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特開2023-69271DPP-4阻害剤およびその製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069271
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】DPP-4阻害剤およびその製造方法。
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/744 20150101AFI20230511BHJP
   A61K 36/06 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
A61K35/744
A61K36/06 A
A61P43/00 111
A61P3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181022
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】楠本 雅典
(72)【発明者】
【氏名】米山 敏広
(72)【発明者】
【氏名】青木 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】味方 和樹
【テーマコード(参考)】
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC55
4C087BC56
4C087NA14
4C087ZC02
4C087ZC35
4C088AA01
4C088CA25
4C088NA14
4C088ZC20
4C088ZC35
(57)【要約】
【課題】新規なジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-4)阻害剤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係るDPP-4阻害剤は、微生物由来タンパク質をタンパク質分解酵素で加水分解してなる分解物を含んでいる。本発明の他の態様に係るDPP-4阻害剤の製造方法は、微生物由来タンパク質をタンパク質分解酵素により加水分解する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物由来タンパク質をタンパク質分解酵素で加水分解してなる分解物を含んでいる、ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-4)阻害剤。
【請求項2】
上記微生物は酵母および乳酸菌からなる群より選択される1種類以上である、請求項1に記載のDPP-4阻害剤。
【請求項3】
上記酵母は、ビール酵母、パン酵母およびトルラ酵母からなる群より選択される1種類以上であり、
上記乳酸菌は、ラクトバチルス属乳酸菌、ラクトコッカス属乳酸菌およびエンテロコッカス属乳酸菌からなる群より選択される1種類以上である、
請求項2に記載のDPP-4阻害剤。
【請求項4】
上記タンパク質分解酵素は、セリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼおよびシステインプロテアーゼからなる群より選択される1種類以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のDPP-4阻害剤。
【請求項5】
上記タンパク質分解酵素は、バチルス・リチェニフォルミスまたはバチルス・サブティリス由来のタンパク質分解酵素である、請求項1~4のいずれか1項に記載のDPP-4阻害剤。
【請求項6】
上記タンパク質分解酵素は、バチルス・リチェニフォルミス由来のセリンプロテアーゼおよびバチルス・サブティリス由来の金属プロテアーゼからなる群より選択される1種類以上である、請求項5に記載のDPP-4阻害剤。
【請求項7】
上記タンパク質分解酵素は、アスペリギルス・オリゼ由来のタンパク質分解酵素である、請求項1~4のいずれか1項に記載のDPP-4阻害剤。
【請求項8】
上記タンパク質分解酵素は、アスペリギルス・オリゼ由来のセリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼおよび金属プロテアーゼの混合物である、請求項7に記載のDPP-4阻害剤。
【請求項9】
上記タンパク質分解酵素は、下記(a)~(h)からなる群より選択される1種類以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のDPP-4阻害剤。
(a)アスペリギルス・オリゼ由来のアスパラギン酸プロテアーゼ
(b)アスペリギルス・オリゼ由来のアスパラギン酸プロテアーゼおよびセリンプロテアーゼの混合物
(c)ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス由来のセリンプロテアーゼ
(d)バシラス・アミロリケファシエンス由来の金属プロテアーゼ
(e)アスペリギルス・メレウス由来のセリンプロテアーゼ
(f)ペプシン
(g)パパイン
(h)ブロメライン
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のDPP-4阻害剤を含んでいる、DPP-4が関与する異常の予防および/または改善のための物品。
【請求項11】
上記DPP-4が関与する異常は高血糖である、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
上記高血糖は2型糖尿病による高血糖である、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
微生物由来タンパク質をタンパク質分解酵素により加水分解する工程を含む、ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-4)阻害剤の製造方法。
【請求項14】
上記微生物は酵母および乳酸菌からなる群より選択される1種類以上である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
上記酵母は、ビール酵母、パン酵母およびトルラ酵母からなる群より選択される1種類以上であり、
上記乳酸菌は、ラクトバチルス属乳酸菌、ラクトコッカス属乳酸菌およびエンテロコッカス属乳酸菌からなる群より選択される1種類以上である、
請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
