(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073075
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】泡沫分離装置および泡沫分離方法
(51)【国際特許分類】
B03D 1/14 20060101AFI20230518BHJP
B03D 1/02 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
B03D1/14 112
B03D1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185897
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 勇佑
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】平山 幹朗
(72)【発明者】
【氏名】二井 晋
(57)【要約】
【課題】分離対象物質の濃縮比を向上することができる沫分離装置および泡沫分離方法を提供する。
【解決手段】泡沫分離装置1は、分離塔2と、分離塔2内に界面活性物質を含む溶液を供給する溶液供給部3と、分離塔2内に気体を供給し、溶液から泡沫を発生させる気体供給部4とを備え、分離塔2には、当該分離塔2の内外を連通する切込25が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離塔と、
前記分離塔内に界面活性物質を含む溶液を供給する溶液供給部と、
前記分離塔内に気体を供給し、前記溶液から泡沫を発生させる気体供給部とを備え、
前記分離塔には、当該分離塔の内外を連通する切込が設けられていることを特徴とする泡沫分離装置。
【請求項2】
前記切込は、複数設けられ、
上方に位置する前記切込よりも下方に位置する前記切込の方が長く形成されていることを特徴とする請求項1に記載の泡沫分離装置。
【請求項3】
内外を連通する切込が設けられた分離塔内に界面活性物質を含む溶液を供給する工程と、
前記分離塔内に気体を供給し、前記溶液から泡沫を発生させる工程とを実施することを特徴とする泡沫分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泡沫分離装置および泡沫分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
界面活性物質を含む溶液に気体を吹き込んで泡沫(泡沫液と称することもある)を発生させ、当該泡沫の表面に分離対象物を吸着させて分離する泡沫分離装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
泡沫分離装置は、構造や操作が簡単であり、装置の製造コストやランニングコストが低く、環境負荷が少ないなどの特長を持つ。このため、泡沫分離装置は、例えば、銅の浮遊選鉱、紙の溶解液中に分散したトナーや油性インクの濃縮除去(脱墨)、魚類の飼育や養殖における体表粘液等のタンパク質の除去などに使用され、食品業界や製薬業界ではタンパク質の分離に使用されるなど、様々な分野で利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたような従来の泡沫分離装置において、泡沫中の分離対象物質の濃縮比を向上させる技術は存在しなかった。
【0006】
本発明の目的は、分離対象物質の濃縮比を向上することができる泡沫分離装置および泡沫分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の泡沫分離装置は、分離塔と、前記分離塔内に界面活性物質を含む溶液を供給する溶液供給部と、前記分離塔内に気体を供給し、前記溶液から泡沫を発生させる気体供給部とを備え、前記分離塔には、当該分離塔の内外を連通する切込が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、分離塔にその内外を連通する切込が設けられているため、切込によって分離塔の外部への排水を行うことができ、分離対象物質の濃縮比を向上することができる。
なお、分離対象物質の濃縮比とは、泡沫中の分離対象物質の濃度を、分離塔内に供給される溶液中の分離対象物質の濃度で除算したもの(分離対象物質の濃縮比=泡沫中の分離対象物質の濃度÷分離塔内に供給される溶液中の分離対象物質の濃度)である。
【0009】
本発明の泡沫分離装置において、前記切込は、複数設けられ、上方に位置する前記切込よりも下方に位置する前記切込の方が長く形成されていることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、上方に位置する切込よりも下方に位置する切込の方が長く形成されているため、下方の切込を通じて、より水分が多い下方の泡沫からの排水を促進することができる。
