(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070067
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】シリコンウェーハおよびエピタキシャルシリコンウェーハ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/20 20060101AFI20230511BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20230511BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20230511BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20230511BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L21/66 N
H01L21/205
C30B29/06 502H
C30B25/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149835
(22)【出願日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2021180298
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】鳴嶋 康人
(72)【発明者】
【氏名】野中 直哉
【テーマコード(参考)】
4G077
4M106
5F045
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AA03
4G077AB01
4G077AB06
4G077AB09
4G077BA04
4G077CF10
4G077DB05
4G077EB01
4G077GA01
4G077GA07
4G077HA12
4G077TA04
4M106AA01
4M106BA04
4M106CB19
5F045AA03
5F045AB02
5F045AC05
5F045AC19
5F045AD14
5F045AD15
5F045AF03
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5F045BB12
5F045BB15
5F045BB16
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5F045HA01
5F045HA02
5F045HA06
5F152LL03
5F152LM08
5F152LM09
5F152LN03
5F152NN03
5F152NQ03
(57)【要約】
【課題】シリコンウェーハにおいて、積層欠陥の原因となる転位ループ欠陥密度を少なくする。
【解決手段】直径が300mmであり、ドーパントがリンであり、抵抗率が0.6mΩ・cm以上1.2mΩ・cm以下、かつ、炭素濃度が3.5×10
15atoms/cm
3以上5×10
17atoms/cm
3以下であるシリコンウェーハを提供する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が300mmであり、
ドーパントがリンであり、抵抗率が0.6mΩ・cm以上1.2mΩ・cm以下、かつ、炭素濃度が3.5×1015atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下であるシリコンウェーハ。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコンウェーハにおいて、
前記シリコンウェーハの酸素濃度が4×1017atoms/cm3以上10×1017atoms/cm3以下であるシリコンウェーハ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のシリコンウェーハにおいて、
前記シリコンウェーハにCOPが存在しないシリコンウェーハ。
【請求項4】
直径が300mmであり、ドーパントがリンであり、抵抗率が0.6mΩ・cm以上1.2mΩ・cm以下、かつ、炭素濃度が3.5×1015atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下であるシリコンウェーハと、
前記シリコンウェーハ表面上にシリコンエピタキシャル層と、を備えるエピタキシャルシリコンウェーハ。
【請求項5】
直径が300mmであり、ドーパントがリンであり、抵抗率が0.6mΩ・cm以上1.2mΩ・cm以下、かつ、炭素濃度が3.5×1015atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下であるシリコンウェーハと、
前記シリコンウェーハ表面上にシリコンエピタキシャル層と、を備え、
前記シリコンウェーハは、前記シリコンエピタキシャル層と接する表面側に低炭素濃度層を有し、
前記低炭素濃度層の炭素濃度は前記シリコンウェーハの厚み中心部の炭素濃度の0.9倍以下であり、かつ、
前記低炭素濃度層の深さは前記シリコンウェーハの表面から5μm以上15μm以下の深さを有するエピタキシャルシリコンウェーハ。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のエピタキシャルシリコンウェーハにおいて、
前記シリコンウェーハの抵抗率が1.0mΩcm以下であるエピタキシャルシリコンウェーハ。
【請求項7】
請求項4または請求項5に記載のエピタキシャルシリコンウェーハにおいて、
前記シリコンウェーハの炭素濃度が1×1016atoms/cm3以上であるエピタキシャルシリコンウェーハ。
【請求項8】
請求項4または請求項5に記載のエピタキシャルシリコンウェーハにおいて、
前記シリコンウェーハの酸素濃度が4×1017atoms/cm3以上10×1017atoms/cm3以下であるエピタキシャルシリコンウェーハ。
【請求項9】
請求項4または請求項5に記載のエピタキシャルシリコンウェーハにおいて、
前記シリコンウェーハにCOPが存在しないエピタキシャルシリコンウェーハ。
【請求項10】
請求項4または請求項5に記載のエピタキシャルシリコンウェーハにおいて、
前記シリコンウェーハ裏面上に酸化膜を備えるエピタキシャルシリコンウェーハ。
【請求項11】
請求項10に記載のエピタキシャルシリコンウェーハにおいて、
前記シリコンウェーハの端部および裏面外周部に酸化膜がない、エピタキシャルシリコンウェーハ。
【請求項12】
請求項4または請求項5に記載のエピタキシャルシリコンウェーハにおいて、
前記エピタキシャル層の表面上で観察される0.09μmサイズ以上のLPD密度が130個/ウェーハ以下であるエピタキシャルシリコンウェーハ。
【請求項13】
請求項4または請求項5に記載のエピタキシャルシリコンウェーハにおいて、
前記エピタキシャル層の表面上で観察される0.09μmサイズ以上のLPD密度が100個/ウェーハ以下であるエピタキシャルシリコンウェーハ。
【請求項14】
直径が300mmであり、ドーパントがリンであり、抵抗率が0.6mΩ・cm以上1.2mΩ・cm以下、かつ、炭素濃度が3.5×1015atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下であるシリコンウェーハであって、
前記シリコンウェーハは表面に低炭素濃度層を有し、
