(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007174
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】食品用酸臭抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20230111BHJP
A23D 9/00 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23D9/00 518
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110261
(22)【出願日】2021-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(72)【発明者】
【氏名】松澤 俊
【テーマコード(参考)】
4B026
4B047
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DG02
4B026DG03
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4B047LP07
(57)【要約】
【課題】酸臭を有する食品の食品用酸臭抑制剤を提供する。
【解決手段】カロテノイド分解物を有効成分とする、食品用酸臭抑制剤である。この食品用酸臭抑制剤は、油脂中のカロテノイドを分解する工程を含む製造方法により調製され得る。この食品用酸臭抑制剤は、酸臭成分を含有する食品等の酸臭を抑制するための素材等として好適に利用される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カロテノイド分解物を有効成分とする、食品用酸臭抑制剤。
【請求項2】
前記カロテノイド分解物は、カロテンの分解物である、請求項1に記載の食品用酸臭抑制剤。
【請求項3】
前記カロテノイド分解物を、分解前のカロテノイド量に換算して50質量ppm以上2000質量ppm以下含有する、請求項1又は2に記載の食品用酸臭抑制剤。
【請求項4】
前記カロテノイド分解物がカロテノイド加熱酸化分解物である、請求項1乃至3いずれか一項に記載の食品用酸臭抑制剤。
【請求項5】
油脂組成物の形態である、請求項1乃至4いずれか一項に記載の食品用酸臭抑制剤。
【請求項6】
前記油脂組成物が粉末状である、請求項5に記載の食品用酸臭抑制剤。
【請求項7】
油脂中のカロテノイドを酸化処理し、カロテノイド分解物を得る工程を含む、食品用酸臭抑制剤の製造方法。
【請求項8】
前記油脂中のカロテノイド含有量が、50質量ppm以上2000質量ppm以下である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記油脂が、パーム系油脂である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記油脂は、ヨウ素価が0以上80以下の油脂である、請求項7乃至9いずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記酸化処理が、過酸化物価が3以上250以下となるように前記油脂を酸化する、請求項7乃至10いずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記酸化処理は、50℃以上220℃以下で0.1時間以上240時間以下加熱処理することにより行う、請求項7乃至11いずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記加熱処理の、加熱温度(℃)と加熱時間(時間)の積が20以上20000以下である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記酸化処理は、酸素を供給して行う、請求項7乃至13いずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記カロテノイド分解物を、油脂と混合する工程を含む、請求項7乃至14いずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記食品用酸臭抑制剤に前記カロテノイド分解物が分解前のカロテノイド量に換算して0.01質量ppm以上2000質量ppm以下含まれる、請求項7乃至15いずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
