(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072900
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】導電性ペーストおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20230518BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230518BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20230518BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230518BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B13/00 Z
B22F9/00 B
B22F1/00 K
B22F1/00 L
B22F1/00 M
H01G4/30 201D
H01G4/30 516
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185608
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相川 達男
(72)【発明者】
【氏名】大和田 夏美
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E001
5E082
5G301
【Fターム(参考)】
4K017AA03
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5G301DE01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】導電性金属粉末とセラミック粉末との分離を抑制可能な導電性ペースト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】導電性ペーストは、導電性金属粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂、および有機溶剤を含む。バインダー樹脂は、セルロース樹脂、アセタール樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。有機溶剤は、テルペン系溶剤からなる第一溶剤、石油系炭化水素からなる第二溶剤、並びに、前記第一溶剤および前記第二溶剤と異なる第三溶剤を含有する。バインダー樹脂と有機溶剤とからなる有機ビヒクルの25℃におけるHuggins係数が0.80以上1.20以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂、および有機溶剤を含み、
前記バインダー樹脂は、セルロース樹脂、アセタール樹脂、およびアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であり、および、
前記有機溶剤は、テルペン系溶剤からなる第一溶剤と、石油系炭化水素からなる第二溶剤と、前記第一溶剤および前記第二溶剤とは異なる第三溶剤とを含有する混合溶剤により構成される、
導電性ペーストであって、
該導電性ペーストを内径3cmの無色透明のガラス製容器内に密閉し、25℃で48時間静置したときに、容器の側面から観察される分離したセラミック粉末層の厚さをLc、導電性ペースト全体の厚さをLpとした場合に、式:S=Lc/(Lc+Lp)×100により求まる値である分離量Sが、4.0%以下である、
導電性ペースト。
【請求項2】
前記混合溶剤は、前記第一溶剤を40質量%以上60質量%以下、前記第二溶剤を10質量%以上40質量%以下、および前記第三溶剤を0を超えて50質量%以下含有する、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記バインダー樹脂および前記有機溶剤により構成される有機ビヒクルの25℃におけるHuggins係数が0.80以上1.20以下である、請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記導電性金属粉末は、ニッケル、銅、金、銀、白金およびパラジウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記導電性金属粉末は、平均粒径が0.05μm以上0.5μm以下である、請求項1~4のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項6】
前記導電性ペーストの全量に対する前記導電性金属粉末の含有量は、30質量%以上70質量%以下である、請求項1~5のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項7】
前記導電性ペーストの全量に対する前記バインダー樹脂の含有量は、1質量%以上5質量%以下である、請求項1~6のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項8】
前記セラミック粉末は、チタン酸バリウム粉末を含む、請求項1~7のいずれかに導電性ペースト。
【請求項9】
前記セラミック粉末は、平均粒径が0.01μm以上0.2μm以下である、請求項1~8のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項10】
前記導電性金属粉末100質量部に対して、前記セラミック粉末を3質量部以上25質量部以下含有する、請求項1~9のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項11】
25℃でのずり速度100sec-1における粘度が、0.8Pa・s以下であり、および、25℃でのずり速度10000sec-1における粘度が、0.18Pa・s以下である、請求項1~10のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項12】
導電性金属粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂、および有機溶剤を含む導電性ペーストの製造方法であって、
前記バインダー樹脂を、セルロース樹脂、アセタール樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種とし、
前記有機溶剤を、テルペン系溶剤からなる第一溶剤と、石油系炭化水素からなる第二溶剤と、および、前記第一溶剤および前記第二溶剤とは異なる第三溶剤とを含有する混合溶剤により構成し、
