(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072206
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】ジヒドロキシ化合物、エポキシ樹脂、その製造方法、及びエポキシ樹脂組成物並びに硬化物
(51)【国際特許分類】
C07D 209/48 20060101AFI20230517BHJP
C08G 59/62 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C07D209/48
C08G59/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184593
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】梶 正史
(72)【発明者】
【氏名】スレスタ ニランジャン
(72)【発明者】
【氏名】大神 浩一郎
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036AA05
4J036AD19
4J036DA01
4J036DB10
4J036DB11
4J036JA07
4J036JA08
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】良好な成形性を有し、かつ耐熱性、低熱膨張性、耐湿性等にも優れた硬化物を得ることができ、積層、成形、注型、接着等の用途に有用なエポキシ樹脂及びジヒドロキシ化合物を提供することにある。
【解決手段】 下記一般式(2)、
【化1】
(ここで、Xは、単結合、-CH2-、-O-、-CO-、-SO2-、-C(CF3)2-を示し、Aは置換基を有していてもよいナフチレン基を示す。nは0~50の数を表す。)
で表されることを特徴とするエポキシ樹脂。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、
【化1】
(ここで、Xは、単結合、-CH2-、-O-、-CO-、-SO2-、-C(CF3)2-を示し、Aは置換基を有していてもよいナフチレン基を示す。)
で表されることを特徴とするジヒドロキシ化合物。
【請求項2】
下記一般式(2)、
【化2】
(ここで、AおよびXは、式(1)と同義であり、nは0~50の数を表す。)
で表されることを特徴とするエポキシ樹脂。
【請求項3】
請求項1に記載のジヒドロキシ化合物とエピクロルヒドリンを反応させることを特徴とする請求項2に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項4】
エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物において、硬化剤成分として請求項1に記載のジヒドロキシ化合物を配合することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂成分として請求項2に記載のエポキシ樹脂を配合することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項4または5に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性に優れるとともに、耐熱性、低熱膨張性、耐湿性等にも優れた硬化物を与えるジヒドロキシ化合物、エポキシ樹脂、及びそれらを用いたエポキシ樹脂組成物並びにその硬化物に関するものであり、プリント配線板、半導体封止等の電気電子分野の絶縁材料、炭素繊維複合材料等の分野で好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
近年、特に先端材料分野の進歩にともない、より高性能なベース樹脂の開発が求められており、耐熱性、耐湿性等の機能向上に加えて、環境面および安全性向上の観点から、難燃性に優れた樹脂の開発が求められている。また、エポキシ樹脂組成物を調整する際の溶剤溶解性等の取扱性の向上も重要な課題となっている。
【0003】
しかしながら、これまで知られているエポキシ樹脂には、これらの要求を十分に満足するものは未だ知られていない。例えば、特許文献1にはフェノールアラルキル樹脂から得られるエポキシ樹脂が提案されているが、耐熱性、耐湿性の点で十分ではなかった。特許文献2にはスーパーエンプラのユニットであるエーテルエーテルケトン基を持つエポキシ樹脂が提案されているが、成形性に難があるとともに、依然、耐熱性が十分ではなかった。特許文献3には、イミド環を有するビスフェノール化合物を硬化剤としたエポキシ樹脂組成物が提案されているが、イソプロピリデン構造を含むため、耐熱性の点で十分ではなかった。特許文献4には、イミド基を有するビスフェノール系エポキシ化合物が開示されているが、やはりイソプロピリデン構造を含むことから耐熱性が不足していた。特許文献5には、特定のビスイミドフェノール誘導体が提案されているが、エポキシ樹脂とした際の溶剤溶解性および硬化剤との相溶性が依然として悪く、エポキシ樹脂組成物の調整が困難であるとともに、熱分解安定性等の耐熱性が十分ではなかった。特許文献6には、イミド骨格を含むエポキシ樹脂が提案されているが、溶剤溶解性を確保するためにビスフェノール類が共重合された構造であるため、依然、熱分解安定性等の耐熱性が十分ではなかった。非特許文献1には、N,N’-ビス(5-ヒドロキシ-1-ナフチル)ピロメリットジイミドから得られるエポキシ樹脂が提案されているが、ピロメリットイミド基の高い剛直性により、依然、溶剤溶解性や硬化剤との相溶性に課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-238122号公報
