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特開2023-70710下水処理施設の処理水水質予測方法及び装置並びに操業状態予測方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070710
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】下水処理施設の処理水水質予測方法及び装置並びに操業状態予測方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20230515BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20230515BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20230515BHJP
【FI】
C02F3/12 P
G01N33/18 A
G06T7/00 350C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182975
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】戸村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】冨田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 継彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 久
【テーマコード(参考)】
4D028
5L096
【Fターム(参考)】
4D028CA04
4D028CE02
4D028CE03
5L096AA06
5L096BA03
5L096CA04
5L096DA02
5L096GA30
5L096GA34
5L096HA11
5L096JA22
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】活性汚泥画像を用いた画像解析により、下水処理施設の処理水水質を高精度に予測し、操業状態の予測を可能にする。
【解決手段】活性汚泥を採取した時刻から下水処理施設の設定平均滞留時間内に採取された処理水水質に応じて、活性画像を分類する活性汚泥の画像ラベリングと、前記画像ラベリングされた活性汚泥画像を教師画像として畳み込みニューラルネットワークを利用した画像分類アルゴリズムで学習させる学習と、下水処理施設から活性汚泥を採取して、画像を収集し、学習済みアルゴリズムで未知の汚泥画像を画像解析し、クラスごとのクラス所属確率を出力させる画像解析と、同じ活性汚泥試料から収集された画像のクラスごとのクラス所属確率を統計的に処理し、処理水水質との相関を解析する相関解析と、を行う。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥を採取した時刻から下水処理施設の設定平均滞留時間内に採取された処理水水質に応じて、活性画像を分類する活性汚泥の画像ラベリングステップと、
前記画像ラベリングされた活性汚泥画像を教師画像として畳み込みニューラルネットワークを利用した画像分類アルゴリズムで学習させる学習ステップと、
下水処理施設から活性汚泥を採取して、画像を収集し、学習済みアルゴリズムで未知の汚泥画像を画像解析し、クラスごとのクラス所属確率を出力させる画像解析ステップと、
同じ活性汚泥試料から収集された画像のクラスごとのクラス所属確率を統計的に処理し、処理水水質との相関を解析する相関解析ステップと、
を備えたことを特徴とする下水処理施設の処理水水質予測方法。
【請求項2】
前記画像ラベリングの画像分類のうち、少なくとも1つを処理水水質基準の80%以下とすることを特徴とする請求項1に記載の下水処理施設の処理水水質予測方法。
【請求項3】
前記画像ラベリングの画像分類のうち、少なくとも1つを処理水水質基準の200%以上とすることを特徴とする請求項1に記載の下水処理施設の処理水水質予測方法。
【請求項4】
前記相関解析ステップにおけるクラス所属確率の統計的な処理に際して、前記クラス所属確率の平均を取ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の下水処理施設の処理水水質予測方法。
