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特開2023-74046樹脂材料の内部構造の評価方法及びその装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074046
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】樹脂材料の内部構造の評価方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/49 20060101AFI20230522BHJP
【FI】
G01N21/49 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186778
(22)【出願日】2021-11-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】竹林 良浩
(72)【発明者】
【氏名】依田 智
(72)【発明者】
【氏名】時崎 高志
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB09
2G059DD12
2G059EE02
2G059FF04
2G059GG01
2G059GG02
2G059JJ11
2G059MM01
2G059MM03
2G059MM04
(57)【要約】
【課題】樹脂材料の内部構造を非破壊的に短時間で評価できる評価方法及び評価装置の提供。
【解決手段】
樹脂材料の内部構造の評価方法は、レーザー光を樹脂材料に入射し、該レーザー光の該樹脂材料への入射位置を一定速度で移動させつつ、該樹脂材料の内部から散乱してくる散乱光強度の時間変化を検出することにより樹脂材料の内部構造を評価する。樹脂材料の内部構造の評価装置は、レーザー光を樹脂材料に入射するとともに散乱光強度の時間変化を検出する光学系と、前記レーザー光の前記樹脂材料への入射位置を一定速度で移動させる移動系と、前記光学系で検出された前記散乱光強度の時間変化を前記一定速度に対応して解析する解析系とを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を樹脂材料に入射し該樹脂材料の内部から散乱してくる散乱光強度を検出して該樹脂材料の内部構造を評価する評価方法であって、
前記レーザー光の前記樹脂材料への入射位置を一定速度で移動させつつ前記散乱光強度の時間変化を検出して内部構造を非破壊的に短時間で評価することを特徴とする樹脂材料の内部構造の評価方法。
【請求項2】
前記散乱光強度の時間変化の自己相関関数を用いて前記樹脂材料の内部構造を評価することを特徴とする請求項1記載の樹脂材料の内部構造の評価方法。
【請求項3】
前記樹脂材料が樹脂の連続相と該連続相とは異なる屈折率を有する分散相から成る樹脂材料であって、
前記分散相の平均サイズ及び/又は分散相間の平均距離を評価することを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂材料の内部構造の評価方法。
【請求項4】
レーザー光を樹脂材料に入射し該樹脂材料の内部から散乱してくる散乱光強度の時間変化を検出して該樹脂材料の内部構造を非破壊的に短時間で評価する評価装置であって、
前記レーザー光を前記樹脂材料に入射するとともに前記散乱光強度の時間変化を検出する光学系と、
前記レーザー光の前記樹脂材料への入射位置を一定速度で移動させる移動系と、
前記光学系で検出された前記散乱光強度の時間変化を前記一定速度に対応して解析する解析系と、を含むことを特徴とする樹脂材料の内部構造の評価装置。
【請求項5】
前記散乱光強度の時間変化の自己相関関数を用いて前記樹脂材料の内部構造を評価することを特徴とする請求項4記載の樹脂材料の内部構造の評価装置。
【請求項6】
前記樹脂材料が樹脂の連続相と該連続相とは異なる屈折率を有する分散相から成る樹脂材料であって、
前記分散相の平均サイズ及び/又は分散相間の平均距離を評価することを特徴とする請求項4又は5に記載の樹脂材料の内部構造の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料の内部構造を非破壊的に短時間で評価する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料として、樹脂の連続相中に異なる種類の樹脂や無機物の粒子などを分散相として存在させた混練樹脂材料や、樹脂の連続相中に気泡や空隙を分散相として存在させた発泡樹脂材料などの樹脂複合材料が近年注目を集めている。これらの樹脂材料は、樹脂単独では得られない力学的・熱的・光学的・電磁気的な特性を示し、その特性は、分散相の種類だけでなく、その内部構造のサイズ、例えば、分散相の大きさや分散相間の距離によっても顕著に変化する。
