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特開2023-69843斜行調整装置、ウェブ処理装置、及び多層フィルムの製造方法
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  • 特開-斜行調整装置、ウェブ処理装置、及び多層フィルムの製造方法 図1
  • 特開-斜行調整装置、ウェブ処理装置、及び多層フィルムの製造方法 図2
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  • 特開-斜行調整装置、ウェブ処理装置、及び多層フィルムの製造方法 図4
  • 特開-斜行調整装置、ウェブ処理装置、及び多層フィルムの製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069843
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】斜行調整装置、ウェブ処理装置、及び多層フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 23/32 20060101AFI20230511BHJP
   B65H 26/02 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B65H23/32
B65H26/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182012
(22)【出願日】2021-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 祐哉
【テーマコード(参考)】
3F104
3F105
【Fターム(参考)】
3F104AA03
3F104CA05
3F104CA34
3F105AA04
3F105CA14
3F105DA02
3F105DA29
(57)【要約】
【課題】長尺状のウェブの搬送方向の斜行を有効に抑制することができる斜行調整装置等を提供する。
【解決手段】搬送経路における長尺状のウェブの搬送方向の斜行を調整する、斜行調整装置であって、前記斜行調整装置は、浮上搬送装置、及び前記浮上搬送装置より下流側に設けられる搬送位置センサーを備え、前記浮上搬送装置は、前記搬送経路の前記ウェブの幅方向の一方の端部DSから他方の端部OSにわたり延長し、前記ウェブを非接触で支持する搬送曲面を有し、前記浮上搬送装置は、前記搬送曲面が前記搬送経路によりラップされるよう設けられ、前記浮上搬送装置は、前記端部DSにおける前記搬送経路の経路長LDS、及び前記端部OSにおける前記搬送経路の経路長LOSを、これらが相対的に異なる長さとなるよう調節しうる経路長調節機構を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送経路における長尺状のウェブの搬送方向の斜行を調整する、斜行調整装置であって、
前記斜行調整装置は、
浮上搬送装置、及び
前記浮上搬送装置より下流側に設けられる搬送位置センサー
を備え、
前記浮上搬送装置は、前記搬送経路の前記ウェブの幅方向の一方の端部DSから他方の端部OSにわたり延長し、前記ウェブを非接触で支持する搬送曲面を有し、
前記浮上搬送装置は、前記搬送曲面が前記搬送経路によりラップされるよう設けられ、
前記浮上搬送装置は、前記端部DSにおける前記搬送経路の経路長LDS、及び前記端部OSにおける前記搬送経路の経路長LOSを、これらが相対的に異なる長さとなるよう調節しうる経路長調節機構を備え、
前記搬送位置センサーは、前記ウェブの幅方向搬送位置を検出するセンサーであり、
前記経路長調節機構は、前記経路長LDS及び前記経路長LOSを、前記搬送位置センサーが前記端部DS側に傾く前記斜行を検出した際に前記経路長LOSが相対的に長くなるよう調節し、前記搬送位置センサーが前記端部OS側に傾く前記斜行を検出した際に前記経路長LDSが相対的に長くなるよう調節する機構である、
斜行調整装置。
【請求項2】
前記経路長調節機構が、前記搬送曲面のラップ軸方向の向きの、ラップ角方向への変位量を調節する機構であり、
前記変位量が前記端部OSにおいて相対的に大きくなることにより前記経路長LOSが相対的に長くなり、前記変位量が前記端部DSにおいて相対的に大きくなることにより前記経路長LDSが相対的に長くなる、請求項1に記載の斜行調整装置。