上記タンパク質分解酵素は、セリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼおよびシステインプロテアーゼからなる群より選択される1種類以上である、請求項13~15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
上記タンパク質分解酵素は、バチルス・リチェニフォルミスまたはバチルス・サブティリス由来のタンパク質分解酵素である、請求項13~16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
上記タンパク質分解酵素は、バチルス・リチェニフォルミス由来のセリンプロテアーゼおよびバチルス・サブティリス由来の金属プロテアーゼからなる群より選択される1種類以上である、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
上記タンパク質分解酵素は、アスペリギルス・オリゼ由来のタンパク質分解酵素である、請求項13~16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
上記タンパク質分解酵素は、アスペリギルス・オリゼ由来のセリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼおよび金属プロテアーゼの混合物である、請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
上記タンパク質分解酵素は、下記(a)~(h)からなる群より選択される1種類以上である、請求項13~16のいずれか1項に記載の製造方法。
(a)アスペリギルス・オリゼ由来のアスパラギン酸プロテアーゼ
(b)アスペリギルス・オリゼ由来のアスパラギン酸プロテアーゼおよびセリンプロテアーゼの混合物
(c)ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス由来のセリンプロテアーゼ
(d)バシラス・アミロリケファシエンス由来の金属プロテアーゼ
(e)アスペリギルス・メレウス由来のセリンプロテアーゼ
(f)ペプシン
(g)パパイン
(h)ブロメライン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-4)阻害剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病などが原因で高血糖状態が続くと、様々な合併症が引き起こされうることが知られている。血糖値を低下させる唯一のホルモンであるインスリンは、インクレチンにより分泌が促進される。GLP-1はインクレチンの一種であり、ジペプチルペプチダーゼ-IV(DPP-4)によって分解される。したがって、DPP-4の阻害剤には、血糖値を低下させる作用がある。
【0003】
これに関連して、ある種のタンパク質の加水分解物はDPP-4阻害活性を示すことが報告されている(例えば、特許文献1~4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-040111号公報
【特許文献2】国際公開第2012/102308号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2014/199780号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2006/068480号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような先行技術文献をしても、DPP-4阻害剤の探求は充分とは言えなかった。本発明の一態様は、容易に増幅できる微生物をタンパク質源とする、新規なDPP-4阻害剤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-4)阻害剤は、微生物由来タンパク質をタンパク質分解酵素で加水分解してなる分解物を含んでいる。
【0007】
本発明の一態様に係るジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-4)阻害剤の製造方法は、微生物由来タンパク質をタンパク質分解酵素により加水分解する工程を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、新規なDPP-4阻害剤およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】4種類の微生物(ビール酵母、トルラ酵母、パン酵母および乳酸菌(Lactobacillus plantarum))を種々のタンパク質分解酵素で加水分解して得られた加水分解物による、DPP-4阻害活性を表す棒グラフである。
図2】3種類の乳酸菌(Lactococcus lactis、Enterococcus faecalisおよびLactobacillus sakei)を2種類のタンパク質分解酵素で加水分解して得られた加水分解物による、DPP-4阻害活性を表す棒グラフである。図中、「B1」は、プロチンSD-AY10を表す。「N6」は、スミチームLP-Gを表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。本明細書では、当業者に周知の規則により、アミノ酸をアルファベット一文字で略記する。
【0011】
〔1.DPP-4阻害剤の製造方法〕
本発明の一態様に係るDPP-4阻害剤の製造方法は、微生物由来タンパク質をタンパク質分解酵素により加水分解する工程を含む。微生物由来タンパク質の分解物がDPP-4阻害活性を示すことは、これまで知られていなかった。また、微生物由来タンパク質は大量生産および安定供給が容易であり、製造コストの低廉化も期待される。
【0012】
[1.1.微生物由来タンパク質]
微生物由来タンパク質の例としては、微生物の菌体、微生物の抽出物、微生物が細胞外に放出するタンパク質が挙げられる。取扱いが容易で、まとまった量を用意しやすいことから、微生物の菌体を微生物由来タンパク質とすることが好ましい。
【0013】
微生物の例としては、真菌および細菌が挙げられる。真菌の例としては、酵母、カビ、キノコが挙げられる。細菌の例としては、乳酸菌、大腸菌、バチルス属細菌、ビフィズス菌、酪酸菌が挙げられる。増殖させやすく、多量の菌体を用意しやすい点においては、酵母、乳酸菌を材料とすることが好ましい。
【0014】
