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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070973
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】セラミック焼結基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/64 20060101AFI20230515BHJP
   C04B 35/587 20060101ALI20230515BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
C04B35/64
C04B35/587
B28B1/30 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183489
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】草野 大
(72)【発明者】
【氏名】若松 智
(72)【発明者】
【氏名】後藤 邦拓
【テーマコード(参考)】
4G052
【Fターム(参考)】
4G052DA02
4G052DB12
4G052DC06
(57)【要約】
【課題】 複数枚のセラミックグリーンシートを、離型剤層を介して積層した積層物を焼成してセラミック焼結基板を製造するに際し、上記積層物内のズレを効果的に防止し、安定してセラミック焼結基板を製造することを可能としたセラミック焼結基板の新規な製造方法を提供する。
【解決手段】 複数枚のセラミックグリーンシートを、離型剤層を介して積層し、必要に応じて脱脂を行った後、窒素雰囲気下に焼成してセラミック焼結基板を製造するに際し、上記セラミックグリーンシート間に存在せしめる離型剤層において離型剤が存在しない領域を、例えば、セラミックグリーンシートの周縁部の少なくとも一部に設ける。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のセラミックグリーンシートを、離型剤層を介して積層し、必要に応じて脱脂を行った後、窒素雰囲気下に焼成してセラミック焼結基板を製造するに際し、上記セラミックグリーンシート間に存在せしめる離型剤層において離型剤が存在しない領域を設けることを特徴とするセラミック焼結基板の製造方法。
【請求項2】
前記離型剤が存在しない領域を、セラミックグリーンシート間の周縁部の少なくとも一部に設ける請求項1記載のセラミック焼結基板の製造方法。
【請求項3】
前記離型剤が存在しない領域が、セラミックグリーンシートの面積に対して2~20%である請求項1又は2に記載のセラミック焼結基板の製造方法。
【請求項4】
セラミックが窒化ケイ素である請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミック焼結基板の製造方法。
【請求項5】
前記焼成を連続炉により行う、請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミック焼結基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック焼結基板の新規な製造方法に関する。詳しくは、複数枚のセラミックグリーンシートを、離型剤層を介して積層した積層物を焼成してセラミック焼結基板を製造するに際し、上記積層物内のズレを効果的に防止し、安定してセラミック焼結基板を製造することを可能としたセラミック焼結基板の新規な製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミック粉末に焼結助剤、更に、必要に応じてバインダー樹脂を添加して成形することによりグリーン体に成形し、かかるグリーン体を高温で焼成してセラミック粉末を焼結させたセラミック焼結体は、原料のセラミック粉末による特性に応じて各種用途に使用されている。例えば、窒化アルミニウム粉末、窒化ケイ素粉末等によるセラミック焼結体は、熱伝導性に優れ、また、機械的強度が強い、耐薬品性が高い、電気絶縁性が高いなどの特徴を活かして、そのセラミック焼結基板は放熱用回路基板としての用途に使用されている。
【0003】