【請求項3】
前記浮上搬送装置が、前記搬送曲面として、多数の孔を有する多孔質の材料の表面を備え、前記孔から、気体を噴出しうるよう構成された装置である、請求項1又は2に記載の斜行調整装置。
【請求項4】
長尺状のウェブを、搬送経路において搬送し、前記搬送経路上において、前記ウェブをその斜め方向の収縮を生じさせる緩和処理に供する、ウェブ処理装置であって、
前記搬送経路上に位置する、前記緩和処理を行う緩和装置、及び
請求項1~3のいずれか1項に記載の斜行調整装置
を備える、ウェブ処理装置。
【請求項5】
前記斜行調整装置が、前記緩和装置の上流側に位置するか、下流側に位置するか、前記緩和装置の内部に位置する、請求項4に記載のウェブ処理装置。
【請求項6】
斜め延伸基材及びその表面上に設けられた塗工層を含む、多層フィルムの製造方法であって、
前記製造方法は、
前記斜め延伸基材の前記表面上に、塗工層形成用材料を塗布し、前記塗工層形成用材料の塗膜を形成する工程、
搬送経路において前記塗膜を硬化処理に供し、塗工層を形成する工程、及び
前記搬送経路における被搬送物の搬送方向の斜行を、請求項1~3のいずれか1項に記載の斜行調整装置により調整する、斜行調整工程
を含む、多層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送される長尺状のウェブの斜行を調整する斜行調整装置、ウェブを処理するウェブ処理装置、及びウェブの一態様である多層フィルムを製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム等の長尺状のウェブの処理に際しては、搬送経路の上流から下流へウェブを連続的に搬送し、搬送経路中に設けられた処理装置により各種の処理を行うことが行われる。長尺状のウェブの搬送は、一般的には、多数の回転可能なローラーの周面上でウェブを支持し、ウェブに、その長手方向に沿った移動のための力を加え、長手方向にウェブを移動させることにより行われる。
【0003】
長尺状のウェブに長手方向に沿った力を加えて移動させた場合、理論的には搬送経路においてウェブがその幅方向に移動することは無いが、実際の操作においては、様々な要因により、搬送経路上のウェブの幅方向の位置が移動しうる。そのような幅方向の位置の移動は、ウェブの処理に際して不所望であるので、かかる移動を修正する方法が、従来より提案されている(例えば特許文献1~3)。特許文献1~3等の従来技術において知られている修正方法を採用することにより、ウェブの蛇行、すなわちウェブの搬送の方向の精度が低いこと等に起因する、ウェブの幅方向の位置の揺動は、容易に修正することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-071834号公報
【特許文献2】特開2018-162121号公報
【特許文献3】特開2020-063150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
搬送経路の幅方向におけるウェブの移動の要因の一つとして、ウェブの処理により生じるウェブの変形が挙げられる。特に、ウェブが、斜め延伸されたフィルムであり、それに対して応力が緩和される処理を行った場合、応力の緩和によりフィルムが変形し、処理位置より下流の搬送経路において、フィルムの搬送方向が斜行する現象が生じる。かかる斜行により生じるウェブの幅方向の移動は、これまで知られている移動の修正方法では十分に修正することができない。
【0006】
このようにウェブが斜行する場合、搬送経路を斜行するウェブに沿って曲がった経路とすることは設備の構成上非常に困難であるため、斜行が発生したウェブを、斜行が発生しないウェブと同様に搬送経路において搬送することができ、効率的なウェブの処理を行うことができる、斜行の調整方法が求められる。
【0007】
従って、本発明の目的は、長尺状のウェブの搬送方向の斜行を有効に抑制することができる斜行調整装置;斜行を有効に抑制した状態でウェブの処理を行うことができるウェブ処理装置;及びウェブの一態様である多層フィルムを、斜行を有効に抑制した状態で製造することができる、多層フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述した課題を解決するべく検討した結果、浮上搬送装置を利用した特定の機構を採用することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明によれば、以下が提供される。
