(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070182
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】ニッケルペーストおよび導体用膜
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20230511BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
H01G4/30 201D
H01B1/22 A
H01B1/22 B
H01G4/30 516
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178002
(22)【出願日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2021182154
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】宮内 恭子
(72)【発明者】
【氏名】松村 吉章
(72)【発明者】
【氏名】白木 真菜
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
5G301
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E082AB03
5E082EE22
5E082EE23
5E082EE29
5G301DA10
5G301DA33
5G301DA37
5G301DA42
5G301DD01
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】 コンデンサ等の容量を著しく低下させることなく、内部電極等を作製する際の内部電極用膜の焼成時の熱収縮を抑制することのできる、ニッケルペーストおよび導体用膜を提供する。
【解決手段】 ニッケル粉と、有機溶剤と、バインダー樹脂と、を含むニッケルペーストであって、前記ニッケル粉は、単位比表面積(m2/g)当たりの酸素比率が0.18%以上0.40%以下であり、前記ニッケルペースト中の前記ニッケル粉の含有量が45質量%以上70質量%以下である、ニッケルペースト。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル粉と、
有機溶剤と、
バインダー樹脂と、を含むニッケルペーストであって、
前記ニッケル粉は、単位比表面積(m2/g)当たりの酸素比率が0.18%以上0.40%以下であり、
前記ニッケルペースト中の前記ニッケル粉の含有量が45質量%以上70質量%以下である、ニッケルペースト。
【請求項2】
さらにセラミック材料を含み、前記ニッケル粉と前記セラミック材料との質量比が100:6以下である、請求項1に記載のニッケルペースト。
【請求項3】
前記セラミック材料が、チタン酸バリウム、シリカ、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、炭化珪素から選択される少なくとも1種以上である、請求項2に記載のニッケルペースト。
【請求項4】
前記セラミック材料がチタン酸バリウムである、請求項2または3に記載のニッケルペースト。
【請求項5】
ニッケル粉と、
バインダー樹脂と、を含む導体用膜であって、
前記ニッケル粉は、単位比表面積(m2/g)当たりの酸素比率が0.18%以上0.40%以下であり、
前記導体膜中の前記ニッケル粉の含有量が70質量%以上95質量%以下であり、
相対湿度40~90%雰囲気下、かつ、水素と窒素の体積比が0.05以上4未満:96を超え99.95以下である水素‐窒素混合ガス雰囲気下で熱機械分析した際の700℃以上850℃以下における体積収縮率が5%未満である、導体用膜。
【請求項6】
さらにセラミック材料を含み、前記ニッケル粉と前記セラミック材料との質量比が100:6以下である、請求項5に記載の導体用膜。
【請求項7】
前記セラミック材料が、チタン酸バリウム、シリカ、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、炭化珪素から選択される少なくとも1種以上である、請求項6に記載の導体用膜。
【請求項8】
前記セラミック材料がチタン酸バリウムである、請求項6または7に記載の導体用膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルペーストおよび導体用膜に関する。特に積層セラミックコンデンサや、その他のセラミック電子部品(種々の回路素子を包含する。)に導体膜(内部電極等)を形成する用途に用いられるニッケルペーストおよび導体用膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器の小型化・高機能化に伴い、他のコンデンサに比べて小型かつ高容量である積層セラミックコンデンサ(MLCC)等のセラミック電子部品が多用されている。例えば、積層セラミックコンデンサは、導電性金属粉末を含む内部電極層と誘電体層(セラミック層)とを交互に積層することによって形成されており、コンデンサを高容量化するべく誘電体層および/または内部電極層の多層化、薄層化が強く求められている。
