(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071073
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】鋳型DNAの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6806 20180101AFI20230515BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230515BHJP
【FI】
C12Q1/6806 Z ZNA
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183664
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】岡村 好子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 宏和
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR20
4B063QS26
(57)【要約】
【課題】sgRNAを試験管内転写で得るための鋳型DNAを多量、安価、簡便、且つ迅速に調製できるようにする。
【解決手段】鋳型DNAの製造方法は、カセット2本鎖DNAを準備する工程aと、標的配列含有オリゴヌクレオチドを調製する工程bと、それらをDNA結合酵素により連結し、標的配列含有環状体ヌクレオチドを得る工程cと、該ヌクレオチドを鋳型として鎖置換型DNAポリメラーゼにより増幅し、サポート配列と、RNAポリメラーゼのプロモーター配列と、標的配列と、sgRNAスキャフォールド配列とからなる反復配列を有する同一配列コンカテマーとなる標的配列含有2本鎖DNAを得る工程dと、該2本鎖DNAを同一配列同士の間で切断し、サポート配列とRNAポリメラーゼのプロモーター配列と標的配列とsgRNAスキャフォールド配列とからなる配列を有する鋳型DNAを得る工程eとを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
sgRNAを試験管内転写で得るための鋳型DNAをセルフリークローニングシステムにより製造する方法であって、
(a)sgRNAスキャフォールド配列と、サポート配列と、RNAポリメラーゼのプロモーター配列とを含む断片からなり、両端に突出配列を有し且つ該断片の少なくとも一方の鎖の5’末端にリン酸基を含むカセット2本鎖DNAを準備する工程と、
(b)前記カセット2本鎖DNAの前記突出配列に対して相補的な配列を有するカセット2本鎖DNA結合配列と、所望のsgRNAの標的配列とを有し、5’末端がリン酸化された標的配列含有オリゴヌクレオチドを調製する工程と、
(c)前記カセット2本鎖DNAと前記標的配列含有オリゴヌクレオチドをDNA結合酵素により連結し、標的配列含有環状体ヌクレオチドを得る工程と、
(d)前記標的配列含有環状体ヌクレオチドを鋳型として鎖置換型DNAポリメラーゼにより増幅し、前記サポート配列と、前記RNAポリメラーゼのプロモーター配列と、前記標的配列と、前記sgRNAスキャフォールド配列とからなる反復配列を有する同一配列コンカテマーとなる標的配列含有2本鎖DNAを得る工程と、
(e)工程dで得られた前記標的配列含有2本鎖DNAを前記同一配列同士の間で切断し、サポート配列とRNAポリメラーゼのプロモーター配列と標的配列とsgRNAスキャフォールド配列とからなる配列を有する前記鋳型DNAを得る工程とを備える、鋳型DNAの製造方法。
【請求項2】
工程aにおける前記カセット2本鎖DNAは、それぞれの鎖の5’末端に前記突出配列を有し、
工程bにおける前記標的配列含有オリゴヌクレオチドは標的配列含有2本鎖オリゴヌクレオチドであり、前記標的配列含有2本鎖オリゴヌクレオチドは、前記カセット2本鎖DNAのリン酸化されている鎖と結合する前記オリゴヌクレオチド鎖の5’末端のみがリン酸化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程aにおける前記カセット2本鎖DNAは、前記断片の一方の鎖の両端に前記突出配列を有し、
工程bにおける前記標的配列含有オリゴヌクレオチドは、前記標的配列の両端にそれぞれ前記カセット2本鎖DNAにおける前記突出配列の一方に相補的な第1カセット2本鎖DNA結合配列と、他方に相補的な第2カセット2本鎖DNA結合配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記sgRNAスキャフォールド配列は、末端に制限酵素DraIサイト又は制限酵素BtgZIサイト、及びPAM配列を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記鎖置換型DNAポリメラーゼは、エキソヌクレアーゼ活性を有する鎖置換型DNAポリメラーゼである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程dにおける前記標的配列含有2本鎖DNAは、前記カセット2本鎖DNAの、前記RNAポリメラーゼのプロモーター配列及び前記sgRNAスキャフォールド配列の末端にそれぞれ結合する2種類以上のプライマーを用いるローリングサークル型増幅により得る、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記プライマーが、前記鎖置換型DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性に耐性を有するプライマーである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程eにおける前記標的配列含有2本鎖DNAの切断は、前記制限酵素DraIサイト又は前記制限酵素BtgZIサイトに対応する制限酵素又はCRISPR/Casシステムによる切断である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
工程aにおける前記カセット2本鎖DNAは、
(a1)サポート配列とベース配列とを含むベース配列含有2本鎖DNAを準備する工程であって、前記ベース配列は、前記sgRNAスキャフォールド配列と、前記RNAポリメラーゼのプロモーター配列と、前記sgRNAスキャフォールド配列と前記RNAポリメラーゼのプロモーター配列との間に配置され且つ両端に制限酵素サイトを有する可変領域の配列とからなる、工程と、
(a2)前記可変領域の前記制限酵素サイトを制限酵素により切断して前記カセット2本鎖DNAを得る工程と、を含む方法により調製する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程a1における前記ベース配列含有2本鎖DNAは、前記サポート配列と前記ベース配列とを有するベース配列含有環状体ヌクレオチドを鋳型とする、前記サポート配列及び前記ベース配列の少なくとも一方に結合する2種類以上のプライマーを用いるローリングサークル型増幅により調製する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記可変領域の前記制限酵素サイトは、Type-IIS、非連続配列若しくは非回文配列を認識するType-IIC及びType-IIGからなる群から選択される2種類の制限酵素サイトを有する、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
工程a2における前記カセット2本鎖DNAは、工程a1で得られた前記ベース配列含有2本鎖DNAに前記制限酵素サイトに対応する1種類目の制限酵素による切断と脱リン酸化を同時に行い、各酵素を失活させた後に前記制限酵素サイトに対応する2種類目の制限酵素により切断して得る、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法を実施するためのキットであって、
前記キットは、前記カセット2本鎖DNA、前記DNA結合酵素、前記鎖置換型DNAポリメラーゼ、鎖置換型DNA合成反応用緩衝液、増幅用プライマー及び4種類のデオキシリボヌクレオチドを含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型DNAの製造方法に関し、特にsgRNAを試験管内転写で得るための鋳型DNAの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CRISPR/Cas9システムは、様々な生物種の遺伝子操作を可能にし、基礎研究のみならず、医学を含む応用研究にも影響を与えている。特に近年では、ゲノム編集のみならず、例えばSARS-CoV-2(COVID-19)の検出等の応用利用も行われている。
【0003】