【0009】
〔1〕 搬送経路における長尺状のウェブの搬送方向の斜行を調整する、斜行調整装置であって、
前記斜行調整装置は、
浮上搬送装置、及び
前記浮上搬送装置より下流側に設けられる搬送位置センサー
を備え、
前記浮上搬送装置は、前記搬送経路の前記ウェブの幅方向の一方の端部DSから他方の端部OSにわたり延長し、前記ウェブを非接触で支持する搬送曲面を有し、
前記浮上搬送装置は、前記搬送曲面が前記搬送経路によりラップされるよう設けられ、
前記浮上搬送装置は、前記端部DSにおける前記搬送経路の経路長LDS、及び前記端部OSにおける前記搬送経路の経路長LOSを、これらが相対的に異なる長さとなるよう調節しうる経路長調節機構を備え、
前記搬送位置センサーは、前記ウェブの幅方向搬送位置を検出するセンサーであり、
前記経路長調節機構は、前記経路長LDS及び前記経路長LOSを、前記搬送位置センサーが前記端部DS側に傾く前記斜行を検出した際に前記経路長LOSが相対的に長くなるよう調節し、前記搬送位置センサーが前記端部OS側に傾く前記斜行を検出した際に前記経路長LDSが相対的に長くなるよう調節する機構である、
斜行調整装置。
〔2〕 前記経路長調節機構が、前記搬送曲面のラップ軸方向の向きの、ラップ角方向への変位量を調節する機構であり、
前記変位量が前記端部OSにおいて相対的に大きくなることにより前記経路長LOSが相対的に長くなり、前記変位量が前記端部DSにおいて相対的に大きくなることにより前記経路長LDSが相対的に長くなる、〔1〕に記載の斜行調整装置。
〔3〕 前記浮上搬送装置が、前記搬送曲面として、多数の孔を有する多孔質の材料の表面を備え、前記孔から、気体を噴出しうるよう構成された装置である、〔1〕又は〔2〕に記載の斜行調整装置。
〔4〕 長尺状のウェブを、搬送経路において搬送し、前記搬送経路上において、前記ウェブをその斜め方向の収縮を生じさせる緩和処理に供する、ウェブ処理装置であって、
前記搬送経路上に位置する、前記緩和処理を行う緩和装置、及び
〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の斜行調整装置
を備える、ウェブ処理装置。
〔5〕 前記斜行調整装置が、前記緩和装置の上流側に位置するか、下流側に位置するか、前記緩和装置の内部に位置する、〔4〕に記載のウェブ処理装置。
〔6〕 斜め延伸基材及びその表面上に設けられた塗工層を含む、多層フィルムの製造方法であって、
前記製造方法は、
前記斜め延伸基材の前記表面上に、塗工層形成用材料を塗布し、前記塗工層形成用材料の塗膜を形成する工程、
搬送経路において前記塗膜を硬化処理に供し、塗工層を形成する工程、及び
前記搬送経路における被搬送物の搬送方向の斜行を、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の斜行調整装置により調整する、斜行調整工程
を含む、多層フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長尺状のウェブの搬送方向の斜行を有効に抑制することができる斜行調整装置;斜行を有効に抑制した状態でウェブの処理を行うことができるウェブ処理装置;及びウェブの一態様である多層フィルムを、斜行を有効に抑制した状態で製造することができる、多層フィルムの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、斜め延伸された長尺状のフィルムに対して緩和処理を施した際に発生する斜行の一例を模式的に示す上面図である。
図2図2は、本発明の斜行調整装置の一例を示す側面図である。
図3図3は、本発明の斜行調整装置の一例を示す斜視図である。
図4図4は、図2図3に示す浮上搬送装置及び支持装置及びそれらの調節の一例を模式的に示す正面図である。
図5図5は、図2図4に示した斜行調整装置による、ウェブの斜行の調整の一例を模式的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態及び例示物等を示して本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0013】
