(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071402
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】マスクチャック装置、蒸着装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20230516BHJP
【FI】
C23C14/50 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184157
(22)【出願日】2021-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大地
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 正
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029HA04
4K029JA01
4K029JA05
(57)【要約】
【課題】基板の構成材料が限定されることなく、マスク部材と基板とを隙間なく密着させて保持することが可能なマスクチャック装置、およびこれを備えた蒸着装置を提供する。
【解決手段】基板が載置される導電性ホルダーと、前記導電性ホルダーに対向して配され、前記基板のパターニングを行うマスク部材と、前記マスク部材との間で所定の距離を保って配される針電極と、前記針電極および前記導電性ホルダーとの間に電圧を印加する電源と、を備え、前記針電極から前記マスク部材に向けて負電荷を散布することにより、前記マスク部材と前記導電性ホルダーとを静電気力によって吸引させ、前記マスク部材と前記導電性ホルダーとの間で前記基板を密着挟持させることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が載置される導電性ホルダーと、前記導電性ホルダーに対向して配され、前記基板のパターニングを行うマスク部材と、前記マスク部材との間で所定の距離を保って配される針電極と、前記針電極および前記導電性ホルダーとの間に電圧を印加する電源と、を備え、
前記針電極から前記マスク部材に向けて負電荷を散布することにより、前記マスク部材と前記導電性ホルダーとを静電気力によって吸引させ、前記マスク部材と前記導電性ホルダーとの間で前記基板を密着挟持させることを特徴とするマスクチャック装置。
【請求項2】
前記マスク部材には、前記基板を収容する凹部が形成され、前記凹部の外側領域で前記導電性ホルダーに接することを特徴とする請求項1に記載のマスクチャック装置。
【請求項3】
前記マスク部材は、少なくとも表面が誘電体からなることを特徴とする請求項1または2に記載のマスクチャック装置。
【請求項4】
前記マスク部材は、樹脂によって形成されていることを特徴とする請求項3に記載のマスクチャック装置。
【請求項5】
前記導電性ホルダーに接して電極板が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のマスクチャック装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のマスクチャック装置を有することを特徴とする蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板をマスク部材に密着させるためのマスクチャック装置、およびこれを備えた蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、真空蒸着、スクリーン印刷、スプレーコートなどの工程において、基板の一面に試料の薄膜などを所望の形状に形成するために、所望の形状を象った開口部を有するマスク部材が用いられている。
【0003】
こうしたマスク部材は、その構成材料や成膜対象の試料がレジスト現像液等に対する薬品耐性を有していない場合には使用することができない。このため、薬品耐性を有する金属などによって形成したマスク部材の開口部を介して、基板に試料の薄膜等を形成するマスクスルー蒸着等が一般的に行われている。
【0004】
マスクスルー蒸着等におけるパターニングの精度は、マスク部材と基板との密着性(距離)に依存する。従来の吸着方法として、例えば、金属薄板等からなるマスク部材を機械的圧力ないし水やアルコール等の表面張力を介して基板に吸着する方法が知られているが、こうした方法では、真空蒸着機などを用いた真空環境においては密着性が低下し、マスク部材と基板との間に生じた隙間から試料の回り込み(滲み)が発生してしまうため、マイクロサイズの微細パターニングを行うことが困難であった。
【0005】
このため、例えば特許文献1には、被吸着体を吸着させる吸着面と、電極部と、を有し、電極部に電圧が印加されることによって被吸着体を吸着面に吸着させる静電チャックと、静電チャックによる被吸着体の吸着の際、吸着の起点を設定すると共に吸着の進行を所定の方向に誘導する吸着補助手段と、を備えた静電チャックシステムが開示されている。こうした静電チャックシステムでは、電磁誘導によって基板および金属製のマスクを隙間なく密着できるとされている。
【0006】
