(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072947
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】多孔質粒子
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20230518BHJP
C08J 3/14 20060101ALI20230518BHJP
D06M 23/10 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
C09K3/18
C08J3/14 CFD
D06M23/10
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185703
(22)【出願日】2021-11-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100156085
【弁理士】
【氏名又は名称】新免 勝利
(72)【発明者】
【氏名】芥 諒
(72)【発明者】
【氏名】東 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】徐 于懿
(72)【発明者】
【氏名】宇山 浩
【テーマコード(参考)】
4F070
4H020
4L031
【Fターム(参考)】
4F070AA47
4F070DA24
4F070DC03
4F070DC07
4F070DC13
4H020AA03
4H020BA02
4L031AB01
4L031BA33
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生分解性ポリエステルを用いる新規な撥水剤の提供。
【解決手段】生分解性ポリエステルを主成分とする多孔質粒子を含む撥水剤。前記生分解性ポリエステルが脂肪族ポリエステルである、前記撥水剤。前記生分解性ポリエステルがポリ乳酸、ポリアルキレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、及びポリラクトンからなる群より選ばれた少なくとも一種の樹脂である、前記撥水剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリエステルを主成分とする多孔質粒子を含む撥水剤。
【請求項2】
前記生分解性ポリエステルが脂肪族ポリエステルである、請求項1記載の撥水剤。
【請求項3】
前記生分解性ポリエステルがポリ乳酸、ポリアルキレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、及びポリラクトンからなる群より選ばれた少なくとも一種の樹脂である、請求項1又は2に記載の撥水剤。
【請求項4】
前記多孔質粒子の粒径が0.1μm~500μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の撥水剤。
【請求項5】
水性媒体を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の撥水剤。
【請求項6】
生分解性ポリエステルを主成分とする多孔質粒子を含む撥水剤の製造方法であって、
前記生分解性ポリエステルをその良溶媒に溶解させて良溶媒溶液を得る、溶解工程;
前記良溶媒溶液に前記生分解性ポリエステルの貧溶媒を添加して貧溶媒含有液を得る、貧溶媒添加工程;及び
前記貧溶媒含有液中、前記多孔質粒子を形成する、多孔質粒子形成工程
を含む、撥水剤の製造方法。
【請求項7】
前記良溶媒がエーテル溶媒及びケトン溶媒を含む、請求項6に記載の撥水剤の製造方法。
【請求項8】
前記エーテル溶媒/前記ケトン溶媒の重量比が0.01~0.3である、請求項7に記載の撥水剤の製造方法。
【請求項9】
前記溶解工程において、前記生分解性ポリエステルが前記良溶媒に加熱溶解され、
前記多孔質粒子形成工程において、前記貧溶媒含有液が20℃以下に冷却される、請求項6~8のいずれか一項に記載の撥水剤の製造方法。
【請求項10】
前記多孔質粒子形成工程の後、Rohrschneiderの極性パラメータが3.5~11の範囲にある極性溶媒から選択される後添加溶媒を前記貧溶媒含有液に添加して保持する、溶媒後添加-保持工程を含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の撥水剤の製造方法。
【請求項11】
生分解性ポリエステルを主成分とする多孔質粒子が付着した繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は撥水剤、特に生分解性材料を用いた撥水剤に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製品、紙製品等の各種基材に撥水性を付与することができる撥水剤の開発が進められている。一方で、持続可能な社会の実現に寄与するために生分解性を有する材料の開発も進められている。
【0003】
特許文献1においては、特殊な装置を使用することなく工業的に安価なプロセスで生分解性ポリエステル系樹脂の多孔質微粒子を製造する方法として、生分解性ポリエステル系樹脂を1,3-ジオキソラン類に加熱溶解した溶液に貧溶媒を加えた後、この溶液を0.5℃/分以上の速度で20℃以下まで冷却することを特徴とする、平均粒径が1μm~500μmの範囲内であり、且つ粒子表面に50nm~5μmの孔を有する生分解性ポリエステル系樹脂からなる多孔質微粒子の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2においては、化粧品用途に好適な小粒子径で吸油量の高い多孔質形状のポリ乳酸系樹脂微粒子の製造方法として、ポリ乳酸系樹脂およびポリ乳酸系樹脂とは異なるポリマーをエーテル系有機溶媒に溶解し、剪断力を加えてエマルションを形成した後、ポリ乳酸系樹脂の貧溶媒を接触させるポリ乳酸系樹脂微粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-282772
【特許文献2】WO2012/105140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のいずれの文献においても、生分解性ポリエステル粒子の撥水性や、その撥水剤への応用については検討されていない。また、生分解性ポリエステル粒子の有する多孔性が撥水性に与える影響は当業者にとって予想できるものではない。本開示は生分解性ポリエステルを用いる新規な撥水剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示における一実施形態は、次のとおりである。