【特許文献2】特開2012-46615号公報
【特許文献3】特開平4-328121号公報
【特許文献4】特開平4-36753号公報
【特許文献5】特開2011-173827号公報
【特許文献6】特開2010-90360号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. Ren, J. Sun, Q. Zhao, Q. Zhou, Qi. Ling, Polymer 49 (2008) 5249-5253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、良好な溶剤溶解性および成形性を有するとともに、優れた耐熱性、耐湿性を発揮する硬化物を得ることができ、積層、成形、注型、接着等の用途に有用なジヒドロキシ化合物およびエポキシ樹脂に加えて、それらの製造方法並びにそれらを用いたエポキシ樹脂組成物、更にはそれらの硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は下記一般式(1)で表される新規なジヒドロキシ化合物である。
【化1】
(ここで、Xは、単結合、-CH2-、-O-、-CO-、-SO2-、-C(CF3)2-を示し、Aは置換基を有していてもよいナフチレン基を示す。)
【0008】
また、本発明は下記一般式(2)で表される新規エポキシ樹脂である。
【化2】
(ここで、AおよびXは、式(1)と同義であり、nは0~50の数を表す。)
【0009】
また、本発明は上記一般式(1)のジヒドロキシ化合物とエピクロルヒドリンを反応させることを特徴とする上記一般式(2)のエポキシ樹脂の製造方法である。
【0010】
さらに、本発明は上記一般式(1)のジヒドロキシ化合物または、上記一般式(2)のエポキシ樹脂をエポキシ樹脂成分中のエポキシ樹脂または、硬化剤成分中の硬化剤の必須成分として配合してなるエポキシ樹脂組成物であり、また、これらのエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のナフタレン及びイミド構造を有するエポキシ樹脂またはジヒドロキシ化合物を必須成分として含むエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は、良好な溶剤溶解性や成形性を有するとともに耐熱性、低熱膨張性、耐湿性等に優れた特長を有し、積層、成形、注型、接着等の用途に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1で得られたエポキシ樹脂AのIRチャートを示す。
【
図2】実施例3で得られたエポキシ樹脂AのIRスペクトルを示す。
【
図3】実施例3で得られたエポキシ樹脂AのH-NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のジヒドロキシ化合物は、一般式(1)で表される。
【化3】
【0014】
ここで、Xは、単結合、-CH2-、-O-、-CO-、-SO2-、-C(CF3)2-を示す。耐熱性の観点からは、単結合、-O-、-CO-が好ましく、溶剤溶解性および成形性の観点からは、-O-、-SO2-、-C(CF3)2-が好ましい。また、Aは置換基を有していてもよいナフチレン基を示す。ナフチレン基は、1,4-置換体、1,5-置換体、1,6-置換体、2,6-置換体、2,7-置換体等が例示されるが、溶剤溶解性および耐熱性の観点から、1,5-置換体が好ましい。すなわち、ナフタレンの1位、5位がヒドロキシ基、イミド基に結合していることが好ましい。また置換基としては、例えばアルキル基である。
【0015】
本発明のジヒドロキシ化合物は、水酸基当量が、好ましくは250~3,000g/eq.、より好ましくは280~1,000g/eq.、さらに好ましくは、290~500の範囲である。また、融点または軟化点が、好ましくは120~350℃、より好ましくは150~300℃の範囲である。
【0016】
また、本発明のエポキシ樹脂は、一般式(2)で表される。
【化4】
ここで、XおよびAは、式(1)と同義である。
【0017】
一般式(2)において、nは繰り返し数であり、0から50の数を表す。繰り返し数の異なる複数の化合物の混合物である場合は、nの平均値(Σn/Σ分子数)が0から50の範囲にあるものである。好ましいnの値又はその平均値は、適用する用途に応じて異なる。例えば、フィラーの高充填率化が要求される半導体封止材の用途には、低粘度であるものが望ましく、nの値又はその平均値は0~15、好ましくは0.1~10.0、さらに好ましくは0.1~5.0のものである。通常のエポキシ樹脂は、nが0の化合物が生成し、次にそれが重合してnが1の化合物が生成するというような逐次反応によって得られることが多いが、本発明においてもこのようなエポキシ樹脂を有利に使用することができる。また、プリント配線板等の用途には、高分子量のエポキシ樹脂が好適に使用され、この場合のnの値は、2~50、好ましくは5~50、更に好ましくは、10~40である。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂の好ましい重量平均分子量は、500~6,000の範囲であり、より好ましくは500~3,000の範囲である。また、好ましいエポキシ当量は、300~3,000の範囲であり、より好ましくは300~2,000の範囲、特に好ましくは400~1,000の範囲である。これより大きいと、粘度および軟化点が高くなり、エポキシ樹脂組成物の調整が困難になるとともに、成形性が低下する。本発明のエポキシ樹脂の好ましい軟化点、または融点は、80~350℃、より好ましくは100~300℃の範囲である。また、加水分解性塩素は好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下である。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂は、特に限定されるものではないが、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物とエピクロルヒドリンを反応させることにより製造することができる。この反応は、通常のエポキシ化反応と同様に行うことができる。
