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特開2023-71006誘電体、容量素子および誘電体の製造方法
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  • 特開-誘電体、容量素子および誘電体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071006
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】誘電体、容量素子および誘電体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/08 20060101AFI20230515BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20230515BHJP
   H01G 4/33 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
H01G4/08 Z
H01G13/00 391Z
H01G4/33 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183555
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 久美子
(72)【発明者】
【氏名】加納 朱杜
(72)【発明者】
【氏名】鱒渕 友治
(72)【発明者】
【氏名】吉川 信一
【テーマコード(参考)】
5E082
【Fターム(参考)】
5E082AB01
5E082FF05
5E082FG03
5E082FG04
5E082FG22
5E082FG27
5E082FG42
5E082FG46
5E082PP06
(57)【要約】
【課題】 比誘電率および抵抗率が高く高容量な容量素子の作製に適した誘電体、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 誘電体組成物および導体フィラーを有し、導体フィラーが誘電体組成物中に分散しており、誘電体組成物がSiO(N)系アモルファスを含み、導体フィラーがMN金属粒子を含み、MがTi、NbおよびCrから選択される1種以上である誘電体である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体組成物および導体フィラーを有し、
前記導体フィラーが前記誘電体組成物中に分散しており、
前記誘電体組成物がSiO(N)系アモルファスを含み、
前記導体フィラーがMN金属粒子を含み、
MがTi、NbおよびCrから選択される1種以上である誘電体。
【請求項2】
前記誘電体に含まれるSiの含有量が、SiとMとの合計含有量に対して原子数比で40%以上である請求項1に記載の誘電体。
【請求項3】
前記MN金属粒子の平均粒子径が10nm以下である請求項1または2に記載の誘電体。
【請求項4】
誘電体組成物および導体フィラーを有し、
前記導体フィラーが前記誘電体組成物中に分散しており、
前記誘電体組成物がSiO系アモルファスを含み、
前記導体フィラーがM´金属粒子を含み、
M´がFe、Co、NiおよびCuから選択される1種以上である誘電体。
【請求項5】
前記誘電体に含まれるSiの含有量が、SiとM´との合計含有量に対して原子数比で40%以上である請求項4に記載の誘電体。
【請求項6】
前記M´金属粒子の平均粒子径が10nm以下である請求項4または5に記載の誘電体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の誘電体および一対の電極を有する容量素子。
【請求項8】
請求項1~3のいずれかに記載の誘電体の製造方法であり、
(Si,M)(O,N)系アモルファスを形成する工程と、
前記(Si,M)(O,N)系アモルファスに対してアニール処理を行うことにより前記誘電体に前記SiO(N)系アモルファスおよび前記MN金属粒子を含ませる工程と、を含み、
前記アニール処理におけるアニール温度が700℃以上800℃以下である誘電体の製造方法。
【請求項9】
前記アニール処理をNH3雰囲気下で行う請求項8に記載の誘電体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~3のいずれかに記載の誘電体の製造方法であり、