上記用途に使用されるセラミック焼結基板は、一般に0.2~1.5mm程度の厚みを有するものが多く、その製造においては、生産性を上げるため、シート状のグリーン体、即ち、セラミックグリーンシートを複数枚、具体的には、20~100枚程度を積層した積層物の状態で焼成し、セラミック焼結基板を製造する方法が一般に採用されている。また、上記焼成において、セラミックグリーンシート同士が焼結により固着しないように、窒化ホウ素粉末を代表とする離型材をシート間に塗布することが行われている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記離型材をシート間に存在させたセラミックグリーンシート積層物は、例えば、セラミックグリーンシートの成形にバインダー樹脂を使用した場合を例に取ると、バインダー樹脂を脱脂するための脱脂炉への移動及び供給排出時、脱脂後に、脱脂体の焼成炉への移動時及び供給時、焼成時、また、焼成後のセラミック焼結基板の排出時、更には移動時など(以下、これらを纏めて「取扱い時」ともいう)において、積層物内でズレが生じ、グリーンシートの積層物内でグリーシート間にズレが生じた場合、かかる部分でシートが変形したり、その後の処理が不均一となったり、また、脱脂後や焼結後において積層物内でズレが発生した場合は、突出部において脱脂体や焼結基板の割れや欠けが発生し易くなるという問題が発生する。また、場合によっては、前記滑りによる積層物の崩壊も懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-60469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、離型材をシート間に塗布して積層されたセラミックグリーンシートを焼成してセラミック焼結基板を製造する方法において、前記離型材による積層物内でのズレによる前記問題を解消したセラミック焼結基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく検討を重ねた結果、セラミックグリーンシートの積層時に積層されるシート間に存在せしめる離型剤層において、離型剤が存在しない領域を部分的に設けることにより、取扱い時における随所において、かかる部分の存在により積層物内での滑りによるズレが効果的に防止され、前記取扱い時におけるズレによる問題を解消できること、また、上記離型剤が存在しない領域を適度に調整することにより、焼成後は、容易に積層物からセラミック焼結基板を容易に取り外すことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、複数枚のセラミックグリーンシートを、離型剤層を介して積層し、必要に応じて脱脂を行った後、窒素雰囲気下に焼成してセラミック焼結基板を製造するに際し、上記セラミックグリーンシート間に存在せしめる離型剤層において、離型剤が存在しない領域を設けることを特徴とするセラミック焼結基板の製造方法である。
【0009】
前記方法において、前記離型剤が存在しない領域を、セラミックグリーンシート間の周縁部の少なくとも一部に設けることが、焼成して得られるセラミック焼結基板の有効使用面積を増大することができ好ましい。
【0010】
また、前記離型剤が存在しない領域が、セラミックグリーンシートの面積に対して2~20%であることが、ズレの防止効果の良好な発現と有効使用面積の確保を行うことができ好ましい。
【0011】
更に、前記セラミックとして、窒化ケイ素が好適である。
【0012】
更にまた、前記製造方法は移送における積層物のズレが懸念される、焼成を連続炉により行う方法において一層の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、離型剤層を介してセラミックグリーンシートを積層した積層物の取扱い時におけるズレを、簡易な手段で効果的に防止することができ、セラミック焼結基板の製造を安定して行うことができる。また、焼結時に離型剤不在領域において焼結体が固定される結果、焼成時の焼結基板における反りの防止にも効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明において、離型剤が存在しない領域を設ける一態様を示す概念図
図2】本発明において、離型剤が存在しない領域を設ける他の一態様を示す概念図
図3】本発明に使用される連続焼成装置の一態様を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、セラミックグリーンシートは、セラミック粉末を含むシート状の成形体であり、公知の方法によって得られるものが特に制限なく使用される。
【0016】
具体的には、セラミック粉末、焼結助剤及び必要に応じて配合されるバインダー樹脂を含む組成物をシート状に成形して得られたものが一般的である。また、前記組成物における各構成成分の割合も特に制限されるものではないが、セラミック粉末100質量部に対して、焼結助剤0.5~10質量部、バインダー樹脂5~30質量部程度が一般的である。また、上記組成物は、後述するスラリーの調製時に泡の発生を抑制する消泡剤、グリーンシートに柔軟性を付与する可塑剤など、その他の添加剤を更に含んでいてもよい。
【0017】