CRISPR/Cas9システムを利用するためには、crRNA(Synthetic CRISPR RNA)とtracrRNA(Trans-activating crRNA)が1つになったsgRNA(single-guide RNA)を使用する必要がある。このsgRNAをRNAポリメラーゼを使用して試験管内転写で作製する場合、対象配列毎に鋳型DNAを調製する必要がある。
【0004】
現在この鋳型DNAの調製方法としては、プラスミドベクターへのクローニング又はPCR法で調製する方法が知られている。
【0005】
非特許文献1には、プラスミドベクターへのクローニングによる、gRNA(guide RNA)を得るための鋳型DNAの調製方法が開示されている。非特許文献1の調製方法では、初めに標的配列に対する2つのDNAオリゴヌクレオチドを化学合成しておき、これらをアニーリングして2本鎖DNAオリゴヌクレオチドを作製する。その後、該2本鎖DNAオリゴヌクレオチドをベクターにライゲーションし、続いて形質転換及びダイレクトシークエンスによるポジティブクローンの選択を行うことで鋳型DNAを調製することができる。
【0006】
非特許文献2には、PCR法によるsgRNA用鋳型DNAの調製方法が開示されている。非特許文献2の調製方法では、標的配列を含むDNA、crRNA/tracrRNA配列及びcrRNA/tracrRNA配列の一部の3種類のオリゴDNAを化学合成しておき、これらのオリゴDNAをPCRにより伸長させることで鋳型DNAを調製することができる。
【0007】
また、Integrated DNA Technologies株式会社のgBlocks(登録商標)人工遺伝子合成受託サービス等を利用して鋳型DNAを合成してもらうことも行われている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「ゲノム編集|2020」、フナコシ株式会社出版、フナコシニュース2020年5月15日号(No.703)、p.1-40(p.16の右カラム)
【非特許文献2】「ガイドRNA合成キット CUGA(登録商標)7 gRNA Synthesis Kit 別冊「参考資料」」、株式会社ニッポンジーン出版、製品マニュアル、改訂版R302、p.1-11(p.3、4)
【非特許文献3】塚本智史著「クローニング不要!gBlocks(登録商標)-based CRISPR/Cas9によるノックアウトマウスの作製」、株式会社医学生物学研究所出版、IDTテクニカルレポート、vol.1、p.1-6(p.3の
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、非特許文献1に記載されているプラスミドベクターへのクローニングによる鋳型DNAの調製方法では、形質転換及びダイレクトシークエンスによるポジティブクローンの選択に時間を要するため、鋳型DNAを調製するまでに数日程度の時間を要する。また、細胞を扱う必要があるため、gRNA製造のハイスループット化に適していない。
【0010】
また、非特許文献2に記載されているPCR法による鋳型DNAの調製では、T7プロモーター配列と、標的配列と、crRNA/tracrRNA配列の一部とを有する上記標的配列を含むDNAを化学合成する必要があるため、鋳型DNAを調製するまでに数日程度の時間が必要とされている。また、PCR法による鋳型DNAの調製方法では、合成した鋳型DNAの塩基配列の正確性に欠けることがあるため、この鋳型DNAから作製するsgRNAが所望の機能を果たさないこともあり得る。
【0011】
また、非特許文献3に記載されているようなgBlocks(登録商標)人工遺伝子合成受託サービス等を利用して鋳型DNAを得ることは、数週間の時間を必要とし、また、上記各方法と比較してコストが高くなる。
【0012】
以上のように、これらの調製方法では鋳型DNAを調製するまでに数日~数週間程度の時間を要するうえに、合成した鋳型DNAの塩基配列の正確性に欠ける問題点を有するものもある。また、これらの方法では多くの工程数を要するため、鋳型DNAの合成におけるコストが高くなる。さらに、いずれの方法もsgRNA製造のハイスループット化に適していない。
【0013】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、標的DNAに含まれる標的配列を有するオリゴヌクレオチドを用意するだけで、sgRNAを得るための鋳型DNAを多量、安価、簡便、且つ迅速に調製できる鋳型DNAの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、sgRNA転写における共通部分にあたるRNAポリメラーゼのプロモーター配列とsgRNAスキャフォールド配列を有するカセット2本鎖DNAを作製しておき、該カセット2本鎖DNAと標的配列を有するオリゴヌクレオチドをセルフリークローニングシステムによって連結及び増幅することで、sgRNAを得るための鋳型DNAを製造できることを見出して本発明を完成した。
【0015】
具体的に、本発明に係る鋳型DNAの製造方法は、sgRNAを試験管内転写で得るための鋳型DNAをセルフリークローニングシステムにより製造する方法であって、(a)sgRNAスキャフォールド配列と、サポート配列と、RNAポリメラーゼのプロモーター配列とを含む断片からなり、両端に突出配列を有し且つ該断片の少なくとも一方の鎖の5’末端にリン酸基を含むカセット2本鎖DNAを準備する工程と、(b)前記カセット2本鎖DNAの前記突出配列に対して相補的な配列を有するカセット2本鎖DNA結合配列と、所望のsgRNAの標的配列とを有し、5’末端がリン酸化された標的配列含有オリゴヌクレオチドを調製する工程と、(c)前記カセット2本鎖DNAと前記標的配列含有オリゴヌクレオチドをDNA結合酵素により連結し、標的配列含有環状体ヌクレオチドを得る工程と、(d)前記標的配列含有環状体ヌクレオチドを鋳型として鎖置換型DNAポリメラーゼにより増幅し、前記サポート配列と、前記RNAポリメラーゼのプロモーター配列と、前記標的配列と、前記sgRNAスキャフォールド配列と、からなる反復配列を有する同一配列コンカテマーとなる標的配列含有2本鎖DNAを得る工程と、(e)工程dで得られた前記標的配列含有2本鎖DNAを前記同一配列同士の間で切断し、サポート配列とRNAポリメラーゼのプロモーター配列と標的配列とsgRNAスキャフォールド配列とからなる配列を有する前記鋳型DNAを得る工程とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る鋳型DNAの製造方法によると、sgRNA転写における共通部分の塩基配列を有するカセット2本鎖DNAを作製しておき、該カセット2本鎖DNAとsgRNAの標的とする標的DNAから調製した標的配列を有するオリゴヌクレオチドを連結して標的配列含有環状体ヌクレオチドを調製し、該標的配列含有環状体ヌクレオチドを鋳型として増幅させることでsgRNAを試験管内転写で得るための鋳型DNAを製造できる。従って、この鋳型DNAを試験管内転写することで、所望の標的認識配列を有するsgRNAを多量且つ迅速に提供することができる。また、本発明に係る鋳型DNAの製造方法によると、多種類の鋳型DNAを短時間で提供できることからPCR法による鋳型DNAの製造方法より汎用性が高い。さらに、本発明に係る鋳型DNAの製造方法はセルフリーシステムで行うことができるため、鋳型DNA製造のハイスループット化に適している。
【0017】
本発明に係る鋳型DNAの製造方法において、工程aにおける前記カセット2本鎖DNAは、それぞれの鎖の5’末端に前記突出配列を有し、工程bにおける前記標的配列含有オリゴヌクレオチドは標的配列含有2本鎖オリゴヌクレオチドであり、前記標的配列含有2本鎖オリゴヌクレオチドは、前記カセット2本鎖DNAのリン酸化されている鎖と結合する前記オリゴヌクレオチド鎖の5’末端のみがリン酸化されていてもよい。
【0018】
本発明に係る鋳型DNAの製造方法において、工程aにおける前記カセット2本鎖DNAは、前記断片の一方の鎖の両端に前記突出配列を有し、工程bにおける前記標的配列含有オリゴヌクレオチドは、前記標的配列の両端にそれぞれ前記カセット2本鎖DNAにおける前記突出配列の一方に相補的な第1カセット2本鎖DNA結合配列と、他方に相補的な第2カセット2本鎖DNA結合配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドであってもよい。
【0019】
本発明に係る鋳型DNAの製造方法において、前記sgRNAスキャフォールド配列は、末端に制限酵素DraIサイト又は制限酵素BtgZIサイト及びPAM配列を有してもよい。
【0020】
本発明に係る鋳型DNAの製造方法において、前記鎖置換型DNAポリメラーゼは、エキソヌクレアーゼ活性を有する鎖置換型DNAポリメラーゼであることが好ましい。
【0021】
工程cにおいてエキソヌクレアーゼ活性を有する鎖置換型DNAポリメラーゼを使用することにより、標的配列含有2本鎖DNAを、標的配列含有環状体ヌクレオチドを鋳型とするローリングサークル型増幅で得ることができる。従って、同一配列コンカテマーとなる標的配列含有2本鎖DNAを容易に得ることができる。
【0022】