Mの含有量がSiとMとの合計含有量に対して原子数比で45%以上である(Si,M)(O,N)系アモルファスを形成する工程を含む誘電体の製造方法。
【請求項11】
請求項4~6のいずれかに記載の誘電体の製造方法であり、
(Si,M´)O系アモルファスを形成する工程と、
前記(Si,M´)O系アモルファスに対してアニール処理を行うことにより前記誘電体に前記SiO系アモルファスおよび前記M´金属粒子を含ませる工程と、を含み、
前記アニール処理におけるアニール温度が700℃以上800℃以下である誘電体の製造方法。
【請求項12】
請求項4~6のいずれかに記載の誘電体の製造方法であり、
M´の含有量がSiとM´との合計含有量に対して原子数比で45%以上である(Si,M´)O系アモルファスを形成する工程を含む誘電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体、容量素子および誘電体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、微小金属粒子が誘電体層に分散したセラミックキャパシタの製造方法に関する発明が記載されている。誘電体層に粒径が45μm以下のチタン粒子を分散させる実施例、および、誘電体層に粒径が2~3μmのニッケル粒子を分散させる実施例が記載されている。
【0003】
特許文献2には、誘電体を含む電子部品に関する発明が記載されている。誘電体中に粒径が1μmの各種金属粉末(例えばPd金属粉末等)を分散させる実施例、および、平均粒径が0.3μmのパーマロイの粉末を分散させる実施例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6236706号公報
【特許文献2】特許第6432323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、比誘電率および抵抗率が高く高容量な容量素子の作製に適した誘電体、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点に係る誘電体は、誘電体組成物および導体フィラーを有し、
前記導体フィラーが前記誘電体組成物中に分散しており、
前記誘電体組成物がSiO(N)系アモルファスを含み、
前記導体フィラーがMN金属粒子を含み、
MがTi、NbおよびCrから選択される1種以上である。
【0007】
前記誘電体に含まれるSiの含有量が、SiとMとの合計含有量に対して原子数比で40%以上であってもよい。
【0008】
前記MN金属粒子の平均粒子径が10nm以下であってもよい。
【0009】
本発明の第2の観点に係る誘電体は、誘電体組成物および導体フィラーを有し、
前記導体フィラーが前記誘電体組成物中に分散しており、
前記誘電体組成物がSiO系アモルファスを含み、
前記導体フィラーがM´金属粒子を含み、
M´がFe、Co、NiおよびCuから選択される1種以上である。
【0010】
前記誘電体に含まれるSiの含有量が、SiとM´との合計含有量に対して原子数比で40%以上であってもよい。
【0011】
前記M´金属粒子の平均粒子径が10nm以下であってもよい。
【0012】
本発明に係る容量素子は、本発明の第1の観点に係る誘電体または本発明の第2の観点に係る誘電体、および、一対の電極を有する。
【0013】
本発明の第1の観点に係る誘電体の第1の製造方法は、 (Si,M)(O,N)系アモルファスを形成する工程と、
前記(Si,M)(O,N)系アモルファスに対してアニール処理を行うことにより前記誘電体に前記SiO(N)系アモルファスおよび前記MN金属粒子を含ませる工程と、を含み、
前記アニール処理におけるアニール温度が700℃以上800℃以下である。
【0014】
前記アニール処理をNH3雰囲気下で行ってもよい。
【0015】
本発明の第1の観点に係る誘電体の第2の製造方法は、
Mの含有量がSiとMとの合計含有量に対して原子数比で45%以上である(Si,M)(O,N)系アモルファスを形成する工程を含む。
【0016】
本発明の第2の観点に係る誘電体の第1の製造方法は、
(Si,M´)O系アモルファスを形成する工程と、
前記(Si,M´)O系アモルファスに対してアニール処理を行うことにより前記誘電体に前記SiO系アモルファスおよび前記M´金属粒子を含ませる工程と、を含み、
