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特開2023-73864冷凍機油組成物及び冷凍機用混合組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073864
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】冷凍機油組成物及び冷凍機用混合組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/36 20060101AFI20230519BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20230519BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20230519BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230519BHJP
【FI】
C10M105/36 ZAB
C09K5/04 B
C10N40:30
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186595
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 明雄
(72)【発明者】
【氏名】氣仙 忠
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸生
(72)【発明者】
【氏名】中島 聡
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104CB12A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104LA20
4H104PA20
(57)【要約】
【課題】炭化水素系冷媒が溶解した際に適切な溶解粘度を有し、炭化水素系冷媒の溶解度が低い冷凍機油組成物、並びに当該冷凍機油組成物を含む冷凍機用混合組成物を提供する。
【解決手段】炭化水素系冷媒を含む冷媒に用いられる冷凍機油組成物であって、下記一般式(1)で表される芳香族エステル系化合物(A)から選択される1種以上を含有する、冷凍機油組成物とした。

[前記一般式(1)中、Rは、炭素数5以上24以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数5以上24以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルケニル基である。mは2以上4以下の整数である。複数存在するRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系冷媒を含む冷媒に用いられる冷凍機油組成物であって、
下記一般式(1)で表される芳香族エステル系化合物(A)から選択される1種以上を含有する、冷凍機油組成物。
【化1】

[前記一般式(1)中、Rは、炭素数5以上24以下である直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数5以上24以下である直鎖もしくは分岐鎖状のアルケニル基である。mは2以上4以下の整数である。複数存在するRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記一般式(1)中において、Rは、炭素数6以上22以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数6以上22以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルケニル基であり、m=3である、請求項1に記載の冷凍機油組成物。
【請求項3】
前記芳香族エステル系化合物(A)の含有量が、前記冷凍機油組成物の全量基準で、80質量%以上である、請求項1又は2に記載の冷凍機油組成物。
【請求項4】
前記炭化水素系冷媒が、炭素数1以上8以下の炭化水素である、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷凍機油組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の冷凍機油組成物と、炭化水素系冷媒を含む冷媒とを含有する、冷凍機用混合組成物。
【請求項6】
炭化水素系冷媒を含む冷媒に用いられる冷凍機油組成物の製造方法であって、
下記一般式(1)で表される芳香族エステル系化合物(A)から選択される1種以上を配合する工程を含む、冷凍機油組成物の製造方法。
【化2】

[前記一般式(1)中、Rは、炭素数5以上24以下である直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数5以上24以下である直鎖もしくは分岐鎖状のアルケニル基である。mは2以上4以下の整数である。複数存在するRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機油組成物及び冷凍機用混合組成物に関する。
なお、本明細書において、「冷凍機用混合組成物」とは、「冷凍機油組成物」と「冷媒」とを混合した組成物を指す。
【背景技術】
【0002】
例えば圧縮型冷凍機等の冷凍機は、一般に、少なくとも圧縮機、凝縮器、膨張機構(例えば膨張弁等)、及び蒸発器を含み、密閉された系内を、冷凍機用混合組成物が循環する構造を有する。
【0003】
圧縮型冷凍機等の冷凍機に用いられる冷媒としては、従来多く使用されていたハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)に代わり、環境負荷の低いフッ化炭化水素化合物が使用されつつある。フッ化炭化水素化合物としては、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、ジフルオロメタン(R32)、1,1-ジフルオロエタン(R152a)、及びジフルオロメタンとペンタフルオロエタンの混合物(R410A)等の飽和フッ化炭化水素化合物(Hydro-Fluoro-Carbon;以下、「HFC」ともいう)が挙げられる。
また、地球温暖化係数(GWP)が低い、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234yf)、及び1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234ye)等の不飽和フッ化炭化水素化合物(Hydro-Fluoro-Olefin;以下、「HFO」ともいう)の使用も検討されている。
【0004】