【0003】
上記積層セラミックコンデンサは、チタン酸バリウムなどに代表されるセラミック粉末とバインダーを主成分とする未焼成のセラミックグリーンシートに、内部電極層を形成するためにペースト状に調製された導電性材料(以下「内部電極用ペースト」という。)を付与して、これらを複数積層した後、同時焼成して一体焼結させ、最後に外部電極を形成して製造され得る。導体膜を形成するための内部電極用ペーストとしては、例えば、ニッケル粉末(導電性粉末材料)を有機ビヒクル(分散媒体)に分散したニッケルペースト等が用いられる。内部電極用ペーストには、上記ニッケル粉末に加えて、チタン酸バリウム等のセラミック粉末からなる共材が添加されることにより、焼成時の熱収縮(焼結)が抑制される。この種の従来技術を開示する文献として、特許文献1および2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-330247号公報
【特許文献2】特開2007-157563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ニッケルペーストにチタン酸バリウムを添加すると、例えば内部電極等を作製する際の内部電極用膜の焼成時の熱収縮は抑制されるが、内部電極用膜中に誘電体であるチタン酸バリウムの量が増えると共にニッケルの量が減る結果、コンデンサとしての容量は低下することとなる。
【0006】
そこで、本発明では、コンデンサ等の容量を著しく低下させることなく、内部電極等を作製する際の内部電極用膜の焼成時の熱収縮を抑制することのできる、ニッケルペーストおよび導体用膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のニッケルペーストは、ニッケル粉と、有機溶剤と、バインダー樹脂と、を含むニッケルペーストであって、前記ニッケル粉は、単位比表面積(m2/g)当たりの酸素比率が0.18%以上0.40%以下であり、前記ニッケルペースト中の前記ニッケル粉の含有量が45質量%以上70質量%以下である。
【0008】
前記ニッケルペーストは、さらにセラミック材料を含み、前記ニッケル粉と前記セラミック材料との質量比が100:6以下であってもよい。
【0009】
前記ニッケルペーストは、前記セラミック材料が、チタン酸バリウム、シリカ、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、炭化珪素から選択される少なくとも1種以上であってもよい。
【0010】
前記ニッケルペーストは、前記セラミック材料がチタン酸バリウムであってもよい。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の導体用膜は、ニッケル粉と、バインダー樹脂と、を含む導体用膜であって、前記ニッケル粉は、単位比表面積(m2/g)当たりの酸素比率が0.18%以上0.40%以下であり、前記導体膜中の前記ニッケル粉の含有量が70質量%以上95質量%以下であり、相対湿度40~90%雰囲気下、かつ、水素と窒素の体積比が0.05以上4未満:96を超え99.95以下である水素‐窒素混合ガス雰囲気下で熱機械分析した際の700℃以上850℃以下における体積収縮率が5%未満である。
【0012】
前記導体用膜は、さらにセラミック材料を含み、前記ニッケル粉と前記セラミック材料との質量比が100:6以下であってもよい。
【0013】
前記導体用膜は、前記セラミック材料が、チタン酸バリウム、シリカ、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、炭化珪素から選択される少なくとも1種以上であってもよい。
【0014】
前記導体用膜は、前記セラミック材料がチタン酸バリウムであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明であれば、コンデンサ等の容量を著しく低下させることなく、内部電極等を作製する際の内部電極用膜の焼成時の熱収縮を抑制することのできる、ニッケルペーストおよび導体用膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(積層セラミックコンデンサの製造プロセス等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
<ニッケルペースト>
本実施形態に係るニッケルペーストは、少なくとも、ニッケル粉と、有機溶剤と、バインダー樹脂と、を含有するニッケルペーストである。また、後述するセラミック材料を含んでもよい。
【0018】
(ニッケル粉)