本発明に係る鋳型DNAの製造方法において、工程dにおける前記標的配列含有2本鎖DNAは、前記カセット2本鎖DNAの、前記RNAポリメラーゼのプロモーター配列及び前記sgRNAスキャフォールド配列の末端にそれぞれ結合する2種類以上のプライマーを用いるローリングサークル型増幅により得ることが好ましい。また、前記プライマーが、前記鎖置換型DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性に耐性を有するプライマーであることが好ましい。
【0023】
このようにすると、工程dにおける標的配列含有2本鎖DNAを、標的配列含有環状体ヌクレオチドを鋳型とする超分岐ローリングサークル型増幅で得ることができる。従って、同一配列コンカテマーとなる標的配列含有2本鎖DNAを迅速に得ることができる。
【0024】
本発明に係る鋳型DNAの製造方法において、工程eにおける前記標的配列含有2本鎖DNAの切断は、前記制限酵素DraIサイト又は前記制限酵素BtgZIサイトに対応する制限酵素又はCRISPR/Casシステムによる切断であってもよい。
【0025】
本発明に係る鋳型DNAの製造方法において、工程aにおける前記カセット2本鎖DNAは、(a1)サポート配列とベース配列とを含むベース配列含有2本鎖DNAを準備する工程であって、前記ベース配列は、前記sgRNAスキャフォールド配列と、前記RNAポリメラーゼのプロモーター配列と、前記sgRNAスキャフォールド配列と前記RNAポリメラーゼのプロモーター配列との間に配置され且つ両端に制限酵素サイトを有する可変領域の配列とからなる、工程と、(a2)前記可変領域の前記制限酵素サイトを制限酵素により切断して前記カセット2本鎖DNAを得る工程と、を含む方法により調製することが好ましい。また、工程a1における前記ベース配列含有2本鎖DNAは、前記サポート配列と前記ベース配列とを有するベース配列含有環状体ヌクレオチドを鋳型とする、前記サポート配列及び前記ベース配列の少なくとも一方に結合する2種類以上のプライマーを用いるローリングサークル型増幅により調製することが好ましい。
【0026】
このようにすると、工程aにおけるカセット2本鎖DNAを迅速かつ多量に得ることができる。
【0027】
本発明に係る鋳型DNAの製造方法において、前記可変領域の前記制限酵素サイトは、Type-IIS、非連続配列若しくは非回文配列を認識するType-IIC及びType-IIGからなる群から選択される2種類の制限酵素サイトを有することが好ましい。また、工程a2における前記カセット2本鎖DNAは、工程a1で得られた前記ベース配列含有2本鎖DNAに前記制限酵素サイトに対応する1種類目の制限酵素による切断と脱リン酸化を同時に行い、各酵素を失活させた後に前記制限酵素サイトに対応する2種類目の制限酵素により切断して得ることが好ましい。
【0028】
このようにすると、工程a1における2本鎖DNAに対して、制限酵素による切断と脱リン酸化を別の工程として行う必要がなくなるため、所望のカセット2本鎖DNAを容易に得ることができる。
【0029】
本発明に係る鋳型DNAの製造方法を実施するためのキットにおいて、前記キットは、前記カセット2本鎖DNA、前記DNA結合酵素、前記鎖置換型DNAポリメラーゼ、鎖置換型DNA合成反応用緩衝液、増幅用プライマー及び4種類のデオキシリボヌクレオチドを含むことが好ましい。
【0030】
このようなキットはsgRNAを試験管内転写で得るための鋳型DNAを製造するために必要な道具が全て揃っている。加えて、該キットにはカセット2本鎖DNAが含まれていることから、本発明に係る鋳型DNAの製造方法の工程b~eを実施するだけで所望の鋳型DNAを製造できる。従って、標的認識配列を有するsgRNAを迅速且つ多量に提供することができる。また、該キットは、カセット2本鎖DNAと標的配列含有オリゴヌクレオチドを連結して標的配列含有環状体ヌクレオチドを調製し、これを鋳型として増幅させるだけで所望の鋳型DNAを製造できる。従って、該キットを使用することで多種類の鋳型DNAを提供することができ、鋳型DNA製造用のキットとして汎用性が高い。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る鋳型DNAの製造方法によると、sgRNA転写における共通部分の塩基配列を有するカセット2本鎖DNAを作製しておき、該カセット2本鎖DNAとsgRNAの標的とする標的DNAから調製した標的配列を有するオリゴヌクレオチドを連結して標的配列含有環状体ヌクレオチドを調製し、該標的配列含有環状体ヌクレオチドを鋳型として増幅させることでsgRNAを試験管内転写で得るための鋳型DNAを製造できる。従って、この鋳型DNAを試験管内転写することで、所望の標的認識配列を有するsgRNAを多量且つ迅速に提供することができる。また、本発明に係る鋳型DNAの製造方法によると、予め準備したカセット2本鎖DNAを用いて多種類の鋳型DNAを短時間で提供できることからPCR法による鋳型DNAの製造方法より汎用性が高い。さらに、本発明に係る鋳型DNAの製造方法はセルフリーシステムで行うことができるため、鋳型DNA製造のハイスループット化に適している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鋳型DNAの製造方法における製造工程a~eを説明するための概要図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る鋳型DNAの製造方法において使用するカセット2本鎖DNAの好適な準備方法を説明するための概要図である。
【
図3】本発明の一実施形態の変形例に係る鋳型DNAの製造方法における製造工程a、bを説明するための概要図である。(a)は工程aを説明する図であり、(b)は工程bを説明する図である。
【
図4】実施例1に係る鋳型DNAの製造方法におけるベースオリゴヌクレオチドとサポートオリゴヌクレオチドを連結させて環状化した際のDNAマップを示す図である。
【
図5】実施例1において準備したカセット2本鎖DNAを電気泳動した結果を示す写真である。
【
図6】実施例2に係る鋳型DNAの製造方法におけるベースオリゴヌクレオチドとサポートオリゴヌクレオチドを連結させて環状化した際のDNAマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0034】
本発明の一実施形態に係る鋳型DNA(1)の製造方法の概要を
図1に示す。
図1に示すように、本実施形態に係る鋳型DNA(1)の製造方法は以下で詳述する工程a~eを含み、sgRNAを試験管内転写で得るための鋳型DNA(1)をセルフリークローニングシステムにより製造する方法である。特に、本実施形態に係る鋳型DNA(1)の製造方法は、2本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチド(7A)を使用する点に特徴を有する。
【0035】
図1左側中段(拡大図を含む)に示すように、工程aは、sgRNAスキャフォールド配列(3)と、サポート配列(5)と、RNAポリメラーゼのプロモーター配列(4)を含む断片からなり、両端に突出配列(6A、6B)を有し且つ該断片の少なくとも一方の鎖の5’末端にリン酸基を含むカセット2本鎖DNA(2A)を準備する工程である。特に本実施形態において、カセット2本鎖DNA(2A)は、それぞれの鎖の5’末端に突出配列(6A、6B)を有することを特徴とする。本実施形態において、工程aにおけるカセット2本鎖DNA(2A)の準備方法は特に限定されない。カセット2本鎖DNA(2A)の好適な準備方法については後述する。
【0036】
本明細書においてsgRNAスキャフォールド配列(3)とは、sgRNAの足場となる配列のことを指す。また、本実施形態において、sgRNAスキャフォールド配列(3)は、末端に制限酵素DraIサイト又は制限酵素BtgZIサイト、及びPAM配列を有することが好ましい。このようにすると、後述する工程eにおいて、制限酵素DraI又はBtgZIを使用して標的配列含有2本鎖DNA(12)を同一配列同士の間で容易に切断することができる。また、PAM配列を有することからCRISPR/Cas9システムによる切断も可能となる。
【0037】
RNAポリメラーゼのプロモーター配列(4)は、鋳型DNA(1)に対して転写反応をするときに必要となる配列である。本実施形態において、RNAポリメラーゼのプロモーター配列(4)は、鋳型DNA(1)の転写反応に用いるRNAポリメラーゼに従って選択でき、例えばT7RNAポリメラーゼを用いる場合T7プロモーター配列を好適に使用できるが、これに限定されない。
【0038】
本明細書において、サポート配列(5)とは、sgRNAとしての機能には不要な配列のことを指す。本実施形態において、サポート配列(5)の塩基の長さ及び種類は、該サポート配列を含む鋳型DNA(1)を転写して得られるsgRNAの機能を阻害しない限りにおいて、適宜選択することができる。
【0039】