前記アニール処理におけるアニール温度が700℃以上800℃以下である。
【0017】
本発明の第2の観点に係る誘電体の第2の製造方法は、
M´の含有量がSiとM´との合計含有量に対して原子数比で45%以上である(Si,M´)O系アモルファスを形成する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る薄膜キャパシタの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図面を用いて説明する。
【0020】
本実施形態に係る誘電体および一対の電極を含む容量素子の一種である薄膜キャパシタの模式図を図1に示す。図1に示す薄膜キャパシタ1は、基板11上に下部電極12、誘電体からなる薄膜13の順に形成され、誘電体からなる薄膜13の表面に上部電極14を備える。なお、以下の記載では誘電体からなる薄膜のことを単に誘電体薄膜と呼ぶ場合がある。
【0021】
本実施形態における薄膜とは、薄膜製造時に用いる原料化合物が、一度原子または分子レベルに分離または励起された後に、再び形成されるものを指す。したがって、スラリー等の塗布により成膜される化合物は本実施形態における薄膜には含まれない。
【0022】
基板11には特に制限はない。例えば、Si単結晶基板が挙げられる。また、後述する下部電極12が基板11を兼ねてもよい。下部電極12が基板11を兼ねる場合には、例えば、Ta箔が挙げられる。
【0023】
下部電極12および上部電極14の材質に特に制限はなく、電極として機能すればよい。例えば、Ta,Pt,Ag,Ni等が挙げられる。下部電極12の厚みは0.01~10μmが好ましい。上部電極14の厚みは0.01~10μmが好ましい。
【0024】
誘電体薄膜13に含まれる本実施形態の誘電体は、誘電体組成物および導体フィラーを有し、
前記導体フィラーが前記誘電体組成物中に分散しており、
前記誘電体組成物がSiO(N)系アモルファスを含み、
前記導体フィラーがMN金属粒子を含み、
MがTi、NbおよびCrから選択される1種以上である誘電体である。また、MをTiに置き換えてもよい。
【0025】
誘電体薄膜13に含まれる誘電体が上記の構成を有することにより、誘電体薄膜13の厚みが薄くても、具体的には、100nm未満であっても、高い比誘電率および高い比抵抗を有する誘電体薄膜13となる。そして、そのような誘電体薄膜13を含む薄膜キャパシタ1は高容量な薄膜キャパシタ1となる。なお、誘電体薄膜13の厚みには特に下限はない。例えば5nm以上である。
【0026】
誘電体組成物に含まれるSiO(N)系アモルファスとは、少なくともSi、OおよびNを含み、SiがSiO2もしくはSiOxyとして含まれるアモルファスのことである。SiO(N)系アモルファスにおけるSi、OおよびNの合計含有量を100at%として、SiO(N)系アモルファスにおけるSiの含有量が30at%以上40at%以下であってもよい。
【0027】
誘電体組成物には、SiO(N)系アモルファス以外の元素として、不可避的不純物、例えばMN金属粒子以外の状態で存在するMなどが含まれ得る。誘電体組成物におけるSi,OおよびN以外の元素の含有量が20mass%以下であってもよい。
【0028】
誘電体組成物中に導体フィラーが分散している。そして、導体フィラーにMN金属粒子が含まれる。MN金属粒子の粒径には特に制限はないが、平均で10nm以下であってもよく、3nm以下であってもよい。MN金属粒子の粒径が小さいことにより、誘電体薄膜13が高い比誘電率および高い比抵抗を有しやすくなる。
【0029】
導体フィラーにおけるMおよびN以外の元素の含有量が10mass%以下であってもよい。
【0030】
また、誘電体に含まれるSiの含有量が、SiとMとの合計含有量に対して原子数比で30%以上であってもよい。40%以上であることが好ましい。誘電体における絶縁性を担保しているのは誘電体組成物として含まれるSiO(N)系アモルファスである。誘電体における比抵抗を十分に高くするためにSiO(N)系アモルファスの含有割合がある程度、高いことが好ましい。なお、Siの含有量の上限は特にないが、例えばSiの含有量が、SiとMとの合計含有量に対して原子数比で80%以下であってもよい。
【0031】
以下、誘電体薄膜13に含まれる誘電体の組成の分析方法について説明する。
【0032】