[項1]
生分解性ポリエステルを主成分とする多孔質粒子を含む撥水剤。
[項2]
前記生分解性ポリエステルが脂肪族ポリエステルである、項1記載の撥水剤。
[項3]
前記生分解性ポリエステルがポリ乳酸、ポリアルキレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、及びポリラクトンからなる群より選ばれた少なくとも一種の樹脂である、項1又は2に記載の撥水剤。
[項4]
前記多孔質粒子の粒径が0.1μm~500μmである、項1~3のいずれか一項に記載の撥水剤。
[項5]
水性媒体を含む、項1~4のいずれか一項に記載の撥水剤。
[項6]
生分解性ポリエステルを主成分とする多孔質粒子を含む撥水剤の製造方法であって、
前記生分解性ポリエステルをその良溶媒に溶解させて良溶媒溶液を得る、溶解工程;
前記良溶媒溶液に前記生分解性ポリエステルの貧溶媒を添加して貧溶媒含有液を得る、貧溶媒添加工程;及び
前記貧溶媒含有液中、前記多孔質粒子を形成する、多孔質粒子形成工程
を含む、撥水剤の製造方法。
[項7]
前記良溶媒がエーテル溶媒及びケトン溶媒を含む、項6に記載の撥水剤の製造方法。
[項8]
前記エーテル溶媒/前記ケトン溶媒の重量比が0.01~0.3である、項7に記載の撥水剤の製造方法。
[項9]
前記溶解工程において、前記生分解性ポリエステルが前記良溶媒に加熱溶解され、
前記多孔質粒子形成工程において、前記貧溶媒含有液が20℃以下に冷却される、項6~8のいずれか一項に記載の撥水剤の製造方法。
[項10]
前記多孔質粒子形成工程の後、Rohrschneiderの極性パラメータが3.5~11の範囲にある極性溶媒から選択される後添加溶媒を前記貧溶媒含有液に添加し保持する、溶媒後添加-保持工程を含む、項6~9のいずれか一項に記載の撥水剤の製造方法。
[項11]
生分解性ポリエステルを主成分とする多孔質粒子が付着した繊維製品。
【発明の効果】
【0008】
本開示における撥水剤は各種基材に撥水性を付与することができる。また、本開示における撥水剤は生分解性を有するため、環境に与える影響が少なく、持続可能な社会の実現に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1における多孔質粒子の顕微鏡写真を示す。
【
図2】実施例2における多孔質粒子の顕微鏡写真を示す。
【
図3】実施例3における多孔質粒子の顕微鏡写真を示す。
【
図4】実施例4における多孔質粒子の顕微鏡写真を示す。
【
図5】実施例5における多孔質粒子の顕微鏡写真を示す。
【
図6】実施例6における多孔質粒子の顕微鏡写真を示す。
【
図7】実施例7における多孔質粒子の顕微鏡写真を示す。
【
図8】比較例1における非多孔質粒子の顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<撥水剤>
本開示における撥水剤は生分解性ポリエステルを含有する多孔質粒子(単に「多孔質粒子」とも称する)を含む。撥水剤はさらにその他の成分(例えば、液状媒体、バインダー樹脂、分散剤、界面活性剤、及びその他添加剤等)を含んでもよい。
【0011】
[多孔質粒子]
本開示における多孔質粒子は、撥水剤として用いられた場合、基材上に付着し、基材の撥水性を発揮する有効成分として働く。
【0012】
(生分解性ポリエステル)
本開示における多孔質粒子は生分解性ポリエステルを含む。生分解性ポリエステルは、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂であってよい。生分解性ポリエステルは、脂肪族又は芳香族であってよいが、良好な撥水性及び生分解性を発現する観点から脂肪族であることが好ましい。
【0013】
生分解性ポリエステルの例としては、ポリ乳酸、ポリアルキレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、及びポリラクトン等が挙げられる。
【0014】
ポリ乳酸は、原料成分である乳酸類(L-乳酸、D-乳酸、L-ラクチド、D-ラクチド等)から誘導された繰り返し単位を少なくとも有する。
【0015】
ポリ乳酸は原料成分から誘導された繰り返し単位を20重量%以上、40重量%以上、60重量%以上、又は80重量%以上、又は90重量%以上含有してよい。ポリ乳酸における原料成分以外の成分から誘導された繰り返し単位の例は、ポリオール単位(又はコハク酸単位)、ヒドロキシアルカン酸単位、ラクトン単位等が挙げられる。
【0016】
ポリアルキレンサクシネートは、原料成分であるアルカンポリオール(例えばジオール、トリオール、特にジオール)から誘導された繰り返し単位と原料成分であるコハク酸とから誘導された繰り返し単位を少なくとも有する。アルカンポリオールの例としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2‐プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタメチレングリコール、へキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、分子量1000以下のポリエチレングリコール等が挙げられる。アルカンポリオールの炭素数は2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、又は8以上であってよく、好ましくは3以上である。ヒドロキシアルカン酸の炭素数は15以下、12以下、10以下、8以下、6以下、又は4以下であってよく、好ましくは10以下、特に6以下である。これらは単独で用いてもよいし、又は二種以上を併用してもよい。
【0017】
ポリアルキレンサクシネートは原料成分から誘導された繰り返し単位を20重量%以上、40重量%以上、60重量%以上、又は80重量%以上、又は90重量%以上含有してよい。原料成分以外の成分から誘導された繰り返し単位の例は、乳酸単位、ヒドロキシアルカン酸単位、ラクトン単位等が挙げられる。
【0018】