【請求項5】
前記相関解析ステップにおけるクラス所属確率の統計的な処理に際して、前記クラス所属確率の中央値を取ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の下水処理施設の処理水水質予測方法。
【請求項6】
前記相関解析ステップにおけるクラス所属確率の統計的な処理に際して、前記クラス所属確率の閾値を定めて、その閾値以上あるいは以下となる画像の割合を求めることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の下水処理施設の処理水水質予測方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の下水処理施設の処理水水質予測方法の相関解析ステップで算出されたクラス所属確率の変化量から、活性汚泥の性状変化の前兆を検知することを特徴とする下水処理施設の操業状態予測方法。
【請求項8】
活性汚泥を採取した時刻から下水処理施設の設定平均滞留時間内に採取された処理水水質に応じて、活性画像を分類する活性汚泥の画像ラベリング手段と、
前記画像ラベリングされた活性汚泥画像を教師画像として畳み込みニューラルネットワークを利用した画像分類アルゴリズムで学習させる学習手段と、
下水処理施設から活性汚泥を採取して、画像を収集し、学習済みアルゴリズムで未知の汚泥画像を画像解析し、クラスごとのクラス所属確率を出力させる画像解析手段と、
同じ活性汚泥試料から収集された画像のクラスごとのクラス所属確率を統計的に処理し、処理水水質との相関を解析する相関解析手段と、
を備えたことを特徴とする下水処理施設の処理水水質予測装置。
【請求項9】
前記画像ラベリングの画像分類のうち、少なくとも1つを処理水水質基準の80%以下とすることを特徴とする請求項8に記載の下水処理施設の処理水水質予測装置。
【請求項10】
前記画像ラベリングの画像分類のうち、少なくとも1つを処理水水質基準の200%以上とすることを特徴とする請求項8に記載の下水処理施設の処理水水質予測装置。
【請求項11】
前記相関解析手段におけるクラス所属確率の統計的な処理に際して、前記クラス所属確率の平均を取ることを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載の下水処理施設の処理水水質予測装置。
【請求項12】
前記相関解析手段におけるクラス所属確率の統計的な処理に際して、前記クラス所属確率の中央値を取ることを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載の下水処理施設の処理水水質予測装置。
【請求項13】
前記相関解析手段におけるクラス所属確率の統計的な処理に際して、前記クラス所属確率の閾値を定めて、その閾値以上あるいは以下となる画像の割合を求めることを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載の下水処理施設の処理水水質予測装置。
【請求項14】
請求項8乃至13のいずれかに記載の下水処理施設の処理水水質予測装置の相関解析手段で算出されたクラス所属確率の変化量から、活性汚泥の性状変化の前兆を検知することを特徴とする下水処理施設の操業状態予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理施設の処理水水質予測方法及び装置並びに操業状態予測方法及び装置に係り、特に、活性汚泥画像を用いた画像解析により、下水処理施設の処理水水質を高精度に予測し、操業状態を予測することが可能な下水処理施設の処理水水質予測方法及び装置並びに操業状態予測方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物を含む排水の処理には、微生物を使用した生物処理が用いられる。この生物処理において、下水や排水中に含まれる有機物を基質として人為的に培養された微生物の集合体を活性汚泥と呼ぶ。この活性汚泥中では、細菌(従属栄養生物)、糸状菌、酵母、原生生物、後生生物など多様な生物種が相互作用し、水中の有機物、窒素、リンなどが処理される。
【0003】