誘電体の組成の分析方法には特に制限はない。例えば、蛍光X線分析法(XRF)、X線光電子分光法(XPS)が挙げられる。
【0033】
XRFおよびXPSはいずれも誘電体の組成の分析方法として周知の方法であり、例えば誘電体薄膜に用いることができる。誘電体の組成の分析方法としては、主にXRFが用いられている。また、誘電体の組成の厚み方向における均一性を評価する場合には、XPSが好適に用いられる。XPSを用いて誘電体の組成の厚み方向における均一性を評価する場合には、誘電体に対してArエッチングを行いながら誘電体の組成を分析する。
【0034】
XRFでもXPSでも、測定装置の内部標準を用いて組成を算出することができる。高精度な分析を行う場合には、組成が既知である試料を基準試料として準備し、基準試料を用いて検量線を作成し、作成した検量線を用いて組成を算出する。
【0035】
以下、MN金属粒子の有無の判定方法について説明する。
【0036】
誘電体がMN金属粒子を有するか否かは透過電子顕微鏡(TEM)を用いて確認することができる。また、MN金属粒子の粒径もTEMを用いて確認することができる。
【0037】
TEMを用いる方法よりも簡便にMN金属粒子の有無を確認できる方法としてはX線回折装置(XRD)を用いて回折パターンを評価する方法が挙げられる。以下、MがTiである場合について説明するが、MがNbまたはCrである場合についても回折パターンが異なる点以外は同一である。
【0038】
例えばCuKα線源を用いたXRDにより2θ<70°の範囲で回折パターンを得る場合には、TiN金属粒子を表すピークが回折角度2θ=37°、43°、62°の3箇所に現れる。ただし、Nが一部欠損したTiN金属粒子および/またはTiが一部欠損したTiN金属粒子を誘電体が含むことにより、上記の回折角度2θが変化することがあり得る。
【0039】
TiN金属粒子の粒径が数nm程度と小さいため、TiN金属粒子を表すピークは明確には現れない。TiN金属粒子を表すピークは僅かなふくらみとして現れる。そして、TiN金属粒子が誘電体に含まれる場合には、上記の3箇所の回折角度において同時に僅かなふくらみが現れる。したがって、TiN金属粒子を表すピークが明確には現れなくても誘電体がTiN金属粒子を有するか否かは十分に判断できる。XRDを用いる方法以外のTiN金属粒子の有無を確認する方法としては、例えば、RamanスペクトルによってTiN金属粒子の有無を確認する方法が挙げられる。
【0040】
なお、誘電体がTiN金属粒子を有する場合には、誘電体の組成が同一でありTiN金属粒子を有さない場合と比較して吸収端がわずかに低波長側にシフトする。
【0041】
以下、容量素子の一種である図1に示す薄膜キャパシタの製造方法について説明する。誘電体の製造方法については薄膜キャパシタの製造方法の中で説明する。
【0042】
まず、基板を準備する。基板の材質には特に制限はない。例えば、Si単結晶基板を用いることができる。また、金属箔、例えばTa箔を基板として使用することも出来る。なお、金属箔を基板として使用する場合には、基板が電極を兼ねてもよい。
【0043】
次に、基板上に電極を形成する。電極の材質に特に制限はなく、電極として機能すればよい。例えば、Ta,Pt,Ag,Ni等が挙げられる。電極の厚みには特に制限はない。基板に電極を形成する場合には0.01~10μmであってもよい。電極の形成方法には特に制限はない。例えばスパッタ法、蒸着法などが挙げられる。
【0044】
次に、電極上に誘電体薄膜を形成する。この際に(Si,M)(O,N)系アモルファスからなる誘電体薄膜を成膜する。
【0045】
(Si,M)(O,N)系アモルファスとは、Si,M,OおよびNを含むアモルファスである。最終的に目的とする誘電体が得られるようにSiとMとの比率を制御する。
【0046】
まず、上記の誘電体薄膜を成膜するために成膜用のターゲットを作製する。具体的にはMおよびSiからなる複合ターゲットを作製する。
【0047】
複合ターゲットの作製方法には特に制限はない。例えば、Mからなる成膜用ターゲット(以下、Mターゲットと呼ぶ)の上にSiチップを並べることで作製することができる。個々のSiチップの形状には特に制限はない。例えば最も面積の大きな2面が3mm角~10mm角の正方形であり、厚みが0.5mm程度である直方体形状としてもよい。この方法で複合ターゲットを作製する場合には、Siチップの数を変更することにより、成膜用ターゲットにおけるSiとMとの比率を容易に変更することができ、得られる誘電体薄膜におけるSiとMとの比率を容易に制御することができる。
