(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073549
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】電池管理装置、電池管理方法、電池管理プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/3835 20190101AFI20230519BHJP
G01R 31/3828 20190101ALI20230519BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20230519BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20230519BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20230519BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
G01R31/3835
G01R31/3828
G01R31/389
G01R31/392
G01R31/367
H01M10/48 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186083
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 亨
(72)【発明者】
【氏名】若林 諒
(72)【発明者】
【氏名】藤本 博也
(72)【発明者】
【氏名】植田 穣
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 絵里
(72)【発明者】
【氏名】秋月 慧土
【テーマコード(参考)】
2G216
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA02
2G216BA04
2G216BA12
2G216BA18
2G216BA23
2G216BA34
2G216BA53
2G216BA59
5H030AA10
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】BMUが取得するSOCのみに依拠することなく、電池の正確なSOCを取得することができる電池管理装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る電池管理装置は、第1充電動作または第1放電動作における電池電圧の変動分と、第2充電動作または第2放電動作における電池電圧の変動分とを用いて、これらの変動分とSOCとの間の関係を記述したデータを参照することにより、SOCを推定する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の状態を管理する電池管理装置であって、
前記電池が出力する電圧の検出値を取得する検知部、
前記電池の状態を推定する演算部、
を備え、
前記演算部は、前記電池が第1充電動作または第1放電動作を開始した時点における前記電池の出力電圧と、前記第1充電動作または前記第1放電動作を終了した後の第1休止期間が開始してから第1時間が経過した時点における前記電池の出力電圧との間の第1差分を計算し、
前記演算部は、前記第1休止期間が終了した後に前記電池が第2充電動作または第2放電動作を開始した時点における前記電池の出力電圧と、前記第2充電動作または前記第2放電動作が終了した後の第2休止期間が開始してから第2時間が経過した時点における前記電池の出力電圧との間の第2差分を計算し、
前記演算部は、前記第1差分、前記第2差分、および前記電池の充電状態の間の関係を記述したデータを参照することにより、前記電池の充電状態を推定する
ことを特徴とする電池管理装置。
【請求項2】
前記データは、前記電池が充電または放電を開始してから終了するまでの前記電池の充電量または放電量を前記充電状態に換算した値と、前記電池が充電または放電を開始してから終了するまでの前記電池の出力電圧の変化との間の関係を記述しており、
前記演算部は、前記第1差分を用いて前記データを参照することにより、前記第1充電動作または前記第1放電動作における前記電池の充電量または放電量に対応する前記充電状態の第1候補を取得し、
前記演算部は、前記第2差分を用いて前記データを参照することにより、前記第2充電動作または前記第2放電動作における前記電池の充電量または放電量に対応する前記充電状態の第2候補を取得し、
前記演算部は、前記第1候補と前記第2候補のうち、前記第2充電動作における充電量または前記第2放電動作における放電量に対応するものを特定することにより、前記充電状態を推定する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項3】
前記データは、前記電池が充電または放電を開始してから終了するまでの前記電池の充電量または放電量を前記充電状態に換算した値と、前記電池が充電または放電を開始してから終了するまでの前記電池の出力電圧の変化との間の関係を記述しており、
前記演算部は、前記データが記述しているデータ点のうち、前記第1差分、前記第2差分、および前記第1差分と前記第2差分との間の差分に対応するものを特定することにより、前記充電状態を推定する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項4】
前記演算部は、
前記第1充電動作または前記第1放電動作が開始する時点における前記電池の第1出力電圧、
前記第1休止期間が開始してから前記第1時間が経過した時点における前記電池の第2出力電圧、
前記第2休止期間が開始してから前記第2時間が経過した時点における前記電池の第3出力電圧、
の組み合わせごとに前記充電状態を推定し、
前記演算部は、前記電池管理装置から独立して前記電池の出力電圧を計測する計測装置から、前記第1出力電圧、前記第2出力電圧、および前記第3出力電圧それぞれの計測結果を取得し、