ニッケル粉としては、湿式法や乾式法等の製法を問わずに種々のニッケル粉末を使用することができる。例えば、CVD法、蒸発急冷法、ニッケル塩やニッケル水酸化物等を用いた水素還元法等のいわゆる乾式法によるニッケル粉末を用いることができる。また、ニッケル塩溶液に対してヒドラジン等の還元剤を用いた湿式還元法等のいわゆる湿式法によるニッケル粉末を用いることができる。これらの中でも、湿式還元法等のいわゆる湿式法によるニッケル粉は、球状で粒子径のバラつきが小さいことから、MLCCの内部電極用の材料として好適である。
【0019】
本実施形態のニッケル粉に含まれる酸素が、単位比表面積(m2/g)当たり0.18%以上0.40%以下である。単位比表面積(m2/g)当たり0.18%以上0.40%以下の酸素比率を示すニッケル粉においては、その酸素が酸化ニッケル(概ねNiO)由来であり、この酸化ニッケルが金属ニッケルよりも融点が高く、ニッケル粒子の耐熱性向上に寄与することが、焼成の際の熱収縮を抑制できる要因として挙げられる。
【0020】
一方、酸素比率が単位比表面積(m2/g)当たり0.18%未満であると、熱収縮の抑制効果は認められない。また、酸素比率が単位比表面積(m2/g)当たり0.33%を超えると、酸化ニッケルに加えて水酸化ニッケルの発生が想定される。水酸化ニッケルは、酸化ニッケルに比べてニッケルペーストの製造工程において解砕できず粗大粒子として残存する可能性があり、MLCCの短絡を生じさせるおそれがあるため、MLCC用途としては好ましくない。すなわち、含有する酸素が、単位比表面積(m2/g)当たり0.18%以上0.40%以下であるニッケル粒子を用いることで、焼成時の熱収縮(焼結)が抑制される。
【0021】
なお、本発明者らの検討によれば、ニッケル粉に含まれる酸素を単位比表面積(m2/g)当たり0.18%以上0.40%以下に制御することにより、内部電極を製造する際の焼結時の導体用膜の収縮率を抑えることができる。
【0022】
ここに開示される技術において、ニッケル粉中の酸素比率は、酸素窒素水素分析装置により把握することができる。酸素窒素水素分析装置は、不活性ガス中において非分散型赤外線吸収法および熱伝導度法から、金属中の酸素窒素水素の含有量を算出する装置である。酸素窒素水素分析装置としては、例えばLECOジャパン合同会社製ONH836を用いることができる。
【0023】
ニッケル粉を構成するニッケル粒子としては、その平均粒子径が500nm以下のものを好ましく採用することができる。MLCC等に用いる導体膜の薄層化等の観点から、ニッケル粒子の平均粒子径は、好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは250nm以下、特に好ましくは200nm以下である。ニッケル粒子の平均粒子径の下限は特に限定されないが、概ね10nm以上にすることが適当であり、耐熱性や取り扱い性等の観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上である。例えばニッケル粒子の平均粒子径は、80nm以上であってもよく、典型的には100nm以上であってもよい。ここに開示される技術は、ニッケル粒子の平均粒子径が10nm以上500nm以下(好ましくは50nm以上250nm以下)である態様で好ましく実施され得る。なお、本明細書において粒子粉末の「平均粒子径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察に基づいて概算された粒度分布における積算値50%での粒径D50(メジアン粒径)を意味する。
【0024】
ニッケルペーストにおけるニッケル粉の含有量は、ペースト全体を100質量%として、その45質量%以上70質量%以下の割合となるようにする。ニッケル粉の含有量が45質量%未満であると、MLCCの内部電極としての導電性が得にくくなるおそれがある。一方、ニッケル粉の含有量が70質量%を超えると、焼成工程においてセラミックシートから剥離しやすくなるおそれがある。
【0025】
(セラミック材料)
また、ニッケルペーストは共材としてセラミック材料を含んでもよい。セラミック材料としては、特に限定されず、例えば、ニッケルペーストがMLCC用の内部電極用ペーストである場合、適用するMLCCの種類により適宜、公知のセラミック粉末が選択される。セラミック粉末としては、例えば、Ba及びTiを含むペロブスカイト型酸化物が挙げられ、好ましくはチタン酸バリウム(BaTiO3)やシリカである。なお、セラミック粉末は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0026】
セラミック粉末としては、チタン酸バリウムを主成分とし、酸化物を副成分として含むセラミック粉末を用いてもよい。酸化物としては、Mn、Cr、Si、Ca、Ba、Mg、V、W、Ta、Nbおよび希土類元素から選ばれる1種類以上からなる酸化物が挙げられる。
【0027】
また、セラミック粉末としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)のBa原子やTi原子を他の原子、例えば、Sn、Pb、Zrなどで置換したペロブスカイト型酸化物強誘電体のセラミック粉末を挙げることもできる。
【0028】
