(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073119
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】電線被覆切開用治具及び電線被覆切開方法
(51)【国際特許分類】
H02G 1/12 20060101AFI20230518BHJP
B26B 27/00 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
H02G1/12 029
B26B27/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185962
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】良島 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】武田 伸弥
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 雄基
(72)【発明者】
【氏名】安田 光利
(72)【発明者】
【氏名】金井 万里
(72)【発明者】
【氏名】植田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】興梠 樹美人
(72)【発明者】
【氏名】平松 尚也
【テーマコード(参考)】
3C061
5G353
【Fターム(参考)】
3C061AA26
3C061BA28
3C061EE22
5G353AA02
5G353CA01
5G353DA05
5G353DA08
(57)【要約】
【課題】電線の被覆を簡便に切開可能とし、かつ、ランニングコストを低減する。
【解決手段】電線被覆剥取治具1は、ハウジング10と、刃ユニット25と、を備える。ハウジング10は、被覆52が付いた電線50に装着可能である。刃ユニット25は、ハウジング10の内側に突出する刃部27を有する。刃ユニット25は、ハウジング10に交換可能に取り付けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆付き電線に装着可能な筒部材と、
前記筒部材の内側に突出する刃を有し、前記筒部材に交換可能に取り付けられる刃ユニットと、
を備えることを特徴とする電線被覆切開用治具。
【請求項2】
請求項1に記載の電線被覆切開用治具であって、
複数の刃ユニットから、被覆付き電線の径に応じて選択して前記筒部材に装着可能であることを特徴とする電線被覆切開用治具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電線被覆切開用治具であって、
前記筒部材を被覆付き電線に装着した状態で、前記刃の先端は、被覆に突入したときに被覆の内周面と外周面の間にあることを特徴とする電線被覆切開用治具。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の電線被覆切開用治具であって、
前記刃ユニットは、前記筒部材の周方向に並べられ、周方向の間隔をあけて配置された複数の刃を備えることを特徴とする電線被覆切開用治具。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の電線被覆切開用治具であって、
前記筒部材は、互いに接合可能な第1部分及び第2部分を備え、
前記第1部分及び前記第2部分の接合を解除することで、前記筒部材の内部空間を露出させることが可能であり、
前記刃ユニットは、前記第1部分及び前記第2部分のそれぞれに取り付けられることを特徴とする電線被覆切開用治具。
【請求項6】
請求項5に記載の電線被覆切開用治具であって、
前記第1部分及び前記第2部分を互いに接合した状態でロック可能なロック部を備えることを特徴とする電線被覆切開用治具。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載の電線被覆切開用治具であって、
前記刃ユニットは、前記筒部材の外部からの操作により、前記筒部材の内側へ近づく向き及び内側から遠ざかる向きに移動可能であることを特徴とする電線被覆切開用治具。
【請求項8】
請求項7に記載の電線被覆切開用治具であって、
前記筒部材の外部に露出した、押込み操作が可能な操作面を備え、
前記操作面の押込み操作が前記刃ユニットに伝達されることにより、前記刃ユニットが前記筒部材の内側へ近づく向きに移動することを特徴とする電線被覆切開用治具。
【請求項9】
請求項8に記載の電線被覆切開用治具であって、
前記操作面は、前記筒部材の中心を挟んで1対で配置されていることを特徴とする電線被覆切開用治具。
【請求項10】