図1の例では、突出配列(6A)として「ATCC」の配列、及び突出配列(6B)として「GTTT」の配列を有する場合を説明しているが、これらの配列に限定されない。本実施形態において、突出配列(6A、6B)は、後述するカセット2本鎖DNA結合配列(9A、9B)とそれぞれ相補的に結合できる限りにおいて、適宜選択することができる。
【0040】
本実施形態において、カセット2本鎖DNA(2A)は、断片の少なくとも一方の鎖の5’末端にリン酸基を含むカセット2本鎖DNAを好適に使用することができる。従って、それぞれの鎖の5’末端にリン酸基を有するカセット2本鎖DNA(2A)を使用することができるし、片方の鎖の5’末端にのみリン酸基を有するカセット2本鎖DNA(図示せず)を使用することもできる。
【0041】
図1左側上段に示すように、工程bは、カセット2本鎖DNA(2A)の突出配列(6A、6B)に対して相補的な配列を有するカセット2本鎖DNA結合配列(9A、9B)と、所望のsgRNAの標的配列(8)とを有し、5’末端がリン酸化された標的配列含有オリゴヌクレオチド(7A)を調製する工程である。特に本実施形態において、工程bにおける標的配列含有オリゴヌクレオチド(7A)は2本鎖であり、一方の鎖の5’末端のみがリン酸化されている(アンチセンスオリゴヌクレオチド(Antisense-ON)の5’末端のみがリン酸化されている)。ここで、
図1ではカセット2本鎖DNA(2A)の両方の鎖の5’末端がリン酸化されているが、一方の鎖のみがリン酸化されている場合は、後に当該一方の鎖がニック無しに完全に環状となるように標的配列含有オリゴヌクレオチドはカセット2本鎖DNA(2A)のリン酸化されている鎖と結合する上記オリゴヌクレオチド鎖の5’末端のみがリン酸化される。本実施形態において、工程bにおける標的配列含有オリゴヌクレオチド(7A)の調製方法は特に限定されない。
【0042】
図1左側上段を参照しつつ、本実施形態における、標的配列含有オリゴヌクレオチド(7A)の好適な調製方法を説明する。初めに、カセット2本鎖DNA(2A)の片方の鎖の突出配列(6A)に対して相補的な配列を有するカセット2本鎖DNA結合配列(9A)を5’側に有し、且つ所望のsgRNAの標的配列(8)を3’側に有するセンスオリゴヌクレオチド(Sense-ON)を準備する。また、カセット2本鎖DNA(2A)の他方の鎖の突出配列(6B)に対して相補的な配列を有するカセット2本鎖DNA結合配列(9B)を5’側に有し、所望のsgRNAの標的配列(8)を3’側に有し、且つ5’末端がリン酸化されているアンチセンスオリゴヌクレオチド(Antisense-ON)を準備する。なお、当該センスオリゴヌクレオチド及びアンチセンスオリゴヌクレオチドは、所望の配列通りに常法によって1塩基ずつ正確に合成された合成オリゴヌクレオチドであることが好ましい。続いて、センスオリゴヌクレオチドとアンチセンスオリゴヌクレオチドをアニーリングして2本鎖化し、標的配列含有オリゴヌクレオチド(7A)を好適に調製できる。
【0043】
本実施形態において、カセット2本鎖DNA結合配列(9A、9B)は、カセット2本鎖DNA(2A)の突出配列(6A、6B)に従って選択でき、例えば
図1上段に示すようにカセット2本鎖DNA結合配列(9A)として「TAGG」の配列、及びカセット2本鎖DNA結合配列(9B)として「CAAA」の配列を使用できるが、これに限定されない。
【0044】
図1左側下段に示すように、工程cは、カセット2本鎖DNA(2A)と標的配列含有オリゴヌクレオチド(7A)をDNA結合酵素(DNA Ligase)により連結し、標的配列含有環状体ヌクレオチド(10)を得る工程である。より具体的には、初めにカセット2本鎖DNA(2A)の突出配列(6A、6B)が、標的配列含有オリゴヌクレオチド(7A)のカセット2本鎖DNA結合配列(9A、9B)と相補的に結合する。この状態において、カセット2本鎖DNA(2A)と標的配列含有オリゴヌクレオチド(7A)の両端をDNA結合酵素で連結させることにより標的配列含有環状体ヌクレオチド(10)を得ることができる。このようにして得られる標的配列含有環状体ヌクレオチド(10)は、例えば
図1の例では標的配列含有オリゴヌクレオチド(7A)のうち5’末端がリン酸化されていなかった鎖が構成する外側の環に1つのニック(Nick)を有する。このとき、オリゴヌクレオチドが二次構造を取りやすい場合などのときは、ニックは1塩基以上のギャップ(gap)でも良い。
【0045】
本実施形態において、標的配列含有環状体ヌクレオチド(10)は、カセット2本鎖DNA(2A)と標的配列含有オリゴヌクレオチド(7A)を連結してなる環状体ヌクレオチドを意味する。
【0046】
図1の例では、標的配列含有環状体ヌクレオチド(10)は外側の環に1つのニックを有する場合を説明したが、標的配列含有環状体ヌクレオチド(10)におけるニックの数は特に限定されない。
【0047】
本実施形態において、工程cで使用するDNA結合酵素は、例えばE.coli DNAリガーゼ(New England Biolabs社製)を好適に使用できる。しかし、DNA結合酵素の種類は特に限定されず、当業者に周知のDNA結合酵素を適宜選択できる。また、DNA結合酵素を用いる連結反応の条件についても適宜設定できる。
【0048】
図1右側上段及び中段に示すように、工程dは、標的配列含有環状体ヌクレオチド(10)を鋳型として鎖置換型DNAポリメラーゼ(11)により増幅し、サポート配列(5)と、RNAポリメラーゼのプロモーター配列(4)と、標的配列(8)と、sgRNAスキャフォールド配列(3)とからなる反復配列を有する同一配列コンカテマーとなる標的配列含有2本鎖DNA(12)を得る工程である。より詳細には、標的配列含有環状体ヌクレオチド(10)のニックを含む外側の環状体ヌクレオチドを鋳型として、鎖置換型DNAポリメラーゼ(11)によりニックから増幅を開始し、標的配列含有2本鎖DNA(12)を得る。
【0049】
本実施形態において、鎖置換型DNAポリメラーゼ(11)はエキソヌクレアーゼ活性を有することが好ましい。このような鎖置換型DNAポリメラーゼ(11)を用いると、標的配列含有環状体ヌクレオチド(10)を鋳型とするローリングサークル型増幅で標的配列含有2本鎖DNA(12)を得ることができるため好適である。このような鎖置換型DNAポリメラーゼ(11)としては、例えばφ29DNAポリメラーゼを好適に使用できる。
【0050】
本実施形態において、工程dにおける標的配列含有2本鎖DNA(12)は、カセット2本鎖DNA(2A)の、RNAポリメラーゼのプロモーター配列(4)とsgRNAスキャフォールド配列(3)の末端にそれぞれ結合する2種類以上のプライマーを用いるローリングサークル型増幅で得ることが好ましい。このようにすると、標的配列含有環状体ヌクレオチド(10)中の複数のプライマー認識配列(図示せず)を起点として複数の標的配列含有2本鎖DNA(12)を同時に合成できるため好適である。また、プライマーは6R5Sプライマー等のランダムプライマーを用いることができる。また、このようなプライマーは、鎖置換型DNAポリメラーゼ(11)のエキソヌクレアーゼ活性に耐性を有するプライマーであることが好ましい。上記プライマーが鎖置換型DNAポリメラーゼ(11)のエキソヌクレアーゼ活性に耐性を有しない場合、複数のプライマー認識配列を起点とする同時合成を行うことができない。
【0051】
図1右側下段に示すように、工程eは、標的配列含有2本鎖DNA(12)を同一配列同士の間で切断し、サポート配列(5)とRNAポリメラーゼのプロモーター配列(4)と標的配列(8)とsgRNAスキャフォールド配列(3)とからなる配列を有する鋳型DNA(1)を得る工程である。ここで、上記の通り、例えばsgRNAスキャフォールド配列(3)の末端に制限酵素DraIサイト又は制限酵素BtgZIサイトが設けられている場合、制限酵素DraI又はBtgZIを用いて工程eを行うことができる。
【0052】
本実施形態において得られる鋳型DNA(1)は、sgRNAを試験管内転写で得るための鋳型DNA(1)として好適に使用できる。また、鋳型DNA(1)は、CRISPR/Casシステムにおいて使用するためのsgRNAを試験管内転写で得るための鋳型DNA(1)として好適に使用でき、CRISPR/Cas9システムにおいて使用するためのsgRNAとして最も好適に使用できるが、CRISPR/Casシステムの種類は特に限定されない。
【0053】
本実施形態において、工程eでの標的配列含有2本鎖DNA(12)における同一配列同士の間での切断は、例えば制限酵素を用いる切断のほか、CRISPR/Casシステムによる切断を行うことができる。この場合、上記の通り、sgRNAスキャフォールド配列(3)の末端にPAM配列が設けられる。特に、CRISPR/Casシステムによる切断は、制限酵素を用いて切断する場合と比較して切断位置がより限定的であり、所望の位置以外での切断を防ぐことができるため好適である。また、本実施形態において、上記同一配列同士の間での切断反応の条件は適宜設定できる。
【0054】