【0020】
例えば、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を過剰のエピクロルヒドリンに溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下に、50~150℃、好ましくは、60~120℃の範囲で1~10時間反応させる方法が挙げられる。この際、アルカリ金属水酸化物の使用量は、ジヒドロキシ化合物中の水酸基1モルに対して0.8~2モル、好ましくは0.9~1.2モルの範囲である。また、エピクロルヒドリンはジヒドロキシ化合物中の水酸基に対して過剰に用いられるが、通常、ジヒドロキシ化合物中の水酸基1モルに対して、1.5~15モル、好ましくは2~8モルの範囲である。また、反応の際、四級アンモニウム塩等を添加することができる。四級アンモニウム塩としては、たとえばテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド等があり、その添加量としては、ジヒドロキシ化合物に対して、0.1~2.0wt%の範囲が好ましい。これより少ないと四級アンモニウム塩添加の効果が小さく、これより多いと難加水分解性塩素の生成が多くなり、高純度化が困難になる。更には、ジメチルスルホキシド、ジグライム等の極性溶媒を用いても良く、その添加量は、ジヒドロキシ化合物に対して、10~200wt%の範囲が好ましい。これより少ないと添加の効果が小さく、これより多いと容積効率が低下し経済上好ましくない。反応終了後、過剰のエピクロルヒドリンを留去し、残留物をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解、濾過した後、水洗して無機塩を除去し、次いで溶剤を留去することにより目的のエポキシ樹脂を得ることができる。
【0021】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂及び硬化剤よりなり、エポキシ樹脂成分として一般式(2)で表されるエポキシ樹脂、または一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を必須成分として配合したものである。
【0022】
一般式(2)で表されるエポキシ樹脂を必須成分とする場合の硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として知られているものはすべて使用できる。例えば、ジシアンジアミド、多価フェノール類、酸無水物類、芳香族及び脂肪族アミン類等がある。具体的に例示すれば、多価フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’-ビフェノール、2,2’-ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類、あるいは、トリス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、ポリビニルフェノール等に代表される3価以上のフェノール類、更にはフェノール類、ナフトール類又は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’-ビフェノール、2,2’-ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類のホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、p-キシリレングリコール等の縮合剤により合成される多価フェノール性化合物、等があり、酸無水物としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル無水ハイミック酸、無水ナジック酸、無水トリメリット酸等がある。また、アミン類としては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン等の芳香族アミン類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族アミン類、あるいは一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物がある。本発明の樹脂組成物には、これら硬化剤の1種又は、2種以上を混合して用いることができる。本発明のジヒドロキシ樹脂を硬化剤として使用する場合、その配合量は、硬化剤全体中、好ましくは5~100wt%の範囲、より好ましくは30~100wt%の範囲である。
【0023】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、一般式(2)で表されるエポキシ樹脂以外に、分子中にエポキシ基を2個以上有する通常のエポキシ樹脂をすべて使用できる。例を挙げれば、ビスフェノールA、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’-ビフェノール、2,2’-ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン等の2価のフェノール類、あるいは、トリス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック等の3価以上のフェノール類、又は、テトラブロモビスフェノールA等のハロゲン化ビスフェノール類から誘導されるグルシジルエーテル化物等がある。これらのエポキシ樹脂は、1種又は、2種以上を混合して用いることができる。この場合、本発明の式(2)で表されるエポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂全体中、好ましくは5~100wt%の範囲、より好ましくは50~100wt%の範囲である。
