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特開2023-69853液滴吐出装置、パラメータ算出方法、基板処理システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069853
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】液滴吐出装置、パラメータ算出方法、基板処理システム
(51)【国際特許分類】
   B05C 11/10 20060101AFI20230511BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20230511BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20230511BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B05C11/10
B05C5/00 101
B05C11/00
B41J2/165 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182025
(22)【出願日】2021-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆央
(72)【発明者】
【氏名】数井 誠人
【テーマコード(参考)】
2C056
4F041
4F042
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EA16
2C056EB04
2C056EB08
2C056EB36
2C056EB38
2C056EB40
2C056EB46
2C056EC04
2C056EC23
2C056EC36
2C056EC39
2C056FA13
2C056FA15
2C056FB05
2C056FB08
2C056HA58
4F041AA02
4F041AA05
4F041AB01
4F041BA01
4F041BA10
4F041BA13
4F042AA02
4F042AA06
4F042AB00
4F042BA08
4F042BA10
4F042BA12
4F042BA19
4F042BA27
4F042CC04
4F042CC08
4F042DB17
4F042DF10
4F042DF25
4F042DH02
4F042DH09
(57)【要約】
【課題】ノズルの異常を早期に検出する技術を提供すること。
【解決手段】本開示は、ノズルから液滴を吐出する液滴吐出装置であって、液滴の吐出状態に関する情報を取得する取得部と、前記液滴の吐出状態に関する情報の時系列データを算出する時系列データ算出部と、前記時系列データに基づいて、ノズルのクリーニングに関するパラメータを算出する算出部と、前記パラメータに基づいてクリーニングのタイミングを判断する判断部と、を有する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液滴を吐出する液滴吐出装置であって、
液滴の吐出状態に関する情報を取得する取得部と、
前記液滴の吐出状態に関する情報の時系列データを算出する時系列データ算出部と、
前記時系列データに基づいて、前記ノズルのクリーニングに関するパラメータを算出する算出部と、
前記パラメータに基づいて前記ノズルのクリーニングのタイミングを判断する判断部と、
を有する液滴吐出装置。
【請求項2】
前記時系列データに基づいて、ノズルの異常モードを判断する異常モード判断部と、
前記異常モードに応じて前記ノズルのクリーニング種類を判断するクリーニング種類判断部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記異常モード判断部は、前記ノズルの異常が急に生じる異常モードと、前記ノズルの異常が徐々に生じる異常モードと、を判断し、
前記異常モードに応じて前記クリーニングの種類を判断することを特徴とする請求項2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記時系列データをコレログラムで表し、
前記算出部は、時系列データの自己相関の大きさに応じて前記パラメータを算出することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記液滴の吐出状態に関する情報は、液滴の着弾位置であり、
前記算出部は、前記液滴の着弾位置の時系列データから算出したコレログラムに基づいて、前記パラメータを算出することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記液滴の吐出状態に関する情報は、液滴飛翔画像であり、
前記算出部は、前記液滴飛翔画像から検出された特徴量のコレログラムを算出し、前記コレログラムに基づいて前記パラメータを算出することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記特徴量は、前記液滴が飛翔する角度、液滴サイズ、ノズルプレートの汚れ、又は、着弾時間のノズルごとずれであり、
前記算出部は、前記液滴が飛翔する角度、液滴サイズ、ノズルプレートの汚れ、又は、着弾時間のノズルごとずれ、から算出したコレログラムに基づいて、前記パラメータを算出することを特徴とする請求項6に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記ノズルが模式的に配置された画面を表示する表示部を有し、
前記表示部は、前記パラメータに応じた態様で前記ノズルを表示することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記判断部は、前記パラメータをしきい値と比較して、前記ノズルの異常の予兆を検出することを特徴とする請求項4~7のいずれか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項10】
前記異常モード判断部は、クリーニングの吐出強度、クリーニングの吐出回数、及び、クリーニングの吐出時間のいずれか、又は、これらの2つ以上を組み合わせて前記クリーニングの種類を決定することを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出装置。
【請求項11】
前記異常モード判断部は、前記パラメータと異常モードに、クリーニング種類を対応付けたテーブルに基づきクリーニングの種類を決定することを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出装置。
【請求項12】
ノズルから液滴を吐出する液滴吐出装置が行うパラメータ算出方法であって、
液滴の吐出状態に関する情報を取得する工程と、
前記液滴の吐出状態に関する情報に基づいて、ノズルのクリーニングに関するパラメータを算出する工程と、
前記パラメータに基づいてクリーニングのタイミングを判断する工程と、
を有するパラメータ算出方法。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載の液滴吐出装置を有する基板処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液滴吐出装置、パラメータ算出方法、及び、基板処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出することで画像を形成したり、二次元又は三次元的な構造を形成したりする液滴吐出装置が知られている。液滴吐出装置は、ノズルから液滴を繰り返し吐出して対象物を形成するが、このノズルから吐出される液滴の着弾位置など、種々の異常が生じる場合がある(以下、単にノズルの異常という)。
【0003】
ノズルの異常を検出する技術が考案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、液滴を吐出するノズルが配置されたヘッドと、ノズルの吐出異常を検出する検出部と、吐出異常が検出された異常ノズルのヘッド内の位置情報に基づいて、異常ノズルのメンテナンスが必要か否かを判断する液滴吐出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-177423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、ノズルの異常を早期に検出する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、ノズルから液滴を吐出する液滴吐出装置であって、液滴の吐出状態に関する情報を取得する取得部と、前記液滴の吐出状態に関する情報の時系列データを算出する時系列データ算出部と、前記時系列データに基づいて、ノズルのクリーニングに関するパラメータを算出する算出部と、前記パラメータに基づいてクリーニングのタイミングを判断する判断部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ノズルの異常を早期に検出する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態による有機ELディスプレイの要部を示す断面図である。