ポリヒドロキシアルカノエートは原料成分であるヒドロキシアルカン酸から誘導された繰り返し単位を少なくとも有する。ポリヒドロキシアルカノエートは人工的に合成したものであってもよいし、微生物により生合成されたものであってもよい。ヒドロキシアルカン酸の例としては、グリコール酸、3-ヒドロキシブチレートと、3-ヒドロキシプロピオネート、3-ヒドロキシバレレート、3-ヒドロキシヘキサノエート、3-ヒドロキシヘプタノエート、3-ヒドロキシオクタノエート、3-ヒドロキシナノエート、3-ヒドロキシデカノエート、3-ヒドロキシテトラデカノエート、3-ヒドロキシヘキサデカノエート、3-ヒドロキシオクタデカノエート、4-ヒドロキシブチレート、4-ヒドロキシバレレート、5-ヒドロキシバレレート、6-ヒドロキシヘキサノエート等が挙げられる。ヒドロキシアルカン酸の炭素数は2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、又は8以上であってよく、好ましくは3以上である。ヒドロキシアルカン酸の炭素数は15以下、12以下、10以下、8以下、6以下、又は4以下であってよく、好ましくは10以下、特に6以下である。これらは単独で用いてもよいし、又は二種以上を併用してもよい。
【0019】
ポリヒドロキシアルカノエートは原料成分から誘導された繰り返し単位を20重量%以上、40重量%以上、60重量%以上、又は80重量%以上、又は90重量%以上含有していてもよい。ポリヒドロキシアルカノエートにおける原料成分以外の成分から誘導された繰り返し単位の例は、乳酸単位、ポリオール単位(又はコハク酸単位)、ラクトン単位等が挙げられる。
【0020】
ポリラクトンは、原料成分であるラクトンから誘導された繰り返し単位を少なくとも有する。ラクトンの例としては、イプシロン-カプロラクトン、メチル化イプシロン-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、ガンマ-ブチロラクトン、デルタ-バレロラクトン、エナントラクトン等が挙げられる。ラクトンの炭素数は3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、又は8以上であってよく、好ましくは3以上である。ラクトンの炭素数は15以下、12以下、10以下、8以下、6以下、又は4以下であってよく、好ましくは10以下、特に6以下である。これらは単独で用いてもよいし、又は二種以上を併用してもよい。
【0021】
ポリラクトンは原料成分から誘導された繰り返し単位を20重量%以上、40重量%以上、60重量%以上、又は80重量%以上、又は90重量%以上含有していてもよい。ポリラクトンにおける原料成分以外の成分から誘導された繰り返し単位の例は、乳酸単位、ポリオール単位(又はコハク酸単位)、ヒドロキシアルカン酸単位等が挙げられる。
【0022】
生分解性ポリエステルの重量平均分子量は5千以上、1万以上、2.5万以上、5万以上、10万以上、又は20万以上であってよく、好ましくは5万以上である。生分解性ポリエステルの重量平均分子量は100万以下、75万以下、50万以下、25万以下、15万以下、10万以下、又は5万以下であってよく、好ましくは50万以下である。
【0023】
多孔質粒子は生分解性ポリエステルを主成分として含む。生分解性ポリエステルの量は多孔質粒子において50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、又は95重量%以上であってよく、好ましくは75重量%以上である。生分解性ポリエステルの量は多孔質粒子において、100重量%以下、98重量%以下、95重量%以下、92重量%以下、又は90重量%以下であってよい
【0024】
(その他成分)
多孔質粒子は生分解性ポリエステル以外のその他成分含んでもよい。その他成分の例としては、生分解性ポリエステル以外の樹脂成分、フィラー類、分散剤、酸化防止剤、防錆剤、帯電防止剤、濡れ性改良剤、流動性調整剤、撥水剤、潤滑剤、着色剤、架橋剤、脱臭剤光分解剤、生分解性促進剤、生分解性制御剤、熱安定剤、各種改質剤、可塑剤類等が挙げられ、これらを必要に応じて使用目的に合わせ配合されていてよい。
【0025】
(多孔質粒子の形状等)
本開示における多孔質粒子の形状は球状粒子又は非球状粒子であってもよい。球状粒子には、表面に穴隙又は突起を有する球状粒子、楕円球状粒子、凸凹球状粒子等の略球状粒子も含まれ得る。非球状粒子は、多面体形状、不定形破砕形状等の粒子等が含まれ得る。多孔質粒子は多数の細孔を有することにより多孔性を有していてもよいし、多孔質粒子は多数の突起を有することにより多孔性を有していてもよい(ウニ状粒子)。
【0026】
(多孔質粒子の平均粒径)
多孔質粒子の平均粒径は、0.1μm以上、0.5μm以上、1μm以上、5μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、50μm以上、又は100μm以上であってよい。多孔質粒子の平均粒径は、500μm以下、250μm以下、100μm以下、50μm以下、又は25μm以下であってよい。上記範囲にあることで、良好な撥水性が発現し得る。平均粒径は顕微鏡(光学顕微鏡、又は走査型電子顕微鏡)で測定することができる。具体的には、顕微鏡を用いて、粒子が付着した基材の任意の位置を任意の倍率により上方から観察する。視野内に存在する全ての粒子の粒径を測定し、視野を移動して再度粒径を測定することを繰り返すことで、粒径を100点以上測定し、その平均値を平均粒径とする。顕微鏡写真において、粒子の形状が真円状でない場合、即ち楕円状のような場合は、短径と長径の平均値をその粒径としてもよい。
【0027】
(多孔質粒子の量)
多孔質粒子の量は、撥水剤に対して0.01重量%以上、0.05重量%以上、0.1重量%以上、1重量%以上、3重量%以上、5重量%以上、又は10重量%以上であってよい。多孔質粒子の量は、撥水剤に対して75重量%以下、50重量%以下、30重量%以下、15重量%以下、又は10重量%以下であってよい。
【0028】
[液状媒体]
撥水剤は、液状媒体を含んでよく、特に水性媒体を含む。液状媒体は水の単独、有機溶媒の単独、又は水と有機溶媒の混合物であってよい。
【0029】
液状媒体が水と有機溶媒の混合物の場合、有機溶媒の量は、液状媒体に対して、5重量%以上、15重量%以上、30重量%以上、50重量%以上、75重量%以上、又は90重量%以上であってよい。有機溶媒の量は、液状媒体に対して、90重量%以下、50重量%以下、30重量%以下、又は10重量%以下であってよい。
【0030】
液状媒体の量は、組成物に対して30重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、75重量%以上、又は90重量%以上であってよい。液状媒体の量は、組成物に対して95重量%以下、75重量%以下、又は50重量%以下であってよい。