酵母の例としては、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Shizosaccharomyces)、シバーリンドネラ属(Cyberlindnera)またはキャンディダ属(Candida)に属する真菌が挙げられる。また、用途による酵母の例としては、パン酵母、ビール酵母、焼酎酵母、清酒酵母、ワイン酵母、トルラ酵母が挙げられる。
【0015】
乳酸菌の例としては、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、リューコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus属)またはワイセラ属(Wissella)に属する細菌が挙げられる。これらの中でも、ラクトバチルス属細菌が好ましい。
【0016】
ラクトバチルス属細菌の例としては、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・クリスパータス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・アシジピスシス(Lactobacillus acidipiscis)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・コリニフォルミス(Lactobacillus coryniformis)、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・デルブルッキー(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)、ラクトバチルス・インシシ(Lactobacillus insicii)、ラクトバチルス・ケフィーリ(Lactobacillus kefiri)、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス・サブスピーシーズ・ケフィラノファシエンス(Lactobacillus kefiranofaciens subsp. kefiranofaciens)、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス・サブスピーシーズ・ケフィリグラナム(Lactobacillus kefranofaciens subsp. kefirgranum)、ラクトバチルス・ノデンシス(Lactobacillus nodensis)、ラクトバチルス・パラブレビス(Lactobacillus parabrevis)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・パラケフィーリ(Lactobacillus parakefiri)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・ペロレンス(Lactobacillus perolens)、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillussalivarius)、ラクトバチルス・ツセッティ(Lactobacillus tucceti)、ラクトバチルス・クルバタス(Lactobacillus curvatus)、ラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・マリ(Lactobacillus mali)が挙げられる。
【0017】
エンテロコッカス属細菌の例としては、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカス・アビウム(Enterococcus avium)、エンテロコッカス・ガリナルム(Enterococcus gallinarum)、エンテロコッカス・カセリフラブス(Enterococcus casseliflavus)、エンテロコッカス・ガリナルム(Enterococcus gallinarum)が挙げられる。
【0018】
ラクトコッカス属細菌の例としては、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス・バイオバラエティ・ジアセチラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis biovar. diacetylactis)、ラクトコッカス・ラフィノラクティス(Lactococcus raffinolactis)が挙げられる。
【0019】
ストレプトコッカス属細菌の例としては、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・アガラクティア(Streptococcus agalactiae)が挙げられる。
【0020】
ビフィドバクテリウム属細菌の例としては、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム(Bifidobacterium longum subsp. longum)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)、ビフィドバクテリウム・シューカテニュレイタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・マグナム(Bifidobacterium magnum)、ビフィドバクテリウム・モンゴリエンセ(Bifidobacterium mongoliense)が挙げられる。
【0021】
リューコノストック属細菌の例としては、リューコノストック・カルノーサム(Leuconostoc carnosum)、リューコノストック・シトレウム(Leuconostoc citreum)、リューコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis)、リューコノストック・メセンテロイデス・サブスピーシーズ・クレモリス(Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris)、リューコノストック・シュードメセンテロイデス(Leuconostoc pseudomesenteroides)が挙げられる。
【0022】
ペディオコッカス属細菌の例としては、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス・アルジェンチニクス(Pediococcus argentinicus)、ペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcus damnosus)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococccus pentosaceus)、ペディオコッカス・スティレシイ(Pediococcus stilesii)が挙げられる。