図2】一実施形態による基板処理システムを示す平面図である。
図3】一実施形態による制御装置の構成図である。
図4】一実施形態による塗布装置を示す平面図である。
図5】左側の基板移動部による基板のヨーイング時の状態を示す側面図である。
図6】一実施形態による吐出ヘッドの配列を示す平面図である。
図7】液滴飛翔画像の撮像方法の一例を示す図である。
図8】制御装置が有するクリーニングに関する機能を説明する一例の機能ブロック図である。
図9】正常ノズルが吐出する液滴の着弾位置から求めた一例の時系列データを示す図である。
図10】異常ノズルの着弾位置から求めた一例の時系列データを示す図である。
図11】着弾位置の時間的変化を示す一例のグラフを示す図である。
図12】液滴飛翔画像の同じノズルが吐出するそれぞれ別の液滴を撮像した一例の液滴飛翔画像を示す図である。
図13】液滴飛翔画像から検出される特徴量である曲がりを用いた一例の時系列データを示す図である。
図14】いくつかのノズルが吐出した一例の液滴飛翔画像を示す図である。
図15】液滴スポットを含む一例の液滴飛翔画像を示す図である。
図16】ノズルプレートの汚れを含む一例の液滴飛翔画像を示す図である。
図17】ノズル抜けを含む一例の液滴飛翔画像を示す図である。
図18】着弾時間のノズルごとのずれを説明する一例の液滴飛翔画像を示す図である。
図19】時系列データを用いた異常モードの一例の判断方法を説明する図である。
図20】クラスタに分類できたか否かの一例の判断方法を説明する図である。
図21】制御装置がノズルの異常を監視する手順を示す一例のフローチャート図である。
図22】制御装置がノズルの異常を監視する手順を示す一例のフローチャート図である。
図23】制御装置に接続された操作パネルに表示される一例のノズル監視画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の限定的でない例示の実施形態について説明する。本開示を実施するための形態の一例として、ノズルのクリーニングに関するパラメータ算出方法について図面を参照しながら説明する。
【0010】
〔異常度の算出方法の概略〕
本開示では、液滴を吐出するノズルの異常度を算出し、この異常度を出力(ディスプレイに表示)したり、クリーニング実行の判断に使用したりする。異常度は、以下の2つのデータから算出される。
(i) 着弾位置の時系列データ
(ii) 液滴飛翔画像(飛翔する液滴を撮像した画像)から取得した特徴量の時系列データ
時系列データに着目することで、異常を早期に(予兆の段階で)検出しやすくなる。また、人間が判断するよりも早期に異常を検出できる。
【0011】
また、液滴吐出装置は、着弾位置の時系列データや液滴飛翔画像の時系列データ、又は、液滴飛翔画像の画像解析により、異常モードを区分できる。異常モードによって、適切なクリーニングを実行できる。
【0012】
したがって、本開示の液滴吐出装置は、異常度に基づいてクリーニングのタイミングを決定することで、クリーニング頻度を最適化できる。また、クリーニング頻度の最適化と異常モードに応じたクリーニングの実行により、クリーニングで消費される材料の量を抑制できる。例えば、有機ELを用いた液晶の基板などに使用される材料は高価であるが、クリーニングで消費される材料の量を極力少なくできる。また、異常の予兆を検出できれば、液滴吐出装置の工程のスケジューリングも容易になり、異常が生じる前にクリーニングが可能なので、対象物の形成のやり直しなども低減できる。
【0013】
[用語について]
ノズルの異常とは、ノズルから吐出される液滴に正常な状態とは異なる何らかの異常があることをいう。
【0014】
ノズルのクリーニングに関するパラメータとは、クリーニングを実行するか否か、又は、いつ頃、クリーニングを実行するかの判断に使用される情報である。本実施形態では、異常度という用語で説明される。
【0015】
液滴の吐出状態に関する情報は、このパラメータを算出できる情報であればよい。本実施形態では、着弾位置及び液滴飛翔画像の少なくとも一方を例にして説明する。
【0016】
[液滴吐出装置の構成]
装置の構成を説明するに当たって、液滴吐出装置が作成する有機ELディスプレイの構成について説明する。
【0017】
図1は、一実施形態による有機ELディスプレイの要部を示す断面図である。基板10としては、ガラス基板や樹脂基板などの透明基板が用いられる。基板10上には、TFT層12が形成されている。TFT層12上には、TFT層12によって形成される段差を平坦化する平坦化層18が形成されている。
【0018】
平坦化層18は、絶縁性を有している。平坦化層18を貫通するコンタクトホールには、コンタクトプラグ19が形成されている。コンタクトプラグ19は、平坦化層18の平坦面に形成される画素電極としての陽極21と、TFT層12とを電気的に接続する。コンタクトプラグ19は、陽極21と同じ材料で、同時に形成されてよい。
【0019】
有機発光ダイオード13は、平坦化層18の平坦面上に形成される。有機発光ダイオード13は、画素電極としての陽極21と、画素電極を基準として基板10とは反対側に設けられる対向電極としての陰極22と、陽極21と陰極22との間に形成される有機層23とを有する。TFT層12を作動させることで、陽極21と陰極22との間に電圧が印加され、有機層23が発光する。
【0020】
陽極21は、例えばITO(Indium Tin Oxide)などによって形成され、有機層23からの光を透過する。陽極21を透過した光は、基板10を透過し、外部に取り出される。陽極21は、単位回路11毎に設けられる。
【0021】
陰極22は、例えばアルミニウムなどによって形成され、有機層23からの光を有機層23に向けて反射する。陰極22で反射した光は、有機層23や陽極21、基板10を透過し、外部に取り出される。陰極22は、複数の単位回路11に共通のものである。
【0022】
有機層23は、例えば、陽極21側から陰極22側に向けて、正孔注入層24、正孔輸送層25、発光層26、電子輸送層27及び電子注入層28をこの順で有する。陽極21と陰極22との間に電圧がかかると、陽極21から正孔注入層24に正孔が注入されると共に、陰極22から電子注入層28に電子が注入される。正孔注入層24に注入された正孔は、正孔輸送層25によって発光層26へ輸送される。また、電子注入層28に注入された電子は、電子輸送層27によって発光層26へ輸送される。そうして、発光層26内で正孔と電子が再結合して、発光層26の発光材料が励起され、発光層26が発光する。
【0023】
発光層26として、例えば、赤色発光層、緑色発光層、及び青色発光層が形成される。赤色発光層は赤色に発光する赤色発光材料で形成され、緑色発光層は緑色に発光する緑色発光材料で形成され、青色発光層は青色に発光する青色発光材料で形成される。赤色発光層、緑色発光層、及び青色発光層は、バンク30の開口部31に形成される。
【0024】
バンク30は、赤色発光層の材料液、緑色発光層の材料液、及び青色発光層の材料液を隔てることで、これらの材料液の混合を防止する。バンク30は、絶縁性を有しており、平坦化層18を貫通するコンタクトホールを埋める。
【0025】
図2は、一実施形態による基板処理システムを示す平面図である。基板処理システム100は、陽極21上に正孔注入層24、正孔輸送層25及び発光層26を形成する。基板処理システム100は、搬入ステーション110と、処理ステーション120と、搬出ステーション130と、制御装置140とを有する。
【0026】
搬入ステーション110は、複数の基板10を収容するカセットCを外部から搬入させ、カセットCから複数の基板10を順次取り出す。各基板10には、予めTFT層12や平坦化層18、陽極21、バンク30などが形成されている。
【0027】
搬入ステーション110は、カセットCを載置するカセット載置台111と、カセット載置台111と処理ステーション120との間に設けられる搬送路112と、搬送路112に設けられる基板搬送体113とを備える。基板搬送体113は、カセット載置台111に載置されたカセットCと処理ステーション120との間で基板10を搬送する。