このような活性汚泥法による下水処理施設の基本的な下水処理フローを図1に示す。この下水処理施設は、下水ラインから流入する下水からトイレットペーパーなどの固形性汚濁物や砂等を除去するための最初沈殿池10と、微生物群の働きにより有機物や窒素(アンモニア)、リン酸を除去するための生物反応槽20と、活性汚泥と処理水を自然沈降により固液分離するための最終沈殿池30とを主に備えている。
【0004】
下水処理施設の主要な処理対象物と項目は、有機物は、生物学的酸素要求量BOD、化学的酸素要求量COD、浮遊状固形物SSであり、窒素関係は、全窒素(有機体窒素+無機窒素)T-N、アンモニア性窒素NH4-N、硝酸性窒素NO3-N、亜硝酸性窒素NO2-Nであり、リンは、全リン(有機体リン+無機リン)T-P、リン酸性リンPO4-Pである。
【0005】
上記のような活性汚泥を利用した下水処理施設では、安定した操業のために活性汚泥のモニタリングが必要となるため、多くの施設では、顕微鏡によって活性汚泥の観察がなされている。しかしながら、この活性汚泥の観察像から得られる情報は観察者の技量に大きく依存し、各施設において観察結果が有効に活用されているとは言いがたい。又、この顕微鏡による光学的な観察は、施設内における日常的な試験としては、活性汚泥の状態を把握する唯一の方法でありながら、多様な生物種が複雑に関係している生物反応を定量的に判断することは極めて困難である。
【0006】
従来、汚泥の顕微鏡観察像から処理状態を診断するため、画像解析を利用して生物種を特定する方法が提案されている(特許文献1)。
【0007】
また、画像解析を用いて汚泥画像から、活性汚泥中の微生物(群)が形成するフロック中の糸状菌を判別・計測する方法も提案されている(特許文献2-4)。
【0008】
更に、凝集剤の投入量最適化のため、汚泥凝集フロックを観察し、フロック画像から特徴量を抽出して、汚泥凝集率を定量評価する方法も提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8-197084号公報
【特許文献2】特開平5-192678号公報
【特許文献3】特開2015-181374号公報
【特許文献4】特開平2-129765号公報
【特許文献5】特開2019-52985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の方法では、原生動物や後生生物を元に処理状態を推測しているが、これらの生物は、生物処理の状態により敏感に反応する細菌類の増減に追従して、増殖乃至減少するため、実際の処理状況の変化に対して遅れが生じてしまう。
【0011】
又、特許文献2-4に記載の方法に関して、糸状菌はバルキングといった水処理施設の性能異常を示す一つの指標とされているが、複雑な細菌・生物種の反応が相互作用する生物処理性能を糸状菌の多寡によって説明することは困難である。
【0012】
又、特許文献5に記載の方法は、フロック形状や濃度による凝集剤の投与量最適化が目的であり、生物反応による排水や下水処理性能の評価には寄与しない。
【0013】
更に、下水処理施設中の活性汚泥の観察においては、人の手による観察では、活性汚泥の性能を定量的に評価するのは困難である。多種多様な細菌類が相互作用する生物反応系に対して、すべての画像特徴量を人の手で決定することはできない等の問題点を有していた。
【0014】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、活性汚泥画像を用いた画像解析により下水処理施設の処理水水質を高精度に評価可能とすることを第1の課題とする。
【0015】
本発明は、又、前記処理水水質の予測結果を用いて下水処理施設の操業状態を予測可能とすることを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
活性汚泥による下水処理において、有機物、窒素、リンなどの汚濁物質の処理に最も貢献しているのは、ズーグレアZoogloea属、バシラスBacillus属、シュードモナスPseudomonas属、フラボバクテリウムFlavobacterium属などの細菌類である。この細菌類は下水処理施設において日常的に行われる顕微鏡観察などの光学的な観察においては、フロックとして観察される。これらのフロックは細菌が体外に放出する細胞外高分子物質や糸状菌の存在により、大きさ、濃淡、色など様々な特徴を有する複雑形状を持つ。本発明は、この活性汚泥の性能の大半を占める細菌の集合体であるフロックおよび糸状菌を対象として画像解析を実施することで、その性能を定量的に評価することを可能とする。
