処理システム101の天井部の上面側には、クリーニング領域20へ向けて、搬送モジュール30の表面を加熱するための加熱光を満遍なく照射できるように、複数の加熱用光源411が設けられている。また、不図示の電力供給部から電力が供給される対象の加熱用光源411を選択することにより、加熱光が照射される領域を調節することもできる。
【0043】
加熱用光源411には、ハロゲンランプなどの赤外線ランプや、赤外光を放射するLED(Light Emitting Diode)ランプを用いる場合を例示できる。各加熱用光源411にはランプシェード412を設けて、加熱光の照射方向を制御してもよい。
複数の加熱用光源411は、カバー部414及び保持部413を介して真空搬送室160の天井部の上面側に配置されている。加熱用光源411が配置されている領域と、真空搬送室160内に設定されたクリーニング領域20との間には、例えば石英ガラスからなり、加熱光を透過させる透過窓415が設けられている。
【0044】
さらに
図5A、
図5Bには、加熱用光源411により加熱された後の搬送モジュール30を使用温度まで冷却する冷却部を設けた例を示してある。本例において冷却部は、温調流体である冷媒が流れる流路(温調流体流路21)をタイル10内に形成した構成となっている。この場合、タイル10の上面は、本体部31と接触させる接触面となる。温調流体流路21には、冷媒の供給、停止を行う冷媒供給部432が接続されている。
【0045】
上述の構成を備えるウエハ処理システム101にて、搬送モジュール30の表面から汚染物質を放出させる加熱を行う動作について説明する。
搬送モジュール30の加熱を行うタイミングとなったら、処理対象の本体部31をクリーニング領域20へ移動させ、加熱用光源411の下方側に本体部31を配置する。
図4、
図5A及び
図5Bに示す例においては、1台の搬送モジュール30を配置した例について示しているが、2台の搬送モジュール30を配置してもよい。
【0046】
本体部31の加熱は、前回の加熱から予め設定した時間の経過後や、予め設定した枚数のウエハWを搬送した後のタイミングにて実施する場合を例示できる。
また、説明の便宜上、
図4には、真空搬送室160内で他の搬送モジュール30によるウエハWの搬送を行っている動作と並行して、クリーニング領域20に搬送モジュール30を配置した状態を示している。この点について、実際には、真空搬送室160内でウエハWの搬送を行っていない期間中に搬送モジュール30の加熱を行うことが好ましい。ウエハWの搬送を行っていない期間の例としては、ウエハ処理室110内でウエハWの処理が実施されている期間中であって、十分な待ち時間がある場合や、すべてのウエハWの処理が終了し真空搬送室160やウエハ処理システム101内にウエハWが無い期間中を例示することができる。
【0047】
クリーニング領域20に搬送モジュール30(本体部31)を配置したら、
図5Aに示すように搬送モジュール30を浮上させた状態で、本体部31に対向して配置された領域の加熱用光源411を点灯し、加熱光を照射する。加熱光の照射により、本体部31の表面の温度は、常温の状態から急激に上昇する。このとき、本体部31の表面を、75~300℃の範囲内の温度にまで加熱する場合を例示できる。
【0048】
本体部31の構成部材や、その表面に付着しているパーティクルの温度が急激に上昇すると、急激な熱応力が加わり本体部31の表面からパーティクルを剥離させる力が加わる。また、本体部31の表面と、その周囲の雰囲気との間大きな温度勾配が形成されることに伴う熱泳動の影響によってもパーティクルを本体部31の表面から剥離させる力が加わる。これらの力が加わることにより、ウエハWの表面に付着したパーティクルが放出される。
また、ウエハWの表面に付着している化学物質や水分についても、本体部31の加熱により昇華・気化し、または分解してウエハWの表面から放出される。
【0049】
また、加熱光が照射されていない本体部31の下面側においても、上面側からの熱伝導により温度上昇が生じる。このとき、本体部31が、真空搬送室160の床面部から浮上した状態にて加熱が行われることにより、当該下面側の本体部31の表面からも、既述のメカニズムによりパーティクルや化学物質が放出される。
【0050】