【0028】
処理ステーション120は、陽極21上に、正孔注入層24、正孔輸送層25及び発光層26を形成する。処理ステーション120は、正孔注入層24を形成する正孔注入層形成ブロック121と、正孔輸送層25を形成する正孔輸送層形成ブロック122と、発光層26を形成する発光層形成ブロック123を備える。
【0029】
正孔注入層形成ブロック121は、正孔注入層24の材料液を陽極21上に塗布して塗布層を形成し、その塗布層を乾燥、焼成することで、正孔注入層24を形成する。正孔注入層24の材料液は、有機材料及び溶剤を含む。その有機材料は、ポリマー、モノマーのいずれでもよい。モノマーの場合、焼成によって重合され、ポリマーとされてもよい。
【0030】
正孔注入層形成ブロック121は、塗布装置121aと、バッファ装置121bと、減圧乾燥装置121cと、熱処理装置121dと、温度調節装置121eとを備える。塗布装置121aは、正孔注入層24の材料液の液滴を、バンク30の開口部31に向けて吐出する。バッファ装置121bは、処理待ちの基板10を一時的に収容する。減圧乾燥装置121cは、塗布装置121aで塗布された塗布層を減圧乾燥し、塗布層に含まれる溶剤を除去する。熱処理装置121dは、減圧乾燥装置121cで乾燥された塗布層を加熱処理する。温度調節装置121eは、熱処理装置121dで加熱処理された基板10の温度を、所定の温度、例えば常温に調節する。
【0031】
塗布装置121a、バッファ装置121b、熱処理装置121d、及び温度調節装置121eは、内部が大気雰囲気に維持される。減圧乾燥装置121cは、内部の雰囲気を、大気雰囲気と減圧雰囲気とに切り替える。
【0032】
なお、正孔注入層形成ブロック121において、塗布装置121a、バッファ装置121b、減圧乾燥装置121c、熱処理装置121d及び温度調節装置121eの、配置や個数、内部の雰囲気は、任意に選択可能である。
【0033】
また、正孔注入層形成ブロック121は、基板搬送装置CR1~CR3と、受渡装置TR1~TR3とを備える。基板搬送装置CR1~CR3は、それぞれ隣接する各装置へ基板10を搬送する。例えば、基板搬送装置CR1は、隣接する塗布装置121a及びバッファ装置121bへ基板10を搬送する。基板搬送装置CR2は、隣接する減圧乾燥装置121cへ基板10を搬送する。基板搬送装置CR3は、隣接する熱処理装置121d及び温度調節装置121eへ基板10を搬送する。受渡装置TR1~TR3は、それぞれ順に、搬入ステーション110と基板搬送装置CR1の間、基板搬送装置CR1と基板搬送装置CR2の間、基板搬送装置CR2と基板搬送装置CR3の間に設けられ、これらの間で基板10を中継する。基板搬送装置CR1~CR3や受渡装置TR1~TR3は、内部が大気雰囲気に維持される。
【0034】
正孔注入層形成ブロック121の基板搬送装置CR3と、正孔輸送層形成ブロック122の基板搬送装置CR4との間には、これらの間で基板10を中継する受渡装置TR4が設けられる。受渡装置TR4は、内部が大気雰囲気に維持される。
【0035】
正孔輸送層形成ブロック122は、正孔輸送層25の材料液を正孔注入層24上に塗布して塗布層を形成し、その塗布層を乾燥、焼成することで、正孔輸送層25を形成する。正孔輸送層25の材料液は、有機材料及び溶剤を含む。その有機材料は、ポリマー、モノマーのいずれでもよい。モノマーの場合、焼成によって重合され、ポリマーとされてもよい。
【0036】
正孔輸送層形成ブロック122は、塗布装置122aと、バッファ装置122bと、減圧乾燥装置122cと、熱処理装置122dと、温度調節装置122eとを備える。塗布装置122aは、正孔輸送層25の材料液の液滴を、バンク30の開口部31に向けて吐出する。バッファ装置122bは、処理待ちの基板10を一時的に収容する。減圧乾燥装置122cは、塗布装置122aで塗布された塗布層を減圧乾燥し、塗布層に含まれる溶剤を除去する。熱処理装置122dは、減圧乾燥装置122cで乾燥された塗布層を加熱処理する。温度調節装置122eは、熱処理装置122dで加熱処理された基板10の温度を、所定の温度、例えば常温に調節する。
【0037】
塗布装置122a及びバッファ装置122bは、内部が大気雰囲気に維持される。一方、熱処理装置122d及び温度調節装置122eは、正孔輸送層25の有機材料の劣化を抑制するため、内部が低酸素かつ低露点の雰囲気に維持される。減圧乾燥装置122cは、内部の雰囲気を、低酸素かつ低露点の雰囲気と、減圧雰囲気とに切り替える。
【0038】
ここで、低酸素の雰囲気とは、大気よりも酸素濃度が低い雰囲気、例えば酸素濃度が10ppm以下の雰囲気をいう。また、低露点の雰囲気とは、大気よりも露点温度が低い雰囲気、例えば露点温度が-10℃以下の雰囲気をいう。低酸素かつ低露点の雰囲気は、例えば窒素ガス等の不活性ガスで形成される。
【0039】
なお、正孔輸送層形成ブロック122において、塗布装置122a、バッファ装置122b、減圧乾燥装置122c、熱処理装置122d及び温度調節装置122eの、配置や個数、内部の雰囲気は、任意に選択可能である。
【0040】
また、正孔輸送層形成ブロック122は、基板搬送装置CR4~CR6と、受渡装置TR5~TR6とを備える。基板搬送装置CR4~CR6は、それぞれ隣接する各装置へ基板10を搬送する。受渡装置TR5~TR6は、それぞれ順に、基板搬送装置CR4と基板搬送装置CR5の間、基板搬送装置CR5と基板搬送装置CR6の間に設けられ、これらの間で基板10を中継する。
【0041】
基板搬送装置CR4の内部は、大気雰囲気に維持される。一方、基板搬送装置CR5~CR6の内部は、低酸素かつ低露点の雰囲気に維持される。基板搬送装置CR5に隣接される減圧乾燥装置122cの内部が、低酸素かつ低露点の雰囲気と、減圧雰囲気とに切り替えられるためである。また、基板搬送装置CR6に隣設される熱処理装置122dや温度調節装置122eの内部が、低酸素かつ低露点の雰囲気に維持されるためである。
【0042】
受渡装置TR5は、その内部の雰囲気を、大気雰囲気と、低酸素かつ低露点の雰囲気との間で切り替えるロードロック装置として構成される。受渡装置TR6の下流側に減圧乾燥装置122cが隣設されるためである。一方、受渡装置TR6の内部は、低酸素かつ低露点の雰囲気に維持される。
【0043】
正孔輸送層形成ブロック122の基板搬送装置CR6と、発光層形成ブロック123の基板搬送装置CR7との間には、これらの間で基板10を中継する受渡装置TR7が設けられる。基板搬送装置CR6の内部は低酸素かつ低露点の雰囲気に維持され、基板搬送装置CR7の内部は大気雰囲気に維持される。そのため、受渡装置TR7は、その内部の雰囲気を、低酸素かつ低露点の雰囲気と、大気雰囲気との間で切り替えるロードロック装置として構成される。
【0044】
発光層形成ブロック123は、発光層26の材料液を正孔輸送層25上に塗布して塗布層を形成し、形成した塗布層を乾燥、焼成することで、発光層26を形成する。発光層26の材料液は、有機材料及び溶剤を含む。その有機材料は、ポリマー、モノマーのいずれでもよい。モノマーの場合、焼成によって重合され、ポリマーとされてもよい。
【0045】
発光層形成ブロック123は、塗布装置123aと、バッファ装置123bと、減圧乾燥装置123cと、熱処理装置123dと、温度調節装置123eとを備える。塗布装置123aは、発光層26の材料液の液滴を、バンク30の開口部31に向けて吐出する。バッファ装置123bは、処理待ちの基板10を一時的に収容する。減圧乾燥装置123cは、塗布装置123aで塗布された塗布層を減圧乾燥し、塗布層に含まれる溶剤を除去する。熱処理装置123dは、減圧乾燥装置123cで乾燥された塗布層を加熱処理する。温度調節装置123eは、熱処理装置123dで加熱処理された基板10の温度を、所定の温度、例えば常温に調節する。
【0046】
塗布装置123a及びバッファ装置123bは、内部が大気雰囲気に維持される。一方、熱処理装置123d及び温度調節装置123eは、発光層26の有機材料の劣化を抑制するため、内部が低酸素かつ低露点の雰囲気に維持される。減圧乾燥装置123cは、内部の雰囲気を、低酸素かつ低露点の雰囲気と、減圧雰囲気とに切り替える。
【0047】
なお、発光層形成ブロック123において、塗布装置123a、バッファ装置123b、減圧乾燥装置123c、熱処理装置123d及び温度調節装置123eの、配置や個数、内部の雰囲気は、任意に選択可能である。
【0048】
