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特開2023-72888亜酸化窒素分解用触媒の再生方法および亜酸化窒素の分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072888
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】亜酸化窒素分解用触媒の再生方法および亜酸化窒素の分解方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/96 20060101AFI20230518BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20230518BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20230518BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
B01J23/96 A
B01J23/46 301A
B01D53/86 222
B01D53/86 ZAB
B01D53/96 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185588
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 宣史
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA07
4D148AB02
4D148BA03Y
4D148BA06Y
4D148BA07X
4D148BA08Y
4D148BA21Y
4D148BA22Y
4D148BA23Y
4D148BA24Y
4D148BA25Y
4D148BA26Y
4D148BA27Y
4D148BA28Y
4D148BA32X
4D148BA35Y
4D148BA36Y
4D148BA37Y
4D148BA38Y
4D148BA41X
4D148BA43X
4D148BA46Y
4D148BA50Y
4D148BB01
4D148BB02
4D148BB04
4D148BB05
4D148BB17
4D148BD01
4D148BD04
4D148CA01
4D148CC52
4D148DA01
4D148DA03
4D148DA05
4D148DA13
4G169AA03
4G169AA10
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BB04B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169CA02
4G169CA10
4G169CA11
4G169CA13
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EB14Y
4G169EB18Y
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB30
4G169FB57
4G169GA06
(57)【要約】
【課題】失活した亜酸化窒素分解用触媒を効率よく再生できる亜酸化窒素分解用触媒の再生方法、およびこの再生方法で再生した亜酸化窒素分解用再生触媒を用いた亜酸化窒素の分解方法を提供する。
【解決手段】酸化チタンを含む担体にルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する成分が担持されてなる亜酸化窒素分解用触媒であって亜酸化窒素の分解反応に使用した亜酸化窒素分解用触媒を、酸化性ガスの雰囲気下、温度175~325℃の条件で熱処理する工程を含む亜酸化窒素分解用触媒の再生方法、並びに、この再生方法で再生した亜酸化窒素分解用触媒と、亜酸化窒素を含む亜酸化窒素含有ガスとを接触させる工程を含む亜酸化窒素の分解方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンを含む担体に、ルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する成分が担持されてなる亜酸化窒素分解用触媒であって亜酸化窒素の分解反応に使用した亜酸化窒素分解用触媒を、
酸化性ガスの雰囲気下、温度175~325℃の条件で熱処理する工程を含む、亜酸化窒素分解用触媒の再生方法。
【請求項2】
前記酸化性ガスが空気である、請求項1に記載の亜酸化窒素分解用触媒の再生方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の亜酸化窒素分解用触媒の再生方法に次いで、該再生方法で再生した亜酸化窒素分解用触媒と、亜酸化窒素を含む亜酸化窒素含有ガスとを接触させる工程を含む、亜酸化窒素の分解方法。
【請求項4】
前記亜酸化窒素含有ガスが、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気、酸素、水素、アンモニア、一酸化窒素、二酸化窒素および炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種のガスを含む、請求項3に記載の亜酸化窒素の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜酸化窒素分解用触媒の再生方法および亜酸化窒素の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境保護と大気汚染防止の観点から、排ガス中の窒素酸化物(NOx)が問題とされ、その排出が厳しく規制されている。特に排出規制の対象となる窒素酸化物は、人体に有害で光化学スモッグや酸性雨の原因とされる二酸化窒素(NO)であり、排出量低減に向けて種々の脱硝技術が検討され、実用化されている。しかし、窒素酸化物の1種である亜酸化窒素(NO)は、現在は排出規制の対象とされておらず、通常、そのまま大気中に放出されている。実際に、硝酸の製造工場、ε-カプロラクタムの製造工場、アジピン酸の製造工場などの化学品製造プラントから排出されるガスは、脱硝処理により一酸化窒素や二酸化窒素が分解除去されているが、副生する亜酸化窒素は分解除去されずに、大気中に排出(放出)されていることも多い。
【0003】