また、例えば特許文献2には、基板を下方から支持する基板支持手段と、マスクを下方から支持するマスク支持手段と、基板を静電気力により吸着する静電チャックと、静電チャックを上下に駆動させる静電チャック駆動部とを有し、静電チャックは、基板の中央部を吸着する中央部静電チャックと、基板の側部を吸着する側部静電チャックとからなる蒸着装置が開示されている。
【0007】
また、例えば特許文献3には、有機膜の形成された被蒸着基板にメタルマスクを磁力により密着保持して該有機膜上に蒸着を行うマスク蒸着方法において、被蒸着基板のメタルマスク当接面の反対の面にメタルマスクのパターン領域よりも大きい磁石を設置し、磁石によってメタルマスクを被蒸着基板に対して保持したマスク蒸着方法が開示されている。
【0008】
また、例えば特許文献4には、非堆積領域とすべき部分を被覆して基材表面と密着させる材料が可撓性フィルムからなる可撓性貼付フィルムを用いて、基材の成膜側全表面に密着させた後、所望の堆積層を形成すべき領域を覆う可撓性貼付フィルムを選択的に除去し、後に堆積層を形成する成膜工程を実施し、最後に基材表面上に残された可撓性貼付フィルムを除去する薄膜パターン形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-021925号公報
【特許文献2】特開2014-065959号公報
【特許文献3】特開2002-075638号公報
【特許文献4】特開2012-111985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載された発明は、マスク部材を導電性材料、例えば金属から形成する必要があり、マスク部材の構成材料が金属に限定されてしまうという課題があった。
また、特許文献3に記載された発明は、ホルダーに磁石を設置して磁力によって吸着させるために、ホルダーの形状が限定され、また、磁力の影響を受ける成膜装置には適用できないという課題があった。
また、特許文献4に記載された発明は、フィルムを帯電処理して静電気力で張り付けることもできるとされているが、マスクと基板とを静電気で吸着させる構成となるため、基板の形成材料が限定されるという課題があった。
【0011】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、基板の構成材料が限定されることなく、マスク部材と基板とを隙間なく密着させて保持することが可能なマスクチャック装置、およびこれを備えた蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明のマスクチャック装置は、基板が載置される導電性ホルダーと、前記導電性ホルダーに対向して配され、前記基板のパターニングを行うマスク部材と、前記マスク部材との間で所定の距離を保って配される針電極と、前記針電極および前記導電性ホルダーとの間に電圧を印加する電源と、を備え、前記針電極から前記マスク部材に向けて負電荷を散布することにより、前記マスク部材と前記導電性ホルダーとを静電気力によって吸引させ、前記マスク部材と前記導電性ホルダーとの間で前記基板を密着挟持させることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、針電極からマスク部材に向けてコロナ放電を発生させてマスク部材の表面に負電荷を散布することによって、正電荷に帯電した導電性ホルダーとの間で静電気力が発生し、基板の一面にマスク部材を隙間なく密着させることができる。その結果、基板とマスク部材との密着不良によって生じた隙間に、例えば薄膜の原料物質が回り込み、薄膜の形成領域のエッジ部分に滲みが生じることを防止できる。
【0014】
また、本発明では、前記マスク部材には、前記基板を収容する凹部が形成され、前記凹部の外側領域で前記導電性ホルダーに接していてもよい。
【0015】
また、本発明では、前記マスク部材は、少なくとも表面が誘電体から構成されていてもよい。
【0016】
また、本発明では、前記マスク部材は、樹脂によって形成されていてもよい。
【0017】
また、本発明では、前記導電性ホルダーに接して電極板が形成されていてもよい。
【0018】
本発明の蒸着装置は、前記各項に記載のマスクチャック装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基板の構成材料が限定されることなく、マスク部材と基板とを隙間なく密着させて保持することが可能なマスクチャック装置、およびこれを備えた蒸着装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態のマスクチャック装置を示す模式図である。
【
図2】本発明の検証例1の結果(本発明例1)を示す写真である。
【
図3】本発明の検証例1の結果(比較例1)を示す写真である。
【
図4】本発明の検証例1の結果(比較例2)を示す写真である。
【
図5】本発明の検証例2の結果(本発明例2)を示す写真である。
【
図6】本発明の検証例2の結果(比較例3)を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態のマスクチャック装置を示す模式図である。