前記演算部は、前記組み合わせごとに推定した前記充電状態と、前記計測結果との間の対応関係を学習し、
前記演算部は、前記学習した前記対応関係に対して、前記計測装置から取得した新たな前記計測結果を投入することにより、前記充電状態を推定する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記電池の劣化状態を推定し、
前記演算部は、前記劣化状態を用いて、前記第1充電動作が開始する時点における前記充電状態を計算する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項6】
前記検知部は、前記電池が出力する電流の検出値を取得し、
前記演算部は、前記電池が出力する電圧の経時変化を表す差分として、前記電池が充電または放電を終了した終了時点以後の第1起算時点における前記電圧と、前記第1起算時点から第1期間が経過した第1時点における前記電圧との間の第1差分を取得し、
前記演算部は、前記差分として、前記第1時点以後の第2起算時点における前記電圧と、前記第2起算時点から第2期間が経過した第2時点における前記電圧との間の第2差分を取得し、
前記演算部は、前記第1差分と前記電池の内部抵抗との間の関係を記述するとともに前記第2差分と前記劣化状態との間の関係を記述した関係データを取得し、
前記演算部は、前記第1差分を用いて前記関係データを参照することにより前記電池の内部抵抗を推定し、
前記演算部は、前記第2差分を用いて前記関係データを参照することにより前記劣化状態を推定する
ことを特徴とする請求項5記載の電池管理装置。
【請求項7】
前記第1充電動作と前記第2充電動作は、前記電池を搭載した電気機器の充電ポートを介して実施され、
前記演算部は、前記充電ポートを介して実施された前記第1充電動作と前記第2充電動作によって生じる前記第1差分と前記第2差分をそれぞれ計算する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記充電ポートと充電器との間に配置された計測器から、または前記電気機器と接続して前記電気機器に対するメンテナンス処理を実施する端末から、
前記第1充電動作または前記第1放電動作が開始する時点における前記電池の第1出力電圧、
前記第1休止期間が開始してから前記第1時間が経過した時点における前記電池の第2出力電圧、
前記第2休止期間が開始してから前記第2時間が経過した時点における前記電池の第3出力電圧、
をそれぞれ取得する
ことを特徴とする請求項7記載の電池管理装置。
【請求項9】
前記第1放電動作と前記第2放電動作は、前記電池を搭載した電気機器が有する電気的負荷によって実施され、
前記演算部は、前記電気的負荷によって実施された前記第1放電動作と前記第2放電動作によって生じる前記第1差分と前記第2差分をそれぞれ取得する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項10】
前記第1充電動作と前記第2充電動作、または、前記第1放電動作と前記第2放電動作は、前記電池を駆動する制御装置によって実施され、
前記演算部は、前記制御装置によって実施された前記第1充電動作と前記第2充電動作によって生じる、または、前記制御装置によって実施された前記第1放電動作と前記第2放電動作によって生じる、前記第1差分と前記第2差分をそれぞれ取得する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項11】
前記制御装置は、電力需要に基づきあらかじめ定められた運用スケジュールにしたがって、前記電池の充電または放電を実施し、
前記制御装置は、前記運用スケジュールにしたがって前記電池の充電または放電を実施する前に、前記第1充電動作と前記第2充電動作、または、前記第1放電動作と前記第2放電動作を実施し、
前記演算部は、前記制御装置が前記運用スケジュールにしたがって前記電池の充電または放電を実施する前に、前記充電状態を推定する
ことを特徴とする請求項10記載の電池管理装置。
【請求項12】
前記電池管理装置は、前記推定した前記充電状態を提示するユーザインターフェースを備える
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項13】
電池の状態を管理する処理をコンピュータに実行させる電池管理プログラムであって、前記コンピュータに、
前記電池が出力する電圧の検出値を取得するステップ、
前記電池の状態を推定するステップ、
を実行させ、
前記推定するステップにおいては、前記コンピュータに、前記電池が第1充電動作または第1放電動作を開始した時点における前記電池の出力電圧と、前記第1充電動作または前記第1放電動作を終了した後の第1休止期間が開始してから第1時間が経過した時点における前記電池の出力電圧との間の第1差分を計算するステップを実行させ、
前記推定するステップにおいては、前記コンピュータに、前記第1休止期間が終了した後に前記電池が第2充電動作または第2放電動作を開始した時点における前記電池の出力電圧と、前記第2充電動作または前記第2放電動作が終了した後の第2休止期間が開始してから第2時間が経過した時点における前記電池の出力電圧との間の第2差分を計算するステップを実行させ、
前記推定するステップにおいては、前記コンピュータに、前記第1差分、前記第2差分、および前記電池の充電状態の間の関係を記述したデータを参照することにより、前記電池の充電状態を推定するステップを実行させる
ことを特徴とする電池管理プログラム。
【請求項14】
電池の状態を管理する電池管理装置を用いて前記電池の状態を管理する方法であって、
前記電池管理装置は、
前記電池が出力する電圧の検出値を取得する検知部、
前記電池の状態を推定する演算部、
を備え、
前記演算部は、前記電池が第1充電動作または第1放電動作を開始した時点における前記電池の出力電圧と、前記第1充電動作または前記第1放電動作を終了した後の第1休止期間が開始してから第1時間が経過した時点における前記電池の出力電圧との間の第1差分を計算し、