【0024】
一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を必須成分とする場合のエポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を2個以上有する通常のエポキシ樹脂をすべて使用できる。
【0025】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と共に、上述のとおり、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として知られているものを併用することもできる。
【0026】
エポキシ樹脂と硬化剤の配合比率は、エポキシ基と硬化剤中の官能基が当量比で0.8~1.5の範囲であることが好ましい。この範囲外では硬化後も未反応のエポキシ基、又は硬化剤中の官能基が残留する可能性がある。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂組成物中には、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、石油樹脂、インデンクマロン樹脂、フェノキシ樹脂等のオリゴマー又は高分子化合物を適宜配合してもよいし、無機充填剤、顔料、難然剤、揺変性付与剤、カップリング剤、流動性向上剤、等の添加剤を配合してもよい。無機充填剤としては、例えば、球状あるいは、破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、又はマイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ、等が挙げられ、顔料としては、有機系又は、無機系の体質顔料、鱗片状顔料等がある。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系、等を挙げることができる。
更に必要に応じて、従来より公知の硬化促進剤を用いることができる。例を挙げれば、アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン類、ルイス酸等がある。添加量としては、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.2~5重量部の範囲である。
また更に必要に応じて、本発明の樹脂組成物には、カルナバワックス、OPワックス等の離型剤、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、三酸化アンチモン等の難燃剤、シリコンオイル等の低応力化剤、ステアリン酸カルシウム等の滑剤等を使用できる。
【0028】
本発明の硬化物は、上記エポキシ樹脂組成物を注型、圧縮成形、トランスファー成形等の方法により、成形加工して得ることができる。成形する際の温度は、通常、120~280℃の範囲である。
【実施例0029】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。
実施例1(ジヒドロキシ化合物Aの製造)
セパラブルフラスコに4,4’-オキシジフタル酸二無水物47.5g、5-アミノ-1-ナフトール50.3gをN-メチルピロリドン150mLに溶解し、80℃にて2時間反応させた。反応液にトルエン75mLを加えて昇温しながら、共沸により生成した水を除いた。その後、160℃に昇温し3時間反応を行った。この間、生成する水は系外に除いた。常温に冷却した後、蒸留水750mLを加えて、析出物をろ過により回収した後、水洗、乾燥を行い、粉末状の生成物84.0gを得た(ジヒドロキシ化合物A)。得られたジヒドロキシ化合物Aの融点は211℃であり、水酸基当量は306g/eq.であった。GPC測定から純度は100%であった。赤外吸収スペクトルを
図1に示す。
ここで、融点の測定は、日立ハイテクサイエンス製、DSC7020型示差走査熱量分析装置を用いて行い、昇温速度10℃/分で求めた吸熱のピーク温度を融点とした。水酸基当量は、塩化アセチル溶液中で、水酸化カリウムによる電位差滴定を行うことにより測定した。赤外吸収スペクトルは日本分光製、FT/IR-6100型赤外吸収分析計を用いてKBr錠剤法により測定した。
【0030】
実施例2(ジヒドロキシ化合物Bの製造)
セパラブルフラスコに3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物45.0g、5-アミノ-1-ナフトール50.3gを用いて、実施例1と同様の反応を行い、粉末状の生成物82.8gを得た(ジヒドロキシ化合物B)。得られたジヒドロキシ化合物Bの融点は210℃であり、水酸基当量は296g/eq.であった。GPC測定から純度は100%であった。
【0031】
実施例3(エポキシ樹脂Aの合成)