酸臭を有する食品にカロテノイド分解物を含有せしめる、食品の酸臭抑制方法。
【請求項18】
前記食品中に、前期カロテノイド分解物を、分解前のカロテノイド量に換算して1×10-5質量ppm以上1質量ppm以下含有せしめる、請求項17に記載の酸臭抑制方法。
【請求項19】
酸臭を有する食品にカロテノイド分解物を添加する工程を含む、食品の製造方法。
【請求項20】
酸臭成分及びカロテノイド分解物を含む、酸臭が抑制された組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の酸臭を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
保存性の比較的低い食品に対して、数時間又は数日といったごく短時間の腐敗・変敗を抑える目的で、日持向上剤が使用されている。近年の消費者ニーズが健康志向であることから、加工食品の低塩分、低糖化が進んでいるが、塩分濃度や糖濃度が低下すると食品の保存性が悪くなるため,日持向上剤の重要性が高まってきている。
日持向上剤として、主に酢酸や酢酸ナトリウムなどの食品添加物が使用されている。これらの食品添加物は酸臭を有しているため、添加した食品の風味を低下させる場合がある。そのため、日持向上剤を使用しても、酸臭が抑えられた食品が望まれている。
【0003】
これまでにも、食品や調味料の酸臭を抑制する方法の開発が進められている。例えば、特許文献1には、食酢に対して、シトラール-a、シトラール-b、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、δ-テルピネオール、α-テルピニルアセテート、β-テルピニルアセテート、γ-テルピニルアセテート、δ-テルピニルアセテートの中から選択した少なくとも1種以上の化合物を、食酢の酸度の3%以上の量を、必要に応じて界面活性剤(食品添加物)や食用油脂と共に配合することを特徴とする酢酸臭緩和剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、酢酸臭を緩和できるものの、含まれる化合物に独特な香りがあるため、適用できる食品は限定的であった。そのため、食品の酸臭を抑制し得る汎用性の高い手段が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、食品の酸臭を抑制することができる食品用酸臭抑制剤及び食品の酸臭を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カロテノイド分解物を用いれば、異味・異臭を伴わずに酸臭を有する食品の酸臭を抑制することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
カロテノイド分解物を有効成分とする、食品用酸臭抑制剤。
[2]
前記カロテノイド分解物は、カロテンの分解物である、[1]に記載の食品用酸臭抑制剤。
[3]
前記カロテノイド分解物を、分解前のカロテノイド量に換算して50質量ppm以上2000質量ppm以下含有する、[1]又は[2]に記載の食品用酸臭抑制剤。
[4]
前記カロテノイド分解物がカロテノイド加熱酸化分解物である、[1]乃至[3]いずれか一項に記載の食品用酸臭抑制剤。
[5]
油脂組成物の形態である、[1]乃至[4]いずれか一項に記載の食品用酸臭抑制剤。
[6]
前記油脂組成物が粉末状である、[5]に記載の食品用酸臭抑制剤。
[7]
油脂中のカロテノイドを酸化処理し、カロテノイド分解物を得る工程を含む、食品用酸臭抑制剤の製造方法。
[8]
前記油脂中のカロテノイド含有量が、50質量ppm以上2000質量ppm以下である、[7]に記載の製造方法。
[9]
前記油脂が、パーム系油脂である、[8]に記載の製造方法。
[10]
前記油脂は、ヨウ素価が0以上80以下の油脂である、[7]乃至[9]いずれか一項に記載の製造方法。
[11]
前記酸化処理が、過酸化物価が3以上250以下となるように前記油脂を酸化する、[7]乃至[10]いずれか一項に記載の製造方法。
[12]
前記酸化処理は、50℃以上220℃以下の加熱時間で、0.1時間以上240時間以下の加熱時間、加熱処理することにより行う、[7]乃至[11]いずれか一項に記載の製造方法。
[13]
前記加熱処理の、加熱温度(℃)と加熱時間(時間)の積が20以上20000以下である、[12]に記載の製造方法。
[14]