【0003】
そのため、樹脂材料の内部構造を非破壊的に短時間で簡便に評価する方法及び装置の開発が必要とされている。特に、混練や発泡を行う押出成形機から連続的に吐出される樹脂材料の内部構造を出口部で直接評価することができれば、これらのプロセスにリアルタイムでフィードバック制御することができ、樹脂材料の新規開発や製造プロセスの最適化を大幅に加速できると期待される。
【0004】
従来、樹脂材料の内部構造を評価する一般的な方法としては、その切断面又は破断面を光学顕微鏡や電子顕微鏡などの装置を用いて画像観察する方法が広く用いられている。しかしながら、これらは樹脂材料の切断や破断を必要とする破壊的な方法であり、また観察試料の作成や表面処理に長時間を要する。
【0005】
樹脂材料の内部構造の非破壊的な顕微鏡観察方法としては、共焦点レーザー顕微鏡装置の利用が近年提案されている。例えば、特許文献1には、共焦点レーザー顕微鏡を用いて樹脂膜中のフィラー微粒子の分散状態をデバイス状態のまま3次元的にサブミクロン単位で観察する評価方法が記載されている。
【0006】
また、レーザー光の散乱を利用して樹脂材料の内部構造のサイズを非破壊的に評価する方法として、Hv散乱やVv散乱などの小角光散乱法が知られている。
【0007】
例えば、特許文献2には、ポリビニルアルコール系樹脂のフィルムに偏光子を介してレーザー光を入射し、検光子を介してレーザー光の散乱光強度の角度分布を検出することにより、樹脂材料内部の光散乱体のサイズを非破壊で評価する方法が記載されている。
【0008】
一方、レーザー光の散乱を利用して分散液中の粒子のサイズ分布を評価する方法として、動的光散乱法が知られている。
【0009】
例えば、特許文献3には、樹脂の粒子が分散したエマルションにレーザー光を入射し、散乱光強度の時間変化を検出することにより、その自己相関関数から平均粒子径を評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015-040705号公報
【特許文献2】特開2006-206880号公報
【特許文献3】特開2020-085492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記した共焦点レーザー顕微鏡を用いた方法では、樹脂材料内部の局所構造を観察できる。しかしながら、同じ構造が広域的に存在することを示すためには、試料内部の多くの箇所での観察を必要とし、やはり長時間を要する。また、光の屈折の影響を低減するために、試料と対物レンズの間にそれらと屈折率の合ったエマルジョンオイルを充填する必要がある。
【0012】
また上記した小角光散乱法では、散乱光強度の角度分布を解析することにより、樹脂材料の内部構造サイズを評価することができる。しかしながら、散乱光強度の角度分布を正しく測定するには、試料をフィルム状に成形する必要がある。また、迷光の影響を強く受けるため、押出成形機から連続的に吐出される樹脂材料を出口部で直接評価することは困難である。
【0013】
さらに上記した動的光散乱法では、液体中での粒子の拡散運動により散乱光が時間変化することを利用して、Stokes-Einsteinの関係式から流体力学的に粒子のサイズ分布を評価することができる。しかしながら、粒子が液体中に分散している必要があり、固体中に存在する粒子のサイズを非破壊で評価することはできない。
【0014】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、樹脂材料の内部構造を非破壊的に短時間で評価できる評価方法及び評価装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明においては、レーザー光を樹脂材料に入射し、該レーザー光の該樹脂材料への入射位置を一定速度で移動させつつ、該樹脂材料の内部から散乱してくる散乱光強度の時間変化を検出することにより該樹脂材料の内部構造を非破壊的に短時間で評価する方法及びその装置が提供される。
【0016】