実施例1で得たジヒドロキシ化合物A20gをエピクロルヒドリン125g及びN-メチルピロリドン75gに溶解し、減圧下(約130mmHg)、65℃にて48.6%水酸化ナトリウム水溶液5.5gを4時間かけて滴下した。この間、生成する水はエピクロルヒドリンとの共沸により系外に除き、留出したエピクロルヒドリンは系内に戻した。反応後、エピクロルヒドリンを減圧留去した後、反応液を大量の蒸留水に滴下した。生成物のろ過、水洗を行った後、乾燥し、黄褐色のエポキシ樹脂19gを得た(エポキシ樹脂A)。得られたエポキシ樹脂の融点は185℃、エポキシ当量は362g/eq.、加水分解性塩素は560ppmであった。GPC測定から一般式(2)のn=0が89%、n=1が9%、であった。ここで、GPC測定は、装置:HLC-8320(東ソー(株)製)及びカラム:TSKgel SuperHZ2500×2本及びTSKgel SuperHZ2000×2本(何れも東ソー(株)製)を用い、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.35ml/分、温度:40℃、検出器:RIの条件で行った。赤外吸収スペクトルを
図2に示す。
ここで、エポキシ当量は、臭化テトラエチルアンモニウムの酢酸溶液中で、過塩素酸による電位差滴定を行うことにより測定した。加水分解性塩素は、樹脂試料0.5gを1,4-ジオキサン30mlに溶解させたものを1N-KOH/メタノール溶液5mlで30分間煮沸還流したものを、硝酸銀溶液で電位差滴定を行うことにより求めた。
1H-NMRの測定は、JEOL RESONANCE製、JNM-ECA600型測定装置を用いて、DMSO-d6を溶媒として行った。測定結果を
図3に示す。
【0032】
実施例4(エポキシ樹脂Bの合成)
実施例2で得たジヒドロキシ化合物B23g、エピクロルヒドリン150g、N-メチルピロリドン75g、48.6%水酸化ナトリウム水溶液6.6gを用いて実施例3と同様に反応を行い、茶白色のエポキシ樹脂22gを得た(エポキシ樹脂B)。得られたエポキシ樹脂の融点は159℃、エポキシ当量は347g/eq.、加水分解性塩素は340ppmであった。GPC測定から一般式(2)のn=0が88%、n=1が11%であった。
【0033】
参考例1(ジヒドロキシ化合物Cの製造)
3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物51.0g、4-アミノ-m-クレゾール42.7gを用いて、実施例1と同様の反応を行い、粉末状の生成物81gを得た(ジヒドロキシ化合物C)。GPC測定から純度は100%であった。
【0034】
参考例2(エポキシ樹脂Cの合成)
参考例1で得たジヒドロキシ化合物C20g、エピクロルヒドリン180g、N-メチルピロリドン90g、48.6%水酸化ナトリウム水溶液6.5gを用いて実施例3と同様に反応を行い、茶白色のエポキシ樹脂34gを得た(エポキシ樹脂C)。得られたエポキシ樹脂の融点は260℃、エポキシ当量は328g/eq.であった。
【0035】
参考例3(ジヒドロキシ化合物Dの製造)
4,4’-オキシジフタル酸二無水物51.0g、4-アミノ-m-クレゾール40.5gを用いて、実施例1と同様の反応を行い、粉末状の生成物77gを得た(ジヒドロキシ化合物D)。GPC測定から純度は100%であった。
【0036】
参考例4(エポキシ樹脂Dの合成)
参考例3で得たジヒドロキシ化合物D15g、エピクロルヒドリン105g、N-メチルピロリドン30g、48.6%水酸化ナトリウム水溶液4.4gを用いて実施例3と同様に反応を行い、茶色のエポキシ樹脂16gを得た(エポキシ樹脂D)。得られたエポキシ樹脂の融点は170℃、エポキシ当量は324g/eq.であった。
【0037】
実施例5~7及び比較例1~3
実施例3および4、参考例3および4で合成したエポキシ樹脂(エポキシ樹脂A~D)、ジフェニルエーテル系エポキシ樹脂(エポキシ樹脂E:日鉄ケミカル&マテリアル製、YSLV-80DE、エポキシ当量163、融点81℃)、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂F;日本化薬製、EOCN-1020、エポキシ当量 200、軟化点55℃)、実施例1で合成したジヒドロキシ化合物(硬化剤A)、フェノールノボラック(硬化剤B;アイカ工業製、BRG-557、水酸基当量104、軟化点83℃)を用い、硬化促進剤として
1636678999873_0
(TMP)を用いて、表1に示す配合で計り取り、180℃にて撹拌混合を行い、樹脂組成物とした。
これを用いて、プレス成形機にて成形(190℃、5分)した後、ポストキュア(175℃、4時間)を行って試験片を得て、種々の物性試験に供した。試験方法は、以下のとおり。結果を表1に示す。
【0038】
[評価]
(1)混練性
表1に示す配合で計り取り、粉体混合したものを180℃にて撹拌混合を行った際の溶融混合状態を観察した。評価は以下のとおり。
〇;エポキシ樹脂および硬化剤が均一に溶融混合した。
△;エポキシ樹脂と硬化剤に僅かに未混合部分が残存した。
×;エポキシ樹脂と硬化剤が均一に溶融せず、未混合部分が残存した。
(2)成形性
樹脂組成物を粉砕し粉体としたものを190℃に加熱した金型に仕込み、プレス成形を行い、成形後の試験片の表面状態を目視にて観察した。評価は以下のとおり。
〇;金型内に未充填部なし。成形物の表面平滑性良好。
△;金型内の四隅に未充填部分あり。成形物の表面に凹凸あり。
×;金型内の全体的に未充填部分あり。成形物全体にボイドが発生し、脆い成形物となった。
(3)線膨張係数、ガラス転移温度
日立ハイテクサイエンス製TMA7100型熱機械測定装置を用いて、昇温速度10℃/分にて測定した。
(4)熱分解温度、残炭率
日立ハイテクサイエンス製TG/DTA7300型熱重量測定装置により、窒素気流下、昇温速度10℃/分の条件にて10wt%重量減少時の熱分解温度及び700℃での残炭率を求めた。
(5)吸水率
直径50mm、厚さ3mmの円盤を成形し、ポストキュア後、85℃、相対湿度85%の条件で100時間吸湿させた後の重量変化率とした。
【0039】