内部電極用の導電性ペースト中のセラミック粉末としては、MLCCのグリーンシートを構成する誘電体セラミック粉末と同一組成の粉末を用いてもよい。これにより、焼結工程における誘電体層と内部電極層との界面での収縮のミスマッチによるクラックの発生が抑制される。このようなセラミック粉末としては、上記のBa及びTiを含むペロブスカイト型酸化物以外に、例えば、ZnO、フェライト、PZT、BaO、Al2O3、Bi2O3、R(希土類元素)2O3、TiO2、Nd2O3等の酸化物が挙げられる。
【0029】
また、本実施形態のニッケルペーストは、有機溶剤を乾燥させて焼結させることにより、バリスタ用途の内部電極を形成することができる。バリスタ用途の場合のセラミック材料としては、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、炭化珪素等の粉末を用いることができる。
【0030】
また、酸化亜鉛に数種類の添加物を加えたセラミックスは、非直線性係数およびエネルギー耐量が大きいことから、バリスタの素材として最も一般的に用いられる。添加物としてはビスマスまたはプラセオジムが非直線性抵抗特性を発生させるために有用である。さらに特性を向上させるためにコバルト、マンガン、クロム、アンチモン等を含めてもよい。
【0031】
また、チタン酸ストロンチウムは誘電率が高いため、コンデンサ兼用バリスタのセラミック材料として有用である。
【0032】
また、炭化珪素は、絶縁破壊電圧が高い性質を利用して高電圧用バリスタのセラミック材料として有用である。
【0033】
セラミック粉末の平均粒径は、例えば、0.005μm以上0.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01μm以上0.3μm以下である。セラミック粉末の平均粒径が上記範囲であることにより、内部電極用ペーストとして用いた場合、十分に細く薄い均一な内部電極を形成することができる。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、粒度分布における積算値50%の粒径(粒径D50(メジアン粒径))をいう。
【0034】
ニッケルペーストがセラミック材料を含む場合には、ニッケル粉とセラミック材料との質量比が100:6以下である。かかる質量比が100:6を超えてセラミック材料を含む場合、ニッケルペースト中のニッケル粉末の比率が低下し、MLCCとした際の内部電極の電気容量が低くなるおそれがある。また、内部電極の電気容量および熱収縮の両方を考慮すると、かかる質量比が100:3未満であることがより好ましい。
【0035】
(有機溶剤)
有機溶剤は、通常一般的に、導電ペースト用溶剤として用いられる溶剤であれば、特に限定されない。その中でも、テルペンアルコール系、脂肪族炭化水素系等の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0036】
具体的に、テルペンアルコール系の有機溶剤としては、例えば、ターピネオール(テルピネオール)、ジヒドロターピネオール、ターピネオールアセテート、ボルネオール、ゲラニオール、リナロール等が挙げられる。また、脂肪族炭化水素系の有機溶剤としては、例えば、n-デカン、n-ドデカン、ミネラルスピリット等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、特に限定されないが、例えば、セルロース構造、セルロースエステル構造、及びセルロースエーテル構造から選ばれる構造を有し、カルボキシル基等の官能基(酸基)が導入されているもののうち、少なくとも1種を含有させることができる。
【0038】
(その他)
なお、本実施の形態に係るニッケルペーストには、その作用を損なわせない範囲で、必要に応じて種々の添加剤を含有させることができる。具体的には、ニッケルペースト中におけるニッケル粉の分散性をより向上させるための分散剤や、粘度を調整するための粘度調整剤、チクソ性を高めるためのレオロジーコントロール剤等を添加することができる。
【0039】
<ニッケルペーストの製造方法>
以下、本実施形態のニッケルペーストを製造する製造方法の一例について説明する。ただし、ここに開示されるニッケルペーストの製造方法は特に限定されない。例えば、ボールミルや三本ロールミルやその他周知の混合装置を用いて、ニッケルペーストを構成する各成分が均一になるように混合するとよい。各成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、有機溶剤にバインダー樹脂を溶解させた後、その溶解液にニッケル粉やセラミック材料を同時にまたは別々に撹拌しながら混合する等、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0040】
なお、用途限定を意図するものではないが、前述のとおり、本実施形態のニッケルペーストを用いることにより、従来のニッケルペーストに比べて、ニッケル粒子が微粒子化した場合でも、内部電極等を作製する際の焼成時の導体用膜の熱収縮が抑制されて耐熱性が向上し、より一層の薄層化が実現された緻密な導体膜を好ましく形成することができる。このため、本発明のニッケルペーストによると、10μm以下(例えば0.3μm~3μm)の膜厚を有する内部電極層膜を好適に形成することができる。