前記セラミック粉末としては、窒化アルミニウム粉末、窒化ケイ素粉末、アルミナ粉末などが挙げられる。上記セラミック粉末の粒径は、特に制限されないが、一般に、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定される平均粒子径(D50)が0.3~10μm、好ましくは、1~5μmのものが好適に使用される。また、窒化ケイ素粉末については、α型、β型のいずれの結晶形態のものも使用することができるが、後述の焼結後、離型剤が存在しない領域での焼結による固着の程度が抑制でき、容易に焼結基板同士を分離することができる点で、β型の窒化ケイ素粉末が好適に使用される。
【0018】
また、焼結助剤としては、それぞれのセラミック粉末において使用される公知の焼結助剤を適宜選択して使用することができる。例えば、セラミック粉末が窒化ケイ素粉末の場合、酸素を持たない化合物を含む焼結助剤が特に好適に使用される。酸素を持たない化合物を含む焼結助剤を使用することが、得られる窒化ケイ素焼結体の熱伝導率の低下を防止することができるため好ましい。
【0019】
前記酸素を持たない化合物としては、希土類元素又はマグネシウム元素を含む炭窒化物系の化合物(以下、特定の炭窒化物系の化合物ともいう)および窒化物系の化合物(以下、特定の窒化物系の化合物ともいう)が好ましい。このような、特定の炭窒化物系の化合物および特定の窒化物系の化合物を用いることで、より効果的に熱伝導率が高い窒化ケイ素焼結体を得やすくなる。上記特定の炭窒化物系の化合物が、窒化ケイ素粉末に含まれる酸素を吸着するゲッター剤として機能し、特定の窒化物系の化合物においては、窒化ケイ素焼結体の全酸素量を低下させ結果として熱伝導率が高い窒化ケイ素焼結体が得られる。
【0020】
希土類元素を含む炭窒化物系の化合物において、希土類元素としては、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Sm(サマリウム)、Ce(セリウム)、Yb(イッテルビウム)などが好ましい。
【0021】
希土類元素を含む炭窒化物系の化合物としては、例えば、YSiC、YbSiC、CeSiC、などが挙げられ、これらの中でも、熱伝導率が高い窒化ケイ素焼結体を得やすくする観点から、YSiC、YbSiCが好ましい。
【0022】
マグネシウム元素を含む炭窒化物系の化合物としては、例えば、MgSiCなどが挙げられる。またマグネシウム元素を含む特定の窒化物系の化合物としては、MgSiNなどが挙げられる。これら特定の炭窒化物系の化合物および特定の窒化物系の化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
上記した希土類元素又はマグネシウム元素を含む炭窒化物系の化合物の中でも、特に好ましい化合物および特定の窒化物系の化合物は、YSiC、MgSiC、MgSiNである。
【0024】
また、焼結助剤は、上記酸素を持たない化合物に加えて、さらに金属酸化物を含むことができる。焼結助剤が、金属酸化物を含有することで、窒化ケイ素粉末の焼結が進行しやすくなり、より緻密で強度が高い焼結体を得やすくなる。
【0025】
金属酸化物としては、例えば、イットリア(Y)、マグネシア(MgO)、セリア(CeO)などが挙げられる。これらの中でも、イットリアが好ましい。金属酸化物は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
焼結助剤に含まれる、前記特定の炭窒化物系の化合物を代表とする酸素を持たない化合物と金属酸化物との質量比(酸素を持たない化合物/金属酸化物)は、好ましくは0.2~4であり、より好ましくは0.6~2である。このような範囲であると、緻密で、熱伝導率が高い窒化ケイ素焼結体を得やすくなる。
【0027】
上記焼結助剤は、前記セラミック粉末100質量部に対して、2~20質量部、好ましくは、5~10質量部配合するのが一般的である。
【0028】
更に、バインダー樹脂としても、それぞれのセラミック粉末において使用される公知の樹脂を特に制限なく使用することができる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、メチルセルロース、アルギン酸、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、アクリル樹脂などが挙げられる。そのうち、グリーンシートとした際、離型剤が存在しない領域同士の接触により、密着性が良好なバインダー樹脂が特に好ましく、場合によっては、グリーンシート同士のブロッキング性を高める低分子樹脂をバインダー樹脂に混合して使用することも好ましい態様である。
【0029】
上記バインダー樹脂は、前記セラミック粉末100質量部に対して、1~30質量部、好ましくは、3~20質量部の割合で一般に使用される。
【0030】