前記酸化処理は、酸素を供給して行う、[7]乃至[13]いずれか一項に記載の製造方法。
[15]
前記カロテノイド分解物を、油脂と混合する工程を含む、[7]乃至[14]いずれか一項に記載の製造方法。
[16]
前記食品用酸臭抑制剤に前記カロテノイド分解物が分解前のカロテノイド量に換算して0.01質量ppm以上2000質量ppm以下含まれる、[7]乃至[15]いずれか一項に記載の製造方法。
[17]
酸臭を有する食品にカロテノイド分解物を含有せしめる、食品の酸臭抑制方法。
[18]
前記食品中に、前期カロテノイド分解物を、分解前のカロテノイド量に換算して1×10-5質量ppm以上1質量ppm以下含有せしめる、[16]に記載の酸味抑制方法。
[19]
酸臭を有する食品にカロテノイド分解物を添加する工程を含む、食品の製造方法。
[20]
酸臭成分及びカロテノイド分解物を含む、酸臭が抑制された組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カロテノイド分解物を有効成分として用いることで、異味・異臭を伴わずに酸臭を有する食品の酸臭を抑制する効果に優れた食品用酸臭抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、カロテノイド分解物を有効成分とする、食品用酸臭抑制剤である。前記食品用酸臭抑制剤は、酸臭を有する食品の酸臭を抑制する機能性を有している。
【0010】
本発明に用いられるカロテノイド分解物は、カロテノイドを分解したものである。前記カロテノイドとしては、例えば、β-カロテン、α-カロテン、リコピン等のカロテン;ルテイン、カンタキサンチン、β-クリプトキサンチン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、フコキサンチン、ビオラキサンチン、リコピン、クロシン、カプサンチン等のキサントフィル;レチノール、ビキシン、ノルビキシン、クロセチン等のアポカロテノイドなどが挙げられる。そのうち、カロテンであることが好ましく、β-カロテン及びα-カロテンよりなる群から選ばれる1種又は2種であることがより好ましい。
前記カロテノイド分解物は、上記カロテノイドを分解したものを単品で用いても、2種類以上を併用して用いてもよい。また、2種類以上のカロテノイドを混合状態で分解し、カロテノイド分解物を得てもよい。
【0011】
前記カロテノイド分解物を得る方法は、特に限定されないが、油脂中のカロテノイドを酸化処理して得ることが好ましく、油脂中のカロテノイドを加熱酸化処理して得ることがより好ましい。
【0012】
前記食品用酸臭抑制剤は、前記カロテノイド分解物を、分解前の状態のカロテノイド量に換算して50質量ppm以上2000質量ppm以下の含有量となるようにすることが好ましく、80質量ppm以上1000質量ppm以下の含有量となるようにすることがより好ましく120質量ppm以上500質量ppm以下の含有量となるようにすることがさらに好ましい。
【0013】
本発明の食品用酸臭抑制剤は、油脂中のカロテノイドを酸化処理し、カロテノイド分解物を得る工程により製造することができる。
【0014】
前記カロテノイド分解物は、任意に酸素を吹き込みながら、所定の加熱処理などを施すことで得ることができる。また、前記カロテノイドを含有する油脂組成物からカロテノイド分解物を適宜抽出又は濃縮して用いてもよい。抽出及び濃縮の方法は、特に限定するものではないが、例えば、有機溶剤を用いた抽出法、カラムクロマトグラフィー、分子蒸留又は水蒸気蒸留による濃縮法を採用することができる。
【0015】
前記酸化処理に用いられる油脂は、カロテノイドを含有している油脂であればよく、特に限定されないが、50質量ppm以上2000質量ppm以下のカロテノイドを含有することが好ましい。
【0016】
前記酸化処理に用いられる油脂は、β-カロテン及びα-カロテンの合計含有量が、50質量ppm以上2000質量ppm以下であるパーム系油脂であることが好ましい。本発明に用いるパーム系油脂は、アブラヤシの果実から得られる油脂であればよく、分子蒸留、分別、脱ガム、脱酸、脱臭等の処理を施してなるものであってもよい。各処理の方法は、特に限定するものではなく、通常、油脂の加工・精製処理に用いられる方法でよく、例えば、分別は、溶剤分別、低温濾過により行なうことができる。