前記低炭素濃度層の炭素濃度は前記シリコンウェーハの厚み中心部の炭素濃度の0.9倍以下であり、かつ、
前記低炭素濃度層の深さは前記シリコンウェーハの表面から前記シリコンウェーハの厚み方向に5μm以上15μm以下であるシリコンウェーハ。
【請求項15】
請求項14に記載のシリコンウェーハにおいて、
前記シリコンウェーハの酸素濃度が4×1017atoms/cm3以上10×1017atoms/cm3以下であるシリコンウェーハ。
【請求項16】
請求項14または請求項15に記載のシリコンウェーハにおいて、
前記シリコンウェーハにCOPが存在しないシリコンウェーハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハおよびエピタキシャルシリコンウェーハに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、パワーMOSトランジスタ用のエピタキシャルシリコンウェーハには、シリコンエピタキシャル層を形成する前のシリコンウェーハの抵抗率が非常に低いことが要求される。このため、抵抗率が1.2mΩ・cm以下となるように高濃度にリン(P)がドープされた直径200mmのシリコンウェーハの表面上にシリコンエピタキシャル層を形成したエピタキシャルシリコンウェーハを提供している。
【0003】
近年、0.9mΩ・cm以下という抵抗率が非常に低いn型のシリコンウェーハの提供が要求されている。しかしながら、シリコンウェーハの抵抗率が非常に低い場合には、エピタキシャル成長処理を行うと、シリコンエピタキシャル層に積層欠陥(SF:Stacking Fault)が発生するという問題があり、シリコンエピタキシャル層に発生するSF密度の低減が希求される状況下にある。
【0004】
本出願人は、特許文献1に記載されているように、単結晶育成時における単結晶インゴットの570℃±70℃での滞在時間(熱履歴)を調整(SF核が形成される温度帯域に滞在する時間を短縮)する手法を用いることでシリコンエピタキシャル層におけるSFの発生を抑制する技術を見出した。また、特許文献2に記載されているように、シリコンエピタキシャル層の成長前に高温熱処理(アルゴンアニール)を施す手法を用いることにより、シリコンエピタキシャル層におけるSFの発生を抑制することできることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/175120号
【特許文献2】特開2014-011293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているように、SF核が形成される温度帯域に滞在する時間を短縮した結晶領域から切り出したシリコンウェーハ(SF核が少ないシリコンウェーハ)であれば、シリコンエピタキシャル層成長後のエピタキシャル層におけるSF密度を低減することができる。
【0007】
また、特許文献2に記載されているように、SF核が形成される温度帯域の滞在時間が長い結晶領域から切り出したシリコンウェーハ(SF核が多いシリコンウェーハ)に対してアルゴンアニールを施すことでシリコンエピタキシャル層成長後のエピタキシャル層におけるSF密度を低減することができる。
特許文献1,2で記載される技術はシリコンエピタキシャル層へのSF発生を抑制する技術として有効ではあるものの、近年、エピタキシャルシリコンウェーハの大口径化の要求が高まり、直径300mmの抵抗率が1.2mΩ・cm以下のエピタキシャルシリコンウェーハの提供が求められる。
【0008】
本発明は、SFの原因となる転位ループ欠陥の密度が少ないシリコンウェーハ、およびシリコンエピタキシャル層におけるSFの発生が少ないエピタキシャルシリコンウェーハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、シリコンエピタキシャル層に発生するSFの原因について鋭意研究を重ねた結果、高濃度にリンがドープされたシリコンウェーハには、直径300mmの単結晶インゴットの育成過程で結晶が受ける熱履歴によって、大別して2種類の転位ループ状の欠陥(結晶配列の乱れた部分がループ状に連なった欠陥)が存在することを見出した。
【0010】
以下、転位ループ状の欠陥の知見に至る経緯について説明する。
まず、ドーパントとしてリンを高濃度に添加した直径300mmのシリコン単結晶インゴットを育成し、SF核が形成される温度帯域に滞在する時間(以下、SF核発生温度帯域滞在時間と呼ぶ。)が長い結晶領域から切り出したシリコンウェーハと、SF核発生温度帯域滞在時間が短い結晶領域から切り出したシリコンウェーハを製造した。
【0011】
具体的には、SF核発生温度帯域滞在時間が長いシリコンウェーハとして、570℃±70℃の滞在時間が1000分以上である単結晶インゴット直胴部のトップ側から切り出した抵抗率0.9mΩ・cmのシリコンウェーハと、SF核発生温度帯域滞在時間が短いシリコンウェーハとして、570℃±70℃の滞在時間が50分以下である単結晶インゴット直胴部のボトム側から切り出した抵抗率0.7mΩ・cmのシリコンウェーハを製造した。
各シリコンウェーハを厚み方向に劈開し、劈開断面を透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で観察した。その結果を
図1に示す。
【0012】
その結果、SF核発生温度帯域滞在時間が長い結晶領域(トップ側の結晶領域)から切り出したシリコンウェーハには、
図1(a)に示すような転位ループ同士が重なり合ったようなサイズの大きな複合転位ループの欠陥2が観察され、60nmサイズを超えるサイズの大きな欠陥密度が多いことを確認した。
図1(b)は、
図1(a)で示す複合転位ループ欠陥2を別角度から撮影した写真であり、この複合転位ループ欠陥2は平面形状であることがわかる。
一方、SF核発生温度帯域滞在時間が短い結晶領域(ボトム側の結晶領域)から切り出したシリコンウェーハには、
図2に示すようなサイズの小さな転位ループの欠陥4が観察され、60nmサイズを超えるようなサイズの大きな複合転位ループ欠陥の密度が少ないことを確認した。
【0013】
そして、サイズの大きな複合転位ループ欠陥を起点にシリコンエピタキシャル層にSFが発生することが確認された。これは、複合転位ループ欠陥の有無によって、シリコンエピタキシャル層へのSFの発生状況が異なるものと考えられるため、本発明者らは、転位ループの発生メカニズムについて考察し、以下の結論に至った。
【0014】
本発明者らは、転位ループ欠陥の発生について以下のように仮定した。
まず、シリコン単結晶インゴットが冷却される過程で、結晶内の格子間に存在する格子間リンが格子位置に存在する格子シリコンをキックアウトさせ(格子シリコンを弾き飛ばす)、格子間シリコンが発生する。この発生した余剰の格子間シリコンが凝集して転位ループを形成し、この転位ループに格子間リンが偏析し、転位ループ欠陥を発生させる。
【0015】
そして、転位ループ欠陥の発生を抑制するためには、格子間シリコンの凝集を抑制することが有効であり、格子間シリコンとペアリング可能な不純物元素を意図的に添加すれば格子間シリコンの凝集を抑制することができるのではないかと考え、単結晶の育成段階で結晶内に炭素を取り込ませることを想起した。
シリコン融液に炭素をドープ(添加)してシリコン単結晶インゴットを育成し、炭素ドープされたシリコンウェーハ内に形成される欠陥を評価したところ、シリコンウェーハ内に形成されるサイズの大きな転位ループの欠陥密度を低減できるという知見を得て、本発明を完成させたものである。
【0016】