また、セラミックグリーンシートの製造方法としても特に制限されず、前記組成物を有機溶媒、水等の溶媒に分散させてスラリーを調製し、かかるスラリーを、例えば、ドクターブレード法によりシート状に成形し、溶媒を除去することにより製造する方法が代表的である。
【0031】
上記セラミックグリーンシートの厚みは、目的とするセラミック焼結基板の用途において適宜決定される。具体的には、焼成後に得られるセラミック焼結基板の厚みが0.2~2mm程度の厚みとなるように決定するのが一般的である。また、セラミックグリーンシートは、製品として要求されるセラミック焼結基板の寸法、製造する過程での取扱い性等を考慮して、幅50~500mm、長さ50~500mmの正方形或いは長方形のシートとして扱われるのが一般的である。
【0032】
上記セラミックグリーンシートは、生産性を向上するため、複数枚、具体的には、20~100枚程度を積層して取り扱われるが、積層したグリーンシート同士が焼成時に焼結を起こさないように、グリーンシートは離型剤を介して積層される。上記離型剤としては、窒化ホウ素粉末が代表的であり、グリーンシート表面に粉末で散布したり、スラリーとして散布して乾燥させたりする方法によりクリーンシート表面に離型剤層を形成する。上記離型剤は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定される平均粒子径(D50)が1~20μm、好ましくは、3~7μmのものが好適に使用される。また、離型剤が窒化ホウ素粉末の場合、アスペクト比(長径L/厚みt)が5~50、好ましくは、10~30のものが好適に使用される。
【0033】
上記離型剤層の厚みは特に制限されないが、0.01~0.5mm程度、0.02~0.2mmが一般的である。離型剤層の厚みをあまり厚くすると、離型剤が存在しない領域において、積層物間の密着性を十分確保することが困難となる。
【0034】
尚、上記離型剤はグリーンシート間にそのまま存在させてもよいが、離型剤層にバインダー樹脂を存在させることが、離型剤の存在による滑りによるズレをバインダー樹脂が防止することができ好ましい。バインダー樹脂としては、前記グリーンシートの製造に使用するバインダー樹脂を使用することもできる。この場合、バインダー樹脂の存在割合は、離型剤100質量部に対して3~5質量部程度が好ましい。また、前記バインダー樹脂の存在のさせ方は限定されないが、離型剤の表面を覆うように設けることが好ましく、具体的には、離型剤のスラリーをスプレーしてグリーンシートに塗布する態様においては、上記スラリーにバインダー樹脂を添加する態様が好適である。
【0035】
本発明の特徴は、前記グリーンシート間に存在せしめる離型剤層において、離型剤が存在しない領域(以下、離型剤不在領域ともいう)を設けることを特徴とする。即ち、上記離型剤不在領域を設けることにより、取扱い時における積層物内でのズレを効果的に防止することができ、安定してセラミック焼結基板を製造することができる。即ち、積層物がグリーンシートの場合、離型剤不在領域が存在することにより、積層物内のグリーンシート間の横方向の滑りが抑制され、脱脂炉への移送時、脱脂炉への収納時等において、かかる滑りによるグリーンシートがズレを起こすことなく、安定して脱脂することができる。上記取扱い時における滑りの要因としては、積層物を移動する際の振動や衝撃、更には、焼成炉に収納後のガス置換などの操作における負圧時、復圧時のガス流、その他ガス流が考えられる。また、離型剤不存在領域は、脱脂後の焼成において、かかる部分で軽度の焼結が進行する。前記離型剤不在領域を存在させることの効果は、上記取扱い時における滑りによる移動で発生する前記ズレの防止に加え、上記離型剤不存在領域における焼結の進行により、積層物内での基板の収縮によるズレも効果的に防止することもできる。
【0036】
上記離型剤不在領域は、積層物間に離型剤を存在させる際に形成するのが好適である。従って、通常は、セラミックグリーンシートに離型剤層を形成して積層する工程において、離型剤不在領域が形成される。具体的には、セラミックグリーンシートを順次積層する操作において、離型剤不在領域となる位置にシール部材を置いた状態で離型剤をスプレー等で塗布し、その後シール部材を除く(剥離する)ことによって離型剤不在領域を形成することができる。その後、順次必要な枚数のセラミックグリーンシートを同様に処理して積層する方法が好適に採用される。
【0037】
本発明において、離型剤不在領域では、焼成後、かかる部分で積層されて隣り合う焼結基板が焼結により固着し、これを分離する際に表面が荒れる場合があるため、離型剤不在領域は、前記セラミックグリーンシートの周縁部に設けることが好ましい。また、離型剤不在領域の占める面積も、同様の理由により、セラミックグリーンシートの面積に対して、総面積が2~20%、好ましくは、5~15%とすることが好ましく、また、一つの離型剤不在領域において2%以上、特に5%以上とすることが積層物内での滑りの防止に効果的であり、逆に、焼結後の分離の容易性を考慮すれば、10%、特に8%を上限とすることが好ましい。