前記バインダー樹脂および前記有機溶剤により構成される有機ビヒクルの25℃におけるHuggins係数が0.80以上1.20以下となるように、前記第三溶剤の種類、並びに、前記第一溶剤、前記第二溶剤および前記第三溶剤の配合率を設定し、かつ、
前記導電性金属粉末と、前記セラミック粉末と、前記分散剤と、前記バインダー樹脂と、前記有機溶剤とを混合する、
工程を含む、
導電性ペーストの製造方法。
【請求項13】
前記有機溶剤において、前記第一溶剤を40質量%以上60質量%以下、前記第二溶剤を10質量%以上40質量%以下、および前記第三溶剤を0を超えて50質量%以下含有させる、請求項12に記載の導電性ペーストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサを含む電子部品の内部電極の材料として用いられる、導電性ペーストおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタル機器などの電子機器の小型化および高性能化に伴い、これらの機器を構成する電子部品についても小型化、高容量化、および高性能化が望まれている。このような要求を満たすため、たとえば、電子部品の1つである積層セラミックコンデンサ(Multilayered Ceramic Capacitor、以下「MLCC」という。)においては、内部電極層および誘電体層の薄層化および多層化が行われている。
【0003】
MLCCは、たとえば、次のように製造される。まず、チタン酸バリウム(BaTiO3)などの誘電体粉末およびバインダー樹脂を含有する誘電体グリーンシートの表面上に、内部電極用の導電性ペーストを所定の電極パターンで印刷(塗布)し、乾燥して、乾燥膜を形成する。この乾燥膜と誘電体グリーンシートとが交互に重なるように積層し、加熱圧着して一体化し、圧着体を形成する。この圧着体を所定のサイズに切断してグリーンチップとし、酸化性雰囲気または不活性雰囲気中にて、500℃以下で脱バインダー処理を行う。その後、内部電極が酸化しないように、還元性雰囲気または不活性雰囲気中にて、1300℃程度で焼成する。そして、焼成後のグリーンチップの両端に導電性ペーストを塗布し、焼成して外部電極を形成した後、この外部電極の表面にニッケルメッキなどを施して、MLCCが完成する。
【0004】
ところで、誘電体セラミック粉末の焼結および収縮が開始する温度(以下、「焼結開始温度」という)は1200℃程度であり、導電性金属粉末の焼結開始温度との差が大きい。このため、焼成後のグリーンチップには、デラミネーション(層間剥離)やクラックなどの構造欠陥が生じやすい。特に、電子機器の小型化および高性能化に対応するため、内部電極層と誘電体層を多層化するほど、また誘電体層が薄層化するほど、上述した構造欠陥の発生が顕著となる。
【0005】
このような問題に対して、通常、内部電極用の導電性ペーストには、誘電体層と組成が類似するチタン酸バリウム系またはジルコン酸ストロンチウム系のペロブスカイト型酸化物を主成分とするセラミック粉末が添加される。これにより、導電性ペーストの焼結開始温度を、少なくとも誘電体層の焼結開始温度付近まで遅延させることができ、上述した構造欠陥を抑制することが可能となる。
【0006】
しかしながら、導電性ペーストの焼結開始温度を遅延させるために添加したセラミック粉末の粒子径や比重が、導電性金属粉末の粒子径や比重と大きく異なる場合、導電性ペーストの分散安定性が低下し、セラミック粉末と導電性金属粉末とが分離することがある。このような分離が生じると、導電性ペーストを印刷し、乾燥することにより得られる乾燥膜中でセラミック粉末が偏在し、導電性ペーストの焼結開始温度を制御することが困難となる。
【0007】
特開2019-179683号公報には、導電性ペーストに対して遠心沈降処理を施したときの導電性粉末および誘電体粉末の遠心沈降挙動を、遠心沈降方向に沿う透過率分布に基づいて算出される積分透過率の単位時間当たりの変化量として定義される透過率変化速度により評価したとき、透過率変化速度が、0.003以下となるように調製することによって、導電性ペーストの分散安定性を改善する技術が記載されている。
【0008】
特開2012-174797号公報には、分離抑制剤として、ポリカルボン酸ポリマーまたはポリカルボン酸の塩を添加することにより、グラビア印刷用導電性ペーストにおいて、導電性粉末と誘電体粉末との分離を抑制する技術が記載されている。
【0009】
特開2020-080266号公報には、分散剤として特定のアルキルアミド型分散剤を用いることにより、形成した塗膜の微粒子分布の偏りを抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-179683
【特許文献2】特開2012-174797
【特許文献3】特開2020-080266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した先行技術では、導電性金属粉末とセラミック粉末との分離をある程度抑制することは可能であるが、内部電極層と誘電体層が多層化し、誘電体層が薄層化する状況においては、導電性ペーストにおける、導電性金属粉末とセラミック粉末との分離のさらなる抑制を図ることが求められている。すなわち、本発明は、MLCCなどの電子部品において、内部電極層および誘電体層を多層化並びに薄層化した構造であっても好適に適用できる、導電性金属粉末とセラミック粉末との分離を十分に抑制可能な導電性ペーストおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様の導電性ペーストは、
導電性金属粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂、および有機溶剤を含み、
前記バインダー樹脂は、セルロース樹脂、アセタール樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であり、および、
前記有機溶剤は、テルペン系溶剤からなる第一溶剤と、石油系炭化水素からなる第二溶剤と、前記第一溶剤および前記第二溶剤とは異なる第三溶剤とを含有する混合溶剤により構成される。
【0013】
特に、本発明の一態様の導電性ペーストでは、該導電性ペーストを内径3cmの無色透明のガラス製容器内に密閉し、25℃で48時間静置したときに、容器の側面から観察される分離したセラミック粉末層の厚さをLc、導電性ペースト全体の厚さをLpとした場合に、式:S=Lc/(Lc+Lp)×100により求まる値である分離量Sが、4.0%以下である。
【0014】