前記パーム系油脂は、前記パーム系油脂に含まれるβ-カロテン及びα-カロテンの合計含有量は、100質量ppm以上1000質量ppm以下であることがより好ましく、200質量ppm以上500質量ppm以下であることが更に好ましく、300質量ppm以上400質量ppm以下であることが更により好ましい。パーム系油脂は、β-カロテン及びα-カロテンの合計含有量が上記範囲内であれば、1種類を単品で用いてもよく、あるいは2種類以上を併用して上記範囲内になるように混合してもよい。
【0017】
前記酸化処理に用いられる油脂は、任意の原料油脂に前記カロテノイドを添加する工程により得てもよい。前記酸化処理に用いられる油脂中のカロテノイドの含有量は50質量ppm以上2000質量ppm以下の含有量となるようにすることが好ましく、100質量ppm以上1000質量ppm以下の含有量となるようにすることがより好ましく、200質量ppm以上500質量ppm以下の含有量となるようにすることがさらに好ましく、300質量ppm以上400質量ppm以下の含有量となるようにすることがさらにより好ましい。
【0018】
また、前記酸化処理に用いられる油脂は、ヨウ素価(単位:g/100g油脂、以下「IV」とも記載)が0以上80以下であることが好ましく、40以上70以下であることがより好ましく、50以上60以下であることがさらに好ましい。なお、ヨウ素価は、「基準油脂分析試験法2.3.4.1-2013 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」(日本油化学会)に則って測定することができる。
【0019】
前記カロテノイドを含有している油脂の酸化処理は、油脂の過酸化物価(単位:meq/kg、以下「POV」とも記載)を3以上250以下となるように酸化することが好ましく、10以上200以下となるように酸化することがより好ましく、20以上120以下となるように酸化することが更に好ましく、40以上80以下となるように酸化することが更により好ましい。前記カロテノイドを含有している油脂は酸化をすることで、所定範囲のPOVとすることができるが、酸化の方法は特に限定されない。所定範囲のPOVにすることで、前記カロテノイドを含有している油脂中のカロテノイドを分解できる。なお、POVは、「基準油脂分析試験法 2.5.2.1-2013 過酸化物価(酢酸-イソオクタン法)」(日本油化学会)に則って測定することができる。
【0020】
前記酸化処理は、工業的スケールで生産する観点からは、タンク等の適当な容器に収容したうえ、容器に備わる電熱式、直火バーナー式、マイクロ波式、蒸気式、熱風式などの加熱手段で、所定の加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理の条件は、適宜、所望量のカロテノイド分解物が得られるように設定すればよい。カロテノイドの種類やベース油として使用する原料油脂の種類等によっても異なり、一概ではないが、典型的に、例えば加熱温度50℃以上220℃以下で、加熱時間が0.1時間以上240時間以下で行うなどであり、より典型的には、例えば加熱温度60℃以上160℃以下で、加熱時間が1時間以上100時間以下で行うなどである。更に典型的には、例えば加熱温度80℃以上120℃以下で、加熱時間が20時間以上60時間以下で行うなどである。加熱温度(℃)と加熱時間(時間)の積(以下、「温度×時間」とも記載)の条件としては、典型的に、例えば200以上20000以下で加熱処理を行うなどであり、より典型的には、例えば300以上16000以下で加熱処理を行うなどであり、更に典型的には、例えば400以上14000以下で加熱処理を行うなどであり、更により典型的には、例えば1000以上10000以下で加熱処理を行うなどであり、殊更典型的には、例えば3000以上5000以下で加熱処理を行うなどであり、所望量のカロテノイド分解物が得られるように適宜に設定すればよい。
【0021】
また、酸化処理に際しては、撹拌により容器の開放スペースから酸素を取り入れたり、酸素を吹き込んだりして、酸素を供給してもよい。なお、酸素源は空気などを用いてもよい。これにより、カロテノイドの分解が促進される。その場合、酸素の供給量としては、前記酸化処理に用いられる油脂1kgあたり0.001L/分以上2L/分以下となるようにすることが好ましい。例えば、空気の場合は、前記酸化処理に用いられる油脂1kgあたり0.005L/分以上10L/分以下であることが好ましく、0.01L/分以上5L/分以下であることがより好ましく、0.1L/分以上2L/分以下であることが更に好ましく、0.5L/分以上1L/分以下であることが更により好ましい。
【0022】