しかし、亜酸化窒素のような温室効果ガスが大気中に放出されると、温室効果ガス濃度の増加により大気の温室効果が強まり、このことが地球温暖化の原因となると考えられている。そして、亜酸化窒素は二酸化炭素の約300倍の温暖化効果を示すとされている。そのため、近年、二酸化炭素、メタンなどとともに、亜酸化窒素の大気中への排出削減へ向けた関心が高まっている。持続可能な環境意識の高まりと共に、近い将来、亜酸化窒素が排出規制ガスの対象とされることが予想されることから、排ガス中の亜酸化窒素を分解除去して大気中への排出量を抑制する技術が求められる。排ガス中の亜酸化窒素を分解除去する技術として、例えば、特許文献1には、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)から選ばれた少なくとも1種以上の貴金属を担持することを特徴とする触媒を用いて、還元性ガスの共存下で亜酸化窒素を含むガスを接触分解する、亜酸化窒素分解方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06-218232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
亜酸化窒素の分解に用いる触媒(亜酸化窒素分解用触媒)は、使用により触媒活性が失活して亜酸化窒素の分解効率が低下するため、一定水準まで失活した触媒は、新しい触媒と交換され、廃棄される。失活した触媒の廃棄は、亜酸化窒素の分解コストを高めるとともに、地球環境保護の観点からその廃棄量を低減することも重要である。また、将来、亜酸化窒素が排出規制ガスの対象とされると、触媒の需要も高まることも予想されるが、ルテニウムをはじめとする貴金属は、他の金属に比して、地中埋蔵量、産出量(供給量)も十分ではない。そのため、失活した触媒を再活性化して亜酸化窒素の分解に再利用する利点は大きい。しかし、排ガス中に含まれる亜酸化窒素が排出規制とされていない現状においては、亜酸化窒素の分解方法の検討、確立に関心が高まっており、失活した触媒を再活性化する技術にまで検討が進んでいない。触媒の再活性化、再利用については上記特許文献1にも記載されていない。
【0006】
本発明は、失活した亜酸化窒素分解用触媒を効率よく再生できる、亜酸化窒素分解用触媒の再生方法を提供することを、課題とする。また、本発明は、上記再生方法で再生した亜酸化窒素分解用触媒を用いた、亜酸化窒素の分解方法を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>酸化チタンを含む担体に、ルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する成分が担持されてなる亜酸化窒素分解用触媒であって亜酸化窒素の分解反応に使用した亜酸化窒素分解用触媒を、
酸化性ガスの雰囲気下、温度175~325℃の条件で熱処理する工程を含む、亜酸化窒素分解用触媒の再生方法。
<2>前記酸化性ガスが空気である、<1>に記載の亜酸化窒素分解用触媒の再生方法。
<3>上記<1>または<2>に記載の亜酸化窒素分解用触媒の再生方法に次いで、該再生方法で再生した亜酸化窒素分解用触媒と、亜酸化窒素を含む亜酸化窒素含有ガスとを接触させる工程を含む、亜酸化窒素の分解方法。
<4>前記亜酸化窒素含有ガスが、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気、酸素、水素、アンモニア、一酸化窒素、二酸化窒素および炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種のガスを含む、<3>に記載の亜酸化窒素の分解方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、失活した亜酸化窒素分解用触媒を効率よく再生できる亜酸化窒素分解用触媒の再生方法、およびこの再生方法により再生した亜酸化窒素分解用触媒を用いた亜酸化窒素の分解方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明および本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明において、「亜酸化窒素分解用触媒」(単に「触媒」ということもある。)というときは、特に断らない限り、亜酸化窒素の分解反応に使用していない亜酸化窒素分解用触媒(未使用触媒、新品触媒等ともいう。)と、亜酸化窒素の分解反応に使用した亜酸化窒素分解用触媒(使用済触媒、劣化触媒等ともいう。)と、更に、劣化触媒を再生した亜酸化窒素分解用再生触媒(再生触媒ともいう。)とを含む意味で用いる。
【0010】
[亜酸化窒素分解用触媒の再生方法]
本発明の亜酸化窒素分解用触媒の再生方法(以下、単に「本発明の再生方法」ということがある。)は、亜酸化窒素の分解反応(分解方法)に使用した亜酸化窒素分解用触媒を、酸化性ガスの雰囲気下、温度175~325℃の条件で熱処理する工程を含んでいる。この熱処理工程により、後述するように、触媒活性が失活した劣化触媒の触媒活性を効率よく回復もしくは再生することができる。
【0011】
<亜酸化窒素分解用触媒>
本発明の再生方法に用いる劣化触媒は、酸化チタンを含む担体にルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する成分が担持されてなる亜酸化窒素分解用触媒を亜酸化窒素の分解方法に使用することにより、触媒活性が失活した触媒である。ここで、劣化触媒を失活させる亜酸化窒素の分解方法等は、特に制限されず、例えば、後述する本発明の亜酸化窒素の分解方法における「亜酸化窒素含有ガスと接触させる工程」等が挙げられる。
【0012】
亜酸化窒素分解用触媒は、酸化チタンを含む担体にルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する成分が担持されてなる触媒である。
本発明において、「酸化チタンを含む担体にルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する成分が担持されてなる触媒」とは、酸化チタンを含む担体の表面および/または細孔内に、ルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する成分が付着している触媒を意味する。
本発明においては、担体に担持する成分として、触媒活性およびコストのバランスなどの点で、ルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を選択する。
【0013】
(ルテニウム化合物)
ルテニウム化合物としては、特に制限されず、例えば、酸化ルテニウム、水酸化ルテニウム、硝酸ルテニウム、塩化ルテニウム、クロロルテニウム酸塩、クロロルテニウム酸塩水和物、ルテニウム酸の塩、ルテニウムオキシ塩化物、ルテニウムオキシ塩化物の塩、ルテニウムアンミン錯体、ルテニウムアンミン錯体の塩化物、臭化ルテニウム、ルテニウムカルボニル錯体、ルテニウム有機酸塩、ルテニウムニトロシル錯体などが挙げられる。