【0023】
ワイセラ属細菌の例としては、ワイセラ・シバリア(Weissella cibaria)、ワイセラ・コンフーサ(Weissella confusa)、ワイセラ・バラメセンテロイデス(Weissella paramesenteroides)が挙げられる。
【0024】
[1.2.タンパク質分解酵素]
本発明の一実施形態に係る方法において使用されるタンパク質分解酵素は、特に限定されない。タンパク質分解酵素の例としては、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、アスパラギンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼが挙げられる。これらの中では、セリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼおよび金属プロテアーゼからなる群より選択される1種類以上が好ましい。
【0025】
タンパク質分解酵素は、どのような生物に由来していてもよい。タンパク質分解酵素が由来する生物の例としては、高等生物、細菌および真菌が挙げられる。一実施形態において、タンパク質分解酵素は、バチルス・リチェニフォルミス(Bacillus licheniformis)に由来する。一実施形態において、タンパク質分解酵素は、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)に由来する。一実施形態において、タンパク質分解酵素は、アスペリギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)に由来する。
【0026】
タンパク質分解酵素の具体例としては、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、ブロメライン、カルパイン、リソソームカテプシン、ペプシン、レンニン、サーモリシン、カルボキシペプチダーゼA、コラゲナーゼ、プラスミンが挙げられる。また、市販のタンパク質分解酵素製剤を使用してもよい。このような製剤の例としては、プロテアーゼM「アマノ」SD、プロチンSD-AY10、サモアーゼPC10F、プロチンSD-NY10、プロテアックス(以上、天野エンザイム株式会社製);スミチームLPL-G、スミチームMP、スミチームBNP、スミチームFP-G、スミチームLP-G(以上、新日本化学工業株式会社製)が挙げられる。一般的なタンパク質分解酵素も、市販のタンパク質分解酵素製剤として入手できる。このような製剤の例としては、ペプシン、パパイン、ブロメライン(以上、富士フイルム和光純薬株式会社製)が挙げられる。
【0027】
上述した中で好ましいタンパク質分解酵素としては、プロチンSD-AY10(天野エンザイム株式会社製;バチルス・リチェニフォルミス由来のセリンプロテアーゼ)、スミチームBNP(新日本化学工業株式会社製;バチルス・サブティリス由来の金属プロテアーゼ)、スミチームLP-G(新日本化学工業株式会社製;アスペリギルス・オリゼ由来のセリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼおよび金属プロテアーゼの混合物)が挙げられる。これらの酵素で加水分解した微生物由来タンパク質(とりわけビール酵母)は、ジペプチドの含有量が多く、DPP-4阻害活性も高い。
【0028】
その他に使用できるタンパク質分解酵素としては、プロテアーゼM「アマノ」SD(天野エンザイム株式会社製;アスペリギルス・オリゼ由来のアスパラギン酸プロテアーゼおよびセリンプロテアーゼの混合物)、プロテアックス(天野エンザイム株式会社製;アスペリギルス・オリゼ由来のアスパラギン酸プロテアーゼおよびセリンプロテアーゼの混合物)、スミチームLPL-G(新日本化学工業株式会社製;アスペリギルス・オリゼ由来のアスパラギン酸プロテアーゼ)、スミチームFP-G(新日本化学工業株式会社製;アスペリギルス・オリゼ由来のセリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼおよび金属プロテアーゼの混合物)、サモアーゼPC10F(天野エンザイム株式会社製;ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス由来のセリンプロテアーゼ)、プロチンSD-NY10(天野エンザイム株式会社製;バシラス・アミロリケファシエンス由来の金属プロテアーゼ)、スミチームMP(新日本化学工業株式会社製;アスペリギルス・メレウス由来のセリンプロテアーゼ)、ペプシン、パパイン、ブロメラインなどが挙げられる。一実施形態において、ペプシンは、ブタ胃粘膜由来のアスパラギン酸プロテアーゼである。一実施形態において、パパインは、パパイヤ果実由来のシステインプロテアーゼである。一実施形態において、ブロメラインは、パイナップル果実または葉由来のシステインプロテアーゼである。
【0029】
[1.3.加水分解条件]
微生物由来タンパク質を加水分解するときの条件は、特に限定されない。例えば、温度およびpHは、使用するタンパク質分解酵素の至適条件に合うように設定すればよい。本発明の一実施形態に係る方法では、酸性を至適pHとする酵素、中性を至適pHとする酵素および塩基性を至適pHとする酵素のいずれを使用しても、DPP-4阻害剤が製造できる。
【0030】
使用するタンパク質分解酵素の量は、その種類に応じて適宜設定できる。例えば、添加するタンパク質分解酵素の量の下限は、微生物由来タンパク質の量を100重量部とすると、0.01重量部以上が好ましく、0.1重量部以上がより好ましく、1重量部以上がさらに好ましい。添加するタンパク質分解酵素の量の上限は、微生物由来タンパク質の量を100重量部とすると、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましい。
【0031】
加水分解に要する時間は、微生物由来タンパク質の量やタンパク質分解酵素の種類に応じて適宜設定できる。例えば、加水分解時間の下限は、1時間以上が好ましく、4時間以上がより好ましく、16時間以上がさらに好ましい。加水分解時間の上限は、例えば、1週間以下でありうる。
【0032】