【0017】
上記の通りフロックや糸状菌が組み合わさった活性汚泥の形状は複雑であり、すべての特徴を人の手で網羅的に取り上げることは困難である。このため画像解析手法として、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を採用した。CNNの例としてはLeNet、AlexNet、VGG、ResNetやInceptionがあげられる。CNNは一般的なニューラルネットワークに対し、畳み込み層とプーリング層を積層していることで空間的な情報を考慮した処理が可能となるのが特徴である。この特徴により活性汚泥画像中の特徴を人の手によらず抽出でき、その特徴については、位置によらず検出可能である。このような積層構造で変換された画像データは全結合層で多次元ベクトルへと変換され、全結合層から出力層を得る際にはさらにニューラルネットワークなどが用いられる。画像をある決まったクラスへ分けるクラス分類においては、出力層では各クラスに対して出力値を得るが、全結合層から分類結果である出力層を得る活性化関数として、例えばソフトマックス関数が採用されうる。これによって、任意の画像を解析した時の各々のクラスの出力値の和が1となり、各出力値は解析した画像がどのクラスへ分類されるかのクラス所属とみなすこともできる。また2分類問題に対してはシグモイド関数も採用することができる。本発明においては、処理水水質を表すSSなどの評価指標上で活性汚泥画像を用意して学習させたところ、このクラス所属確率が活性汚泥の性能を示しており、処理水水質に対して高い相関を持つことを見出した。
【0018】
また、同時に採取された活性汚泥中であっても、良好な性能を有する部分と不良な性能を有する部分が存在する。このため、画像の判定は一枚の画像のみからなされるのではなく、複数の画像、好ましくは20枚以上、さらに好ましくは100枚以上を用いてそれぞれのクラス所属確率を算出し、それらの結果に対して統計的な処理を行うことで、採取された活性汚泥の全体的な性能を算出することが可能となった。
【0019】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたもので、活性汚泥を採取した時刻から下水処理施設の設定平均滞留時間内に採取された処理水水質に応じて、活性画像を分類する活性汚泥の画像ラベリングステップと、前記画像ラベリングされた活性汚泥画像を教師画像として畳み込みニューラルネットワークを利用した画像分類アルゴリズムで学習させる学習ステップと、下水処理施設から活性汚泥を採取して、画像を収集し、学習済みアルゴリズムで未知の汚泥画像を画像解析し、クラスごとのクラス所属確率を出力させる画像解析ステップと、同じ活性汚泥試料から収集された画像のクラスごとのクラス所属確率を統計的に処理し、処理水水質との相関を解析する相関解析ステップと、を備えたことを特徴とする下水処理施設の処理水水質予測方法により、前記第1の課題を解決するものである。
【0020】
ここで、前記画像ラベリングの画像分類のうち、少なくとも1つを処理水水質基準の80%以下とすることができる。
【0021】
又、前記画像ラベリングの画像分類のうち、少なくとも1つを処理水水質基準の200%以上とすることができる。
【0022】
又、前記相関解析ステップにおけるクラス所属確率の統計的な処理に際して、前記クラス所属確率の平均を取ることができる。
【0023】
又、前記相関解析ステップにおけるクラス所属確率の統計的な処理に際して、前記クラス所属確率の中央値を取ることができる。
【0024】
又、前記相関解析ステップにおけるクラス所属確率の統計的な処理に際して、前記クラス所属確率の閾値を定めて、その閾値以上あるいは以下となる画像の割合を求めることができる。
【0025】
本発明は、又、前記下水処理施設の処理水水質予測方法の相関解析ステップで算出されたクラス所属確率の変化量から、活性汚泥の性状変化の前兆を検知することを特徴とする下水処理施設の操業状態予測方法により、前記第2の課題を解決するものである。
【0026】