【0048】
次に、成膜用ターゲットとして複合ターゲットを用いたRFスパッタ法により(Si,M)(O,N)系アモルファスからなる誘電体薄膜を成膜する。
【0049】
RFスパッタ法の条件には特に限定はない。スパッタガスの種類、スパッタガスの圧力、高周波電力の大きさおよびスパッタ時間を適宜制御して目的とする(Si,M)(O,N)系アモルファスからなる誘電体薄膜を成膜する。
【0050】
以下、700℃以上でのアニール処理を行う場合と700℃以上でのアニール処理を行わなくてよい場合とについて個別に説明する。
【0051】
(700℃以上でのアニール処理を行う場合)
得られた(Si,M)(O,N)系アモルファスからなる誘電体薄膜に対してアニール処理を行う。アニール処理を行うことにより、(Si,M)(O,N)系アモルファスに含まれるMをNと結合させてMN金属粒子を生成させ、誘電体内部に分散析出させることができる。そして、誘電体組成物としてSiO(N)系アモルファスを含み導体フィラーとしてMN金属粒子を含む誘電体薄膜となる。さらに、導体フィラーが誘電体組成物中に分散している誘電体薄膜となる。なお、導体フィラーが誘電体組成物中に分散している状態とは、誘電体組成物中で個々の導体フィラー粒子が連続せず、孤立している状態を指す。
【0052】
アニール処理時の雰囲気はO2の含有量が著しく小さい雰囲気であれば特に制限はない。例えば、N2雰囲気中、Ar雰囲気中、NH3雰囲気中、真空中などが挙げられる。NH3雰囲気中でアニール処理を行う場合にはNが雰囲気から供給されるためにMN金属粒子を生成させやすく、誘電体内部に析出させやすくなる。以下、NH3雰囲気中でアニール処理を行う場合について説明する。
【0053】
アニール処理時におけるNH3ガスの流量には特に制限はない。例えば30mL/min以上100mL/min以下としてもよい。アニール温度は700℃以上であること以外、特に制限はない。例えば700℃以上900℃以下としてもよく、700℃以上800℃以下としてもよい。アニール温度が低すぎる場合には、MN金属粒子が成長しにくい。アニール時間には特に制限はない。例えば0.5時間以上10時間以下としてもよい。
【0054】
アニール温度が高いほど均一性の高い誘電体薄膜が得られやすい。しかし、容量素子として誘電体を用いる場合には、アニール温度は900℃以下または800℃以下で十分に均一性の高い誘電体薄膜が得られる。アニール温度が高すぎる誘電体薄膜は、製造コストが高コストとなるが比誘電率および抵抗率は上昇しない。そして、容量素子としてアニール温度が高すぎる誘電体薄膜を用いても容量は上昇しない。さらに、誘電体薄膜は、アニール温度が高いほど、誘電体としての特性、具体的には電気抵抗が劣る傾向にある。
【0055】
さらに、アニール温度が高すぎると電極が基板から剥離する場合がある。特にSi単結晶基板上に電極を形成する場合には、電極が基板から剥離しやすい。例えば、Si単結晶基板上にPtからなる電極を形成する場合には、アニール温度が800℃を上回ると電極が基板から剥離する場合がある。
【0056】
金属箔を基板兼電極として用いる場合には上記の剥離は生じない。ただし、アニール温度が高すぎると反りが生じる場合がある。
【0057】
(700℃以上でのアニール処理を行わなくてもよい場合)
上記の(Si,M)(O,N)系アモルファスからなる誘電体薄膜におけるMの含有量がSiとMとの合計含有量に対して原子数比で45%以上である場合には、700℃以上でのアニール処理を行わなくても、MN金属粒子が生成し誘電体内部に分散析出することがある。具体的には、(Si,M)(O,N)系アモルファスの生成時および/または生成後に、(Si,M)(O,N)系アモルファスに含まれるMとNが結合してMN金属粒子が生成し誘電体内部に分散析出することがある。そして、誘電体組成物としてSiO(N)系アモルファスを含み導体フィラーとしてMN金属粒子を含む誘電体薄膜となる。さらに、導体フィラーが誘電体組成物中に分散している誘電体薄膜となる。
【0058】
以下に示す工程は700℃以上でのアニール処理を行う場合と700℃以上でのアニール処理を行わなくてもよい場合とで共通する。
【0059】