一方、特許文献3には、シリコンウェーハに炭素を添加することにより、ウェーハ内に形成される酸素析出物(BMD:Bulk Micro Defect)密度を増大させ、エピタキシャルシリコンウェーハのゲッタリング能力を向上させる方法が記載されている。
具体的には、特許文献3に記載の発明は、単結晶インゴット育成後半において酸素濃度が低下してしまうことによるゲッタリング能力の低下を、炭素添加で解消させようとする技術である。特許文献3に限らず、ゲッタリング能力に優れるエピタキシャルウェーハの提供を目的に、シリコン結晶中に炭素を添加することでBMD密度を増大させることは周知の事項である。
【0017】
【0018】
一般的に、リンの熱拡散処理、リンのイオン注入処理、リン含有エピタキシャル層の形成などにより、シリコンウェーハ内に高濃度にリンを存在させた領域は、ゲッタリング層として機能することが知られている(リンゲッタング法とも言われる。)。すなわち、本発明が対象とする、抵抗率が1.2mΩ・cm以下となるように高濃度にリンがドープされたシリコンウェーハは、高濃度にリンが存在することのみで十分なゲッタリング特性を有している。このため、本発明が対象とするエピタキシャルウェーハにあっては、BMD密度を増大させるというような要求はない。したがって、本発明が対象とするような高濃度にリンがドープされたシリコンウェーハに対して、炭素を添加してBMD密度を増加させてゲッタリング能力を増大させようといった動機付けそのものが存在しない。
また、特許文献3では、基板抵抗率が1.2mΩ・cm以下となるように高濃度にリンがドープされたシリコンウェーハにおいて特有の課題となるSFが多発する点について何も考察されていない。
【0019】
本発明のシリコンウェーハは、直径が300mmであり、ドーパントがリンであり、抵抗率が0.6mΩ・cm以上1.2mΩ・cm以下、かつ、炭素濃度が3.5×1015atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下である。
【0020】
本発明で規定するシリコンウェーハの抵抗率は、シリコンウェーハ表面を四探針法で測定した値である。
本発明で規定するシリコンウェーハの炭素濃度は、シリコンウェーハを研磨加工により薄膜化し、シリコンウェーハ厚み中心部における炭素濃度を二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて測定した値である。
シリコンウェーハの最表面はノイズ成分が多いため正確な炭素濃度の測定が困難なため、最表面を除くようにウェーハ表面から深さ1μm以上の深さ位置で測定すれば正確な炭素濃度の測定が可能となる。本発明ではより正確な値とするため、シリコンウェーハ厚み中心部の濃度で規定したものである。
【0021】
上記シリコンウェーハにおいて、前記シリコンウェーハの酸素濃度が4×1017atoms/cm3以上10×1017atoms/cm3以下であってよい。
本発明で規定するシリコンウェーハの酸素濃度は、シリコンウェーハを研磨加工により薄膜化し、シリコンウェーハ厚み中心部における酸素濃度をSIMSにより測定した値である。
シリコンウェーハの最表面はノイズ成分が多いため正確な酸素濃度の測定が困難なため、最表面を除くようにウェーハ表面から深さ1μm以上の深さ位置で測定すれば正確な酸素濃度の測定が可能となる。本発明ではより正確な値とするため、シリコンウェーハ厚み中心部の濃度で規定したものである。
【0022】
上記シリコンウェーハにおいて、前記シリコンウェーハにCOPが存在しないことが好ましい。
本発明における「COPが存在しない」とは、以下に説明する観察評価により、COPが検出されないシリコンウェーハを意味するものとする。すなわち、まず、CZ法により育成された単結晶シリコンインゴットから切り出し加工されたシリコンウェーハに対して、SC-1洗浄(即ち、アンモニア水と過酸化水素水と超純水とを1:1:15で混合した混合液による洗浄)を行い、洗浄後のシリコンウェーハ表面を、表面欠陥検査装置としてKLA-Tencor社製、Surfscan SP-2を用いて観察評価し、表面ピットと推定される輝点欠陥(LPD:Light Point Defect)を特定する。その際、観察モードはObliqueモード(斜め入射モード)とし、表面ピットの推定は、Wide/Narrowチャンネルの検出サイズ比に基づいて行うものとする。こうして特定されたLPDに対し、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いてCOPか否かを評価する。この観察評価により、COPが観察されないシリコンウェーハを「COPが存在しないシリコンウェーハ」とする。
【0023】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハは、直径が300mmであり、ドーパントがリンであり、抵抗率が0.6mΩ・cm以上1.2mΩ・cm以下、かつ、炭素濃度が3.5×1015atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下であるシリコンウェーハと、前記シリコンウェーハ表面上にシリコンエピタキシャル層と、を備える。
【0024】
本発明で規定するエピタキシャルシリコンウェーハのシリコンウェーハの抵抗率は、シリコンウェーハ裏面を四探針法で測定した値である。なお、エピタキシャルシリコンウェーハの裏面に酸化膜が設けられている場合は、裏面酸化膜を除去したシリコンウェーハ裏面を四探針法で測定した値である。
【0025】
本発明で規定するエピタキシャルシリコンウェーハのシリコンウェーハの炭素濃度は、シリコンウェーハを研磨加工により薄膜化し、シリコンウェーハ厚み中心部における炭素濃度をSIMSで測定した値である。
エピタキシャルシリコンウェーハの製造にあたり、シリコンウェーハはエピタキシャル成長時の高温熱処理やエピタキシャル成長処理前の高温熱処理などを受けるため、炭素が外方拡散しシリコンウェーハ表層部の炭素濃度が低下する。
このため、エピタキシャルシリコンウェーハのシリコンウェーハの炭素濃度を測定するには炭素の外方拡散が起きていない深さ位置で測定する必要があり、ほぼウェーハ表面からウェーハ厚み深さ方向に40μm以上の深い位置で測定すれば、正確な炭素濃度の測定が可能となる。本発明ではより正確な値とするため、シリコンウェーハ厚み中心部の濃度で規定したものである。
【0026】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハは、直径が300mmであり、ドーパントがリンであり、抵抗率が0.6mΩ・cm以上1.2mΩ・cm以下、かつ、炭素濃度が3.5×1015atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下であるシリコンウェーハと、前記シリコンウェーハ表面上にシリコンエピタキシャル層と、を備え、前記シリコンウェーハは、前記シリコンエピタキシャル層と接する表面側に低炭素濃度層を有し、前記低炭素濃度層の炭素濃度は前記シリコンウェーハの厚み中心部の炭素濃度の0.9倍以下であり、かつ前記低炭素濃度層の深さは前記シリコンウェーハと前記シリコンエピタキシャル層の境界から前記シリコンウェーハの厚み方向に5μm以上15μm以下である。
低炭素濃度層の深さはSIMS測定により得られた深さ方向の炭素濃度プロファイルに基づく値であり、エピタキシャル層とシリコンウェーハとの境界からシリコンウェーハの厚み方向の深さ位置(幅)を意味するものである。
【0027】
