(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072023
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】ラテックスの製造方法及び中空樹脂粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 6/24 20060101AFI20230516BHJP
C08F 2/18 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C08F6/24
C08F2/18
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038525
(22)【出願日】2023-03-13
(62)【分割の表示】P 2019534527の分割
【原出願日】2018-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2017149074
(32)【優先日】2017-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018015976
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 隆志
(72)【発明者】
【氏名】平田 剛
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 希
(57)【要約】 (修正有)
【課題】従来よりも空隙率が高くかつ優れた耐熱性を有する中空粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】(A)アクリル系親水性単量体又はアクリル系モノビニル単量体と、アクリル系親水性単量体との組み合わせからなる単量体、(B)エチレン性不飽和結合を2つ以上有する架橋性単量体、(C)油溶性重合開始剤5、(E)炭化水素系溶剤7、(F)懸濁安定剤、並びに(G)水系媒体1の各材料を含む、それぞれ特定の割合の混合液を調製する工程;前記混合液の懸濁液を調製する工程;前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部8を持ちかつ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子20を含む前駆体組成物を調製する工程;前記前駆体組成物を固液分離することにより前記前駆体粒子を得る工程;並びに前記前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を気中にて除去することにより中空樹脂粒子100Cを得る工程を含む、中空樹脂粒子の製造方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空樹脂粒子の製造方法であって、
(A)アクリル酸及びメタクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1つのアクリル系親水性単量体からなる単量体(但し、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを除く。)、又は、アクリレート及びメタクリレートよりなる群から選ばれるアクリル系モノビニル単量体(但し、エチレン性不飽和結合及び親水性基を有する単量体よりなる群から選ばれる親水性単量体を除く。)とアクリル酸及びメタクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1つのアクリル系親水性単量体(但し、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを除く。)との組み合わせからなる単量体、(B)エチレン性不飽和結合を2つ以上有する単量体よりなる群から選ばれる架橋性単量体、(C)油溶性重合開始剤、(E)炭化水素系溶剤、(F)懸濁安定剤、並びに(G)水系媒体の各材料を含み、かつ、前記材料のうち材料(A)である単量体乃至材料(C)である油溶性重合開始剤、材料(E)である炭化水素系溶剤及び材料(F)である懸濁安定剤の総質量を100質量%としたとき材料(A)である単量体の質量割合が5~50質量%であり、前記材料(A)である単量体におけるアクリル系親水性単量体とアクリル系モノビニル単量体の質量比(アクリル系親水性単量体:アクリル系モノビニル単量体)が100:0~20:80であり、前記材料(A)である単量体及び前記材料(B)である架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、前記材料(B)である架橋性単量体の含有量が25~59質量部であり、前記材料(E)である炭化水素系溶剤の含有量は100~900質量部である混合液を調製する工程、
前記混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を持ちかつ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程、
前記前駆体組成物を固液分離することにより前記前駆体粒子を得る工程、並びに
前記前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を気中にて除去することにより中空樹脂粒子を得る工程を含み、
個数平均粒径が0.1~10μmであり、空隙率が70~99%である中空樹脂粒子を製造することを特徴とする中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体組成物を固液分離する方法は、遠心分離法又はろ過法であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記混合液を調製する工程は、
前記材料(A)である単量体、前記材料(B)である架橋性単量体、前記材料(C)である油溶性重合開始剤、及び前記材料(E)である炭化水素系溶剤を含み、かつ、前記材料のうち材料(A)である単量体乃至材料(C)である油溶性重合開始剤、材料(E)である炭化水素系溶剤及び材料(F)である懸濁安定剤の総質量を100質量%としたとき材料(A)である単量体の質量割合が5~50質量%であり、前記材料(A)である単量体におけるアクリル系親水性単量体とアクリル系モノビニル単量体の質量比(アクリル系親水性単量体:アクリル系モノビニル単量体)が100:0~20:80であり、前記材料(A)である単量体及び前記材料(B)である架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、前記材料(B)である架橋性単量体の含有量が25~59質量部であり、前記材料(E)である炭化水素系溶剤の含有量は100~900質量部である油相と、
前記材料(F)である懸濁安定剤及び前記材料(G)である水系媒体を含む水相と、
を混合する工程であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
20℃における前記材料(E)である炭化水素系溶剤の比誘電率が3以下であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記材料(E)である炭化水素系溶剤が、炭素数5~7の炭化水素化合物であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記材料(A)である単量体及び前記材料(B)である架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、前記材料(E)である炭化水素系溶剤が200質量部以上であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、従来よりも空隙率が高い中空部を持つラテックス粒子を含有するラテックスの製造方法、及び従来よりも空隙率が高い中空樹脂粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空樹脂粒子は、内部に実質的に空隙を有しない樹脂粒子と比べて、光を良く散乱させ、光の透過性を低くできるため、不透明度、白色度などの光学的性質に優れた有機顔料や隠蔽剤として水系塗料、紙塗被組成物などの用途で汎用されている。
【0003】
ところで、水系塗料、紙塗被組成物などの用途においては、塗料や紙塗被組成物等の軽量化、断熱化、及び不透明化等の効果を向上させるため、配合する中空樹脂粒子の空隙率を高めることが望まれている。しかし、従来知られている製造方法では、所望の物性が得られるような製造条件を満たしながら、空隙率が高い中空樹脂粒子を安定して製造することは困難であった。
【0004】
例えば、特許文献1には、親水性コアポリマー、第1のシェルポリマー、及び第2のシェルポリマーを含むエマルション重合された多段ポリマー粒子を形成し、形成された多段ポリマー粒子を塩基で中和することにより親水性コアポリマーを膨潤させ、空隙を有する粒子を形成する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、重合性モノマー成分を、これとは異なる組成の異種ポリマー微粒子の存在下において水性分散媒体中に分散させて当該異種ポリマー微粒子に前記重合性モノマー成分を吸収させ、次に前記重合性モノマー成分を重合させる技術が開示されている。当該文献には、水性分散媒体中に、重合性モノマー成分の他に異種ポリマーを微粒子又は溶液の状態で共存させること、そのことによって重合時に、異種ポリマーの相分離により分散粒子内に核が形成され、この核に生成しつつあるポリマーの重合収縮が生じること、及びその結果としてポリマーの内部に孔が形成されることが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、カルボキシル基含有単量体20~60質量%及びこれと共重合可能な単量体80~40質量%との単量体混合物を共重合してなる中心層重合体、カルボキシル基含有単量体1~12質量%及びこれと共重合可能な単量体99~88質量%との単量体混合物を共重合してなる中間層重合体、及びカルボキシル基を含まない単量体を重合してなる表面層重合体からなる少なくとも3層構造を有する重合体粒子を含有するラテックスに、塩基を添加して該ラテックスのpHを8以上とし、次いで、酸を添加して該ラテックスのpHを7以下とすることを特徴とする中空重合体粒子の製造方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、熱可塑性樹脂からなる外殻とそれに内包される発泡剤とを必須として構成される熱膨張性微小球の製造方法が開示されている。当該文献には、膨張性能を劣化させることなく、安定に収率よく所定の平均粒径を有する熱膨張性微小球を製造できるとの記載がある。
【0008】
また、特許文献5には、中空樹脂粒子の製造に当たり、(1)ニトリル基を有さないビニルモノマー、相分離促進剤、揮発性溶媒、重合開始剤、及び反応触媒を含む分散相を調製し、(2)溶媒及び界面活性剤を含む連続相を調製し、(3)連続相に分散相を加えた後、得られた混合物を攪拌し、(4)得られた水分散液を加圧条件下で重合反応に供し、(5)重合反応後の混合物を、揮発性溶媒の沸点以上の温度で除圧することにより水性分散液を得、(6)得られた水性分散液をろ過し、乾燥させることにより中空樹脂粒子を得たことが開示されている。当該文献には、中空樹脂粒子のシェルを構成する樹脂が、ニトリル基を有さないビニルモノマーからなるため、高温でもニトリル基が脱離することがなく、シェルの強度が低下しにくいことが記載されている。
【0009】
特許文献6には、油性物質を共存させた親水性モノマー、架橋性モノマー及び他のモノマーの分散液を重合した後、液中又は気中にて粒子中の油性物質を除去することで中空ポリマー粒子を製造する方法が開示されている。
特許文献7には、水媒体中で微粒子に内包する有機溶剤を除去して中空化することにより、陥没を抑制した中空粒子の製造方法が開示されている。
特許文献8には、架橋性単量体の含有割合が高い中空高分子微粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11-349839号公報
【特許文献2】特開昭62-127336号公報
【特許文献3】特開平6-248012号公報
【特許文献4】国際公開第2017/002659号
【特許文献5】特開2008-231241号公報
【特許文献6】特開昭61-87734号公報
【特許文献7】特開2013-221070号公報
【特許文献8】特開2002-80503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1には、多段ポリマー粒子の空隙率を評価した記載はない。
また、特許文献2には、内孔を有するポリマー粒子を容易に製造できるとの記載がある。しかし、特許文献2に記載されたポリマー粒子は、空隙率が低いという問題がある。
特許文献3には、殻の厚さが50nm以下で、空隙率が大きい中空重合体粒子を製造するとの記載がある。しかし、特許文献3の実施例に実際に開示された中空重合体粒子は、空隙率が70%程度のものに留まる。また、特許文献3に記載の方法は、生産性に劣るという問題がある。