本実施形態のマスクチャック装置10は、被加工物である基板Bが載置される導電性ホルダー(ステージ)11と、この導電性ホルダー11に対向して配されるマスク部材12と、このマスク部材12に対して所定の距離を保って配される針電極13と、この針電極13および導電性ホルダー11との間に電圧を印加する電源14とを有している。また、導電性ホルダー11に接して電極板15が形成されている。
【0023】
導電性ホルダー11は、導電性材料、例えばアルミニウム、ステンレス、銅などの金属から構成されている。こうした導電性ホルダー11の一面側は平坦面を成し、被加工物である基板Bが載置される。
【0024】
マスク部材12は、導電性ホルダー11に対して吸着して基板Bを挟持し、パターニングする部材であり、基板Bに対して所望の形状の薄膜等を形成するために、この所望の形状を象った開口部21が形成されている。
【0025】
また、マスク部材12は、導電性ホルダー11に対向する下面12aから厚み方向に凹み、基板Bを収容する凹部22が形成されている。こうした凹部22の形状は基板Bの外形形状に倣った形状であればよい。また、凹部22の深さは、基板Bの厚みと同一か、それよりも浅く形成されていればよい。
【0026】
また、マスク部材12が導電性ホルダー11に対して吸着する際には、マスク部材12の凹部22の外側領域は、導電性ホルダー11に直接接する構成であればよい。なお、吸着時においても、マスク部材12は、導電性ホルダー11に接しない構成にすることもできる。
【0027】
こうしたマスク部材12は、少なくとも表面が誘電体(絶縁性材料)によって形成されている。例えば、マスク部材12は、全体を樹脂シートで形成したり、金属薄板の表面を樹脂コートしたもので形成することができる。具体例としては、ポリイミドによってマスク部材12を形成することができる。
【0028】
針電極13は、先端が尖った細棒状の部材であり、例えば、導電性の金属針であればよい。より具体的には、銅やアルミニウムからなる針状部材であればよい。こうした針電極は、電源14の負極側出力端子にリード線等を介して接続される。
【0029】
針電極13は、マスク部材12に対して離間し、かつ先端がマスク部材12に向くように配される。針電極13の先端とマスク部材12とは所定の距離で離間している。こうした針電極13は、コロナ放電によって、誘電体であるマスク部材12の表面に向けて負電荷を放出し、マスク部材12を帯電させる。
【0030】
電源14は、直流電源装置が用いられる。例えば電圧値が20~30kV程度の直流電流を供給可能な直流電源装置を用いることができる。こうした電源14の正極出力端子は、リード線等を介して電極板15に接続される。また、電源14の負極出力端子は、リード線等を介して針電極13に接続される。
【0031】
電極板15は、導電性基板、例えば、銅板、アルミニウム板などの金属板から構成される。電極板15は、電源14の正極出力端子に接続される。そして、この電極板15に接して配される導電性ホルダー11を正電位にする。
【0032】
なお、こうした電極板15は、必ずしも設ける必要は無く、電源14の正極出力端子をリード線等を介して直接、導電性ホルダー11に接続する構成であってもよい。
【0033】
以上のような構成の本実施形態のマスクチャック装置10の作用を説明する。
例えば、真空蒸着装置に設置されたマスクチャック装置10を用いて基板Bを固定して、マスク部材12の開口部21の形状の薄膜を基板Bの一面に形成する際には、まず、例えば樹脂からなる基板Bを導電性ホルダー11の一面に載置する。
【0034】
次に、薄膜を形成したい形状を象った開口部21を有するマスク部材12を基板Bに重ねて配置する。この時、マスク部材12の凹部22内に基板Bが入るようにして、凹部22の外側領域が導電性ホルダー11の一面に接するようにマスク部材12を載置すればよい。
【0035】
次に、電源14を起動して、例えば25kV程度の直流電流を電極板15と針電極13との間に印加する。すると、導電性ホルダー11に正電荷が帯電するとともに、針電極13からマスク部材12に向けてコロナ放電が発生する。これにより、少なくとも表面が誘電体からなるマスク部材12の表面に負電荷が散布される。
【0036】
導電性ホルダー11に正電荷が、またマスク部材12の表面に負電荷が帯電すると、この正電荷と負電荷とが静電気力によって引き合う。その結果、マスク部材12が導電性ホルダー11に吸着され、マスク部材12と導電性ホルダー11との間に配された基板Bの一面は、マスク部材12に隙間なく密着する。
【0037】
この後、例えば真空蒸着装置のマスクチャック装置10に対向して配された蒸発源を加熱するなどによって、薄膜の原料物質を蒸発させる。これにより、基板Bのうち、マスク部材12の開口部21から露出している領域に原料物質が堆積し、マスク部材12の開口部21の形状に倣った形の薄膜が基板Bの一面に形成される。
【0038】
以上のような本実施形態のマスクチャック装置10によれば、針電極13からマスク部材12に向けてコロナ放電を発生させてマスク部材12の表面に負電荷を散布することによって、正電荷に帯電した導電性ホルダー11との間で静電気力が発生し、基板Bの一面にマスク部材12を隙間なく密着させることができる。
【0039】
その結果、基板Bとマスク部材12との密着不良によって生じた隙間に薄膜の原料物質が回り込み、薄膜の形成領域のエッジ部分に滲みが生じることを防止できる。よって、輪郭がシャープで滲みのない薄膜を基板Bに形成することが可能になる。