近年では、地球温暖化係数(GWP)のさらなる低減の観点から、プロパン(R290)等の炭化水素系冷媒の適用も検討されつつある(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-043611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、炭化水素系冷媒は、HFC冷媒やHFO冷媒と比較して、冷凍機油組成物に冷媒が溶解した冷凍機用混合組成物の粘度(以下、「溶解粘度」ともいう)が低くなりやすい。溶解粘度の低下は、冷凍機の圧縮機等の摺動部において、摩耗の進行の要因となる。したがって、炭化水素系冷媒を使用する際に用いられる冷凍機油組成物には、炭化水素系冷媒が溶解した際にも良好な潤滑性が発揮されるように、適切な溶解粘度を有することが求められる。
また、炭化水素系冷媒は、強燃性である。そのため、安全性を確保しやすくする観点から、炭化水素系冷媒の使用量を少なくすることが望ましい。したがって、炭化水素系冷媒を使用する際に用いられる冷凍機油組成物は、炭化水素系冷媒の溶解量を少なくして、炭化水素系冷媒の過剰な溶解を抑えることが望ましい。かかる要望を達成する観点から、炭化水素系冷媒を使用する際に用いられる冷凍機油組成物は、炭化水素系冷媒の溶解度が低いことが望ましい。
しかしながら、特許文献1の冷凍機油組成物は、いずれの性能も不十分である。
【0007】
そこで、本発明は、炭化水素系冷媒が溶解した際に適切な溶解粘度を有し、炭化水素系冷媒の溶解度が低い冷凍機油組成物、並びに当該冷凍機油組成物を含む冷凍機用混合組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、下記[1]~[3]が提供される。
[1] 炭化水素系冷媒を含む冷媒に用いられる冷凍機油組成物であって、
下記一般式(1)で表される芳香族エステル系化合物(A)から選択される1種以上を含有する、冷凍機油組成物。
【化1】

[前記一般式(1)中、Rは、炭素数5以上24以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数5以上24以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルケニル基である。mは2以上4以下の整数である。複数存在するRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。]
[2] 上記[1]に記載の冷凍機油組成物と、炭化水素系冷媒を含む冷媒とを含有する、冷凍機用混合組成物。
[3] 炭化水素系冷媒を含む冷媒に用いられる冷凍機油組成物の製造方法であって、
下記一般式(1)で表される芳香族エステル系化合物(A)から選択される1種以上を配合する工程を含む、冷凍機油組成物の製造方法。
【化2】

[前記一般式(1)中、Rは、炭素数5以上24以下である直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数5以上24以下である直鎖もしくは分岐鎖状のアルケニル基である。mは2以上4以下の整数である。複数存在するRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。]
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭化水素系冷媒が溶解した際に適切な溶解粘度を有し、炭化水素系冷媒の溶解度が低い冷凍機油組成物、並びに当該冷凍機油組成物を含む冷凍機用混合組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例において、溶解粘度の測定に用いた粘度測定装置を示す断面図である。
図2】実施例において、溶解粘度の測定に用いた粘度測定装置の要部を示す拡大断面図である。
図3】実施例において、溶解粘度の測定に用いた粘度測定装置による測定手順の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0012】
[冷凍機油組成物の態様]
本実施形態の冷凍機油組成物は、炭化水素系冷媒を含む冷媒に用いられる冷凍機油組成物であって、下記一般式(1)で表される芳香族エステル系化合物(A)から選択される1種以上を含有する。
【化3】

[前記一般式(1)中、Rは、炭素数5以上24以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数5以上24以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルケニル基である。mは2以上4以下の整数である。複数存在するRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。]
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、上記一般式(1)で表される芳香族エステル系化合物(A)が、炭化水素系冷媒が溶解した際の溶解粘度の低下を抑制する性能及び炭化水素系冷媒の溶解を抑制する性能の双方に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の効果が奏される機構については、明確にはなっていないが、例えば以下のように推察される。すなわち、上記一般式(1)で表される芳香族エステル系化合物(A)が、ベンゼン環に結合する2つ以上のエステル基を有していること、及び上記一般式(1)で表される芳香族エステル系化合物(A)が、上記課題を達成する上でバランスに優れた分子構造を有していること等に起因しているものと推察される。
【0015】
本実施形態の冷凍機油組成物において、芳香族エステル系化合物(A)は基油として機能する。
ここで、本実施形態の冷凍機油組成物は、芳香族エステル系化合物(A)のみから構成されていてもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、芳香族エステル系化合物(A)以外の他の成分を含有していてもよい。
本実施形態の冷凍機油組成物において、芳香族エステル系化合物(A)の含有量は、冷凍機油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上、更になお好ましくは99質量%以上、一層好ましくは100質量%である。なお、芳香族エステル系化合物(A)の含有量は、冷凍機油組成物の全量(100質量%)基準で、100質量%以下であってもよい。
【0016】
以下、本実施形態の冷凍機油組成物が含有する成分等について、詳細に説明する。
【0017】
<芳香族エステル系化合物(A)>
本実施形態の冷凍機油組成物は、芳香族エステル系化合物(A)を含有する。
芳香族エステル系化合物(A)は、下記一般式(1)で表される化合物から選択される1種以上である。
【化4】
【0018】
上記一般式(1)中、Rは、炭素数5以上24以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数5以上24以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルケニル基である。複数存在するRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0019】