【0012】
特許文献4には、膨張性能の点から、ニトリル系単量体を必須成分として含むことが好ましいと記載されている。しかし、ニトリル系単量体を含む樹脂粒子は、一般的に耐熱性に劣る。また、特許文献4の技術においては、発泡剤による発泡及び熱膨張反応を利用して微小球を膨らませるため、微小球の粒径を精密に制御することが難しいという問題がある。
また、特許文献5には、揮発性溶媒の沸点以上の温度で除圧することにより、内包した揮発性溶媒の揮発時の圧力により樹脂が押し広げられ、中空樹脂粒子が形成されるとの記載がある。しかし、粒子に熱を付与しながら除圧を行うことにより粒子を膨らませるため、得られる中空樹脂粒子の粒径が不揃いとなるという問題がある。
【0013】
特許文献6の技術において、油性物質の量を多くしてシェル厚の薄い中空粒子を作製しようとすると、シェルの強度が低いため油性物質を除去する際に粒子が潰れてしまい、空隙率の高いものが得られないという問題がある。
特許文献7に記載の方法で製造した中空粒子は水を内包し、断熱剤等の用途で使用する際には内部の水を除去する工程が必要となり、この段階において、粒子が陥没してしまい空隙率が低くなるという問題がある。
特許文献8に記載の中空高分子微粒子のように、架橋性単量体の割合が高い場合には、内部の炭化水素を除去するために、高温かつ長時間の処理が必要となり、生産性に劣るという問題がある。
【0014】
本開示の課題は、従来よりも空隙率が高い中空樹脂粒子を含有するラテックスの製造方法、及び従来よりも空隙率が高い中空樹脂粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、中空部を持つラテックス粒子を含有するラテックスを懸濁重合により得る方法において、油溶性重合開始剤を用いることに着目した。また、本発明者らは、親水性単量体単位を含む共重合体が、塩基と反応してアルカリ膨潤を起こすことに注目した。これらの知見から、本発明者らは、水系媒体に適切な材料を分散させた分散液を用いることにより、得られるラテックス中のラテックス粒子の空隙率を従来よりも大きく制御できることを見出した。
また、本発明者らは、懸濁重合により中空樹脂粒子を得る方法において、高い空隙率を有する中空の球形状を保つためには、特に重合反応後の後処理が重要であることに着目した。さらに本発明者らは、中空樹脂粒子の耐熱性を高めるため、中空樹脂粒子を構成するポリマーの種類を吟味した。その結果、本発明者らは、重合に際し特定の単量体を使用し、かつ重合後に固液分離を行うことにより、従来よりも空隙率が高くかつ優れた耐熱性を有する中空樹脂粒子が得られることを見出した。
【0016】
すなわち本開示の第1の製造方法は、
中空部を持つラテックス粒子を含有するラテックスの製造方法であって、
モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、架橋性単量体、油溶性重合開始剤、油脂、炭化水素系溶剤、懸濁安定剤、並びに水系媒体を含む混合液を調製する工程、
前記混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を持ちかつ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程、
前記前駆体組成物に塩基を添加することにより、当該前駆体組成物のpHを6.0以上とする工程、並びに
前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去することにより、中空部を持つラテックス粒子を含有するラテックスを得る工程、
を含むことを特徴とするラテックスの製造方法である。
【0017】
本開示の第1の製造方法においては、1又は2以上の前記モノビニル単量体、及び1又は2以上の前記親水性単量体を併用してもよい。
本開示の第1の製造方法においては、1又は2以上の前記モノビニル単量体、及び1又は2以上の前記親水性単量体の総質量を100質量%としたとき、1又は2以上の前記親水性単量体の総質量割合が10~50質量%であってもよい。
本開示の第1の製造方法においては、得られるラテックスに含まれる前記ラテックス粒子の個数平均粒径は0.1~10μmであってもよい。
本開示の第1の製造方法においては、得られるラテックスに含まれる前記ラテックス粒子の空隙率は70~99%であってもよい。
【0018】
本開示の第2の製造方法は、
中空樹脂粒子の製造方法であって、
モノビニル単量体及び親水性単量体(ただし、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを除く。)からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、架橋性単量体、油溶性重合開始剤、炭化水素系溶剤、懸濁安定剤、並びに水系媒体を含み、かつ前記モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、並びに架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、架橋性単量体の含有量が25~59質量部である混合液を調製する工程、
前記混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を持ちかつ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程、
前記前駆体組成物を固液分離することにより前記前駆体粒子を得る工程、並びに
前記前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を気中にて除去することにより中空樹脂粒子を得る工程、
を含むことを特徴とする中空樹脂粒子の製造方法である。
【0019】
本開示の第2の製造方法において、前記モノビニル単量体は、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、前記親水性単量体は、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。
本開示の第2の製造方法において、前記前駆体組成物を固液分離する方法は、遠心分離法又はろ過法であってもよい。
本開示の第2の製造方法において、前記混合液を調製する工程は、前記モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、架橋性単量体、油溶性重合開始剤、及び炭化水素系溶剤を含み、かつ前記モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体並びに架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、架橋性単量体の含有量が25~59質量部である油相と、前記懸濁安定剤及び水系媒体を含む水相と、を混合する工程であってもよい。
本開示の第2の製造方法において、20℃における前記炭化水素系溶剤の比誘電率が3以下であってもよい。
本開示の第2の製造方法において、前記炭化水素系溶剤が、炭素数5~7の炭化水素化合物であってもよい。
本開示の第2の製造方法において、前記モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、並びに架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、前記炭化水素系溶剤が200質量部以上であってもよい。
本開示の第2の製造方法において、得られる前記中空樹脂粒子の個数平均粒径は0.1~10μmであってもよい。
本開示の第2の製造方法において、得られる前記中空樹脂粒子の空隙率は70~99%であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
上記の如き本開示の第1の製造方法によれば、従来よりも空隙率の高いラテックス粒子を含むラテックスを効率的に製造することができる。
上記の如き本開示の第2の製造方法によれば、モノビニル単量体及び/又は親水性単量体に由来する単量体単位を含むポリマーを重合し、かつ重合後に得られた前駆体組成物を固液分離した後、前駆体粒子から炭化水素系溶剤を除去するため、従来よりも空隙率が高くかつ優れた耐熱性を有する中空樹脂粒子を、高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示の第1の製造方法(ラテックスの製造方法)の一例を示す模式図である。
【
図2】本開示の第2の製造方法(中空樹脂粒子の製造方法)の一例を示す模式図である。
【
図3】懸濁液調製工程における懸濁液の一実施形態を示す模式図である。
【
図4A】実施例II-1の中空樹脂粒子のSEM画像である。
【
図4B】実施例II-1の中空樹脂粒子の断面のSEM画像である。
【
図5】従来の乳化重合用の分散液を示す模式図である。
【
図6B】従来のコアシェル樹脂粒子の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示において「中空」とは、一般的な観察方法により、粒子内部において、液体部、気体部、並びに液体及び気体の混合部からなる群より選ばれる少なくともいずれか1つの存在が確認できる状態を意味する。本開示でいう「液体部」とは、液体で満たされた連続部分を意味する。本開示でいう「気体部」とは、気体で満たされた連続部分を意味する。本開示でいう「液体及び気体の混合部」とは、液体及び気体で満たされた連続部分を意味する。
本開示において「中空部」とは、粒子内部に中空が占める部分を意味するものとする。粒子が中空部を有するか否かは、例えば、対象となる粒子の断面のSEM観察等により、又は対象となる粒子をそのままTEM観察等することにより、確認することができる。
粒子における樹脂のシェルが連通孔を有さず、本開示における「中空部」が粒子のシェルによって粒子外部から隔絶されていてもよい。
粒子における樹脂のシェルが1又は2以上の連通孔を有し、本開示における「中空部」が当該連通孔を介して粒子外部と繋がっていてもよい。
本開示において「前駆体粒子」とは、その中空部が、水若しくは水と気体との混合物、又は水系媒体若しくは水系媒体と気体との混合物により満たされる粒子を意味する。本開示において「前駆体組成物」とは、前駆体粒子を含む組成物を意味する。
本開示において「中空部を持つラテックス粒子」とは、ラテックスに含まれる粒子であって中空部を有するものを意味する。
本開示において「中空樹脂粒子」とは、その中空部が気体により満たされる樹脂粒子を意味するものとする。
【0023】
本開示の第1の製造方法は、
中空部を持つラテックス粒子を含有するラテックスの製造方法であって、
モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、架橋性単量体、油溶性重合開始剤、油脂、炭化水素系溶剤、懸濁安定剤、並びに水系媒体を含む混合液を調製する工程、
前記混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を持ちかつ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程、
前記前駆体組成物に塩基を添加することにより、当該前駆体組成物のpHを6.0以上とする工程、並びに
前記前駆体組成物中の前記前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去することにより、中空部を持つラテックス粒子を含有するラテックスを得る工程、
を含むことを特徴とするラテックスの製造方法である。
【0024】
本開示の第2の製造方法は、
中空樹脂粒子の製造方法であって、
モノビニル単量体及び親水性単量体(ただし、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを除く。)からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、架橋性単量体、油溶性重合開始剤、炭化水素系溶剤、懸濁安定剤、並びに水系媒体を含み、かつ前記モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、並びに架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、架橋性単量体の含有量が25~59質量部である混合液を調製する工程、
前記混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を持ちかつ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程、
前記前駆体組成物を固液分離することにより前記前駆体粒子を得る工程、並びに
前記前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を気中にて除去することにより中空樹脂粒子を得る工程、
を含むことを特徴とする中空樹脂粒子の製造方法である。
【0025】
