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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072515
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】廃太陽電池の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/40 20220101AFI20230517BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
B09B3/00 303Z
C08J11/12 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185122
(22)【出願日】2021-11-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「太陽光発電の長期安定電源化技術開発/太陽電池モジュールの分離・マテリアルリサイクル技術開発/太陽電池モジュールの低温熱分解法によるリサイクル技術開発」共同研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 丈晴
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
【テーマコード(参考)】
4D004
4F401
【Fターム(参考)】
4D004AA07
4D004AA23
4D004BA05
4D004BA10
4D004CA28
4D004CB01
4D004CB34
4D004CC02
4F401AA16
4F401AA22
4F401AC20
4F401CA31
4F401CA48
4F401CA71
4F401CB14
4F401EA38
(57)【要約】
【課題】効率的に廃太陽電池を処理する方法を提供すること。
【解決手段】樹脂製のバックシートおよび封止用樹脂層を有する太陽電池モジュール(C)を熱分解炉内で加熱することにより、前記太陽電池モジュール(C)に含まれる樹脂成分を溶融して酸化分解させる加熱工程を含む、廃太陽電池を連続的に処理する方法であって、前記加熱工程の際に、前記太陽電池モジュール(C)を、多孔質セラミック支持体(A)上に、多孔質セラミック支持体(A)から離間して載置し、かつ、前記多孔質セラミック支持体(A)を、遷移金属酸化物を担持させた多孔質材料(B)上に積層した状態で、熱風を、多孔質材料(B)側から、多孔質材料(B)および多孔質セラミック支持体(A)内部および太陽電池モジュール(C)と多孔質セラミック支持体(A)との間隙に送気することを特徴とする、廃太陽電池の処理方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のバックシートおよび封止用樹脂層を有する太陽電池モジュール(C)を熱分解炉内で加熱することにより、前記太陽電池モジュール(C)に含まれる樹脂成分を溶融して酸化分解させる加熱工程を含む、廃太陽電池を連続的に処理する方法であって、
前記加熱工程の際に、前記太陽電池モジュール(C)を、多孔質セラミック支持体(A)上に、多孔質セラミック支持体(A)から離間して載置し、かつ、前記多孔質セラミック支持体(A)を、遷移金属酸化物を担持させた多孔質材料(B)上に積層した状態で、熱風を、多孔質材料(B)側から、多孔質材料(B)および多孔質セラミック支持体(A)内部および太陽電池モジュール(C)と多孔質セラミック支持体(A)との間隙に送気することを特徴とする、廃太陽電池の処理方法。
【請求項2】
多孔質セラミック支持体(A)および太陽電池モジュール(C)との間にスペーサー部材を設置する、または、太陽電池モジュール(C)の吊り上げ部材を熱分解炉上部も設置することで、太陽電池モジュール(C)と多孔質セラミック支持体(A)とを離間させることを特徴とする請求項1に記載の、廃太陽電池の処理方法。
【請求項3】
太陽電池モジュール(C)と多孔質セラミック支持体(A)との間隙が、3~50mmの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の廃太陽電池の処理方法。
【請求項4】
多孔質セラミック支持体(A)および多孔質材料(B)の表面のセル数が、5~50pixel per inch(以下「ppi」と略す)の範囲にあることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の廃太陽電池の処理方法。
【請求項5】
太陽電池モジュール(C)の下に落下防止用の網状構造体が設置されてなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の廃太陽電池の処理方法。