本願において、本発明の方法を実施するための部材の構成要素の方向が「平行」とは、本発明の効果を著しく損なわない範囲内(例えば±5°)での誤差を含んでいてもよい。
【0014】
本願において、「長尺」のウェブとは、ウェブの幅に対して、5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。ウェブの幅に対する長さの割合の上限は、特に限定されないが、例えば100,000倍以下としうる。
【0015】
本願においては、説明の便宜のため、ウェブの幅方向の一方の端部を「端部DS」他方の端部を「端部OS」と規定する。実際の実施において、2の端部のどちらをどちらにするかは、特に規定されずこれらは任意に規定しうる。以下の説明においては、図1の図面左側(ウェブが水平方向に搬送される場合においてウェブの上流側から下流側を観察した場合における左側)の端部を端部DS、図面右側の端部を端部OSとして説明を行う。
【0016】
〔斜行〕
本発明の斜行調整装置は、搬送経路における長尺状のウェブの搬送方向の斜行を調整する装置である。ウェブの斜行とは、搬送経路のある位置より下流において、ウェブが、上流における搬送経路に対して、ウェブ幅方向のどちらか一方に傾いた非平行な方向に進む現象をいう。
【0017】
ウェブの斜行は、典型的には、ウェブが、ウェブの斜め方向の収縮を生じさせる緩和処理に供された際に発生する。より具体的な典型例を挙げると、斜行を生じるウェブは斜め延伸されたフィルムであり、斜行は、当該フィルムに対して、加熱処理又は加温処理等の、延伸により生じた応力が緩和する処理を施した際に発生する。
【0018】
斜め延伸されたフィルムの応力の緩和により発生する斜行の例を、図1を参照して説明する。図1は、斜め延伸された長尺状のフィルムに対して緩和処理を施した際に発生する斜行の一例を模式的に示す上面図である。
【0019】
図1の例において、長尺状のフィルム11は、矢印A11方向に延伸されたフィルムであり、その結果矢印A11方向に配向軸を有している。この例においてフィルム11は、水平な方向である矢印A1方向に沿って搬送され、加熱処理装置112に導かれる。加熱処理装置112においてフィルム11が加熱処理されると、延伸によりフィルム11内に生じていた応力が緩和され、その結果、フィルム11は矢印A11方向に収縮する。したがって、加熱処理の結果得られたフィルム12は、矢印A12方向に配向軸を有したフィルムとなり、フィルム12の矢印A12に沿った寸法は、フィルム11の矢印A11に沿った寸法より短くなる。
【0020】
かかる寸法の変化の結果、フィルム12は、加熱処理装置112により処理された位置を起点として斜行する。即ち、フィルム12は、加熱処理による変形の結果として、矢印A11方向に対して非平行な方向である矢印A12方向に進む。図1の例では、フィルム11の配向方向が、端部OS側が下流側に、端部DS側が上流側に傾いた方向であり、このようなフィルムの場合一般的には、斜行は端部DS側に傾く方向に発生する。このようなウェブの斜行は、従来の修正方法で修正可能であったウェブの蛇行に比べて、修正が困難である。
【0021】
〔斜行調整装置:概要〕
本発明の斜行調整装置は、浮上搬送装置、及び浮上搬送装置より下流側に設けられる搬送位置センサーを備える。
【0022】
図2及び図3は、本発明の斜行調整装置の一例を示す側面図及び斜視図である。図2及び図3において、斜行調整装置100は、浮上搬送装置120と、その下流側に設けられる搬送位置センサー181とを備える。斜行調整装置100は、任意の構成要素として、浮上搬送装置120の上流側及び下流側においてウェブ12を支持する、上流側支持ローラー131及び下流側支持ローラー132、並びに搬送位置センサー181に対向してウェブ12を支持する支持ローラー133をさらに備える。斜行調整装置100において、浮上搬送装置120は、支持装置140により支持される。図示の便宜のため、一部の構成要素は図3においては図示せず、図2のみにおいて図示している。
【0023】
本願において、搬送位置センサーは、ウェブの幅方向搬送位置を検出するセンサーである。ウェブ幅方向における搬送位置センサーの位置は特に限定されないが、通常の場合、ウェブの幅方向の位置はウェブの幅方向端部において検出することが最も容易であるので、搬送位置センサーは、端部DS、端部OS又はこれらの両方におけるウェブの幅方向端部を検出しうる位置に設けることが好ましい。