また、発光層形成ブロック123は、基板搬送装置CR7~CR9と、受渡装置TR8~TR9とを備える。基板搬送装置CR7~CR9は、それぞれ隣接する各装置へ基板10を搬送する。受渡装置TR8~TR9は、それぞれ順に、基板搬送装置CR7と基板搬送装置CR8の間、基板搬送装置CR8と基板搬送装置CR9の間に設けられ、これらの間で基板10を中継する。
【0049】
基板搬送装置CR7の内部は、大気雰囲気に維持される。一方、基板搬送装置CR8~CR9の内部は、低酸素かつ低露点の雰囲気に維持される。基板搬送装置CR8に隣接される減圧乾燥装置123cの内部が、低酸素かつ低露点の雰囲気と、減圧雰囲気とに切り替えられるためである。また、基板搬送装置CR9に隣設される熱処理装置123dや温度調節装置123eの内部が、低酸素かつ低露点の雰囲気に維持されるためである。
【0050】
受渡装置TR8は、その内部の雰囲気を、大気雰囲気と、低酸素かつ低露点の雰囲気との間で切り替えるロードロック装置として構成される。受渡装置TR8の下流側に減圧乾燥装置123cが隣設されるためである。受渡装置TR9の内部は、低酸素かつ低露点の雰囲気に維持される。
【0051】
発光層形成ブロック123の基板搬送装置CR9と、搬出ステーション130との間には、これらの間で基板10を中継する受渡装置TR10が設けられる。基板搬送装置CR9の内部は低酸素かつ低露点の雰囲気に維持され、搬出ステーション130の内部は大気雰囲気に維持される。そのため、受渡装置TR7は、その内部の雰囲気を、低酸素かつ低露点の雰囲気と、大気雰囲気との間で切り替えるロードロック装置として構成される。
【0052】
搬出ステーション130は、複数の基板10を順次カセットCに収納し、カセットCを外部に搬出させる。搬出ステーション130は、カセットCを載置するカセット載置台131と、カセット載置台131と処理ステーション120との間に設けられる搬送路132と、搬送路132に設けられる基板搬送体133とを備える。基板搬送体133は、処理ステーション120と、カセット載置台131に載置されたカセットCとの間で基板10を搬送する。
【0053】
次に、上記構成の基板処理システム100を用いた基板処理方法について説明する。複数の基板10を収容したカセットCがカセット載置台111上に載置されると、基板搬送体113が、カセット載置台111上のカセットCから基板10を順次取り出し、正孔注入層形成ブロック121に搬送する。
【0054】
正孔注入層形成ブロック121は、正孔注入層24の材料液を陽極21上に塗布して塗布層を形成し、形成した塗布層を乾燥、焼成することで、正孔注入層24を形成する。正孔注入層24が形成された基板10は、受渡装置TR4によって、正孔注入層形成ブロック121から正孔輸送層形成ブロック122に受け渡される。
【0055】
正孔輸送層形成ブロック122は、正孔輸送層25の材料液を正孔注入層24上に塗布して塗布層を形成し、形成した塗布層を乾燥、焼成することで、正孔輸送層25を形成する。正孔輸送層25が形成された基板10は、受渡装置TR7によって、正孔輸送層形成ブロック122から発光層形成ブロック123に受け渡される。
【0056】
発光層形成ブロック123は、発光層26の材料液を正孔輸送層25上に塗布して塗布層を形成し、形成した塗布層を乾燥、焼成することで、発光層26を形成する。発光層26が形成された基板10は、受渡装置TR10によって、発光層形成ブロック123から搬出ステーション130に受け渡される。
【0057】
搬出ステーション130の基板搬送体133は、受渡装置TR10から受取った基板10を、カセット載置台131上の所定のカセットCに収める。これにより、基板処理システム100における一連の基板10の処理が終了する。
【0058】
基板10は、カセットCに収められた状態で、搬出ステーション130から外部に搬出される。外部に搬出された基板10には、電子輸送層27や電子注入層28、陰極22などが形成される。
【0059】
[制御装置の構成]
図3に示すように、制御装置140は、HDD51と、ROM52と、RAM53と、I/Oポート54と、CPU55と、通信部56と、これらを相互に接続するバス57と、を備えている。
【0060】
HDD51は、CPU55が実行するOSやプログラムを記憶する。HDD51はSSD等で代用されうる。
【0061】
ROM52は、EEPROM、フラッシュメモリ、などから構成され、制御装置が起動するためのプログラムなどを記憶する記録媒体である。
【0062】
RAM53は、CPU55のワークエリアなどとして機能する。I/Oポート54は、例えば操作パネル58が接続されている。操作パネル58はいわゆるタッチパネル式のディスプレイであり、操作メニューや液滴吐出装置の状態(液滴残量、ノズル状態、実行ジョブ等)を表示する。操作パネル58にはキーボードが接続されていてよい。
【0063】
CPU55は、制御装置140の全体を制御する。CPU55は、HDD51に記憶されたプログラムを実行し、操作パネル58が受け付けた指示にしたがって、液滴吐出装置に信号を送信し、液滴の吐出を開始したり、停止したりする。
【0064】
通信部56は、LAN59に接続されており、サーバー、ホストコンピュータ等との間で情報を伝達する。
【0065】
[塗布装置及び塗布方法]
次に、発光層形成ブロック123の塗布装置123aについて、主に図4図6を参照して説明する。図4は、一実施形態による塗布装置を示す平面図である。図4において、基板10の搬入位置を破線で示す。図5は、左側の基板移動部による基板のヨーイング時の状態を示す側面図である。また、図4図5において、液滴吐出装置160のX方向片側を「左側」とも呼び、液滴吐出装置160のX方向反対側を「右側」とも呼ぶ。
【0066】
塗布装置123aは、基板10における機能液(例えば発光層26の材料液)の液滴の着弾位置をX方向及びY方向に移動させて、基板10に機能液の描画パターンを描く。
【0067】
塗布装置123aは、例えば、基板10をガスの風圧によって所定の高さに浮かせるステージ部150と、ステージ部150から所定の高さに浮かせている基板10に機能液の液滴を滴下する液滴吐出装置160とを備える。また、塗布装置123aは、ステージ部150から所定の高さに浮かせている基板10の端部(例えば機能液の描画エリアよりも外側の部分)を上方から保持してX方向及びY方向に移動させる基板移動部170を備える。基板移動部170は、液滴吐出装置160のX方向両側に設けられる。複数の基板移動部170が基板10を受け渡して液滴吐出装置160の下を通過させると共に、液滴吐出装置160が基板10に液滴を滴下する。また、塗布装置123aは、液滴吐出装置160をY方向に移動させるスライド機構部200と、液滴吐出装置160の機能を維持するための処理を行うメンテナンス部210とを備える。
【0068】
ステージ部150は、その上面に、ガスを噴射する給気口151を複数有する。ステージ部150は、各給気口151にガスを供給するガス供給源152と接続されている。ガス供給源152を作動させると、ステージ部150の各給気口151からガスが噴射され、ガスの風圧によって基板10がステージ部150の上面から一定の高さで支持される。
【0069】
ステージ部150は、その上面に、ガスを吸引する吸気口153を複数有してもよい。ステージ部150は、各吸気口153からガスを吸引するガス吸引源154と接続されている。ガス吸引源154を作動させると、各吸気口153からガスが吸引される。これにより、ガスの吸引量とガスの噴射量とをバランスさせることができ、基板10とステージ部150との隙間のばらつきを低減でき、基板10の上面の水平度を向上できる。
【0070】
ステージ部150は図5に示すようにX方向に3つの領域X1、X2、X3に区画されてもよく、X方向両端の領域X1、X3には給気口151のみが設けられ、X方向中央の領域X2には給気口151と吸気口153の両方が設けられてよい。X方向中央の領域X2の上方において、基板10の水平度を向上でき、基板10における機能液の描画パターンの精度を向上できる。なお、X方向両端の領域X1、X3にも、給気口151と吸気口153の両方が設けられてもよい。
【0071】
ステージ部150は、その上面から出没するリフトピン(不図示)を有してもよい。ステージ部150がロボットとの間で基板10を受け渡すとき、リフトピンはステージ部150の上面から突出する。一方、基板移動部170が基板10を移動させると共に液滴吐出装置160が基板10に機能液の液滴を滴下するとき、リフトピンはステージ部150の上面に没入する。リフトピンを昇降させる昇降機構としては、例えば空気圧シリンダなどが用いられる。
【0072】
液滴吐出装置160は、ステージ部150から所定の高さに浮かせている基板10に向けて機能液の液滴を吐出する。液滴吐出装置160は、Y方向に複数(例えば図4では10個)並んでいる。複数の液滴吐出装置160は、独立にY方向に移動されてもよいし、一体にY方向に移動されてもよい。