【請求項6】
前記加熱工程後に、有価物を回収する、請求項1~5のいずれか1項に記載の廃太陽電池の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃太陽電池の処理方法に関する。より詳細には、太陽電池モジュールからバックシートおよび封止用樹脂層等の樹脂成分の除去、およびガラス、セル、電極に由来する導電性材料およびアルミ枠等の有価物の回収を効率的に行う処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低炭素社会の実現に向け、太陽光発電を始めとした再生可能エネルギーの活用によるCO2削減の加速化が進行しようとしている。太陽光発電の導入が大幅に進む一方で、太陽電池モジュールの廃棄時におけるリサイクルの課題が指摘されている。
【0003】
一般的な太陽電池モジュールの構造は、表面が強化ガラス、内側に封止用樹脂層、裏面がバックシートの3層になっている。封止用樹脂層には、セル同士をつなぐ電線(インタコネクタ)が配線されている。封止用樹脂は、透明性、柔軟性、接着性、引張強度、および耐候性などが要求され、エチレン酢酸ビニル共重合体(以下「EVA」と略す)が一般的に用いられており、加熱および加圧することで強化ガラス、セルおよびバックシートを接着させる役割を果たしている。
この太陽電池モジュールを酸化性雰囲気下で電気炉等により加熱して、EVAを熱分解させることで封止材を除去して、セル部とガラス基板を分離する、太陽電池モジュールをリサイクルする技術が提案されている。
【0004】
本出願人も、太陽電池モジュールから有価物を回収する方法であって、触媒として遷移金属酸化物を担持させた耐熱性材料からなる多孔質成形体の上に前記バックシート面を下側にして太陽電池モジュールを載せて、酸素濃度15%以上の酸化性雰囲気下の加熱炉内で、前記太陽電池モジュールを加熱して樹脂成分を溶融した後、燃焼させる処理方法を提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/031661号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、多孔質成形体の上で、モジュール全体を加熱しようとすると、温度上昇が緩やかであるため、処理時間が長くなるという課題があった。その一方で、処理コストを安くするには、単位時間当たりの処理枚数を多くすることが効率的であり、処理時間の短縮が必要となる。しかしながら、熱分解炉内の温度を高くすることで処理速度を速めようとすると、燃料費など処理コストのアップにつながってしまうという、新たな課題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、多孔質成形体の上で、モジュール全体を加熱する際に、多孔質成形体とモジュールとの間に所定の隙間を設け、多孔質成形体の下部から熱風を送ることで、モジュール全体の温度上昇を早くすることが可能となり、処理速度を向上し、処理時間の短縮化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]樹脂製のバックシートおよび封止用樹脂層を有する太陽電池モジュール(C)を熱分解炉内で加熱することにより、前記太陽電池モジュール(C)に含まれる樹脂成分を溶融して酸化分解させる加熱工程を含む、廃太陽電池を連続的に処理する方法であって、
前記加熱工程の際に、前記太陽電池モジュール(C)を、多孔質セラミック支持体(A)上に、多孔質セラミック支持体(A)から離間して載置し、かつ、前記多孔質セラミック支持体(A)を、遷移金属酸化物を担持させた多孔質材料(B)上に積層した状態で、熱風を、多孔質材料(B)側から、多孔質材料(B)および多孔質セラミック支持体(A)内部および太陽電池モジュール(C)と多孔質セラミック支持体(A)との間隙に送気することを特徴とする、廃太陽電池の処理方法。
【0009】
[2]多孔質セラミック支持体(A)および太陽電池モジュール(C)との間にスペーサー部材を設置する、または、太陽電池モジュール(C)の吊り上げ部材を熱分解炉上部も設置することで、太陽電池モジュール(C)と多孔質セラミック支持体(A)とを離間させることを特徴とする[1]に記載の、廃太陽電池の処理方法。
[3]太陽電池モジュール(C)と多孔質セラミック支持体(A)との間隙が、3~50mmの範囲にあることを特徴とする、[1]または[2]に記載の廃太陽電池の処理方法。
【0010】
[4]多孔質セラミック支持体(A)および多孔質材料(B)の表面のセル数が、5~50pixel per inch(以下「ppi」と略す)の範囲にあることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載の廃太陽電池の処理方法。