【0038】
また、離型剤不在領域の個数は、2か所以上とすることが、積層物内での滑りを確実に防止する上で好ましい。
【0039】
図1、2は、セラミックグリーンシートに離型剤不在領域を形成する代表的な態様を示す平面図を示すものである。図に示すように、離型剤層Aにおける離型剤不在領域Bの形状は、図1に示す丸形、図2に示す矩形を代表とするが、その他の形状も適宜採用することができる。また、離型剤不在領域Bを形成する位置も、図1に示すように角部に設ける態様、図2に示すように辺部に設ける態様が代表的である。
【0040】
また、前記離型剤不在領域を設けることに関し、他の好ましい態様として、離型剤不在領域にガラス転移点(Tg)が-20℃以下の、粘着性を有する易脱脂性樹脂、例えばアクリル樹脂を離型剤層の厚みを超えない量で存在させる態様が挙げられる。これにより、後述の脱脂操作までにおける積層物内でのズレの抑制効果を一層高めることができる。
【0041】
本発明において、セラミックグリーンシートの積層物の脱脂は、公知の脱脂条件が特に制限なく採用される。また、脱脂後の上記積層物の焼成条件も公知の焼成条件が特に制限なく採用される。例えば、前記セラミック粉が窒化ケイ素の場合、脱脂条件は、特に限定されないが、例えば、有機バインダーを使用して成形された成形体を空気中又は窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で450~650℃に加熱することにより行えばよい。
【0042】
上記脱脂工程に使用する脱脂炉は、バッチ方式、連続方式のいずれでもよいが、後述の連続焼成炉との組み合わせにおいて、連続方式を採用することが好ましい。連続方式を具体的に例示すれば、前記温度に室内を加熱し得る加熱機構を備え、前記ガス雰囲気に調整された脱脂室に、脱脂用治具に載置した成形体を公知の搬送機構により連続的に通過させる方法が挙げられる。
【0043】
また、焼成は、窒素ガス又はその他の不活性ガス雰囲気下で行われ、圧力は、0MPa・G以上0.1MPa・G未満に調整されることが好ましい。圧力は、好ましくは0MPa・G以上0.05MPa・G以下であることが更に好ましい。ここで、圧力単位のMPa・Gの末尾のGはゲージ圧力を意味する。また、焼成温度は、1200~1800℃の温度が好適である。
【0044】
また、本発明において、積層物の焼成後、積層された状態で得られるセラミック焼結基板は、分離せずにそのまま出荷することも可能であり、この場合、積層物を結束用のバンドにより固定することなく、包装して出荷することができる。勿論、焼成後、セラミック焼結基板を分離した後、従来の出荷形態により出荷することも可能である。尚、上記セラミック焼結基板の積層物からの分離は、セラミック焼結基板間にブレードを差し込んで分離する方法が基板の損傷なく、上記分離を行うことができ好ましい。また、上記作業は、人手により行ってもよいし、適宜自動化することも可能である。
【0045】
前記積層物の取り扱い時に離型剤不在領域を設ける本発明の方法は、取り扱い時において積層物が常に振動などの外力を受ける機会が多い、連続法において採用する場合、特に有効である。ここで、「連続法」とは、セラミックグリーンシートの脱脂炉、及び/又は焼成炉への供給、排出を連続的に行うことを意味し、例えば、脱脂後の、焼成炉においては、図3に示すような連続焼成炉を使用して連続的に行うことができる。先ず、積層物であるセラミックグリーンシートの積層体は、焼成用治具2に載置された状態で脱脂された後(勿論、脱脂も連続炉で行うことも可能である。)、連続焼成炉に連続的に供給される。即ち、連続焼成炉は、焼成容器5の胴部に4分割された加熱機構6を備え、反応容器内5内には窒素が供給され、圧力調整される。脱脂を終了した積層物を載置した治具は、供給室11の搬入扉(図示せず)を開いて供給室に搬入し、搬入扉を閉とした後、内部空間を窒素置換し、焼成容器5内と圧力を合わせた後、供給用開閉扉3を開放し焼成用治具2を焼成容器5内にピストンシリンダー10により供給される。焼成用治具は、上記操作の繰り返しにより、焼成容器5内を順次進み、その間、焼成容器5の長さ、加熱機構6の分割数、各ゾーンの長さを設定すると共に、各ゾーンの温度を制御することにより、焼成される。そして、焼成が完了した焼成用治具2は、取出室13の内部空間を窒素置換し、焼成容器5内と圧力を合わせた後、排出用開閉扉4を開とし、焼成用治具2を取出室13に取り出される。その後、排出用開閉扉4を閉とし、取出用扉12を開いて取出室13から焼成された積層物が焼成用治具ごと取り出される。
【実施例0046】