本開示の第1及び第2の製造方法は、共通の原料を含む混合液を懸濁させ、得られた懸濁液を重合反応に供する点で共通する。以下、第1及び第2の製造方法について順に説明する。ただし、第2の製造方法に関する説明は、特に明記しない限り、第1の製造方法とは原則として異なる点についてのみとする。
【0026】
1.第1の製造方法
本開示の第1の製造方法は、(1)混合液調製工程、(2)懸濁液調製工程、(3)重合工程、(4)塩基添加工程、及び(5)溶剤除去工程を含む。本開示の製造方法の工程は、これら5つのみに限定されない。
図1は、本開示の第1の製造方法の一例を示す模式図である。
図1中の(1)~(5)は、上記各工程(1)~(5)に対応する。各図の間の白矢印は、各工程の順序を指示するものである。なお、
図1及び後述する
図2は説明のための模式図に過ぎず、本開示の製造方法はこれらの図に示すものに限定されない。また、本開示の各製造方法に使用される材料の構造、寸法及び形状は、これらの図における各種材料の構造、寸法及び形状に限定されない。
図1の(1)は、混合液調製工程における混合液の一実施形態を示す断面模式図である。この図に示すように、混合液は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散する低極性材料2を含む。ここで、低極性材料2とは、例えば炭化水素系溶剤等の、極性が低く水系媒体1と混ざり合いにくい材料を意味する。
図1の(2)は、懸濁液調製工程における懸濁液の一実施形態を示す断面模式図である。懸濁液は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散するミセル10(モノマー液滴)を含む。ミセル10は、油溶性の単量体組成物4(油溶性重合開始剤5等を含む)の周囲を、懸濁安定剤3(例えば、界面活性剤等)が取り囲むことにより構成される。
図1の(3)は、重合工程後の前駆体組成物の一実施形態を示す断面模式図である。前駆体組成物は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散する前駆体粒子20を含む。この前駆体粒子20の外側に位置するシェル6は、上記ミセル10中の単量体等の重合により形成されたものである。シェル6内部の中空部は、炭化水素系溶剤7を内包する。シェル6は油脂13を含む。
図1の(4)は、塩基添加工程後の前駆体組成物の一実施形態を示す断面模式図である。塩基の添加により油脂が外部の水系媒体1に溶出し、シェル欠陥14が形成される。これによって、前駆体粒子20の中空部は、シェル欠陥14を介して前駆体粒子20外部と連通する。なお、油脂が前駆体粒子20から抜けるメカニズムは後で述べる。
図1の(5)は、溶剤除去工程後のラテックスの一実施形態を示す断面模式図である。この(5)の図は、上記(4)における前駆体粒子20から炭化水素系溶剤7を除去した状態を示す。その結果、シェル6の内部に中空部8を有するラテックス粒子100Aを含む、ラテックス100Bが得られる。ラテックス100Bから水系媒体1を除き、得られたラテックス粒子100Aの中空部を気体で置換することにより、中空樹脂粒子が得られる。
以下、上記5つの工程及びその他の工程について、順に説明する。
【0027】
(1)混合液調製工程
本工程は、(A)モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、(B)架橋性単量体、(C)油溶性重合開始剤、(D)油脂、(E)炭化水素系溶剤、(F)懸濁安定剤、及び(G)水系媒体を含む混合液を調製する工程である。
【0028】
(A)モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体
本開示において単量体とは、重合可能な官能基を1つ有する化合物のことを意味する。単量体としては、モノビニル単量体のみを用いてもよいし、親水性単量体のみを用いてもよいし、モノビニル単量体と親水性単量体を併用してもよい。単量体の重合によりポリマー又はオリゴマーが生成する。なお、本開示において、「モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体」には、特に断りが無い限り、後述の「架橋性単量体」は含まれないものとする。また、本開示においては、「モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体」を「(A)単量体」と記載する場合がある。
【0029】
本開示においてモノビニル単量体とは、重合可能なビニル官能基を1つ有する化合物であり、かつ後述する親水性単量体以外の化合物のことを意味する。
本開示において、モノビニル単量体としては、例えば、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1つのアクリル系モノビニル単量体;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のモノオレフィン単量体;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド単量体及びその誘導体;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン単量体;ビニルピリジン単量体;等が挙げられる。モノビニル単量体は、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1つのアクリル系モノビニル単量体であってもよい。
アクリル系モノビニル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。本開示において(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの各々を意味する。
上記アクリル系モノビニル単量体のうち、好適には、アクリル酸ブチル及びメタクリル酸メチルからなる群より選ばれる少なくとも1つを使用する。
これらのモノビニル単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
本開示において親水性単量体とは水に可溶な化合物を意味し、より具体的には水への溶解度が1質量%以上の化合物を意味する。親水性単量体を重合に供することにより、特に、得られるラテックス中の凝集物を少なく抑えられる点で好ましい。
本開示において、親水性単量体としては、例えば、酸基含有単量体、ヒドロキシル基含有単量体、アミド基含有単量体、ポリオキシエチレン基含有単量体等が挙げられる。
本開示における酸基含有単量体は、酸基を含む単量体を意味する。ここでいう酸基とは、プロトン供与基(ブレンステッド酸基)、電子対受容基(ルイス酸基)のいずれも含む。親水性単量体として酸基含有単量体を用いる場合には、耐熱性が高い中空樹脂粒子が得られる点で好ましい。
酸基含有単量体は、酸基を有していれば特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸単量体;イタコン酸モノエチル、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチルなどの不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステルなどのカルボキシル基含有単量体、ならびにスチレンスルホン酸などのスルホン酸基含有単量体等が挙げられる。酸基含有単量体の中でも、好適にはエチレン性不飽和カルボン酸単量体が、より好適にはアクリル酸及びメタクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1つのアクリル系親水性単量体並びにマレイン酸単量体が、さらに好適にはアクリル系親水性単量体が使用される。アクリル系親水性単量体((メタ)アクリル酸)と上述したアクリル系モノビニル単量体((メタ)アクリレート)とを併用する場合、好適な質量比は、(メタ)アクリル酸:(メタ)アクリレート=100:0~30:70であり、より好適な質量比は、(メタ)アクリル酸:(メタ)アクリレート=95:5~35:65である。このように、(メタ)アクリル酸及び上述した(メタ)アクリレートのような比較的高温条件に強い単量体を併用することにより、例えばニトリル基等を有する単量体を使用する場合と比較して、得られる中空樹脂粒子の耐熱性を高めることができる。なお、本開示において(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸の各々を意味する。
親水性単量体としてヒドロキシル基含有単量体を用いる場合には、得られるラテックス中の凝集物を少なく抑えられる点で好ましい。ヒドロキシル基含有単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート単量体、2-ヒドロキシエチルメタクリレート単量体、2-ヒドロキシプロピルアクリレート単量体、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート単量体、4-ヒドロキシブチルアクリレート単量体等が挙げられる。
アミド基含有単量体としては、例えば、アクリルアミド単量体、ジメチルアクリルアミド単量体等が挙げられる。
ポリオキシエチレン基含有単量体としては、例えば、メトキシポリエチレングリコールアクリレート単量体、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート単量体等が挙げられる。
これらの親水性単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
第1の製造方法においては、1又は2以上のモノビニル単量体、及び1又は2以上の親水性単量体を併用してもよい。理由は以下の通りである。
図6A~
図6Cに、従来の中空樹脂粒子の製造工程の各段階を示す。
図6Aはコア樹脂粒子61の模式図である。
図6Bはコアシェル樹脂粒子200Bの断面模式図である。
図6Cは中空樹脂粒子200Cの断面模式図である。
従来においては、内部にアルカリ膨潤物質を含むコア樹脂粒子61を形成し(
図6A)、そのコア樹脂粒子61の外側にシェル62を形成していた(
図6B)。塩基の添加によるコア樹脂粒子61の膨潤を利用し、中空部64、中空コア63、及びシェル62を含む三層の中空樹脂粒子200Cが製造されていた(
図6C)。しかし、この方法により製造される中空樹脂粒子の空隙率は、55%以下と低い。
第1の製造方法の好適な実施形態において、モノビニル単量体と親水性単量体を併用することにより、後述する塩基添加工程において中空樹脂粒子のシェルを膨潤させ、炭化水素系溶剤の除去を容易にし、得られる中空樹脂粒子の空隙率を従来よりも向上させることができる。
【0032】
前記材料(A)~(F)の総質量を100質量%としたとき、(A)単量体の質量割合は、好適には5~50質量%であり、より好適には10~40質量%である。(A)単量体の前記質量割合が5~50質量%であることにより、得られるラテックス中の中空樹脂粒子の中空を維持できる程度に当該中空樹脂粒子の機械的特性を従来よりも向上させることができると共に、当該中空樹脂粒子の空隙率を従来よりも向上させることができる。
【0033】
1又は2以上の前記モノビニル単量体、及び1又は2以上の前記親水性単量体の総質量を100質量%としたとき、1又は2以上の前記親水性単量体の総質量割合は、好適には10~50質量%であり、より好適には15~40質量%である。1又は2以上の親水性単量体の前記総質量割合が10~50質量%であることにより、後述する塩基添加工程において粒子中に塩基が浸透し易くなることが多く、粒子中の中空部が速やかに形成されやすくなり、さらに前記モノビニル単量体及び親水性単量体による共重合反応が安定して進行しやすい。
【0034】
(B)架橋性単量体
本開示において架橋性単量体とは、重合可能な官能基を2つ以上有する化合物のことを意味する。架橋性単量体を用いることにより、得られる中空樹脂粒子シェルの機械的特性を高めることができる。また、重合可能な官能基を複数有するため、上述した(A)単量体同士を連結することができ、特に親水性単量体(その中でも特に酸基含有単量体)が中空樹脂粒子外部に溶出することを抑えることができ、かつ得られる中空樹脂粒子の耐熱性を高めることができる。
架橋性単量体としては、重合可能な官能基を2つ以上有していれば特に制限されない。架橋性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、このうちジビニルベンゼン及びエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0035】
(A)単量体及び(B)架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、(B)架橋性単量体の含有量は、好適には1~59質量部であり、より好適には3~57質量部であり、さらに好適には5~55質量部である。(B)架橋性単量体の前記含有量が1~59質量部であれば、得られる中空樹脂粒子がへこむおそれがないため当該中空樹脂粒子の空隙率を高く維持することができ、かつ当該中空樹脂粒子中に炭化水素系溶剤が多く残留するおそれも少ない。
なお、混合液には、(A)単量体及び(B)架橋性単量体の他に、他の重合可能な単量体が含まれていてもよい。