【0031】
[バインダー]
撥水剤はバインダーを含んでいてよい。バインダーは多孔質粒子を基材に結合させるバインダーとして働く。バインダーとしては樹脂又は化合物であってよく、撥水性樹脂又は化合物が好ましい。撥水性樹脂又は化合物は、撥水性を発揮する有効成分としても働く。バインダー樹脂の例は、アクリル重合体、ウレタン重合体、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、シリコーン重合体である。バインダー化合物の例は、ブロックイソシアネート、エポキシ基含有化合物、カルボジイミド含有化合物などである。バインダーの量は、多孔質粒子100重量部に対して、0.1~20重量部、例えば0.1~10重量部であってよい。
【0032】
[分散剤]
撥水剤は、多孔質粒子の分散性を高めるために分散剤を含有してもよいし、あるいは含有していなくてもよい。分散剤としては、ポリヒドロキシスチレン、ポリスチレンスルホン酸、ビニルフェノール-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-ビニルフェノール-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のポリスチレン誘導体;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポチエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸誘導体;ポリメチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテル、ポリブチルビニルエーテル、ポリイソブチルビニルエーテル等のポリビニルアルキルエーテル誘導体;セルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリ酢酸ビニル等のポリ酢酸ビニル誘導体;ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリ-2-メチル-2-オキサゾリン等の含窒素ポリマー誘導体;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリハロゲン化ビニル誘導体等の各種疎水性または親水性の分散剤が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、又は二種以上を併用してもよい。分散剤の量は、多孔質粒子100重量部に対して、0.1~20重量部、例えば0.1~10重量部であってよい。
【0033】
[界面活性剤]
撥水剤は、分散液の安定化のために界面活性剤(乳化剤)を含有してもよいし、あるいは含有していなくてもよい。被処理物が繊維製品である場合において特に、撥水剤において、界面活性剤は、イオン性界面活性剤を含むことが好ましい。イオン性界面活性剤は、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤から選択された一種以上であってよい。界面活性剤はノニオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤との組合せであってもよい。
【0034】
ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤のそれぞれが一種又は二種以上の組み合わせであってよい。界面活性剤の量は、多孔質粒子100重量部に対して15重量部以下、10重量部以下、7.5重量部以下、5重量部以下、2.5重量部以下であってよい。一般に界面活性剤を添加すると、水分散体の安定性や布への浸透性は向上するが、撥水性能は低下する。これらの効果を両立するように界面活性剤の種類や量を選定することが好ましい。本開示の多孔質粒子は、良好な撥水性及び分散性(特に水分散性)を示すため、界面活性剤の量を減ずることが可能である。
【0035】
[その他添加剤]
撥水剤は、その他添加剤を含有してもよい。その他添加剤の例は、その他多孔質粒子以外の撥水剤、撥油剤、乾燥速度調整剤、架橋剤、造膜助剤、相溶化剤、凍結防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤、消泡剤、風合い調整剤、すべり性調整剤、帯電防止剤、親水化剤、抗菌剤、防腐剤、防虫剤、芳香剤、難燃剤等である。その他添加剤の量はそれぞれ、多孔質粒子100重量部に対して、0.1重量部以上、0.5重量部以上、1重量部以上、2.5重量部以上、5重量部以上、又は10重量部以上であってよい。その他添加剤の量はそれぞれ、多孔質粒子100重量部に対して、100重量部以下、50重量部以下、25重量部以下、10重量部以下、又は5重量部以下であってよい。
【0036】
<撥水剤の製造方法>
本開示における生分解性ポリエステルを含有する多孔質粒子を含む撥水剤の製造方法は、前記生分解性ポリエステルをその良溶媒に溶解させて良溶媒溶液を得る、溶解工程;
前記良溶媒溶液に前記生分解性ポリエステルの貧溶媒を添加して貧溶媒含有液を得る、貧溶媒添加工程;及び
前記貧溶媒含有溶液中、前記多孔質粒子を形成する、多孔質粒子形成工程
を含む。
【0037】
[溶解工程]
溶解工程において生分解性ポリエステルをその良溶媒に溶解させて良溶媒溶液を得る。良溶媒とは、生分解性ポリエステルを多量に溶解できる溶媒のことをいい、具体的には、生分解性ポリエステルの25℃溶解度(溶媒100gに対する溶質の重量比)が20重量%以上、40重量%以上、60重量%以上、又は80重量%以上である溶媒であってもよい。
【0038】
生分解性ポリエステルの良溶媒への溶解の方法は生分解性樹脂を溶媒に溶解できれば特に限定されないが、加熱溶解することが好ましい。溶解はホモジナイザー等を用いて攪拌しながら行ってもよい。溶解の際の温度は30℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、又は80℃以上であってよく、溶媒の沸点(溶剤の還流温度)以下、例えば、200℃以下、150℃以下、又は100℃以下であってよい。
【0039】
良溶媒の量は、生分解性ポリエステル100mgに対して、0.25mL以上、0.5mL以上、0.75mL以上、1mL以上、又は2.5mL以上であってよい。良溶媒の量は、生分解性ポリエステル100mgに対して、25mL以下、20mL以下、15mL以下、10mL以下、7.500mL以下、5mL以下、又は2.5mL以下であってよい。