酸化ルテニウムとしては、RuOなどが挙げられる。
水酸化ルテニウムとしては、Ru(OH)が挙げられる。
硝酸ルテニウムとしては、Ru(NOが挙げられる。
塩化ルテニウムとしては、RuCl、RuCl水和物などが挙げられる。
クロロルテニウム酸塩としては、KRuClなど、〔RuCl3-を陰イオンとする塩、KRuClや(NHRuClなど、〔RuCl2-を陰イオンとする塩が挙げられる。
クロロルテニウム酸塩水和物としては、〔RuCl(HO)2-を陰イオンとする塩水和物、〔RuCl(HO)を陽イオンとする塩水和物などが挙げられる。
ルテニウム酸の塩としては、NaRuO、KRuOなどが挙げられる。
ルテニウムオキシ塩化物としては、RuOCl、RuOCl、RuOClなどが挙げられる。
ルテニウムオキシ塩化物の塩としては、KRuOCl10、CsRuOClなどが挙げられる。
ルテニウムアンミン錯体としては、〔Ru(NH2+、〔Ru(NH3+、〔Ru(NHO〕2+などを錯イオンとする錯体などが挙げられる。
ルテニウムアンミン錯体の塩化物としては、〔Ru(NHCl〕2+を錯イオンとする錯体、〔Ru(NH〕Cl、〔Ru(NH〕Cl、〔Ru(NH〕Brなどが挙げられる。
臭化ルテニウムとしては、RuBr、RuBr水和物などが挙げられる。
ルテニウムカルボニル錯体としては、Ru(CO)、Ru(CO)12などが挙げられる。
ルテニウム有機酸塩としては、[RuO(OCOCH(HO)]OCOCH水和物、Ru(RCOO)Cl(R=炭素数1~3のアルキル基)などが挙げられる。
ルテニウムニトロシル錯体としては、K〔RuClNO)〕、〔Ru(NH(NO)〕Cl、〔Ru(OH)(NH(NO)〕(NO、Ru(NO)(NOなどが挙げられる。
ルテニウム化合物は、酸化ルテニウム、硝酸ルテニウム、塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、ルテニウム酸の塩、ルテニウムニトロシル錯体が好ましく、酸化ルテニウムがより好ましい。
【0014】
酸化チタンを含む担体に担持される成分は、上記の、ルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいればよく、ルテニウム以外の金属、およびルテニウム化合物以外の金属化合物などをさらに含んでいてもよい。
本発明において、触媒被毒の原因となる物質が触媒表面に吸着することを阻害し、触媒の性能が低下することを防ぐ、あるいは触媒活性点のシンタリングを防ぐなどの目的で、触媒は、酸化チタンを含む担体に、ルテニウム以外の金属およびルテニウム化合物以外の金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種がさらに担持された触媒であることが好ましい。
ルテニウム以外の金属としては、特に制限されず、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、ニオブ、スズ、銅、鉄、コバルト、ニッケル、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、アンチモン、テルルなどが挙げられる。ルテニウム化合物以外の金属化合物としては、特に制限されず、上記ルテニウム以外の金属を有する化合物が挙げられ、上記ルテニウム以外の金属の酸化物が好ましい。金属酸化物は、複数の金属種の複合酸化物であってもよい。また、触媒は、担体に、ルテニウムとルテニウム以外の金属との合金や、ルテニウムとルテニウム以外の金属とを含む複合酸化物がさらに担持された触媒でもよい。
触媒は、より好ましくは、ルチル結晶形の酸化チタンを含有する担体に、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ニオブ、酸化マンガン、酸化アンチモン、酸化テルルおよび酸化スズからなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化物がさらに担持された触媒である。
金属の酸化物を得るために用いられる金属塩は、特に限定されない。
【0015】
触媒中のルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の含有量は、特に制限されず適宜に設定されるが、例えば、金属ルテニウム基準で、0.1~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、1~5質量%がさらに好ましい。
ルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の含有量は、ルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む成分と担体との合計量を100質量%とすると、金属ルテニウム基準で、0.1~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、1~5質量%がさらに好ましい。
触媒中の、ルテニウム以外の金属、およびルテニウム化合物以外の金属化合物などの含有量は、特に制限されず、上記目的に応じて適宜に設定できる。
【0016】
(担体)
担体は、酸化チタンを含むものであればよく、後述する他の化合物などを含んでいてもよい。担体を構成する酸化チタンの結晶形は、特に制限されず、ルチル結晶形、アナターゼ結晶形、ブルッカイト結晶形のいずれもでもよい。本発明において、担体は、ルチル結晶形の酸化チタンを含有する酸化チタンで構成されていることが好ましい。触媒活性の観点から、担体に含まれる酸化チタン中の、ルチル結晶形の酸化チタンの含有率は、担体に含まれる酸化チタンの全量を100質量%として、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0017】
本発明において、ルチル結晶形の酸化チタンを含有する酸化チタンとは、X線回折分析法によって酸化チタン中のルチル結晶とアナターゼ結晶の比率を測定し、そのうちルチル結晶を含有するものを指す。X線源としてはいろいろな線源が使用される。たとえば、銅のKα線などが挙げられる。銅のKα線を使用した場合、ルチル結晶の比率とアナターゼ結晶の比率はそれぞれ、(110)面の2θ=27.5度の回折ピークの強度と、(101)面の2θ=25.3度の回折ピークの強度を用いて決定する。本発明に使用する担体はルチル結晶のピーク強度およびアナターゼ結晶のピーク強度を有する担体、または、ルチル結晶のピーク強度を有する担体である。すなわち、ルチル結晶の回折ピークおよびアナターゼ結晶の回折ピークの両方を有する担体であってもよいし、ルチル結晶の回折ピークのみを有する担体であってもよい。