【0036】
(C)油溶性重合開始剤
本開示においては、水溶性重合開始剤を用いる乳化重合法ではなく、油溶性重合開始剤を用いる懸濁重合法を採用する。懸濁重合法を採用する利点については、「(2)懸濁液調製工程」において詳述する。
油溶性重合開始剤は、水に対する溶解度が0.2質量%以下の親油性のものであれば特に制限されない。油溶性重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t一ブチルペルオキシド一2-エチルヘキサノエート、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0037】
(A)単量体及び(B)架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、(C)油溶性重合開始剤の含有量は、好適には0.1~10質量部であり、より好適には0.5~7質量部であり、さらに好適には1~5質量部である。油溶性重合開始剤の前記含有量が0.1~10質量部であることにより、重合反応を十分進行させ、かつ重合反応終了後に油溶性重合開始剤が残存するおそれが小さく、予期せぬ副反応が進行するおそれも小さい。
【0038】
(D)油脂
本開示における油脂としては、水に対する溶解度が0.2質量%以下の親油性のものであれば特に制限されず、植物油、動物油、合成油のいずれも使用することができる。
図1の(3)に示すように、油脂13は、その極性にもよるが、その全部又は一部がシェル6中に偏在する。この状態の前駆体粒子20を含む前駆体組成物に塩基を添加することによって、油脂13がけん化(加水分解)される結果、油脂13を構成していた脂肪酸とグリセリンが外部の水系媒体1に溶出し、シェル欠陥14が形成される(
図1の(4))。これによって、前駆体粒子20の内部と外部とが連通する。
さらに、油脂13のけん化(加水分解)によって、油脂13が占めていた体積が減る分、得られる中空樹脂粒子の空隙率が向上する。油脂の種類や添加量を調節することにより、中空樹脂粒子の空隙率を制御することができる。
【0039】
油脂としては、リノール油、ラード油、オリーブ油、ヤシ油、ヒマシ油、綿実油等を例示することができる。
【0040】
(A)単量体及び(B)架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、(D)油脂の含有量は、好適には1~20質量部であり、より好適には2~15質量部であり、さらに好適には5~12質量部である。油脂の前記含有量が1~20質量部であることにより、得られるラテックス中の中空樹脂粒子中に適度な数のシェル欠陥を形成することができ、その結果、当該中空樹脂粒子中の炭化水素系溶剤の除去が進行しやすくなるとと共に、中空を維持できる程度に当該中空樹脂粒子の機械的特性を向上させることができる。
【0041】
(E)炭化水素系溶剤
本開示における炭化水素系溶剤は、粒子内部に中空部を形成する働きを有する。
後述する懸濁液調製工程において、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液が得られる。懸濁液調製工程においては、モノマー液滴において相分離が発生する結果、極性の低い炭化水素系溶剤がモノマー液滴の内部に集まりやすくなる。最終的に、モノマー液滴においては、その内部に炭化水素系溶剤が、その周縁に炭化水素系溶剤以外の他の材料が各自の極性に従って分布することとなる。
そして、後述する重合工程において、炭化水素系溶剤を内包した前駆体粒子を含む前駆体組成物が得られる。すなわち、炭化水素系溶剤が粒子内部に集まることにより、得られる前駆体粒子の内部には、炭化水素系溶剤からなる中空部が形成されることとなる。
さらに親水性単量体(好適には酸基含有単量体)を用いた場合には、後述する塩基添加工程において、シェル中の親水性単量体単位(好適には酸基含有単量体単位)を含む部分が膨潤することにより炭化水素系溶剤の除去が容易になる。
【0042】
炭化水素系溶剤の種類は、特に限定されない。炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、二硫化炭素、四塩化炭素等の比較的揮発性が高い溶剤が挙げられる。
【0043】
本開示に使用される炭化水素系溶剤は、20℃における比誘電率が3以下であることが好ましい。比誘電率は、化合物の極性の高さを示す指標の1つである。炭化水素系溶剤の比誘電率が3以下と十分に小さい場合には、モノマー液滴中で相分離が速やかに進行し、中空が形成されやすいと考えられる。
20℃における比誘電率が3以下の溶剤の例は、以下の通りである。カッコ内は比誘電率の値である。
ヘプタン(1.9)、シクロヘキサン(2.0)、ベンゼン(2.3)、トルエン(2.4)。
20℃における比誘電率に関しては、公知の文献(例えば、日本化学会編「化学便覧基礎編」、改訂4版、丸善株式会社、平成5年9月30日発行、II-498~II-503ページ)に記載の値、及びその他の技術情報を参照できる。20℃における比誘電率の測定方法としては、例えば、JISC 2101:1999の23に準拠し、かつ測定温度を20℃として実施される比誘電率試験等が挙げられる。
【0044】
本開示に使用される炭化水素系溶剤は、炭素数5~7の炭化水素化合物であってもよい。炭素数5~7の炭化水素化合物は、重合工程時に前駆体粒子中に容易に内包され、かつ溶剤除去工程時に前駆体粒子中から容易に除去することができる。中でも、炭化水素系溶剤は、炭素数6の炭化水素化合物であることが好ましい。
【0045】
(A)単量体及び(B)架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、(D)炭化水素系溶剤の含有量は、好適には100~900質量部であり、より好適には150~700質量部であり、さらに好適には200~500質量部である。(D)炭化水素系溶剤の前記含有量が100~900質量部であることにより、得られるラテックス中の中空樹脂粒子の空隙率が従来よりも高くなるとと共に、中空を維持できる程度に当該中空樹脂粒子の機械的特性を向上させることができる。
【0046】
(F)懸濁安定剤
懸濁安定剤は、後述する懸濁重合法における懸濁液中の懸濁状態を安定化させる剤である。
懸濁安定剤は、界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤は、後述する懸濁重合法において、モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、架橋性単量体、油溶性重合開始剤、油脂、並びに炭化水素系溶剤を内包するミセルを形成する材料である。
界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれも用いることができ、それらを組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、陰イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤が好ましく、陰イオン性界面活性剤がより好ましい。
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等が挙げられる。
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
懸濁安定剤は、難水溶性無機化合物や水溶性高分子等を含有していてもよい。
【0047】
(A)単量体、(B)架橋性単量体、(C)油溶性重合開始剤、及び(E)炭化水素系溶剤の総質量を100質量部としたとき、(F)懸濁安定剤の含有量は、好適には0.1~3質量部であり、より好適には0.2~2質量部であり、さらに好適には0.3~1質量部である。(F)懸濁安定剤の前記含有量が0.1質量部以上の場合には、水系媒体中にミセルを形成しやすい。一方、(F)懸濁安定剤の前記含有量が3質量部以下の場合には、炭化水素系溶剤を除去する工程において発泡が増加し生産性の低下が起きにくい。
【0048】
(G)水系媒体
本開示において水系媒体とは、水、親水性溶媒、及び、水と親水性溶媒との混合物からなる群より選ばれる媒体を意味する。
本開示における親水性溶媒は、水と十分に混ざり合い相分離を起こさないものであれば特に制限されない。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン(THF);ジメチルスルフォキシド(DMSO)等が挙げられる。
水系媒体の中でも、その極性の高さから、水を用いることが好ましい。水と親水性溶媒の混合物を用いる場合には、モノマー液滴を形成する観点から、当該混合物全体の極性が低くなりすぎないことが重要である。この場合、例えば、水と親水性溶媒との混合比(質量比)を、水:親水性溶媒=99:1~50:50等としてもよい。
【0049】
(H)その他
本工程で調製される混合液は、前記材料(A)~(G)を単に混合し、適宜攪拌等をした状態の組成物である。当該混合液においては、上記材料(A)~(E)を含む油相が、水系媒体中において、粒径数mm程度の大きさで分散している。混合液におけるこれら材料の分散状態は、材料の種類によっては、肉眼でも観察が可能である。
【0050】
混合液調製工程は、(A)単量体、(B)架橋性単量体、(C)油溶性重合開始剤、(D)油脂及び(E)炭化水素系溶剤を含む油相と、(F)懸濁安定剤及び(G)水系媒体を含む水相と、を混合する工程であってもよい。このように油相と水相を予め別に調製した上で、これらを混合することにより、シェル部分の組成が均一な中空樹脂粒子を製造することができる。
【0051】
(2)懸濁液調製工程
本工程は、上述した混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程である。
本工程で調製される懸濁液においては、上記材料(A)~(E)を含みかつ0.1μm~9.0μm程度の粒径を持つモノマー液滴が、水系媒体中に均一に分散している。このようなモノマー液滴は肉眼では観察が難しく、例えば光学顕微鏡等の公知の観察機器により観察できる。
【0052】
上述したように、本開示においては、乳化重合法ではなく懸濁重合法を採用する。そこで以下、乳化重合法と対比しながら、懸濁重合法及び油溶性重合開始剤を用いる利点について説明する。
図5は、乳化重合用の分散液を示す模式図である。
図5中のミセル60は、その断面を模式的に示すものとする。
図5には、水系媒体51中に、ミセル60、ミセル前駆体60a、溶媒中に溶出した単量体53a、及び水溶性重合開始剤54が分散している様子が示されている。ミセル60は、油溶性の単量体組成物53の周囲を、界面活性剤52が取り囲むことにより構成される。単量体組成物53中には、重合体の原料となる単量体等が含まれるが、重合開始剤は含まれない。
一方、ミセル前駆体60aは、界面活性剤52の集合体ではあるものの、その内部に十分な量の単量体組成物53を含んでいない。ミセル前駆体60aは、溶媒中に溶出した単量体53aを内部に取り込んだり、他のミセル60等から単量体組成物53の一部を調達したりすることにより、ミセル60へと成長する。
水溶性重合開始剤54は、水系媒体51中を拡散しつつ、ミセル60やミセル前駆体60aの内部に侵入し、これらの内部の油滴の成長を促す。したがって、乳化重合法においては、各ミセル60は水系媒体51中に単分散しているものの、ミセル60の粒径は数百nmまで成長することが予測される。
【0053】
図3は、本工程における懸濁液の一実施形態を示す模式図である。
図3中のミセル10は、その断面を模式的に示すものとする。なお、
図3はあくまで模式図であり、本開示における懸濁液は、必ずしも
図3に示すものに限定されない。
図3の一部は、上述した
図1の(2)に対応する。
図3には、水系媒体1中に、ミセル10及び水系媒体中に分散した単量体4a((A)単量体及び(B)架橋性単量体を含む。)が分散している様子が示されている。ミセル10は、油溶性の単量体組成物4の周囲を、界面活性剤3が取り囲むことにより構成される。単量体組成物4中には油溶性重合開始剤5、並びに、単量体((A)単量体及び(B)架橋性単量体を含む。)及び炭化水素系溶剤(いずれも図示せず)が含まれる。
図3に示すように、本工程においては、ミセル10の内部に単量体組成物4を含む微小油滴を予め形成した上で、油溶性重合開始剤5により、重合開始ラジカルが微小油滴中で発生する。したがって、微小油滴を成長させ過ぎることなく、目的とする粒径の前駆体粒子を製造することができる。
また、懸濁重合(
図3)と乳化重合(
図5)とを比較すると分かるように、懸濁重合(
図3)においては、油溶性重合開始剤5が、水系媒体1中に分散した単量体4aと接触する機会は存在しない。したがって、油溶性重合開始剤を使用することにより、目的とする中空部を持つラテックス粒子の他に、余分なポリマー粒子が生成することを防止できる。
【0054】
本工程の一実施態様を以下に示す。なお、本開示は以下の実施態様に限定されるものではない。
上記材料(A)~(G)を含む混合液を懸濁し、モノマー液滴を形成する。モノマー液滴形成の方法は特に限定されないが、例えば、(インライン型)乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)、高速乳化分散機(プライミクス株式会社製、商品名:T.K.ホモミクサー MARK II型)等の強攪拌が可能な装置を用いて行う。