前記有機溶剤は、前記第一溶剤を40質量%以上60質量%以下、前記第二溶剤を10質量%以上40質量%以下、および前記第三溶剤を0を超えて50質量%以下含有することが好ましい。
【0015】
前記バインダー樹脂および前記有機溶剤により構成される有機ビヒクルの25℃におけるHuggins係数が0.80以上1.20以下であることが好ましい。
【0016】
前記導電性金属粉末は、ニッケル、銅、金、銀、白金、およびパラジウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0017】
前記導電性金属粉末の平均粒径は、0.05μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
【0018】
前記導電性ペーストの全量に対する前記導電性金属粉末の含有量は、30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
【0019】
前記導電性ペーストの全量に対する前記バインダー樹脂の含有量は、1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0020】
前記セラミック粉末は、チタン酸バリウム粉末を含むことが好ましい。
【0021】
前記セラミック粉末の平均粒径は、0.01μm以上0.2μm以下であることが好ましい。
【0022】
前記導電性金属粉末100質量部に対して、前記セラミック粉末を3質量部以上25質量部以下含有することが好ましい。
【0023】
該導電性ペーストは、25℃でのずり速度(せん断速度)100sec-1における粘度が、0.8Pa・s以下であることが好ましい。また、該導電性ペーストは、25℃でのずり速度10000sec-1における粘度が、0.18Pa・s以下であることが好ましい。
【0024】
該導電性ペーストの印刷および乾燥後に得られる乾燥膜の乾燥膜密度(DFD)が、5.0g/cm3よりも大きいことが好ましい。また、該乾燥膜の算術平均粗さSaが0.25μm以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の一態様の導電性ペーストの製造方法は、導電性金属粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂、および有機溶剤を含む導電性ペーストの製造方法であって、
前記バインダー樹脂を、セルロース樹脂、アセタール樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種とし、
前記有機溶剤を、テルペン系溶剤からなる第一溶剤と、石油系炭化水素からなる第二溶剤と、および、前記第一溶剤および前記第二溶剤とは異なる第三溶剤とを含有する混合溶剤により構成し、
前記バインダー樹脂および前記有機溶剤により構成される有機ビヒクルの25℃におけるHuggins係数が0.80以上1.20以下となるように、前記第三溶剤の種類、並びに、前記第一溶剤、前記第二溶剤、および前記第三溶剤の配合率を設定し、かつ、
前記導電性金属粉末と、前記セラミック粉末と、前記分散剤と、前記バインダー樹脂と、前記有機溶剤とを混合する。
【0026】
前記有機溶剤において、前記第一溶剤を40質量%以上60質量%以下、前記第二溶剤を10質量%以上40質量%以下、および前記第三溶剤を0を超えて50質量%以下含有させることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様によれば、導電性金属粉末とセラミック粉末との分離を十分に抑制可能な導電性ペーストおよびその製造方法を提供することができる。かかる導電性ペーストは、MLCCなどの電子部品の内部電極のさらなる薄層化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施態様の一例に係る導電性ペーストを用いたMLCCの外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例および比較例の導電性ペーストの分離評価の結果をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態の一例に係る導電性ペーストおよびその製造方法について説明する。
【0030】
1.導電性ペースト
本例の導電性ペーストは、導電性金属粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂、および有機溶剤を含む。バインダー樹脂は、セルロース樹脂、アセタール樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。有機溶剤は、テルペン系溶剤からなる第一溶剤、石油系炭化水素からなる第二溶剤、および、第一溶剤と第二溶剤とは異なる第三溶剤を含有する混合溶剤により構成される。本例の導電性ペーストでは、バインダー樹脂と有機溶剤とを混合して有機ビヒクルとした場合に、この有機ビヒクルの25℃におけるHuggins係数が0.80以上1.20以下であることを特徴とする。
【0031】
(1)構成成分
はじめに、本例の導電性ペーストを構成する各成分について説明する。
【0032】
[導電性金属粉末]
導電性金属粉末は、MLCCなどの電子部品の電極として用いられる。導電性金属粉末は、特に限定されることはなく、たとえば、ニッケル、銅、金、銀、白金、およびパラジウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。一例では、ニッケル、銅、金、銀、もしくは白金の金属粉末、または、これらの金属を含む合金粉末を用いることができる。特に、本例の導電性ペーストを用いて高容量を有する高積層のMLCCを製造する場合には、比較的低コストのニッケルや銅を用いることが好ましい。
【0033】
導電性金属粉末の平均粒径は、特に限定されず、目的とする電子部品に応じて、適宜選択することができる。たとえば、本例の導電性ペーストを用いて高積層のMLCCを製造する場合、導電性金属粉末の平均粒径は、0.05μm以上0.5μm以下であることが好ましい。導電性金属粉末の平均粒径が0.05μm未満では、導電性金属粉末の表面活性が高くなりすぎて、適正な粘度特性を得ることができなかったり、長期保存中に導電性ペーストが変質してしまったりするおそれがある。一方、導電性金属粉末の平均粒径が0.5μmを超えると、MLCCの薄層化が難しくなる。
【0034】
なお、導電性金属粉末の平均粒径は、走査電子顕微鏡(FE-SEM)による観察から求められる値であり、たとえば、FE-SEMを用いて倍率10,000倍で観察した画像から、無作為に選択した200個以上の導電性金属粉末の最大径を測定して、得られる算術平均値である。