【0018】
担体が含んでいてもよい他の化合物としては、例えば、酸化チタン以外の金属酸化物、また酸化チタンと他の金属酸化物との複合酸化物、さらには酸化チタンと他の金属酸化物の混合物などが挙げられる。酸化チタン以外の金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。
【0019】
酸化チタンは、公知の方法で調製したものを用いることができ、また市販品を用いることもできる。
ルチル結晶形の酸化チタンの調製方法としては、以下の方法が挙げられる。
四塩化チタンを氷冷した水に滴下溶解した後、20℃以上の温度で、アンモニア水溶液で中和し、水酸化チタン(オルトチタン酸)を生成させ、次いで、生成した沈殿を水洗して塩素イオンを除去した後、600℃以上の温度で焼成する方法(触媒調製化学、1989年、211頁、講談社);
四塩化チタン蒸発器に酸素-窒素混合ガスを通じて反応ガスを調製し、これを反応器に導入し、900℃以上で反応させる方法(触媒調製化学、1989年、89頁、講談社);
四塩化チタンを硫酸アンモニウムの存在下に加水分解した後、焼成する方法(例えば、触媒工学講座10元素別触媒便覧、1978年、254頁、地人書館);
アナターゼ結晶形の酸化チタンを焼成する方法(例えば、金属酸化物と複合酸化物、1980年、107頁、講談社);
塩化チタン水溶液を加熱加水分解する方法;および
硫酸チタンや塩化チタンなどのチタン化合物水溶液とルチル結晶形の酸化チタン粉末を混合した後、加熱加水分解やアルカリ加水分解し、次いで、500℃前後の温度で焼成する方法
【0020】
担体は、酸化チタンなどを所望の形状に成型することにより得ることができる。担体が、酸化チタン以外の化合物などを含有する場合は、酸化チタンと、それ以外の化合物などとの混合物を所望の形状に成型することにより得ることができる。
【0021】
触媒(担体)の形状としては、特に制限されず、球形粒状、円柱形ペレット状、リング形状、ハニカム形状、モノリス形状、コルゲート形状、あるいは成型後に粉砕分級した適度の大きさの顆粒状、微粒子などが挙げられる。球形粒状、円柱形ペレット状、リング形状の場合、触媒活性の観点から、触媒直径は10mm以下が好ましい。なお、ここでいう触媒直径とは、球形粒状では球の直径、円柱形ペレット状では断面の直径、その他の形状では断面の最大直径を意味する。
【0022】
触媒は、例えば、ルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む成分を含有する溶液に、酸化チタンを含有する担体を含侵させて、担体にルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む成分を付着させた後、乾燥する方法により調製することができる。ルテニウムおよびルテニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む成分を含有する溶液中の溶媒は、特に限定されないが、水やエタノールなどを用いることができる。乾燥後、焼成してもよい。
触媒が酸化ルテニウムを含有する場合、例えば、ハロゲン化ルテニウムを含む溶液に、酸化チタンを含有する担体を含侵させて、担体にハロゲン化ルテニウムを担持させる工程と、ハロゲン化ルテニウムが担体に担持された担持物を乾燥させる工程と、乾燥物を焼成する工程とを有する方法により得ることができる。
【0023】
触媒は不活性物質で希釈して用いることができる。
【0024】
本発明の再生方法に用いる劣化触媒は、亜酸化窒素の分解方法に使用されて触媒活性が失活したものであればよく、劣化触媒を再生する際の触媒活性の失活量は適宜に決定される。例えば、後述する実施例における「再生率」(亜酸化窒素の分解反応についての反応速度定数の比)として、0.89以下とすることができ、0.88以下とすることもできる。
亜酸化窒素の分解反応により失活した触媒の詳細(化学構造、構造変化、物性等)は、触媒の種類(化合物種)等により一義的ではないと考えられ、まだ明らかではない。例えば、酸化ルテニウムである場合、その還元体、亜酸化窒素含有ガス中の成分等が吸着して被毒された酸化ルテニウム粒子、酸化ルテニウム粒子のシンタリングによって分散度が低下した酸化ルテニウム粒子等の、亜酸化窒素の分解促進機能を失ったものが考えられる。
【0025】
<酸化性ガス>
本発明の再生方法に用いる酸化性ガスは、特定の物質を酸化するとともに自身は還元される特性を示すガスであればよく、例えば、酸化性物質を含むガスが挙げられ、典型的には酸素含有ガスが挙げられる。酸素含有ガスとしては、通常、酸素ガスを含有していればよく、例えば、空気、または酸素ガスを不活性ガス等で希釈したガスが挙げられ、空気が好ましい。酸素ガスとしては、特に制限されないが、通常、空気、純酸素等が挙げられる。不活性ガスとしては、実質的に酸化性物質を含有しないガスであればよく、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希土類ガス、窒素ガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、炭化水素ガス等が挙げられ、好ましくは窒素ガスである。また、酸化性ガスには水分が含まれていてもよい。
酸素含有ガス中の酸素濃度は、再生条件等に応じて適宜に決定され、通常、0.1~100モル%とすることができ、2~50モル%とすることが好ましく、4~30モル%とすることがより好ましい。
【0026】
<亜酸化窒素分解用触媒の再生方法>
本発明の再生方法においては、上記の劣化触媒を、酸化性ガスの雰囲気下、温度175~325℃の条件で熱処理する。この熱処理工程により、失活した触媒活性を回復させて、劣化触媒を再生することができる。例えば、触媒の劣化が還元反応によるものである場合、この触媒を酸化反応させることによって再生することができると考えられる。
熱処理工程は、酸化性ガスの雰囲気下、好ましくは酸化性ガスの気流下で行う。この工程は、酸化性ガスの雰囲気下で行うことができれば、バッチ式でも連続式でもよく、作業性、再生効率等の点で、連続式が好ましい。連続式としては、例えば、固定床形式、流動床形式が挙げられる。
【0027】
熱処理温度は、175~325℃の範囲内で適宜に決定されるが、劣化触媒の再生効率の観点から、180~320℃であることが好ましく、185~315℃であることがより好ましい。加熱方法は、特に制限されず、各種加熱器等を用いた通常の加熱方法が挙げられる。なお、酸化性ガスを予め加熱して劣化触媒と接触させることもできる。本発明の熱処理温度は、接触工程で用いる熱源を酸化性ガスの加熱方法に用いることもでき、再生工程のコストを低減して劣化触媒を効率よく再生できる。