上述したように、本工程においては、モノマー液滴中に相分離が生じるため、極性の低い炭化水素系溶剤がモノマー液滴の内部に集まりやすくなる。その結果、得られるモノマー液滴は、その内部に炭化水素系溶剤が、その周縁に炭化水素系溶剤以外の材料が分布することとなる。
【0055】
(3)重合工程
本工程は、上述した懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を持ちかつ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程である。ここで、前駆体粒子とは、主に上述した(A)単量体と(B)架橋性単量体との共重合により形成される粒子である。
重合方式に特に限定はなく、例えば、回分式(バッチ式)、半連続式、連続式等が採用できる。重合温度は、好ましくは40~80℃であり、更に好ましくは50~70℃である。また、重合の反応時間は好ましくは1~20時間であり、更に好ましくは2~15時間である。
炭化水素系溶剤を内部に含むモノマー液滴を用いるため、上述したように、前駆体粒子の内部には、炭化水素系溶剤を含む中空が形成される。
【0056】
(4)塩基添加工程
本工程は、第1の製造方法においてのみ実施される。
本工程は、上述した前駆体組成物に塩基を添加することにより、当該前駆体組成物のpHを6.0以上とする工程である。塩基の添加は、前駆体粒子の中空部を占める炭化水素系溶剤を除去する契機となる。
本開示の第1の製造方法において、塩基は少なくとも2つの機能を担う。第1の機能は、塩基が前駆体粒子のシェルと反応することにより、当該シェル中の親水性単量体単位(好適には酸基含有単量体単位)を含む部分を膨潤させることである。第2の機能は、塩基が前駆体粒子のシェル中の油脂と反応することにより、油脂をけん化(加水分解)しシェル欠陥を形成することである。これらの機能はいずれも、前駆体組成物に含まれる前駆体粒子の中空部を占める炭化水素系溶剤を除去するきっかけを作り、当該前駆体内部における中空部の形成を促すと共に、当該中空部を拡張しうる。
【0057】
本工程において使用される塩基は、プロトン受容性化合物(ブレンステッド塩基)、電子対供与性化合物(ルイス塩基)のいずれも含む。
塩基は特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア;ジメチルアミン、ジエタノールアミン等のアミン化合物;炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等のアルカリ金属(重)炭酸塩;炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム等の(重)炭酸アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属の水酸化物が好ましい。
【0058】
本工程で塩基を添加した後の前駆体組成物のpHは、通常6.0以上であり、好適には6.5以上であり、より好適には7.0以上であり、さらに好適には7.5以上であり、よりさらに好適には8.0以上である。
前駆体組成物がpH6.0以上の場合には、前駆体粒子中の油脂を十分けん化(加水分解)することができ、かつ、十分にアルカリ膨潤を進行させることができる。
塩基の添加量は、前駆体粒子のシェル中の酸基の少なくとも一部を中和することにより、得られる前駆体組成物がpH6.0以上となる量であることが好ましい。
【0059】
前駆体組成物に塩基を添加して、前駆体粒子のシェル中の親水性単量体単位(好適には酸基含有単量体単位)を含む部分を膨潤させるためには、塩基が前駆体組成物中に十分拡散することが必要である。したがって、塩基を添加した後、攪拌を十分に行うことが望ましい。塩基添加後の処理時間は、通常15分~60分程度である。塩基の添加により前駆体組成物の安定性が低下することがあるが、これを防ぐために、塩基を添加する前に、アニオン界面活性剤や非イオン界面活性剤を単独で又は併せて前駆体組成物に添加してもよい。
【0060】
次の溶剤除去工程を実施することにより、ラテックスが得られる。当該ラテックスのpHは、更に酸又は塩基を添加等しない限り、本工程における前駆体組成物のpHと同じである。従って、得られるラテックスのpHは、好適には6.0以上であり、より好適には6.5以上であり、さらに好適には7.0以上であり、よりさらに好適には7.5以上であり、特に好適には8.0以上である。
【0061】
(5)溶剤除去工程
本工程は、前駆体組成物中の前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去する工程である。この工程の実施により、中空部を持つラテックス粒子を含有するラテックスが得られる。
炭化水素系溶剤を除去する際、炭化水素系溶剤を気体や他の液体(例えば、ラテックス粒子が懸濁している水系媒体)で置換することができ、かかる気体や他の液体を適宜選択することで、得られるラテックス粒子内部の環境を変えたり、ラテックス粒子から中空樹脂粒子を製造したりすることができる。
【0062】
前記の通りの炭化水素系溶剤を用いた場合、得られた前駆体組成物に対して、例えば、減圧処理、蒸留処理、スチームストリップ処理、及び気体バブリング処理、又はこれらの処理を2以上併用することにより、前駆体粒子の中空部から炭化水素系溶剤を容易に除去することができる。また、中空部を占める炭化水素系溶剤を水又は水系媒体に容易に置換することができ、中空部を水又は水系媒体が占めるラテックス粒子を含むラテックスを得ることができる。
【0063】
(6)その他
上記(1)~(5)以外の工程としては、例えば、炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物、又は前駆体粒子に含まれる炭化水素系溶剤を水又は水系媒体と置換して得られるラテックス粒子を含むラテックスを、適宜乾燥処理する工程が挙げられる。この工程により、前駆体粒子の内部を気体(例えば空気や不活性ガス等)により置換することができ、その結果、中空樹脂粒子を製造することができる。乾燥処理の工程には、前駆体粒子を含む前駆体組成物、又はラテックス粒子を含むラテックスを用いることが好ましい。
【0064】
(7)ラテックス
上記のようにして得られるラテックスの特性は、特に限定されない。ラテックスは、例えば、感熱紙の断熱層の形成に用いることができる。
得られるラテックスに含まれるラテックス粒子の個数平均粒径は、好適には0.1~10μm、より好適には0.5~8μm、さらに好適には1~6μm、よりさらに好適には1.5~5μm、特に好適には2~4μmである。当該個数平均粒径は、例えば、フロー式粒子像分析装置等によりラテックスに含まれるラテックス粒子1,000~10,000個の粒径を測定し、その個数平均を算出することにより求めることができる。
得られるラテックスに含まれるラテックス粒子の空隙率は、好適には70%以上、より好適には72%以上、さらに好適には74%以上、よりさらに好適には78%以上、特に好適には80%以上、より特に好適には82%以上である。粒子の強度を維持する観点から、ラテックス粒子の空隙率は、99%以下であってもよく、95%以下であってもよい。当該空隙率は、透過型電子顕微鏡によりラテックスに含まれるラテックス粒子200個それぞれについて最大粒径および空隙の最大径を測定し、当該測定結果から得られる空隙率を単純平均することにより求めることができる。
ラテックスを乾燥処理することにより、中空樹脂粒子が得られる。
【0065】
(8)中空樹脂粒子
中空樹脂粒子の特性は、特に限定されない。中空樹脂粒子の物性としては、個数平均粒径、形状及び空隙率が挙げられる。中空樹脂粒子の評価項目としては、中空樹脂粒子が含有する揮発性有機化合物量、及び中空樹脂粒子の耐熱性等が挙げられる。
ア.中空樹脂粒子の個数平均粒径
中空樹脂粒子の個数平均粒径は、好適には0.1~10μm、より好適には0.5~8μm、さらに好適には1~6μm、よりさらに好適には1.5~5μm、特に好適には2~4μmである。
中空樹脂粒子の個数平均粒径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置により、粒度分布を測定し、その個数平均を算出することにより求めることができる。
【0066】
中空樹脂粒子の個数平均粒径の変動係数は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置により、個数基準の粒度分布を測定し、その標準偏差を個数平均粒径で除することにより求めることができる。
本開示の第1の製造方法においては、シェルを膨張させずに中空を形成するため、このように比較的個数平均粒径の変動係数が小さい中空樹脂粒子(すなわち、粒度分布がシャープである中空樹脂粒子)が得られる。そして、中空樹脂粒子の粒度分布がシャープであるほど、中空樹脂粒子を含む塗膜を平坦に形成することができる。
【0067】
イ.中空樹脂粒子の形状
中空樹脂粒子の形状は、内部に中空部が形成されていれば特に限定されず、例えば、球形、楕円球形、不定形等が挙げられる。これらの中でも、製造の容易さから球形が好ましい。
粒子内部は、1又は2以上の中空部を有していてもよく、多孔質状となっていてもよい。粒子内部は、中空樹脂粒子の高い空隙率と、中空樹脂粒子の機械強度との良好なバランスを維持するために、中空部を1つのみ有するものが好ましい。
中空樹脂粒子は、平均円形度が、0.950~0.995であってもよい。
中空樹脂粒子の形状のイメージの一例は、薄い皮膜からなりかつ気体で膨らんだ袋であり、その断面図は、後述する
図2の(5)中の中空樹脂粒子100Cの通りである。この例においては、外側に薄い1枚の皮膜が設けられ、その内部が気体で満たされる。
粒子形状は、例えば、SEMやTEMにより確認することができる。また、粒子内部の形状は、粒子を公知の方法で輪切りにした後、SEMやTEMにより確認することができる。
【0068】
ウ.中空樹脂粒子の空隙率
中空樹脂粒子の空隙率は、好適には70%以上、より好適には72%以上、さらに好適には74%以上、よりさらに好適には78%以上、特に好適には80%以上、より特に好適には82%以上である。粒子の強度を維持する観点から、中空樹脂粒子の空隙率は、99%以下であってもよく、95%以下であってもよい。
【0069】
中空樹脂粒子の空隙率(%)は、中空樹脂粒子の見かけ密度D1と真密度D0により、下記式(I)により算出される。
式(I)
空隙率(%)=100-(見かけ密度D1/真密度D0)×100
中空樹脂粒子の見かけ密度D1の測定法は以下の通りである。まず、容量100cm3のメスフラスコに約30cm3の中空樹脂粒子を充填し、充填した中空樹脂粒子の質量を精確に秤量する。次に、中空樹脂粒子の充填されたメスフラスコに、気泡が入らないように注意しながら、イソプロパノールを標線まで精確に満たす。メスフラスコに加えたイソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(II)に基づき、中空樹脂粒子の見かけ密度D1(g/cm3)を計算する。
式(II)
見かけ密度D1=[中空樹脂粒子の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重])
見かけ密度D1は、中空部が中空樹脂粒子の一部であるとみなした場合の、中空樹脂粒子全体の比重に相当する。
【0070】
中空樹脂粒子の真密度D0の測定法は以下の通りである。中空樹脂粒子を予め粉砕した後、容量100cm3のメスフラスコに中空樹脂粒子の粉砕片を約10g充填し、充填した粉砕片の質量を精確に秤量する。あとは、上記見かけ密度の測定と同様にイソプロパノールをメスフラスコに加え、イソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(III)に基づき、中空樹脂粒子の真密度D0(g/cm3)を計算する。
式(III)
真密度D0=[中空樹脂粒子の粉砕片の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重])
真密度D0は、中空樹脂粒子のうちシェル部分のみの比重に相当する。上記測定方法から明らかなように、真密度D0の算出に当たっては、中空部は中空樹脂粒子の一部とはみなされない。
中空樹脂粒子の空隙率は、中空樹脂粒子の比重において中空部が占める割合であると言い替えることができる。
【0071】
エ.中空樹脂粒子が含有する揮発性有機化合物量
本開示の中空樹脂粒子が含有する揮発性有機化合物量は、通常5質量%以下、好適には4質量%以下、より好適には3質量%以下、さらに好適には2質量%以下、よりさらに好適には1質量%以下、特に好適には1質量%未満である。
本開示において「中空樹脂粒子が含有する揮発性有機化合物」とは、中空樹脂粒子に含まれる有機化合物の中で、沸点が400℃以下の有機化合物を指す。揮発性有機化合物の典型例は、後述する製造方法において使用される炭化水素系溶剤や、未反応の単量体等が挙げられるが、必ずしもこれらの典型例のみに限定されるものではない。