すなわち、本発明による方法は、レーザー光を樹脂材料に入射し該樹脂材料の内部から散乱してくる散乱光強度を検出して該樹脂材料の内部構造を非破壊的に短時間で評価する評価方法であって、前記レーザー光の前記樹脂材料への入射位置を一定速度で移動させつつ前記散乱光強度の時間変化を検出することにより評価を行うことを特徴とする。
【0017】
また、本発明による装置は、レーザー光を樹脂材料に入射し該樹脂材料の内部から散乱してくる散乱光強度を検出して該樹脂材料の内部構造を非破壊的に短時間で評価する装置であって、前記レーザー光を前記樹脂材料に入射するとともに前記散乱光強度の時間変化を検出する光学系と、前記レーザー光の前記樹脂材料への入射位置を一定速度で移動させる移動系と、前記光学系で検出された前記散乱光強度の時間変化を前記一定速度に対応して解析する解析系と、を含むことを特徴とする。
【0018】
かかる特徴によれば、樹脂材料内部の広域的に平均化された構造、例えば、樹脂材料の内部に存在する分散相の平均サイズや分散相間の平均距離を非破壊的に短時間で評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】樹脂材料の内部構造の評価装置の上面図(一部ブロック図)である。
図2】樹脂材料の内部構造の評価装置の側断面図である。
図3】(a)試料Aの散乱光強度の時間変化の波形及び(b)スケール信号強度の時間変化の波形のグラフである。
図4】(a)試料Aの散乱光強度の時間変化の自己相関関数及び(b)スケール信号強度の時間変化の自己相関関数のグラフである。
図5】試料C~Eの散乱光強度の時間変化の自己相関関数の比較のグラフである。
図6】試料A~Gの(a)相関長LCOR及び(b)ピーク値PEAKと平均粒子間距離LD及び粒子径dとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明による樹脂材料の内部構造の評価方法の原理について説明する。
【0021】
例として、樹脂の連続相中に、それとは異なる屈折率を有する粒子や気泡などを分散相として存在させた樹脂材料を考える。この樹脂材料にレーザー光を入射し、その入射位置を一定速度で移動させつつ散乱光の強度を検出すると、レーザー光の照射領域を分散相が出入りすることにより屈折率の変化が生じ、散乱光の強度が時間的に変化する。
【0022】
この散乱光強度の時間変化は、分散相の平均サイズ、あるいは、分散相間の平均距離などの構造サイズが小さいほどより短時間で生じる。つまり、散乱光強度の時間変化の自己相関がより速く失われる。そのため、散乱光強度の時間変化を検出し、その自己相関関数を計算するなどして散乱光強度の時間変化を評価すれば、樹脂材料の構造サイズを評価することができる。自己相関関数の減衰に要する時間は、構造サイズがμmオーダーであり移動速度がmm/sオーダーであれば、msオーダーとなり、1秒以内で評価を完了することができる。
【0023】
以上のように、レーザー光の樹脂材料への入射位置を一定速度で移動させつつ散乱光強度の時間変化を検出することにより、樹脂材料の内部構造を非破壊的かつ短時間で評価することができる。
【0024】
続いて、本発明による樹脂材料の内部構造の評価方法及びその装置の実施形態を説明する。
【0025】
樹脂材料としては、材料内部に屈折率の分布の不均一が存在すれば、その種類を問わない。樹脂の連続相中に異なる種類の樹脂や無機物の粒子などを分散相として存在させた混練材料や、樹脂の連続相中に気泡や空隙を分散相として存在させた発泡材料などの樹脂材料を用いることができる。
【0026】
レーザー光の光源としては、半導体レーザーや固体レーザー、色素レーザー、ガスレーザーなどを用いることができる。レーザー光の波長としては、樹脂材料が強い吸収を持たず、かつ、連続相と分散相の間の屈折率の差が大きい波長が望ましい。レーザー光としては、可視光だけでなく近赤外光を用いることもできる。レーザー光の強度は、十分な散乱光強度が得られる程度に強く、かつ、樹脂材料が破壊されない程度に弱いことが望ましい。
【0027】
入射光と検出する散乱光のなす角度については、透過光や正反射光の影響を低減するために、0度や180度、および正反射角を避けるのが望ましい。
【0028】
レーザー光の樹脂材料への入射位置の移動については、樹脂材料を移動させても良いし、レーザー光を移動させても良いし、樹脂材料とレーザー光の両方を移動させても良い。樹脂材料を移動させる場合は、樹脂材料をステージなどに載せて移動させることができる。また、混錬や発泡を行う押出成形機などから連続的に一定速度で吐出される樹脂材料を試料とする場合は、樹脂材料の移動のために追加で機器を必要とせず、出口部で直接評価することも可能である。一方、樹脂材料が大きく移動が困難な場合は、レーザー光源と検出器を含む光学系を移動させることにより評価することもできる。