請求項7から9までの何れか一項に記載の電線被覆切開用治具であって、
前記刃ユニットを前記筒部材の内側から遠ざかる向きに付勢する付勢部材を備えることを特徴とする電線被覆切開用治具。
【請求項11】
請求項1から10までの何れか一項に記載の電線被覆切開用治具であって、
前記筒部材の内側を向く押え面を有する押え部材を備え、
前記押え面が被覆の外周面に接触可能であることを特徴とする電線被覆切開用治具。
【請求項12】
請求項11に記載の電線被覆切開用治具であって、
前記押え部材は、前記筒部材の外部からの操作により、前記筒部材の内側へ近づく向き及び内側から遠ざかる向きに移動可能であることを特徴とする電線被覆切開用治具。
【請求項13】
請求項1から12までの何れか一項に記載の電線被覆切開用治具であって、
前記刃ユニットは、前記刃に対して軸方向に並んで配置された突起を有することを特徴とする電線被覆切開用治具。
【請求項14】
被覆付き電線に装着可能な筒部材、及び、前記筒部材の内側に突出する刃を有する交換可能な刃ユニットを備える電線被覆切開用治具を被覆付き電線に装着する装着工程と、
前記電線被覆切開用治具を前記被覆付き電線に対して回転させ、前記刃によって周方向の切込みを被覆に形成する第1切込み形成工程と、
前記電線被覆切開用治具を前記被覆付き電線の長手方向に移動させ、前記刃によって長手方向の切込みを被覆に形成する第2切込み形成工程と、
前記第1切込み形成工程とは異なる位置で前記電線被覆切開用治具を前記被覆付き電線に対して回転させ、前記刃によって周方向の切込みを被覆に形成する第3切込み形成工程と、
を含むことを特徴とする電線被覆切開方法。
【請求項15】
請求項14に記載の電線被覆切開方法であって、
前記刃ユニットは、前記筒部材の周方向に並べられ、前記筒部材の周方向に間隔をあけて配置された複数の刃を備えることを特徴とする電線被覆切開方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の被覆の切開に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワイヤハーネス等に使用される電線において、例えば芯線の状態を確認するために、電線の被覆を治具によって切開することが行われている。特許文献1は、この種の電線被覆剥ぎ治具を開示する。
【0003】
特許文献1の治具において、筒状の本体の内周面には、細長い切り刃が軸方向に沿って設けられている。治具の筒状の本体を電線に密着して外装し、電線又は本体を移動させることで、切り刃により被覆部が切り開かれる。切り刃の高さは被覆部の厚さと略同じとされているので、素線に傷が付くことが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の構成は、切り刃が使用に伴って損耗した場合に治具の全体を交換しなければならない。従って、従来の構成はランニングコストが増大してしまう点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、電線の被覆を簡便に切開可能とし、かつ、ランニングコストを低減することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の電線被覆切開用治具が提供される。即ち、電線被覆切開用治具は、筒部材と、刃ユニットと、を備える。前記筒部材は、被覆付き電線に装着可能である。前記刃ユニットは、前記筒部材の内側に突出する刃を有し、前記筒部材に交換可能に取り付けられる。
【0009】
これにより、刃によって被覆を容易に切り開くことができる。また、刃が損耗した場合に刃ユニットだけを取り換えるだけでメンテナンスが可能になるので、ランニングコストを低減できる。
【0010】
前記の電線被覆切開用治具においては、複数の刃ユニットから、被覆付き電線の径に応じて選択して前記筒部材に装着可能であることが好ましい。
【0011】
これにより、刃ユニットを交換することで、様々な電線の被覆を切り開くことが可能になる。
【0012】
前記の電線被覆切開用治具においては、前記筒部材を被覆付き電線に装着した状態で、前記刃の先端は、被覆に突入したときに被覆の内周面と外周面の間にあることが好ましい。
【0013】
これにより、刃が被覆の内側へ到達することを防止できる。従って、芯線の損傷を回避することができる。
【0014】
前記の電線被覆切開用治具においては、前記刃ユニットは、前記筒部材の周方向に並べられ、周方向の間隔をあけて配置された複数の刃を備えることが好ましい。
【0015】
これにより、一度に複数の切込みを被覆に形成することができる。従って、作業性が向上する。
【0016】