として選択し得る、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が、4以下であると、芳香族エステル系化合物(A)自体の粘度が低くなり、炭化水素系冷媒が溶解した際の溶解粘度も低くなってしまう。また、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が、25以上であると、化合物の入手が困難となる。また、低温流動性が悪化する恐れがある。
ここで、アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、芳香族エステル系化合物(A)自体の粘度を適切な範囲とする観点、炭化水素系冷媒が溶解した際に溶解粘度をより低下しにくくして適切な溶解粘度にしやすくする観点から、アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上、より更に好ましくは12以上、更になお好ましくは14以上、一層好ましくは16以上である。
また、Rとして選択し得る、アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、入手容易性及び低温流動性の確保等の観点から、好ましくは22以下、より好ましくは20以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは6~22、より好ましくは8~22、更に好ましくは10~22、より更に好ましくは12~20、更になお好ましくは14~20、一層好ましくは16~20である。
【0020】
として選択し得る、アルキル基又はアルケニル基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよいが、芳香族エステル系化合物(A)自体の粘度をより適切な範囲とする観点、炭化水素系冷媒が溶解した際に溶解粘度をさらに低下しにくくして適切な溶解粘度にしやすくする観点から、Rは、直鎖状のアルケニル基であることが好ましい。
【0021】
として選択し得る、直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、及びテトラコシル基等が挙げられる。
【0022】
として選択し得る、直鎖もしくは分岐鎖状のアルケニル基としては、例えば、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、及びテトラコセニル基等が挙げられる。
【0023】
なお、分岐鎖状のアルキル基又は分岐鎖状のアルケニル基における分岐位置及び分岐数は、特に限定されない。また、アルケニル基における不飽和結合部位及び不飽和結合部位も特に限定されない。
【0024】
上記一般式(1)中、mは2以上4以下の整数である。
mが1であると、芳香族エステル系化合物(A)自体の粘度が低くなり、炭化水素系冷媒が溶解した際の溶解粘度も低くなってしまう。
また、mが5以上であると、化合物の入手が困難となる。
ここで、芳香族エステル系化合物(A)自体の粘度をより適切な範囲とすること、炭化水素系冷媒が溶解した際に溶解粘度をより低下しにくくして適切な溶解粘度にしやすくすること、及び炭化水素系冷媒の溶解をより抑制しやすくすることをバランスよく両立しやすくする観点から、mは、好ましくは3である。
【0025】
なお、m=2である場合、-C(O)ORで表される2つの基は、ベンゼン環の1位と2位、1位と3位、又は1位と4位に存在していてもよいが、1位と2位に存在していることが好ましい。
また、m=3である場合、-C(O)ORで表される3つの基は、ベンゼン環の1位と2位と3位、1位と2位と4位、又は1位と3位と5位に存在していてもよいが、1位と2位と4位に存在していることが好ましい。
また、m=4である場合、-C(O)ORで表される4つの基は、ベンゼン環の1位と2位と3位と4位、1位と2位と3位と5位、又は1位と2位と4位と5位に存在していてもよいが、1位と2位と4位と5位に存在していることが好ましい。
【0026】
なお、複数存在するRは、同一であってもよく、異なっていてもよいが、芳香族エステル系化合物(A)の入手容易性等の観点から、同一であることが好ましい。
【0027】
<芳香族エステル系化合物(A)の製造方法>
芳香族エステル系化合物(A)の製造方法は、特に制限されないが、例えば、下記一般式(2)で表される芳香族カルボン酸化合物(A1)及びその無水物から選択される1種以上と下記一般式(3)で表されるアルコールとの反応により製造することができる。なお、下記一般式(2)で表される芳香族カルボン酸化合物(A1)及びその無水物から選択される1種以上と下記一般式(3)で表されるアルコールとの反応により製造される芳香族エステル系化合物(A)は、完全エステルであることが好ましい。
【化5】

【化6】
【0028】
上記一般式(2)中、mは、上記一般式(1)と同様であり、好適な範囲も上記一般式(1)と同様である。
なお、上記一般式(2)で表される化合物を例示すると、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、及びピロメリット酸等、並びにこれらの無水物等が挙げられ、これらの中でもフタル酸、トリメリット酸、及びピロメリット酸、並びにこれらの無水物等が好ましく、トリメリット酸及びその無水物がより好ましい。
【0029】
上記一般式(3)中、Rは、上記一般式(1)と同様であり、好適な範囲も上記一般式(1)と同様である。
【0030】
上記一般式(2)で表される芳香族カルボン酸化合物(A1)と上記一般式(3)で表されるアルコールとの反応の際の条件は、特に制限されず、エステル化の際に当業者において採用される一般的な条件が適宜採用される。
【0031】
<芳香族エステル系化合物(A)の動粘度>
芳香族エステル系化合物(A)の40℃動粘度は、冷凍機の圧縮機等の摺動部における摩耗を抑制する観点から、好ましくは20mm/s以上、より好ましくは30mm/s以上、更に好ましくは40mm/s以上である。また、油戻りの観点から、好ましくは350mm/s以下、より好ましくは320mm/s以下、更に好ましくは300mm/s以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは20mm/s~350mm/s、より好ましくは30mm/s~320mm/s、更に好ましくは40mm/s~300mm/sである。
【0032】
芳香族エステル系化合物(A)の100℃動粘度は、冷凍機の圧縮機等の摺動部における摩耗を抑制する観点から、好ましくは4mm/s以上、より好ましくは6mm/s以上、更に好ましくは8mm/s以上、より更に好ましくは9mm/s以上である。また、油戻りの観点から、好ましくは70mm/s以下、より好ましくは60mm/s以下、更に好ましくは50mm/s以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは4mm/s~70mm/s、より好ましくは6mm/s~70mm/s、更に好ましくは8mm/s~60mm/s、より更に好ましくは9mm/s~50mm/sである。