熱処理時間は、酸化性ガスの酸化性物質濃度もしくは供給速度、熱処理温度等に応じて適宜に決定され、例えば、0.5~100時間とすることができ、1~50時間とすることもでき、1.5~25時間という比較的短時間に設定することもできる。
連続式で熱処理を行う場合、触媒重量に対する酸化性ガスの供給速度は、特に制限されず、酸化性物質の種類もしくは濃度等に応じて適宜に決定される。例えば、触媒1gに対する、0℃、0.1013MPa(absolute)での流量として、1~350cm/分であることが好ましく、3.5~300cm/分であることがより好ましい。
熱処理時の圧力は、熱処理温度、酸化性ガスの供給速度や周辺の外気の圧力などを考慮して適宜に決定することができる。例えば、絶対圧で、0.08~1MPa(absolute)とすることができ、0.09~0.7MPa(absolute)とすることが好ましい。
【0028】
本発明の再生方法は、比較的短時間で熱処理時間を行っても、劣化触媒の触媒活性を回復させて、劣化触媒を高い効率で再生させることができる。本発明の再生方法における触媒の再生効率は、上述の熱処理条件、更には熱処理スケール等により一義的に決定できないが、例えば、後述する実施例における「再生率」としては、例えば0.90以上まで、好ましくは0.93以上まで、再生することができる。
【0029】
<その他の工程>
本発明の再生方法は、熱処理工程以外の工程を有していてもよい。例えば、連続式で熱処理工程を行う場合、熱処理温度に到達するまで不活性ガスを流通させる工程、また、亜酸化窒素の分解装置から劣化触媒を取り出す工程、取り出した劣化触媒を粉砕、解砕等する工程、触媒を再成形する工程、更に再生触媒を分解装置に充填する工程などが挙げられる。
【0030】
[亜酸化窒素の分解方法]
本発明の亜酸化窒素の分解方法(以下、単に「本発明の分解方法」ということがある。)は、上述の本発明の再生方法で再生された再生触媒と、亜酸化窒素(ガス)を含む亜酸化窒素含有ガスとを接触させる工程を行う方法である。本発明の分解方法は、劣化触媒を再生する工程としての本発明の再生方法と、この再生方法で再生した再生触媒、および亜酸化窒素含有ガスとを接触させる接触工程とを含む。
本発明の分解方法は、本発明の再生方法と接触工程と行う方法であればよく、再生方法と接触工程とを交互に複数回繰り返し行うこともできる。接触工程と再生方法とを交互に複数回繰り返し行う方法としては、接触工程で劣化した触媒を次工程となる再生工程で再生し、得られた再生触媒を次工程となる接触工程で用いる方法が好ましい。本発明において、再生方法および接触工程は、それぞれ、次工程に移行する前に、複数回行うこともできる。本発明においては、再生方法に先立って、未使用触媒を用いて亜酸化窒素の分解工程(接触工程)を行うこともできる。この分解工程は未使用触媒を用いること以外は後述する接触工程と同じである。
本発明において、再生方法を行う時期(接触工程から再生方法に切り替えるタイミング)は、特に制限されず、接触工程と再生方法とを同じ装置(設備)で実施可能な場合を含めて、適宜の時期で切り替えることができる。例えば、接触工程による触媒の失活量に関わらず接触工程の途中もしくは終了後に再生方法に切り替えることができ、好ましくは、接触工程の実施により触媒の活性低下が認められた時点、例えば上記失活量に到達した時点で、接触工程から再生方法に切り替えることが好ましい。
【0031】
<再生触媒>
接触工程に用いる再生触媒は、上述の本発明の再生方法により再生された触媒であり、その詳細は上述の通りである。
【0032】
<亜酸化窒素含有ガス>
接触工程に用いる亜酸化窒素含有ガスとしては、亜酸化窒素を含んでいればよく、希釈ガスとして不活性ガスを含んでいてもよい。亜酸化窒素含有ガスは、亜酸化窒素と、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気、酸素、水素、アンモニア、一酸化窒素、二酸化窒素、および、炭化水素(飽和炭化水素、不飽和炭化水素を含む。)の少なくとも1種のガスを含んでいることが好ましい。また不活性ガスを含んでいてもよい。これらのガスについて、亜酸化窒素含有ガス中の含有量(濃度)は、特に制限されず、適宜に設定できる。例えば、後述する好適な亜酸化窒素含有ガスと同じ含有量とすることができる。
亜酸化窒素含有ガスは、液体を含んでもよい。本発明の分解方法において、亜酸化窒素含有ガスは、少なくとも触媒と接触している間(反応条件下)に気体となっていればよく、接触前は液体であっても、気体と液体の混合物であってもよい。
【0033】
後述する好ましい接触工程に用いる亜酸化窒素含有ガス(好適な亜酸化窒素含有ガスということがある。)は、亜酸化窒素、水蒸気およびアンモニアを含有するガスであれば、これら以外のガスを1種または2種以上含んでもよい。このようなガスとして、例えば、酸素、ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素などの各種ガス、さらには後述する還元性ガスが挙げられる。
【0034】
好適な亜酸化窒素含有ガス中の各成分の含有量(濃度)は、特に制限されず適宜に設定できるが、特別な効果を伴う成分を除き、通常、亜酸化窒素含有ガスが排出される工場特有の値に対して、ほぼそのまま使用するのが効率的である。従って、例えば、好適な亜酸化窒素含有ガス中の亜酸化窒素のモル濃度は、0.002~10モル%が一般的であり好ましい。水蒸気のモル濃度は、0.1~10モル%であることが一般的であり好ましい。好適な亜酸化窒素含有ガス中のアンモニアのモル濃度は、亜酸化窒素の分解効率の点から、0.0002モル%以上であることが好ましく、1モル%以下であることが好ましい。アンモニアのモル濃度は、0.0002~0.5モル%であることがより好ましく、0.0002~0.2モル%であることがさらに好ましい。
好適な亜酸化窒素含有ガスに含まれる水蒸気に対するアンモニアの含有量比[アンモニア/水蒸気]は、特に制限されず適宜に設定できるが、亜酸化窒素の分解効率の点から、モル比で、0.0010以上であることが好ましい。モル比で、0.0010~0.050であることがより好ましく、残存するアンモニアの問題(大気中への排出、除去作業の実施)を抑制または回避できる点で、0.0010~0.030であることがより好ましく、0.0010~0.010であることがさらに好ましい。また、好適な亜酸化窒素含有ガスに含まれる亜酸化窒素に対するアンモニアの含有量比[アンモニア/亜酸化窒素]は、特に制限されず適宜に設定できるが、モル比で、0.005~10であることが好ましい。