さらには、本体部31に接続されているアーム部32の表面においても、熱伝導による温度上昇が発生し、その表面からパーティクルや化学物質が放出される。
なお、アーム部32の上面にも加熱光を照射できるように加熱用光源411を配置したり、本体部31の加熱を行った後、搬送モジュール30を方向転換させてアーム部32をクリーニング領域20に進入させたりして、本体部31を直接、加熱してもよい。
【0051】
ここで、
図5Aに示すように、クリーニング領域20が設けられている領域の床面部には、真空搬送室160内の真空排気を行う排気部を構成する排気流路161の一端を開口させてもよい。真空搬送室160内にクリーニング領域20が設定されている場合には、この排気流路161は、搬送モジュール30の加熱が行われる雰囲気の排気を行う排気部を構成しているといえる。
【0052】
搬送モジュール30の表面から放出されたパーティクルや化学物質(汚染物質)は、この排気流路161を介して真空搬送室160の外部へ排出される。この観点で、排気流路161は、搬送モジュール30の表面から放出された汚染物質を除去する汚染物除去部の機能を兼ね備えている。
さらに既述のように、真空搬送室160内に常時、不活性ガスを供給場合には、搬送モジュール30の加熱を行っている期間中に当該不活性ガスの供給流量を増やして排気を促進してもよい。この場合には、真空搬送室160内の圧力が上昇する場合もある。この点については、処理スケジュールや搬送スケジュールを調節し、ウエハWの搬送を行っていない期間中に搬送モジュール30の加熱を行うことで、圧力変動の影響を避けることができる。
【0053】
こうして予め設定した時間、搬送モジュール30の加熱を行い、本体部31の表面が清浄な状態となったら、加熱用光源411からの加熱光の照射を停止する。しかる後、冷媒供給部432から温調流体流路21へ冷媒を供給すると共に、搬送モジュール30を降下させて、当該搬送モジュール30の下面と、冷媒が供給されている領域のタイル10とを接触させる。冷却されたタイル10の表面(接触面)に本体部31の下面を接触させると、熱伝導により搬送モジュール30の全体(本体部31の下面、上面やアーム部32)が冷却される。この動作により、真空排気されている真空搬送室160内においても、例えば常温まで搬送モジュール30を迅速に冷却し、ウエハWの搬送を再開することができる。
【0054】
なお、搬送モジュール30の加熱中にも温調流体流路21への冷媒の供給を行っていると、飛散した汚染物質が、冷却されたタイル10の表面に熱泳動により引き寄せられて付着してしまうおそれがある。そこで搬送モジュール30の加熱時には冷媒の供給を行わないことにより、タイル10の汚染を避け、冷却時にタイル10と接触させる搬送モジュール30の再汚染を抑えている。
【0055】
<加熱部構成例2:誘導コイル421>
本開示の加熱部の第2の構成例として、
図6には、真空搬送室160の天井部の上面側に誘導加熱用の誘導コイル421を設けた例を示している。誘導コイル421はカバー部422により覆われた状態となっている。誘導コイル421は不図示の電力供給部から電力が供給されることにより、真空搬送室160内の誘導コイル421の下方側の領域に磁界を発生させる。
【0056】
一方で、クリーニング領域20に本体部31を配置したとき、誘導コイル421と対向した状態となる本体部31の上面側は金属により構成されている。そして、電力供給部から誘導コイル421に電力を供給し、真空搬送室160内に磁界が形成されると、誘導加熱により本体部31の上面の温度が上昇する。本体部31の加熱温度、及び搬送モジュール30(本体部31の上面、下面、アーム部32)の表面から汚染物質(パーティクルや化学物質)が放出される作用については、
図5Aを用いて説明した例と同様である。また、排気流路161を介した汚染物質の排出や、汚染物質を放出した後、冷媒が通流するタイル10との接触による搬送モジュール30の冷却についても
図5A、
図5Bにて説明した内容と同様なので、再度の記載を省略する。
なお、誘導コイル421による加熱中、搬送モジュール30を浮上させることが困難な場合には、例えば複数の支持ピンにより搬送モジュール30を支持した状態で加熱を行ってもよい。
【0057】
<加熱部構成例3:熱交換機構>