【0024】
図2図3の例において、搬送位置センサー181は、支持ローラー133上を走行するウェブ12の幅方向端部の位置を感知するセンサーである。具体的には、搬送位置センサー181は、矢印A181方向の観察を行うカメラ、及び当該カメラにより取得した画像を解析し、ウェブ12の端部の幅方向位置を求める解析装置(不図示)により構成しうる。かかる搬送位置センサー181により、ウェブ12の搬送位置が、所定の基準位置から端部DS(図2図3における図面奥側の端部)側、又は端部OS(図2図3における図面手前側の端部)側に変位しているか否か、及びその変位量を検出することができる。
【0025】
本発明において、浮上搬送装置は、搬送経路のウェブの幅方向の一方の端部DSから他方の端部OSにわたり延長し、ウェブを非接触で支持する搬送曲面を有する。浮上搬送装置は、その搬送曲面が搬送経路によりラップされるよう設けられる。図2及び図3の例では、浮上搬送装置120は、ウェブ12の端部DSから端部OSにわたり延長する。浮上搬送装置120の搬送曲面121は、多数の孔(不図示)を有する多孔質の材料の表面を備える。浮上搬送装置120は、当該孔から、気体を噴出しうるよう構成され、それにより、搬送曲面121はウェブ12を非接触で支持する。
【0026】
浮上搬送装置の例としては、その搬送曲面が、多孔質材料で形成されたものが好適に用いられる。
多孔質材料の例としては、ポーラスカーボン、ポーラスアルミナ、ポーラスセラミック、及び多孔質を有する金属焼結材が挙げられる。浮上搬送装置が、多孔質材料で形成された搬送曲面を有する場合、浮上搬送装置に圧気装置を接続して気体を浮上搬送装置内部へ圧送すると、搬送曲面における多孔質材料の表面の孔から搬送曲面の外部へ気体が噴出し、搬送曲面はウェブを非接触で支持する。
【0027】
搬送曲面を多孔質材料で形成した場合、搬送曲面に、多数の微小な孔を、容易に設けることができる。したがって、スリットノズルやパンチング穴のような微小な孔の形成が比較的困難な材料に比べて、小さい流速及び小さい脈動での気体の圧送によるフィルムの浮上が可能となる。したがって、安定した浮上状態の維持を容易に行うことが可能となる。
【0028】
搬送曲面上における孔の平均孔径は好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは3.0μm以下である。孔径が大きすぎる場合、一部の孔がふさがれて、他の孔から気体の漏れが生じることがあるが、孔径を上限値以下とすると、多孔質材料内の圧力損失が大きいので、一部の孔がふさがれたとしても、気体の漏れを防止することができる。
【0029】
浮上搬送装置は、重力及び/又は張力により下向きに付勢されたウェブに対して、気体により上向きの力を加えることによりウェブを浮上させ、それによりウェブを非接触で支持しうるが、浮上搬送装置はこれに限られず、例えば図2及び図3の例に示した通り、張力により上向きに付勢されたウェブに対して、浮上搬送装置からの気体により下向きの力を加え、それにより、浮上搬送装置の下側において、フィルムが非接触の状態で支持しうるものともしうる。
【0030】
浮上搬送装置120の搬送曲面121は、部分円筒面状の曲面である。浮上搬送装置が、円筒又は楕円筒の部分の形状を有する曲面等の柱面である搬送曲面を有することにより、搬送曲面が搬送経路により、あるラップ角をもってラップされる形状とすることができる。当該柱面上の直線方向は、搬送曲面をラップするウェブ搬送経路上のウェブ面と平行な方向となり得る。本願においては、この軸の方向をラップ軸方向という。
【0031】
図2図3の例では、浮上搬送装置120の搬送曲面121は、ウェブ12により規定される搬送経路により、ラップ角θwにてラップされている。円滑な浮上搬送及び搬送経路長調整を達成する観点から、ラップ角θwは、好ましくは180°又はそれ未満の角度としうる。浮上搬送装置120のラップ軸方向は、搬送曲面の軸である線120AXにより示す。図2図3の例では、浮上搬送装置として1本の浮上搬送装置120のみを設けているが、本発明はこれに限られず、複数の浮上搬送装置が並列して設けられていてもよい。その場合、複数の浮上搬送装置の合計のラップ角が上に述べた範囲内であることが好ましい。