上記エピタキシャルシリコンウェーハにおいて、前記シリコンウェーハの抵抗率が1.0mΩcm以下とすることが望ましい。
【0028】
上記エピタキシャルシリコンウェーハにおいて、前記シリコンウェーハの炭素濃度が1×1016atoms/cm3以上とすることが望ましい。
【0029】
上記エピタキシャルシリコンウェーハにおいて、前記シリコンウェーハの酸素濃度が4×1017atoms/cm3以上10×1017atoms/cm3以下とすることが望ましい。
【0030】
本発明で規定するエピタキシャルシリコンウェーハのシリコンウェーハの酸素濃度は、シリコンウェーハを研磨加工により薄膜化し、シリコンウェーハ厚み中心部における酸素濃度をSIMSにより測定した値である。
エピタキシャルシリコンウェーハのシリコンウェーハの酸素濃度を測定するには酸素の外方拡散が起きていない深さ位置で測定する必要があり、ほぼウェーハ表面からウェーハ厚み深さ方向に150μm以上の深い位置で測定すれば、正確な酸素濃度の測定が可能となる。本発明ではより正確な値とするため、シリコンウェーハ厚み中心部の濃度で規定したものである。
【0031】
上記エピタキシャルシリコンウェーハにおいて、前記シリコンウェーハにCOPが存在しないことが望ましい。
【0032】
上記エピタキシャルシリコンウェーハにおいて、前記シリコンウェーハ裏面上に酸化膜を備えていることが望ましい。
【0033】
上記エピタキシャルシリコンウェーハにおいて、前記シリコンウェーハの端部および裏面外周部に酸化膜がないことが望ましい。
【0034】
上記エピタキシャルシリコンウェーハにおいて、前記エピタキシャル層の表面上で観察される0.09μmサイズ以上のLPD密度が130個/ウェーハ以下であることが望ましい。
【0035】
上記エピタキシャルシリコンウェーハにおいて、前記エピタキシャル層の表面上で観察される0.09μmサイズ以上のLPD密度が100個/ウェーハ以下であることが望ましい。
【0036】
本発明のシリコンウェーハは、直径が300mmであり、ドーパントがリンであり、抵抗率が0.6mΩ・cm以上1.2mΩ・cm以下、かつ、炭素濃度が3.5×1015atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下であるシリコンウェーハであって、前記シリコンウェーハは表面に低炭素濃度層を有し、前記低炭素濃度層の炭素濃度は前記シリコンウェーハの厚み中心部の炭素濃度の0.9倍以下であり、かつ、前記低炭素濃度層の深さは前記シリコンウェーハの表面から前記シリコンウェーハの厚み方向に5μm以上15μm以下である。
【0037】
上記シリコンウェーハにおいて、前記シリコンウェーハの酸素濃度が4×1017atoms/cm3以上10×1017atoms/cm3以下であることが好ましい。
【0038】
上記シリコンウェーハにおいて、前記シリコンウェーハにCOPが存在しないことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】SF核発生温度帯域滞在時間が長い結晶領域から切り出したシリコンウェーハに観察される複合転位ループの写真である。
【
図2】SF核発生温度帯域滞在時間が短い結晶領域から切り出したシリコンウェーハに観察される転位ループの写真である。
【
図3】本発明にかかるエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【
図4】本発明にかかるエピタキシャルシリコンウェーハの一実施形態の断面図である。
【
図5】実施例1および比較例1のエピタキシャルシリコンウェーハの転位ループの評価結果を示すグラフである。
【
図6】実施例4および5のエピタキシャルシリコンウェーハの炭素濃度プロファイルの調査結果を示すグラフである。
【
図7】実施例6および7と比較例4および5のシリコンウェーハの表面でX線トポグラフィー写真である。
【
図8】実施例8,9および比較例6,7の各シリコンウェーハ表面にエピタキシャル層を形成したときのLPD密度、抵抗率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本発明にかかるシリコンウェーハは、直径300mmのシリコンウェーハであり、抵抗率調整用のドーパントであるリン(P)がドープされ抵抗率が0.6mΩ・cm以上1.2mΩ・cm以下とされ、炭素濃度が3.5×1015atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下であるシリコンウェーハである。
本発明で規定する直径300mmのシリコンウェーハとは、加工誤差などもあるため、直径300±0.5mmのシリコンウェーハを意味するものである。
また、本発明にかかるエピタキシャルシリコンウェーハは、上記シリコンウェーハ上にシリコンエピタキシャル層を備えたものである。
【0041】
本発明にかかるエピタキシャルシリコンウェーハを得るための、好適な製造フローを
図3に示す。製造フローは、単結晶インゴット製造工程S1と、裏面酸化膜形成工程S2と、外周部酸化膜除去工程S3と、アルゴンアニール工程S4と、プリベーク工程S5と、エピタキシャル層形成工程S6を有することが望ましい。
【0042】
単結晶インゴット製造工程S1では、図示しない単結晶インゴット引き上げ装置を用いたCZ法(チョクラルスキー法)にて、n型ドーパントとしてリンをドープした、直径300mmの単結晶シリコンインゴットを以下の条件を満たすように製造する。
【0043】
(リン濃度)
単結晶インゴット中のリン濃度が6×1019atoms/cm3以上1.32×1020atoms/cm3以下となるように赤燐(リン)をドープすることで、抵抗率が0.6mΩ・cm以上1.2mΩ・cm以下の単結晶インゴットを得ることができる。
育成する単結晶インゴットの直径が大きくなるほど、単結晶インゴット育成時に有転位化を生じ易くなるため、現状、直径300mmの単結晶インゴットの育成において、抵抗率が0.6mΩ・cm未満の単結晶インゴットを無転位で育成することは困難な状況にある。無転位で安定的に単結晶インゴットを育成する観点からは抵抗率を0.8mΩ・cm以上とすることがより望ましい。
【0044】
また、抵抗率が低くなるほどシリコンエピタキシャル層に発生するSF密度は増加することになり、抵抗率が1.0mΩ・cm以下になると特にSFが発生し易くなるため、炭素添加による効果がより発揮されることになる。このため、リン濃度を8.3×1019atoms/cm3以上として抵抗率を1.0mΩ・cm以下とすることが望ましい。シリコンウェーハのリン濃度は、シリコンウェーハ厚み中心部におけるリン濃度を二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて測定した値である。リン濃度は四探針法により測定した抵抗率からSEMI MF723-0307に規定される計算式またはグラフを用いて求めることもできる。
なお、シリコン原料を溶解する前にリンをドープすると、シリコン原料溶解時にリンが蒸発してしまい、所望とする抵抗率が得られなくなってしまうため、シリコン原料溶解後のシリコン融液に赤燐(リン)をドープすることが望ましい。
【0045】
(炭素濃度)
単結晶インゴット中の炭素濃度が3.5×1015atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下となるように、シリコン原料ともに炭素粉末をルツボ内に添加し溶解することで、所定濃度の炭素濃度を有する単結晶インゴットを育成することができる。