【0011】
本発明の泡沫分離方法は、内外を連通する切込が設けられた分離塔内に界面活性物質を含む溶液を供給する工程と、前記分離塔内に気体を供給し、前記溶液から泡沫を発生させる工程とを実施することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、上述した泡沫分離装置と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る泡沫分離装置の模式図。
【
図2】本発明の変形例に係る泡沫分離装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1に基づいて本発明の一実施形態について説明する。
なお、以下の記載において方向を表す場合、泡沫分離装置1を
図1に示すように配置した状態を基準とする。
【0015】
泡沫分離装置1は、界面活性を有する界面活性物質および分離対象物質を含む溶液から、分離対象物質を分離する装置である。
ここで、界面活性物質としては、界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、親水基および親油基を有する物質であり、例えば、脂肪族塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、脂肪族アミンおよび脂肪族アマイドの硫酸塩類、脂肪アルコールリン酸エステル塩類、二塩基性脂肪酸エステルのスルホン塩類、脂肪酸アミドスルホン酸塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類、ホルマリン縮合のナフタリンスルホン酸などのアニオン性界面活性剤、脂肪アミン類、第四アンモニウム塩類、アルキルピリジニウム塩などのカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類などのノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などがあるが、特に限定されない。
また、界面活性剤以外の界面活性物質として、例えば、タンパク質、フェノール類、陰イオン、陽イオン、及び非イオン系の合成界面活性剤、脂肪酸、多価アルコールなどがあり、それ自身が分離対象物質として分離可能である。
なお、溶液の溶媒としては、例えば、水、アルコール、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0016】
泡沫分離装置1は、分離塔2、溶液供給部3、気体供給部4、および残液回収部5を備えている。
【0017】
分離塔2は、ガラスやプラスチック等の透明または半透明の部材を筒状に形成したものであり、内部が中空とされている。
分離塔2は、それぞれが下端部に設けられた気体供給口21および残液回収口22と、上端部に設けられた泡沫回収口23と、側面に設けられた溶液供給口24と、溶液供給口24よりも上方で側面に設けられた複数の切込25とを備えている。
切込25は、分離塔2内に供給された溶液の液面FLよりも上方の位置に設けられ、分離塔2の側壁を貫通し、分離塔2の内外を連通している。各切込25は、上下方向に延びた直線形状とされ、これらの切込25が上下方向に一直線に並んで複数の列をなしている。
【0018】
本実施形態の場合、分離塔2は、樹脂フィルムまたは樹脂板を筒状にして形成されている。また、切込25の断面は、いわゆるテーパ状になっており、切込25の幅(太さ)が分離塔2の内壁面側で狭く、分離塔2の外壁面側で広くなっている。なお、切込25は、分離塔2の高さ(長さ)が数百mmであれば最大100mmの長さとされ、例えば、分離塔2の高さが800mm、直径が30mmの場合、分離塔2の下端から200~600mmの範囲に設けられ、1つの切込25の長さが5~30mmとされる。また、切込25の幅は、分離塔2の内壁面側で毛管力が作用する程度の大きさになっており、例えば、数十から数百μmとされる。
【0019】
溶液供給部3は、溶液を収容するタンク等の溶液収容部31と、配管32を介して溶液収容部31に接続されたポンプ33と、ポンプ33と溶液供給口24とを接続する配管34とを備えている。
【0020】
気体供給部4は、窒素ガスやアルゴンガスなどの気体を収容するタンクや気体ボンベ等の気体収容部41と、配管42を介して気体収容部41に接続されたポンプ43と、ポンプ43に接続され、気体供給口21に挿通された配管44と、配管44の端部に設けられ、分離塔2内に配置された分散器45とを備えている。