【0032】
本発明において、浮上搬送装置は、端部DSにおける搬送経路の経路長LDS、及び端部OSにおける搬送経路の経路長LOSを、これらが相対的に異なる長さとなるよう調節しうる経路長調節機構を備える。
【0033】
経路長LPS及び経路長LOSの相対的な相違は、具体的には、浮上搬送装置による調整で長さが変動する搬送経路部分の、端部DS側の経路長及び端部OS側の経路長を対比することにより把握しうる。図2図3の例では、上流側支持ローラー131のラップ終了位置P131から、下流側支持ローラー132のラップ開始位置P132までの、部分的な搬送経路の長さを、端部DS側と端部OS側とで対比することにより、経路長LPS及び経路長LOSの相対的な相違を把握しうる。
【0034】
経路長調節機構は、浮上搬送装置自体、又は浮上搬送装置を支持する支持装置により構成しうる。図2図3の例では、経路長調節機構は、浮上搬送装置120を支持する支持装置140により構成される。支持装置140は、斜行調整装置100における浮上搬送装置120の位置及び角度を様々な状態に調整可能な状態で、浮上搬送装置120を支持する装置である。
【0035】
支持装置140を操作して、搬送曲面121のラップ軸120AXの向きを変位させることにより、経路長LPS及び経路長LOSの相対的な相違を調節することができる。ラップ軸120AXの向きの変位は、ラップ角方向への変位としうる。ここでいうラップ角方向とは、ラップ角を二等分する方向又はそれに近い方向であり、図2図3においてラップ角を二等分する方向は矢印A121により示される方向である。ラップ角θwにおけるラップ角方向は、ラップ角を二等分する方向を中心とし、上流側の角方向及び下流側の角方向のうちの一方を正、他方を負として、好ましくは-(θw/2)超(θw/2)未満の範囲、より好ましくは-(θw/4)以上(θw/4以下)の範囲、さらにより好ましくは-(θw/8)以上(θw/8以下)の範囲である。
【0036】
かかるラップ角方向へのラップ軸の向きの変位量を、端部OSにおいて相対的に大きくなるよう調節することにより経路長LOSが相対的に長くなり、端部DSにおいて相対的に大きくなるよう調節することにより前記経路長LDSが相対的に長くなる。かかる調節の具体例を図4を参照して説明する。図4は、図2図3に示す浮上搬送装置及び支持装置及びそれらの調節の一例を模式的に示す正面図である。
【0037】
図4においては、図2図3に示す浮上搬送装置120及び支持装置140を、上流側から観察した状態を示しており、図面左側が端部DS側、右側が端部OS側に相当する。この例では、浮上搬送装置120の中央位置120Cを中心として、支持装置140を、矢印A140方向に回動させる。かかる回動により、浮上搬送装置120は中央位置120Cを中心として、破線で示す位置に変位し、ラップ軸方向は、線120AXで示す方向から、線129AXで示す方向に変化する。その結果、端部OS側のラップ軸のラップ角方向への変位量が相対的に大きくなり、端部DS側のラップ軸のラップ角方向への変位量が相対的に小さくなる。
【0038】
このような経路長の調節は、ラップ軸を傾斜させる部材として、浮上搬送装置を用いることにより実現しうる。仮に、図2図4に示す構成において、浮上搬送装置の代わりに、ローラー等の、ウェブ表面との接触を伴う支持装置を設けて、このようなラップ軸の傾斜を行った場合、ウェブと支持装置表面との間の擦れが必然的に生じるので、支持装置上のウェブの横行が発生してウェブが脱線したり、ウェブ表面に擦り傷が発生したりする等の不具合が生じ、経路長の調節を達成することができない。
【0039】
本発明における経路長調節機構は、経路長LDS及び経路長LOSを、搬送位置センサーが検出した斜行に対応して調節する。このような、搬送位置センサーにより検出した情報に対応した調節は、例えば、搬送位置センサーにより取得した画像等の情報を元にウェブの幅方向位置を求める解析装置と、解析装置により求められた幅方向位置に対応して経路長調節機構を操作する制御装置を設け、これらを操作することにより達成しうる。又はかかる制御装置の代わりに、解析装置により求められた幅方向位置を元に操作者が経路長調節機構を手動で操作することによっても、かかる調節を達成しうる。
【0040】