【0035】
好適な亜酸化窒素含有ガスが酸素ガスを含む場合、好適な亜酸化窒素含有ガス中の酸素ガスの含有量は、特に制限されず適宜に設定できるが、好適な亜酸化窒素含有ガス中のアンモニアの含有量に対して0.01~10000モル倍であることが好ましい。好適な亜酸化窒素含有ガスが酸素ガスを含んでいない場合、例えば、好適な亜酸化窒素含有ガスと酸素含有ガスとを混合して得ることができる。酸素含有ガスとしては、空気が挙げられる。
【0036】
好適な亜酸化窒素含有ガスは、亜酸化窒素の分解効率をさらに高めるために還元性ガスを含有させることもできる。また、同様に亜酸化窒素の分解効率をさらに高めるために亜酸化窒素含有ガス中に含有されるあるいは反応器内で発生する酸素と反応して一酸化炭素ガスなどの還元性ガスを発生させる原料となる飽和炭化水素ガスを含有させることもできる。亜酸化窒素の分解効率においては、好適な亜酸化窒素含有ガスに還元性ガスを含有させる方法が好ましい。還元性ガスとしては、アンモニア以外の還元性ガスであればよく、一般的な接触還元法に用いられるものを特に制限されずに用いることができる。例えば、エチレン、プロピレン、α-ブチレン、β-ブチレンなどの不飽和炭化水素ガス、一酸化炭素ガス、水素ガス、さらには、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール化合物のガスなどが挙げられる。中でも、一酸化炭素ガス、不飽和炭化水素ガスおよび水素ガスの少なくとも1種が好ましい。また、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスを発生させる原料となる飽和炭化水素ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、n-ブタンなどが挙げられる。好ましい飽和炭化水素ガスとしては、エタン、プロパン、n-ブタンが挙げられる。飽和炭化水素ガスの含有には、例えば天然ガス、液化天然ガス、液化石油ガスのような混合物を用いてもよい。
好適な亜酸化窒素含有ガス中の還元性ガスまたは飽和炭化水素ガスの含有量は、特に制限されず、適宜に設定できる。例えば、好適な亜酸化窒素含有ガス中の還元性ガスまたは飽和炭化水素ガスのモル濃度は、0.001~1モル%である。好適な亜酸化窒素含有ガス中の、水蒸気に対する還元性ガスまたは飽和炭化水素ガスのモル比[還元性ガスまたは飽和炭化水素ガス/水蒸気]は、0.0003~0.03であることが好ましい。また、好適な亜酸化窒素含有ガスに含まれる亜酸化窒素に対する還元性ガスまたは飽和炭化水素ガスの含有量比[還元性ガスまたは飽和炭化水素ガス/亜酸化窒素]は、モル比で、0.01~100であることが好ましい。
【0037】
亜酸化窒素含有ガスは、亜酸化窒素、更に、水蒸気、アンモニア、その他の上記ガスを適宜に混合して調製することができる。また、化学品製造プラントから排出される各種排ガスを用いることもできる。例えば、硝酸の製造工場、ε-カプロラクタムの製造工場、アジピン酸の製造工場などの化学品製造プラントから排出されるガスは、亜酸化窒素に加えて、水蒸気およびアンモニア、更には酸素ガスを含有していることが多く、後述する好ましい接触工程に有効活用できる。特に、排ガスが上記範囲の含有量、含有量比などを満たす場合、含有量調整などをせずにそのまま好ましい接触工程に適用できる点で好ましい。
【0038】
<接触工程>
接触工程は、亜酸化窒素分解用触媒と、亜酸化窒素を含む亜酸化窒素含有ガスとを接触させる工程であればよく、用いる亜酸化窒素分解用触媒が上記再生触媒であること以外は、公知の亜酸化窒素の分解方法における接触工程を適用できる。公知の亜酸化窒素の分解方法における接触工程としては、例えば、特許文献1に記載の、還元性ガスの共存下で触媒と亜酸化窒素を接触させる方法(工程)が挙げられる。本発明における接触工程は、亜酸化窒素分解用再生触媒と、亜酸化窒素、水蒸気およびアンモニアを含む亜酸化窒素含有ガスとを接触させる工程が好ましい(「好ましい接触工程」ということがある。)。
接触工程においては、亜酸化窒素含有ガスと上記再生触媒とを接触させる。
接触させる方法は、特に制限されず、例えば、バッチ式でも連続式でもよく、反応効率の点で連続式が好ましい。連続式としては、例えば、固定床形式、流動床形式が挙げられる。
【0039】
接触工程において、亜酸化窒素含有ガス中の亜酸化窒素が再生触媒に接触することより、水蒸気の共存下であっても、下記式に示す亜酸化窒素の分解反応が生起して、亜酸化窒素が窒素分子と酸素分子とに効率よく分解される。

亜酸化窒素の分解反応:NO → N + 1/2O

上記好ましい接触工程において、亜酸化窒素含有ガス中のアンモニアは、亜酸化窒素の分解反応をさらに促進させる。その作用メカニズムの詳細はまだ明らかではないが、次のように考えられる。例えば、ルテニウムを担持した触媒などのように還元作用を示す触媒の存在下においては、アンモニアが触媒表面で亜酸化窒素と反応することにより、亜酸化窒素を窒素分子と水分子に分解して亜酸化窒素の分解反応をさらに促進できると推定される。一方、酸化ルテニウムを担持した触媒などのように還元作用を示さない触媒の存在下においては、触媒表面に残存する酸素原子と反応することにより触媒表面から酸素原子を除去して触媒活性を持続させ(触媒の失活を抑制し)、上記分解反応を促進できると推定される。
【0040】
接触工程として公知の工程を適用する場合、接触方法および接触条件は各工程において採用可能な適宜の方法および条件を適宜に採用できる。
好ましい接触工程における接触条件としては、特に制限されないが、例えば、下記条件が挙げられる。接触温度(反応温度)は、適宜に決定されるが、触媒活性劣化の観点から500℃以下が好ましく、反応速度の観点から100℃以上が好ましい。接触温度は、好ましくは200~450℃であり、より好ましくは250~400℃である。連続式接触方法における、触媒重量に対する亜酸化窒素含有ガスの供給速度は、特に制限されず適宜に決定され、例えば、触媒1gに対する、0℃、0.1013MPa(absolute)での流量として、10~10000cm/分であることが好ましく、50~5000cm/分であることがより好ましい。接触時間は、亜酸化窒素含有ガス中の亜酸化窒素濃度もしくは供給速度、接触温度等に応じて適宜に決定される。反応圧力は、接触温度、亜酸化窒素含有ガスの供給速度や反応器周辺の外気の圧力などによって変動するが、外気より高い圧力が好ましく、好ましくは絶対圧で0.08~1MPa(absolute)であり、より好ましくは絶対圧で0.09~0.7MPa(absolute)である。
【0041】
<その他の工程>