【0035】
導電性ペーストの全量に対する導電性金属粉末の含有量は、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。導電性金属粉末の含有量が30質量%未満では、焼成時に電極膜の形成能力が低く、所定のコンデンサ容量を得ることが困難となるおそれがある。一方、導電性金属粉末の含有量が70質量%を超えると、電極膜の薄層化が困難となる。
【0036】
[セラミック粉末]
セラミック粉末は、MLCCにおいて、導電性ペーストの焼結開始温度を、誘電体グリーンシートを構成する誘電体セラミック粉末の焼成開始温度まで遅延させるための焼結抑制剤として用いられる。セラミック粉末としては、ペロブスカイト型酸化物であるチタン酸バリウム(BaTiO3)や、チタン酸バリウムを主成分とし、酸化物を副成分として含むセラミック粉末を用いることもできる。酸化物としては、Mn、Cr、Si、Ca、Ba、Mg、V、W、Ta、Nb、および1種類以上の希土類元素の酸化物が挙げられる。また、セラミック粉末としては、たとえば、チタン酸バリウム(BaTiO3)のBa原子やTi原子を他の原子、たとえば、Sn、Pb、Zrなどで置換したペロブスカイト型酸化物強誘電体のセラミック粉末を用いることもできる。
【0037】
セラミック粉末としては、MLCC用の誘電体層グリーンシートの主成分として用いられるセラミック粉末と同組成またはこれと類似する組成のものを用いることが好ましい。
【0038】
セラミック粉末の平均粒径は、0.01μm以上0.2μm以下であることが好ましい。セラミック粉末の平均粒径が0.01μm未満では、導電性ペーストの焼結遅延効果を十分に得ることができず、デラミネーションやクラックなどの構造欠陥が生じるおそれがある。また、乾燥膜密度が低下したり、セラミック粉末が凝集しやすくなり、誘電体層の薄膜化が困難になったりするおそれがある。この結果、絶縁抵抗の低下やショート率の上昇などにより、MLCCの信頼性が低下する。一方、セラミック粉末の平均粒径が0.2μmを超えると、セラミック粉末が導電性金属粉末の接触点間に入り込みにくくなり、乾燥膜密度が低下するおそれがある。また、焼結遅延効果を十分に得ることができないおそれがある。
【0039】
なお、セラミック粉末の平均粒径は、走査電子顕微鏡(FE-SEM)による観察から求められる値であり、たとえば、FE-SEMを用いて倍率10,000倍で観察した画像から、無作為に選択した200個以上のセラミック粉末の最大径を測定して、得られる算術平均値である。
【0040】
セラミック粉末の含有量は、導電性金属粉末100質量部に対して、3質量部以上25質量部以下であることが好ましい。セラミック粉末の含有量が3質量部未満では、焼結遅延効果を十分に得ることができず、焼成クラックが生じやすくなる。一方、セラミック粉末の含有量が25質量部を超えると、導電性ペーストを構成するセラミック粉末のグリーンシート(誘電体層)への拡散が大きくなり、セラミック粉末による導電性粉末の焼結開始を遅延させる効果が低下し、内部電極層の連続性が低下する、並びに、内部電極層に含まれるセラミック粉末と誘電体層中のセラミック粉末とが焼結することにより、誘電体層の厚さが増加し、導電性ペーストの組成にずれが生じるため、誘電率などの電気特性が低下したりするおそれがある。
【0041】
セラミック粉末としては、固相法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など種々の方法により製造されたものを使用することができる。セラミック粉末は、導電性ペーストを構成する他の成分と、粉末状で混合する、あるいは、ビーズミルや高圧ホモジナイザーなどの装置により分散および粉砕処理を施すことによりスラリー化した上で混合することができる。
【0042】
[分散剤]
分散剤は、導電性金属粉末やセラミック粉末を有機ビヒクル中に微細化した状態で安定して分散させるために添加される成分である。分散剤としては、たとえば、カチオン系分散剤、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤、両性界面活性剤、および高分子分散剤からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0043】
これらの中では、アニオン系分散剤を用いることが好ましい。アニオン系分散剤は、導電性金属粉末の表面への吸着力が大きく、その表面改質作用により導電性金属粉末の分散性を改善する作用を有するため、導電性ペーストの塗膜の平滑性や乾燥膜密度を向上させることができる。アニオン系分散剤としては、たとえば、カルボン酸系分散剤、燐酸系分散剤、および燐酸塩系分散剤から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0044】
分散剤の平均分子量は、200~20000の範囲にあることが好ましく、300~10000の範囲にあることがより好ましい。分散剤の平均分子量がこの範囲にある場合、分散剤が導電性金属粉末の表面に吸着することにより、導電性金属粉末に静電反発力や立体的反発力が付与され、分散性に優れた導電性ペーストを得ることができる。分散剤の平均分子量が200未満では、時間の経過とともに静電反発力や立体的反発力が低下し、導電性金属粉末の凝集により、導電性ペーストの分散性や保存安定性が低下しやすくなる。一方、分散剤の平均分子量が20000を超えると、有機ビヒクルと有機溶剤との相溶性が低下したり、導電性金属粉末の凝集により、導電性ペーストの分散性や保存安定性が低下しやすくなったりする。また、導電性ペーストの粘度が高くなりすぎるおそれがある。
【0045】
分散剤の含有量は、導電性金属粉末100質量部に対して0.01質量部以上2.00質量部以下であることが好ましく、0.20質量部以上1.00質量部以下であることがより好ましい。分散剤の含有量が0.01質量部未満では、十分な分散性が得られない場合がある。一方、分散剤の含有量が2.00質量部を超えると、導電性ペーストの乾燥に時間がかかるばかりでなく、乾燥膜密度が低下するおそれがある。
【0046】
[バインダー樹脂]
バインダー樹脂は、導電性金属粉末やセラミック粉末などの無機成分の分散媒体として機能する。バインダー樹脂としては、セルロース樹脂、アセタール樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。セルロース樹脂としては、エチルヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロースなどが挙げられる。アセタール樹脂としてはポリビニルブチラールなどが挙げられる。アクリル樹脂としては、ポリメタクリレート、ポリアクリレートなどが挙げられる。これらのうち、溶剤への溶解性、燃焼分解性の観点などから、エチルヒドロキシエチルセルロースあるいはエチルセルロースを用いることが好ましい。