【0040】
良溶媒は、エーテル溶媒又はケトン溶媒から選択される少なくとも一種を含んでいてもよく、好ましくはエーテル溶媒及びケトン溶媒の両方を含む。良溶媒がこれらの溶媒を含むことにより、撥水性粒子が良好に形成され得る。
【0041】
エーテル溶媒は芳香族又は脂肪族であってよく、好ましくは脂肪族である。エーテル溶媒は環状又は非環状であってよく、好ましくは環状である。エーテル溶媒はエーテル結合を1つのみ有するモノエーテル、又はエーテル結合を2以上有するポリエーテルであってもよい。エーテル溶媒はヒドロキシ基を有してもよいし、有していなくてもよい。
【0042】
エーテル溶媒の炭素数は2以上、3以上、4以上、又は5以上であってよい。エーテル溶媒の炭素数は、12以下、10以下、8以下、6以下、又は4以下であってよい。
【0043】
エーテル溶媒の沸点は、50℃以上、70℃以上、90℃以上、又は100℃以上であってよい。エーテル溶媒の沸点は250℃以下、230℃以下、190℃以下、160℃以下、又は130℃以下であってよい。
【0044】
エーテル溶媒の具体例としては、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、ジフェニルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノt-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノt-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0045】
エーテル溶媒の量は良溶媒全体の2.5重量%以上、5重量%以上、7.5重量%以上、又は10重量%以上であってよい。エーテル溶媒の量は良溶媒全体の70重量%以下、50重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、又は10重量%以下であってよく、30重量%以下が好ましい。上記範囲にあることで、撥水性粒子が良好に形成され得る。
【0046】
ケトン溶媒は環状又は非環状であってよい。ケトン溶媒は芳香族又は脂肪族であってよく、好ましくは脂肪族である。
【0047】
ケトン溶媒の炭素数は2以上、3以上、又は4以上であってよい。ケトン溶媒の炭素数は12以下、10以下、8以下、6以下、又は4以下であってよい。
【0048】
ケトン溶媒の沸点は、30℃以上、50℃以上、70℃以上、又は90℃以上であってよい。ケトン溶媒の沸点は200℃以下、175℃以下、150℃以下、又は125℃以下であってよい。
【0049】
ケトン溶媒の具体例としては、アセトン、2-ブタノン(メチルエチルケトン)、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0050】
ケトン溶媒の量は良溶媒全体の20重量%以上、40重量%以上、60重量%以上、又は80重量%以上であってよく、好ましくは50%以上である。ケトン溶媒の量は良溶媒全体の100重量%以下、97.5重量%以下、95重量%以下、92.5重量%以下、90重量%以下、87.5重量%以下、又は85重量%以下であってよい。
【0051】
良溶媒中、エーテル溶媒/ケトン溶媒の重量比は、0.01以上、0.03以上、0.05以上、0.07以上、又は0.1以上であってよい。良溶媒中、エーテル溶媒/ケトン溶媒の重量比は、0.3以下、0.2以下、又は0.1以下であってよい。上記範囲にあることで、撥水性粒子が良好に形成され得る。
【0052】
エーテル溶媒及びケトン溶媒以外のその他溶媒は、ポリエステル樹脂の溶解性に応じて適宜選択できるが、例としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩素化脂肪族炭化水素溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t-ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル等のエステル溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリジノン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0053】
その他の溶媒の量は良溶媒全体の2.5重量%以上、5重量%以上、又は7.5重量%以上であってよい。エーテル溶媒の量は良溶媒全体の30重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、2.5重量%以下であってよい。良溶媒はその他の溶媒を含まなくてもよい。
【0054】
[貧溶媒添加工程]
貧溶媒添加工程において、上記で得られた良溶媒溶液に生分解性ポリエステルの貧溶媒を添加して貧溶媒含有液を得る。貧溶媒とは、生分解性ポリエステルをほとんど溶解させない溶媒のことをいい、具体的には、生分解性ポリエステルの25℃溶解度(溶媒100gに対する溶質の重量比)が15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、又は0.1重量%である溶媒であってもよい。
【0055】
貧溶媒の添加時、良溶媒溶液を加熱した状態で貧溶媒の添加を行ってもよい。貧溶媒の添加はホモジナイザー等を用いて攪拌しながら行ってもよい。貧溶媒添加時の温度は、30℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、又は80℃以上であってよく、溶媒の沸点温度(溶剤の還流温度)以下、例えば、200℃以下、150℃以下、又は100℃以下であってよい。貧溶媒添加時の温度は溶解工程における温度と同じであってもよい。
【0056】
貧溶媒の量は、良溶媒の量に対して、0.5重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、2.5重量%以上、5重量%以上、又は10重量%以上であってよい。貧溶媒の量は、良溶媒の量に対して、100重量%以下、75重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、又は5重量%以下であってよい。
【0057】