前記演算部は、前記第1休止期間が終了した後に前記電池が第2充電動作または第2放電動作を開始した時点における前記電池の出力電圧と、前記第2充電動作または前記第2放電動作が終了した後の第2休止期間が開始してから第2時間が経過した時点における前記電池の出力電圧との間の第2差分を計算し、
前記演算部は、前記第1差分、前記第2差分、および前記電池の充電状態の間の関係を記述したデータを参照することにより、前記電池の充電状態を推定し、
前記方法は、
前記電池を搭載した電気機器の充電ポートを介して前記第1充電動作と前記第2充電動作を実施するステップ、
前記充電ポートと充電器との間に配置された計測器を用いて、または前記電気機器と接続して前記電気機器に対するメンテナンス処理を実施する端末を用いて、前記電池の出力電圧を計測するステップ、
前記電池管理装置が前記出力電圧を用いて前記充電状態を推定するステップ、
を有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の状態を管理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池セルが出力する電圧(セル電圧)は一般的に、電池セル(または複数の電池セルを接続した組電池セル)を制御するバッテリ管理装置(BMU)によって測定または取得される。BMUは、その測定値を用いて電池セルの充電状態(State Of Charge:SOC)を計算する。BMUはその計算結果を例えばCAN(Control Area Network)通信によって上位装置に対して送信する。
【0003】
蓄電池が用いられる場面が多岐にわたるにつれて、SOCを正確に推定する必要性が増している。例えばリチウム金属電池やリチウムイオン電池を輸送する際には、SOCが定格容量に対して所定割合以下(例:定格容量の30%以下)であることが求められる場合がある。あるいは電力系統に対して需要者サイドから蓄電池を接続する際に、蓄電池を運用スケジュールにしたがって駆動するために、SOCを正確に把握する必要がある。
【0004】
下記特許文献1は、『SOCおよびSOHを電池のプロセス値のみならず、SOCおよびSOHの相互相関も考慮して精度良く推定する。』ことを課題として、『バッテリコントローラ6BCにおいて、BCIA9は、電池5の内部抵抗の25℃換算値R25を計測する内部抵抗計測部96および開放電圧の25℃換算値OCV25を計測する開放電圧計測部97を具備する。CPU8は、OCV25とSOHおよびSOCとの関係を表す第1方程式、およびR25とSOHおよびSOCとの関係を表す第2方程式、を記憶する方程式記憶部86ならびに前記R25およびOCV25の計測結果を前記各方程式に適用し、その連立方程式の解としてSOHおよびSOCを求める求解部87を具備する。』という技術を開示している(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上位装置は、BMUから取得したSOCに基づき、様々な動作を実施する。上述のリチウムイオン電池等を輸送する際や需要者サイドの蓄電池などの例においても、これは原則として同様であり、BMUから取得したSOCに基づき各用途を実現するのが通常であると考えられる。しかしBMUから取得するSOCは、ある程度の余裕をもって通知される場合がある。例えば実際のSOCは80%であるとき、BMUは上位装置に対してSOCが70%である旨を報告する場合がある。上位装置が実行するアプリケーション(例:電気自動車における残容量表示)は、さらに余裕をもってSOCを提示する場合がある。このように、ユーザが認識する時点におけるSOCは、必ずしもBMUが通知したSOCと一致しているとは限らず、さらにBMUが通知したSOCは実際のSOCと一致しているとは限らないことが、経験上分かっている。
【0007】
蓄電池が放電中(充電中も同様、以下同じ)において電池からの出力電圧を計測すると計測結果に対して大きなノイズが重畳される場合がある。BMUはその計測結果に対してノイズ除去処理を実施し、その結果を上位装置に対して通知する。このノイズ除去にともなって、BMUが上位装置に対して報告する計測結果も、実際のSOCからずれてしまう可能性がある。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、BMUが取得するSOCのみに依拠することなく、電池の正確なSOCを取得することができる電池管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電池管理装置は、第1充電動作または第1放電動作における電池電圧の変動分と、第2充電動作または第2放電動作における電池電圧の変動分とを用いて、これらの変動分とSOCとの間の関係を記述したデータを参照することにより、SOCを推定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る電池管理装置によれば、BMUが取得するSOCのみに依拠することなく、電池の正確なSOCを取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】BMUが電池セルのSOCを取得する様子を示す模式図である。
【
図2】電池の放電動作時においてBMUが計測または取得する電池電圧の波形例である。
【
図3】実施形態1に係る電池管理装置100の構成図である。
【
図4】電池管理装置100が電池200のSOCを推定する際における放電動作の例を示す。
【
図5】休止期間が開始した後に電池電圧の経時変動が安定した時点における電池電圧とSOCとの間の関係を示す図である。
【
図6】演算部120が電池200のSOCを推定するために用いるデータの例とこのデータを用いたSOCの推定手順を示す図である。
【
図7】演算部120がBMUから取得する電池電圧を用いてSOCを推定する手順を説明する模式図である。
【
図8】実施形態3に係る電池管理装置100がSOCを推定する手順を説明する模式図である。
【
図9】電池管理装置100の別構成例を示す図である。
【
図10】検知部130が電池200と接続されている場合における構成例を示す。
【