経路長調節機構による調節は、端部DS側に傾く斜行を検出した際に経路長LOSが相対的に長くなるよう行い、端部OS側に傾く斜行を検出した際に経路長LDSが相対的に長くなるよう行う調節である。かかる調節を、図5を参照して説明する。図5は、図2図4に示した斜行調整装置による、ウェブの斜行の調整の一例を模式的に示す上面図である。
【0041】
図5において、ウェブ12は、端部DS側へ斜行し、それにより矢印A51方向に進行している。斜行するウェブ12は、浮上搬送装置120、搬送位置センサー(図5において不図示)及びその他の構成要素を備える斜行調整装置100を通して、下流(図5における図面上側)に搬送される。斜行の調整を行わない状態では、ウェブ12は、斜行調整装置100の下流において、矢印A51方向と平行な方向である矢印A52で示される方向に進行する。
【0042】
この場合、斜行調整装置100における浮上搬送装置120のラップ軸方向の向きを、図4に示した線120AX方向から、129AX方向に変位させことにより、端部OS側のラップ軸のラップ角方向への変位量が相対的に大きくなり、端部DS側のラップ軸のラップ角方向への変位量が相対的に小さくなり、経路長LOSが相対的に長くなるような調節が達成される。
【0043】
そのような調整を行い、且つ変位の度合いを、搬送位置センサーにより検出される斜行の度合いが小さくなるよう調整することにより、斜行調整装置100の下流におけるウェブ12の進行方向を、斜行の無い方向である矢印A53で示される方向に変化させることができる。かかる調整により、斜行調整装置100による斜行の調整を達成することができる。
【0044】
〔ウェブ処理装置〕
本発明のウェブ処理装置は、長尺状のウェブを、搬送経路において搬送し、搬送経路上において、ウェブをその斜め方向の収縮を生じさせる緩和処理に供する、ウェブ処理装置である。
【0045】
ここで、緩和処理とは、ウェブに対して行われる処理であって、当該処理を行うことによりウェブ内部応力の緩和が発生する処理をいう。緩和処理の具体例としては、加熱処理、加湿処理、及びこれらの組み合わせが挙げられる。通常、かかる緩和自体は、加熱処理、加湿処理等の所望の処理に伴い意図せず不所望に発生するものである。ただし緩和処理はこれに限られず、意図的に発生させたものであってもよい。
【0046】
斜め方向の収縮を生じさせる緩和処理は、典型的には、ウェブが予め斜め延伸されたフィルムであり、それに対して施す加熱処理及び加湿処理等の緩和処理である。加湿処理の例としては、膜の形成等のために基材に液体を塗布する処理が挙げられる。また加熱処理の例としては、塗布した液体の膜を加熱して固体とする処理が挙げられる。
【0047】
本発明のウェブ処理装置は、搬送経路上に位置する、緩和処理を行う緩和装置、及び前記本発明の斜行調整装置を備える。緩和装置と組み合わせて斜行調整装置を備えることにより、緩和処理により発生した斜行を、斜行調整装置により調整することができ、その結果、斜行が発生しないウェブと同様に、斜行しない搬送経路においてウェブを搬送することができ、効率的なウェブの処理が可能となる。ウェブ処理装置において、緩和装置は一つのみ設けられてもよく、複数設けられてもよい。斜行調整装置も、一つのみ設けられてもよく複数設けられてもよい。
【0048】
本発明のウェブ処理装置において斜行調整装置は、典型的には緩和装置の下流側の近傍に位置し、緩和装置により発生した斜行を、その下流において調整する。ただし本発明はこれに限られず、斜行調整装置は緩和装置の上流側に位置していてもよい。さらには、例えば緩和装置が複数存在する場合、かかる複数の緩和装置の間に斜行調整装置を設け、ある緩和装置の下流側であって且つ別の緩和装置の上流側に斜行装置が存在する配置としてもよい。
【0049】
また、緩和装置の内部の搬送経路上に斜行調整装置を設け、それにより斜行調整装置が緩和装置の内部に存在する配置としてもよい。このような配置は、緩和装置が、加熱用のオーブンのように、長い搬送経路にわたって設けられる内部空洞を備えた装置である場合特に有用である。
【0050】
〔多層フィルムの製造方法〕
上に述べた本発明の斜行調整装置を用いたウェブの斜行の調整は、斜め延伸基材及びその表面上に設けられた塗工層を含む、多層フィルムの製造方法に利用することができる。これを以下において、本発明の多層フィルムの製造方法として説明する。
【0051】
本発明の多層フィルムの製造方法は、下記工程(I)~(III)を含む。