【0073】
各液滴吐出装置160は、複数の吐出ヘッド161(図5参照)を有する。各吐出ヘッド161は、その下面に、Y方向に並ぶ複数の吐出ノズルからなる吐出ノズル列を有する。各吐出ヘッド161は、その下面に、複数の吐出ノズル列を有してもよい。
【0074】
各吐出ヘッド161は、吐出ノズルごとにピエゾ素子を有する。ピエゾ素子に電圧をかけると、ピエゾ素子が変形して吐出ノズルから液滴が吐出される。ピエゾ素子の代わりに、ヒータなどが用いられてもよい。ヒータに電圧をかけると、バブルが発生し、発生したバブルの圧力によって吐出ノズルから液滴が吐出される。
【0075】
各液滴吐出装置160は、複数種類の機能液を吐出するものであってよい。複数種類の機能液としては、例えば、赤色発光層の材料液、緑色発光層の材料液、及び青色発光層の材料液などが挙げられる。同一の吐出ヘッド161に設けられる複数の吐出ノズルは、同一の種類の機能液の液滴を吐出する。
【0076】
図6は、一実施形態による吐出ヘッドの配列を示す平面図である。各液滴吐出装置160は、Y方向に並ぶ2つの吐出ヘッド列162を有する。各吐出ヘッド列162は、X方向に階段状に並ぶ6つの吐出ヘッド161で構成される。各吐出ヘッド列162は、赤色発光層の材料液の液滴を吐出する吐出ヘッド161R、緑色発光層の材料液の液滴を吐出する吐出ヘッド161G、及び青色発光層の材料液の液滴を吐出する吐出ヘッド161Bを、それぞれ2つずつ有する。
【0077】
スライド機構部200は、図4に示すように、液滴吐出装置160を、ステージ部150から所定の高さに浮かせている基板10に機能液の液滴を吐出する位置と、メンテナンス部210による機能維持のための処理を受け付ける位置との間で移動させる。スライド機構部200は、ステージ部150の上方に架け渡される一対のY軸ビーム201と、一対のY軸ビーム201上に敷設される一対のY軸ガイド202と、一対のY軸ガイド202に沿って液滴吐出装置160を移動させる一対のY軸リニアモータとを有する。
【0078】
メンテナンス部210は、液滴吐出装置160の機能を維持する処理を行い、液滴吐出装置160の吐出不良を解消する。メンテナンス部210は、吐出ノズルの吐出口の周囲を払拭するワイピングユニット211と、吐出ノズルの吐出口から液滴を吸引する吸引ユニット212とを有する。吸引ユニット212は、休止状態の吐出ノズルの吐出口を塞ぎ、乾燥による目詰まりを抑制する役割をも果たす。
【0079】
[着弾位置の検出方法]
本開示ではノズルの異常度を算出する方法の1つとして各ノズルの着弾位置を検出する。着弾位置の測定時は、製品となる基板10とは異なるテスト用フィルムをステージ部150に流す。テスト用フィルムは液滴の種類によって変更されてよい。カメラがこのテスト用フィルムを撮像して得た画像データから着弾位置を測定する。
【0080】
ノズルの配置(ノズル同士の距離)に比べて想定される着弾位置のずれ量は一桁以上小さい。このため、ノズルチェックの実施時、液滴吐出装置160は、全ノズルから一斉にインクを吐出して、例えばステージ部150に設けられているカメラでテスト用フィルムを撮像する。制御装置140(又は任意の情報処理装置)は、画像データから、各ノズルに対応するテスト用フィルム上に描画された各液滴(着弾)の位置情報(基準位置からのずれ量)を画像処理により検出する。基準位置とは目標の吐出位置である。
【0081】
[液滴飛翔画像の撮像方法]
また、本開示ではノズルの異常度を算出する方法の1つとして各ノズルが飛翔する液滴の画像を撮像する。図7は、液滴飛翔画像の撮像方法の一例を示す図である。図7に示すように、吐出ヘッド161が液滴を吐出する方向に対し垂直な方向に光軸を有するように撮像装置301が設置される。図7では、撮像装置301の光軸に対し奥行き方向に3つの吐出ヘッド161があり、合計6本のノズル列がある。紙面に垂直な方向にノズル列が延設されている。撮像装置301から見ると、奥行方向に6本のノズルが重なっているが、焦点位置をそれぞれのノズルに合わせると、他のノズルからの液滴はぼけて見えなくなる。撮像装置301は、焦点位置を変えながら、吐出信号を契機に静止画の撮像を行うことで、液滴飛翔画像を撮像できる。なお、撮像装置301が動画を撮像してもよい。動画の場合、例えば、液滴の先端の位置が画像の中央付近にあるフレームを取り出す。
【0082】
[クリーニングに関する機能]
図8は、制御装置140が有するクリーニングに関する機能を説明する機能ブロック図である。制御装置140は、取得部60(着弾位置取得部61、液滴飛翔画像取得部62)、ノズルチェック判断部63、着弾位置用の時系列データ算出部64、画像用の時系列データ算出部65、算出部66、判断部67、表示部68、異常モード判断部69、クリーニング種類判断部70、及び、クリーニング実行部71を有している。制御装置140が有するこれらの機能は、制御装置140のCPUがプログラムを実行して得られる機能又は手段である。
【0083】
取得部60は、液滴の吐出状態に関する情報を取得する。取得部60は着弾位置取得部61と液滴飛翔画像取得部62とを有する。着弾位置取得部61は、上記した方法で検出された着弾位置を取得する。着弾位置は、液滴吐出装置160が液滴を吐出した順番に得られるので、時系列データの算出が可能になる。着弾位置取得部61は、液滴の吐出ごとに着弾位置を取得してもよいし、一定数ごとに着弾位置を取得してもよい。
【0084】
液滴飛翔画像取得部62は、上記した方法で撮像された液滴飛翔画像を取得する。液滴飛翔画像は、液滴吐出装置160が液滴を吐出した順番に得られるので、時系列データの算出が可能になる。液滴飛翔画像取得部62は、液滴の吐出ごとに液滴飛翔画像を取得してもよいし、一定数ごとに液滴飛翔画像を取得してもよい。
【0085】
ノズルチェック判断部63は、異常度等を算出し、クリーニングを実行する又はクリーニングの実行予定を立てるタイミングであるか否かを判断する。ノズルチェックは、例えば、一定枚数の基板10の処理ごと、一定時間ごと、定刻、又は、ユーザーの指示で行ってよい。
【0086】
時系列データ算出部64は、着弾位置の時系列データを算出し、時系列データ算出部65は飛翔画像から取得される特徴量の時系列データを算出する。これらの詳細は後述する。
【0087】
算出部66は、主に時系列データに基づいて各ノズルごとに、ノズルの異常度を算出する。算出部66は、時系列データに相関が認められる場合、相関の程度に応じて異常度を算出したり、時系列データの変化量に応じて異常度を算出したりする。異常度は、異常が発生する前から算出可能であり、異常の予兆を検出することが可能になる。異常度は、異常の程度が大きいほど大きい値であるとする。
【0088】
判断部67は、異常度がしきい値以上かどうかを判断し、異常の予兆があるか否かを判断したり、すでに異常が生じているか否かを判断したりする。
【0089】
表示部68は、異常度に応じた態様で(パラメータに応じた態様で)各ノズルの異常度を操作パネル58等に表示する。表示部68は電子メール等で担当者に異常度を送信してよい。また、表示部68は、異常度が一定以上のノズルの数を表示する。
【0090】
異常モード判断部69は、時系列データを用いて、異常モードを判断する。異常モードは、主に、着弾位置や液滴飛翔画像の特徴量が、徐々に正常値からの乖離が大きくなるものと、急に正常値からの乖離が大きくなるものがある。また、この2つの他、異常の検出方法に応じた異常モードがある。
【0091】
クリーニング種類判断部70は、異常モードに応じて、又は、異常モードと異常度とに応じて、クリーニング種類を判断する。詳細は後述するが、異常モードに応じて、例えば、クリーニングの強度を決定する。
【0092】
クリーニング実行部71は、異常度及び異常モードで決定されたクリーニング種類のクリーニングを実行する。異常度が小さい場合や予兆段階の場合、基板10の製造工程に基づいて区切りのよいタイミングで、クリーニングを行う。また、クリーニング実行部71は、異常度が大きい場合(すでに異常が発生している場合)、早期にクリーニングを行う。
【0093】
クリーニングはノズル単位で行ってもよいし、吐出ヘッド161単位で行ってもよい。また、吐出ヘッド161のうちN本(Nは自然数)以上のノズルで異常が生じた場合にクリーニングを行ってもよい。
【0094】
[着弾位置の時系列データと異常度の判断]