【0041】
<導体用膜>
次に、本実施形態に係る導体用膜の一例について説明する。かかる導体用膜は、少なくとも、ニッケル粉と、バインダー樹脂とを含有する。また、上記のセラミック材料を含んでもよい。
【0042】
ここで、導体用膜は、本実施形態のニッケルペーストを乾燥させた膜であり、有機溶剤が揮発した後であって、焼結前の膜である。この導体用膜を焼結することで、MLCC等の内部電極等となる。
【0043】
本実施形態の導体膜中のニッケル粉の含有量は、70質量%以上95質量%以下である。本実施形態のニッケルペーストから有機溶剤が揮発するため、導体膜ではニッケル粉の含有量はニッケルペーストよりも多くなる。導体膜中のニッケル粉の含有量が70質量%未満であると、MLCCの内部電極としての導電性が得にくくなるおそれがある。一方、ニッケル粉の含有量が95質量%を超えると、焼成工程においてセラミックシートから剥離しやすくなるおそれがある。
【0044】
また、例えばMLCC用の内部電極は、ニッケルペーストを薄膜化してから乾燥させて有機溶剤を除去し、更に焼成して焼結させることにより形成することができる。ここで、水素‐窒素混合ガス雰囲気下で熱機械分析した際の700℃以上850℃以下における体積収縮率が5%未満である。焼成の際の温度は熱機械分析した際の700℃以上850℃以下であることが目安であり、水素‐窒素混合ガス雰囲気下で熱機械分析した際の700℃以上850℃以下における体積収縮率が5%未満であれば、内部電極を形成する際の焼結時の導体用膜の収縮率を抑えることができる。かかる体積収縮率が5%を超えると、焼成によるセラミックシートの体積収縮率との差が大きくなることで、セラミックシートから剥離する等のMLCC等の形成不良が生じるおそれがある。なお、かかる体積収縮率の下限値は0%であってもよく、実際の下限値は1%である。
【0045】
なお、熱機械分析は、後述する高濃度水蒸気雰囲気熱分析装置(以下、単に「TMA」ということもある)を用いて行うことができる。
【0046】
また、本実施形態の導体用膜において、ニッケル粉は、単位比表面積(m2/g)当たりの酸素比率が0.18%以上0.40%以下である。また、かかる導体用膜はさらにセラミック材料を含んでもよく、セラミック材料を含む場合には、ニッケル粉とセラミック材料との質量比が100:6以下である。また、かかるセラミック材料が、チタン酸バリウム、シリカ、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、炭化珪素から選択される少なくとも1種以上であってもよく、特にセラミック材料がチタン酸バリウムであってもよい。これらの条件の詳細については、ニッケルペーストの項目で説明したとおりであり、説明が重複するため、導体用膜の項目では説明を省略する。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【実施例0048】
以下に、本発明の実施例を示してさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
<評価方法>
(酸素比率)
ニッケル粉の単位比表面積(m2/g)当たりの酸素比率は、ニッケルペーストにする前のニッケル粉の状態で測定した。具体的には、LECOジャパン合同会社製酸素窒素水素分析装置(ONH836)を使用し、カーボン製るつぼに入れたニッケル粉1gを試料として、試料をアルゴンガス雰囲気下で加熱し、抽出されたるつぼの炭素と試料中の酸素からなるCO2量を測定し、酸素比率を得た。
【0050】
(焼結挙動)
ニッケルペーストの焼結挙動は、ニッケルペーストの乾燥ペレットを用いて高濃度水蒸気雰囲気熱分析装置(以下、単にTMAということもある)で測定することができる。高濃度水蒸気雰囲気TMAは熱機械分析装置と水蒸気発生装置とを組み合わせて水蒸気雰囲気でTMA測定を行う。ニッケルペーストの乾燥膜を用いて直径0.5cm、高さ0.15cmのペレットを作製し、高濃度水蒸気雰囲気TMA(リガク株式会社製TMA8311)にて、25~55℃、40~90%RHとなるように水蒸気を添加した相対湿度40~90%雰囲気下、かつ、水素と窒素の体積比が0.05以上4未満:96を超え99.95以下である水素‐窒素混合ガス雰囲気下の条件から測定し、相対湿度および水素と窒素の体積比を維持したまま、5~20℃/min.で25~55℃から850℃まで昇温させ、700℃から850℃の範囲のある温度における寸法変化を算出する。このとき50℃での寸法を基準値とした。なお、内部電極形成のための焼成処理とTMA測定との条件は、温度、雰囲気共に近似または一致するため、TMA測定により焼成処理による焼結挙動を予測することができる。
【0051】
[実施例1]
住友金属鉱山株式会社製のニッケル粉(平均粒径0.2μm、比表面積4.2m2/g)の酸素比率を測定した結果、単位比表面積当たりの酸素比率は0.26%であった。