[5]太陽電池モジュール(C)の下に落下防止用の網状構造体が設置されてなる、[1]~[4]のいずれか1項に記載の廃太陽電池の処理方法。
[6]前記加熱工程後に、有価物を回収する、[1]~[5]のいずれか1項に記載の廃太陽電池の処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、熱を効率的に伝えることができるので、廃太陽電池の処理速度を向上でき、処理時間を短縮化できるとともに、再利用可能な有価物を効率的に回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施態様を示す模式図である。
図2】本発明の別の一実施態様を示す模式図である。
図3】本発明のさらに別の一実施態様を示す模式図である。
図4】実施例1~3および比較例1における太陽電池モジュールのバックシート下中央の温度変化を示すグラフである。
図5】実施例4~6における太陽電池モジュールのバックシート下中央の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る廃太陽電池の処理方法は、樹脂製のバックシートおよび封止用樹脂層を有する太陽電池モジュール(C)を熱分解炉内で加熱することにより、前記太陽電池モジュール(C)に含まれる樹脂成分を溶融して酸化分解させる加熱工程を含む、廃太陽電池を連続的に処理する方法であって、
前記加熱工程の際に、前記太陽電池モジュール(C)を、多孔質セラミック支持体(A)上に、多孔質セラミック支持体(A)から離間して載置し、かつ、前記多孔質セラミック支持体(A)を、遷移金属酸化物を担持させた多孔質材料(B)上に積層した状態で、熱風を、多孔質材料(B)側から、多孔質材料(B)および多孔質セラミック支持体(A)内部および太陽電池モジュール(C)と多孔質セラミック支持体(A)との間隙に送気することを特徴とする。
【0014】
図1に本発明の一実施態様を示す。図1中、1は遷移金属酸化物を担持させた多孔質材料(B)、2は多孔質セラミック支持体(A)、3は太陽電池モジュール(C)を示し、4はバックシート、5は封止用樹脂層、6はセル、7は強化ガラスを示し、太陽電池モジュール3を構成する。多孔質セラミック支持体2と太陽電池モジュール3との間に所定の間隙dが設けられる。なお、本発明の一態様では、セル6と強化ガラス7は有価物として回収される。また、図示していないが、電極や反射膜などを構成する金属や金属酸化物なども有価物として回収される。なお表面ガラスは、表面保護材として機能する。
【0015】
<太陽電池モジュール3>
本発明に適用できる太陽電池モジュール3は、両面ガラスタイプではない樹脂製のバックシート4を有する太陽電池モジュールであれば、すべて利用することができる。具体的には、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、ヘテロ接合型太陽電池、CIS太陽電池、CIGS太陽電池、CdTe太陽電池等が挙げられる。
【0016】
このような太陽電池モジュール3には、図示していないが、通常、電極としては、例えば、光透過性のある電極又はライン状の電極や、はしご状の電極や鎖状の電極にバスバーとなる金属箔や金属リボンを重ねた電極が用いられる。金属としては、銀、銅、又はアルミニウム等が挙げられる。また、導電性酸化物を主成分とする透明電極が設けられることもある。導電性酸化物としては、酸化インジウムスズ(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ボロンドープ酸化亜鉛(BZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)、アルミニウムガリウム酸化物(AGO)、チタンドープ酸化インジウム(ITiO)、酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)及び水素ドープ酸化インジウム(In23)からなる群より選ばれる1種以上の透明導電膜を使用することも可能である。
【0017】
太陽電池モジュール3は、強化ガラス7とバックシート4との間に、複数のセル6を封止用樹脂層5で封止するように構成されている。封止用樹脂としては、エチレンビニルアセテート(EVA)、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)及びポリオレフィン樹脂などの熱可塑性樹脂が使用され、封止用樹脂からなるシートによりセル6をラミネートすることにより、セル6が封止されてなる。封止用樹脂層5には、白色顔料等の色材を含んでいてもよい。酸化チタン等の白色顔料は、太陽光を反射して太陽電池モジュール3への入射光を増加させる機能を有する。このような白色顔料は、封止用樹脂に混錬されていたり、白色顔料を含む層を積層して、封止用樹脂層5としてもよい。