図11】演算部120がRiとSOHを計算する手順を説明するフローチャートである。
【
図12】放電後の休止期間において電池200が出力する電流と電圧の経時変化を示すグラフである。
【
図13】充電後の休止期間において電池200が出力する電流と電圧の経時変化を示すグラフである。
【
図14】関係テーブル141の構成とデータ例を示す図である。
【
図15A】電池管理装置100が電池200のSOCを推定する場面の1例である。
【
図15B】電池管理装置100が電池200のSOCを推定する場面の1例である。
【
図17】実施形態6に係る電力システム1700の構成図である。
【
図18】電力システム1700の運用スケジュールの例である。
【
図19】電池管理装置100が提供するユーザインターフェースの例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態1>
図1は、BMUが電池セルのSOCを取得する様子を示す模式図である。BMUは1以上の電池セルと接続されており、電池セルの出力電圧や出力電流を用いてSOCを計算してその結果を上位装置に対して報告する。上位装置は例えば
図1下段のような画面インターフェース上で、SOCを視覚的に表示することができる。SOCが満充電に近ければ電池アイコンが満たされた状態で表示される。あるいはSOCの数値そのものを提示することもできる。
【0013】
図2は、電池の放電動作時においてBMUが計測または取得する電池電圧の波形例である。電池電圧(電池からの出力電圧)の計測値には、ある程度のノイズが重畳されている。特に放電動作時においては、大きなノイズが重畳されることが、経験上分かっている。放電動作に続く休止期間(放電も充電も実施していない期間)におけるノイズは比較的小さいが、やはりある程度のノイズが計測結果に対して重畳されている。
図2左図はノイズが重畳された電圧波形を示す。そこでBMUは、ノイズ除去処理を実施することにより、
図2右図のような電圧波形を取得し、これを上位装置へ報告し、あるいはこれに基づきSOCを推定する。充電動作時においても同様である。
【0014】
図2に示すように、BMUが電池電圧に対してノイズ除去を実施した上で上位装置に対してその計測結果などを報告する場合、そのノイズ除去処理によって計測結果がオフセットされ、上位装置は正確な計測結果を得ることができない可能性がある。例えば放電動作時におけるセル電圧を計測した結果によれば、電池電圧は放電が進むにともなって単調減少するが、BMUが出力する電池電圧波形は速やかに安定している。したがって実際の電池電圧とBMUによる計測値との間には、オフセットが存在していると推定される。休止期間においては、放電動作時ほど大きくはないものの、同様にBMUによる計測結果にはオフセットが重畳されていると推定される。
【0015】
図3は、本発明の実施形態1に係る電池管理装置100の構成図である。電池管理装置100は、電池200の状態を管理する装置である。電池管理装置100は、通信部110、演算部120、検知部130、記憶部140を備える。検知部130は、電池200の出力電圧、出力電流、温度などを取得する。必ずしも検知部130自体がこれらを計測する必要はなく、計測結果を例えばBMUから取得してもよい。演算部120は、これらの計測結果を用いて電池200のSOCを推定する。通信部110は、その推定結果を外部装置に対して送信する。記憶部140は、演算部120が用いるデータを格納する装置である。
【0016】
図4は、電池管理装置100が電池200のSOCを推定する際における放電動作の例を示す。電池200は、電池管理装置100が電池200のSOCを推定する際に、
図4が例示するように放電動作とその後に続く休止期間をそれぞれ2回実施する。これらの動作は電池管理装置100が制御してもよいし、別の制御装置が制御してもよい。すなわちこれらの動作にともなう電池電圧の経時変動を取得できればよい。
【0017】
演算部120は、電池200のSOCを推定開始する時点において、電池200のSOH(State Of Health:劣化状態)をあらかじめ把握しているものとする。SOHを取得する手法としては任意の公知技術を用いることができるが、その1例については後述する。演算部120は、電池200の定格容量[Ah]に対してそのSOHを乗算することにより、その時点における電池200の満充電容量[Ah]を計算することができる。この満充電容量を、その時点におけるSOC=100%とみなすことができる。
【0018】
演算部120は、電池200が1回目の放電動作(第1放電動作)を開始する時点における電池電圧V1を取得する。演算部120は、電池200が第1放電動作を実施した時間長t1を取得し、放電電流とt1を乗算することにより、放電量を計算する。演算部120は、この放電量と満充電容量の比率により、第1放電動作によって変化したSOCを得ることができる。
【0019】
演算部120は、第1放電動作後の休止期間(第1休止期間)における電池電圧V2を取得する。演算部120は、第1休止期間において電池電圧の経時変動が安定した時点における電池電圧を、V2として取得する。休止期間が開始してから電池電圧が安定するまでの時間長は、数秒程度を想定しており、開回路電圧のように安定するまで数十分を要する電圧をV2として採用する必要はない。
【0020】
演算部120は、V1からV2に至る電圧変化(ΔV12=V1-V2)を計算する。これにより演算部120は、第1放電動作にともなうSOCの変化量と、第1放電動作にともなう電池電圧の変化量との間の関係を得ることができる。
【0021】
演算部120は、電池200が2回目の放電動作(第2放電動作)を実施した時間長t2を取得し、放電電流とt2を乗算することにより、放電量を計算する。演算部120は、この放電量と満充電容量の比率により、第2放電動作によって変化したSOCを得ることができる。
【0022】
演算部120は、第2放電動作後の休止期間(第2休止期間)における電池電圧V3を取得する。演算部120は、V2と同様に、第2休止期間において電池電圧の経時変動が安定した時点における電池電圧を、V3として取得する。第1休止期間が開始してからV2までの時間長と、第2休止期間が開始してからV3までの時間長は、同じであってもよいし異なってもよい。