中空樹脂粒子が含有する揮発性有機化合物量の測定法は以下の通りである。30mLねじ口付きガラス瓶に、中空樹脂粒子約100mgを入れ、精確に秤量する。続いてテトラヒドロフラン(THF)を約10g入れ、精確に秤量する。ガラス瓶中の混合物を、スターラーにより1時間攪拌して、中空樹脂粒子が含有する揮発性有機化合物を抽出する。攪拌を停止し、THFに不溶な中空樹脂粒子の樹脂成分を沈殿させたのち、フィルター(アドバンテック社製、商品名:メンブランフィルター25JP020AN)を注射筒に装着して沈殿物をろ過したサンプル液を得、そのサンプル液をガスクロマトグラフィー(GC)に注入して分析する。中空樹脂粒子の単位質量あたりの揮発性有機化合物量(質量%)を、GCのピーク面積と予め作成した検量線から求める。詳細な分析条件は以下の通りである。
【0072】
(分析条件)
装置:GC-2010(株式会社島津製作所製)
カラム:DB-5(アジレント・テクノロジー株式会社製)
df=0.25μm 0.25mm I.D. ×30m
検出器:FID
キャリアガス:窒素(線速度:28.8cm/sec)
注入口温度:200℃
検出器温度:250℃
オーブン温度:40℃から10℃/分の速度で230℃まで上昇させ、230℃で2分保持する。
サンプリング量:2μL
【0073】
オ.中空樹脂粒子の耐熱性
本開示の中空樹脂粒子は、高温条件下においてもその外形及び内部形状が崩れにくいため、中空を維持することができる。
耐熱性の指標としては、例えば、中空樹脂粒子における熱処理前後の密度変化率dが考えられる。
密度変化率dの算出方法は以下の通りである。まず、200℃に設定した電気炉中に中空樹脂粒子を10分間静置し、熱処理を行う。次に、電気炉から取り出した中空樹脂粒子について、上記見かけ密度D1の測定法と同様の方法により、見かけ密度を測定する。
熱処理後の中空樹脂粒子の見かけ密度をDa、熱処理前の中空樹脂粒子の見かけ密度をDb(=上記見かけ密度D1)とするとき、下記式(IV)に基づき、密度変化率d(%)を計算する。
式(IV)
d={|Da-Db|/Db}×100
密度変化率dが小さいほど、熱処理が中空樹脂粒子に及ぼす影響が小さいこと、すなわち、その中空樹脂粒子の耐熱性が高いことを意味する。
【0074】
カ.中空樹脂粒子の用途
中空樹脂粒子の用途としては、例えば、感熱紙のアンダーコート材等が考えられる。一般的に、アンダーコート材には断熱性、緩衝性(クッション性)が要求され、これに加えて感熱紙用途に即した耐熱性も要求される。本開示の中空樹脂粒子は、その高い空隙率、潰れにくい中空形状、比較的小さい個数平均粒径、及び高い耐熱性により、これらの要求に応えることができる。
また、中空樹脂粒子は、例えば、光沢、隠ぺい力等に優れたプラスチックピグメントとして有用である。また、内部に香料、薬品、農薬、インキ成分等の有用成分を浸漬処理、減圧または加圧浸漬処理等の手段により封入して得られる中空樹脂粒子は、内部に含まれる成分に応じて各種用途に利用することができる。
【0075】
2.第2の製造方法
本開示の製造方法は、(1)混合液調製工程、(2)懸濁液調製工程、(3)重合工程、(4)固液分離工程、及び(5)溶剤除去工程を含む。本開示の製造方法の工程は、これら5つのみに限定されない。
図2は、本開示の第2の製造方法の一例を示す模式図である。
図2中の(1)~(5)は、上記各工程(1)~(5)に対応する。各図の間の白矢印は、各工程の順序を指示するものである。
図2の(1)及び(2)は、
図1の(1)又は(2)にそれぞれ対応する。また、
図2の(3)は、シェル6中に油脂13を含まないこと以外は、
図1の(3)に対応する。
図2の(4)は、固液分離工程後の前駆体粒子の一実施形態を示す断面模式図である。この
図2の(4)は、上記
図2の(3)の状態から水系媒体1を分離した状態を示す。
図2の(5)は、溶剤除去工程後の中空樹脂粒子の一実施形態を示す断面模式図である。この
図2の(5)は、上記
図2の(4)の状態から炭化水素系溶剤7を除去した状態を示す。その結果、シェル6の内部に中空部8を有する中空樹脂粒子100Cが得られる。
以下、上記5つの工程及びその他の工程について、第1の製造方法と異なる点を中心に、順に説明する。
【0076】
(1)混合液調製工程
本工程は、(A)モノビニル単量体及び親水性単量体(ただし、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを除く。)からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、(B)架橋性単量体、(C)油溶性重合開始剤、(E)炭化水素系溶剤、(F)懸濁安定剤、及び(G)水系媒体を含む混合液を調製する工程である。
第2の製造方法においては、上記第1の製造方法のように(D)油脂を用いる必要はない。第2の製造方法においては、混合液が油脂を含まないことが好ましい。
【0077】
第2の製造方法においては、親水性単量体として、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルをいずれも使用しない。なぜなら、熱に弱いニトリル基を含むこれらの単量体は、後述する比較例II-5に示すように耐熱性に劣り、その結果得られる粒子の空隙率が低いためである。
【0078】
第2の製造方法に使用される混合液において、(A)単量体及び(B)架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、(B)架橋性単量体の含有量は、通常25~59質量部であり、好適には28~58質量部であり、より好適には30~57質量部であり、さらに好適には35~55質量部である。(B)架橋性単量体の前記含有量が25~59質量部であれば、得られる中空樹脂粒子がへこむおそれがないため当該中空樹脂粒子の空隙率を高く維持することができ、かつ当該中空樹脂粒子中に炭化水素系溶剤が多く残留するおそれも少ない。
なお、混合液には、(A)単量体及び(B)架橋性単量体の他に、他の重合可能な単量体が含まれていてもよい。
【0079】
混合液調製工程は、前記モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、架橋性単量体、油溶性重合開始剤、及び炭化水素系溶剤を含み、かつ前記モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体並びに架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、架橋性単量体の含有量が25~59質量部である油相と、前記懸濁安定剤及び水系媒体を含む水相と、を混合する工程であってもよい。このように油相と水相を予め別に調製した上で、これらを混合することにより、シェル部分の組成が均一な中空樹脂粒子を製造することができる。
【0080】
(2)懸濁液調製工程及び(3)重合工程
第2の製造方法におけるこれら2つの工程は、第1の製造方法の場合と特に異ならない。
【0081】
(4)固液分離工程
本工程は、上述した前駆体組成物を固液分離することにより前駆体粒子を得る工程である。
後述する比較例II-3に示すように、水系媒体を含むスラリー中で、前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去する場合、前駆体粒子中から抜けた炭化水素系溶剤と同体積の水が粒子内に入らなければ、得られる中空樹脂粒子が潰れるという問題がある。
それを防ぐ方法の1つとしては、上述したように、前駆体組成物を構成するスラリーのpHを6.0以上とした上で、前駆体粒子のシェルをアルカリ膨潤させた後に炭化水素系溶剤を除去する方法(上記第1の製造方法参照)が考えられる。この場合、前駆体粒子のシェルが柔軟性を獲得するため、前駆体粒子内部の炭化水素系溶剤と水との置換が速やかに進行し、水を内包する前駆体粒子が得られる。
これに対し、第2の製造方法においては、重合工程後のスラリーを固液分離した上で、得られる固形分を気中で乾燥する。この場合、前駆体粒子内部から抜けた炭化水素系溶剤と同体積の空気が容易に粒子内に入り込むため、中空形状を保った中空樹脂粒子が得られる。そして、炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子は、水を内包する前駆体粒子よりも潰れにくい傾向にある。
【0082】
炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子が水を内包する前駆体粒子よりも潰れにくい理由は、未だ明らかではない。しかし、シェルを構成するポリマーの自由体積を考慮した場合、以下のようなメカニズムが推定される。
H.Eyringらによって提唱された液体の構造を説明する模型において、液体は、分子と、自由体積(すなわち、分子が存在しない空間)とからなるとされる。この自由体積は、液体中において分子程度の大きさの空孔の集まりからなり、通常の温度と圧力の下では、約3%程度の自由体積が液体中を占めるとされる。この模型は、ポリマー等の規則性を有する分子を含む固体構造にも適用できる。
本開示においては、前駆体粒子のシェルを構成するポリマーの極性は一般的に高い。したがって、水はポリマーと馴染みやすく、水分子はポリマーの自由体積に取り込まれ易いと考えられる。換言すると、水分子のポリマーに対する溶解度係数は高い。一方、炭化水素系溶剤は、その低い極性のためポリマーと馴染みにくい。換言すると、炭化水素系溶剤分子のポリマーに対する溶解度係数は低い。その結果、炭化水素系溶剤分子は、ポリマーの自由体積に取り込まれにくい。
したがって、水を内包する粒子においては、水分子がシェルを構成するポリマーの自由体積に取り込まれるため、シェル中に分子が存在しない空間が減る結果、シェル中の気体透過性が低下し、乾燥時の水の蒸発に伴う空気の流入が進行しにくくなり、粒子が潰れやすくなる。これに対し、炭化水素系溶剤を内包する粒子においては、炭化水素系溶剤分子がポリマーの自由体積に取り込まれにくいため、シェル中の気体透過性が比較的高く保たれる結果、溶剤除去工程において炭化水素系溶剤と空気との置換が速やかに進行し、中空部を維持した中空樹脂粒子が生成される。
【0083】
前駆体組成物を固液分離する方法は、前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去することなく、前駆体粒子を含む固形分と、水系媒体を含む液体分を分離する方法であれば特に限定されず、公知の方法を用いることができる。固液分離の方法としては、例えば、遠心分離法、ろ過法、静置分離等が挙げられ、この中でも遠心分離法又はろ過法であってもよく、操作の簡便性の観点から遠心分離法を採用してもよい。
固液分離工程後、後述する溶剤除去工程を実施する前に、予備乾燥工程等の任意の工程を実施してもよい。予備乾燥工程としては、例えば、固液分離工程後に得られた固形分を、乾燥機等の乾燥装置や、ハンドドライヤー等の乾燥器具により予備乾燥する工程が挙げられる。
【0084】
(5)溶剤除去工程
本工程は、前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を気中にて除去することにより中空樹脂粒子を得る工程である。
【0085】
本工程における「気中」とは、厳密には、前駆体粒子の外部に液体分が全く存在しない環境下、及び、前駆体粒子の外部に、炭化水素系溶剤の除去に影響しない程度のごく微量の液体分しか存在しない環境下を意味する。「気中」とは、前駆体粒子がスラリー中に存在しない状態と言い替えることもできるし、前駆体粒子が乾燥粉末中に存在する状態と言い替えることもできる。すなわち、本工程においては、前駆体粒子が外部の気体と直に接する環境下で炭化水素系溶剤を除去することが重要である。
【0086】
後述する実施例II-1~実施例II-4に示すように、溶剤除去工程時の真空乾燥後、常圧に戻した後の中空樹脂粒子が球形を維持していることは、シェル自体の気体透過性が比較的高いことの証拠であると考えられる。
一般的に、ナイロンやエチレンビニルアルコール(EVOH)等は、高湿度下で気体透過性が向上することが知られている。これは、水分子によりこれらのポリマーが可塑化される結果、ポリマーの運動性が高くなるためと理解されている。しかし、本開示の中空樹脂粒子、特に第2の製造方法により得られる中空樹脂粒子は架橋度が高いと考えられるため、水系媒体の作用による可塑化の影響は小さいと推測される。したがって、本開示において中空樹脂粒子のシェルが気体透過性を有することは、シェルを構成するポリマー固有の性質によるものと考えられる。
【0087】
前駆体粒子中の炭化水素系溶剤を気中にて除去する方法は、特に限定されず、公知の方法が採用できる。当該方法としては、例えば、減圧乾燥法、加熱乾燥法、気流乾燥法又はこれらの方法の併用が挙げられる。
特に、加熱乾燥法を用いる場合には、加熱温度は炭化水素系溶剤の沸点以上、かつ前駆体粒子のシェル構造が崩れない最高温度以下とする必要がある。したがって、前駆体粒子中のシェルの組成と炭化水素系溶剤の種類によるが、例えば、加熱温度を50~200℃としてもよく、70~180℃としてもよく、100~150℃としてもよい。
気中における乾燥操作によって、前駆体粒子内部の炭化水素系溶剤が、外部の気体により置換される結果、中空部を気体が占める中空樹脂粒子が得られる。