【0029】
[実施例]
実際に内部構造の評価を行った例について図1図6を用いて説明する。
【0030】
図1及び図2に示すように、樹脂材料の内部構造の評価装置1は、略円柱状に形成された樹脂材料からなる試料2を略水平に載置し、試料2をその長手方向に沿って水平移動させる移動系として、移動台3と、移動台3に水平移動をさせる駆動装置4と含む。さらに、移動台3の側面にはその移動速度を計測するために、等間隔に目盛の記されたスケール(物差し)5が貼付けられている。目盛読取装置6は、スケール5にレーザー光を入射するとともに、その反射光(スケール信号)の強度を検出する検出器を備える。
【0031】
ここで、樹脂材料としては、透明エポキシ樹脂にJIS規格に従った粒径を有するアルミナ粒子を均一に分散させたものを用いた。試料2については、表1に示すように平均粒子径d、平均粒子間距離LDの異なる7種類の樹脂材料を用いて作成し、それぞれ試料A~Gとした。平均粒子径dは、20μm、4μm、1.2μmの3種類とした。平均粒子間距離LDについては、アルミナ粒子とエポキシ樹脂の混合重量比を変えることにより制御した。アルミナ粒子の平均粒子径d及び密度とエポキシ樹脂の密度を元に単純格子配置を仮定して算出した平均粒子間距離LDを同表に示した。試料2の直径は4mm、長さは100mmとした。スケール5の目盛間隔は1.05mmとした。
【0032】
【表1】
【0033】
樹脂材料の内部構造の評価装置1は、試料2にその移動方向に垂直な方向からレーザー光による入射光L1を入射させるとともに、試料2からの散乱光L2の強度を検出する光学系を含む。かかる光学系は、レーザー光源7とレーザー光を集光して入射光L1として試料2に導く集光レンズ8と、散乱光L2を端部で受光する光ファイバ9と、光ファイバ9で受光した散乱光L2の強度をフォトダイオードで検出する測光装置10とを備える。
【0034】
ここでは、レーザー光源7として波長636nmのレーザー光を生じさせる半導体レーザー装置と、集光レンズ8として焦点距離350mmの凸レンズを用いた。
【0035】
特に図2を参照すると、試料2に入射される入射光L1は、試料2を含む水平面より上方から入射され、その光軸を水平面に対して14度の角度をなすようにされた。光ファイバ9の受光部である端部は試料2と同じ水平面内で、試料2から450mmの位置に配置された。光ファイバ9のコア径については100μmとした。
【0036】
樹脂材料の内部構造の評価装置1はさらに、測光装置10及び目盛読取装置6からそれぞれ散乱光L2の強度の時間変化の波形及びスケール信号の強度の時間変化の波形を読み取る波形読取装置11と、波形読取装置11から波形データを抽出しその自己相関関数を計算するPC(パーソナルコンピュータ)12から成る解析系を含む。ここでは、波形読取装置11としてオシロスコープを使用し、各波形データを1μs刻みで20万点にわたって計200msの時間範囲で読み取った。後述する自己相関関数の計算も含めて、評価は1秒以内で完了した。
【実施例0037】
図3に示すように、アルミナ粒子の平均粒子径dを20μm、平均粒子間距離LDを70.8μmとする試料Aによって散乱光強度の時間変化の波形を得て同時にスケール信号強度の時間変化の波形を得た。同図(a)に示すように、散乱光強度の時間変化の波形は数msオーダーの非常に速い変動を示した。かかる変動は、試料2の移動によりエポキシ樹脂とは異なる屈折率を有するアルミナ粒子がレーザー光の照射領域を出入りすることに伴う散乱光強度の増減を反映したものである。なお、このような散乱光強度の変動は、試料2を停止させている場合には検出されなかった。一方、同図(b)に示すように、スケール信号強度の時間変化の波形は、数10msオーダーの周期的な振動を示した。これは、スケールの目盛の周期性を反映している。
【0038】
図4に示すように、散乱光強度の時間変化及びスケール信号強度の時間変化の自己相関関数を計算した。同図(a)に示すように、散乱光強度の時間変化の自己相関関数は、遅延時間τの増加とともに単調に減衰した。これは、試料2中のアルミナ粒子の分布が空間的にランダムであることを示している。計算された最短の遅延時間τ=1μsにおける自己相関関数の値をピーク値PEAKと定義したとき、ピーク値PEAKは0.274であった。この値が遅延時間τ=0における自己相関関数の理論値である1に比べて小さいことは、1μsよりもさらに速い減衰成分が存在することを示す。自己相関関数の値がピーク値PEAKの半分となる遅延時間を相関時間と定義すると、試料Aの相関時間は1.14msであった。