【0047】
導電性ペーストの全量に対するバインダー樹脂の含有量は、特に限定されないが、1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。バインダー樹脂の含有量が1質量%未満だと、乾燥膜の強度が低下したり、内部電極層と誘電体層との密着性が悪化してはがれやすくなったりする。一方、バインダー樹脂の含有量が5質量%を超えると、バインダー樹脂の含有量が多くなり過ぎて脱バインダー性が悪化するおそれがある。なお、バインダー樹脂の含有量は、導電性粉末100質量部に対しては、好ましくは1質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上8質量部以下である。
【0048】
バインダー樹脂と有機溶剤とで有機ビヒクルを構成した場合における、有機ビヒクル中におけるバインダー樹脂の配合量は、1質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。これにより、適正な粘度の有機ビヒクルを作製することができる。有機ビヒクル中におけるバインダー樹脂の配合量は、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
[有機溶剤]
有機溶剤は、バインダー樹脂の樹脂成分を溶解するとともに、導電性ペースト中に導電性金属粉末およびセラミック粉末を分散させて、粘度を適切な範囲に調節し、所定のパターンで印刷できるようにする機能を有する。有機溶剤としては、バインダー樹脂を十分に溶解可能であり、かつ、経時的な粘度の変化が少ないものを用いることができる。なお、有機溶媒は、焼成時までに大気中に逸散する。
【0050】
本例の導電性ペーストにおいて、有機溶剤は、テルペン系溶剤からなる第一溶剤と、石油系炭化水素からなる第二溶剤と、前記第一溶剤および前記第二溶剤とは異なる第三溶剤とを含有する混合溶剤により構成される。これらの溶剤はバインダー樹脂のこれらの溶剤を適切な配合比で配合することにより、バインダー樹脂とこの混合溶剤からなる有機溶剤により構成される有機ビヒクルの25℃におけるHuggins係数を所定範囲に制御することにより、導電性ペーストにおける導電性金属粉末とセラミック粉末との分離を十分に抑制することが可能となる。
【0051】
第一溶剤は、バインダー樹脂に対して良溶媒であり、たとえば、テルペン系溶剤を挙げることができる。テルペン系溶剤としては、たとえば、ターピネオールおよびジヒドロターピネオールからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0052】
第二溶剤は、バインダー樹脂に対して貧溶媒であり、たとえば、石油系炭化水素を挙げることができる。石油系炭化水素からなる溶剤としては、ガソリン、灯油、コールタールナフサ、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレピン油、およびミネラルスピリットを挙げることができる。これらのうち、ミネラルスピリットを用いることが好ましい。ミネラルスピリットには、ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリット、ホワイトスピリット、ミネラルターペンなどがある。より具体的には、LAWS(Low Aromatic White Spirit(低芳香族ホワイトスピリット))およびHAWS(High Aromatic White Spirit(高芳香族ホワイトスピリット))がある。
【0053】
第三溶剤は、バインダー樹脂の溶解性の調整のために添加される。第三溶剤としては、たとえば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、デカノール、メチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセロール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアセテート、エチルアセテート、n-プロピルアセテート、イソプロピルアセテート、n-ブチルアセテート、イソブチルアセテート、n-ヘキシルアセテート、n-オクチルアセテート、2-エチルヘキシルアセテート、イソボルニルアセテート、p-トリルアセテート、リナリルアセテート、2-フルフリルアセテート、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸イソプロピル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、乳酸ヘキシル、アセチルアセトン、エチルアセトアセテート、n-プロピルアセトアセテート、イソプロピルアセトアセテート、n-ブチルアセトアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、n-プロピルプロピオネート、イソプロピルプロピルプロピオネート、n-ブチルプロピオネート、イソブチルプロピオネート、n-ヘキシルプロピオネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-ノナラクトン、γ-デカラクトン、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、1,4-ジアセトキシブタン、ヘキシレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンブリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレンブリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテートなどを用いることができる。
【0054】
これらの中でも、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-オクタノール、n-ヘキシルアセテート、n-オクチルアセテート、2-エチルヘキシルアセテート、イソボルニルアセテート、p-トリルアセテート、リナリルアセテート、フルフリルアセテート、乳酸ブチル、エチルアセトアセテート、n-プロピルアセトアセテート、イソプロピルアセテート、n-ブチルプロピオネート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが、バインダー樹脂の溶解性の観点から好ましい。
【0055】