【0023】
演算部120は、V2からV3に至る電圧変化(ΔV23=V2-V3)を計算する。これにより演算部120は、第2放電動作にともなうSOCの変化量と、第2放電動作にともなう電池電圧の変化量との間の関係を得ることができる。
【0024】
図5は、休止期間が開始した後に電池電圧の経時変動が安定した時点における電池電圧とSOCとの間の関係を示す図である。
図5に示すデータは例えばあらかじめ実験によって取得することができる。このデータが示す関係を微分する(SOCの変化に対する電池電圧の変化を求める)ことにより、次の
図6に示すデータ曲線を得ることができる。
【0025】
図6は、演算部120が電池200のSOCを推定するために用いるデータの例とこのデータを用いたSOCの推定手順を示す図である。このデータは、
図4で例示した放電動作にともなう電池電圧の変動(例えばΔV12、ΔV23)と、SOCとの間の関係を記述している。このデータは、SOCを推定する前にあらかじめ作成して記憶部140に格納しておく。
【0026】
演算部120は、
図6のデータから、
図4で説明した2回の放電動作それぞれにおける電圧変動(ΔV12とΔV23)に対応するデータ点を特定する。これにより得られる2つのデータ点は、各放電動作が完了した時点におけるSOCに対応している。ただし、各電圧変動に対応するSOCの候補が複数存在する場合もある。
図6のデータ例においては、ΔV12に対応するSOC候補が2つ存在し、ΔV23に対応するSOC候補が4つ存在する。
【0027】
そこで演算部120はさらに、SOC候補のうち、第2放電動作における放電量に対応するものを特定する。例えば第2放電動作における放電量がSOC1%に相当するものである場合、ΔV12に対応するSOCとΔV23に対応するSOCとの間の差分が1%であるSOC候補を特定する。これによって特定したSOC候補は、電池200の真のSOCを表していると推定することができる。
図6のデータ例においては、SOC=24%近傍のデータ点がこれに相当する。したがって演算部120は、電池200のSOCが約24%であると推定することができる。
【0028】
演算部120は、より簡易的には、SOC候補のうち、ΔV12とΔV23との間の差分VRに対応するものを特定してもよい。VRは第2放電動作における放電量に対応しているからである。
図6のデータ例においては、同様にSOC=24%近傍のデータ点がこれに相当する。この場合、演算部120は放電動作にともなう放電量(I×t1、I×t2など)を計算する必要はなく、ΔV12、ΔV23、VRに対応するデータ点を
図6に示すデータ上で特定すれば足りる。
【0029】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る電池管理装置100は、第1放電期間後の第1休止期間においてV2を取得するとともにΔV12を計算し、第2放電期間後の第2休止期間においてV3を取得するとともにΔV23を計算し、これらを用いて
図6のデータを参照することにより電池200のSOCを推定する。V1~V3そのものではなくこれらの差分であるΔV12またはΔV23を用いることにより、V1~V3それぞれに対してBMUの計測過程におけるオフセットが重畳されている場合であっても、その影響をある程度キャンセルすることができる。さらに、BMUが計測したSOCに依拠することなく、かつオフセットの影響を緩和した計測結果により、SOCを正確に取得することができる。
【0030】
本実施形態1に係る電池管理装置100がSOCを推定する際に用いる関係データ(
図6が例示するデータ)は、充放電動作にともなうSOCの変化とそのときの電池電圧の変化との間の関係を記述しており、演算部120はΔV12とΔV23に対応するデータ点をSOC候補として特定するとともに、そのSOC候補のなかから充放電量に対応するものを特定することにより、SOCを推定する。これにより、SOC候補が複数存在する場合であっても、充放電量に対応するSOCを正確に特定することができる。
【0031】
本実施形態1に係る電池管理装置100がSOCを推定する際に用いる関係データ(
図6が例示するデータ)は、充放電動作にともなうSOCの変化とそのときの電池電圧の変化との間の関係を記述しており、演算部120はΔV12とΔV23に対応するデータ点をSOC候補として特定するとともに、そのSOC候補のなかから第2充電動作または第2放電動作による電池電圧の変動分(VR)に対応するものを特定することにより、SOCを推定する。これにより、充放電量そのものを計算しなくとも、充放電動作にともなう電池電圧の変動によって、充放電量に対応するSOCを正確に特定することができる。
【0032】
本実施形態1においては、放電動作後の休止期間において電池電圧を取得する例を説明したが、充電動作後の休止期間において電池電圧を取得して同様の手法によりSOCを推定することもできる。以後の実施形態においても同様である。例えば充電開始時は電池200の残容量を0とし、2回の充電動作それぞれにともなう電池電圧の変動分を取得すればよい。充電動作後の休止期間についても、電池電圧が安定する数秒程度の時間長が経過した時点で電池電圧を計測すればよい。
【0033】
<実施の形態2>
実施形態1においては、BMUから取得した電池電圧が必ずしも正確ではないことを考慮して、SOCをより正確に推定する手順を説明した。ただしBMUから取得する電池電圧の履歴がある程度蓄積されてくると、BMUから取得する電池電圧と正確なSOCとの間の対応関係を推定することができると考えられる。そこで本発明の実施形態2では、BMUから取得する電池電圧と正確なSOCとの間の対応関係を学習し、これを用いてSOCを推定する動作例を説明する。電池管理装置100の構成は実施形態1と同様であるので、以下では学習に関する事項について主に説明する。
【0034】