貧溶媒は、生分解性ポリエステルの溶解性に応じて適宜選択できるが、例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n-デカン、n-ドデカン、n-トリデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール系溶媒;水からなる群から選ばれる少なくとも一種類の溶媒等が挙げられる。生分解性ポリエステルを効率的に粒子化させる観点から、貧溶媒としては、好ましくは、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒又は水であり、より好ましくは、アルコール溶媒又は水であり、最も好ましくは、水である。貧溶媒は上記良溶媒と相溶性(例えば混和性)であってもよい。
【0058】
[多孔質粒子形成工程]
多孔質粒子形成工程においては、前記貧溶媒含有液中、前記多孔質粒子が形成される。
【0059】
多孔質粒子の形成は、良溶媒溶液に貧溶媒を添加した段階で生じ得るが、加熱された貧溶媒含有液を冷却することにより、多孔質粒子の形成を促進することが好ましい。
【0060】
冷却温度は30℃以下、25℃以下、20℃以下、15℃以下、10℃以下、5℃以下、又は3℃以下であってよく、好ましくは20℃以下である。冷却温度の下限は溶媒の凝固温度以上であって、通常-10℃以上、特に-5℃以上である。冷却は、貧溶媒含有液を冷却温度雰囲気に曝すことによって、達成され得る。例えば貧溶媒含有液を含む容器を氷水に浸すことにより達成されてもよい。冷却温度は冷却温度や所望の粒径等により調整し得る。冷却は、撹拌しつつ行ってよい。
【0061】
冷却時間は1分以上、5分以上、15分以上、30分以上、45分以上、又は1時間以上であってよい。冷却時間は24時間以下、12時間以下、6時間以下、又は3時間以下であってよい。冷却時間は所望の粒径、冷却温度等に応じて調整し得る。
【0062】
加熱された貧溶媒含有液を冷却して上記冷却温度とする場合、冷却速度は0.5℃/分以上、1℃/分以上、3℃/分以上、又は5℃/分以上であってよく、10℃/分以下、7.5℃/分以下、5.5℃/分以下、又は3.5℃/分以下であってよい。
【0063】
[溶媒後添加-保持工程]
本開示の製造方法は溶媒後添加-保持工程を含むことが好ましい。溶媒後添加-保持工程においては、多孔質粒子形成工程後、後添加溶媒を貧溶媒含有液に添加し保持する。溶媒後添加-保持工程を設けることで、多孔質粒子の解砕性が高まり、分散性が向上する。また、溶媒後添加-保持工程を設けることにより、多孔質粒子の界面状態が変化し、多孔質粒子の多孔性や撥水性に好適に寄与し得る。
【0064】
後添加溶媒とは多孔質粒子形成工程後に添加される溶媒のことをいう。後添加溶媒の量は、良溶媒と貧溶媒の総量に対して、1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、又は50重量%以上であってよい。後添加溶媒の量は、良溶媒と貧溶媒の総量に対して、200重量%以下、150重量%以下、100重量%以下、75重量%以下、又は50重量%以下であってよい。
【0065】
本開示において、後添加溶媒はRohrschneiderの極性パラメータが3.5~11の範囲にある極性溶媒から選択されることが好ましい。後添加溶媒は単独で用いてもよいし、又は二種以上を併用してもよい。Rohrschneiderの極性パラメータとは、プロトン供与性、プロトン受容性、及び双極子の寄与を考慮した計算により求められる、溶媒の極性を示すパラメータである。Rohrschneiderの極性パラメータについては、下記文献を参考にできる。例えば、下記文献(1)の248-250頁のTable 6.1(Properties of solvents for use in liquid chromatography)に記載された値を参考にできる。
文献(1):Snyder, Lloyd R., Joseph J. Kirkland, and John W. Dolan. Introduction to modern liquid chromatography. John Wiley & Sons, 2011. 2nd Edition
文献(2):L. Rohrschneider, Anal. Chem., 45, 1241 (1973).
文献(3):L. R. Snyder, J. Chromatogr., 92, 223 (1974); J. Chromatogr. Sci., 16,223 (1978).
【0066】
後添加溶媒のRohrschneiderの極性パラメータは3.5以上、4以上、5以上、6以上、又は7以上であってよい。後添加溶媒のRohrschneiderの極性パラメータは11以下、10以下、9以下、8以下、又は7以下であってよい。
【0067】
後添加溶媒としては、Rohrschneiderの極性パラメータが上記範囲にあれば、上述の溶解工程において説明した生分解性ポリエステルの良溶媒又は貧溶媒を用いてよく、上述の生分解性ポリエステルの良溶媒又は貧溶媒についての説明は後添加溶媒の説明として採用される。
【0068】
後添加溶媒はケトン溶媒又はアルコール溶媒を含むことが好ましい。後添加溶媒に含まれるケトン溶媒又はアルコール溶媒は上述の生分解性ポリエステルの良溶媒又は貧溶媒についての説明で例示したケトン溶媒又はアルコール溶媒と同様であってよい。後添加溶媒におけるケトン溶媒又はアルコール溶媒の量は後添加溶媒全体の30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90%以上、又は100重量%であってよく、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。後添加溶媒が上記範囲でケトン溶媒又はアルコール溶媒を含むことにより、撥水性粒子が良好に形成され得る。
【0069】
後添加溶媒の具体例としては、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、n-プロパノール、クロロホルム、エタノール、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジオキサン、アセトン、メタノール、アセトニトリル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
後添加溶媒を添加後、後添加溶媒含有液は、一定の温度範囲で一定の時間保持されることが好ましい。保持される間、後添加溶媒含有液は攪拌されることが好ましい。
【0071】