本例の導電性ペーストにおいて、混合溶剤中におけるそれぞれの有機溶剤の配合量は、第一溶剤を40質量%以上60質量%以下、第二溶剤を10質量%以上40質量%以下、および第三溶剤を0を超えて50質量%以下とすることが好ましい。第一溶剤を45質量%以上55質量%以下、第二溶剤を10質量%以上30質量%以下、および第三溶剤を5質量%以上30質量%以下とすることがより好ましい。
【0056】
有機溶剤の含有量は、特に限定されないが、導電性ペーストの全量に対する導電性金属粉末の含有量が30質量%以上70質量%以下となるように設定することが好ましい。具体的には、有機溶剤の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、40質量部以上100質量部以下であることが好ましく、65質量部以上95質量部以下であることがより好ましい。有機溶剤の含有量がこの範囲である場合、導電性および分散性に優れた導電性ペーストが得られる。同様の理由から、有機溶剤の含有量は、導電性ペースト全体に対して、20質量%以上60質量%以下であることが好ましく、35質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。
【0057】
[その他の添加剤]
本例の導電性ペーストには、上述したもののほか、消泡剤、可塑剤、増粘剤、キレート剤などの導電性ペーストで公知の添加剤を加えることもできる。また、目的に応じて、上記した有機溶剤や有機バインダーとは異なる、追加の有機溶剤や有機バインダーを添加することも可能である。この場合には、これらの追加の有機溶剤や有機バインダーとしては、公知の種々の有機溶剤や有機バインダーを適用可能であるが、上述したものと同じ有機溶剤や有機バインダーを使用することが好ましく、上述した導電性ペーストへの有機溶剤や有機バインダーの配合量の範囲内で添加される。ただし、これらの追加の有機溶剤や有機バインダーに対しては、上述した説明(特に、樹脂バインダーおよび有機溶剤の配合量)並びに以下に説明するHuggins係数の説明は適用されない。
【0058】
(2)Huggins係数
本例の導電性ペーストでは、バインダー樹脂および有機溶剤により構成される有機ビヒクルにおいて、この有機ビヒクルの25℃におけるHuggins係数が、0.80以上1.20以下、好ましくは0.85以上1.20以下、より好ましくは0.90以上1.10以下となるように調整される。Huggins係数が0.8未満では、導電性金属粉末同士、セラミック粉末同士、および導電性金属粉末とセラミック粉末間の相互作用が十分に作用しないため、導電性ペーストにおける導電性金属粉末とセラミック粉末との分離を十分に抑制することができない。一方、Huggins係数が1.20を超えると、導電性金属粉末同士、セラミック粉末同士、および導電性金属粉末とセラミック粉末間の相互作用が強すぎ、適切な印刷特性が得られないという問題がある。
【0059】
ここで、Huggins係数(k´)は、高分子溶液の希薄領域における粘度式(Hugginsの式)の係数であり、高分子溶液の粘度をη(Pa・s)、溶媒の粘度をηs(Pa・s)、固有粘度を[η](cm3/g)、高分子溶液の濃度をc(g/cm3)とした場合に、下記の「式1」で定義される。なお、本例においては、有機ビヒクルが高分子溶液に、溶媒が有機溶剤にそれぞれ相当する。
【0060】
η=ηs(1+[η]c+k´[η]2c2)・・・(式1)
【0061】
換言すると、「式1」を下記の「式2」のように変形し、高分子溶液の濃度c(g/cm3)を横軸に、(η/ηs-1)/cを縦軸としてプロットしたときに得られる近似直線の傾きから、Huggins係数(k´)を求めることができる。
【0062】
(η/ηs-1)/c=[η]+k´[η]2c・・・(式2)
【0063】
より具体的には、Huggins係数は、以下の手順で測定することができる。
【0064】
はじめに、溶媒(有機溶剤)に高分子材料(バインダー樹脂)を溶解した高分子溶液(有機ビヒクル)を用意する。高分子溶液は、濃度が異なるものを複数用意する。それぞれの高分子溶液の濃度は、分子の絡み合いが起こらないと想定される希薄領域に調整する。高分子材料の種類や分子量にもよるが、たとえば、1×10-4g/cm3以上1×10-1g/cm3以下の範囲に調整する。
【0065】
次に、これらの溶媒および高分子溶液の、25℃における粘度を測定する。この際、高分子溶液の濃度が希薄領域にあれば、せん断速度に依存せずに一定の粘度を示すため、どのせん断速度の粘度値を読み取ってもよい。なお、粘度測定をするための装置は、温度制御可能であれば特に限定されず、たとえば、レオメーターなどの粘度計を用いることができる。
【0066】
最後に、測定結果に基づき、高分子溶液の濃度c(g/cm3)を横軸に、(η/ηs-1)/cを縦軸としてプロットしてグラフ(近似直線)を作成する。そして、この近似直線の傾きからHuggins係数(k´)を求めることができる。
【0067】
2.導電性ペースト組成物の製造方法
本例の導電性ペーストは、バインダー樹脂と有機溶剤とを混合して有機ビヒクルとした場合に、この有機ビヒクルの25℃におけるHuggins係数が0.80以上1.20以下となるように、第三溶剤の種類、ならびに、第一溶剤、第二溶剤、および第三溶剤の配合率を設定した上で、上述した各成分を、3本ロールミル、ボールミル、ミキサーなどの公知の手段で、撹拌および混合することにより製造することができる。この際、予め、導電性金属粉末の表面に分散剤を塗布すると、導電性金属粉末の凝集が抑制されて、均一な導電性ペーストが得やすくなる。
【0068】
なお、バインダー樹脂は、有機溶剤の一部に溶解させた状態で、残りの有機溶剤に、導電性金属粉末、セラミック粉末、および分散剤とともに添加することができる。
【0069】
3.特性
本例の導電性ペーストは、以下の特性を有する。このため、本例の導電性ペーストは、MLCCなどの電子部品に好適に用いることができる。
【0070】
(1)分離評価
本例の導電性ペーストでは、その分散安定性を評価するための分離量Sが4.0%以下であることが好ましい。分離量Sは3.5%以下であることがより好ましく、2.6%以下であることがさらに好ましく、2.0%以下であることが特に好ましい。分離量Sが4.0%以下とすることで、導電性金属粉末とセラミック粉末との分離を十分に抑制することが可能となる。ここで、分離量Sは、導電性ペーストを内径3cmの無色透明のガラス製容器内に密閉し、25℃で48時間静置したときに、容器の側面から観察される分離したセラミック粉末層の厚さをLc、導電性ペースト全体の厚さをLpとした場合に、下記の「式3」により求まる値である。
【0071】