図7は、演算部120がBMUから取得する電池電圧を用いてSOCを推定する手順を説明する模式図である。演算部120は、実施形態1で説明した手順にしたがって、電池電圧V1~V3を用いて電池200のSOCを推定する。このとき用いるV1~V3は例えばBMUから取得するものである。上述のようにこのV1~V3は真値からオフセットしている可能性があるが、演算部120はBMUから取得したV1~V3をそのまま用いてSOCを推定する。
【0035】
演算部120は、SOCの推定結果と、これを推定するために用いたV1~V3のセットとの間の対応関係を、記憶部140へ格納する。演算部120は、SOCを推定するごとに同様の対応関係を記憶部140へ格納する。このように対応関係を蓄積することにより、演算部120は新たなV1~V3を取得した際にその対応関係を用いてSOCを推定することができる。
【0036】
演算部120がV1~V3を用いてSOCを推定する手法としては、例えば以下のようなものが考えられる:(a)V1~V3とこれを用いたSOCの推定結果との間の対応関係を適当な機械学習手法によって学習しておき、その結果として得られる学習モデルに対して新たなV1~V3を投入することにより、学習器の出力としてSOC推定結果を取得する;(b)V1~V3とこれを用いたSOCの推定結果をプロットし、これらの対応関係を最も近似する方程式を算出する。この方程式に対して新たなV1~V3を代入することにより、SOC推定結果を取得する。
【0037】
本実施形態2の手法は、最初に実施形態1の手法にしたがって推定結果をある程度蓄積する必要があるが、V1~V3とSOCとの間の対応関係を確定した以降は、V1~V3の計測値から直ちにSOCを取得できる点が有用である。
【0038】
<実施の形態3>
図8は、本発明の実施形態3に係る電池管理装置100がSOCを推定する手順を説明する模式図である。実施形態2においては、BMUから取得するV1~V3とSOCとの間の関係を学習することを説明した。本実施形態3においてはこれに代えて、BMUから取得するSOCと電池管理装置100が推定するSOCとの間の対応関係を学習する例を説明する。電池管理装置100の構成は実施形態1と同様であるので、以下では学習に関する事項について主に説明する。
【0039】
BMUは、電池電圧や電池電流を用いてSOCを計算する。演算部120はこのSOCを取得する。演算部120はこれとは別に、実施形態1で説明した手法により、電池200のSOCを推定する。演算部120は、BMUから取得したSOCと演算部120が推定したSOCとの間の対応関係を、実施形態2と同様に学習する。演算部120は、学習結果がある程度蓄積した時点以降は、BMUから取得した新たなSOCをその学習モデルに対して投入することにより、SOC推定結果を得ることができる。
【0040】
<実施の形態4>
本発明の実施形態4では、実施形態1~3で説明した電池200のSOH(または内部抵抗Ri、以下同様)を推定する方法について説明する。電池管理装置100の構成は以上の実施形態と同様であるが、以下のような変形例も可能である。その他の実施形態においても同様の変形例を採用可能である。
【0041】
図9は、電池管理装置100の別構成例を示す図である。電池管理装置100は、必ずしも電池200と直接的に接続して電力供給を受ける装置でなくともよく、
図3に記載された通信部110および検知部130が含まれていない形態を示すものである。
図9において電池管理装置100は、電池200の電圧V、電流I、温度Tを通信部110から取得する。具体的には、電池管理装置100が備える検知部150はこれらの検出値を例えばネットワーク経由で受け取り、演算部120はこれらの検出値を用いてSOHを計算する。
【0042】
図10は、検知部130が電池200と接続されている場合における構成例を示す。検知部130は、電池管理装置100の一部として構成してもよいし、電池管理装置100とは別のモジュールとして構成してもよい。検知部130は、電池200の充放電動作時における電圧V、温度T、電流Iを取得するために、電圧センサ131、温度センサ132、電流センサ133を備える。
【0043】
電圧センサ131は、電池200の両端電圧(電池200が出力する電圧)を測定する。温度センサ132は、例えば電池200が備える熱電対と接続され、これを介して電池200の温度を測定する。電流センサ133は、電池200の一端と接続され、電池200が出力する電流を測定する。温度センサ132はオプションであり、必ずしも備えていなくともよい。
【0044】
図11は、演算部120がRiとSOHを計算する手順を説明するフローチャートである。演算部120は、例えば電池管理装置100が起動したとき、本フローチャートを開始するように指示されたとき、所定周期毎、などの適当なタイミングで、本フローチャートを開始する。以下
図11の各ステップを説明する。
【0045】
(
図11:ステップS1101)
演算部120は、充電後の休止期間または放電後の休止期間であるか否かを判定する。現在が休止期間ではない場合は本フローチャートを終了する。休止期間である場合はS1102へ進む。例えば放電後の休止期間であることは、電池200が出力する電流が負値(I<0)からゼロへ向かって変化している、(b)負値からゼロ近傍の値へ変化して安定している(|I|<閾値)、などによって判定することができる。
【0046】
(
図11:ステップS1102)
演算部120は、ΔVaとΔVbを計算する。ΔVaは、休止期間が終了した以後の第1起算時点から第1期間taが経過した第1時刻までにおける、電池200の出力電圧の変動分である。ΔVbは、第1時刻以後の第2起算時点から第2期間tbが経過した第2時刻までにおける、電池200の出力電圧の変動分である。これらの計算手順については後述する。
【0047】
(
図11:ステップS1103)
演算部120は、下記式1と式2にしたがって、RiとSOHを計算する。f
Riは、RiをΔVaの関数として定義する。f
Riは、電池200の温度によって変動するパラメータ(c_Ri_T)と、電池200の出力電流によって変動するパラメータ(c_Ri_I)を有する。f
SOHは、SOHをΔVbの関数として定義する。f