【0033】
なお、本明細書において、芳香族エステル系化合物(A)の動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定される値を意味する。
【0034】
<芳香族エステル系化合物(A)の粘度指数>
芳香族エステル系化合物(A)の粘度指数は、芳香族エステル系化合物(A)の粘度特性を向上させやすくする観点(換言すれば、広範囲の温度領域において粘度を適切な範囲に調整しやすくする観点)から、好ましくは110以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは130以上、より更に好ましくは140以上、更になお好ましくは150以上である。なお、芳香族エステル系化合物(A)の粘度指数の上限値は特に限定されないが、通常、300以下である。
【0035】
<芳香族エステル系化合物(A)以外の他の基油>
本実施形態の冷凍機油組成物は、芳香族エステル系化合物(A)以外の他の基油をさらに含有してもよく、含有していなくてもよい。
芳香族エステル系化合物(A)以外の他の基油としては、鉱油及び芳香族エステル系化合物(A)には該当しない合成油からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0036】
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上施して得られる鉱油;ワックス異性化鉱油等が挙げられる。
なお、鉱油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
芳香族エステル系化合物(A)には該当しない合成油としては、ポリビニルエーテル類;ポリアルキレングリコール類;ポリアルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体;芳香族エステル系化合物(A)には該当しないポリオールエステル類;ポリエステル類;ポリカーボネート類;α-オレフィンオリゴマーの水素化物;脂環式炭化水素化合物;アルキル化芳香族炭化水素化合物;フィシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッド ワックス)を異性化することによって製造されるGTL基油;等が挙げられる。
なお、合成油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
なお、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、鉱油の含有量は、少ないことが好ましい。具体的には、鉱油の含有量は、芳香族エステル系化合物(A)100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは1質量部未満、更に好ましくは0.1質量部未満、より更に好ましくは鉱油を含まないことである。
また、同様の観点から、芳香族エステル系化合物(A)には該当しない合成油の含有量は、少ないことが好ましい。具体的には、芳香族エステル系化合物(A)には該当しない合成油の含有量は、芳香族エステル系化合物(A)100質量部に対して、好ましくは100質量部未満、より好ましくは50質量部未満、更に好ましくは30質量部未満、より更に好ましくは10質量部未満、更になお好ましくは1質量部未満、一層好ましくは0.1質量部未満、より一層好ましくは芳香族エステル系化合物(A)には該当しない合成油を含まないことである。
【0039】
<添加剤>
本実施形態の冷凍機油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、添加剤を更に含有してもよく、含有していなくてもよい。
添加剤としては、例えば冷凍機油組成物に一般的に配合され得る添加剤が挙げられる。
このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、酸素捕捉剤、酸捕捉剤、極圧剤、油性剤、金属不活性化剤、及び消泡剤からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
これらの添加剤の合計含有量は、冷凍機油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0質量%~10質量%、より好ましくは0.01質量%~5質量%、更に好ましくは0.1質量%~3質量%である。
【0040】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、フェニル-α-ナフチルアミン、N.N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤が挙げられる。
なお、酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
(酸素捕捉剤)
酸素捕捉剤としては、脂肪族不飽和化合物、二重結合を有するテルペン類等が挙げられる。
上記脂肪族不飽和化合物としては、不飽和炭化水素が好ましく、具体的には、オレフィン;ジエン、トリエン等のポリエン等が挙げられる。オレフィンとしては、酸素との反応性の観点から、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン等のα-オレフィンが好ましい。
上記以外の脂肪族不飽和化合物としては、酸素との反応性の観点から、分子式C2030Oで表されるビタミンA((2E,4E,6E,8E)-3,7-ジメチル-9-(2,6,6-トリメチルシクロヘキセ-1-イル)ノナ-2,4,6,8-テトラエン-1-オール)等の共役二重結合を有する不飽和脂肪族アルコールが好ましい。
二重結合を有するテルペン類としては、二重結合を有するテルペン系炭化水素が好ましく、酸素との反応性の観点から、α-ファルネセン(C1524:3,7,11-トリメチルドデカ-1,3,6,10-テトラエン)及びβ-ファルネセン(C1524:7,11-ジメチル-3-メチリデンドデカ-1,6,10-トリエン)がより好ましい。
酸素捕捉剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(酸捕捉剤)
酸捕捉剤としては、例えばフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α-オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油などのエポキシ化合物を挙げることができるが、酸捕捉剤としては、特にグリシジルエステル、グリシジルエーテル及びα-オレフィンオキシドの中から選ばれる少なくとも1種が好適に用いられる。
グリシジルエーテルとしては、炭素数が、通常3~30、好ましくは4~24、より好ましくは6~16の直鎖状、分岐状、環状の飽和若しくは不飽和の脂肪族モノ又は多価アルコール、あるいは水酸基1個以上含有する芳香族化合物由来のグリシジルエーテルが挙げられる。脂肪族多価アルコールや水酸基2個以上含有する芳香族化合物の場合、潤滑油組成物の安定性のために、水酸基価の上昇を抑える観点から、水酸基の全てがグリシジルエーテル化されていることが好ましい。