続いて、図9図11を参照して、着弾位置の時系列データと異常度の判断方法を説明する。図9は、正常ノズルが吐出する液滴の着弾位置から求めた時系列データの一例である。図10は、異常ノズルの着弾位置から求めた時系列データの一例である。図9(a)、図10(a)は、着弾位置の時間的変化を示すグラフである。横軸はデータ点数である。縦軸は、着弾位置のx座標、y座標、及び、原点からの距離rを示す。なお、原点とは、目標とする吐出位置であり、上記のテスト用フィルムにおいて予め決まっている。図9(a)では着弾位置は一定値を中心にばらついているが、図10(a)では、着弾位置が徐々にマイナス方向に移動していることが読み取れる。
【0095】
図9(b)、図10(b)は、着弾位置のマッピングデータである。マッピングデータとは、x方向とy方向の二次元平面に着弾位置を示すものである。横軸は着弾位置のx座標、縦軸は着弾位置のy座標である。図9(b)、図10(b)は作図の都合上、白黒であるが、データ点は時間帯によって色分けして表示されている。図9(b)マッピングデータでは着弾位置が均等な方向にばらついているが、図10(b)では左下の方向に着弾位置が移動する傾向がある。図10(b)の矢印410は、時間と共に変化する着弾位置の移動方向を示す。
【0096】
仮に人間が着弾位置の傾向を判断する場合、図10(a)や図10(b)のようにある程度のまとまった着弾位置のデータが必要であった。このため、クリーニングを実行すると判断するまでに比較的長い時間が必要になる。また、クリーニングを実行すると判断するタイミングが、人によって又は同じ人でもばらつく場合もある。
【0097】
図9(c)、図10(c)は、着弾位置のコレログラムである。コレログラムは、時間差がnである2つの時点の値の相関関数(自己相関)を、nを大きくしながら求めたグラフである。作図の都合上、白黒であるが、図ではx座標とy座標のそれぞれの相関関数がnに対し示されている。横軸はn、縦軸は相関関数(で算出される値)である。相関関数は、1.0で完全相関、0で完全無相関、-1で完全逆相関を意味する。着弾位置に相関があるとは、例えば、時刻tのデータが小さいと、時刻t+1のデータも小さくなる傾向、又は、時刻tのデータが大きいと、時刻t+1のデータも大きくなる傾向、があると解釈できる。つまり、着弾位置に移動の傾向があることをコレログラムから検出できる。図9(c)ではnに依存せずに、相関関数が小さい。一方、図10(c)によれば、nが小さい領域で、相関関数が大きくなっている。すなわち、着弾位置が移動する傾向があることを少ない着弾位置のデータ数で検出できること、換言すると、着弾位置がずれる可能性が高いことを早期(異常の予兆)に判断できることがわかる。
【0098】
なお、相関関数が大きい又は小さいと判断する基準は、任意のしきい値でもよいし、信頼区間411の外か内かによって判断してもよい。
【0099】
コレログラムを用いた異常度の算出方法について説明する。一例として、算出部66は、式(1)を使用して、あるn個の相関関数のうち
・信頼区間の外のデータ数p
・信頼区間の外のデータの相関関数の合計q
を係数a、bで重み付けして、異常度を算出する。
異常度=a×p+b×q ……(1)
式(1)の求め方はあくまで一例であって、p、qのいずれかで異常度を算出してもよいし、信頼区間を考慮せずnを変えて、相関関数の値から異常度を算出してもよい。また、異常の予兆を検出するために、算出部66は、一定未満のnのみを使用して異常度を算出してもよい。
【0100】
時系列データの自己相関が大きいほど、異常度が大きいといえるが、異常度には距離の絶対値も考慮する必要がある。例えば[0, 1, 2, 3, 4]は自己相関が大きいが距離の絶対値が小さく、[0, 1, 2, 100,101]の場合は自己相関が小さいが距離の絶対値が大きい。したがって、距離の絶対値を式(1)で考慮するとよい。
【0101】
次に、着弾位置が急に変化する場合の異常度の算出について説明する。コレログラムは、着弾位置が時系列に移動する場合に、早期に、異常の予兆を検出できるが、異常には、着弾位置が急に変化するものもある。このような異常が発生した場合の異常度の算出方法を説明する。
【0102】
図11は、着弾位置の時系的変化を示すグラフである。横軸はデータ点数、縦軸は着弾位置のx座標又はy座標である。図11に示すように、データ点数na、nbで着弾位置が急に変化することが分かる。
【0103】
このような異常は、着弾位置の差異310を時系列に算出して、差異310としきい値と比較することで判断できる。また、異常度は、しきい値以上となった差異の数、しきい値以上となった差異の数をnで割った値、n個の差異310の合計、等でよい。
【0104】
なお、異常度を機械的に学習することも有効である。図9(a)、図10(a)、図11などの時系列データをニューラルネットワークに入力し、人間のアノテーション(人間が判断した異常度)を教師信号として学習すれば、時系列データの入力に対し異常度を算出する識別装置を構築できる。機械学習のための学習方法は、教師あり学習、教師なし学習、半教師学習、強化学習、深層学習のいずれかの方法でもよく、更に、これらの学習方法を組み合わせた学習方法でもよく、機械学習のための学習方法は問わない。機械学習の手法には、パーセプトロン、ディープラーニング、サポートベクターマシン、ロジスティック回帰、ナイーブベイズ、決定木、ランダムフォレストなどがあり、本実施形態で説明する手法には限られない。
【0105】
[液滴飛翔画像の時系列データと異常度]
続いて、図12図18を参照して、液滴飛翔画像から取得される特徴量の時系列データを説明する。本開示では、特徴量として、曲がり、液滴サイズ、液滴スポット、ノズルプレートの汚れ、ノズル抜け、及び、着弾時間のノズルごとのずれ、について説明する。これらの全ての特徴量を使用する必要はなく、1つ以上の特徴量が使用されればよい。
【0106】
なお、1つの液滴飛翔画像には複数の液滴が写っている。このノズルを1つずつ区別するため、時系列データ算出部65は、水平方向の一定距離ずつ液滴飛翔画像を分離してよい。液滴飛翔画像の水平方向の座標とノズルの識別情報は(液滴飛翔画像のどの範囲にどのノズルが写っているか)、予め関連付けられている。したがって、液滴飛翔画像の特徴量はノズルごとに検出される。
【0107】
・曲がり
図12は、液滴飛翔画像の同じノズルが吐出するそれぞれ別の液滴を撮像した液滴飛翔画像である。上記のように、液滴飛翔画像はノズルから基板10に向けて飛翔する液滴を撮像したものである。図12(a)→図12(b)→図12(c)の順に時間が経過している。
【0108】
時系列データ算出部65は、液滴飛翔画像を二値化し、飛翔方向の直線311を検出する。直線の検出には、例えばハフ変換を使用してもよいし、最小二乗法を使用してもよい。時系列データ算出部65はこの直線311の傾きθの時系列データを算出する。
【0109】
曲がりに基づく異常度は、着弾位置の時系列データと同様に、コレログラムやデータ間の差異により求められる。
【0110】
図13は、液滴飛翔画像から検出される特徴量である曲がりを用いた時系列データの一例を示す。図13(a)は、液滴飛翔画像に写っている同一ノズルの液滴の時間的な推移を示す。時間と共に吐出方向に対する角度が大きくなっている。
【0111】
また、図13(b)は、経過時間に対する同一ノズルの液滴の角度の変化321を示すグラフである。図13(b)には、コレログラム322を模式的に示した。なお、図13(a)の液滴飛翔画像は、図13(b)の時間軸と対応している。時刻t1,t2までは、曲がりがほとんどないが、時刻t3以降で液滴が曲がり始めている。コレログラム322も時刻t2までは一定だが、時刻t2以降で増大を始めている。したがって、コレログラム322を参照することで、曲がりの角度が小さい状態でも異常を検出しやすくなる。つまり、異常の予兆を検出できる。
【0112】
なお、図13のように、液滴の飛翔方向が二直線以上に曲がる場合がある。この場合、ハフ変換では、各直線が検出されるので、直線が2つ以上検出された場合、判断部67は異常があると判断してもよい。
【0113】
・液滴サイズ
図14は、いくつかのノズルが吐出した液滴飛翔画像である。液滴サイズを取得する場合、時系列データ算出部65は、液滴飛翔画像を二値化し、液滴の軌跡ごとに黒画素の面積(黒画素の数)を算出する。時系列データ算出部65はこの面積の時系列データを算出する。図14に示すように、点線331で囲まれる液滴飛翔画像は、液滴が小さい。したがって、液滴の軌跡を表す黒画素の面積から液滴サイズを推定できる。
【0114】
液滴サイズに基づく異常度は、着弾位置の時系列データと同様に、コレログラムやデータ間の差異により求められる。
【0115】
・液滴スポット