炭素濃度を3.5×1015atoms/cm3以上とすることで、シリコンウェーハ内に形成される転位ループ欠陥のサイズ・密度を減少させることができ、エピタキシャル成長処理後にエピタキシャル層で発生するSF密度を大幅に低減することできる。
なお、炭素濃度を高めるほどエピタキシャル層に発生するLPD密度(SF密度)の低減効果がより高められ、炭素濃度を1×1016atoms/cm3以上とすることがより望ましく、炭素濃度を3×1016atoms/cm3以上とすることが更に望ましい。一方、炭素濃度が5×1017atoms/cm3を超えてしまうと、単結晶インゴットの育成過程で単結晶に有転位化が発生し易くなり、無転位で単結晶インゴットを育成することが困難となる。単結晶インゴット製造の安定化の観点からは、炭素濃度を3×1017atoms/cm3を以下とすることがより望ましい。
【0046】
(酸素濃度)
シリコンウェーハの酸素濃度が高い場合には、後述するように、デバイス耐圧特性を悪化させる傾向があることから、単結晶インゴット中の酸素濃度を低くすることが望ましく、酸素濃度を4×1017atoms/cm3以上10×1017atoms/cm3以下の範囲にすることが望ましい。
低酸素濃度の単結晶インゴットを育成するには、シリコン融液に磁場を印加することが望ましく、周知の水平磁場あるいはカスプ磁場を印加すればよく、シリコン融液を収容するルツボの回転数を遅くする、引上げ装置炉内の圧力を低くすることなどにより、単結晶内に取り込まれる酸素濃度を所望とする濃度にまで低下させることができる。
なお、酸素濃度が4×1017atoms/cm3未満では、シリコンウェーハの強度が低く、高温の熱処理を受けた際にスリップ転位が発生するおそれがあるため、酸素濃度を4×1017atoms/cm3以上とすることが望ましい。
【0047】
この後、単結晶インゴット製造工程S1で製造した単結晶インゴットからシリコンウェーハを切り出し、所定の加工処理(研削処理、エッチング処理、研磨処理など)を施して表面粗さ・平坦度に優れる鏡面シリコンウェーハとする。
【0048】
裏面酸化膜形成工程S2では、CVD装置を用いて以下の条件範囲で、シリコンウェーハの裏面に酸化膜(以下、裏面酸化膜という)を形成することが望ましい。
原料ガス:モノシラン(SiH4)と酸素(O2)の混合ガス
裏面酸化膜の厚さ:100nm以上1500nm以下
成膜温度:400℃以上450℃以下
このような裏面酸化膜を設けることによって、オートドープ現象が抑制されエピタキシャル層の抵抗変動を抑制することができる。
【0049】
裏面酸化膜形成工程S2において、シリコンウェーハの裏面のみに酸化膜を形成することは困難であり、裏面酸化膜形成工程S2後のシリコンウェーハの端部(面取り部)には不可避的に酸化膜が形成されてしまうことになる。酸化膜表面上にエピタキシャル層を形成してしまうと、当該部位においてノジュール(粒状シリコン)が発生するおそれがあるため、シリコンウェーハの端部およびウェーハ裏面外周部に形成された酸化膜を除去しておくことが望ましい。
【0050】
このため、外周部酸化膜除去工程S3では、研磨やエッチングなどの各種手法を用いて、シリコンウェーハの端部(面取り部)およびウェーハ裏面外周部に存在する酸化膜を除去すればよく、ウェーハ裏面外周部に存在する酸化膜の除去幅は、シリコンウェーハの外縁から5mm未満であることが好ましい。
このようにシリコンウェーハの端部および裏面酸化膜の外周部を除去することによって、シリコンエピタキシャル層の成長時におけるノジュールの発生を防止することができ、ウェーハエッジ部からのパーティクル発生を防止することができる。
【0051】
アルゴンアニール工程S4では、以下の条件範囲で熱処理を行うことが望ましい。
ガス雰囲気:アルゴンガス
熱処理温度:1150℃以上1250℃以下
熱処理時間:30分以上120分以下
熱処理装置としては、複数のシリコンウェーハを一度に熱処理が行えるバッチ炉(縦型熱処理装置)を用いて熱処理することが望ましい。
高濃度の炭素ドープにより、シリコンウェーハへのサイズの大きな転位ループ欠陥の発生が抑制され、シリコンウェーハに存在するサイズの小さな転位ループ欠陥はシリコンウェーハにアルゴンアニールを施すことによって消滅させることができ、エピタキシャル層へのSFの発生を可及的に低減することができる。
【0052】
また、エピタキシャル成長処理前に、シリコンウェーハに対してアルゴンアニールを実施することにより、エピタキシャル層形成工程S6時に生じるシリコンウェーハからシリコンエピタキシャル層への炭素の拡散を低減することができる。この点について以下に説明する。
図4(a)はアルゴンアニールによってシリコンウェーハ表層部に形成される低炭素濃度層を示す模式図である。
図4(a)に示すように、シリコンウェーハ11に高温のアルゴンアニールを施すことによって、シリコンウェーハ11の表層部の炭素は外方拡散し、表層部の炭素濃度は低下する。これにより、炭素の外方拡散が起きていないシリコンウェーハ11の厚み中心部Cの炭素濃度よりも炭素濃度が低い低炭素濃度層12がシリコンウェーハ11の表裏面側に形成される。
【0053】
図4(b)はアルゴンアニールしたシリコンウェーハにエピタキシャル成長処理したときの炭素濃度プロファイルを示す模式図である。
図4(b)に示すように、エピタキシャル層形成工程S6後の炭素濃度は、シリコンウェーハ表層部の炭素濃度が低下した濃度プロファイルを示すことになる。ここで、炭素の外方拡散が起きていないシリコンウェーハ11の厚み中心部Cの炭素濃度の0.9倍以下となる領域を低炭素濃度層12と定義した場合、エピタキシャル成長処理後において、シリコンエピタキシャル層13と接するシリコンウェーハ11の表面側に形成される低炭素濃度層12の深さDを、シリコンウェーハ11とシリコンエピタキシャル層13の境界からシリコンウェーハ11の厚み方向に5μm以上15μm以下とすることができる。
この低炭素濃度層12の形成により、エピタキシャル層形成工程S6時に生じるシリコンウェーハ11からシリコンエピタキシャル層13への炭素の拡散をより低減することができる。低炭素濃度層12の厚みはアルゴンアニールの熱処理温度、時間を調整することにより、任意に厚みを調整することができる。
【0054】
水素および塩化水素を含むガス雰囲気下でのプリベーク工程S5では、エピタキシャル装置内(アプライドマテリアル社製:Centura(登録商標))において、シリコンウェーハに対して以下の条件範囲で熱処理を行うことが望ましい。
雰囲気:水素ガス、塩化水素ガス
水素ガスの流量:40L/分
塩化水素ガスの流量:1L/分
熱処理温度:1050℃以上1250℃以下
熱処理時間:30秒以上300秒以下
【0055】
プリベーク工程S5によるシリコンウェーハ表層部の取代は、100nm以上300nmであることが好ましく、150nm±10nmであることがさらに好ましい。
【0056】
エピタキシャル層形成工程S6では、プリベーク工程S5を行ったシリコンウェーハに対して以下の条件範囲でエピタキシャル層を成長させることが望ましい。
ドーパントガス:フォスフィン(PH3)ガス
原料ソースガス:トリクロロシラン(SiHCl3)ガス
キャリアガス:水素ガス
成長温度:1050℃以上1150℃以下
エピタキシャル層の厚さ:1μm以上10μm以下
エピタキシャル層の抵抗率:0.01Ω・cm以上10Ω・cm以下
リン濃度:4.44×1014atoms/cm3以上4.53×1018atoms/cm3以下