SOHは、電池200の温度によって変動するパラメータ(c_SOH_T)と、電池200の出力電流によって変動するパラメータ(c_SOH_I)を有する。これらのパラメータは関係テーブル141によって定義されている。各関数の具体例と関係テーブル141の具体例については後述する。f
Ri及びf
SOHは例えばロットごとの実験データを元に形成される式となる。
【0048】
(
図11:ステップS1103:計算式)
Ri=f
Ri(ΔVa,c_Ri_T_1,c_Ri_T_2,・・・,c_Ri_I_1,c_Ri_I_2,・・・) (1)
SOH=f
SOH(ΔVb,c_SOH_T_1,c_SOH_T_2,・・・,c_SOH_I_1,c_SOH_I_2,・・・) (2)
【0049】
図12は、放電後の休止期間において電池200が出力する電流と電圧の経時変化を示すグラフである。S1102におけるΔVaは、放電が終了した時点またはそれよりも後の第1起算時点から第1期間taが経過した第1時刻までにおける、電池200の出力電圧の変動分である。本発明者は、放電が終了した直後における出力電圧において、電池200の内部抵抗による電圧変動がよく表れていることを見出した。すなわちこの期間における出力電圧の変動(ΔVa)は、Riとの間の相関が強いといえる。本実施形態においてはこのことを利用して、ΔVaによってRiを推定することとした。taの開始時刻と時間長それぞれの最適値は、放電の終了時点以後から電圧の経時変化曲線における傾き変化率の最大点までの区間に基づき取得することができる。なお前記区間の特定に際しては、電池の種類、装置、精度等によって、前記区間の両端付近、あるいは両端を含めた領域とするなど、適宜好ましい運用とすればよい。
【0050】
S1102におけるΔVbは、期間taが経過した時点またはそれ以降の第2起算時点から第2期間tbが経過した第2時刻までにおける、電池200の出力電圧の変動分である。放電終了直後におけるΔVaがRiとの間で相関を有しているのに対して、それよりも後の出力電圧が緩やかに変動する期間は、SOHとの間で相関を有していることを、本発明者は見出した。本実施形態においてはこのことを利用して、ΔVbによってSOHを推定することとした。tbの開始時刻と時間長それぞれの最適値は、放電の終了時点以後の電圧の経時変化曲線における傾き変化率の最大点から電圧の経時変化曲線の傾き変化が一定に漸近するまでの区間に基づき取得することができる。なお前記区間の特定に際しては、電池の種類、装置、精度等によって、前記区間の両端付近、あるいは両端を含めた領域とするなど、適宜好ましい運用とすればよい。
【0051】
taの開始時刻は、必ずしも放電終了時刻と同じでなくともよいが、放電終了時刻と近接していることが望ましい。tbの開始時刻は、必ずしもtaの終了時刻と同じでなくともよい。いずれの場合であっても、taとtbは、ta<tbという関係がある。ΔVaの大きさとΔVbの大きさについては、ΔVaのほうが大きい場合もあり得るし、ΔVbのほうが大きい場合もあり得る。なお、ここではta<tbとしたが、電池の種類、装置、精度等によって、ta>tb、あるいはta=tbの場合もあり得るため、適宜好ましい関係とすればよい。
【0052】
taとtbの合計が例えば数秒程度であっても、RiとSOHを精度よく推定できることが、本発明者による実験結果から分かった。したがって本実施形態によれば、休止期間において速やかにRiとSOHをともに推定することができる。
【0053】
図13は、充電後の休止期間において電池200が出力する電流と電圧の経時変化を示すグラフである。S1102におけるΔVaは、放電に代えて、充電が終了した時点またはそれよりも後の第1起算時点から第1期間taが経過した第1時刻までにおける、電池200の出力電圧の変動分でもよい。この場合、S1102におけるΔVbは、期間taが経過した時点またはそれ以降の第2起算時点から第2期間tbが経過した第2時刻までにおける、電池200の出力電圧の変動分となる。充電後の休止期間においても、ΔVaはRiとの間で相関を有し、ΔVbはSOHとの間で相関を有していることを、本発明者は見出した。したがって本実施形態において、S1102におけるΔVaとΔVbは、充放電いずれの後において取得してもよい。
【0054】
図14は、関係テーブル141の構成とデータ例を示す図である。関係テーブル141は、式1と式2における各パラメータを定義するデータテーブルであり、記憶部140内に格納されている。c_Ri_Iとc_SOH_Iは電池200の出力電流によって変動するので、出力電流値ごとに定義されている。c_Ri_Tとc_SOH_Tは電池200の温度によって変動するので、温度ごとに定義されている。これらのパラメータは、放電後の休止期間と充電後の休止期間との間で異なる特性を有する場合があるので、関係テーブル141はこれらの期間ごとに各パラメータを定義している。
【0055】
fRiがΔVaの1次関数である場合、Riは例えば下記式3によって表すことができる。Riの傾きは温度によって影響され、切片は電流によって影響されるからである。この場合、c_Ri_Tとc_Ri_Iはそれぞれ1つである。
【0056】
Ri=c_Ri_T_1×ΔVa+c_Ri_I_1 (3)
【0057】
fSOHがΔVbの1次関数である場合、SOHは例えば下記式4によって表すことができる。SOHの傾きは温度によって影響され、切片は電流によって影響されるからである。この場合、c_SOH_Tとc_SOH_Iはそれぞれ1つである。
【0058】
SOH=c_SOH_T_1×ΔVb+c_SOH_I_1 (4)
【0059】
<実施の形態5>
図15Aは、電池管理装置100が電池200のSOCを推定する場面の1例である。実施形態1で説明した充電動作は、例えば電池200を搭載した電気機器を充電する充電器によって実施することができる。例えば電気自動車1500(電気機器)内に電池200が搭載されているものとする。オペレータは、電気自動車1500が備える充電ポート1501と充電器1502を接続し、電池200を充電する。このとき、充電器1502と充電ポート1501との間に配置された計測器1503は、電池電圧を計測してその結果を電池管理装置100に対して送信する。電池管理装置100と計測器1503は例えばネットワークを介して接続することができる。演算部120は、計測器1503から取得した電池電圧を用いて、実施形態1で説明した手法によりSOCを推定する。