次に、必要に応じて誘電体薄膜の電極(上部電極)を形成し、薄膜キャパシタを作製する。電極の材質および形成方法には特に制限はない。
【0060】
上記の方法で作製した薄膜キャパシタに含まれる誘電体薄膜は比誘電率および抵抗率が高い。さらに、上記の方法で作製した誘電体薄膜の厚みが100nm以下である薄膜キャパシタは、誘電体薄膜の厚みが100nm以下である従来の薄膜キャパシタと比較して高容量である。
【0061】
高い比誘電率を有する誘電体を作製するためには、比誘電率の高い材料、例えばBaTiO3を用いることが知られている。しかし、誘電体としてBaTiO3を用いる場合、誘電体の厚みが薄くなると比誘電率が低下する。
【0062】
誘電体の厚みが小さくても比較的高い比誘電率が得られる材料として、ダイオードゲート膜に用いられる材料、例えばSiO2が知られている。しかし、誘電体としてSiO2を用いる場合、比誘電率が10以下であり十分に高い比誘電率は得られない。
【0063】
誘電体組成物中に導体フィラーを分散させた誘電体は導体フィラーを分散させていない誘電体と比較して比誘電率が向上することが知られている。そして、誘電体組成物中に導体フィラーを分散させた誘電体を用いて容量素子を作製する場合には導体フィラーを分散させていない誘電体を用いて容量素子を作製する場合と比較して高容量化することが知られている。一方で、導体フィラーの充填率が高いほど比抵抗が低下し絶縁性が低下することが知られている。さらに、従来は導体フィラーに含まれる金属粒子のサイズが数μm以上であり、誘電体組成物中の誘電体粒子と同程度の粒径であるため、比誘電率、比抵抗および絶縁性を低下させるリークの原因となる場合がある。
【0064】
また、従来は誘電体組成物中に導体フィラーを分散させる方法として誘電体組成物に導体フィラーを混錬させる方法が行われている。そして、混錬後の誘電体組成物を焼成して誘電体を作製している。
【0065】
ここで、導体フィラーに含まれる金属粒子のサイズを数nmとすることで、導体フィラーの充填率を低下させずに導体フィラーのパーコレーションを抑制することができ、比抵抗および絶縁性を維持することができる。
【0066】
しかし、金属粒子のサイズが数nmである場合に上記の方法で誘電体組成物中に導体フィラーを分散させようとすると、焼成時に金属粒子が粒成長してしまう。または、焼成時に金属粒子が容易に拡散し消失してしまう。焼成を行わない場合には十分に高い特性を有する誘電体とならない。
【0067】
本実施形態に係る誘電体は、特に誘電体の厚みが小さい場合において比誘電率および抵抗率が高く高容量な容量素子の作製に適した誘電体となる。
【0068】
本実施形態では、容量素子が薄膜キャパシタである場合について説明したが、容量素子が薄膜キャパシタでなくてもよい。すなわち、誘電体が誘電体薄膜でなくてもよい。例えば、スラリーを電極に塗布し、脱バインダすることにより(Si,M)(O,N)系アモルファスからなる誘電体を作製してもよい。(Si,M)(O,N)系アモルファスからなる誘電体を作製した後の製造方法は、誘電体が誘電体薄膜である場合の製造方法と同様である。
【0069】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態について説明する。特に記載のない部分については第1実施形態と同様である。
【0070】
誘電体薄膜13に含まれる本実施形態の誘電体は、誘電体組成物および導体フィラーを有し、
前記導体フィラーが前記誘電体組成物中に分散しており、
前記誘電体組成物がSiO系アモルファスを含み、
前記導体フィラーがM´金属粒子を含み、
M´がFe、Co、NiおよびCuから選択される1種以上である誘電体である。
【0071】
誘電体組成物に含まれるSiO系アモルファスとは、少なくともSiおよびOを含むアモルファスのことである。SiO系アモルファスはNを含んでもよい。そして、SiO系アモルファスにはSiがSiO2もしくはSiOxyとして含まれる。SiO系アモルファスにおけるSi、OおよびNの合計含有量を100at%として、SiO系アモルファスにおけるSiの含有量が30at%以上40at%以下であってもよい。
【0072】
誘電体組成物には、SiO系アモルファス以外の元素として、不可避的不純物、例えばM´金属粒子以外の状態で存在するM´などが含まれ得る。誘電体組成物におけるSi,OおよびN以外の元素の含有量が20mass%以下であってもよい。