前記の電線被覆切開用治具においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記筒部材は、互いに接合可能な第1部分及び第2部分を備える。前記第1部分及び前記第2部分の接合を解除することで、前記筒部材の内部空間を露出させることが可能である。前記刃ユニットは、前記第1部分及び前記第2部分のそれぞれに取り付けられる。
【0017】
これにより、複数の刃ユニットによって、被覆に対して切込みを効率良く形成することができる。第1部分と第2部分の接合を解除することで、それぞれの刃ユニットの交換を容易にすることができる。
【0018】
前記の電線被覆切開用治具においては、前記第1部分及び前記第2部分を互いに接合した状態でロック可能なロック部を備えることが好ましい。
【0019】
これにより、作業中に電線から電線被覆切開用治具が外れることを防止できる。
【0020】
前記の電線被覆切開用治具においては、前記刃ユニットは、前記筒部材の外部からの操作により、前記筒部材の内側へ近づく向き及び内側から遠ざかる向きに移動可能であることが好ましい。
【0021】
これにより、電線被覆切開用治具を操作することにより、必要なときだけ刃を被覆に突入させることができる。
【0022】
前記の電線被覆切開用治具においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、電線被覆切開用治具は、前記筒部材の外部に露出した、押込み操作が可能な操作面を備える。前記操作面の押込み操作が前記刃ユニットに伝達されることにより、前記刃ユニットが前記筒部材の内側へ近づく向きに移動する。
【0023】
これにより、簡単な操作で、刃を被覆に突入させることができる。
【0024】
前記の電線被覆切開用治具においては、前記操作面は、前記筒部材の中心を挟んで1対で配置されていることが好ましい。
【0025】
これにより、電線を挟み込むように操作力を加える形となるので、刃を被覆に対して強く突入させることができる。従って、作業効率が向上する。
【0026】
前記の電線被覆切開用治具においては、前記刃ユニットを前記筒部材の内側から遠ざかる向きに付勢する付勢部材を備えることが好ましい。
【0027】
これにより、必要な場合以外は刃が電線から遠ざかる向きに退避するので、被覆を損傷させることを防止できる。
【0028】
前記の電線被覆切開用治具においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、電線被覆切開用治具は、前記筒部材の内側を向く押え面を有する押え部材を備える。前記押え面が被覆の外周面に接触可能である。
【0029】
これにより、簡単な操作で、被覆に対して力を加えることができる。
【0030】
前記の電線被覆切開用治具においては、前記押え部材は、前記筒部材の外部からの操作により、前記筒部材の内側へ近づく向き及び内側から遠ざかる向きに移動可能であることが好ましい。
【0031】
これにより、必要なときだけ押え部材を被覆に接触させることができる。
【0032】
前記の電線被覆切開用治具においては、前記刃ユニットは、前記刃に対して軸方向に並んで配置された突起を有することが好ましい。
【0033】
これにより、刃により軸方向に形成された切込みを、突起によって容易に押し広げて破断させることができる。
【0034】
本発明の第2の観点によれば、以下の電線被覆切開方法が提供される。即ち、電線被覆切開方法は、装着工程と、第1切込み形成工程と、第2切込み形成工程と、第3切込み形成工程と、を含む。前記装着工程では、被覆付き電線に装着可能な筒部材、及び、前記筒部材の内側に突出する刃を有する交換可能な刃ユニットを備える電線被覆切開用治具を被覆付き電線に装着する。前記第1切込み形成工程では、前記電線被覆切開用治具を前記被覆付き電線に対して回転させ、前記刃によって周方向の切込みを被覆に形成する。前記第2切込み形成工程では、前記電線被覆切開用治具を前記被覆付き電線の長手方向に移動させ、前記刃によって長手方向の切込みを被覆に形成する。前記第3切込み形成工程では、前記第1切込み形成工程とは異なる位置で前記電線被覆切開用治具を前記被覆付き電線に対して回転させ、前記刃によって周方向の切込みを被覆に形成する。
【0035】
これにより、複数の切込みを形成することによって、被覆を容易に剥取可能な状態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電線被覆剥取治具の全体的な構成を示す斜視図。
【
図2】ハウジングの第2半部を第1半部に対して開いた様子を示す斜視図。
【
図5】電線を剥ぎ取るための第1切込み形成工程を示す図。
【
図8】第3切込み形成工程が完了した後、電線被覆剥取治具を移動させる作業を説明する図。
【
図9】切込みが形成された被覆を押さえて軸方向に移動させる作業を説明する図。
【
図10】周方向の被覆が完全に破断し、芯線が露出した状態を示す図。