これらの中で、特に炭素数6~16の直鎖状、分岐状、環状の飽和脂肪族モノアルコール由来のグリシジルエーテルが好ましい。このようなグリシジルエーテルとしては、例えば2-エチルエチルグリシジルエーテル、イソノニルグリシジルエーテル、カプリノイルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ミリスチルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
一方、α-オレフィンオキシドとしては、炭素数が一般に4~50、好ましくは4~24、より好ましくは6~16のものが用いられる。
酸捕捉剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(極圧剤)
極圧剤としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩などのリン系極圧剤を挙げることができる。
これらのリン系極圧剤の中で、極圧性、摩擦特性などの点からトリクレジルホスフェート、トリチオフェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイトなどが特に好ましい。
また、極圧剤としては、カルボン酸の金属塩が挙げられる。ここでいうカルボン酸の金属塩は、好ましくは炭素数3~60のカルボン酸、さらには炭素数3~30のカルボン酸、特に好ましくは12~30の脂肪酸の金属塩である。また、前記脂肪酸のダイマー酸やトリマー酸並びに炭素数3~30のジカルボン酸の金属塩を挙げることができる。これらのうち炭素数12~30の脂肪酸及び炭素数3~30のジカルボン酸の金属塩が特に好ましい。
一方、金属塩を構成する金属としてはアルカリ金属またはアルカリ土類金属が好ましく、特に、アルカリ金属が最適である。
また、極圧剤としては、さらに、上記以外の極圧剤として、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チオカーバメート類、チオテルペン類、ジアルキルチオジプロピオネート類などの硫黄系極圧剤を挙げることができる。
極圧剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
(油性剤)
油性剤の例としては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12-ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和および不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド、グリセリン、ソルビトールなどの多価アルコールと脂肪族飽和または不飽和モノカルボン酸との部分エステル等が挙げられる。
油性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
(金属不活性化剤)
金属不活性化剤としては、例えばN-[N,N’-ジアルキル(炭素数3~12のアルキル基)アミノメチル]トリアゾ-ルなどの銅不活性化剤等が挙げられる。
金属不活性化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えばシリコ-ン油やフッ素化シリコ-ン油等が挙げられる。
消泡剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
[冷凍機油組成物の製造方法]
本実施形態の冷凍機油組成物を製造する方法は、特に制限されない。
例えば、本実施形態の冷凍機油組成物の製造方法は、炭化水素系冷媒を含む冷媒に用いられる冷凍機油組成物の製造方法であって、
下記一般式(1)で表される芳香族エステル系化合物(A)から選択される1種以上を配合する工程を有する。
【化7】

[前記一般式(1)中、Rは、炭素数5以上24以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数5以上24以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルケニル基である。mは2以上4以下の整数である。複数存在するRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。]
【0048】
上記一般式(1)で表される芳香族エステル系化合物(A)から選択される1種以上を配合する工程としては、例えば、上述した芳香族エステル系化合物(A)の製造方法により得られた芳香族エステル系化合物(A)から選択される1種以上を配合することが挙げられる。
【0049】
本実施形態の冷凍機油組成物の製造方法は、さらに、芳香族エステル系化合物(A)を、芳香族エステル系化合物(A)以外の他の基油と混合する工程、さらには上記添加剤を混合する工程を有していてもよく、有していなくてもよい。
なお、上記添加剤を芳香族エステル系化合物(A)に配合する場合、上記添加剤は、希釈油等を加えて溶液(分散体)の形態とした上で配合してもよい。
なお、上記一般式(1)中、R、mの好ましい範囲は、芳香族エステル系化合物(A)の説明として上述したとおりである。
【0050】
[冷凍機油組成物の物性]
<冷凍機油組成物の動粘度>
冷凍機油組成物の40℃動粘度は、冷凍機の圧縮機等の摺動部における摩耗を抑制する観点から、好ましくは20mm/s以上、より好ましくは30mm/s以上、更に好ましくは40mm/s以上である。また、油戻りの観点から、好ましくは350mm/s以下、より好ましくは320mm/s以下、更に好ましくは300mm/s以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは20mm/s~350mm/s、より好ましくは30mm/s~320mm/s、更に好ましくは40mm/s~300mm/sである。
【0051】
冷凍機油組成物の100℃動粘度は、冷凍機の圧縮機等の摺動部における摩耗を抑制する観点から、好ましくは4mm/s以上、より好ましくは6mm/s以上、更に好ましくは8mm/s以上、より更に好ましくは9mm/s以上である。また、油戻りの観点から、好ましくは70mm/s以下、より好ましくは60mm/s以下、更に好ましくは50mm/s以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは4mm/s~70mm/s、より好ましくは6mm/s~70mm/s、更に好ましくは8mm/s~60mm/s、より更に好ましくは9mm/s~50mm/sである。
【0052】
なお、本明細書において、冷凍機油組成物の動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定される値を意味する。
【0053】
<炭化水素系冷媒が溶解した際の冷凍機油組成物の溶解粘度>