前記カロテノイド分解物を食品用酸臭抑制剤の形態で用いる場合、経口組成物に利用可能な形態であればよく、その製剤的形態に特に制限はない。前記酸化処理物をそのまま用いてもよく、機能を損なわない範囲において、適当な媒体と混合して用いてもよい。
【0023】
本発明の食品用酸臭抑制剤は、前記カロテノイド分解物を適宜適当な他の食用油脂(以下、「油脂」とも記載)に添加して、カロテノイド分解物を含有してなる油脂組成物となしてもよい。他の食用油脂としては、大豆油、菜種油、パーム油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ひまわり油、綿実油、米油、落花生油、パーム核油、ヤシ油等の植物油脂、牛脂、豚脂、鶏脂、魚油、乳脂等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド、あるいはこれらに分別、水素添加、エステル交換等の加工処理を1または2以上施した加工油脂などが挙げられる。これらの食用油脂は、1種類を単品で用いてもよく、あるいは2種類以上が混合されたものを用いてもよい。なお、前記油脂組成物は、1種類のカロテノイド分解物を単品で他の食用油脂に含有せしめてもよく、あるいは2種類以上のカロテノイド分解物を併用してもよい。2種類以上のカロテノイド分解物を併用した場合、前記含有量は、その2種以上のものの合計含有量である。
【0024】
前記油脂組成物の形態に制限はなく、液体状、固形状、粉末状であってもよい。固形状の場合、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等が採用し得る。粉末状の場合、粉末油脂等が採用し得る。
【0025】
前記油脂組成物中のカロテノイド分解物の含有量を、分解前の状態のカロテノイド量に換算して0.01質量ppm以上2000質量ppm以下なるようにすることが好ましく、0.05質量ppm以上1000質量ppm以下となるようにすることがより好ましく、0.1質量ppm以上500質量ppm以下となるようにすることが更に好ましい。
【0026】
本発明の食品用酸臭抑制剤の食品への配合量に特に制限はないが、前記カロテノイド分解物が、前記分解する工程の前の該カロテノイド量に換算した量として1×10-5質量ppm以上1質量ppm以下となるように前記カロテノイド分解物を含有せしめることが好ましく、1×10-4質量ppm以上0.8質量ppm以下となるように含有せしめることがより好ましく、5×10-3質量ppm以上0.5質量ppm以下となるように含有せしめることが更に好ましく、1×10-3質量ppm以上0.5質量ppm以下となるように含有せしめることが更により好ましい。
【0027】
本発明によれば、酸臭を有する食品に上述した食品用酸臭抑制剤を含有せしめることで、その食品の酸臭を抑制することができる。より詳細には、酸臭を有する食品に含まれる酸臭成分の酸臭を抑制する効果に優れる。このような酸臭成分を含有する食品の酸臭を抑制する効果は、例えば、公正な水準を満たす専門パネルによる官能評価などによって、客観的に判定し得る。
【0028】
前記酸臭成分は、酸臭を有する成分であれば特に限定されないが、例えば、酢酸、酢酸塩などが挙げられる。そのうち、酢酸及び酢酸アルカリ金属塩からなる群から選ばれる1種又は2種に適用することが好ましく、酢酸及び酢酸ナトリウムよりなる群から選ばれる1種又は2種に適用することがより好ましく、酢酸ナトリウムに適用することが更に好ましい。
【0029】
本発明が適用される食品は、前記酸臭を有していれば、特に限定されない。具体的には、食酢、ぽん酢、マヨネーズ、ドレッシングなどの調味料等が挙げられる。また、日持向上剤を添加した食品にも好適である。そのような食品としては、サラダ、コロッケ、ハンバーグ、肉団子、餃子、マリネ、酢豚などの総菜、おにぎりの具材、水産練り製品、パン等が挙げられる。さらに、酸臭成分を含有する食品の濃縮タイプや粉末品も挙げられる。
【0030】
酸臭成分にカロテノイド分解物を含ませることにより、酸臭が抑制された組成物とすることができ、前記組成物は、前記食品の原料として使用することができる。前記酸臭成分は素材中に含まれてもよく、抽出、又は精製されたものでもよい。前記組成物中、酸臭成分1質量部に対する前記カロテノイド分解物の量は、分解前のカロテノイド量に換算して1×10-10質量部以上1×10-3質量部以下が好ましく、1×10-9質量部以上1×10-4質量部以下がより好ましく、1×10-8質量部以上1×10-5質量部以下が更に好ましく、1×10-7質量部以上1×10-5質量部以下が更により好ましい。