【
図11】変形例の電線被覆剥取治具の全体的な構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電線被覆剥取治具1の全体的な構成を示す斜視図である。
図2は、ハウジング10の第2半部12を第1半部11に対して開いた様子を示す斜視図である。
図3は、第2半部12の周辺の構成を示す分解斜視図である。
【0038】
図1に示す電線被覆剥取治具(電線被覆切開用治具)1は、ハウジング(筒部材)10と、切開機構60と、押え機構70と、を備える。
図1において、ハウジング10及び電線50は鎖線により透視的に描かれている。
【0039】
ハウジング10は、円筒状に形成されている。ハウジング10を貫通するように、円柱状の内部空間15が形成されている。内部空間15には、電線50を通すことができる。電線50は、芯線51と、被覆52と、を備える。被覆52は一定の厚みを有し、芯線51の外周を覆っている。
【0040】
ハウジング10は、第1半部(第1部分)11と、第2半部(第2部分)12と、を有する。第1半部11と第2半部12は、それぞれ断面半円状に形成されている。
【0041】
第1半部11の一端部と第2半部12の一端部は、
図2に示すヒンジ構造13によって互いに連結されている。このヒンジ構造13により、第2半部12を第1半部11に対して開閉することができる。第2半部12を第1半部11に対して開いた状態が
図2に示されている。この状態では、電線50をハウジング10の内部空間15に出し入れすることができる。
【0042】
第1半部11において、ヒンジ構造13と反対側の端部には、爪部16が設けられている。第2半部12において、ヒンジ構造13と反対側の端部には、引掛け部17が設けられている。爪部16及び引掛け部17によりロック機構が構成されている。爪部16を引掛け部17に固定することにより、第1半部11と第2半部12が閉じた状態でロックすることができる。
【0043】
図1に示す内部空間15の内径は、電線50の外径より大きく形成されている。従って、電線50を内部空間15にセットした状態で、ハウジング10を、電線50の長手方向に沿って移動させたり、電線50を中心として回転させたりすることができる。
【0044】
ハウジング10には、2つのスライド体21が取り付けられている。1つのスライド体21が第1半部11に配置され、残りの1つが第2半部12に配置されている。
【0045】
それぞれのスライド体21は、円柱状に細長く形成されている。2つのスライド体21は、軸線を一致させて配置されている。それぞれのスライド体21の長手方向一側の端部には、小さな円板状の操作部22が一体的に形成されている。操作部22は、ハウジング10の外側に配置されている。
【0046】
図3に示すように、スライド体21の外周を覆うように、円筒状のカラー23が配置されている。カラー23は、操作部22と、後述の刃ユニット25と、の間に配置されている。作業者が操作部22をハウジング10に近づく向きに押した場合に、カラー23は、その操作力を刃ユニット25に伝達することができる。
【0047】
カラー23の外周には、戻しバネ(弾性部材、付勢部材)24が配置されている。戻しバネ24は、コイルスプリングとして構成されている。戻しバネ24は、ハウジング10と操作部22との間に配置されている。
【0048】
スライド体21及びカラー23は、ハウジング10の径方向に形成された貫通孔18に差し込まれている。スライド体21、操作部22及びカラー23は、貫通孔18に沿って適宜のストロークで移動することができる。
【0049】
図1に示すように、電線被覆剥取治具1の軸方向一側において、2つのスライド体21は互いに対向するように配置されている。それぞれのスライド体21の端部には、刃ユニット25が取り付けられている。2つの刃ユニット25は、ハウジング10の内部に配置されている。
【0050】
それぞれの刃ユニット25は、ベース26と、2つの刃部(刃)27と、を備える。
【0051】
ベース26は、適宜湾曲した細長い部材である。
図3に示すように、ベース26の中央には貫通状の孔29が形成されている。この孔29には、スライド体21の先端に形成された爪を引っ掛けて固定することができる。
【0052】
刃部27は、円弧状のベース26の両端にそれぞれ配置されている。それぞれの刃部27は、ベース26から、ハウジング10に形成された内部空間15に向けて突出している。それぞれの刃部27の先端は、ハウジング10の中心を向くように配置されている。刃部27は、例えば針状に形成されている。従って、刃部27によって被覆52を任意の方向に切開することができる。
【0053】