本発明は、又、活性汚泥を採取した時刻から下水処理施設の設定平均滞留時間内に採取された処理水水質に応じて、活性画像を分類する活性汚泥の画像ラベリング手段と、前記画像ラベリングされた活性汚泥画像を教師画像として畳み込みニューラルネットワークを利用した画像分類アルゴリズムで学習させる学習手段と、下水処理施設から活性汚泥を採取して、画像を収集し、学習済みアルゴリズムで未知の汚泥画像を画像解析し、クラスごとのクラス所属確率を出力させる画像解析手段と、同じ活性汚泥試料から収集された画像のクラスごとのクラス所属確率を統計的に処理し、処理水水質との相関を解析する相関解析手段と、を備えたことを特徴とする下水処理施設の処理水水質予測装置により、同様に前記第1の課題を解決するものである。
【0027】
本発明は、又、前記下水処理施設の処理水水質予測装置の相関解析手段で算出されたクラス所属確率の変化量から、活性汚泥の性状変化の前兆を検知することを特徴とする下水処理施設の操業状態予測装置により、同様に前記第2の課題を解決するものである。
【0028】
本発明によれば、(I)画像解析方法として畳み込みニューラルネットワークを使用すること、(II)処理水水質に応じて活性汚泥画像をラベリングし、教師画像として用いること、(III)新規画像の評価には、各ラベルに対するクラス所属確率を用いて評価することにより、下水処理施設の処理水水質を高精度に予測することが可能となる。
【0029】
又、該処理水水質の予測結果を用いることで、活性汚泥の性状変化の前兆を検知して、下水処理施設の操業状態を予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】下水処理施設の基本的な下水処理フローを示す図
図2】本発明が適用される下水処理施設の一例の全体構成を示す図
図3】本発明の概念を示す、一部流れ図を含むブロック図
図4】本発明で用いる教師画像ラベリング方法の例を示す流れ図
図5】同じく画像解析結果の統計的な処理による画像のクラス所属確率分布の例を示す図
図6】本発明の実施形態の概念を示す、一部流れ図を含むブロック図
図7】本発明で用いる畳み込みニューラルネットワークの構成の例を示す図
図8】同じく教師画像ラベリングの手順を示す流れ図
図9】本発明の実施形態の全体構成を示す図
図10】(A)沈降性の悪い汚泥と(B)沈降性の良い汚泥の例を比較して示す図
図11】クラス所属確率の統計的な処理にクラス所属確率の中央値を用いた場合の前記実施形態の処理結果の例を示す図
図12】同じく処理水SSとクラス所属確率の中央値の変化量の時間変化の例を示す図
図13】クラス所属確率の統計的な処理にクラス所属確率の平均値を用いた場合の処理結果の例を示す図
図14】クラス所属確率の統計的な処理にクラス所属確率の判別割合を用いた場合の処理結果の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0032】
本発明が適用される下水処理施設の一例の全体構成を図2に示す。
【0033】
この下水処理施設は、下水ライン8から下水が流入する最初沈殿池10と、該最初沈殿池10と流入ライン12を介して接続された生物反応槽20と、最終沈殿池30とを主に備えている。
【0034】
なお、最初沈殿池10の入側に、大きな重い夾雑物を除去して、ポンプ等を保護するための沈砂池(図示省略)が設けられる。
【0035】
前記生物反応槽20は、細胞内のリンを放出し、PHAを細胞内に合成するための嫌気槽22と、硝酸内の酸素を用いて有機物を酸化分解し、硝酸を窒素ガスに還元するための無酸素槽24と、溶存酸素を用いて有機物を酸化分解し、アンモニアを硝酸化、PHAを分解して、リン酸を細胞内に過剰蓄積させることによってリンを除去するための好気槽26とを備えている。
【0036】
前記最終沈殿池30の出側には、処理水を消毒して河川等に放流するための処理水ライン32と、汚泥の一部を生物反応槽20の入側に返送するための汚泥返送ライン34と、余剰汚泥を脱水して排出するための余剰汚泥ライン36とが設けられている。
【0037】
前記汚泥返送ライン34には、返送ポンプ38及び流量計39が設けられており、最終沈殿池30に蓄積した汚泥の一部が生物反応槽20の入側に戻される。この返送ポンプ38による返送汚泥量の調整により、MLSS(汚泥濃度)の維持や調整が図られる。
【0038】
前記余剰汚泥ライン36には、余剰汚泥ポンプ40及び流量計41が設けられており、余剰汚泥は脱水されて排出される。この余剰汚泥ポンプ40による余剰汚泥量の調整により、系内の汚泥量の調整、汚泥の新陳代謝を整えて、汚泥滞留時間を制御する。