本発明の一実施形態に係る製造方法は、その他の工程を含んでもよい。その他の工程の例としては、微生物の培養;微生物の分離;微生物由来タンパク質の抽出;微生物由来タンパク質の前処理(例えば、酸または塩基による処理);得られた分解物の精製、濃縮、分画、乾燥、粉砕など;が挙げられる。
【0033】
〔2.DPP-4阻害剤〕
[2.1.DPP-4阻害剤の成分]
本発明の一態様に係るDPP-4阻害剤は、微生物由来タンパク質をタンパク質分解酵素で加水分解してなる分解物を含んでいる。当該分解物には多種多様なペプチド成分が含まれているため、多種多様なペプチド成分のうちどの成分(または、どの成分の組合せ)が、DPP-4阻害活性を示すかについて特定することは実際的ではない。本発明者らは分解物に含まれるジペプチドがDPP-4阻害能を有している可能性が高いと考えているが、この推定作用機序は本発明を限定するものではない。例えば、ジペプチドでないオリゴペプチドがDPP-4阻害能を有していてもよいし、全く異なる作用機序であってもよい。
【0034】
分解物の上清に含まれているジペプチドの総量は、1mL当たり、1μg以上が好ましく、10μg以上がより好ましく、100μg以上がさらに好ましい。
【0035】
一実施形態において、分解物は、下記のジペプチドのうち、1種類以上、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上または全てのジペプチドを含んでいる。これらのジペプチドの総量は、分解物の上清1mL当たり、1μg以上が好ましく、10μg以上がより好ましく、100μg以上がさらに好ましい。なお、本明細書においては、ジペプチドなどのアミノ酸配列をアミノ酸の一文字表記で表記する。
VW、EF、VY、TY、TF、VN、AA、SL、GF、VL
【0036】
一実施形態において、分解物は、下記のジペプチドのうち、1種類以上、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上または全てのジペプチドを含んでいる。これらのジペプチドの総量は、分解物の上清1mL当たり、1μg以上が好ましく、10μg以上がより好ましく、100μg以上がさらに好ましい。
VW、VY、TY、VN、AN、LN、AA、LA、EF、IA
【0037】
一実施形態において、分解物は、下記のジペプチドのうち、1種類以上、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上または全てのジペプチドを含んでいる。これらのジペプチドの総量は、分解物の上清1mL当たり、1μg以上が好ましく、10μg以上がより好ましく、100μg以上がさらに好ましい。
DP、AP、EF、KN、HP、DA、VP、AA、GN、LE
【0038】
一実施形態において、分解物は、下記のジペプチドのうち、1種類以上、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上または全てのジペプチドを含んでいる。これらのジペプチドの総量は、分解物の上清1mL当たり、1μg以上が好ましく、10μg以上がより好ましく、100μg以上がさらに好ましい。
DP、EF、AP、KN、DA、AA、VN、VP、DL、SN
【0039】
一実施形態において、分解物は、下記のジペプチドのうち、1種類以上、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上または全てのジペプチドを含んでいる。これらのジペプチドの総量は、分解物の上清1mL当たり、1μg以上が好ましく、10μg以上がより好ましく、100μg以上がさらに好ましい。
VW、VY、EF、LE、IA、TY、TF、DP、FG、SY
【0040】
一実施形態において、分解物は、下記のジペプチドのうち、1種類以上、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上または全てのジペプチドを含んでいる。これらのジペプチドの総量は、分解物の上清1mL当たり、1μg以上が好ましく、10μg以上がより好ましく、100μg以上がさらに好ましい。
GY、EF、VW、VY、LE、IA、TY、TF、DP、FG
【0041】
一実施形態において、分解物は、下記のジペプチドのうち、1種類以上、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上または全てのジペプチドを含んでいる。これらのジペプチドの総量は、分解物の上清1mL当たり、1μg以上が好ましく、10μg以上がより好ましく、100μg以上がさらに好ましい。
DP、AP、EF、DA、HP、AA、VP、GN、VE、AN
【0042】
一実施形態において、分解物は、下記のジペプチドのうち、1種類以上、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上または全てのジペプチドを含んでいる。これらのジペプチドの総量は、分解物の上清1mL当たり、1μg以上が好ましく、10μg以上がより好ましく、100μg以上がさらに好ましい。
VW、VY、FG、LA、LE、AN、VN、FN、LN、AR
【0043】
一実施形態において、分解物は、下記のジペプチドのうち、1種類以上、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上または全てのジペプチドを含んでいる。これらのジペプチドの総量は、分解物の上清1mL当たり、1μg以上が好ましく、10μg以上がより好ましく、100μg以上がさらに好ましい。
VW、VY、TY、VN、LN、EF、AN、NA、IA、LA
【0044】
一実施形態において、分解物は、下記のジペプチドのうち、1種類以上、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上または全てのジペプチドを含んでいる。これらのジペプチドの総量は、分解物の上清1mL当たり、1μg以上が好ましく、10μg以上がより好ましく、100μg以上がさらに好ましい。
DP、AP、KN、NA、DA、HP、EF、GN、VP、WG
【0045】
一実施形態において、分解物は、下記のジペプチドのうち、1種類以上、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上または全てのジペプチドを含んでいる。これらのジペプチドの総量は、分解物の上清1mL当たり、1μg以上が好ましく、10μg以上がより好ましく、100μg以上がさらに好ましい。
VW、VN、TY、NA、AA、LE、AS、AR、FG、LA
【0046】