それぞれの刃部27は、スライド体21の長手方向に対して、概ね45°となるように傾斜して配置されている。2つの刃部27がなす角は約90°である。2つの刃部27は、スライド体21に関して対称となるように配置されている。
【0054】
図1に示すように、2つの刃ユニット25は互いに対向するように配置されている。従って、4つの刃部27は、90°の等間隔で周方向に並んで配置される。4つの刃部27は、電線50の外周を4つに分けるように配置される。
【0055】
刃ユニット25はスライド体21に固定されている。従って、刃ユニット25は、スライド体21、操作部22及びカラー23と一体的に、スライド体21の長手方向に沿ってスライド移動することができる。このスライド移動により、刃ユニット25は、突出位置と、退避位置と、の間で移動することができる。操作部22をハウジング10に近づく向きに押すことで、刃ユニット25は退避位置から突出位置へ移動する。
【0056】
刃ユニット25が突出位置にあるとき、刃部27は内部空間15に突出している。刃ユニット25が退避位置にあるとき、刃部27は内部空間15から退避している。
【0057】
ハウジング10の内部空間15には、電線50をセットすることができる。この状態で、刃ユニット25が突出位置にあるとき、刃部27は、電線50が備える被覆52に外側から突入する。刃ユニット25が退避位置にあるとき、刃部27は被覆52に突入しない。
【0058】
刃部27の突出長さは、切開する対象である被覆52の厚みよりも少し小さい。従って、刃部27が被覆52に突入したとき、刃部27の先端は、被覆52の外周面と内周面の間の位置にある。刃部27が被覆52を貫通して芯線51に到達しない構成であるので、内部の芯線51が損傷することを防止できる。
【0059】
ベース26は、円柱状の内部空間15に面するように配置されている。ベース26は、セットされる電線50の外周面に概ね沿う円弧状の凹部を有している。これにより、刃ユニット25を突出位置へ移動させたときに、ベース26を電線50の外周面に近接させることができる。この結果、刃部27を良好に被覆52に突入させることができる。
【0060】
戻しバネ24は、刃ユニット25を退避位置に移動させる方向の弾性力を、操作部22に作用させる。従って、操作部22に操作力が加えられていない場合、刃ユニット25は退避位置に保持される。
【0061】
操作部22においてハウジング10の外周側を向く面は、作業者が指で触れることができる操作面となっている。1対で配置された操作面(操作部22)をそれぞれハウジング10に向けて押さえるように作業者が力を加えると、2つの刃ユニット25が備える4つの刃部27が被覆52に突入する。
【0062】
刃ユニット25は、スライド体21に対して着脱可能である。従って、例えば、刃部27が長期間の使用に伴って損耗した場合、刃ユニット25を新しいものに交換することで、刃部27の切れ味を回復することができる。
【0063】
電線被覆剥取治具1に取り付けられる複数(2つ)の刃ユニット25は、互いに同一の構成である。これにより、メンテナンス部品の管理の手間を低減することができる。
【0064】
本実施形態においては、例えば
図4に示すように、異なる径の電線50に応じて複数の刃ユニット25,25aが用意されている。被覆52を剥ぎ取りたい対象の電線50の径に応じて刃ユニット25,25aを選択してハウジング10(具体的には、スライド体21)に装着することで、ハウジング10を共通としつつ、大小様々な径の電線50の被覆52を切開することができる。被覆52の厚みに応じて刃部27の突出長さが異なる複数の刃ユニットが用意されても良い。
【0065】
図1に示すように、ハウジング10には、上述のスライド体21に加えて、2つのスライド体31が取り付けられている。1つのスライド体31が第1半部11に配置され、残りの1つが第2半部12に配置されている。スライド体31の構成は、前述のスライド体21と同一であるため、説明を省略する。
【0066】
それぞれのスライド体31の部分には、操作部32、カラー33、及び戻しバネ34が配置されている。操作部32、カラー33及び戻しバネ34の構成は、上述の操作部22、カラー23及び戻しバネ24と同一であるため、説明を省略する。
【0067】
それぞれのスライド体31の端部には、押えユニット35が取り付けられている。押えユニット35は、ハウジング10の内部に配置されている。
【0068】
押えユニット35は、押え部材36を備える。
【0069】
押え部材36は、適宜湾曲した板状の部材である。
図3に示すように、押え部材36の中央には貫通状の孔39が形成されている。この孔39には、スライド体31の先端に形成された爪を引っ掛けて固定することができる。
【0070】
1対で配置された操作部32をそれぞれハウジング10に向けて押さえるように作業者が力を加えると、2つの押えユニット35がそれぞれ備える押え部材36が、被覆52の外周面に接触する。