図15は、液滴スポットを含む液滴飛翔画像である。液滴スポットを取得する場合、時系列データ算出部65は、予め保持している正常時の液滴飛翔画像と、撮像した液滴飛翔画像の差分を算出する。すなわち、正常時の液滴飛翔画像と、撮像した液滴飛翔画像の同じ画素位置の画素の差分を求める。時系列データ算出部65はこの差分の合計の時系列データを算出する。
【0116】
図15(a)は液滴スポット340がある液滴飛翔画像を示し、図15(b)は正常な液滴飛翔画像を示す。図15(c)は、図15(a)と図15(b)の差分画像を示す。差分画像により液滴スポット340が明瞭になる。判断部67は、一定以上の面積の黒画素がある場合、液滴スポット340があると判断する。
【0117】
液滴スポット340は、通常、液滴が存在しない空間に液滴が存在することを意味するので、判断部67は液滴スポット340を検出した場合、そのまま異常があると判断してよい。液滴スポット340の異常度は、液滴スポットが復帰することが容易かどうかの知見により、予め設定された異常度であるとする。
【0118】
液滴スポット340は、一時的にのみ検出される場合もあるので、一定時間内に一定回数以上の液滴スポット340が検出された場合、判断部67が、異常があると判断してもよい。
【0119】
・ノズルプレートの汚れ
図16は、ノズルプレートの汚れを含む液滴飛翔画像である。ノズルプレートの汚れ350とは、ノズル付近に付着した液滴の飛沫である。ノズルプレートが汚れると、いずれノズル詰まりなどを生じさせるおそれがある。ノズルプレートの汚れの検出方法は液滴スポットと同様に差分画像を利用する。時系列データ算出部65は、予め保持している正常時の液滴飛翔画像と、液滴飛翔画像の差分画像を算出する。すなわち、同じ画素位置の画素の差分を求める。時系列データ算出部65はこの差分画像が含む黒画素の面積の合計を求め、合計の時系列データを算出する。
【0120】
ノズルプレートの汚れに基づく異常度は、着弾位置の時系列データと同様に、コレログラムやデータ間の差異により求められる。
【0121】
・ノズル抜け
図17は、ノズル抜けを含む液滴飛翔画像である。ノズル抜け360とは、ノズルが液滴を吐出しないことをいう。ノズルが詰まっているなどの原因が考えられる。ノズルの汚れの検出方法は、液滴の軌跡を表す直線の有無により容易に判断できる。時系列データ算出部65は、液滴飛翔画像の1つのノズル部分を二値化し、黒画素がないと見なせるかどうかを判断する。
【0122】
ノズル抜けは、あるべき液滴が存在しないことを意味するので、判断部67はノズル抜けを検出した場合、そのまま異常があると判断してよい。ノズル抜けの異常度は、ノズル抜けが復帰することが容易かどうかの知見により、予め設定された異常度であると決定する。
【0123】
ノズル抜けは、一時的にのみ検出される場合もあるので、一定時間内に一定回数以上のノズル抜けが検出された場合、判断部67が異常度を判断してもよい。
【0124】
・着弾時間のノズルごとのずれ
図18(a)は、着弾時間のノズルごとのずれを説明する液滴飛翔画像である。図18(b)は液滴の先端部の拡大図を示す。同時に吐出制御されたノズルからの液滴が基板10に到達するまでの時間が、ノズルによって変動する場合がある。これは、ノズルの詰まりによる吐き出し不良が原因と推定される。
【0125】
着弾時間のノズルごとのずれの検出方法は、図18(b)に示すように液滴の先端位置370により検出できる。時系列データ算出部65は、液滴飛翔画像の各ノズル部分を二値化し、先端位置370の座標をノズルごとに検出する。時系列データ算出部65は、2つのノズルの組み合わせごとに、先端位置370の座標の差分を算出すると共に、全ての差分の中から最大値を決定する。時系列データ算出部65はこの最大の差分の時系列データを算出する。
【0126】
着弾時間のノズルごとのずれに基づく異常度は、着弾位置の時系列データと同様に、コレログラムやデータ間の差異により求められる。
【0127】
[異常モードの判断]
次に、図19を用いて、時系列データを用いた異常モードの判断方法を説明する。図19では、着弾位置の時系列データを示すが、液滴飛翔画像から求めた時系列データについても同様である。
【0128】
図19(a)~(d)は、着弾位置の時間的変化を示すグラフである。このうち図19(a)(b)は、急に着弾位置が変化する異常モードであり、図19(c)(d)は、徐々に着弾位置が変化する異常モードである。
【0129】
図19(e)~(h)は、着弾位置のマッピングデータである。このうち図19(e)(f)は、急に着弾位置が変化する異常モードであり、図19(g)(h)は、徐々に着弾位置が変化する異常モードである。
【0130】
異常モード判断部69は、図19(a)~(d)のような着弾位置の時間的変化を示すグラフから、隣り合った2つの着弾位置(tとt+1)の差異を算出する。異常モード判断部69は、しきい値を超えた差異(絶対値)がある場合、急に着弾位置が変化する異常モードであると判断する。
【0131】
また、異常モード判断部69は、図19(e)~(h)のようなマッピングデータをk-means法などでクラスタリングする。図19(e)(f)に示すように、急に着弾位置が変化する異常モードの場合、着弾位置が2つのクラスタ(領域)に分離できる。
【0132】
図20は、クラスタに分類できたか否かの判断方法を説明する図である。図20(a)に示すように、異常モード判断部69がk=2のクラスタに分類したものとする。
【0133】
次に、図20(b)に示すように、異常モード判断部69は2つのクラスタの重心381,382を通過する直線383を算出する。また、この直線383の中点を通過して、直線383に垂直な直線384を算出する。この直線384上の点は、式(2)のg(x)がゼロになる。したがって、2つのクラスタが別のグループを形成している場合、この直線384は線形分離のための識別関数となる。式(2)においてw0~w2は直線の係数である。
g(x)=w0 + w1x + w2y ……(2)
異常モード判断部69は、x、yにクラスタ1とクラスタ2の着弾位置の実測値をそれぞれ設定し、クラスタ1の着弾位置によるg(x)が正となる比率がしきい値以上、クラスタ2の着弾位置によるg(x)の負となる比率がしきい値以上、である場合、着弾位置が分離された(着弾位置が急に変化した)と判断できる。
【0134】
なお、クラスタリングには種々の手法があり、階層的手法、EMアルゴリズムなどを使用してよい。
【0135】
異常モードには、着弾位置が徐々に変化する異常モードと、着弾位置が急に変化する異常モードの他に、液滴スポット、ノズル抜け、及び、着弾時間のノズルごとのずれ、がある。これらは異常の検出方法が異常モードとなっている。なお、着弾時間のノズルごとずれは、時系列データによる異常度の判断も可能である。
【0136】
[異常モードに基づくクリーニング種類の判断]
・着弾位置が急に変化する場合、突発的にノズルにゴミ(固体化した液滴、など)が付着したと考えられる。このため、クリーニング種類判断部70は、軽度なクリーニングで除去可能と判断する。クリーニングなしに正常に復帰する場合もあることが分かっている。
【0137】
・着弾位置が徐々に変化する場合、ゴミの付着が連続的に発生していると想定される(付着がしつこい)。クリーニング種類判断部70は、クリーニング強度を大きくする必要があると判断する。
【0138】
このように、異常モードを分類することにより、軽度なクリーニングで十分と判断された場合はクリーニングに使う(高価な)液滴の量を減らすことができるため、メンテナンスのコストを低減できる。
【0139】
この考え方は、液滴飛翔画像の特徴量の時系列データに基づいて異常モードが判断された場合も同様でよい。
【0140】
液滴スポット、ノズル抜け、及び、着弾時間のノズルごとのずれ、が検出された場合、クリーニング種類判断部70は、設定された異常度に応じた強度のクリーニング種類を決定する。着弾時間のノズルごとのずれが徐々に進行する場合、着弾時間が遅いノズルは、液詰まりによる吐き出し不良が発生していると考えられる。クリーニング種類判断部70は、タイムラグの大きさに応じてクリーニングの強度を変更することが好ましい。
【0141】
また、クリーニング種類判断部70は、異常モードだけでなく、異常度も考慮してクリーニング種類を判断することが好ましい。例えば、クリーニング種類判断部70は、異常モードで決定したクリーニング種類のクリーニングの実行回数や時間を、異常度に応じて増減する。
【0142】
[動作手順]
図21は、制御装置140がノズルの異常を監視する手順を示すフローチャート図である。ノズルチェック判断部63は、ノズルチェックするタイミングであるか否かを判断する(S1)。ノズルチェックのタイミングは、例えば、一定数の基板10の吐出終了、一定時間の経過、などである。
【0143】