図7Aは、加熱部としてタイル10内に形成された温調流体流路21に温調流体である熱媒を供給するための熱媒供給部431を設けた例である。この場合には、熱媒供給部431から熱媒が供給されている期間中に、本体部31をタイル10の上面(接触面)と接触させて熱伝導により搬送モジュール30の表面を75~300℃の範囲内の温度に加熱する(
図7A)。温調流体流路21が形成されたタイル10や熱媒供給部431は、本例の熱交換機構に相当する。
そして予め設定した時間、搬送モジュール30の加熱を行い、本体部31の表面が清浄な状態となったら、熱媒と切り替えて冷媒供給部432から冷媒を供給して搬送モジュール30を冷却する(
図7B)。
【0058】
<加熱部構成例4:抵抗発熱体313>
図8に示す例においては、搬送モジュール30内に加熱部である抵抗発熱体313を設けた例を示している。さらに搬送モジュール30内には、抵抗発熱体313に電力を供給する電力供給部が設けられている。抵抗発熱体313は、二次電池により構成する場合を例示できる。この場合、本体部31に対し外部の電源と接続するプラグを設け、当該プラグをコンセントに挿入して二次電池の充電を行ってもよい。また、ワイヤレス給電により二次電池の充電を行う構成としてもよい。
【0059】
このほか、本体部31内には二次電池を設けず、プラグ-コンセント機構やワイヤレス給電により、直接、抵抗発熱体313に対して給電を行ってもよい。この場合には、プラグやワイヤレス給電の受電部が電力供給部314に相当する。
抵抗発熱体313及び電力供給部314は、本例の加熱部に相当する。
【0060】
上述の抵抗発熱体313により、搬送モジュール30を75~300℃の範囲内の温度に加熱することによって、搬送モジュール30の表面から汚染物質を放出させることができる。その後、冷媒が通流するタイル10との接触により搬送モジュール30を冷却については
図5Bにて説明した例と同様である。
【0061】
さらに
図8には、排気流路161を介した汚染物質の排出とは別の手法により、搬送モジュール30から放出された汚染物質を除去する手法の例を示してある。即ち、本例の真空搬送室160の例えば天井部側には、内部に冷媒流路221が形成された汚染物捕集部材22が設けられている。冷媒流路221には冷媒供給部23が接続され、冷媒供給部23に対して温調流体である冷媒を供給することができる。
【0062】
この冷媒により、汚染物捕集部材22の表面は、抵抗発熱体313によって加熱された搬送モジュール30よりも低い温度に温調される。搬送モジュール30の表面から放出された汚染物質は、搬送モジュール30の表面と汚染物捕集部材22の表面との間に温度勾配が形成されることに伴う熱泳動により、汚染物捕集部材22側へと移動し、汚染物捕集部材22の表面に付着する。この作用により、搬送モジュール30から放出された汚染物質を真空搬送室160内から除去することができる。汚染物捕集部材22は、本例の汚染物除去部に相当する。
【0063】
ここで、
図5A~
図7Bに示した排気流路161を利用した汚染物除去部と、
図8に示した汚染物捕集部材22を用いた汚染物除去部の構成は、必要に応じていずれか一方、またはその双方を選択して配置することができる。一方、
図5A、
図5Bや
図6に示す例では、加熱部(加熱用光源411、誘導コイル421)が真空搬送室160の天井部側に配置されている。この場合には、汚染物捕集部材22は、例えば真空搬送室160の側壁部に配置してもよい。
【0064】
<効果>
本開示によるウエハ処理システム101によれば、以下の効果がある。磁気浮上を利用してウエハWを搬送する搬送モジュール30に対し、加熱部(加熱用光源411、誘導コイル421、冷媒供給部432と温調流体流路21、または本体部31内の抵抗発熱体313)により搬送モジュール30の表面を加熱する。この加熱に伴う熱応力及び熱泳動の作用により、ウエハWの表面に付着しているパーティクルを放出させることができる。また、ウエハWの表面に付着している化学物質についても、本体部31の加熱に伴う昇華、または分解により、ウエハWの表面から放出させることができる。このように、表面に付着している汚染物質を放出させることにより、搬送モジュール30を清浄化することができる。
【0065】
<ウエハ処理システム101a>
次いで、クリーニング領域20を設ける領域、及び搬送モジュール30aの加熱を実施するタイミングのバリエーションについて、