エピタキシャル層形成工程S6を行うことによって、シリコンウェーハの表面にシリコンエピタキシャル層が形成されたエピタキシャルシリコンウェーハが製造される。
【0057】
上記プロセスフローを実施することにより、エピタキシャル層へのSFの発生を低減可能なシリコンウェーハの提供および、エピタキシャル層のSF密度が低減されたエピタキシャルシリコンウェーハの提供を行うことができる。
具体的には、直径が300mmで、抵抗率が0.6mΩ・cm以上1.2mΩ・cm以下となるようにリンが添加され、炭素濃度が3.5×1015atoms/cm3以上5×1017atoms/cm3以下となるように炭素が高濃度にドープされたシリコンウェーハを提供するもので、従来存在しない新規なシリコンウェーハである。
【0058】
炭素ドープによって、サイズの大きな転位ループの欠陥密度が低減されたシリコンウェーハとなる。このシリコンウェーハは、エピタキシャル欠陥(エピタキシャル層表面で観察されるLPD/SF)の発生を低減することができる、エピタキシャル成長用バルクウェーハとして有効に機能する。
【0059】
また、シリコンウェーハの酸素濃度を4×1017atoms/cm3以上10×1017atoms/cm3以下とすることによって、炭素をドープした場合においても、デバイス耐圧の不良を防止することができる。
【0060】
また、シリコンエピタキシャル層を形成する前のシリコンウェーハにアルゴンアニールを施すことによって、シリコンウェーハの表層部の炭素濃度が低下し、シリコンエピタキシャル層形成時に生じるシリコンエピタキシャル層への炭素拡散量を低減することができる。
シリコンエピタキシャル層への炭素拡散量を低減させたことにより、エピタキシャルシリコンウェーハにデバイスを作製するデバイス工程における熱処理時に、シリコンエピタキシャル層中の取り込まれた炭素を起因とした欠陥発生による電気特性の劣化を抑制することができる。
【0061】
なお、上記実施形態ではシリコンウェーハの抵抗率を0.6mΩ・cm以上1.2mΩ・cm以下としたが、より低抵抗化されたシリコンウェーハとして、抵抗率は1.0mΩ・cm以下とすることが好ましい。抵抗率が低くなるほどエピタキシャル層へのSF発生が顕著となるため、本発明の炭素ドープの効果がより発揮される。
【0062】
さらに、本実施形態のシリコンウェーハは、抵抗率が1.2mΩ・cm以下となるようにリンをドープしたシリコン融液から単結晶インゴットから製造される。リンが高濃度に添加されていることにより、単結晶インゴットの製造過程で酸化誘起積層欠陥(OSF:Oxidation induced Stacking Fault)が発生するOSFリング領域がインゴット中心で消滅した、COPが存在しない結晶領域となる。すなわち、本実施形態のシリコンウェーハは、リンの高濃度添加によりCOPが存在しないウェーハとすることができ、エピタキシャル層にCOPを起因とした欠陥の発生を防止することができる。
【実施例0063】
以下、本発明の実施例および比較例の実験条件および評価結果について説明する。
<転位ループ評価>
以下の実施例1および比較例2について、転位ループに関する評価を行った。
<実施例1>
実施例1では、
図3を参照して説明したエピタキシャルシリコンウェーハの製造フローの条件範囲にてエピタキシャルシリコンウェーハを製造した。単結晶インゴットの育成条件は、シリコン原料を溶解する前に炭素粉末を添加すると共に、単結晶インゴット直胴部の上端で抵抗率が1.0mΩ・cmとなるように原料溶解後のシリコン融液にリンを添加して単結晶インゴットを製造した。
炭素を添加した単結晶インゴット直胴部のトップ側のインゴット位置からサンプルウェーハを切り出し、所定の加工処理を施して鏡面シリコンウェーハを製作した。このシリコンウェーハの抵抗率を四探針法で測定したところ、抵抗率は0.9mΩ・cmであり、シリコンウェーハの炭素濃度は1×10
16atoms/cm
3であった。
【0064】
<比較例1>
上記実施例1と比較して、単結晶インゴットの育成段階で炭素ドープを行わないこと以外は、実施例1と同一の製造条件でシリコンウェーハを製造した。実施例1と同様に、抵抗率が0.9mΩ・cmのサンプルウェーハを切り出し、所定の加工処理を施して鏡面シリコンウェーハを製作した。
【0065】
実施例1および比較例1のシリコンウェーハを厚み方向に劈開し、劈開断面を透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で観察した。
図5は、実施例1および比較例1のシリコンウェーハの転位ループの評価結果を示すグラフである。
図5の横軸は転位ループサイズであり、縦軸は転位ループ密度である。
図5(a)は炭素をドープしなかった比較例1のシリコンウェーハの結果を示すもので、SF核発生温度帯域滞在時間が長くなる結晶トップ側で切り出したサンプルウェーハであるため、60nmを超える大きな転位ループ欠陥が多数観察された。
一方、
図5(b)は炭素を高濃度にドープした実施例1のシリコンウェーハの結果を示すもので、SF核発生温度帯域滞在時間が長くなる結晶トップ側で切り出したサンプルウェーハであるため、サイズの小さな転位ループが多数観察されたものの、60nmを超える大きな転位ループの密度が大きく低下することが確認できた。
すなわち、炭素ドープによりシリコンウェーハに形成されるサイズの大きな転位ループの密度が低下することが確認された。
【0066】
〔LPD密度評価〕
SF核が形成される温度帯域の滞在時間が長くなるインゴット直胴部のトップ側から切り出したサンプルシリコンウェーハを用いてシリコンエピタキシャル層を形成した場合、エピタキシャル層でSFが多発しLPD密度が増加するため、本実験では直胴部のトップ側から切り出した以下の実施例2、3および比較例2、3のサンプルシリコンウェーハを作成し、エピタキシャル層形成後のエピタキシャル層表面で観察されるLPD密度を測定した。
以下、各実施例および各比較例における共通処理工程として実施した、裏面酸化膜形成工程およびエピタキシャル層形成工程の具体的条件は以下の通りである。
[裏面酸化膜形成条件]
各シリコンウェーハの裏面(エピタキシャル膜の形成面と反対の面)に、以下の条件にて裏面酸化膜を形成した。
原料ガス:モノシラン(SiH4)と酸素(O2)の混合ガス
成膜方法:CVD法
成膜温度:400℃
裏面酸化膜の厚さ:550nm
各シリコンウェーハの面取り部および裏面外周部に存在する酸化膜をエッチング処理により除去した。
[水素ベーク処理条件]
雰囲気:水素ガス
熱処理温度:1200℃
熱処理時間:30秒
[エピタキシャル膜成長条件]
ドーパントガス:フォスフィン(PH3 )ガス
原料ソースガス:トリクロロシラン(SiHCl3)ガス
キャリアガス:水素ガス
成長温度:1080℃
エピタキシャル膜の厚さ:4μm
抵抗率( エピタキシャル膜抵抗率):0.3Ω・cm
<比較例2>
炭素ドープを行わず、転位ループが多数観察された比較例1のシリコンウェーハ表面上に厚さ4μmのシリコンエピタキシャル層を形成してエピタキシャルシリコンウェーハを製造した。
【0067】
<比較例3>
比較例1のシリコンウェーハにアルゴンアニール(アルゴンガス雰囲気中で1200℃×30分の熱処理)を施した後、シリコンウェーハ表面上に厚さ4μmのシリコンエピタキシャル層を形成してエピタキシャルシリコンウェーハを製造した。
【0068】
<実施例2>
炭素ドープを行った実施例1のシリコンウェーハに対してアルゴンアニールを施さずに、シリコンウェーハ表面上に厚さ4μmのシリコンエピタキシャル層を形成してエピタキシャルシリコンウェーハを製造した。
【0069】