工程(I):斜め延伸基材の表面上に、塗工層形成用材料を塗布し、塗工層形成用材料の塗膜を形成する工程。
工程(II):搬送経路において塗膜を硬化処理に供し、塗工層を形成する工程。
工程(III):搬送経路における被搬送物の搬送方向の斜行を、前記本発明の斜行調整装置により調整する、斜行調整工程。
【0052】
工程(I)に供する斜め延伸基材は、予め斜め延伸が施されたフィルムである。かかるフィルムは、工程(I)の上流において連続的に製造して、工程(I)に供給しうる。あるいは、斜め延伸されたフィルムを調製しフィルムロールとしたものを予め用意し、工程(I)の上流において当該フィルムロールからフィルムを巻き出してもよい。
【0053】
工程(I)で用いる塗工層形成用材料は、通常は液体であり、その塗膜を工程(II)で硬化することにより、塗膜の硬化物である塗工層が得られる。工程(I)及び(II)は、そのいずれか又は両方が、上に述べた緩和処理に該当し得るため、斜め延伸基材の斜行をもたらしうる。
【0054】
工程(III)では、搬送経路における被搬送物の搬送方向の斜行を、斜行調整装置により調整する。ここでいう被搬送物は、工程(I)に供される前の斜め延伸基材、工程(I)に供された後工程(II)に供される前の、塗膜を伴う斜め延伸基材、工程(II)に供された後の塗工層を伴う斜め延伸基材、又はこれらの2以上としうる。これらを斜行調整の対象であるウェブとして、工程(III)を行うことにより、斜行が発生しないウェブと同様に、斜行しない搬送経路において被搬送物を搬送することができ、効率的な製造が可能となる。
【0055】
〔材料の説明〕
本発明の製造方法の工程(I)に供給するフィルムとしては、各種の重合体を含む樹脂のフィルムを用いうる。かかる重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリビニルアルコール;ポリカーボネート;ポリアリレート;セルロースエステル;ポリエーテルスルホン;ポリスルホン;ポリアリルサルホン;ポリ塩化ビニル;脂環式構造含有重合体;アクリル重合体;ポリスチレンなどのスチレン系重合体;などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0056】
フィルムを構成する樹脂としては、脂環式構造含有重合体を含む樹脂(以下、適宜「脂環式構造含有重合体樹脂」という。)、アクリル重合体を含む樹脂、およびポリカーボネートを含む樹脂が好ましく、透明性、低吸湿性、寸法安定性および軽量性などに優れ、光学フィルムとしての用途に適していることから、脂環式構造含有重合体樹脂が特に好ましい。フィルムを構成する樹脂の具体例としては、特許第5845895号公報に記載のものが挙げられる。
【0057】
本発明の製造方法の工程(II)において被覆層形成のために使用される塗工液の例としては、ウレタン樹脂層を形成するためのポリウレタン水分散体が挙げられる。ポリウレタン水分散液の具体例としては、特許第5845895号公報に記載のものが挙げられる。
【0058】
〔多層フィルムの用途〕
本発明の製造方法で得られる多層フィルムは、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表示装置の構成要素として使用しうる。特に、斜め延伸された基材は、斜め方向に位相差を有する構成要素としうるため、位相差フィルムとしての用途に用いた場合、高い歩留まりで所望の方向に遅相軸を有する位相差フィルムとして、有用に用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
11:長尺状のフィルム
12:ウェブ(フィルム)
100:斜行調整装置
112:加熱処理装置
120:浮上搬送装置
120AX:ラップ軸方向を示す線
120C:浮上搬送装置の中央位置
121:搬送曲面
129AX:ラップ軸方向を示す線
131:上流側支持ローラー
132:下流側支持ローラー
133:支持ローラー
140:支持装置
181:搬送位置センサー
A1:搬送方向
A11:配向軸方向
A121:ラップ角を二等分する方向
A140:支持装置を回動させる方向
A51:ウェブの進行方向
A52:ウェブの進行方向
A53:ウェブの進行方向
DS:端部DS側
OS:端部OS側
θw:ラップ角
図1
図2
図3
図4
図5