【0071】
本実施形態において、スライド体21、操作部22、カラー23、戻しバネ24及び刃ユニット25が、切開機構60を構成する。スライド体31、操作部32、カラー33、戻しバネ34及び押えユニット35が、押え機構70を構成する。
【0072】
図2に示すように、ハウジング10の内壁には、刃ユニット25及び押えユニット35を収容可能な凹部が形成されている。それぞれの凹部は、ベース26及び押え部材36の回転止めとしての機能を有している。
【0073】
次に、上記の電線被覆剥取治具1を用いた被覆52の剥取作業について、
図5から
図10までを参照して説明する。
【0074】
図5に示すように、作業者は、電線被覆剥取治具1を電線50に装着する。このとき、被覆52を剥ぎ取りたい位置の端部に刃ユニット25の刃部27が位置するように、電線被覆剥取治具1の装着位置が調整される。第1半部11と第2半部12が閉じられ、爪部16と引掛け部17によってロックされる。
【0075】
続いて、作業者は、
図5の矢印で示すように2つの操作部22を押し込んだ状態としつつ、電線被覆剥取治具1の全体を電線50に対して回転させる。これにより、4つの刃部27によって被覆52にリング状の切込みが形成される。
【0076】
図6には、
図5の状態から電線被覆剥取治具1を電線50に対して180°回転させた状態が示されている。しかし、
図5に示す工程では、4つの刃部27による周方向の切込みが接続され、全周にわたってリング状の切込みが形成されれば十分である。4つの刃部27は、概ね90°間隔で配置されている。従って、90°を少し上回る角度だけ電線被覆剥取治具1を回転させれば良い。
【0077】
続いて、作業者は、2つの操作部22を押し込んだ状態としつつ、電線50の長手方向一側へ、電線被覆剥取治具1を適宜の距離だけ移動させる。これにより、
図7に示すように、4つの刃部27によって被覆52に軸方向の切込みが形成される。
【0078】
次に、作業者は、2つの操作部22を押し込んだ状態としつつ、電線被覆剥取治具1の全体を電線50に対して再び回転させる。これにより、4つの刃部27によって被覆52に周方向の切込みが形成される。
【0079】
図8には、
図7の状態から電線被覆剥取治具1を電線50に対して180°回転させた状態が示されている。しかし、上述と同様に、電線被覆剥取治具1は、刃部27の角度間隔を少し上回る程度回転させれば十分である。
【0080】
続いて、作業者は、操作部22を押し込んだ状態を解除し、先ほど電線被覆剥取治具1を移動させたのとは反対の方向へ、電線被覆剥取治具1を移動させる。作業者は、2つのリング状の切込みの間に押えユニット35が位置するように、電線被覆剥取治具1の位置を調整する。
【0081】
次に、作業者は、
図9の矢印で示すように2つの操作部32を押し込んだ状態としつつ、電線被覆剥取治具1の全体を、軸方向一側に少し移動させた後、反対側に移動させる。この結果、1対の押え部材36が被覆52を挟んで軸方向に移動するので、電線50の被覆52において、2つの周方向の切込みの部分が引きちぎられ、完全に破断する。
【0082】
この状態で、作業者は、爪部16と引掛け部17によるロックを解除し、第1半部11及び第2半部12を開いて、電線被覆剥取治具1を電線50から取り外す。その後、被覆52において切込みが入った部分が、作業者の手によって剥ぎ取られる。
【0083】
被覆52には周方向だけでなく軸方向にも切込みが入れられるが、
図9の矢印で示すように被覆52が軸方向に移動することで、軸方向の切込みの端部が完全に破断することが期待できる。完全に破断した部分の近傍の被覆52を指で掴んで引っ張ることで、手による剥取作業が簡単になる。
【0084】
以上のように、本実施形態の電線被覆剥取治具1を用いることにより、簡便な作業で電線50から被覆52を剥ぎ取ることができる。また、刃ユニット25だけを交換するだけで刃部27を新品とすることができるので、メンテナンスコストを低減しつつ、刃部27の損耗に対応できる。
【0085】
以上に説明したように、本実施形態の電線被覆剥取治具1は、ハウジング10と、刃ユニット25と、を備える。ハウジング10は、被覆52が付いた電線50に装着可能である。刃ユニット25は、ハウジング10に交換可能に取り付けられる。刃ユニット25は、ハウジング10の内側に突出する刃部27を有する。
【0086】
これにより、刃部27によって被覆52を容易に切り開くことができる。また、刃部27が損耗した場合に刃ユニット25だけを取り換えるだけでメンテナンスが可能になるので、ランニングコストを低減できる。
【0087】
本実施形態の電線被覆剥取治具1においては、複数の刃ユニット25から電線50の径に応じて選択して、ハウジング10に装着することができる。