本発明の分解方法は、再生方法および接触工程以外の工程を有していてもよい。例えば、上述の未使用触媒を用いた接触工程、亜酸化窒素含有ガスの成分含有量を調整する工程、亜酸化窒素含有ガスに酸素ガスまたは還元性ガスを導入する工程などが挙げられる。
【0042】
本発明の分解方法において、再生方法と接触工程とは、同じ装置(反応器)で行うこともでき、異なる装置で行うこともできる。再生方法および接触工程を連続式で行う場合、供給するガスを変更することで簡便に移行できる点で、同じ装置で行うことが好ましい。連続式で接触工程を行う場合、金属管、カラム塔などの管状もしくは塔型の反応器を用いることができ、より具体的には各種の固定層反応器を用いることができる。
【0043】
本発明の分解方法は、亜酸化窒素の分解工程により失活した触媒活性を回復する工程を有しており、亜酸化窒素分解用触媒を亜酸化窒素の分解工程に再使用することができる。そのため、本発明の分解方法は、亜酸化窒素の分解コストの低減、更に触媒の廃棄量削減も可能となる。また、再生方法により劣化触媒を効率よく再生できるため、分解工程における分解効率の低下を抑えながらも亜酸化窒素を分解することができ、複数回の分解工程を連続して実施することも可能となる。
特に、連続式では、亜酸化窒素含有ガスを触媒中に流通(通過)させることにより、亜酸化窒素を効率よく分解でき、亜酸化窒素の排出を抑制できる。また、好ましい接触工程では、亜酸化窒素含有ガス中のアンモニアも効率よく分解することができ、アンモニアの排出を抑制できる。
【0044】
本発明の分解方法は、亜酸化窒素を分解、除去する各種の分野、用途、例えば化学品製造プラントに用いることができる。特に、亜酸化窒素、アンモニアおよび水蒸気を含有するガスを排出する、硝酸の製造工場、ε-カプロラクタムの製造工場、アジピン酸の製造工場などの化学品製造プラントに好適に用いることができる。
本発明の分解方法を既存の製造プラントに適用する場合、本発明の分解方法を行う装置の設置位置は、特に制限されないが、通常、排ガスの流通方向の最後段、例えば排出塔の前段に組み込まれる。具体的には、硝酸の製造プラントであれば、脱硝反応器の後段に組み込まれる。
【実施例0045】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0046】
亜酸化窒素の分解反応の空間速度GHSV(h-1)は、反応ガスの供給速度(cm(0℃、0.1013MPa(absolute))/時間)を触媒体積(cm)で除することにより算出した。
【0047】
亜酸化窒素の分解反応後の反応出口ガス(反応後ガス)を以下のようにして分析した。亜酸化窒素含有ガス中の亜酸化窒素の濃度Cと、反応出口ガス中の亜酸化窒素の濃度Cの分析は、ガスクロマトグラフィ(VARIAN社製、マイクロGC(検出器:マイクロTCD、カラム:CP-PoraPLOT Q 10m))を用いて行った。そして、分析された亜酸化窒素の濃度から、亜酸化窒素濃度の減少率を下記式から算出した。

亜酸化窒素濃度の減少率X(%)=[(C-C)/C]×100
【0048】
反応速度定数(s-1)は、亜酸化窒素の減少率X(%)、反応ガスの空間速度GHSV(h-1)とから、下記式で求めた。

反応速度定数(s-1)=-ln(1-X/100)/(3600/GHSV)

ここで、ln(1-X/100)は、(1-X/100)の自然対数を表す。
【0049】
<製造例1>
以下のようにして、亜酸化窒素分解用触媒としてRuO/TiO触媒を製造し、亜酸化窒素の分解反応に使用し、劣化させた。
【0050】
(亜酸化窒素分解用新品触媒(a)の作製)
酸化チタン粉末(昭和電工社製)が押出成形された酸化チタン成形体(直径3mm、長さ4~6mmの円柱形ペレット状)を触媒の担体とした。
塩化ルテニウム水和物1.6g(フルヤ金属社製、RuCl・nHO、Ru含有量40%)を、イオン交換水4.0gに溶解させた。得られた溶液を、インシピエントウェットネス法により、酸化チタンで形成された担体20.0gに含浸させた後、空気雰囲気下、室温(25℃)で一晩風乾することで、塩化ルテニウム水和物を担持した酸化チタン固体を得た。
得られた固体を、内温測定用のさや管を具備した石英製ガラス管に充填した後、電気管状炉を用いて、200cm(0℃、0.1013MPa(absolute))/分の空気流通下、炉温250℃まで昇温し、次いで、同温度で2時間保持することで焼成した。電気管状炉温250℃における石英製ガラス管内温は275℃であった。焼成により、酸化ルテニウムを4.0質量%含むRuO/TiO触媒20.9g(Ru含有量3.0質量%、円柱形ペレット状)を得た。得られた円柱形ペレット状のRuO/TiO触媒を粉砕し、1.0~1.7mmの顆粒に篩い分けることで得られた新品触媒(a)を以下の例で使用した。
【0051】
(新品触媒を用いた接触工程)
得られた新品触媒(a)0.06g(0.05cm)を、内温測定用の石英ガラス製さや管を具備した石英ガラス製反応管(内径8mm)に充填した。この反応管を電気炉に設置し、常圧(0.1MPa(absolute))、100cm(0℃、0.1013MPa(absolute))/分のヘリウムガスを流通し、石英ガラス製反応管の内温が300℃になるまで昇温した。次いで、同圧力および同温度で、新品触媒(a)に接触させるガスを、亜酸化窒素0.10モル%、酸素1.50モル%および残分窒素(流量:24.6cm(0℃、0.1013MPa(absolute))/分)の混合ガスに切り替えて、亜酸化窒素の分解反応を行った。この分解反応において、分解反応が安定しはじめた時の反応速度定数は、5.8s-1であった。分解反応が安定しはじめた時は、反応速度定数のばらつきが±1%以下となった時とした。
【0052】
<製造例2>
(新品触媒を用いた接触工程)
上記製造例1で得られた円柱形ペレット状のRuO/TiO触媒1.24g(1.0cm)を、内温測定用のステンレス製さや管を具備したステンレス製反応管(内径156mm)に充填した。この反応管を電気炉内に設置し、常圧(0.1MPa(absolute))、500cm(0℃、0.1013MPa(absolute))/分の窒素ガス流通下、ステンレス製反応管内温が300℃になるまで昇温した。次いで、同圧力および同温度で、RuO/TiO触媒に接触させるガスを、硝酸製造プラントの排ガスに切り替えて、亜酸化窒素の分解を行った。
硝酸製造プラントの排ガスをガスサンプリングバッグに採取し、排ガスをガスクロマトグラフィおよびガス検知管(水蒸気6、アンモニア3M)を用いて分析した結果、排ガスの主成分は窒素であり、亜酸化窒素0.01モル%、酸素1.50モル%、水蒸気0.40モル%、アンモニア0.05モル%を含んでいた。