【0018】
また、バックシート4は、シート状の裏面保護材であり、EVAやポリエチレンテレフタレート樹脂の基材フィルムや、さらに、前記基材フィルムとポリビニルフルオライド(PVF)などの耐候性フッ素高分子フィルムとの積層フィルムなどが使用される。
【0019】
さらに、太陽電池モジュール3の周辺部を保護するために、図示しないが、フレームとしてアルミ枠が取り付けられていることもある。アルミ枠については、アルミ枠の大きさに合わせて多孔質セラミック支持体2を切断する必要がなく作業が簡便になるという利点から、熱分解前にアルミ枠を外してもよいし、取り外し時にガラスが割れる可能性を低減するために熱分解後に外してもよい。また、セルへの受光効率を向上させるために必要に応じて反射膜が太陽電池モジュールの太陽光入射面と反対側である裏面に設けられていてもよく、反射膜として具体的にはアルミニウム又は銀等の金属からなる金属膜などが挙げられる。
【0020】
<加熱工程>
本発明の処理方法における加熱工程は、樹脂製のバックシート4および封止用樹脂層5を有する太陽電池モジュール3を熱分解炉内で加熱することにより、太陽電池モジュール3に含まれる樹脂成分を溶融して酸化分解させる。この酸化分解は通常、樹脂成分の燃焼を伴う。
【0021】
前記加熱工程では、太陽電池モジュール3を、多孔質セラミック支持体2上に所定の間隙を設けるように、離間して載置し、かつ、前記多孔質セラミック支持体2を、遷移金属酸化物を担持させた多孔質材料1上に載置した状態で、熱分解炉の入口から出口に向かって炉内を移動させる。この際、バックシート4面を下側にして、太陽電池モジュール3を多孔質セラミック支持体2と対向させることが、有価物などの回収という点で好ましい。
【0022】
本発明の加熱工程では、熱風を、多孔質材料1側から吹き込む。熱風は多孔質材料1および多孔質セラミック支持体2の細孔を通って、太陽電池モジュール3との間隙に到達して、太陽電池モジュール3と衝突して、間隙d内に拡散する。
【0023】
また、処理効率を高めるために、熱分解炉内で加熱されている状態の太陽電池モジュール3が複数存在するように、複数の太陽電池モジュール3を連続的に移動させることが好ましい。なお、太陽電池モジュール3、多孔質セラミック支持体2および多孔質材料1からなる被処理物を加熱処理する際には、炉内の移動においてこれらの載置が崩れたり、転倒したりするのを防止するために、格子が入った鉄製のトレイなどに入れてもよい。
【0024】
間隙dは、たとえば、図2に示すように、多孔質セラミック支持体2および太陽電池モジュール3との間にスペーサー部材8を設置するか、あるいは、図3に示すように、太陽電池モジュール3の吊り上げ部材9を熱分解炉上部に設置することで設けることが可能である。
【0025】
スペーサー部材8は、所定の間隙を設けることができればその形状や形態は特に制限されず、例えば格子型でもよいし、球体や棒状物などであってもよく、多孔質セラミック支持体2の上に、太陽電池モジュール3がたわまないように載置すればよい。
また吊り上げ部材9は、上部から太陽電池モジュール3を吊り上げるように構成されていれば特に制限されず、籠材なども使用できる。これらの部材は通常、加熱時に変形や反応しない耐火材料から構成され、たとえばステンレス、シリカやアルミナなどの無機材料から構成される。
【0026】
太陽電池モジュール3と多孔質セラミック支持体2との間隙dは、3~50mm、好ましくは4~40mm、さらに好ましくは5~15mmの範囲にあることが好ましい。前記範囲で、多孔質セラミック支持体2および多孔質材料1の通気率や、熱風の送気量に応じて選択される。なお「~」は特段の限定がない限り、以上-以下を示す。
バックシート4および封止用樹脂層5を構成するEVAおよびPET等の樹脂成分が、加熱工程の際に、溶融し、次いで、重力の作用により多孔質セラミック支持体2の方向へと流れ出る。
【0027】
多孔質セラミック支持体2は、多孔質であるため、溶融して流れ落ちてきた樹脂成分は加熱炉内の雰囲気との接触面積が大きくなり、固形分として含まれている白色顔料などの成分を捕捉することができる。
溶融して流れ落ちてきた樹脂成分は、多孔質セラミック支持体2を通過し、多孔質材料1に到達し、担持された遷移金属酸化物により酸化分解し、分解物が燃焼する。このように構成することで、「すす」の発生を抑制することができる。
【0028】
前記酸化分解のため、加熱工程における加熱炉内の雰囲気は酸素濃度6vol%以上、15vol%未満の範囲に制御されることが望ましい。この範囲では、樹脂成分を穏やかに、かつ、安定的に燃焼させて除去することができるので望ましい。
【0029】