【0060】
実施形態1で説明した推定手法を用いるためには、充電器による充電動作を2回実施する必要がある。したがってオペレータは、実施形態1で説明したように2回の充電動作を実施する。演算部120は、各充電動作後の休止期間において、計測器1503から電池電圧を取得する。休止期間としては、オペレータが充電作業を停止した後の期間を用いることができる。
【0061】
図15Bは、電池管理装置100が電池200のSOCを推定する場面の1例である。
図15Aと同様に、電池200は例えば電気自動車内に搭載されており、オペレータは充電ポートを介して充電動作を実施する。オペレータはさらに、OBD(On Board Diagnostics)端末1504を電気自動車へ接続する。OBD端末1504は電池電圧を計測してその結果を電池管理装置100に対して送信する。電池管理装置100とOBD端末1504は例えばネットワークを介して接続することができる。演算部120は、OBD端末1504から取得した電池電圧を用いて、実施形態1で説明した手法によりSOCを推定する。
【0062】
図16は、放電動作の1例を示す。放電動作は、電池200を搭載した電気機器と接続された電気的負荷を稼働させることによって実施できる。電池200が電気自動車1500内に搭載されている場合、例えば電気自動車1500が備えるエアコンを動作させることによって、電池200を放電させることができる。エアコンをOFFすると電池200は休止期間となる。休止期間の電池電圧は例えばOBD端末1504によって計測することができる。以後の動作は同様である。エアコンは電気的負荷の1例であり、その他の電気的負荷を用いて電池200を放電させてもよい。
【0063】
<実施の形態6>
図17は、本発明の実施形態6に係る電力システム1700の構成図である。電力システム1700は、太陽電池1701と電池200が出力する電力をそれぞれ電力系統に対して供給するシステムである。太陽電池1701は電力制御装置1702によって駆動され、電池200は電力制御装置1703によって駆動される。電力制御装置1703は、電池200の出力電圧などを計測し、その計測結果をデータサーバに対してアップロードする。電池管理装置100は、そのアップロードされた計測結果を用いて、電池200のSOCを推定する。管理サーバ1704は、電力システム1700全体を制御する。電力制御装置1702と1703に対する指令は、例えば電池管理装置100または管理サーバ1704から、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)を介して送信される。電力制御装置1702と1703は、その指令にしたがって、太陽電池1701と電池200をそれぞれ制御する。
【0064】
図18は、電力システム1700の運用スケジュールの例である。電力システム1700を電力系統に対して接続する際に、運用スケジュール(例えば時刻ごとの発電量)をあらかじめ規制当局に対して提出することが求められる場合がある。この運用スケジュールはその運用期間における太陽電池1701の発電量予測結果にしたがって作成される。しかし太陽電池1701の発電量の予測値は、実績値から乖離する可能性が比較的高い。この場合であっても電力システム1700が電力系統に対して供給する電力を運用スケジュールに準拠させるために、電池200を補助的に用いることができる。余剰電力は電池200を充電するために用い、不足電力は電池200から放電することによって補うことができるからである。
【0065】
電池200をこのように用いるためには、電池200のSOCをあらかじめそれに適した状態に準備しておく必要がある。その前提として、電池200のSOCを正確に計測する必要がある。電池管理装置100は、以上の実施形態で説明した手法により、そのSOCを推定する。電力システム1700の運用者は、その推定結果にしたがって、電池200をあらかじめ準備しておくことができる。
【0066】
電力システム1700の運用スケジュールが例えば06:00~18:00である場合は、06:00よりも前に電池200のSOCを準備しておく必要がある。
図18の例においては、期間1802内にこれを準備する。さらにその前提として、期間1802よりも前の期間1801において、SOCを推定する。準備期間を十分確保するためには、期間1801は短いほうが望ましい。
【0067】
<実施の形態7>
図19は、電池管理装置100が提供するユーザインターフェースの例である。ユーザインターフェースは、電池200のSOC推定結果、実施形態1で説明したΔV12やΔV23などの計測結果、BMUから取得する電池電圧の経時変化、などを提示することができる。ユーザインターフェースは、例えば演算部120が生成して適当な表示デバイス上に表示してもよいし、ユーザインターフェースを記述したデータ(例:HTMLデータなどの画面レイアウトを指定するデータ)を演算部120が生成して別の表示端末に対して送信し、その表示端末がこれを描画してもよい。その他適当な手法によって提供してもよい。
【0068】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0069】
以上の実施形態において、検知部130はBMUから電池電圧V1~V3の計測結果を取得することを説明したが、BMU以外の任意の計測装置(例えば実施形態5で説明した計測器1503やOBD端末1504)からこれを取得してもよい。
【0070】
以上の実施形態において、演算部120は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【符号の説明】
【0071】
100:電池管理装置
110:通信部
120:演算部
130:検知部
140:記憶部