分散器45は、ガラスフィルタやいわゆるエアストーン、ウッドストーンのように、ガラス、金属、セラミック、プラスチック、樹脂などを多孔質状にしたフィルタによって構成されている。
【0021】
残液回収部5は、残液回収口22に接続された配管51と、配管51に接続された水位調整器52とを備え、分離塔2内に残った残液を回収する。
【0022】
以上の泡沫分離装置1で、分離対象物質を分離する方法について説明する。
先ず、溶液収容部31からポンプ33で分離塔2内に溶液を供給する。次いで、気体収容部41からポンプ43で分離塔2内に気体を供給し、当該気体を分散器45で分散させて分離塔2内の溶液中に吹き込む。すると、溶液中に吹き込まれた気体が気泡ABとなり、分離対象物質が界面活性物質である場合は、気液界面である気泡ABの表面に分離対象物質が吸着し、分離対象物質が界面活性物質でない場合は、気泡ABの表面に吸着した界面活性物質に分離対象物質が吸着して、溶液中を上方に移動する。その後、溶液中を上昇した気泡ABは、泡沫BLとなって溶液の液面FLから離れ、分離対象物質を吸着したまま上昇して泡沫回収口23から回収される。なお、分離塔2内の残液は、水位調整器52を通じて回収される。
【0023】
ここで、分離塔2には切込25が設けられているため、泡沫BLが上昇する間、泡沫BL中に含まれる溶液は、その自重によって泡沫BLから排水されて分離塔2内を落下するだけでなく、切込25を通じて泡沫BLから分離塔2の外部に排水される。このため、従来の装置と比べて、回収した泡沫BL中の分離対象物質の濃縮比を向上させることができる。なお、泡沫分離装置1による泡沫分離の一例として、泡沫分離装置1と、切込25が設けられていない従来の装置とで、脱脂粉乳を水に溶解させた溶液からタンパク質を分離対象物質として泡沫分離を行ったところ、泡沫分離装置1では、従来の装置に比べてタンパク質の濃縮比が約1.4倍に向上した。
【0024】
以上のような実施形態によれば、分離塔2にその内外を連通する切込25が設けられているため、切込25によって分離塔2の外部への排水を行うことができ、分離対象物質の濃縮比を向上することができる。
【0025】
以上のように、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、前記記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。また、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれる。
【0026】
例えば、分離塔2は、透明または半透明の部材で形成されてもよいし、不透明の部材で形成されてもよいし、金属、セラミック等で形成されてもよく、分離塔2の材質や、高さ、直径等の寸法は、特に限定されない。
分離塔2は、互いの長さが異なる複数の切込25を備えていてもよい。
切込25は、上方の切込25よりも下方の切込25の方が長く形成されていてもよく、例えば、
図2に示すように、より下方に位置する切込25ほど長く形成されていてもよいし、分離塔2において切込25が形成された領域を上下2つに分け、上側の領域に位置する切込25よりも、下側の領域に位置する切込25の方が長く形成されていてもよい。
切込25は、分離塔2の下部よりも上部で多く形成されていてもよく、例えば、分離塔2の上部に向かうほど多くの切込25が形成されていてもよいし、分離塔2において切込25が形成された領域を上下2つに分け、下側の領域に位置する切込25の数よりも、上側の領域に位置する切込25の数の方が多く形成されていてもよい。
切込25は、分離塔2の側面の周方向全体にわたって設けられていてもよいし、周方向の一部の領域に設けられていてもよい。
切込25の形状および数は、特に限定されず、例えば、切込25を左右方向に延びた直線形状、上下方向および左右方向に直交する方向に延びた直線形状、上下方向または左右方向に延びた正弦波形や矩形波形等の波形形状、円形、上に凸または下に凸の円弧状、多角形、十字形状、上に凸または下に凸のV字状、上に凸または下に凸のU字状等、どのような形状に形成してもよいし、切込25が1つであってもよいし、複数あってもよい。
【0027】
気体供給部4は、分散器45に代えてまたは併用して、例えば、ベンチュリ管を有する空気自吸式のイジェクタを備え、当該イジェクタで気泡ABを発生させてもよい。
気体供給部4が供給する気体は、不活性気体でもよいし、不活性気体でなくてもよい。
分散器45は、配管44に着脱自在に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1…泡沫分離装置、2…分離塔、3…溶液供給部、4…気体供給部、5…残液回収部、25…切込。