後述する実施例に記載の方法で測定される、炭化水素系冷媒が溶解した際の冷凍機油組成物の溶解粘度は、冷凍機の圧縮機等の摺動部における摩耗を抑制する観点から、好ましくは2.2mm/s以上、より好ましくは2.5mm/s以上、更に好ましくは2.9mm/s以上、より更に好ましくは3.3mm/s以上、更になお好ましくは3.7mm/s以上、一層好ましくは4.0mm/s以上、より一層好ましくは4.3mm/s以上、更に一層好ましくは4.6mm/s以上である。また、好ましくは50mm/s以下である。
なお、当該溶解粘度は、冷凍機油組成物の炭化水素系冷媒が溶解した状態で測定される値である。したがって、当該溶解粘度は、後述する実施例に記載の方法で測定される、冷凍機用混合組成物の粘度ともいえる。
なお、当該溶解粘度は、冷凍機油組成物の炭化水素系冷媒が溶解した状態で測定される値である。したがって、当該溶解粘度は、後述する実施例に記載の方法で測定される、冷凍機用混合組成物の粘度ともいえる。
【0054】
<冷凍機油組成物への炭化水素系冷媒の溶解度>
後述する実施例に記載の方法で測定される、冷凍機油組成物への炭化水素系冷媒の溶解度は、炭化水素系冷媒の使用量を抑えて、安全性を確保しやすくする観点から、好ましくは18.0質量%未満、より好ましくは17.5質量%以下、更に好ましくは17.0質量%以下、より更に好ましくは16.5質量%以下、更になお好ましくは16.0質量%以下、一層好ましくは15.5質量%以下、より一層好ましくは15.0質量%以下である。また、好ましくは1質量%以上である。
【0055】
[冷凍機用混合組成物]
上記の冷凍機油組成物は、冷媒と混合し、冷凍機用混合組成物として使用される。
すなわち、冷凍機用混合組成物は、上記の冷凍機油組成物と、冷媒とを含有する。
以下、冷媒について説明する。
【0056】
<冷媒>
(炭化水素系冷媒)
本実施形態において用いられる冷媒は、炭化水素系冷媒を含む冷媒である。
炭化水素系冷媒としては、好ましくは炭素数1以上8以下の炭化水素、より好ましくは炭素数1以上5以下の炭化水素、更に好ましくは炭素数3以上5以下の炭化水素である。炭素数が8以下であると、冷媒の沸点が高くなり過ぎず冷媒として好ましい。該炭化水素系冷媒としては、メタン、エタン、エチレン、プロパン(R290)、シクロプロパン、プロピレン、n-ブタン、イソブタン(R600a)、2-メチルブタン、n-ペンタン、イソペンタン、シクロペンタンイソブタン、及びノルマルヘキサンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
炭化水素系冷媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
(他の冷媒)
本実施形態において、冷媒は、炭化水素系冷媒に加え、他の冷媒を必要に応じて含む混合冷媒であってもよい。
他の冷媒としては、例えば、飽和フッ化炭化水素冷媒、不飽和フッ化炭化水素冷媒、二酸化炭素、及びアンモニアから選択される1種以上が挙げられる。
以下、飽和フッ化炭化水素冷媒及び不飽和フッ化炭化水素冷媒について説明する。
【0058】
-飽和フッ化炭化水素冷媒-
飽和フッ化炭化水素冷媒としては、好ましくは炭素数1~4のアルカンのフッ化物、より好ましくは炭素数1~3のアルカンのフッ化物、更に好ましくは炭素数1又は2のアルカン(メタン又はエタン)のフッ化物である。該メタン又はエタンのフッ化物としては、トリフルオロメタン(R23)、ジフルオロメタン(R32)、1,1-ジフルオロエタン(R152a)、1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)、1,1,2-トリフルオロエタン(R143)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R134)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(R125)等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
-不飽和フッ化炭化水素冷媒-
不飽和フッ化炭化水素冷媒としては、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
・・・(3)
[前記一般式(3)中、xは2~6、yは1~11、zは1~11の整数であり、分子中に炭素-炭素不飽和結合を1以上有する。]
【0060】
上記一般式(3)は、分子中の元素の種類と数を表しており、具体的には炭素原子Cの数が2~6の不飽和フッ化炭化水素化合物を表している。炭素数が2~6の不飽和フッ化炭化水素化合物は、冷媒として要求される沸点、凝固点、蒸発潜熱などの物理的、化学的性質を有する。
上記一般式(3)において、Cで表されるx個の炭素原子の結合形態は、炭素-炭素単結合、炭素-炭素二重結合等の不飽和結合などがある。炭素-炭素の不飽和結合は、安定性の点から、炭素-炭素二重結合であることが好ましく、不飽和フッ化炭化水素化合物は、分子中に炭素-炭素二重結合等の不飽和結合を1以上有し、その数は1であるものが好ましい。すなわち、Cで表されるx個の炭素原子の結合形態の少なくとも1つは、炭素-炭素二重結合であることがより好ましい。
【0061】
上記の不飽和フッ化炭化水素化合物として好ましくは、例えば、炭素数2~6の直鎖状又は分岐状の鎖状オレフィンや炭素数4~6の環状オレフィンのフッ化物を挙げることができる。
具体的には、1~3個のフッ素原子が導入されたエチレンのフッ化物、1~5個のフッ素原子が導入されたプロペンのフッ化物、1~7個のフッ素原子が導入されたブテンのフッ化物、1~9個のフッ素原子が導入されたペンテンのフッ化物、1~11個のフッ素原子が導入されたヘキセンのフッ化物、1~5個のフッ素原子が導入されたシクロブテンのフッ化物、1~7個のフッ素原子が導入されたシクロペンテンのフッ化物、1~9個のフッ素原子が導入されたシクロヘキセンのフッ化物などが挙げられる。
これらの中でも、プロペンのフッ化物が好ましく、フッ素原子が3~5個導入されたプロペンがより好ましい。具体的には、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234yf)、及び1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234ye)から選択される1種以上が好ましく、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234yf)がより好ましい。
不飽和フッ化炭化水素冷媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
(冷媒中の炭化水素系冷媒の含有量)
本実施形態において、冷媒は、炭化水素系冷媒を含む。
炭化水素系冷媒の含有量は、冷媒の全量基準で、好ましくは20質量%~100質量%、より好ましくは30質量%~100質量%、更に好ましくは40質量%~100質量%、より更に好ましくは50質量%~100質量%、更になお好ましくは60質量%~100質量%、一層好ましくは70質量%~100質量%、より一層好ましくは80質量%~100質量%、更に一層好ましくは90質量%~100質量%である。