熱分解炉の温度は、バックシート4や封止用樹脂層5を構成する樹脂に応じて適宜決定されるものであるが、好ましくは425~575℃である。425℃以上であれば、バックシート4や封止用樹脂層5に使用される樹脂の熱分解温度よりも高くなり燃焼が起きる。また575℃以下であれば急激な燃焼を抑制でき、太陽電池モジュール3のガラスが破損することを防ぐことができる。
【0030】
前記熱分解炉としては、前記温度を達成可能であり、かつ、多孔質材料1、多孔質セラミック支持体2および太陽電池モジュール3を含む被処理物を投入できるガス炉または電気炉等の熱分解炉であれば特に限定されず、公知の熱分解炉を使用することができる。
【0031】
熱風の送気方法としては、酸素含有ガスをガスバーナー等で加熱して、多孔質材料1側より、送気するなどの方法が挙げられる。なお、前記炉内温度を得ることができれば特に限定されないが、例えば、ガス炉の場合、このとき、送気とともに、炉内全体を加熱してもよい。
【0032】
本発明の方法では、前記加熱工程後に、前記多孔質セラミック支持体2上に残された有価物を回収することが好ましい。前記有価物は、ガラス、セル、電極に使用された導電性材料およびアルミ枠等からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0033】
本発明の方法では、前記有価物を効率的に回収するために、太陽電池モジュール3と前記多孔質セラミック支持体2との間に、金網などを設置して、樹脂が溶融して多孔質セラミック支持体2に移動しても、残った有価物を金網ごと回収することも有効である。これにより、樹脂が溶融、燃焼したあとの処理物は、ガラス、セルなどがバラバラになることなく回収できる。
【0034】
<多孔質セラミック支持体2>
本発明に適用できる多孔質のセラミック支持体2は、前記温度(具体的には425℃~575℃程度)で安定であり、多孔構造を有していれば何ら制限なく使用できる。具体的な材料としてはアルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、コーディエライト、フェライト、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フォルステライト、ジルコン、ムライト、ステアタイト、窒化アルミニウム等の安定かつ一般的なセラミック材料が挙げられる。
【0035】
多孔質セラミック支持体2の孔径は特に制限はないが、450℃付近でEVAおよびPET等が溶融したときに浸み込みやすい0.1~5mm程度が好適である。表面のセル数も特に制限はないが、5~50pixel per inch(以下「ppi」と略す)のものが望ましい。空孔率も何ら制限はないが、50~95%程度のものが望ましい。特に連続気孔の3次元骨格構造のものが好適に使用することができる。
【0036】
多孔質セラミック支持体2の形状としても特に制限はないが、太陽電池モジュール3に使用されている樹脂が落下しないように配置するため、板状のものを好適に使用することができる。また、溶融した樹脂成分が前記多孔質セラミック支持体2の外部に漏れ出ることによる「すす」の発生を抑制できる観点から、前記多孔質セラミック支持体2のバックシート4を積載する面の大きさ(面積)は、アルミ枠を外していない場合、アルミ枠内に収まる範囲内で可能な限り大きいことが好ましく、太陽電池モジュール3からアルミ枠を外している場合、バックシート4の底面積より大きい方が好ましい。
【0037】
多孔質セラミック支持体2の厚みについても何ら制限はないが、10~60mm程度のものが好適である。
【0038】
上記のような多孔質セラミック支持体2としては、アルミナ、炭化ケイ素およびコーディエライト製のセラミックフォーム、セラミックフィルターまたはセラミックフォームフィルターと呼ばれる製品が好適である。
【0039】
本発明の方法で廃太陽電池を処理する際に、前記太陽電池モジュール3を、そのバックシート4面を下側にして、前記多孔質セラミック支持体2の上に載置する。バックシート4面を下側にすることにより、バックシート4および封止用樹脂層5を構成する樹脂成分が、加熱により溶融し、次いで、重力の作用により多孔質セラミック支持体2の方向へと流れ出る。
【0040】
多孔質セラミック支持体2は、多孔質であることから、流れ落ちてきた樹脂は熱分解炉内の雰囲気との接触面積が大きくなる。そのため、さらなる加熱による燃焼の効率が高くなり、「すす」の発生を抑制することができる。
【0041】
<多孔質材料1>
本発明で用いられる、遷移金属酸化物を担持させた多孔質材料1において、遷移金属酸化物は、酸化状態では酸素を吸着し、芳香族系樹脂が燃焼中に酸化分解されて生じる芳香環を有する有機化合物を分解する能力を有する。このような多孔質材料1を使用することで、「すす」の発生を抑制できる。
【0042】