【0088】
これにより、様々な径の電線50の被覆52を切り開くことができる。
【0089】
本実施形態の電線被覆剥取治具1において、ハウジング10を電線50に装着した状態で、刃部27の先端は、被覆52に突入したときに被覆52の内周面と外周面の間にある。
【0090】
これにより、刃部27が被覆52を完全に貫通することを防止できる。従って、芯線51の損傷を回避することができる。
【0091】
本実施形態の電線被覆剥取治具1において、刃ユニット25は、ハウジング10の周方向に並べられ、周方向の間隔をあけて配置された複数の刃部27を備える。
【0092】
これにより、一度に複数の切込みを被覆52に形成することができる。従って、作業性が向上する。
【0093】
本実施形態の電線被覆剥取治具1において、ハウジング10は、互いに接合可能な第1半部11及び第2半部12を備える。第1半部11及び第2半部12の接合を解除することで、ハウジング10の内部空間15を露出させることが可能である。刃ユニット25は、第1半部11及び第2半部12のそれぞれに取り付けられる。
【0094】
これにより、複数の刃ユニット25によって、被覆52に対して切込みを効率良く形成することができる。第1半部11と第2半部12の接合を解除することで、それぞれの刃ユニット25の交換を容易に行うことができる。
【0095】
本実施形態の電線被覆剥取治具1は、爪部16と引掛け部17からなるロック部を備える。ロック部は、第1半部11及び第2半部12を互いに接合した状態でロック可能である。
【0096】
これにより、作業中に電線50から電線被覆剥取治具1が外れることを防止できる。
【0097】
本実施形態の電線被覆剥取治具1において、刃ユニット25は、ハウジング10の外部からの操作により、ハウジング10の内側へ近づく向き及び内側から遠ざかる向きに移動可能である。
【0098】
これにより、電線被覆剥取治具1を操作することにより、必要なときだけ刃部27を被覆52に突入させることができる。
【0099】
本実施形態の電線被覆剥取治具1において、操作部22には操作面が形成されている。操作面は、ハウジング10の外部に露出しており、押込み操作が可能である。操作面の押込み操作が刃ユニット25に伝達されることにより、刃ユニット25がハウジング10の内側へ近づく向きに移動する。
【0100】
これにより、簡単な操作で、刃部27を被覆52に突入させることができる。
【0101】
本実施形態の電線被覆剥取治具1において、操作部22の操作面は、ハウジング10の中心を挟んで1対で配置されている。
【0102】
これにより、電線50を挟み込むように操作力を加える形となるので、刃部27を被覆52に対して強く突入させることができる。従って、作業効率が向上する。
【0103】
本実施形態の電線被覆剥取治具1は、刃ユニット25をハウジング10の内側から遠ざかる向きに付勢する戻しバネ24を備える。
【0104】
これにより、必要な場合以外は刃部27が電線50から遠ざかる向きに退避するので、被覆52を損傷させることを防止できる。
【0105】
本実施形態の電線被覆剥取治具1は、ハウジング10の内側を向く押え面を有する押え部材36を備える。押え面は、被覆52の外周面に接触可能である。
【0106】
これにより、簡単な操作で、被覆52に対して力を加えることができる。
【0107】
本実施形態の電線被覆剥取治具1において、押え部材36は、ハウジング10の外部からの操作により、ハウジング10の内側へ近づく向き及び内側から遠ざかる向きに移動可能である。
【0108】
これにより、必要なときだけ押え部材36を被覆52に接触させることができる。
【0109】
本実施形態では、以下に示す方法で、電線50の被覆52が切開されている。即ち、この電線被覆切開方法は、装着工程と、第1切込み形成工程と、第2切込み形成工程と、第3切込み形成工程と、を含む。装着工程では、電線被覆剥取治具1を、電線に装着する。電線被覆剥取治具1は、ハウジング10及び刃ユニット25を備える。ハウジング10は、被覆52が付いた電線50に装着可能である。刃ユニット25は、ハウジング10の内側に突出する刃部27を有し、交換可能である。
図5に示す第1切込み形成工程では、電線被覆剥取治具1を電線50に対して回転させ、刃部27によって周方向の切込みを被覆52に形成する。
図6に示す第2切込み形成工程では、電線被覆剥取治具1を電線50の長手方向に移動させ、刃部27によって長手方向の切込みを被覆52に形成する。
図7に示す第3切込み形成工程では、第1切込み形成工程とは異なる位置で電線被覆剥取治具1を電線50に対して回転させ、刃部27によって周方向の切込みを被覆52に形成する。
【0110】