S=Lc/(Lc+Lp)×100・・・(式3)
【0072】
(2)粘度
本例の導電性ペーストは、25℃でのずり速度(せん断速度)100sec-1における粘度が、0.8Pa・s以下である。ずり速度100sec-1における粘度は、0.5Pa・s以下であることが好ましく、0.4Pa・s以下であることがより好ましく、0.3Pa・s以下であることがさらに好ましい。ずり速度100sec-1における粘度が0.8Pa・s以下である場合、グラビア印刷用の導電性ペーストとして好適に用いることができる。一方、ずり速度100sec-1の粘度が0.8Pa・sを超えると、導電性ペーストの粘度が高くなり過ぎて、グラビア印刷用の導電性ペースト組成物として適さない場合がある。ずり速度100sec-1における粘度の下限値は、特に限定されないが、グラビア印刷への適用には、0.1Pa・s程度で十分である。
【0073】
また、本例の導電性ペーストは、25℃でのずり速度10000sec-1における粘度が、0.18Pa・s以下であることが好ましく。0.14Pa.s未満であることがより好ましい。ずり速度10000sec-1における粘度が上記範囲にある場合、グラビア印刷用の導電性ペーストとして好適に用いることができる。一方、ずり速度10000sec-1における粘度が0.18Ps・sを超えると、導電性ペーストの粘度が高くなりすぎて、グラビア印刷に適さなくなる場合がある。ずり速度10000sec-1における粘度の下限値は、特に限定されないが、グラビア印刷への適用には、0.05Pa・s程度で十分である。
【0074】
導電性ペーストの粘度は、たとえば、レオメーターなどの粘度計により測定することができる。
【0075】
(3)乾燥膜密度
本例の導電性ペーストは、印刷および乾燥後に得られる乾燥膜の乾燥膜密度(DFD)が、5.0g/cm3よりも大きいことが好ましく、5.2g/cm3よりも大きいことがより好ましく、5.3g/cm3以上であることがさらに好ましい。乾燥膜密度の上限値は、導電性金属粉末の真密度(導電性金属粉末としてニッケル粉末を用いる場合には、ニッケルの真密度:9.8g/cm3)を超えることはなく、6.5g/cm3程度である。
【0076】
(4)乾燥膜の算術平均粗さ
本例の導電性ペーストは、乾燥膜の算術平均粗さSaが0.25μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがより好ましく、0.16μm以下であることがさらに好ましい。乾燥膜の算術平均粗さSaが0.25μmを超えると、内部電極層の表面粗さが悪化して、MLCCなどの電子部品におけるショート不良の原因となる。乾燥膜の算術平均粗さSaの下限値は特に限定されず、小さい値であるほど好ましい。なお、乾燥膜の算術平均粗さSaは、本例の導電性ペーストを印刷し、大気中120℃で1時間乾燥させることにより作製した20mm角、厚さ1μm以上3μm以下の乾燥膜について、ISO 25178の規格に基づいて計測することにより算出することができる。
【0077】
4.用途
本例の導電性ペーストは、MLCCなどの電子部品に好適に用いることができる。MLCCは、誘電体グリーンシートにより形成される誘電体層と、導電性ペーストにより形成される内部電極層とを有する。このMLCCにおいて、誘電体グリーンシートに含まれる誘電体セラミック粉末と、導電性ペーストに含まれるセラミック粉末とは同一の粉末であることが好ましい。
【0078】
本例の導電性ペーストを用いて製造される積層セラミックデバイスは、導電性ペーストの分散安定性が向上し、導電性金属粉末とセラミック粉末との分離が十分に抑制されているため、誘電体グリーンシートの厚さが、たとえば3μm以下である場合でも、導電性ペースト中の有機溶剤(混合溶剤)が誘電体グリーンシート中のバインダー樹脂を膨潤または溶解させるシートアタックや、誘電体グリーンシートの剥離不良を抑制することができる。
【0079】
以下、本例の導電性ペーストを用いた電子部品であるMLCCの一例について、図面を参照しながら説明する。図面においては、適宜、模式的に表現することや、縮尺を変更して表現することがある。また、部材の位置や方向などを、適宜、
図1Aおよび
図1Bに示すXYZ直交座標系を参照して説明する。このXYZ直交座標系において、X方向およびY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向(上下方向)である。
【0080】
図1Aおよび
図1Bは、本例の導電性ペーストを用いたMLCC1を示す図である。
図1Aは、MLCC1の外観を示す斜視図であり、
図1Bは、MLCC1の断面図である。MLCC1は、積層体10および外部電極20を備える。積層体10は、内部電極層11と誘電体層12とが交互に積層した構造を有する。外部電極20は、内部電極層11と電気的に接続する外部電極層21とメッキ層22とを備える。
【0081】
このMLCC1は、たとえば、次のようにして製造することができる。
【0082】
はじめに、未焼成のセラミックシートである誘電体グリーンシート(セラミックグリーンシート)を複数枚用意する。この誘電体グリーンシートとしては、たとえば、チタン酸バリウムなどの所定のセラミックの原料粉末と、ポリビニルブチラールなどのバインダー樹脂と、ターピネオールなどの溶剤とを混合した誘電体層用ペーストを、PET(polyethylene terephthalate)フィルムなどの支持フィルム上にシート状に塗布し、乾燥させて溶剤を除去したものを用いることができる。なお、誘電体グリーンシートを含む誘電体層の厚さは、特に限定されないが、MLCC1の小型化の観点から、0.05μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0083】
次に、それぞれの誘電体グリーンシートの片面に、本例の導電性ペーストを印刷し、導電性ペーストを乾燥させることにより、所望のパターンを有する乾燥膜を形成する。この際、乾燥膜の厚さは、内部電極層11の薄層化の観点から1μm以下とすることが好ましい。
【0084】
乾燥膜の形成後、支持フィルムから誘電体グリーンシートをそれぞれ剥離し、誘電体グリーンシートとその片面に形成された乾燥膜とが交互に配置されるように、誘電体グリーンシートを積層する。そして、積層した誘電体グリーンシートを加熱圧着することにより積層体を形成する。なお、積層体の上面および下面には、導電性ペーストを印刷していない保護用の誘電体グリーンシートを配置することができる。
【0085】