【実施例0031】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0032】
以下に、本実施例において用いた油脂およびその他の原料を揚げる。
【0033】
〔油脂〕
・レッドパーム油(分子蒸留、1回分別):IV=58、β-カロテン及びα-カロテンの合計含有量373質量ppm、カロチーノ ピュアオレイン(カロチーノ社製)
・菜種油:AJINOMOTO さらさらキャノーラ油、(株式会社J-オイルミルズ製)
・大豆油:AJINOMOTO コクとうまみの大豆の油、(株式会社J-オイルミルズ製)
・パーム核極度硬化油:パーム核油を常法により極度硬化し精製した油脂、社内調製品
【0034】
〔乳化剤〕
・ソルビタン脂肪酸エステル:エマゾールP-10V(花王株式会社製)
・グリセリン脂肪酸エステル:ポエムP-200(理研ビタミン株式会社製)
【0035】
[その他の原材料]
・酸カゼイン(Lactic Casein, Westland Co-operative Dairy Company Ltd.社製)
・水酸化ナトリウム(東ソー株式会社製)
・コーンシロップ:フジシラップC-75S, 水分25質量%,(加藤化学株式会社製)
・リン酸水素二カリウム(太平化学産業株式会社製)
・クエン酸三ナトリウム(三栄源エフエフアイ株式会社製)
【0036】
β-カロテン及びα-カロテンの定量は下記のように行った。
【0037】
〔β-カロテン及びα-カロテンの定量〕
β-カロテン及びα-カロテンの定量は、高速液体クロマトグラフィーによる分析(以下、「HPLC分析」とも記載)にて行った。具体的には、試料を0.5g秤量し、アセトン:テトラヒドロフラン=1:1(体積比)で10mLにそれぞれメスアップし、HPLC分析に供し、検量線からβ-カロテン及びα-カロテンの含有量を定量した。なお、検量線は定量標品としてβ-カロテン(型番035-05531)及びα-カロテン(型番035-17981)の試薬(和光純薬工業株式会社製)を使用して、所定濃度ごとにHPLC分析に供したときのピーク面積から作成した。以下にはHPLC分析条件を示す。
【0038】
(HPLC分析条件)
・検出器:フォトダイオドアレイ検出器「2996 PHOTODIODE ARRAY DETECTOR」(Waters社製)、300~600nmで検出
・カラム:Shim-pack VP-ODS、4.6mmID×250mm、4.6μm(株式会社島津製作所製)
・カラム温度:50℃
・注入量:5μL
・流速:1.2mL/分
・移動相A:アセトニトリル
・移動相B:エタノール
・移動相C:アセトン
・グラジエント条件:表1に示す
【0039】
【0040】
〔ヨウ素価(IV)の測定〕
「基準油脂分析試験法2.3.4.1-2013 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」(日本油化学会)に則って測定した。
【0041】
〔過酸化物価(POV)の測定〕
「基準油脂分析試験法 2.5.2.1-2013 過酸化物価(酢酸-イソオクタン法)」(日本油化学会)に則って測定した。
【0042】
[実施例1]
容量500mLのステンレスビーカーに酸化処理用原料油脂としてレッドパーム油を240g入れた。酸化処理用原料油脂を入れたステンレスビーカーを表2に記載の加熱温度に設定したオイルバスに漬け、ステンレスビーカー内に空気吹込み管と攪拌羽を取り付けた。表2の加熱処理条件に記載の空気吹込み量の空気を吹き込みながら、攪拌羽の回転数を200rpmに設定し、表2の加熱処理条件に記載の加熱時間、加熱処理を行ない、実施例1の酸化処理物を得た。
【0043】
[比較例1]
実施例1の酸化処理用原料油脂のレッドパーム油を加熱処理しないで用いた。
【0044】
[比較例2]
酸化処理用原料油脂のレッドパーム油を菜種油に代えたこと及び、表2の加熱処理条件に記載の条件で加熱したことを除き、実施例1と同じ処理方法で、比較例2の酸化処理物を得た。
【0045】
[比較例3]
酸化処理用原料油脂のレッドパーム油を大豆油に代えたこと及び、表2の加熱処理条件に記載の条件で加熱したことを除き、実施例1と同じ処理方法で、比較例2の酸化処理物を得た。
【0046】