【0040】
また、本実施形態のマスクチャック装置10は、導電性ホルダー11とマスク部材12との間で静電気力を発生させるため、基板Bが導電性材料であっても、また、絶縁性材料であっても適用することができ、基板Bの構成材料が限定されないので、幅広い用途のマスク部材によるパターニングに適用することが可能になる。
【0041】
また、吸着にあたっては、レジスト、現像液、接着剤等の化学溶媒を用いずに、マスク部材12と基板Bとを密着させることができるので、処理工程が簡単で低コストに基板Bの吸着を行うことができる。更に、こうした吸着のための静電気力は、放電させない限りマスクチャック装置10に残存するため、導電性ホルダー11とマスク部材12との吸着状態を保ったまま、マスクチャック装置10を例えば蒸着装置の真空チャンバーから取り出して、別の工程に用いることもできる。
【0042】
以上のようなマスクチャック装置10を備えた蒸着装置は、例えば、マスクチャック装置10と、蒸発源と、蒸発源加熱手段と、マスクチャック装置10や蒸発源を収容する真空チャンバーと、真空チャンバー内を減圧する真空ポンプなどから構成されていればよい。
【0043】
以上、本発明の複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0044】
例えば、上述した実施形態においては、針電極13からマスク部材12に向けて負電荷を散布させて、正電荷に帯電させた導電性ホルダー11との間で吸引力を発生させているが、これとは逆に、針電極13からマスク部材12に向けて正電荷を散布させて、負電荷に帯電させた導電性ホルダー11との間で吸引力を発生させる構成であってもよい。
【実施例0045】
本発明のマスクチャック装置の効果を検証した。
(検証例1)
検証に当たっては、
図1に示すマスクチャック装置10を用いた。マスク部材12としては、ポリイミドフィルムに矩形の開口部を形成したものを用いた。基板Bとしてはガラス基板を用いた。導電性ホルダー11としてはアルミニウム板を用いた。そして、針電極13と導電性ホルダー11との間に25kVの直流電圧を印加し、針電極13からマスク部材12に向けてコロナ放電を発生させてマスク部材12の表面に負電荷を散布した。これにより、マスク部材12を静電気力によって導電性ホルダー11に吸着させて、マスク部材12と基板Bとを隙間なく密着させた。
【0046】
こうしたマスクチャック装置10を真空蒸着装置の真空チャンバーに設置して、真空チャンバー内を減圧した後、Auを蒸発源として、基板Bに厚み50nmのAu薄膜を形成した。そして、マスク部材12を剥離した後の基板Bを用いて、共焦点レーザー顕微鏡によってAu薄膜の勾配長を計測した。
【0047】
そして、輝度情報をもとに勾配長を計測した結果、静電気力でマスク部材を吸着したときの勾配長は平均0.7μmであった(本発明例1)。この結果を
図2に写真で示す。また、水を用いた表面張力によってマスク部材を吸着したときの勾配長は平均6.6μmであった(比較例1)。この結果を
図3に写真で示す。また、単純な機械的圧力の印加でマスク部材を吸着したときの勾配長は平均15.1μmであった(比較例2)。この結果を
図4に写真で示す。
【0048】
こうした検証例1の結果から、本実施形態のマスクチャック装置10では、コロナ放電による静電気力で、マスク部材と基板とを隙間なく密着させることができることが確認された。
なお、蒸発源としてAu以外にもBi、有機高分子の薄膜を形成してそれぞれ勾配長を調べたが、Au薄膜の場合と同様の結果が得られた。
【0049】
(検証例2)
検証に当たっては、
図1に示すマスクチャック装置10を用いた。各部の構成は検証例1と同様にした。そして、マスク部材12を静電気力によって導電性ホルダー11に吸着させて、マスク部材12と基板Bとを隙間なく密着させたマスクチャック装置10を真空蒸着装置の真空チャンバーに設置して、真空チャンバー内を減圧した。そして、Biを蒸発源として、基板Bに厚み500nmのBi薄膜を形成した。更に、Auを蒸発源として、基板Bに厚み100nmのAu薄膜を、Bi薄膜に重ねて形成した。
【0050】
そして、マスク部材12を剥離した後の基板Bを用いて、共焦点レーザー顕微鏡によってBi-Au薄膜のエッジ部分を観察した(本発明例2)。この結果を
図5に写真で示す。また、水を用いた表面張力によってマスク部材を吸着したときのBi-Au薄膜のエッジ部分を観察した(比較例3)。この結果を
図6に写真で示す。
【0051】
こうした検証例2の結果から、本実施形態のマスクチャック装置10では、コロナ放電による静電気力で、マスク部材と基板とが隙間なく密着するため、Bi薄膜とAu薄膜とのエッジ部分が滲みなく揃っており、輪郭が鮮明な積層薄膜を形成できることが確認された。一方、比較例4では、マスク部材と基板との間に隙間が生じてしまったため、蒸発源の仰角の違いによりBi薄膜とAu薄膜とがズレて堆積してしまい、薄膜のエッジ部分に滲みが生じて輪郭が不鮮明な積層薄膜しか形成できなかった。
こうした検証例2の結果から、本実施形態のマスクチャック装置10では、コロナ放電による静電気力で、マスク部材と基板とを隙間なく密着させることができることが確認された。