【0073】
誘電体組成物中に導体フィラーが分散している。そして、導体フィラーにM´金属粒子が含まれる。M´金属粒子の粒径には特に制限はないが、平均で10nm以下であってもよく、3nm以下であってもよい。M´金属粒子の粒径が小さいことにより、誘電体薄膜13が高い比誘電率および高い比抵抗を有しやすくなる。
【0074】
導体フィラーにおけるM´以外の元素の含有量が10mass%以下であってもよい。
【0075】
また、誘電体に含まれるSiの含有量が、SiとM´との合計含有量に対して原子数比で30%以上であってもよい。40%以上であることが好ましい。すなわち、誘電体におけるSiO系アモルファスの含有割合がある程度、高いことが好ましい。誘電体における絶縁性を担保しているのは誘電体組成物として含まれるSiO系アモルファスである。誘電体における比抵抗を十分に高くするためにSiO系アモルファスの含有割合がある程度、高いことが好ましい。なお、Siの含有量の上限は特にないが、例えばSiの含有量が、SiとM´との合計含有量に対して原子数比で80%以下であってもよい。
【0076】
M´金属粒子の有無の判定方法については、回折パターンが異なる点以外はTiN金属粒子の有無の判定方法と同様である。
【0077】
以下、第2実施形態における誘電体薄膜の形成およびアニール処理について説明する。特に記載のない部分については第1実施形態と同様である。
【0078】
電極上に誘電体薄膜を形成する。この際に(Si,M´)O系アモルファスからなる誘電体薄膜を成膜する。
【0079】
(Si,M´)O系アモルファスとは、少なくともSi,M´およびOを含むアモルファスである。(Si,M´)O系アモルファスはNを含んでもよい。最終的に目的とする誘電体が得られるようにSiとM´との比率を制御する。
【0080】
まず、上記の誘電体薄膜を成膜するために成膜用のターゲットを作製する。具体的にはM´およびSiからなる複合ターゲットを作製する。
【0081】
複合ターゲットの作製方法には特に制限はない。例えば、M´からなる成膜用ターゲットの上にSiチップを並べることで作製することができる。個々のSiチップの形状には特に制限はない。例えば最も面積の大きな2面が3mm角~10mm角の正方形であり、厚みが0.5mm程度である直方体形状としてもよい。この方法で複合ターゲットを作製する場合には、Siチップの数を変更することにより、成膜用ターゲットにおけるSiとM´との比率を容易に変更することができ、得られる誘電体薄膜におけるSiとM´との比率を容易に制御することができる。
【0082】
次に、成膜用ターゲットとして複合ターゲットを用いたRFスパッタ法により(Si,M´)O系アモルファスからなる誘電体薄膜を成膜する。
【0083】
RFスパッタ法の条件には特に限定はない。スパッタガスの種類、スパッタガスの圧力、高周波電力の大きさおよびスパッタ時間を適宜制御して目的とする(Si,M´)O系アモルファスからなる誘電体薄膜を成膜する。
【0084】
以下、700℃以上でのアニール処理を行う場合と700℃以上でのアニール処理を行わなくてよい場合とについて個別に説明する。
【0085】
(700℃以上でのアニール処理を行う場合)
得られた(Si,M´)O系アモルファスからなる誘電体薄膜に対してアニール処理を行う。アニール処理を行うことにより、(Si,M´)O系アモルファスに含まれるM´をM´金属粒子の形で誘電体内部に分散析出させることができる。そして、誘電体組成物としてSiO系アモルファスを含み導体フィラーとしてM´金属粒子を含む誘電体薄膜となる。さらに、導体フィラーが誘電体組成物中に分散している誘電体薄膜となる。
【0086】
アニール処理時の雰囲気はO2の含有量が著しく小さい雰囲気であれば特に制限はない。例えば、N2雰囲気中、Ar雰囲気中、NH3雰囲気中、真空中などが挙げられる。第1実施形態とは異なり、NH3雰囲気中が特に好ましいわけではない。M´金属粒子の生成にNが関与しないためである。
【0087】
(700℃以上でのアニール処理を行わなくてもよい場合)
上記の(Si,M´)O系アモルファスからなる誘電体薄膜におけるM´の含有量がSiとM´との合計含有量に対して原子数比で45%以上である場合には、700℃以上でのアニール処理を行わなくても、M´金属粒子が誘電体内部に分散析出することがある。具体的には、(Si,M´)O系アモルファスの生成時および/または生成後に、(Si,M´)O系アモルファスに含まれるM´がM´金属粒子の形で誘電体内部に分散析出することがある。そして、誘電体組成物としてSiO系アモルファスを含み導体フィラーとしてM´金属粒子を含む誘電体薄膜となる。さらに、導体フィラーが誘電体組成物中に分散している誘電体薄膜となる。