亜酸化窒素の分解反応開始から400時間後に反応管から取り出した円柱形ペレット状のRuO/TiO触媒を粉砕し、1.0~1.7mmの顆粒に篩い分けることで劣化触媒(b)を得た。
【0053】
(2回目の接触工程)
得られた劣化触媒(b)0.06g(0.05cm)を、内温測定用の石英ガラス製さや管を具備した石英ガラス製反応管(内径8mm)に充填した。この反応管を電気炉に設置し、常圧(0.1MPa(absolute))、100cm(0℃、0.1013MPa(absolute))/分のヘリウムガスを流通し、石英ガラス製反応管の内温が300℃になるまで昇温した。次いで、同圧力および同温度で、劣化触媒(b)に接触させるガスを、亜酸化窒素0.10モル%、酸素1.50モル%、残分窒素(流量:24.6cm(0℃、0.1013MPa(absolute))/分)の混合ガスに切り替えて、2回目の、亜酸化窒素の分解反応を行った。この分解反応において、分解反応が安定しはじめた時の反応速度定数は、5.1s-1であった。分解反応が安定しはじめた時は、反応速度定数のばらつきが±1%以下となった時とした。
【0054】
<実施例1>
(再生工程)
上記製造例2で得た劣化触媒(b)0.06g(0.05cm)を、内温測定用の石英ガラス製さや管を具備した石英ガラス製反応管(内径26.5mm)に充填した。この反応管を電気炉内に設置し、常圧(0.1MPa(absolute))、6.8cm(0℃、0.1013MPa(absolute))/分の空気を流通し、電気炉温度が200℃になるまで昇温した後、温度200℃にて3時間熱処理を実施して再生触媒1を得た。
(接触工程)
得られた再生触媒1を、内温測定用の石英ガラス製さや管を具備した石英ガラス製反応管(内径8mm)に充填した。この反応管を電気炉に設置し、常圧(0.1MPa(absolute))、100cm(0℃、0.1013MPa(absolute))/分のヘリウムガスを流通し、石英ガラス製反応管の内温が300℃になるまで昇温した。次いで、同圧力および同温度で、再生触媒1に接触させるガスを、亜酸化窒素0.10モル%、酸素1.50モル%、残分窒素(流量:24.6cm(0℃、0.1013MPa(absolute))/分)の混合ガスに切り替えて、亜酸化窒素の分解反応を行った。この分解反応において、分解反応が安定しはじめた時の反応速度定数は7.0s-1であった。分解反応が安定しはじめた時は、反応速度定数のばらつきが±1%以下となった時とした。この反応速度定数について、製造例1における新品触媒(a)を用いた亜酸化窒素の分解反応の反応速度定数(5.8s-1)を1とした場合の再生触媒1の再生率を表1に示す。
【0055】
<実施例2>
実施例1の再生工程において、電気炉温度が250℃になるまで昇温した後、温度250℃にて3時間熱処理を実施して再生触媒2を得たこと以外は、実施例1と同様にして、再生工程および亜酸化窒素の接触工程を行った。この分解反応において、分解反応が安定しはじめた時の反応速度定数は6.9s-1であった。分解反応が安定しはじめた時は、反応速度定数のばらつきが±1%以下となった時とした。この反応速度定数について、製造例1における新品触媒(a)を用いた亜酸化窒素の分解反応の反応速度定数を1とした場合の再生触媒2の再生率を表1に示す。
【0056】
<実施例3>
実施例1の再生工程において、電気炉温度が300℃になるまで昇温した後、温度300℃にて3時間熱処理を実施して再生触媒3を得たこと以外は、実施例1と同様にして、再生工程および亜酸化窒素の接触工程を行った。この分解反応において、分解反応が安定しはじめた時の反応速度定数は7.9s-1であった。分解反応が安定しはじめた時は、反応速度定数のばらつきが±1%以下となった時とした。この反応速度定数について、製造例1における新品触媒(a)を用いた亜酸化窒素の分解反応の反応速度定数を1とした場合の再生触媒3の再生率を表1に示す。
【0057】
<比較例1>
実施例1の再生工程において、電気炉温度が150℃になるまで昇温した後、温度150℃にて3時間熱処理を実施して再生触媒C1を得たこと以外は、実施例1と同様にして、再生工程および亜酸化窒素の接触工程を行った。この分解反応において、分解反応が安定しはじめた時の反応速度定数は5.1s-1であった。分解反応が安定しはじめた時は、反応速度定数のばらつきが±1%以下となった時とした。この反応速度定数について、製造例1における新品触媒(a)を用いた亜酸化窒素の分解反応の反応速度定数を1とした場合の再生触媒C1の再生率を表1に示す。
【0058】
<比較例2>
実施例1の再生工程において、電気炉温度が350℃になるまで昇温した後、温度350℃にて3時間熱処理を実施して再生触媒C2を得たこと以外は、実施例1と同様にして、再生工程および亜酸化窒素の接触工程を行った。この分解反応において、分解反応が安定しはじめた時の反応速度定数は1.7s-1であった。分解反応が安定しはじめた時は、反応速度定数のばらつきが±1%以下となった時とした。この反応速度定数について、製造例1における新品触媒(a)を用いた亜酸化窒素の分解反応の反応速度定数を1とした場合の再生触媒C2の再生率を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示す結果から明らかなように、酸化性ガスの雰囲気下であっても、熱処理温度が低すぎるか、高すぎると、亜酸化窒素の分解反応に使用した劣化触媒(b)を効率よく再生することができず、得られた再生触媒C1およびC2を亜酸化窒素の分解反応に供しても反応速度定数が小さく亜酸化窒素を効率よく分解できない(亜酸化窒素分解用触媒の再生率が低い)ことが分かる。
これに対して、酸化性ガスの雰囲気下において200~300℃の温度範囲で劣化触媒(b)を熱処理すると、3時間の熱処理であっても、劣化触媒(b)を効率よく再生することができ、得られた再生触媒1~3を亜酸化窒素の分解反応に供すると、反応速度定数が大きく亜酸化窒素を効率よく分解できる(亜酸化窒素分解用触媒の再生率が高い)。また、再生触媒1~3の反応速度定数は、製造例2において、劣化触媒(b)の再生工程を行わずに連続して行った2回目の亜酸化窒素の分解反応における反応速度定数5.1s-1よりも大きく、劣化触媒(b)の触媒活性を回復できていることが分かる。
上述の結果から、亜酸化窒素の分解工程に用いて触媒活性が一旦低下した触媒であっても、再生工程を行うことにより、亜酸化窒素分解用触媒の触媒活性を回復することができ、亜酸化窒素の分解コスト及び劣化触媒の廃棄量を低減できることが分かる。また、分解工程における分解効率の低下を抑えながらも亜酸化窒素を分解することができ、複数回の分解工程を連続実施も可能となる。