なお、テスト用フィルムは、一定数の基板10の間に配置されていてもよいし、基板10への吐出を終了し、テスト用フィルムへの吐出を行ってもよい。着弾位置取得部61は、テスト用フィルムの画像データから着弾位置(x、y座標)を検出しておく。液滴飛翔画像については、テスト用フィルムは不要なので、基板10への吐出時に撮像装置が適宜、液滴飛翔画像を撮像する。液滴飛翔画像取得部62は、適宜、液滴飛翔画像を蓄積しておく。なお、液滴飛翔画像を、テスト用フィルムへの吐出時に撮像してもよい。
【0144】
ノズルチェックのタイミングである場合、時系列データ算出部64は着弾位置の時系列データを算出する(S2)。同様に、時系列データ算出部65は、液滴飛翔画像の特徴量の時系列データを算出する。液滴スポットやノズル抜けなどの特徴量によっては時系列データが算出されないでよい。
【0145】
次に、算出部66は、式(1)と時系列データの1つであるコレログラムを用いて異常度を算出する(S3)。異常度は、着弾位置、液滴飛翔画像のそれぞれで算出される。また、液滴飛翔画像に関しては、特徴量(曲がり、液滴サイズ、ノズルプレートの汚れ、着弾時間のノズルごとのずれ)ごとに算出され得る。このため、算出部66は、各異常度を重み付けして、最終的な異常度を算出する。あるいは、それぞれの異常度を算出しておき、1つでも異常度がしきい値を超えるかどうかを判断してもよい。
【0146】
判断部67は、異常度がしきい値以上か否かを判断する(S4)。ステップS4でNoの場合(異常度がしきい値以上でない場合)、ステップS1からノズルチェックが再度、実行される。
【0147】
また、このしきい値は、異常の予兆に対応する第一のしきい値と、すでに異常が生じており早急なメンテナンスが必要な第二のしきい値の二段階に設定されていると好ましい。第一のしきい値以上の場合(第二のしきい値未満)、クリーニング実行部71は、メンテナンスの予定を立てて、メンテナンスを実行できる。第二のしきい値以上の場合、クリーニング実行部71は、早急にメンテナンスを実行できる。
【0148】
ステップS4でYesと判断された場合、異常モード判断部69が異常モードを判断する(S5)。すなわち、着弾位置、液滴の曲がり、液滴サイズの変化、ノズルプレートの汚れ、又は、着弾時間のノズルごとずれが、徐々に生じているか、急に生じているかを判断する。また、液滴飛翔画像の特徴量によっては、液滴スポット、又は、ノズル抜けが生じているかどうかを判断する。
【0149】
そして、クリーニング種類判断部70が、異常モードと異常度に応じて、クリーニング種類を判断する(S6)。例えば、異常モードが急に生じるものである場合、軽度なクリーニング、異常モードが徐々に生じるものである場合、強いクリーニング、を行うと決定し、更に、異常度に応じてクリーニング回数を多くしたり、時間を長くしたりすることなどが考えられる。クリーニング種類判断部70は、
・クリーニングの吐出強度
・クリーニングの吐出回数
・クリーニングの吐出時間
の1つか、又は2つ以上を組み合わせてクリーニングの種類を決定できる。
【0150】
また、クリーニング種類判断部70は、異常度と異常モードに、クリーニング種類を対応付けたテーブルを用意しておき、クリーニング種類を決定してよい。
【0151】
クリーニング実行部71は決定されたクリーニング種類のクリーニングを、メンテナンスのスケジュールに基づいて実行する(S7)。
【0152】
制御装置140は液滴吐出装置160の稼働を停止するか否かを判断する(S8)。この判断は、例えば、クリーニング実行後のノズルチェックに基づいて行われる。
【0153】
なお、図22に示すように、ノズルチェックのタイミングを決定して、同様の処理を行ってもよい。図22は、制御装置140がノズルの異常を監視する手順を示すフローチャート図である。なお、図22の説明では、主に図21との相違を説明する。
【0154】
図22の処理では、制御装置140が着弾位置と液滴飛翔画像を予め保存しておくので、ステップS11で制御装置140が、古い着弾位置と液滴飛翔画像を削除している(S11)。
【0155】
次に、着弾位置取得部61は、テスト用フィルムの画像データから着弾位置(x、y座標)を検出して保存し、液滴飛翔画像取得部62は、液滴飛翔画像を保存しておく(S12)。
【0156】
算出部66は、着弾位置、液滴飛翔画像の保存回数が規定回数に達したか否かを判断する(S13)。ステップS13の判断がNoの場合、処理はステップS12に戻り、規定回数に達するまで着弾位置、液滴飛翔画像の保存を繰り返す。
【0157】
ステップS13の判断がYesの場合、制御装置140はステップS14~S20を実行する。これらの処理は図21のステップS2~S8と同様でよい。ただし、ステップS16でNoの場合、処理はステップS12に戻る。
【0158】
[異常が検出されたノズルの表示]
図23は、制御装置140に接続された操作パネル58に表示されるノズル監視画面390の一例である。ノズル監視画面390は、ノズル列ごとに吐出ヘッド161を有し、各吐出ヘッド161が有するノズルの状態を示す。1つの吐出ヘッド161が有するノズル数、列数、ヘッド数等は一例に過ぎない。
【0159】
ノズル監視画面390において、異常度がしきい値以上(異常の予兆がある場合を含む)のノズル391~393が、強調して表示される。例えば、正常なノズルとは色を変えて表示されたり、点滅して表示されたりする。ユーザーはどのノズルに異常があるかを容易に判断できる。強調されているノズル391~393をユーザーが押下すると、異常度や異常モードが例えばポップアップ表示される。
【0160】
ノズルのクリーニングが吐出ヘッド161ごとに行われる場合、吐出ヘッド161ごとに異常があるノズルとその位置が分かるので、制御装置140は吐出ヘッド161ごとにクリーニングを行うか否かを決定できる。
【0161】
また、ノズル監視画面390は、異常度がしきい値以上のノズル数394、及び、異常の予兆があるノズル数395を表示する。ユーザーは異常度がしきい値以上のノズル数を見て、基板10の製造を停止したり、クリーニングを実行したりする。また、ユーザーは異常の予兆があるノズル数を見て、クリーニングの予定を立てることができる。
【0162】
[主な効果]
以上説明したように、本開示の液滴吐出装置は、異常度に基づいてクリーニングのタイミングを決定することで、クリーニング頻度を最適化できる。また、クリーニング頻度の最適化と異常モードに応じたクリーニングの実行により、クリーニングで消費される材料の量を抑制できる。例えば、有機ELを用いた液晶の基板などに使用される材料は高価であるが、クリーニングで消費される材料の量を極力少なくできる。また、異常の予兆を検出できれば、液滴吐出装置の工程のスケジューリングも容易になり、異常が生じる前にクリーニングが可能なので、対象物の形成のやり直しなども低減できる。
【0163】
[その他の適用例]
以上、本開示を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本開示はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0164】
例えば、異常の予兆を検出する機能は液滴吐出装置160とは別でもよい。異常の予兆を検出する異常監視装置は、例えば、USBケーブルやネットワークを介して液滴吐出装置160と接続されていてよい。あるいは、異常監視装置は、液滴吐出装置160とネットワークを介して通信するサーバー装置でもよい。
【0165】
また、本実施形態では、液滴吐出装置160が有機ELディスプレイの電極等を形成する例を説明したが、液滴吐出装置160は液滴を吐出すればよい。吐出される液体は、吐出ヘッド161から吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、又は加熱、冷却により粘度が一定以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0166】
また、図8などの構成例は、液滴吐出装置160による処理の理解を容易にするために、主な機能に応じて分割したものである。処理単位の分割の仕方や名称によって本開示が制限されることはない。液滴吐出装置160の処理は、処理内容に応じて更に多くの処理単位に分割することもできる。また、1つの処理単位が更に多くの処理を含むように分割することもできる。
【符号の説明】
【0167】
10 基板
140 制御装置
150 ステージ部
61 着弾位置取得部
62 液滴飛翔画像取得部
64,65 時系列データ算出部
66 異常度算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23