本実施形態において、鋳型DNA(1)は、少なくともRNAポリメラーゼのプロモーター配列(4)と標的配列(8)とsgRNAスキャフォールド配列(3)とからなる配列を有する。また、上述の通り、鋳型DNA(1)は、該鋳型DNAを転写して得られるRNAがsgRNAとして機能できる限りにおいて、上記配列の他にサポート配列(5)をさらに含むものであってよい。
【0055】
本実施形態に係る鋳型DNA(1)の製造方法は、上記工程a~eをセルフリーシステム(無細胞系)で実施することができる。従って、本実施形態の製造方法は細胞を扱う必要がなく、鋳型DNA(1)の製造における手間を大幅に削減することができる。また、本実施形態の製造方法はセルフリーシステムで実施できるため、ハイスループット化に適している。そのため、所望のsgRNAを試験管内転写で得るための鋳型DNA(1)を多量且つ迅速に提供することを可能にする。
【0056】
本実施形態に係る鋳型DNA(1)の製造方法の工程aにおいて使用するカセット2本鎖DNA(2A)の好適な準備方法を
図2に示す。
図2に示すように、カセット2本鎖DNA(2A)の好適な準備方法は、例えば以下で詳述する工程a1及びa2を含む。
【0057】
図2右側上段に示すように、工程a1は、サポート配列(5)とベース配列(17)とを含むベース配列含有2本鎖DNA(19A)を準備する工程であって、ベース配列(17)は、sgRNAスキャフォールド配列(3)と、RNAポリメラーゼのプロモーター配列(4)と、sgRNAスキャフォールド配列(3)とRNAポリメラーゼのプロモーター配列(4)との間に配置され且つ両端に制限酵素サイトを有する可変領域の配列(18)と、からなる。
【0058】
図2を参照しつつ、本実施形態における工程a1のベース配列含有2本鎖DNA(19A)の好適な準備方法を説明する。初めに、
図2左側上段に示すようにsgRNAスキャフォールド配列(3)とRNAポリメラーゼのプロモーター配列(4)と可変領域の配列(18)とを有するベースオリゴヌクレオチド(13A、13B)とサポートオリゴヌクレオチド(14A、14B)を準備する。さらに、各オリゴヌクレオチド(13A、13B、14A、14B)の端部の配列に相補的な配列を有し且つ当該オリゴヌクレオチドの端部を跨るようにアニーリングできる配列を有するスプリントオリゴヌクレオチド(15A、15B、15C、15D)を準備する。続いて、
図2左側中段に示すようにベースオリゴヌクレオチド(13A、13B)及びサポートオリゴヌクレオチド(14A、14B)並びにスプリントオリゴヌクレオチド(15A、15B、15C、15D)をアニーリングした後にDNA結合酵素を用いて連結し、1本鎖のベース配列含有環状体ヌクレオチド(16)を調製する。なお、この方法はcircular assembling into ordered sequence(CAIOS)法と呼ばれている。また、
図2左側中段の1本鎖のベース配列含有環状体ヌクレオチド(16)では、スプリントオリゴヌクレオチド(15A、15B、15C、15D)を図示していない。続いて、
図2左側下段に示すように、得られた1本鎖のベース配列含有環状体ヌクレオチド(16)を鋳型とし、スプリントオリゴヌクレオチドが結合した箇所を開始点として、サポート配列(5)及びベース配列(17)の少なくとも一方に結合する2種類以上のプライマーと鎖置換型DNAポリメラーゼ(11)を用いるローリングサークル型増幅によりベース配列含有2本鎖DNA(19A)を好適に準備することができる。また、プライマーは6R5Sプライマー等のランダムプライマーを用いることができる。なお、この方法は、MPRCA(Multiply-primed RCA)法と呼ばれている。
【0059】
本実施形態において、サポート配列(5)及びベース配列(17)の少なくとも一方に結合する2種類以上のプライマーは、当業者に周知のプライマーを適宜選択できる。また、ローリングサークル型増幅で使用する鎖置換型DNAポリメラーゼ(11)は、エキソヌクレアーゼ活性を有することが好ましい。このような鎖置換型DNAポリメラーゼ(11)としては、例えばφ29DNAポリメラーゼを好適に使用できる。
【0060】
図2右側に示すように、工程a2は、可変領域の制限酵素サイトを制限酵素により切断してカセット2本鎖DNA(2A)を得る工程である。なお、
図2の例では、可変領域の制限酵素サイトがBcoDIサイトの場合を説明している。より具体的には、ベース配列含有2本鎖DNA(19A)に対して制限酵素BcoDIを作用させ、可変領域の配列(18)の両端を同時に2箇所切断することで、それぞれの鎖の5’側に突出配列(6A、6B)を有し且つそれぞれの鎖の5’末端にリン酸基を有するカセット2本鎖DNA(2A)を得ることができる(
図2下段の拡大図参照)。
【0061】
本実施形態において、工程a2における可変領域の制限酵素サイトと制限酵素の種類はBcoDIに限定されるものではなく、当業者に周知のものであれば適宜選択することができる。
【0062】
また、本実施形態において、可変領域の制限酵素サイトは、Type-IIS、非連続配列若しくは非回文配列を認識するType-IIC及びType-IIGからなる群から選択される2種類の制限酵素サイトを有するものとすることができる。このようにすると、ベース配列含有2本鎖DNA(19A)をType-IIS、Type-IIC又はType-IIGのいずれかの制限酵素で切断した後に、切断部にリン酸基を残すことができる。さらに、ベース配列含有2本鎖DNA(19A)に上記制限酵素サイトに対応する1種類目の制限酵素による切断と脱リン酸化を同時に行い、各酵素を失活させた後に上記制限酵素サイトに対応する2種類目の制限酵素により切断することで片方の鎖の5’末端にのみリン酸基を有するカセット2本鎖DNA(図示せず)を得ることができる。
【0063】
本発明の一実施形態の変形例に係る鋳型DNA(1)の製造方法を
図3を参照しつつ説明する。特に、本変形例に係る鋳型DNA(1)の製造方法は、1本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチド(7B)を使用する点に特徴を有する。
【0064】
一実施形態の変形例に係る製造方法は、上述した一実施形態に係る製造方法とは以下の2点で異なる。1点目は、工程aにおいて断片の一方の鎖の両端に突出配列(6A、6C)を有するカセット2本鎖DNA(2B)を使用することである。2点目は、工程bにおいて、カセット2本鎖DNA(2B)の突出配列(6A)に相補的な第1カセット2本鎖DNA結合配列(23)と、カセット2本鎖DNA(2B)の突出配列(6C)に相補的な第2カセット2本鎖DNA結合配列(24)とを標的配列(8)の両端にそれぞれ有する1本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチド(7B)を使用することである。その他の工程については上述した本発明の一実施形態に係る鋳型DNA(1)の製造方法と同様である。
【0065】
本発明の一実施形態の変形例に係る鋳型DNA(1)の製造方法の工程a、bの概要を
図3に示す。なお、
図3aは工程aを示しており、
図3bは工程bを示している。
【0066】
本変形例において、工程aは、上記した一実施形態の工程aと基本的に同様である。特に本変形例においては、
図3aに示すように、工程aは、sgRNAスキャフォールド配列(3)及びRNAポリメラーゼのプロモーター配列(4)を含む断片からなり、該断片の一方の鎖の両端に突出配列(6A、6C)を有し且つ該断片の少なくとも一方の鎖の5’末端にリン酸基を含むカセット2本鎖DNA(2B)を準備する工程である。本変形例において、工程aにおけるカセット2本鎖DNA(2B)の準備方法は特に限定されない。
【0067】
図3aを参照しつつ、本変形例における、工程aのカセット2本鎖DNA(2B)の好適な準備方法をより具体的に説明する。
図3aに示すように、初めに、ベース配列含有2本鎖DNA(19B)を準備する。このベース配列含有2本鎖DNA(19B)は、RNAポリメラーゼのプロモーター配列(4)と可変領域の配列(18)とsgRNAスキャフォールド配列(3)とからなるベース配列(17)と、図示しないサポート配列(5)とを有する2本鎖DNAである。また、
図3の例では、該ベース配列含有2本鎖DNAの可変領域の配列(18)は、BcoDIサイト(20)と、MwoIサイト(21)と、BcoDIサイト(20)とMwoIサイト(21)との間に配置される可変配列(22)と、からなる。初めに、ベース配列含有2本鎖DNA(19B)に制限酵素MwoIを作用させ、sgRNAスキャフォールド配列(3)の3’末端に突出配列(6C)を有し且つ他方の鎖の5’末端にリン酸基を含むように切断する。続いて、切断して得られた断片に制限酵素BcoDIを作用させ、RNAポリメラーゼのプロモーター配列(4)の5’側に突出配列(6A)を有し且つ該突出配列の5’末端にリン酸基を含むように切断する。これにより、一方の鎖の両端に突出配列(6A、6C)を有し且つ両方の鎖の5’末端にリン酸基を含むカセット2本鎖DNA(2B)を好適に準備することができる。