【0039】
前記好気槽26には、空気ブロワ42と空気量計43が設けられ、空気を吹き込むようにされている。この空気ブロワ42の空気量は、DO(溶存酸素濃度)の維持及び制御に用いられる。
【0040】
前記生物反応槽20の好気槽26の出側には、硝化液を無酸素槽24に循環させるための硝化液循環ライン44が設けられており、この硝化液循環ライン44には、硝化液循環ポンプ46が設けられている。この硝化液循環ポンプ46による硝化液循環量は、無酸素槽24への硝酸性窒素の供給量を調整して、窒素を除去するために用いられる。
【0041】
前記流入ライン12には水量センサ14が設けられ、前記嫌気槽22には例えばDO(溶存酸素濃度)センサ、pHセンサ、ORP(酸化還元電位)センサからなるセンサ52が設けられ、前記無酸素槽24には、例えばDOセンサ、pHセンサ、ORPセンサからなるセンサ54が設けられ、前記好気槽26には、例えばDOセンサ、MLSS(汚泥濃度)センサ、pHセンサ、ORPセンサからなるセンサ56が設けられ、処理水ライン32には水質センサ58が設けられている。
【0042】
前記各センサ14、52、54、56、58の出力は、コンピュータ60に入力され、コンピュータ60による演算処理結果に基づいて、各ポンプやブロワなどのアクチュエータが制御される。
【0043】
ここで、pHは、環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22と無酸素槽24では例えばpH7~8、好気槽26では例えばpH6~7に保たれる。
【0044】
又、前記ORP(酸化還元電位)に関しても、やはり環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22では例えば-300~-400mV未満に維持され、無酸素槽24では例えば0~-200mV未満に維持される。
【0045】
又、前記DO(溶存酸素濃度)に関しても、やはり環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22や無酸素槽24では例えば0.2mg/L未満、好気槽26では例えば1.0~2.0mg/Lに保たれる。
【0046】
又、前記MLSS(汚泥濃度)は、活性汚泥中の微生物量の管理に用いられ、遠心分離汚泥の乾燥重量で全体的に例えば2,000~3,000mg/Lに保たれる。
【0047】
汚泥性状としては、例えば前記MLSS、1Lメスシリンダで30分沈殿させた場合の汚泥界面の目盛である活性汚泥沈殿率SV30、30分沈降後の汚泥1gが占める容積である汚泥沈降目標SVI(=SV30×10,000/MLSS)が分析される。
【0048】
以下、図2のコンピュータ60における、本発明による画像解析を利用した活性汚泥判定方法について説明する。
【0049】
前記コンピュータ60内には、図3に示すモデル構築部100と、汚泥性状診断部200が構成されている。
【0050】
前記モデル構築部100では、活性汚泥を採取し(ステップ110)、画像を撮影し(ステップ120)、画像ラベリングし(ステップ130)、教師あり学習を行い(ステップ140)、モデルを構築する(ステップ150)。
【0051】
一方、汚泥性状診断部200では、新たな活性汚泥を採取し(ステップ210)、画像撮影し(ステップ220)、前記モデル構築部100のステップ150で構築された学習済みモデルを用いて処理し(ステップ230)、各画像のクラス所属確率を出力し(ステップ240)、各出力結果に対する統計処理を行い(ステップ250)、採取汚泥に対する診断結果を出力する(ステップ260)。
【0052】
前記モデル構築部100のステップ130における画像ラベリングの方法を図4に示す。
【0053】
まず、活性汚泥を採取(ステップ110)して、汚泥画像を撮影する(ステップ120)。
【0054】
活性汚泥は設定された汚泥滞留時間(SRT)の間、処理施設内に滞留する。そこで汚泥採取時刻を基準として、このSRT内に処理水水質(Xと置く)を取得し(ステップ124)、取得された処理水水質(X)を汚泥画像に紐付ける。活性汚泥は常に入れ替わるため、紐付ける処理水水質は汚泥滞留時刻の近傍で採取された処理水水質であることが望ましい。より望ましくは、水理学的滞留時間(HRT)の間に採取された処理水水質であることが望ましい。