これにより、複数の切込みを形成することによって、被覆52を容易に剥取可能な状態とすることができる。
【0111】
次に、上記実施形態の変形例を説明する。
【0112】
図11に示す変形例の電線被覆剥取治具1xにおいては、上述の実施形態と、刃ユニット25xの構成が異なる。具体的に説明すると、刃ユニット25xは、刃部27に加えて突起28を備える。突起28は、筒状のハウジング10の軸方向で刃部27に対して隣接するように配置される。
【0113】
突起28の突出長さは、刃部27の突出長さよりも少し長くなるように構成されている。刃部27の突出長さは、上述の実施形態と同様に、切開する対象である被覆52の厚みよりも少し小さい。突起28の突出長さは、被覆52の厚みよりも少し大きい。また、突起28の先端は、鋭利でない、球面等の滑らかな曲面として構成されている。
【0114】
この構成で、作業者が電線被覆剥取治具1の操作部22を押し込むと、刃部27と突起28の両方が電線50の被覆52に突入する。電線被覆剥取治具1を電線50の長手方向一側に(具体的には、刃部27が突起28に対して先行する向きに)移動させると、刃部27によって形成された切込みが、突起28によって押し開かれ、完全に破断する。従って、軸方向の切れ目に沿って被覆52を切り開くことが容易になる。
【0115】
以上に説明したように、本変形例の電線被覆剥取治具1xにおいて、刃ユニット25xは、刃部27に対して軸方向に並んで配置された突起28を有する。
【0116】
これにより、刃部27によって軸方向に形成された切込みを、突起28によって容易に押し広げて破断させることができる。
【0117】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。変更は単独で行われても良いし、複数の変更が任意に組み合わせて行われても良い。
【0118】
刃ユニット25,25xが、スライド移動不能にハウジング10に設けられても良い。例えば、スライド体21等を省略して、刃ユニット25,25xを、ネジ止めによりハウジング10の内壁に直接ネジ止めすることができる。この構成では、第1半部11が第2半部12に対して閉じられるのと同時に、刃部27が電線50の被覆52に突入することになる。
【0119】
上述の実施形態では、ハウジング10に形成される内部空間15の内壁と、電線50の外周面と、の間の隙間は僅かである。しかしながら、ハウジング10と電線50との間に、径方向の隙間をある程度大きく形成しても良い。この場合、
図10の作業において、切込みが形成された被覆52が鎖線で示すように他の被覆52の外周側に乗り上げ、この結果、軸方向の切込みに沿って被覆52が完全に破断することが期待できる。この結果、剥取作業が容易になる。
【0120】
図11の変形例において、刃部27と突起28が互いに独立してスライド移動可能に構成されても良い。言い換えれば、刃部27を突入させる操作部22と、突起28を突入させる操作部とが、別々に設けられても良い。
【0121】
交換可能な刃ユニット25,25xが、スライド体21、操作部22、カラー23、及び戻しバネ24のうち少なくとも何れかを含んで構成されても良い。
【0122】
上記の実施形態において、押えユニット35は刃ユニット25と同様に交換可能であるが、交換不能に取り付けられても良い。
【0123】
押えユニット35の押え部材36は、円弧プレート状に代えて、平面プレート状に構成されても良い。この場合、様々な径の電線50に対して、1つの押え部材36によって被覆52を押さえることができる。
【0124】
刃ユニット25において、刃部27の数は3つ以上であっても良いし、1つであっても良い。
【0125】
スライド体21、操作部22、カラー23、戻しバネ24及び刃ユニット25は、ハウジング10に対して1つだけ設けられても良い。
【0126】
戻しバネ24,34として、コイルバネに代えて板バネ等が用いられても良い。
【0127】
図9に示す工程で、操作部32を押さえた状態で電線被覆剥取治具1を少し回転させても良い。
【0128】
刃ユニット25,25xをスライド体21に対して着脱可能に取り付ける構成は、上記のように爪によるものに限定されず、例えばネジ止めを用いることができる。
【0129】
爪部16及び引掛け部17によるロック機構は、省略することもできる。この場合、例えば2つの操作部22を押す力を利用して、第1半部11及び第2半部12が閉じられた状態を保持することになる。
【0130】
スライド体31、操作部32、カラー33、戻しバネ34及び押えユニット35は、省略することもできる。
【符号の説明】
【0131】
1 電線被覆剥取治具(電線被覆切開用治具)
10 ハウジング(筒部材)
15 内部空間
25,25a,25x 刃ユニット
27 刃部(刃)
28 突起
36 押え部材
50 電線
52 被覆