一実施形態において、分解物は、下記のジペプチドのうち、1種類以上、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上または全てのジペプチドを含んでいる。これらのジペプチドの総量は、分解物の上清1mL当たり、1μg以上が好ましく、10μg以上がより好ましく、100μg以上がさらに好ましい。
VW、LN、RA、RP、VN、AP、LE、LS、AS、FG
【0047】
分解物に含まれているジペプチドの種類および量は、公知の手法によって測定できる(例えば、本願実施例を参照)。
【0048】
[2.2.DPP-4阻害剤の効果]
DPP-4阻害剤は、DPP-4の有する機能のうち1つ以上を阻害する。一実施形態において、DPP-4阻害剤は、ペプチド鎖のN末端から2番目にあるプロリンまたはアラニン残基とN末端から3番目にあるアミノ酸残基との間のペプチド結合の切断を阻害する。
【0049】
一実施形態において、DPP-4阻害剤の阻害活性は、DPP-4阻害剤を含む系とDPP-4阻害剤を含まない系における、DPP-4の機能の差によって表される。DPP-4阻害剤を含む系は、DPP-4阻害剤を含まない系と比較したときに、DPP-4の機能を40%以上阻害することが好ましく、50%以上阻害することがより好ましく、60%以上阻害することがさらに好ましく、70%以上阻害することが特に好ましい。DPP-4の阻害活性は、公知のキットにより測定される(例えば、実施例を参照)。
【0050】
[2.3.DPP-4阻害剤の応用]
本発明の一態様は、上述のDPP-4阻害剤を含んでいる物品である。物品の例としては、医薬品、食品サプリメント、飲料、食品、動物用医薬品、動物用サプリメント、動物用飲料、飼料などが挙げられる。このような物品は、DPP-4が関与する異常の予防および/または改善に利用できる。DPP-4阻害剤を含んでいる物品の製造方法は、当業者の間で周知であるため、詳細な記載は省略する。
【0051】
本発明の一態様は、上述のDPP-4阻害剤の有効量を被験体に施用する工程を含む、DPP-4が関連する異常の予防および/または改善方法である。施用されるDPP-4阻害剤は、医薬品、食品サプリメント、飲料、食品、動物用医薬品、動物用サプリメント、動物用飲料または飼料の形態であってもよい。一実施形態において、被験体は、ヒトである。一実施形態において、被験体は、ヒト以外の動物である。
【0052】
本明細書において「動物用」とは、「ヒト以外の動物用」であることを意図する。ヒト以外の動物の例としては、偶蹄類(ウシ、イノシシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)、奇蹄類(ウマなど)、齧歯類(マウス、ラット、ハムスター、リスなど)、ウサギ目(ウサギなど)、食肉類(イヌ、ネコ、フェレットなど)が挙げられる。ヒト以外の動物には、家畜またはコンパニオンアニマル(愛玩動物)に加えて、野生動物も包含される。
【0053】
DPP-4が関与する異常の例としては、高血糖、糖尿病(1型糖尿病、2型糖尿病など)が挙げられる。一実施形態において、DPP-4が関与する異常は、高血糖である。一実施形態において、DPP-4が関与する異常は、糖尿病(例えば、2型糖尿病)による高血糖である。
【0054】
上記各項目で記載した内容は、他の項目においても適宜援用できる。本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。したがって、異なる実施形態にそれぞれ開示されている技術的手段を適宜組合せて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0055】
本明細書中に記載された学術文献および特許文献のすべてが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0056】
〔まとめ〕
本発明には、以下の態様が含まれている。
<1>
微生物由来タンパク質をタンパク質分解酵素で加水分解してなる分解物を含んでいる、ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-4)阻害剤。
<2>
上記微生物は酵母および乳酸菌からなる群より選択される1種類以上である、<1>に記載のDPP-4阻害剤。
<3>
上記酵母は、ビール酵母、パン酵母およびトルラ酵母からなる群より選択される1種類以上であり、
上記乳酸菌は、ラクトバチルス属乳酸菌、ラクトコッカス属乳酸菌およびエンテロコッカス属乳酸菌からなる群より選択される1種類以上である、
<2>に記載のDPP-4阻害剤。
<4>
上記タンパク質分解酵素は、セリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼおよびシステインプロテアーゼからなる群より選択される1種類以上である、<1>~<3>のいずれかに記載のDPP-4阻害剤。
<5>
上記タンパク質分解酵素は、バチルス・リチェニフォルミスまたはバチルス・サブティリス由来のタンパク質分解酵素である、<1>~<4>のいずれかに記載のDPP-4阻害剤。
<6>
上記タンパク質分解酵素は、バチルス・リチェニフォルミス由来のセリンプロテアーゼおよびバチルス・サブティリス由来の金属プロテアーゼからなる群より選択される1種類以上である、<5>に記載のDPP-4阻害剤。
<7>
上記タンパク質分解酵素は、アスペリギルス・オリゼ由来のタンパク質分解酵素である、<1>~<4>のいずれか1項に記載のDPP-4阻害剤。
<8>
上記タンパク質分解酵素は、アスペリギルス・オリゼ由来のセリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼおよび金属プロテアーゼの混合物である、<7>に記載のDPP-4阻害剤。
<9>
上記タンパク質分解酵素は、下記(a)~(h)からなる群より選択される1種類以上である、<1>~<4>のいずれかに記載のDPP-4阻害剤。
(a)アスペリギルス・オリゼ由来のアスパラギン酸プロテアーゼ
(b)アスペリギルス・オリゼ由来のアスパラギン酸プロテアーゼおよびセリンプロテアーゼの混合物
(c)ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス由来のセリンプロテアーゼ
(d)バシラス・アミロリケファシエンス由来の金属プロテアーゼ
(e)アスペリギルス・メレウス由来のセリンプロテアーゼ
(f)ペプシン
(g)パパイン
(h)ブロメライン
<10>
<1>~<9>のいずれかに記載のDPP-4阻害剤を含んでいる、DPP-4が関与する異常の予防および/または改善のための物品。
<11>