【0055】
次いでステップ130で、画像に紐づけられた処理水水質を元に画像をラベリングする。この時クラス分類数は例えば4(図ではクラスA、B、C、Dの4つ)とするが、クラス分類数は2以上であればよい。
【0056】
残りのクラス分類(図ではクラスB、Cの2つ)については、図4中に示したように中間値を埋め合わせる形でも良いし、さらに外側の分類を作成しても良い。
【0057】
教師画像のクラス分類について、処理水SSの基準値をTとし、画像に紐づけられた処理水SSをYとして、
i:0.8T<Y≦T と T≦Y<2T
ii:Y≦0.8T と T≦Y<2T
iii:0.8T<Y≦T と 2T≦Y
iv:Y≦0.8T と 2T≦Y
のようにクラスを分類した場合で、それぞれの教師画像を用いた学習モデルを用いて活性汚泥画像の解析結果を比較して検討した結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
画像解析による汚泥の診断結果と処理水水質の相関を示す決定係数R2で比較すると、教師画像の画像分類に処理水水質が0.8T以下となるクラスを含む場合と、画像分類に処理水水質が2T以上となるクラスを含む場合には、それらをともに含まない場合と比較して、より高い相関が得られている。また、両方のクラスを含む場合にはさらに高い相関が得られた。
【0060】
従って、前述のラベル分類のうち少なくとも1つ(図ではクラスA)は、処理水SSの基準値をTとしたとき、上限の閾値を0.8T以下とすることが望ましい。
【0061】
又、少なくとも1つ(図ではクラスD)は、下限の閾値を2T以上とすることが望ましい。
【0062】
残りのラベル分類(図ではクラスB、Cの2つ)については、図4中に示したように中間値を埋め合わせる形でも良いし、さらに外側の分類を作成しても良い。
【0063】
汚泥性状診断部200の統計処理ステップ250に際しては、同一の汚泥サンプルから撮影された複数枚の汚泥画像に対して、学習済みCNNモデルを使用して、画像解析を実施し、各画像のクラス所属確率を出力する。
【0064】
その時のクラス所属確率分布の例を図5に示す。活性汚泥中にはミクロ的には様々な特徴を持つ汚泥が存在するため、各汚泥のクラス所属確率は広がりを持つ。汚泥サンプルのマクロ的な評価のために以下の指標を利用することができる。
【0065】
1.各画像のクラス所属確率の平均値を評価値とする。
2.各画像のクラス所属確率の中央値を評価値とする。
3.採取された画像の内、クラス所属確率がある閾値(例えば0.7)を上回るものの割合を評価値とする。
4.採取された画像の内、クラス所属確率がある閾値(例えば0.3)を下回るものの割合を評価値とする。
5.採取された画像の内、クラス所属確率がある閾値を上回るものの枚数をA、下回るものの枚数をBとし、評価軸として、A/(A+B)または B/(A+B)を採用する。なお中間となる画像は、判別不能であったと判断して採用しない。
【0066】
クラス所属確率で統計的な処理が必要な理由は、次のとおりである。
【0067】
活性汚泥の性能は、微生物群の活性によって決定する。顕微鏡による観察像のようなミクロな視点では、状態の良い汚泥と状態の悪い汚泥が混在している。活性汚泥全体の性質は、どちらの汚泥が占有しているかで決まる。同じサンプルから取った画像のそれぞれに対してクラス所属確率を算出することで、ミクロな視点での良い・悪いが算出される。これに対して統計的な処理を加えることで、全体の汚泥性能として導出することができる。すなわち、表2中の決定係数R2に示すように、各々の画像のクラス所属確率単体からでは決定係数R2が例えば0.360と低いため、汚泥の処理性能は評価することができない。これに対して、後述のように中央値、平均値、あるいは判別割合による統計的な処理を加えることで、決定係数R2を例えば0.735、0.746、0.715に高めることができる。
【0068】
【表2】
【0069】
次に処理水SSを画像ラベリングに用いた本発明の実施形態を説明する。
【0070】
本実施形態のモデル構築部100及び汚泥性状診断部200は図6に示す如く構成されており、ステップ130における画像ラベリングに際して、処理水SSの基準値を100とした場合に、処理水SS80以下を正常とし、処理水SS200以上を異常としている。