【0088】
乾燥雰囲気は特に限定されず、中空樹脂粒子の用途によって適宜選択することができる。乾燥雰囲気としては、例えば、空気、酸素、窒素、アルゴン等が考えられる。また、いったん気体により中空樹脂粒子内部を満たした後、減圧乾燥することにより、一時的に内部が真空である中空樹脂粒子も得られる。
【0089】
(6)その他
上記(1)~(5)以外の工程としては、例えば、中空樹脂粒子内部の気体を、他の気体や液体により置換する工程が考えられる。このような置換により、中空樹脂粒子内部の環境を変えたり、中空樹脂粒子内部に選択的に分子を閉じ込めたり、用途に合わせて中空樹脂粒子内部の化学構造を修飾したりすることができる。
上述した第1の製造方法に関する記載は、支障のない限りにおいて、第2の製造方法に適用することができる。また、第2の製造方法に関する記載も、支障のない限りにおいて、上述した第1の製造方法に適用することができる。
【実施例0090】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は、特に断りのない限り質量基準である。
本実施例及び比較例において行った試験方法は以下のとおりである。
【0091】
<実施例シリーズI>
I-1.中空樹脂粒子含有ラテックスの製造
[実施例I-1]
(1)混合液調製工程
下記材料を、水系媒体としてのイオン交換水325部を加えた攪拌装置付き耐圧容器に添加し、容器中の内容物を攪拌し、イオン交換水中に下記材料を分散させることにより、混合液を調製した。
・陰イオン性界面活性剤 0.3部
・アクリル酸ブチル(BA) 6部
・メタクリル酸メチル(MMA) 15部
・メタクリル酸(MAA、親水性単量体(酸基含有単量体)) 9部
・シクロヘキサン 100部
・リノール油 3部
・ジビニルベンゼン 2部
・2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(油溶性重合開始剤、和光純薬社製、商品名:V-65) 0.63部
【0092】
(2)懸濁液調製工程
前記混合液を、乳化分散機により攪拌して懸濁させ、シクロヘキサンを含むモノマー液滴が水中に分散した懸濁液を調製した。
【0093】
(3)重合工程
前記懸濁液を、陰イオン性界面活性剤0.6部を添加した反応容器に入れ、65℃に昇温した後、65℃の温度条件を3時間維持し、重合反応を行った。この重合反応により、シクロヘキサンを内包した前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製した。その後、反応容器を室温まで冷却した。
【0094】
(4)塩基添加工程
冷却後の前記前駆体組成物に、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を、反応容器中の混合物のpHが7.0となるまで反応容器に添加した。なお、前記水酸化ナトリウム水溶液の添加は、前記前駆体組成物を上記インライン型乳化分散機により攪拌しながら行った。
【0095】
(5)溶剤除去工程
前記塩基添加工程を経た前駆体組成物100質量部に対し、さらに消泡剤を0.1~0.5質量部の範囲内で添加し、窒素を流速6min/Lで吹きこみながら、70℃で6時間維持し、前駆体粒子からシクロヘキサンを除去することにより、ラテックス(実施例I-1)を得た。透過型電子顕微鏡の観察結果より、このラテックスは、中空部を持つラテックス粒子を含有するラテックスであった(以下、同様)。
【0096】
[実施例I-2]
実施例I-1の「(4)塩基添加工程」において、pHを7.0から7.5に変更したこと以外は、実施例I-1と同様の製造方法により、ラテックス(実施例I-2)を得た。
【0097】
[実施例I-3]
実施例I-1の「(4)塩基添加工程」において、pHを7.0から8.5に変更したこと以外は、実施例I-1と同様の製造方法により、ラテックス(実施例I-3)を得た。
【0098】
[比較例I-1]
実施例I-1の「(4)塩基添加工程」を実施しなかったこと以外は、実施例I-1と同様の製造方法により、ラテックス(比較例I-1)を得た。なお、当該ラテックスに含まれる粒子は、中空部を持つラテックス粒子ではなかった。
【0099】
[比較例I-2]
実施例I-1の「(4)塩基添加工程」において、pHを7.0から5.0に変更したこと以外は、実施例I-1と同様の製造方法により、ラテックス(比較例I-2)を得た。なお、当該ラテックスに含まれる粒子は、中空部を持つラテックス粒子ではなかった。
【0100】
[比較例I-3]
実施例I-1の「(1)分散液調製工程」において、ジビニルベンゼンを加えなかったこと以外は、実施例I-1と同様の製造方法により、ラテックス(比較例I-3)を得た。なお、当該ラテックスに含まれる粒子は、中空部を持つラテックス粒子ではなかった。
【0101】
[比較例I-4]
実施例I-1の「(1)分散液調製工程」において、メタクリル酸(MAA、親水性単量体(酸基含有単量体))を加えなかったこと以外は、実施例1と同様の製造方法により、ラテックス(比較例I-4)を得た。なお、当該ラテックスに含まれる粒子は、中空部を持つラテックス粒子ではなかった。
【0102】
[比較例I-5]
実施例I-1の「(1)分散液調製工程」において、リノール油を加えなかったこと以外は、実施例I-1と同様の製造方法により、ラテックス(比較例I-5)を得た。なお、当該ラテックスに含まれる粒子は、中空部を持つラテックス粒子ではなかった。
【0103】
I-2.ラテックスの評価
実施例I-1~実施例I-3、及び比較例I-1~比較例I-5の各ラテックスに含まれるラテックス粒子について、空隙率及び個数平均粒径の測定を行った。詳細は以下の通りである。
【0104】
(1)中空部を持つラテックス粒子の空隙率
透過型電子顕微鏡(商品名「H-7500」、日立製作所社製)により、実施例I-1~実施例I-3のラテックスに含まれる、中空部を持つラテックス粒子200個それぞれについて、最大粒径と、中空部の最大径とを測定した。これら2つの測定値を用いて、下記式(A)により各ラテックス粒子の空隙率を求め、これを単純平均した値をラテックス粒子の空隙率とした。
式(A)
空隙率(%)={(中空部の最大径)3/(最大粒径)3}×100
なお、比較例I-1~比較例I-5のラテックスに含まれるラテックス粒子については中空部が観察されなかったため、空隙率の計算は行わなかった。
【0105】
(2)ラテックス粒子の個数平均粒径
測定時に3,000~10,000個/μLとなるようにラテックス中のラテックス粒子濃度を調整した上で、粒子1,000~10,000個についてフロー式粒子像分析装置(商品名「FPIA-3000」、シスメックス社製)を用いてラテックス粒子の粒径を測定し、その個数平均を算出し、得られた値をそのラテックス粒子の個数平均粒径とした。
【0106】
実施例I-1~実施例I-3、及び比較例I-1~比較例I-5の各ラテックスの測定及び評価結果を下記表1に示す。なお上述したように、比較例I-1~比較例I-5のラテックスに含まれるラテックス粒子については中空部が観察されなかったため、下記表I-1にはこれらのラテックス粒子の空隙率は記載していない。
【0107】
【0108】
I-3.考察
以下、表I-1を参照しながら、ラテックスの評価結果について検討する。
表I-1より、比較例I-1のラテックス中に含まれるラテックス粒子は、個数平均粒径が4.1μmであり、かつ中空部を持たない。したがって、前駆体組成物に塩基を添加しなければ、中空部を持たないラテックス粒子が得られることが分かる。これは、塩基を添加しない場合、前駆体粒子のシェル中の親水性単量体単位を含む部分がアルカリ膨潤、及び、油脂の溶出を起こさないためと考えられる。
【0109】
表I-1より、比較例I-2のラテックス中に含まれるラテックス粒子は、個数平均粒径が4.0μmであり、かつ中空部を持たない。したがって、前駆体組成物に塩基を添加したとしても、前駆体組成物がpH6.0以上でなければ、中空部を持たないラテックス粒子が得られることが分かる。これは、前駆体組成物がpH6.0以上とならない場合、前駆体粒子のシェル中の親水性単量体単位を含む部分のアルカリ膨潤が不十分であるためと考えられる。
【0110】
表I-1より、比較例I-3のラテックス中に含まれるラテックス粒子は、シェルが溶解し凝集してしまったため個数平均粒径を測定することができず、かつ中空部を持たない。したがって、架橋性単量体を用いない場合、中空部を持たないラテックス粒子が得られることが分かる。これは、塩基の添加により前駆体粒子のシェル中の親水性単量体単位を含む部分がアルカリ膨潤を起こすが、架橋性単量体がなければ当該部分が水系媒体中に溶け出してしまう結果、中空部を維持できず前駆体粒子が潰れるためと考えられる。
【0111】
表I-1より、比較例I-4のラテックス中に含まれるラテックス粒子は、個数平均粒径が4.4μmであり、かつ中空部を持たない。したがって、親水性単量体を用いない場合、中空部を持たないラテックス粒子が得られることが分かる。これは、親水性単量体を用いない場合、得られる前駆体粒子が塩基により膨潤を起こさないためと考えられる。
【0112】
表I-1より、比較例I-5のラテックス中に含まれるラテックス粒子は、個数平均粒径が4.3μmであり、かつ中空部を持たない。したがって、油脂を用いない場合、中空部を持たないラテックス粒子が得られることが分かる。これは、油脂を用いない場合、前駆体粒子のシェルに欠陥が生じないため、溶剤除去工程において内包する炭化水素系溶剤が除去できないためと考えられる。
【0113】
一方、表I-1より、実施例I-1~実施例I-3のラテックス中に含まれるラテックス粒子は、その個数平均粒径が4.3~4.4μmであり、かつその空隙率がいずれも80%である。
したがって、混合液、懸濁液、前駆体組成物を順に調製し、得られた前駆体組成物に塩基を添加し、前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去することにより、従来よりも空隙率の高いラテックス粒子を含むラテックスを効率よく製造できることが実証された。なお、このラテックスについて乾燥工程を実施することにより、中空樹脂粒子が得られた。
【0114】
<実施例シリーズII>
II-1.中空樹脂粒子の製造
[実施例II-1]
(1)混合液調製工程
まず、下記材料(a1)~(d1)を混合した。得られた混合物を油相とした。
(a1)メタクリル酸 41部
(b)エチレングリコールジメタクリレート 59部
(c)2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(油溶性重合開始剤、和光純薬社製、商品名:V-65) 3部
(e1)シクロヘキサン 300部
次に、(g)イオン交換水800部に、(f)界面活性剤3部を加えた。得られた混合物を水相とした。
水相と油相を混合することにより、混合液を調製した。
【0115】
(2)懸濁液調製工程
前記混合液を、乳化分散機により攪拌して懸濁させ、シクロヘキサンを含むモノマー液滴が水中に分散した懸濁液を調製した。
【0116】
(3)重合工程
前記懸濁液を、窒素雰囲気で65℃の温度条件下で4時間攪拌し、重合反応を行った。この重合反応により、シクロヘキサンを内包した前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製した。
【0117】
(4)固液分離工程
得られた前駆体組成物につき、冷却高速遠心機(コクサン社製、商品名:H-9R)により、ローターMN1、回転数3000rpm、遠心分離時間20分間の条件で遠心分離を行い、固形分を脱水した。脱水後の固形分を乾燥機にて40℃の温度で乾燥させ、シクロヘキサンを内包した前駆体粒子を得た。
【0118】
(5)溶剤除去工程
前駆体粒子を、真空乾燥機にて、気中、150℃、15時間加熱処理することで、実施例II-1の樹脂粒子を得た。走査型電子顕微鏡の観察結果及び空隙率の値から、この樹脂粒子が球状であり、かつ中空部を1つのみ有することを確認した。
【0119】
[実施例II-2]
実施例II-1の「(1)混合液調製工程」において、表II-1に示す材料及び添加量を採用したこと以外は、実施例II-1と同様の製造方法により、実施例II-2の樹脂粒子を得た。走査型電子顕微鏡の観察結果及び空隙率の値から、この樹脂粒子が球状であり、かつ中空部を1つのみ有することを確認した。
【0120】
[実施例II-3]
実施例II-1の「(1)混合液調製工程」において、表II-1に示す材料及び添加量を採用し、かつ「(4)固液分離工程」においてろ過を採用したこと以外は、実施例II-1と同様の製造方法により、実施例II-3の樹脂粒子を得た。走査型電子顕微鏡の観察結果及び空隙率の値から、この樹脂粒子が球状であり、かつ中空部を1つのみ有することを確認した。
なお、実施例II-3におけるろ過を用いた固液分離工程は以下の通りである。重合工程により得られた前駆体組成物につき、加圧ろ過器(アドバンテック東洋社製、商品名:KST-90-UH)及び定性ろ紙(アドバンテック東洋社製、No.2)を用いて、圧力0.29MPaの条件で固形分を脱水した。脱水後の固形分を乾燥機にて40℃の温度で乾燥させ、シクロヘキサンを内包した前駆体粒子を得た。