上記DPP-4が関与する異常は高血糖である、<10>に記載の物品。
<12>
上記高血糖は2型糖尿病による高血糖である、<11>に記載の物品。
<13>
微生物由来タンパク質をタンパク質分解酵素により加水分解する工程を含む、ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-4)阻害剤の製造方法。
<14>
上記微生物は酵母および乳酸菌からなる群より選択される1種類以上である、<13>に記載の製造方法。
<15>
上記酵母は、ビール酵母、パン酵母およびトルラ酵母からなる群より選択される1種類以上であり、
上記乳酸菌は、ラクトバチルス属乳酸菌、ラクトコッカス属乳酸菌およびエンテロコッカス属乳酸菌からなる群より選択される1種類以上である、
<14>に記載の製造方法。
<16>
上記タンパク質分解酵素は、セリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼおよびシステインプロテアーゼからなる群より選択される1種類以上である、<13>~<15>のいずれかに記載の製造方法。
<17>
上記タンパク質分解酵素は、バチルス・リチェニフォルミスまたはバチルス・サブティリス由来のタンパク質分解酵素である、<13>~<16>のいずれかに記載の製造方法。
<18>
上記タンパク質分解酵素は、バチルス・リチェニフォルミス由来のセリンプロテアーゼおよびバチルス・サブティリス由来の金属プロテアーゼからなる群より選択される1種類以上である、<17>に記載の製造方法。
<19>
上記タンパク質分解酵素は、アスペリギルス・オリゼ由来のタンパク質分解酵素である、<13>~<16>のいずれか1項に記載の製造方法。
<20>
上記タンパク質分解酵素は、アスペリギルス・オリゼ由来のセリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼおよび金属プロテアーゼの混合物である、<19>のいずれかに記載の製造方法。
<21>
上記タンパク質分解酵素は、下記(a)~(h)からなる群より選択される1種類以上である、<13>~<16>のいずれかに記載の製造方法。
(a)アスペリギルス・オリゼ由来のアスパラギン酸プロテアーゼ
(b)アスペリギルス・オリゼ由来のアスパラギン酸プロテアーゼおよびセリンプロテアーゼの混合物
(c)ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス由来のセリンプロテアーゼ
(d)バシラス・アミロリケファシエンス由来の金属プロテアーゼ
(e)アスペリギルス・メレウス由来のセリンプロテアーゼ
(f)ペプシン
(g)パパイン
(h)ブロメライン
【0057】
本発明にはまた、以下の態様も含まれている。
<1A>
微生物由来タンパク質をタンパク質分解酵素で加水分解してなる分解物を被験体に施用する工程を含む、DPP-4が関与する異常の予防および/または改善方法。
<2A>
<1>~<7>のいずれかに記載のDPP-4阻害剤を被験体に施用する工程を含む、DPP-4が関与する異常の予防および/または改善方法。
<3A>
上記DPP-4が関与する異常は高血糖である、<1A>または<2A>に記載の方法。
<4A>
上記高血糖は2型糖尿病による高血糖である、<3A>に記載の方法。
<1B>
DPP-4が関与する異常の予防および/または改善に使用するための、微生物由来タンパク質をタンパク質分解酵素で加水分解してなる分解物を含んでいるDPP-4阻害剤。
<2B>
DPP-4が関与する異常の予防および/または改善に使用するための、<1>~<7>のいずれかに記載のDPP-4阻害剤。
<3B>
上記DPP-4が関与する異常は高血糖である、<1B>または<2B>に記載のDPP-4阻害剤。
<4B>
上記高血糖は2型糖尿病による高血糖である、<3B>に記載のDPP-4阻害剤。
<1C>
DPP-4が関与する異常の予防剤および/または改善剤の製造のための、微生物由来タンパク質をタンパク質分解酵素で加水分解してなる分解物を含んでいるDPP-4阻害剤の使用。
<2C>
DPP-4が関与する異常の予防剤および/または改善剤の製造のための、<1>~<7>のいずれかに記載のDPP-4阻害剤の使用。
<3C>
上記DPP-4が関与する異常は高血糖である、<1C>または<2C>に記載の使用。
<4C>
上記高血糖は2型糖尿病による高血糖である、<3C>に記載の使用。
【実施例0058】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
〔材料〕
[1.微生物]
以下の酵母および乳酸菌を使用した。
・ビール酵母(タンパク質含有量:約50%):日本薬局方 乾燥酵母エビオス
・パン酵母TP(タンパク質含有量:約50%):三輪製薬より入手
・トルラ酵母(タンパク質含有量:約50%):三輪製薬より入手
・乳酸菌:Lactobacillus plantarum、Lactococcus lactis、Enterococcus faecalisおよびLactobacillus sakeiを、下記の手順で準備した。
【0060】
乳酸菌の菌体を準備する手順は、下記の通りである。下記の手順において、遠心分離の条件は、全て6000×g、30分間であった。
【0061】
(Lactobacillus plantarumの準備)
(1)Lactobacillus plantarumをMRS培地に入れて、30℃にて24時間培養した。培養後のOD600は、12.4であった。
(2)3Lの培養液を遠心分離した。
(3)得られた沈澱に400mLの水を加え、懸濁させた。その後、再度遠心分離して洗浄した。工程3を合計2回行った。
(4)得られた沈澱に400mLの水を加え、懸濁させた。その後、オートクレーブで滅菌した。
(5)滅菌後、遠心分離し得られた沈澱を凍結乾燥した。
【0062】
(Lactococcus lactisおよびEnterococcus faecalisの準備)
Lactococcus lactisまたはEnterococcus faecalisを、BHI培地にて培養した。得られた培養液1Lを、上記工程(2)~(5)と同様に処理した。
【0063】
(Lactobacillus sakeiの準備)
Lactobacillus sakeiを、MRS培地にて培養した。得られた培養液1Lを、上記工程(2)~(5)と同様に処理した。
【0064】
[2.タンパク質分解酵素]
下記表1に記載の酵素を使用した。
【0065】
【表1】
【0066】
[3.pH調整液]