保持温度は0℃以上、5℃以上、10℃以上、20℃以上、又は30℃以上であってよく、好ましくは5℃以上である。保持温度は80℃以下、70℃以下、60℃以下、又は50℃以下であってよく、好ましくは40℃以下である。保持温度は室温であってもよい。
【0072】
保持時間は1分以上、5分以上、15分以上、30分以上、45分以上、又は1時間以上であってよい。保持時間は24時間以下、12時間以下、6時間以下、3時間以下、2時間以下、又は1時間以下であってよい。保持時間は保持温度、所望の粒径等に応じて調整し得る。
【0073】
[粉砕工程]
本開示の製造方法は粉砕工程を含んでもよい。多孔質粒子形成工程で得られた多孔質粒子をそのまま撥水剤として用いてもよいが、粉砕工程において粉砕処理(例えば、湿式粉砕処理、乾式粉砕処理等)により、多孔質粒子の粒径を小さくする処理が施されてもよい。湿式粉砕処理としては、湿式ボールミル、湿式ビーズミル、湿式せん断応力粉砕、湿式媒体攪拌型粉砕などが挙げられるが、これらの手法に限定されるものではない。乾式粉砕処理としては、ジェットミル、ボールミル、クロスジェットミル、乾式ビーズミル、ツインインペラ対向気流乾式粉砕等が挙げられるが、これらの手法に限定されるものではない。
【0074】
[撥水剤形成工程]
本開示の製造方法は撥水剤形成工程を含んでもよい。多孔質粒子単独を撥水剤として用いてもよいが、撥水剤形成工程においてその他成分を組み合わせて撥水剤を形成してもよい。撥水剤は、多孔質粒子の製造で得られた貧溶媒含有溶液に対して、必要により、上述の撥水剤の成分を添加して製造してもよい。撥水剤は、多孔質粒子の製造で得られた貧溶媒含有溶液から多孔質粒子を回収し、上述の撥水剤の成分を添加することにより製造してもよい。例えば、多孔質粒子を含む液の溶媒を水に置換することで水分散撥水剤を得ることができる。
【0075】
<撥水剤の用途>
撥水剤は、外的処理剤(表面処理剤)又は内的処理剤として使用できる。撥水剤は、撥剤(撥水剤、撥油剤、撥水撥油剤)、防汚剤、汚れ脱離剤、剥離剤又は離型剤として使用できる。
【0076】
基材が撥水剤により処理されることで、撥水剤中の多孔質粒子が基材表面に配置された表面構造を形成する。表面構造は多孔質粒子に由来する凹凸構造を有する。
【0077】
表面構造は、撥水剤を従来既知の方法により被処理物(基材)に適用することで形成することができる。通常、該撥水剤を有機溶媒又は水に分散して希釈して、浸漬塗布、スプレー塗布、泡塗布等のような既知の方法により、被処理物の表面に付着させ、乾燥する方法が採られる。必要ならば加熱処理を行って、粒子を軟化させることにより付着させてもよい。また、必要ならば、適当な架橋剤(例えば、ブロックイソシアネート)と共に適用し、キュアリングを行ってもよい。さらに、撥水剤に、防虫剤、柔軟剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、塗料定着剤、防シワ剤等を添加して併用することも可能である。基材と接触させる処理液における重合体の濃度は0.01~10重量%(特に、浸漬塗布の場合)、例えば0.05~10重量%であってよい。
【0078】
撥水剤で処理される被処理物としては、繊維製品、石材、フィルター(例えば、静電フィルター)、防塵マスク、燃料電池の部品(例えば、ガス拡散電極及びガス拡散支持体)、ガラス、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属及び酸化物、窯業製品、プラスチック、塗面、及びプラスター等を挙げることができる。繊維製品としては種々の例を挙げることができる。例えば、綿、麻、羊毛、絹等の動植物性天然繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維等の無機繊維、あるいはこれらの混合繊維が挙げられる。
【0079】
撥水剤は外部離型剤としても使用できる。例えば、基材の表面を、他の表面(該基材における他の表面、あるいは他の基材における表面)から容易に剥離することができる。
【0080】
撥水剤は、繊維製品を液体で処理するために知られている方法のいずれかによって繊維状基材(例えば、繊維製品等)に適用することができる。繊維製品が布であるときには、布を溶液に浸してよく、あるいは、布に溶液を付着又は噴霧してよい。
【0081】
撥水剤はクリーニング法によって繊維製品に適用してよく、例えば、洗濯適用又はドライクリーニング法等において繊維製品に適用してよい。
【0082】
処理される繊維製品は、典型的には、布であり、これには、織物、編物及び不織布、衣料品形態の布及びカーペットが含まれるが、繊維又は糸又は中間繊維製品(例えば、スライバー又は粗糸等)であってもよい。繊維製品材料は、天然繊維(例えば、綿又は羊毛等)、化学繊維(例えば、ビスコースレーヨン又はレオセル等)、又は、合成繊維(例えば、ポリエステル、ポリアミド又はアクリル繊維等)であってよく、あるいは、繊維の混合物(例えば、天然繊維及び合成繊維の混合物等)であってよい。
【0083】
あるいは、繊維状基材は皮革であってよい。多孔質粒子を、皮革を疎水性及び疎油性にするために、皮革加工の様々な段階で、例えば、皮革の湿潤加工の期間中に、又は、皮革の仕上げの期間中に、水溶液又は水性乳化物から皮革に適用してよい。
あるいは、繊維状基材は紙であってもよい。多孔質粒子を、予め形成した紙に適用してよく、又は、製紙の様々な段階で、例えば、紙の乾燥期間中に適用してもよい。
【0084】
「処理」とは、処理剤を、浸漬、噴霧、塗布等により被処理物に適用することを意味する。処理により、処理剤の有効成分である多孔質粒子が被処理物の内部に浸透する及び/又は被処理物の表面に付着する。
【0085】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例0086】
以下、実施例を挙げて本開示を詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0087】
<試験方法>
[撥水性評価(接触角)]
多孔質粒子を含む組成物をガラス基材(スライドガラス ソーダ石灰ガラス製)にドロップキャストし、70℃で60分加熱して、多孔質粒子が付着した基材を作製した。この多孔質粒子が付着したガラス基材上に2μLの水を滴下し、着滴1秒後の静的接触角を、全自動接触角計(協和界面科学製DropMaster701)を用いて測定することによって求めた。
【0088】
[撥水性評価(液滴転落試験)]