【0068】
図3aの例では、制限酵素サイトとしてBcoDIサイト(20)とMwoIサイト(21)を有する場合を説明したが、一方の鎖の両端に突出配列(6A、6C)を形成できる限り制限酵素サイトはこれらに限定されず、当業者に周知の制限酵素サイトであれば適宜選択することができる。
【0069】
本変形例において、工程bは、上記した一実施形態の工程bと基本的に同様である。特に本変形例においては、
図3bに示すように、工程bは、カセット2本鎖DNA(2B)の突出配列(6A)に相補的な第1カセット2本鎖DNA結合配列(23)と、カセット2本鎖DNA(2B)の突出配列(6C)に相補的な第2カセット2本鎖DNA結合配列(24)とを標的配列(8)の両端にそれぞれ有し且つ5’末端がリン酸化されている1本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチド(7B)を調製する工程である。本変形例において、工程bにおける1本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチド(7B)の調製方法は特に限定されないが、所望の配列通りに常法によって1塩基ずつ正確に合成された合成オリゴヌクレオチドであることが好ましい。
【0070】
図示しないが、本変形例において、工程cは、カセット2本鎖DNA(2B)と、1本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチド(7B)をDNA結合酵素により連結し、標的配列含有環状体ヌクレオチドを得る工程である。より具体的には、初めにカセット2本鎖DNA(2B)の突出配列(6A、6C)が、1本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチド(7B)の第1カセット2本鎖DNA結合配列(23)及び第2カセット2本鎖DNA結合配列(24)と相補的に結合する。この状態において、カセット2本鎖DNA(2B)と1本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチド(7B)をDNA結合酵素で連結させることにより標的配列含有環状体ヌクレオチドを得ることができる。
【0071】
本変形例において、工程cは、使用するカセット2本鎖DNA(2B)と1本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチド(7B)の構造が異なることと、これらの結合及び連結の態様が異なること以外は、上記した一実施形態に係る製造方法の工程cと同様である。従って、ニックの数、DNA結合酵素の種類及びDNA結合酵素を用いる連結反応の条件等は特に限定されず、例えば上記した一実施形態に係る製造方法の工程cと同様にすることができる。
【0072】
図示しないが、本変形例において、工程d及びeは、上記した一実施形態に係る製造方法の工程d及びeと同様である。このようにして、鋳型DNA(1)を調製することができる。
【0073】
本発明の一実施形態に係るキットは、図示しないが、上記した一実施形態又は一実施形態の変形例に係る鋳型DNAの製造方法を実施するためのキットであって、該キットは、カセット2本鎖DNA(2A又は2B)、DNA結合酵素、鎖置換型DNAポリメラーゼ(11)、鎖置換型DNA合成反応用緩衝液、増幅用プライマー及び4種類のデオキシリボヌクレオチドを含むことを特徴とする。
【0074】
本実施形態及び変形例において、カセット2本鎖DNA(2A、2B)は、カセット2本鎖DNA(2A)又はカセット2本鎖DNA(2B)のいずれかを好適に使用できる。また、DNA結合酵素及び鎖置換型DNAポリメラーゼ(11)は特に限定されないが、上述したものを好適に使用できる。
【0075】
本実施形態及び変形例において、鎖置換型DNA合成反応用緩衝液、増幅用プライマー及び4種類のデオキシリボヌクレオチドは特に限定されず、当業者に周知のものを適宜選択できる。
【実施例0076】
以下に、本発明に係る鋳型DNAの製造方法について詳細に説明するための実施例を示す。
【0077】
[実施例1:鋳型DNAの調製]
実施例1では、それぞれの鎖の5’側に突出配列を有し且つそれぞれの鎖の5’末端にリン酸基を含むカセット2本鎖DNAと2本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチドを用いてsgRNAを試験管内転写で得るための鋳型DNAの調製を以下のように行った。
【0078】
<カセット2本鎖DNAの準備>
初めに、それぞれの鎖の5’側に突出配列を有し且つそれぞれの鎖の5’末端にリン酸基を含むカセット2本鎖DNAの準備を以下のように行った。なお、実施形態において詳述したCAIOS法で調製を行った。
【0079】
(オリゴヌクレオチドの準備)
実施例1において用いたオリゴヌクレオチドを表1に示し、スプリントオリゴヌクレオチドを表2に示す。また、オリゴヌクレオチド(bv2.1_1、bv4_2、sv2.1_1、sv2_2)を連結させて環状化した際のDNAマップを
図4に示す。当該オリゴヌクレオチドにおいて、T7プロモーター配列はオリゴヌクレオチドbv2.1_1中の「TAATACGACTCACTATAGG」の配列を指し、sgRNAスキャフォールド配列はオリゴヌクレオチドbv2.1_1及びbv4_2中の「GTTTTAGAGCTAGAAATAGCAAGTTAAAATAAGGCTAGTCCGTTATCAACTTGAAAAAGTGGCACCGAGTCGGTGCTTTT」の配列を指す。また、BcoDIサイトはオリゴヌクレオチドbv2.1_1中の「GAGAC」と「GTCTC」の配列を指す。
【0080】
【0081】
【0082】
(バッファー溶液の調製)
10×リン酸化バッファーは、1M酢酸トリス(pH7.9)を2mL、1M 酢酸マグネシウムを1mL、1mgウシ血清由来のアルブミンを1mL、蒸留水6mLをそれぞれ混合させて作製している。10×アニーリングバッファーは、1M酢酸トリス(pH7.8)を2mL、1M酢酸マグネシウムを1mL、4Mグルタミン酸カリウムを2.5mL、50mM NADを0.2mL、1M硫酸アンモニウムを1mL、蒸留水3.3mLをそれぞれ混合させて作製している。また、10×RCAバッファーは、1M酢酸トリス(pH7.5)を2mL、4Mグルタミン酸カリウムを0.625mL、1M酢酸マグネシウムを2mL、1M硫酸アンモニウムを4mL、蒸留水1.375mLをそれぞれ混合させて作製している。
【0083】
(オリゴヌクレオチドのリン酸化)
後のオリゴヌクレオチド同士の連結のために、配列番号1~4の各オリゴヌクレオチドにおける5’末端のリン酸化を以下のように行った。まず、配列番号1~4の各オリゴヌクレオチド(bv2.1_1、bv4_2、sv2.1_1、sv2_2)を1つの容器内で各オリゴヌクレオチドの濃度が10pmol/μLとなるように混合させた溶液を4μL準備した。この溶液の他に、10×リン酸化バッファー5μL、10mM ATPを5μL、100mM ジチオトレイトールを0.5μL、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs)を2μL、33.5μLの蒸留水をそれぞれ加えて総量を50μLとした。この混合液を37℃で30分間処理してオリゴヌクレオチドのリン酸化反応をした後に、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、その後に12℃に冷却した。得られたリン酸基含有オリゴヌクレオチド混合液中の各オリゴヌクレオチドの濃度は0.8pmol/μLであった。
【0084】
(アニーリング)
上記リン酸化処理の後、リン酸基含有オリゴヌクレオチド混合液と表2に示したスプリントオリゴヌクレオチドをアニーリングするために以下の処理を行った。処理を行う前に、各スプリントオリゴヌクレオチド(splint v2.1_1 to v4_2、splint v4_2 to sv2.1_1、splint sv2_1 to sv2_2、splint sv2_2 to tv2_1)を1つの容器内で各スプリントオリゴヌクレオチドの濃度が5pmol/μLとなるように混合させたスプリントオリゴヌクレオチド混合液を1μL準備した。初めに、0.2mLチューブに10×アニーリングバッファー1μLと蒸留水1.8μLをそれぞれ加えて攪拌を行った。続いて、上記チューブに0.8pmol/μLリン酸基含有オリゴヌクレオチド混合液6.3μLを加え、その後に5pmol/μLスプリントオリゴヌクレオチド混合液1μLを加えて総量を10μLとした。この混合液を95℃で1分間加熱した後に4℃まで急冷させて10分間維持し、その後に12℃で長時間維持させることでオリゴヌクレオチドとスプリントオリゴヌクレオチドとのアニーリング工程を完了した。
【0085】
(連結反応)