【0052】
次に、有機溶剤であるターピネオール(日本テルペン株式会社製)に、バインダー樹脂としてエチルセルロース(ダウケミカル社製)を投入し、攪拌しながら80℃に加熱してビヒクル(15質量%エチルセルロース)を調製した。
【0053】
次に、有機溶剤であるターピネオールに、バインダー樹脂としてポリビニルブチラール(積水化学株式会社製)を投入し、攪拌しながら80℃に加熱してビヒクル(15質量%ポリビニルブチラール)を調製した。
【0054】
次にニッケル粉50g、ビヒクルとして15質量%エチルセルロースと15質量%ポリビニルブチラールを各15g、高分子分散剤(日本ルーブリゾール社製、商品名:SOLSPERSE36000、重量平均分子量:36000)2g、溶剤としてターピネオール8g、ミネラルスピリット(ENEOS株式会社製、商品名:ミネラルスピリットA)10gを混合し、3本ロールミルにて混練して共材を含まないニッケルペーストを作製した。この作製したニッケルペーストを用いて以下の評価を行った。
【0055】
(ペレットの作製)
得られたニッケルペーストをwet膜厚300μmでPETフィルムに塗布し、120℃で乾燥した。次に、乾燥膜をPETフィルムからはがし、5mmΦの穴が開いた金型に、0.2gの乾燥膜を粉砕して入れた。ハイプレッシャージャッキで200kgの圧力をかけペレットを得た。
【0056】
(寸法変化の分析)
得られたペレットを25℃、90%RH水蒸気雰囲気TMA(リガク株式会社製TMA8311)にて、3体積%水素‐97体積%窒素混合ガス雰囲気下、10℃/min.で室温から850℃まで昇温した。50℃の時の寸法を基準とし、750℃における寸法変化を算出した。体積収縮率の算出結果を表1に示す。また、ニッケル粉の酸素比率、各原料の名称および使用量についても表1に示す。
【0057】
[実施例2]
住友金属鉱山株式会社製のニッケル粉(平均粒径0.08μm、比表面積11.9m2/g)の酸素比率を測定した結果、単位比表面積当たりの酸素比率は0.22%であった。このニッケルを用いて実施例1と同様に共材を含まないニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0058】
[実施例3]
溶剤をターピネオールからジヒドロターピネオールに変更した以外は、実施例1と同様に共材を含まないニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例4]
溶剤をターピネオールからジヒドロターピネオールに変更した以外は、実施例2と同様に共材を含まないニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0060】
[実施例5]
住友金属鉱山株式会社製のニッケル粉(平均粒径0.2μm、比表面積4.2m2/g)の酸素比率を測定した結果、単位比表面積当たりの酸素比率は0.26%であった。
【0061】
次に、有機溶剤であるターピネオール(日本テルペン株式会社製)に、バインダー樹脂としてエチルセルロース(ダウケミカル社製、規格名:STD300)を投入し、攪拌しながら80℃に加熱してビヒクル(15質量%エチルセルロース)を調製した。
【0062】
次に、有機溶剤であるターピネオールに、バインダー樹脂としてポリビニルブチラール(積水化学株式会社製、商品名:BM-S)を投入し、攪拌しながら80℃に加熱してビヒクル(15質量%ポリビニルブチラール)を調製した。
【0063】
次に、ニッケル粉48g、チタン酸バリウム2g、ビヒクルとして15質量%エチルセルロースと15質量%ポリビニルブチラールを各15g、高分子分散剤(日本ルーブリゾール社製、商品名:SOLSPERSE36000、重量平均分子量:36000)2g、溶剤としてターピネオール8g、ミネラルスピリット(ENEOS株式会社製、商品名:ミネラルスピリットA)10gを混合し、3本ロールミルにて混練して共材を含むニッケルペーストを作製した。この作製したニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMA測定をした。結果を表1に示す。
【0064】
[実施例6]
住友金属鉱山株式会社製のニッケル粉(平均粒径0.08μm、比表面積11.9m2/g)の酸素比率を測定した結果、単位比表面積当たりの酸素比率は0.22%であった。このニッケルを用いて実施例5と同様に共材を含むニッケルペーストを作製し、得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0065】
[実施例7]
実施例5の溶剤をターピネオールからジヒドロターピネオールに変更した以外は、実施例5と同様に共材を含むニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0066】
[実施例8]
実施例6の溶剤をターピネオールからジヒドロターピネオールに変更した以外は、実施例6と同様に共材を含むニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0067】