多孔質粒子を含む組成物の水分散体(粒子濃度0.1 g/ml)にPET布(目付:88g/m2、70デニール、グレー)を浸漬した後、マングルに通し、70℃で1時間加熱し、処理したPET布を用意し、全自動接触角計(協和界面科学製DropMaster701)によって、水平から30°の傾斜をつけた土台にPET布を固定した。PET布にマイクロシリンジから水を20μL滴下し、滴下した水が転落するか確認した。液滴が転落する場合を〇、滴下した箇所から液滴が動かない場合や布に染み込む場合は×と評価する。
【0089】
[実施例1]
ポリ乳酸(M.W. 150,000)に対して、ポリ乳酸の濃度が100mg/mlになるように2-ブタノン 80質量部および1,4-ジオキサン15質量部の混合溶媒を入れ、70℃で2時間撹拌しながら溶解させ、ポリ乳酸溶液を得た。得られたポリ乳酸溶液に、水を5質量部入れて70℃で10分間撹拌した後、混合液を氷浴に入れ、2時間冷却した。冷却後、アセトン30質量部を添加して25℃で1時間撹拌し、溶媒を水に置換することで水分散撥水剤を得た(粒子濃度 0.2g/ml)。分散液を乾燥して得られた固体を走査電子顕微鏡で観察したところ、表面が多孔質の多孔質粒子の形成を確認した(
図1参照)。多孔質粒子の接触角および液滴転落試験を行った。結果を表1に示す。
【0090】
[実施例2]
2-ブタノン および1,4-ジオキサンおよび水の比率を95/2.5/2.5に変更した以外は実施1と同様の手順を得ることで、水分散撥水剤を得た(粒子濃度 0.2g/ml)。分散液を乾燥して得られた固体を走査電子顕微鏡で観察したところ、表面が多孔質の多孔質粒子の形成を確認した(
図2参照)。多孔質粒子の接触角および液滴転落試験を行った。結果を表1に示す。
【0091】
[実施例3]
2-ブタノン および1,4-ジオキサンおよび水の比率を90/5/5に変更した以外は実施1と同様の手順を得ることで、水分散撥水剤を得た(粒子濃度 0.2g/ml)。分散液を乾燥して得られた固体を走査電子顕微鏡で観察したところ、表面が多孔質の多孔質粒子の形成を確認した(
図3参照)。多孔質粒子の接触角および液滴転落試験を行った。結果を表1に示す。
【0092】
[実施例4]
2-ブタノン および1,4-ジオキサンおよび水の比率を90/2.5/7.5に変更した以外は実施1と同様の手順を得ることで、水分散撥水剤を得た(粒子濃度 0.2g/ml)。分散液を乾燥して得られた固体を走査電子顕微鏡で観察したところ、表面が多孔質の多孔質粒子の形成を確認した(
図4参照)。多孔質粒子の接触角および液滴転落試験を行った。結果を表1に示す。
【0093】
[実施例5]
2-ブタノン および1,4-ジオキサンおよび水の比率を90/7.5/2.5に変更した以外は実施1と同様の手順を得ることで、水分散撥水剤を得た(粒子濃度 0.2g/ml)。分散液を乾燥して得られた固体を走査電子顕微鏡で観察したところ、表面が多孔質の多孔質粒子の形成を確認した(
図5参照)。多孔質粒子の接触角および液滴転落試験を行った。結果を表1に示す。
【0094】
[実施例6]
1,4-ジオキサンを1,3-ジオキソランに変更し、2-ブタノン および1,3-ジオキソランおよび水の比率を80/15/5に変更した以外は実施1と同様の手順を得ることで、水分散撥水剤を得た(粒子濃度 0.2g/ml)。分散液を乾燥して得られた固体を走査電子顕微鏡で観察したところ、表面が多孔質の多孔質粒子の形成を確認した(
図6参照)。多孔質粒子の接触角および液滴転落試験を行った。結果を表1に示す。
【0095】
[実施例7]
1,4-ジオキサンを1,3-ジオキソランに変更し、2-ブタノン および1,3-ジオキソランおよび水の比率を80/10/10に変更した以外は実施1と同様の手順を得ることで、水分散撥水剤を得た(粒子濃度 0.2g/ml)。分散液を乾燥して得られた固体を走査電子顕微鏡で観察したところ、表面が多孔質粒子の形成を確認した(
図7参照)。多孔質粒子の接触角および液滴転落試験を行った。結果を表1に示す。
[実施例8]
窒素置換した反応容器内にステアリルアクリレート(StA)3.00g、ポリエチレングリコールモノオレイルエーテル0.149g、トリステアリン酸ソルビタン0.020g、純水60mlを添加し、乳化させた。2,2‘-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ニ塩酸塩 25mgを添加し、65℃で8時間加熱撹拌することでPStAの水分散体Aを得た。実施例1で得られた多孔質粒子とPStAの水分散体Aを2:1で混合し、液滴転落試験を実施したところ、液滴の転落が確認された。
[実施例9]
実施例2で得られた多孔質粒子と実施例8で得られたPStAの水分散体Aを2:1で混合し、液滴転落試験を実施したところ、液滴の転落が確認された。
【0096】
[比較例1]
多孔質粒子に代えて平均粒径が5μmの非多孔質のポリ乳酸粒子(ミヨシ油脂社製PLA粒子LANDY PL-1005、
図8参照)を用いた以外は実施例と同様にして、試験布を得て、上記試験(接触角および液滴転落試験)を行った。結果を表1に示す。
[比較例2]
多孔質粒子に代えて平均粒径が10μmの非多孔質のポリ乳酸粒子(ミヨシ油脂社製PLA粒子LANDY PL-3000)を用いた以外は実施例と同様にして、試験布を得て、上記試験(接触角および液滴転落試験)を行った。結果を表1に示す。
【0097】
前記生分解性ポリエステルがポリ乳酸、ポリアルキレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、及びポリラクトンからなる群より選ばれた少なくとも一種の樹脂である、請求項1又は2に記載の撥水剤。
前記多孔質粒子形成工程の後、Rohrschneiderの極性パラメータが3.5~11の範囲にある極性溶媒から選択される後添加溶媒を前記貧溶媒含有液に添加して保持する、溶媒後添加-保持工程を含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の撥水剤の製造方法。
前記生分解性ポリエステルがポリ乳酸、ポリアルキレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、及びポリラクトンからなる群より選ばれた少なくとも一種の樹脂である、請求項1又は2に記載の撥水剤。
前記多孔質粒子形成工程の後、Rohrschneiderの極性パラメータが3.5~11の範囲にある極性溶媒から選択される後添加溶媒を前記貧溶媒含有液に添加して保持する、溶媒後添加-保持工程を含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の撥水剤の製造方法。