前記遷移金属酸化物としては、例えば、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀の酸化物を何ら制限なく使用することができる。
【0043】
これらの中でも好ましくはスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅の第一遷移元素の酸化物、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀の第二遷移元素の酸化物、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金の第三遷移元素の酸化物が挙げられ、より好ましくはルチル型またはアナターゼ型の酸化チタン(IV)、酸化クロム(III)、酸化鉄(III)および酸化銅(II)等の遷移金属酸化物が好適に利用できる。これらは複合酸化物の状態であってもよい。
【0044】
多孔質材料1としては、前記多孔質セラミック支持体2と同じく樹脂成分の燃焼温度で安定であればよく、同様の材質のものが挙げられる。多孔質材料1の形状は特に限定されず、いわゆる触媒の担体とできるものであれば特に限定はされないが、前記太陽電池モジュール3を載置する多孔質セラミック支持体2と同様の板状の多孔質成形体であることがより好ましい。
【0045】
前記遷移金属酸化物を多孔質材料1に担持させる方法は、公知の技術が何ら制限なく用いることができる。具体的には、遷移金属酸化物を含む溶液に多孔質材料1をディップコーティング、ウォッシュコーティング、スプレーコーティングまたはスピンコーティングなどを用いて含浸担持させる方法が一般的である。その後、溶液の沸点以上まで加温することにより溶液を除去する方法が最も簡単である。また、遷移金属酸化物を溶融させたものを多孔質材料1に噴射させる溶射技術を利用してもよい。
【0046】
本発明では、前記遷移金属酸化物を担持させた多孔質材料1に多孔質セラミック支持体2を載置する。
【0047】
前記多孔質材料1の大きさとしては、太陽電池モジュール3を含む被処理物の安定性の観点から、多孔質材料1の積載面が、前記多孔質セラミック支持体2の底面積と同程度以上であると好ましい。前記多孔質材料1の厚みとしては、10~60mm程度のものが好適である。多孔質材料1の表面のセル数は、前記多孔質セラミック支持体2と同様に5~50pixel per inch(以下「ppi」と略す)の範囲にあることが好ましい。空孔率も何ら制限はないが、前記多孔質セラミック支持体2と同様に50~95%程度のものが望ましい。空孔率も何ら制限はないが、50~95%程度のものが望ましい。特に連続気孔の3次元骨格構造のものが好適に使用することができる。
【実施例0048】
以下、本発明の回収方法の実施形態について実施例を参照に説明するが、本発明は以下の実施形態等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0049】
なお、本発明で用いた棚板は、耐熱性を有しており、積載された太陽電池モジュール3、多孔質セラミック支持体2および多孔質材料1を加熱することができる態様であればよく、例えば、セラミック製棚板およびSUS製金網が挙げられる。
【0050】
[実施例1]
太陽電池モジュール3としては、京セラ製多結晶シリコン太陽電池「KD270HX-BPEFMS」を用いて評価を行った。なお、バックシート4についている電極およびアルミフレームは加熱処理工程の前に取り除いた。
【0051】
多孔質セラミック支持体2としてのセラミックフィルターは、(メーカー:日本ルツボ(材料:炭化ケイ素)10ppi 300mm×400mm×15mmtを用いた(これを多孔質セラミック支持体(A-1)とする)。
【0052】
触媒を担持する多孔質材料1は、(メーカー:日本ルツボ (材料:炭化ケイ素)10ppi 300mm×400mm×45mmtのセラミックフィルターを用いた。このセラミックフィルターに、酸化クロム(III)(富士フィルム和光純薬株式会社製)を水に懸濁させながら攪拌し、セラミックフィルターを浸漬させてディップコーティングを行い、450℃で乾燥させて、クロム担持多孔質材料(B-1)を作製した。クロム担持多孔質材料(B-1)では、コーティングする前の質量は、2300gであり、コーティングし、乾燥させた後の質量は2859gであった。
【0053】
2,100mm×1,210mm×50mmの底を格子状とした鉄製トレイを製作し、このクロム担持多孔質材料(B-1)を設置した。その上に多孔質セラミック支持体(A-1)を設置した。さらに多孔質セラミック支持体(A-1)の上に、スペーサー部材8としてステンレス製格子型スペーサー(格子の間隔:160mm、高さ10mm)を載せて所定の間隔を設け、格子型スペーサーの上に、前記太陽電池モジュール3を、バックシート4が下側になるように設置した。