続いて、スプリントオリゴヌクレオチドにアニーリングされたオリゴヌクレオチド同士を連結して環状化するために以下の処理を行った。アニーリング処理後の上記チューブに10×アニーリングバッファー1μLとE.coli DNAリガーゼ(New England Biolabs)1μLを加え、さらに蒸留水8μLを加えて総量を10μLとし、上記液と混合して総量を20μLとした。この混合液を37℃で30分間処理して連結反応を完了した後、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、その後に12℃に冷却することでベース配列含有環状体ヌクレオチドである連結反応液を得た。
【0086】
(増幅反応)
MPRCA(Multiply-primed RCA)法による増幅反応を行うために、新しい0.2mLチューブに100μM 6R5Sプライマーを2μL、10×RCAバッファーを2μL、10mM dNTPsを2μL、100mM DTTを1μL、ピロフォスファターゼ(New England Biolabs)を0.1μL、φ29DNAポリメラーゼ(関東化学株式会社)を1μL、蒸留水9.9μLをそれぞれ加え、攪拌した。その後、上記チューブに上記連結反応液2μLを加えて総量を20μLとした。この混合液を30℃で16時間反応させた後、65℃で10分間処理して酵素を失活させ、12℃に冷却し、増幅反応を完了した。この反応の結果、増幅産物としてサポート配列とベース配列とからなる同一配列コンカテマーであるベース配列含有2本鎖DNAを得た。続いて、増幅産物に蒸留水180μLを加えて適当な濃度に希釈し、希釈産物を得た。
【0087】
(増幅産物の切断によるサイズ確認用切断反応液の調製)
オリゴヌクレオチド中に設けたBamHIサイトで切断してサイズを確認するために以下の操作を行った。新しい0.2mLチューブに10×CutSmartバッファー(New England Biolabs)を5μL、制限酵素BamHIを1μL、蒸留水20μLを加え、攪拌した。続いて、チューブに上記希釈産物のうち25μLを加えた。この混合液を37℃で30分間処理し、その後12℃に冷却してBamHIサイトでの切断反応を完了した。このようにして得られたサイズ確認用切断反応液は、後述する常法のアガロースゲル電気泳動法による生成物のサイズ確認のために用いた。結果は後述する。
【0088】
(制限酵素による切断)
上記希釈産物のうちの50μLが入ったチューブに10×CutSmartバッファー(New England Biolabs)を10μL、制限酵素BcoDIを2μL、蒸留水38μLをそれぞれ加えて総量を100μLとした。この混合液を37℃で1時間反応させて、制限酵素BcoDIでの切断反応を完了させ、その後12℃に冷却した。上記サイズ確認用切断反応液と本工程で得られたBcoDI切断反応液を常法のアガロースゲル電気泳動法で切断の確認を行った結果を
図5に示す。
図5に示すように、サイズ確認用切断反応液(レーン1)では4種類のオリゴヌクレオチド(bv2.1_1、bv4_2、sv2.1_1、sv2_2)が接続された280bpの長さの生成物(
図4参照)の存在が認められた。これに対し、BcoDI切断反応液(レーン2)ではこの280bpの生成物から30塩基程度少ないbpの生成物を確認することができた。従って、ベース配列含有2本鎖DNAから可変領域の配列が切断され、カセット2本鎖DNAの生成を確認することができた。最後に、BcoDI切断反応液をWizard(登録商標) SV Gel and PCR Clean-Up Systemを用いて精製し、0.1pmol/μLカセット2本鎖DNA溶液を得た。このカセット2本鎖DNAの濃度はQubit(登録商標)アッセイを用いて決定している。このカセット2本鎖DNAは、上述の通り、それぞれの鎖の5’側に突出配列を有し且つそれぞれの鎖の5’末端にリン酸基を含んでおり、以降の鋳型DNAの調製においても使用している。
【0089】
<片方の鎖の5’末端にのみリン酸基を含むカセット2本鎖DNAの準備>
以降の鋳型DNAの調製では使用しないが、それぞれの鎖の5’側に突出配列を有し且つ片方の鎖の5’末端にのみリン酸基を含むカセット2本鎖DNAの準備を以下のように行った。
【0090】
(オリゴヌクレオチドの準備~増幅産物の切断によるサイズ確認)
上記と同様のベースオリゴヌクレオチド、サポートオリゴヌクレオチド、スプリントオリゴヌクレオチドを使用し、オリゴヌクレオチドの準備から増幅産物の切断によるサイズ確認までは上記の手順と同様にして行った。
【0091】
(制限酵素による1回目の切断と脱リン酸化)
上記希釈産物の残りの88μLが入ったチューブに10×CutSmartバッファー(New England Biolabs)を10μL、制限酵素Esp3Iを2μL、脱リン酸化酵素CIAP(タカラバイオ株式会社)2μLをそれぞれ加えた。この混合液を37℃で1時間反応させて、制限酵素Esp3Iでの切断反応と切断部の脱リン酸化反応を完了させた。その後、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、12℃に冷却した。得られた溶液をWizard(登録商標) SV Gel and PCR Clean-Up Systemを用いて精製し、脱リン酸化溶液を得た。
【0092】
(制限酵素による2回目の切断)
上記脱リン酸化溶液50μLが入ったチューブに10×CutSmartバッファー(New England Biolabs)を10μL、制限酵素BsaIを2μL、蒸留水38μLをそれぞれ加えて総量を100μLとした。この混合液を37℃で1時間反応させてBsaIサイトでの切断反応を完了させた。その後、12℃に冷却し、得られた溶液をWizard(登録商標) SV Gel and PCR Clean-Up Systemを用いて精製し、0.1pmol/μLカセット2本鎖DNA溶液を得た。このカセット2本鎖DNAの濃度はQubit(登録商標)アッセイを用いて決定している。このカセット2本鎖DNAは、上述の通り、それぞれの鎖の5’側に突出配列を有し且つ片方の鎖の5’末端にのみリン酸基を含んでいる。
【0093】
<標的配列含有オリゴヌクレオチドの調製>
次に、2本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチドの調製を以下のように行った。
【0094】
(オリゴヌクレオチドの準備)
実施例1で用いたセンスオリゴヌクレオチドとアンチセンスオリゴヌクレオチドを表3に示す。当該センスオリゴヌクレオチド及びアンチセンスオリゴヌクレオチドにおいて、標的配列は「CATTACTGGATCTATCAAC」及び「TTGATAGATCCAGTAATGA」の配列を指し、互いに相補的な配列である。また、カセット2本鎖DNA結合配列は「TAGG」及び「AAAC」の配列を指す。
【0095】
【0096】
(アンチセンスオリゴヌクレオチドのリン酸化)
アンチセンスオリゴヌクレオチド(sgRNA for lambda_1 AS)における5’末端のリン酸化を以下のように行った。まず、新しいチューブに50pmol/μLオリゴヌクレオチド溶液(カセット2本鎖DNA結合配列と標的配列とからなる)を6μL、10×リン酸化バッファーを5μL、10mM ATPを5μL、100mM ジチオトレイトールを0.5μL、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs)を2μL、蒸留水31.5μLをそれぞれ加えて総量を50μLとした。この混合液を37℃で30分間処理してオリゴヌクレオチドをリン酸化した後に、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、その後に12℃に冷却してリン酸基含有アンチセンスオリゴヌクレオチド溶液を得た。この溶液中のリン酸基含有アンチセンスオリゴヌクレオチドの濃度は6pmol/μLであった。
【0097】
(アニーリング)
上記リン酸化処理の後、センスオリゴヌクレオチドとリン酸基含有アンチセンスオリゴヌクレオチドを2本鎖化するため、以下のアニーリング処理を行った。初めに、0.2mLチューブに6pmol/μLリン酸基含有アンチセンスオリゴヌクレオチド溶液を10μL、50pmol/μLセンスオリゴヌクレオチドを1.2μL、10×アニーリングバッファーを2μL、蒸留水6.8μLをそれぞれ加えて総量を20μLとした。この混合液を95℃で1分間加熱した後に25℃までゆっくり冷却して長時間維持させることでアニーリング工程を完了した。得られた標的配列含有オリゴヌクレオチド溶液中の標的配列含有オリゴヌクレオチドの濃度は3pmol/μLであった。この標的配列含有オリゴヌクレオチド溶液20μLに蒸留水180μLを加えて混合させ、0.3pmol/μL標的配列含有オリゴヌクレオチド溶液を調製した。
【0098】
<鋳型DNAの調製>
それぞれの鎖の5’側に突出配列を有し且つそれぞれの鎖の5’末端にリン酸基を含むカセット2本鎖DNA溶液と2本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチド溶液を用いて、以下のように鋳型DNAの調製を行った。
【0099】
(連結反応)