【0063】
(冷媒及び冷凍機油組成物の使用量)
本実施形態の冷凍機用混合組成物において、冷媒及び冷凍機油組成物の使用量は、冷凍機油組成物と冷媒との質量比[(冷凍機油組成物)/(冷媒)]で、好ましくは30/70~90/10である。冷凍機油組成物と冷媒との質量比を該範囲内とすると、潤滑性及び冷凍機における好適な冷凍能力を得ることができる。
【0064】
[冷凍機油組成物及び冷凍機用混合組成物の用途]
本実施形態の冷凍機油組成物及び冷凍機用混合組成物は、例えば、冷凍システム、給湯システム、又は暖房システムに用いることが好ましい。具体的には、空調機、冷蔵庫、冷凍庫、自動販売機、及びショーケース等が挙げられる。空調機としては、開放型カーエアコン、電動カーエアコン等のカーエアコン;ガスヒートポンプ(GHP)エアコン;等が挙げられる。
【0065】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様では、下記[1]~[6]が提供される。
[1] 炭化水素系冷媒を含む冷媒に用いられる冷凍機油組成物であって、
下記一般式(1)で表される芳香族エステル系化合物(A)から選択される1種以上を含有する、冷凍機油組成物。
【化8】

[前記一般式(1)中、Rは、炭素数5以上24以下である直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数5以上24以下である直鎖もしくは分岐鎖状のアルケニル基である。mは2以上4以下の整数である。複数存在するRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。]
[2] 前記一般式(1)中において、Rは、炭素数6以上22以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数6以上22以下である直鎖状もしくは分岐鎖状のアルケニル基であり、m=3である、上記[1]に記載の冷凍機油組成物。
[3] 前記芳香族エステル系化合物(A)の含有量が、前記冷凍機油組成物の全量基準で、80質量%以上である、上記[1]又は[2]に記載の冷凍機油組成物。
[4] 前記炭化水素系冷媒が、炭素数1以上8以下の炭化水素である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
[5] 上記[1]~[4]のいずれかに記載の冷凍機油組成物と、炭化水素系冷媒を含む冷媒とを含有する、冷凍機用混合組成物。
[6] 炭化水素系冷媒を含む冷媒に用いられる冷凍機油組成物の製造方法であって、
下記一般式(1)で表される芳香族エステル系化合物(A)から選択される1種以上を配合する工程を含む、冷凍機油組成物の製造方法。
【化9】

[前記一般式(1)中、Rは、炭素数5以上24以下である直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数5以上24以下である直鎖もしくは分岐鎖状のアルケニル基である。mは2以上4以下の整数である。複数存在するRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。]
【実施例0066】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
[各種物性値の測定方法]
各実施例及び各比較例で用いた各原料並びに各実施例及び各比較例の冷凍機油組成物の各性状の測定は、以下に示す要領に従って行ったものである。
(1)動粘度
40℃動粘度、80℃動粘度、及び100℃動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定した。
(2)粘度指数
粘度指数は、動粘度の測定結果に基づき、JIS K2283:2000に準拠して算出した。
【0068】
[製造例1~4、比較製造例1]
下記化合物を基油として準備し、後述する評価に供した。
【0069】
<製造例1>
ディーンスタークを備えたフラスコに、トリメリット酸無水物を96.07g(0.5mol)、n-オクタノールを175.8g(1.35mol)、n-デカノールを23.74g(0.15mol)、トルエンを59.1g、p-トルエンスルホン酸を2.96g加え、131℃~150℃で反応させた。所定量の水が生成した時点で反応を終了し、3%NaOH水溶液でアルカリ洗浄後、蒸留水で中性になるまで洗浄した。得られた油層のトルエンを留去し、芳香族エステル系化合物(A)-1(トリメリット酸とn-オクタノール及びn-デカノールとの完全エステル)を得た。
芳香族エステル系化合物(A)-1は、上記一般式(1)中、Rがn-オクチル基及びn-デシル基から選択される基であり、m=3である。
また、芳香族エステル系化合物(A)-1の全分子において、上記一般式(1)におけるRのn-オクチル基とデシル基との比率は、モル比で、90:10である。
【0070】
<製造例2>
製造例1において、トリメリット酸に代えてフタル酸無水物74.06g(0.5mol)を用い、n-デカノール及びn-オクタノールに代えて、オレイルアルコール268.5g(1.0mol)を用い、他は同様の条件として、芳香族エステル系化合物(A)-2(フタル酸とオレイルアルコールとの完全エステル)を得た。
芳香族エステル系化合物(A)-2は、上記一般式(1)中、Rがオレイル基であり、m=2である。
【0071】
<製造例3>
製造例1において、n-デカノール及びn-オクタノールに代えて、オレイルアルコール402.7g(1.5mol)を用い、他は同様の条件として、芳香族エステル系化合物(A)-3(トリメリット酸とオレイルアルコールとの完全エステル)を得た。
芳香族エステル系化合物(A)-3は、上記一般式(1)中、Rがオレイル基であり、m=3である。
【0072】
<製造例4>
製造例1において、トリメリット酸に代えてピロメリット酸無水物109.1g(0.5mol)を用い、n-デカノール及びn-オクタノールに代えて、オレイルアルコール537.0g(2.0mol)を用い、他は同様の条件として、芳香族エステル系化合物(A)-4(ピロメリット酸とオレイルアルコールとの完全エステル)を得た。
芳香族エステル系化合物(A)-4は、上記一般式(1)中、Rがオレイル基であり、m=4である。
【0073】
<比較製造例1>
攪拌機及び液導入管を取り付けた200ミリリットルステンレス鋼製オートクレーブに、粉末状ナトリウムメトキシド3.0g(0.056mol)、を加えて密閉し、105℃に加熱し、攪拌下にプロピレンオキシド77g(1.32mol)を液導入管より9時間かけてオートクレーブに圧入した。反応混合物に水100ミリリットル、メタノール200ミリリットルを加えて溶解した後、溶液を陽イオン交換樹脂200ミリリットルのカラムに通し、次いで陰イオン交換樹脂200ミリリットルのカラムに通してナトリウムイオンを除去した。メタノール、水を留去した後、真空ポンプ減圧下(0.4mmHg)、100℃、1時間乾燥してポリオキシプロピレングリコールモノメチルエーテル70gを得た。