6N HClおよび6N NaOHを混合してpH調整液を調製した。pH調整液のpHは、4.0、7.0および9.0の3種類を用意した。希HCl水溶液または希NaOH水溶液を水で稀釈してpH調整液を調製してもよい。
【0067】
〔方法〕
[1.タンパク質分解酵素による微生物の処理]
(1)20mgの微生物サンプルに、1mLのpH調整液を加えた。加えるpH調整液は、処理するタンパク質分解酵素の反応pHであるものとした。このようにして得られた微生物の20mg/mL懸濁液を、A液と称する。
(2)10mgのタンパク質分解酵素に、1mLのpH調整液を加えた。加えるpH調整液は、当該タンパク質分解酵素の反応pHであるものとした。このようにして得られたタンパク質分解酵素の10mg/mL溶液を、B液と称する。
(3)A液の全量に対して、10μLのB液を加えた。例えばビール酵母の場合、タンパク質含有量が約50%だから、タンパク質に対する酵素の重量比は約1%である。乳酸菌のタンパク質含有量は未測定であるが、酵母と同程度(約50%)であると仮定した。
(4)55℃にて16時間、微生物を加水分解させた。
(5)95℃にて15分間の熱処理を施し、酵素を失活させた。その後、サンプルを冷蔵した。
(6)サンプルを遠心分離した(15000×g、5分間)。上清を10μL採取し、DPP-4阻害活性の測定に用いた。
【0068】
[2.DPP-4阻害活性の測定]
abcam製のDipeptidyl peptidase IV (DPP4) Inhibitor Screening Assay Kit (ab133081)を測定用キットに使用した。このキットには、以下の材料が含まれている。
・DPP Assay Buffer
・DPP4 (human recombinant)
・DPP Substrate
・Sitagliptin Positive Control Inhibitor
【0069】
プレートリーダーには、SpectraMax i3(Molecular Devices製)を使用した。
【0070】
具体的な阻害活性の測定手順は、以下の通りである。
(1)96ウェルプレートに、サンプルウェル、バックグラウンドウェルおよび100%初期活性ウェルを設けた。それぞれのウェルには、以下の材料を注入した。
・サンプルウェル:30μLのDPP Assay Buffer、10μLのDPP4 (human recombinant)、および10μLのサンプル
・バックグラウンドウェル:40μLのDPP Assay Buffer、および10μLの溶媒(サンプルの稀釈に用いた溶媒と同じもの)
・100%初期活性ウェル:30μLのDPP Assay Buffer、10μLのDPP4 (human recombinant)、および10μLの溶媒(サンプルの稀釈に用いた溶媒と同じもの)
(2)各ウェルに50μLのDPP Substrateを加え、反応を開始させた。プレートにカバーをかけ、37℃にて30分間インキュベートした。
(3)プレートリーダーで各ウェルの蛍光強度を測定した。励起光は355nm、放射光は460nmであった。
【0071】
〔実施例1〕
ビール酵母、パン酵母、トルラ酵母または乳酸菌(Lactobacillus plantarum)を、表1に記載の13種類のタンパク質分解酵素で加水分解した。得られた分解物のDPP-4阻害活性を、図1に示す。ビール酵母分解物のDPP-4阻害活性については、表2により詳細に示す。対照実験として、未消化のビール酵母のDPP-4阻害活性も測定した。
【0072】
【表2】
【0073】
また、乳酸菌(Lactococcus lactis、Enterococcus faecalisおよびLactobacillus sakei)を、プロチンSD-AY10またはスミチームLP-G(それぞれ、表1に記載のB1またはN6)で加水分解した。得られた分解物のDPP-4阻害活性を、表3および図2に示す。対照実験として、未消化の乳酸菌のDPP-4阻害活性も測定した。
【0074】
【表3】
【0075】
[結果]
図1、2および表2、3から、様々な微生物の菌体を様々なタンパク質分解酵素で加水分解することにより、DPP-4阻害剤を製造できることが分かる。図1、2から、酵母をタンパク質分解酵素で加水分解した分解物は、DPP-4阻害活性が高い傾向にあることが読み取れる。
【0076】
〔実施例2〕
表1に記載のタンパク質分解酵素のうち、12種類のタンパク質分解酵素でビール酵母を加水分解した。
【0077】
得られた分解物に含まれているジペプチドの種類を分析および定量した。具体的な手順は以下の通りである。
(1)15000×g、5分間の条件で、サンプルを遠心分離した。
(2)上清を前処理した後、LC/MS/MS法により分析した。
【0078】
各分解物について、多い順に10位までのジペプチドを表4に記載した。このうち、後述する参考例において「高活性ジペプチド」に分類されるジペプチドがいくつ含まれているかも表4に記載した。
【0079】
また、各分解物に含まれているジペプチドの総量(μg/mL)も表4に記載した。
【0080】
【表4】
【0081】
[参考例]
市販の合成ジペプチドのDPP-4阻害活性を測定した。具体的には、200μg/mLのジペプチド溶液をサンプルとして、上述の方法でDPP-4阻害活性を測定した。DPP-4阻害活性が比較的高かった(70%以上)ジペプチドを、表5に示す。
【0082】
【表5】
【0083】
[結果]
表4より、実施例2で検討したタンパク質分解酵素の中でも、B1(プロチンSD-AY10)、N4(スミチームBNP)およびN6(スミチームLP-G)の分解物は、DPP-4阻害活性が高く、かつ、含有しているジペプチドの総量が多かった。このことから、ビール酵母の分解物をDPP-4阻害剤に応用する場合は、プロチンSD-AY10(バチルス・リチェニフォルミス由来のセリンプロテアーゼ)、スミチームBNP(バチルス・サブティリス由来の金属プロテアーゼ)、およびスミチームLP-G(アスペリギルス・オリゼ由来のセリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼおよび金属プロテアーゼの混合物)をタンパク質分解酵素に採用することが好ましいと示唆される。
【0084】
同じく表4より、ビール酵母のB1(プロチンSD-AY10)による分解物のジペプチドプロファイルにはDPP-4阻害活性が高いジペプチドが含まれていなかったにもかかわらず、高いDPP-4阻害活性を示した。このことは、当業者の予想から外れた意外な結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、例えば高血糖の予防および/または改善に利用されることが期待される。
図1
図2