以下、実施例を示すが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1
窒化ケイ素粉末A100質量部、酸素を含まない化合物YSiC:2質量部、MgSiN:5質量部、イットリア:3質量部、秤量し、水を分散媒として樹脂ポットと窒化ケイ素ボールを用いて、24時間ボールミルで粉砕混合を行った。なお、水はスラリーの濃度が60wt%となるように予め秤量し、樹脂ポット内に投入した。粉砕混合後、ポリビニルアルコール樹脂を22質量部添加し、さらに12時間混合を行いスラリー状の成形用組成物を得た。次いで、該成形用組成物を、真空脱泡機(サヤマ理研製)を用いて粘度調整を行い、塗工用スラリーを作製した後、このスラリーをドクターブレード法によりシート成形、乾燥を行い、幅75cm、厚さ0.42mmtのシート成形体を得た。上記得られたシート成形体を長さ75cm間隔で切断し、窒化ケイ素グリーンシートを得た。
【0048】
得られた窒化ケイ素グリーンシートをカーボン製の板状の治具上に置き、図1に示す4か所の位置に、プラスチック製の丸形のシール部材(10mmφ)を設置した後、離型剤として平均粒径5.2μmの窒化ホウ素粉末(アスペクト比約20)を塗布量換算で0.1mmの厚みで存在させた。その後、前記シール部材を除去し、離型剤不在領域を形成した窒化ケイ素グリーンシートを得た。上記操作を繰り返し、50枚の窒化ケイ素グリーンシートを製造し、これを積層した積層物を100セット製造した。
【0049】
また、上記積層物を載置した前記カーボン製の板状の治具に、カーボン製の四角い筒状体を取り付けて、図1の拡大図に示すようにその周囲を囲うようにセットした。
【0050】
積層物を上記治具に収容した状態で、約10mの連続脱脂装置、約20mの連続焼成装置をそれぞれ連続で移送して、脱脂、焼成を実施し、窒化ケイ素焼結基板を積層物の状態で得た。
【0051】
得られた窒化ケイ素焼結基板の積層物を観察した結果、連続焼成装置ズレが生じていた積層物は、100サンプル(積層物ベース)中、ゼロであり、ズレによる焼結基板の不良は発生しなかった。また、各焼結基板を分離後、任意の100枚を選択し、10サンプルについて反りの程度を測定したところ、規格外の反りが発生した焼結基板は、確認できなかった。
【0052】
比較例1
実施例1において、窒化ケイ素グリーンシートを積層する際に離型剤不在領域を形成しなかった以外は、同様にして窒化ケイ素焼結基板を製造した。
【0053】
得られた窒化ケイ素焼結基板の積層物を観察した結果、連続焼成装置ズレが生じていた積層物は、100サンプル(積層物ベース)中、17サンプルにおいて、1~5mm程度の積層物におけるズレが観察され、得られる焼結基板の色斑や欠け等不良の発生に繋がった。また、各焼結基板を分離後、任意の100枚を選択し、10サンプルについて反りの程度を測定したところ、規格外の反りが発生した焼結基板は、10%を超えた。
【0054】
実施例2
実施例1において、離型剤として使用した窒化ホウ素粉末に代えて、上記窒化ホウ素粉末100質量部に対して2.5質量部となる量でバインダー樹脂(ポリビニルアルコール樹脂)を被覆させた離型剤を存在させた以外は同様にして、窒化ケイ素焼結基板を製造した。
【0055】
得られた窒化ケイ素焼結基板の積層物を観察した結果、連続焼成装置ズレが生じていた積層物は、100サンプル(積層物ベース)中、ゼロであり、ズレによる焼結基板の不良は発生しなかった。また、各焼結基板を分離後、任意の100枚を選択し、10サンプルについて反りの程度を測定したところ、規格外の反りが発生した焼結基板は、確認できなかった。
【0056】
尚、上記積層物は、脱脂工程前において、移動時に通常受ける振動、衝撃より高い外力を加えた場合でも、積層物内でのズレの発生を抑制することができた。
【0057】
実施例3
実施例1において、離型剤不在領域に、Tgが-20℃のアクリル樹脂を塗布した以外は同様にして、窒化ケイ素焼結基板を製造した。
【0058】
得られた窒化ケイ素焼結基板の積層物を観察した結果、連続焼成装置ズレが生じていた積層物は、100サンプル(積層物ベース)中、ゼロであり、ズレによる焼結基板の不良は発生しなかった。また、各焼結基板を分離後、任意の100枚を選択し、10サンプルについて反りの程度を測定したところ、規格外の反りが発生した焼結基板は、確認できなかった。
【0059】
尚、上記積層物は、脱脂工程前において、移動時に通常受ける振動、衝撃より高い外力を加えた場合でも、積層物内でのズレの発生を抑制することができた。
【符号の説明】
【0060】
A 離型剤層
B 離型剤不在領域
1 積層物
2 焼成用治具
3 供給用開閉扉
4 排出用開閉扉
5 焼成容器
6 加熱機構
7 案内板
8 案内板
9 ローラー
10 ピストンシリンダー
11 供給室
12 取出用扉
13 取出室
図1
図2
図3