【0039】
一方、同図(b)に示すように、スケール信号強度の時間変化の自己相関関数は周期的な振動を示した。自己相関関数の極大の間隔から、その周期は17.3msと求められた。この周期は、移動台3がスケール5の目盛間隔である1.05mmの距離を移動するのに要する時間と等しい。これに基づき、移動台3の移動速度が60.7mm/sと算出された。この移動速度を相関時間に乗じたものを相関長LCORと定義すると、試料Aの相関長LCORは69.2μmであった。
【実施例0040】
次に、試料Aと同じく平均粒子径dを20μmとし、平均粒子間距離LDを試料Aよりも短い50.3μmとする試料Bを用いて、同様に散乱光強度の時間変化を検出して自己相関関数を求めた。試料Bのピーク値PEAKは0.0127、相関長LCORは52.7μmであった。試料Bの相関長が試料Aに比べて短いことは、平均粒子間距離LDが短いことを反映するものである。
【実施例0041】
平均粒子間距離LDの影響をより詳細に調べるため、図5に示すように、平均粒子径を4.0μmとする試料C、D、Eにおいて、平均粒子間距離LDをそれぞれ38.1μm、22.7μm、12.6μmとし、同様にそれぞれ散乱光強度の時間変化を検出して自己相関関数を求めた。同図の縦軸は、自己相関関数の減衰速度を比較しやすくするため、ピーク値PEAK(それぞれ0.325、0.145、0.0221)で割って規格化した。相関長はそれぞれ71.8μm、54.9μm、43.7μmであった。同図から、試料A及び試料Bの場合と同様に、平均粒子間距離LDが短いほど自己相関関数を速く減衰させ、相関長LCORを短くすることが示された。
【実施例0042】
さらに、平均粒子径dを1.2μmとし、平均粒子間距離LDをそれぞれ6.9μm、3.8μmとした試料F、Gについても同様に散乱光強度の時間変化を検出して自己相関関数を求めた。得られたピーク値PEAKは、それぞれ0.0848、0.00787であった。また相関長LCORは、それぞれ55.6μm、50.5μmとなり、上記と同様に平均粒子間距離LDが短いほど相関長LCORを短くすることが示された。
【0043】
図6には、試料A~Gについて求めた自己相関関数の(a)相関長LCOR及び(b)ピーク値PEAKの平均粒子間距離LDに対する関係を示し、平均粒子径d毎にまとめた。同図(a)に示すように、平均粒子径dを同一とする場合は、平均粒子間距離LDを長くするほど相関長LCORが長くなった。また、これらの値を重線形回帰すると、LCOR=-1.8d+0.81LD+47.1となった。このような検量線を予め作成しておくことにより、平均粒子径d及び平均粒子間距離LDのうち、一方の値が既知であれば、相関長LCORの値から他方の値を算出することができる。なお、平均粒子径dの係数が負であり、平均粒子間距離LDの係数が正であることから、本例では分散相であるアルミナ粒子のサイズよりも、粒子間に連続相として存在するエポキシ樹脂部分のサイズ(粒子間隔)が、相関長LCORに強く反映されていると考えられる。同様に、同図(b)に示すように、ピーク値PEAKは、平均粒子間距離LDを長くするほど大きくなり、平均粒子径dを大きくするほど小さくなった。
【0044】
なお、平均粒子径d及び平均粒子間距離LDの両方の値が未知の場合は、相関長LCORだけから上記した検量線を用いて両方の値を評価することはできない。例えば、同図(a)に示すように、相関長LCORが約55μmである試料はB、D、Fの3点存在し、相関長LCORだけからは互いを区別できない。しかしながら、同図(b)に示すように、これら3点の試料のピーク値PEAKは0.0127、0.145、0.0848と互いに異なる。従って、相関長LCOR及びピーク値PEAKの両方を用いることで、樹脂材料の内部構造の評価をより詳細に行い得る。また、自己相関関数の形状を特徴づける指標を増やすことで、さらに詳細な評価を可能にするものと考えられる。
【0045】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0046】
1 樹脂材料の内部構造の評価装置
2 試料
3 移動台
4 駆動装置
5 スケール
6 目盛読取装置
7 レーザー光源
8 集光レンズ
9 光ファイバ
10 測光装置
11 波形読取装置
12 PC
L1 入射光
L2 散乱光

図1
図2
図3
図4
図5
図6