<実施例3>
炭素ドープを行った実施例1のシリコンウェーハにアルゴンアニール(アルゴンガス雰囲気中で1200℃×30分の熱処理)を施した後、シリコンウェーハ表面上に厚さ4μmのシリコンエピタキシャル層を形成してエピタキシャルシリコンウェーハを製造した。実施例2,3、比較例2,3ともエピタキシャル成長処理条件は同一条件である。
【0070】
比較例2のエピタキシャルシリコンウェーハのシリコンエピタキシャル層表面のLPD密度を表面欠陥検査装置(KLA-Tencor社製、Surfscan SP-1)を用いて測定した。具体的には、Normalモード(DCNモード)で測定し、エピタキシャル膜表面で観察される90nmサイズ以上のLPD密度を測定した。測定エリアは、エピタキシャルシリコンウェーハの最外周から径方向内側に3mmまでの環状領域を除くエピタキシャル層表面とした。カウントされたLPD個数はSF個数と見做すことができる。その結果、検出個数が多すぎてオーバーフロー(10万個/ウェーハ以上)してしまい、LPD測定そのものが行えなかった。
シリコンウェーハにアルゴンアニールを施した比較例3では、比較例2に比べてLPD密度を低減できたものの、1055個/ウェーハのLPDが観察された。以下、各実施例および各比較例のLPD密度を比較例2の測定条件と同条件で測定した。
【0071】
実施例2のエピタキシャルシリコンウェーハのシリコンエピタキシャル層表面のLPD密度を測定したところ、検出個数が多すぎてオーバーフロー(10万個/ウェーハ以上)してしまい、LPD測定そのものが行えなかった。これは、炭素ドープによりシリコンウェーハには大きなサイズの複合転位ループの密度は少なくなったものの、60nm未満のサイズの小さな転位ループが多数存在することによるものと推測される。
【0072】
エピタキシャル成長処理前に、シリコンウェーハにアルゴンアニールを施した実施例3では、エピタキシャル層表面のLPD密度は大きく低下し、108個/ウェーハのLPD密度となった。これは、アルゴンアニールにより、シリコンウェーハ表層部に存在する60nm未満のサイズの小さな転位ループが消失したことによるものと考えられる。
【0073】
以上より、炭素をドープするとともに、シリコンウェーハにアルゴンアニールを施した場合には、シリコンエピタキシャル層へのSF発生の低減効果が高まり、エピタキシャル層形成後のLPD密度を比較例3と比べて1/10程度にまで低下できることが明らかとなった。
【0074】
〔炭素濃度プロファイル評価〕
高濃度に炭素ドープを行うと、シリコンエピタキシャル層形成時などの熱処理により、シリコンエピタキシャル層への炭素拡散を生じてしまうため、シリコンエピタキシャル層への炭素拡散の挙動に関する評価を行った。
<実施例4>
炭素濃度が高いシリコンウェーハ(ウェーハ厚み中心部の炭素濃度:3.8×1016atoms/cm3)を準備し、アルゴンアニールを施すことなく実施例2と同様のシリコンエピタキシャル層を形成したエピタキシャルシリコンウェーハを製造した。
<実施例5>
実施例4と同様のシリコンウェーハに実施例3と同様のアルゴンアニールを施した後、シリコンエピタキシャル層を形成したエピタキシャルシリコンウェーハを製造した。
【0075】
図6は、実施例4および実施例5のエピタキシャルシリコンウェーハについて二次イオン質量分析法を用いて測定した炭素濃度プロファイルの調査結果を示すグラフである。
図6の横軸はエピタキシャルシリコンウェーハ表面からの深さであり、縦軸は炭素濃度である。エピタキシャルシリコンウェーハ表面から深さ4μmに、シリコンエピタキシャル層とシリコンウェーハの界面があることがわかる。
【0076】
シリコンウェーハにアルゴンアニールを施さなかった実施例4は、低炭素濃度層の幅は1μm未満であった。一方、シリコンエピタキシャル層の形成前にアルゴンアニールを施した実施例5は、シリコンエピタキシャル層とシリコンウェーハの界面からウェーハの深さ方向に、厚さ7.6μmの低炭素濃度層が形成され、シリコンエピタキシャル層の炭素濃度はシリコンウェーハとの界面部近傍を除き、ほぼエピタキシャル層全域に亘り、炭素濃度が検出限界以下(2×1015atoms/cm3以下)であることが確認された。
なお、低炭素濃度層の厚みはアルゴンアニール条件に依存し、例えば、その他の条件は全て実施例5と同条件とし、1150℃×10minの熱処理条件に変更した場合は5.6μm、1200℃×10minの場合は7.3μm、1150℃×60minの場合は7.3μm、1200℃×60minの場合は9.4μm、1300℃×60minの場合は15μmであった。すなわち、アルゴンアニールにおける熱処理温度、時間を調整することにより任意に低炭素濃度層の厚みを調整することができる。すなわち、アルゴンアニールにおける熱処理温度、時間を調整することにより任意に低炭素濃度層の厚みを調整することができる。シリコンウェーハ表層部に所定厚みの低炭素濃度層を形成しておくことにより、シリコンウェーハからエピタキシャル層への炭素の拡散量を低減することができる。
【0077】
〔スリップ転位評価〕
以下の比較例4,5、実施例6,7について、炭素ドープ、アルゴンアニールの有無によるスリップ転位(シリコンの結晶面に沿った欠陥)発生の有無について調査した。
なお、比較例4,5、実施例6,7のシリコンウェーハに共通する仕様・条件を以下に列挙する。
抵抗率:0.91mΩ・cm
炭素濃度:3.87×1016atoms/cm3
また、アルゴンアニールを施す比較例5、実施例7におけるアルゴンアニールは、アルゴンガス雰囲気中で1200℃×30分の熱処理である。
また、以下の説明における「エピタキシャル層成長条件に対応した熱処理」とは、エピタキシャル装置(アプライドマテリアル社製:Centura(登録商標))内に原料ソースガスは導入せずに行う熱処理であり、水素ガス雰囲気内で1150℃で1分の熱処理を意味する。
<比較例4>
炭素ドープを行わなかったシリコンウェーハに対してアルゴンアニールを施すことなく、エピタキシャル層成長条件に対応した熱処理を行った(熱処理のみでシリコンエピタキシャル層は成長させなかった。)。
<比較例5>
炭素ドープを行わなかったシリコンウェーハに対してアルゴンアニールを施し、エピタキシャル層成長条件に対応した熱処理を行った。
<実施例6>
炭素ドープを行ったシリコンウェーハに対してアルゴンアニールを施すことなく、エピタキシャル層成長条件に対応した熱処理を行った。
<実施例7>
炭素ドープを行ったシリコンウェーハに対してアルゴンアニールを施し、エピタキシャル層成長条件に対応した熱処理を行った。
【0078】
それぞれのシリコンウェーハに対して、X線トポグラフィーにてウェーハ表面で観察されるスリップ転位の有無を確認した。その結果、
図7に示すように、何れのシリコンウェーハにもスリップ転位は確認されず、高濃度に炭素ドープを行った場合においても、スリップ転位が発生しないことを確認できた。
【0079】
〔抵抗率と炭素濃度とLPD密度に関する検証〕
以下の比較例6,7、実施例8,9について、抵抗率と炭素濃度とLPD密度との相関関係を検証するため、複数の条件でシリコンウェーハを製造し、各シリコンウェーハの表面上にエピタキシャル層を形成し、エピタキシャル層表面で観察されるLPD密度の測定を行った。
なお、以下の比較例7、実施例9におけるアルゴンアニールは、アルゴンガス雰囲気中で1200℃×30分の熱処理である。
<比較例6>