図9に示すウエハ処理システム101aの例を参照しながら説明する。なお、以下に説明する
図9~
図12において、
図1~
図8を用いて説明したウエハ処理システム101、搬送モジュール30と共通の構成には、これらの図に付したものと共通の符号を付してある。
【0066】
図9に示すウエハ処理システム101aは、真空搬送室160と大気搬送室140との間でウエハWの搬入出を行うために、圧力の切り替えを行うロードロック室130内にクリーニング領域20が設けられている。この点、真空搬送室160内にて搬送モジュール30の加熱を行う
図1、
図3に示すウエハ処理システム101とは構成が異なる。
【0067】
また、ウエハ処理システム101aにおいて、ウエハ処理室110、ロードロック室130及び大気搬送室140には、真空搬送室160とほぼ同じ高さ位置に床面部が設けられている。そして、これらの床面部にも移動面側コイル11を備えたタイル10が設けられている。従って搬送モジュール30aは、これらウエハ処理室110、ロードロック室130及び大気搬送室140内を磁気浮上により移動することができる。この点、ウエハ処理室110やロードロック室130内にアーム部32を挿入してウエハWの受け渡しを行う
図1、
図3に示すウエハ処理システム101とは構成が異なっている。
【0068】
さらに本例の大気搬送室140aは、床面部に昇降ピン143が設けられており、当該昇降ピン143を介してウエハ搬送機構142との間でのウエハWの受け渡しが行われる。大気搬送室140aは、本例の「他の基板搬送室」に相当する。
【0069】
<ロードロック室130内における加熱1>
本例のウエハ処理システム101においては、ロードロック室130やウエハ処理室110内に進入しやすいように、アーム部32を備えないタイプの搬送モジュール30aを用いてウエハWの搬送を行う。
図10に示すように、搬送モジュール30aは、本体部31の上面に直接、ウエハWを保持する構成となっている。即ち、搬送モジュール30aの本体部31は、ウエハWが載置され、保持される基板保持部であるステージ34となっている。例えばステージ34は、扁平な角板状に形成される。
【0070】
搬送モジュール30aは、ウエハ処理室110や大気搬送室140内に進入し、昇降ピン113、143との間でウエハWの受け渡しを行う。搬送モジュール30aには、昇降ピン113、143との干渉を避けつつウエハWの受け渡しを行うためのスリット341が形成されている。スリット341は、昇降ピン113、143に保持されたウエハWの下方位置にステージ34を進入、退出させるにあたり、昇降ピン113、143が通過する軌道に沿って形成されている。またスリット341は、ウエハWの下方位置への進入方向を180°反転させることも可能なように形成されている。これにより、搬送モジュール30aと昇降ピン113、143とが干渉せず、搬送モジュール30aとウエハWとの中心が揃うように上下に配置することができる。
【0071】
上述の構成を備えた大気搬送室140においては、ロードロック室130を介して搬送モジュール30aが大気搬送室140a内に移動し、処理前のウエハWを昇降ピン143から受け取り、処理後のウエハWを昇降ピン143に受け渡す。一方、既述のように大気搬送室140a内には清浄空気のダウンフローが形成されているが、真空雰囲気である真空搬送室160内と比較すると、相対的に多くのパーティクルが存在する。また、大気搬送室140aにおいては、搬送モジュール30aに水分が吸着しやすい。さらに、ウエハ処理室110内での処理に伴ってウエハWに付着した化学物質が大気搬送室140a内に持ち出され、大気中の水分や搬送モジュール30aに吸着した水分と反応してパーティクルや腐食性の化学物質を生成する場合もある。
【0072】
このように、清浄度が異なる大気搬送室140aと真空搬送室160との間を搬送モジュール30aが移動する場合には、搬送モジュール30aの移動に伴って、真空搬送室160やウエハ処理室110内に汚染物質や水分が持ち込まれてしまうおそれが生じる。そこで、搬送モジュール30aが大気搬送室140aから真空搬送室160へと移動するタイミングにて、ロードロック室130内で搬送モジュール30aの加熱を行うことにより、汚染物質を放出させる。このとき、搬送モジュール30aは、ウエハWの搬送を行っていない状態であることが好ましい。搬送モジュール30aの加熱により、表面が清浄化された後の搬送モジュール30aを真空搬送室160やウエハ処理室110内に進入させることができる。