【実施例0088】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0089】
(実施例1~3)
十分に洗浄を行い乾燥させたTa箔を準備した。Ta箔は基板と下部電極とを兼ねる。Ta箔の厚さは50μmとした。
【0090】
次に、Ta箔上に(Si,Ti)(O,N)系アモルファスからなる誘電体薄膜を成膜した。
【0091】
(Si,Ti)(O,N)系アモルファスからなる誘電体組成物を成膜するための成膜用ターゲットとしてTiおよびSiからなる複合ターゲットを作製した。
【0092】
以下、複合ターゲットの作製方法について説明する。
【0093】
まず、Tiターゲットを準備した。次に、Tiターゲット上にSiチップを並べた。個々のSiチップの形状は最も面積の大きな2面が5mm角の正方形であり、厚みが0.5mm程度である直方体形状とした。Siチップを並べたTiターゲットが複合ターゲットである。
【0094】
複合ターゲットにおけるSiとTiとの合計含有量に対するSiの含有量を制御することで、誘電体薄膜におけるSiとTiとの合計含有量に対するSiの含有量を制御することができる。複合ターゲットにおけるSiとTiとの合計含有量に対するSiの含有量が原子数比で60%であると誘電体薄膜におけるSiとTiとの合計含有量に対するSiの含有量が原子数比で75~85%程度になる。
【0095】
誘電体薄膜は成膜用ターゲットとして複合ターゲットを用いたRFスパッタ法により成膜した。
【0096】
成膜時にチャンバー内へスパッタガスとしてN2ガスを供給し、スパッタガス圧力を2Paとした。そして、複合ターゲットに対して100Wの高周波電力を投入した。成膜時間は2時間とした。なお、成膜時の基板温度は室温とした。得られた誘電体薄膜の厚みは0.45μmであった。
【0097】
得られた誘電体薄膜の組成をXRFにより解析し、SiとTiとの合計含有量に対するSiの含有量が実施例1で67at%、実施例2で40at%、実施例3で30at%となっていることを確認した。
【0098】
次に、得られた誘電体薄膜に対してアニール処理を行うことで誘電体薄膜にTiN金属粒子を析出させ、SiO(N)系アモルファスおよびTiN金属粒子を含む誘電体薄膜を作製した。
【0099】
アニール処理はNH3ガスを50mL/minの速度で供給しながら700℃で5時間、実施した。
【0100】
得られた誘電体薄膜がTiN金属粒子を含むこと、および、TiN金属粒子が誘電体薄膜中に分散していることはTEMで確認した。表1には、誘電体薄膜に含まれるSiとTiとの合計含有量に対する誘電体薄膜に含まれるSiの含有量を記載した。
【0101】
次に、誘電体薄膜上にAgからなる上部電極を形成した。上部電極の厚みは0.2μmとした。上部電極の形成は蒸着法で行った。そして、LCRメーター(Agilent E4980A)を用いて周波数1kHzで比誘電率εおよび抵抗率ρを測定した。εは500以上である場合を良好とし、1000以上である場合をさらに良好とした。ρは1×104Ωcm以上である場合を良好とし、1×106Ωcm以上である場合をさらに良好とし、1×108Ωcm以上である場合を特に良好とした。結果を表1に示す。
【0102】
(比較例1)
比較例1はアニール処理を行わない点以外は実施例1と同条件で実施した。比較例1ではSiとTiとの合計含有量に対するSiの含有量が大きくTiの含有量が小さかったため、比較例1の誘電体薄膜はTiN金属粒子を含まなかった。結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1より、SiO(N)系アモルファスおよびTiN金属粒子を含む誘電体薄膜および一対の電極を有する実施例1~3はεおよびρが良好であった。これに対し、誘電体薄膜がTiN金属粒子を含まない比較例1はεが実施例1~3と比較して著しく低下した。
【符号の説明】
【0105】
1・・・薄膜キャパシタ
11・・・基板
12・・・下部電極
13・・・誘電体からなる薄膜(誘電体薄膜)
14・・・上部電極
図1