カセット2本鎖DNAと標的配列含有オリゴヌクレオチドを連結するために以下の処理を行った。新しいチューブに0.1pmol/μLカセット2本鎖DNA溶液を2μL、0.3pmol/μL標的配列含有オリゴヌクレオチド溶液を2μL、10×アニーリングバッファー2μLとE.coli DNAリガーゼ(New England Biolabs)1μL、蒸留水13μLをそれぞれ加えて総量を20μLとした。この混合液を16℃で30分間処理してカセット2本鎖DNAと標的配列含有オリゴヌクレオチドの連結反応を完了した後、65℃で20分間処理して酵素を失活させ、その後に25℃に冷却した。得られた溶液に蒸留水180μLを加えて混合させ、標的配列含有環状体ヌクレオチド溶液を得た。
【0100】
(増幅反応)
MPRCA法による増幅反応を行うために、新しい0.2mLチューブに100μM 6R5Sプライマーを2μL、10×RCAバッファーを2μL、10mM dNTPsを2μL、100mM DTTを1μL、ピロフォスファターゼ(New England Biolabs)を0.1μL、φ29DNAポリメラーゼ(関東化学株式会社)を1μL、蒸留水9.9μLをそれぞれ加え、攪拌した。その後、上記チューブに標的配列含有環状体ヌクレオチド溶液2μLを加えて総量を20μLとした。この混合液を30℃で16時間反応させて、増幅産物としてサポート配列とT7プロモーター配列と標的配列とsgRNAスキャフォールド配列とからなる同一配列コンカテマーである標的配列含有2本鎖DNAを得た。反応後、65℃で10分間処理して酵素を失活させ、12℃に冷却し、増幅反応を完了した。続いて、蒸留水62.5μLが入っている別チューブに増幅産物を移して適当な濃度に希釈し、希釈産物を得た。
【0101】
(増幅産物の切断によるサイズ確認用切断反応液の調製)
標的配列含有2本鎖DNA中のバッファー配列に設けたBamHIサイトで切断してサイズを確認するために以下の操作を行った。新しい0.2mLチューブに10×Kバッファー(New England Biolabs)を2.5μL、制限酵素BamHIを0.5μL、蒸留水9.5μLをそれぞれ加え、攪拌した。続いて、チューブに上記希釈産物のうち12.5μLを加えて総量を25μLとした。この混合液を37℃で30分間処理し、その後12℃に冷却してBamHIサイトでの切断反応を完了した。このようにして得られたサイズ確認用切断反応液は、後述する常法のアガロースゲル電気泳動法による生成物のサイズ確認のために用いた。結果は後述する。
【0102】
(制限酵素による切断)
標的配列含有2本鎖DNA中のsgRNAスキャフォールド配列の末端に含まれるDraIサイトで切断するために以下の操作を行った。新しい0.2mLチューブに10×Mバッファー(ニッポンジーン)を10μL、制限酵素DraI(ニッポンジーン)を1μL、蒸留水39μLをそれぞれ加えて、攪拌した。続いて、チューブに上記希釈産物50μLを加えて総量を100μLとした。この混合液を37℃で30分間反応させてDraIサイトでの切断反応を完了させ、その後12℃に冷却した。上記サイズ確認用切断反応液と本工程で得られたBcoDI切断反応液を常法のアガロースゲル電気泳動法で切断の確認を行った(図示せず)。その結果、サポート配列とT7プロモーター配列と標的配列とsgRNAスキャフォールド配列とからなる目的の長さの生成物の存在が認められた。従って、標的配列含有2本鎖DNAのsgRNAスキャフォールド配列の末端における制限酵素DraIサイトで切断され、鋳型DNAの生成を確認することができた。最後に、DraI切断反応液をMonarch(登録商標) PCR & DNA Cleanup Kitを用いて精製し、1pmol/μL鋳型DNA溶液を得た。この鋳型DNAの濃度はQubit(登録商標)アッセイを用いて決定している。
【0103】
上記の操作により、サポート配列とT7プロモーター配列と標的配列とsgRNAスキャフォールド配列とからなる配列を有する鋳型DNAを調製できることが分かった。
【0104】
[応用例1:sgRNAの調製]
実施例1で得られた鋳型DNAとCUGA(登録商標)sgRNA Synthesis キットを用いてsgRNAの調製を以下のように行った。
【0105】
(転写反応)
鋳型DNA中のT7プロモーターを起点とする転写反応でsgRNAを調製するため、以下の操作を行った。0.2mLチューブに5×transcriptionバッファーを4μL、100mM DTTを2μL、NTP Mixを6μL、CUGA7酵素溶液1μLをそれぞれ加え、攪拌した。続いて、上記チューブに1pmol/μL鋳型DNA溶液を2μL加えて総量を20μLとした。この混合液を37℃で2時間処理し、その後12℃に冷却して長時間維持した。これにより転写反応が完了し、sgRNAクルード溶液が得られた。最後に、キット付属のRNA精製システムを用いてsgRNAクルード溶液を精製し、sgRNAの調製が完了した。
【0106】
[実施例2:鋳型DNAの調製]
実施例2では、断片の一方の鎖の両端に突出配列を有し且つ両方の鎖の5’末端にリン酸基を含むカセット2本鎖DNAと1本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチドを用いてsgRNAを試験管内転写で得るための鋳型DNAの調製を行った。
【0107】
<カセット2本鎖DNAの準備>
カセット2本鎖DNAの準備を行った。断片の片方の鎖の5’末端にのみリン酸基を有するカセット2本鎖DNAの準備方法からオリゴヌクレオチドとスプリントオリゴヌクレオチドの組み合わせを変更した点、1回目の切断に用いる制限酵素をMwoIに変更し且つ脱リン酸化反応を行わなかった点及び2回目の切断に用いる制限酵素をBcoDIに変更した点以外は実施例1と同様にして準備した。なお、制限酵素BcoDIは、制限酵素BcoDIサイトと制限酵素BsaIサイトの両方のサイトを切断できる。
【0108】
実施例2において用いたオリゴヌクレオチドを表4に示し、スプリントオリゴヌクレオチドを表5に示す。また、オリゴヌクレオチド(bv4_1、bv4.1_2、sv2.1_1、sv2_2)を連結させて環状化した際のDNAマップを
図6に示す。当該オリゴヌクレオチドにおいて、T7プロモーター配列はオリゴヌクレオチドbv4_1中の「TAATACGACTCACTATAGG」の配列を指し、sgRNAスキャフォールド配列はオリゴヌクレオチドbv4_1及びbv4.1_2中の「TTAGAGCTAGAAATAGCAAGTTAAAATAAGGCTAGTCCGTTATCAACTTGAAAAAGTGGCACCGAGTCGGTGCTTTT」の配列を指す。また、BcoDIサイトはオリゴヌクレオチドbv4_1中の「GAGAC」の配列を指し、MwoIサイトはオリゴヌクレオチドbv4_1中の「GCTTTTAGAGC」の配列を指す。
【0109】
【0110】
【0111】
<標的配列含有オリゴヌクレオチドの調製>
1本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチドの調製を以下のように行った。
【0112】
(オリゴヌクレオチドの準備)
実施例2において用いたセンスオリゴヌクレオチドを表6に示す。当該センスオリゴヌクレオチドにおいて、標的配列は「ACCGAGTCGGTGCTTTTAAA」の配列を指し、第1カセット2本鎖DNA結合配列は「TAGG」の配列を指し、及び第2カセット2本鎖DNA結合配列は「GTTTTA」の配列を指す。
【0113】
【0114】
(センスオリゴヌクレオチドのリン酸化)
センスオリゴヌクレオチド(sgRNA_scaffold_for v4)を実施例1と同様にしてリン酸化し、1本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチドを調製した。調製した標的配列含有オリゴヌクレオチド溶液は蒸留水で希釈して0.6pmol/μL標的配列含有オリゴヌクレオチド溶液とした。
【0115】
<鋳型DNAの調製>
断片の一方の鎖の両端に突出配列を有し且つ両方の鎖の5’末端にリン酸基を有するカセット2本鎖DNA溶液と1本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチド溶液を用いて、鋳型DNAの調製を行った。連結反応において使用する標的配列含有オリゴヌクレオチド溶液の濃度を0.6pmol/μLとし、0.6pmol/μL標的配列含有オリゴヌクレオチド溶液の使用量を半分の容量である1μLとした点以外は実施例1と同様にして調製した。
【0116】
上記の操作により、サポート配列とT7プロモーター配列と標的配列とsgRNAスキャフォールド配列とからなる配列を有する鋳型DNAを調製できることが分かった。従って、1本鎖の標的配列含有オリゴヌクレオチドを用いる場合でも実施例1と同様の手順により鋳型DNAが得られることが分かった。
【0117】
[応用例2:sgRNAの調製]
実施例2で得られた鋳型DNAを用いて、応用例1と同様にしてsgRNAの調製を行った。その結果、実施例2の鋳型DNAに対応するsgRNAを調製できることが分かった。