【0073】
<ロードロック室130内における加熱2>
次いで
図11に示すウエハ処理システム101bは、互いに真空度が異なる真空搬送室160、160aを、ロードロック室130を介して接続し、当該ロードロック室130にクリーニング領域20を設けた例である。例えばPVD(Physical Vapor Deposition))による成膜を行うウエハ処理室110aと、CVDによる成膜を行うウエハ処理室110とを比較するとPVD成膜の方がより高い真空度が必要となる。また例えば、CVD成膜の後、PVD成膜を連続して実施する場合もある。そこで
図11に示すウエハ処理システム101bでは、CVD用のウエハ処理室110が接続された第1の真空搬送室160と、PVD用のウエハ処理室110aが接続された第2の真空搬送室160aとを、ロードロック室130を介して繋げることにより、CVDとPVDによる連続成膜を可能としている。
【0074】
一方で、高い真空度が要請されるPVD成膜が接続された第2の真空搬送室160a内においては、第1の真空搬送室160内よりも高い清浄度が求められることがある。そこで、本例のウエハ処理システム101bは、第1、第2の真空搬送室160、160aの間に配置されたロードロック室130にクリーニング領域20を設けている。この構成により、搬送モジュール30aが第1の真空搬送室160から第2の真空搬送室160aへと移動するタイミングにて、ロードロック室130内で搬送モジュール30aを加熱し、汚染物質を放出させることができる。このとき、搬送モジュール30aは、ウエハWの搬送を行っていない状態であることが好ましい。搬送モジュール30aの加熱により、表面が清浄化された後の搬送モジュール30aを第2の真空搬送室160aや、PVD成膜が行われるウエハ処理室110a内に進入させることができる。
【0075】
第1の真空搬送室160と第2の真空搬送室160aとは、開口部に接続されるウエハ処理室110、110aが相違する点を除いて、ほぼ同様に構成される。また、第1、第2の真空搬送室160、160aに接続されたウエハ処理室110、110aにて実施されるウエハWの処理の種類は、PVD成膜とCVD成膜との組み合わせに限定されない。例えば、真空度の高い第2の真空搬送室160aに接続されたウエハ処理室110aにてエッチング処理を行った後、真空度の低い第1の真空搬送室160に接続されたウエハ処理室110にてCVD成膜を行ってもよい。
【0076】
なお、
図11においては第1の真空搬送室160と大気搬送室140aとの間に設けられているロードロック室130の図示を省略している。この点、当該ロードロック室130に対しても
図9に示すウエハ処理システム101aと同様にクリーニング領域20を設け、搬送モジュール30aの加熱を行う構成としてもよい。
また、
図11において、第1の真空搬送室160に替えて、大気雰囲気の搬送室にウエハ処理室110を接続した構成としてもよい。この場合には、当該大気雰囲気の搬送室に対し、クリーニング領域20が設けられたロードロック室130を介して、第2の真空搬送室160aが接続される。
【0077】
図9、
図11の各例に係るウエハ処理システム101a、101bにおいて、クリーニング領域20に設ける加熱部は、
図5A~
図8を用いて説明した加熱用光源411、誘導コイル421、冷媒供給部432と温調流体流路21、または本体部31内の抵抗発熱体313のいずれであってもよい。またロードロック室130の床面部には、搬送モジュール30aの冷却部(冷媒供給部432及び温調流体流路21など)を設けてもよい。さらに汚染物除去部として、ロードロック室130内の排気を行う排気部や、汚染物捕集部材22を設けてもよい。排気部により汚染物除去部を構成する場合には、ロードロック室130内を真空雰囲気にするための真空排気路を用いることができる。
【0078】
そして、
図9、
図11の各例に係るウエハ処理システム101a、101bにおいても、
図2に示すアーム部32を備えたタイプの搬送モジュール30を用いてウエハWの搬送を行ってもよい。この場合には、クリーニング領域20を設けたロードロック室130は、アーム部32を備えた搬送モジュール30全体を収容することが可能な大きさに構成される。