表2には、使用した酸化処理用原料油脂中のカロテン含有量、加熱処理条件、加熱処理後のカロテン残存量、加熱処理前後に測定したPOVの値、温度×時間の値をそれぞれ示す。実施例1の酸化処理物中のカロテノイド分解物(カロテンの分解物)の含有量は、分解前のカロテノイド量(カロテン量)に換算して371質量ppmであった。比較例2、3の酸化処理物中のカロテノイド分解物の含有量は、分解前のカロテノイド量に換算して0質量ppmであった。以下、分解前のカロテノイド量に換算したカロテイノド分解物の含有量を、単にカロテノイド分解物の含有量とも記載する。
【0047】
【0048】
<油脂組成物の調製>
比較例1~3と実施例1を表3に示す割合で菜種油と混合し、油脂組成物を調製した。
【表3】
【0049】
<粉末油脂の調製>
表4の調製例に示す割合で、水相の原材料を60℃で攪拌混合し、水相配合物を得た。次に、表4に示す割合で、油相の原材料を60℃で攪拌混合し、油相配合物を得た。得られた水相配合物と油相配合物とを混合し、常法に従い、乳化・噴霧し、表5に記載の粉末油脂を調製した(調製例1から調製したものが比較例4、調製例2から調製したものが実施例1-4)。
【0050】
【0051】
【0052】
本実施例には、以下の食品、素材を使用した。
【0053】
・ポテトサラダ:北海道男爵使用ポテトサラダ大(増量)(東急ストアにて購入)
・めんつゆ:桃屋 つゆ(特級)(株式会社桃屋製)
・酢酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0054】
〔官能評価〕
以下に、官能評価の方法を記載する。官能評価は2名の専門パネルで行い、以下の評価基準で示す評点により酸臭を評価した。各専門パネルの評価値から平均値を算出した。
【0055】
(評価基準)
3 対照と同等、または同等以上の酸臭
2 対照と比べて少し酸臭が抑えられている
1 対照と比べて大幅に酸臭が抑えられている
0 酸臭が全くない
【0056】
(実験1)
<ポテトサラダによる評価>
表6に示す配合で、ポテトサラダに酢酸ナトリウムを添加、混合し、次いで、比較例1-1、実施例1-1~1-3、比較例2-1~2-3、比較例3-1~3-3の油脂組成物をそれぞれ添加、混合し、評価用のポテトサラダを調製した(調製例1-1~1-10)。
評価用のポテトサラダは、2名の専門パネルが食して咀嚼後、鼻に抜ける酸臭を上記の評価基準によって評価した。なお、対照にはポテトサラダ98gに酢酸ナトリウムを1g添加、混合したものを用いた。
【0057】
【0058】
その結果、表6に示すように、カロテノイド分解物を含まない比較例1の油脂組成物を添加した場合よりも、カロテノイド分解物を含む実施例1-1~1-3の油脂組成物を添加することにより、酸臭を抑制することができた。カロテノイド分解物を含まない酸化処理物を含む比較例2-1~2-3、3-1~3-3を添加しても、対照と同程度の酸臭であった。このことから、油脂の酸化物自体には酸臭を抑制する効果はなく、カロテノイド分解物に酸臭を抑制する効果があることが明らかとなった。
特に、食品中のカロテノイド分解物の含有量が3.71×10-2質量ppmの場合、酸臭の抑制効果が高かった。また、酢酸ナトリウム1質量部に対して、分解前のカロテノイド量に換算したカロテイノド分解物を3.71×10-7~3.71×10-5質量部含む場合、酸臭を抑制することが確認できた。
【0059】
(実験2)
<めんつゆによる評価>
食品を口に入れた後の、鼻から抜ける酸臭を評価した
表7に示す配合で、めんつゆに酢酸ナトリウムを添加、混合し、次いで、比較例4、実施例1-4の粉末油脂をそれぞれ添加、混合し、評価用のめんつゆを調製した(調製例2-1~2-3)。
評価用のめんつゆは、2名の専門パネルが食して、鼻に抜ける酸臭を上記の評価基準によって評価した。なお、対照にはめんつゆ99gに酢酸ナトリウムを1g添加、混合したものを用いた。
【0060】
【0061】
その結果、表7に示すように、カロテノイド分解物を含まない比較例4の粉末油脂を添加した場合よりも、カロテノイド分解物を含む実施例1-4の粉末油脂を添加することにより、酸臭を抑制することができた。この結果、カロテイノド分解物を含む粉末油脂は食品用酸臭抑制剤として機能することが明らかとなった。
特に、食品中のカロテノイド分解物の含有量が3.71×10-3質量ppmの場合、酸臭の抑制効果が高かった。また、酢酸ナトリウム1質量部に対して、分解前のカロテノイド量に換算したカロテイノド分解物を3.71×10-7~3.71×10-6質量部含む場合、酸臭を抑制することが確認できた。
【0062】
酢酸ナトリウム10gと実施例1の酸化処理物0.1gとを混合した組成物を調製した。