炭素ドープは行わず、単結晶インゴット直胴部の上端の抵抗率が1.0mΩ・cmとなるようにリンをドープして抵抗率範囲が0.6mΩ・cm以上1.0mΩ・cm以下の単結晶インゴットを育成し、単結晶インゴットから抵抗率が異なる複数のシリコンウェーハを製造した。各シリコンウェーハにアルゴンアニールを施さずに、厚さ4μmのエピタキシャル層を形成した。
<比較例7>
比較例6と同様に、炭素ドープは行わず、抵抗率範囲が0.6mΩ・cm以上1.0mΩ・cm以下の単結晶インゴットを育成し、単結晶インゴットから抵抗率が異なる複数のシリコンウェーハを製造した。炭素ドープは行わず、各シリコンウェーハにアルゴンアニールを施した後、厚さ4μmのエピタキシャル層を形成した。
【0080】
<実施例8>
比較例6と同様に、抵抗率範囲が0.6mΩ・cm以上1.0mΩ・cm以下の単結晶インゴットを育成し、単結晶インゴットから抵抗率が異なる複数のシリコンウェーハを製造した。単結晶インゴット直胴部の上端の炭素濃度が3×1016atoms/cm3となるように炭素ドープを行ったが、各シリコンウェーハにアルゴンアニールを施さずに、厚さ4μmのエピタキシャル層を形成した。
<実施例9>
比較例6と同様に、抵抗率範囲が0.6mΩ・cm以上1.0mΩ・cm以下の単結晶インゴットを育成し、単結晶インゴットから抵抗率が異なる複数のシリコンウェーハを製造した。単結晶インゴット直胴部の上端の炭素濃度が3×1016atoms/cm3となるように炭素ドープを行い、各シリコンウェーハにアルゴンアニールを施した後、厚さ4μmのエピタキシャル層を形成した。
【0081】
図8は、実施例8、実施例9および比較例6、比較例7の各エピタキシャルシリコンウェーハそれぞれについて、シリコンウェーハの抵抗率とエピタキシャル層表面で観察されたLPD密度の関係を示すグラフである。
図8の横軸は、育成したインゴット直胴部の全体長さの固化量を1としたときの、シリコンウェーハが切り出された位置をインゴット直胴部の固化率で示したものである。
【0082】
図8に示されるように、炭素ドープを行い、かつ、エピタキシャル成長処理前にアルゴンアニールを施さなかった実施例8では、トップ側の結晶領域である固化率0.1近傍のインゴット直胴部位置から切り出されたシリコンウェーハでは約20000個/ウェーハ程度のLPD密度が観察され、LPD密度の低減効果が確認されたものの、固化率0.3近傍のインゴット直胴部位置から切り出されたシリコンウェーハではLPD密度はオーバーフローした。また、ボトム側の結晶領域から切り出したシリコンウェーハを用いた場合は、抵抗率0.6mΩ・cmという極めて抵抗率のシリコンウェーハであっても、LPD密度を130個/ウェーハ以下にすることができた。
【0083】
炭素ドープを行い、かつ、エピタキシャル成長処理前にシリコンウェーハにアルゴンアニールを施した実施例9では、トップ側の結晶領域から切り出したシリコンウェーハを用いた場合であっても、LPD密度を100個/ウェーハ以下とすることができた。これは、高濃度の炭素ドープにより転位ループ欠陥の微細化を図るとともに、シリコンウェーハにアルゴンアニールを施すことによって微細化した転位ループ欠陥を消滅させたことによるもので、高濃度の炭素ドープとアルゴンアニールの相乗効果によるSFの低減効果は極めて大きいことが明らかとなった。一方、SF核発生温度帯域滞在時間が短くなるボトム側の結晶領域(固化率0.55以上の結晶領域)から切り出したシリコンウェーハを用いた場合には、LPD密度をすべて10個/ウェーハ以下とすることができた。
【0084】
一方、炭素ドープを行わず、シリコンウェーハにアルゴンアニールを施さなかった比較例6では、トップ側の結晶領域から切り出したシリコンウェーハを用いた場合は、LPD密度はオーバーフローし、ボトム側の結晶領域から切り出したシリコンウェーハを用いた場合はLPD密度が大きく低下するものの、抵抗率0.6mΩ・cmのシリコンウェーハではLPD密度が250個/ウェーハ以上となった。
また、炭素ドープを行わず、エピタキシャル成長処理前にシリコンウェーハにアルゴンアニールを施した比較例7では、比較例6と比較するとLPD密度を減少させることができたが、トップ側の結晶領域から切り出したシリコンウェーハを用いた場合は、LPD密度が500個/ウェーハから1100個/ウェーハとなった。
【0085】
以上の結果より、3×1016atoms/cm3以上の炭素ドープを行い、かつ、エピタキシャル成長処理前にシリコンウェーハにアルゴンアニールを施すことで、単結晶インゴットの全ての結晶領域でエピタキシャル層表面で観察されるLPD密度を少なくとも100個/ウェーハとすることができることがわかった。また、シリコンウェーハにアルゴンアニールを施さなくても、炭素ドープを行うことで、ボトム側の結晶領域ではLPD密度を130個/ウェーハ以下とすることができた。なお、本実施例は開発を行った全ての実験例を開示するものではないが、本発明者は、少なくとも3.5×1015atoms/cm3以上の高濃度の炭素添加であれば、炭素添加をしなかった場合に比べて、抵抗率が0.6mΩ・cm~1.2mΩ・cmのシリコンウェーハに対して、エピタキシャル成長処理後のLPD密度を低減できることを確認した。
【0086】
〔デバイス耐圧特性の評価〕
デバイス耐圧特性の評価を行った。
ここで、デバイス耐圧とは、半導体デバイスの品質特性のひとつで、半導体デバイスを構成するゲートとソース間を短絡させた状態で、ドレインとソース間の電圧を徐々に増加させていき、ブレークダウンしたときの電圧を意味する。
【0087】
半導体デバイスが作製されるエピタキシャル層にシリコンウェーハ中の酸素が拡散してしまうと、デバイス耐圧特性に影響を与えることが懸念される。このため、本発明者らは、酸素濃度が異なる6水準の酸素濃度のシリコンウェーハを準備し、各シリコンウェーハにシリコンエピタキシャル層を形成し、酸素濃度の違いによってデバイス耐圧特性に差異があるかどうかを調べた。さらに、シリコンウェーハへの炭素ドープの有無によってデバイス耐圧特性に差異があるかどうかを調べた。
【0088】
具体的には、表1に示すサンプル1~12の各エピタキシャルシリコンウェーハに対して半導体デバイスを作製し、半導体デバイスを構成するゲートとソース間を短絡させた状態で、ドレインとソース間に所定の電圧を印加し、ブレークダウンした場合を耐圧特性「不可」と判定し、ブレークダウンしなかった場合を耐圧特性「良」と判定した。
【0089】
サンプル1~6のエピタキシャルシリコンウェーハは、直径300mmで、リンが添加され抵抗率が0.9mΩcmのシリコンウェーハ上に厚さ4μmのシリコンエピタキシャル層を形成したものであって、炭素を添加せずに、酸素濃度が異なる6水準のシリコンウェーハそれぞれにエピタキシャル層を形成したサンプルウェーハである。
サンプル7~12のエピタキシャルシリコンウェーハは、サンプル1~6と同様に、直径300mmで、リンが添加され抵抗率が0.9mΩcmのシリコンウェーハ上に厚さ4μmのシリコンエピタキシャル層を形成したものであって、炭素濃度が3.8×1016atoms/cm3とし、酸素濃度が異なる6水準のシリコンウェーハそれぞれにエピタキシャル層を形成したサンプルウェーハである。
なお、炭素濃度および酸素濃度はシリコンウェーハを研磨加工により薄膜化し、シリコンウェーハ厚み中心部における濃度をSIMSにより測定した値である。
【0090】
【0091】
表1に示されるように、サンプル7~9では、炭素ドープした場合は、デバイス耐圧の不良が生じ易いことが確認された。しかしながら、炭素ドープした場合においても、酸素濃度を10×1017atoms/cm3以下とすることにより、デバイス耐圧の不良を防止できることが確認された。