【0079】
また、搬送モジュール30、30aの加熱は、
図1、
図4に示す真空搬送室160内や、
図9、
図11に示すロードロック室130内で実施する場合に限定されない。例えば真空搬送室160の後端部に、シャッターにより開閉可能な開口部を介し、搬送モジュール30、30aの加熱を行う専用の処理室を接続し、当該処理室内にクリーニング領域20を設定してもよい。
【0080】
<移動制御補正>
以上に説明したように、上述の各ウエハ処理システム101、101a、101bにおいては、加熱部(加熱用光源411、誘導コイル421、冷媒供給部432と温調流体流路21、または本体部31内の抵抗発熱体313)を用い、搬送モジュール30、30aの加熱を行うことにより表面の汚染物質を放出させる。一方で、搬送モジュール30、30a内に設けられているモジュール側磁石33は、加熱すると熱減磁により磁力が低下することが知られている。
【0081】
例えば
図12に示は、制御部5に設けられた移動制御部501の機能を用いて搬送モジュール30、30aの移動制御を行う例を示してある。移動制御部501は、電力供給部53から電力が供給される移動面側コイル11の選択や、移動面側コイル11に供給される電力の大きさを調節することにより、目的位置まで搬送モジュール30、30aを移動させる。
【0082】
このとき、搬送モジュール30、30a内のモジュール側磁石33の磁力が低下すると、移動面側コイル11とモジュール側磁石33との間に働く反発力が低下してしまう。この結果、例えばレシピに基づいて予め設定された順番で移動面側コイル11を選択し、これらの移動面側コイル11に、予め設定された大きさの電力を供給して移動制御を行っても、搬送モジュール30、30aが目的位置に到達できないおそれが生じる。
【0083】
そこで、
図12に示すウエハ処理システム101cは、真空搬送室160内における搬送モジュール30、30aの実際の位置を特定する位置検出部52を備えている。真空搬送室160内には搬送モジュール30、30aの位置を検出するセンサが設けられており、位置検出部52は、このセンサから取得した情報に基づき、搬送モジュール30、30aの位置を特定する。
【0084】
位置検出用のセンサとしては、タイル10内の予め設定された位置に設けられた複数のホールセンサや、レーザー変位計、搬送モジュール30、30aの位置を撮像するカメラを例示することができる。
図12には、タイル10に複数のホールセンサ51を設けた例を記載してある。
【0085】
制御部5は、ずれ量検出部503の機能を備え、位置検出部52により検出された実際の搬送モジュール30、30aの位置と、モジュール側磁石33の熱減磁が発生していない場合に到達する目的位置のとの位置ずれ量を検出する。この位置ずれ量は、モジュール側磁石33の磁力の熱減磁に伴って生じていると言えるので、制御部5に設けられた補正部502の機能を用い、当該位置ずれ量を相殺するように移動制御部501を用いて制御される移動面側コイル11とモジュール側磁石33との間の反発力を補正する。
【0086】
補正部502による反発力の補正は、線形補正を用いる場合を例示できる。例えば、搬送モジュール30、30aの浮上高さ(
図1に示すZ方向の位置)を検出した結果、熱減磁により目標の8割まで浮上高さが低下していたとする。この場合には、補正部502は、電力供給部53から移動面側コイル11に供給する電力を1.25倍に増加させるように、移動制御部501から出力される制御値の補正を行う。
また、熱源時の影響が大きくなり、補正を行っても位置ずれ量の低減が困難となった場合には、ウエハ処理システム101、101a~101cにてエラーを発報してもよい。エラーの発報を受けて、搬送モジュール30、30aを取り出し、外部でモジュール側磁石33の着磁作業を行うことにより、もとの磁力を取り戻すことができる。
【0087】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【符号の説明】
【0088】
W ウエハ
10 タイル
11 移動面側コイル
101、101a、101b
ウエハ処理システム
110、110a
ウエハ処理室
160 真空搬送室
20 クリーニング領域
30、30a
搬送モジュール