【0121】
[実施例II-4]
実施例II-1の「(1)混合液調製工程」において、表II-1に示す材料及び添加量を採用したこと以外は、実施例II-1と同様の製造方法により、実施例II-4の樹脂粒子を得た。走査型電子顕微鏡の観察結果及び空隙率の値から、この樹脂粒子が球状であり、かつ中空部を1つのみ有することを確認した。
【0122】
[比較例II-1]
実施例II-1の「(1)混合液調製工程」において、表II-1に示す材料及び添加量を採用したこと以外は、実施例II-1と同様の製造方法により、比較例II-1の樹脂粒子を得た。この樹脂粒子において揮発性有機化合物量が30質量%であることから、樹脂粒子中に炭化水素系溶剤が多く残っていることが確認された。また、この樹脂粒子については真密度の測定ができなかった。走査型電子顕微鏡の観察結果より、これらの樹脂粒子が球状であることを確認した。
【0123】
[比較例II-2]
実施例II-3の「(1)混合液調製工程」において、表II-1に示す材料及び添加量を採用したこと以外は、実施例II-3と同様の製造方法により、比較例II-2の樹脂粒子を得た。走査型電子顕微鏡の観察結果より、これらの樹脂粒子が潰れており、不定形であることを確認した。
【0124】
[比較例II-3]
実施例II-1の「(1)混合液調製工程」において、表II-1に示す材料及び添加量を採用したこと以外は、実施例II-1と同様の「(2)懸濁液調製工程」及び「(3)重合工程」により、シクロヘキサンを内包した前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製した。その後、前駆体組成物中に消泡剤を0.3部添加し、窒素を流速6min/Lで吹きこみながら、90℃で15時間維持し、前駆体粒子からシクロヘキサンを除去した。
得られた前駆体粒子を、常圧の乾燥機にて40℃で、24時間加熱処理することにより、水分を完全に除去し、比較例II-3の樹脂粒子を得た。走査型電子顕微鏡の観察結果より、これらの樹脂粒子が潰れており、不定形であることを確認した。
【0125】
[比較例II-4]
実施例II-1の「(1)混合液調製工程」において、表II-1に示す材料及び添加量を採用したこと以外は、実施例II-1と同様の製造方法により、比較例II-4の樹脂粒子を得た。これらの樹脂粒子において揮発性有機化合物量が55質量%であることから、樹脂粒子中に炭化水素系溶剤が多く残っていることが確認された。また、これらの樹脂粒子については真密度の測定ができなかった。走査型電子顕微鏡の観察結果より、これらの樹脂粒子が球状であることを確認した。
【0126】
[比較例II-5]
まず、下記材料(a2)、(α1)、(α2)、(c)及び(e2)を混合した。得られた混合物を油相とした。
(a2)メタクリル酸メチル 5部
(α1)アクリロニトリル 60部
(α2)メタクリロニトリル 35部
(c)アゾビスイソブチロニトリル 5部
(e2)イソペンタン 30部
次に、(g)イオン交換水600部に、(y)コロイダルシリカ分散液(平均粒径5nm、コロイダルシリカ有効濃度20質量%)200部を加えた。得られた混合物を水相とした。
水相と油相を混合することにより、混合液を調製した。
【0127】
前記混合液を、分散機(プライミクス社製、商品名:ホモミクサー)により、回転数4,000rpmの条件下で1分間攪拌して懸濁させた。得られた懸濁液を、60℃の温度条件下で10時間攪拌し、重合反応を行った。
【0128】
重合反応終了後の懸濁液をろ過し、得られた固形分を乾燥機にて40℃で乾燥し、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
得られた熱膨張性マイクロカプセル100部を、乾燥機にて、気中、180℃、3分間加熱処理することで、比較例II-5の樹脂粒子(中空樹脂粒子)を得た。
【0129】
II-2.樹脂粒子の測定及び評価
実施例II-1~実施例II-4、及び比較例II-1~比較例II-5の各樹脂粒子について、以下の測定及び評価を行った。詳細は以下の通りである。
【0130】
(1)樹脂粒子の個数平均粒径の測定、及び変動係数の算出
レーザー回析式粒度分布測定器(島津製作所(株)製、商品名:SALD-2000)を用いて各樹脂粒子の粒径を測定し、その個数平均を算出し、得られた値をその樹脂粒子の個数平均粒径とした。
変動係数は、上記の測定で得られた個数基準の粒径の標準偏差を、個数平均粒径で除した値とした。
【0131】
(2)粒子形状の観察
図4Aは、実施例II-1の中空樹脂粒子のSEM画像である。
図4Bは、実施例II-1の中空樹脂粒子の断面のSEM画像である。
SEM観察条件は以下の通りである。
・走査型電子顕微鏡:
JEOL社製、型番:JSM-7610F(
図4A)
日立製、型番:S-4700(
図4B)
・加速電圧:5.0kV(
図4A、
図4B)
・倍率:3,000倍(
図4A)、2,500倍(
図4B)
これらの図により、実施例II-1の粒子内部が中空であること、及び内部が中空であるにもかかわらず潰れずに球形状を維持していることが確認できる。
【0132】
(3)樹脂粒子の密度の測定、及び空隙率の算出
ア.樹脂粒子の見かけ密度の測定
まず、容量100cm3のメスフラスコに約30cm3の樹脂粒子を充填し、充填した樹脂粒子の質量を精確に秤量した。次に、樹脂粒子の充填されたメスフラスコに、気泡が入らないように注意しながら、イソプロパノールを標線まで精確に満たした。メスフラスコに加えたイソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(II)に基づき、樹脂粒子の見かけ密度D1(g/cm3)を計算した。
式(II)
見かけ密度D1=[樹脂粒子の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重])
【0133】
イ.樹脂粒子の真密度の測定
予め樹脂粒子を粉砕した後、容量100cm3のメスフラスコに樹脂粒子の粉砕片を約10g充填し、充填した粉砕片の質量を精確に秤量した。
あとは、上記見かけ密度の測定と同様にイソプロパノールをメスフラスコに加え、イソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(III)に基づき、樹脂粒子の真密度D0(g/cm3)を計算した。
式(III)
真密度D0=[樹脂粒子の粉砕片の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重])
【0134】
ウ.空隙率の算出
中空樹脂粒子の見かけ密度D1と真密度D0により、下記式(I)により算出されるものを、その中空樹脂粒子の空隙率(%)とした。
式(I)
空隙率(%)=100-(見かけ密度D1/真密度D0)×100
【0135】
(4)中空樹脂粒子が含有する揮発性有機化合物量
中空樹脂粒子が含有する揮発性有機化合物量の測定法は以下の通りである。30mLねじ口付きガラス瓶に、中空樹脂粒子約100mgを入れ、精確に秤量した。続いてテトラヒドロフラン(THF)を約10g入れ、精確に秤量した。ガラス瓶中の混合物を、スターラーにより1時間攪拌して、粒子内部に残留する炭化水素系溶剤を抽出した。攪拌を停止し、THFに不溶な中空樹脂粒子の樹脂成分を沈殿させたのち、フィルター(アドバンテック社製、商品名:メンブランフィルター25JP020AN)を注射筒に装着して沈殿物をろ過したサンプル液を得、そのサンプル液をガスクロマトグラフィー(GC)に注入して分析した。中空樹脂粒子の単位質量あたりの揮発性有機化合物量(質量%)を、GCのピーク面積と予め作成した検量線から求めた。詳細な分析条件は以下の通りである。
【0136】
(分析条件)
装置:GC-2010(株式会社島津製作所製)
カラム:DB-5(アジレント・テクノロジー株式会社製)
df=0.25μm 0.25mm I.D. ×30m
検出器:FID
キャリアガス:窒素(線速度:28.8cm/sec)
注入口温度:200℃
検出器温度:250℃
オーブン温度:40℃から10℃/分の速度で230℃まで上昇させ、230℃で2分保持した。
サンプリング量:2μL
【0137】
(5)樹脂粒子の耐熱性評価
まず、200℃に設定した電気炉中に、樹脂粒子を10分間静置し、熱処理を行った。次に、電気炉から取り出した樹脂粒子について、上記「(3)樹脂粒子の密度の測定、及び空隙率の算出」と同様の方法により見かけ密度を測定した。
熱処理後の樹脂粒子の見かけ密度をDa、熱処理前の樹脂粒子の見かけ密度をDbとしたとき、下記式(IV)に基づき、密度変化率d(%)を計算した。
式(IV)
d={|Da-Db|/Db}×100
密度変化率dが小さいほど、熱処理が樹脂粒子に及ぼす影響が小さいこと、すなわち、その樹脂粒子の耐熱性が高いことを意味する。
【0138】
実施例II-1~実施例II-4及び比較例II-1~比較例II-5の各樹脂粒子の測定及び評価結果を下記表II-1に示す。なお、表II-1中、「<1」の記載は、揮発性有機化合物量が1質量%未満であることを示す。
【0139】
【0140】
II-3.考察
以下、表II-1を参照しながら、各樹脂粒子の評価結果について検討する。
表II-1より、比較例II-1の樹脂粒子は球形である。しかし、残留炭化水素が30%と多く、粒子内部の溶剤除去が十分に出来ておらず、目的とする中空樹脂粒子が得られなかった。モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、並びに架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、架橋性単量体の添加量が65質量部と多いため、架橋度が高く、シクロヘキサンが透過しにくくなったと考えられる。比較例II-1の製造方法では、溶剤除去工程に長い時間が必要とされるため、生産性が低いといえる。
【0141】
表II-1より、比較例II-2の樹脂粒子は潰れており、不定形である。モノビニル単量体及び親水性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、並びに架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、架橋性単量体の添加量が20質量部と少ないため架橋度が低く、その結果、シクロヘキサン除去時に粒子内部が一時的に負圧になることに耐えられるようなシェルの強度を有していないと考えられる。
【0142】
表II-1より、比較例II-3の樹脂粒子は潰れており、不定形である。空隙率は33%と低いものしか得られなかった。したがって、固液分離を行わずに、粒子中に内包されるシクロヘキサンを水系媒体中にて除去しようとすると、樹脂粒子が潰れてしまうことが分かる。その理由は以下の通りに推測される。まず、水系媒体中にてシクロヘキサンを除去しようとすると、シクロヘキサンと入れ替わりに粒子外部の水分子が粒子内部に入り込む他、さらに水分子が粒子シェルを構成するポリマーの自由体積を埋めてしまうと考えられる。したがって、ポリマー内部における気体の透過性が低下する結果、続く溶剤除去工程において、水分子が粒子外部へ逃げた分に相当する空気が粒子内部に入り込まないため、中空部が維持できずに樹脂粒子が潰れてしまうと考えられる。
【0143】
表II-1より、比較例II-4の樹脂粒子は球形である。しかし、揮発性有機化合物量が55質量%と多く、粒子内部の溶剤除去が十分に出来ておらず、目的とする中空樹脂粒子が得られなかった。架橋性単量体のみを単量体として使用したため、架橋度が高く、シクロヘキサンが透過しにくくなったためと考えられる。比較例II-4の製造方法では、溶剤除去工程に長い時間が必要とされるため、生産性が低いといえる。
【0144】
表II-1より、比較例II-5の樹脂粒子は、熱処理後の密度変化率dが87%であり、今回実験した樹脂粒子の中で密度変化率dが最も高い。したがって、架橋性単量体を使用せず、かつアクリロニトリル及びメタクリロニトリルを、合計で、単量体全体の95質量%使用した場合には、熱処理により樹脂粒子の空隙率が急激に低下することが分かる。これは、樹脂粒子のシェルに耐熱性を付与する架橋性単量体を使用せず、その代わりに熱に弱いアクリロニトリル及びメタクリロニトリルを多く使用したため、得られる樹脂粒子が耐熱性に劣る結果となったと考えられる。
【0145】
一方、表II-1より、実施例II-1~実施例II-4の中空樹脂粒子は、いずれも揮発性有機化合物量が1質量%未満と少なく、球形であり、空隙率は75%以上と高く、熱処理後の密度変化率dは5%以下と低い。
したがって、上述した材料を用い、混合液、懸濁液、前駆体組成物を順に調製し、得られた前駆体組成物を固液分離した後、前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去することにより、従来よりも空隙率が高くかつ優れた耐熱性を有する中空樹脂粒子を、高い生産性で製造できることが実証された。
前記材料(A)である単量体及び前記材料(B)である架橋性単量体の総質量を100質量部としたとき、前記材料(E)である炭化水素系溶剤が200質量部以上であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。