続いて、この積層体を所定サイズに切断してグリーンチップとした後、このグリーンチップに対して脱バインダー処理を施す。脱バインダー処理は、大気または窒素ガス雰囲気で、グリーンチップを200℃以上400℃以下の温度(脱バインダー温度)で加熱することにより行うことが好ましい。また、脱バインダー温度での保持時間は、0.5時間以上24時間以下とすることが好ましい。
【0086】
脱バインダー処理後、グリーンチップを焼成する。焼成は、内部電極層11となる金属(導電性金属粉末)の酸化を抑制するために還元性雰囲気で行う。また、焼成温度は、1000℃以上1350℃以下とし、この温度での保持時間を0.5時間以上8時間以下とすることが好ましい。
【0087】
脱バインダー処理および焼成により、誘電体グリーンシート中のバインダー樹脂が完全に除去されるとともに、セラミックの原料粉末が焼成されて、誘電体層12が形成される。また、乾燥膜中の有機ビヒクル(バインダー樹脂および有機溶剤)が除去されるとともに、導電性金属粉末が焼結または溶融することにより一体化し、内部電極層11が形成される。この結果、誘電体層12と内部電極層11とが複数枚、交互に積層された積層セラミック焼成体(積層体10)が形成される。なお、酸素を誘電体層12の内部に取り込んで信頼性を高めるとともに、内部電極層11の再酸化を抑制する観点から、焼成後の積層セラミック焼成体(積層体10)に対して、アニール処理を施してもよい。
【0088】
最後に、積層セラミック焼成体(積層体10)に対して、一対の外部電極20を形成する。具体的には、積層体10の両端に、内部電極層11と電気的に接続するように外部電極層21を形成し、この外部電極層21を覆うようにメッキ層22を形成する。外部電極20の材料としては、たとえば、銅、ニッケル、またはこれらの合金を好適に用いることができる。このようにして、MLCC1を製造することができる。
【実施例0089】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例および比較例により何ら限定されるものではない。
【0090】
はじめに、第一溶剤(X)としてジヒドロターピネオールを、第二溶剤(Y)としてミネラルスピリットを、第三溶剤(Z)としてn-ペンタノールを用意した。これらの溶剤を、質量比で、X:Y:Z=53:20:27となるよう混合して、有機溶剤としての混合溶剤Aを作製した。この混合溶剤Aの25℃における粘度をレオメーター(アントンパール社製、レオメーターMCR)を用いて測定したところ、5.02(mPa・s)であった。
【0091】
次に、混合溶剤Aに樹脂バインダーとしてのエチルセルロースを溶解して、濃度の異なる4種類の有機ビヒクルAを作製した。これらの有機ビヒクルAの25℃における粘度を、レオメーターを用いて測定した。そして、有機ビヒクルの濃度c(g/cm3)を横軸に、(η/ηs-1)/cを縦軸としてプロットして近似直線を作成し、その傾きからHuggins係数(k´)を求めた。
【0092】
また、第三の溶剤の種類および混合溶剤におけるそれぞれの溶剤の配合率以外の条件は同様にして、混合溶剤B~Gおよび有機ビヒクルB~Gをそれぞれ作製した。なお、混合溶剤B~Gの25℃における粘度は、B:4.84(mPa・s)、C:3.11(mPa・s)、D:3.02(mPa・s)、E:3.45(mPa・s)、F:4.80(mPa・s)、G:4.31(mPa・s)であった。また、同様にして、有機ビヒクルB~GのHuggins係数(k´)をそれぞれ求めた。これらの結果を表1に示す。
【0093】
【0094】
(実施例1)
はじめに、導電性金属粉末として平均粒径が0.2μmのニッケル粉末を、セラミック粉末として平均粒径が0.05μmのチタン酸バリウム粉末を、アニオン系分散剤としてオレオイルザルコシンを、バインダー樹脂としてエチルセルロースをそれぞれ用意した。ニッケル粉末100質量部に対して、チタン酸バリウム粉末を25質量部、アニオン系分散剤を0.1質量部、エチルセルロースを5.3質量部、混合溶剤Aを73.7質量部(導電性ペースト中、ニッケル粉末:49質量%、チタン酸バリウム粉末:12.25質量%、オレオイルザルコシン:0.05質量%、エチルセルロース2.6質量%、混合溶剤A:36.1質量%)となるよう混合して、導電性ペーストを作製した。なお、エチルセルロースは、予め混合溶剤Aのうちのジヒドロターピネオールの一部に溶解した上で、他の成分と混合した。
【0095】
このようにして得られた導電性ペーストに対して分離評価を実施した。具体的には、導電性ペーストを内径3cmの無色透明のガラス製容器内に密閉し、25℃で48時間静置した。このとき、容器の側面から観察される分離したセラミック粉末層の厚さをLc(mm)、導電性ペースト全体の厚さをLp(mm)とした場合に、上述した「式3」により求まる分離量Sが4.0未満の場合を「〇」と、4.0未満の場合を「×」と評価した。
【0096】
また、導電性ペースト組成物の粘度をレオメーター(アントンパール社製、レオメーターMCR)を用いて、25℃でのずり速度100sec-1における粘度、並びに、25℃でのずり速度10000sec-1における粘度を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0097】
(実施例2)
有機溶剤として混合溶剤Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを作製し、粘度および分離評価を行った。この結果を表2および
図2に示す。
【0098】
(実施例3)
有機溶剤として混合溶媒Cを用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを作製し、粘度および分離評価を行った。この結果を表2および
図2に示す。
【0099】
(実施例4)
有機溶剤として混合溶媒Dを用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを作製し、粘度および分離評価を行った。この結果を表2および
図2に示す。
【0100】
(比較例1)
有機溶剤として混合溶媒Eを用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを作製し、粘度および分離評価を行った。この結果を表2および
図2に示す。
【0101】
(比較例2)
有機溶剤として混合溶媒Fを用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを作製し、粘度および分離評価を行った。この結果を表2および
図2に示す。
【0102】
(比較例3)
有機溶剤として混合溶媒Gを用いたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを作製し、粘度および分離評価を行った。この結果を表2および
図2に示す。
【0103】