【0054】
熱分解炉としてはガス炉を使用した。当該ガス炉として、タクト送りチェーンブロー式の炉長5,400mm、炉内幅2,300mm、炉内高さ280mmの熱風循環式熱処理装置を用いた。ガスバーナー部には、メタリックバーナーMJPE-200Kを用い、LPガスと空気の混合ガスを燃焼させて加熱した。加熱した混合ガスを足立機工性「6.0-LFリミットロードファン」(450m3/min、2.0kPa、30kw)で熱分解炉部の下側からスリットで絞って供給し、クロム担持多孔質材料(B-1)に勢いよく吹き付け、熱風の送気を行った。熱分解炉内の酸素濃度を6vol%以上15vol%未満の範囲に制御した。なお、炉内の温度は490℃に制御し、20分間加熱処理を行った。炉内温度の変化を、太陽電池モジュール3のバックシート4下中央の温度で評価した。
【0055】
[実施例2]
スペーサー部材8として実施例1で用いたステンレス製格子型スペーサーの代わりに、(格子の間隔:160mm、高さ20mm)のステンレス製格子型スペーサーを用いて、実施例1と同様の加熱処理を行った。
【0056】
[実施例3]
実施例1で用いたステンレス製格子型スペーサーの代わりに、(格子の間隔:160mm、高さ30mm)のステンレス製格子型スペーサーを用いて、実施例1と同様の加熱処理を行った。
【0057】
[比較例1]
ステンレス製格子型スペーサーを使用しない以外は、実施例1と同様の加熱処理を行った。
【0058】
図4に、実施例1~3および比較例1の加熱処理における、加熱時間に対する炉内温度の変化を示す。
【0059】
いずれも、燃焼に伴う炉内温度のピークが観察されるが、所定の間隙を設けた実施例1~3では、間隙を設けない比較例1と、ピーク時間の差分を評価すると、実施例はいずれも比較例1に比べ炉内温度にピークを生じる時間が早くなることが分かった。具体的に、間隙を設けていない比較例1に比べ、実施例1で126秒、実施例2および3で104秒ピーク時間が早くなり、加熱が短時間で達成され、処理効率が高くなっていることが分かった。
【0060】
[実施例4]
実施例1において、多孔質セラミック支持体2として、セラミックフィルターに、メーカー:日本ルツボ(材料:炭化ケイ素)7 ppi、300mm×400mm×15mmtを用いた(多孔質セラミック支持体(A-2)とする)。
【0061】
触媒を担持する多孔質材料1としては、(メーカー:日本ルツボ(材料:炭化ケイ素、7 ppi、300mm×400mm×45mmtのセラミックフィルターを用い、実施例1と同様に、酸化クロム(III)を用いて、クロム担持多孔質材料(B-2)を作製した。クロム担持多孔質材料(B-2)では、コーティングする前の質量は、2300gであり、コーティングし、乾燥させた後の質量は2859gであった。
【0062】
このクロム担持多孔質材料(B-2)および多孔質セラミック支持体(A-2)を実施例1と同様に設置した。さらに多孔質セラミック支持体(A-2)の上に、スペーサー部材8としてステンレス製格子型スペーサー(格子の間隔:160mm、高さ10mm)を載せて所定の間隔を設け、格子型スペーサーの上に、前記太陽電池モジュール3を、バックシート4が下側になるように設置した。
【0063】
熱分解炉としてはガス炉を使用した。実施例1で用いた熱分解炉部の下側からスリットで絞って供給し、クロム担持多孔質材料(B-2)に勢いよく吹き付け、熱風の送気を行った。熱分解炉内の酸素濃度を制御することなく、炉内の温度は500℃に制御し、15分間加熱処理を行った。
【0064】
[実施例5]
スペーサー部材8として実施例4で用いたステンレス製格子型スペーサーの代わりに、(格子の間隔:160mm、高さ30mm)のステンレス製格子型スペーサーを用いて、実施例4と同様の加熱処理を行った。
【0065】
[実施例6]
スペーサー部材8として実施例4で用いたステンレス製格子型スペーサーの代わりに、(格子の間隔:160mm、高さ40mm)のステンレス製格子型スペーサーを用いて、実施例4と同様の加熱処理を行った。
【0066】
図5に、実施例4~6の加熱工程における、加熱時間に対する温度の変化を示す。
【0067】
その結果、間隙が10mmの実施例4は、実施例4および5よりピーク最大となる時間が、30秒早いことが分かった。間隙が30mmと40mmは同じ変化であり、これ以上、間隙を離しても変わらないと考えられる。
【0068】
このことから、間隔を高くしても、太陽電池モジュールへ当たる風量が変わらずに、熱分解時間に差がないと考えられ、最適な間隔を設ける意義が高いことが分かった。
【符号の説明】
【0069】
1:多孔質材料
2:多孔質セラミック支持体
3:太陽電池モジュール
4:バックシート
5:封止用樹脂層
6:セル
7:強化ガラス
8:スペーサー部材
9:吊り上げ部材
図1
図2
図3
図4
図5