[実施例9]
実施例5のニッケル粉を47.5g、チタン酸バリウムを2.5gにそれぞれ変更した以外は、実施例5と同様に共材を含むニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0068】
[実施例10]
実施例6のニッケル粉を47.5g、チタン酸バリウムを2.5gにそれぞれ変更した以外は、実施例6と同様に共材を含むニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0069】
[実施例11]
実施例5のニッケル粉を49g、チタン酸バリウムを1gにそれぞれ変更した以外は、実施例5と同様に共材を含むニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0070】
[実施例12]
実施例6のニッケル粉を49g、チタン酸バリウムを1gにそれぞれ変更した以外は、実施例6と同様に共材を含むニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例13]
住友金属鉱山株式会社製のニッケル粉(平均粒径0.2μm、比表面積4.2m2/g)の酸素比率を測定した結果、単位比表面積当たりの酸素比率は0.30%であった。このニッケルを用いて実施例1と同様に共材を含まないニッケルペーストを作製し、得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0072】
[実施例14]
実施例13のニッケル粉を用い、実施例11と同様に共材を含むニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0073】
[実施例15]
実施例13のニッケル粉を用い、実施例5と同様に共材を含むニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0074】
[実施例16]
実施例13のニッケル粉を用い、実施例9と同様に共材を含むニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0075】
[実施例17]
住友金属鉱山株式会社製のニッケル粉(平均粒径0.2μm、比表面積4.2m2/g)の酸素比率を測定した結果、単位比表面積当たりの酸素比率は0.37%であった。このニッケルを用いて実施例1と同様に共材を含まないニッケルペーストを作製し、得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例18]
実施例17のニッケル粉を用い、実施例11と同様に共材を含むニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例19]
実施例17のニッケル粉を用い、実施例5と同様に共材を含むニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例20]
実施例17のニッケル粉を用い、実施例9と同様に共材を含むニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1]
実施例3のニッケル粉を単位比表面積当たりの酸素比率が1.5%のニッケル粉に変更した以外は、実施例3と同様に共材を含まないニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0080】
[比較例2]
ニッケル粉44.6g、チタン酸バリウム5.4gの量に変更した以外は、比較例1と同様に共材を含むニッケルペーストを作製した。得られたニッケルペーストを乾燥させて同様にペレットを作製し、実施例1と同様にTMAを測定した。結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
表1の結果より、実施例1~20では体積収縮率が5%未満であり、MLCCの内部電極の形成に問題の無い収縮率であった。さらに、実施例1~4、13、17は共材を含まないため、共材を含むことによるコンデンサとしての容量低下の問題はなく、また、実施例5~12、14~16、18~20で含まれる共材の量は、コンデンサの容量の著しい低下をもたらす量ではなく、実用に耐えるものであった。
【0083】
一方で、比較例1ではニッケル粉の酸素比率が高いことにより体積収縮率が5%を大きく超えてしまい、MLCCの内部電極の形成に問題の生じうるために実用化の見送られる収縮率であった。また、比較例2では、ニッケル粉の酸素比率は比較例1と同様に高いものの、共材を多く含めることで体積収縮率を5%未満に抑えることができた。ただし、比較例2では共材の量が多いためにコンデンサの容量が低下するおそれがあり、MLCCの内部電極用途としては実用化が見送られるものであった。
【0084】
以上より、本発明であれば、コンデンサ等の容量を著しく低下させることなく、内部電極等を作製する際の内部電極用膜の焼成時の熱収縮を抑制することのできる、ニッケルペーストおよび導体用膜を提供することができるため、本発明は産業上有用である。