【0071】
ステップ140の教師あり学習では、図7に例示するような、入力画像300、畳み込み層310とプーリング層320の繰り返し、全結合層330、出力層340を有するCNNを用いている。
【0072】
本実施形態における教師画像ラベリングの手順を図8に示す。図4と同様に、ステップ110で汚泥を採取して、ステップ120で汚泥を撮影する。
【0073】
ステップ124で処理水SSを取得し、汚泥採取時刻を基準として、このSRT内に取得された処理水水質を汚泥画像に紐づける。
【0074】
本実施形態では、ステップ130における画像ラベリングに際して、処理水SSの基準値を100とし、画像ごとに紐づけられた処理水SSが80以下であるクラスAと、処理水SSが200以上となるクラスBに分類する。この分類に含まれない画像は教師データとして採用しない。このクラスAとクラスBの分類については、CNNを利用した画像解析を利用する。
【0075】
本実施形態におけるCNNを利用した解析手順の全体構成を図9に示す。
【0076】
まず、(1)沈降性の良いクラスAの画像と沈降性の悪いクラスBの画像を得て学習用の教師画像とする。
【0077】
次いで、(2)CNNを使用し、教師画像を学習して判別モデルを作成する。
【0078】
次いで、(3)新規画像を解析して、(4)解析結果を例えばクラスA0.8、クラスB0.2として、汚泥のクラス所属確率を基に処理水SSを予測する。
【0079】
図10に(A)沈降性の悪い汚泥と(B)沈降性の良い汚泥の例を示す。沈降性の悪い汚泥は、図10(A)に示す如く、フロック2が比較的小さく、フロック2の密度が低く、糸状菌4の量が多く、微小粒子6が多いなどである。
【0080】
一方、沈降性の良い汚泥は、図10(B)に示す如く、フロック2が比較的大きく、フロック2が緻密であり、糸状菌4の量が少なく、微小粒子6が少ないなどである。
【0081】
実施形態における処理水SSと、クラス所属確率の中央値の関係を図11に示す。決定係数R2は0.7353であった。
【0082】
実施形態における処理水SSとクラス所属確率の中央値の変化量の時間変化の例を図12に示す。処理水SSの上昇に先立ってクラス所属確率の中央値が上昇していることが分かる。この結果からクラス所属確率の中央値の変化量だけではなく、クラス所属確率の中央値も同様に処理水SSの上昇に先立って上昇するため、単にクラス所属確率の中央値を処理水SSの変化悪化に対する指標とすることもできる。
【0083】
クラス所属確率の統計的な処理の他の例として、平均値の例を図13に、取得画像のうちクラス所属確率が閾値を超える画像の割合(判別割合と称する)とした例を図14に示す。図13の決定係数R2は0.7455、図14の決定係数R2は0.7157であった。
【0084】
前記実施形態においては、処理水SSについて予測対象としたが、下水処理施設にて管理されるその他の処理水水質についても同様にして予測対象とすることができる。そのほかの処理水水質としては、例えば化学的酸素要求量(COD)、アンモニア性窒素、硝酸性窒素、全窒素、全リン等である。
【0085】
なお、前記実施形態においては、本発明が、嫌気-無酸素-好気法により有機物、窒素、リンを除去するための、生物反応槽20が嫌気槽22、無酸素槽24及び好気槽26を備えた下水処理施設に適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、例えば無酸素-好気法(循環式硝化脱窒素法)により有機物と窒素を除去するための、生物反応槽が嫌気槽を含まない下水処理施設や、嫌気-好気法により有機物とリンを除去するための、生物反応槽が無酸素槽を含まず、嫌気槽と好気槽を備えた下水処理施設や、標準活性汚泥法により有機物を除去するための、生物反応槽が好気槽のみからなる下水処理施設にも適用できることは明らかである。
【符号の説明】
【0086】
8…下水ライン
10…最初沈殿池
12…流入ライン
20…生物反応槽
22…嫌気槽
24…無酸素槽
26…好気槽
30…最終沈殿池
32…処理水ライン
34…汚泥返送ライン
36…余剰汚泥ライン
38…返送ポンプ
40…余剰汚泥ポンプ
42…空気ブロワ
60…コンピュータ
100…モデル構築部
200…汚泥性状診断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14