次に、攪拌機及び蒸留ヘッドを取り付けたガラス製300ミリリットル三つ口フラスコに、上記手順で得られたポリオキシプロピレングリコールモノメチルエーテル50g、トルエン80ミリリットルを加え、加熱及び攪拌下にトルエン約20ミリリットルを留去して水分を除去した。冷却後、28重量%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液25g(0.13mol)を加え、加熱してメタノールおよび約20ミリリットルのトルエンを留去した。
冷却後、内容物を攪拌機付きステンレス鋼製300ミリリットルオートクレーブに移し、ヨウ化メチル36.8g(0.26mol)を加え、密閉した後、攪拌下に50℃から70℃まで4.5時間かけて昇温し、85℃で12時間反応した。室温まで冷却後、反応混合物を水100ミリリットルとメタノール200ミリリットルとの混合物に溶解し、陽イオン交換樹脂200ミリリットル、次いで陰イオン交換樹脂200ミリリットルのカラムに通した。溶媒を留去後、真空ポンプ減圧下(0.1mmHg)、100℃で1時間乾燥して、非芳香族エステル系化合物(A’)-4(ポリオキシプロピレングリコールのジメチルエーテル)42.5gを得た。
比較製造例1で得られた非芳香族エステル系化合物(A’)-4は、下記構造式(y1)で表される化合物である。
【化10】

上記構造式(y1)中、p=12である。
【0074】
[実施例1~4、比較例1~6]
実施例1~4及び比較例1~6では、以下の化合物等を冷凍機油組成物とし、後述する評価に供した。
・実施例1:製造例1で得られた芳香族エステル系化合物(A)-1
・実施例2:製造例2で得られた芳香族エステル系化合物(A)-2
・実施例3:製造例3で得られた芳香族エステル系化合物(A)-3
・実施例4:製造例4で得られた芳香族エステル系化合物(A)-4
・比較例1:非芳香族エステル系化合物(A’)-1
非芳香族エステル系化合物(A’)-1として、ペンタエリスリトールと3,5,5-トリメチルヘキサン酸との完全エステルを用いた。
・比較例2:非芳香族エステル系化合物(A’)-2
非芳香族エステル系化合物(A’)-2として、ペンタエリスリトールと、3,5,5-トリメチルヘキサン酸及び2-エチルヘキサン酸との完全エステルを用いた。なお、非芳香族エステル系化合物(A’)-2において、3,5,5-トリメチルヘキサン酸と2-エチルヘキサン酸の仕込比は、50:50(モル比)である。
・比較例3:非芳香族エステル系化合物(A’)-3
非芳香族エステル系化合物(A’)-3として、ペンタエリスリトールと、n-オクタン酸、n-デカン酸、及び2-エチルヘキサン酸との完全エステルを用いた。
・比較例4:比較製造例1で得られた非芳香族エステル系化合物(A’)-4
・比較例5:鉱油
・比較例6:ポリ-α-オレフィン(PAO)
【0075】
<評価:溶解粘度及び溶解度の評価>
(溶解度の評価)
サファイアガラス製の耐圧容器に、冷凍機油組成物及び冷媒としてR290を所定量封入し、耐圧容器の温度を室温(23℃)から80℃まで昇温した。R290を溶解した冷凍機油組成物の体積及びその時の圧力から、計算により温度/圧力/溶解度曲線を作成した。作成した溶解度曲線から、80℃、2.0MPaでの冷凍機油組成物のR290の溶解度(質量%)を算出した。
【0076】
(溶解粘度の評価)
図1~3に示す粘度測定装置1を用いて、冷媒が溶解した冷凍機油組成物の溶解粘度を測定した。
まず、所定量の冷凍機油組成物2及び毛細管粘度計20を、サファイアガラス管からなる容器10の中に入れた後、蓋11を閉じた。次いで、T字型ジョイント24に安全弁26及びニードル弁25を装着した後、容器10を熱媒体4の入った恒温槽3に浸した。なお、温度調節手段5により熱媒体4の温度は80℃に保持した。
次に、ニードル弁25と冷媒採取ライン(図示せず)を、耐圧ホース27を介して接続し、真空ポンプ(図示せず)を作動して容器10及び冷媒採取ライン内を約13.3Paまで脱気した。脱気後、真空ポンプを止め、冷媒容器の元弁を開き容器10に冷媒(R290)を導入した。冷媒は、容器10の圧力が2.0MPaとなるように導入した。
冷媒導入後、ニードル弁25を閉じ、冷媒容器の弁を閉じ、耐圧ホース27を切り離した後、永久磁石14を位置Aに降下させておいた恒温槽3内の所定位置に、密閉した容器10を設置した。容器10全体が熱的に平衡状態になったら、永久磁石14を移動させる駆動手段を起動して、永久磁石14を移動させ、毛細管粘度計20を位置Bまで上昇させた。これにより、図3に示されるように、冷媒が溶解した冷凍機油組成物2が毛細管粘度計20から滴下し、冷媒が溶解した冷凍機油組成物2の液面が降下していく。そして、冷媒が溶解した冷凍機油組成物2の液面が標線21Bおよび標線21Aを通過したことを、光ファイバ15(15A、15B、15C、15D)に検知させ、冷媒が溶解した冷凍機油組成物2が細管部22の内部を通過するのに要する時間を粘度計算機に自動計測させるとともに粘度を自動測定させることで、溶解粘度を測定した。溶解粘度の測定は、冷媒と冷凍機油組成物とが分離していないことを確認した上で実施した。
なお、図1~3中、符号6は、容器10内に充満するガスを指す。符号14Aは、永久磁石14を保持するアームである。符号21は、液溜め部である。符号23は、細管部22の側壁の外周面に固定されている、磁性体からなる帯状外環部である。
【0077】
溶解粘度の評価基準は以下のとおりとし、評価A及びBを合格とした。
・評価A:3.5mm/s超
・評価B:2.2mm/s以上3.5mm/s以下
・評価C:2.2mm/s未満
溶解粘度が高い程、炭化水素系冷媒が溶解した際にも、良好な潤滑性を示し、適切な溶解粘度を有しているといえる。
【0078】
溶解度の評価基準は以下のとおりとし、評価A及びBを合格とした。
・評価A:16.0質量%未満
・評価B:16.0質量%以上18.0質量%未満
・評価C:18.0質量%以上
溶解度が低い程、炭化水素系冷媒の溶解を抑制しやすい。
【0079】
結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1より、以下のことがわかる。
実施例1~4の芳香族エステル系化合物(A)-1~(A)-4は、炭化水素系冷媒が溶解した際の溶解粘度が高く、炭化水素系冷媒の溶解度も低いことがわかる。
これに対し、比較例4の非芳香族エステル系化合物(A’)-4(ポリアルキレングリコール系化合物)、比較例5の鉱油、及び比較例6のポリ-α-オレフィンは、炭化水素系冷媒が溶解した際の溶解粘度が低く、炭化水素系冷媒の溶解度も高いことがわかる。
また、比較例1~3の非芳香族エステル系化合物(A’)-1~(A’)-3のように、ベンゼン環を有しない構造のポリオールエステルでは、いずれも炭化水素系冷媒が溶解した際の溶解粘度が低いことがわかる。さらに、比較例1の非芳香族エステル系化合物(A’)-1は、炭化水素系冷媒の溶解度が高いことがわかる。
図1
図2
図3